(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】プロピレン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 53/00 20060101AFI20220805BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20220805BHJP
C08L 23/08 20060101ALI20220805BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220805BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L23/10
C08L23/08
C08K3/013
(21)【出願番号】P 2020515503
(86)(22)【出願日】2019-04-24
(86)【国際出願番号】 JP2019017324
(87)【国際公開番号】W WO2019208601
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2018083086
(32)【優先日】2018-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505130112
【氏名又は名称】株式会社プライムポリマー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】井上 修一
(72)【発明者】
【氏名】木ノ内 智
(72)【発明者】
【氏名】徳毛 一晃
(72)【発明者】
【氏名】定塚 隆夫
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-194024(JP,A)
【文献】特開2014-221911(JP,A)
【文献】特開平08-302088(JP,A)
【文献】特開2002-206034(JP,A)
【文献】特開2012-107078(JP,A)
【文献】特開2013-067818(JP,A)
【文献】特開2016-089059(JP,A)
【文献】特開2017-019975(JP,A)
【文献】特開2017-082049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 53/00-53/02
C08L 23/00-23/36
C08K 3/00- 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超え、130g/10分以下であり、かつ23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)40~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・
炭素原子数が4~8のα-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、36質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]
を含有し、
プロピレン系重合体(P1)がプロピレン・エチレンブロック共重合体である
プロピレン系樹脂組成物。
【請求項2】
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が80g/10分を超え、100g/10分以下であり、かつ23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶部のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~45質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・
炭素原子数が4~8のα-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]
を含有し、
プロピレン系重合体(P1)がプロピレン・エチレンブロック共重合体である
プロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が37g/10分以上、50g/10分未満である請求項1又は2に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)0~20質量部、
エチレン・
炭素原子数が4~8のα-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、61質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量
部とする]を含有し、
プロピレン系重合体(P1)がプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、かつ、
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が37g/10分未満のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・
炭素原子数が4~8のα-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有し、
プロピレン系重合体(P1)がプロピレン・エチレンブロック共重合体であり、かつ、
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が50g/10分以上のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
プロピレン系重合体(P1)として、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超え、130g/10分以下であるプロピレン系重合体を40~60質量部含有し、無機充填材(F)を0質量部以上、36質量部未満含有する請求項4又は5に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項7】
プロピレン系重合体(P1)として、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が80g/10分を超え、100g/10分以下であるプロピレン系重合体を20~45質量部含有する請求項4又は5に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項8】
