(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-04
(45)【発行日】2022-08-15
(54)【発明の名称】ダンパ装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/123 20060101AFI20220805BHJP
F16J 15/3204 20160101ALI20220805BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20220805BHJP
【FI】
F16F15/123 A
F16J15/3204 201
F16J15/3232 201
(21)【出願番号】P 2021518339
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017288
(87)【国際公開番号】W WO2020226055
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2021-10-13
(31)【優先権主張番号】P 2019089047
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】594079143
【氏名又は名称】株式会社アイシン福井
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】瀧澤 優
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼柳 博貴
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃祥
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-151337(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111129(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/123
F16J 15/3232
F16J 15/3204
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからのトルクが伝達される入力要素と、出力要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体とを含むダンパ装置において、
前記入力要素は、前記弾性体を包囲するように形成され、
前記出力要素は、前記エンジンと前記入力要素とを着脱するための工具の通過を許容する逃げ部を含み、
前記入力要素と、前記ダンパ装置の構成部材以外の他の部材との間に、前記逃げ部よりも径方向外側で前記入力要素内への異物の侵入を規制するシール部材が配置されているダンパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のダンパ装置において、
前記シール部材は、前記他の部材に固定されると共に前記入力要素に摺接するダンパ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダンパ装置において、
前記入力要素は、互いに接合される2枚のプレート部材を含み、
前記シール部材は、前記2枚のプレート部材の一方の内周部と、前記他の部材から延出された延出部との間に配置されるダンパ装置。
【請求項4】
請求項3に記載のダンパ装置において、
前記シール部材は、前記内周部の径方向内側かつ前記延出部の径方向外側に配置されるダンパ装置。
【請求項5】
請求項3に記載のダンパ装置において、
前記シール部材は、前記内周部の径方向外側かつ前記延出部の径方向内側に配置されるダンパ装置。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記入力要素と前記他の部材との間に、前記シール部材に隣り合うように軸受が配置されるダンパ装置。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記入力要素と前記出力要素との相対回転に応じて揺動する質量体を含む回転慣性質量ダンパを更に備え、前記入力要素は、前記回転慣性質量ダンパを包囲するように形成されているダンパ装置。
【請求項8】
請求項7に記載のダンパ装置において、
前記回転慣性質量ダンパは、サンギヤ、リングギヤ、複数のピニオンギヤ、および前記複数のピニオンギヤを支持するキャリヤを有する遊星歯車機構を含み、
前記キャリヤは、前記入力要素の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの一方は、前記出力要素の一部であり、前記サンギヤおよび前記リングギヤの他方は、前記質量体として機能するダンパ装置。
【請求項9】
請求項1から8の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記他の部材は、前記出力要素に連結されるシャフトであり、前記シール部材は、前記入力要素と前記シャフトから延出されたフランジとの間に配置されるダンパ装置。
【請求項10】
請求項1から8の何れか一項に記載のダンパ装置において、前記他の部材は、前記出力要素に連結される変速機を収容するケースであるダンパ装置。
【請求項11】
請求項1から10の何れか一項に記載のダンパ装置において、
前記出力要素は、電動機のロータに連結され、前記電動機の前記ロータは、変速機の入力軸に連結されるダンパ装置。
【請求項12】
請求項11に記載のダンパ装置において、
前記ダンパ装置と前記電動機との間、および前記電動機と前記変速機との間には、クラッチが配置されるダンパ装置。
【請求項13】
請求項1から12の何れか一項に記載のダンパ装置において、
中間要素を更に備え、
前記弾性体は、前記入力要素と前記中間要素との間でトルクを伝達する入力側弾性体と、前記中間要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する出力側弾性体とを含むダンパ装置。
【請求項14】
請求項1から13の何れか一項に記載のダンパ装置において、乾式ダンパであるダンパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の発明は、入力要素と、出力要素と、入力要素と出力要素との間でトルクを伝達する弾性体とを含むダンパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルクを導入するための一次質量と、一次質量に対してアークスプリング等のエネルギー蓄積要素を介して回転可能なトルクを放出するための二次質量とを含む自動車の湿式摩擦クラッチ用のねじり振動ダンパが知られている(例えば、特許文献1参照)。このねじり振動ダンパにおいて、一次質量は、エネルギー蓄積要素を受容するための受容チャネルを形成し、受容チャネルは、エネルギー蓄積要素の原動機側を覆う第1シェルと、当該第1シェルに接続されてエネルギー蓄積要素の変速機側を覆う第2シェルとを含む。更に、受容チャネル内の二次質量からフランジが突き出ており、第2シェルを用いて当該フランジを液体および/または塵埃による汚染から保護するためのスプラッシュガードが形成されている。そして、二次質量のフランジはハブに連結され、第2シェルには、第1シェルをトルク発生源に締結するボルトを回転させるための工具が挿通される複数のツール孔が形成されている。更に、第2シェルの各ツール孔には、ハブおよび/またはハブに連結されるシャフトに摺接する周方向シールリップを有するシール要素が嵌め込まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102013205919号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のダンパ装置では、シール要素により受容チャネルすなわち一次質量の内部への液体や塵埃の侵入を規制することができる。しかしながら、上記ダンパ装置をトルク発生源や湿式摩擦クラッチに組み付けたり、両者から取り外したりする際に、シール要素を第2シェルに着脱することが必要となる。例えば、上記ダンパ装置の一次質量とトルク発生源との連結を解除する際には、二次質量に連結されたハブとシャフト等との連結を解除した後、第2シェルからシール要素を取り外さなければならない。このため、上記ダンパ装置は、組付性およびメインテナンス性の面で改善の余地を有している。
【0005】
