(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】非接触音響解析システム及び非接触音響解析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/12 20060101AFI20220805BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
G01N29/12
B64C39/02
(21)【出願番号】P 2018090807
(22)【出願日】2018-05-09
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】593232206
【氏名又は名称】学校法人桐蔭学園
(73)【特許権者】
【識別番号】000172813
【氏名又は名称】佐藤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(73)【特許権者】
【識別番号】521182515
【氏名又は名称】株式会社JDRONE
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】杉本 恒美
(72)【発明者】
【氏名】上地 樹
(72)【発明者】
【氏名】杉本 和子
(72)【発明者】
【氏名】歌川 紀之
(72)【発明者】
【氏名】黒田 千歳
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-138239(JP,A)
【文献】特開2016-125949(JP,A)
【文献】特開2010-019618(JP,A)
【文献】国際公開第2017/204050(WO,A1)
【文献】特開2016-130683(JP,A)
【文献】特開2015-224891(JP,A)
【文献】特開2014-106102(JP,A)
【文献】特開2017-194541(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0225509(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
B64B 1/00- 1/70
B64C 1/00-99/00
B64D 1/00-47/08
B64F 1/00- 5/60
B64G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の対象面に平面波音波を照射すること
によって前記対象面を加振させ、加振させた前記対象面の振動速度を計測することに基づいて前記構造物の内部に生じた欠陥部分を解析する非接触音響解析システムであって、
前記平面波音波を送出する音響発信源と、
前記音響発信源を搭載させた無人航空機と、
地上に設置され、前記対象面に観察波を照射して前記観察波の照射位置の
振動速度を計測する
レーザードップラ振動計と、
前記レーザードップラ振動計
によって計測された前記対象面の振動速度又は該振動速度に基づき算出された前記対象面の振動エネルギー比を、前記対象面の単位部位ごとに導出する解析装置と、
を備え、
前記無人航空機は、前記音響発信源が前記平面波音波を照射する前記対象面までの距離を計測する距離計と、前記対象面に照準点を指し示す照準ポインタと、を搭載しており、
前記レーザードップラ振動計は、
前記照準ポインタが指し示す前記照準点に合わせて、前記観察波の照射位置を手動又は自律的に追尾させる追尾機構を有しており、
前記無人航空機の飛行中に前記距離計によって計測された距離が所定範囲内であることを条件として、前記観察波の照射位置を前記照準点に追尾させることによって、複数の前記単位部位のそれぞれを加振させ、前記単位部位ごとの振動速度を計測し、
前記解析装置は、
前記対象面の単位部位ごとに前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比を導出し、導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比に基づいて前記構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力する
、
ことを特徴とする非接触音響解析システム。
【請求項2】
前記無人航空機が前記対象面の前方でホバリングして前記無人航空機から前記対象面までの距離が前記所定範囲内である間に前記照準ポインタが指し示す前記照準点の位置が前記対象面上で変化し、前記追尾機構によって前記観察波の照射位置を前記照準点に追尾させることによって、複数の前記単位部位のそれぞれを加振させ、前記単位部位ごとの振動速度を連続して計測する、
請求項1に記載の非接触音響解析システム。
【請求項3】
前記解析装置は、前記対象面の単位部位ごとに導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比を、各単位部位を座標位置とする平面画像に描画し、得られた前記平面画像を解析結果として出力する
請求項1又は2に記載の非接触音響解析システム。
【請求項4】
前記解析装置は、
導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比が所定の閾値以上である単位部位が連続的に存在している前記平面画像上の島部分を求め、
求めた前記島部分の大きさ又は形状のうち少なくとも一方に基づいて、前記島部分の内部側が前記構造物の欠陥部分であるか否かの良否判定を行い、前記良否判定の結果を解析結果として出力する
請求項3に記載の非接触音響解析システム。
【請求項5】
前記音響発信源は、送波時間間隔ごとに到来する1回の送出タイミングにおいて、前記送波時間間隔より短い時間長さであって且つ各々が異なる周波数であるトーンバースト波を複数含むマルチトーンバースト波を前記平面波音波として送出する
請求項1から4のいずれか一項に記載の非接触音響解析システム。
【請求項6】
前記音響発信源によって1回の送出タイミングに送出される前記マルチトーンバースト波を構成する各々の前記トーンバースト波の周波数が、所定の周波数間隔で連続的に変化する
請求項5に記載の非接触音響解析システム。
【請求項7】
前記音響発信源によって1回の送出タイミングに送出される前記マルチトーンバースト波を構成する各々の前記トーンバースト波が、次数が連続的に変化する高次高調波となるように配置されている
請求項5に記載の非接触音響解析システム。
【請求項8】
構造物の対象面に平面波音波を照射すること
によって前記対象面を加振させ、加振させた前記対象面の振動速度を地上に設置したレーザードップラ振動計を用いて計測することに基づいて前記構造物の内部に生じた欠陥部分を解析する非接触音響解析方法であって、
前記平面波音波を送出させる音響発信源と、前記音響発信源が前記平面波音波を照射する前記対象面までの距離を計測する距離計と、前記対象面に照準点を指し示す照準ポインタと、を搭載させた無人航空機を、前記対象面の前方に移動させる移動工程と、
前記音響発信源から前記平面波音波が照射される前記対象面までの距離を、前記無人航空機に搭載させた距離計を用いて計測する距離計測工程と、
