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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】眼鏡レンズの製造精度の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 13/00 20060101AFI20220805BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20220805BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20220805BHJP
   G01M 11/00 20060101ALI20220805BHJP
   G01B 11/24 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
G02C13/00
G02C7/02
G02C7/00
G01M11/00 L
G01B11/24 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018064924
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019174727
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100170634
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 航介
(72)【発明者】
【氏名】内谷 隆博
(72)【発明者】
【氏名】▲祁▼ 華
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0131567(US,A1)
【文献】特開2008-299168(JP,A)
【文献】国際公開第2002/088828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 13/00
G02C 7/02
G02C 7/00
G01M 11/00
G01B 11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズの物体側の物体側面に、該物体側面から突出する微小な凸部が形成され、ハードコートが施された眼鏡レンズの製造精度の評価方法であって、
前記凸部の屈折力は、前記眼鏡レンズの基部の屈折力より、2.00から5.00ディオプター大きいものであり、
設計情報に基づき設定された眼鏡レンズモデルと、眼球モデルとを含む設計モデルを設定する設計モデル設定ステップと、
前記設計モデルに対して光線追跡計算を行い、前記眼球モデルの網膜の手前で前記凸部を通過した光線が収束する設計収束位置を特定する設計収束位置特定ステップと、
前記ハードコートが施された眼鏡レンズの前記物体側面の形状を測定する形状測定ステップと、
前記測定した形状に基づく眼鏡レンズモデルと、眼球モデルとを含む実機仮想モデルを設定する実機仮想モデル設定ステップと、
前記実機仮想モデルに対して光線追跡計算を行い、前記眼球モデルの網膜の手前で前記凸部を通過した光線が収束する実機収束位置を特定する実機収束位置特定ステップと、
前記実機収束位置に基づき、前記眼鏡レンズの製造精度の評価を行う評価ステップと、を含み、
前記評価ステップでは、前記実機収束位置と前記設計収束位置との差が所定の許容範囲内であるかどうかに基づき評価を行う、評価方法。
【請求項2】
前記設計モデル設定ステップでは、
前記眼鏡レンズモデルとして、度数の入っていないレンズの物体側面に前記設計情報に基づく凸部が形成されたモデルを設定する、
請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記ハードコートの表面に反射防止膜が形成された、請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記形状測定ステップでは、前記凸部の形状を測定し、形状データを作成することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項5】
前記眼鏡レンズは、近視の進行を抑制する眼鏡レンズである、請求項1~4のいずれか1項に記載の評価方法。
【請求項6】
