(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】発泡樹脂層及び合成皮革
(51)【国際特許分類】
D06N 3/06 20060101AFI20220808BHJP
C08L 27/06 20060101ALI20220808BHJP
C08L 75/04 20060101ALI20220808BHJP
C08J 9/04 20060101ALI20220808BHJP
B32B 5/24 20060101ALI20220808BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
D06N3/06
C08L27/06
C08L75/04
C08J9/04 101
C08J9/04 CEV
C08J9/04 CFF
B32B5/24 101
B32B27/30 101
(21)【出願番号】P 2019083039
(22)【出願日】2019-04-24
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519152009
【氏名又は名称】トリプルエー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(73)【特許権者】
【識別番号】000222255
【氏名又は名称】東洋クロス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 進
(72)【発明者】
【氏名】小山 将平
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0099594(US,A1)
【文献】特開昭48-004601(JP,A)
【文献】特開昭58-118703(JP,A)
【文献】特開平09-241462(JP,A)
【文献】特表2013-518191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 27/00- 27/24
C08L 75/00- 75/16
C08J 9/04
B32B 5/00- 5/32
B32B 27/30
D06N 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含
み、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーのショアA硬度は50~80であり、
前記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量は、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1~50質量部であり、
前記ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度(JIS K6721に準拠)は1200~3500であり、
車両内装用合成皮革用途である、
発泡樹脂層。
【請求項2】
見掛け密度が0.3~0.7g/cm
3である請求項
1に記載の発泡樹脂層。
【請求項3】
平均セル径が50~250μmである請求項1
または2に記載の発泡樹脂層。
【請求項4】
独立気泡構造を有する請求項1~
3のいずれか1項に記載の発泡樹脂層。
【請求項5】
さらに可塑剤を含む請求項1~
4のいずれか1項に記載の発泡樹脂層。
【請求項6】
前記可塑剤の含有量が、前記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して40~90質量部である、請求項
5に記載の発泡樹脂層。
【請求項7】
自動車内装の合成皮革用途である請求項1~
6のいずれか1項に記載の発泡樹脂層。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の発泡樹脂層を有する合成皮革。
【請求項9】
基布層と、前記発泡樹脂層と、ポリウレタン系樹脂を含む表皮層とを、この順に備え、
前記基布層と前記発泡樹脂層とがポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする接着層により接合している請求項
8に記載の合成皮革。
【請求項10】
基布層と、
前記発泡樹脂層と、最表面に位置する表面保護層とをこの順に有し、前記基布層及び前記表面保護層を両端面に有する積層体を含む合成皮革であり、
前記積層体は、単位面積あたりの質量が300~500g/m
2、厚さが1.0~1.3mm、JIS L0849に規定される摩擦に対する染色堅ろう度試験において荷重1kgとし3万往復の摩擦試験を前記表面保護層側に行った際前記表面保護層の下層が露出しない状態であり、BLC値が4.0~6.0である、請求項
8または9に記載の合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡樹脂層及び合成皮革に関する。より詳細には、本発明は、車両内装用に適した合成皮革、及び当該合成皮革に適用されるのに適した発泡樹脂層に関する。
【背景技術】
【0002】
天然皮革の代替品、あるいは天然皮革以上に良好な物性を備えた皮革素材として、合成皮革が広く用いられている。特に、自動車などの車両用のシート材として用いられる合成皮革として、天然皮革調の触感や風合いを得るために、一般に、繊維質の基布(例えば、不織布、織物、編物等)の上にポリウレタン系樹脂やポリ塩化ビニル系樹脂を主体とする樹脂層を備えるものが知られている。
【0003】
近年、車両用シートに用いられる合成皮革には軽量化が求められている。しかしながら、ポリ塩化ビニル系樹脂層を用いた従来の合成皮革は、当該樹脂層の厚さが厚いため重量が重く、軽量化の要求に応えらえるものではなかった。
【0004】
ポリ塩化ビニル系樹脂を主体とする合成皮革としては、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする発泡樹脂層と、当該発泡樹脂層上にポリ塩化ビニル系樹脂又はポリウレタン系樹脂を主成分とする表面層を設けた合成皮革が知られている(特許文献1、2参照)。一方、ポリウレタン系樹脂を主体とする合成皮革も知られている(特許文献3~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210703号公報
【文献】特開2016-87867号公報
【文献】特開2011-214191号公報
【文献】特開2011-214192号公報
