IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧 ▶ 日電硝子加工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ガラス板の成形方法 図1
  • 特許-ガラス板の成形方法 図2
  • 特許-ガラス板の成形方法 図3
  • 特許-ガラス板の成形方法 図4
  • 特許-ガラス板の成形方法 図5
  • 特許-ガラス板の成形方法 図6
  • 特許-ガラス板の成形方法 図7
  • 特許-ガラス板の成形方法 図8
  • 特許-ガラス板の成形方法 図9
  • 特許-ガラス板の成形方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】ガラス板の成形方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 23/025 20060101AFI20220805BHJP
【FI】
C03B23/025
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018206364
(22)【出願日】2018-11-01
(65)【公開番号】P2020070217
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593046429
【氏名又は名称】日電硝子加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神田 俊朗
(72)【発明者】
【氏名】花本 圭史
(72)【発明者】
【氏名】森上 弘昭
【審査官】大塚 晴彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02317904(US,A)
【文献】米国特許第02663974(US,A)
【文献】特公昭34-009491(JP,B1)
【文献】米国特許第03116993(US,A)
【文献】特開2012-091994(JP,A)
【文献】特開2016-169116(JP,A)
【文献】特開昭52-102318(JP,A)
【文献】特開2016-037424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 23/02 -23/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状の湾曲面を有する成形型の前記湾曲面上にガラス板を載置した後、前記ガラス板を
加熱することにより前記湾曲面に沿った形状に曲げ加工するガラス板の成形方法であって

前記成形型の前記湾曲面上に前記ガラス板を載置する載置工程と、
前記ガラス板の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えながら、前記ガラス板を
加熱することにより前記ガラス板を軟化させ、曲げ加工する加工工程とを備え
前記ガラス板が、対向し合っており、かつ前記載置工程において、前記成形型の上端に接する第1の辺及び第2の辺を有し、
前記加工工程において、前記第1の辺及び前記第2の辺にそれぞれ板状の質量付加部材を載置することにより、前記ガラス板の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えるか、または前記ガラス板の周縁部全体に枠状の質量付加部材を載置することにより、前記ガラス板の周縁部に力を加える、ガラス板の成形方法。
【請求項2】
前記成形型が、
前記湾曲面に接続されており、かつ対向し合う第1の端面及び第2の端面と、
前記第1の端面から前記第2の端面まで貫通した貫通孔とを有する、請求項1に記載のガラス板の成形方法。
【請求項3】
前記ガラス板を載置する側を前記成形型の上方としたときに、前記成形型の前記湾曲面が第1の下方端部及び第2の下方端部を有し、
前記成形型が、
前記湾曲面の前記第1の下方端部及び前記第2の下方端部にそれぞれ接続されており、
かつ対向し合う第1の側面及び第2の側面を有する、請求項1または2に記載のガラス板の成形方法。
【請求項4】
前記成形型が前記第1の側面及び前記第2の側面に接続されている底面を有し、
前記第1の側面及び前記第2の側面が前記底面に対して垂直に延びている、請求項3に記載のガラス板の成形方法。
【請求項5】
前記質量付加部材が、前記ガラス板を構成するガラスと同じ組成のガラスからなる、請求項のいずれか一項に記載のガラス板の成形方法。
【請求項6】
前記ガラス板が、対向し合っており、かつ前記載置工程において前記成形型に接しない第3の辺及び第4の辺を有し、
前記載置工程の前工程において、前記ガラス板上に、前記第3の辺及び前記第4の辺に至らないように塗膜を形成する、請求項1~のいずれか一項に記載のガラス板の成形方法。
【請求項7】
