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特許7117792酵素法によってR-3-アミノ酪酸を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】酵素法によってR-3-アミノ酪酸を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/60 20060101AFI20220805BHJP
   C12N 15/61 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220805BHJP
   C12P 13/04 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 9/88 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 9/90 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C12N15/60
C12N15/61
C12N1/21 ZNA
C12N1/15
C12N1/19
C12P13/04
C12N9/88
C12N9/90
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020517977
(86)(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 CN2018092010
(87)【国際公開番号】W WO2019062222
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2020-05-27
(31)【優先権主張番号】201710906645.5
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】519409383
【氏名又は名称】▲奕▼柯莱生物科技(上海)股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】ABIOCHEM BIOTECHNOLOGY Co.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫 伝民
(72)【発明者】
【氏名】程 占氷
(72)【発明者】
【氏名】焦 江華
(72)【発明者】
【氏名】丁 少南
(72)【発明者】
【氏名】田 振華
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-189863(JP,A)
【文献】VOGEL A. et al.,ChemCatChem,2014年,6,p.965-968, Supporting Information
【文献】ASANO Y. et al.,Biomolecular Engineering,2005年,22,p.95-101
【文献】WANG L. et al.,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2000年,276,p.346-349
【文献】ZHANG H. et al.,Biochem. Biophys. Res. Commun.,1993年,Vol.192 No.1,p.15-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
C12N 9/00- 9/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
R-3-アミノ酪酸を生産する方法であって、
(1)反応系において、クロトン酸を基質とし、アスパルターゼによる触媒下で、反応式Iで表される立体異性化触媒反応を行うことにより、R-3-アミノ酪酸を形成する工程、
【化9】
(2)任意に前記工程(1)の反応後の反応系からR-3-アミノ酪酸を分離する工程を含み、
ここで、前記アスパルターゼは大腸菌由来のものであること、
前記アスパルターゼは、配列番号5に示される野生型アスパルターゼに相応するアミノ酸配列に、個から4個のアミノ酸の突然変異を有する突然変異体であり、前記アミノ酸の突然変異は、204番目のスレニオン(T)、338番目のメチオニン(M)、341番目のリシン(K)、343番目のアスパラギン(N)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものであること 、及び
前記突然変異体における突然変異は、T204C、M338I、K341M、N343C、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものである こと、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記突然変異体における突然変異は、K341Mと、T204C、M338I、N343Cからなる群から選ばれる2個または3個の組み合わせであることを特徴とする請求項に記載の方法。
【請求項3】
アスパルターゼの使用であって、以下の立体異性化触媒反応の触媒に使用される製剤の製造に使用され、
【化10】
ここで、前記アスパルターゼは大腸菌由来のものであること、
前記アスパルターゼは、配列番号5に示される野生型アスパルターゼに相応するアミノ酸配列に、個から4個のアミノ酸の突然変異を有する突然変異体であり、前記アミノ酸の突然変異は、204番目のスレニオン(T)、338番目のメチオニン(M)、341番目のリシン(K)、343番目のアスパラギン(N)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものであること 、及び
前記突然変異体における突然変異は、T204C、M338I、K341M、N343C、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものであること、
を特徴とする使用。
【請求項4】
R-3-アミノ酪酸生産菌株であって、外来の大腸菌由来のアスパルターゼであるポリペプチドを発現し、かつ以下の立体異性化触媒反応の触媒に使用されること、
【化11】
前記アスパルターゼは、配列番号5に示される野生型アスパルターゼに相応するアミノ酸配列に、個から4個のアミノ酸の突然変異を有する突然変異体であり、前記アミノ酸の突然変異は、204番目のスレニオン(T)、338番目のメチオニン(M)、341番目のリシン(K)、343番目のアスパラギン(N)、及びこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものであること 、及び
前記突然変異体の突然変異は、T204C、M338I、K341M、N343C、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものであること
を特徴とする菌株。
【請求項5】
