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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】骨代替材料用のキャリアー組成物
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/40 20060101AFI20220805BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20220805BHJP
   A61L 27/02 20060101ALI20220805BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220805BHJP
   A61L 27/12 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
A61L27/40
A61L27/18
A61L27/02
A61L27/52
A61L27/12
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020503352
(86)(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 EP2018058132
(87)【国際公開番号】W WO2018178266
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】17163687.1
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519349757
【氏名又は名称】アルトス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】ゲルバー トーマス
【審査官】辰己 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-515422(JP,A)
【文献】国際公開第2011/137231(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/099967(WO,A1)
【文献】特表2016-514030(JP,A)
【文献】特表2003-522805(JP,A)
【文献】特表2017-524398(JP,A)
【文献】特開昭58-093725(JP,A)
【文献】特開昭57-056417(JP,A)
【文献】特表2006-515767(JP,A)
【文献】特表2005-519676(JP,A)
【文献】特表2006-528894(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状および顆粒状骨代替材料用のキャリアー組成物であって、
(a)1種のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーまたは複数種のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの混合物;および
(b)シリカナノ粒子
を含むヒドロゲルである、キャリアー組成物。
【請求項2】
前記ヒドロゲル中の水の割合が、60%~90%(w/w)の範囲である、請求項1に記載のキャリアー組成物。
【請求項3】
前記ヒドロゲル中のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの割合が、10%~40%(w/w)である、請求項1または2に記載のキャリアー組成物。
【請求項4】
前記ヒドロゲル中のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの割合が、20%~37%(w/w)である、請求項3に記載のキャリアー組成物。
【請求項5】
シリカナノ粒子の割合が2%~12%(w/w)の範囲である、請求項1~のいずれか一項に記載のキャリアー組成物。
【請求項6】
シリカナノ粒子の割合が3.5%~5%(w/w)の範囲である、請求項5に記載のキャリアー組成物。
【請求項7】
前記シリカナノ粒子が、0.5nm~10nmのサイズを有する、請求項1~のいずれか一項に記載のキャリアー組成物。
【請求項8】
前記シリカナノ粒子が、0.5nm~1.5nmのサイズを有する、請求項7に記載のキャリアー組成物。
【請求項9】
前記シリカナノ粒子が、200nm未満の平均サイズを有するフラクタル凝集クラスターを形成する、請求項1~のいずれか一項に記載のキャリアー組成物。
【請求項10】
前記キャリアー組成物中の前記エチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーが、1,000g/mol~70,000g/molの分子量分布を有する、請求項1~のいずれか一項に記載のキャリアー組成物。
【請求項11】
前記キャリアー組成物中の前記エチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの少なくとも30%(w/w)が、9,800~14,600g/molの範囲の平均分子量を有するポロキサマーからなる、請求項1~10のいずれか一項に記載のキャリアー組成物。
【請求項12】
前記キャリアー組成物中の前記エチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの少なくとも40%(w/w)が、9,800~14,600g/molの範囲の平均分子量を有するポロキサマーからなる、請求項11に記載のキャリアー組成物。
【請求項13】
前記ポロキサマーがポロキサマー407である、請求項11または12に記載のキャリアー組成物。
