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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】治療用ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220805BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220805BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C07K7/08
C12N15/12
A61K38/10
A61P25/02
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019559408
(86)(22)【出願日】2018-01-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 GB2018050078
(87)【国際公開番号】W WO2018130839
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2021-01-12
(31)【優先権主張番号】1700529.9
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519253638
【氏名又は名称】アルピ ロジャース
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】アルピ ロジャース
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-522016(JP,A)
【文献】特表2008-502303(JP,A)
【文献】特表2002-501385(JP,A)
【文献】特開平06-107691(JP,A)
【文献】特開平08-205885(JP,A)
【文献】Biol. Rev. Camb. Philos. Soc., 2016, Vol.91, No.2, pp.288-310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つのペプチド分子を含むペプチド二量体であって、該2つのペプチド分子配列番号:2のアミノ酸配列からなりかつ該2つのペプチド分子が、各ペプチド分子のアミノ末端に位置するジスルフィド架橋により結合されている、前記ペプチド二量体。
【請求項2】
前記ジスルフィド架橋が、各ペプチド分子のアミノ末端のシステイン残基から形成される、請求項1記載のペプチド二量体。
【請求項3】
請求項1又は2記載のペプチド二量体をコードする、核酸。
【請求項4】
請求項3記載の核酸を含む、ベクター。
【請求項5】
請求項1又は2記載のペプチド二量体を含む、組成物。
【請求項6】
請求項5記載の組成物を含む、シリンジ。
【請求項7】
治療における使用のための、請求項5記載の組成物。
【請求項8】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)を治療する方法における使用のための、請求項5記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、概して運動神経疾患(MND)とも呼ばれ、前頭側頭型認知症(FTD)を含み得る筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療における使用のためのラミニン受容体ペプチドに関する。また、本発明はラミニン受容体ペプチド、ラミニン受容体ペプチドをコードする核酸、該核酸を含むベクター、及びラミニン受容体ペプチドを含む組成物を包含する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
運動神経疾患(MND)としても知られる筋萎縮性側索硬化症(ALS)は成人発症麻痺性疾患で、前頭側頭型認知症(FTD)を含み得る。この疾患は病巣部位での初期の筋脱力を特徴とし、それは急速に体の他の領域へ進行する。進行性麻痺は体の全体にわたって広がり続け、2~5年以内に呼吸不全によって死に至る。大部分のALS/MND症例は散発的である一方、5~10%の症例が家族性であると考えられている。
【0003】
ALS/MNDの重症度は、ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)を使用して測定する。これは、臨床面接又は自己完成型アンケートによって実施される12項目の検査である。各項目について、患者に4(正常機能)~0(重度障害)のスコアを与え、これらを足して48の範囲内の総スコアを生じさせる。スコアが低いほど疾患の重症度は高く、スコアが約12に達すると、患者は一般に窒息死する。
【0004】
現在まで、ALS/MNDの急速な進行を遅延するか又は予防することできる、疾患を軽減する治療は、特定されていない。リルゾールは、FDAによって現在認可されているこの衰弱性疾患の治療のための唯一の治療である。リルゾールはナトリウムチャネル阻害剤であり、損傷した神経細胞に関連するTTX感受性ナトリウムチャネルを優先的に遮断する。リルゾールが患者に提供する生存利点はわずか2~3ヵ月であることが示されている(Bensimonらの文献、N. Engl. J. Med. 1994、330: 585-591)。エダラボンはフリーラジカルのスカベンジャーであり、日本においてALS/MNDの治療のために最近承認された。エダラボンは、初期の第III相臨床試験において24週間の治療期間の間に有効性を示すことができなかったが(Abeらの文献、「筋萎縮性側索硬化症及び前頭側頭型変性(Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration)」、2014、15: 610-617)、選択した軽度症候群に対して実施された2回目の第III相臨床試験では、同じ期間に、平均7.5ポイント低下したプラセボ群と比較して、24週にわたるALSFRS-Rスコアにつき5ポイント低下したことが示された。このことはこの軽度症候部分群における疾患進行が減速されたことを表すが、エダラボンが重度の症状(低いALSFRS-Rスコアを特徴とする)を有する患者に効果的であることは実証されなかった。従って、好ましくは早期及び重度疾患を有する患者の両方によって利用可能なALS/MNDのための有効な治療が要望されている。
【0005】
