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特許7117703研磨ブラシ用線状砥材、および研磨ブラシ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】研磨ブラシ用線状砥材、および研磨ブラシ
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20220805BHJP
   B24D 13/14 20060101ALI20220805BHJP
   B24D 11/00 20060101ALI20220805BHJP
   A46D 9/00 20060101ALI20220805BHJP
   A46D 1/04 20060101ALI20220805BHJP
   A46B 17/08 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550J
B24D13/14 A
B24D11/00 G
A46D9/00
A46D1/04
A46B17/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022502474
(86)(22)【出願日】2021-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2021034351
【審査請求日】2022-01-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】391062595
【氏名又は名称】大明化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597022425
【氏名又は名称】株式会社ジーベックテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(74)【代理人】
【識別番号】100196140
【弁理士】
【氏名又は名称】岩垂 裕司
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 槙一
(72)【発明者】
【氏名】丸山 友紀
(72)【発明者】
【氏名】明石 充央
(72)【発明者】
【氏名】福島 啓輔
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/208566(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012423(WO,A1)
【文献】特開平10-183427(JP,A)
【文献】特開平10-217131(JP,A)
【文献】特開2018-165425(JP,A)
【文献】国際公開第2014/115814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24D 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機長繊維と、
前記無機長繊維に含浸し硬化した樹脂と、を備え、
前記無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備え、
前記無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備え、
前記シリカ成分は、非結晶状態であり、
前記無機長繊維のBET比表面積は、30m/g以下であることを特徴とする研磨ブラシ用線状砥材。
【請求項2】
前記無機長繊維のBET比表面積は、15m/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用線状砥材。
【請求項3】
前記無機長繊維のアルミナ成分が85重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用線状砥材。
【請求項4】
前記樹脂は、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の研磨ブラシ用線状砥材。
【請求項5】
並列に配置された複数本の線状砥材と、
各線状砥材の一方の端部分を保持する砥材ホルダと、を有し、
各線状砥材は、請求項1に記載の研磨ブラシ用線状砥材であることを特徴とする研磨ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機長繊維を備える研磨ブラシ用線状砥材、および複数本の線状砥材からなる砥材束を備える研磨ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
