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特許7117710芯鞘型ポリエステル複合繊維、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸、織編物、および芯鞘型ポリエステル複合繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】芯鞘型ポリエステル複合繊維、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸、織編物、および芯鞘型ポリエステル複合繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/14 20060101AFI20220805BHJP
【FI】
D01F8/14 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018027552
(22)【出願日】2018-02-20
(65)【公開番号】P2019143257
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】細井 和也
(72)【発明者】
【氏名】橋本 隆司
(72)【発明者】
【氏名】中川 皓介
(72)【発明者】
【氏名】中西 悠華
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-053922(JP,A)
【文献】特開2012-017530(JP,A)
【文献】特開2012-112055(JP,A)
【文献】特許第2544788(JP,B2)
【文献】特開平02-099606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 6/84
D01F 8/00 - 8/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部がポリエステルAで構成され、鞘部が100質量部のポリエステルBおよび1.5~5.0質量部の消臭性微粒子を含むポリエステル樹脂組成物Bで構成される芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記の(1)~(4)を満足する芯鞘型ポリエステル複合繊維。
(1)前記消臭性微粒子が酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを80質量%以上含有し、かつ前記酸化亜鉛と前記二酸化ケイ素の質量比が(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=15:85~40:60である。
(2)前記消臭性微粒子の平均粒径が0.1~2.0μmである。
(3)前記ポリエステルBが、構成する全酸成分に対して、エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が1.0~5.0モル%共重合されたものである。
(4)芯部と鞘部の質量比(芯部/鞘部)が85/15~60/40である。
【請求項2】
請求項に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維が仮撚りされてなる、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸。
【請求項3】
請求項に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維を製造する方法であって、以下の工程(イ)~(ニ)をこの順に含む製造方法。
(イ)ポリエステルA、およびポリエステルBを準備する工程。
(ロ)100質量部のポリエステルBに対して消臭性微粒子を1.5~5.0質量部の割合で添加し、ポリエステル樹脂組成物Bを得る工程。
(ハ)ポリエステルAを芯側に配し、ポリエステル樹脂組成物Bを鞘側に配して、常法の芯鞘型複合繊維用の口金を用いて、溶融紡糸する工程。
(ニ)引き取りローラーを用い、1000~6000m/分の引取速度で引き取る工程。
【請求項4】
請求項に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む、織編物。
【請求項5】
