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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】GARP-TGF-β抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220805BHJP
   C07K 16/22 20060101ALI20220805BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20220805BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220805BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220805BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220805BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20220805BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220805BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220805BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C07K16/22
C07K16/28
C07K16/46
C12N15/63 Z
C12N5/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12M1/00 A
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 E
A61K39/395 N
A61K39/395 T
A61K45/00
A61P9/00
A61P25/28
A61P29/00
A61P35/00
A61P31/00
A61P43/00 105
A61K39/00 Z
A61P37/02
A61P37/04
A61P43/00 121
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020512919
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2018062251
(87)【国際公開番号】W WO2018206790
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】1707561.5
(32)【優先日】2017-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519399589
【氏名又は名称】アージェンクス・ベー・フェー
(73)【特許権者】
【識別番号】513266652
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・カトリック・ドゥ・ルーヴァン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デル・ボニング,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ボルシオンス,フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】ドライエル,トルステン
(72)【発明者】
【氏名】マリエン,ローレ
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ・ブック,ヒッテ
(72)【発明者】
【氏名】リエナール,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】ルカス,ソフィー
(72)【発明者】
【氏名】クーリー,ピエール
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-529892(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051888(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト反復優位型グリコプロテインA(GARP)とTGF-β1との複合体に結合する組換え抗体又はその抗原結合断片であって、
重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
VH CDR3がアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含み、
VH CDR2がアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含み、及び
VH CDR1がアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含み、及び
軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
VL CDR3がアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含み、
VL CDR2がアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含み、及び
VL CDR1がアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含む、
組換え抗体又はその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖可変ドメイン(VH)が配列番号14のアミノ酸配列を含み、軽鎖可変ドメイン(VL)が配列番号15のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項3】
ヒトIgGのCH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン及び/又はCH3ドメインを含む、請求項1又は2に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項4】
ヒトIgGがIgG1である、請求項3に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項5】
ヒトIgGがIgG4である、請求項3に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項6】
ヒトIgG4がEU番号付けによる、置換S228Pを有する、請求項5に記載の抗体又はその抗原結合断片。
【請求項7】
(i)請求項1から6のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片の、重鎖可変ドメイン及び
(ii)請求項1から6のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片の、軽鎖可変ドメイン、
をコードする、1以上の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項8】
配列番号18の配列及び配列番号19の配列を含む、請求項7に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項9】
請求項1から6のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項10】
宿主細胞又は無細胞発現システムにおける抗体、抗原結合断片又は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインの発現を可能にする制御配列に操作可能に連結された、請求項7又は8に記載のポリヌクレオチドを含む1以上の発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の発現ベクターを含む宿主細胞又は無細胞発現システム。
【請求項12】
抗体又はその抗原結合断片の発現を可能にする条件下で請求項11に記載の宿主細胞又は無細胞発現システムを培養するステップ及び発現した抗体又はその抗原結合断片を回収するステップを含む、組換え抗体又はその抗原結合断片を産生する方法。
【請求項13】
請求項1から6のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合断片及び少なくとも一つの薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項14】
ヒト反復優位型グリコプロテインA(GARP)とTGF-β1との複合体に結合する組換え抗体であって、配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖を含む抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願はその内容全てが参照により本明細書に組み込まれる2017年5月11日出願の英国出願番号1707561.5の優先権の利益を主張する。
【0002】
配列表
本出願はASCIIフォーマットで電子的に提出した、参照により全体として本明細書に組み込まれる配列表を含む。
【0003】
本発明はGARPとTGF-β1との複合体、特にヒトGARPとヒトTGF-β1との複合体に結合する抗体及びその抗原結合断片に関する。これらの抗体及び抗原結合断片は、高親和性の抗原結合及び制御T細胞からの活性TGF-βの放出を阻害する能力を含む有利な特性の組合せを呈する。本発明の抗体及び抗原結合断片は、GARPとTGF-β1との複合体に結合する従来技術の抗体と比較して改善されている。特に、本発明の抗体及び抗原結合断片は脱アミド化、異性化及び酸化に比較的抵抗性があり、したがって従来技術に記載されたGARP-TGF-β1抗体と比較して改善された安定性を示す。
【背景技術】
【0004】
制御T細胞(別の面では「Treg」又はFoxp3T制御細胞として知られている)は、免疫系の重要な成分である。特に、Tregは種々の態様の免疫応答を抑制することによって、免疫恒常性に重要な役割を果たしている。免疫応答を調整するそれらの役割の結果として、Tregの活性の制御が障害を受けると、種々の疾患及び病態の発生が起こることがある。特にTreg機能が不十分であると自己免疫病理が生じる一方、過剰のTreg活性はがん患者における抗腫瘍応答の阻害に関連付けられてきた。
【0005】
タンパク質GARP(反復優位型グリコプロテインA)は、Treg、特に活性化されたTregの表面上に高度に発現されるマーカーとして同定されてきた。GARPは80kDaの膜貫通タンパク質であり、20個の多ロイシンリピートを含む細胞外領域を有する。これはLRRC32としても知られている。GARPはTGF-β、特にTGF-βの潜在型の受容体として働き、Treg細胞上の潜在型TGF-βの発現に必要である(EM Shevach、Expert Opin Ther Targets(2016)21(2)、191~200頁)。
【0006】
TGF-βは、細胞の増殖及び分化、組織の形態形成、炎症及びアポトーシスを含む多様なプロセスにおいて役割を演じることが知られているサイトカインである。これはがんの発生に関連する重要な増殖因子としても同定されており、むしろ珍しく腫瘍促進及び腫瘍抑制特性を有するサイトカインとして同定されている。
【0007】
TGF-βの産生及び活性化は多ステップのプロセスであり、これは種々のレベルで制御されている。TGF-βはプロTGF-βダイマー前駆体として合成され、それぞれのポリペプチド鎖は潜在性関連ペプチド(LAP)及び成熟TGF-β領域からなっている。プロTGF-βは酵素フリンによって開裂を受けて、LAPがそれぞれのポリペプチド鎖の成熟TGF-β領域に非共有結合的に会合して残っている不活性形である「潜在型TGF-β」を形成する(図1参照)。膜に局在化したGARPは潜在型TGF-βを輸送してTregの細胞表面に固定化する働きをし、TGF-βの活性型を放出するのはこの膜結合GARP-潜在型TGF-β複合体からである。活性TGF-βがどのようにTregの表面上のGARP-潜在型TGF-β複合体から放出されるかを説明するために、種々の機構が提案されてきた。しかし、インテグリン、特にαvβ6及びαvβ8が、成熟TGF-βダイマーの放出に必要な剪断力の促進において重要な役割を演じていると現在では考えられている。
【0008】
いったん放出されると、活性TGF-βダイマーは、下流のシグナル伝達経路のオートクリン又はパラクリンメディエーターとして作用することができる。免疫系に関しては、Treg細胞からのTGF-βの放出は種々のTエフェクター細胞及びまたTregそれ自体の活性にも影響すると考えられる(図1参照)。Tregは抑制免疫において重要な役割を演じているので、Tregから放出されてオートクリン様式で作用するTGF-βは介在するTregの抑制に関与していると考えられる。特に、Treg由来のTGF-β1は腫瘍免疫におけるTreg介在抑制において重要な役割を演じていると考えられる。
【0009】
腫瘍の微小環境での免疫応答の抑制におけるTreg由来のTGF-βの役割を考慮して、がんの免疫療法への代替のアプローチとしてこの経路を標的とすることに、興味が持たれてきた。たとえば、この経路を弱めることができる治療薬は、身体の免疫系の力を利用してがんを処置するために設計されたがんワクチン又はその他のがんの免疫治療戦略の効率を改善する有用なツールとして働き得る。
【0010】
Cuendeら(Sci Transl Med.2015年4月22日;7(284):284ra56頁)は、Treg上のGARP-TGF-β複合体に結合してTGF-βの産生を阻害する2つのモノクローナル抗体(MHG-8及びLHG10)の産生及び特性解析について記載している。これら2つの抗体は国際特許出願WO2015/015003及びWO2016/125017にも記載され特徴付けられている。これらの抗体は、異種グラフト対宿主疾患のマウスモデルにおいてヒトTregの免疫抑制活性を阻害することができることが示された。この研究は、Tregの機能を調節し、続いてTreg活性のレベルが重要な役割を演じるがん及び自己免疫疾患のような疾患を処置するための目的の治療標的としてGARP-TGF-β複合体を検証するために役立っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2015/015003号
【文献】国際公開第2016/125017号
【非特許文献】
【0012】
【文献】EM Shevach、Expert Opin Ther Targets(2016)21(2)、191~200頁
【文献】Cuendeら(Sci Transl Med.2015年4月22日;7(284):284ra56頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、TGF-βの放出を阻害し、それによりTreg活性を改変することができる改善されたGARP-TGF-β抗体へのニーズが残っている。本発明は本明細書に記載するようにこの課題に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の要旨)
本発明は、ヒトGARP-TGF-β1複合体に結合する新規な抗体及びその抗原結合断片を提供することによって、最新技術を改善する。本発明の抗体及び抗原結合断片は、国際特許出願WO2015/015003及びWO2016/125017に記載されたGARP-TGF-β1抗体「LHG-10」に由来する。LHG-10の重鎖及び軽鎖可変ドメイン配列はそれぞれ配列番号1及び2で示され、鎖がシャッフルしたバリアントであるLHG-10.6(これもWO2015/015003及びWO2016/125017に記載されている)の軽鎖可変ドメインは配列番号3で示される。本発明の抗体は、特にLHG-10及びLHG-10.6と比較して、特定のCDR配列に関して、具体的には重鎖可変ドメインのCDR2及びCDR3配列に関して、異なっている。LHG-10及びLHG-10.6 GARP-TGF-β抗体は重鎖CDR2配列:RIDPEDGTKYAQKFQG(配列番号5)及び重鎖CDR3配列:EWETVVVGDLMYEYEY(配列番号6)を有する一方、本発明の抗体は重鎖CDR2配列:RIDPEDGTKYAQKFQG(配列番号12)及び重鎖CDR3配列:EWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含む。
【0015】
本明細書に報告する重鎖CDR2及びCDR3配列の相違により、その改善された安定性によって、先行技術の抗体と比較して改善された抗体がもたらされる。より具体的には、本発明の抗体は、脱アミド化、異性化及び酸化に比較的抵抗性があり、それにより向上した安定性を呈する。驚くべきことに、安定性の改善をもたらす重鎖CDR2及びCDR3領域におけるこれらの特定の置換は、GARP-TGF-β1複合体に対する抗体の結合親和性を有意に低下させない。高い親和性の標的結合と組み合わされた改善された安定性により、本発明の抗体は治療薬として、たとえばがんの治療薬としての臨床開発に特に適している。
【0016】
第1の態様では、本発明はヒトGARP-TGF-β1の複合体に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、抗体又はその抗原結合断片は重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含み、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含み、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含む。
【0017】
ある実施形態では、本発明はヒトGARP-TGF-β1の複合体に結合する抗体又はその抗原結合断片を提供し、抗体又はその抗原結合断片は重鎖可変ドメイン(VH)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)からなり、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)からなり、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)からなる。
【0018】
抗体又は抗原結合断片は軽鎖可変ドメイン(VL)をさらに含んでよく、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含み
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含み、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含む。
【0019】
ある実施形態では抗体又は抗原結合断片は軽鎖可変ドメイン(VL)をさらに含んでよく、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)からなり、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)からなり、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)からなる。
【0020】
ある実施形態では抗体又はその抗原結合断片は、
VH CDR3がアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含み、
VH CDR2がアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含み、
VH CDR1がアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含む、
重鎖可変ドメイン(VH)及び
VL CDR3がアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含み、
VL CDR2がアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含み、
VL CDR1がアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含む、
軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0021】
ある実施形態では抗体又はその抗原結合断片は、
VH CDR3がアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)からなり、
VH CDR2がアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)からなり、
VH CDR1がアミノ酸配列SYYID(配列番号4)からなる、
重鎖可変ドメイン(VH)及び
VL CDR3がアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)からなり、
VL CDR2がアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)からなり、
VL CDR1がアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)からなる、
軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0022】
ある実施形態では抗体又は抗原結合断片は、ラクダ科由来のVH又はVLドメインのヒト化、生殖細胞系列化、又は親和性バリアントである、少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)及び/又は少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0023】
ある実施形態では、ヒトGARPとヒトTGF-β1の複合体に結合する抗体又はその抗原結合断片が本明細書で提供され、抗体又は抗原結合断片は、以下の
(i)配列番号14のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH、又は
(ii)配列番号14と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVH
から選択される重鎖可変ドメインを含む。
【0024】
あるいは又はさらに、抗体又は抗原結合断片は以下の
