(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】導波管スロットアンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 13/10 20060101AFI20220805BHJP
H01P 3/12 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
H01Q13/10
H01P3/12 100
(21)【出願番号】P 2018173286
(22)【出願日】2018-09-18
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110881
【氏名又は名称】首藤 宏平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 裕之
(72)【発明者】
【氏名】平野 聡
(72)【発明者】
【氏名】森 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】青木 生朗
(72)【発明者】
【氏名】安達 拓也
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-092783(JP,A)
【文献】特開2011-254220(JP,A)
【文献】特開平10-190349(JP,A)
【文献】特開2010-050700(JP,A)
【文献】Shaowei Liao et al.,"Substrate-Integrated Waveguide-Based 60GHz Resonant Slotted Arrays With Wide Impedance Bandwidth and high Gain",IEEE Transaction on Antennas and Propagation,2015年,Vol.63,No.7,pp.2922-2931
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 13/10
H01P 3/12
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と当該誘電体基板を取り囲む金属部材とにより構成された導波管に、複数のスロットと前記導波管への入力信号を給電する給電部とを設けた導波管スロットアンテナであって、
前記金属部材は、前記誘電体基板の一方の表面の第1導体層及び他方の表面の第2導体層を含み、
前記複数のスロットは、前記導波管の管軸方向である第1の方向に沿って前記第1導体層に所定間隔で形成され、
前記給電部は、前記一方の表面に垂直な前記導波管の高さ方向である第2の方向から見た平面視で前記複数のスロットと重ならない位置のうち前記誘電体基板の表面又は前記誘電体基板の内部の少なくとも一方に配置され、
前記複数のスロットは、前記第1の方向に沿って前記給電部に近いスロットほど前記第1の方向の長さが短い、
ことを特徴とする導波管スロットアンテナ。
【請求項2】
前記複数のスロットは、前記第1の方向のそれぞれの長さが互いに異なることを特徴とする請求項1に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項3】
前記金属部材は、前記第1導体層と前記第2導体層との間をそれぞれ接続する複数のビア導体を含み、前記複数のビア導体は、前記第2の方向から見た平面視で少なくとも前記第1の方向に沿った前記導波管の2辺を画定することを特徴とする請求項1に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項4】
前記複数のビア導体は、前記第2の方向から見た平面視で前記誘電体基板を取り囲む環状に配列されることを特徴とする請求項3に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項5】
前記複数のスロットは、前記第2の方向から見た平面視で前記第1の方向に垂直な幅方向である第3の方向における前記第1導体層の中心位置から偏移した位置に配列されることを特徴とする請求項1に記載の導波管スロットアンテナ。
【請求項6】