砥石に用いられる砥材は、特許文献1に記載されている。同文献の砥材は、樹脂が含浸した無機長繊維からなる。無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶と、中間アルミナと、を備える。ムライト結晶の平均粒径は、25nm~70nmである。同文献の砥材は、無機長繊維がアルミナ成分を80重量%以上含むので、無機長繊維の硬度が高い。また、ムライト結晶の平均粒径が25nm以上なので、ワークを研磨、研削する研削力が大きい。
【0003】
樹脂が含浸、硬化した無機長繊維からなる線状砥材を備える研磨ブラシは、特許文献2に記載されている。同文献の研磨ブラシは、複数本の線状砥材からなる砥材束と、砥材束の一方の端部分を保持する砥材ホルダと、を有する。同文献の線状砥材は、アルミナ繊維フィラメントの集合体に、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂を含浸、硬化させて線状に形成したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平10-183427号
【文献】国際公開第2014/208566号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1に記載された砥石用の砥材を線状に形成して研磨ブラシ用線状砥材として用いれば、研磨ブラシに十分な研削力を備えることができる。しかし、発明者らが鋭意検討したところ、かかる研磨ブラシには、線状砥材の耐摩耗性に改善の余地があることが判明した。
【0006】
本発明の課題は、このような点に鑑みて、研削力を確保しながら耐摩耗性に優れる研磨ブラシ用線状砥材を提供することにある。また、かかる研磨ブラシ用線状砥材を備える研磨ブラシを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、無機長繊維が、アルミナ成分80~90重量%とシリカ成分20~10重量%とを備え、無機長繊維の結晶構造が中間アルミナとムライトとを備える砥材を線状砥材として研磨ブラシに採用した場合には、その結晶構造におけるムライト結晶の結晶子の存在が線状砥材の耐摩耗性に影響を与えるという知見を得た。すなわち、研磨ブラシによってワークを研磨、研削する際には、研磨ブラシを所定の回転軸回りに回転させて、線状砥材の先端をワークの研磨対象部位に接触させる。従って、ワークの表面に砥材を接触させた状態で研磨を行う砥石とは異なり、線状砥材は、研磨加工時に、ワークの研磨対象部位に断続的に衝突することを繰り返す。また、無機長繊維と樹脂とを備える線状砥材は弾性を備えるので、研磨ブラシの回転によって先端の描く軌道はばらついており、線状砥材は様々な方向から断続的にワークに衝突する。ここで、無機長繊維は、ムライト化が進むと、脆化する。従って、このような多方向からの断続的な衝突に対して、ムライト結晶を有する線状砥材は、脆く崩れやすい。この結果、無機長繊維の結晶構造にムライト結晶を備える線状砥材は摩耗しやすくなる。
【0008】
この一方、本発明者らは、鋭意検討の結果、無機長繊維が、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える砥材を線状砥材として研磨ブラシに採用した場合には、無機長繊維の比表面積が所定の値以下であれば、ムライト結晶がなくても、線状砥材の研削力を確保できるという知見を得た。すなわち、無機長繊維がアルミナ成分を80重量%以上備えれば、線状砥材の硬度を確保できる。また、無機長繊維の比表面積を所定の値以下とすれば、無機長繊維が大気中の水分を吸収して、無機長繊維に含浸した樹脂の硬化を阻害することを防止、或いは抑制できる。さらに、無機長繊維の比表面積を所定の値以下とすれば、無機長繊維に含浸した樹脂に気泡が残留することを抑制できる。従って、気泡により樹脂が不均一な状態で硬化して、線状砥材に凹凸が発生することを回避できる。これらの結果、線状砥材が脆弱になることを抑制できる。従って、線状砥材がワークに接触したときに、無機長繊維が脆く崩れることが抑制され、無機長繊維がワークに食いつく。ここで、研磨ブラシによってワークを研磨、研削する際には、砥石によってワークを研磨する場合と異なり、線状砥材は様々な方向から断続的にワークに衝突する。従って、線状砥材は、所定の研削力を備えることができる。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の研磨ブラシ用線状砥材は、無機長繊維と、前記無機長繊維に含浸し硬化した樹脂と、を備え、前記無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備え、前記無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備え、前記シリカ成分は、非結晶状態であり、前記無機長繊維のBET比表面積は、30m/g以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明の研磨ブラシ用線状砥材では、無機長繊維のシリカ成分は非結晶状態である。