(i)配列番号15のアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL、又は
(ii)配列番号15と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれからなるVL
から選択される軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでよい。
【0025】
抗体又は抗原結合断片のドメインが参照配列への特定の配列同一性百分率によって定義される実施形態については、VH及び/又はVLドメインは、参照配列に存在する配列と同一のCDR配列を保持し、したがって変化はフレームワーク領域の中にのみ存在する。
【0026】
特定の実施形態では、抗体又はその抗原結合断片が本明細書で提供され、重鎖可変ドメイン(VH)は配列14のアミノ酸配列を含み又はからなり、軽鎖可変ドメイン(VL)は配列15のアミノ酸配列を含み又はからなる。
【0027】
ある実施形態では、本発明の抗体はヒト抗体、特にヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のCH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン及びCH3ドメインを含む。ある実施形態では、抗体はヒトIgG4のCH3領域を含み、CH3ドメインに置換S228Pを含む。
【0028】
GARP-TGF-β1複合体に結合する抗体は、少なくとも1つの全長免疫グロブリン重鎖及び/又は少なくとも1つの全長ラムダ又はカッパ軽鎖を含んでよい。ある実施形態では、抗体は配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。ある実施形態では、配列番号16として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。ある実施形態では、配列番号17として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。ある実施形態では、配列番号16として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖及び配列番号17として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。
【0029】
抗体の重鎖及び/又は軽鎖が参照配列への特定の配列同一性百分率によって定義される実施形態については、重鎖及び/又は軽鎖は、参照配列に存在する配列と同一のCDR配列を保持し、それにより変化はCDR領域の外にのみ存在する。
【0030】
本出願で他に述べない限り、2つのアミノ酸配列の間の配列同一性百分率は、最適な様式で整列し、その中で比較すべきアミノ酸配列がこれらの2つの配列の間の最適な整列についての参照配列に関して付加又は欠失を含み得るこれら2つの配列を比較することによって、決定することができる。同一性の百分率は、アミノ酸残基が2つの配列の間で同一である同一位置の数を決定し、この同一位置の数を比較ウィンドウの中の位置の全数で割り、これら2つの配列の間の同一性の百分率を得るために得られた結果を100倍することによって計算される。たとえば、BLASTプログラム、即ち「BLAST2配列」(Tatusovaら、「Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」、FEMS Microbiol Lett.、174:247~250頁)を用いることができ、用いるパラメーターはデフォルトによって与えられるものであり(特にパラメーター「オープンギャップペナルティ」:5、「エクステンションギャップペナルティ」:2であり、選択するマトリックスはたとえばプログラムによって提案される「BLOSUM62」である)、比較すべき2つの配列の間の同一性の百分率はプログラムによって直接計算される。
【0031】
本明細書で提供されるGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片は、それぞれ以下の特性/特徴の1つ以上を呈し得る。
・抗体又は抗原結合断片は、カニクイザル由来のGARP-TGF-β複合体と交差反応し得る。
・抗体又は抗原結合断片は、高い親和性でヒトGARP-TGF-β1と結合し得る。
・抗体又は抗原結合断片は、Fab断片として試験したときにヒトGARPとTGF-β1の複合体について5×10-4-1未満のオフレート(Koff)を呈するVHドメイン及びVLドメインを含み得る。
・抗体又は抗原結合断片は、Fab断片として試験したときにヒトGARPとTGF-β1の複合体について1×10-6-1~5×10-4-1の範囲のオフレート(Koff)を呈するVHドメイン及びVLドメインを含み得る。
・抗体又は抗原結合断片は、mAbとして試験したときに1.7×10-9M未満のKを呈するVHドメイン及びVLドメインを含み得る。
・抗体又は抗原結合断片は、制御T細胞からの活性TGF-β1の放出をブロックし又は阻害し得る。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、ベクターを含む宿主細胞及び本明細書に記載した抗体の組み換え発現/産生の方法に加えて、上記の抗体及び抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド分子をも提供する。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載したGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片のいずれか1つ及び薬学的に許容される担体又は賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0034】
本発明のさらなる態様は、上記のGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片を用いる、特にTGF-β関連障害の予防及び/又は処置における医学的処置の方法に関する。ある実施形態では、本発明はGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片を用いる処置の方法に関し、処置すべき疾患又は病態は、炎症性疾患、慢性感染症、がん、線維症、心血管系疾患、脳血管系疾患及び神経変性疾患からなる群から選択される。ある実施形態では、GARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片は、併用療法の一部として別の処置と組み合わせて投与される。たとえば、GARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片は、免疫療法剤、任意選択的に免疫刺激抗体又は腫瘍ワクチンと組み合わせて投与してよい。
【0035】
これらの及びその他の本発明の実施形態は、以下の記述及び付随する図面と併用して考慮すればより良く認識され理解される。しかし、以下の記述は、本発明の種々の実施形態及びその多くの具体的な詳細を示しているが、説明のために提供するものであって限定するものではないと理解されたい。本発明の精神から逸脱することなく本発明の範囲内で多くの置換、改変、付加及び/又は再配置をすることができ、本発明はそのような置換、改変、付加及び/又は再配置の全てを含む。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】制御T細胞の表面上における潜在型TGF-βのGARPへの結合を示す略図である。TGF-βは前駆体「プロTGF-β」として産生され、開裂を受けて「潜在型TGF-β」、即ちその中で成熟TGF-βダイマーがそれぞれのポリペプチドの潜在性関連ペプチド(LAP)領域と非共有結合的に会合したままである形態を産生する。Treg細胞の表面上でGARPに結合するのは、この潜在型である。インテグリンαvβ6及びαvβ8は、細胞表面からの成熟又は「活性TGF-β」の放出の媒介に関与していると考えられる。この活性形はパラクリン様式で多様な標的細胞に効果をもたらすために作用することができ、又はTreg細胞上のTGF-β受容体に結合することによってオートクリンメディエーターとして作用することができる。
図2】PBS又はPBSTween(PBSTw)中、-20℃、5℃及び37℃で保存した試料について56日の期間にわたって抗体39B6IgG1N297Q及び39B6IgG4S228PについてのBiacore(商標)又は表面プラスモン共鳴(SPR)によって測定した標的結合活性を示す図である。それぞれの時点において参照試料(-20℃)を結合活性100%と設定した。
図3-1】TGF-β受容体活性化の下流にあるSMAD2リン酸化をモニターするために設計したアッセイにおける39B6-A抗体バリアントを試験した結果を示す図である。SMAD2リン酸化はTGF-βのその受容体への結合に続くTGF-βシグナル伝達経路の活性化のマーカーとして働く。SMAD2リン酸化が低減すれば、TGF-β活性が阻害されている。図3A:種々の濃度のGARP-TGF-β抗体、39B6-A、39B6-AVE、39B6-AEE、39B6-AYE、39B6-ANR及び39B6-ANKの存在下におけるSMAD2リン酸化の低減を示すウェスタンブロットである。図3B:種々の抗体濃度におけるSMAD2リン酸化の阻害百分率を示す(A)におけるデータのグラフ表現である。
図3-2】TGF-β受容体活性化の下流にあるSMAD2リン酸化をモニターするために設計したアッセイにおける39B6-A抗体バリアントを試験した結果を示す図である。SMAD2リン酸化はTGF-βのその受容体への結合に続くTGF-βシグナル伝達経路の活性化のマーカーとして働く。SMAD2リン酸化が低減すれば、TGF-β活性が阻害されている。図3A:種々の濃度のGARP-TGF-β抗体、39B6-A、39B6-AVE、39B6-AEE、39B6-AYE、39B6-ANR及び39B6-ANKの存在下におけるSMAD2リン酸化の低減を示すウェスタンブロットである。図3B:種々の抗体濃度におけるSMAD2リン酸化の阻害百分率を示す(A)におけるデータのグラフ表現である。
図4】SMADプロモーターにコンジュゲートしたルシフェラーゼレポーター遺伝子を介してTGF-βの活性を測定するために設計したアッセイにおいて39B6-A抗体バリアントを試験した結果を示す図である。グラフは、種々の濃度のGARP-TGF-β抗体、LHG-10、39B6-A、39B6-AVE、39B6-AEE、39B6-AYE、39B6-ANR及び39B6-ANKの存在下における発光シグナルの阻害百分率を示す。
図5-1】5℃及び37℃で保存した抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRによる56日の期間にわたる凝集形成百分率を示す図である。凝集形成はサイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)によってモニターした。
図5-2】5℃及び37℃で保存した抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRによる56日の期間にわたる凝集形成百分率を示す図である。凝集形成はサイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)によってモニターした。
図6】37℃で保存した抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRによる56日の期間にわたる断片形成百分率を示す図である。断片形成はサイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)によってモニターした。
図7-1】5℃及び37℃で保存した抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRによる56日の期間にわたるモノマー面積百分率を示す図である。モノマー面積はサイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)によってモニターした。
図7-2】5℃及び37℃で保存した抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRによる56日の期間にわたるモノマー面積百分率を示す図である。モノマー面積はサイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)によってモニターした。
図8】参照温度(-20℃)、5℃及び37℃で56日間保存した抗体試料のSDS-PAGE解析の結果を示す図である。図8A:39B6-AVE。図8B:39B6-AYE。図8C:39B6-ANK。図8D:39B6-ANR。マーカーはそれぞれのゲルの中心に現われている。マーカーの左の3つの試料は非還元条件下で試験した(i)参照、(ii)5℃、(iii)37℃の試料であり、マーカーの右の3つの試料は還元条件下で試験した(i)参照、(ii)5℃、(iii)37℃の試料である。
図9-1】-20℃、5℃及び37℃で保存した試料について56日の期間にわたって抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRについてBiacore(商標)又はSPRによって測定した標的結合活性を示す図である。それぞれの時点において参照試料(-20℃)を結合活性100%と設定した。
図9-2】-20℃、5℃及び37℃で保存した試料について56日の期間にわたって抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRについてBiacore(商標)又はSPRによって測定した標的結合活性を示す図である。それぞれの時点において参照試料(-20℃)を結合活性100%と設定した。
図10-1】-20℃(参照)、5℃及び37℃で保存した試料について56日の期間にわたって抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRの試料のタンパク質濃度(mg/ml)を示す図である。
図10-2】-20℃(参照)、5℃及び37℃で保存した試料について56日の期間にわたって抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRの試料のタンパク質濃度(mg/ml)を示す図である。
図11】10回の凍結解凍サイクルの後の抗体試料のSDS-PAGE解析の結果を示す図である。マーカーはゲルの中心に現われている。マーカーの左の4つの試料は非還元条件下で解析した(i)39B6-AVEに対する参照、(ii)39B6-AVEに対する凍結解凍試料、(iii)39B6-AYEに対する参照及び(iv)39B6-AYEに対する凍結解凍試料である。マーカーの右の4つの試料は還元条件下で解析した(i)39B6-AVEに対する参照、(ii)39B6-AVEに対する凍結解凍試料、(iii)39B6-AYEに対する参照及び(iv)39B6-AYEに対する凍結解凍試料である。
図12】抗体39B6-AVE及び39B6-AYEについて10回の凍結解凍サイクルの後でBiacore(商標)又はSPRによって測定した標的結合活性を示す図である。それぞれの時点において参照試料(-20℃)を結合活性100%と設定した。
図13】10回の凍結解凍サイクルの後の抗体39B6-AVE及び39B6-AYEの試料のタンパク質濃度(mg/ml)を示す図である。
図14】抗体39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRについて54.6℃~71.4℃の温度範囲で熱安定性試験を行なった後のBiacore(商標)又はSPRによって測定した標的結合活性を示す図である。参照試料を結合活性100%と設定した。
図15】96時間の回転の後の抗体試料のSDS-PAGE解析の結果を示す図である。マーカーはゲルの中心に現われている。マーカーの左の4つの試料は非還元条件下で解析した(i)39B6-AVEに対する参照、(ii)39B6-AVEに対する回転した試料、(iii)39B6-AYEに対する参照及び(iv)39B6-AYEに対する回転した試料である。マーカーの右の4つの試料は還元条件下で解析した(i)39B6-AVEに対する参照、(ii)39B6-AVEに対する回転した試料、(iii)39B6-AYEに対する参照及び(iv)39B6-AYEに対する回転した試料である。
図16】mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについての回転安定性試験の後でBiacore(商標)又はSPRによって測定した標的結合活性を示す図である。参照試料を結合活性100%と設定した。
図17】回転安定性試験の後のmAb 39B6-AVE及び39B6-AYEの試料のタンパク質濃度(mg/ml)を示す図である。
図18】56日の期間にわたる抗体39B6-ANE、39B6-ANR及び39B6-ANKにおける位置N95の脱アミド化及び異性化の相対量を示す図である。抗体39B6-AVE及び39B6-AYEは残基「N95」がCDR3から除去されているので、ここに含まれていない。37℃で保存した試料についての56日の時間経過にわたるmAb 39B6-ANE、39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRについての相対結合活性も示す。
図19】39B6-AYE(ARGX-115)のGARP-TGF-β複合体への結合における成熟TGF-βの必要性を示す図である。GARP又は抗GARP Ab ARGX-115のいずれかでELISAプレートをコートした。GARPでコートしたELISAプレートについては、関連のある組み換えタンパク質を添加することによって、全長の潜在型TGF-β(LAP及び成熟TGF-β領域の両方を含む)との複合体又は組み換えLAPとの複合体を形成させた。ARGX-115でコートしたELISAプレートについては、GARPを添加し、次いで全長の潜在型TGF-β又はLAPを添加した。ARGX-115は全長TGF-βの存在下でGARPと結合できるのみであった。ARGX-115のGARP-LAP複合体への結合は起きなかった。対照的に、抗LAP抗体はGARP-LAP複合体に結合することができた。これにより、ARGX-115のGARP-TGF-β複合体への結合に成熟TGF-βが必要であることが実証される。
図20】TGF-βの種々の変異形態とのGARP-TGF-β複合体によるTGF-βの活性化を中和する抗体の能力を示す図である。ARGX-115の中和活性は、LAPのR58及び成熟TGF-βのK338の変異によって無効となった。
【発明を実施するための形態】
【0037】
A.定義
「GARP」-GARP(反復優位型グリコプロテインA)はタンパク質の多ロイシンリピートファミリーの一員である。これは多ロイシンリピート含有32(LRRC32)とも呼ばれる。GARPは主として20個の多ロイシンリピートからなる細胞外領域を有する80kDaの膜貫通タンパク質である。ヒトGARPタンパク質トランスクリプトバリアント2(GenBank Accession No.NP_001122394.1)の完全なアミノ酸配列は、
【0038】
【化1】
である。
【0039】
「TGF-β」-TGF-βは成長因子のスーパーファミリーに属するサイトカインである。3つの異なった遺伝子によってコードされるTGF-βの3つの異なったアイソフォーム(TGF-β1、TGF-β2及びTGF-β3)があるが、TGF-βアイソフォームの全体の構造は極めて同様であり、相同性は70~80%のオーダーである。用語TGF-βは本明細書において用いる場合、文脈が他を指示しない限り、典型的にはTGF-βサイトカインの3つ全ての異なったアイソフォームを包含するために用いられる。
【0040】
3つ全てのTGF-βアイソフォームは大きなタンパク質前駆体としてコードされている。TGF-β1(GenBank Accession No.NM_000660)は390個のアミノ酸を含み、TGF-β2(GenBank Accession No.NM_001135599及びNM_003238)及びTGF-β3(GenBank Accession No.XM_005268028)はそれぞれ412個のアミノ酸を含む。これらはそれぞれ、細胞からの分泌に必要な20~30アミノ酸のN末端シグナルペプチド、プロ領域(潜在性関連ペプチド又はLAPと命名されている)、及びタンパク分解性開裂によるプロ領域からの放出の後で成熟TGF-β分子になる112~114アミノ酸のC末端領域を含む。タンパク分解性開裂の後、LAP及び成熟TGF-βは非共有結合的に会合したまま残り、「潜在型TGF-β」分子を形成する。この潜在型において、成熟TGF-βはLAPによってTGF-β受容体への結合が防止されている。シグナルを働かせるために、成熟TGF-βはLAPから放出されなければならない。LAPと会合していない成熟TGF-βは、TGF-β受容体に結合してシグナルを変換することができるので、活性TGF-βと呼ばれる。
【0041】
全長のTGF-β1は以下のアミノ酸配列を有している。
【0042】
【化2】
【0043】
LAPは以下のアミノ酸配列を有している。
【0044】
【化3】
【0045】
成熟TGF-β1は以下のアミノ酸配列を有している。
【0046】
【化4】
【0047】
「GARP-TGF-β複合体」-本明細書で用いる場合、GARP-TGF-β複合体は、潜在型TGF-βがGARP、特にTreg細胞の表面上に位置するGARPに結合する際に形成されるネイティブ複合体を意味する。完全に特定してはいないが、「GARP-TGF-β複合体」又は単純に「GARP-TGF-β」は、本明細書で用いる場合、GARPと潜在型TGF-βとの間の複合体を意味することを意図している。GARPとTGF-β、より具体的には潜在型TGF-βとの結合は、たとえばWangら、Mol Biol Cell、2012年3月、23(6)、1129~39頁に報告されているように、分子レベルで特性解析されている。GARPは潜在型TGF-βのCys4とジスルフィドリンケージを形成し、非共有結合的相互作用で潜在型TGF-βと会合してもいる。GARPの細胞外ドメインには15個のCys残基が存在し、GARPはCys-192及びCys-331を用いて潜在型TGF-βの2つのCys4残基とジスルフィドリンケージを形成している。したがって1つのGARPタンパク質が1つの潜在型TGF-βダイマーと会合していることになる。
【0048】