前記複数のスロットは、前記第1の方向に沿って2列以上で配列されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載に記載の導波管スロットアンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導波管に複数のスロット及び給電部を設けた導波管スロットアンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、マイクロ波帯やミリ波帯の高周波信号を用いた無線通信において、導波管に複数のスロットを形成し、給電部から給電された高周波信号を導波管に伝搬させて複数のスロットから電磁波として放射する導波管スロットアンテナが知られている。近年では、導波管スロットアンテナの小型軽量化や加工の容易性に鑑み、導波管として誘電体基板を用い、誘電体基板を取り囲むように上下の導体層や側面のビア導体群を形成し、導体層の一部に複数のスロットを形成した構造を有する導波管スロットアンテナが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。例えば、特許文献1に開示された導波管スロットアンテナは、信号の伝送方向に沿って複数のスロットが互いに所定間隔で配列され、それぞれのスロットが同一の長さに形成されている。また、特許文献2に開示された導波管スロットアンテナは、信号の伝送方向に沿って主スロットとその両端の副スロットが配列され、各スロットの長手方向に対して給電線路の方向が交差するように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3464107号公報
【文献】特許第3004082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マイクロ波帯やミリ波帯に用いる導波管スロットアンテナは、できるだけ広帯域の周波数特性を有することが望ましい。一般に、導波管スロットアンテナの周波数特性は、複数のスロットの長さに依存して定まる。しかし、特許文献1の構造のように、各々のスロットの長さが同一である場合、複数のスロットからの信号を合成して得られる全体の周波数特性は、スロットが1つの場合と同様となり、全体的に帯域が狭くなる点が問題となる。また、特許文献2の構造のように、主スロットと副スロットの長さが異なる場合であっても、各スロットの長手方向と給電線路の方向を交差させる場合は、各スロットからの放射と給電線路を流れる電流による電界が干渉することにより、無線性能が劣化する点が問題となる。
【0005】
本発明はこれらの問題を解決するためになされたものであり、良好な無線性能を保ちつつ、複数のスロットを合成した周波数特性を十分に広帯域化することが可能な導波管スロットアンテナを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の導波管スロットアンテナは、誘電体基板(10)と当該誘電体基板を取り囲む金属部材とにより構成された導波管に、複数のスロット(14)と前記導波管への入力信号を給電する給電部(15)とを設けた導波管スロットアンテナであって、前記金属部材は、前記誘電体基板の一方の表面の第1導体層(11)及び他方の表面の第2導体層(12)を含み、前記複数のスロットは、前記導波管の管軸方向である第1の方向(X)に沿って前記第1導体層に所定間隔で形成され、前記給電部は、前記一方の表面に垂直な前記導波管の高さ方向である第2の方向(Z)から見た平面視で前記複数のスロットと重ならない位置のうち前記誘電体基板の表面又は前記誘電体基板の内部の少なくとも一方に配置され、前記複数のスロットは、前記第1の方向に沿って前記給電部に近いスロットほど前記第1の方向の長さが短いことを特徴としている。
【0007】
本発明の導波管スロットアンテナによれば、給電部を介して入力された高周波信号は、誘電体基板とそれを取り囲む金属部材とにより構成された導波管を伝搬し、誘電体基板の一方の表面の第1導体層に形成された複数のスロットから放射される。このとき、複数のスロットは、少なくとも1つのスロットの第1の方向(導波管の管軸方向)の長さが他のスロットと異なるので、スロットの長さに依存する少なくとも2つの共振周波数が存在することになるので、全てのスロットを同じ長さにする場合に比べ、導波管スロットアンテナ全体の周波数特性を広帯域化することができる。また、第2の方向から見た平面視で給電部が複数のスロットと重ならない配置となるので、複数のスロットから放射される電磁波と給電部を流れる電流との干渉に起因するアンテナ特性の劣化を防止することができる。
【0008】
本発明の複数のスロットは、第1の方向のそれぞれの長さが互いに異なるように設定することができる。これにより、互いに異なる複数の共振周波数を含む範囲内の周波数特性を得ることができ、導波管スロットアンテナ全体の一層の広帯域化が可能となる。
【0009】
