(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】芳香族ポリエーテルの連続製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 65/40 20060101AFI20220805BHJP
【FI】
C08G65/40
(21)【出願番号】P 2020565648
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 JP2019048645
(87)【国際公開番号】W WO2020145017
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】P 2019000985
(32)【優先日】2019-01-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】栗生 敏行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翼天
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159220(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179327(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65/00-67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応槽が順次接続される連続製造装置内に、重合溶媒、アルカリ金属化合物および原料を供給する供給工程と、
少なくとも一以上の前記反応槽において、前記重合溶媒中で重合反応を行うことにより、反応混合物を形成させる重合工程と、
各反応槽に、前記反応混合物を順次移動させる移動工程と、を同時並行で行い、
前記アルカリ金属化合物は水性混合物であり、前記原料の少なくとも一部と前記重合溶媒とからなる混合物とは別に前記連続製造装置内に供給する、
ポリアリールエーテルケトンの連続製造方法。
【請求項2】
前記原料が前記重合溶媒中に溶解する溶液の形態である、請求項1に記載の連続製造方法。
【請求項3】
少なくとも一以上の前記反応槽における前記反応混合物のpHが9以上12.5以下である請求項1または2に記載の連続製造方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記反応槽において、前記反応混合物が重量平均分子量2,000以上50,000以下である前記
ポリアリールエーテルケトンを含み、該少なくとも1つの前記反応槽の少なくとも1つにおける前記反応混合物のpHが9以上12.5以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の連続製造方法。
【請求項5】
前記原料として、芳香族ジハロゲン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の連続製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属化合物にアルカリ金属炭酸塩を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の連続製造方法。
【請求項7】
前記ポリアリールエーテルケトンがポリエーテルエーテルケトンである、請求項
1~6のいずれか1項に記載の連続製造方法。
【請求項8】
前記原料として、芳香族ジハロゲン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物を含み、前記アルカリ金属化合物および前記芳香族ジヒドロキシ化合物を水と混合し、前記水性混合物として供給する、請求項
1~7のいずれか1項に記載の連続製造方法。
【請求項9】
前記連続製造装置は複数の反応槽を収容する収容室を備え、
前記反応槽が順次接続され、
前記反応槽は、前記収容室における気相を介して、互いに連通している、請求項1~
8のいずれか1項に記載の連続製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は芳香族ポリエーテルの連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルニトリル(PEN)およびポリエーテルイミド(PEI)等の芳香族重合体は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性および寸法安定性等に優れている。これらの芳香族重合体は、押出成形、射出成形および圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シートおよび繊維等に成形可能であるため、電気機器、電子機器、自動車機器および包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
PEEK等の芳香族ポリエーテルケトン(PAEK)の重合方法として、例えば、特許文献1に記載の重合方法が従来技術として知られている。特許文献1には、芳香族ジハライド成分、芳香族ジヒドロキシ成分、アルカリ金属炭酸塩または重炭酸塩、および溶媒を用いた求核置換反応によるPAEKの製法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特許公報 特公昭61-10486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
重合体の製造には、一般的にはバッチ方式を用いた製造と連続方式を用いた製造がある。例えば、連続方式を用いた製造の場合、定量性および送液性等の点から、原料等は液状形態で連続製造装置内に供給される。
【0006】
しかしながら、PAEK等の芳香族ポリエーテルの重合においては、従来、バッチ方式を用いた製造が行われている。また、芳香族ポリエーテルの重合においては、原料に水が含まれていると求核置換反応による重合反応が阻害されるため、原料の供給において水を使用しないことが望まれる。または、必要に応じて原料を脱水したり、反応中に生成する水を除去することが望まれる。
【0007】
したがって、連続方式で求核置換反応によってPAEKを製造しようとすると、水を使用せずに原料を供給する必要があるといえる。しかしながら水を使用せずに供給しようとすると、有機溶媒に溶解しないアルカリ金属化合物の影響で、配管に閉塞が生じ易くなる。これにより、搬送性等のハンドリング性が煩雑になったり、高濃度の原料供給ができないため、重合体の製造効率が下がることが懸念される。
