IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 中車青島四方机車車輛股▲フン▼有限公司の特許一覧

<>
  • 特許-アンチヨーダンパの制御方法及び装置 図1
  • 特許-アンチヨーダンパの制御方法及び装置 図2
  • 特許-アンチヨーダンパの制御方法及び装置 図3
  • 特許-アンチヨーダンパの制御方法及び装置 図4
  • 特許-アンチヨーダンパの制御方法及び装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】アンチヨーダンパの制御方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/46 20060101AFI20220805BHJP
   B61F 5/24 20060101ALI20220805BHJP
【FI】
F16F9/46
B61F5/24 B
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021518061
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 CN2019104842
(87)【国際公開番号】W WO2020211266
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】201910318241.3
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518232342
【氏名又は名称】中車青島四方机車車輛股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】孔 ▲海▼朋
(72)【発明者】
【氏名】王 旭
(72)【発明者】
【氏名】曹 洪勇
(72)【発明者】
【氏名】曹 ▲曉▼▲寧▼
(72)【発明者】
【氏名】周 平宇
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-297485(JP,A)
【文献】特開昭62-175255(JP,A)
【文献】特開2018-035829(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
B61F 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
台車の枠組の横方向加速度信号を取得し、前記横方向加速度信号に対して第1の前処理を行うことと、
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行うことと、
第1の前処理の結果と第2の前処理の結果とに基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較し、ここで、現時点のMPPTアルゴリズムの目標関数J(t)はJ(t)=w1*La +w2*F であり、tは現時点であり、w1は前記横方向加速度の重みを表し、w2は前記第2の前処理後の圧力差の重みを表し、Laは前記第1の前処理後の横方向加速度信号を表し、Fは前記圧力差を表し、前記MPPTアルゴリズムは前記枠組の横方向加速度及び前記圧力差を制御目標とすることと、
比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の制御方向を制御することと、を含むことを特徴とするアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項2】
前記第1の前処理は、具体的に、
前記横方向加速度信号に対してバンドパスフィルタリングを行うことと、
前記フィルタリングされた横方向加速度信号を移動平均することと、を含むことを特徴とする請求項1に記載のアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項3】
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行う前記のことは、具体的に、
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力信号とピストンの2つのチャンバの面積を収集し、ピストンの2つのチャンバの各圧力を取得することと、
前記ピストンの2つのチャンバ間の圧力差を計算し、前記圧力差に対してローパスフィルタリングを行うことと、
フィルタリングされた圧力差値を移動平均し、移動平均された圧力差値を前記アンチヨーダンパから出力される減衰力として設定することと、を含むことを特徴とする請求項2に記載のアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項4】
第1の前処理の結果と第2の前処理の結果とに基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較する前記のことは、具体的に、
現時点tのMPPTアルゴリズムの目標関数J(t)を取得することと、
