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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】筋肉改質剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/74 20150101AFI20220808BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220808BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20220808BHJP
【FI】
A61K35/74 A
A61P21/00
A61K35/742
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017105116
(22)【出願日】2017-05-26
(65)【公開番号】P2018199642
(43)【公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-05-11
【微生物の受託番号】ATCC  PTA-1773
【微生物の受託番号】NPMD  NITE-BP863
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】501176303
【氏名又は名称】日環科学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】598092993
【氏名又は名称】京葉ガスエナジーソリューション株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】児玉 浩明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 成樹
(72)【発明者】
【氏名】西内 巧
(72)【発明者】
【氏名】宮本 浩邦
(72)【発明者】
【氏名】井藤 俊行
(72)【発明者】
【氏名】森 健一
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-100728(JP,A)
【文献】特開2011-101597(JP,A)
【文献】特許第5578375(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第103416585(CN,A)
【文献】特開2008-113652(JP,A)
【文献】Lipids in Health and Disease, 2016, Vol.15, 188(p.1-9)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00
A61P 21/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、複合菌ATCC PTA-1773の菌体含有し、ヒトもしくは動物個体への経口的投与によって、被投与個体のtypeII筋繊維の持久力を高める変化を引き起こせしむことを特徴とする、前記被投与個体の運動能の維持向上を目的とした筋肉改質剤。
【請求項2】
有効成分としてバチルス ヒサシイ(Baciilus hsashii)NITE-BP863を含有し、ヒトもしくは動物個体への経口的投与によって、被投与個体の速筋型トロポニンTのアイソフォームをfTnT1型からfTnT3型にシフトする変化を引き起こせしむことを特徴とする、前記被投与個体の運動能の維持向上を目的とした筋肉改質剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品、食品、食品添加物、飼料、および飼料添加物として利用可能な筋肉改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分析技術やデータ解析技術の急速な進歩に基づく、網羅的生体情報解析技術、いわゆるオミックス技術の発展に伴い、腸内微生物叢、すなわち腸内フローラと宿主動物の代謝や生理機能、病態との関連が急速に明らかになってきている。
【0003】
腸管内には多種多様な腸内細菌が生息しており、それらが宿主腸管細胞と相互作用することで複雑な腸内生態系を形成し、これらの恒常性を維持することがヒトの健康維持に寄与する一方で、そのバランスが乱れると、炎症性腸疾患や大腸がんといった腸管関連疾患のみならず、アレルギーや代謝疾患といった全身性疾患につながることが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
また疫学的知見として、例えば、高齢被験者の糞便中の微生物叢の構成が、居住場所や食事の内容によってグループ分けされるとともに、当該微生物叢構成の区分は、フレイル、併存疾患、栄養状態、炎症マーカーおよび糞便水分中の代謝産物などの判定結果と有意な相関を示す、といった知見が報告されている(非特許文献2)。