エチレン・
炭素原子数が4~8のα-オレフィン共重合体(E1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1~5g/10分であり、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1g/10分を超え、0.5g/10分以下である請求項1、2、4又は5に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1、2、4又は5に記載のプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項10】
自動車外装部材である請求項9に記載の成形体。
【請求項11】
無塗装バンパー材である請求項10に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車外装部材等の各種用途に用いられる成形品であって、機械的特性に優れ、フローマークを視認し難く、低光沢性に優れた成形体を製造しうるプロピレン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン樹脂組成物を射出成形することにより得られる成形体は、その優れた機械物性や成形性、他材料に比べて相対的に有利なコストパーフォーマンスの点から、自動車部品や家電部品など様々な分野での利用が進んでいる。
【0003】
自動車部品分野では、ポリプロピレンを単体で用いるほか、ポリプロピレンにエチレン-プロピレン共重合体(EPR)、エチレン-ブテン共重合体(EBR)、エチレン-オクテン共重合体(EOR)、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、ポリスチレン-エチレン/ブテン-ポリスチレントリブロック共重合体(SEBS)等のゴム成分を添加して衝撃性を改善した材料、タルク、マイカ、ガラス繊維等の無機充填剤を添加して剛性を改善した材料、またゴム成分と無機充填剤を共に添加しバランス良い機械物性が付与されたブレンドポリマー類が使用されている。さらに近年、フローマーク(トラシマ)、ウェルドマーク等の外観改善のための研究が進み、自動車部品におけるポリプロピレンの使用割合が高まっている。
【0004】
特許文献1では、特定のプロピレン系樹脂に、特定の物性を有するエラストマーを配合することにより、高い物性バランス(高い剛性、衝撃強度)、高度な成形性(高流動性)、フローマーク外観、低光沢外観に優れた、プロピレン系樹脂組成物及びその成形体を得ることができると記載されている。
【0005】
特許文献2では、特定の構造を有するポリプロピレン、エチレン・α-オレフィン共重合体又はエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体、エチレン・α-オレフィン共重合体及び無機充填剤からなる樹脂組成物に対して、変性ポリプロピレン及び表面改質剤を配合してなるポリプロピレン系樹脂組成物が開示されている。そして、このポリプロピレン系樹脂組成物を用いることにより、射出成形に好適で、機械的特性に優れ、フローマークやウェルドマークを生じにくく、しかも低光沢性や耐傷つき性に優れた成形品を製造できると説明されている。
【0006】
しかし、従来のプロピレン系樹脂組成物には、外観(フローマーク抑制)及び光沢(抵グロス)、衝撃強度については未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-194024号公報
【文献】特開2014-221911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、機械的特性に優れ、フローマークを視認し難く、低光沢性に優れた成形体を製造しうるプロピレン系樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の組成からなるプロピレン系樹脂組成物が機械的特性に優れ、フローマークを視認し難く、低光沢性に優れることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下の事項により特定される。
【0010】
[1]メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超え、130g/10分以下であり、かつ23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)40~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、36質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]
を含有するプロピレン系樹脂組成物。
【0011】
[2]メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が80g/10分を超え、100g/10分以下であり、かつ23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶部のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~45質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]
を含有するプロピレン系樹脂組成物。
【0012】
[3]メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が37g/10分以上、50g/10分未満である[1]又は[2]に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【0013】
[4]23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)0~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、61質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有し、
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が37g/10分未満のプロピレン系樹脂組成物。