請求項に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸を含む、織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯鞘型ポリエステル複合繊維、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸、織編物、および芯鞘型ポリエステル複合繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、消臭性に優れる繊維を得るために、消臭性微粒子を繊維に固着させることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-301638号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1においては、消臭性微粒子が脱落し易いために、消臭性が十分ではないという問題があった。また、抗菌性も十分ではない場合があった。そこで、繊維中に消臭性微粒子を含有させることが考えられるが、こうした場合は、消臭性を向上させるために消臭性微粒子の含有量を増加させることが必要となるために、紡糸性および加工性に劣るという問題があった。本発明は、上記したような従来技術の問題を解決し、消臭性、抗菌性、紡糸性、および加工性の何れにも優れるポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、芯鞘型複合繊維の鞘部のみに特定の消臭性微粒子を含有し、繊維表面に特定量の油剤を付着させたポリエステル繊維は、消臭性、抗菌性、紡糸性、および加工性の何れにも優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は以下の(1)~()を要旨とする。
(1) 芯部がポリエステルAで構成され、鞘部が100質量部のポリエステルBおよび1.5~5.0質量部の消臭性微粒子を含むポリエステル樹脂組成物Bで構成される芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記の(i)~(iv)を満足する芯鞘型ポリエステル複合繊維。
(i)前記消臭性微粒子が酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを80質量%以上含有し、かつ、前記酸化亜鉛と前記二酸化ケイ素の質量比が(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=15:85~40:60である。
(ii)前記消臭性微粒子の平均粒径が0.1~2.0μmである。
(iii)前記ポリエステルBが、構成する全酸成分に対して、エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物が1.0~5.0モル%共重合されたものである。
(iv)芯部と鞘部の質量比(芯部/鞘部)が85/15~60/40である。
) ()に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維が仮撚りされてなる、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸。
【0007】
)()に記載の記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維を製造する方法であって、以下の工程(イ)~(ニ)をこの順に含む製造方法。
(イ)ポリエステルA、およびポリエステルBを準備する工程。
(ロ)100質量部のポリエステルBに対して消臭性微粒子を1.5~5.0質量部の割合で添加し、ポリエステル樹脂組成物Bを得る工程。
(ハ)ポリエステルAを芯側に配し、ポリエステル樹脂組成物Bを鞘側に配して、常法の芯鞘型複合繊維用の口金を用いて、溶融紡糸する工程。
(ニ)引き取りローラーを用い、1000~6000m/分の引取速度で引き取る工程。
)()の芯鞘型ポリエステル複合繊維を含む、織編物。
)()に記載の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸を含む、織編物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、芯鞘型複合繊維の鞘部のみに特定の消臭性微粒子を含有し、鞘部を構成するポリエステルが、エステル形成性スルホン酸塩基含有ジカルボン酸を特定の割合で含有するために、酢酸に対する消臭性、抗菌性、アンモニアに対する消臭性の全てに優れるものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[芯鞘型ポリエステル複合繊維]
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、芯部がポリエステルAで構成され、鞘部が100質量部のポリエステルBおよび1.5~5.0質量部の消臭性微粒子を含むポリエステル樹脂組成物Bで構成される芯鞘型ポリエステル複合繊維であって、下記の(1)~(3)を満足する。
(1)消臭性微粒子が酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを主成分とし、酸化亜鉛と二酸化ケイ素の質量比が(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=15:85~40:60である。
(2)消臭性微粒子の平均粒径が0.1~2.0μmである。
