(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】CFRPシート、CFRPシートを用いた積層体、及びCFRPシートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20220805BHJP
B32B 5/00 20060101ALI20220805BHJP
B29C 43/20 20060101ALI20220805BHJP
B29C 43/14 20060101ALI20220805BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20220805BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20220805BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20220805BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220805BHJP
B29L 9/00 20060101ALN20220805BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220805BHJP
【FI】
B32B27/12
B32B5/00 A
B29C43/20
B29C43/14
B29C70/16
B29C70/42
B29K101:12
B29K105:08
B29L9:00
B29L7:00
(21)【出願番号】P 2020529015
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2019026365
(87)【国際公開番号】W WO2020009125
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2018126966
(32)【優先日】2018-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230124763
【氏名又は名称】戸川 委久子
(74)【代理人】
【識別番号】100224742
【氏名又は名称】岩堀 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
(72)【発明者】
【氏名】兼岩 秀和
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/017080(WO,A1)
【文献】特開平11-348191(JP,A)
【文献】特開平10-138354(JP,A)
【文献】特開平03-270907(JP,A)
【文献】特開平09-109310(JP,A)
【文献】国際公開第2008/038591(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/110616(WO,A1)
【文献】特開昭58-140253(JP,A)
【文献】特開昭53-064292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 43/00-43/34,
43/44-43/48,
43/52-43/58,
70/00-70/88
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの層であるCFRP層(S)の一方の面に熱可塑性樹脂からなる透明樹脂層(C)が形成されて成るCFRPシートにおいて、
前記CFRP層(S)が、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂(M)により接着一体化して成る複数のUDシート片を、各シート片の繊維方向をランダムに配向させた状態で、かつ、各シート片同士が重なり合うように二次元方向に並べた状態でマトリックス樹脂(M)により接着して形成されている一方、
前記CFRP層(S)において重なり合うように二次元方向に並べられた複数のUDシート片のうち、前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れているUDシート片は矩形状であるのに対し、
前記透明樹脂層側の表面側には、前記裏面側に現れているUDシート片よりも平均厚みが小さく、かつ、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪んだUDシート片が、前記表面側に現れているUDシート片全体の30%以上の割合で現れていることを特徴とするCFRPシート。
【請求項2】
一つの層であるCFRP層(S)の一方の面に熱可塑性樹脂からなる透明樹脂層(C)が形成されて成るCFRPシートにおいて、
前記CFRP層(S)が、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂(M)により接着一体化して成る複数のUDシート片を、各シート片の繊維方向をランダムに配向させた状態で、かつ、各シート片同士が重なり合うように二次元方向に並べた状態でマトリックス樹脂(M)により接着して形成されている一方、
前記CFRP層(S) において重なり合うように二次元方向に並べられた複数のUDシート片のうち、前記透明樹脂層側である表面側に現れているUDシート片、及び前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れているUDシート片には炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪んだUDシート片が含まれ、
