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特許7117966フォトクロミック性顔料及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】フォトクロミック性顔料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 9/00 20060101AFI20220805BHJP
   C01G 49/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20220805BHJP
   A61K 8/29 20060101ALI20220805BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C09K9/00 D
C01G49/00 A
A61Q1/02
A61K8/29
A61K8/19
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018191941
(22)【出願日】2018-10-10
(65)【公開番号】P2020059803
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000162113
【氏名又は名称】共同印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 和哉
(74)【代理人】
【識別番号】100193404
【弁理士】
【氏名又は名称】倉田 佳貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 文人
(72)【発明者】
【氏名】狩野 真啓
(72)【発明者】
【氏名】山田 厚
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-051210(JP,A)
【文献】特開平05-170440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K9
C01G49
A61Q1
A61K8
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック性顔料であって、
前記フォトクロミック性顔料全体の質量を基準として、99.0~99.9質量%のTiO、及び0.1~1.0質量%のFeを含有しており、
レーザー回折・散乱法により測定した前記フォトクロミック性顔料の平均粒子径が、1~20μmであり、かつ
電界放出形走査電子顕微鏡により測定した前記フォトクロミック性顔料の平均一次粒子径が、10~100nmである
フォトクロミック性顔料。
【請求項2】
JIS Z 8830に準拠する比表面積が、1~20m /gである、請求項1に記載のフォトクロミック性顔料
【請求項3】
前記フォトクロミック性顔料0.3質量部、無色透明樹脂バインダー0.25質量部、溶剤成分1.75質量部を混合して組成物を作製し、これを透明フィルム上に厚さ18g/mで塗工し、これを暗所に24時間保管した後の状態において、前記組成物のJIS Z 8781に準拠するL表色系における、明度Lが、80以上であり、|a|が、5以下であり、|b|が、10以下である、請求項1又は2に記載のフォトクロミック性顔料。
【請求項4】
前記フォトクロミック性顔料0.3質量部、無色透明樹脂バインダー0.25質量部、溶剤成分1.75質量部を混合して組成物を作製し、これを透明フィルム上に厚さ18g/mで塗工し、これを暗所に24時間保管した後の状態において、6Wの紫外線ランプを用いて波長302nmの紫外線を1分間照射する前後における色差ΔEが、1以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフォトクロミック性顔料。
【請求項5】
チタニアゾル水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合させて、複合水和体を作製すること、
前記複合水和体に、アルカリを添加して、顔料前駆体を作製すること、及び
前記顔料前駆体を乾燥させ、得られた固形分を有機溶剤中で平均粒子径1~20μmとなるまで粉砕し、そして焼成して、フォトクロミック性顔料を得ること
を含み、
前記フォトクロミック性顔料が、99.0~99.9質量%のTiO、及び0.1~1.0質量%のFeを含有している、
請求項1~4のいずれか一項に記載のフォトクロミック性顔料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック性顔料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック性顔料は、光の照射によって可逆的に色が変化する性質(フォトクロミック性)を有する顔料である。かかるフォトクロミック性顔料は、化粧品を構成する材料等として広く用いられており、種々の種類のフォトクロミック性顔料が提案されている。
