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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】ナノ粒子の製造方法、及びその利用
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/12 20060101AFI20220805BHJP
   B03C 3/02 20060101ALI20220805BHJP
   G01N 15/02 20060101ALI20220805BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20220805BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20220805BHJP
【FI】
B22F9/12 Z
B03C3/02 Z
G01N15/02 F
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018023508
(22)【出願日】2018-02-13
(65)【公開番号】P2019137900
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2021-01-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】391064005
【氏名又は名称】株式会社アツミテック
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】折井 孝彰
(72)【発明者】
【氏名】内山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】金井 友美
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-116594(JP,A)
【文献】国際公開第2006/129413(WO,A1)
【文献】特開2003-11100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/12
B03C 3/02
G01N 15/02
B82Y 30/00
B82Y 40/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングのターゲットに電圧を印加してグロー放電を発生させる、 スパッタ型クラスターイオン源を用いるスパッタリング法によって荷電粒子を製造する工程Aと、
上記荷電粒子を、当該荷電粒子の電気移動度に基づいて分級する工程Bと、を含む、ナノ粒子の製造方法であって、工程A及びBを何れも圧力400Pa以上600Pa以下の範囲内で進行させる、ナノ粒子の製造方法
【請求項2】
工程Bは、微分型電気移動度分級装置(DMA)を用いて行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記荷電粒子の粒径は1nm以上で100nm以下の範囲内である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記荷電粒子は、水素吸蔵性を有する金属粒子である、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記工程Aを行う雰囲気が冷却されている、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
ナノ粒子の製造装置であって、
スパッタリングのターゲットに電圧を印加してグロー放電を発生させる、 スパッタ型クラスターイオン源を用いるスパッタリング法によって荷電粒子を製造する荷電粒子製造装置と、
電気移動度分級装置と、を備え、
上記荷電粒子製造装置の荷電粒子取出し口と、上記電気移動度分級装置の荷電粒子導入口とが連結されて おり、
上記荷電粒子製造装置の動作圧力と、上記電気移動度分級装置の動作圧力とが何れも400Pa以上で600Pa以下の範囲内である、
ナノ粒子の製造装置。
【請求項7】
上記荷電粒子製造装置は、荷電粒子の製造が行われる雰囲気を冷却するための冷却手段を有する、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
上記荷電粒子製造装置には、上記荷電粒子取出し口側からスパッタリングのターゲット側に向けて反応調節用ガスを供給するための流路が設けられている、請求項6または7に記載のナノ粒子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子の製造方法、ナノ粒子の製造装置、ナノ粒子、及び当該ナノ粒子を含む製品等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
物質をナノ粒子化することによって、当該物質の新たな性質が引き出されうることが報告されている。そのため、各種物質においてナノ粒子を製造する試みがなされている。
【0003】
ナノ粒子を製造する方法は物質の種類等に応じて適宜選択されているが、工業的には、ボールミリング等の機械的粉砕法が主流となっている(非特許文献1)。
【0004】
また、ナノ粒子を製造する方法として、不活性ガス中で金属(物質)を加熱及び蒸発させ、蒸発した金属原子が不活性ガスと衝突及び急冷されることで金属のナノ粒子を製造する、ガス中蒸発法も一般的な方法である(非特許文献2)。
また、ナノクラスターを生成する方法として非特許文献3に記載の方法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】“Size effects on the hydrogen storage properties of nanostructured metal hydrides: A review”, Vincent Berube et al., Int. J. Energy Res. 31 (2007) 637-663.