前記表面側に現れているUDシート片に含まれる非矩形状に歪んだUDシート片は、前記表面側に現れているUDシート片全体の30%以上の割合となっていることを特徴とするCFRPシート。
【請求項3】
CFRP層(S)の表面側に現れているUDシート片(P)の一つ当たりの平均面積が、裏面側に現れているUDシート片(Q)の平均面積よりも大きいことを特徴とする請求項1または2に記載のCFRPシート。
【請求項4】
CFRP層(S)の表面側に現れているUDシート片(P)における並列する炭素繊維同士が部分的に分離した解け部(L)の割合が、裏面側に現れているUDシート片(Q)よりも大きいことを特徴とする請求項1~3の何れか一つに記載のCFRPシート。
【請求項5】
CFRPシートの製造方法において、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂により接着一体化したUDシートを矩形状に裁断して二次元方向に並べた複数のUDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムとをロール成形して仮接着することにより、或いは二次元方向に並べた前記複数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融した熱可塑性樹脂をコーティングして熱プレスすることによりCFRP層と透明樹脂層が一体となった中間シート材を作製した後、
この中間シート材を更に熱プレスすることにより、前記透明樹脂層側である表面側に現れるUDシート片全体の30%以上を、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪ませ、
前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れるUDシート片を、矩形状のUDシート片
とすることを特徴とするCFRPシートの製造方法。
【請求項6】
CFRPシートの製造方法において、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂により接着一体化したUDシートを矩形状に裁断して二次元方向に並べた複数のUDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムとをロール成形して仮接着することにより、或いは二次元方向に並べた前記複数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融した熱可塑性樹脂をコーティングして熱プレスすることによりCFRP層と透明樹脂層が一体となった中間シート材を作製した後、
この中間シート材を更に熱プレスすることにより、前記透明樹脂層側である表面側に現れるUDシート片全体の30%以上を、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪ませ、
前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れるUDシート片を、前記非矩形状に歪んだUDシート片を含むUDシート片とすることを特徴とするCFRPシートの製造方法。
【請求項7】
中間シート材に対する熱プレスの加圧力を、UDシート片と樹脂フィルムを仮接着する際のロール成形の加圧力、或いは溶融樹脂がコーティングされたUDシート片に対する熱プレスの加圧力よりも大きくすることを特徴とする
請求項5または6記載のCFRPシートの製造方法。
【請求項8】
CFRPシートの製造方法において、
長さ方向に揃えて配列した連続繊維状の
複数の炭素繊維と熱可塑性樹脂とをロール成形することにより炭素繊維同士を
前記熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂により接着
一体化してUDシートを作製すると共に、このUDシートを矩形状に裁断して作製されたUDシート片を透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム上に二次元方向に配置して、或いは二次元方向に並べた前記複数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融した熱可塑性樹脂をコーティングして加熱圧縮成形することにより、前記透明樹脂層側である表面側に現れるUDシート片全体の30%以上を、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪ませ、
前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れるUDシート片を、矩形状のUDシート片
とすることを特徴とするCFRPシートの製造方法。
【請求項9】
CFRPシートの製造方法において、長さ方向に揃えて配列した連続繊維状の複数の炭素繊維と熱可塑性樹脂とをロール成形することにより炭素繊維同士を前記熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂により接着一体化してUDシートを作製すると共に、このUDシートを矩形状に裁断して作製されたUDシート片を透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム上に二次元方向に配置して、或いは二次元方向に並べた前記複数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融した熱可塑性樹脂をコーティングして加熱圧縮成形することにより、前記透明樹脂層側である表面側に現れるUDシート片全体の30%以上を、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪ませ、
前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れるUDシート片を、前記非矩形状に歪んだUDシート片を含むUDシート片とすることを特徴とするCFRPシートの製造方法。
【請求項10】
樹脂フィルムの目付量が、UDシート片全体の目付量に対して5%以上の大きさであることを特徴とする
請求項5~9の何れか一つに記載のCFRPシートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFRPシートの改良、詳しくは、意匠性に優れたCFRPシート、及びそれを用いた積層体、及び前記CFRPシートの効率的な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、強化繊維材料である炭素繊維とマトリックス樹脂から構成される炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、その優れた機能性から様々な用途で利用されている。またCFRPシートとしては、連続繊維状の炭素繊維束を縦横に配向したものや炭素繊維束を平織りしたものにマトリックス樹脂を含浸させて形成したものが広く知られている。
【0003】
しかしながら、上記従来のCFRPシートに関しては、CFRPシートを熱プレス加工により任意の形状に成形する際、シート全体にわたって伸びる連続繊維状の炭素繊維束がプレス金型への追従性を阻害する要因となって賦形性の悪化を招き、結果として成形を行える形状が限定されてしまうという欠点があった。
【0004】
そこで、従来においては、長さ方向に揃えて配列した炭素繊維束をマトリックス樹脂で接着一体化したUDシートを短冊状に細かく裁断し、この裁断した短冊状のUDシート片を二次元方向に並べて熱プレスにより一体化することでシート状にしたCFRPシートも開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記従来のCFRPシートは、表面に短冊状(矩形状)のUDシート片が並んだだけの外観であり、一つ一つのUDシート片の形状に大きな違いがなかったため、表面の外観が単調なデザインになり易かった。そのため、意匠性が求められる化粧シート等の用途でCFRPシートが使用されることは殆どなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、引張り強度等の機械的強度に優れるだけでなく可視面の意匠性にも優れたCFRPシート、及びそれを用いた積層体、及び前記CFRPシートの効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者が上記課題を解決するために採用した手段を添付図面を参照して説明すれば次のとおりである。
【0009】
即ち、本発明は、一つの層であるCFRP層Sの一方の面に熱可塑性樹脂からなる透明樹脂層Cを形成してCFRPシートを構成すると共に、前記CFRP層Sを、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂Mにより接着一体化して成る複数のUDシート片を、各シート片の繊維方向をランダムに配向させた状態で、かつ、各シート片同士が重なり合うように二次元方向に並べた状態でマトリックス樹脂Mにより接着して形成する一方、前記CFRP層Sにおいて重なり合うように二次元方向に並べられた複数のUDシート片のうち、前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れているUDシート片を矩形状とするのに対し、前記透明樹脂層側の表面側には、前記裏面側に現れているUDシート片よりも平均厚みが小さく、かつ、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪んだUDシート片を、前記表面側に現れているUDシート片全体の30%以上の割合で現れている構成とした点に特徴がある。
【0010】
なお本明細書中において、「非矩形状」とはUDシート片の幅寸法(炭素繊維の長さ方向に対して垂直方向の寸法)の最大値と最小値の差が幅寸法の最大値の10%以上の大きさとなっているもの、またはUDシート片の長さ寸法(炭素繊維の長さ方向に対して平行方向の寸法)の最大値と最小値の差が長さ寸法の最大値の10%以上の大きさとなっているものを指す。
【0011】
また本発明は、一つの層であるCFRP層Sの一方の面に熱可塑性樹脂からなる透明樹脂層Cが形成されて成るCFRPシートにおいて、前記CFRP層Sが、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂Mにより接着一体化して成る複数のUDシート片を、各シート片の繊維方向をランダムに配向させた状態で、かつ、各シート片同士が重なり合うように二次元方向に並べた状態でマトリックス樹脂Mにより接着して形成する一方、前記CFRP層(S) において重なり合うように二次元方向に並べられた複数のUDシート片のうち、前記透明樹脂層側である表面側に現れているUDシート片、及び前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れているUDシート片には、非矩形状に歪んだUDシート片が含まれ、前記表面側に現れているUDシート片に含まれる非矩形状に歪んだUDシート片を、前記表面側に現れているUDシート片全体の30%以上の割合となるように構成することもできる。