【0014】
[5]23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有し、
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が50g/10分以上のプロピレン系樹脂組成物。
【0015】
[6]プロピレン系重合体(P1)として、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超え、130g/10分以下であるプロピレン系重合体を40~60質量部含有し、無機充填材(F)を0質量部以上、36質量部未満含有する[4]又は[5]に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【0016】
[7]プロピレン系重合体(P1)として、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が80g/10分を超え、100g/10分以下であるプロピレン系重合体を20~45質量部含有する[4]又は[5]に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【0017】
[8]エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が1~5g/10分であり、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.1g/10分を超え、0.5g/10分以下である[1]、[2]、[4]又は[5]に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【0018】
[9] [1]、[2]、[4]又は[5]に記載のプロピレン系樹脂組成物におけるプロピレン系重合体(P1)はプロピレン・エチレンブロック共重合体である。
【0019】
[10][1]、[2]、[4]又は[5]に記載のプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【0020】
[11]自動車外装部材である[10]に記載の成形体。
【0021】
[12]無塗装バンパー材である[11]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0022】
本発明のプロピレン系樹脂組成物によれば、機械的特性に優れ、フローマークを視認し難く、低光沢性に優れた成形体を製造することができる。このような成形体は、例えば自動車外装部品等の各種用途に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明においては、特に、組成物中のエチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の量が15質量部を超え、40質量部以下であり、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)の量が4~20質量部であることが、機械的特性(特に耐衝撃性)、フローマーク、低光沢性の点で重要である。ただし、諸物性の全体的なバランスを考慮すると、プロピレン系重合体(P1)のメルトフローレートの高低、又は組成物全体のメルトフローレートの高低に応じて、それ以外の成分の好ましい量が異なって来る。したがって本発明は、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の量及びエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)の量は共通するが、それ以外の成分の量は異なる以下の4つの発明(第1の本発明~第4の本発明)に区分けされる。
【0024】
第1の本発明は、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が100g/10分を超え、130g/10分以下であり、かつ23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)40~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、36質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]
を含有するプロピレン系樹脂組成物である。
【0025】
上記第1の本発明の組成物は、プロピレン系重合体(P1)のメルトフローレートが比較的高い場合の組成物である。この場合、プロピレン系重合体(P1)の量は比較的多くても構わない。これにより耐衝撃性(特に低温下での面衝撃強度)がより向上する。
【0026】
第2の本発明は、メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が80g/10分を超え、100g/10分以下であり、かつ23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶部のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~45質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]
を含有するプロピレン系樹脂組成物である。
【0027】
上記第2の本発明の組成物は、プロピレン系重合体(P1)のメルトフローレートが比較的低い場合の組成物である。この場合、プロピレン系重合体(P1)の量を比較的少なくする。これにより耐衝撃性(特に低温下での面衝撃強度)がより向上する。
【0028】
第3の本発明は、23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)0~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、61質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有し、
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が37g/10分未満のプロピレン系樹脂組成物である。
【0029】