ALS/MND患者では、高レベルの血漿グルカゴンが認められることが当技術分野で知られている(Hubbardらの文献、Neurology、1992、4:1532-1534)。グルカゴンは、異化作用及び代謝亢進効果を有するので(Charltonらの文献、Diabetes、1998、47: 1748-1756及びPreedyらの文献、Biochem J、1985、15: 575-581)、代謝亢進及び筋消耗は、ALS/MND患者において観察され、ALS/MNDの初期の指標として確立された(Dogeらの文献、PNAS、2013、110:10812-10817)。さらに、膵臓α-細胞からのグルカゴンの高レベルの分泌には同じグルカゴン含有α-細胞顆粒から共分泌される高レベルのL-グルタミン酸が付随する(Hyashiらの文献、J Biol Chem., 278, 1966-1974)。分泌されたグルタミン酸はさらにグルカゴンを放出させる正のオートクリンシグナルとして作用し、高いグルカゴン及びグルタミン酸のサイクルを絶やさない(Cabreraらの文献、Cell Metab. 2008, 7, 545-554)。その結果、血漿L-グルタミン酸レベルは、ALS/MND患者において正常よりも3~5倍高いことが報告されており、興奮毒性を有することが知られている(Blinらの文献、Rev. Neurol(Paris)、1991、147、392-394)、Iwasakiらの文献、J Neurol Sci. 1992、107、219-222)。
【0006】
グルカゴンの循環レベル及びALSFRS-R評価スケール間の逆相関が、ALS/MND患者において実証され(Ngoらの文献、Journal of the Neurological Sciences、2015、357: 22-27.37)、このことは、グルカゴンレベルの上昇のALS/MNDの病因における役割を示している。本発明者は循環グルカゴンのレベルを低下させる治療的処置によりALSFRS-Rスコアで測定されるALS/MND症状を低下させることができると仮定する。
【発明の概要】
【0007】
(発明の概要)
本発明者は、予期せずに、単離された膵島培養物にラミニン受容体ペプチドを加えることにより、分泌されたグルカゴンのレベルを有意に低下させることができることを発見した。また本発明者は予期せずに、ラミニン受容体ペプチドの投与によりALSFRS-Rスコアで測定されるALS/MND症状の進行を有意に低下させることができるということを発見した。
【0008】
ラミニンは、その細胞膜脂質ラフト(MLR)中でのラミニン受容体との相互作用によりそのシグナル伝達効果を及ぼす細胞外マトリックス(ECM)内のシグナル伝達タンパク質ファミリーである。様々な細胞のシグナル伝達タンパク質は膜脂質ラフトへと分配されることが示されており、これらの脂質ラフトはシグナル伝達分子及びそれらの受容体がシグナル伝達できるように相互作用することを可能にすると考えられている。従って膜脂質ラフトが適正に組織化されていることは、ECM内の生産的シグナル伝達に不可欠であり、神経コミュニケーション及び筋反応が可能となる。理論に束縛されることを望むものではないが、本発明者はALS/MND患者において観察される高レベルの循環グルカゴンにより脂質ラフト組織化が崩壊し、ECM内で有効なシグナル伝達が妨げられると仮定する。グルカゴンの代謝亢進効果によって引き起こされる筋消耗と一緒になって、脂質ラフト崩壊により、患者筋肉に達する適切な神経シグナルが妨害され、ALS/MND症状が悪化する。ALS/MND患者に対しラミニン受容体ペプチドを投与すると、脂質ラフト構造が修復され、ECM内でのシグナル伝達が回復し、ALS/MND症状が低下するようである。
【0009】
第一の態様において、本発明は筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドであって、グルカゴンの膵性分泌を低下させることによって機能すると仮定される、前記ラミニン受容体ペプチドを提供する。
【0010】
第二の態様において、本発明は、配列番号:1のペプチドとの配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドを提供する。例えば、ペプチドは、配列番号:1のペプチドと、70%、80%、90%、95%又はそれ以上の配列同一性を有し得る。好ましくは、ペプチドは、配列番号:1の配列を含むか又はそれから成る。また、好ましくはジスルフィド架橋によって結合される2以上のペプチド分子を含むペプチド多量体は、本発明のこの態様の中に包含される。
【0011】
(発明の詳細な説明)
本発明は一般に、グルカゴンレベルの低下によって発生すると考えられる、運動神経疾患(MND)としても知られ、前頭側頭型認知症(FTD)を含み得る筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療における使用のためのラミニン受容体ペプチドを提供する。また、本発明はラミニン受容体ペプチド、該ラミニン受容体ペプチドをコードする核酸、該核酸を含むベクター、及び該ラミニン受容体ペプチドを含む組成物を提供する。
【0012】
本発明者はALS/MND患者への本明細書に記載のラミニン受容体ペプチドの投与により、好ましくはALSFRS-Rスコアを使用して測定されたALS/MND症状が低下することを予期せずに発見した。この症状の改善は、細胞膜における脂質ラフト構造の修復及びALS/MND患者において高い循環グルカゴンレベルによって崩壊したECM内でのシグナル伝達の相互廉潔性から生じると考えられる。
【0013】
(ALS/MNDの治療)
第一の態様において、本発明では、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドを提供する。
【0014】
この態様の範囲内で、ラミニン受容体ペプチドを投与することによる筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法、及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療のための医薬の製造におけるラミニン受容体ペプチドの使用の両方を意図する。また、本発明の第一の態様に関して以下に述べられる全ての実施態様は、この治療の方法及び医学的使用に関しても考察される。
【0015】
(ALS/MNDの治療のためのラミニン受容体ペプチド)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、ラミニン受容体に由来する配列を含む。好ましくは、ラミニン受容体は、ヒトラミニン受容体、例えば配列番号:6のアミノ酸配列を有するヒトラミニン受容体である。
【0016】
ラミニン受容体は、細胞膜の脂質ラフト領域の中に位置するII型膜貫通タンパク質である(Jovanovicらの文献、Expert Opin. Ther. Patents、25(5):567-582)。
【0017】