前記成形型の前記貫通孔内において、前記第1の端面から前記第2の端面に向かって複数の溝部が配列されている、請求項2に記載のガラス板の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板の成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
据置型ストーブや暖炉等の暖房装置には、その内部を視認できるように、窓ガラスや暖房装置の一部として、平板形状、屈曲形状、または円弧形状などの各種形状を有した結晶化ガラスが用いられている。
【0003】
ここで、例えば、円弧形状の結晶化ガラスを製造する場合には、従来から、谷形形状(湾曲状の凹部を有する形状)の耐火性の成形型(いわゆる、トチ)を用いて、板状物であるガラス板を円弧形状に湾曲させていた。
【0004】
しかしながら、近年、円弧形状の結晶化ガラスについては、円弧角度の大きな品種の要望が増加しているため、円弧角度の大きな結晶化ガラスを製造するには、サイズの大きなガラス板を用いることとなる。そのため、谷形形状のトチでは、このようなガラス板を保持しつつ湾曲させることが困難であった。
【0005】
このようなことから、円弧角度の大きな結晶化ガラスを製造する場合は、山形形状(湾曲した凸部を有する形状)のトチを用いて、平板形状のガラス板を円弧形状に湾曲させている。
【0006】
例えば、下記の特許文献1には、ガラス板の成形方法が記載されている。この方法においては、山形形状の成形型が用いられる。上記成形型の上端部には、ガラス板を安定的に支持するための平坦部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-169116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された成形方法では、成形後のガラス板の形状のばらつきを十分に抑制することが困難であり、形状不良の発生率を十分に抑制することが困難であった。
【0009】
本発明は、ガラス板の形状のばらつきを抑制することができ、歩留まりを向上させることができる、ガラス板の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のガラス板の成形方法は、凸状の湾曲面を有する成形型の湾曲面上にガラス板を載置した後、ガラス板を加熱することにより湾曲面に沿った形状に曲げ加工するガラス板の成形方法であって、成形型の湾曲面上にガラス板を載置する載置工程と、ガラス板の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えながら、ガラス板を加熱することによりガラス板を軟化させ、曲げ加工する加工工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
成形型が、湾曲面に接続されており、かつ対向し合う第1の端面及び第2の端面と、第1の端面から第2の端面まで貫通した貫通孔とを有することが好ましい。
【0012】
ガラス板を載置する側を成形型の上方としたときに、成形型の湾曲面が第1の下方端部及び第2の下方端部を有し、成形型が、湾曲面の第1の下方端部及び第2の下方端部にそれぞれ接続されており、かつ対向し合う第1の側面及び第2の側面を有することが好ましい。成形型が第1の側面及び第2の側面に接続されている底面を有し、第1の側面及び第2の側面が底面に対して垂直に延びていることがより好ましい。
【0013】
加工工程において、ガラス板に質量付加部材を載置することにより、ガラス板の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えることが好ましい。ガラス板が、対向し合っており、かつ載置工程において、成形型の上端に接する第1の辺及び第2の辺を有し、加工工程において、第1の辺及び第2の辺にそれぞれ板状の質量付加部材を載置することにより、ガラス板の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えることがより好ましい。また、加工工程において、ガラス板の周縁部全体に枠状の質量付加部材を載置することにより、ガラス板の周縁部に力を加えることがより好ましい。これらの場合において、質量付加部材が、ガラス板を構成するガラスと同じ組成のガラスからなることがさらに好ましい。
【0014】
ガラス板が、対向し合っており、かつ載置工程において成形型に接しない第3の辺及び第4の辺を有し、載置工程の前工程において、ガラス板上に、第3の辺及び第4の辺に至らないように塗膜を形成することが好ましい。
【0015】
成形型の貫通孔内において、第1の端面から第2の端面に向かって複数の溝部が配列されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ガラス板の形状のばらつきを抑制することができ、歩留まりを向上させることができる、ガラス板の成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法に用いる成形型の模式的正面断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法に用いる成形型の模式的斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法において用いるガラス板の模式的平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法を説明するための模式的斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法を説明するための模式的正面断面図である。
