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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】内視鏡システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20220805BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20220805BHJP
   A61B 1/06 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
A61B1/00 500
A61B1/045 610
A61B1/06 610
A61B1/00 553
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020523887
(86)(22)【出願日】2018-06-05
(86)【国際出願番号】 JP2018021590
(87)【国際公開番号】W WO2019234829
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2020-12-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【弁理士】
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 浩司
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231498(JP,A)
【文献】特開2014-188222(JP,A)
【文献】NAYAR, Shree K, et al.,Fast Separation of Direct and Global Components of a Scene using High Frequency Illumination,ACM Transactions on Graphics,2006年07月03日,Volume 25 Isuue 3,pp.935-944
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備え
前記合成処理部が、前記第1深層画像内のスペキュラ光に基づくノイズ領域を前記第1表層画像および前記第2表層画像の画素値の差分に基づいて検出し、前記第1深層画像内の検出されたノイズ領域に前記第2深層画像内の対応する領域を合成することによって、前記合成深層画像を作成する内視鏡システム。
【請求項2】
第1照明光を被写体に照射し、前記第1照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第1照明部と、
第2照明光を被写体に照射し、前記第1照明部とは異なる位置に配置され、前記第2照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第2照明部と、
前記第1照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像および前記第2照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得する撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備え
前記合成処理部が、前記第1深層画像内のスペキュラ光に基づくノイズ領域を前記第1表層画像および前記第2表層画像の画素値の差分に基づいて検出し、前記第1深層画像内の検出されたノイズ領域に前記第2深層画像内の対応する領域を合成することによって、前記合成深層画像を作成する内視鏡システム。
【請求項3】
前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する強度分布変更部を備える請求項1または請求項に記載の内視鏡システム。
【請求項4】
照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部と
前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する強度分布変更部と、
前記第1撮像部および前記第2撮像部と前記被写体との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部とを備え、
前記強度分布変更部が、前記被写体上での前記照明光の強度分布が前記第1撮像部および前記第2撮像部と前記被写体との間の距離に依らずに一定となるように、前記撮影距離に基づいて前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する内視鏡システム。
【請求項5】
第1照明光を被写体に照射し、前記第1照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第1照明部と、
第2照明光を被写体に照射し、前記第1照明部とは異なる位置に配置され、前記第2照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第2照明部と、
前記第1照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像および前記第2照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得する撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部と
前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する強度分布変更部と、