【0005】
一方で、発明人らは本発明に先行する発明や研究において、自らが見出した高温発酵産物由来の複合菌ATCC PTA-1773、およびバチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863をそれぞれプロバイオティクスとして経口的に投与することによって、被投与個体の腸内微生物叢をコントロールする効能を生じさせることを既に見出している(非特許文献3)(特許文献1)。尚、前記高温発酵産物由来の複合菌ATCC PTA-1773は、2000年5月1日付けでATCC(American Type Culture Collection, 10801 University Boulevard Manassas, Virginia 20110-2209 U.S.A.)に国際寄託されている(受託番号:PTA-1773)。又、前記バチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863は、2010年1月15日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に国際寄託されている(受託番号:NITE BP-863)。
【0006】
発明人らは、その後の研究開発において、高温発酵産物由来の複合菌ATCC PTA-1773から得た好熱性複合菌NITE BP-1051やバチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863の投与の結果として、腸内微生物叢の変化が引き起こされた後に、被投与個体側に、筋肉の改質を伴う生理変化が引き起こされることを新たな知見として見出した。尚、前記好熱性複合菌NITE BP-1051は、2011年1月18日付けで独立行政法人製品評価技術基盤機構の特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に国際寄託されている(受託番号:NITE BP-1051)。
【0007】
ここでの筋肉の改質とは、後に例示するように、単に筋肉量(重量や容積)の変化にとどまらず、例えば筋タンパク質をコードする遺伝子の発現レベルでの調節機構を介して、筋肉組織・細胞中の筋繊維に生化学・分子生物学レベルでの変化が引き起こされることを指す。
【0008】
高温発酵産物由来の複合菌ATCC PTA-1773、およびPTA-1773から得た好熱性複合菌NITE BP-1051やバチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863が、その経口投与によって筋肉の改質を引き起こす効能については、先行技術に関連する特許や文献において、そのような効能を推察できる記載はなく、その点において、本発明に基づく技術は、先行技術とは異なる技術であるといえる。
【0009】
またプロバイオティック微生物の経口的投与によって被投与個体の筋肉に影響を及ぼす先行技術としては、以下が挙げられる。
【0010】
特許文献2においては、ラクトバチルス ガセリの経口的投与による、マウスの筋肉量および行動量の変化が主張されている。
【0011】
また非特許文献4ではバチルス属の3菌種の経口的投与によって、また非特許文献5ではバチルス サブティリスの経口的投与によって、それぞれブロイラーの筋肉の物理的特性やpH、栄養成分組成が影響を受けることが報告されている。
【0012】
しかしこれら先行技術はいずれも、経口的投与によって被投与個体の筋肉の改質を実現する本発明の筋肉改質剤と比して、筋肉の構成タンパク質の改質がターゲットとされていない点において、根本的に非なる技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2016-204355
【文献】特開2016-84358
【非特許文献】
【0014】
【文献】福田真嗣. "メタボロゲノミクスによる腸内エコシステムの理解と制御." Journal of Japanese Biochemical Society 88.1 (2016): 61-70.
【文献】Claesson, Marcus J., et al. "Gut microbiota composition correlates with diet and health in the elderly." Nature 488.7410 (2012): 178-184.
【文献】平成21年度経済産業省戦略的基盤技術高度化支援事業「廃水産資源および食品加工残渣を原料とする高機能性発酵飼料製造技術の開発」成果報告書
【文献】Zhou, Xianjian, et al. "Effects of dietary supplementation of probiotics (Bacillus subtilis, Bacillus licheniformis, and Bacillus natto) on broiler muscle development and meat quality." Turkish Journal of Veterinary and Animal Sciences 39.2 (2015): 203-210.