【0008】
本発明は、連続製造装置の配管の閉塞が抑制され、芳香族ポリエーテルを安定して得ることができる製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、
複数の反応槽が順次接続される連続製造装置内に、重合溶媒、アルカリ金属化合物および原料を供給する供給工程と、
少なくとも一以上の前記反応槽において、前記重合溶媒中で重合反応を行うことにより、反応混合物を形成させる重合工程と、
各反応槽に、前記反応混合物を順次移動させる移動工程と、を同時並行で行い、
前記アルカリ金属化合物を水性混合物として供給する、芳香族ポリエーテルの連続製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、連続製造装置の配管の閉塞が抑制され、芳香族ポリエーテルを安定して得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔芳香族ポリエーテル〕
本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法(以下、単に「本実施形態の連続製造方法」と略記する場合がある)で得られる芳香族ポリエーテルは、少なくとも芳香族環とエーテル基が連結した芳香族重合体であり、これらに加えてスルホン基および/またはケトン基等並びにニトリル基等を含む当該芳香族重合体も包含する。本実施形態の連続製造方法は、芳香族ポリエーテルの中でも、ポリアリールエーテルケトン(芳香族ポリエーテルケトン、PAEK)、芳香族ポリスルホン(PASF)および芳香族ポリエーテルニトリル(PAEN)の製造に適する。本明細書において、スルホン基、ケトン基、ニトリル基から選ばれる複数の基を有する場合はモル数の多い基の芳香族重合体に分類する。具体的には、芳香族ポリエーテルがスルホン基およびケトン基両方を有する場合、ケトン基のモル数がスルホン基のモル数より多いときは当該芳香族ポリエーテルをPAEK、スルホン基のモル数より少ないときはPASFと分類する。
【0012】
本実施形態の連続製造方法で得られるPAEKは、特に制限なく、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)とカルボニル基およびエーテル基とを含む繰り返し単位からなる構造を有する。PAEKの例としては、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)およびポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)等が挙げられる。
【0013】
本実施形態の連続製造方法で得られるPASFは、典型的には、2価の芳香族基(芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)と、スルホニル基(-SO2-)とを含む繰返し単位を有する樹脂である。PASFの例としては、ポリスルホン(PSU)、ポリフェニルスルホン(PPSU)およびポリエーテルスルホン(PES)等が挙げられる。
【0014】
本実施形態の連続製造方法で得られるPAENは、典型的には、シアノ基が結合した2価の芳香族基(シアノ基が結合した芳香族化合物から、その芳香環に結合した水素原子を2個除いてなる残基)とエーテル基(-O-)を含む繰返し単位を有する樹脂である。PAENの例としては、ポリエーテルニトリル(PEN)等が挙げられる。
【0015】
本実施形態の連続製造方法は、本願効果が得られやすくまた製造上の容易さ等から、特に、副生塩の生成を伴う重縮合反応、すなわち脱塩重縮合反応によって得ることのできるPAEK、PSU、PPSU、PESまたはPAENの製造に適する。
【0016】
本実施形態の連続製造方法により得られる芳香族ポリエーテルの重量平均分子量(Mw)は広範囲にわたる。通常、本実施形態により得られる芳香族重合体のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による重量平均分子量の下限値は、3,000以上、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上である。また、この重量平均分子量の上限値は300,000以下、好ましくは200,000以下である。
【0017】
ここでMwはポリスチレン換算値とし、対象芳香族ポリエーテルの種類に応じて、溶媒、カラム、測定温度等は適宜選択し得る。
【0018】
(重量平均分子量の測定方法)
1)PAEKポリマーの重量平均分子量(Mw)
GPCを用いて、以下の条件で測定する。
溶媒:4-クロロフェノール/1,2-ジクロロベンゼン=30/70(wt%)、
温度:40℃、
検出器:RI検出器
サンプル注入量: 200μL(濃度:30mg/10mL)、
流速: 0.5mL/分、
標準ポリスチレン: 1,090,000,000、427,000、96,400、37,900、17,400、及び5,560の6種類の標準ポリスチレン。
【0019】
2)PASFおよびPAENの重量平均分子量(Mw)
GPCを用いて、以下の条件で測定する。
溶媒: LiBr 0.01M/L NMP溶液、
温度: 40℃、
検出器: RI検出器、
サンプル注入量: 100μL(濃度:1mg/1mL)、
流速: 1.0mL/分、
標準ポリスチレン: 427,000、96,400、37,900、17,400、及び5,560の5種類の標準ポリスチレン。
【0020】
[連続製造方法]
本実施形態の連続製造方法は、複数の反応槽が順次接続される連続製造装置において、以下の供給工程と、重合工程と、移動工程と、を同時並行で行う。以下、連続製造装置および各工程について説明する。
【0021】
各工程を説明する前に、まず連続製造装置について説明する。本実施形態の連続製造方法で使用する連続製造装置は、複数の反応槽が順次接続されている。省資源化、省エネルギー化および設備コスト削減等の点で、当該連続製造装置は、複数の反応槽を収容する収容室を備え、反応槽が順次接続され、反応槽は収容室における気相を介して、互いに連通している、連続製造装置であることが好ましい。または、前記連続製造装置の変形として、複数の独立した反応槽が鉛直方向下方に順次接続され、各反応槽の気相部は通気部を介して互いに連通している連続製造装置であることも好ましい。反応槽の数は、重合度の高いポリマーが得やすい点等で、3つ以上が好ましい。また、連続製造装置のコンパクト化および経済性の点等で、反応槽の数は30以下が好ましく、20以下が好ましい。