「抗体」又は「免疫グロブリン」-本明細書で用いる場合、用語「免疫グロブリン」は、それがいかなる関連する特定の免疫反応性を有しているか否かには関わらず、2つの重鎖と2つの軽鎖の組合せを有するポリペプチドを含む。「抗体」は、目的の抗原(たとえばGARPとTGF-βの複合体)に対して顕著で既知の特定の免疫反応活性を有するアセンブリーを意味する。本明細書において用語「GARP-TGF-β抗体」は、GARPとTGF-β1の複合体、特にヒトGARP-TGF-β1複合体、及びある場合にはその相同種に対して免疫学的特異性を呈する抗体を意味するために用いられる。抗体及び免疫グロブリンは、軽鎖及び重鎖を、それらの間の鎖間共有リンケージを伴って又は伴わずに、含む。脊椎動物系における基礎的な免疫グロブリンの構造は、比較的よく理解されている。
【0049】
総称的な用語「免疫グロブリン」は、生化学的に識別できる5つの異なった抗体のクラス(IgG、IgM、IgA、IgD又はIgE)を含む。5つ全ての抗体のクラスは本発明の範囲内にある。以下の考察は一般に免疫グロブリン分子のIgGクラスに向けられる。IgGに関しては、免疫グロブリンは典型的には分子量約23,000ドルトンの2つの同一の軽ポリペプチド鎖と、分子量53,000~70,000の2つの同一の重鎖を含む。4つの鎖はジスルフィド結合によって「Y」形状で接合されており、軽鎖は「Y」の口のところから始まって重鎖を取り囲み、可変領域を通して連続している。
【0050】
抗体の軽鎖はカッパ(κ)又はラムダ(λ)と分類される。それぞれの重鎖クラスはカッパ又はラムダ軽鎖と結合し得る。一般に、軽鎖及び重鎖は互いに共有結合しており、2つの重鎖の「尾」の部分は、免疫グロブリンがハイブリドーマ、B細胞又は遺伝子操作された宿主細胞によって生成する際に共有結合ジスルフィドリンケージ又は非共有結合リンケージによって互いに結合する。重鎖では、アミノ酸配列はY形状の分枝した端のN末端から、それぞれの鎖の底部のC末端まで連なっている。当業者には、重鎖はガンマ、ミュー、アルファ、デルタ又はイプシロン(γ、μ、α、δ、ε)に分類され、それらの中にいくつかのサブクラス(たとえばγ1~γ4)があることが認識される。抗体の「クラス」をそれぞれIgG、IgM、IgA、IgD又はIgEとして決定するものはこの鎖の性質である。免疫グロブリンのサブクラス(アイソタイプ)、たとえばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1等はよく特性解析されており、機能の特殊化を生じることが知られている。これらのクラス及びアイソタイプのそれぞれの改変されたバージョンは本開示に鑑みて、したがって本発明の範囲内で、当業者には容易に識別できる。
【0051】
上記のように、抗体の可変領域によって抗体は抗原のエピトープを選択的に認識し、特異的に結合することができる。即ち、抗体のVLドメインとVHドメインが組み合わされて三次元の抗原結合部位を画定する可変領域を形成する。この四次抗体構造は、Yのそれぞれの腕の端に存在する抗原結合部位を形成する。より具体的には、抗原結合部位はVH及びVL鎖のそれぞれの上の3つの相補性決定領域(CDR)によって画定される。
【0052】
「結合部位」-本明細書で用いる場合、用語「結合部位」は、目的の標的抗原への選択的な結合に関与するポリペプチドの領域を含む。結合ドメインは少なくとも1つの結合部位を含む。例示的な結合ドメインには抗体の可変ドメインが含まれる。本発明の抗体分子は単一の結合部位又は複数(たとえば2つ、3つ又は4つ)の結合部位を含んでよい。
【0053】
「可変領域」又は「可変ドメイン」-用語「可変領域」及び「可変ドメイン」は、本明細書において相互交換可能に用いられ、等価の意味を有することが意図されている。用語「可変」は、VH及びVLの可変ドメインのある部分が抗体の間で配列に大きな相違があり、その標的抗原に対するそれぞれの特定の抗体の結合及び特異性に用いられるという事実を意味している。しかし、可変性は抗体の可変ドメインにわたって均一に分布しているわけではない。それは、抗原結合部位の部分を形成するVLドメイン及びVHドメインのそれぞれにおける「超可変ループ」と呼ばれる3つのセグメントに集中している。Vラムダ軽鎖ドメインの第1、第2及び第3の超可変ループは本明細書でL1(λ)、L2(λ)及びL3(λ)と称され、VLドメイン内で残基24~33(L1(λ)、9、10又は11アミノ酸残基からなる)、49~53(L2(λ)、3つの残基からなる)及び90~96(L3(λ)、5つの残基からなる)を含むと定義してよい(Moreaら、Methods、20:267~279頁(2000))。Vカッパ軽鎖ドメインの第1、第2及び第3の超可変ループは本明細書でL1(κ)、L2(κ)及びL3(κ)と称され、VLドメイン内で残基25~33(L1(κ)、6、7、8、11、12又は13残基からなる)、49~53(L2(κ)、3つの残基からなる)及び90~97(L3(κ)、6つの残基からなる)を含むと定義してよい(Moreaら、Methods、20:267~279頁(2000))。VHドメインの第1、第2及び第3の超可変ループは本明細書でH1、H2及びH3と称され、VHドメイン内で残基25~33(H1、7、8又は9残基からなる)、52~56(H2、3つ又は4つの残基からなる)及び91~105(H3、長さが高度に可変)を含むと定義してよい(Moreaら、Methods、20:267~279頁(2000))。
【0054】
他に指示しない限り、用語L1、L2及びL3はそれぞれVLドメインの第1、第2及び第3の超可変ループを意味し、Vカッパ及びVラムダアイソタイプの両方から得られた超可変ループを包含する。用語H1、H2及びH3はそれぞれVHドメインの第1、第2及び第3の超可変ループを意味し、γ、ε、δ、α又はμを含む既知の重鎖アイソタイプのいずれかから得られた超可変ループを包含する。
【0055】
超可変ループL1、L2、L3、H1、H2及びH3はそれぞれ、以下に定義する「相補性決定領域」又は「CDR」の一部を含む。超可変ループ(HV)は構造に基づいて定義される一方、相補性決定領域(CDR)は配列の可変性に基づいて定義され(Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD.、1983)、いくつかのVH及びVLドメインにおいてHVとCDRの限界は異なることがあるので、用語「超可変ループ」及び「相補性決定領域」は厳密には同義ではない。
【0056】
VL及びVHドメインのCDRは典型的には以下のアミノ酸、軽鎖可変ドメイン中の残基24~34(LCDR1)、50~56(LCDR2)及び89~97(LCDR3)並びに重鎖可変ドメイン中の残基31~35又は31~35b(HCDR1)、50~65(HCDR2)及び95~102(HCDR3)を含むと定義することができる(Kabatら、「Sequences of Proteins of Immunological Interest」、第5版、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD.、(1991))。したがって、HVは対応するCDRの中に含まれ、本明細書におけるVH及びVLドメインの「超可変ループ」への言及は、他に指示しない限り、対応するCDRをも包含し、逆もそうであると解釈されたい。
【0057】
可変ドメインのより高度に保存された部分は、以下に定義するようにフレームワーク領域(FR)と呼ばれる。ネイティブな重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ、3つの超可変ループで連結され、主としてβシート構造を取る4つのFR(それぞれFR1、FR2、FR3及びFR4)を含む。それぞれの鎖の中の超可変ループはFRによって互いに接近して保持され、他の鎖の超可変ループとともに抗体の抗原結合部位の形成に寄与している。抗体の構造解析によって、相補性決定領域によって形成された結合部位の配列と形状の間の関係が明らかになった(Chothiaら、J.Mol.Biol.、227:799~817頁(1992))、Tramontanoら、J.Mol.Biol、215:175~182頁(1990))。それらの高い配列可変性に関わらず、6つのループのうち5つは「カノニカル構造」と呼ばれる、主鎖コンフォメーションの小さな範囲のみを取っている。これらのコンフォメーションはまずループの長さによって決定され、二次的にはそれらの充填、水素結合又は通常でない主鎖のコンフォメーションを取り得る能力によってコンフォメーションを決定するループ及びフレームワーク領域内でのある位置における重要な残基の存在によって決定される。
【0058】
「CDR]-本明細書で用いる場合、用語「CDR」又は「相補性決定領域」は、重鎖及び軽鎖のポリペプチドの両方の可変領域内で見出される非連続的な抗原結合部位を意味する。これらの特定の領域はKabatら、J.Biol.Chem.、252、6609~6616頁(1977)及びKabatら、Sequences of protein of immunological interest.(1991)によって、またChothiaら、J.Mol.Biol.、196:901~917頁(1987)及びMacCallumら、J.Mol.Biol.、262:732~745頁(1996)によって述べられており、定義は相互に比較した場合のアミノ酸残基の重複又はサブセットを含む。上に引用した参照文献のそれぞれによって定義されるCDRを包含するアミノ酸残基を比較のために説明する。好ましくは、用語「CDR」は配列の比較に基づいてKabatによって定義されたCDRである。
【0059】
【表1】
【0060】
「フレームワーク領域」-本明細書で用いる用語「フレームワーク領域」又は「FR領域」は、可変領域の一部であるがCDR(たとえばCDRのKabat定義を用いる)の一部ではないアミノ酸残基を含む。したがって、可変領域フレームワークは長さ約100~120アミノ酸であるが、CDRの外側のアミノ酸のみを含む。重鎖可変ドメインの特定の例について、及びKabatらによって定義されたCDRについて、フレームワーク領域1はアミノ酸1~30を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域2はアミノ酸36~49を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域3はアミノ酸66~94を包含する可変領域のドメインに対応し、フレームワーク領域4はアミノ酸103から可変領域の端までの可変領域のドメインに対応する。軽鎖のフレームワーク領域は軽鎖可変領域CDRのそれぞれによって同様に分離されている。同様に、Chothiaら及びMcCallumらによるCDRの定義を用いて、フレームワーク領域の境界は上記のようにそれぞれのCDR末端によって分離されている。好ましい実施形態ではCDRはKabatによって定義されたものである。
【0061】
天然生成の抗体においては、それぞれのモノマー抗体の上に存在する6つのCDRは、抗体が水性環境の中でその三次元構造を取る際に特定の位置を占めて抗原結合部位を形成するアミノ酸の短い非連続的な配列である。重鎖及び軽鎖の可変ドメインの残りの部分はアミノ酸配列においてより少ない分子間可変性を示し、フレームワーク領域と名付けられている。フレームワーク領域は主としてβシートコンフォメーションを取り、CDRはβシート構造を結合し、ある場合にはその部分を形成するループを形成する。したがって、これらのフレームワーク領域は、6つのCDRを鎖間の非共有結合的相互作用によって正しい配向に位置決めするスカフォールドを形成するように作用する。位置決めされたCDRによって形成された抗原結合部位は、免疫反応性抗原のエピトープに相補的な表面を画定する。この相補的表面は抗体と免疫反応性抗原のエピトープとの非共有結合的な結合を促進する。当業者によれば、CDRの位置は容易に識別できる。
【0062】
「定常領域」-本明細書で用いる場合、用語「定常領域」は、可変ドメイン又は可変領域の外側の抗体分子の部分を意味する。免疫グロブリンの軽鎖は、典型的には「CL又はCL1ドメイン」と称される一本鎖ドメイン「定常領域」を有する。このドメインはVLドメインのC末端に存在する。免疫グロブリンの重鎖は免疫グロブリンのクラス(γ、μ、α、δ、ε)に応じてそれらの定常領域において異なる。重鎖γ、α及びδは、3つの免疫グロブリンドメイン(CH1、CH2及びCH3と称される)並びにCH1及びCH2ドメインを分離する可撓性のヒンジ領域からなる定常領域を有している。重鎖μ及びεは、4つのドメイン(CH1~CH4)からなる定常領域を有している。重鎖の定常領域はVHドメインのC末端に位置している。
【0063】
免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖におけるアミノ酸の番号付けは、Y構造の分枝した端のN末端から始まり、それぞれの鎖の底部のC末端に至る。免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の定常ドメインを定義するために異なった番号付けスキームが用いられる。EU番号付けスキームによれば、IgG分子の重鎖定常ドメインは以下のように識別される。CH1-アミノ酸残基118~215、CH2-アミノ酸残基231~340、CH3-アミノ酸残基341~446。Kabat番号付けスキームによれば、IgG分子の重鎖定常ドメインは以下のように識別される。CH1-アミノ酸残基114~223、CH2-アミノ酸残基244~360、CH3-アミノ酸残基361~477。「ヒンジ領域」は、CH1ドメインとCH2ドメインを接合する重鎖分子の部分を含む。ヒンジ領域はほぼ25残基を含み、可撓性であるので、2つのN末端抗原結合領域は独立に動くことができる。ヒンジ領域は3つの異なったドメイン、即ち上部、中部、下部ヒンジドメインに再分割することができる(Roux K.H.ら、J.Immunol.161:4083~90頁(1998))。「完全なヒトの」ヒンジ領域を含む本発明の抗体は、以下の表2に示すヒンジ領域配列の1つを含んでよい。
【0064】
【表2】
【0065】
「断片」-用語「断片」は、本発明の抗体に関して用いる場合、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖よりも少ないアミノ酸残基を含む抗体又は抗体鎖の一部又は部分を意味する。用語「抗原結合断片」は、抗原に結合し又は抗原結合(即ちGARP-TGF-β複合体への特異的結合)に関して無傷の抗体と(即ち、抗原がそれに由来する無傷の抗体と)競合する免疫グロブリン又は抗体のポリペプチド断片を意味する。本明細書で用いる場合、抗体分子の用語「断片」は、抗体の抗原結合断片、たとえば抗体の軽鎖可変ドメイン(VL)、抗体の重鎖可変ドメイン(VH)、一本鎖抗体(scFv)、F(ab’)2断片、Fab断片、Fd断片、Fv断片、一本腕(一価)抗体、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ又はそのような抗原結合断片の組合せ、アセンブリー又はコンジュゲーションによって形成された任意の抗原結合分子を含む。用語「抗原結合断片」は、本明細書で用いる場合、ユニボディ、ドメイン抗体及びナノボディからなる群から選択される抗体断片を包含することがさらに意図されている。断片は、たとえば無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖の化学的若しくは酵素的処理、又は組み換え手段によって得ることができる。
【0066】
「保存的アミノ酸置換」-「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が同様の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられる置換である。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、塩基性側鎖(たとえばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(たとえばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(たとえばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(たとえばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分枝側鎖(たとえばスレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(たとえばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を含めて、当技術で定義されてきた。したがって、免疫グロブリンポリペプチドにおける非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーの別のアミノ酸残基で置き換えることができる。別の実施形態では、一続きのアミノ酸は、側鎖のファミリーメンバーの順序及び/又は組成が異なる構造的に同様の一続きによって置き換えることができる。
【0067】
「キメラ」-「キメラ」タンパク質は、自然界では天然に連結されていない第2のアミノ酸配列に連結された第1のアミノ酸配列を含む。このアミノ酸配列は、通常は別々のタンパク質の中に存在するものが融合ポリペプチドの中で一緒に存在したり、又は通常は同じタンパク質の中に存在するが融合ポリペプチドの中では新たな配置に置かれたりする場合がある。キメラタンパク質は、たとえば化学合成によって、又は所望の関係性でペプチド領域がコードされているポリヌクレオチドを創成し翻訳することによって、創成することができる。本発明の例示的なキメラ抗体には、ヒト抗体、たとえばヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の定常ドメインに融合されたラクダ科由来のVH及びVLドメイン、又はそのヒト化バリアントを含む融合タンパク質が含まれる。
【0068】
「価数」-本明細書で用いる場合、用語「価数」は、ポリペプチド中の可能な標的結合部位の数を意味する。それぞれの標的結合部位は、1つの標的分子又は標的分子上の特定の部位に特異的に結合する。ポリペプチドが2つ以上の標的結合部位を含む場合には、それぞれの標的結合部位は同じ又は異なった分子に特異的に結合し得る(たとえば、異なったリガンド若しくは異なった抗原、又は同じ抗原上の異なったエピトープに結合し得る)。
【0069】
「特異性」-用語「特異性」は、所与の標的、たとえばGARP-TGF-β1の複合体に結合する(たとえば免疫反応する)能力を意味する。ポリペプチドは、単一特異性で標的に特異的に結合する1つ以上の結合部位を含んでよく、又はポリペプチドは多特異性で同じ又は異なった標的に特異的に結合する2つ以上の結合部位を含んでよい。
【0070】
「合成」-本明細書で用いる場合、ポリペプチドに関する用語「合成」は、天然には生成しないアミノ酸配列を含むポリペプチドを含む。たとえば、天然に生成したポリペプチドの改変された形態(たとえば付加、置換又は欠失のような変異を含む)、又は自然界では天然に連結されていない第2のアミノ酸配列(天然生成であってもなくてもよい)にアミノ酸の一次配列で連結された第1のアミノ酸配列(天然生成であってもなくてもよい)を含む非天然生成のポリペプチド。
【0071】
「操作された」-本明細書で用いる場合、用語「操作された」は、合成的手段による(たとえば組み換え手法、インビトロペプチド合成による、ペプチドの酵素的若しくは化学的カップリング又はこれらの手法のいくつかの組合せによる)核酸又はポリペプチド分子の操作を含む。好ましくは、本発明の抗体は操作されており、たとえばヒト化及び/又はキメラ抗体、並びに抗原結合、安定性/半減期又はエフェクター機能のような1つ以上の特性を改善するために操作された抗体を含む。
【0072】
「ヒト化置換」-本明細書で用いる場合、用語「ヒト化置換」は、抗体(たとえばラクダ科由来のGARP-TGF-β1抗体)のVH又はVLドメインの中の特定の位置に存在するアミノ酸残基が、参照のヒトVH又はVLドメインの等価の位置に存在するアミノ酸残基で置き換えられるアミノ酸置換を意味する。参照のヒトVH又はVLドメインは、ヒト生殖細胞系列によってコードされたVH又はVLドメインであってよい。ヒト化置換は本明細書に定義される抗体のフレームワーク領域及び/又はCDRで行なってよい。
【0073】
「ヒト化バリアント」-本明細書で用いる場合、用語「ヒト化バリアント」は、参照抗体と比較して1つ以上の「ヒト化置換」を含むバリアント抗体を意味し、参照抗体の一部(たとえばVHドメイン及び/若しくはVLドメイン又は少なくとも1つのCDRを含むその部分)は非ヒト種由来のアミノ酸を有し、「ヒト化置換」は非ヒト種由来のアミノ酸配列の中で起こる。
【0074】
「生殖細胞系列化バリアント」-用語「生殖細胞系列化バリアント」は、本明細書で具体的には、その中で「ヒト化置換」が抗体(たとえばラクダ科由来のGARP-TGF-β1抗体)のVH又はVLドメインの中の特定の位置に存在する1つ以上のアミノ酸残基の、ヒト生殖細胞系列によってコードされた参照のヒトVH又はVLドメインの中の等価の位置で起こるアミノ酸残基による置き換えをもたらす「ヒト化バリアント」を意味するために用いられる。任意の所与の「生殖細胞系列化バリアント」について、生殖細胞系列化バリアントの中に置換された置き換えアミノ酸残基は、単一のヒト生殖細胞系列にコードされたVH又はVLドメインからのみ、又は主としてそれから取られるのが通常である。用語「ヒト化バリアント」及び「生殖細胞系列化バリアント」は、本明細書では相互交換可能に用いることが多い。1つ以上の「ヒト化置換」をラクダ科由来(たとえばラマ由来)のVH又はVLドメインに導入すると、ラクダ科(ラマ)由来のVH又はVLドメインの「ヒト化バリアント」が産生される。置換されるアミノ酸残基が単一のヒト生殖細胞系列にコードされたVH又はVLドメイン配列から主として、又はそれのみに由来する場合には、結果はラクダ科(ラマ)由来のVH又はVLドメインの「ヒト生殖細胞系列化バリアント」になり得る。
【0075】
「親和性バリアント」-本明細書で用いる場合、用語「親和性バリアント」は、参照抗体と比較してアミノ酸配列に1つ以上の変化を呈するバリアント抗体を意味し、親和性バリアントは参照抗体と比較して標的抗原に対して変化した親和性を呈する。たとえば、親和性バリアントは参照のGARP-TGF-β抗体と比較してGARP-TGF-βに対して変化した親和性を呈する。好ましくは、親和性バリアントは標的抗原に対して参照抗体と比較して改善された親和性を呈する。親和性バリアントは典型的には参照抗体と比較してCDRの中のアミノ酸配列に1つ以上の変化を呈する。そのような置換により、CDRの中の所与の位置に存在する元のアミノ酸は、天然産生のアミノ酸残基又は非天然産生のアミノ酸残基でもよい異なったアミノ酸残基で置き換えられる。アミノ酸の置換は保存的又は非保存的であってよい。
【0076】
B.GARP-TGF-β1抗体