ヒトラミニン受容体の配列は、配列番号:6に表される。受容体のアミノ末端部分(アミノ酸1~85)は細胞内に位置し、受容体の中央部分(アミノ酸86~101)は膜貫通ドメインを形成し、かつ受容体のカルボキシ末端部分(アミノ酸102~295)は細胞外ドメイン(ECD)を形成する。脂質ラフトの構造において重要な役割を果たすのは、ラミニン受容体の細胞外ドメインである。従って、好ましくは本発明の範囲内で筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療のために使用されるラミニン受容体ペプチドは、ヒトラミニン受容体、すなわち配列番号:6のアミノ酸102-295に由来する配列の細胞外ドメインに由来する配列を含む。
【0018】
本発明者は、ラミニン受容体に由来するペプチドが、特に筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療のために効果的であることを予期せずに発見した。従って、一実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、配列番号:1のペプチドとの配列同一性を有するアミノ酸配列を含む。本発明者はこのラミニン受容体ペプチドが脂質ラフト構造を修復して細胞外マトリックス内でのシグナル伝達を回復させるため、このラミニン受容体ペプチドの投与が筋萎縮性側索硬化症ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療に使用できると仮定する。膵臓α-細胞からのグルカゴン分泌が脂質ラフトによって調節されることが知られており、コレステロールを標的化する薬物メチル-β-シクロデクストリン(MβCD)による脂質ラフトの崩壊が、膵臓α-細胞株の培養物でおよそ60%のコレステロールを低下させ、グルカゴン分泌を倍増させることが示されている(Xiaらの文献Endocrinology 2007、148、2157-2167)。また、インビボ研究により、グルカゴンがHMG-CoAの転写及び翻訳速度を低下させることが示されており(Nessらの文献、Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 2000、224、8-19)、細胞コレステロール合成が低下し、それによりコレステロールの豊富な脂質ラフトが損壊される。配列番号:1のペプチドとの配列同一性を有するアミノ酸配列を含むラミニン受容体ペプチドを投与すると、過剰なグルカゴン分泌によって損壊された脂質ラフト構造が修復され、細胞外マトリックス内でのシグナル伝達を回復することによって筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)症状の進行が低下すると仮定する。
【0019】
ある実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、配列番号:1のペプチドとの少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれ以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。これらの実施態様の範囲内において、配列同一性は、任意の手段によって評価することができる。しかしながら、配列同一性は、好ましくはSmith-Watermanアルゴリズムを使用して、評価する。
【0020】
また、先に考察した任意のペプチドの切断バージョンを含む、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、本発明の範囲内で考察する。例えば、ラミニン受容体ペプチドは、配列番号:1の配列又はそれとの配列同一性を有する配列から切断された1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上のアミノ酸を有するペプチドを含むことができる。任意の切断が、配列番号:1のアミノ末端若しくはカルボキシ末端で、又は配列番号:1のアミノ末端若しくはカルボキシ末端の両方で起こる場合がある。
【0021】
一実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列を含み得る。本出願の全体にわたって、「含む」という用語及びその変形 は、記載されたアミノ酸配列が存在するが、同時に追加的アミノ酸がペプチド内に存在してもよいことを示す開いた意味で使用される。存在する場合、そのような追加的アミノ酸はペプチドのアミノ末端若しくはカルボキシ末端に、又はペプチドのアミノ末端及びカルボキシ末端の両方に存在してもよい。ある実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、配列番号:1以外のラミニン受容体の配列(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列の部分を形成する任意の追加アミノ酸を含まなくてもよい。
【0022】
さらなる実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列からなっていてもよい。本件出願の全体にわたって、用語「なる」及びその変形は、追加アミノ酸がペプチド中に存在しないことを示す閉じた意味で使用される。
【0023】
本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドの任意の翻訳後修飾を意図する。例えば、ペプチドは、1以上のアミノ酸でグリコシル化、リン酸化、アセチル化、又はメチル化することができる。
【0024】
(ALS/MNDの治療のためのラミニン受容体ペプチド多量体)
一実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドは、2以上のラミニン受容体ペプチド分子を含むペプチド多量体でもよい。本明細書において、用語「ラミニン受容体ペプチド分子」、「ラミニン受容体ペプチド」、「ペプチド分子」及び「ペプチド」は、先に記載の任意の形態を有するラミニン受容体ペプチドを指すように、互換的に使用される。
【0025】
一実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチド多量体は、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上のラミニン受容体ペプチド分子を含むことができる。好ましくは、ラミニン受容体ペプチド多量体は、ラミニン受容体ペプチド二量体であり、すなわち2つのラミニン受容体ペプチド分子を含む。
【0026】
ある実施態様において、ペプチド多量体中の2つ以上のラミニン受容体ペプチド分子は、同一でもよいか又は、同一でなくてもよい。好ましくは、ペプチド多量体中の2以上のラミニン受容体ペプチド分子は、各々配列番号:1の配列を含むか又はそれからなる。
【0027】
ペプチド多量体中の2以上のラミニン受容体ペプチド分子間の結合の位置は、2つ以上のラミニン受容体ペプチド分子中の任意の位置に位置することができる。ある実施態様において、結合の位置は、各ラミニン受容体ペプチド分子中の同じ位置に位置してもよいし、しなくてもよい。ある実施態様において、2以上のラミニン受容体ペプチド分子は、それらの末端を通じて結合することができる。ペプチド多量体がペプチド二量体である好ましい実施態様において、2つのラミニン受容体ペプチド分子は、それらのアミノ末端を通じて結合される。