上記第3の本発明の組成物は、組成物全体のメルトフローレートが比較的低い場合の組成物である。この場合、各成分として物性が比較的良好な高分子量成分を使用できる点で有利である。プロピレン系重合体(P1)の量は多くても少なくても構わない。また、プロピレン単独重合体(P2)の量は少なくても又はゼロであっても構わない。
【0030】
第4の本発明は、23℃におけるn-デカン可溶分量が5~25質量%であり、n-デカン可溶分のエチレン含有量が40質量%を超え60質量%以下であるプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、
プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び
無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満
[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有し、
メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が50g/10分以上のプロピレン系樹脂組成物である。
【0031】
上記第4の本発明の組成物は、組成物全体のメルトフローレートが比較的高い場合の組成物である。この場合、流動性が求められる大型の成形品又は薄肉で複雑な形状の成形品に適用できる点で有利である。プロピレン系重合体(P1)の量は多くても少なくても構わない。
【0032】
<プロピレン系重合体(P1)>
第1の本発明に用いるプロピレン系重合体(P1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、100g/10分を超え、130g/10分以下であり、好ましくは、100g/10分を超え、120g/10分以下である。
【0033】
第2の本発明に用いるプロピレン系重合体(P1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、80g/10分を超え、100g/10分以下であり、好ましくは90g/10分以上、100g/10分以下である。
【0034】
第3の本発明及び第4の本発明に用いるプロピレン系重合体(P1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは80~130g/10分、より好ましくは90~120g/10分である。
【0035】
以上のプロピレン系重合体(P1)のメルトフローレートの各範囲は、メルトフローレートが互いに異なる複数種のプロピレン系重合体を混合してプロピレン系重合体(P1)として使用する場合はプロピレン系重合体(P1)全体のメルトフローレートの範囲を意味する。
【0036】
プロピレン系重合体(P1)の23℃におけるn-デカン可溶分量は5~25質量%であり、好ましくは5~20質量%、より好ましくは6~15質量%、特に好ましくは7~12質量%であり、23℃におけるn-デカン不溶分量は75~95質量%であり、好ましくは80~95質量%、より好ましくは85~94質量%、特に好ましくは88~93質量%である(ここで、n-デカン可溶分量とn-デカン不溶分量の合計は100質量%である)。n-デカン不溶分とは、一般にn-デカン溶剤に室温(23℃)で不溶な成分である。n-デカン可溶分は、好ましくはプロピレンとエチレンとの共重合体部(エチレン・プロピレン共重合体成分)である。
【0037】
プロピレン系重合体(P1)は、プロピレンとエチレンから得られるプロピレン系ブロック共重合体である。プロピレン系ブロック共重合体のn-デカン可溶分の極限粘度[η]は、好ましくは3~10dl/g、より好ましくは5~7dl/gである。
【0038】
プロピレン系重合体(P1)のエチレン含有量は40質量%を超え、60質量%以下であり、好ましくは40質量%を超え、55質量%以下であり、より好ましくは40質量%を超え、50質量%以下である。
【0039】
プロピレン系重合体(P1)は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0040】
プロピレン系重合体(P1)は、公知の方法により製造できる。例えば、以下に説明する固体状チタン触媒成分(I)と有機金属化合物触媒成分(II)とを含むオレフィン重合用触媒を用いてプロピレンを重合し、さらにプロピレンとエチレンを共重合させることにより、プロピレン系ブロック共重合体が得られる。
【0041】
オレフィン重合用触媒を構成する固体状チタン触媒成分(I)は、例えば、チタン、マグネシウム、ハロゲン及び必要に応じて電子供与体を含む。この固体状チタン触媒成分(I)には公知の成分を制限無く用いることができる。固体状チタン触媒成分(I)の調製には、マグネシウム化合物及びチタン化合物が用いられる場合が多い。
【0042】
有機金属化合物触媒成分(II)は、周期表の第1族、第2族及び第13族から選ばれる金属元素を含む成分である。例えば、第13族金属を含む化合物(有機アルミニウム化合物等)、第1族金属とアルミニウムとの錯アルキル化物、第2族金属の有機金属化合物等を用いることができる。中でも、有機アルミニウム化合物が好ましい。
【0043】
有機金属化合物触媒成分(II)としては、例えば欧州特許第585869号に記載された有機金属化合物触媒成分を好適に用いることができる。
【0044】
プロピレン系重合体(P1)の好ましい態様であるプロピレン・エチレンブロック共重合体は、例えば、上述したオレフィン重合用触媒の存在下にプロピレンを重合し、次いでプロピレンとエチレンを共重合させるか、又は予備重合させて得られる予備重合触媒の存在下にプロピレンを重合し、次いでプロピレンとエチレンの共重合を行うことで製造できる。
【0045】
<プロピレン単独重合体(P2)>
本発明に用いるプロピレン単独重合体(P2)は、実質的にプロピレンのみを重合したポリマーであればよい。例えば、プロピレンのみを重合したホモポリマー、又はプロピレンと6モル%以下、好ましくは3モル%以下の他のα-オレフィンとを共重合した結晶性のポリマーを使用できる。中でも、プロピレンのみを重合したホモポリマーが好ましい。
【0046】
プロピレン単独重合体(P2)は、公知の方法によりプロピレンを主とするモノマーを重合することにより製造できる。例えば、先に説明した固体状チタン触媒成分(I)と有機金属化合物触媒成分(II)とを含むオレフィン重合用触媒、あるいはチーグラーナッタ型触媒と称される三塩化チタン及びアルキルアルミニウム化合物との組合せ触媒の存在下に、プロピレンを主とするモノマーを重合することにより得られる。重合反応は連続式で行ってもよく、バッチ式で行ってもよい。