前記距離計測工程において計測された距離が所定範囲内であることを条件として、前記レーザードップラ振動計から照射される観察波の照射位置を調整する照準位置調整工程と、
前記
音響発信源から前記平面波音波を送出させる音波送出工程と、
前記音波送出工程において前記音響発信源から送出された前記平面波音波が照射された前記対象面の振動速度を
、前記レーザードップラ振動計を用いて計測する振動速度計測工程と、
前記振動速度計測工程において計測された前記対象面の振動速度又は該振動速度に基づき算出した前記対象面の振動エネルギー比を、前記対象面の単位部位ごとに導出する導出工程と、
前記導出工程において導出された前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比に基づいて前記構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力する解析結果出力工程と、
を含
み、
前記レーザードップラ振動計は、前記照準ポインタが指し示す前記照準点に合わせて、前記観察波の照射位置を手動又は自律的に追尾させる追尾機構を有しており、
前記距離計測工程において計測された距離が所定範囲内であることを条件として、前記照準位置調整工程において前記観察波の照射位置を前記照準点に追尾させることによって、前記振動速度計測工程において複数の前記単位部位のそれぞれを加振させ、前記単位部位ごとの振動速度を計測する、
ことを特徴とする非接触音響解析方法。
【請求項9】
一回の前記移動工程及び前記距離計測工程に対して、前記照準位置調整工程と前記音波送出工程と前記振動速度計測工程を複数回繰り返すことによって、複数の前記単位部位のそれぞれを加振させ、前記単位部位ごとの振動速度を連続して計測する、
請求項8に記載の非接触音響解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音波を用いた非接触音響解析システム及び非接触音響解析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
平成20年度より、竣工から10年を経た建築物に対する全面打診等による点検調査が求められており、建築物等の点検調査の効率化を図ることを目的とした技術が種々検討されている。
【0003】
特許文献1には、浮上ロボット(いわゆるドローン)を用いて橋梁やトンネル、その他の高層建築物等を検査する検査装置及び検査方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている検査装置や検査方法は、浮上ロボットに搭載される検査手段として、近接撮影手段(ビデオカメラ等)、打音検査手段(ハンマー等)、超音波検査手段(超音波センサ等)、及び塗膜検査手段(渦流センサ等)が例示されている。
更に、特許文献1には、超音波検査手段を用いて検査する場合には、水やグリセリン等の媒体が使用できる場所では振動素子を用いた超音波センサを用い、それ以外の場所では電磁超音波センサを用いる旨が記載されている。
【0006】
上記のように、特許文献1に開示されている発明は、検査対象物が設置されている場所や検査対象物が置かれている状況に応じて、異なる検査手段を用いることが前提であるため、異なる環境において採取された検査結果を比較することが容易ではなく、建築物等の点検調査に用いる技術としては実用化に適していない。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、幅広い環境において点検調査が可能となる非接触音響解析システム及び非接触音響解析方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、構造物の対象面に平面波音波を照射することをもって前記構造物の内部に生じた欠陥部分を解析する非接触音響解析システムであって、前記平面波音波を送出する音響発信源と、前記対象面の振動速度を計測する計測器と、前記計測器によって計測された前記対象面の振動速度又は該振動速度に基づき算出された前記対象面の振動エネルギー比を、前記対象面の単位部位ごとに導出する解析装置と、を備え、前記解析装置は、前記音響発信源から送出された前記平面波音波が照射された前記対象面について導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比に基づいて前記構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力することを特徴とする非接触音響解析システムが提供される。
【0008】
また、本発明によれば、構造物の対象面に平面波音波を照射することをもって前記構造物の内部に生じた欠陥部分を解析する非接触音響解析方法であって、音響発信源から前記平面波音波を送出させる音波送出工程と、前記音波送出工程において前記音響発信源から送出された前記平面波音波が照射された前記対象面の振動速度を計測する振動速度計測工程と、前記振動速度計測工程において計測された前記対象面の振動速度又は該振動速度に基づき算出した前記対象面の振動エネルギー比を、前記対象面の単位部位ごとに導出する導出工程と、前記導出工程において導出された前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比に基づいて前記構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力する解析結果出力工程と、を含むことを特徴とする非接触音響解析方法が提供される。
【0009】
上記発明によれば、音響発信源から送出した平面波音波によって対象面を加振し、対象面におけるたわみ共振の程度を表すパラメータ(振動速度又は振動エネルギー比)を、対象面の単位部位ごとに導出した結果に基づいて検査対象の構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力する。
このように、平面波音波による加振によって生じるたわみ共振を原理とする手法である為、多用な環境で実施することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、幅広い環境において点検調査が可能となる非接触音響解析システム及び非接触音響解析方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の非接触音響検査システムの構成を示す説明図である。
【
図2】構造物、飛行体及び計測器の位置関係を示す模式図である。
【
図3】構造物の内部に埋め込んだ模擬欠陥の配置を示す断面図である。
【
図4】構造物の内部に埋め込んだ模擬欠陥の配置を示す断面図である。
【
図5】評価実験に用いた一つ目のマルチトーンバースト波の波形図である。
【
図6】
図5に示すマルチトーンバースト波を照射することによって計測した対象面の振動速度分布を示す図である。
【
図7】評価実験に用いた二つ目のマルチトーンバースト波の波形図である。
【
図8】
図7に示すマルチトーンバースト波を照射することによって計測した対象面の振動速度分布を示す図である。