図6】成形後のガラス板の形状不良を説明するための模式的斜視図である。
図7図4に示す実施形態及び比較例の成形方法により成形したガラス板の形状不良率を示す図である。
図8】成形後のガラス板の中心角を説明するための、ガラス板の模式的正面図である。
図9図4に示す実施形態の第1の変形例に係るガラス板の成形方法に用いる成形型の模式的正面断面図である。
図10図4に示す実施形態の第2の変形例に係るガラス板の成形方法を説明するための模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0019】
(成形型)
図1は、本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法に用いる成形型の模式的正面断面図である。図2は、本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法に用いる成形型の模式的斜視図である。
【0020】
図1及び図2に示す成形型1は凸状の湾曲面2を有する。本実施形態では、湾曲面2は、略半円柱における湾曲した形状を有し、略半円形の断面形状を有する。もっとも、湾曲面2の形状は上記に限定されない。
【0021】
ガラス板を成形するに際し、ガラス板を湾曲面2上に載置する。本明細書においては、ガラス板を載置する側(図1において、紙面上方)を成形型1の上方とする。湾曲面2の略半円柱が延びる方向(図1において、紙面奥側から手前側に延びる方向)を軸方向とする。湾曲面2は、第1の下方端部2a及び第2の下方端部2bを有する。第1の下方端部2a及び第2の下方端部2bは軸方向に延びている。
【0022】
第1の下方端部2aには平面状の第1の側面3aが接続されており、第2の下方端部2bには平面状の第2の側面3bが接続されている。第1の側面3a及び第2の側面3bは対向し合っており、かつ互いに平行に延びている。第1の側面3a及び第2の側面3bには底面3cが接続されている。第1の側面3a及び第2の側面3bは底面3cに対して垂直に延びている。もっとも、第1の側面3a及び第2の側面3bは互いに平行に延びていなくともよく、底面3cに垂直な方向に対して傾斜して延びていてもよい。あるいは、成形型1は第1の側面3a及び第2の側面3bを有していなくともよい。
【0023】
図2に示すように、成形型1は、湾曲面2に接続されており、かつ対向し合う第1の端面4a及び第2の端面4bを有する。より具体的には、湾曲面2の軸方向の一方端部に第1の端面4aが接続されており、他方端部に第2の端面4bが接続されている。なお、第1の端面4a及び第2の端面4bは、第1の側面3a、第2の側面3b及び底面3cにも接続されている。
【0024】
成形型1には、第1の端面4aから第2の端面4bまで貫通した貫通孔Oが設けられている。これにより、成形型1は、第1の端面4a及び第2の端面4bに接続された内面5を有する。内面5は湾曲面2に対応する曲面を含む。内面5は、軸方向に沿って配列された複数の溝部5aを有する。複数の溝部5aが延びる方向は特に限定されないが、本実施形態では、複数の溝部5aは軸方向に直交する方向に延びている。なお、このような構成としたことによる効果について後述する。
【0025】
(ガラス板の成形方法)
図3は、本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法において用いるガラス板の模式的平面図である。図4は、本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法を説明するための模式的斜視図である。また、図5は、本発明の一実施形態に係るガラス板の成形方法を説明するための模式的正面断面図である。
【0026】
まず、図3に示すガラス板10を用意する。ガラス板10は略矩形板状である。なお、本明細書において略矩形板状は矩形板状を含む。ガラス板10は、対向し合う第1の辺10a及び第2の辺10b並びに対向し合う第3の辺10c及び第4の辺10dを有する。
【0027】
次に、ガラス板10の一方主面上に枠状の塗膜11を形成する。より具体的には、第3の辺10c及び第4の辺10dに至らないように塗膜11を形成する。塗膜11は、特に限定されないが、例えば、炭素系黒色顔料や酸化物系黒色顔料を含有したインクやペーストなどから形成することができる。なお、塗膜11の形状は枠状には限られない。
【0028】