【0012】
また本発明においては、上記CFRP層Sの表面側に現れている非矩形状に歪んだUDシート片Pの割合が30%以上(好ましくは50%以上)とすることで独特の外観の意匠性に優れたCFRPシートを形成することができる。
【0013】
一方、本発明においては、上記CFRP層Sの表面側に現れているUDシート片Pの一つ当たりの平均面積を、裏面側に現れているUDシート片Qの平均面積よりも大きくすることで表面側に現れているUDシート片Pの形状の歪みを大きくして意匠効果を高めることができる。
【0014】
また本発明では、上記CFRP層Sの表面側に現れているUDシート片Pにおける並列する炭素繊維同士が部分的に分離した解け部Lの割合を、裏面側に現れているUDシート片Qよりも大きくすることで、表面側に現れているUDシート片Pの形状の歪みを大きくして意匠効果を高めることができる。
【0015】
また本発明では、上記CFRP層Sのマトリックス樹脂に、透明樹脂層Cの熱可塑性樹脂と密着性を有する熱可塑性樹脂を使用することで、透明樹脂層Cの形成時に表面側に現れているUDシート片Pを解け易くすることができる。
【0016】
また本発明では、上記CFRPシートを同種材料または異種材料の表面に積層一体化することにより独特の外観の意匠性に優れた積層体を構成できる。
【0017】
また本発明では、上記CFRPシートの製造方法として、連続繊維状の複数の炭素繊維を長さ方向に揃えて配列した状態で熱可塑性樹脂のマトリックス樹脂により接着一体化したUDシートを矩形状に裁断して二次元方向に並べた複数のUDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルムとをロール成形して仮接着することにより、或いは二次元方向に並べた前記複数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融した熱可塑性樹脂をコーティングして熱プレスすることによりCFRP層と透明樹脂層が一体となった中間シート材を作製した後、この中間シート材を更に熱プレスすることにより、前記透明樹脂層側である表面側に現れるUDシート片全体の30%以上を、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪ませ、前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れるUDシート片を、矩形状のUDシート片、または前記非矩形状に歪んだUDシート片を含むUDシート片とする方法を採用することができる。
【0018】
また上記製造方法においては、中間シート材に対する熱プレスの加圧力を、UDシート片と樹脂フィルムを仮接着する際のロール成形の加圧力、或いは溶融樹脂がコーティングされたUDシート片に対する熱プレスの加圧力よりも大きくするのが好ましい。
【0019】
一方、本発明では、上記製造方法の代わりに、CFRPシートの製造方法において、長さ方向に揃えて配列した連続繊維状の複数の炭素繊維と熱可塑性樹脂とをロール成形することにより炭素繊維同士を前記熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂により接着一体化してUDシートを作製すると共に、このUDシートを矩形状に裁断して作製されたUDシート片を透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂からなる樹脂フィルム上に二次元方向に配置して、或いは二次元方向に並べた前記複数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融した熱可塑性樹脂をコーティングして加熱圧縮成形することにより、前記透明樹脂層側である表面側に現れるUDシート片全体の30%以上を、炭素繊維の長さ方向の寸法の最大値と最小値の差が前記長さ方向の寸法の最大値の10%以上または炭素繊維の長さ方向と垂直方向の寸法の最大値と最小値の差が前記垂直方向の寸法の最大値の10%以上の大きさとなっている非矩形状に歪ませ、前記透明樹脂層側の反対面である裏面側に現れるUDシート片を、矩形状のUDシート片、または前記非矩形状に歪んだUDシート片を含むUDシート片とする方法を採用することもできる。
【0020】
また上記製造方法においては、樹脂フィルムとUDシート片に対する加熱圧縮成形の加圧力、或いは溶融樹脂がコーティングされたUDシート片に対する加熱圧縮成形の加圧力を、UDシート作製時のロール成形の加圧力よりも大きくするのが好ましい。
【0021】
また本発明では、上記製造方法において、表面の意匠性を高めるために樹脂フィルムの目付量を、UDシート片全体の目付量に対して5%以上の大きさとするのが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、多数のUDシート片を、各シート片の繊維方向をランダムに配向させた状態で、かつ、各シート片同士が重なり合うように二次元方向に並べた状態で接着してCFRPシートを作製すると共に、表面側に現れているUDシート片に非矩形状に歪んだUDシート片を含んで構成したことにより、シート表面に独特の外観を付与することができる。
【0023】
