(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】伝動ベルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16G 1/08 20060101AFI20220805BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220805BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20220805BHJP
C08L 1/00 20060101ALI20220805BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20220805BHJP
F16G 5/06 20060101ALI20220805BHJP
F16G 5/20 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
F16G1/08 C
C08K3/04
C08K3/36
C08L1/00
C08L21/00
F16G5/06 C
F16G5/20 B
(21)【出願番号】P 2020555259
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037879
(87)【国際公開番号】W WO2021085054
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2020-10-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2019195086
(32)【優先日】2019-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 大樹
【合議体】
【審判長】間中 耕治
【審判官】平瀬 知明
【審判官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/170788(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/096399(WO,A1)
【文献】特表2018-527430(JP,A)
【文献】特許第6348231(JP,B1)
【文献】特開2012-25949(JP,A)
【文献】特開2019-104896(JP,A)
【文献】特開2009-19200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/08
C08K 3/04
C08K 3/36
C08L 1/00
C08L 21/00
F16G 5/06
F16G 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト本体の少なくとも一部分が架橋ゴム組成物で形成された伝動ベルトであって、
前記架橋ゴム組成物は、ゴム成分と、機械解繊されたセルロース系微細繊維とを含有し、
前記機械解繊されたセルロース系微細繊維は、リグニンの含有量が10質量%以上であるとともに、ヘミセルロースを5質量%以上含み、且つヘミセルロースの含有量がリグニンの含有量よりも少なく、且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含む伝動ベルト。
【請求項2】
ベルト本体の少なくとも一部分が架橋ゴム組成物で形成された伝動ベルトであって、
前記架橋ゴム組成物は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むゴム成分と、機械解繊されたセルロース系微細繊維とを含有し、
前記機械解繊されたセルロース系微細繊維は、リグニンの含有量が10質量%以上であ
るとともに、ヘミセルロースを5質量%以上含み、且つヘミセルロースの含有量がリグニンの含有量よりも少なく、且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含む伝動ベルト。
【請求項3】
ベルト本体の少なくとも一部分が架橋ゴム組成物で形成された伝動ベルトであって、
前記架橋ゴム組成物は、ゴム成分と、機械解繊されたセルロース系微細繊維とを含有し、
前記機械解繊されたセルロース系微細繊維は、リグニンの含有量が10質量%以上であ
るとともに、ヘミセルロースを5質量%以上含み、且つヘミセルロースの含有量がリグニンの含有量よりも少なく、且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含み、
前記架橋ゴム組成物における前記機械解繊されたセルロース系微細繊維の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して7質量部以上である伝動ベルト。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記機械解繊されたセルロース系微細繊維の含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して1質量部以上60質量部以下である伝動ベルト。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物がカーボンブラックを更に含有する伝動ベルト。
【請求項6】
請求項
5に記載された伝動ベルトにおいて、