【
図9】評価実験の手順を示すフローチャートである。
【
図10】観察波の入射角と対象面における観察波の照射点の位置関係を示す図である。
【
図12】観察波の入射角と対象面の振動振幅との関係性を示す図である。
【
図13】評価実験の手順の変更例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0013】
<本発明の原理>
図1は、本発明の実施形態の非接触音響解析システム(以下、「解析システム」と略記する場合がある)10の原理について説明する説明図である。
【0014】
解析システム10は、構造物1の対象面2に平面波音波12を照射することをもって構造物1の内部に生じた欠陥部分(例えば、欠陥部3の存在の有無等)を解析するシステムである。
解析システム10は、少なくとも以下の音響発信源11、計測器13、及び解析装置151を含むコンピュータ15を備える。
音響発信源11は、対象面2に対して平面波音波12を送出する。
計測器13は、対象面2の振動速度を計測する。
解析装置151は、計測器13によって計測された対象面2の振動速度又は該振動速度に基づき算出された対象面2の振動エネルギー比を、対象面2の単位部位ごとに導出する機能を有する。
なお、本実施形態における音響発信源11は、後述する飛行体20に搭載され、計測器13及び解析装置151は地上に設置される(飛行体20に搭載されない)ことを前提として、以下説明する。しかしながら、ここで述べた構成は一具体例であり、上記の計測器13又は解析装置151に相当する構成が、飛行体20に搭載されることを必ずしも否定するものではない。
【0015】
ここで対象面2の単位部位とは、解析装置151による振動速度又は振動エネルギー比の導出処理の対象となる最小範囲のことであり、解析結果として出力される平面画像における描画上の最小点と概ね等しい。従って、対象面2の単位部位は、解析装置151や計測器13の性能に依存して変化しうる。
【0016】
本実施形態における解析システム10は、上述の構成に加えて、任意波形発生装置17及びアンプ19を更に有している。なお、任意波形発生装置17及びアンプ19は、上述した音響発信源11と共に飛行体20に搭載されるものとして、以下説明する。しかしながら、ここで述べた構成は一具体例であり、任意波形発生装置17又はアンプ19については、本発明の実施において必須の構成ではなく、また必ずしも飛行体20に搭載されなくてもよい。
【0017】
本実施形態におけるコンピュータ15は、解析装置151に加えて制御装置152及び表示部153を含んでいる。
制御装置152は、飛行体20に搭載された任意波形発生装置17に対して無線通信によって制御信号を出力することによって、音響発信源11から送出される平面波音波12の周波数を自在に制御することができる。また、制御装置152は、任意波形発生装置17に対する制御信号と同期させて、計測器13に対して対象面2に係る振動速度の計測を開始させるトリガ信号を出力する。
表示部153には、後に説明する振動速度分布図や振動エネルギー比分布図等を表示することができる。ここで表示部153とはディスプレイ画面等を意味する。
【0018】
以下、解析システム10について更に詳細に説明する。
解析システム10によって解析される構造物1としては、例えば、コンクリート構造物(橋梁やトンネル等の建築物)が挙げられる。
詳細は後述するが、本実施形態では計測器13にレーザドップラ振動計を用いるので、100~150メートル程度離れている位置に存在する対象面2についても振動速度を計測可能であるため、構造物1が比較的大きな建築物であっても解析対象としうる。
【0019】
音響発信源11には、構造物1に面的に加振しうるフラットスピーカを好ましく用いることができる。フラットスピーカとしては、具体的に、エフ・ピー・エス社のFPS1030M3F1Rが挙げられる。音響発信源11には、フラットスピーカの他、パラメトリックスピーカも好ましく用いることができ、更にはラウドスピーカやパルスレーザ、高圧ガスガン、衝撃波管を用いることができる。
なお、本発明の実施において、飛行体20に搭載する音響発信源11の数やスピーカの角度等は特に限定されないが、飛行体20を安定的に飛行させる為、比較的軽量のものを用いることが好ましい。
【0020】
音響発信源11から対象面2に照射される平面波音波12は、所望の周波数(ω)に調整することができ、且つ、対象面2に係る振動速度が、計測器13によって測定できる程度に、対象面2に対して平行方向ではない方向(好ましくは、表面に対する垂直方向)へ振動させることができる音波であればよい。
音響発信源11から送出される平面波音波12は、空気中で振動振幅が減衰し難い可聴帯域の音波(音響波)が好ましい。超音波は空気中で振動振幅の減衰が大きいものの、音響発信源11が発する平面波音波12としての使用を排除するものではなく、音波には超音波を含む。平面波音波12の強度は、音響発信源11から構造物1へ当該平面波音波12を照射することで、構造物1の対象面2に90dB以上の音圧を発生させる強度であることが好ましく、100dB程度の音圧を発生させる強度であることがより好ましい。
【0021】
計測器13は、平面波音波12により加振された構造物1の振動を光学的に計測する手段である。本実施形態に用いられる計測器13は、構造物1の対象面2の振動速度を非接触で測定できるものであれば特に限定されず、レーザ変位計を用いることができ、レーザドップラ振動計であることが好ましい。
計測器13にレーザドップラ振動計を用いる場合、計測器13はレーザ(観察波131)を対象面2に照射する。平面波音波12が照射されて振動する対象面2で観察波131が反射されて計測器13の受光部(不図示)で受光されることにより、計測器13は対象面2の振動速度を計測する。この観察波131は、欠陥部3を内包する構造物1の振動状況を示す目的信号とも解される。計測器13で得られた対象面2の振動速度の計測データは解析装置151で解析するために用いられる。
【0022】
計測器13には、1回の計測で対象面2の1点における振動計測が可能なシングルレーザタイプのレーザ振動計を用いることも可能であるが、スキャニングレーザタイプのレーザ振動計を用いることが好ましい。スキャニング振動計であるレーザドップラ振動計としては、具体的に、ポリテックジャパン社製のPSV-500XtraやRSV-150等が挙げられる。
【0023】
解析装置151は、上述した欠陥部3に係る解析処理を行うことができるものであれば特に限定されず、本実施形態の解析システム10を実現するプログラムが格納された汎用コンピュータを用いることができる。
【0024】
任意波形発生装置17は、制御装置152の制御によって所望の周波数の音波を音響発信源11から発生させる装置である。言い換えると、制御装置152は、音響発信源11から平面波音波12が出力される時間関係を制御する手段である。任意波形発生装置17には、バースト波を発生可能な市販のファンクションジェネレータ等を用いることができる。
アンプ19に用いられる機器は特に限定されず、例えば、市販のオーディオアンプを用いることができる。