そこで、本開示は、弾性体を包囲するように形成された入力要素内への異物の侵入を規制しつつ、ダンパ装置の組付性およびメインテナンス性をより向上させることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のダンパ装置は、エンジンからのトルクが伝達される入力要素と、出力要素と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体とを含むダンパ装置において、前記入力要素が、前記弾性体を包囲するように形成され、前記出力要素が、前記エンジンと前記入力要素とを着脱するための工具の通過を許容する逃げ部を含み、前記入力要素と、前記ダンパ装置の構成部材以外の他の部材との間に、前記逃げ部よりも径方向外側で前記入力要素内への異物の侵入を規制するシール部材が配置されているものである。
【0007】
本開示のダンパ装置では、弾性体を包囲するように形成された入力要素と、ダンパ装置の構成部材以外の他の部材との間にシール部材が配置され、当該シール部材により入力要素内への異物の侵入が規制される。更に、シール部材は、エンジンと入力要素とを着脱するための工具の通過を許容するように出力要素に形成された逃げ部よりも径方向外側で入力要素内への異物の侵入を規制する。これにより、ダンパ装置から他の部材を分離させることで、逃げ部に工具を挿通可能となり、当該逃げ部に挿通された工具を用いてエンジンと入力要素とを着脱することができる。この結果、弾性体を包囲するように形成された入力要素内への異物の侵入を規制しつつ、ダンパ装置の組付性およびメインテナンス性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本開示の第1の実施形態に係るダンパ装置を含む動力伝達装置の概略構成図である。
【
図2】第1の実施形態に係るダンパ装置を含む動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【
図3】第1の実施形態における他のダンパ装置を含む動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【
図4】第1の実施形態における更に他のダンパ装置を含む動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【
図5】本開示の第2の実施形態に係るダンパ装置を含む動力伝達装置の概略構成図である。
【
図6】第2の実施形態に係るダンパ装置を含む動力伝達装置の要部拡大断面図である。
【
図7】第2の実施形態における他のダンパ装置を示す概略構成図である。
【
図8】第2の実施形態における更に他のダンパ装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、図面を参照しながら、本開示の発明を実施するための形態について説明する。
【0010】
図1は、本開示の第1の実施形態に係るダンパ装置10を含む動力伝達装置1を示す概略構成図である。同図に示す動力伝達装置1は、ガソリンや軽油、LPGといった炭化水素系の燃料と空気との混合気を爆発燃焼させて動力を発生するエンジン(内燃機関)EGを含む車両Vに搭載され、当該エンジンEGからの動力をドライブシャフトDSに伝達可能なものである。
図1に示すように、動力伝達装置1は、エンジンEGのクランクシャフトCSに連結されるダンパ装置10に加えて、モータジェネレータMGと、変速機TMと、ダンパ装置10とモータジェネレータMGとの間に配置されたクラッチK0と、モータジェネレータMGと変速機TMとの間に配置されたクラッチK2と、変速機TMおよびドライブシャフトDSに連結されたデファレンシャルギヤDFとを含む。
【0011】
モータジェネレータMGは、図示しないインバータを介してバッテリ(図示省略)に接続される三相同期発電電動機である。モータジェネレータMGは、ステータSと、クラッチK0を介してダンパ装置10に連結されると共にクラッチK2を介して変速機TMに連結されるロータRを含む。モータジェネレータMGは、バッテリからの電力により駆動されて駆動トルクを変速機TMに出力すると共に、車両Vの制動時に回生制動トルクを変速機TMに出力することができる。回生制動トルクの出力に伴ってモータジェネレータMGにより発電される電力は、バッテリの充電や図示しない補機の駆動に供される。
【0012】
変速機TMは、例えば4段~10段変速式の有段変速機であり、クラッチK2を介してモータジェネレータMGのロータRに連結される入力軸(入力部材)ISや、入力軸ISに連結される図示しないインターミディエイトシャフト、デファレンシャルギヤDFに図示しないギヤ機構を介してあるいは直接連結される出力軸(出力部材)OS、入力軸ISから出力軸OSまでの動力伝達経路を複数に変更するための少なくとも1つの遊星歯車機構、複数のクラッチおよびブレーキ(何れも図示省略)等を含む。ただし、変速機TMは、例えばベルト式の無段変速機(CVT)やデュアルクラッチトランスミッション等であってもよい。
【0013】
クラッチK0は、例えば多板式の油圧クラッチであり、ダンパ装置10に連結された伝達軸(シャフト)TSとモータジェネレータMGのロータRとを連結すると共に両者の連結を解除するものである。クラッチK2は、例えば多板式の油圧クラッチであり、モータジェネレータMGのロータRと変速機TMの入力軸ISとを連結すると共に両者の連結を解除するものである。ただし、クラッチK0およびK2は、単板式の油圧クラッチであってもよく、ドグクラッチや電磁クラッチ等の乾式クラッチであってもよい。
【0014】
本実施形態の動力伝達装置1では、基本的に、車両Vの発進に際してクラッチK0が解放されると共にクラッチK2が係合させられる。これにより、エンジンEGを停止させた状態で、バッテリからの電力により駆動されるモータジェネレータMGからの駆動トルクを変速機TMやデファレンシャルギヤDF等を介してドライブシャフトDSに出力して車両Vを発進させることができる。また、車両Vの発進後、エンジン始動条件の成立に応じてエンジンEGが図示しないスタータモータによりクランキングされて始動される。更に、クラッチK0の係合条件が成立すると、当該クラッチK0がスリップしながら徐々に係合させられる。これにより、エンジンEGから駆動トルクをダンパ装置10や変速機TM、デファレンシャルギヤDF等を介してドライブシャフトDSに出力することが可能となる。また、動力伝達装置1では、クラッチK2を解放すると共にクラッチK0を係合させた状態で、エンジンEGにより駆動されて発電するモータジェネレータMGからの電力によりバッテリを充電することができる。
【0015】
ダンパ装置10は、乾式ダンパとして構成されており、エンジンEGとクラッチK0との間に位置するように、クラッチK0,K2、モータジェネレータMG、変速機TMと共に動力伝達装置1のケースC内に収容される。
図1および
図2に示すように、ダンパ装置10は、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11と、ドリブン部材(出力要素)15とを含む。更に、ダンパ装置10は、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で並列に作用してトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング(第1弾性体)SPと、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で並列に作用してトルクを伝達可能な複数(本実施形態では、例えば6個)の弾性部材(第2弾性体)EMとを含む。
【0016】
なお、以下の説明において、「軸方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、ダンパ装置10の中心軸(軸心)の延在方向を示す。また、「径方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、ダンパ装置10や当該ダンパ装置10等の回転要素の径方向、すなわちダンパ装置10の中心軸から当該中心軸と直交する方向(半径方向)に延びる直線の延在方向を示す。更に、「周方向」は、特に明記するものを除いて、基本的に、ダンパ装置10や当該ダンパ装置10等の回転要素の周方向、すなわち当該回転要素の回転方向に沿った方向を示す。
【0017】
図2に示すように、ダンパ装置10のドライブ部材11は、エンジンEGのクランクシャフトCSに固定される第1プレート部材(フロントカバー)111と、当該第1プレート部材111と一体化された第2プレート部材(リヤカバー)112と、図示しない複数のリベットを介して第2プレート部材112に固定(連結)される第3プレート部材113とを含む。第1プレート部材111は、鋼板等をプレス加工することにより形成された環状の板体であり、その内周部には、複数のボルト孔111hが配設されている。第1プレート部材111は、それぞれ対応するボルト孔111hに挿通されてクランクシャフトCSに螺合される複数のボルトBを介してクランクシャフトCSに固定される。また、第1プレート部材111の外周部には、フライホールマス111mが溶接により固定され、当該フライホールマス111mの外周面には、上記スタータモータの回転軸に取り付けられた図示しないピニオンギヤに噛合する外歯歯車111gが溶接により固定される。
