(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】結晶性ガラス封止材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 10/04 20060101AFI20220805BHJP
H01M 8/0282 20160101ALI20220805BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20220805BHJP
【FI】
C03C10/04
H01M8/0282
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2018141908
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】真弓 禎隆
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-221337(JP,A)
【文献】特開平10-081534(JP,A)
【文献】特開2000-247680(JP,A)
【文献】特開2008-037740(JP,A)
【文献】特開平09-257727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO
2-B
2O
3-RO系(ROはアルカリ土類金属酸化物を表す。)結晶性ガラス封止材の改良された製造方法であって,
該結晶性ガラス封止材が、酸化物換算の重量%で,
SiO
2
を7~32%,
B
2
O
3
を14~36%,
RO(アルカリ土類金属酸化物の合計)を37~73%,
SiO
2
+B
2
O
3
+ROを85%以上,
含有するものであり,
該ガラスの原料混合物の溶融を還元性条件下に行うことを特徴とするものである,
製造方法。
【請求項2】
酸化・還元状態により異なる色調を呈する元素Mを結晶性ガラス封止材が10
ppm超~1000ppm未満含むこととなるように原料混合物が溶融されるものである,請求項1の製造方法。
【請求項3】
酸化・還元状態により異なる色調を呈する元素Mを合計で10ppm超~1000ppm未満含むSiO
2-B
2O
3-RO系(ROはアルカリ土類金属酸化物を表す。)結晶性ガラス封止材の改良された製造方法であって,該ガラスの色調により,該ガラスの酸化還元状態を評価し,酸化状態のガラスを不適格とする検査工程を含む,製造方法。
【請求項4】
該元素MとしてFeを10ppm超~1000ppm未満含むものである,請求項3
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,結晶性ガラス封止材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,固体酸化物型燃料電池のセルとこれを取り付ける金属製部材との間の封止に結晶性ガラスからなる封止材が用いられている。固体酸化物型燃料電池は,800℃~1000℃の動作温度を必要とするため,当該動作温度において結晶相の変態が少なく,強度に優れる結晶性ガラス封止材が適している。そのような結晶性ガラス封止材としてSiO2-B2O3-RO系(ROはアルカリ土類金属酸化物を示す)の封止材が知られている(特許文献1~4)。
【0003】
結晶性ガラス封止材は,対向した被封止部材の間隙に充填後,所定の温度で焼成すると軟化・流動して間隙を塞ぎ,塞ぐと同時又はその後の冷却時に結晶化することで,硬化・高強度化する。結晶性ガラス封止材には,結晶化後に所定の耐熱温度や熱膨張係数を示すことがまず求められる。同時に,結晶化が十分に起こって硬化し高強度となる反面,結晶化する前には軟化・流動性が高い,という相反する特性の両立も求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-161569号公報
【文献】特開2009-46371号公報
【文献】国際公開WO2011/105519号
【文献】国際公開WO2016/129543号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結晶性ガラス封止材の結晶化挙動は主にガラス組成に依存する。しかしながらガラス組成を変えて軟化・流動性を改善しようとすると,耐熱温度や熱膨張係数に変化が生じ,被封止部材に適さないものになりやすい。
【0006】