R-3-アミノ酪酸を生産する方法であって、
1) 生産条件で請求項4に記載の生産菌株を培養することにより、R-3-アミノ酪酸を得る工程、
2) 任意に、1)の培養系からR-3-アミノ酪酸を分離する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
立体異性化触媒活性を有するアスパルターゼであって、アミノ酸配列が配列番号3で示されることを特徴とするアスパルターゼ。
【請求項7】
請求項6に記載のアスパルターゼをコードすることを特徴とする、ポリヌクレオチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術の分野に属し、具体的に、酵素法によってR-3-アミノ酪酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドルテグラビル(Dolutegravir)は、グラクソ・スミスクライン社の抗HIV新薬で、2013年にFDAによって市販が許可され、この薬物の画期性が認められた。R-3-アミノ酪酸はドルテグラビルの生産における重要な中間体で、現在、既存の製造方法は主に化学合成法および酵素触媒法がある。
【0003】
化学合成法は、たとえばTetrahedron: Asymmetry 18 (2007) 1554-1566では、ホルムアルデヒドを原料とし、ホーナー・ワズワース・エモンズ(Horner-Wadsworth-Emmons)反応を経て2-クロトン酸t-ブチルを得、さらに付加し、触媒水素化を行い、R-3-アミノ酪酸t-ブチルを得、最後に加水分解してR-3-アミノ酪酸を得ることができると報告された。しかし、この反応は-78℃の低温環境が必要で、反応条件が厳しく、操作が困難である。
【0004】
【化1】
【0005】
また、たとえば中国特許出願公報CN104370755では、アセト酢酸エチルを原料とし、アセトアミドと縮合し、不斉水素化し、さらに加水分解を経てR-3-アミノ酪酸を得る方法が公開されたが、この方法は高価な不斉水素化触媒が必要で、生産コストが高く、重金属汚染があり、産業化大規模生産に不利である。
【0006】
【化2】
【0007】
酵素触媒法は、たとえばChemCatChem 2016, 8, 1226-1232では、ラセミ体の3-アミノ酪酸t-ブチルを原料とし、カンジダ・アンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼA(CLA-A)による立体選択的触媒を経てR型3-ブチリルアミノ酪酸t-ブチルを得、さらにCAL-Aの触媒によって加水分解してR-3-アミノ酪酸を得ることが報告された。しかし、この方法は転換率が低く、未反応の原料が無駄になる。
【0008】
【化3】
【0009】
さらに、ChemCatChem,2014,6,965-968では、バチルス菌YM55-1由来のアスパルターゼの突然変異体BSASP-C6の触媒によってクロトン酸からR-3-アミノ酪酸を製造する方法が報告されたが、この方法では、100時間の反応の転換率がわずか60%で、反応時間が長く、転換率が低く、かつ反応時間の増加につれ、産物のee値が低下する。
【0010】
そのため、本分野では、環境にやさしく、効率的で、高立体選択的なR-3-アミノ酪酸の製造方法の開発が切望されている。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、R-3-アミノ酪酸のee値、転換率を顕著に向上させ、反応時間を短縮させることができる、効率的で、高立体選択的なR-3-アミノ酪酸の製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明の第一の側面は、R-3-アミノ酪酸を生産する方法であって、
(1)反応系において、クロトン酸を基質とし、アスパルターゼによる触媒下で、反応式Iで表される立体異性化触媒反応を行うことにより、R-3-アミノ酪酸を形成する工程を有することを特徴とする。
【0013】
【化4】
【0014】
(2)任意に前記工程(1)の反応後の反応系からR-3-アミノ酪酸を分離する工程を含み、
ここで、前記アスパルターゼは大腸菌由来のものである方法を提供する。
【0015】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは野生型または突然変異体である。
【0016】
もう一つの好適な例において、前記R-3-アミノ酪酸のee値は≧99.5%、好ましくは≧99.7%、より好ましくは≧99.8%、最も好ましくは≧99.9%である。
【0017】
もう一つの好適な例において、前記反応の転換率は≧90%、好ましくは≧95%、より好ましくは≧98%、さらに好ましくは≧99%、最も好ましくは100%である。
【0018】
もう一つの好適な例において、前記突然変異体は、野生型アスパルターゼに相応するアミノ酸配列に、204番目のスレニオン(T)、338番目のメチオニン(M)、341番目のリシン(K)、343番目のアスパラギン(N)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれるアミノ酸の突然変異が存在する。
【0019】
もう一つの好適な例において、前記突然変異体における突然変異は、T204C、M338I、K341M、N343C、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0020】
もう一つの好適な例において、前記野生型アスパルターゼのアミノ酸配列は配列番号5で示される。
【0021】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは、
(a) アミノ酸配列が配列番号5で示されるポリペプチド、
(b) アミノ酸配列が配列番号3で示されるポリペプチド、あるいは
(c) 配列番号5または配列番号3で示されるアミノ酸配列が1個または複数個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、さらに好ましくは1~10個、またさらに好ましくは1~8個、一層さらに好ましくは1~3個、最も好ましくは1個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなるもので、(a)または(b)に記載のポリペプチドの機能を有する、配列番号5または配列番号3で示されるアミノ酸配列のポリペプチドから誘導されたポリペプチドからなる群から選ばれる。
【0022】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼのアミノ酸配列は配列番号5または配列番号3で示される配列と、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する。