(3)前記ポリエステルBが、構成する全酸成分に対して、エステル形成性スルホン酸の金属塩化合物及び/又はエステル形成性スルホン酸ホスホニウム塩化合物が合計で1.0~5.0モル%共重合されたものである。
【0010】
本発明においては、芯鞘型の複合繊維とすることで、紡糸性が良好となるうえ、実用上の強度に優れる。また、繊維表面における消臭性微粒子の濃度を、十分な消臭性および抗菌性を発現させるレベルに保ちつつ、繊維全体に対する消臭性微粒子の含有量を低くすることができ、コストメリットに優れるという効果を奏する。
【0011】
芯部と鞘部との質量比は、特に限定されるものではないが、紡糸性、繊維強度、コストメリットを両立させる観点から、芯部/鞘部=85/15~60/40であることが好ましく、80/20~65/35であることがより好ましい。
【0012】
(ポリエステルA)
芯部を構成するポリエステルAは、特に限定されるものではないが、例えば、テレフタル酸成分とエチレングリコール成分からなり、全構成単位の80モル%以上がエチレンテレフタレートであるポリエステルが挙げられる。
【0013】
ポリエステルAの極限粘度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.45~0.80であることが好ましく、0.50~0.75であることがより好ましい。ポリエステルAの極限粘度が0.45以上であることで実用上の強度にいっそう優れるものとなり、0.80以下であることで紡糸操業性にいっそう優れるものとなる。
【0014】
(ポリエステル樹脂組成物B)
鞘部を構成するポリエステル樹脂組成物Bは、100質量部のポリエステルBおよび1.5~5.0質量部の消臭性微粒子を含むものである。消臭性微粒子の含有量は、2.0~4.5質量部であることが好ましく、2.5~4.0質量部であることがより好ましい。消臭性微粒子の量が1.5質量部未満であると消臭性能、抗菌性能に劣るという問題があり、一方、5.0質量部を越えると消臭性粒子の作用によりポリエステルが劣化し、紡糸操業性が悪化するという問題がある。
【0015】
(消臭性微粒子)
消臭性微粒子は酸化亜鉛と二酸化ケイ素とを主成分とするものである。ここで主成分とは、酸化亜鉛と二酸化ケイ素との混合物が80質量%以上であることをいう。
【0016】
消臭性微粒子における酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比は、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=15:85~40:60であり、20:80~35:65であることが好ましく、25:75~30:70であることがより好ましい。酸化亜鉛の割合が上記範囲未満であると抗菌性に乏しくなるという問題があり、酸化亜鉛の割合が上記範囲を超えて過多であると消臭性が悪化するという問題がある。つまり本発明においては、消臭性および抗菌性を両立させるために、消臭性微粒子における酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比を特定範囲とする。
【0017】
消臭性微粒子の平均粒径が0.1~2.0μmであり、0.4~1.7μmであることが好ましい。0.1μm未満であると紡糸工程のおける溶融混練時において2次凝集が発生しやすくなり、生成した粗大粒子がポリマー濾過フィルターに目詰まりすることにより操業継続が不可になるという問題がある。一方2.0μmを超えると、一部の粗大粒子がポリマー濾過フィルターに目詰まりすることにより操業継続が不可になるという問題がある。
【0018】
上記した特定の消臭性微粒子を用いることで、消臭性および抗菌性の何れも向上させることができ、好ましくは抗菌活性値を2.2以上、かつ酢酸に対する消臭性を60%以上とすることができ、より好ましくは、抗菌活性値を2.5以上、酢酸に対する消臭性を65%以上とすることができ、さらに好ましくは、抗菌活性値を2.5以上、酢酸に対する消臭性を70%以上とすることができる。なお、抗菌活性値および酢酸に対する消臭性の算出方法については、実施例において後述する。
【0019】
(ポリエステルB)
ポリエステルBは、構成する全酸成分に対して、エステル形成性スルホン酸塩基含有ジカルボン酸が合計1.0~5.0モル%共重合されたものである。こうした構成とすることで、上記の特定の消臭性微粒子を用いることとの相乗効果が奏され、アンモニアに対する消臭性を70%以上とすることができ、好ましくは74%以上とすることができ、さらに好ましくは80%以上とすることができる。アンモニアに対する消臭性の算出方法については、実施例において後述する。
【0020】