【0018】
第2プレート部材112は、鋼板等をプレス加工することにより第1プレート部材111の内径よりも大きい内径を有するように形成された環状のプレス加工品であり、環状の側壁部と、当該側壁部の外周から軸方向に延出された外筒部112oとを含む。第2プレート部材112の外筒部112oの先端部は、第1プレート部材111の外周に溶接により接合され、それにより、第2プレート部材112は側壁部が第1プレート部材111と間隔をおいて互いに対向するように当該第1プレート部材111に一体化される。また、第2プレート部材112は、内周から軸方向に延出された短尺筒状(円筒状)の内筒部(筒状部)112iと、当該内筒部112iに沿って周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング保持凹部112xと、複数(本実施形態では、例えば6個)のトルク授受部(弾性体当接部)112cとを含む。各スプリング保持凹部112xは、スプリングSPの自然長に応じた周長を有し、各トルク授受部112cは、隣り合うスプリング保持凹部112xの周方向における間に1つずつ形成されている。
【0019】
第3プレート部材113は、鋼板等をプレス加工することにより第2プレート部材112の内径と概ね同一の内径を有するように形成された環状の板体である。第3プレート部材113は、第2プレート部材112の外筒部112oの径方向内側かつ第1および第2プレート部材111,112の軸方向における間に配置され、当該第2プレート部材112(側壁部)と対向する。また、第3プレート部材113は、第2プレート部材112の対応するスプリング保持凹部112xと対向するように周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング収容窓と、複数(本実施形態では、例えば6個)のトルク授受部(弾性体当接部)113cとを含む。各スプリング収容窓は、スプリングSPの自然長に応じた周長を有し、各トルク授受部113cは、隣り合うスプリング収容窓の周方向に間に1つずつ形成されている。
【0020】
ドリブン部材15は、鋼板等をプレス加工することにより形成された環状のプレス加工品であり、伝達軸TSがスプライン嵌合(固定)される内筒部と、当該内筒部から径方向外側に延出されると共に第2および第3プレート部材112,113の軸方向における間に配置される環状のプレート部とを含む。また、ドリブン部材15は、周方向に間隔をおいて(等間隔に)プレート部に形成された複数(本実施形態では、例えば6個)のスプリング収容窓と、複数(本実施形態では、例えば6個)のトルク授受部(弾性体当接部)15cとを含む。各スプリング収容窓は、スプリングSPの自然長に応じた周長を有し、各トルク授受部15cは、隣り合うスプリング収容窓の周方向における間に1つずつ形成されている。
【0021】
更に、ドリブン部材15の内周部には、それぞれ第2プレート部材112の内筒部112iの内周面よりも径方向内側で第1プレート部材111の対応するボルト孔111hと対向するように複数のツール孔(逃げ部)15hが形成されている。各ツール孔15hの寸法(内径)は、ボルトBおよび当該ボルトBの螺合(エンジンEGとドライブ部材11との連結・分離)に用いられる工具の通過を許容するように定められている。加えて、ドリブン部材15の外周には、複数の外歯15tが形成されている。複数の外歯15tは、ドリブン部材15の外周の全体に形成されてもよく、ドリブン部材15の外周に周方向に間隔をおいて(等間隔に)定められた複数の箇所に形成されてもよい。
【0022】
第2プレート部材112の各スプリング保持凹部112x、第3プレート部材113の各スプリング収容窓およびドリブン部材15の各スプリング収容窓内には、スプリングSPが1個ずつ配置される。本実施形態では、スプリングSPとして、荷重が加えられてないときに真っ直ぐに延びる軸心を有するように螺旋状に巻かれた金属材からなる直線型コイルスプリングが採用されている。これにより、アークコイルスプリングを用いた場合に比べて、スプリングSPを軸心に沿ってより適正に伸縮させることができる。この結果、ドライブ部材11(入力要素)とドリブン部材15(出力要素)との相対変位が増加していく際にスプリングSPからドリブン部材15に伝達されるトルクと、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対変位が減少していく際にスプリングSPからドリブン部材15に伝達されるトルクとの差すなわちヒステリシスを低減化することが可能となる。ただし、スプリングSPとして、アークコイルスプリングが採用されてもよい。
【0023】
図2に示すように、各スプリングSPには、スプリング保持凹部112x等への配置に先立って、スプリングシートSSが装着される。スプリングシートSSは、対応するスプリングSPの一端に嵌合されると共に当該スプリングSPの外周面の径方向外側の領域を覆うように形成されている。更に、各スプリングSPの他端には、図示しないスプリングシートが嵌合される。スプリングシートSS等が装着されたスプリングSPは、スプリングシートSSが対応するスプリング保持凹部112xやスプリング収容窓の内壁面に摺接するように当該スプリング保持凹部112x等に配置される。そして、ダンパ装置10の取付状態において、ドライブ部材11の各トルク授受部112c,113cは、対応するスプリング保持凹部112x等に配置されたスプリングSPの一端側または他端側のスプリングシートSS等に当接する。更に、ドリブン部材15の各スプリング収容窓の周方向における両側に位置するトルク授受部15cは、当該スプリング収容窓内のスプリングSPの一端側または他端側のスプリングシートSS等に当接する。これにより、ドライブ部材11とドリブン部材15とが複数のスプリングSPを介して連結される。
【0024】
また、本実施形態において、弾性部材EMは、樹脂により短尺円柱状に形成されており、各スプリングSPの内部に1個ずつ同軸に配置される。複数の弾性部材EMは、ドライブ部材11への入力トルク(駆動トルク)あるいは車軸側からドリブン部材15に付与されるトルク(被駆動トルク)がダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応したトルクT2(第2の閾値)よりも小さい予め定められたトルク(第1の閾値)T1以上であって、ドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上であるときに、複数のスプリングSPと並列に作用する。これにより、ダンパ装置10に大きなトルクが伝達された際に、当該ダンパ装置10の剛性を高めることが可能となる。加えて、ダンパ装置10は、
図1に示すように、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転を規制するストッパ17を含む。ストッパ17は、ドライブ部材11への入力トルクがダンパ装置10の最大捩れ角θmaxに対応した上記トルクT2に達すると、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転を規制し、それに伴って、スプリングSP並びに弾性部材EMのすべての撓みが規制される。
【0025】
更に、ダンパ装置10は、
図1に示すように、複数のスプリングSPおよび複数の弾性部材EMを含むトルク伝達経路TPに並列に設けられる回転慣性質量ダンパ20を含む。回転慣性質量ダンパ20は、ダンパ装置10の入力要素であるドライブ部材11と出力要素であるドリブン部材15との間に配置されるシングルピニオン式の遊星歯車機構PG(
図1参照)を含む。本実施形態において、遊星歯車機構PGは、外周に外歯15tを含んでサンギヤとして機能するドリブン部材15と、それぞれドリブン部材15の外歯15tに噛合する複数(本実施形態では、例えば3-6個)のピニオンギヤ23と、当該複数のピニオンギヤ23を回転自在に支持してキャリヤとして機能するドライブ部材11の第2および第3プレート部材112,113と、各ピニオンギヤ23に噛合すると共にサンギヤとしてのドリブン部材15(外歯15t)と同心円上に配置されるリングギヤ25とにより構成される。
【0026】
遊星歯車機構PGのキャリヤを構成する第2および第3プレート部材112,113は、スプリング保持凹部112xやスプリング収容窓よりも径方向外側で、それぞれピニオンギヤ23に挿通された複数のピニオンシャフト24の対応する端部を支持する。これにより、遊星歯車機構PGの複数のピニオンギヤ23は、複数のスプリングSPよりもドリブン部材15等の径方向における外側で周方向に並ぶように配置される。なお、第2および第3プレート部材112,113を締結するためのリベットは、例えばピニオンシャフト24の周方向における両側に配置される。