【0023】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは、静止細胞、菌体、粗製酵素液、精製酵素、粗製酵素粉、固定化酵素、遊離酵素、醗酵液、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる形態である。
【0024】
もう一つの好適な例において、前記反応系では、前記アスパルターゼの濃度は0.5~5U/mLである。
【0025】
もう一つの好適な例において、前記反応系では、前記クロトン酸の濃度は100mM~1000mMである。
【0026】
もう一つの好適な例において、前記反応系では、さらにアンモニウム源が存在する。
【0027】
もう一つの好適な例において、前記アンモニウム源は、アンモニア水、NH4+塩(たとえばNHCl)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0028】
もう一つの好適な例において、前記アンモニウム源とクロトン酸のモル比は、1:1~1:3である。
【0029】
もう一つの好適な例において、工程(a)では、反応系のpHは、7.0~9.5、好ましくは7.5~9.0、より好ましくは8.0~8.5である。
【0030】
もう一つの好適な例において、工程(a)では、反応温度は、20~60℃、好ましくは30~50℃、より好ましくは35~45℃である。
【0031】
もう一つの好適な例において、工程(i)では、反応時間は、0.5h~72h、好ましくは2h~48h、より好ましくは4h~24hである。
【0032】
本発明の第二の側面は、アスパルターゼの使用であって、以下の立体異性化触媒反応の触媒に使用される製剤の製造に使用され、
【化5】
ここで、前記アスパルターゼは大腸菌由来のものの使用を提供する。
【0033】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは野生型または突然変異体である。
【0034】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは、本発明の第一の側面で定義された通りである。
【0035】
本発明の第三の側面は、R-3-アミノ酪酸生産菌株であって、外来の大腸菌由来のアスパルターゼであるポリペプチドを発現し、かつ以下の立体異性化触媒反応の触媒に使用される菌株を提供する。
【0036】
【化6】
【0037】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは野生型または突然変異体である。
【0038】
もう一つの好適な例において、前記突然変異体は、野生型アスパルターゼに相応するアミノ酸配列に、204番目のスレニオン(T)、338番目のメチオニン(M)、341番目のリシン(K)、343番目のアスパラギン(N)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれるアミノ酸の突然変異が存在する。
【0039】
もう一つの好適な例において、前記の突然変異は、T204C、M338I、K341M、N343C、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0040】
もう一つの好適な例において、前記生産菌株は細菌である。好ましくは、前記生産菌株は大腸菌である。より好ましくは、前記生産菌株はE.coli BL21(DE3)である。
【0041】
本発明の第四の側面は、R-3-アミノ酪酸を生産する方法であって、
1) 生産条件で本発明の第三の側面に記載の生産菌株を培養することにより、R-3-アミノ酪酸を得る工程、
2) 任意に、1)の培養系からR-3-アミノ酪酸を分離する工程を含む方法を提供する。
【0042】
本発明の第五の側面は、立体異性化触媒活性を有するアスパルターゼであって、アミノ酸配列が配列番号3で示されるアスパルターゼを提供する。
【0043】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは、菌体、粗製酵素液、精製酵素、粗製酵素粉、固定化酵素、遊離酵素、醗酵液、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる形態である。
【0044】
本発明の第六の側面は、本発明の第五の側面に記載のアスパルターゼをコードするポリヌクレオチドを提供する。
【0045】
もう一つの好適な例において、前記ポリヌクレオチドは、
(a) 配列番号3で示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(b) 配列が配列番号4で示されるポリヌクレオチド、
(c) ヌクレオチド配列の配列番号4で示される配列との相同性が≧95%(好ましくは≧98%、より好ましくは≧99%)で、かつ配列番号3で示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、
(d) (a)~(c)のいずれかに記載のポリヌクレオチドと相補的なポリヌクレオチドからなる群から選ばれる。
【0046】
もちろん、本発明の範囲内において、本発明の上記の各技術特徴および下記(たとえば実施例)の具体的に記述された各技術特徴は互いに組み合わせて、新しい、または好適な技術方案を構成できることが理解される。紙数に限りがあるため、ここで逐一説明しない。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明者は幅広く深く研究し、大量のスクリーニングを行ったところ、意外にも、効率的で、高立体選択的なR-3-アミノ酪酸の製造方法を見出した。当該方法は、大腸菌由来の、立体異性化触媒活性を有するアスパルターゼを利用し、効率的に、高立体選択的にクロトン酸をR-3-アミノ酪酸に転換させる。特に、本発明の突然変異型アスパルターゼは非常に優れた高立体選択性および高転換率を有するため、大幅に転換効率を向上させ、反応時間を短縮させ、生産コストを削減する。実験では、反応のわずか24h後の転換率が≧98%と高く、ee値が≧99.9%であることが示された。本発明の方法は、収率が高く、転換率が高く、コストが低く、生産周期が短く、プロセスが簡単で、拡大しやすく、大規模生産に適するといった多くの利点がある。これに基づき、本発明を完成させた。
【0048】
用語
ee値
本明細書で用いられるように、「ee値」または「エナンチオマー過剰度」は、キラル分子において一つのエナンチオマーのもう一つのエナンチオマーに対する過剰度を特徴付けるためのもので、通常、百分率で表示される。
【0049】
アスパルターゼ
本明細書で用いられる用語「酵素」、「ポリペプチド」、「アスパルターゼ」、「本発明のポリペプチド」、「本発明のアスパルターゼ」または「AspA」は同様の意味を有し、本明細書で入れ替えて使用することができ、いずれも大腸菌由来の、クロトン酸の立体異性化を触媒してR-3-アミノ酪酸を生成する活性を有するタンパク質を指す。好ましくは、前記の本発明のポリペプチドは、本発明の第一の側面で限定された酵素である。
【0050】