【0003】
特許文献1では、アナターゼ型酸化チタンと、酸化鉄と、を含み、平均粒子径が0.3~1μmのフォトクロミック性粉体からなる紫外線遮蔽剤が開示されている。
【0004】
特許文献2では、比表面積が25m/g以上であり、かつ所与のフォトクロミック性を有する粉体を主成分とする、フォトクロミック性紫外線遮蔽粉体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-169234号公報
【文献】特開平4-364117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のフォトクロミック性粉体等のように、酸化チタン及び酸化鉄を含有しているフォトクロミック性顔料は、酸化鉄固有の色に起因して、薄い赤色を呈することがわかっている。
【0007】
かかる有色のフォトクロミック性顔料を用いて更に薄い色を作る場合、顔料の含有率及び/又は酸化鉄の含有率を下げることが考えられるが、これによれば、フォトクロミック性顔料による隠蔽力及びフォトクロミック機能が低下することとなる。また、白色顔料を混ぜて薄い色を作ることも考えられるが、これによれば、フォトクロミック機能が低下してしまうという課題があった。
【0008】
なお、特許文献2のフォトクロミック性紫外線遮蔽粉体は、その大きな比表面積に伴う小さい一次粒子径に起因して、十分な隠蔽性が得られないと考えられる。
【0009】
したがって、有色フォトクロミック性顔料と同等の隠蔽性及びフォトクロミック性を維持しつつ、より薄い色のフォトクロミック性顔料を提供する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討したところ、以下の手段により上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、下記のとおりである:
《態様1》フォトクロミック性顔料であって、
前記フォトクロミック性顔料全体の質量を基準として、99.0~99.9質量%のTiO、及び0.1~1.0質量%のFeを含有しており、
レーザー回折・散乱法により測定した前記フォトクロミック性顔料の平均粒子径が、1~20μmであり、かつ
電界放出形走査電子顕微鏡により測定した前記フォトクロミック性顔料の平均一次粒子径が、10~100nmであるか、又は
JIS Z 8830に準拠する比表面積が、1~20m/gである、
フォトクロミック性顔料。
《態様2》前記フォトクロミック性顔料0.3質量部、無色透明樹脂バインダー0.25質量部、溶剤成分1.75質量部を混合して組成物を作製し、これを透明フィルム上に厚さ18g/mで塗工し、これを暗所に24時間保管した後の状態において、前記組成物のJIS Z 8781に準拠するL表色系における、明度Lが、80以上であり、|a|が、5以下であり、|b|が、10以下である、態様1に記載のフォトクロミック性顔料。
《態様3》前記フォトクロミック性顔料0.3質量部、無色透明樹脂バインダー0.25質量部、溶剤成分1.75質量部を混合して組成物を作製し、これを透明フィルム上に厚さ18g/mで塗工し、これを暗所に24時間保管した後の状態において、6Wの紫外線ランプを用いて波長302nmの紫外線を1分間照射する前後における色差ΔEが、1以上である、態様1又は2に記載のフォトクロミック性顔料。
《態様4》チタニアゾル水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合させて、複合水和体を作製すること、
前記複合水和体に、アルカリを添加して、顔料前駆体を作製すること、及び
前記顔料前駆体を乾燥させ、得られた固形分を有機溶剤中で平均粒子径1~20μmとなるまで粉砕し、そして焼成して、フォトクロミック性顔料を得ること
を含み、
前記フォトクロミック性顔料が、99.0~99.9質量%のTiO、及び0.1~1.0質量%のFeを含有している、
フォトクロミック性顔料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有色フォトクロミック性顔料と同等の隠蔽性及びフォトクロミック性を維持しつつ、より薄い色のフォトクロミック性顔料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《フォトクロミック性顔料》
本発明のフォトクロミック性顔料は、
フォトクロミック性顔料全体の質量を基準として、99.0~99.9質量%のTiO、及び0.1~1.0質量%のFeを含有しており、
