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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】無機化合物含有水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20220805BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20220805BHJP
   C02F 1/42 20060101ALI20220805BHJP
   B01J 41/05 20170101ALI20220805BHJP
   B01J 49/57 20170101ALI20220805BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20220805BHJP
   C25B 1/24 20210101ALI20220805BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/28 A
C02F1/42 E
B01J41/05
B01J49/57
B01D61/44 500
B01D61/44 510
C25B1/24
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019207430
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2020082078
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018217689
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390005681
【氏名又は名称】伊勢化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502017364
【氏名又は名称】株式会社 環境浄化研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】須郷 高信
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 晃一
(72)【発明者】
【氏名】藤原 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】松浦 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 貴弘
【審査官】高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-022921(JP,A)
【文献】特開2009-023847(JP,A)
【文献】特表2011-505241(JP,A)
【文献】特開平08-240696(JP,A)
【文献】特開2008-013379(JP,A)
【文献】特開2006-110438(JP,A)
【文献】特開2006-231325(JP,A)
【文献】特開2005-62458(JP,A)
【文献】国際公開第2018/025583(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/46 - 1/48
1/44
1/42
1/28
B01J 39/00 - 49/90
B01D 61/00 - 71/82
C25B 1/00 - 9/77
13/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ホウ酸と、ヨウ素を有する少なくとも一種の無機陰イオンとを含み、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、当該無機陰イオンのうち少なくとも一種をホウ酸から分離してヨウ素化合物水溶液として分取する分離工程を備え、
前記原液のpHが8以上であ り、
前記原液における前記ヨウ素を有する無機陰イオンの濃度がヨウ素元素の質量で、1.5g/L以上であり、
前記濃縮室から排出されるヨウ素化合物水溶液のホウ酸の濃度を監視し、当該ホウ酸の濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物水溶液を、前記所定の下限値を超える以前に回収したヨウ素化合物水溶液と別に分取する、 無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記分離工程の間、前記原液のpHが8以上に維持されている、請求項1に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項3】
脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ホウ酸と、ヨウ素を有する少なくとも一種の無機陰イオンとを含み、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、当該無機陰イオンのうち少なくとも一種をホウ酸から分離してヨウ素化合物水溶液として分取する分離工程を備え、
前記原液が、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して30モル%以下の分子状態のホウ酸を含有 し、
前記原液における前記ヨウ素を有する無機陰イオンの濃度がヨウ素元素の質量で、1.5g/L以上であり、
前記濃縮室から排出されるヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸の濃度を監視し、当該ホウ酸の濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物水溶液を、前記所定の下限値を超える以前に回収したヨウ素化合物水溶液と別に分取する、 無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記ホウ酸が、B(OH)、メタホウ酸、及びポリホウ酸並びにそれらのイオン状態のものの少なくとも一つである、請求項1~3のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項5】
記分離工程において、前記ホウ酸と前記ヨウ素を有する無機陰イオンとを分離して、前記脱塩室側におけるホウ素化合物水溶液と前記濃縮室側におけるヨウ素化合物水溶液とをそれぞれ分取する、請求項1~4のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項6】
前記ヨウ素を有するイオンが、ヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンの少なくとも一方を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項7】
前記ヨウ素化合物水溶液を、ホウ素化合物を選択的に吸着する樹脂と接触させる精製工程を更に備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項8】
前記脱塩室が、電気透析を行うための原液を収容し、前記脱塩室に原液を移送するための原液槽に接続されており、
前記ヨウ素化合物水溶液を前記原液槽に返送して電気透析を行うための原液と混合し、再度前記脱塩室に導入して電気透析を行う工程を更に備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項9】
前記電気透析槽に、前記電気透析槽とは別の第2の電気透析槽が接続されており、
前記ヨウ素化合物水溶液を前記濃縮室から前記第2の電気透析槽に移送し、電気透析を行う工程を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項10】
別に分取した前記ヨウ素化合物水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて精製する工程を更に備える、請求項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【請求項11】