前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部とを備え
前記強度分布変更部が、前記被写体上での前記第1照明光および前記第2照明光の強度分布が前記撮像部と前記被写体との間の距離に依らずに一定となるように、前記撮影距離に基づいて前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する内視鏡システム。
【請求項6】
照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備え
前記照明部が、前記第1撮像部および前記第2撮像部と前記被写体との間の撮影距離に比例して前記被写体上での前記明部および前記暗部のパターンが拡大されるように、前記照明光を発散光束として射出する内視鏡システム。
【請求項7】
第1照明光を被写体に照射し、前記第1照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第1照明部と、
第2照明光を被写体に照射し、前記第1照明部とは異なる位置に配置され、前記第2照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第2照明部と、
前記第1照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像および前記第2照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得する撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備え
前記第1照明部および前記第2照明部が、前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離に比例して前記被写体上での前記明部および前記暗部のパターンが拡大されるように、前記第1照明光および前記第2照明光を発散光束として射出する内視鏡システム。
【請求項8】
照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備え
前記照明光が、互いに異なる波長を有する複数の光からなり、該複数の光は、波長が長い程、前記明部と前記暗部との周期が小さくなる前記強度分布を有する内視鏡システム。
【請求項9】
照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、
前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、
前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、
前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備え
前記照明光が、互いに異なる波長を有する複数の光からなり、該複数の光は、波長が長い程、前記明部と前記暗部との周期が小さくなる前記強度分布を有する内視鏡システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
照明された物体から生じる光には、鏡面反射光、拡散反射光、散乱光等の複数種類の成分が含まれる。物体の画像に含まれるこのような成分を、縞状の明暗パターンを有する構造化照明光を用いた高周波パターン投影法によって分離することで、物体の表面の情報と内部の情報とを分離する技術が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
構造化照明光は、物体の形状計測技術においても使用されている(例えば、特許文献1および2参照。)。特許文献1では、光の干渉を利用して構造化照明光を生成しており、特許文献2では、基板に形成された格子パターンの投影によって構造化照明光を生成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】高谷剛志、外3名、「多重重み付け計測による反射・散乱光の分解」、第14回画像の認識・理解シンポジウム(MIRU2011)、2011年7月
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-200418号公報
【文献】特開2016-198304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の高周波パターン投影法を細径の内視鏡に適用するためには、光学系の小型化が必要となる。一方、高周波パターン投影法で使用される構造化照明光の空間周波数は、形状計測で使用される構造化照明光の空間周波数よりも高い。特許文献1,2に開示されている方法では、高コントラストと高光量を維持しながら高空間周波数の構造化照明光を生成することが困難である。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備える内視鏡システムである。
【0007】