【請求項14】
(a)請求項1~13のいずれかに記載のキャリアー組成物;
(b)骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒
を含む、骨代替材料。
【請求項15】
前記骨伝導性および/または骨誘導性粒子が、5μm~100μmのサイズを有する、請求項14に記載の骨代替材料。
【請求項16】
前記骨伝導性および/または骨誘導性粒子が、20μm~40μmのサイズを有する、請求項15に記載の骨代替材料。
【請求項17】
前記骨伝導性および/または骨誘導性粒子が、開口部を有する中空球体である、請求項14~16のいずれかに記載の骨代替材料。
【請求項18】
前記中空球体が、100μm~3,000μmのサイズのクラスターを形成する、請求項17に記載の骨代替材料。
【請求項19】
前記骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒が、骨の生物学的ヒドロキシアパタイトの形態を有し、シリカキセロゲルのマトリックスでコーティングされたヒドロキシアパタイト微結晶からなる、請求項14~16のいずれかに記載の骨代替材料。
【請求項20】
前記骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは前記骨伝導性および/または骨誘導性顆粒が、シリカゲルでコーティングされている、請求項14~18のいずれかに記載の骨代替材料。
【請求項21】
前記シリカゲル中のシリカ濃度が3%~10%である、請求項20のいずれかに記載の骨代替材料。
【請求項22】
骨代替材料を調製するための方法であって、
(a)請求項1~13に記載のキャリアー組成物を提供する工程;
(b)必要に応じて、ガンマ線で前記キャリアー組成物を処理する工程;
(c)前記キャリアー組成物を骨伝導性および/または骨誘導性粒子と、あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒と混合する工程;
を含む、方法。
【請求項23】
前記骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは前記骨伝導性および/または骨誘導性顆粒が、シリカヒドロゲルでコーティングされている、請求項22に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーとその中に埋め込まれたシリカナノ粒子との混合物を含むヒドロゲルである粒子状および顆粒状骨代替材料用のキャリアー組成物に関する。本発明はまた、新規なキャリアー組成物に加えて、骨伝導性および/または骨誘導性粒子または顆粒を含有する骨代替材料に関する。新規なキャリアー組成物および新規な骨代替材料を調製するための方法も、本発明の枠組み内で提供される。
【背景技術】
【0002】
骨置換材料は、その構造および組成によって決定される機能を有する。骨置換材料は、材料表面とタンパク質、例えば骨代謝を制御するもの、および細胞接着を促進する表面構造との相互作用によりその効果を発揮する。従来技術で既知である骨置換材料は、通常、セラミックまたはバイオガラスであり、これらは、通常、顆粒形態で使用される。適用前に、これらの顆粒は患者の血液と混合されるため、顆粒の表面は自己タンパク質でコーティングされる。血液の凝固は、例えば、骨欠損部に導入することができるペースト状の塊を生成する。
【0003】
しかしながら、これらの骨代替材料の製造は、かなりの不利益を伴う。骨代替材料と血液を混合し、凝固を待つ必要があるため、手術の経過が定期的に複雑になる。このため、先行技術では、血液との混合を不要にする骨代替材料用のキャリアー材料の開発が試みられてきた。ここでは、レオロジー特性をコンクリート用途に適合できることが重要である。一方では、骨代替顆粒のキャリアー材料は、可能であれば寸法安定性および水安定性である必要があり、また、出血性の強い欠損部に挿入した後も十分な接着効果を発揮する必要がある。他方では、キャリアー材料は、カニューレによる投与を可能にする剤形で存在する必要がある。
【0004】
国際公開第2004/071452A2号は、医療および外科的用途のためポロキサマー407などのポロキサマーを記載している。国際公開第2012/117260A2号は、セラミック粒子がヒドロゲルキャリアー中に埋め込まれた合成骨代替材料を開示している。ヒドロゲルは、ポロキサマー407に基づくヒドロゲルであることが好ましい。国際公開第2014/099967A2号は、ポロキサマー407に基づくヒドロゲル中にセラミック成分を含有する骨代替材料も記載している。米国特許第2016/0051725号は、リン酸カルシウム粒子を含有するポロキサマー系ヒドロゲルを開示し、ヒドロゲルの粘弾性およびレオロジー特性を添加剤によってどのように改善することができるかを記載している。米国特許第2013/0045920号は、セラミック材料、ポロキサマー407ヒドロゲル、および多糖類添加剤を含む骨置換材料を記載している。国際公開第2014/095915A2号は、医療分野における多用途への応用を可能にすると思われるポロキサマーを基礎とする熱可逆性ヒドロゲルを記載している。これらのヒドロゲルのゲル形成は、ブロックポリマーによる温度依存性のミセルの形成を介して行われる。しかしながら、最新技術に記載されているヒドロゲルは、それらの粘度がヒドロゲルの十分に高い成形性および粘着性を保証するには低すぎるという欠点を有する。
【0005】
骨代替材料の円滑な適用を保証するために、成形が容易で、欠損部に固定されるのに十分な粘着性があるすぐに使用できるキャリアー材料が必要である。さらに、材料は水に安定である必要があり、すなわち、ひどく出血している傷の場合でも、洗い流す必要がない。理想的には、適切なアプリケーターから欠損部にそれを直接挿入することが可能である必要がある。