レーザー回折・散乱法により測定したフォトクロミック性顔料の平均粒子径が、1~20μmであり、かつ
電界放出形走査電子顕微鏡により測定したフォトクロミック性顔料の平均一次粒子径が、10~100nmであるか、又は
JIS Z 8830に準拠する比表面積が、1~20m/gである。
【0013】
本発明者らは、上記の構成を有するフォトクロミック性顔料が、白色フォトクロミック性顔料であることができることを見出した。理論に拘束されることを望まないが、これは、小さい平均一次粒子径を有する顔料の粒子が、比較的大きな平均粒子径となるように適度に凝集した二次粒子を形成することにより、二次粒子の表面に酸化鉄の分子が露出せず、その結果、二酸化チタン固有の白色を呈すると考えられる。
【0014】
ここで、本発明において、「白色」とは、フォトクロミック性顔料0.3質量部、無色透明樹脂バインダー0.25質量部、溶剤成分1.75質量部を混合して組成物を作製し、これを透明フィルム上に厚さ18g/mで塗工し、これを暗所に24時間保管した後の状態において、組成物のJIS Z 8781に準拠するL表色系における、明度Lが、80以上であり、|a|が、5以下であり、|b|が、10以下であることを意味するものである。
【0015】
なお、本明細書において、|a|及び|b|は、それぞれa及びbの絶対値を意味するものである。
【0016】
この場合、上記の無色透明樹脂バインダーとしては、ポリエステル-塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を用いることができる。なお、上記の無色透明樹脂バインダーの質量は、固形分の質量を意味するものである。
【0017】
上記の溶剤成分としては、無色透明樹脂バインダーに溶剤成分として含有されている溶剤成分に加え、メチルエチルケトン及びトルエンを等質量で混合した混合溶剤を用いることができる。
【0018】
上記の明度Lは、例えば80以上、81以上、82以上、又は83以上であることができ、また100以下、95以下、93以下、90以下、又は88以下であることができる。
【0019】
上記の|a|は、5以下、4以下、3以下、2以下、又は1以下であることができ、また0以上、又は0超であることができる。
【0020】
上記の|b|は、10以下、又は9以下であることができ、また0以上、又は0超、1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、又は8以上であることができる。
【0021】
また、本発明において、「フォトクロミック性」とは、上記の状態において、6Wの紫外線ランプを用いて波長302nmの紫外線を1分間照射する前後における色差ΔEが、1以上であることを意味するものである。この色差ΔEは、例えば1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上であることができ、30以下、25以下、20以下、15以下、10以下、又は7以下であることができる。
【0022】
紫外線の照射に用いる上記の6Wの紫外線ランプとしては、例えばanalytik jena社から入手可能なHandheld UV Lamp,6W,UVM-57を用いることができる。
【0023】
TiOの含有率は、フォトクロミック性顔料全体の質量を基準として、99.0質量%以上、99.0質量%超、99.1質量%以上、99.2質量%以上、99.3質量%以上、又は99.4質量%以上であってよく、また99.9質量%以下、99.8質量%以下、99.7質量%以下、又は99.6質量%以下であってよい。
【0024】
Feの含有率は、フォトクロミック性顔料全体の質量を基準として、0.1質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、又は0.4質量%以上であってよく、また1.0質量%以下、1.0質量%未満、0.9質量%以下、0.8質量%以下、0.7質量%以下、又は0.6質量%以下であってよい。
【0025】
レーザー回折・散乱法により測定したフォトクロミック性顔料の平均粒子径は、1μm以上、2μm以上、3μm以上、4μm以上、5μm以上、6μm以上、7μm以上、8μm以上、9μm以上、又は10μm以上であってよく、また20μm以下、17μm以下、15μm以下、14μm以下、13μm以下、12μm以下、又は11μm以下であってよい。本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法において体積基準により算出されたメジアン径(D50)を意味するものである。
【0026】
電界放出形走査電子顕微鏡により測定したフォトクロミック性顔料の平均一次粒子径は、10nm以上、20nm以上、30nm以上、40nm以上、50nm以上、又は55nm以上であってよく、また100nm以下、90nm以下、80nm以下、70nm以下、又は60nm以下であってよい。