スルホン酸塩基含有ジカルボン酸としては、ジカルボキシル基とスルホン酸塩基を分子内に共に有するモノマー成分であれば特に限定されるものではなく、例えば、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、5-リチウムスルホイソフタル酸、ナトリウムスルホナフタレンジカルボン酸、ナトリウムスルホフェニルジカルボン酸、5-ナトリウムスルホテレフタル酸などのジカルボン酸及びそのエチレングリコールエステル等が挙げられる。
【0021】
このうち、特に、5-ナトリウムスルホイソフタル酸は、溶融紡糸時の操業性及びコストの面から好ましく用いられる。
【0022】
ポリエステルBは、構成する全酸成分に対して、エステル形成性スルホン酸塩基含有ジカルボン酸が合計で1.0~5.0モル%の割合で共重合されたものであり、1.0~4.5モル%共重合されたものであることが好ましく、1.0~4.0モル%共重合されたものであることがより好ましく、1.0~3.0モル%共重合されたものであることがさらに好ましい。共重合量が1.0モル%以上であることでアンモニア消臭性能に優れるものとなる。一方、5.0モル%以下であることで紡糸操業性に優れるものとなる。つまり、共重合割合が上記範囲であると、アンモニア消臭性能および紡糸操業性とのバランスに優れる。
【0023】
ポリエステルBの極限粘度は、特に限定されるものではないが、0.45~0.80であることが好ましく、0.50~0.75であることがより好ましい。ポリエステルBの極限粘度が0.45以上であることで実用上の強度にいっそう優れるものとなり、0.80以下であることで紡糸操業性にいっそう優れるものとなる。
【0024】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維において、構成繊維の表面に油剤(いわゆる、紡糸油剤)が付着されていてもよい。油剤の付着量は、特に限定されるものではないが、構成繊維の全質量に対して0.3~3.0質量%であることが好ましく、0.5~2.5質量%であることがより好ましく、0.5~1.0質量%であることがさらに好ましい。
【0025】
油剤としては、特に限定されるものではないが、後述する潤滑剤成分や界面活性剤成分を含む混合物が一般的に挙げられる。潤滑剤成分としてはエーテル系化合物、エステル系化合物、鉱物油、シリコーン系油などが挙げられる。界面活性剤成分としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。また、使用用途に応じて、油剤中に各種改質剤が含有されてもよい。改質剤としては染色性改良剤、静電気防止剤、酸化防止剤などが挙げられる。
【0026】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維は、繊維表面の動摩擦係数が0.5以下の範囲であることが好ましく、0.45以下であることがより好ましく、0.40以下であることがさらに好ましく、0.32以下がいっそう好ましい。0.5以下となることで、生地にした際の袖通り性などの風合いに優れる。繊維表面の動摩擦係数を上記範囲とするには、例えば紡糸工程において繊維の鞘部に特定の消臭性微粒子を添加し、繊維表面に消臭性微粒子を露出させることで、繊維表面と摩擦体との接触面積を減少させ、摩擦を低下させる手法、または繊維表面の油剤量を上記範囲とする手法、さらにまた消臭性微粒子の態様をいっそう好ましいものとする手法(たとえば、酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比をいっそう好ましい範囲とする、粒径をいっそう好ましい範囲とする、またはポリエステルBに対する含有量をいっそう好ましい範囲とする、手法)を採用することができる。本発明においては、上記した消臭性微粒子が繊維表面に露出することで、消臭性および抗菌性を発現することに加えて、動摩擦係数を低減することにも寄与している。なお、動摩擦係数は低いほどよく、その下限値は特に限定されるものではないが、例えば0.1程度である。動摩擦係数の算出方法については、実施例にて後述する。
【0027】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の総繊度は、特に限定されるものではないが、主に衣料用繊維に使用することを目的としており生地風合いの観点から、20~200dtexであることが好ましく、20~180dtexであることがより好ましい。
【0028】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維のフィラメント数は、特に限定されるものではないが、紡糸操業性と生地風合いの観点から、12~96本であることが好ましく、18~72本であることがより好ましい。
【0029】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維には、本発明の効果を損なわない範囲で、芯部または鞘部において、必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、のような添加剤を含有させてもよい。