前記陰イオン交換膜が、強塩基性陰イオン交換膜である、請求項1~10のいずれか一項に記載の無機化合物含有水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機化合物含有水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業廃液、海水等、無機イオンを複数種含む水溶液から特定の無機イオンを分離する技術として電気透析法が知られている。このような技術は、排水の処理、及びヨウ素等の希少な元素を回収する手段として重要である。
【0003】
そのような工業廃液としては、例えば、液晶ディスプレイ等に使用される偏光フィルムの製造工程において生じる廃液のように、ヨウ化物イオン、ホウ酸、カリウムイオン、及び水溶性有機物等を含む廃液が知られている(特許文献1~4)。このような廃液は、一般に凝集沈殿法、凝集沈殿ろ過法等により、廃液に含まれるホウ素等の特定の成分の濃度を排水基準で定められている濃度以下にした後、工業排水として排出される、又は濃縮することにより減容化して産業廃棄物として処理される。
【0004】
近年、ホウ素及びホウ素化合物の排出基準値が10mg/Lと厳しくなっており、凝集沈殿法等の従来の処理方法では、排水中のホウ素濃度を安定して排出基準値以下にすることは困難である。また、ヨウ素化合物は、先端産業、医療用途等において、ますます需要が増えており、可能な限り回収再利用することが好ましい。
【0005】
上記の廃液に電気透析を行って特定の成分を濃縮、及び分離する方法も知られている。例えば、特許文献1では、偏光板製造工程で排出される廃液に対して、pHをアルカリ側にせずにそのまま電気透析を行ってヨウ化物、ホウ酸等の無機物成分と、グリセリン、ポリビニルアルコール等の有機物成分とをそれぞれ脱塩液と濃縮液とに分離して、各液を個別に生物処理、濃縮減容化等を行うことにより、効率良く処理し、廃棄物量を減少させることができる方法が提案されている。すなわち、特許文献1の方法は、電気透析により、無機成分と有機成分とを分離する方法であって、ヨウ化物、ホウ酸等の無機成分同士の分離は行っていない。
【0006】
また、特許文献2では、ヨウ素、ホウ素及びカリウムが存在する偏光フィルム製造廃液をpHが7未満になるように調整した後、電気透析して上記廃液中に含まれるヨウ素とカリウムとをヨウ化カリウムとして分離する方法が記載されている。特許文献2の方法は、pH7未満の中性から酸性の領域では、廃液に含まれるホウ酸が分子状態(HBOの状態)で存在し、電気透析を行ってもホウ酸は濃縮液に移動しないものの、解離したままのヨウ化物イオンは電気透析により陰イオン交換膜を通過して濃縮液に移動するという考えに基づいている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-314864号公報
【文献】特開2008-13379号公報
【文献】特開2011-157237号公報
【文献】国際公開第2003-014028号
【非特許文献】
【0008】
【文献】「水中からの超高効率ホウ素除去技術」、化学装置、2012、2月号、p53-58
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2には、廃液に含まれるホウ酸を分子状態(HBOの状態)、つまり、電場にほぼ応答しない状態として、電気透析により、ヨウ化物イオンと分離することができるとしている。しかしながら、本発明者らが検討したところによれば、ホウ酸及びハロゲンを含有する水溶液(原液)のpHを中性から酸性にして電気透析を行った場合、分子状態のホウ酸も自由拡散により陰イオン交換膜を通過することができ、例えば、原液に含まれるホウ酸の20~30モル%が濃縮液に移動する場合もあることが判明した。そのため、濃縮室側に移動するホウ酸の量を低減し、より高い精度で原液から分離対象を分離し、無機化合物含有水溶液を得ることについて改善の余地がある。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、ホウ酸と、ハロゲンを有する少なくとも一種の無機陰イオンとを含む原液から、精度よく当該無機陰イオンをホウ酸から分離して無機化合物含有水溶液を得る方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の無機化合物含有水溶液の製造方法は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ホウ酸と、ハロゲンを有する少なくとも一種の無機陰イオンとを含み、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、当該ハロゲンのうち少なくとも一種をホウ酸から分離して無機化合物含有水溶液として分取する分離工程を備え、原液のpHが8以上である。
【0012】
上記分離工程の間、原液のpHが8以上に維持されていると好ましい。
【0013】
また、本発明の無機化合物含有水溶液の製造方法は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽においてホウ酸と少なくとも一種のハロゲンを有する無機陰イオンとを含み、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、当該ハロゲンのうち少なくとも一種をホウ酸から分離して無機化合物含有水溶液として分取する分離工程を備え、原液が、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して30モル%以下の分子状態のホウ酸を含有するものであってもよい。
【0014】
上記ホウ酸が、B(OH)、メタホウ酸、及びポリホウ酸並びにそれらのイオン状態のものの少なくとも一つであると好ましい。
【0015】
上記ハロゲンが、ヨウ素を有するイオンを含み、分離工程において、ホウ酸とヨウ素を有するイオンとを分離して、脱塩室側におけるホウ素化合物水溶液と濃縮室側におけるヨウ素化合物水溶液とをそれぞれ分取すると好ましい。
【0016】
上記ヨウ素を有するイオンが、ヨウ化物イオン及びヨウ素酸イオンの少なくとも一方を含むと好ましい。
【0017】
上記ヨウ素化合物水溶液を、ホウ素化合物を選択的に吸着する樹脂と接触させる精製工程を更に備えると好ましい。
【0018】
上記脱塩室が、電気透析を行うための原液を収容し、脱塩室に原液を移送するための原液槽に接続されており、ヨウ素化合物水溶液を原液槽に返送して電気透析を行うための原液と混合し、再度脱塩室に導入して電気透析を行う工程を更に備えると好ましい。
【0019】
上記電気透析槽に、当該電気透析槽とは別の第2の電気透析槽が接続されており、ヨウ素化合物水溶液を濃縮室から第2の電気透析槽に移送し、電気透析を行う工程を備えると好ましい。
【0020】
濃縮室から排出されるヨウ素化合物水溶液の濃度を監視し、ヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸の濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物水溶液を、所定の下限値を超える以前に回収したヨウ素化合物水溶液と別に分取すると好ましい。
【0021】
別に分取したヨウ素化合物水溶液を、強塩基性陰イオン交換樹脂と接触させて精製する工程を更に備えると好ましい。
【0022】
陰イオン交換膜が、強塩基性陰イオン交換膜であると好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ホウ酸と、ハロゲンを有する少なくとも一種の無機陰イオンとを含む原液から、当該無機陰イオンを含む高い純度の無機化合物含有水溶液を得る方法を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る電気透析装置の構成を示す概略図である。
図2図2は、pHと分子状態のホウ酸の割合との関係を説明する図である。
図3図3は、実施例3について、通電時間に対する、濃縮室側へのヨウ化物イオン及びホウ酸の移動割合を示すグラフである。
図4図4は、比較例2について、通電時間に対する、濃縮室側へのヨウ化物イオン及びホウ酸の移動割合を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態の無機化合物含有水溶液の製造方法では、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、無機化合物含有水溶液を分取する分離工程(以下、第一の分離工程とも呼ぶ。)を備えるものである。原液は、ホウ酸と少なくとも一種のハロゲンを有する無機陰イオン(以下、第1の陰イオンとも呼ぶ。)とを含み、上記分離工程により、当該第1の無機陰イオンをホウ酸から分離して無機化合物含有水溶液として分取する。原液は、更に以下の(i)及び(ii)の少なくとも一方の条件を満たすものである。
