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特許7117709ポリエステル樹脂および塗料用樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂および塗料用樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 167/02 20060101AFI20220805BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C09D167/02
C08G63/16
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017239637
(22)【出願日】2017-12-14
(65)【公開番号】P2019104875
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】天満 悠太
(72)【発明者】
【氏名】浅井 文雄
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-145276(JP,A)
【文献】特開2002-332332(JP,A)
【文献】特開2004-346131(JP,A)
【文献】特開2018-021098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
C09D
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂と、フェノール樹脂を、質量比(ポリエステル樹脂/フェノール樹脂)80/20~95/5の割合で含有する塗料用樹脂組成物であって、
ポリエステル樹脂はグリコール成分の60モル%以上が2-メチル-1,3-プロパンジオールであるもののみからなり、酸価が20mgKOH/g以上、ガラス転移温度が40℃以上であることを特徴とする塗料用樹脂組成物
【請求項2】
フェノール樹脂がレゾール型である、請求項1記載の塗料用樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品や飲料用金属缶の内面に塗膜を形成することができるポリエステル樹脂に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品や飲料用の金属缶の内面に用いられる塗料は、内容物の風味やフレーバーを損なわないこと、および多種多様の食物による缶材質の腐食を防止することを目的として使用されるものであり、まず毒性のないこと、加熱殺菌(レトルト)処理に耐えること、加工性、接着性に優れること等が要求される。また特に近年では、外因子内分泌かく乱物質(以下、環境ホルモン)を含むビスフェノール型エポキシ樹脂等の物質の使用が避けられつつある。
【0003】
現在、缶塗料用樹脂として、エポキシ-フェノール系樹脂が現在多く使用されているが、以下の問題を抱えている。
エポキシ-フェノール系樹脂は焼付け温度が高く、焼付け時に発泡等の外観不良を起こし易い。また、先に述べたようにエポキシ樹脂中に含まれるビスフェノールAが環境ホルモンの疑いがあることから、これに代わる缶内面用塗料の開発が望まれている。
【0004】
一方、特許文献1や特許文献2には、塗装や焼付けが容易で、金属密着性に優れた樹脂として、ポリエステル系樹脂が提案されている。しかし、近年では食料缶や飲料缶の形態が複雑なものとなり、そのような複雑な加工処理に対しては金属密着性が不足しているために加工性に劣り、さらには沸水または蒸気による加熱処理時における耐レトルト性に劣るものである。そして、これらの問題を解決する方法として特許文献3や特許文献4には、プロピレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオールを1種以上含有するポリエステルが提案されているが、金属密着性、耐レトルト性等の塗膜性能と汎用の有機溶剤に対する溶解性の全てを満足することはできなかった。
【文献】特公昭60-42829号
【文献】特公昭61-36548号
【文献】特開2001-106969号
【文献】特開2001-311040号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点を解決し、汎用の有機溶剤に対する溶解性が良好で、かつ金属密着性に優れ、耐レトルト性に優れ、特に食品、飲料缶に適した塗膜を与えるポリエステル樹脂及び塗料用樹脂組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した問題を解決するために、鋭意検討を行った結果、特定の組成を満足し、かつ、一定以上の酸価を有することにより、汎用の有機溶剤に対する溶解性が良好で、高い金属密着性、耐レトルト性、耐食性を示すポリエステル樹脂を得ることができることを見出し、本発明に達した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(3)を要旨とするものである。