【0030】
[芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸]
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維に対し、仮撚加工を施すことで、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸とすることができる。仮撚糸とすることで、嵩高性によりいっそう優れるという利点がある。
【0031】
本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の捲縮率は、特に限定されるものではないが、5~70%であることが好ましく、10~65%であることがより好ましい。捲縮率の求め方は実施例において後述する。
【0032】
[芯鞘型ポリエステル複合繊維の製造方法]
芯鞘型ポリエステル複合繊維を製造する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下の工程(イ)~(ニ)をこの順に含む。
(イ)ポリエステルA、およびポリエステルBを準備する工程。
(ロ)100質量部のポリエステルBに対して消臭性微粒子を1.5~5.0質量部の割合で添加し、ポリエステル樹脂組成物Bを得る工程。
(ハ)ポリエステルAを芯側に配し、ポリエステル樹脂組成物Bを鞘側に配して、常法の芯鞘型複合繊維用の口金を用いて、溶融紡糸する工程。
(ニ)引き取りローラーを用い、1000~6000m/分の引取速度で引き取る工程。
【0033】
工程(イ)においては、上記したようなポリエステルA、およびポリエステルBを準備する。
【0034】
工程(ロ)においては、100質量部のポリエステルBに対して消臭性微粒子を1.5~5.0質量部の割合で添加し、ポリエステル樹脂組成物Bを得る。消臭性微粒子の添加方法としては、常法を採用することができ特に限定されるものではないが、例えば消臭性微粒子とポリエステルBとを溶融押出機にて溶融混練してチップ化したマスターバッチを使用する手法が挙げられる。また、サイドフィーダーを用いて、押出機への投入前に消臭性微粒子とポリエステルBとを混合する手法も挙げられる。
【0035】
工程(ハ)においては、ポリエステルAを芯側に配し、ポリエステル樹脂組成物Bを鞘側に配して、常法の芯鞘型複合繊維用の口金を用いて、溶融紡糸する。溶融紡糸の紡糸温度としては特に限定されるものではないが、270~300℃とする手法が挙げられる。
【0036】
溶融紡糸後に、繊維表面に油剤を付着させてもよい。油剤の付着方法としては、常法を採用することができ特に限定されるものではないが、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の手法が挙げられる。
【0037】
工程(ニ)においては、公知の引き取りローラーを用い、1000~6000m/分の引取速度で引き取る、工程(ニ)の引取速度は、1000~6000m/分であることが好ましく、2500~4000m/分であることがより好ましい。引取速度が1000m/分未満であると、生産性に劣るという問題があり、6000m/分を超えると紡糸操業性が悪化するという問題が発生する。
【0038】
[芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の製造方法]
芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の製造方法としては、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維に対し、常法に従って仮撚加工を施す方法が挙げられる。仮撚加工条件としては、特に限定されるものではないが、例えば、スピンドル方式を使用する場合は、温度160~220℃、仮撚係数27000~32000の条件で仮撚加工することが好ましい。
【0039】
上記の仮撚加工においては、例えば、1.4~1.8倍で同時延伸が施されてもよい。
【0040】
[織編物]
本発明の織編物は、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維、または本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸を含むものであり、25質量%以上の混用率で含むことが好ましく、50質量%以上の混用率で含むことがより好ましく、80質量%以上の混用率で含むことがさらに好ましい。混用の方法としては、混繊、混紡、交撚、交織又は交編が挙げられる。本発明の織編物において、本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維、または本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸を用いる箇所は、特に限定されず、表面及び裏面のうち何れに使用してもよい。