従って、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。よって、無機長繊維は、ムライト化によって脆化していない。また、線状砥材では、無機長繊維のBET比表面積は、30m/g以下である。このようなBET比表面積を備える無機長繊維は、細孔や凹凸が少ないので、吸湿が抑制される。従って、無機長繊維が大気中の水分を吸収して、無機長繊維に含浸した樹脂の硬化を阻害することを防止、或いは抑制できる。また、このようなBET比表面積を備える無機長繊維は、細孔や凹凸が少ないので、無機長繊維に含浸した樹脂に残留する気泡に起因して、線状砥材に凹凸が発生することを回避、或いは抑制できる。よって、線状砥材が脆くなることを抑制できる。従って、研磨ブラシ用線状砥材がワークの研磨対象部位に多方向から断続的に衝突したときに、研磨ブラシ用線状砥材が脆く崩れることを防止或いは抑制できる。よって、研磨ブラシ用線状砥材の耐摩耗性が向上する。
【0011】
この一方、無機長繊維は、アルミナ成分を80重量%以上備えるので、その硬度を確保することが容易である。また、30m/g以下のBET比表面積を備える無機長繊維では、吸湿により樹脂の硬化が阻害されて線状砥材が脆くなることを抑制できる。さらに、BET比表面積が小さければ、無機長繊維に含浸した樹脂の気泡に起因して線状砥材に凹凸が発生して、線状砥材が脆弱になることを抑制できる。従って、線状砥材がワークに衝突したときに、無機長繊維が脆く崩れることが抑制され、無機長繊維がワークに食いつく。これに加えて、研磨ブラシ用線状砥材は、ワークを研磨する際に、ワークの研磨対象部位に多方向から断続的に衝突する。従って、研磨ブラシ用線状砥材は、その結晶構造にムライト結晶を備えていなくても、その研削力を確保できる。
【0012】
本発明において、前記無機長繊維のBET比表面積は、15m/g以下であることが望ましい。このようにすれば、BET比表面積が15m/gよりも大きい場合と比較して、線状砥材の研削力が向上する。また、このようにすれば、BET比表面積が15m/gよりも大きい場合と比較して、耐摩耗性が向上する。
【0013】
本発明において、前記無機長繊維のアルミナ成分が85重量%以上であることが望ましい。このようにすれば、無機長繊維の硬度をより高くすることが容易である。従って、研磨ブラシ用線状砥材の研削力を確保することが容易となる。
【0014】
本発明において、前記樹脂は、エポキシ樹脂とすることができる。
【0015】
次に、本発明の研磨ブラシは、並列に配置された複数本の線状砥材と、各線状砥材の一方の端部分を保持する砥材ホルダと、を有し、各線状砥材は、上記の研磨ブラシ用線状砥材であることを特徴とする。
【0016】
本発明の研磨ブラシは、研削力を確保しながら、線状砥材の摩耗を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】研磨ブラシの斜視図である。
図2】研磨ブラシ用線状砥材の製造方法のフローチャートである。
図3】実施例1の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。
図4】比較例2の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。
図5】研削力および耐摩耗性の測定方法の説明図である。
図6】研磨ブラシの毛丈と側面ダレ量の関係を示すグラフである。
図7】研磨ブラシの毛丈と摩耗量の関係を示すグラフである。
図8】実施例1、2および比較例1の線状砥材の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態である研磨ブラシを説明する。
【0019】
(研磨ブラシ)
図1は、研磨ブラシの斜視図である。図1に示すように、研磨ブラシ1は、複数の砥材束2と、各砥材束2の一方の端部分を保持する砥材ホルダ3と、有する。砥材ホルダ3は、円形の胴部4と、胴部4から同軸に延びる軸部5と、を備える。軸部5は、研磨ブラシ1を工作機械などに装着するための装着部である。胴部4の軸部5とは反対側に位置する前端面は、砥材保持面6である。砥材保持面6には、複数の砥材保持穴7が設けられている。本例では、砥材保持穴7は、砥材ホルダ3の軸線回りに等角度間隔で、7つ、設けられている。
【0020】
各砥材束2は、並列に配置された複数本の線状砥材10(研磨ブラシ用線状砥材)からなる。各線状砥材10は、一方の端部分が砥材保持穴7に挿入され、接着剤により、砥材ホルダ3に固定される。図1に示す例では、線状砥材10の断面は円形である。線状砥材10の断面は、円形に限られるものではなく、多角形の場合がある。
【0021】
線状砥材10は、無機長繊維と、無機長繊維に含浸し硬化した樹脂と、を備える。無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える。
【0022】