本発明の金属部材は多様な構造で形成することができる。例えば、金属部材を、第1導体層と第2導体層との間をそれぞれ接続する複数のビア導体を含めて構成し、複数のビア導体が第2の方向から見た平面視で少なくとも第1の方向に沿った導波管の2辺を画定する構造としてもよい。この場合、複数のビア導体は、第2の方向から見た平面視で誘電体基板を取り囲む環状に構成してもよい。このように複数のビア導体を金属部材の一部として用いることで、誘電体基板を作製する際に積層技術を適用する場合、所望の形状を有する導波管の側壁を容易に形成することができる。
【0010】
本発明の複数のスロットは多様な位置に配列することができる。例えば、複数のスロットを、第2の方向から見た平面視で第3の方向における第1導体層の中心位置から偏移した位置に配列してもよい。また、例えば、複数のスロットを、第1の方向に沿って2列以上で配列してもよい。なお、複数のスロットを配置する第3の方向上の位置は、導波管スロットアンテナの電界分布に応じて定めることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、導波管スロットアンテナに複数のスロットを設け、そのうち少なくとも1つのスロットの第1の方向(導波管の管軸方向)の長さが他のスロットと異なるように設定したので、それぞれのスロットの周波数特性を合成した導波管スロットアンテナ全体の周波数特性を十分に広帯域化することができる。また、第2の方向(導波管の高さ方向)から見た平面視で給電部が複数のスロットと重ならないように配置したので、複数のスロットから放射される電磁波と給電部を流れる電流との干渉に起因するアンテナ特性の劣化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明を適用した導波管スロットアンテナの構造例について示す図であり、
図1(A)は導波管スロットアンテナを上方から見た上面図であり、
図1(B)は、
図1(A)の導波管スロットアンテナのA-A断面における断面図であり、
図1(C)は、
図1(A)の導波管スロットアンテナを下方から見た下面図である。
【
図2】
図1の4つのスロット14(1)、14(2)、14(3)、14(4)の各々が単体で存在する場合のそれぞれの周波数特性を重ねて模式的に示す図である。
【
図3】
図1の4つのスロット14(1)、14(2)、14(3)、14(4)の個々の周波数特性を合成して得られた周波数特性を示す図である。
【
図4】本実施形態との対比のための比較例において、
図1の導波管スロットアンテナの4つのスロット14がいずれもX方向に沿って同一の長さLである場合に関し、
図1(A)に対応する構造を示す上面図である。
【
図5】
図4の構造を有する導波管スロットアンテナに想定される周波数特性を示す図である。
【
図6】複数のスロット14の構造及び配置のバリエーションを示す第1の図である。
【
図7】複数のスロット14の構造及び配置のバリエーションを示す第2の図である。
【
図8】本実施形態の導波管スロットアンテナの作製方法の概要を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した導波管スロットアンテナの好適な実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。ただし、以下に述べる実施形態は本発明の技術思想を具体化した形態の一例であって、本発明が本実施形態の内容により限定されることはない。
【0014】
まず、
図1を用いて、本発明を適用した導波管スロットアンテナの構造例について説明する。
図1(A)は、本実施形態の導波管スロットアンテナを上方から見た上面図であり、
図1(B)は、
図1(A)の導波管スロットアンテナのA-A断面における断面図であり、
図1(C)は、
図1(A)の導波管スロットアンテナを下方から見た下面図である。なお、
図1においては、説明の便宜のため、互いに直交するX方向(本発明の第1の方向)、Y方向(本発明の第3の方向)、Z方向(本発明の第2の方向)をそれぞれ矢印にて示している。
【0015】
本実施形態の導波管スロットアンテナは、セラミック等の誘電体材料からなる誘電体基板10と、誘電体基板10の上面に形成された導電材料からなる導体層11(本発明の第1導体層)と、誘電体基板10の下面に形成された導電材料からなる導体層12(本発明の第2導体層)と、上下の導体層11、12の間を接続する複数のビア導体13と、上面の導体層11に形成された複数のスロット14と、下面の導体層12を貫いて形成された給電部15とを備えている。
【0016】