(i)原液のpHが8以上である。
(ii)原液が、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して30モル%以下の分子状態のホウ酸を含有する。
すなわち、本実施形態の製造方法では、脱塩室に収容された上記条件を満たす原液(脱塩液)に対して電気透析を行い、第1の陰イオンのうち少なくとも一種をホウ酸から分離して無機化合物含有水溶液として分取する分離工程を備えるものである。
【0026】
分取する無機化合物含有水溶液は、濃縮室側の水溶液であってもよく、脱塩室側の水溶液であってもよい。つまり、電気透析により、脱塩室から濃縮室に移動した第1の無機陰イオンを含む水溶液を無機化合物含有水溶液として分取してもよいし、目的とする第1の無機陰イオン以外のイオンを濃縮室に移動させた後に脱塩室側に残った第1の無機陰イオンを含む水溶液を無機化合物含有水溶液として分取してもよい。また、第1の無機陰イオンをホウ酸から分離した後、ホウ酸を含む水溶液をホウ素化合物含有水溶液として回収してもよい。
【0027】
なお、本明細書では、水溶液における「ホウ酸」との用語は、B(OH)、メタホウ酸(O=B-OH)及びポリホウ酸を含むものとし、これらの「ホウ酸」について、水溶液中における分子状態及びイオン状態のいずれの状態にあるものを指すものとする。
【0028】
第1の無機陰イオンは、ハロゲンを含む無機陰イオンであれば特に制限はないが、塩素、臭素及びヨウ素のうち少なくとも一つの元素を含む無機陰イオンであると好ましい。第1の無機陰イオンは、ハロゲンのみで構成される無機陰イオンであってもよく、ハロゲン以外の元素(酸素原子等)を含む無機陰イオンであってよい。ハロゲンのみで構成される無機陰イオンとしては、フッ化物イオン(F)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)のように単一のハロゲンを含む無機陰イオンであってよく、ICl、I 、ICl 、IBr、IBr などのポリハロゲン化物イオンであってもよい。第1の無機陰イオンとしては、単一のハロゲンを含む無機陰イオンを含むことが好ましい。単一のハロゲンを含む無機陰イオンとしては、フッ化物イオン、フッ素酸イオン等のフッ素を有する無機陰イオン、塩化物イオン、塩素酸イオン等の塩素を有する無機陰イオン、臭化物イオン、臭素酸イオン等の臭素を有する無機陰イオン、ヨウ化物イオン、ヨウ素酸イオン等のヨウ素を有する無機陰イオンが挙げられ、塩素を有する無機陰イオン、臭素を有する無機陰イオン、及びヨウ素を有する無機陰イオンのいずれか一つを含むことが好ましい。なお、ハロゲンを有する無機陰イオンとしては、金属元素を含む錯イオンであってもよいが、金属元素を含まないもの(つまり金属錯イオン以外のイオン)であることが好ましい。
【0029】
原液は、第1の無機陰イオン以外の無機陰イオンである第2の無機陰イオンを含んでいてもよい。第2の無機陰イオンは、イオン状態のホウ酸を含まない。第2の無機陰イオンとしては、一価の無機陰イオンであってもよく、多価の無機陰イオンであってもよい。より具体的には、硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン、その他硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫化物イオン、硫化水素イオン、シアン化物イオン等が挙げられる。
【0030】
無機陰イオンは、当該無機陰イオンを含む塩を溶解させることによって、原液に含ませることができる。無機陰イオンを含む塩としては、アルカリ金属塩等が挙げられる。また、無機陰イオンの共役酸を原液に溶解した後で、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等を添加してpH調整を行ってもよい。
【0031】
本実施形態の無機化合物含有水溶液の製造方法では、原液に含まれる複数の無機陰イオンに対する電気透析を利用した陰イオン交換膜によるクロマト分離の原理を利用している。ここで、電気透析を利用しない、陰イオン交換樹脂カラム等に原液を通液する通常のクロマト分離では、選択性の小さいイオンが初期に流出し、選択性の大きなイオンが最後に流出する。一方で、本実施形態の無機化合物含有水溶液の製造方法では、選択性の大きいイオンが先に濃縮室側に流出し、選択性の小さなイオンが後に流出するという通常のクロマト分離とは逆の順序で無機陰イオンが陰イオン交換膜を通過する傾向にある。また、この傾向は膜との親和性、分子半径、濃縮槽側の液条件で変化し逆転することもある。
本発明者が検討したところ、電気透析による、濃縮室側への陰イオン交換膜を隔てた無機陰イオンの移動速度は、以下の順になることが分かっている(左側にあるイオンほど移動速度が大きい)。
>I>NO >S 2->Br>Cl>SO 2->IO >HPO 2->OH->イオン状態のホウ酸
【0032】
以下、本実施形態の製造方法において、ホウ酸と、ヨウ素を含むイオンとを含む原液を使用した場合について詳述する。
【0033】
本実施形態の製造方法は、ホウ酸の陰イオン交換膜の通過を効果的に抑制することができるため、濃縮室側に移動したヨウ素を含むイオンを含有する水溶液におけるホウ酸の濃度をより低減でき、濃縮室におけるヨウ素化合物水溶液を高純度で回収することができ、更には脱塩室に残るホウ素化合物水溶液も回収することもできる。
【0034】
本実施形態の製造方法では、第1の分離工程によって、ヨウ素を含むイオンを陰イオン交換膜を通して脱塩室から濃縮室に流出させることによりホウ酸と分離する。なお、分離とは、原液と比較して、濃縮室における水溶液(濃縮液)のホウ酸の濃度に対してヨウ素を含むイオンの濃度が高くなっている(つまり、ヨウ素を含む塩を主体として含む水溶液が得られる)ことを言い、濃縮室における水溶液に全くホウ酸が含まれないことのみを意味するものではない。また、ヨウ素を含むイオンが濃縮室に流出すると、脱塩室における水溶液(脱塩液)のヨウ素を含むイオンの濃度が下がり、原液と比較して、ホウ酸の濃度に対してヨウ素を含むイオンの濃度が低い水溶液が残る(つまり、ホウ酸を主体として含む水溶液が得られる)。本実施形態の製造方法では、電気透析によるヨウ素を含むイオンとホウ酸との分離後、濃縮室及び脱塩室の水溶液をそれぞれヨウ素化合物水溶液及びホウ素化合物水溶液として回収することができる。
【0035】
濃縮液におけるホウ酸由来のホウ素元素に対するヨウ素を含む塩由来のヨウ素元素のモル濃度比率(I/B比率)は、高いほどよいため特に上限はなく、30以上であると好ましく、40以上であるとより好ましく、50以上であると更に好ましい。本実施形態の製造方法では、ヨウ素を含むイオン及びホウ酸を効率よく分離できるため、高いI/B比率を達成しやすい。
【0036】
また、濃縮液のI/B比率は、原液のI/B比率の5倍以上であると好ましく、8倍以上であるとより好ましく、10倍以上であると更に好ましい。本実施形態の製造方法では、ヨウ素を含むイオン及びホウ酸を効率よく分離できるため、原液と比較して高いI/B比率を達成しやすい。
【0037】
本実施形態の製造方法におけるホウ酸とヨウ素を含むイオンとを分離する原理は、以下のとおりである。まず、B(OH)は、水溶液中で、分子状態(つまり、B(OH)自体)で存在するが、水溶液のpHを7より大きくしていくと、イオン状態のホウ酸が生じる。より具体的には、イオン状態のホウ酸としては、B(OH) 、及びB(OH) 、B(OH) 、B(OH) 2-、B(OH) 2-等のポリホウ酸型の陰イオンなど、陰イオン状態のものである。また、複数のホウ酸同士が脱水縮合してより高分子量化したポリホウ酸イオンもイオン状態のホウ酸に含まれる。
【0038】
図2を用いて以下により具体的に説明する。図2は、ホウ酸水溶液についてのpHと分子状態のホウ酸の存在割合との関係を説明する図である。図2では、横軸に水溶液のpHを取り、縦軸に分子状態及びイオン状態のホウ酸の総量に対する分子状態のホウ酸の存在割合(モル比)をホウ酸存在比率としてとったものである。図2の実線の曲線は、以下の化学式(1)の平衡反応を仮定し、ホウ酸のpKa(9.2)から各pHにおけるホウ酸存在比率を算出して作成したグラフである。