物体に投影される明暗パターンのコントラストが低い場合、物体表面で発生したスペキュラ光に基づく高輝度のノイズが、物体の深層の情報を多く含む深層画像に表れるという問題がある。すなわち、暗部において強度を有する低コントラストの構造化照明光が物体に照射されると、暗部の照射位置においてスペキュラ光が発生する。暗部の照射位置において発生したスペキュラ光の情報は、物体の深層の情報として分離される。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、照明光の高周波パターンのコントラストが低い状態であっても、スペキュラ光に基づくノイズを含まない深層画像を提供することができる内視鏡システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、照明光を被写体に照射し、前記照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、照明部と、前記照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像を取得する第1撮像部と、前記照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得し、前記第1撮像部とは異なる位置に配置されている、第2撮像部と、前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像が前記第1表層画像よりも前記被写体の深層領域の情報を多く含み、前記第2深層画像が前記第2表層画像よりも前記被写体の深層領域の情報を多く含む、分離処理部と、前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備える内視鏡システムである。
【0010】
本態様によれば、散乱体である被写体に照明光が照射されたときに、被写体の表面において鏡面反射された鏡面反射光(スペキュラ光)と、被写体内部の表層での散乱を経て被写体の表面から射出された表面散乱光と、被写体内部の深層での散乱を経て被写体の表面から射出された内部散乱光とが生じる。照明部から空間的に非一様な強度分布を有する照明光を被写体に照射することで、内部散乱光がスペキュラ光および表面散乱光とは空間的に分離される。すなわち、明部ではスペキュラ光、表面散乱光および内部散乱光が生じるのに対し、暗部では、明部から暗部まで回り込んだ内部散乱光が支配的に生じる。
【0011】
したがって、撮像部によって取得された照明画像内において、暗部に対応する領域は深層の情報を多く含み、明部に対応する領域は表面および表層の情報を多く含む。情報とは、生体組織に入射し、生体組織やその内部の構造物によって散乱、吸収などの変調を受けて生体組織から射出される光の光量などを意味する。分離処理部は、暗部に対応する領域の画素値に基づいて、被写体の深層の情報を多く含む深層画像を作成する。また、分離処理部は、明部に対応する領域の画素値に基づいて、被写体の表面および表層の情報を多く含む表層画像を作成する。
【0012】
照明光のコントラストが低い場合、被写体の表面上の暗部の領域においてスペキュラ光が発生することがあり、その結果、第1深層画像および第2深層画像内に、スペキュラ光に基づく高輝度のノイズが表れることがある。第1撮像部および第2撮像部は相互に異なる位置に配置されているので、スペキュラ光に基づくノイズの位置は第1深層画像と第2深層画像との間で異なる。
【0013】
第1深層画像内のノイズの位置は、第1表層画像内のスペキュラ光の位置と同一である。第2深層画像内のノイズの位置は、第2表層画像内のスペキュラ光の位置と同一である。したがって、第1および第2表層画像の画素値に基づいてノイズを除外しながら第1深層画像と第2深層画像とを合成処理部によって合成することができる。これにより、照明光の高周波パターンのコントラストが低い状態であっても、スペキュラ光に基づくノイズを含まない合成深層画像を提供することができる。
【0014】
本発明の他の態様は、第1照明光を被写体に照射し、前記第1照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第1照明部と、第2照明光を被写体に照射し、前記第1照明部とは異なる位置に配置され、前記第2照明光が光軸に垂直な光束断面において明部および暗部を含む空間的に非一様な強度分布を有する、第2照明部と、前記第1照明光で照明されている前記被写体の第1照明画像および前記第2照明光で照明されている前記被写体の第2照明画像を取得する撮像部と、前記第1照明画像から第1深層画像および第1表層画像を作成し、前記第2照明画像から第2深層画像および第2表層画像を作成し、前記第1深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第1表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多く、前記第2深層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率が前記第2表層画像の有する情報に占める前記被写体の深層領域の情報の比率よりも多い、分離処理部と、前記第1表層画像の画素値および前記第2表層画像の画素値に基づいて前記第1深層画像と前記第2深層画像とを合成することによって合成深層画像を作成する合成処理部とを備える内視鏡システムである。
【0015】
本態様によれば、照明光のコントラストが低い場合、被写体の表面上の暗部の領域においてスペキュラ光が発生することがあり、その結果、第1深層画像および第2深層画像内に、スペキュラ光に基づく高輝度のノイズが表れることがある。第1照明部および第2照明部は相互に異なる位置に配置されているので、スペキュラ光に基づくノイズの位置は第1深層画像と第2深層画像との間で異なる。
【0016】
第1深層画像内のノイズの位置は、第1表層画像内のスペキュラ光の位置と同一である。第2深層画像内のノイズの位置は、第2表層画像内のスペキュラ光の位置と同一である。したがって、第1および第2表層画像の画素値に基づいてノイズを除外しながら第1深層画像と第2深層画像とを合成処理部によって合成することができる。これにより、照明光の高周波パターンのコントラストが低い状態であっても、スペキュラ光に基づくノイズを含まない合成深層画像を提供することができる。
【0017】