研磨ブラシ1は、工作機械のヘッドに装着されて、ワークの研磨、研削に用いられる。ワークの加工に際して、研磨ブラシ1は、軸線L回りに回転させられる。従って、研磨ブラシ1は、回転研磨ブラシということができる。
【0023】
なお、砥材ホルダ3は、その中央に一つの円形の砥材保持穴7を備える場合がある。この場合、研磨ブラシ1は、研磨ホルダの中央に、一つの砥材束2を備える。また、砥材ホルダ3は、軸線L回りに環状の砥材保持穴7を備える場合がある。この場合、研磨ブラシ1は、軸線L回りに環状に配列された複数本の線状砥材10からなる環状の一つの砥材束2を備える。
【0024】
(線状砥材の製造方法)
図2は、線状砥材10の製造方法のフローチャートである。図2に示すように、線状砥材10の製造方法は、紡糸工程ST1、仮焼工程ST2、焼結工程ST3、樹脂含浸工程ST4、および成形工程ST5をこの順に備える。紡糸工程ST1では、塩基性塩化アルミニウムとコロイダルシリカとポリビニルアルコールから成る水性の紡糸原液を乾式紡糸して前駆体繊維を得る。仮焼工程ST2では、前駆体繊維を900℃以上、1300℃以下で焼成してセラミックス化して、無機長繊維を得る。焼結工程ST3では、無機長繊維を1300℃以上の高温で、20秒前後、加熱する。焼結工程ST3における加熱温度は仮焼工程ST2における加熱温度よりも高い。
【0025】
樹脂含浸工程ST4は、無機長繊維を適宜に引き揃えて集合糸とする。また、樹脂含浸工程ST4では、集合糸を、エポキシ樹脂、または、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に含浸し、樹脂を硬化させる。成形工程ST5では、樹脂が含浸、硬化した集合糸を所定の長さに切り揃える。これにより、線状砥材10を得る。ここで、樹脂が含浸した集合糸を、所定形状の開口を備えるダイスを通過するように引き出した後に硬化させれば、線状砥材10の断面形状を、ダイスの開口形状に対応する形状とすることができる。
【0026】
以下に製造方法の具体的な一例を示す。まず、紡糸工程ST1では、アルミニウムイオン13.2重量%、塩素イオン11.45重量%含有する塩基性塩化アルミニウムの水溶液を34kg、二酸化ケイ素を20重量%含有するコロイダルシリカ7.5kgに、平均重合度1700の部分ケン化ポリビニルアルコール2.5kgを溶解して、粘度が約1000ポイズ/20℃の紡糸原液を調製する。次に、紡糸原液を1000ホールの紡糸ノズルから押し出して乾式紡糸する。仮焼工程ST2では、紡糸した無機長繊維を900℃~1300℃で焼成しセラッミック化して、集合糸を得る。その後、焼結工程ST3では、この集合糸を1300℃~1400℃のパイプ炉に通し、張力を付した状態で第1のボビンに連続的に巻き取る。この時、加熱時間が20秒となるように集合糸の通過速度を調節する。
【0027】
樹脂含浸工程ST4では、第1のボビンから集合糸を繰り出して、未硬化の樹脂が貯留された樹脂槽、および、加熱炉を経由させて、第2のボビンに巻き取る。こで、樹脂槽を経由することにより樹脂が含浸した集合糸を、加熱炉に至る前に、所定形状の開口を備えるダイスを経由させることにより、線状砥材10の断面形状をダイスの開口形状に対応する形状とすることができる。なお、集合糸に含浸させる樹脂は、以下の組成を有するものとすることができる。
エポキシ樹脂(jER828 三菱ケミカル社製) 60重量部
エポキシ樹脂(jER1001 三菱ケミカル社製) 40重量部
三弗化ホウ素モノエチルアミン 2.5重量部
メチルエチルケトン 35重量部
【0028】
成形工程ST5では、第2のボビンから樹脂が含浸、硬化した集合糸を繰り出して、所定寸法に切断する。なお、成形工程ST5では、樹脂が含浸、硬化した集合糸を、第2のボビンに巻きとらずに切断して、所定寸法とする場合もある。
【0029】
(実施例1)
実施例1の線状砥材10Aは、無機長繊維と、無機長繊維に含浸する樹脂と、を備える。無機長繊維は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備える。シリカ成分は、非結晶状態である。すなわち、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。無機長繊維のBET比表面積は、15m/g以下である。本例では、無機長繊維のBET比表面積は、12.5m/gである。
【0030】
実施例1の線状砥材10Aの製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1350℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、20秒である。
【0031】
BET比表面積は、気体吸着法(BET法)により求めた比表面積である。BET比表面積は、焼結工程ST3の終了後、樹脂含浸工程ST4の前に測定している。
【0032】