B(OH)+OH-⇔B(OH) (1)
図2の実線で示されるように、pH7以下の酸性又は中性の領域では、ホウ酸は、ほぼ100%分子状態のホウ酸として水溶液中に存在し、pHが高まるにつれ、急激に分子状態のホウ酸の存在割合が小さくなる。
ホウ酸の希薄な水溶液では、式(1)の反応が支配的になるため、図2の実線の曲線に近い挙動をとるが、0.1M以上の濃度となるとB(OH)が分子間で脱水縮合したポリホウ酸の割合が増え始める。例えば、図2の点線の曲線は、(1)の平衡反応に対して、代表的なポリホウ酸であるHについてHBOとのモル濃度の比率を[H]/[HBO]=10-4と仮定して、HのpKa=4考慮して各pHにおけるホウ酸存在比率を算出して作成したグラフである。この場合、より低いpH6付近からホウ酸存在比率が下がり始める。
図2は、あくまで、理想化した平衡反応についてpHに対するホウ酸存在比率の挙動を説明するものであるが、実際にpHに対する各種のイオン状態のホウ酸と分子状態のホウ酸存在比率の実験データとしては「水中からの超高効率ホウ素除去技術」、化学装置、2012、2月号、p53-58(非特許文献1)に記載されており、非特許文献1のデータを参照して各pHにおける分子状態のホウ酸の存在割合を見積もることができる。非特許文献1を参照すると、水溶液のpHが8以上であると、分子状態のB(OH)は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の合計量に対して30モル%以下となる傾向がある。なお、イオンクロマトグラフィー、滴定、ラマン分光法、NMR等により、原液における分子状態のホウ酸の含有量を予め測定することもできる。
【0039】
ここで、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、脱塩室に原液を導入し(つまり脱塩液として使用する。)、上記pHが8以上である原液に電気透析を行うと、ヨウ素を含むイオンと、イオン状態のホウ酸とのいずれも陰イオン交換膜を透過できる。しかしながら、ヨウ素を含むイオンは、イオン状態のホウ酸と比較して陰イオン交換膜に対して高い透過速度を有する。この理由としては、まず、ヨウ素を含むイオンは、陰イオン交換膜における陰イオン交換基に対する選択性が高いため、電気透析槽に電圧を印加した際に、陰イオン交換膜の脱塩室側の表面の陰イオン交換基に優先的に吸着されていたヨウ素を含むイオンが陽極に向かって陰イオン交換膜中を移動し、濃縮室側の濃縮液に流出する。一方、イオン状態のホウ酸は、陰イオン交換膜上の陰イオン交換基がヨウ素を含むイオンに占められてしまうため、陰イオン交換基に吸着することができず、脱塩液に留まる。電気透析が進行し、脱塩液中のヨウ素を含むイオンの濃度が低くなるとイオン状態のホウ酸も陰イオン交換膜を透過し始め、濃縮液側に急激にホウ酸が流出し始める。濃縮液におけるホウ酸の濃度を監視することで、急激にホウ酸が流出し始めるタイミングを知ることができ、ホウ酸が急激に流出したところで、濃縮液をヨウ素化合物水溶液とは別に回収することができる。なお、イオン状態のホウ酸を、陰イオン交換膜を透過させることにより原液に含まれる有機化合物等とホウ酸を分離できるため、この工程は、ホウ素化合物水溶液の精製に利用することができる。
【0040】
この現象は、陰イオン交換樹脂カラムに複数の陰イオンを通液した場合に、選択性の小さいイオンが初期に流出し、選択性の大きなイオンが最後に流出するというクロマト分離の原理を利用しているが、通常のクロマト分離ではイオン状態のホウ素が先に漏出してヨウ素がそのあとに漏出するのに対して、本実施形態の製造方法ではヨウ素を含むイオンが先に漏出してホウ素が後に漏出するという逆の効果を奏している。
【0041】
つまり、本実施形態の製造方法は、電気透析による陰イオンの透析だけでなく、陰イオン同士の陰イオン交換膜に対する選択性の差を利用したものである。
【0042】
この場合、原液は、ヨウ素を含む塩とホウ酸とを含有する水溶液である。ただし、原液は、水にヨウ素を含む塩とホウ酸とを溶解することにより調製されたものでなくても、ヨウ素を含む塩とホウ酸とが溶解した状態の水溶液であれば特に制限はない。例えば、ヨウ化水素酸とホウ酸とを含む水溶液にアルカリ性の水溶液を加えてpHを8以上としたものであってもよい。
【0043】
原液のpHは、ヨウ素を含むイオンとホウ酸との分離能を高める観点から、8.5以上であると好ましく、9以上であるとより好ましく、10以上であると更に好ましく、12以上であると特に好ましい。なお、イオン状態のホウ酸は、水酸化物イオンよりも陰イオン交換膜の選択性が低いため、陰イオン交換膜のイオンを透過するサイトがイオン状態のホウ酸よりも先に水酸化物イオンに占有される。そのため、pHがより大きいほうがよりイオン状態のホウ酸の濃縮室への流出を遅らせ、ヨウ素イオンとの分離精度がより高まる傾向にある。なお、原液のpHは、電気透析を始めた際に上記範囲であればよいが、電気透析を始めた当初にpHが8未満であっても、電気透析中に8以上となればよい(すなわち、初期運転を行って、pHを8以上としてもよい)。原液のpHの上限は特に限定されないが、陰イオン交換膜のアルカリに対する耐久性の観点から、14であってよい。また、原液に含まれる分子状態のホウ酸の含有量は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の合計量に対して20モル%以下であると好ましく、10モル%以下であるとより好ましく、5モル%以下であると更に好ましく、実質的に0モル%であると特に好ましい。なお、原液に含まれる分子状態のホウ酸の含有量は、電気透析を始めた際に上記範囲であればよい。
【0044】
ヨウ素を含む塩としては、特に限定されないが、ヨウ化物塩及びヨウ素酸塩の少なくとも一方であると好ましい。ヨウ化物塩及びヨウ素酸塩に含まれるカチオンとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、希土類金属イオン等の金属イオンが挙げられる。
【0045】
原液におけるヨウ素を含む塩の濃度としては、特に制限はないが、原液に含まれるヨウ素を含む塩由来のヨウ素元素の質量で、1.5g/L以上であると好ましく、2g/L~400g/Lがより好ましく、50g/L~400g/Lであると更に好ましい。なお、原液におけるヨウ素を含む塩の濃度が低くても上述の説明のとおり、イオン状態のホウ酸よりも先にヨウ素を含むイオンが先に濃縮室に流出するため、イオン状態のホウ酸とヨウ素を含むイオンとの分離は問題なく行える。
【0046】
原液におけるホウ酸は、水にB(OH)、メタホウ酸、ポリホウ酸、及びそれらの塩の少なくとも一つを溶解することにより配合したものであってよい。B(OH)、メタホウ酸、及びポリホウ酸の塩におけるカチオンとしては、特に制限はないが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオンが挙げられる。ポリホウ酸の塩としては、例えば、硼砂が挙げられる。
【0047】
原液におけるホウ酸の濃度としては、特に制限はないが、原液に含まれるホウ酸由来のホウ素元素の質量で、0.1g/L~40g/Lが好ましく、1g/L~30g/Lであるとより好ましく、2g/L~10g/Lが更に好ましい。
【0048】
原液は、ヨウ素を含むイオン、イオン状態のホウ酸以外のイオンを含んでいてもよい。そのようなイオンとしては、上記第2の無機陰イオンであってよく、有機陰イオンであってもよい。有機陰イオンとしては、酢酸イオン、ギ酸イオン、シュウ酸イオン等が挙げられる。
【0049】
原液は、非イオン性の水溶性有機物を含んでいてよい。水溶性有機物としては、グリセリン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0050】
原液は、偏光フィルムの製造工程で排出される廃液等のヨウ素を含む塩及びホウ酸を含む廃液であってもよい。
【0051】
図1は、本実施形態の電気透析装置1の一例を示す図である。なお、本実施形態の電気透析装置1としては特に制限されず、公知の電気透析装置を使用することができる。以下、図1とともに、本実施形態の製造方法について説明する。
【0052】
電気透析装置1は、原液を収容する原液槽2を備える。必要に応じ、原液槽2には、アルカリ液槽12が接続されていてもよい。アルカリ液槽12には、アルカリ性の水溶液が収容されており、原液槽にアルカリ性の水溶液を添加することにより、原液槽のpHを調整することができる。アルカリ性の水溶液としては、特に制限されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの水溶液が挙げられる。