また本発明では、上記CFRPシートの裏面側に現れているUDシート片を、表面側に現れているUDシート片よりも厚みが大きく、かつ、形状が均一な矩形状のUDシート片から構成しているため、CFRPシートの引張り強度等が大きく損なわれる心配はなく、意匠性と機械的強度を両立することができる。
【0024】
したがって、本発明により、補強シート等としても問題なく使用することができ、しかも、意匠性が求められる表面シート等としても好適に使用できるCFRPシートを提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第一実施形態のCFRPシートの積層構造を表す概略断面図である。
【
図2】本発明の第一実施形態のCFRP層の構造を表す概略断面図及び概略平面図である。
【
図3】本発明の第一実施形態の表面層のUDシート片と、裏面層または中間層のUDシート片を表す概略図である。
【
図4】本発明の第二実施形態のCFRP層の構造を表す概略断面図及び概略平面図である。
【
図5】本発明の効果の実証試験における実施例の外観を表した写真である。
【
図6】本発明の効果の実証試験における比較例の外観を表した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
『第一実施形態』
以降の説明では、「表面」を「表面層」と記載し、「裏面」を「裏面層」と記載する。
本発明の第一実施形態について
図1、図2及び図4に基づいて以下に説明する。なお図中、符号Sで指示するのものは、シート本体であり、符号Mで指示するものは、マトリックス樹脂である。また符号Pで指示するものは、表面層のUDシート片であり、符号Qで指示するものは、内側層のUDシート片である。また符号Fで指示するものは、炭素繊維である。
【0027】
「CFRPシートの構成」
[1]CFRPシートの基本構成について
まず本実施形態では、
図1に示すように、CFRP層Sとその可視面側となる表面層の外側に透明樹脂層Cを形成してシート本体を構成している。またCFRP層Sは、
図2(a)(b)(c)に示すように、多数のUDシート片P・Qをシート片同士が重なり合うように二次元方向に並べ、更にUDシート片P・Qの繊維方向をランダムに配向させた(UDシート片の繊維方向の向きがバラバラになるように並べた)炭素繊維材料を、マトリックス樹脂Mにより接着一体化して形成している。
【0028】
また上記CFRP層SのUDシート片P・Qには、
図4(a)(b)に示すように連続繊維状の炭素繊維F・F…を長さ方向に揃えて配列した状態でマトリックス樹脂Mにより接着一体化したものを使用している。またCFRP層Sの非可視面となる裏面層または中間層については、
図4(b)に示す矩形状のUDシート片Q・Q…を並べて構成する一方、CFRP層Sの表面層については、
図4(a)に示す裏面層または中間層のUDシート片Qよりも平均厚みが小さいUDシート片P・P…を並べて構成し、少なくともその一部に非矩形状に歪んだシート片が含まれるようにしている。
【0029】
上記のようにシート本体を構成することにより、裏面層や中間層の比較的厚みの大きいUDシート片Q・Q…によってCFRP層Sの機械的強度を確保しつつ、比較的厚みが小さく形状が不均一な表面層のUDシート片P・P…によって、
図2(b)に示すようにシート本体に独特の外観を付与することができる。またCFRP層Sの表面層の外側に形成した透明樹脂層Cによってシート本体の表面の平滑性を向上させることもでき、またCFRP層Sの保護効果や光学的な視覚効果を付与することもできる。
【0030】
[2]CFRP層の炭素繊維材料について
次に上記シート本体の各構成要素について説明する。まず上記CFRP層SのUDシート片P・Qを構成する連続繊維状の炭素繊維Fに関しては、本実施形態ではフィラメントをストランド状に束ねた炭素繊維束(トウ)を使用している。また本実施形態では、炭素繊維FにPAN系炭素繊維を使用しているが、ピッチ系炭素繊維を使用することもできる。なお炭素繊維束を構成するフィラメントの本数は強度等に応じて任意に変更できる。
【0031】
[3]CFRP層のマトリックス樹脂について
また上記CFRP層Sのマトリックス樹脂Mに関しては、本実施形態ではポリアミド系樹脂(ナイロン樹脂)を使用しているが、これに限らず炭素繊維材料に対して含浸性を有する他の熱可塑性樹脂(アクリル樹脂やポリエステル、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂、ポリフェニレンサルファイド等)や、熱硬化性樹脂を使用することもできる。
【0032】
またCFRP層Sと透明樹脂層Cを熱プレスにより一体化する場合(詳しくは後述する)には、CFRP層Sのマトリックス樹脂に、透明樹脂層Cの熱可塑性樹脂と密着性を有する熱可塑性樹脂を使用することで、熱プレス時に表面層のUDシート片Pを解け易くすることができる。
【0033】
[4]UDシート片の形状について
[4-1]表面層のUDシート片の形状
また上記CFRP層Sの表面層のUDシート片Pに関しては、本実施形態では意匠効果を高めるために非矩形状に歪んだUDシート片Pの割合を30%以上にしている。なお非矩形状のUDシート片Pについては、
図4(a)に示すようにUDシート片の長さ寸法の最大値X1と最小値X2の差が最大値X1の10%以上の大きさとなるもの、または幅寸法の最大値Y1と最小値Y2の差が最大値Y1の10%以上となるものを指す。
【0034】