アスパルターゼは、脱アミノ酵素の一つで、可逆的にL-アスパラギン酸が脱アミノ化してフマル酸を生成する反応を触媒する分解酵素で、EC 4. 3. 1. 1で、細菌、酵母に幅広く存在し、高等植物(たとえば豆類の芽や葉など)にも低濃度のアスパルターゼが含まれ、高等動物にはこの酵素は存在しない。
【0051】
本発明において、大腸菌由来のアスパルターゼを、AspAと定義する。
【0052】
本発明において、バチルス菌におけるアスパルターゼをAspBと定義し、突然変異体をBSASP-C6とする。
【0053】
既存技術の知識に基づき、当業者に周知のように、ポリペプチドの一部の領域、たとえば重要でない領域で少数のアミノ酸残基を変えても生物活性が変わらず、たとえば、適切にあるアミノ酸を置換した配列ではその活性が影響されない(Watsonら,Molecular Biology of The Gene,第四版,1987,The Benjamin/Cummings Pub. Co. P224を参照する)。そのため、当業者は、得られた分子が必要な生物活性を維持することを保証しながら、このような置換を行うことができる。
【0054】
具体的な実施形態において、本発明のアスパルターゼは野生型または突然変異体である。
【0055】
好適な実施形態において、前記突然変異体は、野生型アスパルターゼに相応するアミノ酸配列に、204番目のスレニオン(T)、338番目のメチオニン(M)、341番目のリシン(K)、343番目のアスパラギン(N)、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれるアミノ酸の突然変異が存在する。
【0056】
もう一つの好適な例において、前記の突然変異は、T204C、M338I、K341M、N343C、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0057】
もう一つの好適な例において、前記野生型アスパルターゼのアミノ酸配列は配列番号5で示される。
【0058】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは、
(a) アミノ酸配列が配列番号5で示されるポリペプチド、
(b) アミノ酸配列が配列番号3で示されるポリペプチド、あるいは
(c) 配列番号5または配列番号3で示されるアミノ酸配列が1個または複数個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~15個、さらに好ましくは1~10個、またさらに好ましくは1~8個、一層さらに好ましくは1~3個、最も好ましくは1個のアミノ酸残基の置換、欠失または付加を経てなるもので、(a)または(b)に記載のポリペプチドの機能を有する、配列番号5または配列番号3で示されるアミノ酸配列のポリペプチドから誘導されたポリペプチドからなる群から選ばれる。
【0059】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼのアミノ酸配列は配列番号5または配列番号3で示される配列と少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、80%、85%、90%、より好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する。
【0060】
もう一つの好適な例において、前記アスパルターゼは、菌体、粗製酵素液、精製酵素、粗製酵素粉、固定化酵素、遊離酵素、醗酵液、またはこれらの組み合わせからなる群から選ばれる形態である。
【0061】
具体的な実施形態において、前記アスパルターゼは、アミノ酸配列が配列番号3で示され、当該ポリペプチドをコードする核酸配列が配列番号4で示される。
【0062】
具体的な実施形態において、前記アスパルターゼは、アミノ酸配列が配列番号5で示され、当該ポリペプチドをコードする核酸配列が配列番号6で示される。
【0063】
本発明において、前記アスパルターゼは、アミノ酸配列が配列番号5または3で示されるポリペプチドと比較すると、20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは8個以下、さらに好ましくは3個以下、またさらに好ましくは2個以下、最も好ましくは1個以下のアミノ酸が類似または近い性質を持つアミノ酸に置換されてなる変異体を含む。これらの保存的突然変異体は、たとえば下記表に示されるようにアミノ酸の置換を行って生成することができる。
【0064】
【表A】
【0065】
さらに、本発明は、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。用語「ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド」は、このポリペプチドをコードするポリヌクレオチドでもよく、さらに付加のコードおよび/または非コード配列を含むポリヌクレオチドでもよい。
【0066】
そのため、本発明書で用いられる「含有する」、「有する」または「含む」は、「含める」、「主に…で構成される」、「基本的に…で構成される」および「…で構成される」を含む。「主に…で構成される」、「基本的に…で構成される」および「…で構成される」は、「含有する」、「有する」または「含む」の下位概念に該当する。
【0067】
具体的な実施形態において、前記相同性または配列同一性は、80%以上でもよいが、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%~98%、最も好ましくは99%以上である。
【0068】
本分野の一般技術者に周知の配列の相同性または同一性の測定方法は、分子計算生物学(Computational Molecular Biology),Lesk,A.M.編集,オックスフォード大学出版社,ニューヨーク,1988、バイオコンピューティング:情報科学および ゲノムプロジェクト(Biocomputing:Informatics and Genome Projects),Smith,D.W.編集,アカデミック・プレス,ニューヨーク,1993、配列データのコンピューター分析(Computer Analysis of Sequence Data),第I部,Griffin,A.M.及びGriffin,H.G.編集,Humana Press,ニュージャージー,1994、分子生物学における配列分析(Sequence Analysis in Molecular Biology),von Heinje,G.,アカデミック・プレス,1987および配列分析プライマー(Sequence Analysis Primer),Gribskov,M.及びDevereux,J.編集M Stockton Press,ニューヨーク,1991およびCarillo,H.及びLipman,D.,SIAM J. Applied Math.,48:1073(1988)を含むが、これらに限定されない。同一性測定の好適な方法は、測定される配列の間で最大のマッチングを得るものである。同一性の測定方法は、公衆に得られるコンピュータープログラムに組み込まれている。2つの配列の間の同一性の測定に好適なコンピュータープログラムは、GCGプログラムパック (Devereux,J.ら,1984)、BLASTP、BLASTNやFASTA(Altschul,S,F.ら,1990)を含むが、これらに限定されない。公衆は、NCBIやほかのリソースからBLASTXプログラム(BLASTマニュアル,Altschul,S.ら,NCBI NLM NIH Bethesda,Md.20894、Altschul,S.ら,1990)を得ることができる。よく知られるSmith Waterman法も同一性の測定に使用することができる。