【0047】
プロピレン単独重合体(P2)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは200~1000g/10分、より好ましくは300~800g/10分、特に好ましくは400~600g/10分である。
【0048】
プロピレン単独重合体(P2)は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0049】
<エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)>
本発明に用いるエチレン・α-オレフィン共重合体(E1)はゴム成分であり、代表的にはエチレンとα-オレフィンとのランダム共重合体である。エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)を構成するα-オレフィンとしては、炭素原子数が4~8のα-オレフィンが好ましく、1-ブテン、1-へキセン、1-オクテンが特に好ましい。α-オレフィンは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0050】
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)としては、特にエチレン・1-ブテンランダム共重合体、エチレン・1-オクテンランダム共重合体、エチレン・1-へキセンランダム共重合体が好ましい。エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0051】
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは1~3g/10分、より好ましくは1.5~2.5g/10分である。
【0052】
エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の密度は、好ましくは850~875kg/m3、より好ましくは860~870kg/m3である。
【0053】
<エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)>
本発明に用いるエチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)はゴム成分であり、エチレンとα-オレフィンとジエンとの共重合体である。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)を構成するα-オレフィンとしては、炭素原子数が3~10のα-オレフィンが好ましく、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテンが特に好ましい。α-オレフィンは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0054】
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)を構成するジエンの具体例としては、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロピリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、ノルボルナジエン等の環状非共役ジエン;1,4-ヘキサジエン、4-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,4-ヘキサジエン、5-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,5-ヘプタジエン、6-メチル-1,7-オクタジエン、7-メチル-1,6-オクタジエン等の鎖状の共役ジエン等が挙げられる。中でも、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンが好ましい。ジエンは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0055】
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)としては、特にエチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・1,4-ヘキサジエン共重合体が好ましい。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0056】
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)において、エチレン/α-オレフィンのモル比は、好ましくは40/60~99.9/0.1、より好ましくは50/50~90/10、特に好ましくは55/45~85/15、最も好ましくは55/45~78/22である。また、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)100質量%中(すなわち全構成単位の重量分率100質量%中)、ジエンに由来する構成単位の重量分率は、好ましくは0.07~10質量%、より好ましくは0.1~8質量%、特に好ましくは0.5~5質量%である。
【0057】
エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.1g/10分を超え、0.5g/10分以下、より好ましくは0.1g/10分を超え、0.4g/10分以下、特に好ましくは0.15~0.3g/10分である。
【0058】
<無機充填剤(F)>
本発明に用いる無機充填剤(F)の具体例としては、タルク、炭酸カルシウム、天然マイカ、合成マイカ、ワラストナイト、モンモリオナイトが挙げられる。中でも、タルクが好ましい。無機充填剤(F)は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0059】
無機充填剤(F)の平均粒子径は、好ましくは1~15μm、より好ましくは3~10μmである。このような平均粒子径の無機充填剤(F)を用いることにより、成形体の機械物性が向上する。この平均粒径はレーザー回折法で測定した値である。具体的には、レーザー回折散乱方式粒度分布計等の粒度分布計によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径である。