【0028】
ペプチド多量体にあって、2つのラミニン受容体ペプチド分子は、ジスルフィド架橋によって結合され得る。ジスルフィド架橋が2つのシステイン残基のチオール基の間の反応によって形成されて、配列R-S-S-R'を有することは、タンパク質生化学の分野で周知である。ペプチド多量体がペプチド二量体である実施態様の範囲内において、2つのラミニン受容体ペプチド分子は、任意の方向で結合することができる。好ましくは、2つのラミニン受容体ペプチド分子はそれらの末端を通じて結合し、かつより好ましくは、2つのラミニン受容体ペプチド分子はそれらのアミノ末端を通じて結合する。換言すれば、ジスルフィド架橋は、好ましくは各ラミニン受容体ペプチド分子のアミノ末端に位置する。
【0029】
当業者であれば、配列番号:1のペプチドはジスルフィド架橋の形成に必要なシステイン残基を含まないことが明らかとなろう。従って本発明では、ペプチド多量体中に存在する各ラミニン受容体ペプチド分子内に、追加的システイン残基を含めることを意図する。追加的システイン残基は各ラミニン受容体ペプチド分子中の任意の位置に位置することができ、追加的システイン残基は各ラミニン受容体ペプチド分子中の同じ位置に位置してもよいし、しなくてもよい。好ましくは、追加的システイン残基は、各ラミニン受容体ペプチド分子のアミノ末端又はカルボキシ末端に位置する。例えば、全てのラミニン受容体ペプチド分子はそれらのアミノ末端に位置する追加的システイン残基を有することができ、全てのラミニン受容体ペプチド分子はそれらのカルボキシ末端にある追加的システイン残基を有することができ、又は、1以上のラミニン受容体ペプチド分子はそのアミノ末端に位置する追加的システイン残基を有することができ、かつ1以上のラミニン受容体ペプチド分子はそのカルボキシ末端に位置する追加的システイン残基を有することができる。好ましくは、多量体は二量体であり、かつ両方のラミニン受容体ペプチド分子はそれらのアミノ末端に位置する追加的システイン残基を有する。
【0030】
好ましくは、追加的システイン残基は、配列番号:1の配列の直近に隣接した各ラミニン受容体ペプチド分子中に存在する。しかしながら、配列番号:1の配列及び追加的システイン残基の間に追加的アミノ酸(例えば1、2、3、4、5又はそれより多くの追加的アミノ酸)を含めることも意図している。
【0031】
好ましい実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチド多量体は、ペプチド二量体である。さらに好ましい実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチド二量体は、配列番号:3の配列を含む。より好ましい実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチド二量体は、配列番号:3の配列からなる。
【0032】
ある実施態様において、本発明による筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチド多量体は、配列番号:1以外のラミニン受容体の配列(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列の部分を形成する任意の追加アミノ酸を含まなくてもよい。
【0033】
(治療プロトコル)
本発明のこの態様の範囲内で、全ての治療プロトコルを意図する。
【0034】
本発明のこの態様の範囲内で治療すべき患者は、好ましくはヒト患者である。しかしながら、動物の患者及び特に非ヒト哺乳動物患者の治療も、意図する。例えば、患者は、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ラマ、サル又はチンパンジーでもよい。
【0035】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドの全ての投与方法が、本発明の範囲内に含まれる。好ましくは、ラミニン受容体ペプチドは、筋内、皮下、静脈内、経粘膜、経皮、又は経口的に投与する。
【0036】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のためのラミニン受容体ペプチドの任意の投薬量が、本発明の範囲内にあることを意図する。しかしながら、好ましくは選択される用量は、患者のALS/MND症状の改善を提供する。好ましくは、改善は予測された下降と比較したALSFRS-Rスコアの改善又は下降の遅延として測定する。
【0037】
(ラミニン受容体ペプチド)
第2の態様において、本発明は、配列番号:1のペプチドとの配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチドを提供する。
【0038】
(ラミニン受容体ペプチド)
本発明者は、ラミニン受容体ペプチドが筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療のために使用することができるということを予期せずに発見した。このことは筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)及び前頭側頭型認知症(FTD)の患者において高くなる血漿グルカゴンレベルの低下によって発生すると考えられる。ラミニン受容体ペプチドのこの特性は以前は知られていなかったので、本発明は配列番号:1との配列同一性を有するペプチドを包含する。
【0039】
一実施態様において、本発明によるペプチドは、配列番号:1との少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれ以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含み得る。これらの実施態様の範囲内において、配列同一性は、任意の手段によって評価されることができる。しかしながら、配列同一性は、Smith-Watermanアルゴリズムを使用して、好ましくは評価される。
【0040】
一実施態様において、本発明によるペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列を含み得る。ある実施態様において本発明によるペプチドは、配列番号:1以外のラミニン受容体の配列(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列の部分を形成する任意の追加アミノ酸を含まなくてもよい。
【0041】
別の実施態様において、ペプチドは、配列番号:1のアミノ酸配列から成ることができる。
【0042】
本発明によるペプチドは任意に翻訳後修飾することを意図する。例えば、ペプチドは、1以上のアミノ酸でグリコシル化、リン酸化、アセチル化、又はメチル化することができる。