【0069】
R-3-アミノ酪酸を生産する方法
本発明は、効率的で、高立体選択的なR-3-アミノ酪酸の製造方法を提供する。本発明の方法は、本発明の第一の側面に記載のように、大腸菌由来の、立体異性化触媒活性を有するアスパルターゼを利用し、効率的に、高立体選択的にクロトン酸をR-3-アミノ酪酸に転換させ、大幅に転換効率を向上させ、反応時間を短縮させ、生産コストを削減する。
【0070】
好適な実施態様において、前記R-3-アミノ酪酸を生産する方法は、
(1)反応系において、クロトン酸を基質とし、アスパルターゼによる触媒下で、反応式Iで表される立体異性化触媒反応を行うことにより、R-3-アミノ酪酸を形成する工程、
【化7】
(2)任意に前記工程(1)の反応後の反応系からR-3-アミノ酪酸を分離する工程を含み、
ここで、前記アスパルターゼは大腸菌由来のものである。
【0071】
もう一つの好適な例において、前記R-3-アミノ酪酸のee値は≧99.5%、好ましくは≧99.7%、より好ましくは≧99.8%、最も好ましくは≧99.9%である。
【0072】
もう一つの好適な例において、前記反応の転換率は≧90%、好ましくは≧95%、より好ましくは≧98%、さらに好ましくは≧99%、最も好ましくは100%である。
【0073】
もう一つの好適な実施態様において、前記R-3-アミノ酪酸を生産する方法は、
1) 生産条件で本発明のR-3-アミノ酪酸生産菌株を培養することにより、R-3-アミノ酪酸を得る工程、
2) 任意に、1)の培養系からR-3-アミノ酪酸を分離する工程を含む。
【0074】
アスパルターゼの用途
本発明者は、思いがけず、本発明のアスパルターゼは以下の立体異性化触媒反応の触媒に使用される製剤の製造に有用であることを見出した。
【0075】
【化8】
【0076】
R-3-アミノ酪酸生産菌株
また、本発明者は、本発明のアスパルターゼを発現する工学的菌株(engineered strain)を提供し、前記工学的菌株(またはそれに発現される本発明のアスパルターゼ、またはその固定化酵素)は効率的に、高立体選択的にクロトン酸をR-3-アミノ酪酸に転換させることができ、その転換率が≧98%で、R-3-アミノ酪酸のキラルee値が≧99.9%である。
【0077】
もう一つの好適な例において、前記生産菌株は細菌である。好ましくは、前記生産菌株は大腸菌である。より好ましくは、前記生産菌株はE.coli BL21(DE3)である。
【0078】
本発明の主な利点は以下の通りである。
【0079】
本発明は、効率的に、高立体選択的にクロトン酸をR-3-アミノ酪酸に転換させることができ、反応のわずか24h後の転換率が≧98%と高く、ee値が≧99.9%で、大幅に転換効率を向上させ、反応時間を短縮させ、生産コストを削減する。
【0080】
本発明の方法は、転換率が高く、コストが低く、収率が高く、生産周期が短く、プロセスが簡単で、拡大しやすく、大規模生産に適し、得られるR-3-アミノ酪酸のee値が非常に高い。R-3-アミノ酪酸およびR-3-アミノ酪酸を前駆体とする下流産物の生産において応用の将来性が大いにある。
【0081】
以下、具体的な実施例によって、さらに本発明を説明する。これらの実施例は本発明を説明するために用いられるものだけで、本発明の範囲の制限にはならないと理解されるものである。以下の実施例で具体的な条件が示されていない実験方法は、通常、例えばSambrookら、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」(ニューヨーク、コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、1989) に記載の条件などの通常の条件に、或いは、メーカーのお薦めの条件に従う。特に断らない限り、「%」と「部」は、重量で計算された。
【0082】
本発明で用いられる試薬および原料はいずれも市販品として得られる。別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術と科学用語はいずれも本発明が属する分野の普通の技術者が通常理解する意味と同様である。本発明における記載と類似または等価の任意の方法と材料で本発明を実施または検証することができるが、本明細書に記載の方法と材料が好ましい。
【実施例1】
【0083】
AspA野生型の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成および検出
1.1 Aspa野生型酵素液の調製
AspA野生型のアミノ酸配列(配列番号5)に従い、AspA野生型酵素をコードするデオキシリボ核酸配列(配列番号6)を合成し、酵素をpET28aに連結し、酵素切断部位はNdeIおよびHindIIIで、酵素が連結されたベクターで、宿主である大腸菌BL21感受性細胞を形質転換する。シード菌をTB培地に接種し、37℃で、200rpmシェーカーにおいてOD600値が4.0になるまで培養し、IPTGを濃度が0.1mMになるように入れて誘導し、温度を28℃にして続けて12時間培養し、4℃で遠心して菌体を収集し、リン酸塩緩衝液(50mM、pH7.0)で細胞を再懸濁させ、均質化して破砕させ、AspA野生型酵素液を得た。
【0084】
AspA野生型のアミノ酸配列:
CLKQIIGSLKKKVHMSNNIRIEEDLLGTREVPADAYYGVHTLRAIENFYISNNKISDIPEFVRGMVMVKKAAAMANKELQTIPKSVANAIIAACDEVLNNGKCMDQFPVDVYQGGAGTSVNMNTNEVLANIGLELMGHQKGEYQYLNPNDHVNKCQSTNDAYPTGFRIAVYSSLIKLVDAINQLREGFERKAVEFQDILKMGRTQLQDAVPMTLGQEFRAFSILLKEEVKNIQRTAELLLEVNLGATAIGTGLNTPKEYSPLAVKKLAEVTGFPCVPAEDLIEATSDCGAYVMVHGALKRLAVKMSKICNDLRLLSSGPRAGLNEINLPELQAGSSIMPAKVNPVVPEVVNQVCFKVIGNDTTVTMAAEAGQLQLNVMEPVIGQAMFESVHILTNACYNLLEKCINGITANKEVCEGYVYNSIGIVTYLNPFIGHHNGDIVGKICAETGKSVREVVLERGLLTEAELDDIFSVQNLMHPAYKAKRYTDESEQ(配列番号5)