このような背景において,本発明の目的は,焼成時における軟化・流動性を高めたSiO2-B2O3-RO系(ROはアルカリ土類金属酸化物を表す。)結晶性ガラス封止材を,ガラスの組成を変えずに製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は,ガラスの製造工程における原料溶融時の融液の酸化・還元状態が,得られるSiO2-B2O3-RO系結晶性ガラスの結晶化開始温度や焼成時における軟化・流動性に影響を与えること,及び結晶化開始温度に影響が出るほどのガラスの酸化・還元状態がガラス中のFeイオンによる発色により判定できることを見出し,更に検討を加えて本発明を完成するに至った。すなわち,本発明は次の通りのものである。
【0008】
1.SiO2-B2O3-RO系(ROはアルカリ土類金属酸化物を表す。)結晶性ガラス封止材の改良された製造方法であって,該ガラスの原料混合物の溶融を還元性条件下に行うことを特徴とするものである,製造方法。
2.酸化・還元状態により異なる色調を呈する元素Mを結晶性ガラス封止材が10超~1000ppm未満含むこととなるように原料混合物が溶融されるものである,上記1の製造方法。
3.酸化・還元状態により異なる色調を呈する元素Mを合計で10ppm超~1000ppm未満含むSiO2-B2O3-RO系(ROはアルカリ土類金属酸化物を表す。)結晶性ガラス封止材の改良された製造方法であって,該ガラスの色調により,該ガラスの酸化還元状態を評価し,酸化状態のガラスを不適格とする検査工程を含む,製造方法。
4.該元素MとしてFeを10ppm超~1000ppm未満含むものである,上記3製造方法。
5.元素Feを10ppm超~1000ppm未満含む,SiO2-B2O3-RO系結晶性ガラス封止材。
6.透明ガラスフレークの436nmにおける吸光係数βをFe元素含有率で除した値(β/Fe)が600cm-1・ppm-1以下である,上記5の結晶性ガラス封止材。
7.混濁ガラスフレークのL*a*b*表色系におけるb*が2以下である,上記5の結晶性ガラス封止材。
8.酸化物換算の重量%で,
SiO2を7~32%,
B2O3を14~36%,
RO(アルカリ土類金属酸化物の合計)を37~73%,
SiO2+B2O3+ROを85%以上,
含有する,上記6又は7の結晶性ガラス封止材。
9.酸化物換算の重量%で,
SiO2を7~32%,
B2O3を14~36%,
MgO+CaOを37~73%,
SiO2+B2O3+ROを85%以上,
含有する,上記6又は7の結晶性ガラス封止材。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記1の製造方法は,SiO2-B2O3-RO系結晶性ガラス封止材において,結晶化後の耐熱温度や熱膨張係数を変化させるような組成変更によらずに,封止時の焼成における軟化・流動性を高めた封止材を得ることを可能にする。
本発明の上記2の製造方法は,上記に加え,封止時の焼成における軟化・流動性を色調により予め判定できる結晶性ガラス封止材の製造を可能にする。
本発明の上記3及び4の製造方法は,製造中の結晶性ガラス封止材について,封止時の焼成における軟化・流動性を色調により工程途中で予め判定して不適格品が製品化されるのを防止するため,歩留まりの向上を可能にする。
本発明の上記5の結晶性ガラス封止材は,封止時の焼成における封止材の軟化・流動性を色調により予め判定することを可能にする。
本発明の上記6及び7の結晶性ガラス封止材は,同一組成で酸化状態にあるものに比べ,軟化・流動性の高められた封止材であることの確認を可能にする。
本発明の上記8及び9の結晶性ガラス封止材は,固体酸化物型燃料電池に用いられる材料(例えば,SUS430)に適合した封止材として用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の封止材はSiO2-B2O3-RO系結晶性ガラスである。SiO2-B2O3-RO系のガラスは焼成時にRO-B2O3系結晶やRO-SiO2系結晶を析出し,固体酸化物型燃料電池に用いられる種々の部材に特に適した耐熱性や熱膨張係数となる。また,SiO2-B2O3-RO系であることにより,還元性条件下で溶融した場合に結晶化開始温度が高くなり,高い温度になるまで結晶化が起こらないため,軟化・流動特性が向上する。
【0011】
以下,本発明の結晶性ガラスの各成分及びその含有量について説明する。本明細書において,ガラス中の主成分の含有率は,酸化物換算の重量%で表し,微量成分の含有率についてはppmで表す。
【0012】