【0027】
JIS Z 8830に準拠するフォトクロミック性顔料の比表面積は、1m/g以上、2m/g以上、3m/g以上、4m/g以上、5m/g以上、6m/g以上、又は7m/g以上であってよく、また20m/g以下、17m/g以下、15m/g以下、12m/g以下、11m/g以下、10m/g以下、9m/g以下、又は8m/g以下であってよい。この比表面積は、例えばBET流動法により測定することができる。
【0028】
《混合フォトクロミック性顔料》
混合フォトクロミック性顔料は、白色フォトクロミック性顔料、及び有色フォトクロミック性顔料を含有している。白色フォトクロミック性顔料としては、上記の白色フォトクロミック性顔料を用いることができる。
【0029】
〈有色フォトクロミック性顔料〉
有色フォトクロミック性顔料は、フォトクロミック性顔料0.3質量部、無色透明樹脂バインダー0.25質量部、溶剤成分1.75質量部を混合して組成物を作製し、これを透明フィルム上に厚さ18g/mで塗工し、これを暗所に24時間保管した後において、この組成物のJIS Z 8781に準拠するL表色系における、|a|が、5超であるか、又は|b|が、10超である顔料であってよい。このような有色フォトクロミック性顔料としては、公知のものを用いることができ、例えば株式会社ヤマグチマイカから商業的に入手可能なPHOTOLITE PK-S及びPHOTOLITE LY-S等を用いることができる。
【0030】
上記のL表色系における明度Lは、例えば0以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、60以上、70以上、75以上、80以上、81以上、82以上、又は83以上であることができ、また100以下、95以下、93以下、90以下、又は88以下であることができる。
【0031】
上記の|a|は、5超、又は6以上であることができ、また30以下、25以下、20以下、18以下、又は15以下であることができる。
【0032】
上記の|b|は、10超、又は12以上であることができ、また30以下、25以下、20以下、18以下、又は15以下であることができる。
【0033】
また、有色フォトクロミック性顔料は、6Wの紫外線ランプを用いて波長302nmの紫外線を1分間照射する前後における色差ΔEが、1以上であってよい。この色差ΔEは、例えば1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、又は6以上であることができ、また30以下、25以下、20以下、15以下、10以下、又は7以下であることができる。
【0034】
《フォトクロミック性顔料の製造方法》
フォトクロミック性顔料を製造する本発明の方法は、
チタニアゾル水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合させて、複合水和体を作製すること、
複合水和体に、アルカリを添加して、顔料前駆体を作製すること、及び
顔料前駆体を乾燥させ、得られた固形分を有機溶剤中で粉砕し、そして焼成して、フォトクロミック性顔料を得ること
を含む。
【0035】
上記の方法により、フォトクロミック性顔料の微小な平均一次粒子径、より具体的には10~100nmの平均一次粒子径と、大きな平均粒子径、より具体的には1~20μmの平均粒子径とをもたらすことができる。
【0036】
本発明の方法は、焼成の前に、顔料前駆体を乾燥して、有機溶剤を除去することを含むことが、焼成のために要する熱エネルギーを抑制する観点から好ましい。
【0037】
〈複合水和体の作製〉
複合水和体の作製は、チタニアゾル水溶液と硝酸鉄水溶液とを混合させて行う。
【0038】
〈顔料前駆体の作製〉
顔料前駆体の作製は、複合水和体に、アルカリを添加して行う。アルカリの添加は、アルカリ水溶液の形態で行うことが、均一性の観点から好ましい。
【0039】
アルカリは、水に溶解した際に塩基性を示すアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩を意味するものである。かかるアルカリとしては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の水酸化物、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム等の炭酸塩等を用いることができる。
【0040】
〈粉砕〉
粉砕は、顔料前駆体を乾燥させ、得られた固形分を有機溶剤中で平均粒子径1~20μmとなるまで粉砕することにより行う。
【0041】