【0022】
当該好ましい連続製造装置は、例えば、国際公開第2017/179327号および国際公開第2018/159220号等に開示されている、ポリアリーレンスルフィドの連続製造装置と同様の装置構成を有する連続製造装置であり得る。当該好ましい連続製造装置は、複数の反応槽の各気相部は互いに連通しているため、各気相部の圧力が均一となる。よって、連続製造装置に接続されている脱水部により、複数の反応槽のいずれからも水が除去され得るため、反応混合物の移動方向の上流側から下流側に向かうほど、反応混合物中の水の量が少なくなる。その結果、水による反応阻害が抑制され、重合反応が促進される。また、反応混合物の沸点が上昇するため、高温での重合が可能となり、更に重合反応を促進できる。そして、上述の重合反応促進により、反応混合物の温度が上昇し易くなり、さらに重合反応が促進され易くなる。
【0023】
〔供給工程〕
供給工程では、上述の連続製造装置内に、重合溶媒、アルカリ金属化合物および原料を供給する。
【0024】
(重合溶媒)
重合溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミドおよびN,N-ジプロピルホルムアミド等のN,N-ジアルキルホルムアミド;N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミドおよびN,N-ジプロピルアセトアミド等のN,N-ジアルキルアセトアミド;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン、N-プロピル-2-ピロリドンおよびN-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキル-2-ピロリドン;N,N’-ジメチルイミダゾリジノン、N,N’-ジエチルイミダゾリジノンおよびN,N’-ジプロピルイミダゾリジノン等のN,N’-ジアルキルイミダゾリジノン;N-メチルカプロラクタム、N-エチルカプロラクタムおよびN-プロピルカプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム;スルホラン(1,1-ジオキソチラン)、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホンおよびジフェニルスルホン等のスルホン;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド;ならびにこれらの混合物からなる群から選択される混合溶媒等を挙げることができる。重合溶媒としては、各々がまたは混合物が室温で液体の溶媒が好ましい。
【0025】
さらには、N-アルキル-2-ピロリドン、N-アルキルカプロラクタム、N,N’-ジアルキルイミダゾリジノン、N-アルキルカプロラクタムおよびスルホンならびにこれらの混合物からなる群から選択される重合溶媒を用いることが好ましく、N-アルキル-2-ピロリドン、スルホンおよびこれらの混合物からなる群から選択される重合溶媒を用いることがより好ましく、スルホラン、N-エチル-2-ピロリドンおよびN-メチル-2-ピロリドンならびにこれらの混合物からなる群から選択される重合溶媒を用いることがさらに好ましい。
【0026】
(アルカリ金属化合物)
アルカリ金属化合物は、後述する芳香族ジヒドロキシ化合物をアルカリ金属塩に変えることができるものであればよい。ここで、アルカリ金属化合物としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムもしくはセシウムの炭酸塩、または、炭酸水素塩もしくは水酸化物などを挙げることができる。アルカリ金属化合物としては、ナトリウムまたはカリウムの化合物が好ましく、また、アルカリ金属の炭酸塩が好ましい。アルカリ金属化合物としては、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムが、より好ましい。これらのアルカリ金属化合物は、1種のみを用いてもよく、場合に応じて2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ金属化合物の使用量は、使用する芳香族ジヒドロキシ化合物1当量に対して、1.01~2.5当量の範囲に選定するのが適当である。なお、芳香族ジヒドロキシ化合物およびアルカリ金属炭酸塩は、いずれも1モルが2当量に相当し、アルカリ金属炭酸水素塩および水酸化物は、それぞれ、1モルが1当量に相当する。
【0027】
本実施形態の連続製造方法において、アルカリ金属化合物を水性混合物、すなわち流動性がある水との混合物として連続製造装置内に供給する。非水溶性である原料は重合溶媒との混合物として、前記水性混合物とは別に連続製造装置内に供給してもよい。水性混合物は後述するモノマー等の原料を含んでいてもよい。従来の方法に基づけば、アルカリ金属化合物を水性混合物として供給すると、重合系に水が含まれるため反応が阻害されると考えられていた。しかしながら、本発明者らによって、上述の連続製造装置を用いた連続製造方法では、水を含んでいても反応が阻害されることなく重合が進行することが見出された。そして、アルカリ金属化合物を水性混合物として供給することにより、連続製造装置の配管の閉塞および連続製造装置内での原料等の固化を抑制することができる。さらに、水性混合物を、非水溶性である原料の一部と重合溶媒との混合物とは別に連続製造装置内に供給することにより、配管の閉塞をより抑制することができる。水性混合物として、例えば、水性スラリー及び水溶液等が挙げられ、水溶液が好ましい。
【0028】
(原料)
原料の例として、芳香族ポリエーテルのモノマーである芳香族ジハロゲン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物等が挙げられる。
【0029】
連続製造方法において原料は液状で供給されるが、定量性および送液性の点で、重合溶媒中に溶解する溶液の形態で連続製造装置内に供給することが好ましい。本明細書において、液状とは、溶液、分散液またはスラリー状を示す。また、溶液とは、溶媒に固体が均一な状態で溶解している状態を示す。溶媒として、水等の水性溶媒、有機溶媒、またはこれらの混合物であってもよい。
【0030】