【文献】「超微粒子」 固体物理金属物理セミナー 1984年・別冊特集号 編集:超微粒子編集委員会,株式会社アグネ技術センター発行
【文献】“Performance of a size-selected nanocluster deposition facility and in situ characterization of grown films by x-ray photoelectron spectroscopy”, Mondal S. and Bhattacharyya SR1., Review of Scientific Instrument., 2014 Jun;85(6):065109.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしボールミリング法は、機械的粉砕法であるがゆえの限界がある。すなわち、ボールミリング法はナノ粒子の微細化の観点で限界があり、理論的には15nm未満(実際には30nm未満)の粒子を製造することには極端に困難を伴う。さらに、ボールミリング法は、得られるナノ粒子の汚染の問題や当該ナノ粒子のサイズの不均一性の問題を回避することは出来ない。
【0007】
また、ガス中蒸発法(特に金属の加熱にアーク放電加熱を用いる方法)は、ナノ粒子の汚染の問題は回避可能であるものの、一般的に、得られるナノ粒子のサイズの不均一性の問題が生じやすい。不均一性の問題を解決するためには、得られたエアロゾル中のナノ粒子を荷電させた後に、サイズ毎に分級を試みることが考えられる。しかしながら、エアロゾル中のナノ粒子を荷電させるためには、Am等の放射性物質を用いる、又は、エアロゾル中でのコロナ放電を用いる等の追加の処理が必要である。さらに、ナノ粒子の荷電効率は様々な要因により低下し得るという問題もある。例えば、ナノ粒子の荷電効率は、ナノ粒子の粒径が小さい場合や低圧力環境下では低下しがちである。しかし、より反応性の高いナノ粒子を求めてその小粒径化が検討されていたり、反応性の高いナノ粒子の取扱いに適した低圧力環境下での操作が検討されていたりすることもまた現実である。
【0008】
本発明の一態様は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、より一層効率的なナノ粒子の製造方法、及び、当該方法を実施するためのナノ粒子の製造装置等を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本願発明者らは鋭意検討を行った。その結果、スパッタリングと、電気移動度に基づいたナノ粒子の分級操作とを組み合わせることによって、上記課題を解決できることを見出し、本願発明を成すに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の何れかのものを提供する。
1) スパッタリング法によって荷電粒子を製造する工程Aと、上記荷電粒子を、当該荷電粒子の電気移動度に基づいて分級する工程Bと、を含む、ナノ粒子の製造方法。
2) 工程Bは、微分型電気移動度分級装置(DMA)を用いて行う、1)に記載の方法。
3) 上記荷電粒子の粒径は1nm以上で100nm以下の範囲内である、1)又は2)に記載の方法。
4)上記荷電粒子は、水素吸蔵性を有する金属粒子である、1)~3)の何れかに記載の方法。
5)上記工程Aを行う雰囲気が冷却されている、1)~4)の何れかに記載の方法。
6)ナノ粒子の製造装置であって、スパッタリング法によって荷電粒子を製造する荷電粒子製造装置と、電気移動度分級装置と、を備え、上記荷電粒子製造装置の荷電粒子取出し口と、上記電気移動度分級装置の荷電粒子導入口とが連結されている、ナノ粒子の製造装置。
7)上記荷電粒子製造装置の動作圧力と、上記電気移動度分級装置の動作圧力とが何れも300Pa以上で2000Pa以下の範囲内である、6)に記載のナノ粒子の製造装置。
8)上記荷電粒子製造装置は、荷電粒子の製造が行われる雰囲気を冷却するための冷却手段を有する、6)に記載の装置。
9) 上記1)~5)の何れかに記載の方法で製造されたナノ粒子。
10) アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される、金属単体の粒子、又は、これらの金属の少なくとも一種を含む合金の粒子である、9)に記載のナノ粒子。
11) 上記9)又は10)に記載のナノ粒子を含んでなる、製品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、より一層効率的なナノ粒子の製造方法、及び、当該方法を実施するためのナノ粒子の製造装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る、ナノ粒子の製造装置の全体構成を示す図である。
図2図1に示すナノ粒子の製造装置の要部構成を示す図である。