【0043】
(ペプチド多量体)
一実施態様において、本発明によるペプチドは、2以上のペプチド分子を含むペプチド多量体でもよい。本明細書において、用語「ラミニン受容体ペプチド分子」、「ラミニン受容体ペプチド」、「ペプチド分子」及び「ペプチド」は、先に記載の形態のいずれかを有するペプチドを指すように、互換的に使用される。
【0044】
一実施態様において、本発明によるラミニン受容体ペプチド多量体は、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上ラミニン受容体ペプチド分子を含むことができる。好ましくは、ラミニン受容体ペプチド多量体は、ラミニン受容体ペプチド二量体であり、すなわち2つのラミニン受容体ペプチド分子を含む。
【0045】
ある実施態様において、ペプチド多量体の内の2以上のペプチド分子は、同一であってもよいし、同一でなくてもよい。
【0046】
好ましくは、ペプチド多量体中の2以上のペプチド分子は、各々配列番号:1の配列を含み、又はそれからなる。
【0047】
ペプチド多量体中の2以上のペプチド分子間の結合の位置は、2以上のペプチド分子中の任意の位置に位置することができる。ある実施態様において、結合の位置は、各ペプチド分子中の同じ位置に位置してもよいし、しなくてもよい。ある実施態様において、2以上のペプチド分子は、それらの末端によって結合することができる。ペプチド多量体がペプチド二量体である好ましい実施態様において、2つのペプチド分子は、それらのアミノ末端によって結合する。
【0048】
ペプチド多量体にあって、2つのペプチド分子は、ジスルフィド架橋によって結合することができる。ジスルフィド架橋が2つのシステイン残基のチオール基の間の反応によって形成されて、配列R-S-S-R'を有することは、タンパク質生化学の分野において周知である。
ペプチド多量体がペプチド二量体である実施態様の範囲内において、2つのペプチド分子は、任意の方向において結合されることができる。好ましくは、2つのペプチド分子はそれらの末端によって結合され、より好ましくは、2つのペプチド分子はそれらのアミノ末端によって結合される。言い換えれば、ジスルフィド架橋は、好ましくは各ペプチド分子のアミノ末端に位置する。
【0049】
当業者であれば、配列番号:1のペプチドがジスルフィド架橋を形成するのに必要なシステイン残基を含まないことが明白となるだろう。従って、本発明は、ペプチド多量体中に存在する各ペプチド分子中に、追加的システイン残基を含めることを意図する。追加的システイン残基は各ペプチド分子内の任意の位置に位置することができ、追加的システイン残基は各ペプチド分子中の同じ位置に位置してもよいし、しなくてもよい。好ましくは、追加的システイン残基は、各ペプチド分子のアミノ末端又はカルボキシ末端に位置する。例えば、全てのペプチド分子はそれらのアミノ末端に位置する追加的システイン残基を有することができ、全てのペプチド分子はそれらのカルボキシ末端に位置する追加的システイン残基を有することができ、又は1以上のペプチド分子はそのアミノ末端に位置する追加的システイン残基を有することができ、そして、1以上のペプチド分子はそのカルボキシ末端に位置する追加的システイン残基を有することができる。好ましくは、多量体は二量体であり、両方のペプチド分子はそれらのアミノ末端に位置する追加的システイン残基を有する。
【0050】
好ましくは、追加的システイン残基は、配列番号:1の配列の直近に隣接した各ペプチド分子中に存在する。しかしながら、配列番号:1の配列及び追加的システイン残基の間に追加的アミノ酸(例えば1、2、3、4、5又はそれより多くの追加的アミノ酸)を含めることも意図している。
【0051】
本明細書において、配列番号:1の配列及び追加的システイン残基を含むペプチドを意図する。追加的システイン残基は、好ましくは配列番号:1のアミノ末端に位置する。一実施態様において、本発明は、配列番号:2のアミノ酸配列を含むペプチドを包含する。ある実施態様において、ペプチドが配列番号:1以外のラミニン受容体の配列(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列の部分を形成する任意の追加的アミノ酸を含まなくてもよい。別の実施態様において、ペプチドは、配列番号:2の配列からなることができる。
【0052】
好ましい実施態様において、ペプチド多量体は、ペプチド二量体である。さらに好ましい実施態様において、本発明によるラミニン受容体ペプチド二量体は、2つのシステイン残基の間のジスルフィド架橋によって結合され得る配列番号:2を含み、又はそれからなる2つのペプチド分子を含む。
【0053】
好ましい実施態様において、ペプチド多量体は、ペプチド二量体である。さらに好ましい実施態様において、本発明によるラミニン受容体ペプチド二量体は、配列番号:3の配列を含む。より好ましい実施態様において、本発明によるペプチド二量体は、配列番号:3の配列からなる。
【0054】
ある実施態様において本発明によるペプチド多量体は、配列番号:1以外のラミニン受容体の配列(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列の部分を形成する任意の追加アミノ酸を含まなくてもよい。
【0055】
(融合タンパク質)
一実施態様において、本発明は、本発明のペプチド又はペプチド多量体を含む融合タンパク質を提供する。
【0056】
融合タンパク質は、本発明のペプチド又はペプチド多量体に加えて1以上の機能的なドメインを含むことができる。例えば、融合タンパク質は、1以上のタグ、ビオチン分子、精製操作用標識(purification handles)、又はエフェクタードメインを含むことができる。
【0057】
本明細書において、融合タンパク質は、好ましくは配列番号:1以外のラミニン受容体(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列を含まない。
【0058】
(核酸)
一実施態様において、本発明は、本発明のペプチド、ペプチド多量体、又は融合タンパク質をコードする核酸を提供する。核酸は、DNA又はRNAとし得る。
【0059】
本発明による核酸は、配列番号:4又は配列番号:5との少なくとも70%、少なくとも71%、少なくとも72%、少なくとも73%、少なくとも74%、少なくとも75%、少なくとも76%、少なくとも77%、少なくとも78%、少なくとも79%、少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又はそれ以上の配列同一性を有する核酸配列を含むことができる。これらの実施態様の範囲内において、配列同一性は、任意の手段によって評価することができる。しかしながら、配列同一性は、好ましくはSmith-Watermanアルゴリズムを使用して、評価する。
【0060】