本発明は、GARPとTGF-β1の複合体、特にヒトGARPとヒトTGF-β1の複合体に特異的に結合する抗体及びその抗原結合断片に関する。本発明の抗体及び抗原結合断片は、本明細書に記載した構造的及び機能的特徴に関して定義され得る。
【0077】
重要なことに、本発明のGARP-TGF-β1抗体は、これらが改善された安定性を示すという理由で、過去に記載されたGARP-TGF-β1抗体と比較して改善されている。特に、本明細書に記載したGARP-TGF-β1抗体の安定性は、WO2015/015003及びWO2016/125017に記載されたGARP-TGF-β1参照抗体LHG-10及びLHG-10.6の重鎖及び軽鎖CDR配列を有する抗体と比較して改善されている。この安定性の改善は、参照のLHG10及びLHG10.6抗体と比較してGARP-TGF-β1複合体に対する抗体の結合親和性を顕著に減少させることなく達成される。
【0078】
本発明の抗体は、特に重鎖CDR2及びCDR3配列の配列に関して、過去に記載されたLHG-10及びLHG-10.6のGARP-TGF-β1参照抗体と異なっている。より具体的には、LHG-10及びLHG-10.6のGARP-TGF-β1抗体は重鎖CDR2配列:RIDPEDGTKYAQKFQG(配列番号5)及び重鎖CDR3配列:EWETVVVGDLMYEYEY(配列番号6)を有する一方、本発明の抗体は重鎖CDR2配列:RIDPEDGTKYAQKFQG(配列番号12)及び重鎖CDR3配列:EWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含んでいる。本明細書に記載し例示するように、重鎖CDR2及びCDR3配列それぞれにおけるG55A及びN95Yのアミノ酸の置換は、脱アミド化、異性化及び酸化を低減する一方、参照抗体のそれとほぼ等価のGARP-TGF-β1複合体の結合親和性を達成することによって抗体の安定性を改善することが見出された。
【0079】
第1の態様では、本発明はGARPとTGF-β1の複合体に結合し、重鎖可変ドメイン(VH)を含む抗体又はその抗原結合断片を提供し、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含むか又はそれからなり、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含むか又はそれからなり、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含むか又はそれからなる。
【0080】
ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は軽鎖可変ドメイン(VL)をさらに含み、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含むか又はそれからなり、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含むか又はそれからなり、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含むか又はそれからなる。
【0081】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が本明細書で提供され、抗体又はその抗原結合断片は少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)及び少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含むか又はそれからなり、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含むか又はそれからなり、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含むか又はそれからなり、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含むか又はそれからなり、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含むか又はそれからなり、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含むか又はそれからなる。
【0082】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合する抗体又はその抗原結合断片が本明細書で提供され、抗体又はその抗原結合断片は少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)及び少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)からなり、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)からなり、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)からなり、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)からなり、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)からなり、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)からなる。
【0083】
ある実施形態では、抗体又は抗原結合断片は組み換え体である。ある実施形態では、抗体又は抗原結合断片はモノクローナルである。
【0084】
用語「抗体」は本明細書では最も広い意味で用いられ、GARP-TGF-β1複合体に対して適切な免疫学的特異性を示す限り、それだけに限らないが、モノクローナル抗体(全長のモノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体及び多重特異性抗体(たとえば二重特異性抗体)を包含する。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で用いる場合、実質的に均質の抗体の集団から得られた抗体を意味する。即ち、集団を構成する個別の抗体は、少量で存在してもよい可能な天然産生の変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位を指向している。さらに、典型的には抗原の異なった決定基(エピトープ)を指向する異なった抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、それぞれのモノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基又はエピトープを指向している。
【0085】
本発明は抗体の「抗原結合断片」をも包含し、そのような断片は本明細書の別の箇所に定義している。抗体断片は典型的には全長の抗体の一部、一般にはその抗原結合又は可変ドメインを含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、二重特異性Fab’、及びFv断片、直鎖状抗体、一本鎖抗体分子、一本鎖可変断片(scFv)、及び抗体断片から形成された多重特異性抗体が含まれる(Holliger、Hudson、Nature Biotechnol.、23:1126~36頁(2005)を参照)。
【0086】
本発明の抗体及び抗原結合断片は、高いヒト相同性を呈し得る。ヒト配列との相同性のレベルは、重鎖可変ドメイン(VH)の長さにわたって、及び/又は軽鎖可変ドメイン(VL)の長さにわたって評価することができる。本発明の文脈では、重鎖可変ドメイン(VH)及び軽鎖可変ドメイン(VL)を含む抗体は、VHドメインとVLドメインを一緒にした場合、最も近く一致するヒト生殖細胞系列のVH及びVL配列と少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、又は少なくとも96%のアミノ酸配列同一性を呈するならば、高いヒト相同性を有すると考えてよい。1つの実施形態では、高いヒト相同性を有する抗体のVHドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたって1つ以上のヒトVHドメインと少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、又は少なくとも96%のアミノ酸配列同一性又は配列相同性を呈し得る。1つの実施形態では、高いヒト相同性を有する抗体のVHドメインは、最も近く一致するヒトVH配列と比較して、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたって1つ以上(たとえば1~10)のアミノ酸配列のミスマッチを含み得る。
【0087】
別の実施形態では、高いヒト相同性を有する抗体のVLドメインは、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたって1つ以上のヒトVLドメインと少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、又は少なくとも96%の配列同一性又は配列相同性を呈し得る。1つの実施形態では、高いヒト相同性を有する抗体のVLドメインは、最も近く一致するヒトVL配列と比較して、フレームワーク領域FR1、FR2、FR3及びFR4にわたって1つ以上(たとえば1~10)のアミノ酸配列のミスマッチを含み得る。
【0088】
高いヒト相同性を有する本発明の抗体及び抗原結合断片は、ヒト生殖細胞系列の配列と十分に高い配列同一性百分率を呈する天然の非ヒト抗体のVH及びVLドメインを含む抗体を含み得る。ある実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片は、非ヒト抗体のヒト化又は生殖細胞系列化バリアント、たとえば元の抗体のヒト化又は生殖細胞系列化バリアントであるように操作されたラクダ科の従来の抗体のVH及びVLドメインを含む抗体である。
【0089】
抗体又はその抗原結合断片は、配列14のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変ドメイン(VH)及び任意選択的に配列番号15のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでよい。
【0090】
ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)を含んでよい。ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでよい。
【0091】
ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖可変ドメイン(VH)を含んでよい。ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでよい。
【0092】
ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでよい。
【0093】
ある実施形態では、抗体又はその抗原結合断片は、配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖可変ドメイン(VL)を含んでよい。
【0094】
ある実施形態では、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含むモノクローナル抗体又はその抗原結合断片が本明細書で提供され、重鎖可変ドメインは配列番号14として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有するVH配列を含み、及び/又は軽鎖可変ドメインは配列番号15として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の配列同一性を有するVLを含む。
【0095】
抗体又は抗原結合断片のドメインが参照配列に対する特定の配列同一性百分率によって定義される実施形態では、VH及び/又はVLドメインは参照配列の中に存在する配列と同一のCDR配列を保持し、それにより変化はフレームワーク領域の中のみに存在する。ある実施形態では、それぞれ配列番号14及び15に対して特定の同一性百分率を有すると定義される重鎖可変ドメイン及び/又は軽鎖可変ドメインを含む抗体又は抗原結合断片は、以下のCDR配列:
アミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含むか又はそれからなるVH CDR3、
アミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含むか又はそれからなるVH CDR2、
アミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含むか又はそれからなるVH CDR1、
アミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含むか又はそれからなるVL CDR3、
アミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含むか又はそれからなるVL CDR2、
アミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含むか又はそれからなるVL CDR1
を有することになる。
【0096】
非限定的な実施形態では、本発明の抗体は、そのアミノ酸配列が完全に又は実質的にヒトであるCH1ドメイン及び/又はCLドメイン(それぞれ重鎖及び軽鎖からの)を含んでよい。本発明の抗体又は抗原結合断片がヒトの治療用途を意図した抗体である場合には、抗体の定常領域全体又は少なくともその一部は、完全な又は実質的なヒトアミノ酸配列を有することが通常である。したがって、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCLドメイン(及び存在する場合にはCH4ドメイン)の1つ以上又はいずれかの組合せは、そのアミノ酸配列に関して完全に又は実質的にヒトであってよい。
【0097】
有利には、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、CH3ドメイン及びCLドメイン(及び存在する場合にはCH4ドメイン)は全て、完全に又は実質的にヒトアミノ酸配列を有してよい。ヒト化若しくはキメラ抗体又は抗体断片の定常領域に関しては、用語「実質的にヒト」は、ヒト定常領域と少なくとも90%、又は少なくとも92%、又は少なくとも95%、又は少なくとも97%、又は少なくとも99%のアミノ酸配列同一性を意味する。この文脈における用語「ヒトアミノ酸配列」は、生殖細胞系列、再配列された及び体細胞変異した遺伝子を含むヒト免疫グロブリン遺伝子によってコードされるアミノ酸配列を意味する。本発明は、「完全なヒト」のヒンジ領域の存在が明示的に必要な実施形態を除いて、ヒト配列に関して1つ以上のアミノ酸の付加、欠失又は置換によって変化した「ヒト」配列の定常ドメインを含むポリペプチドをも意図している。
【0098】
本発明のGARP-TGF-β1抗体における「完全なヒト」のヒンジ領域の存在は、免疫原性を最小化するため及び抗体の安定性を最適化するために有益である。
【0099】
本明細書の他の箇所で考察するように、重鎖及び/又は軽鎖の定常領域の中で、特にFc領域の中で、1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を行なってよいことが意図されている。アミノ酸の置換は、置換されるアミノ酸を異なった天然産生のアミノ酸、又は非天然産生の若しくは改変されたアミノ酸による置き換えをもたらし得る。たとえばグリコシル化パターン(たとえばN連結若しくはO連結のグリコシル化部位の付加又は欠失による)の変化のような他の構造的改変も許される。
【0100】
GARP-TGF-β1抗体を、Fc領域の中で改変して、新生児受容体FcRnへの結合親和性を増大させてよい。増大した結合親和性は、酸性pH(たとえばpH約5.5~pH約6.0)で測定可能である。増大した結合親和性は、中性pH(たとえばpH約6.9~pH約7.4)でも測定可能である。「増大した結合親和性」は、改変していないFc領域と比べてFcRnへの増大した結合親和性を意味する。典型的には、改変していないFc領域は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の野生型アミノ酸配列を有することになる。そのような実施形態では、改変されたFc領域を有する抗体分子の増大したFcRn結合親和性は、FcRnについての野生型IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4の結合親和性に比べて測定されることになる。
【0101】
ある実施形態では、Fc領域の中の1つ以上のアミノ酸残基は異なったアミノ酸で置換され、それによりFcRnへの結合が増大する。FcRn結合を増大させ、それにより抗体の薬物動態を改善するいくつかのFc置換が報告されている。そのような置換は、たとえばZalevskyら、(2010)Nat.Biotechnol.、28(2):157~9頁;Hintonら、(2006)J Immunol.、176:346~356頁;Yeungら、(2009)J Immunol.、182:7663~7671;Presta LG.、(2008)Curr.Op.Immunol.、20:460~470頁;及びVaccaroら、(2005)、Nat.Biotechnol.、23(10):1283~88頁に報告されており、これらの内容は全体として本明細書に組み込まれる。
【0102】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1抗体はアミノ酸の置換H433K及びN434Fを含むか又はそれからなる改変されたヒトIgG Fcドメインを含み、Fcドメインの番号付けはEUの番号付けに従っている。さらなる実施形態では、本明細書に記載したGARP-TGF-β1抗体はアミノ酸の置換M252Y、S254T、T256E、H433K及びN434Fを含むか又はそれからなる改変されたヒトIgG Fcドメインを含み、Fcドメインの番号付けはEUの番号付けに従っている。
【0103】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1抗体は、対応する野生型IgG配列に比べて2個まで、3個まで、4個まで、5個まで、6個まで、7個まで、8個まで、9個まで、10個まで、12個まで、15個まで、20個までの置換からなる改変されたヒトIgG Fcドメインを含む。
【0104】
抗体の意図された用途に応じて、本発明の抗体をそのFc受容体への結合特性に関して、たとえばエフェクター機能を調節するために改変することが望ましいことがある。たとえば、システイン残基をFc領域に導入し、それによりこの領域における鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にしてよい。このようにして生成したホモダイマー抗体は、改善された内在化の能力及び/又は増大した補体介在性細胞殺滅性並びに抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)を有し得る。Caronら、J.Exp.Med.、176:1191~1195頁(1992)及びShopes,B.J.、Immunol.、148:2918~2922頁(1992)を参照。本発明は、化学療法剤、毒素(たとえば細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素的に活性な毒素又はその断片)、又は放射性同位元素(即ち放射性コンジュゲート)のような細胞毒性薬剤にコンジュゲートした、本明細書に記載した抗体を含む免疫コンジュゲートをも意図している。Fc領域は、参照により本明細書に組み込まれるChan、Carter、Nature Reviews:Immunology、10巻、301~316頁、2010に記載されているように、半減期の延長のために操作されてもよい。
【0105】
さらに別の実施形態では、Fc領域は抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)を媒介する抗体の能力を増大させるため、及び/又は1つ以上のアミノ酸を改変することによってFcγ受容体への抗体の親和性を増大させるために、改変される。
【0106】
特定の実施形態では、Fc領域はエフェクター機能がないように操作してよい。Fcエフェクター機能を有しないGARP-TGF-β1抗体は、受容体ブロッキング剤として特に有用である。ある実施形態では、本発明の抗体は低減されたエフェクター機能を有する天然産生のIgGアイソタイプ、たとえばIgG4由来のFc領域を有してよい。IgG4由来のFc領域は、たとえばインビボにおけるIgG4分子の間の腕の交換を最小にする改変の導入によって、治療用有用性を増大させるようにさらに改変してよい。IgG4由来のFc領域は、S228P置換を含むように改変してよい。
【0107】
さらに別の実施形態では、抗体のグリコシル化が改変される。たとえば、非グリコシル化抗体(即ち、グリコシル化がない抗体)を作ることができる。グリコシル化は、たとえば標的抗原に対する抗体の親和性を増大するために変化させることができる。そのような炭水化物改変は、たとえば抗体の配列の中の1つ以上のグリコシル化部位を変化させることによって達成することができる。たとえば、可変領域フレームワークの1つ以上のグリコシル化部位の排除をもたらす1つ以上のアミノ酸の置換を行ない、それによりその部位におけるグリコシル化を排除することができる。そのような非グリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を増大させ得る。
【0108】
フコシル残基の量が低減したか又は完全に若しくは部分的に脱フコシル化された、低フコシル化抗体(Natsumeら、Drug Design Development and Therapy、3巻、7~16頁、2009)、又は分岐したGlcNac構造が多い抗体のような変化した型のグリコシル化を有するバリアントGARP-TGF-β1抗体も、想定される。そのような変化したグリコシル化パターンは抗体のADCC活性を増大させ、「ネイティブな」ヒトFcドメインを含む等価の抗体と比べて典型的には10倍のADCCの増大を起こすことが実証されてきた。そのような炭水化物改変は、たとえば変化したグリコシル化酵素機構を有する宿主細胞中で抗体を発現させることによって達成することができる(Yamane-Ohnuki、Satoh、mAbs、1:3、230~236頁、2009に記載されているように)。ADCC機能が増大した非フコシル化抗体の例は、BioWa Inc.のPotellignet(登録商標)技術を用いて産生された抗体である。