【0041】
本発明の織編物が織物の場合、その組織の具体例としては、特に限定されるものではなく、例えば、平織、綾織、朱子織、又は絡み織などが挙げられる。織物密度としては、特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜に設定できる。
【0042】
本発明の織編物が編物の場合、その組織の具体例としては、特に限定されるものではなく、例えば、カノコ、フライス又はスムースなどが挙げられる。編地密度としては、特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜に設定できる。
【0043】
本発明の織編物の用途としては、特に限定されるものではないが、抗菌性や消臭性に優れるために靴下、肌着、スポーツウエア、ドレスシャツ、作業服、靴材、帽子等の衣料品から、カーテン、ソファー等の生活資材や縫い糸等の用途に好ましく用いることができる。
【実施例
【0044】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、実施例中の各種の特性値及び評価は以下のとおりに行った。
【0045】
(1)極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、温度20℃の条件下で、常法に基づき測定した。
【0046】
(2)消臭性微粒子の平均粒子径(メジアン径)
ポリエステル樹脂組成物Bを、ヘキサフルオロ-2-プロピルアルコールへ溶解させた溶液(濃度;5質量%)に対し、レーザー回折・散乱式粒度分析装置(島津製作所製、「SALD―7100」)を用いて測定した。
【0047】
(3)紡糸性
24時間継続して操業した際の、紡糸時の糸切れの回数に従って、下記の基準で評価した。
○:糸切れ回数が0~1回
△:糸切れ回数が2~4回
×:糸切れ回数が5回以上
-:糸採取不可
【0048】
(4)仮撚加工性
24時間継続して操業した際の、紡糸時の糸切れの回数に従って、下記の基準で評価した。
○:糸切れ回数が0~1回
△:糸切れ回数が2~4回
×:糸切れ回数が5回以上
【0049】
(5)動摩擦係数
英光産業株式会社製の糸走行摩擦係数測定装置(ME-P01)を使用して動摩擦係数を測定した。
試験片(摩擦体)として鏡面研磨加工を施した外形16mm×長さ100mmのステンレス材を使用し、摩擦角度を180°、糸速度100m/min、自動テンションコントローラの設定張力を10gとし試験糸を通糸した。試験片前後の張力T1、T2を測定し、次式を用いて動摩擦係数(μd)を算出した。
μd={(1/(摩擦角度×π/180)}×ln(T2/T1)
【0050】
(6)抗菌活性値
JIS L0217 103法により、未洗濯の布帛(サイズ0.40g±0.05g)(本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の混用率が50質量%となるようにポリエステル仮撚加工糸(80dtex24f)を引きそろえ、英光産業社製筒編機(釜径:3.5インチ、針本数:260N)を用いて得られた筒編地)を用意し、JIS L1902記載の菌液吸収法に基づきモラクセラ菌の抗菌活性値を測定した。
【0051】
(7)酢酸消臭性
試料となる布帛(サイズ10cm×10cm)(本発明の芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の混用率が50質量%となるようにポリエステル仮撚加工糸(80dtex24f)を引きそろえ、英光産業社製筒編機(釜径:3.5インチ、針本数:260N)を用いて得られた筒編地)について、社団法人繊維評価技術評議会の指定するSEK消臭加工マーク認証における消臭性能評価方法に準じ、臭気成分として酢酸を使用して測定を行い、結果を臭気減少率(単位:%)で示した。
【0052】
(8)アンモニア消臭性
試料となる布帛(サイズ10cm×10cm)(芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の混用率が50質量%となるようにポリエステル仮撚加工糸(80dtex24f)を引きそろえ、英光産業社製筒編機(釜径:3.5インチ、針本数:260N)を用いて得られた筒編地)について、社団法人繊維評価技術評議会の指定するSEK消臭加工マーク認証における消臭性能評価方法に準じ、臭気成分としてアンモニアを使用して測定を行い、結果を臭気減少率(単位:%)で示した。
【0053】
(9)捲縮率
測定対象となる糸を枠周1.125mの検尺機を用いて巻き数5回のカセとして、カセをスタンドに吊り下げた状態で一昼夜放置した。次にカセを0.000147cN/dtexの荷重(荷重1)を掛けた状態で沸水中に入れて30分間の温熱処理を行った後、ろ紙にて水分を軽く取って30分風乾放置した。次いで、荷重1を掛けたまま、更に0.00177cN/dtexの軽荷重(荷重2)を掛け、カセ長さa(cm)を測定した。次に荷重2のみを外して0.044cN/dtexの重荷重(荷重3)を掛け、カセの長さb(cm)を測定した。そして、下記式に従い、沸水処理後の捲縮率(%)を算出した。なお測定対象となる3本について行い、それぞれの平均を捲縮率とした。