ここで無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有さないことは、X線回折を用いて評価した。具体的には、実施例1において、焼結工程ST3の終了後、樹脂含浸工程ST4の前に、無機長繊維にX線を照射して、回折チャートを取得した。そして、回折チャートにおいて、2θが26°の近傍に、ムライトの(210)面の回折線のピークが現れていないことを確認した。図3は、実施例1の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。図3の回折チャートでは、2θが26°の近傍にピークはない。
【0033】
(実施例2)
実施例2の線状砥材10Bでは、無機長繊維は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備える。シリカ成分は、非結晶状態である。すなわち、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。シリカ成分は、非結晶状態である。無機長繊維のBET比表面積は、15m/gよりも大きく、30m/g以下である。本例では、無機長繊維のBET比表面積は、28.7m/gである。
【0034】
実施例2の線状砥材10Bの製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1330℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、20秒である。
【0035】
また、図示は省略するが、実施例2の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートでは、2θが26°の近傍に、ピークはない。
【0036】
ここで、実施例1の焼結工程ST3の加熱温度は、実施例2の焼結工程ST3の加熱温度と比較して、高い。これにより、実施例1の線状砥材10Aにおける無機長繊維のBET比表面積は、実施例2の線状砥材10Bにおける無機長繊維のBET比表面積の半分以下となっている。言い換えれば、線状砥材10の製造時における焼結工程ST3の加熱温度および加熱時間を制御することにより、無機長繊維のBET比表面積を制御することができる。
【0037】
なお、実施例1の線状砥材10Aにおける無機長繊維の結晶構造は、焼結によって結晶構造にムライト結晶が現れる直前の状態である。
【0038】
(比較例1)
比較例1の線状砥材10Cでは、無機長繊維は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備える。シリカ成分は、非結晶状態である。すなわち、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。無機長繊維のBET比表面積は、30m/gよりも大きい。本例では、無機長繊維のBET比表面積は、51.0m/gである。
【0039】
比較例1の線状砥材10Cの製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1310℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、20秒である。
【0040】
比較例1の焼結工程ST3の加熱温度は、実施例1、2の焼結工程ST3の加熱温度よりも低い。この結果、比較例1の無機長繊維のBET比表面積は、実施例1、2の無機長繊維のBET比表面積よりも大きくなっている。なお、無機長繊維のBET比表面積は、焼結工程ST3の加熱温度および加熱時間を調節することにより、制御できる。
【0041】
ここで、図示は省略するが、比較例1の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートでは、2θが26°の近傍に、ピークは現れない。
【0042】
(比較例2)
比較例2の線状砥材10は、無機長繊維と、無機長繊維に含浸する樹脂と、を備える。無機長繊維は、アルミナ成分85重量%と、シリカ成分15重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶と、中間アルミナと、備える。ムライト結晶の結晶粒子の平均粒径は、30nm以上である。無機長繊維のBET比表面積は、0.5m/gである。
【0043】
比較例2の線状砥材10の製造時において、仮焼工程ST2の加熱温度は1000℃である。焼結工程ST3の加熱温度は1390℃である。焼結工程ST3における加熱時間は、30秒である。
【0044】
比較例2の焼結工程ST3の加熱温度は、実施例1、2の焼結工程ST3の加熱温度よりも高い。また、比較例2の焼結工程ST3の加熱時間は、実施例1、2の焼結工程ST3の加熱時間よりも長い。これにより、比較例2の線状砥材10は、結晶構造にムライト結晶を備える。言い換えれば、線状砥材10の製造時における焼結工程ST3の加熱温度および加熱時間を制御することにより、無機長繊維の結晶構造におけるムライト結晶の有無を制御できる。