図3】本発明の一実施例に関し、粒子サイズ分布の測定結果を示す図である。
図4】本発明の他の実施例に関し、粒子サイズ分布の測定結果を示す図である。
図5】本発明のさらに他の実施例に関し、粒子サイズ分布の測定結果を示す図である。
図6】本発明のさらに他の実施例に関し、粒子サイズ分布の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
(ナノ粒子の製造方法の概要)
本発明の一実施形態に係るナノ粒子の製造方法は、スパッタリング法によって荷電粒子を製造する工程Aと、工程Aで得られた上記荷電粒子を、当該荷電粒子の電気移動度に基づいて分級する工程Bと、を含む方法である。
【0015】
(荷電粒子とナノ粒子)
本明細書において「荷電粒子」とは、特に言及がない限り、上記工程Aで得られた荷電粒子を指す。本明細書において「ナノ粒子」とは、当該荷電粒子が上記工程Bにて分級されたものを指す。但し、ナノ粒子は荷電された状態であっても、荷電されていない状態であってもよい。
【0016】
荷電粒子及びナノ粒子は、例えば金属粒子であり、好ましい一例は、水素吸蔵性を有する金属粒子である。水素吸蔵性を有する金属粒子として、具体的には例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、パラジウム、ニッケル、コバルト、及びアルミニウムからなる金属の群より選択される、金属単体の粒子、又は、これらの金属の少なくとも一種を含む合金の粒子が挙げられる。
【0017】
荷電粒子及びナノ粒子の、好ましい他の例は、従来はナノ粒子化が困難とされていた、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される、金属単体の粒子、又は、これらの金属の少なくとも一種を含む合金の粒子が挙げられる。アルカリ金属の好ましい一例として、リチウム、ナトリウム、及びカリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属の好ましい一例として、マグネシウム及びカルシウム等が挙げられる。
【0018】
また、荷電粒子及びナノ粒子は、上記の水素吸蔵性を有する金属粒子、アルカリ金属及びアルカリ土類金属以外の金属を含む、金属単体の粒子、又は、合金の粒子であってもよい。
【0019】
必ずしも限定はされないが、工程A及び工程Bを、例えば、真空か真空に近い低圧条件で行うことによって、窒化、酸化等の処理が施されていない荷電粒子及びナノ粒子を得る態様が好ましい場合もある。
【0020】
荷電粒子及びナノ粒子の粒径は、例えば、1nm以上で100nm以下の範囲内であり、好ましくは1nm以上で50nm以下の範囲内であり、より好ましくは1nm以上で10nm以下の範囲内又は5nm以上で50nm以下の範囲内であり、さらに好ましくは1nm以上で10nm以下の範囲内である。一例において、荷電粒子及びナノ粒子の粒径は、5nm以上で20nm以下の範囲内であってもよく、5nm以上で15nm以下の範囲内であってもよく、或いは、5nm以上で10nm以下の範囲内であってもよい。
【0021】
工程Bで得られるナノ粒子の群は、工程Aで得られる荷電粒子の群と比較して、粒径に基づくサイズ選別がなされている。一例では、ナノ粒子の群は、略同一の粒径を持つナノ粒子の集団である。他の例では、ナノ粒子の群は、略同一の粒径A1を持つナノ粒子の集団と、略同一の粒径A2を持つナノ粒子の集団とが混合してなる。ここで、粒径A1と粒径A2とは異なる粒径である。なお、工程Aで得られる荷電粒子の群と比較して、粒径に基づくサイズ選別がなされているという前提を満たす限り、ナノ粒子の群は、三種以上の粒径を持つナノ粒子の集団が混合してなるものであってもよい。
【0022】
(ナノ粒子の製造装置の一例)
以下、図1及び図2にその概略を示すナノ粒子の製造装置の一例に基づいて、ナノ粒子の製造方法をより詳細に説明する。
【0023】
<構成の概要>
ナノ粒子の製造装置100は、スパッタリング装置(荷電粒子製造装置)30と、DMA(電気移動度分級装置)40とを備えてなり、スパッタリング装置30の粒子取出し口(荷電粒子取出し口)35と、DMA40の粒子導入口(荷電粒子導入口)43aとが連結されている。
【0024】
<スパッタリング装置>
スパッタリング装置30は、スパッタリング法によって荷電粒子を製造する装置である。スパッタリング装置30の一例は、図2に示すように、外筒37bと内筒37aとが中心軸を共有するように配置された二重円筒構造を備えており、内筒37aの内部空間34が、スパッタリングの反応空間として機能する。内部空間34には、内筒37aの中心軸の一端側(下方側)にスパッタリングのターゲット33が、この中心軸の他端側(上方側)に粒子取出し口35が設けられている。ターゲット33は、上記二重円筒構造の下端に取り付けられた移動機構31と連結されている。移動機構31を操作することによって、ターゲット33は、内筒37aの中心軸に沿った上下移動が可能で、この上下移動によって、凝集長L1を所望する長さに変更することが出来る。