本発明の第1態様は、前記合成処理部が、前記第1深層画像内のスペキュラ光に基づくノイズ領域を前記第1表層画像および前記第2表層画像の画素値の差分に基づいて検出し、前記第1深層画像内の検出されたノイズ領域に前記第2深層画像内の対応する領域を合成することによって、前記合成深層画像を作成する。
上記のように、第1深層画像内のノイズの位置は、第1表層画像内のスペキュラ光の位置と同一であり、第1表層画像内のスペキュラ光の位置では、第1表層画像の画素値が第2表層画像の画素値よりも顕著に大きくなる。したがって、第1表層画像と第2表層画像の画素値の差分に基づいて、第1深層画像内のノイズ領域を検出することができる。そして、第1深層画像内のノイズ領域に第2深層画像内の対応する領域を合成することによって、ノイズが除外された合成深層画像を作成することができる。
【0018】
本発明の第2態様は、前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する強度分布変更部を備えている。
表層画像と深層画像との間の分離深さは、被写体上における暗部の幅に依存する。分離深さとは、表層画像に含まれる表層の情報の深さと、深層画像に含まれる深層の情報の深さとの間の大まかな境目である。強度分布変更部によって被写体上での暗部の幅を変更することによって、所望の深さの情報が強調された深層画像が作成されるように分離深さを制御することができる。
【0019】
また、本発明の第2態様は、前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部を備え、前記強度分布変更部が、前記被写体上での前記照明光の強度分布が前記撮像部と前記被写体との間の距離に依らずに一定となるように、前記撮影距離に基づいて前記強度分布における前記明部と前記暗部との周期を変更する。
この構成によって、撮影距離に依らずに、一定の深さの情報を含む深層画像を作成することができる。
【0020】
本発明の第3態様は、前記照明部が、前記撮像部と前記被写体との間の撮影距離に比例して前記被写体上での前記明部および前記暗部のパターンが拡大されるように、前記照明光を発散光束として射出する。
この構成によって、撮影距離を変更するだけで被写体上での暗部の幅を変更させることができる。
【0021】
本発明の第4態様は、前記照明光が、互いに異なる波長を有する複数の光からなり、該複数の光は、波長が長い程、前記明部と前記暗部との周期が小さくなる前記強度分布を有している。
被写体内に入射した光は、波長が長い程、深い位置まで到達するので、より長い波長の光の内部散乱光は、より深い層の情報を含む。波長が長い程、明部と暗部との周期を小さくすることによって、波長の違いによる情報の深さの違いを低減することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、照明光の高周波パターンのコントラストが低い状態であっても、スペキュラ光に基づくノイズを含まない深層画像を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態に係る内視鏡システムの全体構成図である。
図2】照明光の明暗パターンの時間変化の一例を示す図である。
図3】分離処理部による表層画像および深層画像の作成方法を説明する図である。
図4図1の内視鏡システムの画像処理部による画像処理を示すフローチャートである。
図5】照明光の照射によって生体組織で発生するスペキュラ光、表面散乱光および内部散乱光と、これらの発生位置との関係を説明する図である。
図6】合成処理部による合成表層画像および合成深層画像の作成方法を説明する図である。
図7A】内視鏡の先端面を正面から見たときの、照明部および2つの撮像部の配置の他の例を示す図である。
図7B】内視鏡の先端面を正面から見たときの、照明部および3つの撮像部の配置の一例を示す図である。
図8】本発明の第2の実施形態に係る内視鏡システムの全体構成図である。
図9A】内視鏡の先端面を正面から見たときの、2つの照明部および撮像部の配置の他の例を示す図である。
図9B】内視鏡の先端面を正面から見たときの、3つの照明部および撮像部の配置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る内視鏡システムについて図面を参照して説明する。
本実施形態に係る内視鏡システム1は、図1に示されるように、体内を観察する内視鏡2と、内視鏡2の基端に接続された本体部3とを備えている。
また、内視鏡システム1は、明暗パターンを有する照明光Lを内視鏡2の先端から体内の生体組織(被写体)Aに向けて射出する照明部4と、照明光Lの明暗パターンを時間変化させる強度分布変更部5と、照明光Lで照明されている生体組織Aの照明画像を取得する2つの撮像部61,62と、生体組織A内の互いに異なる深さの情報を有する表層画像および深層画像を照明画像から作成する画像処理部7とを備えている。
【0025】
照明部4は、光軸に垂直な光束断面において空間的に非一様な強度分布を有する照明光Lを生成し、照明光Lを生体組織Aに向けて射出する。照明光Lは、例えば、白色光、赤外光等の単波長光、赤、緑、青等の単色光、または、波長が異なる複数の光の混合光である。照明光Lは、一般に、光束の中心から周縁に向かって明るさが漸次低下する強度の勾配を有する。このような光束断面の全体的な強度勾配とは別に、照明光Lは、図2に示されるように、光束断面において、高強度の明部と該明部よりも低強度の暗部とが交互に繰り返される明暗パターンを有する。図2において、白い領域は明部を表し、黒い領域は暗部を表す。
【0026】
照明部4は、本体部3に設けられた光源4a、マスク4bおよび集光レンズ4cを備えている。また、照明部4は、内視鏡2に設けられたイメージガイドファイバ4dおよび投影レンズ4eを備えている。