【0109】
ヒト治療用途を意図した抗体は、典型的にはIgG、IgM、IgA、IgD、又はIgE型、しばしばIgG型のものであり、この場合、これらは4つのサブクラス、IgG1、IgG2a及びb、IgG3又はIgG4のいずれかに属し得る。これらのサブクラスのそれぞれの中で、Fc部分の中で1つ以上のアミノ酸の置換、挿入又は欠失を行なうこと、又はたとえばFc依存性機能を増大し又は低減させるために他の構造改変を行なうことが可能である。
【0110】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1に特異的に結合する抗体は、少なくとも1つの全長の免疫グロブリン重鎖及び/又は少なくとも1つの全長のラムダ若しくはカッパ軽鎖を含み、重鎖は配列番号16のアミノ酸配列を含むか又はそれからなり、軽鎖は配列番号17のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる。
【0111】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1に特異的に結合する抗体は、少なくとも1つの全長の免疫グロブリン重鎖及び/又は少なくとも1つの全長のラムダ若しくはカッパ軽鎖を含み、重鎖は配列番号16のアミノ酸配列を含み、軽鎖は配列番号17のアミノ酸配列を含む。
【0112】
ある実施形態では、GARP-TGF-β1に特異的に結合する抗体は、少なくとも1つの全長の免疫グロブリン重鎖及び/又は少なくとも1つの全長のラムダ若しくはカッパ軽鎖を含み、重鎖は配列番号16のアミノ酸配列からなり、軽鎖は配列番号17のアミノ酸配列からなる。
【0113】
ある実施形態では、配列番号16として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖、及び/又は配列番号17として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。
【0114】
ある実施形態では、配列番号16として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。ある実施形態では、配列番号17として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。ある実施形態では、配列番号16として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する重鎖及び配列番号17として示されるアミノ酸配列と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、又は少なくとも99%の配列同一性を有する軽鎖を含むモノクローナル抗体が本明細書で提供される。
【0115】
抗体の鎖が参照配列に対する特定の配列同一性百分率によって定義される実施形態では、重鎖及び/又は軽鎖は参照配列の中に存在する配列と同一のCDR配列を保持し、それにより変化はCDR領域の外側にのみ存在する。特に、それぞれ配列番号16及び17に対して特定の同一性百分率を有すると定義される重鎖及び/又は軽鎖を含む抗体又は抗原結合断片は、以下のCDR配列:
アミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含むか又はそれからなるVH CDR3、
アミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含むか又はそれからなるVH CDR2、
アミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含むか又はそれからなるVH CDR1、
アミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含むか又はそれからなるVL CDR3、
配列番号10[GASRLKT]を含むか又はそれからなるVL CDR2、及び
アミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含むか又はそれからなるVL CDR1
を有し得る。
【0116】
GARP-TGF-β1への結合
本発明の抗体及び抗原結合断片は、GARPとTGF-β1の複合体、特にヒトGARPとヒトTGF-β1の複合体に結合する。本明細書の他の箇所で説明したように、GARPは制御T細胞の表面上に発現する膜貫通タンパク質であり、潜在型TGF-βの受容体として作用する。図1は、制御T細胞の細胞表面でGARPと潜在型TGF-βとの間に形成される複合体の概略図を含む。
【0117】
本発明の抗体及び抗原結合断片が結合するGARP-TGF-β1複合体は、細胞表面でGARPとTGF-β1との間に形成されるネイティブのGARP-TGF-β1複合体である。
【0118】
本発明の抗体及び抗原結合断片は、GARP-TGF-β1の複合体に結合するが、TGF-β1又は潜在型TGF-βの存在がないとGARPに結合しないという特徴がある。抗体及び抗原結合断片は、TGF-β1の存在下にのみGARPに結合する。特に、抗体及び抗原結合断片は、潜在型TGF-β1の存在下にのみGARPに結合する。抗体及び抗原結合断片は、Treg細胞からの活性TGF-βの放出をブロックし又は阻害し得る。
【0119】
本発明の抗体及びその抗原結合断片の標的抗原は、2つの別個のタンパク質を含む複合体であるので、抗体及び抗原結合断片が結合するエピトープは、一次ではなくコンフォメーショナルなエピトープである。コンフォメーショナルなエピトープはGARPからの少なくとも1つの残基と、潜在型TGF-β1からの少なくとも1つの残基を含む。好ましい実施形態では、コンフォメーショナルなエピトープはGARPからの少なくとも1つの残基、潜在型TGF-β1の潜在性関連ペプチド(LAP)からの少なくとも1つの残基及び成熟TGF-β1からの少なくとも1つの残基を含む。
【0120】
本発明の抗体及び抗原結合断片は、ヒトGARPとヒトTGF-β1とによって形成される複合体のエピトープに結合してよく、エピトープはY137、S138、G139、T162及びR163から選択されるGARPからの少なくとも1つの残基(配列番号33に関して)、並びにTGF-β1からの少なくとも1つの残基を含む。好ましい実施形態では、エピトープは少なくともGARPの残基Y137、S138、G139、T162及びR163(配列番号33に関して)を含む。
【0121】
エピトープはTGF-β1ポリペプチド(配列番号34)からの少なくとも1つの残基を含んでよく、任意選択的に少なくとも1つの残基はK338である。エピトープはTGF-β1の潜在性関連ペプチド(LAP)からの少なくとも1つの残基及び成熟TGF-β1からの少なくとも1つの残基を含んでよい。エピトープはLAPのR58及び成熟TGF-β1のK338を含んでよい(配列番号34に関して)。
【0122】
本発明の抗体及び抗原結合断片は、GARPとTGF-β1の複合体に結合する。本発明の抗体及び抗原結合断片はさらに、ヒトGARPとヒトTGF-β2の複合体及び/又はヒトGARPとヒトTGF-β3の複合体に結合してよい。
【0123】
ある実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片は、GARPとTGF-β1の複合体に高い親和性で結合する。本明細書で用いる場合、用語「親和性」又は「結合親和性」は、抗体結合に関する技術における通常の意味に基づいて理解されるべきであり、抗原と、抗体又はその抗原結合断片の結合部位との間の結合の強さ及び/又は安定性を反映している。
【0124】
抗体又はその抗原結合断片の、それぞれの抗原に対する結合親和性は、当技術で既知の手法を用いて実験的に決定することができる。たとえば、Biacore(商標)のようなSPR装置は、抗体又は抗体断片が固定化された標的の上を特定の流れ条件下で通過する間の、バイオセンサーチップ上の標的タンパク質又は抗原の固定化に基づいて親和性を測定する。これらの実験によってkon及びkoffの測定が得られ、これらはK値に置き換えることができ、ここでKは抗原と抗体又はその断片との解離の平衡定数である。K値が小さくなれば、抗体とその標的抗原との間の結合相互作用が強くなる。
【0125】
上記のように、抗体の親和性は、たとえば本明細書の他の箇所に記載したプロトコルを用いてBiacore(商標)又はSPRによって決定することができる。Biacore(商標)又はSPRによって測定されるGARP-TGF-β1複合体に対する抗体又は抗原結合断片の親和性は、たとえば実施例2に記載したように、組み換え発現したGARP-TGF-β1複合体を用いて決定することができる。
【0126】
本発明のGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片は、Fabとして試験した際に、7×10-4-1未満、5×10-4-1未満、3×10-4-1未満、1.5×10-4-1未満の、GARP-TGF-β1複合体についてのオフレート(koff)を呈し得る。本発明のGARP-TGF-β抗体又はその抗原結合断片は、1×10-6-1~5×10-4-1の範囲、好ましくは1×10-6-1~3×10-4-1の範囲、より好ましくは1×10-5-1~1.5×10-4-1の範囲の、GARP-TGF-β1の複合体についてのオフレート(koff)を呈し得る。
【0127】
本発明のGARP-TGF-β1抗体は、5×10-9M未満、2×10-9M未満のK値を呈し得る。好ましい実施形態では、本発明のGARP-TGF-β1抗体は、1.7×10-9M未満のK値を呈する。
【0128】
ある実施形態では、GARPとTGF-β1の複合体に結合する本明細書に記載した抗体又は抗原結合断片は、GARP及びTGF-βの1つ以上の種同族体、たとえば非ヒト霊長類由来のGARP及びTGF-βの同族体と交差反応し得る。
【0129】
ある実施形態では、本発明の抗体又は抗原結合断片は、マウス由来のGARPとTGF-βの複合体とは交差反応しない。その代わりに又はさらに、抗体又は抗原結合断片は、非ヒト霊長類由来のGARP-TGF-β複合体、特にカニクイザル由来のGARP-TGF-β複合体に結合し得る。他種同族体との交差反応性は、治療用抗体の開発及び試験において特に有利であり得る。たとえば、治療用抗体の前臨床毒性試験は、それだけに限らないが、カニクイザルを含む霊長類種で行なわれることが多い。したがってこれらの種同族体との交差反応性は、臨床用候補としての抗体の開発のために特に有利であり得る。
【0130】
改善された安定性
本発明のGARP-TGF-β1抗体は、改善された安定性を示すという理由で、過去に記載されたGARP-TGF-β1抗体と比較して改善されている。特に、GARP-TGF-β1抗体の安定性は、WO2015/015003及びWO2016/125017に記載されたGARP-TGF-β1参照抗体LHG10.6の重鎖及び軽鎖CDR配列を有する抗体と比較して改善されている。
【0131】
GARP-TGF-β抗体LHG10.6は、重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインのCDR配列の以下の組合せ:
NEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号6)からなる重鎖CDR3、
RIDPEDGGTKYAQKFQG(配列番号5)からなる重鎖CDR2、
SYYID(配列番号4)からなる重鎖CDR1、
QQYASVPVT(配列番号11)からなる軽鎖CDR3、
GASRLKT(配列番号10)からなる軽鎖CDR2、及び
QASQSISSYLA(配列番号9)からなる軽鎖CDR1
を有している。
【0132】
本明細書の他の箇所に報告したように、LHG10.6の重鎖及び軽鎖CDR配列を有するGARP-TGF-β1抗体は安定性を欠くことが見出された。特に、LHG10.6(本明細書の他の箇所ではmAb 39B6 IgG4及び39B6 IgG1と称する)の生殖細胞系列化されたモノクローナル抗体バリアントは、PBSとPBS/Tweenの両方の中で37℃で保存した場合に低い標的結合活性の傾向を呈することが見出された(たとえば図2参照)。この不安定性は、少なくとも部分的に、HCDR3のN95の位置、即ち重鎖CDR3の最初の残基における異性化及び脱アミド化に起因すると考えられた。
【0133】
本発明のGARP-TGF-β1抗体及び抗原結合断片は、そのCDR配列、特にその重鎖CDR配列に関して異なり、それにより安定性が改善されている。特に、重鎖CDR2(HCDR2又はVH CDR2)配列はG55A置換を含むように改変され、それにより本発明の抗体のHCDR2配列はRIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)で表されるHCDR2を含む。さらに、重鎖CDR3(HCDR3又はVH CDR3)はN95Y置換を含むように改変され、それにより本発明の抗体のHCDR3配列はYEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)で表されるHCDR3を含む。本発明の抗体は脱アミド化又は異性化を受けない。さらに、本発明のGARP-TGF-β1抗体は酸化に対して比較的抵抗性があることが驚くべきことに見出された。脱アミド化、異性化及び酸化に対するこの抵抗性は、本発明の抗体の改善された安定性、特に温度37℃で測定された改善された安定性と相関している。
【0134】
さらに、本発明の抗体及び抗原結合断片は、重鎖CDR2及びCDR3配列の改変が参照抗体LHG10.6と比較して標的結合活性を顕著には低下させないので、驚くほど有利である。本明細書に例示したように、本発明のGARP-TGF-β1抗体は37℃で比較的安定であり、参照抗体LHG10.6又はその生殖細胞系列化バリアント(39B6)と比較してGARP-TGF-β1複合体への結合親和性において顕著な低減を呈しない。他の箇所に記載したように、好ましい実施形態では、本発明のGARP-TGF-β1抗体は1.7×10-9M未満のK値を呈する。
【0135】
本明細書で報告したように、Asn(N)残基を除去するHCDR3のN95の位置の全ての置換がGARP-TGF-β1複合体との結合親和性をも保持しながら抗体の安定性を改善することができるわけではない。N95Vの置換を有する生殖細胞系列化モノクローナル抗体バリアント(本明細書で39B6-AVEと称する)は、脱アミド化及び異性化に抵抗することが見出されたが、37℃で28時間の保存で顕著な酸化を受けた。このN95Vバリアントの結合活性も、37℃で56日間の保存で顕著に低下することが見出された。本発明者らは、重鎖の隣接する位置96(即ちHCDR3の第2の残基)における嵩高な置換は、安定性を改善し高い親和性の抗原結合活性を保持することができないことも見出した。本明細書で例示したように、本発明者らはHCDR3ドメインにおけるE96K及びE96Rの置換を含む2つの生殖細胞系列化モノクローナル抗体バリアントを試験した。E96Kバリアント(本明細書で39B6-ANKと称する)は酸化を受けなかったが、37℃、28日間では脱アミド化及び異性化の対象となり、56日間では結合活性の顕著な低下を受けた。E96Rバリアント(本明細書で39B6-ANRと称する)は37℃、28日間で顕著な酸化及び脱アミド化を受け、56日間で結合活性の低下を受けた。
【0136】
本発明の好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)及び少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含むか又はそれからなり、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含むか又はそれからなり、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含むか又はそれからなり、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含むか又はそれからなり、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含むか又はそれからなり、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含むか又はそれからなる。
【0137】
本発明のある好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)及び少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)を含み、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)を含み、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)を含み、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)を含み、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)を含み、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)を含む。
【0138】
本発明のある好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は少なくとも1つの重鎖可変ドメイン(VH)及び少なくとも1つの軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、
VH CDR3はアミノ酸配列YEWETVVVGDLMYEYEY(配列番号13)からなり、
VH CDR2はアミノ酸配列RIDPEDAGTKYAQKFQG(配列番号12)からなり、
VH CDR1はアミノ酸配列SYYID(配列番号4)からなり、
VL CDR3はアミノ酸配列QQYASVPVT(配列番号11)からなり、
VL CDR2はアミノ酸配列GASRLKT(配列番号10)からなり、
VL CDR1はアミノ酸配列QASQSISSYLA(配列番号9)からなる。
【0139】
これらの抗体は好ましくは1.7×10-9M未満のK値を呈する。
【0140】
本発明の特に好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖可変ドメイン(VH)及び任意選択的に配列番号15のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0141】
本発明の特に好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は、配列番号14のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号15のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0142】
本発明の特に好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は、配列番号14のアミノ酸配列からなる重鎖可変ドメイン(VH)及び配列番号15のアミノ酸配列からなる軽鎖可変ドメイン(VL)を含む。
【0143】
本発明のさらに好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる重鎖及び任意選択的に配列番号17のアミノ酸配列を含むか又はそれからなる軽鎖を含む。
【0144】
本発明のさらに好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は、配列番号16のアミノ酸配列を含む重鎖及び配列番号17のアミノ酸配列を含む軽鎖を含む。
【0145】
本発明のさらに好ましい実施形態では、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合し、改善された安定性を呈する抗体は、配列番号16のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号17のアミノ酸配列からなる軽鎖を含む。
【0146】
GARP-TGF-β抗体をコードするポリヌクレオチド
本発明は、本発明のGARP-TGF-β1抗体又は抗原結合断片をコードする1つ以上のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド分子、宿主細胞又は無細胞発現システムにおける抗体又はその断片の発現を可能にする制御配列に操作可能に連結された本発明の前記ヌクレオチド配列を含む発現ベクター、及び前記発現ベクターを含む宿主細胞又は無細胞発現システムをも提供する。
【0147】
ある実施形態では、本発明によるGARP-TGF-β1抗体又は抗原結合断片の重鎖可変ドメイン及び/又は軽鎖可変ドメインは第1及び第2のポリヌクレオチド配列によってコードされ、第1及び第2のポリヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号18及び19のアミノ酸配列を含む。ある実施形態では、本発明のGARP-TGF-β1抗体をコードするポリヌクレオチドは、GARP-TGF-β1抗体の機能性VH又はVLドメインをコードするバリアント配列を含んでよい。VHドメインをコードするバリアント配列は、配列番号18と最適に整列した際に少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の配列同一性を呈し得る。またVLドメインをコードするバリアント配列は、配列番号19と最適に整列した際に少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の配列同一性を呈し得る。
【0148】
ある実施形態では、本発明によるGARP-TGF-β1抗体又は抗原結合断片の重鎖及び/又は軽鎖は第1及び第2のポリヌクレオチド配列によってコードされ、第1及び第2のポリヌクレオチド配列はそれぞれ配列番号20及び21のアミノ酸配列を含む。ある実施形態では、本発明のGARP-TGF-β1抗体をコードするポリヌクレオチドは、GARP-TGF-β1抗体の重鎖又は軽鎖をコードするバリアント配列を含んでよい。重鎖をコードするバリアント配列は、配列番号20と最適に整列した際に少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の配列同一性を呈し得る。また軽鎖をコードするバリアント配列は、配列番号21と最適に整列した際に少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の配列同一性を呈し得る。