【0027】
ピニオンギヤ23は、外周に形成された複数の外歯(ギヤ歯)23tを有する環状部材であり、当該ピニオンギヤ23の歯幅は、外歯15tの歯幅、すなわちドリブン部材15の板厚と概ね同一に定められている。また、ピニオンギヤ23の中心孔内、すなわち当該ピニオンギヤ23の内周面とピニオンシャフト24の外周面との間には、複数のニードルベアリング230が配置される。更に、各ピニオンギヤ23の軸方向における両側には、一対の大径ワッシャ231が配置され、大径ワッシャ231と第2または第3プレート部材112,113との間には、当該大径ワッシャ231よりも小径の一対の小径ワッシャ232が配置される。
【0028】
遊星歯車機構PGのリングギヤ25は、内周に形成された複数の内歯25tを有する環状部材である。本実施形態において、内歯25tは、リングギヤ25の内周の全体にわたって形成されており、内歯25tの歯幅は、ドリブン部材15やピニオンギヤ23の外歯15t,23tの歯幅と概ね同一に定められている。ただし、内歯25tは、リングギヤ25の内周に周方向に間隔をおいて(等間隔に)定められた複数の箇所に形成されてもよい。そして、リングギヤ25は、回転慣性質量ダンパ20の質量体(慣性質量体)として機能する。このように、遊星歯車機構PGの最外周に配置されるリングギヤ25を回転慣性質量ダンパ20の質量体として用いることで、当該リングギヤ25の慣性モーメントをより大きくして当該回転慣性質量ダンパ20の振動減衰性能をより向上させることができる。
【0029】
図2に示すように、回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車機構PG)の外歯15t、各ピニオンギヤ23およびリングギヤ25は、ドライブ部材11の第2プレート部材112の外筒部112oの内側かつ第2および第3プレート部材112,113の軸方向における間に配置される。すなわち、回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車機構PG)の外歯15t、各ピニオンギヤ23およびリングギヤ25は、それぞれ複数のスプリングSPおよび弾性部材EMと共に、ドライブ部材11すなわち第1および第2プレート部材111,112により包囲される。
【0030】
また、動力伝達装置1では、伝達軸TSがダンパ装置10の近傍でラジアル軸受90を介してケースCにより回転自在に支持されており、当該伝達軸TSからは、環状のフランジ(延出部)50が延出されている。フランジ50は、伝達軸TSがスプライン嵌合される中心孔部を有し、ドリブン部材15に対して第1プレート部材111とは反対側に位置するように伝達軸TSに固定(一体化)される。すなわち、フランジ50の軸方向における移動は、ドリブン部材15と伝達軸TSの一部(スプラインが形成されていない部分)とにより規制される。
【0031】
更に、フランジ50は、外周から軸方向に延出された短尺筒状(円筒状)の外筒部(筒状部)51を含む。当該外筒部51の外径は、第2プレート部材112の内筒部112iの内径よりも小さく定められており、外筒部51と第2プレート部材112の内筒部112iとの間には、液体や塵埃といった異物の侵入を規制するシール部材60が配置される。シール部材60は、圧入等により外筒部51の外周面に固定され、当該シール部材60の外周に形成されたリップ部は、ドリブン部材15の複数のツール孔15hよりも径方向外側で第2プレート部材112の内筒部112iの内周面に摺接する。また、ドライブ部材11の第1プレート部材111には、中心孔およびボルト孔111h以外の開口部が形成されておらず、第2プレート部材112には、リベットやピニオンシャフト24が挿通される孔部以外の開口部が形成されていない。これにより、回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車機構PG)の外歯15t(ドリブン部材15)、各ピニオンギヤ23およびリングギヤ25、複数のスプリングSP並びに複数の弾性部材EMは、クランクシャフトCS、第1プレート部材111、第2プレート部材112、シール部材60、フランジ50および伝達軸TSにより画成される閉空間内に配置される。加えて、本実施形態では、外筒部51と第2プレート部材112の内筒部112iとの間に、シール部材60に対してドリブン部材15側で隣り合うようにラジアル軸受70が配置される。更に、ドリブン部材15(外歯15t)と各ピニオンギヤ23との噛合部および各ピニオンギヤ23とリングギヤ25との噛合部には、グリスが塗布され、相対回転する2つの部材間には、樹脂製のシート等が配置される。
【0032】
上述のように構成される動力伝達装置1では、クラッチK0の係合条件の成立に応じて当該クラッチK0が係合させられると、エンジンEGからの駆動トルクがダンパ装置10のドライブ部材11すなわち第1から第3プレート部材111-113に伝達される。エンジンEGからドライブ部材11に伝達されたトルク(平均トルク)は、入力トルクが上記トルクT1に達するまで、複数のスプリングSPを介してドリブン部材15に伝達される。そして、ドリブン部材15に伝達されたトルクは、伝達軸TS、クラッチK0、モータジェネレータMGのロータR、クラッチK2、変速機TMおよびデファレンシャルギヤDF等を介してドライブシャフトDSに伝達される。
【0033】
また、ドライブ部材11がドリブン部材15に対して回転すると(捩れると)、複数のスプリングSPが撓むと共に、ドライブ部材11とドリブン部材15との相対回転に応じて質量体としてのリングギヤ25が軸心周りに回転する(揺動)する。このようにドライブ部材11がドリブン部材15に対して揺動する際には、遊星歯車機構PGの入力要素であるキャリヤとしての第2および第3プレート部材112,113の回転速度がサンギヤとしてのドリブン部材15の回転速度よりも高くなる。従って、この際、リングギヤ25は、遊星歯車機構PGの作用により増速され、第2および第3プレート部材112,113すなわちドライブ部材11よりも高い回転速度で回転する。これにより、回転慣性質量ダンパ20の質量体であるリングギヤ25からピニオンギヤ23を介してダンパ装置10の出力要素であるドリブン部材15に慣性トルクを付与し、当該ドリブン部材15の振動を減衰させることが可能となる。なお、回転慣性質量ダンパ20は、ドライブ部材11とドリブン部材15との間で主に慣性トルクを伝達し、平均トルクを伝達することはない。
【0034】
より詳細には、複数のスプリングSPと回転慣性質量ダンパ20とが並列に作用する際、複数のスプリングSP(トルク伝達経路TP)からドリブン部材15に伝達されるトルク(平均トルク)は、各スプリングSPの変位(撓み量すなわち捩れ角)に依存(比例)したものとなる。これに対して、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達されるトルク(慣性トルク)は、ドライブ部材11とドリブン部材15との角加速度の差、すなわちドライブ部材11とドリブン部材15との間のスプリングSPの変位の2回微分値に依存(比例)したものとなる。これにより、ダンパ装置10のドライブ部材11に伝達される入力トルクが周期的に振動していると仮定すれば、ドライブ部材11から複数のスプリングSPを介してドリブン部材15に伝達される振動の位相と、ドライブ部材11から回転慣性質量ダンパ20を介してドリブン部材15に伝達される振動の位相とが180°ずれることになる。この結果、ダンパ装置10では、複数のスプリングSPからドリブン部材15に伝達される振動と、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動との一方により、他方の少なくとも一部を打ち消して、ドリブン部材15の振動を良好に減衰させることが可能となる。
【0035】
更に、ダンパ装置10では、質量体としてのリングギヤ25の慣性モーメントの大きさに拘わらず、複数のピニオンギヤ23とリングギヤ25との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤとしての第2および第3プレート部材112,113すなわちドライブ部材11に付加する一方、サンギヤとしてのドリブン部材15の慣性モーメントを減少させることが可能となる。より詳細には、リングギヤ25の慣性モーメントを“Jr”とし、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値を“Jp”とし、遊星歯車機構PGの歯数比(外歯15tの歯数/内歯25tの歯数)を“λ”としたときに、遊星歯車機構PGによりドライブ部材11に分配される慣性モーメントJiおよびドリブン部材15に分配される慣性モーメントJoは、次式(1)および(2)のように表される。式(1)および(2)からわかるように、ドライブ部材11に分配される慣性モーメントJiは、常に、リングギヤ25および複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値(Jr+Jp)よりも大きい正の値となる。また、ドリブン部材15に分配される慣性モーメントJoは、Jo=Jr+Jp-Jiであり、常に負の値となる。