【文献】Abdulla, Nazim Rasul, et al. "Physico-chemical properties of breast muscle in broiler chickens fed probiotics, antibiotics or antibiotic-probiotic mix." Journal of Applied Animal Research 45.1 (2017): 64-70.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の前提として、主訴や主因が明確ではない慢性疲労症候群や、生活習慣病としてのメタボリック症候群など、薬剤等で積極的な治療を行う「疾患」とは異なった、日々の生活の中で少しずつダメージを蓄積させていくタイプの、いわば「疾患予備軍」の問題が、現代社会において顕在化してきている状況が存在する。
【0016】
このような「未病」に対してのアプローチとして、食を通じた身体機能の改善と健康の維持、いわゆる「医食同源」が近年重要視されてきており、医食同源を科学的に体現し、社会全体の健康維持・発展に寄与する技術・製品の出現が待望されている。
【0017】
本発明は、プロバイオティック微生物および当該微生物に由来する製品の発案を通じ、上述の課題解決に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、有効成分として、複合菌ATCC PTA―1773の菌体もしくは当該菌体を含有する発酵産物を含有し、ヒトもしくは動物個体への経口的投与によって、被投与個体のtypeII筋繊維に遅筋的性質を付与する変化を引き起こせしむことを特徴とする筋肉改質剤によって、上記課題を解決する。
【0019】
当該筋肉改質剤は、微生物による発酵産物や、あるいは分離もしくは単離された生菌体、死菌体、および発酵産物、生菌体、死菌体より抽出、分離、複製、加工等の操作によって得られた製品を含むことで、その機能性を担保する。
【0020】
本発明の実施形態の一においては、バチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863の生菌として、10~10個/宿主体重kg・日に相当する量、もしくは当該量の生菌体に相当する機能を発揮する死菌体、および生菌体、死菌体より抽出、分離、複製、加工等の操作によって得られた二次産品として摂取可能な筋肉改質剤を供することができる。
【0021】
本発明の実施形態の一においては、複合菌NITE BP-1051の全部もしくは一部、あるいは複合菌ATCC PTA-1773の全部もしくは一部を、適当な発酵基質に加え、発酵過程を経て得られた発酵産物を、0.0001~10g/宿主体重kg・日に相当する量、もしくは当該量の発酵産物に相当する機能を発揮する生菌体、死菌体、および発酵産物、生菌体、死菌体より抽出、分離、複製、加工等の操作によって得られた二次産品として摂取可能な筋肉改質剤を供することができる。
【0022】
ただし、当該筋肉改質剤の実際の適用量については、動物種および個体ごとの腸内微生物叢の状態に応じて決定することが望ましい。
【0023】
例えば腸内微生物叢の分子遺伝学的、あるいは分析化学的な検証によって、筋肉改質剤の投与による腸内環境の変化を確認することが可能であるので、被投与個体について、このようなデータと実際の生理学的所見とを勘案しつつ、個体、あるいは類似環境で生育する個体群に対しての至適投与量を先に記載の濃度範囲を参考としつつ決定することが望ましい。
【0024】
斯様な分析検証の実施が困難な場合は、類似対象への投与事例における知見を参考にして暫定的な投与量を決定するとともに、投与開始後の被投与個体の状況に応じて投与量を可変させ、それに伴う生理学的所見の改善を注意深く観察することによって、個体、あるいは類似環境で生育する個体群に対しての至適投与量を先に記載の濃度範囲を参考としつつ決定することが望ましい。
【0025】
このような筋肉改質剤は、いずれもヒトや動物個体への経口的投与に供することで、被投与個体の上部消化管をその活性を失うことなく通過し、腸管まで到達することで、腸内微生物叢をコントロールすることが先行技術によって既に示されている。
【0026】
筋肉改質剤によって被投与個体の腸内微生物叢が変化すれば、次いで腸内微生物叢を構成する微生物群と腸管細胞間のシグナル分子を介したインタラクションが変化し、その情報が宿主体内に伝達されることによって、宿主体内の各組織における、さまざまな代謝が変化する。
【0027】