【0025】
制御装置152は、平面波音波12を特定時刻に限局して音響発信源11から出力させる。解析装置151は、計測器13の計測結果のうち構造物1が振動している時間帯を判定する。
【0026】
計測器13の受光部(不図示)には、構造物1の対象面2で反射した観察波131のほか、音響発信源11が発する平面波音波12の一部である直接音波121と、構造物1の表面で平面波音波12が反射した反射音波122とが入射する。直接音波121は音響発信源11から計測器13に直接に到達する平面波音波12であり、反射音波122は構造物1で反射して計測器13に到達する平面波音波12である。
計測器13に入射する直接音波121及び反射音波122は、計測器13を不要に振動させ、目的とする対象物(構造物1)の振動を検出する感度を低下させる要因になりうる。また、直接音波121や反射音波122が構造物1の周囲に存在する種々の部材(不図示)において反射することによって生じる多重反射波が計測器13に到達することも振動検出の感度を低下する要因になりうる。仮に、直接音波121、反射音波122及び多重反射波の影響が振動検出の感度低下を招く場合、これらの影響を低減させる対策を施すことが必要となり得る。
なお、以下の説明において、このような対策を不要信号対策と称して例示する。この不要信号対策は、本発明の実施において必ずしも適用されなくてもよく、本発明を実施する環境において許容される場合に適用すればよい。
【0027】
不要信号対策として、解析システム10に所望の周波数特性を持つ周波数ゲートを適用してもよい。ここで周波数ゲートとは、一部の周波数帯域を選択的に抽出又は除去する処理である。具体的な周波数ゲートとしては、計測器13がバンドパスフィルタを備えてもよく、又は解析装置151において周波数解析して振動速度の計測信号から不要信号を除去してもよい。
たとえば、音響発信源11によって送出される送波音波の周波数範囲及びその近傍帯域を抽出する周波数ゲートを、解析システム10に適用してもよい。或いは、構造物1の振動計測を繰り返し行うことにより不要信号の周波数帯域が経験的に定まる場合には、経験的に定められた当該周波数帯域を除去する周波数ゲートを用いてもよい。
【0028】
音響発信源11から構造物1の表面までの距離をd1とし、計測器13から、構造物1に対する観察波131の照射位置までの距離をd2とする。平面波音波12が音響発信源11より送出されてから構造物1の表面で反射して計測器13に到達するまでの距離はd1+d2となる。すなわち、平面波音波12が音響発信源11より送出されてから構造物1の表面に到達するまでの時間(以下、目標到達時間T1という場合がある)は、d1/音速(Vs)となる。
なお、観察波131(レーザ)の速度は音速に比べて十分に高いため、構造物1の表面の振動が開始する目標到達時間T1の直後から構造物1の振動計測を行うことができる。
【0029】
平面波音波12はバースト波であり、所定の送波時間間隔T0ごとに音響発信源11から送出される。各回の平面波音波12(以下、バースト群という場合がある)の送波時間間隔T0は一定であることが好ましい。平面波音波12はバースト波であるため、バースト群の一個あたりの時間長Taは送波時間間隔T0よりも当然に短い。
【0030】
構造物1の内側において、対象面2近傍にはく離欠陥や空洞欠陥が存在すると、対象面2はたわみ共振を起こしやすい状態になる。そこで、その欠陥に係るたわみ共振周波数を含む平面波音波を音響発信源11から対象面2に対して照射し、その対象面2においてたわみ共振が発生しているか否かを可視化するため、対象面2に係る振動速度分布図を作成することにより、対象面2の内側に欠陥が生じている箇所(欠陥部3)を検出することができる。
このとき、複数の共振周波数を有する欠陥が複合して存在していることが考えられるために、欠陥部3の可視化には振動速度分布だけではなく、振動エネルギー比とスペクトルエントロピーを用いた欠陥検出アルゴリズムも併用することにより明瞭に可視化を図ることができる。
【0031】
本発明者は、解析システム10に適用可能な平面波音波12の送信方法を二通り確立している。
一つ目の送信方法は、送波時間間隔T0ごとに周波数の異なる要素波形(トーンバースト波)を平面波音波として順次送信することによって、欠陥部3の解析に必要な周波数帯域をカバーする方法である。この送信方法では、十分な長さの送波時間間隔T0ごとに送出される個々の送波音波において周波数は一定である。便宜上、この送信方法によって送信される平面波音波をシングルトーンバースト波と呼ぶことにする。
二つ目の送信方法は、送波時間間隔T0ごとに到来する1回の送出タイミングにおいて、送波時間間隔T0より短い時間長さであって且つ各々が異なる周波数である要素波形(トーンバースト波)を複数含む平面波音波を送信することによって、欠陥部3の解析に必要な周波数帯域を1回の音波送信で複数の帯域にわたってカバーする方法である。便宜上、この送信方法によって送信される平面波音波をマルチトーンバースト波と呼ぶことにする。
【0032】
なお、対象面2の加振に用いる波形としては、上記のシングルトーンバースト波及びマルチトーンバースト波に限らず、衝撃波、ノイズ波及びチャープ波といった波形であっても、ごく浅い領域にある欠陥部3であれば探査可能であると思われる。
しかしながら、欠陥部3自体のたわみ共振を起こすという観点から見た場合には、共振周波数を含む信号波形の長さが短いと振動発生効率が落ちるためにS/N比の劣化を招くことになるため、上記のシングルトーンバースト波及びマルチトーンバースト波を用いた方が良好な結果が得られる。
【0033】
<解析システム10を用いた評価実験について>
以下、解析システム10を用いた評価実験について説明する。
図2は、構造物1、飛行体20及び計測器13の位置関係を示す模式図である。
図3及び
図4は、構造物1の内部に埋め込んだ模擬欠陥の配置を示す断面図である。
【0034】
ここで、本評価実験における解析システム10(解析装置151)は、飛行体20の飛行中に音響発信源11から送出された平面波音波12が照射された対象面2について導出した対象面2の振動速度又は対象面2の振動エネルギー比に基づいて構造物1の欠陥部分(欠陥部3)に係る解析結果を出力することを特徴とする。
即ち、飛行体20によって構造物1の対象面2に近づき、飛行体20に搭載した音響発信源11から平面波音波12を照射した対象面2を上記の原理に基づいて解析するので、たとえ高所等の人が立ち寄りがたい場所であっても、構造物1の内部(対象面2の近傍)に生じた欠陥部3を容易に検出することができる。
【0035】
本評価実験において解析対象となる構造物1は、その内部に模擬欠陥を埋設したタイル貼りの外壁供試体(
図3及び
図4参照)である。この外壁供試体の大きさは、幅200センチメートル×高さ160センチメートル×奥行き20センチメートルである。
ここで模擬欠陥とは人為的に作成した欠陥部であり、具体的には、0.5ミリメートル厚のスチレンシート31~34及び1ミリメートル厚の発泡シート35~38である。