本発明のガラスは,主成分の含有率を,SiO2が7~32%,B2O3が14~36%,RO(アルカリ土類金属酸化物の合計)が37~73%,SiO2+B2O3+ROが85%以上とすることで,特に固体酸化物型燃料電池に用いられる部材に適した耐熱性や熱膨張係数のものとなる。
【0013】
本発明のガラスにおいてSiO2は必須成分であり,溶融性や熱膨張特性の調整の点から,その含有率は7~32%とすることが好ましく,9~30%とすることがより好ましく,11~28%とすることが更に好ましい。
【0014】
本発明のガラスにおいてB2O3は必須成分であり,溶融性や熱膨張特性の調整の点から,その含有率は14~36%とすることが好ましく,16~34%とすることがより好ましく,18~32%とすることが更に好ましい。
【0015】
本発明のガラスにおいてRO(MgO,CaO,SrO又はBaOから選ばれる1種又は2種以上)は必須成分であり,溶融性や熱膨張特性の調整の点から,その含有率は合計で,37~73%とすることが好ましく,42~68%とすることがより好ましく,45~65%とすることが更に好ましい。
【0016】
ROのうちMgOやCaOは水溶性が低く,封止材の耐水性を高める成分である。MgOとCaOの含有率は合計で,37~73%とすることが好ましく,42~68%とすることがより好ましく,45~65%とすることが更に好ましい。
【0017】
MgOの含有率は,10~43%とすることが好ましく,15~38%とすることがより好ましく,18~35%とすることが更に好ましい。
【0018】
CaOの含有率は,4~44%とすることが好ましく,9~39%とすることがより好ましく,12~36%とすることが更に好ましい。
【0019】
本発明のガラスにおいて各種特性の調整のための任意成分としてAl2O3,希土類酸化物(RE2O3),TiO2,ZrO2などを含有させることができる。
【0020】
Al2O3の含有率は,15%以下とすることが好ましく,10%以下とすることがより好ましく,8%以下とすることが更に好ましい。
【0021】
希土類酸化物の含有率は合計で,15%以下とすることが好ましく,10%以下とすることがより好ましく,8%以下とすることが更に好ましい。
【0022】
TiO2,ZrO2の含有率は合計で,10%以下とすることが好ましく,6%以下とすることがより好ましく,5%以下とすることが更に好ましい。
【0023】
本発明のガラスにおいてSiO2+B2O3+ROの合計含有率は85%以上とすることが好ましく,88%以上とすることがより好ましく,90%以上とすることが更に好ましい。
【0024】
本発明のガラスは溶融法によって製造することができる。溶融する原料としては,本発明におけるガラスの各成分の供給源となる化合物(各種酸化物,水酸化物,炭酸塩等)を所定の割合で含有する混合物を調合して用いればよい。
【0025】
本発明の結晶性ガラス封止材の製造方法では,原料の溶融は還元性条件下に行われる。還元性条件下で溶融することで,得られるガラスの結晶化開始温度が,還元性条件で溶融しなかった場合に比べ高温側へシフトし,非晶質の状態がそれだけ高い温度まで維持できるようになって,ガラスの軟化・流動性が向上する。還元性条件下での溶融は,原料にカーボンや有機物,金属粉末を混合した上で大気下で溶融することで実現できる。原料にカーボンを含ませる場合には,原料混合物中の10~300ppm程度カーボンを添加すればよい。また,バーナーを用いて溶融する場合であれば,空燃比を制御して溶融炉の雰囲気を還元性にするという手段も利用できる。
【0026】
本発明のガラスにおいて,微量成分として,酸化・還元状態により異なる色調を呈する元素Mを合計で10ppm超~1000ppm未満含ませることが好ましい。配合されたそのような元素Mは,複数の状態(イオン価数を異にする)がガラスの酸化・還元状態に応じて特定の相互比率で平衡化し,それがガラスの色調に反映される。従って,製造時に原料混合物の融液が酸化状態にあるか還元状態にあるかを,融液をサンプリングし,例えばガラスフレーク等の試験片を作成して,目視又は分析機器でその色調を確認して判定することが可能となる。例えば,ガラスの原料混合物の溶融にバーナーを用いる場合,空燃比の変動等の環境変化で融液が還元状態から外れることがある。酸化状態に陥った融液からは焼成時の流動性が低下したガラスが形成されるが,工程内検査でガラスの融液が酸化状態にあれば不適格,還元状態であれば適格,と判定しそれに応じて溶融工程を適切に調整する(例えば,カーボンを追加投入する)ようにしておけば,封止時の焼成において良好な流動性を示すガラスを,安定して製造することができる。
【0027】