原料を溶液の形態で供給するとき、重合溶媒と原料との溶液に水を含む場合には、少なくともその一部を脱水してから連続製造装置内に供給してもよい。
【0031】
≪PAEKの原料≫
製造される芳香族ポリエーテルがPAEKの場合、例えば、特公昭61-10486号公報、特開平7-138360号公報、国際公開第2003/050163号、特開2010-70657号公報および特表2014-532109号公報等に記載される原料を用いて製造することができる。
【0032】
芳香族ジハロゲン化合物としては、例えば、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンおよび4,4’-ジクロロベンゾフェノン等の、芳香族一分子中に芳香環と、ケトン基(-CO-)と、2個のハロゲン基とを有する芳香族ジハライド化合物(例えば、ジハロゲン化ベンゾフェノン)を例示することができるが、これらに限定されない。
【0033】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、1,3-ジヒドロキシベンゼン(レゾルシン)、1,4-ジヒドロキシベンゼン(ハイドロキノン)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(4,4’-ビフェノール)、4,4’-ジヒドロキシターフェニル、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンおよび4,4’-テトラフェニルビスフェノールなどを例示することができるが、これらに限定されるものではなく、これらの他にも例えばビスフェノールA等の各種のジフェノール類が使用可能である。
【0034】
また、一分子中に芳香環と、ケトン基(-CO-)と、ハロゲン基と、水酸基と、を有する化合物についても同様の重縮合反応を行うことができる。この反応に用いることのできる化合物としては、例えば、4-ヒドロキシ-4'-フルオロベンゾフェノン、4-ヒドロキシ-4'-クロロベンゾフェノンなどの化合物が挙げられる。
【0035】
製造される芳香族ポリエーテルがPAEKの場合、芳香族ジハロゲン化合物は重合溶媒と混合して連続製造装置内に供給することが好ましい。また、アルカリ金属化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物を水と混合して、水溶液等の水性混合物として供給することが好ましい。これは、アルカリ金属化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との中和反応によって、芳香族ジヒドロキシ化合物の重合反応活性が上昇するからである。それにより、連続製造装置内に投入後に速やかに芳香族ジハロゲン化合物との反応が開始され、高分子量のPAEKを得ることができる。また、アルカリ金属化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物を水と混合して、水溶液等の水性混合物として供給することにより、連続製造装置内でアルカリ金属化合物が塊状に析出せず、連続製造装置への負荷を抑制することができる。
【0036】
≪PASFの原料≫
製造される芳香族ポリエーテルがPASFの場合、例えば、特開2013-159641号公報に記載される原料を用いて製造することができる。
【0037】
芳香族ジハロゲン化合物としては、例えば、ビス(4-クロロフェニル)スルホン(ジクロロジフェニルスルホンとも表記)および4,4’-ビス(4-クロロフェニルスルホニル)ビフェニル等の芳香族ジハロゲノスルホン化合物が挙げられる。芳香族ジハロゲノスルホン化合物は、一分子中に芳香環と、スルホニル基(-SO2-)と、2個のハロゲン基とを有する化合物であればよい。
【0038】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)スルホンおよびビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)スルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィドおよびビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル、ヒドロキノン、レゾルシン、カテコール、フェニルヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジヒドロキシビフェニル、3,5,3’,5’-テトラメチル-4,4’-ジヒドロキシビフェニル、2,2’-ジフェニル-4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよび4,4’-ジヒドロキシ-p-クオターフェニルが挙げられる。芳香族ジヒドロキシ化合物は、一分子中に芳香環と、2個のヒドロキシル基とを有する化合物であればよい。本実施形態においては、芳香族ジハロゲノスルホン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物の全部または一部に代えて、4-ヒドロキシ-4’-(4-クロロフェニルスルホニル)ビフェニル等の、分子中にハロゲノ基およびヒドロキシル基を有する化合物を用いることもできる。
【0039】
また、一分子中に芳香環と、スルホニル基(-SO2-)と、ハロゲン基と、水酸基とを有する化合物についても、同様の重縮合反応を行うことができる。この反応に用いることのできる化合物としては、例えば、4-(4-フルオロベンゼンスルホニル)フェノール、4-(4-クロロベンゼンスルホニル)フェノールなどの化合物が挙げられる。
【0040】
≪PAENの原料≫
製造される芳香族ポリエーテルがPAENの場合、例えば、特開平7-138360号公報に記載される原料を用いて製造することができる。
【0041】
即ち、本発明におけるPAENは、従来公知の原料モノマーとして芳香族ジハライド化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物を用い、重合溶媒中、これらを該芳香族ジヒドロキシ化合物とフェノラート型の塩を形成可能な塩基性のアルカリ金属化合物であるアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩またはアルカリ金属水酸化物と共に脱塩重縮合することによって製造する。
【0042】