好ましい実施態様において、核酸は、配列番号:4又は配列番号:5を含むことができる。好ましくは、核酸は配列番号:4以外のラミニン受容体(配列番号:7)に見いだされる連続したヌクレオチド配列を含まない。
【0061】
より好ましい実施態様において、核酸は、配列番号:4又は配列番号:5からなることができる。
【0062】
(ベクター)
一実施態様において、本発明は、本発明の核酸を含むベクターを提供する。ベクターは、ベクター中の核酸によってコードされたタンパク質又はペプチドの組換え生産のために好適な任意のベクターでもよい。例えば、ベクターは、酵母、ウイルス、プラスミド、コスミド又は人工染色体でもよい。
【0063】
(組成物)
本発明は、本発明及び任意に医薬として許容し得る賦形剤のペプチド、ペプチド多量体、又は融合タンパク質を含む組成物を包含する。
【0064】
一実施態様においてまた、本発明は、本発明の組成物を含むシリンジを提供する。本明細書において、組成物は、好ましくは皮下又は筋内投与を意図するものであり、それらに好適である。
【0065】
本発明者は、治療における使用のためのペプチド、ペプチド多量体、ペプチド二量体、融合タンパク質、又は組成物を意図する。さらに、発明者は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ペプチド、ペプチド多量体、ペプチド二量体、融合タンパク質、又は組成物を意図する。
【0066】
本発明は、以下の非限定的な実験的実施例を参照して、さらに理解されることとなる。
【実施例
【0067】
(実施例)
(実施例1―ペプチドAのグルカゴンレベルへの影響)
本発明の方法は、インビトロでの単離膵島細胞の使用及びペプチドA二量体(配列番号:3)の存在下及び非存在下のグルカゴン分泌レベルの測定を実証する。
【0068】
コレステロール減少によるα-細胞での脂質ラフトの崩壊により、シグナル伝達分子の組織化が破綻し、グルカゴンの放出が高まることが過去に実証されている(Xiaらの文献Endocrinology、2007、148:2157-2167)。島を単離するためコラゲナーゼにより膵臓組織を消化すると、ラミニン、フィブロネクチン及びコラーゲンを含むECM構成要素の組織化の破綻によるシグナル伝達分子と同様の崩壊が起こり(Lee及びBlaufoxの文献、J Nucl Med、1985、25:72-76)、同様にグルカゴンレベルが異常に高まる。予期せずに、本発明者は、ペプチドA二量体(配列番号:3)のコラゲナーゼ処理した単離膵島培養物への追加により、以下の表1に示すように対照培養物と比較したグルカゴンの分泌を正常化することができることを実証した。
【0069】
2頭のWistarラット(~250g)から島を、Liらの文献(Nature Protocols、2009、4:1649-1652)の方法に従って単離し、11 mmol/Lグルコース及び10% FCSを含む30 ml RPMI1640中に懸濁した。1 mlの島懸濁液を、24ウェルプレートの各ウェルに加えた。ペプチドA二量体(配列番号: 3)は、100 μg/mlでHBSS中に溶解させ、1 μg/mlの最終濃度でウェルに加えた。適当な時間のインキュベーション後、試料をQuantikine ELISA Immunoassay(R&D Systems)を使用するグルカゴン測定のために取り出した。
【0070】
【表1】
表1. 本発明のペプチドA二量体の存在下の培養物と比較した、培養培地単独中の単離ラット島培養物から分泌されたグルカゴンレベル
【0071】
11 mmol/Lグルコースを含むRPMI 1640培地中の単離された膵島からのインビトロでのグルカゴン分泌は、平均的なラットのインビボグルカゴン分泌及び血液容量の実験的証拠(Ruiterらの文献、Diabetes、2003、52:1709-1715及びWangらの文献、J Histochem Cytochem. 1999, 47:499-506)から予測されるよりも高いことを実証する。グルカゴン分泌のインビトロレベルがより高くなるのは、先に記載のコラゲナーゼ誘導性のECM崩壊に起因する。Peptide A二量体(配列番号: 3)を含む試験培養物中では、グルカゴン分泌は、4時間以内のインキュベーションで31.6%低下した。24及び72時間のインキュベーション後に採取したさらなる試料では、ペプチドA二量体を含まない対照培養物と比較して、グルカゴンの分泌がそれぞれ44.8%及び55.2%低下して、正常な状態に達することが実証された。
【0072】
250gのラットの血液容量は、Lee及びBlaufoxの文献(J Nucl Med、1985、25:72-76)の式に従って~15mlであると推定することができる。従って、30mlの容量に懸濁し、1mlのアリコートに分配された、2頭のWistarラットから単離した島からのグルカゴン分泌は、平均的なラットにおけるインビボ血漿グルカゴン濃度を代表するはずである。明時間及び暗時間の間のWistarラットの平均グルカゴン濃度の報告値は、平均80.1±3.5 pg/ml~87.3±3.4 pg/mlまで様々であった;絶食されたラットで、濃度は、102 pg/mlのピークまで増加した(Wangらの文献、J Histochem Cytochem. 1999, 47:499-506)。表1からは、新たに単離されたラット島の4時間の培養後に、622.2 pg/mlのグルカゴン濃度がラットにおいて測定されるピークのインビボレベルより高い~6倍高いことが分かる。このことは、酵素の消化の直後に発生し、α-細胞の脂質ラフトにおけるシグナル伝達分子の組織化に影響を及ぼす新たに単離された島のECM構成要素の分解及び喪失に起因する。
【0073】
表1に示す3日間の培養期間にわたる病的に高い分泌グルカゴンレベルの正常な状態に向けた漸進的な下降は、ECMの再構成により説明される。各時点にて、ペプチドA二量体により72時間(3日目)までにグルカゴンレベルが改善し、培養物へのペプチドの追加によりグルカゴン分泌がRuiterらの文献(Diabetes、2003、52: 1709-1715)によって報告された約80~102 pg/mlの予測インビボレベルと同等の正常レベル(98.3 pg/ml、表1)になった。このことは、この発明のペプチドが脂質ラフトスキャフォールドの回復的架橋及び脂質ラフトにある多数のシグナル伝達経路の再組織化を可能とすることを実証する。
【0074】
(実施例2―臨床データ)
臨床データは、6ヵ月間にわたりペプチドA二量体(配列番号3)を用いたネームドペーシェント(named patient)ベースで治療した19名のALS/MND患者から得た。
【0075】
診断から治療までの平均的時間は17.8ヵ月であり、診断から治療開始までの下降速度を各患者について確定した。これは、1ヵ月当たり平均-1.24±0.7のALSFRS-Rスコアの下降であった。治療開始時の平均ALSFRS-Rスコアは32.94+/-8.13、中央値スコアは36であった(最小値-最大値15-44)であった。以下に、要約したデータは、表2及び3に示される。