誘電体基板10は、X方向を長尺方向とする直方体の外形形状を有し、複数の誘電体層を積層して形成される。誘電体基板10の周囲のうち、上下(Z方向の両側)は前述の1対の導体層11、12で覆われ、4つの側面(X方向及びY方向のそれぞれの両側)は前述の複数のビア導体13で取り囲まれている。このような構造により、誘電体基板10は、1対の導体層11、12及び複数のビア導体13からなる金属部材により取り囲まれた導波管として機能する。この導波管は、X方向を管軸方向(信号の伝送方向)として、
図1(A)(B)に示すように、Z方向に高さa及びY方向に幅bの矩形断面(YZ断面)を有している。一般には、b≒2aの関係に設定されるが、このような設定により導波管の上下面をH面とするTE10を主モードとして伝搬させることができる。
【0017】
複数のビア導体13は、それぞれ誘電体基板10を貫く複数の貫通孔に導電材料を充填した柱状導体であり、隣接するビア導体13の間隔(ビアピッチ)が伝送信号の波長よりも小さく設定されている。このような構造の複数のビア導体13は上下の導体層11、12と電気的に接続されるので、誘電体基板10からなる導波管の4つの側壁として機能する。なお、複数のビア導体13は外部に露出することなく、その外周が誘電体基板10で覆われている。
【0018】
なお、
図1の例では、複数のビア導体13をX方向の両側とY方向の両側の4辺に配置しており、複数のビア導体13が導波管を環状に取り囲んでいるが、実際には複数のビア導体13をY方向の両側にのみ配置し、複数のビア導体13が導波管の2辺を画定するようにしてもよい。あるいは、複数のビア導体13に代わり、誘電体基板10の側面に導体材料からなる側壁を形成してもよい。
【0019】
複数のスロット14は、管軸方向であるX方向に沿って導体層11を所定のピッチで配列されている。
図1(B)からわかるように、各々のスロット14の位置では、導体層11が開口されており下側の誘電体基板10が部分的に露出している。
図1の例では、Y方向の中心位置から偏移した位置において、X方向の左側から順に4つのスロット14(1)、14(2)、14(3)、14(4)が配列されている。本実施形態では、複数のスロット14のX方向の長さが互いに異なる点が特徴的である。すなわち、
図1の例では、スロット14(1)が長さL1、スロット14(2)が長さL2、スロット14(3)が長さL3、スロット14(4)が長さL4であり、L1<L2<L3<L4の関係を満たしている。なお、Y方向に関しては、4つのスロット14が同一の幅に形成される。
【0020】
給電部15は、
図1(B)、(C)に示すように、導体層12の周囲の導体パターンから分離した導体部15aと、誘電体基板10の内部に形成された導体部15bと、これらの導体部15aと導体部15bとを電気的に接続するビア導体15cとにより構成される。外部からの伝送信号は、導体部15aを介して給電され、それがビア導体15cから内部の導体部15bを経て、前述の導波管に伝送される。給電部15はY方向の中心位置に配置されるが、Z方向から見た平面視では、複数のスロット14と重ならない位置に配置されている。
【0021】
本実施形態では、
図1(B)に示すように、導体部15a、15b及びビア導体15cからなる給電部15が導体層12を貫く断面構造を有するが、実際には多様な構造の給電部15を設けることができる。すなわち、給電部15がZ方向から見た平面視で複数のスロット14と重ならない配置であることを前提に、例えば、導体部15a、15bの一方のみを有する構造の給電部15を設けてもよいし、あるいは給電部15を下側の導体層12の側ではなく上側の導体層11の側に設けてもよい。
【0022】
図1の導波管スロットアンテナの寸法パラメータの具体例としては、例えば、導波管断面がa=1.6mm、b=3.2mm、各スロット14のY方向の幅が0.3mm、複数のビア導体13のビア径が0.1mmかつビアピッチが0.2mmを挙げることができる。なお、複数のスロット14のX方向の長さL1~L4は、後述するように、周波数特性における共振周波数との関係で適切に設定される。
【0023】
以下、
図2~
図5を参照して、本実施形態の導波管スロットアンテナに対するシミュレーションに基づき、本発明の作用効果について検証する。
図2は、
図1に示す4つのスロット14(1)、14(2)、14(3)、14(4)の各々が単体で存在する場合のそれぞれの周波数特性(所定の周波数範囲におけるSパラメータS11の変化)を重ねて模式的に示す図である。また、
図3は、
図2に示す4つのスロット14(1)、14(2)、14(3)、14(4)の個々の周波数特性を合成して得られた周波数特性を示す図である。
図2及び
図3のシミュレーションは、周波数の範囲を26GHz~30GHzについて、誘電体基板10の比誘電率ε