芳香族ジハライド化合物としては、例えば、2,6-ジフルオロベンゾニトリル、2,6-ジクロロベンゾニトリル、2,4-ジフルオロベンゾニトリル、2,4-ジクロロベンゾニトリルなどを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、上記PAEKの原料で挙げたものを用いることができる。
【0044】
また、一分子中にニトリル基(-CN)を有する芳香環と、ハロゲン基と水酸基とを有する化合物についても、同様の重縮合反応を行うことができる。この反応に用いることのできる化合物としては、例えば、2-ヒドロキシ-6-フルオロベンゾニトリル、2-ヒドロキシ-6-クロロベンゾニトリル、2-ヒドロキシ-4-フルオロベンゾニトリル、2-ヒドロキシ-4-クロロベンゾニトリルなどの化合物が挙げられる。
【0045】
国際公開第2017/179327号および国際公開第2018/159220号に開示されている連続製造装置の原料供給ラインは3つである。本実施形態においては、アルカリ金属化合物の水溶液を供給するラインと、および、それとは別の、原料を供給するラインとを含む、少なくとも2つの供給ラインからアルカリ金属化合物の水溶液および原料を供給することが好ましい。
【0046】
本実施形態において、連続製造装置内に供給される、重合溶媒、アルカリ金属化合物、および原料の供給量は、連続製造装置の容積および意図する生産量等により、適宜変更することができる。
【0047】
本実施形態においては、目的とする芳香族ポリエーテルの種類に応じて、芳香族ジハロゲン化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物およびハロゲン基と水酸基とを有する芳香族化合物は、いずれも、1種のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
本実施形態において、水酸基とハロゲン基とのモル比は重合度を決める重要な因子である。水酸基とハロゲン基とのモル比は、水酸基:ハロゲン基=0.8~1.2:1.2~0.8の範囲であることが好ましく、水酸基:ハロゲン基=0.9~1.1:1.1~0.9の範囲であることがより好ましい。
【0049】
本実施形態において、連続製造装置内に供給される、芳香族ジハロゲン化合物1モルに対する芳香族ジヒドロキシ化合物のモル数は、0.90~1.10が好ましく、0.92~1.08がより好ましく、0.94~1.06がさらに好ましい。
【0050】
本実施形態においては、重縮合反応させるときに、価数がn(nは1以上の整数である)の塩基を1種以上配合し、芳香族ジヒドロキシ化合物1モルに対する塩基のモル数を、塩基の種類ごとにn/2倍した値の合計値が、好ましくは0.95~1.15、より好ましくは1.00~1.10となるように調整するとよい。nは、例えば、塩基が炭酸ナトリウムの場合には2であり、塩基が炭酸水素ナトリウムまたは水酸化ナトリウムの場合には1である。
【0051】
〔重合工程〕
重合工程では、少なくとも一以上の反応槽において、重合溶媒中で重合反応を行うことにより、反応混合物を形成させる。本実施形態の連続製造方法で行われる重合反応は、典型的には芳香族求核置換反応による脱塩重縮合反応である。
【0052】
本実施形態の連続製造方法で得られる芳香族ポリエーテルがPAEKまたはPAENである場合、重合温度は、100℃超、320℃以下であることが好ましく、150℃以上、300℃以下であることがより好ましく、170℃以上、280℃以下であることがさらに好ましい。本実施形態の連続製造方法で得られる芳香族ポリエーテルがPASFである場合、重合温度は、100℃超、290℃以下であることが好ましく、150℃以上、270℃以下であることがより好ましく、170℃以上、250℃以下であることがさらに好ましい。重合温度は加圧条件下での温度である。
【0053】
また、重合反応は、ゲージ圧が0MPaを上回り、1.0MPa以下、好ましくは0.7MPa以下、より好ましくは0.5MPa以下で行うことが好ましい。重合反応を促進させる点等で、連続製造装置の各反応槽の圧力は、均一になっていることが好ましい。
【0054】
少なくとも一以上の反応槽における反応混合物のpHは、高分子量の芳香族ポリエーテルが得られる点およびアルカリ金属化合物の析出抑制の点等、9以上12.5以下が好ましく、9.5以上12以下がより好ましく、10以上11.5以下がさらに好ましい。pHの調整は例えば、アルカリ金属化合物の使用量を変更することによって調整することができ、また、アルカリ金属化合物の水溶液に、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム等の強塩基を添加することによって調整することができる。
【0055】
(pHの測定方法)
反応混合物1gに水を加えて10gに希釈した後、pH計を用いて、23℃においてpHを測定する。
【0056】
また、少なくとも1つの前記反応槽において、前記反応混合物が重量平均分子量2,000以上50,000以下である前記芳香族ポリエーテルを含み、該少なくとも1つの前記反応槽の少なくとも1つにおける前記反応混合物のpHが9以上12.5以下であることが好ましく、9.5以上12以下がより好ましく、10以上11.5以下がさらに好ましい。すなわち、重合反応中の芳香族ポリエーテルを含む反応混合物のpHが上記範囲内であると、高分子量の芳香族ポリエーテルが得られる。すべての反応槽において、pHが上記範囲よりも低いと重合反応が進行せず、pHが上記範囲よりも高いと好ましくない副反応が生じ、高分子量の芳香族ポリエーテルが得られない。
【0057】
〔移動工程〕
移動工程では、各反応槽に、反応混合物を順次移動させる。すなわち、反応混合物は、重合反応を進行させながら、順次接続されている複数の反応槽を順次移動する。
【0058】
〔その他の工程〕
本実施形態の連続製造方法は、供給工程、重合工程および移動工程以外に、その他の工程を含んでいてもよい。その他の工程の例として、反応混合物を回収する回収工程等が挙げられる。供給工程、重合工程、移動工程および回収工程を同時並行で行うことが好ましい。
【0059】
反応混合物を回収するとき、重合溶媒に対する原料であるモノマーの質量比を制御することにより、スラリー状態で回収することが好ましい。当該モノマー/重合溶媒の質量比は、重合溶媒100質量部に対して、原料モノマーが通常1~25質量部、好ましくは3~20質量部、さらに好ましくは5~15質量部である。原料モノマー/重合溶媒の質量比が上述の範囲になるように、重合反応途中から回収までに、好ましくは重合反応終了後から回収までに重合溶媒を供給してもよい。重合溶媒に対する当該モノマーの質量比を上述の範囲で制御することによって、反応混合物回収時における反応混合物の固化の問題を解消できる。また、得られる芳香族ポリエーテルの洗浄および重合溶媒等の回収またはリサイクルが容易となる。