目標関数値J(t)と前時点の目標関数値J(t-1)とを比較することと、を含むことを特徴とする請求項3に記載のアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項5】
比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の制御方向を制御する前記のことは、具体的に、
J(t)<J(t-1)の場合、アンチヨーダンパの電磁比例弁の制御方向をそのままに維持し、
J(t)≧J(t-1)の場合、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の制御方向を変更することを含むことを特徴とする請求項4に記載のアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項6】
±2Hzのバンドパスフィルタを用いて、前記横方向加速度信号に対してバンドパスフィルタリングを行い、ここで、fは主周波数を表すことを特徴とする請求項2に記載のアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項7】
前記フィルタリングされた横方向加速度信号を移動平均する前記のことは、具体的に、
データウィンドウを設定し、前記フィルタリングされた横方向加速度信号においてデータウィンドウを移動させ、データウィンドウ内の値を移動平均することを含むことを特徴とする請求項2に記載のアンチヨーダンパの制御方法。
【請求項8】
台車の枠組の横方向加速度信号を取得し、前記横方向加速度信号に対して第1の前処理を行う第1の前処理モジュールと、
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行う第2の前処理モジュールと、
第1の前処理の結果と第2の前処理の結果とに基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較し、ここで、現時点のMPPTアルゴリズムの目標関数J(t)はJ(t)=w1*La +w2*F であり、tは現時点であり、w1は前記横方向加速度の重みを表し、w2は前記第2の前処理後の圧力差の重みを表し、Laは前記第1の前処理後の横方向加速度信号を表し、Fは前記圧力差を表し、前記MPPTアルゴリズムは前記枠組の横方向加速度及び前記圧力差を制御目標とする比較モジュールと、
比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の制御方向を制御する制御モジュールと、を備えることを特徴とするアンチヨーダンパの制御装置。
【請求項9】
メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されプロセッサで実行可能なコンピュータプログラムとを含む電子機器であって、
前記プロセッサによって前記プログラムが実行される時に、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアンチヨーダンパの制御方法のステップが実行されることを特徴とする電子機器。
【請求項10】
コンピュータプログラムが記憶された記憶媒体であって、
プロセッサによって当該コンピュータプログラムが実行される時に、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のアンチヨーダンパの制御方法のステップが実行されることを特徴とする非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[相互参照]
本開示は、2019年04月19日に提出された、出願番号が201910318241.3であり、発明の名称が「アンチヨーダンパの制御方法及び装置」である中国特許出願の優先権を主張し、その全体が参照により本願に組み込まれる。
【0002】
本開示の実施例は、アンチヨーダンパの制御分野に関し、特に、アンチヨーダンパの制御方法に関する。
【背景技術】
【0003】
社会の進歩と経済の発展に伴い、交通輸送の業界は既に人々の生活に深刻な影響を与えている。鉄道輸送はわが国の交通輸送の主力であり、鉄道輸送の牽引動力の一つである電気機関車は急速に発展している。
【0004】
機関車の安全運行を確保するための重要な要素の一つとしての台車は、機関車の安全性、快適性、運行の信頼性及び軌道への動作力の低減、環境への汚染の低減などに対して極めて重要な役割を果たしている。その中で、アンチヨーダンパは、台車の安定性を保つための重要な構成要素の一つであり、そのパラメータマッチングも列車運行の安全性の重要な要素の一つである。
【0005】
車両運行距離の増加に伴い、車輪踏面の等価テーパの増加し続け、列車の蛇行頻度も増加し、必要となる二次回転抵抗トルクも大きくなってきており、従来の減衰が調整できないアンチヨーダンパを採用することは、様々な車輪摩耗状態に適応するのが困難である。様々な摩耗度での車輪の適応性を改善し、列車運行の安定性を向上させるために、アクティブ制御を有するアンチヨーダンパの制御方法を開発する必要がある。
【0006】