スチレンシート31~34は、それぞれの中心が外壁供試体の上部から40センチメートルに位置し、且つ、それぞれの中心が40センチメートル間隔になるように配置されている。
発泡シート35~38は、それぞれの中心が外壁供試体の上部から70センチメートルに位置し、且つ、それぞれの中心が40センチメートル間隔になるように配置されている。
なお、
図3に図示するように、構造物1(外壁供試体)の内部には、スチレンシート31~34及び発泡シート35~38の他に、これらと同様の模擬欠陥39(4つのスチレンシートと4つの発泡シート)が埋設されているが、本評価実験では解析対象としなかった為、詳細な説明については省略する。
【0036】
スチレンシート31は一辺20センチメートルの正方形であり、スチレンシート32は一辺15センチメートルの正方形であり、スチレンシート33は一辺10センチメートルの正方形であり、スチレンシート34は一辺5センチメートルの正方形である。
ここで、
図4(a)にスチレンシート34の埋没状態を例示する。スチレンシート34は、母材(駆体コンクリート44)の表面に0.5ミリメートル厚の両面テープ45で貼り付けられており、その上からモルタル43で覆い、更にモルタル43の上には貼付モルタル42(又は接着剤)を塗布してタイル(例えば、タイル41a)を貼り付けている。従って、駆体コンクリート44からタイル41aの上面までの距離を10ミリメートルとすると、スチレンシート34の埋没深さはタイル41aの上面から約9ミリメートル程度である。なお、スチレンシート31~33の埋没状態及び埋没深さについても、スチレンシート34と概ね同じである。
【0037】
発泡シート35は一辺5センチメートルの正方形であり、発泡シート36は一辺10センチメートルの正方形であり、発泡シート37は一辺15センチメートルの正方形であり、発泡シート38は一辺20センチメートルの正方形である。
ここで、
図4(b)に発泡シート35の埋没状態を例示する。発泡シート35は、母材(駆体コンクリート44)の表面に直に接した状態においてモルタル43で覆われており、更にモルタル43の上には貼付モルタル42(又は接着剤)を塗布してタイル(例えば、タイル41b)を貼り付けている。従って、駆体コンクリート44からタイル41bの上面までの距離を10ミリメートルとすると、発泡シート35の埋没深さはタイル41bの上面から約9ミリメートル程度である。なお、発泡シート36~38の埋没状態及び埋没深さについても、発泡シート35と概ね同じである。
【0038】
なお、上記の説明では、駆体コンクリート44からタイル41a又はタイル41bの上面までの距離を10ミリメートルと説明したが、厳密には、モルタル43の厚さ及び貼付モルタル42に対するタイルの貫入厚さによって、場所ごとに異なりうる。
【0039】
本評価実験で用いる飛行体20は、無人航空機(Unmanned aerial vehicle、UAV)であり、一般的にはドローンとも称される。飛行体20のベース機体は、DJI社のMatrice600Proであり、機体下面に音響発信源11が搭載されている他に、不図示の照準用レーザポインタ及びレーザ距離計を搭載しているものである。無人航空機である飛行体20に音響発信源11を搭載して対象面2に対する計測を行う為、その対象面2が仮に高所等であっても仮設足場を設ける必要がなく、費用面及び作業の安全性において優れていると言える。
なお、ここで述べた構成は一具体例であり、飛行体20が有人航空機であることを必ずしも否定するものではなく、ここに挙げていない構成を飛行体20に搭載してもよい。
【0040】
飛行体20に搭載されているレーザ距離計は、音響発信源11が平面波音波12を照射する対象面2までの距離を計測するものである。
本評価実験における解析装置151は、飛行体20の飛行中にレーザ距離計によって計測された距離D1が所定範囲内(本評価実験では3メートル程度)であることを条件として、対象面2の単位部位ごとに対象面2の振動速度又は対象面2の振動エネルギー比を導出するものとする。対象面2に対する音圧を所定の水準(本評価実験では95dB程度)に維持した上で、対象面2の振動速度を計測するためである。
なお、飛行体20に搭載するレーザ距離計は、非接触に対象面2までの距離を計測可能であればよく、必ずしもレーザ式の距離計である必要はない。また、距離D1については、その測定条件(音響発信源11から送出する平面波音波12の強度等)に応じて適宜変更可能である。
【0041】
飛行体20に搭載されている照準用レーザポインタは、音響発信源11が平面波音波12を照射する対象面2に、照準点を指し示すものである。上述したように、本評価実験における計測器13は、対象面2に観察波131を照射して該対象面2の振動速度を計測するレーザードップラ振動計である。従って、レーザードップラ振動計から照射される観察波131の照射位置を、上記の照準レーザポインタが指し示す照準点の移動に合わせて追尾させることによって正確な計測を実現することができる為、計測器13は上記の追尾を実現する為の追尾機構(不図示)を設けることが好ましい。
ここで当該追尾機構は、人間が手動によって計測器13に係る観察波131の照射位置を照準点に合わせる為に設けられるものであってもよいし、自律的に計測器13に係る観察波131の照射位置を照準点に合わせるものであってもよい。
なお、飛行体20に搭載する照準用レーザポインタは、非接触に対象面2に照準点を指し示すことができればよく、必ずしもレーザ式のポインタである必要はない。
【0042】
次に、対象面2の加振用に用いた平面波音波12の波形について説明する。
本評価実験では、音響発信源11から対象面2までの距離D1は3メートル程度を想定するのに対して、計測器13から対象面2までの距離D2はより遠方(例えば、100~150メートル程度)に離間しても構わない。なお、距離D2の値が大きい場合は、平面波音波12の反射音波122が測定に与える影響が十分に小さいため、平面波音波12の送出間隔にインターバル時間を設ける等の対策は必要ない。従って、本評価実験における加振用波形としては、1回の音波送出で必要とされる周波数帯を全て含んだマルチトーンバースト波が、最も短時間で計測ができるために適していると思われる。
【0043】
図5に、本評価実験に用いた一つ目のマルチトーンバースト波の波形図を示す。また、このマルチトーンバースト波に含まれる周波数の詳細を表1に示す。表1に示すように、この波形には500Hzから4100Hzまでのトーンバースト波が200Hzおきで順番に約3ミリ秒の長さで配置されている。言い換えれば、音響発信源11によって1回の送出タイミングに送出されるマルチトーンバースト波を構成する各々の要素波形(トーンバースト波)の周波数が、所定の周波数間隔で連続的に変化することを特徴とする波形である。
このマルチトーンバースト波を利用すると、1つの測定点あたり60ミリ秒の加振時間で対象面2の振動速度を計測可能である為、極めて短時間(例えば81点で約21秒)で計測を行うことが可能である。
【0044】
【0045】
図5に示したマルチトーンバースト波を照射することによって計測した対象面2の振動速度分布を
図6に示す。