【0085】
AspA野生型の核酸コード配列:
TGCCTGAAACAGATCATCGGTTCTCTGAAAAAAAAAGTTCACATGTCTAACAACATCCGTATCGAAGAAGACCTGCTGGGTACCCGTGAAGTTCCGGCTGACGCTTACTACGGTGTTCACACCCTGCGTGCTATCGAAAACTTCTACATCTCTAACAACAAAATCTCTGACATCCCGGAATTCGTTCGTGGTATGGTTATGGTTAAAAAAGCTGCTGCTATGGCTAACAAAGAACTGCAGACCATCCCGAAATCTGTTGCTAACGCTATCATCGCTGCTTGCGACGAAGTTCTGAACAACGGTAAATGCATGGACCAGTTCCCGGTTGACGTTTACCAGGGTGGTGCTGGTACCTCTGTTAACATGAACACCAACGAAGTTCTGGCTAACATCGGTCTGGAACTGATGGGTCACCAGAAAGGTGAATACCAGTACCTGAACCCGAACGACCACGTTAACAAATGCCAGTCTACCAACGACGCTTACCCGACCGGTTTCCGTATCGCTGTTTACTCTTCTCTGATCAAACTGGTTGACGCTATCAACCAGCTGCGTGAAGGTTTCGAACGTAAAGCTGTTGAATTCCAGGACATCCTGAAAATGGGTCGTACCCAGCTGCAGGACGCTGTTCCGATGACCCTGGGTCAGGAATTCCGTGCTTTCTCTATCCTGCTGAAAGAAGAAGTTAAAAACATCCAGCGTACCGCTGAACTGCTGCTGGAAGTTAACCTGGGTGCTACCGCTATCGGTACCGGTCTGAACACCCCGAAAGAATACTCTCCGCTGGCTGTTAAAAAACTGGCTGAAGTTACCGGTTTCCCGTGCGTTCCGGCTGAAGACCTGATCGAAGCTACCTCTGACTGCGGTGCTTACGTTATGGTTCACGGTGCTCTGAAACGTCTGGCTGTTAAAATGTCTAAAATCTGCAACGACCTGCGTCTGCTGTCTTCTGGTCCGCGTGCTGGTCTGAACGAAATCAACCTGCCGGAACTGCAGGCTGGTTCTTCTATCATGCCGGCTAAAGTTAACCCGGTTGTTCCGGAAGTTGTTAACCAGGTTTGCTTCAAAGTTATCGGTAACGACACCACCGTTACCATGGCTGCTGAAGCTGGTCAGCTGCAGCTGAACGTTATGGAACCGGTTATCGGTCAGGCTATGTTCGAATCTGTTCACATCCTGACCAACGCTTGCTACAACCTGCTGGAAAAATGCATCAACGGTATCACCGCTAACAAAGAAGTTTGCGAAGGTTACGTTTACAACTCTATCGGTATCGTTACCTACCTGAACCCGTTCATCGGTCACCACAACGGTGACATCGTTGGTAAAATCTGCGCTGAAACCGGTAAATCTGTTCGTGAAGTTGTTCTGGAACGTGGTCTGCTGACCGAAGCTGAACTGGACGACATCTTCTCTGTTCAGAACCTGATGCACCCGGCTTACAAAGCTAAACGTTACACCGACGAATCTGAACAG(配列番号6)
【0086】
1.2 AspA野生型の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成
100mLの反応系において、37℃で、100mM HEPES緩衝液をpH 8.0になるように、MgClを最終濃度が2mMになるように、300mMになるようにクロトン酸を、300mMになるようにNHClを、AspA野生型酵素液を20mL入れた。
【0087】
HPLCによって反応の進展を検出し、反応を24hで停止させ、転換率が<5%であった。
【0088】
転換率の計算:転換率は、物質転換率とも呼ばれ、数値上は発酵過程において消耗されたクロトン酸と発酵開始時のクロトン酸の合計量との比で、通常、百分率で表示され、モル比(mol%)でも、重量比(wt%)でもよい。
【実施例2】
【0089】
AspA突然変異体1の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成および検出
2.1 AspA突然変異体1酵素液の調製
AspA突然変異体1の4つの突然変異部位のアミノ酸はいずれも突然変異した(表1および表2を参照する)。AspA突然変異体1のアミノ酸配列(配列番号3)に従い、AspA突然変異体1酵素をコードするデオキシリボ核酸配列(配列番号4)を合成し、酵素をpET28aに連結し、酵素切断部位はNdeIおよびHindIIIで、酵素が連結されたベクターで、宿主である大腸菌BL21感受性細胞を形質転換する。シード菌をTB培地に接種し、37℃で、200rpmシェーカーにおいてOD600値が4.0になるまで培養し、IPTGを濃度が0.1mMになるように入れて誘導し、温度を28℃にして続けて12時間培養し、4℃で遠心して菌体を収集し、リン酸塩緩衝液(50mM、pH7.0)で細胞を再懸濁させ、均質化して破砕させ、AspA突然変異体1酵素液を得た。
【0090】
AspA突然変異体1のアミノ酸配列:
CLKQIIGSLKKKVHMSNNIRIEEDLLGTREVPADAYYGVHTLRAIENFYISNNKISDIPEFVRGMVMVKKAAAMANKELQTIPKSVANAIIAACDEVLNNGKCMDQFPVDVYQGGAGTSVNMNTNEVLANIGLELMGHQKGEYQYLNPNDHVNKCQSTNDAYPTGFRIAVYSSLIKLVDAINQLREGFERKAVEFQDILKMGRCQLQDAVPMTLGQEFRAFSILLKEEVKNIQRTAELLLEVNLGATAIGTGLNTPKEYSPLAVKKLAEVTGFPCVPAEDLIEATSDCGAYVMVHGALKRLAVKMSKICNDLRLLSSGPRAGLNEINLPELQAGSSIIPAMVCPVVPEVVNQVCFKVIGNDTTVTMAAEAGQLQLNVMEPVIGQAMFESVHILTNACYNLLEKCINGITANKEVCEGYVYNSIGIVTYLNPFIGHHNGDIVGKICAETGKSVREVVLERGLLTEAELDDIFSVQNLMHPAYKAKRYTDESEQ(配列番号3)
【0091】
AspA突然変異体1の核酸コード配列:
TGCCTGAAACAAATCATTGGTAGCCTGAAGAAAAAAGTGCACATGAGCAATAACATTCGCATCGAAGAGGATCTGCTGGGTACACGTGAAGTGCCGGCAGATGCCTACTACGGTGTGCATACACTGCGCGCCATCGAAAATTTTTACATCAGCAATAATAAAATCAGCGATATCCCGGAATTCGTGCGCGGCATGGTTATGGTGAAAAAAGCCGCCGCAATGGCCAACAAGGAACTGCAGACCATTCCGAAGAGTGTGGCAAACGCCATTATCGCCGCCTGTGATGAAGTGCTGAACAATGGTAAATGCATGGATCAGTTTCCGGTGGACGTGTATCAAGGCGGCGCCGGTACCAGCGTGAACATGAACACCAATGAGGTGCTGGCCAACATTGGTCTGGAGCTGATGGGTCACCAGAAAGGCGAATACCAGTACCTGAACCCGAACGATCACGTGAACAAGTGTCAGAGCACAAATGACGCATACCCGACAGGCTTTCGTATTGCCGTGTACAGTAGCCTGATCAAGCTGGTGGATGCCATCAATCAGCTGCGTGAAGGCTTCGAGCGTAAGGCCGTTGAATTTCAGGACATCCTGAAAATGGGTCGTTGTCAGCTGCAGGATGCAGTGCCGATGACCCTGGGTCAGGAATTTCGCGCATTCAGCATCCTGTTAAAAGAGGAAGTGAAAAACATCCAGCGTACCGCCGAACTGCTGCTGGAAGTTAACCTGGGTGCCACCGCCATCGGCACAGGCCTGAATACCCCGAAAGAGTATAGCCCGCTGGCCGTTAAAAAACTGGCAGAGGTGACCGGTTTCCCGTGTGTGCCGGCAGAGGATCTGATCGAAGCAACCAGCGATTGCGGTGCTTATGTTATGGTGCATGGTGCCCTGAAACGCCTGGCCGTTAAGATGAGTAAAATCTGTAATGACCTGCGTCTGCTGAGCAGCGGTCCTCGTGCAGGCCTGAACGAGATCAACCTGCCGGAACTGCAGGCCGGCAGTAGCATCATCCCGGCCATGGTTTGCCCTGTGGTGCCGGAGGTGGTGAATCAGGTGTGCTTCAAGGTGATCGGCAATGACACCACCGTGACAATGGCCGCAGAGGCAGGCCAGCTGCAACTGAACGTGATGGAGCCGGTGATTGGCCAGGCCATGTTTGAAAGCGTGCACATCTTAACCAACGCCTGCTACAACCTGCTGGAGAAATGCATCAATGGTATTACCGCCAACAAAGAAGTTTGCGAGGGTTACGTGTACAACAGCATTGGCATCGTGACCTATCTGAATCCGTTTATTGGCCATCACAACGGCGACATTGTGGGCAAGATTTGCGCAGAGACCGGCAAAAGTGTTCGCGAAGTGGTTCTGGAGCGCGGTTTACTGACCGAGGCCGAACTGGATGACATTTTCAGCGTTCAAAATCTGATGCACCCGGCCTACAAAGCCAAACGCTACACAGACGAAAGCGAGCAA(配列番号4)
【0092】
酵素活性を測定したところ、5.1 U/mLであった。AspA突然変異体1酵素の酵素活性Uは、1分間につきクロトン酸から触媒によって1マイクロモルの産物であるR-3-アミノ酪酸を生成させる酵素の量は1酵素活性単位、すなわち、1Uであるように定義されている。
【0093】
測定方法:100mL三角フラスコに、16mLの反応液(pH8.0)を入れ、反応液に300mmol/Lクロトン酸、4mmol/L MgCl、450mmol/L塩化アンモニウム、100mmol/L HEPES緩衝液が含まれ、密閉し、反応液および酵素液をそれぞれ42度のシェーカーに置いて5~10minインキュベートした。反応液にAspA突然変異体酵素液を4mL入れ、すぐに42℃、回転数200rpmのシェーカーにおいて反応を開始した。30min後、サンプルを1mL採取し、1mLのアセトニトリルを入れて反応を停止させ、遠心でタンパク質を除去し、上清液を2,4-ジニトロフルオロベンゼンで誘導し、HPLCによって分析した(ピーク面積から酵素活性を計算した)。
【0094】
2.2 AspA突然変異体1の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成
100mLの反応系において、37℃で、100mM HEPES緩衝液をpH8.0になるように、MgClを最終濃度が2mMになるように、300mMになるようにクロトン酸を、300mMになるようにNHClを、AspA突然変異体1酵素液を20mL入れた。
【0095】
HPLCによって反応の進展を検出し、反応を24hで停止させ、転換率が≧98%で、ee値が99.9%であった。
【実施例3】
【0096】
AspA突然変異体2~12の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成および検出
3.1 AspA突然変異体2~12酵素液の調製
AspA突然変異体2~12の具体的な突然変異の状況は表1および表2に示すように、ここで、AspA突然変異体2~5は単アミノ酸突然変異で、AspA突然変異体6~8は2つの突然変異部位のアミノ酸突然変異で、AspA突然変異体9~12は3つの突然変異部位のアミノ酸突然変異である。
【0097】
AspA突然変異体2~12のアミノ酸配列に従い、それぞれAspA突然変異体酵素をコードするデオキシリボ核酸配列を合成し、酵素液の調製方法は実施例2.1と同様である。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
3.2 AspA突然変異体2~12の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成
実験方法は実施例2.2と同様で、AspA突然変異体1酵素液の代わりにそれぞれAspA突然変異体2~12酵素液を使用した。
【0101】
結果は表2に示す。実験結果から、24hの反応後、AspA野生型(実施例1)および突然変異体1(実施例2)および突然変異体2~12(実施例3)はいずれもある程度の立体選択性を有し(選択的にR-3-アミノ酪酸の形成を触媒することができる)、かつ反応時間がいずれも顕著に短縮したことがわかる。また、転換率および反応速度について、突然変異体1(4部位の突然変異体)は顕著に3部位の突然変異体(たとえば突然変異体9~12)、そして2部位の突然変異体(たとえば突然変異体6-8)、単部位の突然変異体(たとえば突然変異体2~5)および野生型よりも優れたことがわかる。
【0102】
比較例1. バチルス菌由来のAspB突然変異体の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成および検出
1.1 バチルス菌AspB突然変異体酵素液の調製
ChemCatChem,2014,6,965-968における方法を参照してAspB突然変異体酵素液を調製し、AspB突然変異体のアミノ酸配列は配列番号1で示され、核酸コード配列は配列番号2で示される。