【文献】特開2006-77349号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両用シート、特に自動車用シートに用いられる合成皮革には厳しい耐摩耗性も要求される。しかしながら、特許文献1及び2の合成皮革によれば、ポリ塩化ビニル系樹脂を発泡層として用いることで軽量化を図ることができるものの、耐摩耗性については不充分であり、要求されるレベルを満足するものではなかった。なお、ポリ塩化ビニル系発泡樹脂層に積層されている非発泡層の厚さを厚くすることで耐摩耗性を向上させることが考えられるが、その場合重量が重くなり、軽量化に反する傾向となる。また、非発泡層の厚膜化により風合いも著しく低下することとなる。
【0007】
また、ポリウレタン系樹脂を主体とする特許文献3~5の合成皮革は、耐摩耗性は満足するものの、非発泡層の厚さが厚く、求められる軽量化のレベルを満足するものではなかった。
【0008】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供可能な発泡樹脂層を提供することにある。また、本発明の他の目的は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ポリ塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む発泡樹脂層によれば、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供可能であることを見出した。また、本発明者らは、基布層と、発泡樹脂層と、表面保護層とをこの順に有し、基布層及び表面保護層を両端面とする積層体について、単位面積あたりの質量、厚さ、耐摩擦性、及びBLC値のそれぞれが特定の範囲内である積層体を用いた合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリ塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む発泡樹脂層を提供する。このような本発明の発泡樹脂層によれば、ポリ塩化ビニル系樹脂の物性を維持しつつ軽量化が可能であるため、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を得ることが可能である。
【0011】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーのショアA硬度は50~80であることが好ましい。上記ショアA硬度が上記範囲内であるとポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性がより良好となる。これにより、上記ショアA硬度が50以上であると、上記発泡樹脂層の前駆体である樹脂組成物の加工性及び切断性に優れ、ペレット化が容易となる。また、上記ショアA硬度が80以下であると、上記発泡樹脂層を用いた合成皮革の柔軟性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。また、上記発泡樹脂層の前駆体である未発泡樹脂シートをカレンダー法により得る際のシート加工性に優れる。
【0012】
上記発泡樹脂層は、見掛け密度が0.3~0.7g/cm3であることが好ましい。上記見掛け密度が0.3g/cm3以上であると、上記発泡樹脂層を用いた上記合成皮革の耐摩耗性がより良好となる。上記見掛け密度が0.7g/cm3以下であると、重量がより軽量となるため充分な厚さを確保することができ、柔軟性により優れる。また、上記発泡樹脂層は、上記見掛け密度が0.7g/cm3以下と比較的低くてもポリ塩化ビニル系樹脂の配合による強度を維持することができる。さらに、上記見掛け密度を上記範囲内とすることにより、上記発泡樹脂層を用いた合成皮革の風合いがより良好となる。
【0013】
上記発泡樹脂層は、平均セル径が50~250μmであることが好ましい。上記平均セル径が50μm以上であると、柔軟性がより良好となる。上記平均セル径が250μm以下であると、耐摩耗性がより良好となる。
【0014】
上記発泡樹脂層は、独立気泡構造を有することが好ましい。このような構成を有する本発明の発泡樹脂層は、耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。
【0015】
上記発泡樹脂層において、上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して1~50質量部であることが好ましい。上記含有量が1質量部以上であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量がより充分となり耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。上記含有量が50質量部以下であると、ポリ塩化ビニル系樹脂の含有量を充分に確保でき、ポリ塩化ビニル系樹脂の性能をより発揮することができる。
【0016】
上記発泡樹脂層は、さらに可塑剤を含むことが好ましい。可塑剤を含むと、柔軟性がより向上し、耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)が向上する。
【0017】
上記可塑剤の含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して40~90質量部であることが好ましい。上記含有量が40質量部以上であると、柔軟性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。上記含有量が90質量部以下であると、発泡樹脂層表面への可塑剤のブリードアウトを抑制でき、隣接する層との密着性を高く維持できるため、耐摩耗性がより向上する。また、ポリ塩化ビニル系樹脂が従来有する性能をより発揮することができる。また、上記発泡樹脂層は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含むため、柔軟性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)に優れるため、可塑剤の配合量を90質量部以下に抑えることができる。
【0018】
上記発泡樹脂層は、自動車内装の合成皮革用途であることが好ましい。また、本発明は、上記発泡樹脂層を有する第一の合成皮革を提供する。上記発泡樹脂層を用いた合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる。
【0019】