【0076】
【表2】
(表2. 治療開始時に取得した19名のALS/MND患者のALSFRS-Rスコア(A ベースライン)、診断から治療開始時までのスコアからの下降速度に基づいた予測スコア(B 予測)、及び分析時までの実測のALSFRS-Rスコア(C 実測))
【0077】
上記表2は、その多くがその状態が重度であるために通常は臨床試験への参加資格を有さない全身ALS/MND集団を反映する患者群における疾患進行が62%遅くなったことを示す。さらに、群の平均より速い予測された下降を有するこれらの患者の部分群は、治療に対し、全体群(62.07%、表2)より遅い進行を示した(76.6%、以下の表3)。患者19名のこの群には、安定し、各ALSFRS-Rスケールが1ポイント上昇した2名の参加者を含む。このことは、1%以下と推定される稀な出来事であると考えられる。この治療群において、2/19は、群の10.5%である。
【0078】
【表3】
(表3. 治療開始時に取得した19名のALS/MND患者のうちの7名のALSFRS-Rスコア(A ベースライン)、診断から治療開始時までのスコアからの下降速度に基づいた予測スコア(B 予測)、及び分析時までの実測のALSFRs-Rスコア(C 実測))
【0079】
ALS/MND(Bensimon Gらの文献、N. Engl. J. Med. 1994、330: 585-591)のために唯一FDAにより認可された薬物リルゾールは、眼球発症患者の群において有意な2-3ヵ月の生存利点を有することを示し、肢発症を有する患者において肯定的な傾向を示した。機能的な利点は実証されなかった。現在日本で承認されているフリーラジカルスカベンジャーであるエダラボンは、初期の第 III相臨床試験(Abeらの文献、「筋萎縮性側索硬化症及び前頭側頭型変性(Amyotrophic Lateral Sclerosis and Frontotemporal Degeneration)」、2014、15: 610-617)の24週間の治療期間の間に有効性を示すことができなかった。しかしながら、その下降がエダラボンに対する減速であるようであった軽度症候性参加者の部分群が特定されたため、2回目の第III相臨床試験が、選択された軽度症候性群において実施された。24週間後、プラセボ群では7.5ポイント低下したのに対し、エダラボンを採用した患者では、5ポイントのALSFRS-Rスコアが低下した。このことは、この軽度症候性部分群における33.3%で進行が減速したことを表す。
【0080】
特に、試験開始時にALSFRS-R平均スコアが32.9(最小値-最大値15-44)である広範囲かつ重度の患者を試験に含めた(表2を参照されたい)ことを考えると、本発明のペプチドAを使用して収集したデータはリルゾール及びエダラボンを含む現在利用可能な治療と比較して非常に優位にある。エダラボンの1回目の第III相臨床試験では、ALSFRS-Rスコアの中央値が43(最小値-最大値31-48)であるより重症度の低い疾患を有する混合患者集団でさえも、何ら有効性を示すことができなかった。また、ベースラインALSFRS-Rの平均が38であるALS/MND患者における炎症性単球/マクロファージ(NP001)の新規免疫調節因子の最近公開された第II相臨床試験は、ALSFRS-Rスコアの下降の有意な減速を実証することができなかった(Millerらの文献、Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm、2015; 2; DOI 10.1212/NXI. 000)。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
配列番号:1のペプチドとの少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むペプチド。
(態様2)
配列番号:1のペプチドとの少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、態様1記載のペプチド。
(態様3)
配列番号:1のペプチドとの少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、態様2記載のペプチド。
(態様4)
配列番号:1のペプチドとの少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、態様3記載のペプチド。
(態様5)
配列番号:1の配列を含む、態様4記載のペプチド。
(態様6)
態様1~5のいずれか1項記載の2以上のペプチド分子を含む、ペプチド多量体。
(態様7)
2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のラミニン受容体ペプチド分子を含む、態様6記載のペプチド多量体。
(態様8)
前記ペプチド多量体が2つのラミニン受容体ペプチド分子を含むペプチド二量体である、態様7記載のペプチド多量体。
(態様9)
前記2つのペプチド分子がジスルフィド架橋により結合される、態様8記載のペプチド二量体。
(態様10)
前記ジスルフィド架橋が各ペプチド分子のアミノ末端に位置している、態様9記載のペプチド二量体。
(態様11)
配列番号:3の配列を含む、態様6~10のいずれか1項記載のペプチド多量体。
(態様12)
配列番号:2のアミノ酸配列を含むペプチド。
(態様13)
前記ペプチドが配列番号:2の配列からなる、態様12記載のペプチド。
(態様14)
態様12又は13記載の2つのペプチド分子を含むペプチド二量体。
(態様15)
前記2つのペプチド分子が各ペプチド分子のアミノ末端システイン残基から形成されるジスルフィド架橋を介して結合されている、態様14記載のペプチド二量体。
(態様16)
態様1~15のいずれか1項記載のペプチド、ペプチド多量体、又はペプチド二量体を含む、融合タンパク質。
(態様17)
前記ペプチド、ペプチド二量体、又は融合タンパク質が配列番号:1以外のラミニン受容体(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列を含まない、態様1~15のいずれか1項記載のペプチド、ペプチド多量体、若しくはペプチド二量体、又は態様16記載の融合タンパク質。
(態様18)
態様1~17のいずれか1項記載のペプチド、ペプチド多量体、ペプチド二量体、又は融合タンパク質をコードする核酸。
(態様19)
配列番号:4又は配列番号:5のヌクレオチド配列との少なくとも70%の配列同一性を有する配列を含む、核酸。
(態様20)
配列番号:4又は配列番号:5のヌクレオチド配列との少なくとも80%の配列同一性を有する配列を含む、態様19記載の核酸。
(態様21)
配列番号:4又は配列番号:5のヌクレオチド配列との少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、態様20記載の核酸。