【0006】
したがって、本出願の目的は、上記の要件を満たすキャリアー材料を開発することである。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、粒子状および顆粒状の骨代替材料用のキャリアーとして使用できる新規な組成物を提供する。該キャリアー組成物は、
(a)エチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーまたはエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの混合物;および
(b)シリカナノ粒子
を含むヒドロゲルである。
【0008】
本発明によるヒドロゲルにおいて、ゲル形成は、エチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーとシリカナノ粒子との架橋により起こる。レオロジー特性は、ヒドロゲル成分の特定の修正により修正し、様々な用途に適合させることができる。ブロックコポリマーに基づく従来のヒドロゲルとは対照的に、本発明によるヒドロゲルのゲル形成は、ミセル形成ではなく、シリカナノ粒子とブロックコポリマーとの間の直接の相互作用によって起こる。したがって、本発明のヒドロゲルは、ミセルの形態のブロックコポリマーを全く含有しないか、またはごく少ない割合しか含有しない。好ましくは、ミセルの形態のブロックコポリマーの割合は、2%未満、より好ましくは1%未満である。特に好ましい実施形態では、本発明のヒドロゲルはミセルを含まない。本発明のヒドロゲルはミセルの形成に基づかないため、それらは感熱性ではなく、すなわち、これらのヒドロゲルのゾルゲル転移は温度に依存しない。本発明のヒドロゲルは熱安定性であり、低温でも液体にならない。
【0009】
本発明の枠組みにおいて、新しいキャリアー組成物は骨治癒の生物学的プロセスに悪影響を及ぼさないことが見出された。例えば、自己タンパク質でのこの表面のコーティングを防止することによる、またはナノポアの目詰まりによるキャリアー組成物と骨代替材料の表面との負の相互作用は、実証されていない。さらに、新しいキャリアー組成物は、迅速な吸収を保証する粘弾性およびレオロジー特性を有する。したがって、新しいキャリアー組成物は、既知の顆粒と血液との混合物を不要にする。代わりに、顆粒形態の骨代替材料は、新しいキャリアー組成物と直接混合され、欠損部に挿入される。これにより、臨床診療が大幅に簡素化される。
【0010】
キャリアー組成物は、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとの1つ以上のブロックコポリマーに基づくヒドロゲルである。ブロックコポリマーは、ポロキサマーであることが好ましい。ポロキサマーは、化学技術産業での分散および乳化に広く使用されている低発泡性の非イオン性界面活性剤である。ポリマーのポリエチレンオキシド部分は水溶性であるが、ポリプロピレンオキシド部分はそうではないため、両親媒性が生じる。エトキシル化の程度に応じて、それらは液体(L)、ペースト状(P)、固体(F)、または粉末状である。ポロキサマーは良好な生体適合性を有し、生理学的条件下で代謝されず、毒性または腐食性がほとんどなく、身体から容易に除去される。
【0011】
ポロキサマーは1950年代にBASFによって開発され、その後Pluronic(登録商標)の商標名で販売されている。両親媒性構造により、ポロキサマーは、水性多成分混合物中でいわゆるリオトロピック会合コロイドを形成することができる。このプロセスでは、いわゆる熱ゲル化挙動が発生する。これは、ポロキサマー溶液が温度に応じてそのコロイド構造を変化させ、それによって可逆的なゲル構造を形成できることを意味する。ポロキサマーが水と接触すると、水素結合の形成とともに水和が起こる。温度が上昇すると、これらの水素結合の結合力が低下するため、脱水が起こり、それによってより疎水性のポリプロピレンオキシド部分が主に影響を受ける。この疎水化は、親油性プロピレンオキシド単位のミセルへの会合を引き起こし、温度のさらなる上昇および十分なポロキサマー濃度により、密に詰められたミセルのゲル足場の形成を引き起こす。これらの界面活性剤ゲルは光学的に等方性であるため、透明である。
【0012】
本発明のキャリアー組成物の製造に好ましいポロキサマーは、ポロキサマー407であり、これは、Kolliphor P 407の名称でも市販されている。ポロキサマー407は、特に医薬品および医療機器に使用され、次の構造式を有する:
式中、ブロックの長さは約a=101およびb=56である。本発明のキャリアー組成物を製造するための出発物質としてのポロキサマー407の使用が特に好ましいが、ポロキサマー188などの他のポロキサマーも使用することができる。
【0013】
ポロキサマー407の水溶液は、20~30%の濃度でいわゆる熱ゲル化を示す。このゲル化プロセスは、その後温度を下げると完全に可逆的である(Mortensen&Pedersen(1993),Macromolecules26(4),pp.805-812)。組成物の熱ゲル化点(TGP)、すなわち、そのようなゾル-ゲル変換が起こる温度は、振動レオロジーを使用して簡単に決定できる。
【0014】
キャリアー組成物中のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの割合は、好ましくは約10%~約40%(w/w)、好ましくは約20%~約37%(w/w)である。例えば、キャリアー組成物中のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの割合は、10%、15%、20%、25%、30%、35%、または40%であり得る。キャリアー組成物中の水の割合は、通常、約60%~約90%(w/w)である。キャリアー組成物中の水の割合は、約60%、65%、70%、75%、80%、85%、または90%(w/w)であり得る。