ガラス板10において塗膜11が形成された部分が、ガラス板10の遮光部である。一方で、ガラス板10における塗膜11が形成されていない部分は、ガラス板10の透光部である。このように、本実施形態における成形方法では、透光部及び遮光部を有するガラス板10を成形する。もっとも、本発明に係る成形方法は、塗膜11が形成されておらず、遮光部を有しないガラス板の成形にも用いることができる。
【0029】
次に、図4に示すように、成形型1の湾曲面2上にガラス板10を載置する載置工程を行う。載置工程においては、第1の辺10a及び第2の辺10bが成形型1の上端部に接するように、かつ第3の辺10c及び第4の辺10dが成形型1に接しないように、ガラス板10を湾曲面2上に載置する。なお、ガラス板10の中心線(第3の辺10c及び第4の辺10dの中線)が湾曲面2の上端部に接するように、湾曲面2上にガラス板10を載置する。
【0030】
次に、図4及び図5に示すように、加工工程を行う。具体的には、図4に示すように、ガラス板10の第1の辺10a上に板状の質量付加部材12を載置し、第2の辺10b上に板状の質量付加部材13を載置する。これにより、ガラス板10の周縁部の第1の辺10aの部分及び第2の辺10bの部分に鉛直方向に力を加える。なお、質量付加部材の形状、個数及びガラス板に載置する位置は上記に限定されない。ガラス板10の周縁部において力を加える位置は上記に限定されず、ガラス板10の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えればよい。
【0031】
次に、上記のようにガラス板10の周縁部の少なくともいずれかの部分に鉛直方向に力を加えながら、ガラス板10を加熱する。加熱の条件は特に限定されないが、本実施形態においては、ガラス板10を700℃~900℃において、180分間加熱する。それによって、ガラス板10を軟化させ、図5に示すように、ガラス板10を湾曲面2に沿った形状に曲げ加工する。なお、ガラス板10の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加える方法は上記に限定されず、力を加える方向も鉛直方向には限られない。
【0032】
次に、ガラス板10の第3の辺10c付近及び第4の辺10d付近を切断し除去する除去工程を行う。もっとも、必ずしも除去工程を行わなくともよい。なお、本明細書においては、除去工程後の第3の辺10cに相当する辺及び第4の辺10dに相当する辺も、第3の辺10c及び第4の辺10dと記載する。
【0033】
本実施形態の特徴は、ガラス板10の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えながら、ガラス板10を加熱し、軟化させることにある。それによって、ガラス板10の形状のばらつきを抑制することができ、歩留まりを向上させることができる。この詳細を以下において説明する。
【0034】
図6は、成形後のガラス板の形状不良を説明するための模式的斜視図である。なお、図6に示すガラス板は、除去工程後のガラス板である。
【0035】
図6における上下方向を高さ方向とする。ガラス板10の成形後において、第3の辺10c及び第4の辺10dは高さ方向における位置が一定であり、かつ直線状に延びていることが理想である。しかしながら、ガラス板10の成形後においては、実際にはガラス板10の各辺に歪みが生じ、形状にばらつきが生じる。そのため、実際には第3の辺10c及び第4の辺10dには歪みが生じている。ここで、ガラス板10は、第1の辺10a及び第4の辺10dが接続される第1の角部10eと、第2の辺10b及び第4の辺10dが接続される第2の角部10fとを有する。図6中の仮想線Aは、第1の角部10eと高さ方向における位置が同じとなる位置を示す。第1の角部10eの高さ方向における位置と、第2の角部10fの高さ方向における位置との差の絶対値を第1の高さばらつきZ1とする。
【0036】
一方で、図6中の仮想線Bは、第1の角部10e及び第2の角部10fを結んだ直線である。仮想線Bと第4の辺10dの各部分との距離のばらつきを直線ばらつきXとする。
【0037】
載置工程及び加工工程においては、ガラス板10の平面視における中心線の部分が成形型1の上端部に接する。そのため、成形後のガラス板10の中心線の部分は、理想的には高さ方向における位置が一定である。しかしながら、実際には、第1の辺10a付近及び第2の辺10b付近においては、高さ方向における位置が一定ではない部分を含む。図6中の仮想線Cは、第1の辺10aにおいて、ガラス板10の中心線に位置する部分と同じ高さ方向位置を示す。第1の辺10aにおける上記中心線に位置する部分の高さ方向位置と、ガラス板10の中央付近の高さ方向における位置との差を第2の高さばらつきZ2とする。なお、第2の高さばらつきZ2は、上記中心線に位置する部分において、第1の辺10aの高さの方が中央付近の高さ方向における位置よりも高い場合に正の値とする。
【0038】