【0053】
なお、原液には、前処理によってあらかじめホウ酸、及びホウ酸以外のホウ素化合物、並びにその他不純物を減らしてから電気透析を行ってもよい。
【0054】
電気透析装置1は、陽極8を有する電極室(陽極室)と、陰極9を有する電極室(陰極室)と、陽極室と陽イオン交換膜6で仕切られた濃縮室11と、陰極室と陽イオン交換膜6で仕切られた脱塩室10とを備える電気透析槽20を備える。脱塩室10と濃縮室11とは、陰イオン交換膜7で仕切られている。陰極室及び陽極室には極性液が収容されている。極性液としては、特に限定されないが、硫酸水素ナトリウム水溶液、硫酸カリウム水溶液等が挙げられる。
【0055】
陰イオン交換膜としては、特に制限はなく、強塩基性陰イオン交換膜等が使用できる。陰イオン交換膜としては、強塩基性陰イオン交換膜が好ましい。強塩基性陰イオン交換膜は、イオン交換基として第四級アンモニウム基を有するものであってよい。また、陰イオン交換膜としては、一価イオン選択透過陰イオン交換膜、全透過性の陰イオン交換膜、高強度耐アルカリ陰イオン交換膜を使用してもよく、一価イオン選択透過陰イオン交換膜であると好ましい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強塩基性陰イオン交換基である四級アンモニウム基を導入した陰イオン交換膜が使用できる。陰イオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)AMV、セレミオン(登録商標)AMT、一価陰イオン選択膜であるセレミオン(登録商標)ASV等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)ASE(全透過性の陰イオン交換膜)、一価陰イオン選択膜ACS、ネオセプタ(登録商標)AXP-D等も使用できる。
【0056】
陽イオン交換膜としては、特に制限はなく、強酸性陽イオン交換膜、高強度耐アルカリ陽イオン交換膜等を使用できる。また、陽イオン交換膜は、一価イオン選択透過陽イオン交換膜であってもよい。より具体的には、スチレン-ジビニルベンゼンを基本骨格とした基材膜(スチレン-ジビニルベンゼン系基材膜)に強酸性陽イオン交換基であるスルホン酸基を導入した陽イオン交換膜が使用できる。陽イオン交換膜の市販品としては、AGCエンジニアリング株式会社製のセレミオン(登録商標)CMV、セレミオン(登録商標)CMB等が使用できる。また、株式会社アストム製のネオセプタ(登録商標)CSE、ネオセプタ(登録商標)CMB等も使用できる。
【0057】
原液槽2に収容される原液は、配管を通じて脱塩室10に移送される。これにより、脱塩室10には、8以上のpHを有する原液、又は分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して30モル%以下の分子状態のホウ酸を含有する原液が収容される。なお、脱塩室10に連続的に原液を供給しながら、連続的に脱塩液を排出する連続運転を行ってもよい。連続運転する際には適宜濃縮液を抜き出して、電解液を供給してもよい。脱塩室に収容又は流通される水溶液を脱塩液と呼ぶ。
【0058】
電気透析前には、濃縮室11には、電解液が収容されている。電解液としては特に制限はないが、例えば、塩化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムの水溶液等が挙げられる。
【0059】
陽極及び陰極の間に電圧をかけて電気透析を行う。図1に示すように、例えば、ヨウ素を含む塩としてヨウ化カリウム(KI)を使用した場合、脱塩液に含まれるIは、脱塩室10の脱塩液から陰イオン交換膜7を透過しやすいため(図1ではこのことを長い矢印で表す。)、濃縮室11に移動し、Kは、陽イオン交換膜6を透過して陰極室に移動する。一方、脱塩液に含まれる、B(OH) 等のイオン状態のホウ酸は、陰イオン交換膜7を透過しにくく(図1ではこのことを短い矢印で表す。)、脱塩室に留まる。
【0060】
電気透析の運転条件としては特に制限されないが、予め被処理液中のヨウ化物イオン(I)、ホウ酸イオン[B(OH) ]等のイオン状態のホウ酸の濃度を測り、濃縮室側への移動に要する電気量を算出しておけば、各成分を分画分取するための運転条件の参考にすることができる。共存イオンの種類や濃度、ヨウ素回収装置側の受け入れ条件などを勘案しながら、予め予備実験等により、濃縮室側に移動するイオンの濃度の経時変化を分析し、電気透析装置の運転条件を決定することがさらに好ましい。
【0061】
電気透析を行っている間、脱塩液のpHは、ヨウ素を含むイオンとホウ酸との分離能を高める観点から、8以上に維持されていると好ましく、8.5以上に維持されているとより好ましく、10以上に維持されていると更に好ましく、11以上に維持されていると特に好ましい。
【0062】
濃縮室11には、ヨウ素を含むイオンが流出してヨウ素化合物水溶液(第1の濃縮液と呼ぶ。)が生成する。第1の濃縮液には、ホウ酸が含まれないことが好ましいが、微量に含まれていてもよく、例えば、ホウ素元素の濃度として、1g/L以下であると好ましく、0.2g/L以下であると好ましい。また、第1の濃縮液に含まれるホウ酸由来のホウ素元素の濃度としては、原液に含まれるホウ酸由来のホウ素元素の濃度の10モル%以下であると好ましく、5モル%以下であるとより好ましく、3モル%以下であると更に好ましい。第1の濃縮液は、濃縮室11から移送され、第1の濃縮液槽3に収容される。第1の濃縮液は、第1の濃縮液槽3から濃縮室11に返送されて更に電気透析を行って、ヨウ素を含むイオンの濃度を高めてもよい。
【0063】
電気透析を長時間行うと、脱塩室のヨウ素を含むイオンの濃度が低下し、イオン形態のホウ酸も陰イオン交換膜のイオン交換基に吸着しやすくなり、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸の濃度が高まる。そのため、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸(ホウ素元素)の濃度を監視し、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸(ホウ素元素)の濃度が予め定めた所定の下限値(第1の下限値)を超えたところから、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液を第2の濃縮液として、第1の濃縮液とは別に第2の濃縮液槽4に分取してもよい。所定の下限値としては、例えば、濃縮液のホウ素元素の濃度として1g/Lとすることができる。濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸(ホウ素元素)の濃度を監視する方法としては、例えば、一定時間(例えば、一時間)ごとに濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸(ホウ素元素)の濃度を測定する方法が挙げられる。第2の濃縮液は、原液槽2に返送して、原液槽2に含まれる原液と混合して、再度脱塩室に移送して電気透析を行ってよい。
【0064】
また、更に脱塩が進行すると、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸の濃度が更に高まる。そのため、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸(ホウ素元素)の濃度を監視し、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸(ホウ素元素)の濃度が予め定めた、第1の下限値よりも大きい所定の下限値(第2の下限値)を超えたところから、濃縮室11のヨウ素化合物水溶液を第3の濃縮液として、第1及び第2の濃縮液とは別に第3の濃縮液槽5に分取する。なお、第2濃縮液槽に加えて第3濃縮液槽を設けるかどうかは、原液の組成や回収用途に受け入れ可能な純度かどうかなどを考慮し、予め予備実験等により決めることができる。
【0065】