【0025】
冷媒及びガス供給用の複数の供給口32aは、外部から上記二重円筒構造内に、冷媒及び各種ガスを供給するための供給口である。
【0026】
また、外筒37bには真空ポンプ(図示せず)の取付け口36が設けられている。スパッタリング装置30を運転する前の予備排気として、真空ポンプを用いて真空引きをすることによって、外筒37bと内筒37aとの間の空間、及び内部空間34は、高真空に維持されている。
【0027】
内筒37aの側壁には冷媒槽(冷却手段)32bが設けられており、冷媒槽32bは、冷媒の供給口38と連通している。冷媒槽32bは、冷媒を溜めることにより、内筒37aおよび内筒37aと熱交換する内部空間34に導入されるガス(雰囲気:スパッタ用ガス、反応調節用ガス等のうち少なくとも一つを指す)を冷却するためのものである。冷媒は、例えば冷水や液体窒素である。なお、冷媒槽32bは内筒37aの側壁の外側に接して設けられても、側壁の内側に設けられてもよいが、内部空間34に導入されるガスを冷却する観点では、内筒37aの側壁の少なくとも内側に接して設けられることが好ましい。
【0028】
ターゲット33の上流(下側)には、供給口32aの何れかと連通している配管(図示せず)が設けられている。この配管は、ターゲット33と内筒37aとの隙間から、ターゲット33の近傍にスパッタ用ガスを供給するためのものである。スパッタ用ガスは、例えばアルゴン、ネオン等の不活性ガスである。
【0029】
また、粒子取出し口35側からターゲット33側へ向けて反応調節用ガスを供給するための流路39bが設けられている。この流路39bは、反応調節用ガスの供給口39aと連通している。この流路39bは、内部空間34内に反応調節用ガスを吹き込むことで、スパッタリングで生じた荷電粒子の成長を調節するためのものである。反応調節用ガスは、例えばヘリウム、ネオン等のガスである。
【0030】
なお、スパッタ用ガス及び反応調節用ガスは、マスフローコントローラ(一つのみ図示)11を介して、その流量を制御しながらスパッタリング装置30に供給される。
【0031】
スパッタリング装置30では、上述の工程Aが行われる。スパッタリング装置30では、ターゲット33に電圧を印加してグロー放電を発生させ、スパッタ用ガスの原子をイオン化する。そして、イオン化されたガス原子を、ターゲット33の表面に高速で衝突させることによって、ターゲット33を構成する材料の粒子をターゲット33から弾き出す。弾き出された粒子は、粒子取出し口35に達するまでの間に互いに凝集し、荷電粒子が得られる。
【0032】
なお、図2に示すように、内筒37aの中心軸が鉛直方向に沿っている方が、ターゲット33から弾き出された上記粒子をより均一に凝集させる観点では好ましい場合がある。
【0033】
凝集長L1は得られる荷電粒子の粒径に影響を与える要因の一つである。凝集長L1は、所望する荷電粒子が得られる限りにおいて特に限定されないが、1cm以上で40cm以下であることが好ましい場合があり、20cm以上で30cm以下であるか、1cm以上で10cm以下であることがより好ましい場合がある。
【0034】
スパッタリング装置30の動作圧力(スパッタリング時の内部空間34の圧力)も、所望する荷電粒子が得られる限りにおいて特に限定されないが、スパッタリングの効率及び清浄な荷電粒子を得る観点からは、300Pa以上で2000Pa以下の範囲内であることが好ましい場合があり、350Pa以上で1100Pa以下の範囲内であることがより好ましい場合があり、400Pa以上で1000Pa以下の範囲内であることがさらに好ましい場合があり、400Pa以上で600Pa以下の範囲内であることが特に好ましい場合がある。特に、荷電粒子が水素吸蔵性のある粒子等の高反応性の粒子の場合には、かかる低圧の環境が好ましい。
【0035】
合金の荷電粒子を得る場合、ターゲット33自体を当該合金としてもよいが、合金を構成する金属の単体それぞれをターゲット33として配置してもよい。スパッタリング法を用いる利点の一つであるが、合金を構成する金属の単体それぞれを、当該合金を構成する比率で配置しておけば、合金の荷電粒子を得ることができる。
【0036】
工程Aを行う際の温度は、所望する荷電粒子が製造出来る限りにおいて特に限定されないが、内部空間34を冷却しながら行うことが好ましい場合がある。冷却された後の内部空間34の温度は、例えば、25℃以下である。なお、アルカリ金属及びアルカリ土類金属からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含む荷電粒子を製造する際には、工程Aを行う温度条件がきわめて重要である。この場合、工程Aはスパッタリングによりターゲット33を構成する材料から弾き出された原子の濃度に応じて、ナノ粒子に成長する温度下で行うことが好ましく、-190℃以下の温度下で行うことがより好ましい場合がある。