ガラス板10を成形した後の第1の辺10a及び第2の辺10bは、理想的には同じ弧長であるが、実際には第1の辺10a及び第2の辺10bには歪みが生じている。第1の辺10aの弧長と、第2の辺10bの弧長との差を円弧ばらつきRとする。なお、円弧ばらつきRは、第1の辺10aの弧長が第2の辺10bの弧長よりも長い場合に正の値とする。
【0039】
ここで、本実施形態の成形方法により成形したガラス板と、比較例の成形方法により成形したガラス板とにおいて、形状不良率を比較した。なお、比較例の成形方法は、加工工程において、ガラス板の周縁部のいずれにも力を加えていない点で本実施形態と異なる。
【0040】
本実施形態の成形方法及び比較例の成形方法により成形したそれぞれのガラス板において、第1の高さばらつき、第2の高さばらつき、直線ばらつき及び円弧ばらつきを算出した。ここで、形状不良の基準を、第1の高さばらつきを2.5mm以上、第2の高さばらつきを±0.5mm以上、直線ばらつきを±0.5mm以上、円弧ばらつきを±0.5mm以上とした。上記基準により、本実施形態の成形方法により1000枚ずつ成形したガラス板の形状不良率及び比較例の成形方法により成形したガラス板の形状不良率を算出した。
【0041】
図7は、図4に示す実施形態及び比較例の成形方法により成形したガラス板の形状不良率を示す図である。図7中のZ1は第1の高さばらつきの形状不良率を示す。Z2+Xは第2の高さばらつき及び直線ばらつきの形状不良率の合計を示す。Rは円弧ばらつきの形状不良率を示す。
【0042】
図7に示すように、本実施形態の成形方法によりガラス板を成形した場合には、比較例の成形方法によりガラス板を成形した場合よりも、形状不良率の全体の合計が低くなっていることがわかる。比較例よりも、本実施形態の成形方法の方が、第1の高さばらつきZ1の形状不良率、第2の高さばらつきZ2及び直線ばらつきXの形状不良率の合計並びに円弧ばらつきRの形状不良率のいずれもが低くなっていることがわかる。このように、本実施形態の成形方法により、ガラス板の歩留まりを高めることができる。
【0043】
図4及び図5に示す実施形態では、加工工程において、ガラス板10の周縁部の少なくともいずれかの部分に力を加えながら、ガラス板10を軟化させ曲げ加工する。それによって、ガラス板10の各辺付近における歪みを抑制することができ、成形後のガラス板10の形状のばらつきを抑制することができる。
【0044】
本実施形態のように、成形型1には第1の端面4aから第2の端面4bまで貫通した貫通孔Oが設けられていることが好ましい。これにより、加工工程において、成形型1を内面5側からも加熱することができる。従って、加工工程においてガラス板10の温度を容易に、かつより確実に高めることができ、ガラス板10を容易に、かつより確実に曲げ加工することができる。なお、貫通孔Oは、必ずしも設けられていなくともよい。
【0045】
成形型1の内面5は、湾曲面2に対応する曲面を含むことが好ましい。これにより、成形型1の湾曲面2付近における肉厚を薄くすることができる。よって、加工工程において、ガラス板10に接する湾曲面2付近を容易に加熱することができる。従って、ガラス板10から成形型1に熱が伝搬することを効果的に抑制することができ、ガラス板10の温度を容易に、かつより確実に高めることができる。
【0046】
成形型1の内面5が溝部5aを有することがより好ましい。内面5が複数の溝部5aを有し、貫通孔O内において、第1の端面4aから第2の端面4bに向かって複数の溝部5aが配列されていることがさらに好ましい。それによって、加工工程において成形型1を効率的に加熱することができる。よって、ガラス板10から成形型1に熱が伝搬することをより一層抑制することができ、ガラス板10の温度をより一層容易に、かつより一層確実に高めることができる。なお、溝部5aは、必ずしも設けられていなくともよい。
【0047】
本実施形態では、成形後においては、ガラス板10の第1の辺10aの全体が略円弧状である。なお、第1の辺10aの一部が略円弧状であり第1の辺10aの両端部付近が略直線状であってもよい。ここで、図8に示すように、第1の辺10aの略円弧状の部分を含む仮想的な円の中心Dと、第1の辺10aの略円弧状の部分の一方端部とを結ぶ直線を第1の直線Eとする。上記円の中心Dと第1の辺10aの略円弧状の部分の他方端部とを結ぶ直線を第2の直線Fとする。第1の直線E及び第2の直線Fとがなす角を中心角θとする。
【0048】
図1に示す本実施形態のように、成形型1は、平面状の第1の側面3a及び第2の側面3bを有することが好ましい。それによって、加工工程に際し、成形型1における湾曲面2より下方の部分にもガラス板10を至らせることができる。よって、大型のガラス板10を、中心角θが大きい略円弧状に、より確実に曲げ加工することができる。
【0049】
第1の側面3a及び第2の側面3bが底面3cに対して垂直に延びていることがより好ましい。この場合には、大型のガラス板10を、中心角θが大きい略円弧状に、より一層確実に曲げ加工することができる。本実施形態のように、大型のガラス板10を、中心角θが180°である略円弧状に、より一層確実に成形することもできる。
【0050】