元素Mとしては,V,Cr,Mn,Fe,Cu,Moを用いることができる。ガラス中への元素Mの添加には,原料として元素Mの酸化物を用いることができる。また,元素Mの添加は,当該元素を不純物として含む他の成分用の原料の使用により行ってもよい。これらの元素の中でもFeは,これを不純物として含む他の成分用の原料やレンガ製の溶融容器からガラスに導入することができるため,扱いやすく好ましい。
【0028】
Feを用いる場合,明瞭な色調を得るためには,Feの含有率は10ppm超とすることが好ましく,30ppm超とすることがより好ましく,100ppm超とすることが更に好ましい。また,Feを添加することによる耐熱性・熱膨張係数への影響を無視できるレベルに抑えるためには,Feの含有率は1000ppm未満とすることが好ましく,500ppm未満とすることがより好ましく,300ppm未満とすることが更に好ましい。
【0029】
ガラス中の元素Mの含有率は蛍光X線分析により定量することができる。
【0030】
本発明のガラスにおいて,組成によってはガラスが分相し,混濁したガラスフレークが得られることがある。本発明のガラスにおいて,Feを10ppm超~1000ppm未満含有する場合,軟化・流動性が高められた本発明の目的に適するガラスのフレークの好ましい色調は,透明な場合は緑青色,不透明な場合白色である。これに対し不適格なガラスは,透明の場合褐色を帯び,不透明の場合,黄色~褐色を帯びている。これらの色調は,厚さ0.2~1.0mm程度のガラスフレークを用いれば目視で判別可能である。但し,本明細書においては,ガラスの色調を正確かつ客観的に表すため,次に示すように,厚さ10mm程度のブロック状試料に測定機器を用いて測定した場合の数値を判別に用いる。
【0031】
本発明のガラスにおいて,軟化・流動性が高められている場合に対応するガラスフレークの好ましい色調は,ガラスフレークが透明か混濁しているかによって場合分けされ,それぞれ,以下の条件であるときが好ましい。(ここで,「混濁している」とは,厚さ1mmのガラスフレークの500~650nmの平均の外部透過率が80%以下であることを言う。)
(a)ガラスフレークが透明である場合:436nmにおける吸光係数β(cm-1)をFe元素含有率(ppm)で除した値(β/Fe)が600cm-1・ppm-1以下である。
(b)ガラスフレークが混濁している場合:L*a*b*表色系におけるb*が2以下である。
【0032】
ガラスフレークが透明である場合のパラメータについて次に説明する。本発明のガラスの光吸収は吸光係数βを用いて表す。吸光係数は外部透過率Tと透過率測定時の試料の厚みx(cm),及び屈折率nを式1~式3に代入することで求められる。式中,τは内部透過率であり,Rは試料-空気界面での反射率である。
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
436nmにおけるβは単位体積中の着色イオン(Fe3+)の濃度にほぼ比例する。従ってβ/Fe含有率の値はFe3+/(Fe2++Fe3+)に比例するため,酸化還元状態の指標となる。β/Fe含有率の値は600cm-1・ppm-1以下が好ましく,400cm-1・ppm-1以下がより好ましく,300cm-1・ppm-1以下が更に好ましい。
【0037】
ガラスフレークが混濁している場合のパラメータについて次に説明する。ガラスフレークが混濁している場合には光散乱の影響が大きく,透過率によって色調を判断することは適切でないため,色調を色彩計により評価する。CIE1976(L*,a*,b*)表色系におけるb*が2以下であることが好ましく,1.5以下であることがより好ましく,1以下であることが更に好ましい。またL*は40以上であることが好ましく,a*は-3~1であることが好ましい。
【0038】
本発明の結晶性ガラス封止材は,粉末のまま用いる他,作業性の向上という点から粉末と水,有機溶剤,分散剤,増粘剤等とを混合してスラリー状,ペースト状,柔軟性のある固体シート状の封止材としても用いることができる。有機溶剤としてはターピネオール,ジヒドロターピネオール,グリセリン等を用いることができる。
【0039】
本発明の結晶性ガラス封止材の粉末の50%粒子径(D50)は,特に限定されないが,通常は1~100μmとし,特に3~30μmとすることが好ましい。50%粒子径が1μm未満である場合には,粒子の強固な凝集によりペースト中での分散性が悪化する恐れがある。50%粒子径が100μm以上では粉末がペースト中で沈降しやすく作業性が悪い。
【0040】