有機溶剤としては、例えば酢酸エチル、メチルエチルケトン、トルエン、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール等を、単体で又は混合させて用いることができる。
【0042】
粉砕の具体的な態様としては、例えば有機溶剤中に顔料前駆体が分散された状態で、顔料前駆体の平均粒子径が1~20μmになるように、ボールミルにて粉砕することが挙げられる。ボールミルに用いるボールとしては、例えば10mm径のジルコニアセラミックス製のボールを用いることができる。
【0043】
〈顔料前駆体の焼成〉
焼成は、800℃以上、850℃以上、900℃以上、910℃以上、920℃以上、又は930℃以上で行うことができ、また1000℃以下、990℃以下、980℃以下、970℃以下、960℃以下、又は950℃以下で行うことができる。
【0044】
《混合フォトクロミック性顔料の製造方法》
フォトクロミック性顔料を製造する本発明の方法は、白色フォトクロミック性顔料と、有色フォトクロミック性顔料とを混合させて、混合フォトクロミック性顔料を作製することを含むことができる。
【実施例
【0045】
実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0046】
《フォトクロミック性顔料の作製》
〈実施例1-1〉
酸性チタニアゾル200g(酸化チタン含有量65g)に水125gを加え、撹拌しながら80℃に加温し、ここに水100gに溶解した硝酸鉄1.5gを添加した。
【0047】
ここに、水700gに溶解した炭酸ナトリウム11.5gを徐々に滴下し、30分撹拌した。その時のpHは6.5であった。次いで、析出した固体の水洗を繰り返し、水溶性成分を除去して、顔料前駆体を得た。次いで、これを140℃で乾燥して水分を除去し、得られた固形分100gとエタノール100gとを500mlポリプロピレン製円筒容器中で混合させ、ここに10mm径のジルコニアセラミックス製のボールを投入し、ボールミルにより平均粒子径10μmになるまで粉砕・整粒した。次いで、これを100℃で乾燥してエタノールを除去し、これを940℃で3時間焼成して、実施例1-1のフォトクロミック性顔料を得た。
【0048】
〈比較例1-1~1-2〉
比較例1-1~1-2のフォトクロミック性顔料としては、それぞれPHOTOLITE LY-S及びPHOTOLITE PK-S(株式会社ヤマグチマイカ)を用いた。
【0049】
〈物性の測定〉
(組成分析)
ZSX Primus III+(リガク社)を用いて、各フォトクロミック性顔料の組成分析を行った。具体的には、各フォトクロミック性顔料をそれぞれ5g採取し、これをそれぞれ専用の樹脂製ホルダに充填し、そしてこれをフィルムで被覆して組成分析用ペレットを得た。この組成分析用ペレットを用いて、組成分析を行った。
【0050】
(平均粒子径の測定)
各フォトクロミック性顔料を、それぞれヘキサメタリン酸ソーダ0.2%溶液に入れ、超音波(300w)で3分間分散を行って、分散液を得た。この分散液を、MICROTRAC MT3000(マイクロトラック・ベル社製)を用い、屈折率2.40にて平均粒子径を測定した。
【0051】
(平均一次粒子径の測定)
カーボンペースト上に、各フォトクロミック性顔料をのせ、Ptスパッタをかけて(日立製E-1045形イオンスパッタ)、ZoneSEM(日立ハイテクノロジーズ社製)で処理した。
【0052】
次いで、処理した各フォトクロミック性顔料の平均一次粒子径を、FE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製:型番SU8020)を用いて、加速電圧:1Kev、倍率:200k倍の条件で測定した。
【0053】
(比表面積の測定)
実施例1-1のフォトクロミック性顔料について、HM model-1208(マウンテック社製)を用いて、BET流動法でJIS Z8830に従い、比表面積を測定した。
【0054】
《評価》
〈L値の測定〉
各フォトクロミック性顔料0.3質量部と、無色透明樹脂バインダーとしてのポリエステル-塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(固形分25%)1質量部と、溶剤成分としてのメチルエチルケトン及びトルエンを等質量で混合した混合溶剤1質量部とを混合してインキ組成物を作製した。インキ組成物中のフォトクロミック性顔料、無色透明樹脂バインダー、及び溶剤成分の質量部は、それぞれ0.3質量部、0.25質量部、及び1.75質量部であった。
【0055】
作製した各インキ組成物を、ワイヤーバー#34(膜厚約18g/m)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(125μm)の上に塗工し、これを暗所で24時間保管した。保管後、ホワイトバッキングをして測色計(x-rite社製 SpectroEye)で塗膜のL値を測定した。