【0149】
この文脈において、2つのポリヌクレオチド配列の間の配列同一性百分率は、最適の様式で整列し、その中で比較すべきポリヌクレオチド配列がこれらの2つの配列の間の最適の整列についての参照配列に関して付加又は欠失を含み得るこれら2つの配列を比較することによって、決定することができる。同一性の百分率は、ヌクレオチド残基が2つの配列の間で同一である同一位置の数を決定し、この同一位置の数を比較ウィンドウの中の位置の全数で割り、これら2つの配列の間の同一性の百分率を得るために得られた結果を100倍することによって計算される。たとえば、BLASTプログラム、即ちncbi.nlm.nih.gov./gorf/bl2で入手可能な「BLAST2配列」(Tatusovaら、「Blast 2 sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」、FEMS Microbiol Lett.、174:247~250頁)を用いることができ、用いるパラメーターはデフォルトによって与えられるものであり(特にパラメーター「オープンギャップペナルティ」:5、「エクステンションギャップペナルティ」:2であり、選択するマトリックスはたとえばプログラムによって提案される「BLOSUM62」である)、比較すべき2つの配列の間の同一性の百分率はプログラムによって直接計算される。
【0150】
本発明の抗体をコードするポリヌクレオチド分子は、たとえば組み換えDNA分子を含む。用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」又は「ポリヌクレオチド分子」は、本明細書で交換可能に用いられ、一本鎖又は二本鎖の任意のDNA又はRNA分子、一本鎖の場合にはその相補性配列の分子を意味する。核酸分子を考察する場合には、特定の核酸分子の配列又は構造は、本明細書において5’から3’の方向に配列を提供する通常の慣例に従って記載し得る。本発明のいくつかの実施形態では、核酸又はポリヌクレオチドは「単離」される。この用語は、核酸分子に適用する場合には、それが由来する生命体の天然に産生するゲノムにおいて直接隣接している配列から分離された核酸分子を意味する。たとえば、「単離された核酸」は、プラスミド若しくはウイルスベクターのような、ベクターに挿入されたDNA分子、又は原核細胞若しくは真核細胞又は非ヒト宿主生命体のゲノムDNAに組み込まれたDNA分子を含んでよい。RNA分子に適用する場合には、用語「単離されたポリヌクレオチド」は、一義的には上で定義した単離されたDNA分子によってコードされたRNA分子を意味する。あるいは、この用語は、天然の状態で(即ち細胞内又は組織内で)それが会合している他の核酸から精製され/分離されたRNA分子を意味し得る。単離されたポリヌクレオチド(DNA又はRNA)は、生物学的又は合成的手段によって直接産生され、その産生の間に存在する他の成分から分離された分子をさらに表し得る。
【0151】
本発明による抗体の組み換え産生のため、抗体をコードするポリヌクレオチドを(標準的な分子生物学の手法を用いて)調製し、選択した宿主細胞又は無細胞発現システムにおいて複製可能なベクターに挿入する。好適な宿主細胞は原核細胞、酵母、又はより高級な真核細胞、具体的には哺乳類細胞であってよい。有用な哺乳類宿主細胞株の例としては、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1株(COS-7、ATCC CRL 1651);ヒト胎児腎臓株(293又は懸濁培養中で増殖のためにサブクローン化された293細胞、Grahamら、J.Gen.Virol.、36:59頁(1977));ベビーハムスター腎細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaubら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、77:4216頁(1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol.Reprod.23:243~251頁(1980));マウス骨髄腫細胞SP2/0-AG14(ATCC CRL 1581;ATCC CRL 8287)又はNS0(HPA culture collections no.85110503);サル腎細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト頚癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎細胞(MDCK、ATCC CCL34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y.Acad.Sci.、383:44~68頁(1982));MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(Hep G2)、並びにDSMのPERC-6細胞株がある。これらの宿主細胞のそれぞれにおける使用のために好適な発現ベクターも当技術で一般に知られている。
【0152】
用語「宿主細胞」は一般に培養された細胞株を意味することに留意されたい。その中に本発明による抗体又は抗原結合断片をコードする発現ベクターが導入されたヒト全体は、「宿主細胞」の定義から明確に除外される。
【0153】
抗体の産生
さらなる態様では、本発明は、抗体の発現を可能にする条件下で抗体をコードする1つ以上のポリヌクレオチド(たとえば発現ベクター)を含む宿主細胞(又は無細胞発現システム)を培養するステップ、及び発現した抗体を回収するステップを含む、本発明の抗体を産生する方法も提供する。この組み換え発現プロセスは、ヒト治療用途を意図したモノクローナル抗体を含む本発明によるGARP-TGF-β1抗体を含む抗体の大スケール産生のために用いることができる。インビボ治療用途に適した組み換え抗体の大スケール製造のための好適なベクター、細胞株及び産生プロセスは当技術で一般に入手可能であり、当業者にはよく知られている。
【0154】
医薬組成物
本発明の範囲は、1つ以上の薬学的に許容される担体又は賦形剤とともに製剤化された本発明のGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片の1つ以上の組合せを含む医薬組成物を含む。そのような組成物は、(たとえば2つ以上の異なった)GARP-TGF-β1抗体の1つ以上の組合せを含んでよい。ヒト治療用途のためのモノクローナル抗体を製剤化する手法は当技術で周知であり、たとえばその内容が全体として本明細書に組み込まれるWangら、Journal of Pharmaceutical Sciences、96巻、1~26頁(2007)に概説されている。
【0155】
ある実施形態では、医薬組成物は、それだけに限らないが、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、硬膜外、経鼻、経口、直腸、局所、吸入、頬側(たとえば舌下)、及び経皮投与を含む任意の好適な投与経路を介して対象に投与するために製剤化される。
【0156】
これらの組成物において用いられる薬学的に許容される賦形剤には、それだけに限らないが、イオン交換剤、アルミナ、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、ヒト血清アルブミンのような血清タンパク質、リン酸塩のような緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、飽和植物脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩、又は硫酸プロタミン、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素カリウム、塩化ナトリウム、亜鉛塩のような電解質、コロイダルシリカ、トリケイ酸マグネシウム、ポリビニルピロリドン、セルロース系物質(たとえばカルボキシメチルセルロースナトリウム)、ポリエチレングリコール、ポリアクリレート、ワックス、ポリエチレン-ポリオキシプロピレン-ブロックポリマー、ポリエチレングリコール及び羊毛脂が含まれる。
【0157】
GARP-TGF-β1の治療有用性
本発明の抗体及び抗原結合断片は処置の方法において用いられ、治療有効量のGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片が処置を必要とする対象に投与される。ある実施形態では、本発明の抗体及び抗原結合断片は処置の方法において用いられ、治療有効量のGARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片が処置を必要とするヒト対象に投与される。ヒトGARPとTGF-β1の複合体に結合する抗体又はその抗原結合断片が、医薬としての使用のために本明細書で提供される。
【0158】
本発明の抗体及び抗原結合断片は制御T細胞の上のGARP-TGF-β複合体に結合し、活性TGF-βの産生又は放出をブロックし又は阻害することができる。したがって、本発明のさらなる態様では、TGF-β関連障害を有するか有していると疑われる対象を処置するための方法が本明細書で提供される。そのような方法は、処置を必要とする対象に治療有効量の本発明のGARP-TGF-β1抗体を投与するステップを含む。
【0159】
例示的なTGF-β関連障害には、炎症性疾患、慢性感染症、がん、線維症、心血管系疾患、脳血管系疾患(たとえば虚血性発作)及び神経変性疾患が含まれるが、それだけに限らない。ある実施形態では、TGF-β関連障害は、慢性感染症である。ある実施形態では、TGF-β関連障害はがんである。
【0160】
対象への投与における使用のため、本発明の抗体及び抗原結合断片は医薬組成物として製剤化される。組成物は経口、非経口、吸入スプレー、局所、直腸、経鼻、経頬、経膣又は埋め込まれたリザーバを介して投与してよい。用語「投与」は、本明細書で用いる場合、限定なしに皮下、静脈内、腹腔内、筋肉内、関節内、滑液内、胸骨内、髄腔内、肝内、病巣内、腫瘍内、及び頭蓋内注射又は注入手法を含む。
【0161】
組成物の無菌の注入可能な形態は、水性又は油性の懸濁液であってよい。これらの懸濁液は、好適な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて当技術で既知の手法に従って製剤化できる。無菌の注入可能な調製物は、無毒性の非経口に許容できる希釈剤又は溶媒の中の無菌の注入可能な溶液又は懸濁液であってもよい。採用可能な許容できる媒体及び溶媒には、水、リンゲル液及び等張の塩化ナトリウム溶液がある。さらに、無菌の固定油が溶媒又は懸濁媒体として便利に採用される。この目的のため、合成のモノ-又はジ-グリセリドを含む任意のブランドの固定油を採用してよい。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、特にそのポリオキシエチル化バージョンにおけるオリーブ油又はヒマシ油のような天然の薬学的に許容される油と同じく、注射液の調製に有用である。これらの油溶液又は懸濁液は、乳濁液及び懸濁液を含む薬学的に許容される剤型の製剤化において一般に用いられるカルボキシメチルセルロース又は同様の分散剤のような長鎖アルコール希釈剤又は分散剤を含んでもよい。薬学的に許容される固体、液体又は他の剤型の製造に一般に用いられるTween、Span、及び他の乳化剤又は生体利用性促進剤のような他の一般に用いられる界面活性剤も、製剤の目的のために用いてよい。
【0162】
医薬組成物中の抗体又はその抗原結合断片の投与のためのスケジュール及び用量は、これらの型の製品についての既知の方法に従って、たとえばメーカーの指示書を用いて決定することができる。たとえば、本発明の医薬組成物中に存在する抗体は、100mg(10mL)又は500mg(50mL)の使い捨てバイアル中、10mg/mLの濃度で供給することができる。製品は9.0mg/mLの塩化ナトリウム、7.35mg/mLのクエン酸ナトリウム二水塩、0.7 ing/mLのポリソーベート80、及び滅菌注射用水の中で静脈内(IV)投与のために製剤化される。pHは6.5に調節される。
【0163】
臨床使用のため、抗体又は抗原結合断片は1つ以上の用量で対象に投与することができる。非経口投与経路のため、抗体又は抗原結合断片の単一用量は、たとえば約0.01~約100mg/kg体重とすることができる。1つの実施形態では、抗体又は抗原結合断片の単一用量は、たとえば約0.1~約50mg/kg体重とすることができる。1つの実施形態では、抗体又は抗原結合断片の単一用量は、たとえば約1~約20mg/kg体重とすることができる。繰り返し投与のため、個別の用量を同じ又は異なる投与経路によって投与することができる。また繰り返し投与のため、個別の用量は同じでも異なってもよい。たとえば、第1の又は負荷用量は引き続く用量より多くてよい。また繰り返し投与のため、個別の用量を固定されたスケジュールで投与してもよく、たとえば対象の臨床状態又は臨床応答に基づいて調節可能な又は変動するスケジュールで投与してもよい。また繰り返し投与のため、個別の用量は典型的には毎日1回、1日おきに1回、3、4、5、6又は7日おきに1回、週1回、2週に1回、3週又は4週おきに1回、又は1月おきに1回投与することができる。他のスケジュールも本発明によって意図されている。
【0164】
これらの用量及びスケジュールは例示的なものであり、最適のスケジュール及び治療計画は投与すべき特定の抗体又は抗原結合断片、処置すべき疾患又は障害、処置すべき対象の大きさ、年齢及び病態、投与の経路、対象に行なわれている他の治療、及び特定の抗体の親和性及び耐性等の要因を考慮して決定することができることが認識される。そのような要因及び用量の考慮は、1回以上の臨床試験において決定することができる。
【0165】
本発明はまた、治療有効量の本発明の抗体又は抗原結合断片を対象に投与することを含む、それを必要とする対象における免疫系を増強するための方法を提供する。本発明はまた、治療有効量の本発明の抗体又は抗原結合断片を対象に投与することを含む、それを必要とする対象におけるヒトTregの免疫抑制機能を阻害するための方法を提供する。
【0166】
本発明はまた、本発明のGARP-TGF-β1抗体及び抗原結合断片を用いるがんの処置のための方法を提供する。そのような方法は、それを必要とする対象の腫瘍環境における免疫抑制を低減することを含み得る。
【0167】
GARP-TGF-β1抗体又はその抗原結合断片ががんを処置する方法における使用のためである実施形態については、抗体又はその抗原結合断片は、1つ以上の付加的ながんの処置、たとえば1つ以上の免疫治療剤と組み合わせて投与してよい。
【0168】
GARP-TGF-β1抗体が免疫治療剤と組み合わせて投与される実施形態については、前記免疫治療剤は腫瘍ワクチンであってよい。あるいは、免疫治療剤は免疫刺激性抗体であってよい。理論に縛られることを望むものではないが、本発明の抗体は免疫抑制があればこれを防止し又は軽減することによって免疫治療剤の有効性を改善する可能性がある。ある実施形態では、免疫治療剤との組合せによって相乗効果が呈され得る。
【0169】
副腎皮質癌、肛門がん、膀胱がん、脳腫瘍、グリオーマ、乳癌、カルシノイド腫瘍、頚がん、結腸癌、子宮内膜がん、食道がん、肝外胆管がん、エウィング腫瘍、頭蓋外胚細胞腫瘍、眼がん、胆嚢がん、胃がん、胚細胞腫瘍、妊娠絨毛性腫瘍、頭頚部がん、下咽頭がん、アイレット細胞癌、腎がん、喉頭がん、白血病、唇及び口腔がん、肝がん、肺がん、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、メルケル細胞癌、転移性扁平上皮頭頚部がん、骨髄腫、新生物、鼻咽頭がん、神経芽腫、口腔がん、口腔咽頭がん、骨肉腫、卵巣がん、膵がん、洞及び鼻がん、副甲状腺がん、陰茎がん、褐色細胞腫、下垂体がん、形質細胞腫、前立腺がん、横紋筋肉腫、直腸がん、腎細胞癌、唾液腺がん、皮膚がん、カポシ肉腫、T細胞リンパ腫、軟組織肉腫、胃がん、精巣がん、胸腺腫、甲状腺がん、尿道がん、子宮がん、膣がん、外陰がん、又はウィルムス腫瘍を含むがそれだけに限らない種々のがんは、本明細書に記載した方法に従って処置することができる。
【0170】
当技術で既知の腫瘍ワクチンとして使用するための好適な腫瘍抗原には、たとえば(a)NY-ESO-1、SSX2、SCP1並びにRAGE、BAGE、GAGE及びMAGEファミリーポリペプチド、たとえばGAGE-1、GAGE-2、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6、及びMAGE-12(これらはたとえば黒色腫、肺腫瘍、頭頚部腫瘍、NSCLC、乳腫瘍、胃腸腫瘍、及び膀胱腫瘍に対処するために用いることができる)のようながん-精巣抗原、(b)転移した抗原、たとえばp53(種々の固形腫瘍、たとえば結腸直腸がん、肺がん、頭頚部がんに関連する)、p21/Ras(たとえば黒色腫、膵がん及び結腸直腸がんに関連する)、CD4(たとえば黒色腫に関連する)、MUM1(たとえば黒色腫に関連する)、カスペース-8(たとえば頭頚部がんに関連する)CIA0205(たとえば膀胱がんに関連する)、HLA-A2-R1701、βカテニン(たとえば黒色腫に関連する)、TCR(たとえばT細胞非ホジキンリンパ腫に関連する)、BCR-abl(たとえば慢性骨髄性白血病に関連する)、トリオースホスフェートイソメラーゼ、IA0205、CDC-27及びLDLR-FUT、(c)過発現した抗原、たとえばガレクチン4(たとえば結腸直腸がんに関連する)、ガレクチン9(たとえばホジキン病に関連する)、プロテイナーゼ3(たとえば慢性骨髄性白血病に関連する)、WT1(たとえば種々の白血病に関連する)、カーボニックアンヒドラーゼ(たとえば腎がんに関連する)、アルドラーゼA(たとえば肺がんに関連する)、PRAME(たとえば黒色腫に関連する)、HER-2/neu(たとえば乳がん、結腸がん、肺がん及び卵巣がんに関連する)、α-フェトプロテイン(たとえば肝癌に関連する)、SA(たとえば結腸直腸がんに関連する)、ガストリン(たとえば膵がん及び胃がんに関連する)、テロメラーゼ触媒タンパク質、MUC-1(たとえば乳がん及び卵巣がんに関連する)、G-250(たとえば腎細胞癌に関連する)、及び癌胎児性抗原(たとえば乳がん、肺がん、及び直腸結腸がんのような胃腸管のがんに関連する)、(d)共有された抗原、たとえばMART-1/Melan Aのような黒色腫-メラミン細胞分化抗原、gp100、MC1R、メラミン細胞刺激ホルモン受容体、チロシナーゼ、チロシナーゼ関連プロテイン-1/TRP1及びチロシナーゼ関連プロテイン-2/TRP2(たとえば黒色腫に関連する)、(e)たとえば前立腺がんに関連するPAP、PSA、PSMA、PSH-P1、PSM-P1、PSM-P2のような前立腺関連抗原、(f)免疫グロブリンイディオタイプ(たとえば黒色腫及びB細胞リンパ腫に関連する)、及び(g)(i)シアリルTn及びシアリルLe<x>のような糖タンパク質(たとえば乳がん及び結腸直腸がんに関連する)、並びに種々のムチン(糖タンパク質はキャリアタンパク質にカップリングしていてもよい(たとえばMUC-1はLHにカップリングしていてもよい)、(ii)リポポリペプチド(たとえば脂質部分に連結されたMUC-1)、(iii)多糖(たとえばGlobo H 合成ヘキササッカライド)(これはキャリアタンパク質に(たとえばKLHに)カップリングしていてもよい)、(iv)GM2、GM12、GD2、GD3のようなガングリオシド(たとえば脳、肺のがん、黒色腫に関連する)(これもキャリアタンパク質(たとえばKLH)にカップリングしていてもよい)を含むポリペプチド及び糖を含む抗原のような、その他の腫瘍抗原が含まれる。その他の腫瘍抗原には、pi 5、Hom/Mel-40、H-Ras、E2A-PRL、H4-RET、IGH-IGK、MYL-RAR、エプスタインバーウイルス抗原、EBNA、E6及びE7を含むヒトパピローマウイルス(HPV)抗原、B型及びC型肝炎ウイルス抗原、ヒトT細胞リンパ向性ウイルス抗原、TSP-180、pI85erbB2、pI80erbB-3、c-met、mn-23HI、TAG-72-4、CA19-9、CA72-4、CAM17.1、NuMa、K-ras、p16、TAGE、PSCA、CT7、43-9F、5T4、791 Tgp72、β-HCG、BCA225、BTAA、CA125、CA15-3(CA27.29/BCAA)、CA195、CA242、CA-50、CAM43、CD68/KP1、CO-029、FGF-5、Ga733(EpCAM)、HTgp-175、M344、MA-50、MG7-Ag、MOV18、NB/70K、NY-CO-1、RCAS1、SDCCAG16、TA-90(Mac-2結合タンパク質/シクロフィリンンC関連タンパク質)、TAAL6、TAG72、TLP、TPS、その他が含まれる。好適な免疫刺激抗体には、それだけに限らないが、抗CTLA-4、抗PD1、抗PDL1及び抗KIR抗体が含まれる。
【0171】
ある実施形態では、本明細書に記載したがんを処置する方法は、化学療法処置のような別の抗がん剤又はがん処置の投与の前に、投与と同時に、及び/又は投与の後に、本発明の抗体又は抗原結合断片を対象に投与することを含む。
【0172】
本発明はまた、本発明の抗体又は抗原結合断片を投与してワクチン化戦略の効率を改善することによって感染症を防止する方法を含む。たとえば、本発明の方法は、本明細書に記載した抗体又は抗原結合断片をHIV、マラリア又はエボラによる疾患に特定されたワクチンとともに組み合わせて投与することによるこれらの感染症の防止を含んでよい。
【0173】
キット
さらなる態様では、本発明は少なくとも1つの本発明のGARP-TGF-β1抗体又は抗原結合断片を含むキットを提供する。
【0174】
用語「キット」は、GARP-TGF-β1複合体に特異的に結合するための少なくとも1つの試薬、たとえば本発明の抗体又は抗原結合断片を含む任意の製品(たとえばパッケージ又は容器)を意味することを意図している。キットは、本発明の方法を実施するためのユニットとして推進し、流通させ、又は販売してよい。さらに、キット試薬の何れか又は全ては、密封された容器のような、それらを外部環境から保護する容器に入れて提供してよい。キットは、キット及びその使用のための方法を説明する添付文書を含んでもよい。
【実施例
【0175】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照することによって、さらに理解される。
【0176】
実施例1 生殖細胞系列化抗体LHG10.6