また上記表面層のUDシート片Pの厚みに関しては、本実施形態では表面層のUDシート片Pの形状の歪みが大きくなるように平均厚みが裏面層または中間層のUDシート片Qの平均厚みの半分程度となるようにしている。また本実施形態では、UDシート片Pの幅寸法の最大値Y1の平均値を平均幅として、この平均幅が裏面層または中間層のUDシート片Qの平均幅の1.5倍以上となるようにしている。また本実施形態では、上記表面層のUDシート片Pの一つ当たりの平均面積が、内側層のUDシート片Qの平均面積よりも大きくなるようにしている。
【0035】
また本実施形態では、上記表面層のUDシート片Pの形状の歪みが大きくなるように、表面層のUDシート片Pの平均幅が、裏面層または中間層のUDシート片Qの平均幅よりも大きくなるようにしている。また同様の目的で、表面層のUDシート片Pの並列する炭素繊維F同士が部分的に分離した解け部Lの割合が裏面層または中間層のUDシート片Qよりも大きくなるようにしている。
【0036】
[4-2]裏面層または中間層のUDシート片の形状
また上記CFRP層Sの裏面層または中間層のUDシート片Qに関しては、本実施形態では幅W5mm×長さL20mmのものを使用しているが、強度や賦形性を考慮して幅W2mm~20mm(好ましくは5mm~10mm)、長さL5mm~70mm(好ましくは10mm~30mm)、幅Wと長さLの比率1:1~1:6の矩形状のものを使用するのが好ましい。なお本明細書中においては、炭素繊維Fの長さ方向に沿った方向をUDシート片Pの長さ方向とし、それに垂直な方向を幅方向とする。また裏面層または中間層のUDシート片Qの厚みに関しては、40μm~100μmの範囲とするのが好ましい。
【0037】
[4-3]UDシート片の重ね枚数
また本実施形態では、上記CFRP層S中に積層するUDシート片P・Qの厚さ方向の平均枚数を、5.0枚~8.0枚の範囲に設計しているが、シート本体の強度に応じて任意の枚数で設計することができる。またCFRP層Sの厚みに関しては、0.3mm~1.0mmの範囲で設計するのが好ましいが、これよりも厚い板状に形成することもできる。
【0038】
[5]CFRP層の表面層・裏面層・中間層について
また上記CFRP層Sの可視面となる表面層については、本実施形態ではシート本体の片面のみに形成しているが、シート本体の両面に形成することもできる。その場合、CFRP層Sの裏面層は存在せず表面層と中間層のみで構成される。またCFRP層Sの厚みが非常に小さい場合には、中間層が存在せず表面層と裏面層のみで構成されるケースもあり得る。
【0039】
[6]透明樹脂層について
[6-1]透明樹脂層の材料
また上記透明樹脂層Cの材料については、本実施形態ではポリアミド系樹脂を使用しているが、これに限らず炭素繊維材料に対して含浸性を有する他の熱可塑性樹脂(アクリル樹脂やPET、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエーテルイミド、フッ素系樹脂、ポリフェニレンサルファイド等)や、熱硬化性樹脂を使用することもできる。また透明樹脂層Cは、無色透明なものだけでなく若干色が付いた半透明のものも含まれる。
【0040】
[6-2]透明樹脂層の厚み
また透明樹脂層Cの厚みについては、CFRP層Sの厚みが小さい場合、材料として使用する樹脂フィルムの目付量を、UDシート片全体の目付量に対して5%以上(より好ましくは5~100%、更に好ましくは10~50%)の大きさとするのが好ましい。なおCFRP層Sの厚みが大きい場合(分厚い板状に形成する場合)には、樹脂フィルムの目付量をUDシート片全体の目付量に対して5%よりも小さくすることもできる。
【0041】
「CFRPシートの製造方法(i)」
次に上記CFRPシートの製造方法(i)について説明する。本製法においては、まずUDシートを裁断して均一な矩形状のUDシート片を作製した後、二次元方向に並べた多数のUDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂フィルムとをロール成形することにより両者を仮接着して、CFRP層と透明樹脂層が一体となった中間シート材を作製する。そしてロール成形により作製された中間シート材を、更に熱プレスして表面層のUDシート片を歪ませた後、冷却プレスを行う。
【0042】
なお上記表面層のUDシート片が歪む原理については、CFRP層表面の微細な凹凸に溶融した透明樹脂が流動(変形)して入り込む際に、加熱により結合力が弱まったUDシート片の炭素繊維がつられて移動することで生じるものと推測される。また上記熱プレス時に炭素繊維同士の結合力が弱まったUDシート片が潰されて炭素繊維が幅方向に移動することで、表面層のUDシート片の厚みが裏面層または中間層のUDシート片の厚みよりも小さくなり、かつ、表面層のUDシート片の幅寸法が裏面層または中間層のUDシート片の幅寸法よりも大きくなる。
【0043】
また本製法では、上記中間シート材に対する熱プレスの加圧力を、UDシート片と樹脂フィルムを仮接着する際のロール成形の加圧力よりも大きくすることにより、透明樹脂の流動性(変形性)を高めて表面層のUDシート片の形状を大きく歪曲させている。また中間シート材に対する熱プレスの加圧力を高めることで、表面層のUDシート片により多くの解け部を形成することができる。
【0044】
また本製法においては、上記のように透明樹脂層の材料に熱可塑性樹脂フィルムを使用しているが、樹脂フィルムの代わりに粒状または短繊維状の熱可塑性樹脂を積層してUDシート片に仮接着し、これらを熱プレスして透明樹脂層を形成することもでき、その場合にも上記と同様、表面層のUDシート片を歪ませることができる。また上記樹脂フィルムの目付量は、UDシート片全体の目付量に対して5%以上(より好ましくは5~100%、更に好ましくは10~50%)の大きさとするのが好ましい。