第1の濃縮液を精製して、第1の濃縮液に含まれるホウ酸の濃度を更に低減することができる。精製方法としては、特に制限はないが、ホウ酸を選択的に吸着する吸着材と接触させる方法が挙げられる。ホウ酸を選択的に吸着する吸着材としては、ホウ素選択性樹脂又は繊維が挙げられ、例えば、n-メチルグルカミンを官能基として有する樹脂又は繊維が好ましい。n-メチルグルカミンを官能基として有する樹脂又は繊維は、成型加工が容易であり、吸着塔方式以外の吸着方式が可能であることから、繊維であることが好ましい。第1の濃縮液を精製することにより、ヨウ素化合物水溶液に含まれるヨウ素化合物の純度を上げることができるとともに、ホウ酸の回収率も上げることができる。第2及び第3の濃縮液についても同様に精製してもよい。
【0066】
脱塩液は、電気透析後に原液槽2に返送してよい。脱塩液は、電気透析前の原液と混合して脱塩室10に移送し、再度電気透析を行ってよく、電気透析前の原液と混合は、原液槽2内で行ってもよい。電気透析を繰り返した脱塩液(ホウ素化合物水溶液)は、ヨウ素を含むイオンの濃度が十分に下がっており、上述のとおり、ホウ酸を、陰イオン交換膜を透過させて濃縮液側に流出させることができる。これによりホウ素化合物水溶液の精製が行える。濃縮液として得られたヨウ素化合物水溶液は複数回電気透析を行ってもよい。複数回電気透析を行うことによって、よりホウ素の元素濃度が低いヨウ素化合物水溶液を得ることができる。
【0067】
本実施形態の製造方法は、第1の濃縮液に再度電気透析を行って第1の濃縮液に含まれるホウ酸の濃度を更に低減してもよい(第2の分離工程)。具体的には、第1の濃縮液を濃縮室11に返送して再度電気透析を行ってもよく、原液槽2に返送して、再度脱塩室10に移送して再度電気透析を行ってもよい。あるいは、濃縮室11からヨウ素化合物水溶液を別の電気透析槽(第2の電気透析槽)の脱塩室、又は別途用意した第2の原液室を経由して第2の電気透析槽に移送し、当該別の電気透析槽において電気透析を行ってもよい。
【0068】
濃縮液であるヨウ素化合物水溶液に含まれるヨウ素化合物としては、特に限定されないが、ヨウ素を含む塩であってよく、ヨウ化物塩及びヨウ素酸塩の少なくとも一方であってよい。ヨウ素を含む塩に含まれるヨウ素を含むイオンとしては、原液に含まれるヨウ素を含むイオンと同じものであり、ヨウ素を含む塩に含まれるカチオンとしては、極性液又は濃縮室11の電解液として使用した電解質に含まれる陽イオンであってよい。
【0069】
また、ヨウ素化合物は、ヨウ化水素酸であってよい。本実施形態の製造方法でヨウ化水素酸を製造する場合、バイポーラ膜を使用してよい。例えば、電気透析室において、陰イオン交換膜の陽極側及び陰極側にそれぞれバイポーラ膜を配置し、陽極側のバイポーラ膜と陰イオン交換膜に挟まれた領域を濃縮室とし、陰極側のバイポーラ膜と陰イオン交換膜に挟まれた領域を脱塩室とした電気透析装置を用いて電気透析を行うと、濃縮液では水素イオンが発生してヨウ化水素が生成し、脱塩室側に水酸化物イオンが放出されるため、陰イオン交換膜を通じて水酸化物イオンが濃縮液に移動しても濃縮室のpHを低く、脱塩室のpHを高く維持できる傾向にある。
【0070】
なお、図1では、一つの陰イオン交換膜を二つの陽イオン交換膜を使用しているが、陽極側から二つ以上の陽イオン交換膜と、二つ以上の陰イオン交換膜とを交互に配置して脱塩室及び濃縮室を複数設けた構成としてもよい。また、3つ以上の液と室を設けて、置換電気透析を行ってもよい。
【0071】
得られた濃縮液中のヨウ素化合物の濃度とホウ素化合物の濃度によっては、得られたヨウ素化合物水溶液中に含まれるヨウ素化合物を強塩基性陰イオン交換樹脂で吸着してもよい。このように強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるかどうかの判断は、濃縮室から排出されるヨウ素化合物水溶液の濃度を監視して判断してもよく、ヨウ素化合物水溶液におけるホウ酸の濃度が予め定めた所定の下限値を超えた時から、ヨウ素化合物水溶液を、それ以前に回収したヨウ素化合物水溶液と別に分取して、分取したヨウ素化合物水溶液だけに強塩基性陰イオン交換樹脂を接触させてもよい。
強塩基性陰イオン交換樹脂は市販されているものを使用できる。ヨウ素化合物水溶液がホウ素化合物を含有する場合、水溶液中に含まれるヨウ素化合物を強塩基性陰イオン交換樹脂で吸着することで、ホウ素化合物の純度を高めたホウ素化合物水溶液を精製してもよい。このように濃縮液中のヨウ素化合物の濃度とホウ素化合物の濃度に応じて、適宜、吸着材を用いることによって、ヨウ素化合物の回収率を上げると同時にホウ素化合物の回収率を上げることができる。
【0072】
ホウ素選択性樹脂又は繊維や強塩基性陰イオン交換樹脂など精製に使用した吸着材は、所定の吸着容量に達すれば、再生する必要がある。再生する場合は、再生剤として酸、アルカリ、塩化ナトリウム水溶液などを使用できる。再生条件は、実験室等における予備実験で確認できる。例えば、ホウ素選択性樹脂又は繊維は濃度1~10%の酸及びアルカリで2段階再生を行うが、酸、アルカリ廃液に含まれるホウ素及びヨウ素の濃度を勘案しながら、例えば原液槽に返送するなど再生廃液の回収先を決定することができる。強塩基性陰イオン交換樹脂についても同様で、再生に使用する塩化ナトリウムの濃度及び廃液の回収先は予備実験等により決定することができる。
【0073】
以上、ホウ酸と、ヨウ素を有するイオンとの組み合わせについて説明したが、本実施形態の方法は、ホウ酸と第1の無機陰イオンとのいかなる組み合わせを含む原液に対しても同様に適用することができ、更に原液は、第2の無機陰イオンを含んでいてもよい。すなわち、原液は、ホウ酸と、フッ素を有するイオン、塩素を有するイオン、臭素を有するイオン及びヨウ素を有するイオンの少なくとも一つの無機陰イオンとを含むものであってよく、このような原液についても、本実施形態の方法を用いると精度よくホウ酸と、第1の無機陰イオンとを分離することができる。
【0074】
また、本実施形態の方法は、原液が複数種の第1の無機陰イオンを含む場合、2種以上の第1の無機陰イオンをホウ酸と分離して無機化合物含有水溶液として回収してもよい。この場合、得られた無機化合物含有水溶液に電気透析等の方法を適用することにより、第1の無機陰イオン同士を更に分離することができる。また、第1の無機陰イオンのうち1種又は2種以上をホウ酸と分離した後に、ホウ酸を含む水溶液にまだ第1の無機陰イオンが含まれている場合、本実施形態の方法を更に適用してホウ酸と第1の無機陰イオンとを分離することができる。
【0075】
本実施形態の方法は、第1の無機陰イオンに代えて第2の無機陰イオンを含む原液に対しても同様に適用できる。すなわち、本発明の他の実施形態は、脱塩室、及び当該脱塩室と陰イオン交換膜により仕切られた濃縮室を備える電気透析槽において、ホウ酸と、少なくとも一種の上記第2の無機陰イオン(硫酸イオン、亜硫酸イオン、チオ硫酸イオン、テトラチオン酸イオン、その他硫黄のオキソ酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、リン酸水素イオン、リン酸二水素イオン、炭酸イオン、重炭酸イオン、硫化物イオン、硫化水素イオン、シアン化物イオン等)とを含み、脱塩室内に収容されている原液に電気透析を行い、当該無機陰イオンのうち少なくとも一種をホウ酸から分離して無機化合物含有水溶液として分取する分離工程を備え、
原液が以下の条件(i)及び(ii)の少なくとも一方を満たす、無機化合物含有水溶液の製造方法であってよい。
(i)原液のpHが8以上である。
(ii)原液が、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して30モル%以下の分子状態のホウ酸を含有する。
【0076】
各無機陰イオンは、上記の移動速度に応じて順に濃縮室側に流出するため、例えば、各無機陰イオンの濃度を監視しながら、濃縮室側で無機陰イオンの一種のみを含む水溶液として順次回収してもよい。
【0077】
本実施形態の方法によれば、原液に含まれる第1の無機陰イオンとホウ酸とを精度良く分離できる。分離の精度の基準としては、例えば、以下の指標を用いることができる。まず、電気透析を行う前の原液における分離対象(ホウ酸と分離される無機陰イオン)のモル濃度Xと、ホウ酸のモル濃度B(ホウ素元素換算)を求め、それらの比(X/B)を算出する。そして、分取する側の室(濃縮室又は脱塩室)の水溶液における分離対象のモル濃度をX、ホウ酸のモル濃度をBを求め、それらの比(X/B)を算出する。本実施形態の方法によれば、例えば、X/BをX/Bの5倍以上とすると好ましく、X/BをX/Bの10倍以上とするとより好ましい。