MPPTとは、「最大電力点追跡」を意味する。MPPTアルゴリズムは、最初に太陽光発電領域に登場しており、このアルゴリズムの核心原理として、急激な変化の条件下で最大電力点を効果的に追跡でき、制御対象を可能な限り最大電力点で動作させることである。MPPTアルゴリズムは従来から広く用いられているが、今までのところ、MPPTアルゴリズムをアンチヨーダンパの制御に応用することは見出されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示の実施例は、MPPTアルゴリズムの制御に基づいて、車両の運行中にアンチヨーダンパの減衰力をリアルタイムに調整し、列車運行の安定性を向上させるアンチヨーダンパの制御方法及び装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の実施例は、アンチヨーダンパの制御方法を提供し、当該方法は、
枠組の横方向加速度信号を取得し、前記横方向加速度信号に対して第1の前処理を行うことと、
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行うことと、
第1の前処理の結果と第2の前処理の結果に基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較することと、
比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を制御することとを含む。
【0009】
本開示の実施例は、アンチヨーダンパの制御装置を提供し、当該装置は、
枠組の横方向加速度信号を取得し、前記横方向加速度信号に対して第1の前処理を行う第1の前処理モジュールと、
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行う第2の前処理モジュールと、
第1の前処理の結果と第2の前処理の結果に基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較する比較モジュールと、
比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を制御する制御モジュールとを備える。
【0010】
本開示の実施例は、電子機器を提供し、当該機器は、メモリと、プロセッサと、メモリに記憶されプロセッサで実行可能なコンピュータプログラムとを含み、前記プロセッサが前記プログラムを実行する時に、本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御方法のステップが実行される。
【0011】
本開示の実施例は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供し、当該記憶媒体にコンピュータプログラムが記憶されており、プロセッサによって当該コンピュータプログラムが実行される時に、本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御方法のステップが実行されることを特徴とする。
【0012】
本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御方法及び装置は、枠組横方向振動加速度信号及びアンチヨーダンパピストンの2つのチャンバの圧力信号を収集し、枠組横方向加速度及びダンパ液圧力を制御目標としたMPPTアルゴリズムを利用して、アンチヨーダンパの減衰力をリアルタイムに調整し、様々な車輪摩耗状態でのアンチヨーダンパの適応性を向上させ、高速列車組の動力学的安定性を向上させる。
【0013】
本開示の実施例又は従来技術における技術案をより明確に説明するために、以下、実施例又は従来技術の説明に必要な図面を簡単に説明する。勿論、以下に説明する図面は、本開示のいくつかの実施例であり、当業者にとって、創造的な労働をしない前提で更にこれらの図面に基づいてその他の図面を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御方法のフローチャートである。
図2】本開示の実施例における枠組横方向加速度の波形図である。
図3】本開示の実施例における枠組横方向加速度に対して移動平均を行う波形図である。
図4】本開示の実施例に係るアンチヨーダンパ制御装置のブロック図である。
図5】本開示の実施例に係る電子機器の実体構造の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施例の目的、技術案及び利点をより明確にするために、本開示の実施例における図面を参照しながら、本開示の実施例における技術案を明確で完全に説明する。勿論、説明する実施例が本開示の全ての実施例ではなく、一部の実施例に過ぎない。当業者が本開示における実施例に基づいて創造的な労働をしない前提で得られた全ての他の実施例は、本発明の保護範囲に含まれる。
【0016】
図1に示すように、本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御方法は、下記のステップ101~ステップ104を含む。
ステップ101において、枠組の横方向加速度信号を取得し、前記横方向加速度信号に対して第1の前処理を行う。