前記カーボンブラックがファーネスブラックを含む伝動ベルト。
【請求項7】
請求項
5又は
6に記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して40質量部以上80質量部以下である伝動ベルト。
【請求項8】
請求項
5乃至
7のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量が前記機械解繊されたセルロース系微細繊維の含有量よりも多い伝動ベルト。
【請求項9】
請求項
8に記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記カーボンブラックの含有量の前記機械解繊されたセルロース系微細繊維の含有量に対する比が2.0以上10以下である伝動ベルト。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物がシリカを更に含有する伝動ベルト。
【請求項11】
請求項
10に記載された伝動ベルトにおいて、
前記シリカが湿式沈降法シリカを含む伝動ベルト。
【請求項12】
請求項
10又は
11に記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記シリカの含有量が、前記ゴム成分100質量部に対して20質量部以上60質量部以下である伝動ベルト。
【請求項13】
請求項
10乃至
12のいずれかに記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記シリカの含有量が前記機械解繊されたセルロース系微細繊維の含有量よりも多い伝動ベルト。
【請求項14】
請求項
13に記載された伝動ベルトにおいて、
前記架橋ゴム組成物における前記シリカの含有量の前記機械解繊されたセルロース系微細繊維の含有量に対する比が1.0以上5.0以下である伝動ベルト。
【請求項15】
請求項1乃至
14のいずれかに記載された伝動ベルトの製造方法であって、
前記架橋ゴム組成物の架橋前の未架橋ゴム組成物を調製する際に、ゴム成分と、リグニンの含有量が10質量%以上であ
るとともに、ヘミセルロースを5質量%以上含み、且つヘミセルロースの含有量がリグニンの含有量よりも少なく、且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含む機械解繊されたセルロース系微細繊維が有機溶剤に分散した分散液と、を混練しながら、前記有機溶剤を除去する伝動ベルトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロース系微細繊維を含有する架橋ゴム組成物でベルト本体が形成された伝動ベルトが知られている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-143813号公報
【文献】特許第6427302号公報
【発明の概要】
【0004】
本発明は、ベルト本体の少なくとも一部分が架橋ゴム組成物で形成された伝動ベルトであって、前記架橋ゴム組成物は、ゴム成分と、機械解繊されたセルロース系微細繊維とを含有し、前記機械解繊されたセルロース系微細繊維は、リグニンの含有量が10質量%以上であり且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含む。
【0005】
本発明は、ベルト本体の少なくとも一部分が架橋ゴム組成物で形成された伝動ベルトの製造方法であって、前記架橋ゴム組成物の架橋前の未架橋ゴム組成物を調製する際に、ゴム成分と、リグニンの含有量が10質量%以上であり且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含む機械解繊されたセルロース系微細繊維が有機溶剤に分散した分散液とを混練しながら、前記有機溶剤を除去するものである。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】実施形態に係るダブルコグドVベルトの一片の斜視図である。
【
図1B】実施形態に係るダブルコグドVベルトのベルト幅方向に沿った断面図である。
【
図1C】実施形態に係るダブルコグドVベルトのベルト長さ方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について詳細に説明する。
【0008】
図1A~Cは、実施形態に係るダブルコグドVベルトB(伝動ベルト)を示す。実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、例えば2輪車の変速装置における変速ベルトとして用いられる動力伝達部材である。実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、例えば、ベルト長さが700mm以上1400mm以下、ベルト最大幅が16mm以上40mm以下、及びベルト最大厚さが8.0mm以上18.0mm以下である。
【0009】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、エンドレスのゴム製のベルト本体11を備える。ベルト本体11は、ベルト幅方向に沿った断面形状が、ベルト内周側の等脚台形とベルト外周側の横長矩形とが積層されるように組み合わされた形状に形成されている。ベルト本体11の両側の傾斜面は、プーリ接触部に構成されている。ベルト本体11は、ベルト内周側の圧縮ゴム層111と、ベルト厚さ方向の中間部の接着ゴム層112と、ベルト外周側の伸張ゴム層113との3層で構成されている。ベルト本体11の両側の傾斜面のプーリ接触部は、圧縮ゴム層111及び接着ゴム層112の両側面並びに伸張ゴム層113の両側面のベルト内周側の一部分で構成されている。