上記第一の合成皮革は、基布層と、上記発泡樹脂層と、ポリウレタン系樹脂を含む表皮層とを、この順に備え、上記基布層と上記発泡樹脂層とがポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする接着層により接合していることが好ましい。このような構成を有する上記第一の合成皮革は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む発泡樹脂層とポリウレタン系樹脂を含む表皮層の密着性が良好であり、またポリ塩化ビニル系樹脂を含む発泡樹脂層がポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする接着層により基布層と接合しており、各層間の密着性が特に優れるため層間のズレが起こりにくく、耐摩耗性が極めて良好となる。
【0020】
また、本発明は、基布層と、発泡樹脂層と、最表面に位置する表面保護層とをこの順に有し、上記基布層及び上記表面保護層を両端面に有する積層体を含む合成皮革であり、上記積層体は、単位面積あたりの質量が300~500g/m2、厚さが1.0~1.3mm、JIS L0849に規定される摩擦に対する染色堅ろう度試験において荷重1kgとし3万往復の摩擦試験を上記表面保護層側に行った際上記表面保護層の下層が露出しない状態であり、BLC値が4.0~6.0である、第二の合成皮革を提供する。このような構成を有する上記第二の合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる。また、耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)及び風合いにも優れる。上記合成皮革において、上記発泡樹脂層は本発明の発泡樹脂層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の発泡樹脂層によれば、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供することが可能である。さらに、本発明の発泡樹脂層によれば、風合い及び耐屈曲性(特に、低温耐屈曲性)に優れる合成皮革を提供することが可能である。また、本発明の合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる。さらに、本発明の合成皮革は、風合い及び耐屈曲性(特に、低温耐屈曲性)に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の合成皮革の一実施形態を示す概略図(正面断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[発泡樹脂層]
本発明の発泡樹脂層は、ポリ塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンエラストマーを少なくとも含む。上記ポリ塩化ビニル系樹脂及び上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0024】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニル又は塩化ビニリデンを必須の単量体(モノマー)成分として構成される重合体である。すなわち、分子中(1分子中)に、塩化ビニル又は塩化ビニリデンに由来する構成単位を少なくとも含む重合体である。
【0025】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体であるポリ塩化ビニル、塩化ビニリデンの単独重合体であるポリ塩化ビニリデン、塩化ビニル又は塩化ビニリデンと他の単量体との共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。上記塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0026】
上記共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合休、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体や塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の塩化ビニル-ビニルエステル類共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ビニルエーテル類共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体などが挙げられる。上記共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合物などが挙げられる。
【0027】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、中でも、ポリ塩化ビニル(塩化ビニルホモポリマー)が好ましい。
【0028】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、公知乃至慣用の重合により得ることができる。上記ポリ塩化ビニル系樹脂の重合方法としては、特に限定されないが、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合などが挙げられる。中でも、乳化重合又は懸濁重合により得られたポリ塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0029】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度(JIS K6721に準拠)は、特に限定されないが、1100~3500であることが好ましく、より好ましくは1200~3000、さらに好ましくは1300~2800である。上記平均重合度が1100以上であると、耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。上記平均重合度が4000以下であると、本発明の発泡樹脂層の前駆体である未発泡樹脂シートをカレンダー法により成形する際の加工性がより良好となる。
【0030】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1~5μmであることが好ましく、より好ましくは0.2~4μmである。上記平均粒子径が0.1μm以上であると、カレンダー加工時の生産性が良好である。上記平均粒子径が5μm以下であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー粒子の塩化ビニル組成への分散性が良好である。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定される値である。