【0017】
図2には、加速度センサによって収集された枠組横方向振動加速度データが示されている。図2において、横軸は時間で、縦軸は枠組の横方向加速度値である。サンプリング時間の間隔は、加速度センサのサンプリング周波数に依存し、サンプリング時間の間隔はサンプリング周波数と逆数の関係にある。例えば、サンプリング周波数Fsが100Hzである場合、1秒間に加速度値が100個収集される。本開示の実施例において、後続の処理に必要なパラメータを得るために、横方向加速度信号に対して第1の前処理を行う必要があり、前処理方法は、信号に対してフィルタリング及び移動平均処理を行うことを含み得る。
【0018】
ステップ102において、アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行う。
【0019】
本開示の実施例において、圧力センサによってアンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力値を収集し、ピストンの2つのチャンバのそれぞれの面積に基づいて、ピストンの2つのチャンバのそれぞれの圧力値を算出して、ピストンの2つのチャンバ間の圧力差を取得する。各時刻においてピストンの2つのチャンバ間の圧力差を得ることができるため、圧力差に対して第2の前処理を行う必要があり、前処理方法は、信号フィルタリング及び移動平均処理を含み得る。
【0020】
ステップ103において、第1の前処理の結果及び第2の前処理の結果に基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較する。
【0021】
MPPTアルゴリズムのコア原則として、急激な変化の条件下で最大電力点を効果的に追跡し、制御対象を可能な限り最大電力点で動作させることである。本開示の実施例において、MPPTアルゴリズムを列車のダンパ制御に適用する場合、上記ステップにおける横方向加速度信号に対する第1の前処理の結果、及びピストンの2つのチャンバの圧力差に対する第2の前処理の結果に基づき、MPPTアルゴリズムの目標関数を取得する必要がある。アンチヨーダンパでは、電磁比例弁の向きを調整することでダンパの減衰力を調整することができ、様々な車輪摩耗状態でのアンチヨーダンパの適応性を向上させる。本開示の実施例において、電磁比例弁の制御方向の調整の要否を判断するために、現時点のMPPT目標関数値及び前時点のMPPT目標関数値を取得し、これらの目標関数値を比較する必要がある。
【0022】
ステップ104において、ステップ103の比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を制御する。
【0023】
アンチヨーダンパでは、電磁比例弁の制御方向を調整することでダンパの減衰力を調整することができ、様々な車輪摩耗状態でのアンチヨーダンパの適応性が向上させる。本開示の実施例において、現時点のMPPT目標関数値と前時点のMPPT目標関数値とを比較することにより、電磁比例弁の調整方向を制御することができる。例えば、目標関数値の比較結果に応じて、電磁比例弁の調整方向を維持したり変更したりすることができる。
【0024】
本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御方法は、枠組横方向振動加速度信号及びアンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力信号を収集し、枠組横方向加速度及びピストンの2つのチャンバの圧力を制御目標としたMPPTアルゴリズムを利用することで、アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を制御し、アンチヨーダンパの減衰力をリアルタイムに調整し、様々な車輪摩耗状態でのアンチヨーダンパの適応性と高速列車の動力学的安定性を向上させる。
【0025】
図1に示すように、ステップ101において、枠組の横方向加速度に対して第1の前処理を行う必要がある。本開示の実施例において、第1の前処理方式は図1に示されていないステップa1~a2を採用することができる。
具体的に、ステップa1において、枠組の横方向加速度信号に対してバンドパスフィルタリングを行う。
【0026】
本開示の実施例において、加速度信号は、EN14363-2016規格に従ってバンドパスフィルタリングされる。EN14363-2016規格は、鉄道車両の運行性能と安定性試験の非強制的な国家規格である。この規格では、車両の運行が不安定であるとの判定条件において、f±2Hzのバンドパスフィルタを用いて信号をフィルタリングすることが規定されている。本開示の実施例において、ステップ101で収集された横方向加速度値に基づいて、高速フーリエ変換を利用し、時間領域信号を周波数領域信号に変換する。当該ステップにおいて、フーリエ変換されたスペクトル信号のうち最も顕著な周波数である主周波数がfで表され、この主周波数fの値に基づいて、横方向加速度信号に対してf±2Hzのバンドパスフィルタリングが行われ、主周波数付近の2Hzの信号のみが残されている。
【0027】