抗体「LHG-10」の産生及び特性解析は、その内容が全体として本明細書に組み込まれる国際特許出願WO2015/015003及びWO2016/125017に記載されている。抗体LHG-10はヒトGARP-TGF-β1複合体を過剰発現しているHEK293E細胞でラマを免疫することによって産生させ、GARP-TGF-β1Fabについて選択しスクリーニングすることによって同定した。モノクローナル抗体LHG-10の親和性を改善するために、軽鎖シャフリングアプローチ(たとえば国際特許出願WO2014/033252に記載されている)を用い、改善された結合特性を有していることでバリアント「LHG-10.6」(本明細書では17H5とも称する)を同定した。LHG-10及びVkをシャフルしたバリアントLHG-10.6のVH及びVL配列を表3に示す。
【0177】
【表3】
【0178】
17H5抗体は、VHドメインにわたって最も近いヒト生殖細胞系列配列(X92343|IGHV-4601)と88.5%の同一性、及びVLドメインにわたって最も近いヒトヒト生殖細胞系列配列(X59315|IGKV1-3901)と86.2%の同一性を有していることが見出された。抗体を3ステップ法:
1-重複するオリゴヌクレオチドを用いてPCRにより可変軽鎖(VL)及び可変重鎖(VH)をコードする遺伝子を合成的に生成させることによる遺伝子ライブラリーのアセンブリー、
2-ヒト定常重鎖(CH1)及び定常軽カッパ鎖(C)をコードする遺伝子を含むベクター(pCB13)にこの遺伝子ライブラリーをクローニングすること(ライブラリーの構築)、
3-ファージディスプレイ及び親和性選択を用いる機能性Fabの選択
による生殖細胞系列化に供した。
【0179】
1.ライブラリーの構築
17H5のVHを最も近いヒト生殖細胞系列配列と比較し、ヒト生殖細胞系列から逸脱したフレームワーク残基を同定した。元の残基をライブラリーの中に維持しつつ、これらのフレームワーク残基をヒトV領域内に存在する残基に変異させた。ヒトの同等物に変異させた12VH残基を下の表に示す。これらの生殖細胞系列化変異に加えて、CDR2の中の異性化部位(D54;D55)及びCDR3の中の酸化部位(M100f)を変異させた。これらの部位も下の表に示す。
【0180】
【表4】
【0181】
17H5のVkについて、最も近いヒト生殖細胞系列配列とフレームワーク配列との比較により、標的とすべき11残基を同定した。これらの部位を下の表に示す。
【0182】
【表5】
【0183】
17H5の生殖細胞系列化ライブラリーの理論的サイズを表6に示す。
【0184】
【表6】
【0185】
2.遺伝子ライブラリーの構築
遺伝子アセンブリーによって生殖細胞系列化ライブラリーを創成した。この設計に基づくVH及びVLの合成遺伝子(2セット)をPCRに基づくアセンブリーによって生成させた(Stemmerら、Gene(1995)、164:49~530頁)。ある位置における特定の変異を有する重複オリゴヌクレオチドを、PCRによって組み立てた。ヒト及びラマのアミノ酸をコードさせるために、ヌクレオチドを変性させた。これは、ラマの残基が安定性、折り畳み、又は高親和性結合に重要である場合の結合の完全な喪失を防止するために行なった。
【0186】
最初に、17H5 Vk及びVHライブラリーの合成遺伝子を、それぞれヒトCk及びCH1ドメインを有するファージミドベクターであるpCB13-CK1にクローニングした。これらのVkCk及びVHCH1サブライブラリーを構築した後、重鎖インサートを軽鎖ライブラリーにライゲーションすることによって最終ライブラリーを作成した。インサート百分率を決定するためにコロニーPCRを行ない、ライブラリー中に全ての望ましい変異が存在することを確認するためにクローンをシーケンシングに送った。種々のライブラリーの特性を下の表に記載する。
【0187】
【表7】
【0188】
生殖細胞系列化ライブラリーは良好な品質を有し、選択に用い得ることが見出された。
【0189】
3.高いヒト同一性を有するFabの選択
その内容が全体として本明細書に組み込まれるWO2015/015003に以前記載されたように、ファージディスプレイを用いてヒトGARP-TGF-β1複合体に高い親和性を有するFabを選択した。簡単には、マイクロタイタープレートをGARP-TGF-β1複合体で4℃、一夜コートし、翌日、Fabを発現しているファージを、種々の濃度の複合体でコートしたウェル中で2時間インキュベートした。プレートを洗浄し、特定のファージをトリプシンで溶出させて、TG1細胞の感染に用いた。選択条件の詳細を表8にまとめる。
【0190】
【表8】
【0191】
第1ラウンドの選択の後、10μg/mlの無関係なタンパク質のコーティングの上にのみ、富化が観察された。第2ラウンドでは、富化は10倍大きくなる一方、インプットファージの量は10分の1に少なくなった。第3ラウンドから始めて、洗浄の時間を長くし、溶液中に過剰の標的を加えることによって、厳密性が増大した。解離したファージの再結合を防止するために、溶液中の大過剰の可溶性標的を加えた。第6ラウンドの後でさえも、1週間のオフレート洗浄及び100倍過剰の可溶性標的によって、富化はまだ観察された。
【0192】
4.高いヒト同一性を有するFabのスクリーニング
ラウンド2、3、4、5及び6(各ラウンドについて48クローン)からマスタープレートを選び出した。ペリプラズム抽出物を調製し、SPRによって(Biacoreを用いて)オフレートを決定した。全てのクローンについてDNAシーケンシングを行ない、そのアミノ酸配列を推定した。ヒト生殖細胞系列IgV領域と92%を超える同一性を有するクローンを表9にまとめる。これらのクローンのオフレートをペリプラズム抽出物としてSPRで(Biacoreを用いて)測定し、Fab 17H5のオフレートと比較した。
【0193】
【表9】
【0194】
93%を超える全体のヒト同一性及び親の17H5 Fabと同等のオフレートを示す5つのクローンを、完全なヒトIgG1抗体として再クローニングした。これらの抗体のCDR、VH及びVLの配列を表10、11及び12に示す。
【0195】
【表10】
【0196】
【表11】
【0197】
【表12】
【0198】
5.高いヒトフレームワーク残基同一性を有するmAbのインビトロ特性解析
ヒトIgG1に再フォーマットした5つの生殖細胞系列化クローンを、HEK 293E細胞への過渡的トランスフェクションによって産生させた。全ての抗体をSPRによるヒトGARP-TGF-β1複合体への結合について試験し、生殖細胞系列化していない親クローンと同様の結合親和性を示した(KDは17H5より2~5倍低い)。CDR3における残基M100fをスレオニンに変更することによって、Kは約5倍減少した。生殖細胞系列化17H5 Abの結合特性及び特徴を表13にまとめる。
【0199】
【表13】
【0200】
6.生殖細胞系列化mAb 39B6の安定性
クローン39B6をその結合特性に基づいてリード生殖細胞系列化クローンとして選択した。この抗体を、エフェクター機能を欠く2つのフォーマット、hIgG1N297Q及びhIgG4S228Pとして産生させ、安定性試験を実施した。安定性試験の前に、エフェクター欠乏39B6抗体のGARP-TGF-β1への親和性を、750RUのGARP-TGF-β1複合体でコート(表14)又は1000RUの抗体でコート(表15)したCM5チップを用いるBiacore T200によって試験した。
【0201】
【表14】
【0202】
【表15】
【0203】
39B6抗体の耐熱性を、以下の設定を用いて試験した。
・mAb試料調製:1mlのmAb(39B6-IgG1及び39B6-IgG4)の新たに調製したストック溶液(5mg/ml)をガラススクリューキャップ付きの2mlのガラスバイアルに入れて5℃及び37℃で保存した。バイアルには粒子がないことを直ちに確認した。
・PBS陰性対照:PBST陰性対照として、2mlのガラスバイアル中で1mlの濾過したダルベッコPBSのアリコートを調製した。バイアルには粒子がないことを直ちに確認した。
・PBSTw陰性対照:PBSTw陰性対照として、2mlのガラスバイアル中で0.02%のTween80(Sigma)を含む1mlの濾過したダルベッコPBSのアリコートを調製した。バイアルには粒子がないことを直ちに確認した。
・高凝集対照:大量の目視可能な凝集を含む自家製の抗体の1mlのアリコートを2mlのガラスバイアル中で調製した。
・参照試料:各抗体について、500μlの滅菌したPCRチューブ中で60μlのmAbのアリコートを調製し、ラベルを付して-20℃で保存した。
【0204】
種々の温度及び種々の条件(PBS対PBSTw)で保存した抗体の安定性を56日の時間経過でモニターした。SPR(Biacore(商標))によって測定した標的結合活性に対する保存の影響を図2に示す。提示した結果から分かるように、39B6抗体は(両方のエフェクター欠乏フォーマットで)37℃で保存した場合にPBS及びPBS/Tweenの両方で標的結合活性が低下する傾向を呈した。対照的に、5℃で保存した試料は時間経過にわたって標的結合活性の顕著な損失を示さなかった。
【0205】
実施例2 改善された安定性を有するGARP-TGF-β1抗体の開発
【0206】
2.1 39B6バリアントの産生
抗体39B6について上記した標的結合活性の低下は、VH CDR3の95位~96位で起こる脱アミド化に関連していることが見出された。したがって、39B6の安定性を改善するためにさらなる研究を行なった。
【0207】
最初にこのクローンをCDR2領域におけるVH鎖の改変に供して、G55Aの置換を導入した(39B6-A)。39B6-AのVH及びVL領域をヒトIgG4S228P主鎖、即ちエフェクター機能を欠くヒト抗体フォーマットに再クローニングした。
【0208】
抗体39B6-A IgG4S228Pの安定性を改善する試みにおいて、VHドメインのCDR3の95位又は96位に変異を有する5つのバリアントを生成させた。これらのバリアントを下に示す。全てのバリアントはエフェクター機能を欠くフォーマットIgG4S228Pで産生させた。
【0209】
【表16】
【0210】
抗体を濾過して5mg/mlに濃縮し、0.02%のTween80(Sibma)を含むダルベッコPBS中に保存した。Tween80は抗体製剤を安定化させるために必要であった。
【0211】
全ての抗体(39B6-Aを含む)のGARP-TGF-β1に対する親和性を、150RUのGARP-TGF-β1複合体で(表17)又は200RUの抗体で(表18)コートしたCM5チップを用いるBiacore T200によって試験した。
【0212】
【表17】
【0213】
【表18】
【0214】
全てのバリアントについて、ヒトTregによる活性TGF-βの放出をブロックする能力を、mAbの存在下にCD3/CD28で刺激したヒトTregのSMAD2リン酸化のレベルを決定することによって解析した。図3に示すように、抗体39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRは、SMAD2リン酸化アッセイにおいて元の39B6-Aと比較して同様の能力を有していた。バリアント39B6-AEE及び39B6-AVEは、能力の明確な損失を示した。
【0215】
293T-hGARP細胞が、ホタルルシフェラーゼがSMAD応答プロモーター(GAGA-luc)の制御下にあるレポータープラスミドによって過渡的にトランスフェクトされた、GAGA-lucアッセイを用いても同様の結果が得られた。抗体39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRは、ルシフェラーゼアッセイにおいて元の39B6-Aと比較して同様の能力を有していた。バリアント39B6-AEE及び39B6-AVEは、能力の明確な損失を示した(図4参照)。
【0216】
2.2 安定性の検討
39B6-AEEを例外として、以下に記載する種々のアプローチを用いてバリアントの安定性を試験した。
【0217】
種々の安定性試験のそれぞれについて、以下の手法の1つ以上を用いて抗体を試験した。
・目視検査
・サイズ排除HPLC
・SDS-PAGE(還元及び非還元)
・SPRによる標的結合親和性
・タンパク質濃度
【0218】
これらの手法のプロトコルを以下に記載する。
【0219】
目視検査のプロトコル
試料名を隠し、3名の分析者によるバイアルの目視検査で目に見える粒子の存在についてスコア付けした。検査の前、試料が室温に達するまで30分放置した。評価には下記のスコアリングシステムを用いた。
【0220】
A:試料は澄明で目視可能な粒子がない
B:ごく微量の粒子
C:中程度の粒子の存在
D:多くの粒子が観察される
f:繊維
【0221】
サイズ排除クロマトグラフィー(SE-HPLC)のプロトコル
システム、カラム及び試料調製
研究を通じて用いたカラムは、通常20%EtOH中に保存されるXbridge Protein BEH SEC 200A(3.5μm、7.830mm、Waters)であった。Xbridge Protein BEH 200Aプレガードカラムを分析カラムに連結した(3.5μm、7.83mm、Waters)。それぞれの使用の前に、カラムを少なくとも5CVのダルベッコPBSで平衡化し、システムから外す前に5CVのLCグレード水で清浄化した。全ての溶媒は使用前に濾過し脱気した。
【0222】
用いたクロマトグラフィーシステムは、クォータナリーポンプ、自動注入器、オンライン脱気器及びDAD検出器を備えたAgilent 1260 Infinityであった。カラムは定温コンパートメントに保持されておらず、試料は室温で分析した。検出器は波長280及び214nmに同時に設定した(参照波長360nm、カットオフ100nm)。凝集のモニタリングはチャネル214nmで追跡した。Chemstationソフトウェア(Agilent)を用いてデータを取得した。
【0223】
試料分析は無菌条件下で5mg/mlの濃度から直接全ての元の試料25μlを移すことによって行なった。これらを2000rcfで1分間遠心分離し、20μlを注意深くスクリューキャップ付きのコハク色のガラスバイアルに移した。それぞれの条件についての注入量は5μl(25μg)、流量0.7mlPBS/分、25分とした。それぞれの注入はLCグレードの水で針を洗浄して行ない、各試料の最後にシールの洗浄を行なった。
【0224】
各時点のシーケンスは2回のPBSの注入(ブランク、注入量5μl)で開始し、続いて2μlのBEH200標準タンパク質混合物注入(Waters)及び既知の凝集mAb試料を注入した。12個の試料を分析する毎にブランクの注入を行なった。それぞれの分析シーケンスは開始時と同様であるが逆の順序で終了した(既知の凝集対照mAb、BEH標準タンパク質混合物及びブランク2回)。
【0225】
凝集%及びモノマー面積%の決定に用いた方法
以下のプロトコルを用いた。
・全てのクロマトグラムを方法ARGX-115で統合する(基礎的技術パラメーター:タンジェントスキム標準モード、勾配感度2.0、ハイトリジェクト1.7、エリアリジェクト1.0、ピーク幅:0.02)。
・全てのピークが以前得られた分析と一致する方法で統合されていることを検証する。
・統合結果をPDF及びエクセルファイルにエクスポートする。
・モノマーピークの前に溶出する全てのピークの面積の合計を注入の全面積で割り、100倍することによって全凝集%を計算する。
・モノマー面積を全面積で割って100倍することによってモノマー面積%をも計算する。このモノマー面積%は試料中に不溶性の凝集物があるか否かを反映する。
・分析カラムの性能、効率及び分解能をモニターするために詳細な記録を保持する(即ちピークの対称性、モノマー面積、全面積、保持時間の再現性、その他)。
【0226】
SDS-PAGEのプロトコル
試料調製
SDS-PAGE(還元及び非還元)、SPRによる結合親和性及びタンパク質濃度の評価のための1mg/mlの中間濃度を生成するため、25μlの全ての元の試料を5mg/mlで100μlのPBS/0.02%Tween80(本研究を通してPBSTwと略す)中に無菌条件下で移すことによって試料分析を行なった。試料のSDS-PAGE分析のために4~20%のトリスグリシン、ミニプロテアン、ステインフリーのプレキャストゲルを用いた(Biorad)。還元剤DTT有り及び無しで4倍濃縮負荷染料のバッチを調製し、-20℃にアリコートした。通常、1mg/mlの中間希釈から5μlを取り、5μlの4倍濃縮負荷染料(±DTT)を10μlのmQとともに加えた。それぞれの条件についての最終量は5μgであった。試料を95℃で10分煮沸し、プレキャストゲルに負荷した(20μl)。電気泳動は200Vの定電圧、トリスグリシン緩衝系中で35分間行なった。その後、青色染色(Gentaur)を1時間行なった。全てのゲルはmQ水で少なくとも1時間脱染した。
【0227】
全長Ab%の決定
タンパク質ゲルを以下の設定、即ちフォーカスオフセット0.5mm及び「高」品質とし、1チャネル検出(700nm)でスキャンすることによって、種々のバンドの強度をOdyssey v3.0 Li-Corシステムで決定した。それぞれの分析についての輝度及びコントラストはリニアーマニュアルパラメーター5として50%に設定した。
【0228】
方法は以下の通りであった。
・ゲルをスキャンし、ゲル上の全てのバンドがしっかりとした長方形で囲まれていることを検証する。
・エクセルフォーマットで全てのバンドの生の強度を得るために設定で「エクスポート」を選択する。
・バンドの生の強度をレーンの全ての生の強度で割り、100倍することによって、レーン中に存在する各バンドの生の強度の%を計算する。
・非還元条件については、全長Abの%を、約100kDのバンドに対応するバンドの生の強度の%として定義する。
・還元条件については、全長Abの%を、約25~35kD及び約55kDのバンドに対応するバンドの生の強度の%の合計として定義する。
【0229】
Biacore3000における標的結合活性測定のプロトコル
試料調製
上述の1mg/mlの全ての試料の中間濃度から、SPR分析のために追加の250倍希釈を行ない、最終濃度4μg/mlとした。この250倍希釈は、全ての条件について2ステップ;a)5μl(1mg/ml)+120μl HBS-EP(SPR緩衝液)及びb)追加の10倍希釈(15μl+135μl HBS-EP)で行なった。各抗体及び各時点で、-80℃で凍結した試料から始めて個別の標準曲線を準備した。これを安定性の試料とともに分析し、標準をおおまかに近似した後で、各曲線の勾配を決定した。これらの勾配を用いて、参照試料を100%に設定することにより、安定性試料の活性%を計算した。
【0230】
Biacoreにおける活性%の決定
Biacoreにおける標的結合活性を決定するため、CM5チップを約4000RUのヒトGARP-TGF-β複合体でコートした。流量を「キンジェクト」注入モードで30μl/分に設定し、5分間隔で2回の再生注入を行なった(1mM NaCl、2.5mMグリシン、pH1.5)。
【0231】
方法は以下のようにして行なった。
・BIAEVALプログラムの曲線を開き、値「2-1」を選択する(1:ブランク、2:hGARP-TGF-β1)。
・プロット重畳のためその時間で1つの曲線を選択する。
・曲線の変性部分を削除する。
・注入直前のベースラインを選択し、Y軸を「選択の中央値におけるゼロ」に変換する。
・「ジェネラルフィット」を選択し、注入の120秒後から開始して155秒で終了する。
・エクセルで標準をプロットし、各抗体について曲線の勾配を決定する。
・参照(-20℃で保存した試料)を100%に設定することによって、これらの値を活性%に換算する。
【0232】
タンパク質濃度のプロトコル
各条件のタンパク質含量の決定のため、各試料(2μl)の280nmにおける吸光度を測定することによって、NanoDropシステムを用いた。システムはPBSをブランクとし、各試料(1mg/mlの中間希釈)の280nmにおける吸光度を3回ずつ測定することによって、タンパク質の決定を行なった。280nmで得られた全ての値をファクター1.51で割った。PBSブランク測定はそれぞれの異なった条件の後で行なった。全てのデータは各条件についての3回の測定の平均値として報告した。
【0233】
2.2.1 温度安定性の検討
種々の温度保存条件下における抗体の安定性をモニターするため、以下の設定に従った。
・mAb試料調製:1mlのmAb(39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANR)の新たに調製したストック溶液(5mg/ml)をガラススクリューキャップ付きの2mlのガラスバイアルに入れて5℃及び37℃で保存した。バイアルには粒子がないことを直ちに確認した。
・PBSTw陰性対照:PBSTw陰性対照として、2mlのガラスバイアル中で0.02%のTween80(Sigma)を含む1mlの濾過したダルベッコPBSのアリコートを調製した。バイアルには粒子がないことを直ちに確認した。
・高凝集対照:大量の目視可能な凝集を含む自家製の抗体の1mlのアリコートを2mlのガラスバイアル中で調製した。
・参照試料:各抗体について、500μlの滅菌したPCRチューブ中で60μlのmAbのアリコートを調製し、ラベルを付して-20℃で保存した。
【0234】
保存条件から種々の時点でmAbの試料を取り出し、
・目視検査
・SE-HPLC
・SDS-PAGE(還元及び非還元)
・SPRによる標的結合親和性
・タンパク質濃度
について試験した。
【0235】
目視検査
目視検査の結果を下の表19に示す。全てのmAbはPBSTw中であり、これには安定化効果があると考えられる。
【0236】
【表19】
【0237】
5℃の条件では、56日後のmAbの平均スコアは下記の通りであった。
39B6-AYE:「試料は澄明で目視可能な粒子がない」
39B6-AVE及び39B6-ANK:「ごく微量の粒子」
39B6-ANR:「中程度の粒子の存在」
PBSTw緩衝液は5℃で「試料は澄明で目視可能な粒子がない」とスコア付けされた。したがってこれは観察された粒子がタンパク質に関連していることを示している。
【0238】
37℃の保存条件では、56日後のmAbの平均スコアは下記の通りであった。
39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANR:「ごく微量の粒子」
39B6-AVE:「試料は澄明で目視可能な粒子がない」
PBSTw緩衝液は37℃で「試料は澄明で目視可能な粒子がない」とスコア付けされた。したがってこれは観察された粒子がタンパク質に関連していることを示している。
【0239】
SE-HPLCによる分析
タンパク質の凝集及び断片化をSE-HPLCによって測定した。
mAb 39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRについてSE-HPLCによって測定したタンパク質凝集の結果を下の表20にまとめ、図5に示す。
【0240】
【表20】
【0241】
37℃では、mAb 39B6-AYE及び39B6-ANKについて凝集レベル%に変化は観察されなかった。39B6-ANRについては、0日の1.1%から56日の1.5%への僅かな増加が観察された。39B6-AVEについては、0日の1.0%から56日の4.4%への凝集%の増加が観察された。