【0045】
また上記中間シート材の作製方法については、必ずしも樹脂フィルムを使用する必要はなく、二次元方向に並べた多数のUDシート片に対し、透明樹脂層の材料である溶融樹脂をコーティングして熱プレスすることによりCFRP層と透明樹脂層が一体となった中間シート材を作製することもできる。またその場合には、中間シート材に対する熱プレスの加圧力を、溶融樹脂がコーティングされたUDシート片に対する熱プレスの加圧力よりも大きくするのが好ましい。
【0046】
「CFRPシートの製造方法(ii)」
次に上記CFRPシートの製造方法(ii)について説明する。本製法においては、連続繊維状の炭素繊維と熱可塑性樹脂とをロール成形することにより炭素繊維同士を接着してUDシートを作製すると共に、このUDシートを裁断して均一な矩形状のUDシート片を作製する。その後、透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂フィルム上にUDシート片を二次元方向に並べて配置し、これらを加熱圧縮成形(スタンパブル成形等)することにより表面層のUDシート片を歪ませてシート本体を製造する。
【0047】
また本製法では、上記樹脂フィルムとUDシート片に対する加熱圧縮成形の加圧力を、UDシート作製時のロール成形の加圧力よりも大きくすることにより、透明樹脂の流動性(変形性)を高めて表面層のUDシート片の形状を大きく歪曲させている。また樹脂フィルムとUDシート片に対する加熱圧縮成形の加圧力を高めることで、表面層のUDシート片により多くの解け部を形成することができる。
【0048】
また本製法においては、上記熱可塑性樹脂フィルムの代わりに粒状または短繊維状の熱可塑性樹脂を積層して透明樹脂層を形成することもでき、その場合にも上記と同様、表面層のUDシート片を歪ませることができる。また上記樹脂フィルムの目付量は、UDシート片全体の目付量に対して5%以上(より好ましくは5~100%、更に好ましくは10~50%)の大きさとするのが好ましい。
【0049】
また上記加熱圧縮成形に関しては、必ずしも樹脂フィルムを使用する必要はなく、層状に並べた多数のUDシート片に透明樹脂層の材料である溶融樹脂をコーティングしたものに対して行うこともできる。
【0050】
『第二実施形態』
[1]CFRPシートの基本構成について
まず本実施形態では、
図3(a)(b)(c)に示すように、UDシート片P・Qの重ね枚数を減らしてCFRP層Sを薄く形成すると共に、CFRP層Sの表面層及び裏面層のUDシート片P・Q…の両方に非矩形状に歪んだシート片が含まれるように構成している。また本実施形態では、上記CFRP層Sの表面層におけるUDシート片Pの一つ当たりの平均面積が、裏面層のUDシート片Qの平均面積よりも大きくなるようにしている。
【0051】
また上記CFRP層Sについては、透明樹脂が裏面層まで入り込むように厚さ0.1mm~0.2mm(UDシート片P・Qの平均重ね枚数2枚~4枚)の範囲内とするのが好ましい。また上記CFRP層Sの表面層のUDシート片Pは、非矩形状に歪んだUDシート片Pの割合が30%以上(好ましくは50%以上)とするのが好ましい。
【0052】
上記のようにシート本体を構成することにより、シート本体に独特の外観を付与することができる。またCFRP層Sの表面層の外側に形成した透明樹脂層Cによってシート本体の表面の平滑性を向上させることもでき、またCFRP層Sの保護効果や光学的な視覚効果を付与できる。なおその他の構成および製造方法については、第一実施形態と同様である。
【0053】
『第三実施形態』
「CFRPシートを用いた積層体の構成」
次に本発明の第三実施形態について説明する。本実施形態では、第一実施形態のCFRPシートをプラスチック材料の表面に熱プレスで積層一体化することにより表面の意匠性に優れた積層体を構成している(図示せず)。またCFRPシートを積層する対象としては、プラスチック材料だけでなく同種のCFRP材料や金属等の異種材料を採用することもできる。
【実施例】
【0054】
[効果の実証試験(i)]
次に本発明の効果の実証試験(i)について説明する。本試験では、透明樹脂層の有無および表面層のUDシート片の非矩形状の割合および幅寸法が異なるCFRPシートのサンプルを複数作製し、これら各サンプル(下記の実施例1及び比較例1~2)の外観を評価した。
【0055】
「実施例1」
本実施例では、第一実施形態の構成から成るCFRPシートにおいて、CFRP層のマトリックス樹脂および透明樹脂層の熱可塑性樹脂にそれぞれポリアミド系樹脂(ナイロン6)を使用し、製造方法(i)の方法によってサンプルの作製を行った。また本実施例では、仮接着時のロール成形の加圧力(中間シート材を製造する際の加圧力)を0.2~0.4MPaとし、中間シート材に対する熱プレスの加圧力(中間シート材からシート本体を製造する際の加圧力)を3MPaとした。
【0056】
そして、上記CFRP層の表面層の一部(10cm×10cm=100cm
2)を目視確認したところ、表面層における非矩形状のUDシート片の割合は100%であり、またUDシート片の幅寸法が成形前の状態から1.5倍以上の大きさまで拡大したものの割合も100%であった。その結果、
図5に示す外観となり独特の外観を有する意匠性の高いサンプルを作製できた。
【0057】
「比較例1」
本比較例では、
前記実施例において、CFRP層の裏面層の一部(10cm×10cm=100cm