光源4aは、例えば、LEDまたはLDのような半導体光源である。あるいは、光源4aは、本体部3の外部の光源装置(図示略)に接続された光ファイバの射出端であってもよい。
【0027】
マスク4bは、光源4aからの光が入射する入射領域内の各位置の光透過率を電気的に制御することができる液晶素子であり、光を透過させる透光領域と光を遮断する遮光領域とからなり明暗パターンに対応する投影パターンが形成されている。光源4aから出力された光は、マスク4bを透過することで明暗パターンが与えられて照明光Lに生成される。生成された照明光Lは、内視鏡2の被写体側の先端部において起点サイズを小さくする必要があるため、集光レンズ4cによってイメージガイドファイバ4dの入射端に集光され、内視鏡2の先端に設けられた投影レンズ4eまで明暗パターンを保存しながらイメージガイドファイバ4dによって導光され、投影レンズ4eから発散光束として射出される。
【0028】
強度分布変更部5は、マスク4bの入射領域内の各位置の光透過率を制御する制御素子である。強度分布変更部5は、図2に示されるように、光束断面において明部と暗部とが入れ替わるように照明光Lの強度分布を時間変化させる。これにより、生体組織Aの表面B上の照明光Lの照射範囲内の各位置には、明部および暗部が順番に投影されるようになっている。
【0029】
第1撮像部61および第2撮像部62は、相互に異なる位置に配置されている。
第1撮像部61は、内視鏡2の先端に設けられ生体組織Aからの光を集める撮像レンズ61aと、撮像レンズ61aによって形成された生体組織Aの像を撮影する撮像素子62bとを備えている。第1撮像部61は、照明光Lで照明された生体組織Aの2枚の第1照明画像を撮像素子61bによって取得する。2枚の第1照明画像は、撮像素子61bから画像処理部7に送信される。
【0030】
第2撮像部62は、内視鏡2の先端に設けられ生体組織Aからの光を集める撮像レンズ62aと、撮像レンズ62aによって形成された生体組織Aの像を撮影する撮像素子62bとを備えている。第2撮像部62は、照明光Lで照明された生体組織Aの2枚の第2照明画像を撮像素子62bによって取得する。2枚の第2照明画像は、撮像素子62bから画像処理部7に送信される。
【0031】
ここで、生体組織Aに照射される照明光Lの強度分布は、図2に示されるように強度分布変更部5によって時間変化する。撮像素子61bは、明部と暗部とが相互に反転した照明光Lが生体組織Aに照射される2つの時刻で撮影を実行することによって、図3に示されるように、2枚の第1照明画像を取得する。2枚の第1照明画像は、明部の投影領域と暗部の投影領域とが相互に反転し、明部の投影領域同士および暗部の投影領域同士が補完し合う画像である。図3の第1照明画像において、白い領域は明部の投影領域を表し、黒い領域は暗部の投影領域を表す。同様に、撮像素子62bは、明部と暗部とが相互に反転した照明光Lが生体組織Aに照射される2つの時刻で撮影を実行することによって、2枚の第2照明画像を取得する。したがって、強度分布変更部5による強度分布の変更のタイミングと撮像素子61b,62bによる撮影のタイミングとが互いに同期するように、強度分布変更部5および撮像素子61b,62bの動作は、図示しない制御装置によって制御される。
【0032】
画像処理部7は、分離処理部71と、合成処理部72とを機能として備えている。図4は、画像処理部7による処理を示している。
分離処理部71は、図3に示されるように、2枚の第1照明画像から第1表層画像および第1深層画像を作成する(ステップS1)。2枚の第1照明画像の各位置の画素について、明部が投影されているときの強度値Imaxと、暗部が投影されているときの強度値Iminとが取得される。分離処理部71は、下式(1)から第1表層画像の各画素の強度値Isを算出し、強度値Isを有する表層画像を作成する。また、分離処理部71は、下式(2)から第1深層画像の各画素の強度値Idを算出し、強度値Idを有する深層画像を作成する。
Is=Imax-Imin …(1)
Id=Imin×2 …(2)
同様にして、分離処理部71は、2枚の第2照明画像から第2表層画像および第2深層画像を作成する(ステップS2)。
【0033】
図5に示されるように、散乱体である生体組織Aに明暗パターンを有する照明光Lが照射されたときに、生体組織Aからは、鏡面反射光(スペキュラ光)Lr、表面散乱光Lsおよび内部散乱光Ldが発生する。符号α,βは、生体組織A内に存在する血管のような構造を示している。
スペキュラ光Lrは、生体組織Aの表面Bで鏡面反射された照明光Lの反射光であり、明部の投影領域において発生する。
表面散乱光Lsは、明部の投影領域から生体組織A内に入射し、散乱を繰り返しながら表層Cを通過し、表面Bから射出された照明光Lの散乱光である。表面散乱光のほとんどは、明部の投影領域から射出される。
内部散乱光Ldは、明部の投影領域から生体組織A内に入射し、散乱を繰り返しながら深層Dを通過し、表面Bから射出された照明光Lの散乱光である。内部散乱光の一部は明部の投影領域から射出され、他の部分は暗部の投影領域まで伝播して暗部の投影領域から射出される。
【0034】
すなわち、第1および第2照明画像内の暗部の投影領域の強度値Iminは、主に内部散乱光Ldに基づいており、深層Dの情報を主に含む。したがって、強度値Iminに基づく第1および第2深層画像は、深層Dの情報を主に含む画像である。一方、第1および第2照明画像内の明部の投影領域の強度値Imaxは、スペキュラ光Lr、表面散乱光Lsおよび内部散乱光Ldに基づいており、表面B、表層Cおよび深層Dの情報を含む。したがって、強度値Isに基づく第1および第2表層画像は、深層Dの情報が除去され表面Bおよび表層Cの情報を主に含む画像である。
【0035】