【0010】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、圧縮ゴム層111のベルト内周側の表面を被覆するように設けられた被覆布12を備える。圧縮ゴム層111の内周には、ベルト長さ方向に沿った断面形状がサインカーブ状に形成された下コグ形成部111aが一定ピッチで配設されている。そして、この下コグ形成部111aが被覆布12で被覆されて下コグ13が構成されている。実施形態に係るダブルコグドVベルトBは、接着ゴム層112のベルト厚さ方向の中間部に埋設された心線14を備える。心線14は、周方向に沿ってベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成して延びるように設けられている。伸張ゴム層113の外周には、ベルト長さ方向に沿った断面形状が矩形状に形成された上コグ15が一定ピッチで配設されている。
【0011】
圧縮ゴム層111は、ゴム成分と、リグニンの含有量が10質量%以上であり且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含む機械解繊されたセルロース系微細繊維(以下、「セルロース系微細繊維X」という。)とを含有する架橋ゴム組成物(以下、「架橋ゴム組成物A」という。)で形成されている。架橋ゴム組成物Aは、ゴム成分に、セルロース系微細繊維Xに加えて、各種のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋したものである。架橋ゴム組成物Aは、ベルト幅方向の高弾性を得る観点から、列理方向がベルト幅方向及び反列理方向がベルト長さ方向にそれぞれ対応するように設けられていることが好ましい。
【0012】
架橋ゴム組成物Aのゴム成分としては、例えば、エチレン・プロピレンコポリマー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン・オクテンコポリマー、エチレン・ブテンコポリマーなどのエチレン-α-オレフィンエラストマー;クロロプレンゴム(CR);クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H-NBR)等が挙げられる。ゴム成分は、これらのうちの1種のゴム又は2種以上のブレンドゴムであることが好ましく、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、エチレン-α-オレフィンエラストマーを含むことがより好ましく、EPDMを含むことが更に好ましい。
【0013】
ゴム成分がエチレン-α-オレフィンエラストマーを含む場合、そのエチレン含量は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、好ましくは50質量%以上60質量%以下、より好ましくは53質量%以上55質量%以下である。ゴム成分がEPDMを含む場合、そのジエン成分は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、エチリデンノルボルネンであることが好ましく、同様の観点から、そのENB含量は、好ましくは4.0質量%以上6.0質量%以下、より好ましくは4.4質量%以上4.6質量%以下である。
【0014】
セルロース系微細繊維Xは、ゴム成分に分散して含有されている。セルロース系微細繊維Xは、機械的解繊手段により植物繊維を細かくほぐすことで得られる植物細胞壁の骨格成分で構成されたセルロース微細繊維を由来とする繊維材料である。セルロース系微細繊維Xの原料植物としては、例えば、木、竹、稲(稲わら)、じゃがいも、サトウキビ(バガス)、水草、海藻等が挙げられる。これらのうち木が好ましい。
【0015】
セルロース系微細繊維Xは、リグニンが概ね除去されて機械解繊されたセルロース系微細繊維(以下、「セルロース系微細繊維Y」という。)と比べると、リグニンの含有量が10質量%以上と非常に高い。セルロース系微細繊維Xにおけるリグニンの含有量は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、好ましくは10質量%以上40質量%以下、より好ましくは12質量%以上20質量%以下である。
【0016】
セルロース系微細繊維Xは、ヘミセルロースを含んでいてもよい。セルロース系微細繊維Xにおけるヘミセルロースの含有量は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、リグニンの含有量よりも少ないことが好ましい。セルロース系微細繊維Xにおけるヘミセルロースの含有量は、同様の観点から、好ましくは5質量%以上25質量%以下、より好ましくは8質量%以上15質量%以下である。
【0017】
セルロース系微細繊維Xは、リグニンの含有量が高く、解繊度が低いため、繊維径の分布が広い。セルロース系微細繊維Xの繊維径の分布は、50nm以上300nm以下の範囲を含み、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、好ましくは40nm以上1000nm以下の範囲を含み、より好ましくは30nm以上5000nm以下の範囲を含む。セルロース系微細繊維Xの繊維径の分布は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定により求められる。