図6に示す通り、模擬欠陥中心のたわみ振動の様子が視覚化できていること(模擬欠陥中心部分ほど振動速度が大きいこと)がわかる。構造物1(外壁供試体)の近くに飛行体20を実際に飛ばした場合には、風等の影響で機体を完全に静止させることは困難である。しかしながら、本評価実験における測定原理は上記のように面的加振を利用しているために飛行体20の機体自体が多少揺れたとしても、短時間の計測であれば平面波音波12の照射領域がそれほど大きく変化しない。従って、対象面2の振動速度の計測及びそれに基づく欠陥部3の検出に支障をきたすことがない。
【0046】
このように本評価実験における解析装置151は、対象面2の振動速度を示す平面画像を解析結果として表示部153に出力することができる。より詳細には、解析装置151は、対象面2の単位部位ごとに導出した対象面2の振動速度を、各単位部位を座標位置とする平面画像に描画し、得られた平面画像を解析結果として出力することができる。
なお、解析装置151は、上記のような平面画像(対象面2の振動速度分布図)を表示部153に出力するのみならず、不図示の印刷手段によって印刷出力できてもよい。
【0047】
続いて、
図7に、本評価実験に用いた二つ目のマルチトーンバースト波の波形図を示す。また、このマルチトーンバースト波に含まれる周波数の詳細を表2に示す。表2に示すように、この波形では人為的に200Hzおきの300~4000Hzまでの長さ5ミリ秒のトーンバースト波が高次高調波をなるべく連続するようにして配置されている。言い換えれば、音響発信源11によって1回の送出タイミングに送出されるマルチトーンバースト波を構成する各々の要素波形(トーンバースト波)が、次数が連続的に変化する高次高調波となるように配置されていることを特徴とする波形である。
このマルチトーンバースト波を利用すると、1つの測定点あたり200ミリ秒の加振時間で対象面2の振動速度を計測可能である。
図5に示したマルチトーンバースト波を利用するよりも計測時間が長くなるものの、1回でより多くの周波数のトーンバースト波が送出されるので、より多くのたわみ共振周波数に係る欠陥部3を検出することができる。
【0048】
【0049】
構造物1(外壁供試体)の中央部に対面するように飛行体20を固定配置した状態において、
図7に示したマルチトーンバースト波を構造物1の対象面2を網羅的に照射することによって計測した対象面2の振動エネルギー比分布を
図8に示す。
図8に示す通り、構造物1に内包させた模擬欠陥の多くについて、たわみ振動の様子が視覚化できていることがわかる。即ち、外壁タイルの剥離といった対象面2からごく浅い位置に生じた欠陥であるならば、特に音響発信源11が正確に正対していなくても欠陥部3が音波照射領域に入っていれば、比較的広い領域を一気に計測可能であることがわかる(本評価実験では1015点の計測を行っているので計測時間は約7分)。
【0050】
このように本評価実験における解析装置151は、対象面2の振動エネルギー比を示す平面画像を解析結果として表示部153に出力することができる。より詳細には、解析装置151は、対象面2の単位部位ごとに導出した対象面2の振動エネルギー比を、各単位部位を座標位置とする平面画像に描画し、得られた平面画像を解析結果として出力することができる。
なお、解析装置151は、上記のような平面画像(対象面2の振動エネルギー比分布図)を表示部153に出力するのみならず、不図示の印刷手段によって印刷出力できてもよい。
【0051】
なお、
図7のマルチトーンバースト波を使用する場合において、加振力を高めるために各トーンバースト波のバースト長を5ミリ秒としたが、欠陥部3の位置がごく浅い状況であればより短いバースト長(例えば、3ミリ秒)であってもよい。この場合、1つの測定点あたり加振時間がより短く(約115ミリ秒)なるので、同じ数の測定点について測定したとしても計測時間は5.4分程度に短縮可能である。更に言えば、マルチトーンバースト波に含まれる周波数範囲を減らしたり、測定点を少なくしたりすることで計測時間をさらに短縮することが可能である。
【0052】
<本評価実験の手順について>
図9は、上述した本評価実験の手順を示すフローチャートである。このフローチャートは、構造物1の対象面2に平面波音波12を照射することをもって構造物1の内部に生じた欠陥部分(欠陥部3)を解析する非接触音響解析方法の手順とも言える。
【0053】
先ず、飛行体20を、点検対象の構造物1の前方まで移動させる(ステップS11;飛行体移動工程)。なお、飛行体20は、上述したように無人航空機であって、音響発信源11、照準レーザポインタ(不図示)、及びレーザ距離計(不図示)を搭載している。
飛行体20が所定の計測エリア(対象面2)の前方に位置するまで(ステップS12のNO)、飛行体20の移動を継続し、飛行体20が所定の計測エリアの前方に位置した時点でホバリング(空中停止)する(ステップS12のYES)。
【0054】
次に、音響発信源11から平面波音波12が照射される対象面2までの距離を、飛行体20に搭載させたレーザ距離計を用いて計測する(ステップS13;距離計測工程)。
ステップS13において計測された距離が所定範囲内であること(ステップS14のYES)を条件として次の工程(ステップS15)に進み、所定範囲外である場合(ステップS14のNO)には前述したステップS11に戻り、飛行体20(音響発信源11)と対象面2との距離を調整する。
ここで後述する導出工程(ステップS19)に進む為には、ステップS14がYESとなることを条件としているので、導出工程は、ステップS13において計測された距離が所定範囲内であることを条件として、対象面2の単位部位ごとに対象面2の振動速度又は対象面2の振動エネルギー比を導出しているものと言える。
【0055】
ステップS11~S14を経て飛行体20のホバリング位置が定まると、上記の追尾機構(不図示)を用いる等して手動又は自律的に計測器13を動かし、計測器13(レーザードップラ振動計)から照射される観察波131の照射位置を照準ポインタが指し示す照準点に合わせて調整する(ステップS15;照準位置調整工程)。
ステップS15において調整された観察波131の照射位置が、照準点を基準として計測可能な範囲内であること(ステップS16のYES)を条件として次の工程(ステップS17)に進み、範囲外である場合(ステップS16のNO)には前述したステップS15に戻り、再び観察波131の照射位置を照準点に合わせるように調整する。
これにより、後述する振動速度計測工程(ステップS18)では、ステップS15で調整した照射位置に対してレーザードップラ振動計を用いて対象面2の振動速度を計測することができる。
【0056】
次に、制御装置152は任意波形発生装置17を制御して、飛行体20に搭載させた音響発信源11から平面波音波12を送出させる(ステップS17;音波送出工程)。
計測器13は、ステップS17において音響発信源11から送出された平面波音波12が照射された対象面2の振動速度を計測する(ステップS18;振動速度計測工程)。