ステップa2において、ステップa1でフィルタリングされた横方向加速度信号を移動平均する。
【0028】
図3には、本開示の実施例において横方向加速度信号に対して移動平均を行う波形図が示されている。図3に示すように、符号Aはバンドパスフィルタリング後の加速度値を表し、符号B(十字記号)は移動平均後の加速度値を表す。テストの場合、列車速度は280キロメートル/時、即ち77.8メートル/秒であり、500メートルの距離に対応するデータウィンドウ、即ち500/77.8=6.4秒をとる。つまり、図2における加速度ウィンドウは6.4秒をとる。移動平均原理に基づき、データウィンドウ内のデータを二乗加算平均し、さらに平方根を求め、得られた値である
【数1】
で元の加速度値に置き換える。ここで、a’は移動平均後の加速度値を表し、a、a、...aは収集されたn個の加速度値を表し、nは個数を表す。ウィンドウを順次移動し、ウィンドウ内の値を移動平均し、現在の加速度値に置き換えて、最終的な移動平均の横方向加速度値を得る。
【0029】
本開示の実施例において、EN14363-2016規格の規定に基づき、バンドパスフィルタリングすることで、横方向加速度信号の主周波数付近の2Hzの信号を残しておき、他の低周波の干渉信号を除去する。そして、フィルタリングされた信号をデータウィンドウで移動平均することにより、偶発的変動要因を除去する。また、移動平均を用いて信号を処理することは、アルゴリズムが簡単で、計算量が少なく、迅速でリアルタイムに非定常データを処理することができる。
【0030】
図1に示すように、ステップ102において、アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、圧力差に対して第2の前処理を行う必要がある。本開示の実施例において、図1に示されていないステップb1~b3でヨーダンのパピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、圧力差信号に対して第2の前処理を行うことができる。具体的なステップは下記の通りである。、
ステップb1において、アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力信号及びピストンの2つのチャンバの面積を収集してピストンの2つのチャンバのそれぞれの圧力を取得する。
【0031】
本開示の実施例において、アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの面積をそれぞれSとSに設定し、圧力センサによって各時刻において収集された圧力値をそれぞれPとPに設定する。圧力に面積を乗算した結果は圧力値である。各時刻におけるピストンの2つのチャンバのそれぞれの圧力値を取得することができる。
【0032】
ステップb2において、ピストンの2つのチャンバ間の圧力差を計算し、圧力差に対してローパスフィルタリングを行う。
【0033】
ステップb1で得られた各時刻におけるアンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバのそれぞれの圧力値に基づき、各時刻におけるピストンの2つのチャンバの圧力差を算出し、圧力差に対してローパスフィルタリングを行い、カットオフ周波数をfとする。つまり、fよりも大きい周波数のノイズ信号がフィルタリングされる。
【0034】
ステップb3において、フィルタリングされた圧力差に対して移動平均を行い、移動平均された圧力差値を、アンチヨーダンパから出力される減衰力として設定する。
【0035】
本開示の実施例において、ステップa2と同じ方法を用いて、フィルタリングされた圧力差値を移動平均し、移動平均された結果を、アンチヨーダンパから出力される減衰力Fとして設定する。
【0036】
本開示の実施例において、圧力差信号に対してローパスフィルタリングを行うことにより、信号の高周波成分が除去され、スムーズなノイズ除去が実現される。そして、フィルタリングされた信号をデータウィンドウで移動平均することにより、偶発的変動要因を除去する。また、移動平均を用いて信号を処理することは、アルゴリズムが簡単で、計算量が少なく、迅速でリアルタイムに非定常データを処理することができる。
【0037】
図1に示すように、ステップ103において、第1の前処理の結果及び第2の前処理の結果に基づき、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較する。本開示の実施例において、MPPT目標関数値は、図1に示されていないステップc1~c2で取得され、現時点の目標関数値と前時点の目標関数値とを比較することができる。具体的なステップは下記の通りである。
ステップc1において、現時点tのMPPTアルゴリズムの目標関数J(t)を取得する。ここで、J(t)=w1*La2+w2*F2、w1は枠組横方向加速度の重みを表し、w2は減衰力の重みを表し、Laは移動平均された横方向加速度値を表し、Fは減衰力を表す。
【0038】