【0060】
無機充填剤(F)としては、粒状、板状、棒状、繊維状、ウィスカー状など様々な形状の無機充填剤も使用できる。ポリマー用フィラーとして市販されている無機充填剤(F)も使用できる。さらに、一般的な粉末状やロービング状の他に、取り扱いの利便性等を高めたチョップドストランド状、圧縮魂状、ペレット(造粒)状、顆粒状等の形態の無機充填剤(F)も使用できる。中でも、粉末状、圧縮魂状又は顆粒状の無機充填剤(F)が好ましい。
【0061】
<その他の成分>
さらにプロピレン系樹脂組成物には、必要に応じて、耐熱安定剤、帯電防止剤、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、脂肪酸金属塩、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、滑剤、顔料等の他の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲内で配合できる。添加剤の混合順序は任意である。同時に混合してもよいし、一部成分を混合した後に他の成分を混合する多段階の混合方法を用いてもよい。
【0062】
<プロピレン系樹脂組成物>
第1の本発明において、プロピレン系樹脂組成物は、以上説明したプロピレン系重合体(P1)40~60質量部、プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び無機充填材(F)0質量部以上、36質量部未満[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有する。
【0063】
第1の本発明において、プロピレン系重合体(P1)の量は40~60質量部であり、好ましくは40~55質量部、より好ましくは40~50質量部である。プロピレン単独重合体(P2)の量は5~20質量部であり、好ましくは8~15質量部、より好ましくは10~14質量部である。エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の量は15質量部を超え、40質量部以下であり、好ましくは15質量部を超え、35質量部以下であり、より好ましくは15質量部を超え、30質量部以下である。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)の量は4~20質量部であり、好ましくは4~18質量部、より好ましくは5~15質量部である。無機充填材(F)の量は0質量部以上、36質量部未満であり、好ましくは5~30質量部、より好ましくは10~30質量部である。
【0064】
第2の本発明において、プロピレン系樹脂組成物は、以上説明したプロピレン系重合体(P1)20~45質量部、プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有する。
【0065】
第2の本発明において、プロピレン系重合体(P1)の量は20~45質量部であり、好ましくは25~45質量部、より好ましくは30~45質量部である。プロピレン単独重合体(P2)の量は5~20質量部であり、好ましくは8~15質量部、より好ましくは10~14質量部である。エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の量は15質量部を超え、40質量部以下であり、好ましくは15質量部を超え、35質量部以下であり、より好ましくは15質量部を超え、30質量部以下である。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)の量は4~20質量部であり、好ましくは4~18質量部、より好ましくは5~15質量部である。無機充填材(F)の量は0質量部以上、56質量部未満であり、好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~40質量部である。
【0066】
第3の本発明において、プロピレン系樹脂組成物は、以上説明したプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、プロピレン単独重合体(P2)0~20質量部、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び無機充填材(F)0質量部以上、61質量部未満[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有する。
【0067】
第3の本発明において、プロピレン系重合体(P1)の量は20~60質量部であり、好ましくは25~60質量部、より好ましくは30~60質量部である。プロピレン単独重合体(P2)の量は0~20質量部であり、好ましくは0~15質量部、より好ましくは0~14質量部である。エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の量は15質量部を超え、40質量部以下であり、好ましくは15質量部を超え、35質量部以下であり、より好ましくは15質量部を超え、30質量部以下である。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)の量は4~20質量部であり、好ましくは4~18質量部、より好ましくは5~15質量部である。無機充填材(F)の量は0質量部以上、61質量部未満であり、好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~40質量部である。
【0068】
第4の本発明において、プロピレン系樹脂組成物は、以上説明したプロピレン系重合体(P1)20~60質量部、プロピレン単独重合体(P2)5~20質量部、エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)15質量部を超え、40質量部以下、エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)4~20質量部、及び無機充填材(F)0質量部以上、56質量部未満[但し、成分(P1)、(P2)、(E1)、(E2)及び(F)の合計量を100質量部とする]を含有する。
【0069】