【0018】
また、セルロース系微細繊維Xは、同様の理由のために比較的太い。セルロース系微細繊維Xの平均繊維径は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、好ましくは50nm以上300nm以下である。セルロース系微細繊維Xの平均繊維径は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定により求められる。
【0019】
セルロース系微細繊維Xの平均繊維長は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、好ましくは800μm以下、より好ましくは500μm以下である。セルロース系微細繊維Xの平均繊維長は、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定により求められる。
【0020】
セルロース系微細繊維Xには、機械解繊されたセルロース微細繊維自体、及びそれを化学修飾したものがある。セルロース系微細繊維Xは、これらのうちの一方又は両方を含むことが好ましい。
【0021】
架橋ゴム組成物Aにおけるセルロース系微細繊維Xの含有量は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上60質量部以下、より好ましくは5質量部以上40質量部以下、更に好ましくは7質量部以上15質量部以下である。
【0022】
なお、架橋ゴム組成物Aは、セルロース系微細繊維Xに加えて、化学的解繊手段であるTEMPO酸化処理により解繊されたセルロース系微細繊維(以下、「セルロース系微細繊維Z」という。)を含有していてもよい。
【0023】
架橋ゴム組成物Aは、ゴム成分に分散したカーボンブラックを含有していてもよい。カーボンブラックとしては、例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N-339、HAF、N-351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N-234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック等が挙げられる。カーボンブラックは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、ファーネスブラックを含むことがより好ましく、HAFを含むことが更に好ましい。
【0024】
架橋ゴム組成物Aにおけるカーボンブラックの含有量は、優れた高負荷耐久性を得る観点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは40質量部以上80質量部以下、より好ましくは50質量部以上70質量部以下である。
【0025】
架橋ゴム組成物Aがカーボンブラックを含有する場合、架橋ゴム組成物Aにおけるカーボンブラックの含有量は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、セルロース系微細繊維Xの含有量よりも多いことが好ましい。架橋ゴム組成物Aにおけるカーボンブラックの含有量のセルロース系微細繊維Xの含有量に対する比(カーボンブラックの含有量/セルロース系微細繊維Xの含有量)は、同様の観点から、好ましくは2.0以上10以下、より好ましくは5.0以上7.0以下である。
【0026】
架橋ゴム組成物Aは、ゴム成分に分散したシリカを含有していてもよい。シリカは、湿式沈降法で製造された湿式沈降法シリカを含むことが好ましい。架橋ゴム組成物Aにおけるシリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは20質量部以上60質量部以下、より好ましくは30質量部以上50質量部以下である。
【0027】
架橋ゴム組成物Aがシリカを含有する場合、架橋ゴム組成物Aにおけるシリカの含有量は、架橋ゴム組成物Aの高弾性を得る観点から、セルロース系微細繊維Xの含有量よりも多いことが好ましい。架橋ゴム組成物Aにおけるシリカの含有量のセルロース系微細繊維Xの含有量に対する比(シリカの含有量/セルロース系微細繊維Xの含有量)は、同様の観点から、好ましくは1.0以上7.0以下、より好ましくは3.0以上5.0以下である。
【0028】
架橋ゴム組成物Aは、ゴム成分に分散した短繊維を含有していてもよい。短繊維は、ベルト幅方向の高弾性を得る観点から、ベルト幅方向に配向していることが好ましい。短繊維には、ベルト本体11の圧縮ゴム層111に対する接着性を付与するためのRFL処理等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0029】
短繊維としては、例えば、パラ系アラミド短繊維(ポリパラフェニレンテレフタルアミド短繊維、コポリパラフェニレン-3,4’-オキシジフェニレンテレフタルアミド短繊維)、メタ系アラミド短繊維、ナイロン66短繊維、ポリエステル短繊維、超高分子量ポリオレフィン短繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール短繊維、ポリアリレート短繊維、綿、ガラス短繊維、炭素短繊維等が挙げられる。短繊維は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましい。