MPPTアルゴリズムのコア原則として、急激な変化の条件下で最大電力点を効果的に追跡し、制御対象を可能な限り最大電力点で動作させることである。本開示の実施例において、MPPTアルゴリズムを列車のダンパ制御に適用する場合、当該アルゴリズムの目標関数J(t)を再設計する。本開示の実施例において、J(t)=w1*La2+w2*F2、w1は枠組の横方向加速度の重みを表し、w2は減衰力の重みを表し、Laは移動平均された横方向加速度値を表し、Fは減衰力を表す。
【0039】
ステップC2において、目標関数値J(t)と前時点の目標関数値J(t-1)とを比較する。
【0040】
アンチヨーダンパでは、電磁比例弁を調整することでダンパの減衰力を調整することができ、様々な車輪摩耗状態でのアンチヨーダンパの適応性を向上させる。本開示の実施例において、電磁比例弁の調整方向であるかを判断するために、現時点の目標関数値J(t)及び前時点の目標関数値J(t-1)を取得し、これらの目標関数値を比較する必要がある。
【0041】
本開示の実施例において、MPPTアルゴリズムの原理に基づいて横方向加速度と減衰力とを制御対象とした目標関数を確立して、目標関数値を比較することで、アンチヨーダンパ減衰力の調整を実現することができる。
【0042】
図1に示すように、ステップ104において、現時点のMPPT目標関数値と前時点のMPPT目標関数値との比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を制御することができる。本開示の実施例において、MPPT目標関数値の比較結果に応じて、電磁比例弁の調整方向について、2つの異なる制御がある。
【0043】
形態1において、J(t)<J(t-1)の場合、アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向をそのままに維持する。
【0044】
本開示の実施例において、現時点の目標関数値J(t)が前時刻の目標関数値J(t-1)よりも小さい(即ち目標関数値が小さくなる)場合、枠組の横方向加速度及びアンチヨーダンパの出力される減衰力を引き続き減少させ、運行の安定性を確保するために、現在のアンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向をそのままに維持すべきである。
【0045】
形態2において、J(t)≧J(t-1)の場合、アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を変更する。
【0046】
本開示の実施例において、現時点の目標関数値J(t)が前時点の目標関数値J(t-1)よりも大きい(即ち目標関数値が大きくなる)場合、枠組の横方向加速度及びアンチヨーダンパの出力される減衰力を減少させ、運行の安定性を向上させるために、アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を変更すべきである。
【0047】
本開示の実施例において、MPPTアルゴリズムの原理に基づいて横方向加速度及び減衰力を制御対象とした目標関数を確立する。目標関数値が小さくなる場合、電磁比例弁の調整方向を維持し、枠組の横方向加速度及びアンチヨーダンパから出力される減衰力を減少させ続ける。目標関数値が大きくなる場合、電磁比例弁の調整方向を変更し、枠組の横方向加速度及びアンチヨーダンパから出力される減衰力を減少させる。目標関数値の変化に基づき、ダンパから出力される減衰力をリアルタイムに調整し、列車運行が安定した状態にあることを確保する。
【0048】
本開示の実施例に係る方法の有効性を検証するために、テスト中において、車両が直線的に走行している時に関連データを収集し、本開示の実施例に係る方法に従ってデータを処理して、枠組の横方向加速度及びダンパの減衰力を制御する。このとき、輪軸の横方向力と枠組の横方向加速度とを監視し、その監視結果を、EN14363規格における車両が安定しているかを判断する限界値と比較することにより、車両の安定性を判断する。
【0049】
EN14363規格では、輪軸横方向力の限界値は
【数2】
であり、ここで、Pは軸重である。枠組横方向加速度の限界値は
【数3】
であり、mは台車の重量である。
【0050】
テストの時、1本の車両の4つの車軸WS1~WS4を監視する。テストの結果から分かるように、MPPT制御アルゴリズムを採用しない場合、車速が330キロメートル/時程度に達すると、4つの車軸の輪軸横方向力と加速度がいずれもEN14363規格における限界値を超えており、車両の運行が不安定になった。
【0051】
MPPT制御アルゴリズムを採用した場合、枠組の横方向加速度の重みw1=1、ダンパの減衰力の重みw2=1とすると、車速が300キロメートル/時~400キロメートル/時の速度レベルでは、車両の輪軸横方向力及び枠組の横方向加速度がいずれもEN14363規格における限界値の範囲内であり、車両の安定運行が可能である。
【0052】
ダンパの減衰力の重みw2が0である場合、このとき上記ステップ107の目標関数J(t)は枠組の横方向加速度のみを制御目標としており、車速が300キロメートル/時~400キロメートル/時の速度レベルでは、車両の輪軸横方向力及び枠組の横方向加速度がいずれもEN14363規格おける限界値の範囲内であり、車両の安定運行が可能である。