(1)ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂であって、グリコール成分の60モル%以上が2-メチル-1,3-プロパンジオールであり、酸価が20mgKOH/g以上、ガラス転移温度が40℃以上であることを特徴とするポリエステル樹脂。
(2)(1)記載のポリエステル樹脂とフェノール樹脂を、質量比(ポリエステル樹脂/フェノール樹脂)70/30~95/5の割合で含有してなることを特徴とする塗料用樹脂組成物。
(3)フェノール樹脂がレゾール型である、(2)記載のポリエステル樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリエステル樹脂は、汎用の有機溶剤への溶解性に優れるとともに、金属密着性、耐レトルト性及び耐食性に優れた塗膜を得ることができ、特に食品、飲料缶の内面塗料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分とグリコール成分からなるポリエステル樹脂である。そして、グリコール成分は、60モル%以上が2-メチル-1,3-プロパンジオールであることが必要であり、中でも65モル%以上であることが好ましい。
【0010】
金属への密着性を向上するためには、分子量を高くすることが好ましく、また、耐レトルト性、耐ブロッキング性を向上するには、ガラス転移温度が高い方がよい。更に溶剤溶解性を付与するためには、側鎖を有するモノマーを共重合することが好ましい。これらを考慮し、本発明においては、2-メチル-1,3-プロパンジオールを主体とするポリエステルとするものである。さらに、2-メチル-1,3-プロパンジオールを主体とするポリエステルでは、ガラス転移温度が低下するため、耐レトルト性が劣るものとなる。そこで、2-メチル-1,3-プロパンジオールを主体とするポリエステルにおいて、酸価を上げることで耐レトルト性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
グリコール成分のうち、2-メチル-1,3-プロパンジオールが60モル%未満では、得られるポリエステル樹脂の溶剤溶解性が低下するとともに、塗膜としたときの金属への密着性が低下する。
【0012】
また、ポリエステル樹脂のガラス転移温度は40℃以上であることが必要であり、中でも50℃以上であることが好ましい。ガラス転移温度が40℃未満であると、耐レトルト性や耐食性が低下する。また、缶内面塗料として用いる場合、フレーバー性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0013】
ポリエステル樹脂の酸価は20mgKOH/g以上であることが必要であり、中でも25mgKOH/g以上であることが好ましい。ポリエステル樹脂の酸価が20mgKOH/g未満の場合には、レトルト処理後の塗膜が白化し、金属への密着性、耐レトルト性、耐食性に劣るものとなる。
【0014】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分のうち、2-メチル-1,3-プロパンジオール以外のものとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、2-エチル-2-ブチルプロパンジオール、3-メチル1,5-ペンタンジオール、3-エチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,6-ヘキサンジオール、4-メチル-1,7-ヘプタンジオール、4-メチル-1,8-オクタンジオール、4-プロピル-1,8-オクタンジオール等が挙げられ、中でもエチレングリコールが好ましい。
【0015】
本発明において、ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、水添ダイマー酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、非水添ダイマー酸、トリメリット酸等が挙げられる。中でもテレフタル酸が好ましい。
【0016】
本発明のポリエステル樹脂を製造する方法は、特に制限されるものではなく、上記したジカルボン酸成分とグリコール成分とを用い、直接エステル化やエステル交換法等の溶融重縮合による従来の製造方法によって製造することができる。
【0017】
例えば、ジカルボン酸成分、グリコール成分及び重縮合触媒を一括して反応器に仕込み、系内の空気を排出し、窒素置換する。その後、温度を通常200~260℃になるまで昇温し、撹拌しながら3~4時間エステル化反応を行う。エステル化反応終了後、温度を通常220~260℃まで昇温し、さらに系内を減圧にし、さらに真空下(5hPa以下)で重縮合反応を行う。反応時間は製造するポリエステル樹脂の種類によって異なるが、通常4~6時間である。重縮合反応終了後、系内に窒素を封入し、減圧を解除した後、得られた樹脂を払出す方式が挙げられる。