ここで、第1撮像部61の撮像レンズ61aおよび第2撮像部62の撮像レンズ62aは、内視鏡2の先端面上の相互に異なる位置に配置されている。そのため、生体組織Aの表面B上のある位置で発生したスペキュラ光Lrは、第1撮像部61および第2撮像部62の両方に入射することはない。したがって、第1照明画像内のスペキュラ光Lrの位置と第2照明画像内のスペキュラ光Lrの位置は、相互に異なり、図6に示されるように、第1表層画像内のスペキュラ光Lrの位置と第2表層画像内のスペキュラ光Lrの位置も、相互に異なる。
【0036】
照明光Lの明部と暗部との間のコントラストが低く暗部の強度が十分に低くない場合、暗部の投影領域においてもスペキュラ光Lrが発生することがある。暗部の投影領域で発生したスペキュラ光Lrの情報は深層画像に分離される。したがって、図6に示されるように、深層画像に、スペキュラ光Lrに基づく高輝度のノイズNが表れることがある。第1深層画像内のノイズNの位置は、第1表層画像内のスペキュラ光Lrの位置と同一であり、第2深層画像内のノイズNの位置は、第2表層画像内のスペキュラ光Lrの位置と同一である。
【0037】
合成処理部72は、図6に示されるように、第1表層画像と第2表層画像とを合成し合成表層画像を作成する。また、合成処理部72は、第1深層画像と第2深層画像とを合成し合成深層画像を作成する。
【0038】
図4に示されるように、まず、合成処理部72は、第1表層画像と第2表層画像の画素値の差分に基づいて、第1表層画像内のスペキュラ光Lrおよび第1深層画像内のノイズNを検出する(ステップS3,S4)。表層画像は、深層画像に比べてスペキュラ光Lrの情報を多く含む。したがって、第1および第2表層画像の画素値に基づいて、スペキュラ光Lrを正確に検出することができる。
【0039】
具体的には、合成処理部72は、第1表層画像および第2表層画像の対応する画素ijの画素値Aij,Cijの差分の絶対値|Aij-Cij|を算出し、絶対値|Aij-Cij|を所定の閾値Thと比較する(ステップS3)。上述したように、スペキュラ光Lrの位置は第1表層画像と第2表層画像との間で異なる。したがって、スペキュラ光Lrの位置では、第1表層画像の画素値Aijと第2表層画像の画素値Cijとの差分の絶対値|Aij-Cij|が所定の閾値Thよりも大きくなる。
【0040】
絶対値が所定の閾値Th以下である場合(ステップS3のNO)、合成処理部72は、その画素ijの位置ではスペキュラ光Lrが発生していないと判断し、第1表層画像の画素値Aijおよび第1深層画像の画素値Bijを合成表層画像の画素値Eijおよび合成深層画像の画素値Fijとしてそれぞれ選択する(ステップS6)。
一方、絶対値|Aij-Cij|が所定の閾値Thよりも大きい場合(ステップS3のYES)、合成処理部72は、画素値Aijと画素値Cijとを比較することによって、スペキュラ光Lrが第1表層画像および第2表層画像のいずれで発生しているかを判断する(ステップS4)。
【0041】
スペキュラ光Lrが第1表層画像内に発生している場合、画素値Aijが画素値Cijよりも大きくなる。合成処理部72は、画素値Aijが画素値Cijよりも大きい場合(ステップS4のYES)、第2表層画像の画素値Cijを合成表層画像の画素値Eijとして選択し、第2深層画像の画素値Dijを合成深層画像の画素値Fijとして選択する(ステップS5)。
一方、スペキュラ光Lrが第2表層画像内に発生している場合、画素値AijがCijよりも小さくなる。合成処理部72は、画素値Aijが画素値Cijよりも小さい場合(ステップS4のNO)、第1表層画像の画素値Aijを合成表層画像の画素値Eijとして選択し、第1深層画像の画素値Bijを合成深層画像の画素値Fijとして選択する(ステップS6)。
【0042】
以上のステップS4~S6によって、第1表層画像からスペキュラ光Lrの領域が除去され、第2表層画像から、第1表層画像内のスペキュラ光Lrの領域と対応する領域が選択される。そして、スペキュラ光Lrの領域が除去された第1表層画像に第2表層画像から選択された領域が合成されることによって、合成表層画像が作成される。また、第1深層画像からノイズNの領域が除去され、第2深層画像から、第1深層画像内のノイズNの領域と対応する領域が選択される。そして、ノイズNの領域が除去された第1深層画像に第2深層画像から選択された領域が合成されることによって、合成深層画像が作成される。
【0043】
このように、本実施形態によれば、共通の照明部4からの照明光Lで照明されている生体組織Aを、相互に異なる位置に配置された2つの撮像部61,62によって撮像することで、スペキュラ光Lrの位置が相互に異なる第1照明画像および第2照明画像が取得される。そして、第1および第2照明画像から、スペキュラ光Lrに基づくノイズNの位置が相互に異なる第1深層画像および第2深層画像が作成される。また、第1および第2照明画像から、第1および第2深層画像内のノイズNと同一位置にそれぞれスペキュラ光Lrを含む第1および第2表層画像が作成される。
【0044】
これにより、照明光Lの高周波パターンのコントラストが低い場合に第1および第2深層画像内の発生するノイズNを、第1および第2表層画像の画素値に基づいて正確に検出し、ノイズNが除去された合成深層画像を第1および第2深層画像から合成することができるという利点がある。
【0045】
図7Aは、内視鏡2の先端面における照明部4と撮像部61,62の配置の他の例を示している。図7Aに示されるように、第1撮像部61および第2撮像部62は、照明部4の両側に配置されていてもよい。また、第1撮像部61と照明部4との間の距離と、第2撮像部62と照明部4との間の距離は、相互に異なっていてもよい。第1撮像部61および第2撮像部62の照明部4に対する距離および方向を相互に異ならせることによって、第1表層画像および第2表層画像との間、および、第1深層画像と第2深層画像との間で、スペキュラ光LrおよびノイズNの位置を確実に異ならせることができる。