【0031】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、硬質相(ハードセグメント)と軟質相(ソフトセグメント)からなる。上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。
【0032】
上記ポリイソシアネートは、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。上記ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。上記ポリイソシアネートとしては、また、上記脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネ-ト、芳香族ポリイソシアネート、及び/又は芳香脂肪族ポリイソシアネートによる二量体や三量体、反応生成物又は重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートなど)なども挙げられる。上記ポリイソシアネートは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0033】
上記長鎖ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオールなどが挙げられる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、通常、500以上であり、好ましくは500~10000、より好ましくは600~6000、さらに好ましくは800~4000である。上記長鎖ポリオールは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0034】
上記鎖伸長剤としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に通常用いられる鎖伸長剤を用いることができ、例えば、低分子量のポリオール、ポリアミンなどが挙げられる。鎖伸長剤の分子量は、通常、500未満であり、好ましくは300以下である。上記鎖伸長剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0035】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーのショアA硬度は、50~80であることが好ましく、より好ましくは55~75である。上記ショアA硬度が上記範囲内であると、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性がより良好となる。これにより、上記ショアA硬度が50以上であると、本発明の発泡樹脂層の前駆体である樹脂組成物の加工性及び切断性に優れ、ペレット化が容易となる。また、上記ショアA硬度が80以下であると、本発明の発泡樹脂層を用いた合成皮革の柔軟性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。また、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好になり、本発明の発泡樹脂層の前駆体である未発泡樹脂シートをカレンダー法により得る際のシート加工性に優れる。
【0036】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの融点は、140~200℃であることが好ましく、より好ましくは150~180℃である。上記融点が140℃以上であると、発泡樹脂層の形成が良好になり、自動車内装材として使用される際の耐熱性を保持できる。上記融点が200℃以下であると、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好になりカレンダー加工性が良好である。
【0037】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは5~45質量部、さらに好ましくは8~35質量部である。上記含有量が1質量部以上であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量がより充分となり耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。上記含有量が50質量部以下であると、ポリ塩化ビニル系樹脂の含有量を充分に確保でき、ポリ塩化ビニル系樹脂の性能をより発揮することができる。また、カレンダー法による未発泡樹脂シートへの加工性がより良好となる。
【0038】
本発明の発泡樹脂層は、さらに可塑剤を含むことが好ましい。可塑剤を含むと、本発明の発泡樹脂層及び合成皮革の柔軟性がより向上し、耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)が向上する。
【0039】
上記可塑剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂に使用される一般的なものが使用できる。上記可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸C9-11混合アルキルフタル酸ブチルベンジル、イソフタル酸ジイソオクチル等の芳香族カルボン酸エステル;アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等の脂肪族カルボン酸エステル;トリメリット酸トリ-n-ブチル(TBTM)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOTM)等のトリメリット酸エステル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、ポリオキシプロピレングリコールジベンゾエート、ポリオキシエチレングリコールジベンゾエート等のジ安息香酸エステル:リン酸トリクレジル、リン酸トリキシリル等のリン酸エステル;塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル等の含ハロゲン系化合物;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化ヒマシ油等のエポキシ基含有脂肪酸;ポリエステルなどが挙げられる。上記可塑剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0040】