【0060】
〔まとめ〕
本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、複数の反応槽が順次接続される連続製造装置内に、重合溶媒、アルカリ金属化合物および原料を供給する供給工程と、少なくとも一以上の前記反応槽において、前記重合溶媒中で重合反応を行うことにより、反応混合物を形成させる重合工程と、各反応槽に、前記反応混合物を順次移動させる移動工程と、を同時並行で行い、前記アルカリ金属化合物を水性混合物として供給する。
【0061】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、少なくとも前記アルカリ金属化合物を含む前記水性混合物が、前記原料の少なくとも一部と前記重合溶媒とからなる混合物とは別に前記連続製造装置内に供給されることが好ましい。
【0062】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記原料が前記重合溶媒中に溶解する溶液の形態であることが好ましい。
【0063】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、少なくとも一以上の前記反応槽における前記反応混合物のpHが9以上12.5以下であることが好ましい。
【0064】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、少なくとも1つの前記反応槽において、前記反応混合物が重量平均分子量2,000以上50,000以下である前記芳香族ポリエーテルを含み、該少なくとも1つの前記反応槽の少なくとも1つにおける前記反応混合物のpHが9以上12.5以下であることが好ましい。
【0065】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記原料として、芳香族ジハロゲン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物を含むことが好ましい。
【0066】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記アルカリ金属化合物にアルカリ金属炭酸塩を含むことが好ましい。
【0067】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記芳香族ポリエーテルがポリアリールエーテルケトンであることが好ましい。
【0068】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記ポリアリールエーテルケトンがポリエーテルエーテルケトンであることが好ましい。
【0069】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記芳香族ポリエーテルが芳香族ポリスルホンであることが好ましい。
【0070】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記芳香族ポリスルホンが、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、またはポリエーテルスルホンであることが好ましい。
【0071】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法は、前記芳香族ポリエーテルがポリアリールエーテルケトンである場合、前記原料として、芳香族ジハロゲン化合物および芳香族ジヒドロキシ化合物を含み、前記アルカリ金属化合物および前記芳香族ジヒドロキシ化合物を水と混合し、前記水性混合物として供給することが好ましい。
【0072】
また、本実施形態に係る芳香族ポリエーテルの連続製造方法において、前記連続製造装置は複数の反応槽を収容する収容室を備え、前記反応槽が順次接続され、前記反応槽は、前記収容室における気相を介して、互いに連通していることが好ましい。
【0073】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0074】
〔実施例1〕PEEKの製造
国際公開第2018/159220号の
図1に示されるような、収容室が5枚の隔壁により仕切られて形成された6個の反応槽を有する連続製造装置を用いて重合反応を実施した。この連続製造装置は、隔壁が半円形であり、内径108mm×長さ300mmの寸法を有するSUS製反応装置である。
【0075】
この連続製造装置に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)950gを仕込んだ。そして、窒素ガスを上流側から第5番目の隔壁の下流側より、0.1NL/minの流量で流しながら、収容室2の底部に設置した外部ヒーターにより上流側から1番目の隔壁と2番目の隔壁で区切られた部分、すなわち上流側から第2番目の反応槽の温度1を230℃、上流側から第5番目の反応槽の温度2を260℃、上流側から第6番目の反応槽の温度3を260℃に保持した。定常状態において、上流側から第1番目の反応槽の温度4は190℃、上流側から第4番目の反応槽の温度5は255℃であった。NMPと4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(DFBP)との溶液を5.3g/minで、および水とハイドロキノン(HQ)と炭酸ナトリウムとの水溶液を9.2g/minで、それぞれ別の供給ラインより定量ポンプを用いて連続的に6時間供給した。各溶液における成分の比はNMP:DFBP(重量比)=1068.96:213.40、DFBP:HQ(モル比)=1.01:1、HQ:炭酸ナトリウム(モル比)=1:1.1、水:HQ(重量比)=1975.65:106.62であった。
【0076】
同時に連続製造装置に接続させた蒸留装置を用いて、圧力調整弁によって圧力をゲージ圧0.3MPaに制御しながら、連続的に、原料に含まれている水および反応で生成した水を連続製造装置から除去した。また、反応により生成する二酸化炭素ガスは、蒸留装置および貯水槽を経由して大気に放出した。
【0077】
また、第6番目の反応槽の下部から260℃のNMPを6.0g/minの流量で供給し、反応混合物を希釈((DFBP+HQ)/(NMP+DFBP+HQ)=10質量%相当)することで、反応混合物をスラリー状で回収した。