(態様22)
配列番号:4又は配列番号:5のヌクレオチド配列との少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、態様21記載の核酸。
(態様23)
配列番号:4又は配列番号:5のヌクレオチド配列との少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む、態様18記載の核酸。
(態様24)
配列番号:4以外のラミニン受容体(配列番号:6)に見いだされる連続したヌクレオチド配列を含まない、態様18~23のいずれか1項記載の核酸。
(態様25)
態様18~24のいずれか1項記載の核酸を含むベクター。
(態様26)
態様1~17のいずれか1項記載のペプチド、ペプチド二量体、又は融合タンパク質、及び医薬として許容し得る賦形剤を含む組成物。
(態様27)
態様26記載の組成物を含むシリンジ。
(態様28)
治療における使用のための、態様1~17のいずれか1項記載のペプチド、ペプチド多量体、ペプチド二量体、若しくは融合タンパク質、又は態様26記載の組成物。
(態様29)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療における使用のための、態様28記載のペプチド、ペプチド多量体、ペプチド二量体、又は融合タンパク質。
(態様30)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチド。
(態様31)
態様30記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、ヒトラミニン受容体(配列番号:6)に由来する配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様32)
態様31記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、ヒトラミニン受容体(配列番号:6)の細胞外ドメイン(ECD)に由来する配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様33)
態様32記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、配列番号:1のペプチドとの少なくとも70%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様34)
態様33記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、配列番号:1のペプチドとの少なくとも80%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様35)
態様34記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、配列番号:1のペプチドとの少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様36)
態様35記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、配列番号:1のペプチドとの少なくとも95%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様37)
態様30~36のいずれか1項記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、配列番号:1のアミノ酸配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様38)
態様30~37のいずれか1項記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、該ペプチドが態様30~37のいずれか1項記載の2以上のラミニン受容体ペプチド分子を含むペプチド多量体である、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様39)
態様38記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、前記ペプチド多量体が2、3、4、5、6、7、8、9、又は10個のラミニン受容体ペプチド分子を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様40)
態様39記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、前記ペプチド多量体が、2つのラミニン受容体ペプチド分子を含むペプチド二量体である、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様41)
態様40記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、前記2つのラミニン受容体ペプチド分子がジスルフィド架橋によって結合される、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様42)
態様41記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、前記ジスルフィド架橋が各ラミニン受容体ペプチド分子のアミノ末端に位置している、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様43)
態様38~42のいずれか1項記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、前記ペプチド多量体が配列番号:3の配列を含む、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様44)
態様40~43のいずれか1項記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、前記ペプチド二量体が配列番号:3の配列からなる、前記ラミニン受容体ペプチド。
(態様45)
態様30~44のいずれか1項記載の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、運動神経疾患(MND)、又は前頭側頭型認知症(FTD)の治療方法における使用のための、ラミニン受容体ペプチドであって、該ペプチドが配列番号:1以外のラミニン受容体(配列番号:6)に見いだされる連続したアミノ酸配列を含まない、前記ラミニン受容体ペプチド。
【0081】
(参考文献)
【化1】
【0082】
(配列表)
【化2】
【配列表】
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