r=5.8、誘電損失tanδ=0.0022とし、かつ、導体層11、12及び複数のビア導体13が完全導体と仮定して実行した。
【0024】
まず、
図2においては、前述したように、L1<L2<L3<L4の関係があることから、それぞれのスロット14の各波形の減衰極に対応する共振周波数f1、f2、f3、f4は、それぞれのX方向の長さがL1、L2、L3、L4が増加するにつれ、それぞれの共振周波数同じ順でf1、f2、f3、f4が低くなっていく(f4<f3<f2<f1)。そして、それぞれのスロット14は、共振周波数f4、f3、f2、f1を中心として所定の帯域B4、B3、B2、B1を有し、各帯域B4~B1が重なりながら順次低周波側にずれていく。本シミュレーションでは、各スロット14の共振周波数f1~f4が、f4=27.5GHz、f3=28GHz、f2=28.5GHz、f1=29GHzとなるように、それぞれの長さL1~L4を適切に調整したものである。
【0025】
一方、
図3においては、4つのスロット14(1)~14(4)の個々の周波数特性の波形を合成した結果、導波管スロットアンテナの全体としての広帯域の周波数特性が得られた。すなわち、周波数27GHz~29GHzの範囲内では、複数個所の減衰極が見られ、反射係数S11は概ね-11~-27dBの範囲で変化している。
図2の各スロット14の個々の周波数特性と比べると、
図3は周波数帯域が格段に広帯域化していることがわかる。
【0026】
ここで、
図4及び
図5は、本実施形態との対比のための比較例を示している。まず、
図4は、
図1の導波管スロットアンテナの4つのスロット14がいずれもX方向に沿って同一の長さLである場合に関し、
図1(A)に対応する構造を示す上面図である。また、
図5は、
図4の構造を有する導波管スロットアンテナに想定される周波数特性を示す図である。
図4の比較例の構造のうち、各スロット14が長さLである以外の点は
図1と共通であるものとする。
【0027】
図5に示すように、比較例の周波数特性によれば、波形の減衰極に対応する共振周波数fを中心として比較的狭い帯域Bを有している。
図5の周波数特性は、実質的には
図2の個々のスロット14の場合と同程度の広さの周波数帯域であって、4つのスロット14が存在する分だけ減衰極が深くなっている。
図5の周波数特性を
図3と比べると、比較例の帯域Bが格段に狭くなっていることは明らかである。以上のように、本実施形態の導波管スロットの構造を採用し、複数のスロット14を互いに異なるX方向の長さに設定すると、周波数特性の広帯域化という効果を得ることができる。なお、かかる効果は、複数のスロット14のうち少なくとも1つのスロット14を他のスロット14と異なるX方向の長さに設定する場合であっても得ることができるが、この場合の配置については後述する。
【0028】
次に、本実施形態の導波管スロットアンテナのうち、給電部15の配置に関連する効果について説明する。前述したように、給電部15はZ方向から見た平面視で複数のスロット14と重ならない位置に配置されている。また、給電部15の端部にある導体部15aは長手方向がX方向であり各スロット14の長手方向と一致する。これに対し、仮に特許文献2の構造のように、給電部15が複数のスロット14とZ方向から見た平面視で交差するように重なって配置される場合には、複数のスロット14から放射される電磁波と、給電部15を流れる電流とが干渉することになる。従って、本実施形態の給電部15の配置を採用することにより前述の干渉に起因する導波管スロットアンテナのアンテナ特性の劣化を防止する効果がある。
【0029】
本実施形態において、複数のスロット14の構造及び配置は
図1には限定されず、本発明の効果を奏することを前提に、多様なバリエーションがある。まず、複数のスロット14は、
図1に示すように、互いに異なるX方向の長さに設定する場合には限られず、少なくとも1つのスロット14のX方向の長さが他のスロット14と異なるように設定すればよい。例えば、
図1(A)に対応する
図6(A)に示すように、1つのスロット14を長さL1に設定し、他の3つのスロット14を長さL2(L1<L2)に設定してもよい。このような構造を採用したとしても、比較例の
図3と比べれば、2つの異なる共振周波数に跨る範囲内で周波数特性を広帯域化することが可能である。
【0030】
また例えば、
図6(B)に示すように、長さL1のスロット14と長さL2のスロット14とを交互に配列してもよい。また、複数のスロット14の個数は2個以上であればよく、例えば、
図6(C)に示すように、長さL1の1つのスロット14と長さL2のスロット14の2つのスロット14のみを配列してもよい。なお、
図1及び