【0078】
運転終了後に連続製造装置の内部を観察したところ、連続装置の配管に閉塞は見られず、すべての反応槽において、隔壁の溢流レベルまでの反応液の存在を確認した。
【0079】
反応混合物回収ラインおよび各反応槽から反応生成物であるPEEKを採取して分析した。当該反応混合物を5倍量の水に滴下して反応生成物を析出させてろ過した。さらにメタノールで洗浄後ろ過した。得られたケークを真空下において、60℃で8時間乾燥し、PEEK粉体を得た。このPEEK粉体の重量平均分子量は、Shodexのゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)GPC-104を用いて、上述の条件で測定した。反応混合物回収ラインから採取したPEEK粉体が65,000、第3番目の反応槽から採取したPEEK粉体が12,000、第4番目の反応槽から採取したPEEK粉体が24,000、第5番目の反応槽から採取したPEEK粉体が42,000、第6番目の反応槽から採取したPEEK粉体が62,000であった。また、各反応槽における反応液のpHは、佐藤計量器製作所製pH計SK-640PHを用いて23℃で測定し、第3番目の反応槽が10.1、第4番目と第5番目の反応槽が9.8、第6番目の反応槽が9.0、反応混合物回収ラインから採取した反応混合物は9.7であった。なお、重量平均分子量は上記の方法で求めた。
【0080】
〔実施例2〕PPSUの製造
実施例1で使用した装置と同様の連続製造装置に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)950gを仕込んだ。窒素ガスを上流側から第5番目の隔壁の下流側より0.1NL/minの流量で流しながら、収容室2の底部に設置した外部ヒーターにより上流側から1番目の隔壁と2番目の隔壁で区切られた部分、すなわち上流側から第2番目の反応槽の温度1を210℃、上流側から第5番目の反応槽の温度2を230℃、上流側から第6番目の反応槽の温度3を230℃に保持した。定常状態において、上流側から第1番目の反応槽の温度4は170℃、上流側から第4番目の反応槽の温度5は225℃であった。NMPと4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)との溶液を2.2g/minで、水とNMPと4,4’-ビフェノールと水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの水溶液を6.5g/minで、それぞれ別の供給ラインより定量ポンプを用いて連続的に7時間供給した。各溶液における成分の比はNMP:DCDPS(重量比)=352.48:201.01、DCDPS:4,4’-ビフェノール(モル比)=1.01:1、4,4’-ビフェノール:水酸化ナトリウム:炭酸ナトリウム(モル比)=1:1.8:0.15、水:NMP:4,4’-ビフェノール(重量比)=1025.90:407.74:129.06であった。
【0081】
同時に連続製造装置に接続させた蒸留装置を用いて、圧力調整弁によって圧力をゲージ圧0.12MPaに制御しながら、連続的に、原料に含まれている水および反応で生成した水を連続製造装置から除去した。また、反応により生成する二酸化炭素ガスは、蒸留装置および貯水槽を経由して大気に放出した。
【0082】
また、第6番目の反応槽の下部から210℃のNMPを6.9g/minの流量で供給し、反応混合物を希釈((DCDPS+4,4’-ビフェノール)/(NMP+DCDPS+4,4’-ビフェノール)=10質量%相当)して回収した。
【0083】
反応混合物回収ラインから反応物を採取して分析した。当該反応混合物を5倍量の水に滴下して生成物を析出させろ過した後、更にメタノールで洗浄・ろ過し、得られたケークを真空下、60℃で8時間乾燥し、PPSU粉体を得た。このPPSU粉体のGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量Mwは36,000であった。第3番目の反応槽から採取したPPSU粉体が10,000、第4番目の反応槽から採取したPPSU粉体が20,000、第5番目の反応槽から採取したPPSU粉体が37,000、第6番目の反応槽から採取したPPSU粉体が39,000であった。また、各反応槽における反応液のpHは、佐藤計量器製作所製pH計SK-640PHを用いて23℃で測定し、第3番目の反応槽が10.1、第4番目から第5番目の反応槽が10.3、第6番目の反応槽が9.6、反応混合物回収ラインから採取した反応混合物は7.8であった。
【0084】
〔実施例3〕PESの製造
実施例1で使用した装置と同様の連続製造装置に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)950gを仕込んだ。窒素ガスを上流側から第5番目の隔壁の下流側より0.1NL/minの流量で流しながら、収容室2の底部に設置した外部ヒーターにより上流側から2番目の隔壁と3番目の隔壁で区切られた部分、すなわち上流側から第3番目の反応槽の温度1を200℃、上流側から第5番目の反応槽の温度2を220℃、上流側から第6番目の反応槽の温度3を220℃に保持した。定常状態において、上流側から第1番目の反応槽の温度4は150℃、上流側から第4番目の反応槽の温度5は215℃であった。NMPと4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)との溶液を3.5g/minで、水と4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)と水酸化ナトリウムとの水溶液を6.4g/minで、それぞれ別の供給ラインより定量ポンプを用いて連続的に11時間供給した。各溶液における成分の比はNMP:DCDPS(重量比)=760.22:201.01、DCDPS:ビスビフェノールS(モル比)=1:1、ビスフェノールS:水酸化ナトリウム(モル比)=1:2、水:ビスフェノールS(重量比)=1547.23:175.19であった。
【0085】
同時に連続製造装置に接続させた蒸留装置を用いて、圧力調整弁によって圧力をゲージ圧0.1MPaに制御しながら、連続的に、原料に含まれている水および反応で生成した水を連続製造装置から除去した。また、反応により生成する二酸化炭素ガスは、蒸留装置および貯水槽を経由して大気に放出した。
【0086】