なお,本発明において「X%粒子径」とは,レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて測定した体積基準の粒度分布において小粒子径側から数えて累積X%となる粒子径をいう。
【実施例】
【0041】
以下,実施例を参照して本発明の特徴をより具体的に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0042】
〔ガラスの製造〕
表1に示した組成1~4のガラス300gが得られるよう原料粉末を調合し,混合した。各粉末(比較例用),及びこれに表2~3に示すように更にカーボンを添加,混合して調製した粉末(実施例用)を準備した。表中のカーボンの添加量は,各実施例において他の原料粉末全量と共にルツボに投入されたカーボン量(ppm)を示す。各粉末を500ccの白金質のルツボを用いて大気雰囲気下で表2~3に示す条件で1時間溶融した。融液をステンレススチール製の冷却ロールにて急冷し,厚さ0.3~0.6mmのガラスフレークを作製した。次いでこのガラスフレークを粉砕し,ガラス粉末を得た。
【0043】
また,同様にして溶融した融液をカーボン製の型に流し出し,徐冷してガラスブロックを作製した。ガラスブロックの色調を観察し,透明なガラスブロックについては屈折率測定と透過率測定を行い,混濁したガラスブロックについては色彩計による測定を行った。
【0044】
〔各物性の評価方法〕
1.Fe含有率
上記の各粉末をプレス成型して測定用試料とした。蛍光X線分析装置(型名「ZSX PrimusII」,株式会社リガク製。)を用いてファンダメンタルパラメータ法により分析しFe含量を求めた。結果を表1に示す。
【0045】
2.屈折率
上記ガラスブロックを7mm以上×7mm以上×7mm以上の直方体状に加工し,屈折率測定用試料とした。各ガラスの436nmにおける屈折率を,精密屈折計(型名「KPR-2000」,株式会社島津デバイス製造製)を用いて,Vブロック法により測定した。結果を表2~3に示す。
【0046】
3.吸収係数(β)
上記ガラスブロックを1cmの厚みに研磨して吸収係数測定用試料とした。分光光度計(型名「U-3010」,株式会社日立ハイテクノロジーズ製)に積分球を付属させた装置を用いて,入射光角度は0度として外部透過率を測定した。式1~式3に基づいて吸収係数β及びβ/Feを算出した。結果を表2~3に示す。
【0047】
4.L*a*b*表色系における色彩
色彩計(型名「CR-10」,コニカミノルタジャパン株式会社製。照明・受光光学系は8°:di,観察光源はD65)を用いて,上記ガラスブロック表面のL*a*b*表色系における色彩を評価した。結果を表2~3に示す。
【0048】
5.粒度分布
粉末の粒径はレーザー回折・散乱式粒度分布測定機(型名「MT-3300」,日機装株式会社製)を用いて測定した。D50の値を表2~3に示す。
【0049】
6.フローボタン試験
ガラス粉末5gをΦ20mmの円柱に乾式プレス成形し,アルミナ粉末の上で900℃で1時間焼成した。得られた焼成体の最大径を測定した。結果を表2~3に示す。
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
表2~3に示すとおり,実施例1~4はガラス組成がそれぞれ同一である対応する比較例1~4より何れもフローボタンの径が大きい。このことは,各実施例のガラスが,これと対応する,組成は同一でしかし還元性条件下とはせずに製造した各比較例に比べて,結晶化の開始が遅く(即ち,結晶化開始温度が高く)そのために焼成時に比較例よりも高い温度まで非晶質の状態が維持され,より高い流動性をもたらしたこと示している。
【0054】
また,各実施例と対応する比較例の製造面での相違は,実施例において原料が還元性条件(カーボンの添加による)の下で溶融されたことのみであり,カーボン自体は組成物の酸素と結合して二酸化炭素として気化し,ガラス中には実質的に残存しない。従って,上記の結果は,SiO2-B2O3-RO系ガラスを還元性条件下で溶融したことに起因している。そして上記の結果はまた,微量に含有させたFeイオンによるガラスフレーク又はガラスブロックの色調により,ガラスの還元の程度を判定できることを実証している。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明はSiO2-B2O3-RO系結晶性ガラス封止材において,結晶化後の耐熱温度や熱膨張係数を変化させるような組成変更によらずに,封止時の焼成における軟化・流動性を高めた封止材を得ることを可能にする点で有用である。