【0046】
本実施形態においては、2つの撮像部61,62が設けられていることとしたが、これに代えて、3つ以上の撮像部が設けられていてもよい。図7Bは、内視鏡2の先端面における照明部4と3つの撮像部61,62,63の配置の一例を示している。図7Bに示されるように、3つの撮像部61,62,63の照明部4に対する距離および方向を相互に異ならせることによって、いずれの位置においてもいずれかの照明画像内でスペキュラ光Lrが発生していないような照明画像を確実に取得することができ、ノイズNを含まない合成深層画像を確実に作成することができる。
【0047】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る内視鏡システムについて図面を参照して説明する。
本実施形態においては、第1の実施形態と異なる構成について説明し、第1の実施形態と共通する構成については同一の符号を付して説明を省略する。
本実施形態に係る内視鏡システム10は、図8に示されるように、内視鏡2と、本体部3とを備えている。また、内視鏡システム10は、照明光L1,L2を内視鏡2の先端から体内の生体組織(被写体)Aに向けてそれぞれ射出する2つの照明部41,42と、強度分布変更部51,52と、照明光Lで照明されている生体組織Aの照明画像を取得する撮像部6と、画像処理部7とを備えている。
【0048】
第1照明部41および第2照明部42は、相互に異なる位置に配置されている。第1照明部41は、光源41a、マスク41b、集光レンズ41c、イメージガイドファイバ41dおよび投影レンズ41eを備えている。第2照明部42は、光源42a、マスク42b、集光レンズ42c、イメージガイドファイバ42dおよび投影レンズ42eを備えている。光源41a,42a、マスク41b,42b、集光レンズ41c,42c、イメージガイドファイバ41d,42dおよび投影レンズ41e,42eは、光源4a、マスク4b、集光レンズ4c、イメージガイドファイバ4dおよび投影レンズ4eとそれぞれ同様に構成されている。第1照明部41は、第1照明光L1を生成し、第1照明光L1を生体組織Aに照射する。第2照明部42は、第2照明光L2を生成し、第2照明光L2を生体組織Aに照射する。第1および第2照明光L1,L2は、照明光Lと同様である。第1照明部41および第2照明部42は、時分割で照明光L1,L2を生体組織Aに照射する。
【0049】
第1強度分布変更部51は、マスク41bを制御する制御素子であり、第1照明光L1の明暗パターンを時間変化させる。
第2強度分布変更部52は、マスク42bを制御する制御素子であり、第2照明光L2の明暗パターンを時間変化させる。
【0050】
撮像部6は、撮像レンズ6aと、撮像素子6bとを備えている。撮像レンズ6aおよび撮像素子6bは、撮像レンズ61aおよび撮像素子61bとそれぞれ同様に構成されている。撮像部6は、第1照明光L1で照明された生体組織Aの2枚の第1照明画像を撮像素子6bによって取得し、第2照明光L2で照明された生体組織Aの2枚の第2照明画像を撮像素子6bによって取得する。2枚の第1照明画像および2枚の第2照明画像は、撮像素子6bから画像処理部7に送信される。したがって、照明部41,42からの照明光L1,L2の射出のタイミングと、強度分布変更部51,52による強度分布の変更のタイミングと撮像素子6bによる撮影のタイミングとが互いに同期するように、照明部41,42、強度分布変更部51,52および撮像素子6bの動作は制御装置によって制御される。
【0051】
ここで、第1照明部41および第2照明部42は、相互に異なる位置に配置されている。したがって、生体組織Aの表面B上の同一位置で発生した第1照明光L1のスペキュラ光L1rと第2照明光L2のスペキュラ光L2rが、共通の撮像部6に入射することはない。したがって、第1の実施形態と同様に、第1照明画像内のスペキュラ光Lrの位置と第2照明画像内のスペキュラ光Lrの位置は、相互に異なる。
【0052】
分離処理部71は、第1の実施形態と同様にして、2枚の第1照明画像から第1表層画像および第1深層画像を作成し、2枚の第2照明画像から第2表層画像および第2深層画像を作成する。
合成処理部72は、第1の実施形態と同様にして、第1表層画像および第2表層画像から合成表層画像を作成し、第1深層画像および第2深層画像から合成深層画像を作成する。
【0053】
このように、本実施形態によれば、相互に異なる位置に配置された2つの照明部41,42からの照明光L1,L2で照明されている生体組織Aを共通の撮像部6によって撮像することで、スペキュラ光Lrの位置が相互に異なる第1照明画像および第2照明画が取得される。したがって、第1の実施形態と同様に、照明光Lの高周波パターンのコントラストが低い場合に第1および第2深層画像内の発生するノイズNを、第1および第2表層画像の画素値に基づいて正確に検出し、ノイズNが除去された合成深層画像を第1および第2深層画像から合成することができるという利点がある。
【0054】
図9Aは、内視鏡2の先端面における照明部41,42と撮像部6の配置の他の例を示している。図9Aに示されるように、第1照明部41および第2照明部42は、撮像部6の両側に配置されていてもよい。また、第1照明部41と撮像部6との間の距離と、第2照明部42と撮像部6との間の距離は、相互に異なっていてもよい。このように、第1照明部41および第2照明部42の撮像部6に対する距離および方向を相互に異ならせることによって、第1表層画像および第2表層画像との間、および、第1深層画像と第2深層画像との間で、スペキュラ光LrおよびノイズNの位置を確実に異ならせることができる。