反応混合物回収ラインから反応物を採取して分析した。当該反応混合物を5倍量の水に滴下して生成物を析出させろ過した後、更にメタノールで洗浄・ろ過し、得られたケークを真空下、60℃で8時間乾燥し、PES粉体を得た。このPES粉体のGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量Mwは14,000であった。第3番目の反応槽から採取したPES粉体が5,000、第4番目の反応槽から採取したPES粉体が5,000、第5番目の反応槽から採取したPES粉体が6,000、第6番目の反応槽から採取したPES粉体が14,000であった。また、各反応槽における反応液のpHは、佐藤計量器製作所製pH計SK-640PHを用いて23℃で測定し、第3番目の反応槽が11.0、第4番目の反応槽が11.1、第5番目の反応槽が11.0、第6番目の反応槽が10.1、反応混合物回収ラインから採取した反応混合物は10.2であった。
【0087】
〔実施例4〕PPSUの製造
実施例1で使用した装置と同様の連続製造装置に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)950gを仕込んだ。窒素ガスを上流側から第5番目の隔壁の下流側より0.1NL/minの流量で流しながら、収容室2の底部に設置した外部ヒーターにより上流側から2番目の隔壁と3番目の隔壁で区切られた部分、すなわち上流側から第3番目の反応槽の温度1を200℃、上流側から第5番目の反応槽の温度2を210℃、上流側から第6番目の反応槽の温度3を210℃に保持した。定常状態において、上流側から第1番目の反応槽の温度4は170℃、上流側から第2番目の反応槽の温度5は190℃、上流側から第4番目の反応槽の温度6は205℃であった。NMPと4,4’-ジクロロジフェニルスルホン(DCDPS)および4,4’-ビフェノールとの溶液を4.3g/minで、水と水酸化ナトリウムと炭酸ナトリウムとの水溶液を1.2g/minで、それぞれ別の供給ラインより定量ポンプを用いて連続的に7時間供給した。各溶液における成分の比はNMP:DCDPS:4,4’-ビフェノール(重量比)=760.22:129.06:201.01、DCDPS:4,4’-ビフェノール(モル比)=1.01:1、4,4’-ビフェノール:水酸化ナトリウム:炭酸ナトリウム(モル比)=1:1.8:0.15、水:水酸化ナトリウム:炭酸ナトリウム(重量比)=243.69:49.90:11.02であった。
【0088】
同時に連続製造装置に接続させた蒸留装置を用いて、圧力調整弁によって圧力をゲージ圧0.06MPaに制御しながら、連続的に、原料に含まれている水および反応で生成した水を連続製造装置から除去した。また、反応により生成する二酸化炭素ガスは、蒸留装置および貯水槽を経由して大気に放出した。
【0089】
また、第6番目の反応槽の下部から210℃のNMPを6.9g/minの流量で供給し、反応混合物を希釈((DCDPS+4,4’-ビフェノール)/(NMP+DCDPS+4,4’-ビフェノール)=10質量%相当)して回収した。
【0090】
反応混合物回収ラインから反応物を採取して分析した。当該反応混合物を5倍量の水に滴下して生成物を析出させろ過した後、更にメタノールで洗浄・ろ過し、得られたケークを真空下、60℃で8時間乾燥し、PPSU粉体を得た。このPPSU粉体のGPCによるポリスチレン換算重量平均分子量Mwは11,000であった。第3番目の反応槽から採取したPPSU粉体が7,000、第4番目の反応槽から採取したPPSU粉体が10,000、第5番目の反応槽から採取したPPSU粉体が13,000、第6番目の反応槽から採取したPPSU粉体が14,000であった。また、各反応槽における反応液のpHは、佐藤計量器製作所製pH計SK-640PHを用いて23℃で測定し、第3番目の反応槽が10.2、第4番目から第5番目の反応槽が10.5、第6番目の反応槽が10.0、反応混合物回収ラインから採取した反応混合物は10.0であった。
【0091】
〔比較例1〕PEEKの製造
実施例1で使用した装置と同様の連続製造装置に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)950gを仕込んだ。窒素ガスを上流側から第5番目の隔壁の下流側より0.1NL/minの流量で流しながら、収容室2の底部に設置した外部ヒーターにより上流側から1番目の隔壁と2番目の隔壁で区切られた部分、すなわち上流側から第2番目の反応槽の温度1を230℃、上流側から第5番目の反応槽の温度2を260℃、上流側から第6番目の反応槽の温度3を260℃に保持した。定常状態において、上流側から第1番目の反応槽の温度4は190℃、上流側から第4番目の反応槽の温度5は255℃であった。2番目の隔壁とで区切られた部分、すなわち上流側から第2番目の反応槽の温度1を220℃に、3番目の隔壁と4番目の隔壁とで区切られた部分、すなわち上流側から第4番目の反応槽の温度2を260℃に、上流側から5番目の隔壁と収容室2の側壁とで区切られた部分、すなわち上流側から第6番目の反応槽の温度3を260℃に保持した。各供給ラインより定量ポンプを用いて、NMPと、4,4’-ジフルオロベンゾフェノン(DFBP)と、ハイドロキノン(HQ)と、炭酸カリウムとを一つの分散液にして、即ち一つの原料供給ラインから6.4g/min(NMP:DFBP(重量比)=711.30:142.00、DFBP:HQ(モル比)=1.01:1、HQ:炭酸カリウム(モル比)=1:1.1)の流量にてスターラーで撹拌しながら連続的に原料を供給した。
【0092】
なお、溶液中の平均粒子径95μm以上である炭酸カリウムを、供給前にホモジナイザーを用いて約10,000rpm/minでスラリー状に粉砕(平均粒子径95μm以下)した。
【0093】
同時に連続製造装置に接続した蒸留装置を用いて、圧力調整弁によって圧力をゲージ圧0.3MPaに制御しながら、連続的に、反応で生成した水を連続製造装置から除去した。また、反応により生成する二酸化炭素ガスは、蒸留装置および貯水槽を経由して大気に放出した。
【0094】
また、第6番目の反応槽の下部から260℃のNMPを6.0g/minの流量で供給し、反応混合物を希釈((DFBP+HQ)/(DFBP+HQ+NMP)=10質量%相当)した。
【0095】
供給開始から15分後に供給ライン中で閉塞が生じた。閉塞を解消させた後も、供給再開から5分から30分後に閉塞が断続的に生じ、運転を継続することができなかった。供給開始から15分後に閉塞が生じたため、反応混合物はほとんど生成されなかった。