ここで、図8に示すように第1の辺10aにおける略円弧状の部分の弧長をL(mm)とし、中心角θ(°)に対する弧長L(mm)の比を弧長比L/θとする。本実施形態の成形方法は、例えば、弧長比L/θが1.5以上、2.0以上、特に3.14以上のガラス板10を成形する場合に好適である。
【0051】
ところで、塗膜11が形成されたガラス板10を曲げ加工する場合には、塗膜11の熱膨張率とガラス板10の熱膨張率とは異なるため、成形後のガラス板10の形状のばらつきが大きくなるおそれもある。これに対して、図4に示す本実施形態のように、塗膜11を第3の辺10c及び第4の辺10dに至らないように形成することが好ましい。それによって、塗膜11を形成した場合においても、成形後のガラス板10の形状のばらつきを抑制することができる。
【0052】
除去工程は、第3の辺10cを含み、塗膜11が形成された部分に至らない部分と、第4の辺10dを含み、かつ塗膜11が形成された部分に至らない部分とを切断し除去することが好ましい。塗膜11が形成されていない部分においては、形状のばらつきをより確実に抑制することができる。よって、除去工程後における第3の辺10c及び第4の辺10dにおいて、形状のばらつきをより確実に抑制することができる。
【0053】
本実施形態では、加工工程において、第1の辺10a上及び第2の辺10b上に板状の質量付加部材12及び質量付加部材13を載置する。質量付加部材12及び質量付加部材13は、ガラス板10を構成するガラスと同じ組成のガラスからなることが好ましい。それによって、ガラス板10の熱膨張率と質量付加部材12及び質量付加部材13の熱膨張率とを同じにすることができる。従って、曲げ加工後の冷却時等においても、ガラス板10の形状のばらつきをより一層抑制することができる。
【0054】
(第1の変形例)
図9は、図4に示す実施形態の第1の変形例に係るガラス板の成形方法に用いる成形型の模式的正面断面図である。第1の変形例においては、成形型21の湾曲面22は、第1の湾曲部22c、第2の湾曲部22d及び第3の湾曲部22eを有する。なお、成形型21は、湾曲面22に接続された平面状の第1の側面3a及び第2の側面3bを有しない。湾曲面22において、図9中の一点鎖線Gよりも上方が第1の湾曲部22cであり、下方が第2の湾曲部22d及び第3の湾曲部22eである。具体的には、第1の湾曲部22cは湾曲面22の上端部を含む。本変形例においては、第1の湾曲部22cにおいて、ガラス板10を略円弧状に成形する。第2の湾曲部22dは第1の下方端部2aを含み、かつ第1の湾曲部22cに接続されている。第2の湾曲部22dは第1の下方端部2aに向かうにつれて、曲率が小さくなっている。第3の湾曲部22eは第2の下方端部2bを含み、かつ第1の湾曲部22cに接続されている。第3の湾曲部22eは第2の下方端部2bに向かうにつれて、曲率が小さくなっている。なお、第1の湾曲部22cの曲率は一定である。
【0055】
本変形例では、加工工程において、ガラス板10における略円弧状に成形する部分よりも下方の部分を、湾曲面22の第2の湾曲部22d及び第3の湾曲部22eに至らせることができる。よって、成形型21が第1の側面3a及び第2の側面3bを有していなくとも、大型のガラス板10を、中心角θが大きい略円弧状に、より確実に曲げ加工することができる。
【0056】
なお、第2の湾曲部22dの第1の下方端部2a及び第3の湾曲部22eの第2の下方端部2bに、それぞれ第1の側面3a及び第2の側面3bが接続されていてもよい。
【0057】
(第2の変形例)
図10は、図4に示す実施形態の第2の変形例に係るガラス板の成形方法を説明するための模式的斜視図である。第2の変形例においては、加工工程において、ガラス板10の周縁部全体に枠状の質量付加部材32を載置することにより、ガラス板10の周縁部に力を加える。この場合においても、成形後のガラス板10の形状のばらつきを抑制することができる。
【0058】
質量付加部材32を、ガラス板10の全ての辺上に載置することが好ましい。それによって、より確実にガラス板10の形状のばらつきを抑制することができる。
【0059】
質量付加部材32は、ガラス板10を構成するガラスと同じ組成のガラスからなることが好ましい。それによって、図4に示す実施形態と同様に、ガラス板10の形状のばらつきをより一層抑制することができる。
【符号の説明】
【0060】
1…成形型
2…湾曲面
2a…第1の下方端部
2b…第2の下方端部
3a…第1の側面
3b…第2の側面
3c…底面
4a…第1の端面
4b…第2の端面
5…内面
5a…溝部
10…ガラス板
10a…第1の辺
10b…第2の辺
10c…第3の辺
10d…第4の辺
10e…第1の角部
10f…第2の角部
11…塗膜
12…質量付加部材
13…質量付加部材
21…成形型
22…湾曲面
22c…第1の湾曲部
22d…第2の湾曲部
22e…第3の湾曲部
32…質量付加部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10