【0030】
短繊維の繊維長は、例えば1mm以上5mm以下である。短繊維の繊維径は、例えば5μm以上30μm以下である。架橋ゴム組成物Aにおける短繊維の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、例えば25質量部以上45質量部以下である。
【0031】
架橋ゴム組成物Aは、その他のゴム配合剤として、可塑剤、加工助剤、老化防止剤、架橋剤、共架橋剤、加硫促進剤、加硫促進助剤等を含有していてもよい。
【0032】
接着ゴム層112及び伸張ゴム層113も、圧縮ゴム層111と同様に、ゴム成分に各種のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋した架橋ゴム組成物で形成されている。接着ゴム層112及び/又は伸張ゴム層113を形成する架橋ゴム組成物は、圧縮ゴム層111を形成する架橋ゴム組成物Aと同一であってもよい。
【0033】
被覆布12は、例えば、綿、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等の糸で形成された織布、編物、不織布等で構成されている。被覆布12には、ベルト本体11の圧縮ゴム層111に対する接着性を付与するためのRFL処理等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0034】
心線14は、ポリエステル繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚糸で構成されている。心線14には、ベルト本体11の接着ゴム層112に対する接着性を付与するためのRFL処理等の接着処理が施されていることが好ましい。
【0035】
以上の構成の実施形態に係るダブルコグドVベルトBによれば、ベルト本体11を構成する圧縮ゴム層111を形成する架橋ゴム組成物Aが含有するセルロース系微細繊維Xが、リグニンの含有量が10質量%以上であり且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含むことにより、圧縮ゴム層111の高弾性を得ることができる。
【0036】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBの製造において、圧縮ゴム層111を形成する架橋ゴム組成物Aの架橋前の未架橋ゴム組成物を調製する際には、ゴム成分と、リグニンの含有量が10質量%以上であり且つ繊維径の分布が50nm以上300nm以下の範囲を含むセルロース系微細繊維Xが有機溶剤に分散した分散液とを混練しながら、加熱等して有機溶剤を除去することにより、ゴム成分にセルロース系微細繊維Xを高度に分散させることができる。
【0037】
このとき用いる有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエステル系有機溶剤;エタノール、イソプロピルアルコールなどの脂肪族飽和アルコール系有機溶剤;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系有機溶剤;ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素系有機溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの脂環族炭化水素系有機溶剤;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン系有機溶剤等が挙げられる。有機溶剤は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、ゴム成分へのセルロース系微細繊維Xの分散性を高める観点から、エステル系有機溶剤、脂肪族飽和アルコール系有機溶剤を含むことが好ましく、プロピレングリコールモノメチルエーテルを含むことがより好ましい。
【0038】
化学解繊されたセルロース系微細繊維Zは、疎水化処理が施されることにより有機溶剤に分散可能となる。そして、疎水化処理が施されたセルロース系微細繊維Zが有機溶剤に分散した分散液をゴム成分に投入して混練するとともに、有機溶剤を除去することにより、ゴム成分にセルロース系微細繊維Zを分散させることができる。ところが、このとき、相溶化剤も添加して混練する必要があり、その添加量が多くなると、ゴム物性に悪影響が及ぶ虞がある。しかしながら、リグニンの含有量が多いセルロース系微細繊維Xが有機溶剤に分散した分散液を用いる場合には、かかる相溶化剤の添加が不要であり、そのため相溶化剤の添加によるゴム物性への悪影響を考慮する必要がない。
【0039】
実施形態に係るダブルコグドVベルトBの製造には、その他について、従来から一般的に行われている公知の方法を適用することができる。
【0040】
なお、上記実施形態では、ダブルコグドVベルトBとしたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト内周側のみに下コグが設けられたシングルコグドVベルトであってもよく、また、コグが設けられていないローエッジVベルトであってもよく、さらに、ラップドVベルト、Vリブドベルト、平ベルト、歯付ベルトであってもよい。