前記眼鏡レンズが有する凸面に入射した光が、眼球の網膜上に収束するとともに、前記凸部を通過した光が、網膜の手前に焦点を結ぶ、請求項1~5のいずれか1項に記載の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼鏡レンズの製造精度の評価方法に関し、特に、眼鏡レンズの物体側の物体側面に、この物体側面から突出する微小な凸部が形成された眼鏡レンズの製造精度の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(米国出願公開第2017/131567号)には、眼鏡レンズの物体側の凸面に、例えば、直径1mm程度の球形状の微小凸部を形成し、近視等の屈折異常の進行を抑制する眼鏡レンズが製造されている。これにより、凸面を通過した光が網膜上に焦点を結ぶ場合に、微小凸部を通過した光が手前側で焦点を結ぶため、近視の進行が抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国出願公開第2017/131567号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、このような凸面に微小凸部が形成された眼鏡レンズでは、凸面と微小凸部との屈折力の差は眼鏡レンズの表面の曲面形状及び微小凸部の曲面形状で決まる。しかしながら、眼鏡レンズの表面にハードコート層やAR層を設けると、微小凸部がこれら層に埋もれてしまい、所望の屈折力が得られないおそれがある。このため、製造された眼鏡レンズが所望の光学性能を有しているかどうか評価することが望まれるが、所望の光学特性が得られているかどうかについて、検査方法が存在しなかった。
【0005】
本発明は、上記の問題に鑑みなされたものであり、物体側の面に微小凸部が形成された眼鏡レンズの評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例は、眼鏡レンズの物体側の物体側面に、物体側面から突出する微小な凸部が形成された眼鏡レンズの製造精度の評価方法であって、眼鏡レンズの物体側面の形状を測定する形状測定ステップと、測定した形状に基づく眼鏡レンズモデルと、眼球モデルとを含む実機仮想モデルを設定する実機仮想モデル設定ステップと、実機仮想モデルに対して光線追跡計算を行い、眼球モデルの網膜の手前で光線が収束する実機収束位置を特定する実機収束位置特定ステップと、実機収束位置に基づき、眼鏡レンズの製造精度の評価を行う評価ステップと、を含む。
【0007】
上記の実施例によれば、眼鏡レンズの物体側面の形状を測定し、測定した形状に基づき実機仮想モデルを設定し、この実機仮想モデルにおける実機収束位置を特定することにより、眼鏡レンズが所望の光学性能を有しているかどうかを評価することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、物体側の面に微小凸部が形成された眼鏡レンズの評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の製造精度の評価方法の対象となる眼鏡レンズの形状を示す正面図である。
図2図1に示す眼鏡レンズの断面図である。
図3図1に示す眼鏡レンズにより近視等の屈折異常の進行を抑制する原理を説明するための図であり、凸面に入射した光の経路を示す。
図4図1に示す眼鏡レンズにより近視等の屈折異常の進行を抑制する原理を説明するための図であり、凸部に入射した光の経路を示す。
図5】本実施形態による眼鏡レンズの検査方法の流れを示すフローチャートである。
図6】設計情報に基づき設置された設計モデルを示す図である。
図7】光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その1)である。
図8】光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その2)である。
図9】光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図(その3)である。
図10】光線が集光する位置を特定する方法を示すフローチャートである。
図11】設定された実機仮想モデルを示す図である。
図12】別の形態の眼鏡レンズの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の眼鏡レンズの製造精度の評価方法の第1実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本実施形態の製造精度の評価方法の対象となる眼鏡レンズの形状を示す正面図である。また、図2図1に示す眼鏡レンズの断面図である。なお、図2では説明のため、凸面に形成された凸部の数を減らして示している。
【0011】
図1に示されているように、眼鏡レンズ1は、眼鏡レンズ本体2を備え、眼鏡レンズ本体2は、物体側の凸面3と、眼球側の凹面4とを有している。眼鏡レンズ1は、さらに、眼鏡レンズ本体2の凸面3及び凹面4上に形成されたハードコート層8と、各ハードコート層8の表面に形成された反射防止膜(AR膜)10と、を備えている。