【0056】
次いで、塗膜に6Wの紫外線ランプ(Handheld UV Lamp,6W,UVM-57、analytik jena社)を用いて波長302nmの紫外線を1分間照射し、次いでこの塗膜のL値を測定した。得られたL値の差を用いて、上記の紫外線を1分間照射する前後における色差ΔEを算出した。
【0057】
実施例及び比較例の構成及び評価結果を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
表1から、平均粒子径が1~20μmの範囲内にあり、かつ平均一次粒子径が10~100nmの範囲内にある実施例1-1のフォトクロミック性顔料を含むインキは、紫外線の照射前において、明度Lが、80以上であり、|a|が、5以下であり、|b|が、10以下であることから、白色であると認められる。これに対し、比較例1-1~1-2のフォトクロミック性顔料を含むインキは、|a|が、5超であり、かつ|b|が、10超であることから、有色であると認められる。また、実施例1-1のフォトクロミック性顔料を含むインキは、比較例1-1のフォトクロミック性顔料を含むインキと比べて色差ΔEの値が同等であり、したがって、比較例1-1のフォトクロミック性顔料を含むインキと同等のフォトクロミック性を有していた。
【0060】
《混合フォトクロミック性顔料の評価》
顔料A~Cとして、以下の顔料を準備した。
顔料A:比較例1-2のフォトクロミック性顔料
顔料B:酸化チタン(タイペークCR-50、石原産業株式会社)
顔料C:実施例1-1のフォトクロミック性顔料
【0061】
〈参考例〉
比較例1-2のフォトクロミック性顔料0.2質量部を、無色透明樹脂バインダーとしてのポリエステル-塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(固形分25%)1質量部、並びに溶剤成分としてのメチルエチルケトン及びトルエンを等質量で混合した混合溶剤1質量部と混合してインキ組成物を作製した。インキ組成物中のフォトクロミック性顔料、無色透明樹脂バインダー、及び溶剤成分の質量部は、それぞれ0.2質量部、0.25質量部、及び1.75質量部であった。
【0062】
作製した各インキ組成物を、ワイヤーバー#34(膜厚約18g/m)を用いて、ポリエチレンテレフタレートフィルム(125μm)の上に塗工し、これを暗所で24時間保管した。保管後、ホワイトバッキング及びブラックバッキングをして測色計(x-rite社製 SpectroEye)で塗膜のL値を測定した。
【0063】
次いで、塗膜に6Wの紫外線ランプ(Handheld UV Lamp,6W,UVM-57、analytik jena社)を用いて波長302nmの紫外線を1分間照射し、次いでこの塗膜のL値を測定した。得られたL値の差を用いて、上記の紫外線を1分間照射する前後における色差ΔEを算出した。
【0064】
〈比較例2-1~2-2及び実施例2-1〉
各顔料の質量部を、表1に示すように変更したことを除き、参考例と同様にして、比較例2-1~2-2及び実施例2-1の混合フォトクロミック性顔料を含んだインキを作製した。これらについても、参考例と同様の評価を行った。
【0065】
実施例、比較例及び参考例の構成及び評価結果を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2のL値から、実施例2-1、比較例2-1~2-2の混合フォトクロミック性顔料を含んだインキは、いずれも参考例の顔料を含んだインキよりも薄い色となっていることが理解できよう。
【0068】
また、比較例2-1と参考例とを比較すると、有色フォトクロミック性顔料の含有率を単純に低減させた比較例2-1では、色が薄くなっているものの、色差ΔEが有意に低下していることから、フォトクロミック性が有意に低下していることが理解できよう。また、有色フォトクロミック性顔料の含有率を単純に低減させると、黒色台紙上で評価した場合において、明度Lが有意に低下していることから、フォトクロミック性顔料の隠蔽性も低下していることが理解できよう。
【0069】
また、比較例2-2と参考例とを比較すると、有色フォトクロミック性顔料の一部を白色顔料に置き換えた比較例2-2では、黒色台紙上で評価した場合において、明度Lが上昇しているものの、色差ΔEが有意に低下していることから、隠蔽性が参考例よりも良好であるものの、依然としてフォトクロミック性が有意に低下していることが理解できよう。
【0070】
これに対し、実施例2-1と参考例とを比較すると、白色フォトクロミック性顔料と有色フォトクロミック性顔料とを組み合わせた実施例2-1の混合フォトクロミック性顔料を含んだインキは、良好な隠蔽性及び良好なフォトクロミック性を維持できていることが理解できよう。