【0103】
AspB突然変異体のアミノ酸配列:
NTDVRIEKDFLGEKEIPKDAYYGVQTIRATENFPITGYRIHPELIKSLGIVKKSAALANMEVGLLDKEVGQYIVKAADEVIEGKWNDQFIVDPIQGGAGTSINMNANEVIANRALELMGEEKGNYSKISPNSHVNMSQSTNDAFPTATHIAVLSLLNQLIETTKYMQQEFMKKADEFAGVIKMGRCHLQDAVPILLGQEFEAYARVIARDIERIANTRNNLYDINMGATAVGTGLNADPEYISIVTEHLAKFSGHPLRSAQHLVDATQNTDCYTEVSSALKVCMINMSKIANDLRLMASGPRAGLSEIVLPARQPGSSIIPGMVCPVMPEVMNQVAFQVFGNDLTITSASEAGQFELNVMEPVLFFNLIQSISIMTNVFKSFTENCLKGIKANEERMKEYVEKSIGIITAINPHVGYETAAKLAREAYLTGESIRELCIKYGVLTEEQLNEILNPYEMIHPGIAGRK(配列番号1)
【0104】
AspB突然変異体の核酸コード配列:
AACACCGATGTGCGCATTGAGAAGGACTTCCTGGGTGAAAAGGAAATCCCGAAGGATGCCTATTACGGCGTGCAGACCATCCGTGCCACAGAGAACTTTCCTATCACCGGCTACCGCATCCATCCGGAACTGATTAAGAGCCTGGGCATTGTGAAGAAAAGCGCCGCACTGGCAAACATGGAGGTGGGTCTGCTGGATAAGGAAGTGGGTCAGTACATCGTGAAGGCCGCCGACGAAGTTATTGAAGGTAAGTGGAACGATCAGTTTATCGTGGACCCGATTCAGGGCGGCGCAGGTACAAGCATTAATATGAACGCCAACGAAGTGATCGCAAACCGCGCCCTGGAACTGATGGGTGAGGAAAAGGGCAACTATAGCAAGATCAGCCCGAACAGCCACGTTAACATGAGCCAGAGCACCAATGATGCATTTCCGACCGCAACCCATATTGCCGTGCTGAGTCTGCTGAATCAGCTGATCGAGACCACCAAGTACATGCAGCAGGAGTTTATGAAGAAGGCCGACGAATTCGCCGGCGTTATTAAAATGGGCCGCTGCCATCTGCAAGACGCCGTTCCGATTCTGCTGGGTCAGGAGTTTGAGGCTTATGCTCGTGTGATCGCACGTGACATTGAGCGCATCGCCAATACCCGTAACAACCTGTATGATATCAACATGGGCGCAACCGCCGTTGGCACAGGCCTGAATGCAGACCCGGAGTACATTAGCATCGTTACCGAGCACCTGGCCAAATTTAGCGGTCATCCGCTGCGTAGTGCCCAGCATCTGGTTGATGCCACCCAGAATACAGATTGCTACACCGAGGTGAGCAGTGCCCTGAAAGTGTGCATGATCAATATGAGTAAGATTGCCAACGACCTGCGCTTAATGGCAAGTGGCCCGCGCGCAGGCCTGAGCGAAATTGTTCTGCCTGCACGCCAACCGGGCAGCAGCATCATCCCTGGTATGGTGTGTCCGGTGATGCCGGAAGTGATGAACCAGGTTGCCTTCCAGGTGTTCGGTAACGACCTGACCATCACAAGCGCAAGCGAAGCAGGCCAGTTCGAGTTAAACGTGATGGAACCTGTGCTGTTTTTTAACTTAATTCAGAGCATCAGTATTATGACAAATGTTTTTAAGTCTTTTACCGAAAACTGTCTGAAAGGTATCAAGGCCAACGAGGAACGCATGAAAGAGTATGTGGAAAAAAGCATTGGCATCATCACCGCCATCAACCCGCATGTGGGCTATGAGACAGCCGCCAAACTGGCCCGCGAAGCCTATTTAACCGGCGAGAGTATTCGCGAGCTGTGTATCAAGTACGGCGTGCTGACCGAAGAGCAGCTGAACGAGATCCTGAATCCGTACGAGATGATCCATCCTGGCATTGCAGGTCGCAAA(配列番号2)
【0105】
酵素活性を測定したところ、3.8U/mLであった。AspB突然変異体酵素の酵素活性Uは、1分間につきクロトン酸から触媒によって1マイクロモルの産物であるR-3-アミノ酪酸を生成させる酵素の量は1酵素活性単位、すなわち、1Uであるように定義されている。
【0106】
測定方法:100mL三角フラスコに、16mLの反応液(pH8.5)を入れ、反応液に300mmol/Lクロトン酸、4mmol/L MgCl、450mmol/L塩化アンモニウム、100mmol/L HEPES緩衝液が含まれ、密閉し、反応液および酵素液をそれぞれ42度のシェーカーに置いて5~10minインキュベートした。反応液に酵素液を4mL入れ、すぐに42℃で、回転数200rpmのシェーカーにおいて反応を開始した。30min後、サンプルを1mL採取し、1mLのアセトニトリルを入れて反応を停止させ、遠心でタンパク質を除去し、上清液を2,4-ジニトロフルオロベンゼンで誘導し、HPLCによって分析した(ピーク面積から酵素活性を計算した)。
【0107】
1.2 AspB突然変異体の触媒によるR-3-アミノ酪酸の合成
100mLの反応系において、37℃で、100mM HEPES緩衝液をpH8.0になるように、MgClを最終濃度が2mMになるように、300mMになるようにクロトン酸を、300mMになるようにNHClを、AspB突然変異体酵素液を20mL入れた。
【0108】
HPLCによって反応の進展を検出し、反応24hの時点で、転換率が42%で、ee値が99.9%で、反応100hの時点で、転換率が60%で、ee値が99.7%であった。
【0109】
結果から、比較例における方法と比べ、本発明の方法は、大腸菌由来の、立体異性化触媒活性を有するアスパルターゼを利用し、効率的に、高立体選択的にクロトン酸をR-3-アミノ酪酸に転換させ、大幅に転換効率を向上させ、反応時間を短縮させ、生産コストを削減することが示された。本発明の方法は、収率が高く、転換率が高く、コストが低く、生産周期が短く、プロセスが簡単で、拡大しやすく、大規模生産に適するといった多くの利点がある。これに基づき、本発明を完成させた。
【0110】
各文献がそれぞれ単独に引用されるように、本発明に係るすべての文献は本出願で参考として引用する。また、本発明の上記の内容を読み終わった後、当業者が本発明を各種の変動や修正をすることができるが、それらの等価の形態のものは本発明の請求の範囲に含まれることが理解されるはずである。
【配列表】
0007117792000001.xml