【0012】
眼鏡レンズ本体2の凸面(ベース面)3には、中心軸の周囲に周方向および軸方向に等間隔に微小な凸部(セグメント)6が形成されている。凸部6は、表面が例えば、直径1mm、高さ0.8μm、曲率86mRの球面状になっている。
【0013】
眼鏡レンズ本体2は、例えば、チオウレタン、アリル、アクリル、エピチオ等の熱硬化性樹脂からなる。なお、眼鏡レンズ本体2を構成する樹脂として、所望の屈折度が得られる他の樹脂を選択してもよい。
【0014】
また、ハードコート層8としては、例えば、熱可塑性樹脂、またはUV硬化性樹脂を用いることができる。ハードコート層8は、ハードコート液に眼鏡レンズ本体2を浸漬させる方法や、スピンコートなどを使用することにより形成することができる。
【0015】
反射防止膜10は、例えば、ZrO2,MgF2、Al23等の反射防止剤を真空蒸着により成膜することにより、形成されている。
【0016】
上述した特許文献1にも記載されているように、眼鏡レンズ1の凸面(物体側面)3に凸面の曲率と異なる曲率の球面形状の微小凸部(セグメント)6を形成することで、眼鏡装用者の近視等の屈折異常の進行を抑制できることが知られている。図3及び図4は、図1に示す眼鏡レンズにより近視等の屈折異常の進行を抑制する原理を説明するための図であり、図3は凸面に入射した光の経路を示し、図4は凸部に入射した光の経路を示す。図3に示すように、眼鏡レンズ1の凸面3に入射した光は、眼球20の網膜20A上に収束する。これに対して、図4に示すように、眼鏡レンズ1の凸部6に入射した光は、網膜20Aの前で収束している。・このように、網膜20A以外の位置にも焦点を結ばせることにより、近視の進行が抑制されるというものである。
【0017】
ここで、微小凸部6の屈折力は、眼鏡レンズ1の凸部6以外の部分(以下、基部という)の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きいことが好適である。また、微小凸部6の直径は0.8~2.0mm程度が好適である。なお、眼鏡レンズ1の基部の屈折力は、材料の屈折率、凸面3のカーブ(曲率半径)、凹面4のカーブ(曲率半径)、および、眼鏡レンズ1の肉厚で決まる。そのため、微小凸部6のカーブ(曲率半径)とその肉厚(微小凸部6の高さ)は、好適には、微小凸部6の屈折力が眼鏡レンズ1の基部の屈折力より2.00から5.00ディオプター大きくなるように決定される。具体的には、微小凸部6の高さは0.1~10μm、微小凸部6の曲率は50~250mmRであることが好適である。また、隣り合う微小凸部6と微小凸部6との距離は、微小凸部6の半径の値と同じ程度であることが好適である。また、複数の微小凸部6はレンズの中心付近にほぼ均一に配置されることが好適である。
【0018】
次に、このような眼鏡レンズの検査方法について説明する。
図5は、本実施形態による眼鏡レンズの検査方法の流れを示すフローチャートである。
図5に示すように、まず、ステップ101において、眼鏡レンズの設計情報に基づき、仮想空間内に微小凸部が形成された眼鏡レンズモデル及び眼球モデルが配置された設計モデルを設定する(設計モデル設定ステップ)。図6は、設計情報に基づき設置された設計モデルを示す図である。図6に示すように、設計モデル31は眼鏡レンズモデル30と眼球モデル32とを含む。眼球モデル32の眼軸長及び調整量は、矯正を必要としない眼球を想定して設定する。矯正を必要としない眼球の眼軸長は、一般的に23mm~26mmであるため、この範囲内で設定すればよい。後述するステップ103では、無限遠の物体点から出射する光線について光線追跡処理を行うため、ステップ101では眼球モデル32の調節量は0に設定する。
【0019】
また、眼鏡レンズモデル30としては、設計情報に基づき表面(物体側面)33に微小な凸部36が形成されたモデルを設定する。眼鏡レンズモデル30の表面形状については、度数の入っていない眼鏡レンズ(プラノレンズ)を想定する。具体的には、S度数を0.00ディオプター、C度数を0.00ディオプターの平坦面又はカーブを有する眼鏡レンズを想定する。また、眼鏡レンズモデルの凸部36の形状は、眼鏡レンズの設計情報に基づき、曲率及び配置を設定する。なお、ステップ101において、フレームに取り付けられた際の眼鏡レンズの傾き(前傾角及びフレームあおり角)を考慮して、眼球モデル32に対する眼鏡レンズモデル30を配置してもよい。
【0020】
次に、ステップ103において、光線追跡処理により、設計モデル31における網膜32Aに対する光線が最も収束する設計収束位置を特定する(設計収束位置特定ステップ)。具体的には、設計モデル31の任意の面における無限遠の点光源から出射し、眼鏡レンズモデルを通過した光線による輝度分布を表すPSF(Point spread function:点広がり関数)を求める。PSFは点光源から発射した多数の光線を追跡し、任意の面上のスポットの密度を計算することで得られる。そして、複数の任意の面のPSFを比較して、複数の任意の面の内、最も光線が集光する位置(面)を特定する。なお、光線の直径は動向径に基づいて設定すればよく、例えば4φとしても良い。