【0015】
好ましい実施形態では、キャリアー組成物中のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーは、約1,000g/mol~70,000g/molの分子量分布を有する。特に好ましい実施形態では、キャリアー組成物中のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの少なくとも30%(w/w)、好ましくは40%(w/w)は、9,800~14,600g/molの範囲の平均分子量を有するポロキサマー、好ましくはポロキサマー407からなる。
【0016】
本発明の過程において、驚くべきことに、ポロキサマー407などのポロキサマーに基づくヒドロゲルの粘度は、シリカナノ粒子の添加によりかなり増加させることができることが見出された。以下の実施例に示すように、ナノ粒子の添加により、ポロキサマー系ヒドロゲルの粘度を10倍に増加することによって、成形可能なペースト状キャリアー材料としてヒドロゲルの使用が可能になる。本発明のキャリアー組成物中のシリカナノ粒子の割合は、好ましくは約2%~約12%(w/w)、好ましくは約3.5%~約5%(w/w)の範囲である。キャリアー組成物中のシリカナノ粒子の割合は、約2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、または12%(w/w)であることが特に好ましい。
【0017】
シリカナノ粒子は、サイズが1μm未満の粒子として定義される。シリカナノ粒子は、好ましくは約0.5nm~約50nm、より好ましくは約0.5nm~約10nm、さらにより好ましくは約0.5nm~約1.5nmのサイズを有する。シリカナノ粒子は、好ましくはフラクタルクラスターを形成すべきではない。シリカナノ粒子がフラクタル凝集クラスターを形成する場合、これらのクラスターは、好ましくは約500nm未満、より好ましくは約200nm未満、さらにより好ましくは約100nm未満のサイズを有する。好ましくは、15個未満、例えば10未満または5未満のナノ粒子を含有する凝集クラスターが使用される。
【0018】
水系ゲルが本発明のキャリアー組成物の基礎であるため、ナトリウム水ガラス溶液からシリカナノ粒子を製造することは理にかなっている。約27%のSiO2濃度および約8%のNa2O濃度を有する典型的なナトリウム水ガラス溶液を出発基質として使用すると、約0.5nmのゾル粒子が形成される。ナトリウムイオンは、イオン交換体を使用して水素に置き換えることができ、純粋なシリカゾルが得られる。シリカナノ粒子の粒子表面はポリマー分子と相互作用するため、キャリアー組成物には非凝集ゾル粒子を使用することが好ましい。イオン交換後、ゾルのpH値は、通常、2~3である。このpH値では、ゾル粒子のクラスターへの凝集は非常にゆっくりと起こり、ゾルを冷却することでさらに減速することができる。さらなる処理をいかなる問題もなく行うことができる典型的なSiO2濃度は6%である。冷却および高速処理により、最大12%のSiO2濃度が可能である。pHを7より大きい値に変えることにより、ゾルの安定化も可能である。pH値が約7.5の移植可能な生体材料が最終的に製造されるため、8を超えるpHは好ましくない。ゾルを調製した後、すぐにポリマーの溶液と混合することができる。あるいは、ポリマーをゾルに直接撹拌することもできる。
【0019】
本発明のキャリアー組成物は、良好な成形性および高い粘着性を確保するために十分に粘性である。本明細書で提供されるキャリアー組成物は、ひずみスイープ試験、振動レオメーターARES-T.A.Instruments、せん断速度50 1/sを使用して、せん断速度の関数として粘度を測定する場合、好ましくは900Pasを超える、好ましくは1,000Pasを超える範囲の粘度を有する。
【0020】
特に好ましいキャリアー組成物は以下の組成を有する:
・EO-POブロックコポリマーの割合が約10%~約40%(w/w)、シリカナノ粒子の割合が約2%~約12%(w/w);
・EO-POブロックコポリマーの割合が約15%~約37%(w/w)、シリカナノ粒子の割合が約3%~約10%(w/w);
・EO-POブロックコポリマーの割合が約20%~約30%(w/w)、シリカナノ粒子の割合が約3%~約6%(w/w);
・EO-POブロックコポリマーの割合が約20%~約25%(w/w)、シリカナノ粒子の割合が約3%~約5%(w/w)。
【0021】
別の態様では、本発明は、
(a)1種のエチレンオキシド(EO)プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーまたは複数種のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの混合物の水溶液と、
(b)シリカナノ粒子と
をお互いに混合すること、およびそれらをヒドロゲルに調製することを含む、粒子状および顆粒状骨代替材料用のキャリアー組成物を製造するためのプロセスに関する。両方の成分とも混合時に水溶液として好ましく入手可能である。
【0022】
上記のキャリアー組成物は、従来の骨伝導性または骨誘導性粒子または顆粒をキャリアー組成物と組み合わせることにより、骨代替材料の製造に使用することができる。したがって、さらなる態様では、本発明は、少なくとも以下の成分を含む骨代替材料を提供する:
(a)上記のキャリアー組成物;ならびに
(b)骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒。