第4の本発明において、プロピレン系重合体(P1)の量は20~60質量部であり、好ましくは25~55質量部、より好ましくは30~50質量部である。プロピレン単独重合体(P2)の量は5~20質量部であり、好ましくは8~20質量部、より好ましくは10~20質量部である。エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)の量は15質量部を超え、40質量部以下であり、好ましくは15質量部を超え、35質量部以下であり、より好ましくは15質量部を超え、30質量部以下である。エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)の量は4~20質量部であり、好ましくは4~18質量部、より好ましくは4~15質量部である。無機充填材(F)の量は0質量部以上、56質量部未満であり、好ましくは5~50質量部、より好ましくは10~40質量部である。
【0070】
第1の本発明及び第2の本発明において、プロピレン系樹脂組成物のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は特に限定されないが、好ましくは37g/10分以上、50g/10分未満である。
【0071】
第3の本発明において、プロピレン系樹脂組成物のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は37g/10分未満であり、好ましくは20g/10分以上、37g/10分未満である。
【0072】
第4の本発明において、プロピレン系樹脂組成物のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)は50g/10分以上であり、好ましくは50~80g/10分である。
【0073】
各成分の配合方法としては、例えば、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機、高速2軸押出機等の混合装置を用いて、各成分を同時にあるいは逐次に混合又は溶融混練する方法が挙げられる。
【0074】
<成形体>
本発明の成形体は、本発明のプロピレン系樹脂組成物を成形して得られる。成形方法としては、公知の加工法、例えば射出成形を用いることができる。得られた成形体は、機械的物性に優れるばかりでなく、フローマークが抑制され、低光沢性に優れるので、塗装や表皮形成等の後工程を設けなくても製品として使用可能である。したがって、例えば自動車外装部品、特に無塗装バンパーの材料として、好適に使用できる。
【実施例】
【0075】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0076】
実施例及び比較例において、使用した各成分は、次の通りである。
【0077】
<プロピレン系重合体(P1)>
「P1-1」:プロピレン・エチレンブロック共重合体[Hanwha Total社製、商品名BI997、MFR=95g/10分、n-デカン可溶分量=7.5質量%、n-デカン可溶分の極限粘度[η]=6.7dl/g、n-デカン可溶分のエチレン含有量=58質量%(48mol%)]
「P1-2」:プロピレン・エチレンブロック共重合体[SK Global Chemical社製、商品名BX3920、MFR=110g/10分、n-デカン可溶分量=7.9質量%、n-デカン可溶分の極限粘度[η]=5.2dl/g、n-デカン可溶分のエチレン含有量=54質量%(44mol%)]
【0078】
<プロピレン単独重合体(P2)>
「P2-1」:ホモポリプロピレン[プライムポリマー社製、商品名H50000、MFR=500g/10分]
【0079】
<エチレン・α-オレフィン共重合体(E1)>
「E1-1」:エチレン・1-ブテンランダム共重合体[三井化学社製、商品名A0250S、MFR=0.5g/10分、密度=860kg/m3]
「E1-2」:エチレン・1-ブテンランダム共重合体[三井化学社製、商品名A1050S、MFR=2.2g/10分、密度=862kg/m3]
「E1-3」:エチレン・1-ブテンランダム共重合体[三井化学社製、商品名A4050S、MFR=6.7g/10分、密度=864kg/m3]
「E1-4」:エチレン・1-ブテンランダム共重合体[LG化学社製、商品名LC670、MFR=18.0g/10分、密度=870kg/m3]
「E1-5」:エチレン・1-ブテンランダム共重合体[LG化学社製、商品名LC565、MFR=19.4g/10分、密度=865kg/m3]
「E1-6」:エチレン・オクテンランダム共重合体[Dow Chemical社製、商品名XLT8677、MFR=0.9g/10分、密度=870kg/m3]
【0080】
<エチレン・α-オレフィン・ジエン共重合体(E2)>
「E2-1」:エチレン・プロピレン・5-エチリデン-2-ノルボルネン共重合体[三井化学社製、製品名3092PM、MFR=0.2g/10分)
【0081】
<無機充填材(F)>
「タルク」:タルク[Imifabi社製、商品名HTP1C、平均粒子径5.7μm]
【0082】
<その他>
「HDPE」:高密度ポリエチレン[プライムポリマー社製、商品名3300F、MFR=2.0g/10分、密度=950kg/m3]
【0083】
以上の各成分のMFR、n-デカン可溶分量、極限粘度は、以下の方法により測定して得た値である。
【0084】
[メルトフローレート(MFR)]
ISO 1133に準拠し、荷重2.16kg、温度230℃の条件で測定した。
【0085】
[n-デカン可溶分量]
5g程度のポリマー試料(正確なポリマー試料の質量をaとする)を、n-デカン200mlと、試料量に対し約1%のBHT(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン)と共に三角フラスコに入れ、145℃に加熱し、1時間撹拌した。ポリマー試料が完全に溶解したことを確認した後、1時間放冷した。その後、室温(23℃)においてマグネチックスターラーで1時間撹拌しながらポリマーを析出させた。この析出したポリマーを吸引瓶とロート(325メッシュスクリーン)を用いて吸引ろ過した。そして、分離したろ液にアセトンを加えて約1リットルとし、1時間撹拌してn-デカン可溶分を析出させた。この際、内容液が透明にならない場合は更にアセトンを加えて撹拌を続けた。この析出したn-デカン可溶分を吸引瓶とロート(325メッシュスクリーン)を用いてろ過、回収した。そして、回収した析出物を105℃、20mmHg以下の条件で1時間減圧乾燥した。乾燥終了後のn-デカン可溶分の回収量をbとして、以下の式によりn-デカン可溶分量を算出した。
n-デカン可溶分量(%)=(b/a)×100
a:ポリマー試料の質量(g)