【0037】
スパッタリング装置30は、市場にて入手可能な装置を用いることもできる。スパッタリング装置30は、例えば、スパッタ型クラスターイオン源等の商品名で販売されている装置を用いることもできる(例えばMantis Deposition社等より供給されている)。但し、市場にて入手可能な装置は、通常、極小サイズのクラスターの高濃度のイオンを合成する装置として利用されており、かつ、質量選別器との組合せのみでの評価が行われているに過ぎない。市場にて入手可能な装置を用いて、例えば、5nm程度以上、或いは10nm程度以上のナノ粒子を合成した報告は見当たらない。
【0038】
スパッタリング装置30の粒子取出し口35は、DMA40の粒子導入口43aと、配管91を介して連結されている。配管91には圧力計61が取り付けられており、圧力計61は、配管91内を流れる荷電粒子を含んだエアロゾルの圧力を監視している。
【0039】
以上のように、スパッタリング装置30を用いることで粒子の製造と同時に粒子のイオン化も可能としたため(クラスターが成長した荷電粒子が製造される)、例えば真空等の低圧環境下であったとしても、この後段でDMA40を用いた粒子径計測、及び分級を効率よく行うことが可能となる。
【0040】
また、スパッタリング装置30を用いることによって、得られる荷電粒子の組成の任意性、低温成長プロセス、及び清浄合成環境等のスパッタリング法による蒸発法の優位性を享受しつつ、荷電粒子を高濃度に含んだエアロゾルを得ることが出来る。
【0041】
<DMA>
DMA40(微分型電気移動度分級装置)は、上述の工程Aで得られた上記荷電粒子を、当該荷電粒子の電気移動度に基づいて分級する工程Bを行う装置である。DMA40は、円筒状の外側電極41aと内側電極41bとが中心軸を共有するように配置された二重円筒構造を備えている。この二重円筒構造の中心軸は水平方向に沿っている。スパッタリング装置30から供給される荷電粒子を含んだエアロゾルは、粒子導入口43aを介して外側電極41a・内側電極41b間の空間42内に導入される。
【0042】
荷電粒子の分級を行う際には、空間42内には、図2中の矢印の方向に沿ってシースガスが流されている。シースガスは、例えば、アルゴン、窒素等の不活性ガスである。なお、シースガスは、マスフローコントローラ12を介して、その流量を制御しながらDMA40に供給される。
【0043】
荷電粒子の分級を行う際には、外側電極41a・内側電極41b間には、電圧印加装置46によって所定の電圧が印加される。空間42内に導入された荷電粒子は、その電気移動度に基づいて分級される。より具体的には、所望する電気移動度を有する荷電粒子45(工程Bで得られるナノ粒子に相当)は、シースガスの流れ方向で下流側に位置する、内側電極41bのスリット43bを介して、粒子取出管44内に選択的に取り出される。
【0044】
DMA40は、二重弁構造81a・81bを介して真空ドライポンプ21に連結されている。真空ドライポンプ21を用いて真空引きをすることによって、空間42は高真空に維持されている。なお、荷電粒子を含んだエアロゾルを、スパッタリング装置30からDMA40へ効率的に取り込む観点では、DMA40の動作圧力は、スパッタリング装置の動作圧力と同等か、シースガス及びエアロゾルガスの所望する流量が得られる圧力であることが好ましい場合がある。なお、DMA40は、市場にて入手可能な装置を用いることもできる。
【0045】
DMA40では、スパッタリング装置30で製造された、荷電粒子を高濃度に含んだエアロゾルを直接取り込んで分級するため、サイズ選別されたナノ粒子を効率的に得ることができる(実施例も参照のこと)。
【0046】
<分析部>
DMA40の粒子取出管44内に選択的に取り出されたナノ粒子は、必要に応じて分析部に送られて分析がなされる。図1に示す製造装置では、分析部としてファラデーカップ電流計(FC)71と、水晶振動子マイクロバランス(QCM)51とを備えてなる。ファラデーカップ電流計71は、ナノ粒子の粒子帯電量濃度を正確に測定するためのものである。水晶振動子マイクロバランス51は得られるナノ粒子が水素吸蔵性のナノ粒子である場合に、その水素吸蔵能の分析を可能とするものである。水晶振動子マイクロバランス51は、使用/不使用を切り替えるため、弁82を介してDMAと連結されている。水晶振動子マイクロバランス51は、二重弁構造83a・83bを介して真空ドライポンプ22に連結されている。高精度な分析を実現するため、真空ドライポンプ22を用いて真空引きをすることによって、水晶振動子マイクロバランス51は極低圧に維持されている。
【0047】
(得られたナノ粒子を含んでなる製品)
本発明の一態様には、上述の方法で製造されたナノ粒子や当該ナノ粒子を含んでなる製品も含まれる。製品の種類は特に限定されないが、例えば、ナノ粒子を担持した触媒;水素フィルタ(ナノ粒子が水素吸蔵性を有する場合);等が挙げられる。