【0023】
原則として、すべての既知の骨伝導性および/または骨誘導性粒子および顆粒は、新規なキャリアー組成物とともに使用することができる。「骨誘導性」という用語は、移植後の新しい骨形成を刺激することができる粒子および顆粒を表すために使用され、異所性骨形成も発生する(筋肉または脂肪組織での骨形成)。対照的に、「骨伝導性」とは、移植後の新しい骨形成の足場構造として機能することもできる粒子および顆粒を指す。
【0024】
新規なキャリアー組成物は、すべての既知の同種異系、異種および同種異系材料との使用に好適である。キャリアー組成物は、特に、リン酸三カルシウム(TCP)セラミックまたはヒドロキシアパタイト(HA)セラミックなどの合成セラミック顆粒とともに使用することができる。合成セラミックの製造では、粉末状の出発材料は、1,000~1,500℃の高圧高温で焼結プロセスに供される。セラミックの好ましいカルシウムとリンとの比率は、1.5~1.7である。セラミックは、好ましくは、セラミックを新しい骨組織で貫通することにより十分な骨統合が確保されるように多孔性である。サイズが150~500μmの細孔は、骨の内部成長および吸収に最適である。通常、細孔サイズが小さいと、新しい骨組織の成長をもたらすのみである。
【0025】
セラミックに加えて、バイオガラスも使用できる。Biogran(登録商標)などのバイオガラスは、五酸化リン、二酸化ケイ素、または酸化アルミニウムなどの酸性酸化物、ならびに酸化カルシウム、酸化マグネシウム、および酸化亜鉛などの塩基性酸化物を含有するアモルファス材料である。製造中、酸化物は約1,500℃の高温で数時間続くプロセスで混合および溶融される。得られたバイオガラスは、塩基性酸化物の対応する金属イオンが付着する三次元酸化リン-酸化ケイ素ネットワークを表す。バイオガラスは、コンパクト形態および多孔質形態で入手可能である。表面の生物活性により、骨組織が成長する。
【0026】
通常0.1~5mmの範囲のサイズを有する上記の顆粒に加えて、微粒子などの粒子も使用できる。好ましくは、これらの骨伝導性または骨誘導性粒子は、約5μm~100μm、より好ましくは約20μm~40μmのサイズを有する。
【0027】
骨伝導性または骨誘導性粒子は、例えば、開口部(ドーナツ形状)を備えた中空球であってもよい。これらは、40μmの範囲の直径を有することができる。図10は、中空球の形態の骨伝導性または骨誘導性粒子の実施例を示す。以下に説明するように、そのような粒子は、空気の混入を避けるためにポロキサマーヒドロゲル中に埋め込む前にシリカヒドロゲルでコーティングする必要がある。得られた骨代替材料は、従来のカニューレを通して注入できる形態で、製造できる。中空球などの微粒子もクラスターで使用することができる。そのようなクラスターは、好ましくは約100μm~3,000μmのサイズを有する。クラスターはまた、図11に模式的に示すように、ポロキサマー-シリカヒドロゲル中に埋め込む前に、シリカヒドロゲルでコーティングすべきである。
【0028】
特に好ましい実施形態では、骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒は、シリカキセロゲルのマトリックス中に埋め込まれた骨の生物学的ヒドロキシアパタイトの形態を有するヒドロキシアパタイト微結晶からなる。これらの粒子または顆粒は、ポロキサマーヒドロゲル中に埋め込む前に空気の混入を避けるために、シリカヒドロゲルでコーティングすることもできる。
【0029】
好ましくは、骨伝導性または骨誘導性粒子または顆粒は多孔性材料である。高い比表面積を有する多孔性または高多孔性の骨代替材料は、自己局所タンパク質が材料の表面と相互作用するため、骨再生をサポートする際に決定的な利点を有する。
【0030】
本明細書に記載のキャリアー組成物を多孔性または非常に多孔性の粒子または顆粒と組み合わせて使用する場合、これらは、空気の混入を避けるために、ポロキサマー-シリカヒドロゲル中に埋め込む前に適宜処理することが好ましい。粘度が高いため、ポロキサマー-シリカヒドロゲルは、場合によっては粒子または顆粒の細孔に浸透できない。結果として生じる空気の混入は、生体材料の機能を損なうか、または完全に妨げることさえある。さらに、ポロキサマー-シリカヒドロゲルからのポリマー鎖は、骨代替材料の表面を覆うことによって、自己タンパク質との相互作用を防止することができる。したがって、粒子または顆粒の細孔は、すべての細孔が満たされ、シリカヒドロゲル層が粒子または顆粒を取り囲むように純粋なシリカゲルで処理することができる。取り囲むのに使用されるシリカゲルは、約3%~約10%のシリカ濃度を有し得る。次いで、コーティングされた粒子またはコーティングされた顆粒を、ポロキサマー-シリカヒドロゲル中に埋め込むことができる。対応する手順は、実施例2で説明されている。したがって、好ましい実施形態では、本発明は、シリカゲルでコーティングされた微粒子などの骨伝導性および/または骨誘導性粒子を含有する骨代替材料に関する。
【0031】
最後に、本発明は、
(a)上記のキャリアー組成物を提供すること;
(b)必要に応じて、ガンマ線でキャリアー組成物を処理すること;ならびに
(c)キャリアー組成物を骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒と混合すること
を含む、骨代替材料を製造するための方法も提供する。
【0032】
新規なキャリアー組成物に基づく骨代替材料を調製すると、上記のキャリアー組成物が最初に提供される。このキャリアー組成物をガンマ線で処理して組成物を滅菌後、それを対応する骨伝導性または骨誘導性粒子または顆粒と混合することができる。放射線の強度は、通常、10~50kGray、好ましくは17.5~30kGrayである。次いで、キャリアー組成物は、骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒と混合される。