沸水処理後の捲縮率(%)=[(b-a)/b]×100
【0054】
比較例1
固有粘度が0.70のポリエステルA(ポリエチレンテレフタレート)を準備した。そして、固有粘度が0.70であるポリエステルB(ポリエチレンテレフタレート)100質量部に対し、酸化亜鉛と二酸化ケイ素とが(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=27:73(質量比)の割合で混在した消臭性微粒子(平均粒径0.8μm)を3.5質量部の割合で添加してポリエステル樹脂組成物Bを準備した。
ポリエステルAとポリエステル樹脂組成物Bとを常用の溶融紡糸機に投入し、溶融物を目開きが30μmの金属製フィルターを用いて濾過した後、芯鞘横断面形状繊維を紡糸可能な24個の紡糸孔が穿設されている口金から、(ポリエステルA(芯部)):(ポリエステル樹脂組成物B(鞘部))=70:30(質量比)にて紡出させた。
【0055】
紡出した糸条を空気流により冷却し、オイリング装置(油剤供給装置)を通過させて油剤(竹本油脂社製、ポリエーテル系油剤)を付着させて、紡糸速度3250m/分にて引取り、芯鞘型ポリエステル複合繊維を得た(132dtex24f)。
【0056】
次いで、得られた糸条(半延伸糸)を常用の仮撚機にて、仮撚り係数30000、延伸倍率1.65倍で仮撚延伸し、さらに175℃のヒータプレートで熱処理を行って捲き取り、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸を得た(80dtex24f、捲縮率55%)。さらに、芯鞘型ポリエステル複合繊維の仮撚糸の混用率が50質量%となるようにポリエステル仮撚加工糸(80dtex24f)を引きそろえ、英光産業社製筒編機(釜径:3.5インチ、針本数:260N)を用い、筒編地を作成した。この編地に対し、常法により精練し、下記処方にて温度130℃で30分間染色をおこなった。
染料 UVITEX EBF:1%omf
助剤 ニッカサンソルトSN-130:0.5g/l
酢酸:0.2ml/l
【0057】
比較例2
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素の質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=15:85とした以外は、比較例1と同様におこなった。
【0058】
比較例3
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素の質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=40:60とした以外は、比較例1と同様におこなった。
【0059】
比較例4
消臭性微粒子の平均粒径を0.1μmとした以外は、比較例1と同様におこなった。
ポリマー濾過工程での若干のフィルター目詰まりは確認された。
【0060】
比較例5
消臭性微粒子の平均粒径を2.0μmとした以外は、比較例1と同様におこなった。
ポリマー濾過工程での若干のフィルター目詰まりは確認された。
【0061】
比較例6
100質量部のポリエステルBに対する消臭性微粒子の含有量を1.5質量部とした以外は、比較例1と同様におこなった。
【0062】
比較例7
100質量部のポリエステルBに対する消臭性微粒子の含有量を5.0質量部とした以外は、比較例1と同様におこなった。消臭性微粒子の含有量が多くなったことで、紡糸切れ糸が数回発生した。
【0063】
比較例8
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=5:95とした以外は、比較例1と同様におこなった。比較例8においては、抗菌性に劣っていた。
【0064】
比較例9
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=50:50とした以外は、比較例1と同様におこなった。比較例9においては、酢酸に対する消臭性に劣っていた。
【0065】
比較例10
消臭性微粒子の平均粒径を0.05μmとした以外は、比較例1と同様におこなった。比較例10においては、ポリマー濾過工程で2次凝集によって発生した粗大粒子によるフィルターが目詰まりのため、紡糸操業継続が不可となった。
【0066】
比較例11
消臭性微粒子の平均粒径を4.0μmとした以外は、比較例1と同様におこなった。比較例11においては、粗大粒子の存在により、ポリマー濾過工程にてフィルター目詰まりが発生し、紡糸操業継続が不可となった。
【0067】
比較例12