本発明に基づく筋肉改質剤が、例えば、被投与個体の腸内微生物叢のうち、ラクトバチルス属あるいはビフィドバクテリウム属あるいはラクノスピラ属の存在比率を、あるいは、これらの属のうち特定種の細菌の存在比率を高めることで、当該細菌と腸管細胞間のシグナル分子を介したインタラクションが変化し、その情報が宿主体内に伝達されることによって、宿主体内の各組織におけるさまざまな代謝が変化する。
【0028】
また本発明に基づく筋肉改質剤が、例えば、被投与個体の腸内微生物叢のうち、クロストリジウム属あるいはストレプトコッカス属あるいはエンテロコッカス属の存在比率を、あるいは、これらの属のうち特定種の細菌の存在比率を低下させることで、当該細菌と腸管細胞間のシグナル分子を介したインタラクションが変化し、その情報が宿主体内に伝達されることによって、宿主体内の各組織におけるさまざまな代謝が変化する。
【0029】
本発明に基づく筋肉改質剤によって、ラクトバチルス属、クロストリジウム属、ストレプトコッカス属をはじめとする、各属各種の細菌の存在比率を総体的に変化させることに起因して、腸内微生物叢を構成する微生物群と腸管細胞間のシグナル分子を介したインタラクションが変化し、その情報が宿主体内に伝達された結果、筋繊維を構成する細胞における、筋関連タンパク質発現のシグナル等の作用を介して、筋繊維中の特定のタンパク質の含有量が変化する現象を生じさせる。
【0030】
ほ乳類の骨格筋の筋繊維は、その生理学的性質および含有するミオシンに基づきtypeI(遅筋型)筋繊維とtypeII(速筋型)筋繊維に大別される。
【0031】
TypeI筋繊維はミトコンドリアが豊富で、酸素を利用した持続的な収縮を行う。
【0032】
一方、typeII筋繊維はミトコンドリアが比較的少なく、解糖系により瞬発的な収縮を行う。TypeII筋繊維はさらにIIa、IId/x、IIb筋繊維に細分され、前者ほど遅筋的な性質が強い。
【0033】
トロポニンTは速筋型筋繊維、遅筋型筋繊維、心筋型筋繊維において、それぞれ異なる特徴的なアイソフォームが発現(含有)することから、筋繊維のタイプを分別する上で非常に有効なマーカータンパク質である。
【0034】
本発明によって供される筋肉改質剤は、例えば被投与動物の筋繊維においてトロポニンTのアイソフォームをfTnT1型からfTnT3型にシフトさせることから、typeIIの筋繊維に遅筋的(IIa様)な性質を付与することができる。
【0035】
また筋繊維におけるミオグロビンは、typeI筋繊維およびtypeIIa筋繊維の比率が高いほど、その含有量が多くなることが知られているが、本発明によって供される筋肉改質剤は、例えば、被投与動物の筋繊維中のミオグロビン含有量を任意に増加させることができる。
【0036】
本発明に基づく筋肉改質剤が、上述のように被投与動物の筋繊維をtypeIIa様の性質へとシフトさせることは、日常生活における運動能を維持する意味において極めて重要である。
【0037】
加齢が進むとtypeII筋繊維の縮退が進行する。一方、typeI筋繊維は比較的維持される。そのため加齢による運動能の低下は、typeI筋繊維が主に使用される日常生活における活動のような比較的ゆるやかな動きの局面ではなく、typeII筋繊維が主となる俊敏性や瞬発性の低下という形で顕在化する。
【0038】
加齢に伴う運動能の低下を防ぐ目的で、高齢者の筋力トレーニングが重要視される。高齢者の筋力トレーニングでは早期に筋肥大の傾向を示すが、これらの筋力増加の大部分は神経的要素によるものとされる。
【0039】
継続的なトレーニングによって、高齢者においても一定のtypeII筋繊維の肥大が認められるが、高齢者の日常的な身体活動の中で使用されるのは殆どがtypeI筋繊維に依存する動作であり、トレーニングが間欠的になれば、typeII筋繊維は使用されないまま、再び萎縮してしまうことが想定される。
【発明の効果】
【0040】
本発明に基づく筋肉改質剤において、typeII筋繊維に遅筋的な(IIaタイプに近い)性質を付与すれば、日常の運動強度下においても、より効果的にtypeII筋繊維を活用することが可能となり、結果として高齢者の筋力維持に対して正の効用をもたらす。
【0041】
このように本発明に基づく筋肉改質剤の使用によって、高齢者の筋力維持に対して正の効用がもたらされれば、サルコペニアやフレイル、ロコモティブ症候群などの筋萎縮を伴う病態に対する予防改善効果が期待できる。
【0042】
また本発明に基づく筋肉改質剤は、被投与動物の速筋型筋繊維をtypeIIa様の性質へとシフトさせることによって、例えば畜産動物の有酸素運動能を高め、代謝の向上に寄与し、比較的低脂肪で赤味優位の畜肉が生産されやすくなる効果をもたらす。
【0043】
さらに筋繊維の構造に由来する物理的特性が変化することで、畜肉の食感やしなやかさにも影響を与え、結果として畜肉の品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本実施の形態における実施例1の一次元電気泳動によるタンパク質の泳動パターンである。