【0033】
混合は、約5:1、4:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、または1:5のキャリアー組成物対粒子または顆粒の比率(w/w)で行われ得る。約1:1の比率が好ましい。そのように製造された骨代替材料は、その後さらに使用するまで保存することができる。例えば、骨代替材料は、欠損部位への材料の投与を容易にするアプリケーターに充填することができる。
【0034】
好ましい実施形態では、骨伝導性および/または骨誘導性粒子または骨伝導性および/または骨誘導性顆粒は、空気の混入を避けるために、キャリアー組成物と混合する前に処理される。本発明によれば、骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒は、上記のように、キャリアー組成物と混合する前にシリカヒドロゲルでコーティングされることが特に好ましい。
【0035】
別の側面では、本発明は、骨代替材料を製造するための上記のキャリアー組成物の使用に関する。したがって、本発明は、骨代替材料の製造のための、以下を含むヒドロゲルの使用に関する:
(a)1種のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーまたは複数種のエチレンオキシド(EO)-プロピレンオキシド(PO)ブロックコポリマーの混合物;および
(b)シリカナノ粒子。 製造には、上記で定義した骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒との混合が含まれる。
【0036】
別の側面では、本発明は、骨欠損を治療する方法で使用するための、少なくとも以下の成分を含む上記の骨代替材料に関する:
(a)上記のキャリアー組成物;ならびに
(b)上記の骨伝導性および/または骨誘導性粒子あるいは骨伝導性および/または骨誘導性顆粒。 骨欠損は、骨折、海綿骨欠損、または空洞であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】Kolliphor P 407に基づくSiO2含有ヒドロゲルの分子量分布を示す図である。
図2】ガンマ線照射後のKolliphor P 407に基づくSiO2含有ヒドロゲルの分子量分布を示す図である。
図3】60℃で55日間のヒドロゲルの貯蔵後のKolliphor P 407に基づくSiO2含有ヒドロゲルの分子量分布を示す図である。
図4a】せん断速度の関数としての粘度測定の結果を示す図である。
図4b】周波数の関数としてのせん断弾性率の測定の結果を示す図である。
図5】偏光顕微鏡下での層状構造の形成を示す図である。
図6】アプリケーターを用いた本発明の骨代替材料の適用を示す図である。
図7】反射光学顕微鏡による加速老化後の本発明の骨代替材料の検査の結果を示す図である。
図8】本発明の骨代替材料をウサギの後肢に移植した4週間後のHE染色の結果を示す図である。
図9】本発明の骨代替材料をウサギの後肢に移植した後の組織形態計測評価のうちの1つの結果を示す図である。
図10】本発明の骨代替材料における、開口部および約40μmの直径を有する中空球の形態の微粒子の使用を示す図である。
図11ポロキサマー-シリカヒドロゲル中に微粒子を埋め込む前に、純シリカヒドロゲルでの微粒子のクラスターのコーティングを模式的に示す図である。
図12a】キャリアー材料の異なる組成に対するせん断速度[「せん断速度」]の関数としてのせん断[「せん断応力」]の適用を示す図である:A 19.6%Kolliphor P 407、0%SiO2;B 19.6%Kolliphor P 407、4.8%SiO2;C 36.0%Kolliphor P 407、0%SiO2;D 36.0%Kolliphor P 407、3.8%SiO2
図12b】異なるキャリアー材料組成に対する複素せん断弾性率(貯蔵弾性率[「貯蔵弾性率]G’;損失弾性率[「損失弾性率」G”)を示す図である:A 36.0%Kolliphor P 407、0%SiO2;B 36.0%Kolliphor P 407、5.0%SiO2
図12c】異なるキャリアー材料組成の複素せん断弾性率(貯蔵弾性率G’;損失弾性率G”)を示す図である:A 19.4%Kolliphor P 407、0%SiO2;B 19.4%Kolliphor P 407、4.8%SiO2
図12d】異なるキャリアー材料組成の複素せん断弾性率(貯蔵弾性率G’、損失弾性率G”)を示す図である:A 16.4%Kolliphor P 407、0%SiO2;B 16.4%Kolliphor P 407、5.0%SiO2;C 16.4%Kolliphor P 407、7.4%SiO2
【実施例
【0038】
以下の実施例は、本発明によるキャリアー組成物ならびにそれから作られた骨代替材料の有効性および利点を説明する。
【0039】
実施例1:SiO2を含むおよび含まないヒドロゲルの製造
比較のために、Kolliphor P 407を基礎とするSiO2フリーおよびSiO2含有ヒドロゲルを製造した。SiO2フリーヒドロゲルの製造のために、BASFからの23.5gのKolliphor P 407を76.5gの水と混合した。SiO2を含有するヒドロゲルの場合、SiO2濃度がそれぞれ4%および6%のイオン交換によってゾルを調製した。Merkの濃縮ナトリウム水ガラス溶液(仕様:Na2O:7.5~8.5%;SiO2:25.5~28.5%)を使用し、超純水で希釈した。Lewatit MonoPlus SP 112Na+カラムをイオン交換体として使用した。ゾルのpH値は2.7であり、5℃まで冷却した。各76.5gのゾルにおいて、23.5gのKolliphor P 407を撹拌した。得られたヒドロゲルは、図1(分子量分布A)に示す分子量分布のポリマーを含有する。分子量分布は、クロマトグラフィーによって決定することができる。分析により、以下のピークが得られた:
ピーク1:位置:5,550g/mol、割合:17.8%
ピーク2:位置:11,000g/mol、割合:8.2%
ピーク3:位置:13,470g/mol、割合:73.1%
ピーク4:位置:25,500g/mol、割合:0.8%
【0040】
5,550g/molおよび11,000g/molのピークは、Kolliphor 407のフラグメントを表す。25,500g/molのピークは、2つの鎖の架橋に起因する。
【0041】
調製されたサンプルの一部をガンマ線(17.5~30kGray、放射線源:コバルト60、最大放射能111PBq)で処理した。ガンマ線は、ポリマー鎖の架橋をもたらす。同時に、鎖も破壊する。結果は、分子量分布が広いポリマーである。
【0042】
これらのヒドロゲルは、図2(分子量分布B)に示す分子量分布のポリマーを含有する。分析により、以下のピークが得られた:
ピーク1:位置:5,400g/mol、割合:8.1%
ピーク2:位置:11,000g/mol、割合:4.0%
ピーク3:位置:13,400g/mol、割合:37.0%
ピーク4:位置:17,000g/mol、割合:2.7%
ピーク5:位置:25,500g/mol、割合:4.2%
ピーク6:位置:35,000g/mol、割合:0.2%。
【0043】
照射後、連続質量分布の割合は43.8%であった。元のKolliphor 407の割合は37%のみである。連続サイズ分布が最大約70,000g/molである分子の最大割合は43.8%である。
【0044】
調製したサンプルの別の部分は、高温で長時間保存した。60℃で55日間貯蔵した後、ヒドロゲルは、図3(分子量分布C)に示す分子量分布のポリマーを含有した。分析により、以下のピークが得られた:
ピーク1:位置:5,350g/mol、割合:10.6%
ピーク2:位置:8,200g/mol、割合:13.7%
ピーク3:位置:13,470g/mol、割合:23.6%
ピーク4:位置:17,700g/mol、割合:1.9733%
ピーク5:位置:24,700g/mol、割合:1.5018%。
ピーク6:位置:35,000g/mol、割合:0.0%
【0045】
この場合にも、約1,000g/mol~約70,000g/molの範囲のサイズ分布を有する分子が、48.7%の最大割合を示すことがわかった。
【0046】
すべてのサンプルについて、せん断速度の関数として粘度を測定した(ひずみスイープ試験、振動レオメーターARES-T.A.Instruments)。結果を図4aに示す。分子量分布が広がると、SiO2フリーヒドロゲルおよびSiO2含有ヒドロゲルの両方の粘度が増加することがわかった。分子量分布Aのサンプルは光学的に活性ではなく、それらは偏光顕微鏡ではコントラストを示さない。これは、ポリマーがミセルを形成することを意味する。一方、分子量分布Bのサンプルは光学的に活性である。それらは偏光顕微鏡でコントラストを示す。これは、サンプルがミセルに加えていわゆる層状構造も含有することを示す。高濃度では、いくつかの界面活性剤は、水が会合の極性中間層に位置する層状構造を形成する。この光学異方性により、直線偏光の振動面が変化するため、偏光顕微鏡下で特徴的な明暗の外観を見ることができる。図5は、層状構造の出現を記録した典型的な例を示す。さらに、図4aは、ヒドロゲル中のSiO2含有量が増加すると粘度が大きく増加することを示す。50 1/sのせん断速度では、4.5%SiO2の添加により粘度が10倍に増加する。これは、骨代替材料用のキャリアーとしてのゲルの適用性にとって決定的に重要である。
【0047】
さらに、せん断弾性率を周波数の関数として測定した。この測定は、振動せん断応力下の粘弾性材料の振動挙動に関する情報を提供し、システム内の分子の相互作用について結論を引き出すことを可能する。図4bは、異なるヒドロゲルの周波数の関数としてのせん断弾性率の貯蔵部分を示す。ここでは、分子量分布Aのポリマーを選択した。一方では、せん断弾性率の貯蔵部分がポリマー濃度の増加とともに増加したという効果を見ることができる。他方では、せん断弾性率の貯蔵部分は、SiO2の増加とともに大きく増加した。ポリマー含有量が25%の例では、4.5%のシリカナノ粒子がゲル中に存在すると、貯蔵部分が10倍増加した。これは、ゲルの適用に重要なポリマー鎖とシリカナノ粒子との間の相互作用を示す。
【0048】
図12aは、キャリアー材料の異なる組成のせん断速度の関数としてのせん断を示す。せん断測定を20℃で実行した。曲線Aは、シリカナノ粒子を含まない19.6%のKolliphorを含むキャリアー材料に対応する。Kolliphorのこの割合で約25℃でのみゲル形成が始まるため、曲線は液体の曲線に対応する。曲線B、C、およびDは、ヒドロゲルの典型的な経過を示す。流量限界が明らかである(材料が流れ始めるせん断)。曲線Bは、4.8%のSiO2を添加すると液体がゲルに変換することを示す。曲線Cは、シリカナノ粒子を含まない36.0%のKolliphorを含むキャリアー材料に対応する。ここでは、ミセルの形成により20℃でゲルが形成される。このサンプルに3.8%のSiO2を添加すると、材料を流動させるためにより高いせん断が必要になる。ここでのゲル形成は、ポリマーとシリカナノ粒子との相互作用に基づく。
【0049】
この効果は、図12b、12c、および12dに示されているように、せん断の関数としての複素せん断弾性率の測定でも実証されている。測定を20℃で行った。曲線の貯蔵部分G’が損失部分G”よりも大きい場合、材料はゲルである。2つの曲線が交差すると、材料が流れ始める。曲線の損失部分G”が貯蔵部分G’よりも大きい場合、挙動は液体を示す。