【0036】
【0037】
従って、ダンパ装置10では、ドリブン部材15やモータジェネレータMGのロータR等と一体に回転する変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することができる。更に、ダンパ装置10では、スプリングSPからドリブン部材15に伝達される振動とは逆位相の振動(慣性トルク)を回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達可能であり、当該回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15に伝達される振動によってシャフト共振によるトルク変動を小さくすることができる。この結果、ダンパ装置10によれば、変速機TMのシャフト共振が比較的低い回転域で発生して顕在化するのを良好に抑制することが可能となる。
【0038】
そして、ダンパ装置10では、ドライブ部材11すなわち第1および第2プレート部材111,112が、それぞれ複数のスプリングSPおよび弾性部材EM、回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車機構PG)の外歯15t、各ピニオンギヤ23およびリングギヤ25を包囲するように形成される。また、ドライブ部材11の第2プレート部材112と、ダンパ装置10の構成部材以外の部材である動力伝達装置1の伝達軸TS(他の部材)から延出されたフランジ50との間にシール部材60が配置される。更に、シール部材60は、エンジンEGとドライブ部材11とを着脱するための工具の通過を許容するようにドリブン部材15に形成された各ツール孔(逃げ部)15hよりも径方向外側でドライブ部材11内への異物の侵入を規制する。
【0039】
これにより、異物によりスプリングSP、弾性部材EM並びに回転慣性質量ダンパ20のスムースな動作が妨げられるのを抑制してダンパ装置10全体の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。また、ダンパ装置10(ドリブン部材15)から伝達軸TS(および当該伝達軸TSよりもドライブシャフトDS側の要素)を分離させることで、ドリブン部材15の各ツール孔15hに工具を挿通可能となり、ツール孔15hに挿通された工具を用いてエンジンEGとドライブ部材11とを着脱することができる。この結果、ドライブ部材11内すなわち第1および第2プレート部材111,112内への異物の侵入を規制しつつ、ダンパ装置10の組付性およびメインテナンス性をより向上させることが可能となる。
【0040】
更に、上記実施形態において、ドライブ部材11は、互いに接合される第1および第2プレート部材111,112を含み、シール部材60は、第1および第2プレート部材111,112の一方、すなわち第2プレート部材112の内筒部(内周部)112iと、伝達軸TS(他の部材)から延出されたフランジ50の外筒部51との間に配置される。これにより、スプリングSPや回転慣性質量ダンパ20の構成部材を包囲するようにドライブ部材11を形成すると共に、シール部材60により当該ドライブ部材11への異物の侵入を良好に規制することが可能となる。
【0041】
また、上記実施形態において、シール部材60は、伝達軸TSのフランジ50(外筒部51)に固定されると共にドライブ部材11の第2プレート部材112(内筒部112i)に摺接する。これにより、ダンパ装置10(ドリブン部材15)から伝達軸TS等を分離させた後、シール部材60と工具とを干渉させることなくボルトBを取り外し、エンジンEGとドライブ部材11とを着脱することが可能となる。ただし、シール部材60は、伝達軸TSのフランジ50(外筒部51)に摺接するように第2プレート部材112(内筒部112i)に固定されてもよい。
【0042】
更に、上記実施形態において、シール部材60は、第2プレート部材112の内筒部112iの径方向内側かつフランジ50の外筒部51の径方向外側に配置される。これにより、伝達軸TSの回転に伴ってシール部材60に作用する遠心力により当該シール部材60のリップ部を内筒部112iの内周面に押し付けることができる。従って、シール部材60に遠心力が作用した際にシール性を良好に確保してドライブ部材11への異物の侵入を極めて良好に規制することが可能となる。ただし、フランジ50の外筒部51が第2プレート部材112の内筒部112iを包囲するように形成されてもよく、この場合、シール部材60は、第2プレート部材112の内筒部112iの径方向外側かつフランジ50の外筒部51の径方向内側に配置されてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、第2プレート部材112の内筒部112iと、伝達軸TSから延出されたフランジ50の外筒部51との間に、シール部材60に隣り合うようにラジアル軸受70が配置される。これにより、ドライブ部材11が実質的に両端で支持されることから、ドライブ部材11すなわちダンパ装置10全体の軸ブレを抑制してシール部材60によるシール性を良好に維持することが可能となる。ただし、ダンパ装置10(動力伝達装置1)からラジアル軸受70が省略されてもよい。
【0044】
なお、ダンパ装置10には、弾性部材EMの代わりに、上記トルク伝達経路TPと並列な第2のトルク伝達経路を構成すると共にドライブ部材11とドリブン部材15との間で互いに並列に作用してトルクを伝達可能な複数のスプリング(第2弾性体)が設けられてもよい。かかる複数のスプリングをドライブ部材11への入力トルクが上記トルク(第1の閾値)T1に達してドライブ部材11のドリブン部材15に対する捩れ角が所定角度θref以上になってから複数のスプリングSPと並列に作用させることで、ダンパ装置10に2段階(2ステージ)の減衰特性をもたせることが可能となる。
【0045】
図3は、本開示の第1の実施形態における他のダンパ装置10Bを含む動力伝達装置1Bの要部拡大断面図である。なお、動力伝達装置1Bやダンパ装置10Bの構成要素のうち、上述の動力伝達装置1等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0046】
図3に示す動力伝達装置1Bでは、伝達軸TSからフランジ50が省略されている。また、動力伝達装置1BのケースCBは、ダンパ装置10が配置されるスペースとクラッチK0,K2、モータジェネレータMG、変速機TM等が配置されるスペースとを区画する隔壁部Cwと、ドライブ部材11の第2プレート部材112の内筒部112iを包囲するように隔壁部Cwから延出された筒状の延出部Ceとを含む。ケースCBの延出部Ceの内周面は、第2プレート部材112の内筒部112iの外周面よりも大きい曲率半径を有する凹円柱面状に形成されている。また、第2プレート部材112の内筒部112iの内周面は、ドリブン部材15の複数のツール孔15hよりも径方向外側に位置する。
【0047】
そして、第2プレート部材112の内筒部112iとケースCBの延出部Ceとの間には、液体や塵埃といった異物の侵入を規制するシール部材60Bが配置される。シール部材60Bは、圧入等により延出部Ceの内周面に固定され、当該シール部材60Bの内周に形成されたリップ部は、ドリブン部材15の複数のツール孔15hよりも径方向外側で第2プレート部材112の内筒部112iの外周面に摺接する。すなわち、シール部材60Bは、第2プレート部材112の内筒部112iの径方向外側かつケースCBの延出部Ceの径方向内側に配置される。更に、第2プレート部材112の内筒部112iとケースCBの延出部Ceとの間には、シール部材60Bに対してドリブン部材15から離間する側(図中左側)で隣り合うようにラジアル軸受70が配置される。なお、ケースCB(隔壁部Cw)と伝達軸TSとの間には、クラッチK0等が配置されるスペースからダンパ装置10が配置されるスペースへの油(作動油)の流入を規制する図示しないシール部材が設けられる。
【0048】