【0045】
ここで、無機長繊維の結晶構造がムライト結晶を有することは、X線回折を用いて評価した。すなわち、比較例2において、焼結工程ST3の終了後、樹脂含浸工程ST4の前に、無機長繊維にX線を照射して、回折チャートを取得した。そして、回折チャートにおいて、2θが26°の近傍に、ムライトの(210)面の回折線のピークが現れていることを確認した。図4は、比較例2の無機長繊維にX線を照射して取得した回折チャートである。図4に示す回折チャートには、2θが26°の近傍に、ピークが現れる。
【0046】
また、無機長繊維の結晶構造におけるムライト結晶の平均粒径は、上記の回折チャートに基づいて、以下の一般式により算出した。
【0047】
【数1】
hkl:(210)面の平均粒径
λ:X線の波長
θ:X線の視斜角
β1/2:X線回折による結晶構造2θが26°付近に現れるムライトの(210)面の回折線の半値幅
【0048】
(研削力および耐摩耗性)
図5は、研削力および耐摩耗性の測定方法の説明図である。図5に示すように、研削力および耐摩耗性の測定では、図1の研磨ブラシ1にスリーブ8を装着した状態として、ワークWに乾式の研磨加工を施した。ワークWの材質は、S50C(機械構造用炭素鋼)である。ワークWの研磨対象部位は、直角に折れ曲がるワークWの縁部分である。研磨加工では、工作機械に研磨ブラシ1を装着し、研磨ブラシ1を軸線L回りに回転させながら研磨対象部位に沿って10往復移動させた。加工長は100mmである。また、研磨加工では、往路と、復路とにおいて、研磨ブラシ1の回転方向を逆転させた。
【0049】
また、加工終了後に、研磨対象部位におけるエッジEの側面ダレ量と、線状砥材10の摩耗量を測定した。ここで、直角に折れ曲がるワークWの縁部分を研磨対象部位として研磨加工を施したときに、縁部分のエッジEが面取りされる量をダレ量という。側面ダレ量とは、研磨加工によりワークWの縁部分のエッジEが削られたときに、ワークWの上面Sから高さ方向Hに削られた量である。
【0050】
測定に用いた研磨ブラシ1の直径(砥材ホルダ3の直径)は25mmである。線状砥材10の毛丈は、75mm、50mm、または30mmの3種類とした。ここで、砥材の毛丈とは、砥材ホルダ3の砥材保持面6から線状砥材10の先端までの長さ寸法である。各毛丈の線状砥材10において、スリーブ8から前方に露出させた線材突き出し量は、15mmとした。研磨ブラシ1をワークWに載せるブラシ載せ率は50%である。ブラシ載せ率が50%の状態では、研磨ブラシ1は、その半分をワークWの上面Sに載せ、残りの半分をエッジEよりも外側に位置させる。ワークWに対する研磨ブラシ1の切込量は、1.0mmである。研磨加工時における研磨ブラシ1の回転速度は、4000回/分である。研磨加工時における研磨ブラシ1の送り速度は2500mm/分である。
【0051】
研削力は、研磨加工後のワークWのエッジEの側面ダレ量に基づいて評価した。側面ダレ量が大きい程、研削力が大きいことを示す。耐摩耗性は、研磨加工後のブラシ線材の摩耗長さに基づいて評価した。研磨加工後のブラシ線材の摩耗長さが短い程、耐摩耗性が高いことを示す。表1は、実施例1、2の線状砥材を採用した場合の側面ダレ量、および比較例1、2の線状砥材を採用した場合の側面ダレ量である。表2は、実施例1、2の線状砥材の摩耗量および比較例1、2の線状砥材の摩耗量である。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
図6は、線状砥材10の毛丈と側面ダレ量との関係を示すグラフである。図6は、表1の値をグラフにしている。図7は、線状砥材10の毛丈と摩耗量の関係を示すグラフである。図7は、表2の値をグラフにしている。ここで、毛丈が短くなると、線状砥材10の研削力が上がり、摩耗量が増加する。これは、毛丈が短くなると、線状砥材10の剛性が上がり、線状砥材10がワークWに食いつきやすくなるからである。
【0055】
表1、図6に示すように、側面ダレ量は、実施例1、2の線状砥材10A、10Bを採用した研磨ブラシ1と、比較例2の線状砥材10を採用した研磨ブラシ1との間に、0.006mmよりも小さい差しかない。従って、実施例1、2の線状砥材10A、10Bを採用した研磨ブラシ1と、比較例2の線状砥材10を採用した研磨ブラシ1の研削力の差はごく僅かである。よって、実施例1、2の線状砥材10A、10Bを採用した研磨ブラシ1は、無機長繊維のシリカ成分が非結晶状態でも、無機長繊維の結晶構造に25nm以上のムライト結晶を備える研磨ブラシ1と同等程度の研削力を確保できる。また、表1、図6に示す程度の研削力の差であれば、実施例1、2の線状砥材10A、10Bを採用した研磨ブラシ1において研磨加工時の回転数を上昇させれば、比較例2の線状砥材10を採用した研磨ブラシ1と同等の研削力を得ることが可能である。
【0056】