解析装置151は、ステップS18において計測された対象面2の振動速度又は該振動速度に基づき算出した対象面2の振動エネルギー比を、対象面2の単位部位ごとに導出する(ステップS19;導出工程)。
【0057】
ステップS18における計測点が最終の計測点であれば(ステップS20のYES)を条件として次の工程(ステップS21)に進み、最終の計測点ではない場合(ステップS20のNO)には前述したステップS11に戻り、新たな計測点の前方まで飛行体20を移動させて該計測点に係る測定を行う。
全ての計測点について測定を終えた後に、解析装置151は、ステップS19において導出された対象面2の振動速度又は対象面2の振動エネルギー比に基づいて構造物1の欠陥部分(欠陥部3)に係る解析結果を出力する(ステップS21;解析結果出力工程)。
【0058】
以上のような手順を踏むことによって、幅広い環境において点検調査が可能となる非接触音響解析方法を実現することができる。
なお、上記の手順は、本発明に係る非接触音響解析方法を実施する手順の一具体例に過ぎず、本発明の目的を達成する範囲内において一部の工程を省略したり、一部の工程の順序を入れ替えたり、一部の工程を並行して進めたり、ここで記載していない別の工程を追加したりしてもよい。
【0059】
<観察波131の入射角と対象面2の振動振幅の関係について>
上記の評価実験では、音響発信源11は飛行体20に搭載しているので、対象面2に対して正対する位置から平面波音波12を照射させることができる一方、計測器13(レーザードップラ振動計)は地上に設置しているため、対象面2に対して斜の位置から観察波131を照射させることになる。
この点を鑑みて、観察波131の入射角と対象面2の振動振幅の関係について検証する為、追加の実験(以下、追加実験と称する)を行った。
【0060】
観察波131の入射角と、対象面2における観察波131の照射点(反射源21)の位置関係を
図10に示す。ここで、観察波131の入射角をθ、振動振幅をε
0とすると、黒点にて示す反射源21は、観察波131に対してε(θ)の距離変化を与えることとなる。従って、観察波131の入射角θと振動振幅の計測値ε(θ)との関係は次の式(1)となることが予想される。
【数1】
【0061】
図11は、追加実験の構成を示す構成図である。
構造物1(コンクリート供試体)から音響発信源11までの距離D3を5メートル、構造物1から計測器13までの距離D4を5.4メートルとし、計測器13から照射される観察波131の入射角θを変化させた場合における対象面2の振動振幅(計測器13の計測結果)の変化を観察した。
なお、構造物1には対象面2から50ミリメートルの深さに30センチメートル角の発泡スチロール(不図示)が埋設されており、これを模擬欠陥とする。
また、構造物1の対象面2付近における平面波音波12の音圧は100dBに設定した。
【0062】
図12は、観察波131の入射角θと対象面2の振動振幅との関係性を示す図である。なお、
図12中の破線で示す曲線は、上述した式(1)に基づいて導出される理論値である。
図12に示す通り、観察波131が対象面2から60°近くの角度が付いても概ね理論値に近似する計測値が得られる為、特に問題なく計測可能であることが明らかになった。当然の事ながら入射角θが変化することにより検出される振幅の大きさは変化していくが、本発明では相対的な分布が検出できれば欠陥検出には問題ないといえる。また、観察波131の角度依存性は計測対象となる構造物1にも依存するわけであるが、コンクリートやタイル等のように観察波131が当たった場合に散乱光を発するような表面粗さを持つものであれば同様な傾向を示すことが想定される。ただし、鏡のように観察波131を完全反射するような物体を計測対象とした場合、戻り光が全く無いために計測不能となる。
【0063】
<本発明の変形例について>
ここまで
図1から
図12を用いて説明される実施例に即して本発明を説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。
【0064】
上記の実施例では、音響発信源11、照準レーザポインタ(不図示)、及びレーザ距離計(不図示)を飛行体20に搭載させることを前提として説明したが、本発明の実施はこれに限られない。
例えば、構造物1の対象面2の付近に仮設足場を組む等して、上に列挙した構成及び作業員をその仮設足場に配置することによっても、本発明に係る非接触音響解析システム及び非接触音響解析方法を実施することができる。
【0065】
上記の実施例では、解析装置151によって行われる解析処理は、対象面2の単位部位ごとに導出した対象面2の振動速度又は対象面2の振動エネルギー比を描画した平面画像を解析結果として出力するのみであり、その良否の判断は目視確認に委ねる内容であった。この処理に合わせて、又はこの処理に代えて、解析装置151は、得られた平面画像に対する画像処理によって構造物1の欠陥部分に係る良否判定を行ってもよい。
例えば、解析装置151は、導出した対象面2の振動速度又は対象面2の振動エネルギー比が所定の閾値以上である単位部位が連続的に存在している平面画像上の島部分を求め、求めた島部分の大きさ又は形状のうち少なくとも一方に基づいて、島部分の内部側が構造物1の欠陥部分であるか否かの良否判定を行い、良否判定の結果を解析結果として出力してもよい。
【0066】
上記の実施例では、
図9に図示した手順で評価実験(本発明に係る非接触音響解析方法)を行う旨を説明したが、別の手順(例えば、
図13に図示した手順)でも同様の評価実験を実施することができる。
ステップS31~S36については、上述したステップS11~S16の手順と同様なので、詳細な説明については省略する。
【0067】
次に、制御装置152は任意波形発生装置17を制御して、飛行体20に搭載させた音響発信源11から平面波音波12を送出させる。このとき、音響発信源11は、ステップS17より比較的広い計測エリアを対象面2として平面波音波12を照射する(ステップS37)。
計測器13(レーザドップラ振動計)は、ステップS37において平面波音波12が照射された対象面2を走査(スキャン)して連続する計測点(連続N点)に対して振動速度を計測する(ステップS38)。
ステップS38における計測点が最終の計測点であれば(ステップS39のYES)を条件として次の工程(ステップS40)に進み、最終の計測点ではない場合(ステップS39のNO)には前述したステップS35に戻り、飛行体20のホバリング位置については維持させたまま、計測器13を動かして観察波131の照射位置を調整する。
【0068】
続いて、ステップS35~S39を繰り返すことによって取得された計測データを、所定の記憶装置(不図示)に保存する(ステップS40;データ保存工程)。
ここで、次の計測エリアが存在するのであれば、飛行体20のホバリング位置を変更する為、次の計測エリアに移動し(ステップS41のYES)、全ての計測エリアについて計測データを収集したのであれば(ステップS41のNO)、解析装置151がデータ解析を行って評価実験を終了する(ステップS42;データ解析工程)。
なお、データ解析工程とは、上述した導出工程(ステップS20)及び解析結果出力工程(ステップS21)を包含する手順である。