【0041】
上記実施形態では、ベルト内周側の表面を被覆する被覆布12を備えた構成としたが、特にこれに限定されるものではなく、ベルト内周側の表面を被覆する被覆布12に加えて、又は、ベルト内周側の表面を被覆する被覆布12に代えて、ベルト外周側の表面を被覆する被覆布を備えた構成であってもよく、また、ベルト内周側及びベルト外周側の表面を被覆する被覆布を有さない構成であってもよい。
【実施例】
【0042】
(架橋ゴム組成物)
以下の実施例1~5及び比較例1~5の架橋ゴム組成物を作製した。それぞれの構成については表1にも示す。
【0043】
<実施例1>
小型接線式密閉型混練機(ラボプラストミル 東洋精機社製)のチャンバー内に、EPDM(EP24 JSR社製、エチレン含量:54質量%、ENB含量:4.5質量%)と、セルロース系微細繊維Xがプロピレングリコールモノメチルエーテルに分散した分散液(リグノセルロースナノファイバーUC500 モリマシナリー社製 リグニン含有量:12質量%、ヘミセルロース含有量:8質量%、繊維径の分布:30nm以上5000nm以下の範囲を含む、平均繊維径:200nm、平均繊維長:300μm)とを投入し、チャンバー内の温度を100℃として、それらを混練しながら、プロピレングリコールモノメチルエーテルを除去した。分散液は、セルロース系微細繊維Xの含有量がEPDM100質量部に対して20質量部となるように投入した。
【0044】
小型接線式密閉型混練機から混練物を取り出して、一旦オープンロールでシーティングし、その後、それを再び小型接線式密閉型混練機に投入し、そこに、EPDM100質量部に対して、5質量部の酸化亜鉛、1質量部のステアリン酸、2質量部の老化防止剤MB、及び3質量部の架橋剤の有機過酸化物であるジクミルパーオキサイドを更に投入して混練した。
【0045】
小型接線式密閉型混練機から混練した未架橋ゴム組成物を取り出して、オープンロールでシーティングし、その後、それをプレス成形してシート状の架橋ゴム組成物を作製した。この架橋ゴム組成物を実施例1とした。
【0046】
<実施例2>
セルロース系微細繊維Xの含有量がEPDM100質量部に対して10質量部となるように分散液を投入したことを除いて実施例1と同様にして作製した架橋ゴム組成物を実施例2とした。
【0047】
<実施例3>
セルロース系微細繊維Xの含有量がEPDM100質量部に対して5質量部となるように分散液を投入したことを除いて実施例1と同様にして作製した架橋ゴム組成物を実施例3とした。
【0048】
<実施例4>
EPDM100質量部に対して60質量部のカーボンブラックHAFを更に投入したことを除いて実施例2と同様にして作製した架橋ゴム組成物を実施例4とした。
【0049】
<実施例5>
EPDM100質量部に対して40質量部の湿式沈降法シリカを更に投入したことを除いて実施例2と同様にして作製した架橋ゴム組成物を実施例5とした。
【0050】
<比較例1>
セルロース系微細繊維Xの分散剤を投入していない、したがって、セルロース系微細繊維Xを含有させていないことを除いて実施例1と同様にして作製した架橋ゴム組成物を比較例1とした。
【0051】
<比較例2>
セルロース系微細繊維Xの分散液に代えて、リグニンが除去されて機械解繊されたセルロース系微細繊維Yの分散剤(ビンフィス スギノマシン社製 リグニン含有量:1質量%以下、ヘミセルロース含有量:1質量%以下、平均繊維径:10nm以上50nm以下)を用いたことを除いて実施例1と同様にして作製した架橋ゴム組成物を比較例2とした。
【0052】
<比較例3>
セルロース系微細繊維Xの分散液に代えて、化学解繊されたセルロース系微細繊維Zの分散液(レオクリスタ 第1工業製薬社製)を用いたことを除いて実施例1と同様にして作製した架橋ゴム組成物を比較例3とした。
【0053】
<比較例4>
セルロース系微細繊維Xの分散剤を投入していない、したがって、セルロース系微細繊維Xを含有させていないことを除いて実施例4と同様にして作製した架橋ゴム組成物を比較例4とした。
【0054】
<比較例5>
セルロース系微細繊維Xの分散剤を投入していない、したがって、セルロース系微細繊維Xを含有させていないことを除いて実施例5と同様にして作製した架橋ゴム組成物を比較例5とした。
【0055】
【0056】
(試験方法)
実施例1~5及び比較例1~5のそれぞれについて、JISK6394:2007に基づいて、動歪1.0%及び周波数10Hzとして、25℃での列理方向の貯蔵たて弾性係数E’(25℃)、並びに100℃での列理方向の貯蔵たて弾性係数E’(100℃)及び損失正接tanδ(100℃)を測定した。そして、各測定値について、比較例1の測定値を1としたときの相対値を求めた。
【0057】
(試験結果)
試験結果を表1に示す。表1によれば、セルロース系微細繊維Xを含有する実施例1~5は、比較例1~5よりも、著しく高弾性であり、且つ損失正接tanδが高くなって悪化するのも抑制されていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は、伝動ベルト及びその製造方法の技術分野について有用である。
【符号の説明】
【0059】
B ダブルコグドVドベルト(ローエッジVベルト)
11 ベルト本体
111 圧縮ゴム層
111a 下コグ形成部
112 接着ゴム層
113 伸張ゴム層
12 被覆布
13 下コグ
14 心線
15 上コグ