このように、ダンパ装置10Bを含む動力伝達装置1Bでは、回転慣性質量ダンパ20(遊星歯車機構PG)の外歯15t(ドリブン部材15)、各ピニオンギヤ23およびリングギヤ25、複数のスプリングSP並びに複数の弾性部材EMが、クランクシャフトCS、第1プレート部材111、第2プレート部材112、シール部材60B、ケースCBおよび伝達軸TSにより画成される閉空間内に配置される。従って、動力伝達装置1Bおよびダンパ装置10Bにおいても、動力伝達装置1およびダンパ装置10と同様の作用効果を得ることが可能となる。また、ダンパ装置10Bを含む動力伝達装置1Bでは、シール部材60Bが静止部材であるケースCBの延出部Ceに固定されることから、シール部材60Bには、遠心力が作用しない。従って、シール部材60Bが第2プレート部材112の内筒部112iの外周面に摺接するように当該内筒部112iの径方向外側に配置されても、シール部材60Bのリップ部を内筒部112iの外周面に常時良好に接触させておくことができる。なお、シール部材60Bは、延出部Ceの内周面に摺接するように、第2プレート部材112の内筒部112iの外周面に固定されてもよい。また、ダンパ装置10B(動力伝達装置1B)からラジアル軸受70が省略されてもよい。
【0049】
図4は、本開示の第1の実施形態における更に他のダンパ装置10Cを含む動力伝達装置1Cの要部拡大断面図である。なお、動力伝達装置1Cやダンパ装置10Cの構成要素のうち、上述の動力伝達装置1等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0050】
図4に示す動力伝達装置1Cでは、ドライブ部材11の第2プレート部材112の内筒部112iにより包囲されるようにケースCCの隔壁部Cwから筒状の延出部Ceが延出されている。当該延出部Ceの外周面は、第2プレート部材112の内筒部112iの内周面よりも小さい曲率半径を有する円柱面状に形成されている。また、内筒部112iの内周面は、ドリブン部材15の複数のツール孔15hよりも径方向外側に位置する。更に、第2プレート部材112の内筒部112iとケースCCの延出部Ceとの間には、液体や塵埃といった異物の侵入を規制するシール部材60Cが配置される。シール部材60Cは、圧入等により延出部Ceの外周面に固定され、当該シール部材60Cの外周に形成されたリップ部は、ドリブン部材15の複数のツール孔15hよりも径方向外側で第2プレート部材112の内筒部112iの内周面に摺接する。すなわち、シール部材60Cは、第2プレート部材112の内筒部112iの径方向内側かつケースCCの延出部Ceの径方向外側に配置される。
【0051】
かかる動力伝達装置1Cおよびダンパ装置10Cにおいても、動力伝達装置1およびダンパ装置10と同様の作用効果を得ることが可能となる。なお、シール部材60Cは、延出部Ceの外周面に摺接するように、第2プレート部材112の内筒部112iの内周面に固定されてもよい。また、第2プレート部材112の内筒部112iとケースCCの延出部Ceとの間には、シール部材60Cに隣り合うようにラジアル軸受70が配置されてもよい。
【0052】
図5は、本開示の第2の実施形態に係るダンパ装置10Dを含む動力伝達装置1Dの概略構成図であり、
図6は、動力伝達装置1Dの要部拡大断面図である。なお、動力伝達装置1Dやダンパ装置10Dの構成要素のうち、上述の動力伝達装置1等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0053】
図4および
図5に示すダンパ装置10Dは、
図1および
図2に示すダンパ装置10に中間部材12を追加したものに相当する。すなわち、ダンパ装置10Dは、回転要素として、ドライブ部材(入力要素)11Dと、中間部材(中間要素)12と、ドリブン部材(出力要素)15Dとを含む。更に、ダンパ装置10Dは、トルク伝達要素(トルク伝達弾性体)として、ドライブ部材11Dと中間部材12との間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第1スプリング(入力側弾性体)SP1と、それぞれ対応する第1スプリングSP1と直列に作用して中間部材12とドリブン部材15Dとの間でトルクを伝達する複数(本実施形態では、例えば3個)の第2スプリング(出力側弾性体)SP2とを含む。
【0054】
ダンパ装置10Dのドライブ部材11Dは、エンジンEGのクランクシャフトCSにボルトBを介して固定される第1プレート部材(フロントカバー)111Dと、当該第1プレート部材111Dと一体化された第2プレート部材(リヤカバー)112Dと、図示しない複数のリベットを介して第2プレート部材112Dに固定(連結)される第3プレート部材113Dとを含む。ドライブ部材11Dの第2プレート部材112Dは、軸方向に延在する短尺筒状(円筒状)の内筒部112iと、当該内筒部112iに沿って周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング保持凹部112xと、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)112cとを含む。各トルク授受部112cは、隣り合うスプリング保持凹部112xの周方向における間に1つずつ形成されている。第3プレート部材113Dは、第2プレート部材112Dの対応するスプリング保持凹部112xと対向するように周方向に間隔をおいて(等間隔に)形成された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓と、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)113cとを含む。各トルク授受部113cは、隣り合うスプリング収容窓の周方向に間に1つずつ形成されている。
【0055】
中間部材12は、環状の第1中間プレート121と、図示しない複数のリベットを介して第1中間プレート121に固定(連結)される環状の第2中間プレート122とを含む。第1中間プレート121は、ドライブ部材11Dの第2プレート部材112Dとドリブン部材15Dとの軸方向における間に配置され、第2中間プレート122は、ドライブ部材11Dの第3プレート部材113Dとドリブン部材15Dとの軸方向における間に配置される。また、第1中間プレート121は、それぞれ円弧状に延びるように周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓と、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)121cとを含む。同様に、第2中間プレート122は、それぞれ円弧状に延びるように周方向に間隔をおいて(等間隔に)配設された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓と、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)122cとを含む。トルク授受部121c,122cは、周方向に沿って互いに隣り合うスプリング収容窓の間に1個ずつ設けられる。
【0056】
ドリブン部材15Dは、それぞれ円弧状に延びるように周方向に間隔をおいて(等間隔に)プレート部に形成された複数(本実施形態では、例えば3個)のスプリング収容窓と、複数(本実施形態では、例えば3個)のトルク授受部(弾性体当接部)15cとを含む。各トルク授受部15cは、隣り合うスプリング収容窓の周方向における間に1つずつ形成されている。更に、ドリブン部材15は、それぞれ第1プレート部材111の対応するボルト孔111hと対向するように形成された複数のツール孔(逃げ部)15hと、外周に形成された複数の外歯15tとを含む。
【0057】
第2プレート部材112Dの各スプリング保持凹部112x、第1および第2中間プレート121,122の各スプリング収容窓、第3プレート部材113Dの各スプリング収容窓およびドリブン部材15Dの各スプリング収容窓内には、それぞれスプリングシートSS等が装着された第1および第2スプリングSP1,SP2が互いに対をなす(直列に作用する)ように1個ずつ配置される。第1および第2スプリングSP1,SP2は、直線型コイルスプリングまたはアークコイルスプリングである。
【0058】
ダンパ装置10Dの取付状態において、ドライブ部材11Dを構成する第2および第3プレート部材112D,113Dの各トルク授受部112c,113cは、互いに異なるスプリング保持凹部112x等に配置されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者に装着されたスプリングシートSS等に当接する。また、ダンパ装置10Dの取付状態において、中間部材12の各トルク授受部121c,122cは、共通のスプリング保持凹部112x等に配置されて互いに対をなす第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者に装着されたスプリングシートSS等の端部に当接する。更に、ダンパ装置10Dの取付状態において、ドリブン部材15Dの各トルク授受部15cは、互いに異なるスプリング保持凹部112x等に配置されて対をなさない(直列に作用しない)第1および第2スプリングSP1,SP2の間で両者に装着されたスプリングシートSS等に当接する。