【0021】
ここで、ステップ103において最も光線が集光する位置を特定する方法をより詳細に説明する。図7図9は、光線が集光する位置を特定する方法を説明するための図である。また、図10は、光線が集光する位置を特定する方法を示すフローチャートである。
【0022】
まず、図7に示すように、ステップ201において、眼球モデル32の網膜32A上の0mm位置から、所定の距離(例えば、眼球の硝子体の厚みである16mm程度の位置)から網膜32Aまで所定の離間間隔Δd(例えば、0.1mm)間隔で、測定面P1、1~P1、nを設定する。なお、離間間隔Δdは0.2mm間隔としてもよいし、眼軸の1/50としてもよい。
【0023】
次に、ステップ203において、光線追跡処理を行い、各測定面P1、1~P1、nにおける光線の密度を計算する。光線の密度の計算は、例えば、各測定面に格子状のグリッドを設定しておき、各グリッドを通過する光線の数を計算すればよい。
【0024】
次に、ステップ205において、凸部に入射した光線が最大密度となる測定面を特定するため、測定面P1、1~P1、nの中で上記の所定の距離から最初の極大密度の測定面P1、iを特定する。計算を省くため、測定面P1から光線の密度の計算を始めて、最初の極大値検出の後、測定面P1における値と最初の極大値との中間値程度まで光線の密度の計算値が低下したところで、本ステップの計算を打ち切ってもよい。
【0025】
次に、図8に示すように、ステップ207において、最大密度の測定面P1、iの前後の離間距離Δd/2の位置に測定面P2、1及び測定面P2、2を設定する。そして、ステップ209において、測定面P2、1及び測定面P2、2における光線の密度を計算する。次に、ステップ211において、測定面P2、1と、測定面P2、2と、測定面P1、iにおける最大密度の測定面を特定する。
【0026】
その後、ステップ213において、離間距離が十分に小さくなるまで、ステップ207~211と同様の工程を繰り返す。すなわち、図9に示すように、直前に最大密度となった測定面(図9ではP2,2)の前後に、直前の離間距離の半分の新たな離間距離(図9ではΔd/4)の位置に新たな測定面(図9ではP3、1及びP3、2)を設定する工程と、新たな測定面の光線の密度を計算する工程と、直前に最大密度となった測定面及び新たな測定面の中で最大となった測定面を特定する工程とを繰り返す。
以上の工程により、光線が集光する位置を特定することができる。
【0027】
次に、ステップ105において、上記のようにして製造された眼鏡レンズ1(以下、実機という)の凸面3の形状を測定し、凸面3の形状を表す曲面データを作成する(形状測定ステップ)。凸面3の形状は、例えば、光の干渉を利用して測長を行う非接触三次元顕微鏡により測定する。凸面3の三次元形状は、例えば、離散三次元データ(x、y、z)として取得される。
【0028】
次に、ステップ107において、得られた眼鏡レンズ1の凸面形状を示すデータから実機の凸面形状を表す曲面データを生成する。なお、眼鏡レンズ1の凸面形状を示すデータとして、離散三次元データを用いた場合には、例えば、B-スプライン曲線の集合を生成すればよい。また、測定した離散三次元データにノイズがある場合には、例えば、移動平均処理を行って平均値を用いてもよい。
【0029】
次に、ステップ109において、凸面に微小凸部が形成された実機の眼鏡レンズモデル及び眼球モデルを含む実機仮想モデルを設定する(実機仮想モデル設定ステップ)。図11は、設定された実機仮想モデルを示す図である。実機仮想モデル131は、眼球モデル132と、眼球モデル132の前に配置された眼鏡レンズモデル130とを含む。眼球モデル132は、評価対象の眼鏡レンズの処方データに基づき設定される。具体的には、処方データに基づいて、眼球モデル132のパラメータとして眼軸長、調節量が設定される。例えば、S度数が-8ディオプターであれば、眼軸長を26~29mm程度の範囲内で設定すればよい。また、後述するステップ111では、無限遠の点光源から出射する光線について光線追跡計算を行うため、ステップ109ではステップ101と同様に、調節量は0と設定される。また、眼鏡レンズモデル130は、ステップ107において生成された曲面データに基づき凸面133の表面形状が設定される。また、眼鏡レンズ132の処方データに基づき凹面134の表面形状が設定される。なお、ステップ101と同様に、フレームに取り付けた際の眼鏡レンズ130の傾き(前傾角及びフレームあおり角)を考慮して、眼球モデル132に対して眼鏡レンズモデル130を配置してもよい。