【0018】
重縮合触媒としては、スズ、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、コバルト等の金属化合物が好適である。
【0019】
この際、樹脂に酸価を付与する方法としては、重縮合後期に多価カルボン酸無水物を付加する解重合方法、プレポリマーの段階でこれを高酸価とし、次いで重縮合反応を行い、高酸価の樹脂を得る方法、別に得られた高酸価の樹脂と混合する方法などがあるが、操作の容易さから解重合方法を採用することが好ましい。
【0020】
このような解重合方法での酸付加に用いられる多価カルボン酸無水物としては、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、無水コハク酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ヘキサヒドロフタル酸などが挙げられる。好ましくは無水トリメリット酸である。
【0021】
ポリエステル樹脂の極限粘度は0.20以上であることが好ましく、中でも好ましくは0.22以上である。極限粘度が0.20未満である場合には、得られる塗膜が脆くなり、金属への密着性に劣るものとなるため好ましくない。
【0022】
次に、本発明の塗料用樹脂組成物について説明する。本発明の塗料用樹脂組成物は、本発明のポリエステル樹脂とフェノール樹脂とを含むものであり、ポリエステル樹脂とフェノール樹脂は、質量比(ポリエステル樹脂/フェノール樹脂)70/30~95/5の割合で含まれることが好ましく、中でも、80/20~90/10であることが好ましい。フェノール樹脂の割合が上記範囲よりも少ない場合は、得られる塗料用樹脂組成物の耐レトルト性や耐食性が低下する。一方、フェノール樹脂の割合が上記範囲よりも多い場合は、得られる塗料用樹脂組成物は金属への密着性に劣るものとなる。
【0023】
フェノール樹脂には、ノボラック型とレゾール型があるが、本発明の塗料用樹脂組成物で用いるフェノール樹脂としては、レゾール型のものを使用することが好ましい。レゾール型のフェノール樹脂の具体例としては、アイカSDKフェノール社製のショウノールを用いることができる。
【0024】
本発明の塗料用樹脂組成物は、有機溶剤に溶解して使用することが好ましく、使用できる有機溶剤としては、ポリエステル樹脂とフェノール樹脂をともに溶解するものであればよい。
【0025】
使用可能な有機溶剤を具体的に例示すると、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系の溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,2,2-テトラクロロエタン、クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等の塩素系の溶剤、酢酸エチル、γ-ブチロラクトン等のエステル系の溶剤、イソホロン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系の溶剤、ジエチルエーテル、ブチルセルソルブ、エチルセルソルブ、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル系の溶剤、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系の溶剤、ブタン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、ソルベッソ100、ソルベッソ150等の脂肪族炭化水素系の溶剤等が挙げられる。
これらは単独で使用することもできるが複数種以上を混合して使用することもできる。この中で好適に用いられるものとして、シクロヘキサノンやシクロヘキサノンとソルベッソ100の混合溶剤、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶剤、酢酸エチル等が挙げられる。
【0026】
また、本発明の塗料用樹脂組成物中には、本発明の特性を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂とフェノール樹脂以外の樹脂を含有していてもよく、例えばアルキド樹脂、ウレタン樹脂、ビスフェノール構造を有しないエポキシ樹脂、アクリル樹脂変性オレフィン樹脂、セルロース誘導体等を併用することができる。更に必要に応じて、硬化反応を促進させる反応触媒、ハジキ防止剤、レベリング剤、消泡剤、ワキ防止剤、レオロジーコントロール剤、顔料分散剤、滑剤、離型剤等を併用することができる。
【0027】