b:n-デカン可溶分の回収量(g)
【0086】
[極限粘度[η]]
サンプル約20mgをデカリン15mlに溶解し、135℃のオイルバス中で比粘度ηspを測定した。さらにデカリンを5ml追加して希釈した後、同様にして比粘度ηspを測定した。この希釈操作をさらに2回繰り返し、濃度(C)を0に外挿した時のηsp/Cの値を極限粘度として、以下の式により極限粘度[η]を算出した。
[η]=lim(ηsp/C) (C→0)
【0087】
<実施例A1~A3及び比較例A1~A7>
表1及び2に示す配合量(質量部)の各成分からなる樹脂組成物を調製し、先に説明した方法により樹脂組成物のMFRを測定した。また、以下の方法により評価した。結果を表1及び2に示す。
【0088】
[曲げ弾性率]
ISO 178に準拠し、温度23℃、スパン間距離64mm、曲げ速度2mm/minの条件で、曲げ弾性率(MPa)を測定した。
【0089】
[IZOD衝撃強度]
ISO 180に準拠し、温度-20℃、ノッチ付、ハンマー容量1Jの条件で、IZOD衝撃強度(kJ/m2)を測定した。
【0090】
[-30℃パンクチャー衝撃強度]
ISO 6630-2に準拠し、ストライカ直径20mm、支持台内径40mm、衝撃速度4.4m/s、温度-30℃の条件で、パンクチャー衝撃強度(J)を測定した。
【0091】
[フローマーク]
成形温度200℃、金型温度40℃の条件で射出成形され、表面が鏡面仕上げされた成形角板(長さ350mm、幅100mm、厚み2mm)に対し、目視にてフローマーク発生点をマーキングし、ゲートからの距離を測定し、以下の基準で評価した。
「〇」:ゲートからの距離が15cm以上
「△」:ゲートからの距離が14~15cm未満
「×」:ゲートからの距離が14cm未満
【0092】
[鏡面グロス]
成形温度200℃、金型温度40℃の条件で射出成形され、表面が鏡面仕上げされた成形角板(長さ350mm、幅100mm、厚み2mm)に対し、グロスメーター(日本電色工業(株)製NDH-300)を用いて光源照射角度60°及び20°の鏡面グロス(%)を測定した。
【0093】
【0094】
【0095】
<実施例A1~A3及び比較例A1~A7の評価>
実施例A1~A3は、組成物全体のMFRを37g/10分以上、50g/10分未満の範囲内にした例である。また、実施例A1は、組成物中に含まれるプロピレン系重合体(P1)のMFRを80g/10分を超え、100g/10分以下の範囲内にした例(第2の本発明)である。実施例A2及びA3は、組成物中に含まれるプロピレン系重合体(P1)のMFRを100g/10分を超え、130g/10分以下の範囲内にした例(第1の本発明)である。
【0096】
具体的には、実施例A1においては、成分(P1)としてMFRが95g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(P1-1)44質量部を使用した。実施例A2においては、成分(P1)としてMFRが95g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(P1-1)23質量部及びMFRが110g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(P1-2)23質量部を併用した(成分(P1)全体のMFRは約102g/10分)。実施例A3においては、成分(P1)としてMFRが110g/10分であるプロピレン・エチレンブロック共重合体(P1-2)46質量部を使用した。
【0097】
表1に示すように、実施例A1~A3の組成物は、何れの評価項目においても優れていた。
【0098】
一方、表2に示すように、成分(E1)の量が少ない比較例A1及びA2の組成物は、実施例A1~A3と比較して特にIZOD衝撃強度が劣っていた。成分(E2)の量が少ない比較例A3の組成物は、実施例A1~A3と比較して特に鏡面グロスが高く、またゲート付近でフローマークが発生した。成分(E2)を含まない比較例A4~A6の組成物もまた、実施例A1~A3と比較して特に鏡面グロスが高く、またゲート付近でフローマークが発生した。組成物中に含まれる成分(P1)のMFRが低く且つ成分(P1)の量が多い比較例A7の組成物は、実施例A1~A3と比較して衝撃強度(特に-30℃パンクチャー衝撃強度)が劣っていた。
【0099】
<実施例B1~B5及び比較例B1~B3>
表3及び4に示す配合量(質量部)の各成分からなる樹脂組成物を調製し、先に説明した方法により樹脂組成物のMFRを測定した。また、先に説明した方法により、曲げ弾性率、IZOD衝撃強度、フローマーク、鏡面グロスを評価した。結果を表3及び4に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
<実施例B1~B5及び比較例B1~B3の評価>
実施例B1~B5は、組成物全体のMFRを37g/10分未満の範囲内にした例(第3の本発明)である。そして表3に示すように、実施例B1~B5の組成物は、何れの評価項目においても優れていた。
【0103】
一方、表4に示すように、成分(E2)の量が少ない比較例B1の組成物は、特にゲート付近でフローマークが発生した。成分(E2)を含まない比較例B2及びB3の組成物もまた、特にゲート付近でフローマークが発生した。
【0104】
<実施例C1~C5及び比較例C1~C3>
表5及び6に示す配合量(質量部)の各成分からなる樹脂組成物を調製し、先に説明した方法により樹脂組成物のMFRを測定した。また、先に説明した方法により、曲げ弾性率、IZOD衝撃強度、フローマーク、鏡面グロスを評価した。結果を表5及び6に示す。
【0105】
【0106】
【0107】
<実施例C1~C5及び比較例C1~C3の評価>
実施例C1~C5は、組成物全体のMFRを50g/10分以上にした例(第4の本発明)である。そして表5に示すように、実施例C1~C5の組成物は、何れの評価項目においても優れていた。
【0108】
一方、表6に示すように、成分(E2)の量が少ない比較例C1の組成物は、特にゲート付近でフローマークが発生した。成分(E2)を含まない比較例C2及びC3の組成物もまた、特にゲート付近でフローマークが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、自動車外装用部材(例えばバンパー、サイドモール、バックドア、フェンダー、バックパネル)等の成形体材料として有用であり、特に無塗装バンパー材に好適に用いることができる。