【実施例
【0078】
[実施例1]
(1)電気透析装置
電気透析装置として、アストム株式会社製のマイクロアシライザーEX3Bを使用した。イオン交換膜としては、アストム株式会社製の強酸性陽イオン交換膜(商品名:ネオセプタCSE)及び一価陰イオン選択膜(商品名:ネオセプタAXP-D)を1ユニットとして使用し、10ユニットの2室法電気透析装置とした。有効膜面積は、550cmである。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で5.9g/L分のホウ酸(B(OH))と、ヨウ素元素の質量で269g/L分のヨウ化カリウムを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを13に調整し、合成原液1を調製した。非特許文献1から、合成原液1は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して1モル%以下の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液1を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を3時間行い、濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定したところ、それぞれヨウ素元素の質量で219g/L及びホウ素元素の質量で125mg/Lであった。ヨウ素元素の濃度は、脱塩液中のヨウ素元素の96.8%が濃縮液に移動した。また、濃縮液に移動したホウ酸は、ホウ素元素換算で2.5%であったため、97.5%のホウ酸がヨウ化物イオンと分離されたことになる。ホウ素元素に対するヨウ素元素のモル濃度比率(I/B比率)を計算すると、合成原液1では3.8であるのに対し、濃縮液では149であった。なお、3時間電気透析を行った後の脱塩液のpHは13であった。また、濃縮液のpHは、12.4であった。
【0079】
[実施例2]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、実施例1と同じものを用いた。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で5.2g/L分のホウ酸(B(OH))と、ヨウ素元素の質量で365g/L分のヨウ化カリウムとを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを8.5に調整し、合成原液2を調製した。非特許文献1から、合成原液2は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して20モル%の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液2を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を3時間行ったところ、脱塩液中のヨウ化物イオンの77.2%が濃縮液に移動して、92.8%のホウ酸と分離された。I/B比率を計算すると、合成原液2では6.0であるのに対し、濃縮液では63であった。なお、電気透析を行った後の脱塩液のpHは8.8であった。また、濃縮液のpHは、7.8であった。
【0080】
[実施例3]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、アストム株式会社製の強酸性陽イオン交換膜(商品名:ネオセプタCSE)及び強塩基性陰イオン交換膜(商品名:ネオセプタASE、全透過性陰イオン交換膜)を1ユニットとして使用し、10ユニットの2室法電気透析装置とした。有効膜面積550cmである。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で6.1g/L分のホウ酸(B(OH))と、ヨウ素元素の質量で242g/L分のヨウ化カリウムとを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを13.1に調整し、合成原液3を調製した。非特許文献1から、合成原液3は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して1モル%以下の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液3を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.2A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を3.25時間(195分)行ったところ、脱塩液中のヨウ化物イオンの95.6%が濃縮液に移動して、95.8%のホウ酸と分離された。運転後、脱塩室及び濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定した。脱塩室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で1.3g/L及びホウ素元素の質量で7.84g/Lであった。濃縮室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で200.8g/L及びホウ素元素の質量で0.22g/Lであった。I/B比率を計算すると、合成原液3では3.4であるのに対し、濃縮液では93.3であった。なお、電気透析を行った後の脱塩液のpHは12.9であった。また、濃縮液のpHは、12.0であった。
【0081】
[実施例4]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、アストム株式会社製の標準バイポーラ膜(商品名:ネオセプタBPX-4)及び高強度陰イオン交換膜(商品名:ネオセプタASE)を1ユニットとして使用し、10ユニットの2室法電気透析装置とした。有効膜面積550cmである。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で5.3g/L分のホウ酸(B(OH))と、ヨウ素元素の質量で235g/L分のヨウ化カリウムとを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを12.8に調整し、合成原液4を調製した。非特許文献1から、合成原液4は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して1モル%以下の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液4を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流2.0A、電圧20Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を5時間行ったところ、脱塩液中のヨウ化物イオンの81.6%が濃縮液に移動して、98.6%のホウ酸と分離された。運転後、脱塩室及び濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定した。脱塩室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で2.4g/L及びホウ素元素の質量で5.78g/Lであった。濃縮室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で222.5g/L及びホウ素元素の質量で0.08g/Lであった。I/B比率を計算すると、合成原液4では3.8であるのに対し、濃縮液では224であった。なお、電気透析を行った後の脱塩液のpHは14であった。また、濃縮液のpHは、-0.23であった。
【0082】