図2】本実施の形態における実施例1の二次元電気泳動によるタンパク質の泳動パターンの一部である。
図3】本実施の形態における実施例2の二次元電気泳動によるタンパク質の泳動パターンの一部である。
図4】本発明における筋肉改質剤の効能についての概念図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0045】
(好熱菌発酵産物溶解液の作成)複合菌ATCC PTA-1773を含有する高温発酵産物を、水道水を用いて体積比で100倍に希釈し、60℃で10時間以上、曝気処理して作成した。
【0046】
(ブタへの溶解液の給与)作成した複合菌ATCC PTA-1773を含有する溶解液を、飲水に対して体積比0.4%の濃度で、ブタ飼育施設の給水管に混合し、ブタ飼育施設の半分のブタに飲水給与し(溶解液給与区)、残りの半分のブタには、混合せずに飲水を供した(対照区)。
【0047】
(ブタもも肉サンプルの調製)上記被検体ブタのもも肉を、屠殺後3日間、0℃付近で保存した後、筋肉試料サンプルを回収し、解析するまで-80℃で凍結保存した。
【0048】
筋肉タンパク質の抽出は、130mgの凍結組織を凍結破砕機にて粉末化した後、650μLのタンパク質抽出液に懸濁し、さらに、超音波破砕機にて、タンパク質を抽出した。
【0049】
(電気泳動によるタンパク質組成の解析)0.6μLのタンパク質抽出液を用いて、一次元電気泳動および二次元電気泳動によってタンパク質を分離した結果を図1図2に示す。
【0050】
複合菌ATCC PTA-1773を含有する溶解液給与区および対照区から調製した筋肉タンパク質間で、異なる移動度を示したタンパク質については、質量分析解析を行い、タンパク質を同定した。
【0051】
図1は、一次元電気泳動によるタンパク質の泳動パターンを示している。矢印で示したバンドは、ミオグロビンであり、溶解液給与区において、対照区と比較し、約1.6倍に増加していた。
【0052】
ミオグロビンはミトコンドリアへの酸素の運搬を行うタンパク質であり、ミオグロビンの増加は、筋肉の赤味を増し、ミトコンドリアが豊富なtypeI筋繊維またはtypeIIa筋繊維が多いことを示している。
【0053】
図2は、二次元電気泳動によるタンパク質の泳動パターンの一部で、溶解液給与区と対照区で特に異なるパターンが得られた部分を示している。質量分析の結果、対照区では酸性型トロポニンTであるfTnT1およびfTnT2が主に発現し、溶解液給与区ではアルカリ性型トロポニンTであるfTnT3が主に発現した。
【0054】
図1図2の結果から、複合菌ATCC PTA-1773を含有する溶解液の給与により、ブタもも肉の筋繊維は、本来の解糖系代謝を基本とするtypeIIのエネルギー代謝から、ミオグロビンが増加することでミトコンドリアによるエネルギー代謝が活発となり、持久力にすぐれる有酸素系代謝を基本とするtypeIIa様のエネルギー代謝へと変化した。
【実施例2】
【0055】
(バチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863を含む飼料の調製)飼料は、トウモロコシ、大豆粕ミールを主成分とし、日本飼養標準にしめされている養分要求量を充足するように配合設計した餌に、好熱菌発酵産物より単離されたバチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863(3×10個/g)を重量比0.01%の濃度で添加した。
【0056】
(ニワトリの飼育)10日齡のブロイラー(チャンキー種)の雄を供試し、38日間飼育した。餌は前項で調製したもの(BP-863給与区)および、同配合ながらBP-863を添加していないもの(対照区)を使用し、全期間不断給餌、自由飲水とした。
【0057】
(ニワトリ浅胸筋の調製)これらのブロイラーを49日齡で屠殺解体し、浅胸筋サンプルを得た。筋肉サンプルは解析するまで-80℃で凍結保存した。筋肉タンパク質の抽出は、20mgの凍結組織を凍結破砕機にて粉末化した後、100μLのタンパク質抽出液に懸濁し、さらに、超音波破砕機にて、タンパク質を抽出した。
【0058】
(電気泳動によるタンパク質組成の解析)1~2μLのタンパク質抽出液を用いて、二次元電気泳動によってタンパク質を分離した結果を図3に示す。
【0059】
BP-863給与区および対照区から調製した筋肉タンパク質間で、異なる移動度を示したタンパク質については、質量分析解析を行い、タンパク質を同定した結果、速筋型トロポニンTのアイソフォームが変化しており、図3に示したパターンに分類された。
【0060】
対照区のニワトリは、4検体すべてがパターン1を示したのに対し、BP-863給与区のニワトリでは、4検体中3検体がパターン2を示した。
【0061】
この結果から、速筋型トロポニンTのアイソフォームの発現を、好熱性細菌バチルス ヒサシイ(Bacillus hisashii)NITE BP-863の給与によって制御できることが明らかになった。
図1
図2
図3
図4