【0242】
mAb 39B6-AVE、39B6-AYE、39B6-ANK及び39B6-ANRについてSE-HPLCによって測定した断片ピークの存在を表21及び図6に示す。断片化ピークは37℃で56日後にのみ観察されたので、これらの結果のみを提示する。
【0243】
【表21】
【0244】
mAb 39B6-AVE、39B6-ANK及び39B6-ANRについては、断片ピークの百分率は56日後に0.2%~0.3%である。一方mAb 39B6-AYEについては、断片ピークの百分率は5.7%である。
【0245】
全てのmAbについてのモノマーピークの%の結果を表22に示す。
【0246】
【表22】
【0247】
SDS-PAGE
全ての抗体の分析についてのSDS-PAGEの結果を表23及び図8に示す。
【0248】
【表23】
【0249】
還元及び非還元の両方の条件で、温度5℃の条件でmAbのいずれについても分解の傾向は観察されなかった。
【0250】
37℃では、mAb 39B6-AYEを除く全てのmAbは非還元条件で同様の分解速度を示した。39B6-AYEは他のmAbと比較して、28日までは同様の分解速度を示すが、28日~56日の間により速い分解速度を示す。還元条件では、全てのmAbは同様の分解速度を示す。
【0251】
Biacoreによる標的結合親和性
Biacoreで各時点での勾配を測定することにより、試料をその標的結合活性について試験した。参照試料を活性100%と設定した。全てのmAbについての結果を表24及び図9にまとめる。
【0252】
【表24】
【0253】
37℃で保存したmAb試料について、抗体39B6-AYEのみが56日の期間全体にわたって標的結合活性を保持していた。他の抗体全ては37℃で保存すると56日の期間で標的結合活性の顕著な低下を示した。
【0254】
タンパク質濃度
全ての試料のタンパク質濃度を各条件についてNanoDropで測定した。表25及び図10に、全てのmAbについて測定したタンパク質濃度を示す。
【0255】
【表25】
【0256】
温度安定性検討の概要及び結論
温度安定性の検討により、試験した4つのmAbの間にいくつかの顕著な相違があることが明らかになった。mAb 39B6-AVEについては37℃、56日でSE-HPLCにより4.4%の凝集が観察され、mAb 39B6-AYEについては5.7%の断片化が観察された。しかし、mAb 39B6-AYEについてのこの断片化はBiacoreで37℃での標的結合活性に影響しなかった。56日後も、これは参照抗体と同様に良好であった。一方、mAb 39B6-AVE、39B6-ANK及び39B6-ANRについては、37℃、56日後に、より低い標的結合活性が明らかに見られた。
【0257】
2.2.2 凍結解凍安定性の検討
凍結解凍条件下における抗体の安定性をモニターするため、下記のように設定した。mAbの1mlのアリコート(5mg/mlで)を-20℃で少なくとも6時間凍結し、室温で1時間解凍した。このサイクルを9回繰り返した(全体で10回の凍結解凍サイクル)。試料を目視検査、SE-HPLC、SDS-PAGE、Biacoreによる標的結合活性及びタンパク質濃度によって分析した。-20℃で保存した参照試料を全ての分析において並行して用いた。mAb 39B6-ANR及び39B6-ANKは可能な脱アミド化部位を有しているので、これらは目視検査による分析のみに供した。
【0258】
目視検査
凍結解凍安定性の検討における目視検査の結果を表26に示す。全てのmAbはPBSTw中であり、これには安定化効果があると考えられる。
【0259】
【表26】
【0260】
PBSTw緩衝液は2人によって「ごく微量の粒子」とスコア付けされた。したがって39B6-AVE、39B6-AYE及び39B6-ANK試料で見られた粒子はタンパク質に関連していないと考えられる。全てのmAbは10回の凍結解凍サイクルの後で変化しないままであることが結論できる。
【0261】
SE-HPLCによる分析
タンパク質の凝集及び断片化をSE-HPLCによって測定した。
【0262】
mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEの凍結解凍安定性検討についてのタンパク質凝集の結果を表27にまとめる。
【0263】
【表27】
【0264】
参照試料と比較して、10回の凍結解凍サイクルの後でいずれのmAbでも凝集レベル百分率の変化は観察されなかった。
【0265】
全ての異なった注入液についてもモノマーピークの面積も検討した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについてのモノマー面積%の結果を表28にまとめる。
【0266】
【表28】
【0267】
参照試料と比較して、10回の凍結解凍サイクルの後で両方のmAbについてモノマー面積%の変化は観察されなかった。
【0268】
SDS-PAGEによる分析
非還元条件下及び還元条件下で、SDS-PAGEによって凍結解凍試料をその一体性について分析した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについての結果を表29及び図11に示す。
【0269】
【表29】
【0270】
10回の凍結解凍サイクルの後、両方のmAbについて変化は観察されなかった。
【0271】
Biocoreによる標的結合の解析
10回の凍結解凍サイクルの後の勾配を測定することによって、Biacoreにおける試料の標的結合活性を試験した。参照試料を活性100%と設定した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEの両方についての結果を図12に示す。
【0272】
その結果、10回の凍結解凍サイクルの後、標的結合活性に変化が観察されないことが実証された。
【0273】
タンパク質濃度の分析
凍結解凍試料のタンパク質濃度をNanoDropで測定した。表30に、10回の凍結解凍サイクルの後のmAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについて測定したタンパク質濃度を示す。また図13は両方のmAbについてのこれらの結果を示す。
【0274】
【表30】
【0275】
結論
凍結解凍安定性の検討により、試験したmAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについて顕著な相違は何ら認められなかった。
【0276】
2,2,3 熱安定性の検討
融解曲線を解析するため、以下のスキームに従ってmAbを加熱した。PCRデバイス中での熱サイクルが完了した後で、Biacoreで試料の親和性を試験した。
【0277】
用いたプロトコルは下記の通りであった。
1)検討の開始時に、各mAbについて1mlのアリコートをガラスバイアル中、-20℃で保存した。
2)保存1週間後に、これらをいったん解凍した。
3)通常のようにmAbを1mg/mlに希釈し、次いでさらに100μg/mlに希釈した(10倍希釈:200μl+1800μl PBSTw)。
4)希釈したmAbをPCRプレート中に分注した(50μl/ウェル)。
5)分析すべき十分な試料及び参照としての5℃の試料を並列に保つ。
6)PCRデバイス中で、以下に示す温度に1時間曝す。
7)PCRデバイス中、25℃に2時間。
8)PCRデバイス中、4℃。
9)分析のため4μg/mlで試料及び参照を調製する(25倍希釈:168μlBiacore緩衝液+7μl試料)。
【0278】
【表31】
【0279】
Biacore分析のためのプロトコル:
・約4000RUのヒトGARP-TGF-β複合体でコートした同じCM5チップを用いた。
・BIAEvaluationプログラムの曲線を開き、値「2-1」を選択する(1:ブランク、2:hGARP-TGF-β)。
・プロット重畳のためその時間で1つの曲線を選択する。
・曲線の変性部分を削除する。
・注入直前のベースラインを選択し、Y軸を「選択の中央値におけるゼロ」に変換する。
・「ジェネラルフィット」を選択し、注入の120秒後から開始して155秒で終了する。
・IC50の計算のため、5℃の参照の勾配を100%で水平にする。他の温度(X軸)の百分率(Y軸)を計算することができる、
4つのmAbの耐熱性を測定し、結果を図14にまとめる。融解温度は、抗体の50%がまだ機能を有している温度として計算した。5℃に保った参照試料を活性100%と設定した。融解温度を表31に示す。
【0280】
【表32】
【0281】
mAb 39B6-ANK及び39B6-ANRは、最高の融解温度、それぞれ69.13℃及び68.55℃を示した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEも良好な融解温度、それぞれ66.99℃及び66.53℃を示した。全てのmAbの全ての融解温度は高いと考えることができる。
【0282】
熱安定性検討の結論
4つのmAbは良好な耐熱性を実証した。融解温度は以前の安定性検討における元の39B6-A mAbの66.8℃と同程度であった。
【0283】
2.2.4 回転安定性の検討
回転安定性の検討のため、下記のように設定した。検討の開始時に、各mAbについて1mlのアリコートをガラスバイアル中、-20℃で保存した。保存1週間後に、アリコートをいったん解凍し、室温、15rpmでひっくり返し回転させた。
【0284】
指示した時点で、試料を粒子の存在についてスコア付けした。
・時間:0、3、6、24、30、48、54、72及び96
試料は、96時間後にSE-HPLC、SDS-PAGE、Biacoreによる標的結合活性及びタンパク質濃度によっても分析した。-20℃で保存した参照試料を全ての分析において並行して用いた。mAb 39B6-ANR及び39B6-ANKは可能な脱アミド化部位をまだ有しているので、これらは目視検査によってのみ評価した。
【0285】
目視検査
回転安定性の検討における目視検査の結果を表32に示す。全てのmAbはPBSTw中であり、これには安定化効果があると考えられる。
【0286】
【表33】
【0287】
全てのmAbは「ごく微量の粒子」という平均スコアを有することが見出された。したがってこれらは96時間の回転後も比較的影響を受けていないままである。PBSTw緩衝液は試験した実験条件では何ら粒子を含んでいなかった。これは、観察された「ごく微量の粒子」が抗体試料中のタンパク質に関連していることを示している。
【0288】
SE-HPLCによる分析
タンパク質の凝集及び断片化をSE-HPLCによって測定した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEの回転安定性の検討についてのタンパク質凝集の結果を表33に示す。
【0289】
【表34】
【0290】
回転ストレスの後、参照試料と比較してmAbについては凝集レベルの%に変化は観察されなかった。
【0291】
全ての種々の注入についてのモノマーピークの面積も検討した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについてのモノマー面積%の結果を表34に示す。
【0292】
【表35】
【0293】
回転96時間後のいずれのmAbについても、参照試料と比較してモノマー面積%の変化は観察されなかった。
【0294】
両方の抗体について、回転96時間後に参照試料と比較してSE-HPLCプロファイルに変化は観察されなかった。
【0295】
SDS-PAGEによる分析
非還元条件下及び還元条件下で、SDS-PAGEによって回転試料をその一体性について分析した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについての結果を表35にまとめる。
【0296】
【表36】
【0297】
回転96時間後の両方のmAbのSDS-PAGEゲルは図15に見ることができる。回転96時間後にいずれの抗体についても変化は観察されなかった。
【0298】
Biacoreによる標的結合の解析
Biacoreで回転96時間後の勾配を測定することにより、試料をその標的結合活性について試験した。参照試料を活性100%と設定した。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEの両方についての結果を図16に示す。
【0299】
タンパク質濃度の分析
回転試料のタンパク質濃度をNanoDropで測定した。表36に、回転96時間後のmAb 39B6-AVE及び39B6-AYEについて測定したタンパク質濃度を示す。また図17は両方の抗体についてのこれらの結果を示す。
【0300】
【表37】
【0301】
回転96時間後に、両方のmAbについてタンパク質の損失は観察されなかった。
【0302】
回転安定性検討の結論
回転安定性の検討により、試験したmAb 39B6-AVE及び39B6-AYEの間で相違は何ら認められなかった。
【0303】
2.2.5 ペプチドマッピングによる一次配列の解析
温度、凍結解凍及び回転安定性の検討からの試料を、タンパク質(ペプチド)レベルでの改変(脱アミド化、異性化及び酸化)を同定するために、トリプシンペプチドマッピングRP-HPLC-UV-MS法を用いて解析した。
【0304】
mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEにおいて、N95位の変異により、重鎖のCDR3の95~96位(アミノ酸NE)における脱アミド化を行なった。この脱アミド化部位は、mAb 39B6-ANK及び39B6-ANRにおいてまだ存在し、温度安定性の検討並びに凍結解凍及び回転安定性の検討において5℃と37℃の両方で28日後も、顕著な脱アミド化/異性化が検出された。N95の下流に嵩高で正荷電を有する残基を導入しても脱アミド化は防止できないことが結論された。
【0305】
重鎖のCDR3の100f位に、高い結合親和性に必須なメチオニンが存在する。温度、凍結解凍及び回転安定性の検討により、mAb 39B6-AYE及び39B6-ANKではM100fの酸化は起こらず、一方、mAb 39B6-AVE及び39B6-ANRでは酸化がまだ観察されることが実証された。これは、95位及び96位のアミノ酸が下流のメチオニンの酸化に対する感受性に影響していることを実証するものである。表37に、トリプシン消化によって生じた、重鎖CDR3をカバーするペプチドの酸化及び脱アミド化のレベルの概観を示す。
【0306】
【表38】
【0307】
N95の脱アミド化及び異性化の相対量及び37℃で保存したバリアントの相対結合活性を図18に示す。元の39B6-Aも図に示す(39B6-ANEとラベル)。mAb 39B6-AVE及び39B6-AYEではN95が変異しているので脱アミド化及び異性化のレベルは0であり、したがって含まれていない。N95の脱アミド化とmAb 39B6-ANK及び39B6-ANRについて観察された低い標的結合活性との相関により、N95の脱アミド化がmAbのその標的への結合を抑制するように影響することが示唆される。
【0308】
結論
GARP-TGF-β1抗体バリアント39B6-AYEは、臨床開発に向けられるべき特に良好なGARP-TGF-β1抗体である。その理由は下記の通りである。
・その標的であるGARP-TGF-β1複合体に対して高い親和性結合を保持している。
・SMAD2リン酸化アッセイにおいて良好な能力を示す。
・CDR3において脱アミド化又は異性化を受けない。
・CDR3において酸化を受けない。
・ヒトとの高い相同性(95%)を示す。
・種々の安定性アッセイによって測定して、39B6-Aと比較して改善された安定性を示す。
【0309】
39B6-AYEのCDR及び可変ドメイン配列を下の表38及び39に示す。全長の重鎖及び軽鎖の配列を表40に示す。VH及びVLドメイン並びに全長の重鎖及び軽鎖をコードするポリヌクレオチド配列を表41に示す。
【0310】
【表39】
【0311】
【表40】
【0312】
【表41】
【0313】
【表42】
【0314】
実施例3 39B6-AYE(ARGX-115)のバッチ試験
ARGX-115のパイロット薬剤物質バッチを3か月の期間にわたって安定性について試験した。パイロット薬剤物質バッチの試料を、-70℃の意図した保存条件、+5℃の加速した保存条件、及び+25℃のストレスをかけた保存条件で保存した。パイロット薬剤物質は以下の製剤:10mMのヒスチジン/ヒスチジン塩酸、200mMのスクロース、40mMのアルギニン、0.03%(w/v)のポリソーベート80、pH6.0及びタンパク質濃度20.0±2.0mg/mlで提示した。
【0315】
ARGX-115のパイロット薬剤物質バッチは、-70℃の意図した保存条件で保存すると3か月安定であることが確認された。安定性の尺度としてSPR結合活性も決定した。結合活性は、-70℃に保った参照試料の結合活性の百分率として表現した。
結果を下の表42に示す。
【0316】
【表43】
【0317】
これらの結果から、ARGX-115は長期の保存期間にわたって安定であることが確認される。
【0318】
実施例4 ARGX-115のGARP-TGF-β複合体への結合の特性解析
4.1 成熟TGF-βはARGX-115の結合に必須である
本質的に、GARP-TGF-β複合体(潜在型TGF-βと複合したGARP)は、GARPと潜在型TGFβとの間の共有結合システイン相互作用(ジスルフィド架橋)を有して小胞体の中で形成される。次いでこの複合体は細胞表面に現われる。インビトロでは、GARP-TGF-β複合体は組み換えヒトGARPと組み換えヒト潜在型TGF-β(C33S)-3xstrep-tagから形成することができる。潜在型TGF-βのC33Sミュータント形は、ネイティブな複合体中に存在するようにはGARPと(又は潜在型TGF-β結合タンパク質(LTBP)のいずれとも)共有結合型相互作用を形成しない。
【0319】
組み換えGARPと組み換え潜在型TGFβ(C33S)とのインビトロで形成された複合体へのARGX-115の結合を実証するため、組み換えGARPをELISAプレートにコートし(1μg/mLのヒトGARP、4℃、一夜)、ブロッキング剤(カゼイン-PBS)でブロックし、コートしたGARPによって潜在型TGF-β(5μg/mL、室温、1時間)を捕捉させた。ARGX-115及びアイソタイプ対照抗体(1μg/mL、室温、1時間)を複合体に結合させ、HRPコンジュゲート抗ヒトIgGで検出した。図19に示すように、ARGX-115はGARP-潜在型TGF-β(C33S)複合体に結合したが、アイソタイプ対照は結合しなかった。
【0320】
アッセイは順番を逆にしても機能することが見出された。ELISAプレートをARGX-115又はアイソタイプ対照抗体でコートし(1μg/mL、4℃、一夜)、ブロッキング剤(カゼイン-PBS)でブロックした。コートしたARGX-115抗体によって組み換えGARP(5μg/mL)を捕捉させ、プレートを洗浄し、組み換え潜在型TGF-β(C33S)-3xstrep-tag(5μg/mL)を捕捉させてストレプトアビジン-HRPで検出した。HRP活性はARGX-115の存在下でのみ検出され、アイソタイプ対照でコートしたプレートのウェル中では検出されなかった。
【0321】
GARPとTGF-βの潜在性関連ペプチド(LAP)との複合体に対するARGX-115の結合を試験するため、組み換えGARPと組み換えLAPとの複合体を形成させた。ELISAプレートを組み換えGARPでコートし(1μg/mL、4℃、一夜)、ブロッキング剤(カゼイン-PBS)でブロックし、コートした組み換えGARPの上にLAP(5μg/mL)を捕捉させた。LAPの結合は抗LAP-HRPで検出した。抗LAP-HRPの結合は、GARP-LAP複合体がインビトロで形成されていることを実証している。しかし、ARGX-115はGARP-LAP複合体への結合を何ら示さなかった。さらに、ELISAプレートをARGX-115でコートし(1μg/mL、4℃、一夜)、組み換えGARP(5μg/mL)、続いてLAP(5μg/mL)を加えると、抗LAP-HRPの結合は測定されなかった。これらの結果より、ARGX-115のGARP-TGF-β複合体への結合には成熟TGF-βが必要なことが確認される。
【0322】
4.2 ARGX-115の中和活性に対するGARPと複合したhTGF-βにおける変異の影響
インテグリンαvβ6を安定的に発現する293T細胞(293cl.ITGB6)を、3つのプラスミド、(i)CAGA-lucレポータープラスミド、(ii)ヒトGARP(pEF-BOS-puro-hGARP)、及び(iii)WTヒトTGF-β又はミュータントTGF-β(pDisplay)の混合物(プラスミドミックス)で過渡的にトランスフェクトした。インテグリンαvβ6は2つのTGF-β活性化インテグリンのうちの1つである。293cl.ITGB6細胞をセミコンフルエントの75cmのフラスコから脱着して収穫し、計数して1E+06細胞/mLに希釈し、エッペンドルフチューブあたり1mLに分注した。トランスフェクションのため、各チューブに250μlのプラスミドミックスを加えた。トランスフェクションの直後に、トランスフェクトした細胞を、試験のための異なったmAb(ARGX-115、LHG10.6、1D11及びMHG-8を100μl/mLで)を含むウェルあたり50μl(4E+04細胞)で96ウェルの光学プレートに分注した。1D11はTGF-βのアイソフォーム-1、-2及び-3の活性型に対するmAbである。MHG-8及びLHG10.6はWO2015/015003及びWO2016/125017に記載されている。37℃で24時間のインキュベーションの後、ルシフェラーゼ活性を測定した。ミュータントTGF-βのトランスフェクションで得られた値を、WT-TGF-βについて得られた値の百分率として表した。結果を図20に示す。図から分かるように、R58Aの置換を含むTGF-βミュータント及びK338Eの置換を含むTGF-βミュータントに対して測定したARGX-115の中和活性は顕著に低減していた。これは、GARP-TGF-β複合体中のこれら2つの残基がARGX-115の中和活性に特に重要であることを示している。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10-1】
図10-2】
図11
図12
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図15
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図18
図19
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【配列表】
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