本発明の塗料用樹脂組成物中におけるポリエステル樹脂の固形分濃度は、10質量%以上であることが好ましく、15~50質量%の範囲とすることがより好ましい。固形分濃度が10質量%未満である場合には、分厚い塗膜を形成することが困難になるばかりでなく、塗料中の有機溶剤の比率が高くなり、塗膜を形成する際の溶剤留去に時間を要し、生産性が低下するといった問題が生じる。
【0028】
本発明の塗料用樹脂組成物は、ディップコート法、はけ塗り法、ロールコート法、スプレーコート法、グラビアコート法、カーテンフローコート法、各種印刷法等により、金属板に均一に塗布される。
【0029】
次に、本発明の塗料用樹脂組成物を塗布する金属板について説明する。
【0030】
塗布用機材である金属板としては、シート状又は帯状の鋼板、アルミニウム板、あるいはそれらの表面に種々のメッキ処理や化成処理を施したものが挙げられる。
【0031】
そして、塗料用樹脂組成物を金属板上に塗布後、焼き付けることで金属表面にコート層を形成することができる。塗膜の厚みは0.2~100μmとすることが好ましく、1~20μmとするのがより好ましい。0.2μm未満の厚みでは、缶成形工程で塗膜が破損(剥離、亀裂)し、耐食性、フレーバー性の劣った缶しか得られない。一方、100μmを超える厚みでは、塗料に用いられる有機溶剤が残留する恐れがあったり、有機溶剤を完全に除去できたとしても、溶剤留去工程に時間がかかったりするなど生産性が低下する問題が生じる。
【0032】
焼付工程は、温度180~250℃で5~60分の範囲で行うことが好ましく、7~20分の範囲で行うことがより好ましい。温度が180℃未満で焼付けた場合には、有機溶剤の除去が不完全になり、硬化反応が十分に進行しないため、耐食性の劣った缶しか得られない。一方、温度250℃を超える温度で焼付けた場合には、硬化剤との反応は十分に進行するが、ポリエステル樹脂が熱分解することがある。また、焼付時間が7分未満である場合には、有機溶剤の除去が不完全になり、硬化反応が十分に進行せず、耐食性の劣った缶しか得られない。一方、焼付時間が60分を超える場合には生産性が低下する。
【0033】
このようにして得られた樹脂被膜が形成された金属板を用いることにより、耐熱性に優れ、レトルト処理のような高温処理が可能で、過酷な加工処理を施してもピンホールやミクロクラック等の欠陥が生じることが無く、しかも耐食性や耐衝撃性に優れた金属缶体を製造することができる。
【0034】
上記のようにして得られた塗膜を有する金属板は2ピース缶の缶胴や上蓋、3ピース缶の缶胴や底蓋材等加工性が必要な部材として用いることができる。
【実施例
【0035】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
各測定、評価項目は下記の方法で実施した。
(1)ポリエステル樹脂組成の測定
得られたポリエステル樹脂を重水素化トリフロロ酢酸と重水素化クロロホルムを容積比11:1の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製JNM-ECZ-400R型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各成分のプロトンのピークの積分強度から、共重合量を求め組成を決定した。
(2)ポリエステル樹脂の極限粘度([η])の測定
得られたポリエステル樹脂をフェノールと四塩化エタンとの等重量混合物を溶媒として、温度20℃で測定した。
(3)ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)の測定
得られたポリエステル樹脂を、示差走査熱量測定装置(パーキンエルマー社製、DSC7)を用い、昇温速度20℃/minで測定して求めた。
(4)ポリエステル樹脂の酸価の測定
得られたポリエステル樹脂0.5gを秤量し、25mlの1,4-ジオキサンに完全に溶解し、指示薬としてクレゾールレッドを数滴添加した。得られた溶液を濃度0.1mol/lのKOHメタノール溶液で滴定した。中和に消費されたKOHのmg数を樹脂1gあたりの量に換算した値を酸価として求めた。
【0036】
(5)溶剤溶解性
得られたポリエステル樹脂をシクロヘキサノンに溶解し、30質量%とした後、25℃で1週間放置した後の溶解安定性を溶解性として評価した。
○:良好、×:白濁、固化あるいは不溶
(6)金属密着性
得られた塗装金属板をJIS K5400-8.5(付着性-碁盤目試験)に基づき試験を実施した。
○:剥がれ無し、×:剥がれ有り
(7)耐レトルト性
得られた塗装金属板を蒸留水に浸漬し、レトルト処理機にて、125℃、30分間処理した後、塗膜の色相L値を測定した。
○:L値<50、×:L値≧50
(8)耐食性
得られた塗装金属板を用い、塗膜の素地に達するようにクロスカットを入れたのちに、その金属板を3週間35℃、5%NaCL水溶液にて塩水噴霧処理を行った。試験後の金属板について目視にて下記の基準に基づき評価を実施した。