[実施例5]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、実施例1と同じ膜を用いた。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で25.4g/L分のホウ酸(B(OH))と、ヨウ素元素の質量で245g/L分のヨウ化カリウムとを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを13.2に調整し、合成原液5を調製した。非特許文献1から、合成原液5は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して1モル%以下の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液5を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を3時間行ったところ、脱塩液中のヨウ化物イオンの93.5%が濃縮液に移動して、98.4%のホウ酸と分離された。運転後、脱塩室及び濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定した。脱塩室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で13.8g/L及びホウ素元素の質量で28.1g/Lであった。濃縮室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で213.6g/L及びホウ素元素の質量で0.39g/Lであった。I/B比率を計算すると、合成原液5では0.82であるのに対し、濃縮液では46.6であった。なお、電気透析を行った後の脱塩液のpHは13.1であった。また、濃縮液のpHは、12.1であった。
【0083】
[実施例6]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、実施例3と同じ膜を用いた。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で5.35g/L分のホウ酸(B(OH))と、臭素元素の質量で37.1g/L分の臭化カリウムと、塩素元素の質量で16.4g/L分の塩化カリウムと、硫酸イオンの質量で18.0g/L分の硫酸カリウムと、リン酸水素イオンの質量で45.6g/L分のリン酸水素カリウムとを溶解し、水酸化ナトリウムを添加してpHを9.9に調整し、合成原液6を調製した。非特許文献1から、合成原液6は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して5モル%の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液6を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を1.5時間行ったところ、脱塩液中の臭化物イオンの97.8%が、塩化物イオンの97.0%が、硫酸イオンの43.2%が、リン酸水素イオンの6.1%が濃縮液に移動して、96.2%のホウ酸と分離された。運転後、脱塩室及び濃縮室の臭化物イオン、塩化物イオン及びホウ酸の濃度を測定した。脱塩室では、臭化物イオン、塩化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれ臭素元素の質量で0.32g/L、塩素元素の質量で0.64g/L、及びホウ素元素の質量で6.02g/Lであった。濃縮室では、臭化物イオン、塩化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれ臭素元素の質量で32.1g/L、塩素元素の質量で17.1g/L、及びホウ素元素の質量で0.18g/Lであった。Br/B比率を計算すると、合成原液6では0.94であるのに対し、濃縮液では23.8であった。また、Cl/B比率を計算すると、合成原液6では0.94であるのに対し、濃縮液では28.5であった。なお、電気透析を行った後の脱塩液のpHは10.1であった。また、濃縮液のpHは、9.1であった。
【0084】
[比較例1]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、実施例1と同じ膜を用いた。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で5.2g/L分のホウ酸と、ヨウ素元素の質量で310g/L分のヨウ化カリウムを添加し、硫酸を添加してpHを3.3に調整し、合成原液7を調製した。非特許文献1から、合成原液7は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して99モル%以上の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液7を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流1.1A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を3時間行ったところ、脱塩液中のヨウ化物イオンの72%が濃縮液に移動したのに対して、電気透析の間、ホウ酸も時間に比例して濃縮液に移動して濃縮液中のホウ素元素の濃度が増加していき、ホウ酸が18%も濃縮室に移動した。I/B比率を計算すると、合成原液7では4.3であるのに対し、濃縮液では15であった。
【0085】
[比較例2]
(1)電気透析装置
実施例1と同じ電気透析装置を用いた。イオン交換膜としては、実施例3と同じ膜を用いた。
(2)原液組成
純水に、ホウ素元素の質量で6.5g/L分のホウ酸と、ヨウ素元素の質量で250g/L分のヨウ化カリウムとを溶解し、水酸化カリウムを添加してpHを3.1に調整し、合成原液8を調製した。非特許文献1から、合成原液8は、分子状態のホウ酸及びイオン状態のホウ酸の総量に対して99モル%以上の分子状態のホウ酸を含んでいると見積もられた。
(3)電気透析実験
合成原液8を電気透析装置の脱塩室に導入して平均電流0.8A、電圧10Vの動作条件で電気透析を行った。なお、濃縮室では、電解液として0.1MのNaClを700ml使用した。
運転を5時間行ったところ、脱塩液中のヨウ化物イオンの85.8%が濃縮液に移動したのに対して、電気透析の間、ホウ酸も時間に比例して濃縮液に移動して濃縮液中のホウ素元素の濃度が増加していき、ホウ酸が30.9%も濃縮室に移動した。運転後、脱塩室及び濃縮室のヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度を測定した。脱塩室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で34.3g/L及びホウ素元素の質量で5.61g/Lであった。濃縮室では、ヨウ化物イオン及びホウ酸の濃度は、それぞれヨウ素元素の質量で168.8g/L及びホウ素元素の質量で1.35g/Lであった。I/B比率を計算すると、合成原液8は3.3であるのに対し、濃縮液では9.2であった。なお、電気透析を行った後の脱塩液のpHは3.6であった。また、濃縮液のpHは、3.9であった。
【0086】
図3は、実施例3について、縦軸に移動割合を取り、横軸に通電時間をとった場合のグラフである。移動割合は、原液に対する、濃縮液におけるヨウ素元素及びホウ素元素のモル比(%)である。また、図4は、比較例2について、縦軸に移動割合を取り、横軸に通電時間をとった場合のグラフである。図3では、200分ごろまでは、濃縮室側へのイオンの移動はヨウ化物イオンが主であり、ホウ酸の移動はほとんど見られない。200分を超え、脱塩室側のヨウ化物イオンの濃度が低下すると、イオン状態のホウ酸が陰イオン交換膜を通過し始め、濃縮室側に流出する。一方、図4では、ヨウ化物イオンとホウ酸との両方が通電時間にほぼ比例して濃縮室側に移動してしまうため、分離精度が低いことがわかる。なお、濃縮室側の水分量の変動、及び測定の誤差により、図3では、200分付近で原液に対する、濃縮液におけるヨウ素元素のモル比(%)が100%をわずかに超えているが、誤差範囲の変動である。
【産業上の利用可能性】
【0087】
偏光フィルムはカメラや液晶ディスプレイに使用され、将来生活にとって欠かすことのできない材料であるため、ますます需要が増大している。その製造工程に使われるヨウ素、ホウ素等の元素は貴重な資源であるため、工程からのヨウ素及びホウ素等を含有する混合廃液中に含まれる元素は可能な限り回収することが好ましい。本発明により、電気透析装置でヨウ素、ホウ素等の元素の高純度化と回収が可能となり、次の工程への負荷が大幅に軽減できる。
【符号の説明】
【0088】
1…電気透析装置、2…原液槽、3…第1の濃縮液槽、4…第2の濃縮液槽、5…第3の濃縮液槽、6…陽イオン交換膜、7…陰イオン交換膜、8…陽極、9…陰極、10…脱塩室、11…濃縮室、12…アルカリ液槽、20…電気透析槽。
図1
図2
図3
図4