2)を目視で確認したところ、裏面層における非矩形状のUDシート片の割合は24%に留まり、UDシート片の幅寸法が1.5倍以上の大きさまで拡大したものの割合も18%に留まった。その結果、
図6(a)に示す外観となり
、裏面層においてはサンプルの意匠効果を充分に高めることができなかった。
【0058】
「比較例2」
本比較例では、透明樹脂層を有しないCFRP層のみから成るCFRPシートにおいて、CFRP層のマトリックス樹脂にポリアミド系樹脂(ナイロン6)を使用し、UDシート片を熱プレス加工してサンプルの作製を行った。そして、CFRP層の表面層の一部(10cm×10cm=100cm2)を目視確認したところ、表面層における非矩形状のUDシート片の割合は0%であり、UDシート片の幅寸法が成形前の状態から1.5倍以上の大きさまで拡大したものの割合も0%であった。その結果、
図6(b)に示す外観となりサンプルの意匠効果を充分に高めることができなかった。
【0059】
<試験結果>
上記実施例1及び比較例1~2についての試験結果をまとめると、実施例1のサンプルは
表面層の意匠性を充分に高めることができたのに対し、比較例1~2のサンプルは
表面層の意匠性を充分に高めることができなかった。各サンプルの条件と試験結果をまとめた表を以下に示す。
【表1】
【0060】
[効果の実証試験(ii)]
次に本発明の効果の実証試験(ii)について説明する。本試験では、材料として使用するUDシート片の幅寸法、Vf値が異なるCFRPシートのサンプルを複数作製し、これら各サンプル(下記の実施例1~3)の外観を評価した。
【0061】
「実施例1」
本実施例では、第二実施形態の構成から成るCFRPシートにおいて、CFRP層のマトリックス樹脂および透明樹脂層の熱可塑性樹脂にそれぞれポリアミド系樹脂(ナイロン6)を使用し、製造方法(i)によってサンプルの作製を行った。また本実施例では、材料として寸法が幅5mm×長さ20mm×厚さ0.043mm、Vf53%のUDシート片を使用した。
【0062】
また本実施例では、二次元方向に並べた上記UDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂フィルムとをロール温度270℃、ロール加圧力0.5MPaの条件でロール成形し、目付150g/m2、厚み0.15mm、Vf43.3%の中間シート材を作製した。そして、この中間シート材に対して金型温度270℃、加圧力3MPa、加圧時間0.5minの条件下で熱プレスを行った後、金型温度30℃、加圧力5MPa、加圧時間3minの条件下で冷却プレスを行って寸法が幅381mm×長さ277mm×厚さ0.12mm、Vf43.3%のシート本体を作製した。その結果、独特の外観を有する意匠性の高いサンプルを作製できた。
【0063】
「実施例2」
本実施例では、第二実施形態の構成から成るCFRPシートにおいて、CFRP層のマトリックス樹脂にポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、透明樹脂層の熱可塑性樹脂にポリアミド系樹脂を使用し、製造方法(i)によってサンプルの作製を行った。また本実施例では、材料として寸法が幅5mm×長さ20mm×厚さ0.048mm、Vf47%のUDシート片を使用した。
【0064】
また本実施例では、二次元方向に並べた上記UDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂フィルムとをロール温度270℃、ロール加圧力0.5MPaの条件でロール成形し、目付150g/m2、厚み0.15mm、Vf35%の中間シート材を作製した。そして、この中間シート材に対して金型温度320℃、加圧力3MPa、加圧時間0.5minの条件下で熱プレスを行った後、金型温度30℃、加圧力5MPa、加圧時間3minの条件下で冷却プレスを行って寸法が幅381mm×長さ277mm×厚さ0.12mm、Vf35%のシート本体を作製した。その結果、独特の外観を有する意匠性の高いサンプルを作製できた。
【0065】
「実施例3」
本実施例では、第二実施形態の構成から成るCFRPシートにおいて、CFRP層のマトリックス樹脂にポリカーボネート(PC)樹脂、透明樹脂層の熱可塑性樹脂にポリアミド系樹脂を使用し、製造方法(i)によってサンプルの作製を行った。また本実施例では、材料として寸法が幅5mm×長さ20mm×厚さ0.048mm、Vf47%のUDシート片を使用した。
【0066】
また本実施例では、二次元方向に並べた上記UDシート片と透明樹脂層の材料である熱可塑性樹脂フィルムとをロール温度270℃、ロール加圧力0.5MPaの条件でロール成形し、目付150g/m2、厚み0.15mm、Vf35%の中間シート材を作製した。そして、この中間シート材に対して金型温度300℃、加圧力3MPa、加圧時間0.5minの条件下で熱プレスを行った後、金型温度30℃、加圧力5MPa、加圧時間3minの条件下で冷却プレスを行って寸法が幅381mm×長さ277mm×厚さ0.12mm、Vf35%のシート本体を作製した。その結果、独特の外観を有する意匠性の高いサンプルを作製できた。
【0067】
<試験結果>
上記
実施例1~3についての試験結果をまとめると、実施例1~3の何れのサンプルについても意匠性を充分に高めることができた。なお各サンプルの条件をまとめた表を以下に示す。
【表2】
【表3】
【表4】
【符号の説明】
【0068】
S CFRP層
M 透明樹脂層
P 表面層のUDシート片
Q 裏面層または中間層のUDシート片