【0055】
本実施形態においては、2つの照明部41,42が設けられていることとしたが、これに代えて、3つ以上の照明部が設けられていてもよい。図9Bは、内視鏡2の先端面における3つの照明部41,42,43と撮像部6の配置の一例を示している。図9Bに示されるように、3つの照明部41,42,43の撮像部6に対する距離および方向を相互に異ならせることによって、いずれの位置においてもいずれかの照明画像内でスペキュラ光Lrが発生していないような照明画像を確実に取得することができ、ノイズNを含まない合成深層画像を確実に作成することができる。
【0056】
第1および第2の実施形態においては、照明部4,41,42が、縞状の強度分布を有する照明光L,L1,L2で生体組織Aを照明することとしたが、照明光L,L1,L2の強度分布のパターンはこれに限定されず、明部と暗部とが空間的に繰り返される他の分布であってもよい。例えば、照明光L,L1,L2の強度分布は、市松模様、ドット、またはランダムドットであってもよい。
【0057】
第1および第2の実施形態においては、照明部4,41,42が、明暗パターンを有する照明光L,L1,L2を液晶素子4b,41b,42bによって生成し、強度分布変更部5,51,52が、液晶素子4b,41b,42bを制御することによって明暗パターンを変化させることとしたが、照明部4,41,42および強度分布変更部5,51,52の構成はこれに限定されるものではない。
【0058】
例えば、照明部4,41,42は、2つのレーザ光の干渉縞を明暗パターンとして利用し、強度分布変更部5,51,52は、2つのレーザ光のうち一方の光路長を変化させることによって、干渉縞の位置を照明光の光軸に直交する方向にシフトさせてもよい。
あるいは、照明部4,41,42は、明暗パターンに対応する投影パターンが形成されたマスクに光を透過させることによって、影絵のようにして明暗パターンを生体組織Aの表面B上に形成してもよい。この場合、強度分布変更部5,51,52は、マスクと、該マスクに向かって光を射出する発光部とを、明部および暗部の幅方向に相対移動させることによって、強度分布を時間変化させる。
【0059】
第1および第2の実施形態においては、強度分布変更部5,51,52が、照明光L,L1,L2の強度分布を、明部および暗部が相互に反転した2つの明暗パターンの間で連続的に変化させてもよい。
明暗パターンを連続的に変化させる場合、撮像部61,62,6は、明部および暗部の位置が相互に異なる3つ以上の時刻で撮影を実行し、明部の投影領域および暗部の投影領域の位置が相互に異なる3枚以上の照明画像を取得してもよい。分離処理部71は、3枚以上の照明画像から表層画像および深層画像を作成してもよい。この場合、各位置の画素について3つ以上の強度値が得られるので、最大強度値をImaxとして、最小強度値をIminとして用いて、強度値Is,Idが算出される。
【0060】
第1および第2の実施形態においては、生体組織Aの表面B上に投影される明暗パターンが生体組織Aと撮像部61,62,6との間の撮影距離に比例して拡大されるように、照明部4,41,42が、発散光束の照明光L,L1,L2を生体組織Aに向けて射出することが好ましい。
図5に示されるように、表層画像と深層画像との分離深さは、生体組織Aの表面B上での暗部の幅Wdに依存する。分離深さとは、表層画像に含まれる情報の深さと深層画像に含まれる情報の深さとの大まかな境目である。暗部の幅Wdが大きい程、分離深さが深くなり、より深い位置の情報が強調された深層画像が得られる。したがって、撮影距離を変更して生体組織Aの表面B上での明暗パターンを拡大または縮小することで、異なる深さの情報が強調された深層画像を取得することができる。
【0061】
第1および第2の実施形態においては、生体組織Aと撮像部6,61,62との間の撮影距離を計測する撮影距離計測部をさらに備え、強度分布変更部5,51,52が、撮影距離に依らずに生体組織Aの表面B上での明部と暗部との空間的な周期が一定に維持されるように、撮影距離に基づいて明暗パターンにおける明部と暗部との空間的な周期を調整してもよい。
このようにすることで、撮影距離に依らずに、所定の深さの情報を含む合成深層画像を作成することができる。
撮影距離計測部としては、生体組織Aに非接触で撮影距離を計測することができる公知の任意の手段を採用することができる。
【0062】
第1および第2の実施形態においては、照明部4,41,42が、波長が互いに異なる複数の光から構成された照明光L,L1,L2で生体組織Aを照明してもよい。例えば、照明光L,L1,L2は、赤、緑および青の3つの光が混合された白色光であってもよい。
波長が互いに異なる複数の光を照明光L,L1,L2として使用する場合、波長が長い程、明部と暗部との周期が小さくなるように、波長に応じて各光の強度分布を異ならせてもよい。
【0063】
一般に、光は、波長が短い程、散乱体によって強く散乱される。したがって、赤い光に比べて青い光は生体組織Aの深層Dまで届き難く、青い光の内部散乱光に含まれる情報は、赤い光の内部散乱光に比べて浅い位置の情報となる。そこで、波長が長い程、明部と暗部との周期を小さくすることで、赤、緑および青の光のいずれの内部散乱光も同一の深さの情報を有するように、各色の内部散乱光に含まれる情報の深さを制御することができる。
【符号の説明】
【0064】
1,10 内視鏡システム
2 内視鏡
3 本体部
4,41,42 照明部
5,51,52 強度分布変更部
6,61,62 撮像部
7 画像処理部
71 分離処理部
72 合成処理部
Lr スペキュラ光
N ノイズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B