【0059】
これにより、第1および第2スプリングSP1,SP2は、ダンパ装置10Dの周方向に交互に並び、互いに対をなす第1および第2スプリングSP1,SP2は、ドライブ部材11Dとドリブン部材15Dとの間で、中間部材12のトルク授受部121c,122cを介して直列に連結される。すなわち、複数の第1スプリングSP1、中間部材12および複数の第2スプリングSP2は、ドライブ部材11Dとドリブン部材15Dとの間でトルクを伝達するトルク伝達経路TP′を構成する。この結果、ダンパ装置10Dでは、ドライブ部材11Dとドリブン部材15Dとの間でトルクを伝達する弾性体の剛性、すなわち第1および第2スプリングSP1,SP2の合成ばね定数をより小さくすることができる。
【0060】
そして、ドライブ部材11Dの第2プレート部材112の内筒部112iと、伝達軸TSから延出されたフランジ50の外筒部51との間には、ドライブ部材11D内に液体や塵埃といった異物の侵入を規制するシール部材60Dと、ラジアル軸受70とが配置される。これにより、動力伝達装置1Dおよびダンパ装置10Dにおいても、動力伝達装置1およびダンパ装置10等と同様の作用効果を得ることが可能となる。ただし、ダンパ装置10D(動力伝達装置1D)からラジアル軸受70が省略されてもよい。また、動力伝達装置1Dにおいて、伝達軸TSからフランジ50が省略されてもよく、第2プレート部材112Dの内筒部112iと、動力伝達装置1Dの図示しないケースから延出された延出部との間にシール部材60Dが配置されてもよい。
【0061】
更に、中間部材12を含むダンパ装置10Dでは、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ弾性部材EMが撓んでいない状態に対して、2つの固有振動数(共振周波数)を設定することができる。すなわち、トルク伝達経路TP′では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ弾性部材EMが撓んでおらず、エンジンEGの回転数Ne(ドライブ部材11の回転数)が極低いときに、例えばドライブ部材11とドリブン部材15とが互いに逆位相で振動することによる共振(第1共振)が発生する。
【0062】
また、一自由度系における中間部材12の固有振動数f12は、f12=1/2π・√((k1+k2)/J12)と表され(ただし、“J12”は、中間部材12の慣性モーメントであり、“k1”は、ドライブ部材11と中間部材12との間で並列に作用する複数の第1スプリングSP1の合成ばね定数であり、“k2”は、中間部材12とドリブン部材15の間で並列に作用する複数の第2スプリングSP2の合成ばね定数である。)、中間部材12を環状に形成することで慣性モーメントJ12が比較的大きくなることから、当該中間部材12の固有振動数f12は比較的小さくなる。これにより、トルク伝達経路TP′では、第1および第2スプリングSP1,SP2の撓みが許容され、かつ弾性部材EMが撓んでいない際に、エンジンEGの回転数Neが上記第1共振の振動数に対応した回転数よりもある程度高まった段階で、中間部材12がドライブ部材11Dおよびドリブン部材15Dの双方と逆位相で振動することによる当該中間部材12の共振(第2共振)が発生する。
【0063】
一方、トルク伝達経路TP′(第2スプリングSP2)からドリブン部材15Dに伝達される振動の振幅は、エンジンEGの回転数Neが、比較的小さい中間部材12の固有振動数f12に対応した回転数に達する前に減少から増加に転じることになる。これに対して、回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15Dに伝達される振動の振幅は、エンジンEGの回転数Neが増加するにつれて徐々に増加していく。これにより、ダンパ装置10Dでは、中間部材12の存在によりトルク伝達経路TP′を介して伝達されるトルクに2つのピークすなわち第1および第2共振が発生することに起因して、ドリブン部材15Dの振動振幅が理論上ゼロになる反共振点を合計2つ設定することができる。従って、ダンパ装置10Dでは、トルク伝達経路TP′で発生する第1および第2共振に対応した2つのポイントで、トルク伝達経路TP′における振動の振幅と、それと逆位相になる回転慣性質量ダンパ20における振動の振幅とをできるだけ近づけることで、ドリブン部材15Dの振動を極めて良好に減衰させることが可能となる。
【0064】
また、ダンパ装置10Dには、
図7に示すように、弾性部材EMの代わりに、上記トルク伝達経路TPと並列な第2のトルク伝達経路を構成すると共にドライブ部材11Dとドリブン部材15Dとの間で互いに並列に作用してトルクを伝達可能な複数のスプリング(第2弾性体)SPzが設けられてもよい。かかる複数のスプリングSPzをドライブ部材11Dへの入力トルクが上記トルク(第1の閾値)T1に達してから第1および第2スプリングSP1,SP2と並列に作用させることで、ダンパ装置10Dに2段階(2ステージ)の減衰特性をもたせることが可能となる。かかる複数のスプリングSPzは、ダンパ装置10Dの径方向における第1および第2スプリングSP1,SP2の外側で複数のピニオンギヤ23と周方向に隣り合うように配置されてもよく(
図7参照)、第2プレート部材112Dの外周側の角部の内面に形成された凹部内に配置されてもよく、ダンパ装置10Dの径方向における第1および第2スプリングSP1,SP2の内側に配置されてもよい。
【0065】
図8は、本開示の第2の実施形態における他のダンパ装置10Eを示す要部拡大断面図である。なお、ダンパ装置10Eの構成要素のうち、上述のダンパ装置10,10D等と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0066】
図8に示すダンパ装置10Eにおいて、回転慣性質量ダンパ20Eは、複数の外歯22tを含むと共に質量体(慣性質量体)として機能するサンギヤ22と、それぞれサンギヤ22の外歯22tに噛合する複数の外歯23tを有する複数のピニオンギヤ23と、複数のピニオンギヤ23を回転自在に支持してキャリヤとして機能するドライブ部材11Eの第2プレート部材112Eと、複数のピニオンギヤ23に噛合する複数の内歯25tを含むリングギヤ25Eとにより構成される遊星歯車機構を含む。また、回転慣性質量ダンパ20Eにおいて、キャリヤとしての第2プレート部材112Eは、複数のピニオンシャフト24の一端(基端)を周方向に間隔をおいて(等間隔に)片持ち支持する。更に、リングギヤ25Eは、ドリブン部材15Eと一体化され、ダンパ装置10Eの出力要素を構成する。
【0067】
かかるダンパ装置10Eでは、複数のピニオンギヤ23と質量体としてのサンギヤ22との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤとしての第2プレート部材112Eすなわちドライブ部材11Eに付加する一方、リングギヤ25Eと一体化されたドリブン部材15Eの慣性モーメントを減少させることが可能となる。より詳細には、サンギヤ22の慣性モーメントを“Js”とし、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値を“Jp”とし、遊星歯車機構の歯数比(サンギヤ22(外歯22t)の歯数/内歯25tの歯数)を“λ”としたときに、遊星歯車機構によりドライブ部材11Eに分配される慣性モーメントJiおよびドリブン部材15Eに分配される慣性モーメントJoは、次式(3)および(4)のように表される。本実施形態において、サンギヤ22の慣性モーメントJsは、複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値Jpよりも十分に大きく、ドライブ部材11Eに分配される慣性モーメントJiは、サンギヤ22および複数のピニオンギヤ23の慣性モーメントの合計値(Js+Jp)よりも大きい正の値となる。また、ドリブン部材15Eに分配される慣性モーメントJoは、Jo=Js+Jp-Jiであり、負の値となる。
【0068】
【0069】
この結果、ドリブン部材15EやモータジェネレータMGのロータR等と一体に回転する変速機TMの入力軸ISの慣性モーメント(合計値)の増加、すなわちシャフト共振の振動数の低下を抑制することができる。更に、ダンパ装置10Eでは、第2スプリングSP2からドリブン部材15Eに伝達される振動とは逆位相の振動(慣性トルク)を回転慣性質量ダンパ20Eからドリブン部材15Eに伝達可能であり、当該回転慣性質量ダンパ20からドリブン部材15Eに伝達される振動によってシャフト共振によるトルク変動を小さくすることができる。従って、ダンパ装置10Eによっても、変速機TMのシャフト共振が比較的低い回転域で発生して顕在化するのを良好に抑制することが可能となる。