○:カット部から錆幅が片側2mm未満
△:カット部から錆幅が片側2mm以上で5mm未満
×:カット部から錆幅が片側5mm以上
【0037】
実施例1
(ポリエステル樹脂の作製)
テレフタル酸87.2重量部、エチレングリコール44.0重量部をエステル化反応器に仕込み、常法により、エステル化反応を行った。得られたポリエステルオリゴマーを重合反応器に移送し、2-メチル-1,3-プロパンジオールを96.6重量部、テトラブチルチタネートを0.1重量部投入した後、反応系内を60分かけて0.4hPaとなるまで徐々に減圧し、その後、温度260℃で4時間の重縮合反応を行なった。重縮合反応終了後、無水トリメリット酸を9.0重量部添加し、260℃で2時間解重合反応を行ったのち、ポリエステル樹脂を得た。
(塗料用樹脂組成物の作製)
得られたポリエステル樹脂をシクロヘキサノンに溶解し、固形分濃度が30質量%の溶液を調製した。硬化剤としてフェノール樹脂(アイカSDKフェノール社製、ショウノール PC-TS-490)をポリエステル樹脂/フェノール樹脂=90/10(質量比)で混合し、塗料用樹脂組成物を得た。
(塗装金属板の作製)
得られた塗料用樹脂組成物をアルミ鋼板(A5052P、1mm×70mm×150mm)上にコーター(スリット幅:100μm)を用い、塗膜が10~20μmになるように塗布し、常温にて風乾した。その後、215℃に調節した熱風循環型のオーブン内で7分間乾燥と焼付を行い、10μmの塗膜が形成された塗装金属板を得た。
【0038】
実施例2~4、比較例1~4
テレフタル酸、エチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、無水トリメリット酸の添加量を変更し、表1に示す組成のポリエステル樹脂となるようにした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂組成物を作製し、塗装金属板を作製した。
【0039】
比較例5
2-メチル-1,3-プロパンジオールの代わりに1,2-プロパンジオールに変更し、表1に示す組成のポリエステル樹脂となるようにした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂組成物を作製し、塗装金属板を作製した。
【0040】
実施例5~6、比較例6
ジカルボン酸成分として、アジピン酸またはセバシン酸を使用し、表1に示す組成のポリエステル樹脂となるようにした以外は実施例1と同様にしてポリエステル樹脂を得た。
得られたポリエステル樹脂を用いた以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂組成物を作製し、塗装金属板を作製した。
【0041】
比較例7
実施例1のポリエステル樹脂を用い、硬化剤にメラミン樹脂(三井サイテック社製 サイメル303)を用いた以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂組成物を作製し、塗装金属板を作製した。
【0042】
実施例7~8、比較例8~9
実施例1のポリエステル樹脂を用い、ポリエステル樹脂とフェノール樹脂の質量比を表1のように変更した以外は、実施例1と同様にして塗料用樹脂組成物を作製し、塗装金属板を作製した。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から明らかなように、実施例1~6のポリエステル樹脂は溶解性が良好であり、また、得られた樹脂組成物は、塗膜としたときのアルミ密着性、耐レトルト性、耐食性も良好であった。さらに、実施例7~8の樹脂組成物も同様に塗膜としたときの性能に優れたものであった。
【0045】
一方、比較例1~3のポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂の酸価が低かったため、得られた樹脂組成物は、アルミ密着性、耐レトルト性、耐食性に劣るものであった。
比較例4のポリエステル樹脂は、2-メチル-1,3-プロパンジオールの共重合量が少なかったために、溶解性に劣るものであった。このため、フェノール樹脂を含有する樹脂組成物を得ることができなかった。
比較例5のポリエステル樹脂は、2-メチル-1,3-プロパンジオールの代わりにプロピレングリコールを用いたため、得られた樹脂組成物は、耐レトルト性に劣るものであった。
比較例6のポリエステル樹脂は、樹脂のガラス転移温度が低かったため、得られた樹脂組成物は、耐レトルト性、耐食性に劣るものであった。
比較例7の樹脂組成物は、樹脂組成物を得る際に硬化剤としてメラミン樹脂を用いたため、耐レトルト性に劣るものであった。
比較例8の樹脂組成物は、硬化剤を含有していなかったため、耐レトルト性、耐食性に劣るものであった。
比較例9の樹脂組成物は、フェノール樹脂の含有量が多かったため、アルミ密着性に劣るものであった。