【0048】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴を更に具体的に説明する。本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0050】
〔実施例1〕
図1及び図2に示すのと同様の構成を持つナノ粒子の製造装置100を用いた。この装置内のスパッタリング装置30において、Mgの円盤をターゲット33とし、真空引きした内部空間34内にマスフローコントローラ(一つのみ図示)11を介してアルゴンガス(ガス圧480Pa、流量0.55slm)を導入し、直流放電(投入電力50W)によってスパッタリングを行った。これにより、スパッタリングカソードが位置する内部空間34内で、マグネシウムの荷電粒子を生成させた。図2に示す凝集長L1は25cmとした。スパッタリング装置30の動作圧力は、アルゴンガスのガス圧と同等と見做せる。
【0051】
冷媒槽内温度が、1)室温(25℃)、2)液体窒素による冷却開始直後、及び、3)液体窒素温度(-196℃)のそれぞれの場合に得られた荷電粒子について、DMA40を用いて粒子サイズ分布を測定した。
【0052】
DMA40によるサイズ分布測定において、スパッタリング装置30の粒子取出し口35から排出された荷電粒子を含むエアロゾルは、DMA40の粒子導入口43aから導入された。DMA40によるサイズ分布測定は、分級長18mm、シースガス(アルゴンガス)流量5(std L/min)の条件下で動作させたDMA40に、荷電粒子を含むエアロゾルガス流量が0.55(std L/min)で導入することにより行った。粒径が凡そ0~25nmまでの荷電粒子を捕捉するため、外側電極41a・内側電極41b間に印加する電圧は可変とし、0から25nmへ向けてスキャンした。なお、DMA40の動作圧力は480Paに保たれていた。
【0053】
結果を図3に示す。なお、スパッタリング装置30でスパッタリングを開始してから1分間に凡そ10ngのナノ粒子(DMAで分級された荷電粒子)が得られた。
なお、ナノ粒子の個数カウントは、ファラデーカップ電流計71を用いて行った。
【0054】
〔実施例2〕
ターゲット33として、面積比がMg:Ni=2:1の円板を使用し、アルゴンガスのガス圧を500Pa、アルゴンガスの流量を0.8slm、投入電力を70Wの条件でスパッタリングを行った以外は実施例1と同様にして、マグネシウム・ニッケル合金の荷電粒子を生成させた。なお、DMA40の動作圧力は500Paに保たれていた。
【0055】
冷媒槽内温度が、室温(25℃)、及び、液体窒素温度(-196℃)のそれぞれの場合に得られた荷電粒子について、実施例1と同様にして、粒子サイズ分布を測定した。結果を図4に示す。
【0056】
〔実施例3〕
ターゲット33として、Cuの円板を使用し、アルゴンガスのガス圧を430Pa、アルゴンガスの流量を0.5slm、投入電力を40Wの条件でスパッタリングを行った以外は実施例1と同様にして、銅の荷電粒子を生成させた。なお、DMA40の動作圧力は430Paに保たれていた。
【0057】
冷媒槽内温度が室温(25℃)の場合に得られた荷電粒子について、実施例1と同様にして、粒子サイズ分布を測定した。結果を図5に示す。
【0058】
〔実施例4〕
ターゲット33として、Alの円板を使用し、アルゴンガスのガス圧を430Pa、アルゴンガスの流量を0.5slm、投入電力を30Wの条件でスパッタリングを行った以外は実施例1と同様にして、アルミニウムの荷電粒子を生成させた。なお、DMA40の動作圧力は430Paに保たれていた。
【0059】
冷媒槽内温度が室温(25℃)の場合に得られた荷電粒子について、実施例1と同様にして、粒子サイズ分布を測定した。結果を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、より一層効率的なナノ粒子の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0061】
12 マスフローコントローラ
21、22 真空ドライポンプ
30 スパッタリング装置
31 移動機構
32a 供給口
32b 冷媒槽
91 配管
33 ターゲット
34 内部空間
37a 内筒
37b 外筒
38・39a 供給口
39b 流路
40 DMA
41a 外側電極
41b 内側電極
42 空間
43a 粒子導入口
43b スリット
44 粒子取出管
45 荷電粒子
46 電圧印加装置
51 水晶振動子マイクロバランス
61 圧力計
71 ファラデーカップ電流計
81a・81b 二重弁構造
83a・83b 二重弁構造
100 製造装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6