【0070】
なお、ダンパ装置10Eにおいて、第2プレート部材112Eと、伝達軸TSから延出されたフランジ50との間に、シール部材60Eに隣り合うようにラジアル軸受が配置されてもよい。また、伝達軸TSからフランジ50が省略されてもよく、第2プレート部材112Eと、ダンパ装置10Eを含む動力伝達装置のケース(図示省略)から延出された延出部との間にシール部材60Eが配置されてもよい。更に、ダンパ装置10Eから中間部材12Eが省略されてもよい。
【0071】
以上説明したように、本開示のダンパ装置は、エンジン(EG)からのトルクが伝達される入力要素(11,11D,11E)と、出力要素(15,15D,15E)と、前記入力要素と前記出力要素との間でトルクを伝達する弾性体(SP,SP1,SP2,SPz,EM)とを含むダンパ装置(10,10B,10C,10D,10E)において、前記入力要素(11,11D,11E)が、前記弾性体(SP,SP1,SP2,SPz,EM)を包囲するように形成され、前記出力要素(15,15D,15E)が、前記エンジン(EG)と前記入力要素(11,11D,11E)とを着脱するための工具の通過を許容する逃げ部(15h)を含み、前記入力要素(11,11D,11E、112、112D,112E,112i)と、前記ダンパ装置(10,10B,10C,10D,10E)の構成部材以外の他の部材(TS,50,C,CC,CB,Ce)との間に、前記逃げ部(15h)よりも径方向外側で前記入力要素(11,11D,11E)内への異物の侵入を規制するシール部材(60,60B,60C,60D,60E)が配置されているものである。
【0072】
本開示のダンパ装置では、弾性体を包囲するように形成された入力要素と、ダンパ装置の構成部材以外の他の部材との間にシール部材が配置され、当該シール部材により入力要素内への異物の侵入が規制される。更に、シール部材は、エンジンと入力要素とを着脱するための工具の通過を許容するように出力要素に形成された逃げ部よりも径方向外側で入力要素内への異物の侵入を規制する。これにより、ダンパ装置から他の部材を分離させることで、逃げ部に工具を挿通可能となり、当該逃げ部に挿通された工具を用いてエンジンと入力要素とを着脱することができる。この結果、弾性体を包囲するように形成された入力要素内への異物の侵入を規制しつつ、ダンパ装置の組付性およびメインテナンス性をより向上させることが可能となる。
【0073】
また、前記シール部材(60,60B,60C,60D,60E)は、前記他の部材(TS,50,51,C,CC,CB,Ce)に固定されると共に前記入力要素(11,11D,11E、112、112D,112E,112i)に摺接するものであってもよい。これにより、シール部材と工具とを干渉させることなく、エンジンと入力要素とを着脱することが可能となる。
【0074】
更に、前記入力要素(11,11D,11E)は、互いに接合される2枚のプレート部材(111,111D,112、112D,112E)を含んでもよく、前記シール部材(60,60B,60C,60D,60E)は、前記2枚のプレート部材の一方(112、112D,112E)の内周部(112i)と、前記他の部材(TS,C,CC,CB)から延出された延出部(50,51,Ce)との間に配置されてもよい。これにより、弾性体を包囲するように入力要素を形成すると共に、入力要素と上記他の部材との間に配置されるシール部材により当該入力要素内への異物の侵入を良好に規制することが可能となる。
【0075】
また、前記シール部材(60,60B,60C,60D,60E)は、前記内周部(112i)の径方向内側かつ前記延出部(50,51,Ce)の径方向外側に配置されてもよい。これにより、シール部材に遠心力が作用した際にシール性を良好に確保することが可能となる。
【0076】
更に、前記シール部材(60,60B,60C,60D,60E)は、前記内周部(112i)の径方向外側かつ前記延出部(50,51,Ce)の径方向内側に配置されてもよい。
【0077】
また、前記入力要素(11,11D,11E、112、112D,112E,112i)と前記他の部材(TS,50,C,CC,CB,Ce)との間に、前記シール部材(60,60B,60C,60D,60E)に隣り合うように軸受(70)が配置されてもよい。これにより、入力要素が実質的に両端で支持されることから、入力要素ひいてはダンパ装置全体の軸ブレを抑制してシール部材によるシール性を良好に維持することが可能となる。
【0078】
更に、前記ダンパ装置(10,10B,10C,10D,10E)は、前記入力要素(11,11D,11E)と前記出力要素(15,15D,15E)との相対回転に応じて揺動する質量体(25,22)を含む回転慣性質量ダンパ(20,20E)を更に含んでもよく、前記入力要素(11,11D,11E)は、前記回転慣性質量ダンパ(20,20E)を包囲するように形成されてもよい。これにより、異物により回転慣性質量ダンパのスムースな動作が妨げられるのを抑制しつつ、当該回転慣性質量ダンパによりダンパ装置全体の振動減衰性能をより向上させることが可能となる。
【0079】
また、前記回転慣性質量ダンパ(20,20E)は、サンギヤ(15,15D,15t,22)、リングギヤ(25,25E)、複数のピニオンギヤ(23)、および前記複数のピニオンギヤ(23)を支持するキャリヤ(112,112D,112E,113,113D)を有する遊星歯車機構(PG)を含むものであってもよく、前記キャリヤ(112,112D,112E,113,113D)は、前記入力要素(11,11D,11E)の一部であってもよく、前記サンギヤおよび前記リングギヤの一方(15,15D,15t,15E,25E)は、前記出力要素の一部であってもよく、前記サンギヤおよび前記リングギヤの他方(22,25)は、前記質量体として機能してもよい。これにより、遊星歯車機構を含む回転慣性質量ダンパの特性より、複数のピニオンギヤと質量体としてのサンギヤおよびリングギヤの他方との慣性モーメントの合計値よりも大きい慣性モーメントをキャリヤすなわち入力要素に付加する一方、サンギヤおよびリングギヤの一方すなわち出力要素の慣性モーメントを減少させることが可能となる。
【0080】
更に、前記他の部材は、前記出力要素(15,15D,15E)に連結されるシャフト(TS)であってもよく、前記シール部材(60,60B,60C,60D,60E)は、前記入力要素(11,11D,11E、112、112D,112E,112i)と前記シャフト(TS)から延出されたフランジ(50,51)との間に配置されてもよい。
【0081】
また、前記他の部材は、前記出力要素(15,15D,15E)に連結される変速機(TM)を収容するケース(C,CB,CC,Ce)であってもよい。
【0082】
更に、前記出力要素(15,15D,15E)は、電動機(MG)のロータ(R)に連結されてもよく、前記電動機(MG)の前記ロータ(R)は、変速機(TM)の入力軸(IS)に連結されてもよい。
【0083】
また、前記ダンパ装置(10,10B,10C,10D,10E)と前記電動機(MG)との間、および前記電動機(MG)と前記変速機(TM)との間には、クラッチ(K0,K2)が配置されてもよい。
【0084】
更に、前記ダンパ装置(10D、10E)は、中間要素(12,12E)を含むものであってもよく、前記弾性体は、前記入力要素(11D,11E)と前記中間要素(12,12E)との間でトルクを伝達する入力側弾性体(SP1)と、前記中間要素(12,12E)と前記出力要素(15D,15E)との間でトルクを伝達する出力側弾性体(SP2)とを含んでもよい。これにより、出力側弾性体から出力要素に伝達される振動と、回転慣性質量ダンパから出力要素に伝達される振動とが理論上互いに打ち消し合うことになる反共振点を2つ設定することができるので、ダンパ装置の振動減衰性能をより一層向上させることが可能となる。
【0085】
また、前記ダンパ装置(10,10B,10C,10D,10E)は、乾式ダンパであってもよい。
【0086】
そして、本開示の発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の外延の範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。更に、上記発明を実施するための形態は、あくまで発明の概要の欄に記載された発明の具体的な一形態に過ぎず、発明の概要の欄に記載された発明の要素を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本開示の発明は、ダンパ装置の製造分野等において利用可能である。