ここで、無機長繊維のBET比表面積が15m/g以下である実施例1の線状砥材10Aを用いた研磨ブラシ1は、BET比表面積が15m/gを超える実施例2の線状砥材10Bを用いた研磨ブラシ1よりも研削力が向上している。また、無機長繊維のBET比表面積が15m/g以下である実施例1の線状砥材10Aを用いた研磨ブラシ1は、BET比表面積が15m/gを超える実施例2の線状砥材10Bを用いた研磨ブラシ1よりも耐摩耗性が向上している。
【0057】
なお、無機長繊維のBET比表面積が51m/gである比較例1の線状砥材10Cを採用した研磨ブラシ1では、無機長繊維がアルミナ成分80重量%を備えていても、十分な研削力を有することができない。
【0058】
表2、図7に示すように、線状砥材10の摩耗量は、実施例1、2の線状砥材10A、10Bを採用した研磨ブラシ1の方が、比較例1の線状砥材10C、比較例2の線状砥材10を採用した研磨ブラシ1のよりも、明らかに、少ない。よって、実施例1、2の線状砥材10A、10Bを採用した研磨ブラシ1の耐摩耗性は、比較例1、2の線状砥材10C、10を採用した研磨ブラシ1よりも高い。
【0059】
(作用効果)
本例の線状砥材10A、10Bでは、無機長繊維のシリカ成分は非結晶状態である。従って、無機長繊維の結晶構造は、ムライト結晶を有さない。よって、無機長繊維は、ムライト化によって脆化していない。
【0060】
また、本例の線状砥材10A、10Bでは、無機長繊維のBET比表面積は、30m/g以下である。このようなBET比表面積を備える無機長繊維は、細孔や凹凸が少ないので、吸湿が抑制される。従って、無機長繊維が大気中の水分を吸収して、無機長繊維に含浸した樹脂の硬化を阻害することを防止、或いは抑制できる。
【0061】
さらに、このようなBET比表面積を備える無機長繊維は、細孔や凹凸が少ないので、無機長繊維に含浸した樹脂に気泡が残留することを抑制できる。従って、気泡によって樹脂が不均一な状態で硬化して、線状砥材10に凹凸が発生することを回避できる。よって、線状砥材10が脆弱になることを抑制できる。
【0062】
図8は、実施例1の線状砥材10A、実施例2の線状砥材10B、および比較例1の線状砥材10Cの側面写真である。図8に示すように、BET比表面積が大きい無機長繊維を備える比較例1の線状砥材10Cでは、樹脂に残留した気泡に起因して、その表面に凹凸が発生する。これに対して、無機長繊維のBET比表面積が30m/g以下と小さい実施例1の線状砥材10A、実施例2の線状砥材10Bでは、それらの表面に凹凸が発生することが抑制される。これにより、線状砥材10A、10Bが脆弱になることが抑制されるので、線状砥材10A、10BがワークWの研磨対象部位に多方向から断続的に衝突したときに、線状砥材10A、10Bが脆く崩れることを防止或いは抑制できる。よって、線状砥材10A、10Bの耐摩耗性は向上する。
【0063】
この一方、本例の線状砥材10A、10Bでは、無機長繊維がアルミナ成分を80重量%以上備える。従って、無機長繊維の硬度を確保することが容易である。また、上述のとおり、30m/g以下のBET比表面積を備える無機長繊維では、吸湿によって樹脂の硬化が阻害されて線状砥材10A、10Bが脆くなることが抑制される。さらに、30m/g以下のBET比表面積を備える無機長繊維を有する線状砥材10A、10Bでは表面に凹凸が発生することが抑制されるので、線状砥材10A、10Bが脆弱になることが抑制される。これに加えて、線状砥材10A、10Bは、ワークWの上面Sに砥材を接触させた状態で研磨を行う砥石とは異なり、ワークWを研磨する際に、ワークWの研磨対象部位に多方向から断続的に衝突する。従って、線状砥材10A、10Bは、その結晶構造にムライト結晶を備えていなくても、その研削力を確保できる。
【0064】
ここで、無機長繊維のBET比表面積が15m/g以下である実施例1の線状砥材10Aでは、実施例2の線状砥材10Bよりも、表面に凹凸が発生することが抑制されている。これにより、線状砥材10Aが脆弱になることが、より、抑制される。従って、実施例1の線状砥材10Aの方が、実施例2の線状砥材10Bよりも、研削力が大きく、かつ、耐摩耗性が高い。
【0065】
また、実施例1の線状砥材10A、および実施例2の線状砥材10Bのように、無機長繊維がアルミナ成分を85重量%以上備える場合には、アルミナ成分が85重量%よりも低い場合と比較して、無機長繊維の硬度を上昇させることができる。従って、研磨ブラシ1の研磨力を確保することが容易となる。
【要約】
線状砥材(10A、10B)は研磨ブラシ用の砥材として用いられる。線状砥材(10A、10B)は、無機長繊維と、前記無機長繊維に含浸し硬化した樹脂と、を備える。無機長繊維は、アルミナ成分80~90重量%と、シリカ成分20~10重量%と、を備える。無機長繊維の結晶構造は、中間アルミナを備え、シリカ成分は、非結晶状態である。無機長繊維のBET比表面積は、30m/g以下である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8