図6において、長さの異なる複数のスロット14の配列順を自在に入れ替えることができることは当然である。さらに、複数のスロット14の個数は、誘電体基板10のサイズの制約の範囲内で、例えば、5個以上など自在に増やすことができる。ただし、複数のスロット14をX方向に並べて配置する際、前述したように給電部15とZ方向から見た平面視で重なる位置を避ける必要がある。
【0031】
一方、複数のスロット14は、
図1に示すように、Y方向の中心位置から偏移した位置
において1列で配列する場合に限られない。例えば、
図7に示すように、複数のスロット14をY方向の中心位置から偏移した2つの位置に2列を形成するように配列してもよい。
図7の例では、複数のスロット14が、Y方向の中心位置を跨いで交互に配置されている。一般に、導波管スロットアンテナの電界分布は、Y方向の中心位置で強くなるとは限らないので、Y方向の電界分布に応じて複数のスロット14のY方向の位置を定めることが望ましい。
【0032】
次に、本実施形態の導波管スロットアンテナの作製方法の概要について、
図8を参照しつつ説明する。まず、誘電体基板10を構成する複数の誘電体層として、例えば、ドクターブレード法により形成した低温焼成用の複数のセラミックグリーンシート20を用意する。そして、
図8(A)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート20の所定位置に打ち抜き加工を施して、複数のビアホール21を開口する。なお、各セラミックグリーンシート20における各ビアホール21の位置及び個数は、導波管の側壁となる複数のビア導体13の配置に対応するように設定されるが、例えば、
図1に示すように、平面視で誘電体基板10を取り囲む4辺(環状)に配置される。
【0033】
次に、
図8(B)に示すように、それぞれのセラミックグリーンシート20に開口された複数のビアホール21のそれぞれに、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により充填することにより、複数のビア導体13を形成する。このとき、同様の加工で、給電部15のビア導体15cも形成される。続いて、
図8(C)に示すように、最上層のセラミックグリーンシート20の上面に、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布することにより、複数のスロット14を有する導体層11を形成する。同様に、最下層のセラミックグリーンシート20の下面に、Cuを含む導電性ペーストをスクリーン印刷により塗布することにより、給電部15の導体部15aと導体層12を形成する。このとき、同様の加工で内層のセラミックグリーンシート20に給電部15の導体部15bも形成される。
【0034】
そして、
図8(D)に示すように、複数のセラミックグリーンシート20を順に積層した上で、加熱加圧することにより積層体を形成する。その後、
図8(D)で得られた積層体を脱脂、焼成することにより、
図1を用いて既に説明したように、誘電体基板10に構成された導波管スロットアンテナが完成する。
【0035】
本実施形態の導波管スロットアンテナの構造を採用すれば、前述したような周波数特性の広帯域化の効果に加えて、導波管スロットアンテナによる最大ビーム方向の制御を行うという効果を得られる。例えば、
図4のように4つのスロット14が同一の長さを有する場合は、4つのスロット14からの各ビームを合成したビーム強度はZ方向で最大となるのに対し、
図1(A)のように4つのスロット14の長さが異なる場合は、4つのスロット14を合成したビーム強度が最大となる方向はZ方向から若干傾くことが確認された。よって、導波管スロットアンテナを設計する際、所望の方向でビーム強度を最大化するようにスロット14の寸法パラメータを適宜に調整することが可能となる。
【0036】
以上、本実施形態に基づき本発明の内容を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で多様な変更を施すことができる。この場合、
図1の構造例は1例であって、本発明の作用効果を得られる限り、他の構造や材料を用いた多様な導波管スロットアンテナに対して広く本発明を適用することができる。さらに、その他の点についても上記実施形態により本発明の内容が限定されるものではなく、本発明の作用効果を得られる限り、上記実施形態に開示した内容には限定されることなく適宜に変更可能である。
【符号の説明】
【0037】
10…誘電体基板
11、12…導体層
13…ビア導体
14…スロット
15…給電部
20…セラミックグリーンシート
21…ビアホール