100質量部のポリエステルBに対する消臭性微粒子の含有量を0.5質量部とした以外は、比較例1と同様におこなった。比較例12においては、抗菌性および酢酸に対する消臭性に劣り、さらに動摩擦係数が過大となり、風合いが悪かった。
【0068】
比較例13
100質量部のポリエステルBに対する消臭性微粒子の含有量を7.0質量部とした以外は、比較例1と同様におこなった。比較例13においては、消臭性微粒子の作用によりポリエスルBが劣化し、紡糸工程切れ糸が多発し、紡糸性に劣っていた。
【0069】
比較例14
鞘部において消臭性微粒子を含有させなかった以外は、比較例1と同様におこなった。比較例14においては、抗菌性、消臭性に劣るものであった。
【0070】
実施例1
ポリエステルBにおいて、ポリエステルを構成する全酸成分に対してスルホイソフタル酸を1.5mol%の割合で共重合させた以外は比較例1と同様におこなった。
【0071】
実施例2
スルホイソフタル酸の共重合量を1.0mol%にした以外は、実施例1と同様におこなった。
【0072】
実施例3
スルホイソフタル酸の共重合量を5.0mol%にした以外は、実施例1と同様におこなった。スルホイソフタル酸の共重合量を多くしたことで紡糸工程での切れ糸が数回発生したが、操業上は問題ないレベルであり、十分に実用に耐えうるものであった。
【0073】
実施例4
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=15:85とした以外は、実施例1と同様におこなった。
【0074】
実施例5
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素=)40:60とした以外は、実施例1と同様におこなった。
【0075】
実施例6
消臭性微粒子の平均粒径を0.1μmとした以外は、実施例1と同様におこなった。
ポリマー濾過工程での若干のフィルター目詰まりは確認されたが、操業継続不可となるほどの問題では無く、十分に実用に耐えうるものであった。
【0076】
実施例7
消臭性微粒子の平均粒径を2.0μmとした以外は、実施例1と同様におこなった。
ポリマー濾過工程での若干のフィルター目詰まりは確認されたが、操業継続不可となるほどの問題では無く、十分に実用に耐えうるものであった。
【0077】
実施例8
100質量部のポリエステルBへの消臭性微粒子の添加量を1.5質量部とした以外は、実施例1と同様におこなった。
【0078】
実施例9
100質量部のポリエステルBへの消臭性微粒子の添加量を5.0質量部とした以外は、実施例1と同様におこなった。消臭性微粒子の含有量が多くなったことで、紡糸切れ糸が数回発生したが、問題ないレベルであり、十分に実用に耐えうるものであった。
【0079】
比較例15
ポリエステルBにおけるスルホイソフタル酸の共重合量を0.5mol%にした以外は、実施例1と同様におこなった。実施例1と対比すると、アンモニア消臭性に劣っていた。
【0080】
比較例16
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素の質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=5:95とした以外は、実施例1と同様におこなった。比較例16においては、抗菌性に劣っていた。
【0081】
比較例17
消臭性微粒子に含まれる酸化亜鉛と二酸化ケイ素との質量比を、(酸化亜鉛):(二酸化ケイ素)=50:50とした以外は、実施例1と同様におこなった。比較例17においては、酢酸に対する消臭性に劣っていた。
【0082】
比較例18
消臭性微粒子の平均粒径を0.05μmとした以外は、実施例1と同様におこなった。比較例18においては、ポリマー濾過工程で2次凝集によって発生した粗大粒子によるフィルターが目詰まりのため、紡糸操業継続が不可となった。
【0083】
比較例19
消臭性微粒子の平均粒径を4.0μmとした以外は、実施例1と同様におこなった。比較例19においては、ポリマー濾過工程にて粗大粒子によるフィルターが目詰まりのため、紡糸操業継続が不可となった。
【0084】
比較例20
100質量部のポリエステルBに対する消臭性微粒子の添加量を0.5質量部とした以外は、実施例1と同様におこなった。比較例20においては、抗菌性および酢酸に対する消臭性に劣り、また動摩擦係数が高く、風合いが悪かった。
【0085】
比較例21
100質量部のポリエステルBに対する消臭性微粒子の添加量を7.0質量部とした以外は、実施例1と同様におこなった。比較例21においては、消臭性微粒子の作用によりポリエスルBが劣化したために紡糸性に劣っていた。
【0086】
比較例22
鞘部において、消臭性微粒子を含有させなかった以外は、実施例1と同様におこなった。比較例22においては、抗菌性、消臭性に劣るものであった。
【0087】
実施例および比較例における評価結果を、表1および表2に示す。
【表1】
【0088】
【表2】