【0069】
上述した
図13に示した手順は、計測エリアの前方(好ましくは中央前方)に飛行体20のホバリング位置を一度決めたら、音響発信源11の指向角内(測定可能領域)に計測器13の計測位置がある限り、そのまま一気に計測してしまい、その計測エリアにおいて計測データを全て取り終えたら、次の計測エリアの前方に飛行体20を移動させて同じ手順を繰り返す方法と言い換えることができる。
飛行体20のホバリング位置を調整する手順(ステップS31~S34)には比較的時間と手間が掛かる。上述した変形例に係る手順は、飛行体20の位置調整に係る手順の回数の最少化を図ることができ、評価実験全体としての時間と手間を低減させるというメリットがある。
この変形例に係る手順は比較的広い計測エリアを一気に計測することができる為、
図7や
図8を用いて説明した、マルチトーンバースト波を構造物1の対象面2を網羅的に照射する解析方法(外壁タイルの剥離といった対象面2からごく浅い位置に生じた欠陥について解析する方法)に好ましく適用可能な手順であると言える。
【0070】
本実施形態は以下の技術思想を包含するものである。
(1)構造物の対象面に平面波音波を照射することをもって前記構造物の内部に生じた欠陥部分を解析する非接触音響解析システムであって、前記平面波音波を送出する音響発信源と、前記対象面の振動速度を計測する計測器と、前記計測器によって計測された前記対象面の振動速度又は該振動速度に基づき算出された前記対象面の振動エネルギー比を、前記対象面の単位部位ごとに導出する解析装置と、を備え、前記解析装置は、前記音響発信源から送出された前記平面波音波が照射された前記対象面について導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比に基づいて前記構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力することを特徴とする非接触音響解析システム。
(2)前記解析装置は、前記対象面の単位部位ごとに導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比を、各単位部位を座標位置とする平面画像に描画し、得られた前記平面画像を解析結果として出力する(1)に記載の非接触音響解析システム。
(3)前記解析装置は、導出した前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比が所定の閾値以上である単位部位が連続的に存在している前記平面画像上の島部分を求め、求めた前記島部分の大きさ又は形状のうち少なくとも一方に基づいて、前記島部分の内部側が前記構造物の欠陥部分であるか否かの良否判定を行い、前記良否判定の結果を解析結果として出力する(2)に記載の非接触音響解析システム。
(4)前記音響発信源は、送波時間間隔ごとに到来する1回の送出タイミングにおいて、前記送波時間間隔より短い時間長さであって且つ各々が異なる周波数であるトーンバースト波を複数含むマルチトーンバースト波を前記平面波音波として送出する(1)から(3)のいずれか一つに記載の非接触音響解析システム。
(5)前記音響発信源によって1回の送出タイミングに送出される前記マルチトーンバースト波を構成する各々の前記トーンバースト波の周波数が、所定の周波数間隔で連続的に変化する(4)に記載の非接触音響解析システム。
(6)前記音響発信源によって1回の送出タイミングに送出される前記マルチトーンバースト波を構成する各々の前記トーンバースト波が、次数が連続的に変化する高次高調波となるように配置されている(4)に記載の非接触音響解析システム。
(7)前記音響発信源が無人航空機に搭載されている(1)から(6)のいずれか一つに記載の非接触音響解析システム。
(8)前記無人航空機は、前記音響発信源が前記平面波音波を照射する前記対象面までの距離を計測する距離計を搭載しており、前記解析装置は、前記無人航空機の飛行中に前記距離計によって計測された距離が所定範囲内であることを条件として、前記対象面の単位部位ごとに前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比を導出する(7)に記載の非接触音響解析システム。
(9)前記無人航空機は、前記音響発信源が前記平面波音波を照射する前記対象面に、照準点を指し示す照準ポインタを搭載しており、前記計測器は、前記対象面に観察波を照射して該対象面の振動速度を計測するレーザードップラ振動計であり、前記レーザードップラ振動計から照射される前記観察波の照射位置を、前記照準ポインタが指し示す前記照準点の移動に合わせて追尾させる追尾機構を備えている(7)又は(8)に記載の非接触音響解析システム。
(10)構造物の対象面に平面波音波を照射することをもって前記構造物の内部に生じた欠陥部分を解析する非接触音響解析方法であって、音響発信源から前記平面波音波を送出させる音波送出工程と、前記音波送出工程において前記音響発信源から送出された前記平面波音波が照射された前記対象面の振動速度を計測する振動速度計測工程と、前記振動速度計測工程において計測された前記対象面の振動速度又は該振動速度に基づき算出した前記対象面の振動エネルギー比を、前記対象面の単位部位ごとに導出する導出工程と、前記導出工程において導出された前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比に基づいて前記構造物の欠陥部分に係る解析結果を出力する解析結果出力工程と、を含むことを特徴とする非接触音響解析方法。
(11)前記音響発信源が無人航空機に搭載されている(10)に記載の非接触音響解析方法。
(12)前記音響発信源から前記平面波音波が照射される前記対象面までの距離を、前記無人航空機に搭載させた距離計を用いて計測する距離計測工程を含み、前記導出工程では、前記距離計測工程において計測された距離が所定範囲内であることを条件として、前記対象面の単位部位ごとに前記対象面の振動速度又は前記対象面の振動エネルギー比を導出する(11)に記載の非接触音響解析方法。
(13)前記無人航空機は、前記音響発信源が前記平面波音波を照射する前記対象面に、照準点を指し示す照準ポインタを搭載しており、レーザードップラ振動計から照射される観察波の照射位置を前記照準ポインタが指し示す前記照準点に合わせて調整する照準位置調整工程を含み、前記振動速度計測工程では、前記照準位置調整工程で調整した前記レーザードップラ振動計を用いて前記対象面の振動速度を計測する(11)又は(12)に記載の非接触音響解析方法。
【符号の説明】
【0071】
1 構造物
2 対象面
3 欠陥部
10 解析システム
11 音響発信源
12 平面波音波
13 計測器
15 コンピュータ
17 任意波形発生装置
19 アンプ
20 飛行体
21 反射源
31~34 スチレンシート
35~38 発泡シート
39 模擬欠陥
41a、41b タイル
42 貼付モルタル
43 モルタル
44 駆体コンクリート
45 両面テープ
121 直接音波
122 反射音波
131 観察波
151 解析装置
152 制御装置
153 表示部