【0053】
図4は本開示の実施例に係るアンチヨーダンパの制御装置を例示しており、図4に示すように、アンチヨーダンパの制御装置400は、
枠組の横方向加速度信号を取得し、前記横方向加速度信号に対して第1の前処理を行うための第1の前処理モジュール401と、
アンチヨーダンパのピストンの2つのチャンバの圧力差を取得し、前記圧力差に対して第2の前処理を行うための第2の前処理モジュール402と、
第1の前処理の結果と第2の前処理の結果とに基づいて、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値及び前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値を取得し、現時点のMPPTアルゴリズム目標関数値と前時点のMPPTアルゴリズム目標関数値とを比較するための比較モジュール403と、
比較結果に基づいて、前記アンチヨーダンパの電磁比例弁の調整方向を制御するための制御モジュール404とを備える。
【0054】
本実施例に記載のMPPTアルゴリズムに基づくアンチヨーダンパの制御装置は、上記方法の実施例の実行に用いることができ、その原理及び技術効果は類似しているので、ここでは説明を省略する。
【0055】
図5は、本開示の実施例に係る電子機器の実体構造を例示する概略図である。図5に示すように、当該電子機器は、プロセッサ510、通信インタフェース520、メモリ530、及び通信バス840を含んでもよく、プロセッサ510、通信インタフェース520、メモリ530は、通信バス540を介して互いの通信が実現される。上記方法の実施例を実行するために、プロセッサ510はメモリ530内の論理命令を呼び出すことができ、その原理及び技術効果は類似しているので、ここでは説明を省略する。
【0056】
また、上記のメモリ530内の論理命令は、ソフトウェア機能ユニットの形で実現され、独立した製品として販売または使用される場合、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されてもよい。このような理解に基づき、本開示の技術案は本質的に、あるいは従来技術に寄与する部分又は当該技術案の一部をソフトウェア製品の形で実現されてもよく、当該コンピュータソフトウェア製品は、一つの記憶媒体に記憶され、一つのコンピュータ機器(パーソナルコンピュータ、サーバ、又はネットワーク機器等であってもよい)に本開示の各実施例に記載の方法の全部又は一部のステップを実行させるためのいくつかの命令を含む。前述の記憶媒体は、Uディスク、リムーバブルハードディスク、読み込み専用のメモリ(ROM、Read-Only Memory)、ランダムアクセスメモリ(RAM、Random Access Memory)、磁気ディスクまたは光ディスクなどの様々なプログラムコードが記憶可能な媒体が含まれる。
【0057】
本開示の実施例は、非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体を提供し、前記非一時的なコンピュータ読み取り可能な記憶媒体は、前記コンピュータに上記方法の実施例に係る方法を実行させるコンピュータ命令を記憶し、その原理及び技術効果は類似しているので、ここでは説明を省略する。
【0058】
以上で説明した装置の実施例は単に例示的なものに過ぎず、分離部品として説明した前記ユニットは物理的に分離されてもよく、物理的に分離されなくてもよく、ユニットとして表示される部品は物理的ユニットであってもよく、それではなくてもよく、つまり、一つの箇所にあってもよく、複数のネットワークユニットに分布されてもよい。実際の必要に応じて一部または全部のモジュールを選択して本実施例の技術案の目的を達成することができる。当業者は創造的な労働なし本願の技術案を理解しながら実施することができる。
【0059】
以上の実施形態の説明により、各実施形態がソフトウェアと必要な汎用ハードウェアプラットフォームで実現され得ることが当業者にとって明らかであり、ハードウェアにより実現され得ることは勿論である。このような理解に基づき、上記の技術案は本質的に、あるいは従来技術に寄与する部分をソフトウェア製品の形で実現されることができ、当該コンピュータソフトウェア製品は、ROM/RAM、磁気ディスク、光ディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶されてもよく、一つのコンピュータ機器(パーソナルコンピュータ、サーバ、又はネットワーク機器等であってもよい)に各実施例又は実施例の一部に記載の方法を実行させる。
【0060】
最後に説明すべきこととしては、以上の実施例はただ本開示の技術案を説明するためのものであり、それを限定するものではない。前記実施例を参照して本開示について詳細に説明したが、当業者であれば、前記各実施例に記載の技術案を修正したり、その一部の技術的特徴を同等に置換したりすることが可能であり、これらの修正又は置換は、対応する技術案の本質を本開示の各実施例の技術案の精神及び範囲から逸脱するものではないことを理解すべきである。
図1
図2
図3
図4
図5