上記可塑剤の含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、40~90質量部であることが好ましく、より好ましくは60~90質量部である。上記含有量が40質量部以上であると、柔軟性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。上記含有量が90質量部以下であると、発泡樹脂層表面への可塑剤のブリードアウトを抑制でき、隣接する層との密着性を高く維持できるため、耐摩耗性がより向上する。また、ポリ塩化ビニル系樹脂が従来有する性能をより発揮することができる。また、本発明の発泡樹脂層は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含むため、柔軟性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)に優れるため、可塑剤の配合量を90質量部以下に抑えることができる。
【0041】
本発明の樹脂発泡体は、さらに充填剤を含むことが好ましい。充填剤を含むことにより、本発明の発泡樹脂層の剛性を高め、耐久性を向上させることができる。
【0042】
上記充填剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ほう酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、シリカ、ほう酸亜鉛、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、みょうばん、タルク、カオリン、クレー、アスベスト、合成ゼオライト、合成ハイドロタルサイトなどの無機充填剤が挙げられる。上記充填剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0043】
上記充填剤の含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、より好ましくは5~30質量部である。上記含有量が1質量部以上であると、樹脂発泡層が独立気泡構造をより形成しやすい。また、発泡樹脂層の剛性及び耐久性が向上する。上記含有量が100質量部以下であると、耐屈曲性、耐摩耗性に影響を与えずに含有させることができる。
【0044】
本発明の発泡樹脂層は、本発明の効果を損なわない範囲内において、上述の各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、公知乃至慣用の発泡体に含まれる成分が挙げられる。上記その他の成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンエラストマー以外の樹脂、加工助剤、補強剤、難燃剤、着着色剤(染料、顔料など)、消泡剤、レベリング剤、架橋剤、シランカップリング剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤等の安定剤、耐光向上剤、紫外線吸収剤、耐候性付与剤、蛍光増白剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、発泡剤、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、防曇剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、スリップ剤、滑剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、中和剤、天然油、合成油、増粘剤などが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0045】
本発明の発泡樹脂層は、見掛け密度が0.3~0.7g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.4~0.5g/cm3である。上記見掛け密度が0.3g/cm3以上であると、本発明の発泡樹脂層を用いた合成皮革の耐摩耗性がより良好となる。上記見掛け密度が0.7g/cm3以下であると、重量がより軽量となるため充分な厚さを確保することができ、柔軟性により優れる。また、本発明の発泡樹脂層は、上記見掛け密度が0.7g/cm3以下と比較的低くてもポリ塩化ビニル系樹脂の配合による強度を維持することができる。さらに、上記見掛け密度を上記範囲内とすることにより、本発明の発泡樹脂層を用いた合成皮革の風合いがより良好となる。上記見掛け密度は、発泡樹脂層を30cm四方の大きさに切り抜き、厚さをn=5の平均値とし、切り取った発泡樹脂層の体積を算出し、その発泡樹脂層の質量と体積から算出される。
【0046】
本発明の発泡樹脂層は、平均セル径が50~250μmであることが好ましく、より好ましくは55~160μm、さらに好ましくは60~100μmである。上記平均セル径が50μm以上であると、柔軟性がより良好となる。上記平均セル径が250μm以下であると、耐摩耗性がより良好となる。
【0047】
本発明の発泡樹脂層は、最大セル径が80~400μmであることが好ましく、より好ましくは90~250μm、さらに好ましくは100~200μmである。上記最大セル径が80μm以上であると、柔軟性がより良好となる。上記最大セル径が400μm以下であると、耐摩耗性がより良好となる。
【0048】
本発明の発泡樹脂層の発泡度は、1.3~3.0倍であることが好ましく、より好ましくは1.7~2.2倍である。上記発泡度が1.3倍以上であると、重量がより軽量となるため充分な厚さを確保することができ、柔軟性により優れる。また、本発明の発泡樹脂層は、上記発泡度が1.3倍以上と比較的高くてもポリ塩化ビニル系樹脂の配合による強度を維持することができる。上記発泡度が3.0倍以下であると、本発明の発泡樹脂層を用いた合成皮革の耐摩耗性がより良好となる。さらに、上記発泡度を上記範囲内とすることにより、本発明の発泡樹脂層を用いた合成皮革の風合いがより良好となる。
【0049】
上記発泡度は、以下のようにして求められる。発泡樹脂層の厚さ方向断面の電子顕微鏡写真(50倍)をスキャナーでパソコン内に読み込み、発泡部を白く塗りつぶした後、発泡部と非発泡部の色を白と黒に2値化して白ドット部分を積分により集計する。そして、上記発泡度は下記の式を用いて求められる。
発泡度=(発泡部の面積+非発泡部の面積)/非発泡部の面積
【0050】
本発明の発泡樹脂層の気泡構造は、独立気泡構造、半独立半連続気泡構造、連続気泡構造のいずれであってもよいが、独立気泡構造を有することが好ましい。独立気泡構造を有する場合、耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。
【0051】