【0050】
図12bは、36.0%のKolliphorを含むキャリアー材料の挙動を示す。シリカナノ粒子(A)を含まないと、材料は20℃でゲルを形成し、約500Paのせん断で液体への転移を示す。5%のSiO2をキャリアー材料(B)に添加すると、材料は測定範囲全体でゲルのままである。G’およびG”の曲線は、互いにほとんど接近しない。適用の場合、これは、シリカナノ粒子を含むキャリアー材料がはるかに安定しており、取り扱いが改善されることを意味する。
【0051】
図12cは、より小さなKolliphor濃度(19.6%)に対するこの効果を示す。シリカナノ粒子を含まないと、20℃でゲルが形成されない。しかしながら、シリカナノ粒子の添加はゲル形成をもたらす。図12cは、この効果がSiO2濃度に依存することを記録する。出発点は、16.4%のKolliphorを含むキャリアー材料であり、これは20℃でゲルを形成しない(A)。5.0%のSiO2を添加すると、材料はゲルになり、500Paのせん断速度で液体への転移を示す(B)。7%のSiO2の場合、ゲルが形成され、測定範囲全体で安定していることが証明される(C)。これらの結果は、Kolliphor、シリカナノ粒子、および水の比率を変えることにより、組成物のレオロジー特性を調整できることを示す。これにより、様々な用途向けにキャリアー材料を最適化するのが可能になる。
【0052】
実施例2:多孔性骨代替材料の埋め込み
モミの実の形態でハイドロキシアパタイト(HA)の骨誘導顆粒を使用した(Nanobone,Artoss GmbH,Rostock,Germany)。これらは平均で3mmの長さであり、直径は0.5~1.0mmを有した。HAは、生物学的HAの結晶学的形態に類似した結晶学的形態を示した。このHAをシリカキセロゲルの高度な多孔性のマトリックスに埋め込んだ。顆粒の多孔度は約50%であり、比表面積は約200m2/gであり、細孔径分布は4nmで最大を示した。
【0053】
顆粒に、SiO2濃度が6%でpH値が7.0の純粋なシリカゾルを1:1の質量比で含浸させた。固体と接触すると、シリカゾルがゲル化する。シリカゲルが充填され、それでコーティングされた顆粒を製造する。
【0054】
ポロキサマー-シリカヒドロゲルを製造するために、35gのKolliphor P 407(BASF)をSiO2含有量が6%の65gのシリカゾル中で撹拌した。ゾルを予め1℃に冷却した。架橋は、17.5~30kGreyの範囲のガンマ照射によって達成される。このポリマー-シリカヒドロゲルを、1:1の質量比でコーティングされた顆粒と混合した。得られたペースト状の骨代替材料は非常に簡単に成形でき、アプリケーターで骨欠損部に挿入できる。図6は、アプリケーターでの骨代替材料の使用を示す。
【0055】
ASTM F 1980-07に従って、材料を1年間加速老化に供することにより、純粋なシリカヒドロゲルによる顆粒のコーティングの安定性を制御した。水ですすいでポロキサマー-シリカヒドロゲルを除去した後、純粋なシリカヒドロゲルでコーティングされた顆粒を顕微鏡で見ることができた。図7は、反射光顕微鏡を使用した顆粒の分析を示す。

【0056】
実施例3:動物実験における機能性
実験は雌ウサギ(ニュージーランドホワイト、3~4kg,Charles River,Sulzfeld,Germany)を使用して行った。実施例2に従って製造された骨代替材料を後肢の両側に移植した。真皮および皮下組織を通る切り傷の長さは約2.5cmである。怪我をできる限り小さく保つために、筋肉組織も小さな領域で切断し、次いで、配置される欠損部位の骨から骨膜を慎重に切り離した。次いで、円柱状の欠損(直径5mm、長さ10mm)を大腿骨の外側顆のそれぞれに挿入した。この目的には、標準ドリル(φ4.5mm)を使用した。欠陥の定着中、熱暴露による骨組織の壊死を防止するために、その領域を0.9%のNaCl溶液ですすいだ。
【0057】
麻酔は、10%のケタミン(30~60mg/kg体重)および2%のキシラジン(5mg/kg体重)の注射によって頸部に皮下投与した。10分後、0.3mlのアトロピン(0.5mg/ml)を投与した。さらに、鎮痛薬としてノバミンスルホン(500mg/ml)を注射し、抗生物質としてペニシリンG(筋肉内150,000i.U.)を注射した。2mlのキシロシチン-loc(2%/ml)を用いて局所麻酔を行った。移植後、創傷部をゲンタマイシン(80mg/2ml、NaClで1:5希釈)ですすいだ。創傷閉鎖(ポイントシーム)をビクリル縫合材料で作製した。
【0058】
4、8、12週間のトライアル期間の後、対応するトライアルグループをトライアルから除去した。Release(登録商標)(300mg/ml体重に対応:1mg/kg体重)を静脈内に使用して、麻酔をかけた動物(10%のケタミンおよび2%のキシラジン、皮下)を安楽死させた。評価のために組織切片を作製した。欠損領域を外植し、脱灰し、パラフィン中に埋め込んだ。ヘマトキシリンおよびエオシン染色を適用した。
【0059】
結果:4週間後、ポリマーシリカヒドロゲルも純粋なシリカヒドロゲルも検出できなかった。完全な吸収が生じた。患者の血液中に埋め込まれた顆粒への時間的順序の変化は、欠損治癒中に検出できなかった。図8は、処置の4週間後の組織像(HE染色)を示す。顆粒の新しい骨の形成および吸収は、2つのヒドロゲル中の元の埋め込みの影響を受けない。動物実験の組織形態計測評価の結果を図9に示す。欠陥治癒を記録する。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12a
図12b
図12c
図12d