【0030】
次に、ステップ111において、光線追跡計算により、実機仮想モデル131における網膜に対する光線が最も収束する実機収束位置を特定する(実機収束位置特定ステップ)。なお、ステップ131における光線が最も収束する位置の特定は、ステップ103と同様に行えばよい。
【0031】
次に、ステップ113において、ステップ103で特定された設計収束位置と、ステップ111で特定された実機収束位置とを比較し、実機の眼鏡レンズが所望の光学性能を満たすか、即ち、網膜の手前の所望の位置に像を結ばせる機能(光学性能)を備えているかを評価する(評価ステップ)。具体的には、ステップ103で特定された設計収束位置の網膜からの距離と、ステップ111で特定された実機収束位置の網膜からの距離との差が所定の許容範囲内であれば、評価対象の眼鏡レンズが所望の光学性能を満たすと判定する。なお、実機収束位置の許容範囲としては、例えば、眼鏡レンズの設計情報の加入度が3.00ディオプターのとき、眼球の屈折力を60Dとすると、前処理では網膜の手前およそ(1/60-1/(60+3))×1000=0.8mmで焦点を結ぶため、設計収束位置と実機収束位置との差が±0.1mm(±0.5ディオプター)以内であれば許容範囲内であると判定する。
以上の工程により、眼鏡レンズの製造精度の評価を行うことができる。
【0032】
なお、上記の実施形態では、図1に示すように、眼鏡レンズ1の凸面3の中央に凸部6が形成された場合について説明したが、眼鏡レンズ1の形態はこれに限られない。図12は、別の形態の眼鏡レンズの正面図である。図12に示すように、眼鏡レンズ201は、凸面203の中心付近には凸部206は形成されておらず、中心部の周囲に円環状に複数の凸部206が配置されている。このような眼鏡レンズ201であっても、本発明により検査を行うことができる。
【0033】
また、上記の実施形態では、ステップ101及びステップ103において、設計モデル31を設定し、この設計モデルに基づき設計収束位置を特定し、ステップ113において、この設計収束位置を基準として、眼鏡レンズが所定の光学性を有しているかどうか評価したが、本発明はこれに限られない。例えば、予め、凸部の曲率半径等の条件ごとに設計収束位置を特定してデータベースとして記録しておき、ステップ113ではデータベースを参照して、条件に適合する設計収束位置を取得し、基準として用いてもよい。
【0034】
本実施形態によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態によれば、ステップ105で製造された眼鏡レンズ1の凸面3の形状を測定し、ステップ109で測定した形状に基づき実機仮想モデルを設定し、ステップ111で、この実機仮想モデルにおける実機収束位置を特定し、ステップ113で実機収束位置に基づき、眼鏡レンズの製造精度の評価を行うことにより、眼鏡レンズが所望の光学性能を有しているかどうかを評価することができる。
【0035】
また、本実施形態によれば、ステップ101で眼鏡レンズの設計情報に基づき設計モデルを設定し、ステップ103で設計モデルにおける設計収束位置を特定し、ステップ113で設計収束位置を基準として眼鏡レンズの製造精度の評価を行うことにより、個々の眼鏡レンズに対して正確に所望の光学性能を有しているかどうかを評価することができる。
【0036】
以下、本開示の眼鏡レンズの製造精度の評価方法を総括する。
本開示の一実施例は、眼鏡レンズ1の物体側の物体側の凸面3に、凸面3から突出する微小な凸部6が形成された眼鏡レンズの製造精度の評価方法であって、眼鏡レンズ1の凸面3の形状を測定する形状測定ステップ(ステップ105)と、測定した形状に基づく眼鏡レンズモデル130と、眼球モデル132とを含む実機仮想モデル131を設定する実機仮想モデル設定ステップ(ステップ109)と、実機仮想モデル131に対して光線追跡計算を行い、眼球モデル132の網膜の手前で光線が収束する実機収束位置を特定する実機収束位置特定ステップ(ステップ111)と、実機収束位置に基づき、眼鏡レンズの製造精度の評価を行う評価ステップ(ステップ113)と、を含む。
【符号の説明】
【0037】
1 眼鏡レンズ
3 凸面
4 凹面
6 微小凸部
8 ハードコート層
10 反射防止膜
20 眼球
20A 網膜
30 眼鏡レンズモデル
31 設計モデル
32 眼球モデル
32A 網膜
33 表面
36 凸部
130 眼鏡レンズモデル
131 実機仮想モデル
132 眼球モデル
133 凸面
134 凹面
201 眼鏡レンズ
203 凸面
206 凸部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12