本発明の発泡樹脂層は、ポリ塩化ビニル系樹脂及び熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含有することにより、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を得ることができる。そして、特に、ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量、可塑剤の含有量、発泡度(発泡倍率)をそれぞれ好ましい範囲に調整して発泡樹脂層の硬度バランスを最適化することで、当該発泡樹脂層を用いた合成皮革を軽量化しつつ、耐摩耗性及び耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)を極めて優れるものとすることができる。
【0052】
本発明の発泡樹脂層のJIS K7312に基づいて測定されるアスカーC硬度は、特に限定されないが、25~55であることが好ましく、より好ましくは30~45、さらに好ましくは35~40である。上記アスカーC硬度が25以上であると、合成皮革の耐摩耗性がよりいっそう良好となる。上記アスカーC硬度が55以下であると、合成皮革の風合いがより良好となり、また耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がよりいっそう良好となる。
【0053】
本発明の発泡樹脂層の厚さは、特に限定されないが、200~650μmであることが好ましく、より好ましくは250~600μm、さらに好ましくは300~500μmである。上記厚さが200μm以上であると、耐摩耗性がより良好となる。上記厚さが650μm以下であると、より軽量化される。
【0054】
本発明の発泡樹脂層は、例えば、以下のようにして作製することができる。まず、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、及び必要に応じてその他の樹脂を加熱溶融して混合し、さらに、必要に応じて可塑剤、充填剤、上記その他の成分、発泡剤、発泡促進剤、セル調整剤などの添加剤を添加して混練し、その後冷却して樹脂組成物(ペレットなど)を作製する。上記樹脂組成物におけるポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等の各種成分の好ましい含有量は、それぞれ、上述の本発明の発泡樹脂層における含有量と同じである。
【0055】
上記発泡剤としては、例えば、超臨界流体;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等の無機系発泡剤;アゾ系発泡剤、ニトロソ系発泡剤、ヒドラジド系発泡剤、カルバジド系発泡剤、トリアジン系発泡剤等の有機系発泡剤;イソブタン、ペンタン等の加熱膨張性化合物;上記加熱膨張性化合物が、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の熱可塑性樹脂からなるマイクロカプセルに封入された熱膨張性微粒子(熱膨張性マイクロカプセル)などが挙げられる。上記発泡剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0056】
上記アゾ系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチルニトリル、ジアゾアミノベンゼン、ジエチルアゾジカルボキシレート、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート、アゾビス(ヘキサヒドロベンゾニトリル)などが挙げられる。上記ニトロソ系発泡剤としては、例えば、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロテレフタルアミン、N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミンなどが挙げられる。上記ヒドラジド系発泡剤としては、例えば、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルヒドラジド、3,3’-ジスルホンヒドラジドフェニルスルホン、トルエンジスルホニルヒドラゾン、チオビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。上記カルバジド系発泡剤としては、例えば、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などが挙げられる。上記トリアジン系発泡剤としては、例えば、トリヒドラジノトリアジン、1,3-ビス(o-ビフェニルトリアジン)などが挙げられる。
【0057】
本発明の発泡樹脂層は、発泡剤を用いて作製されたものであることが好ましく、特に熱膨張性マイクロカプセルを用いて作製されたものが好ましい。発泡剤を用いた場合、機械的撹拌等により発泡させる方法と比べて、発泡樹脂層中のセル径がより均一なものとなる。また、熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合、より微小で均一なセル径を有する発泡樹脂層を作製することができる。
【0058】
上記樹脂組成物における発泡剤の含有量は、特に限定されないが、得ようとする発泡樹脂層の用途に応じて適宜選択され、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0059】
次に、上記樹脂組成物から発泡樹脂層を作製する。例えば発泡剤を含む上記樹脂組成物を溶融又は溶解後、後述の非発泡樹脂層あるいは剥離シートなどの基材上に塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、必要に応じて加圧しながら熱処理し、発泡剤を発泡させ、溶媒を含む場合は溶媒を揮発させて、発泡樹脂層を形成する。上記樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば、リバースコート法、ロールコート法、ダイコート法、ワイヤバーコート法、ナイフコート法などが挙げられる。また、他の方法として、樹脂組成物を基材上に塗布するのではなく、例えば基材を伴わずにシート状に加工して未発泡樹脂シートを成形し、その後オーブン等の加熱装置を用い、必要に応じて加圧しながら熱処理し、発泡剤を発泡させ、溶媒を含む場合は溶媒を揮発させて、発泡樹脂層を形成することもできる。上記未発泡樹脂シートの成形方法は、公知乃至慣用の方法で行うことができるが、高粘度の樹脂組成物からのシート化が容易であり、広幅の合成皮革を生産することが容易である観点から、カレンダー法が好ましい。
【0060】
本発明の発泡樹脂層は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供することが可能であることから、合成皮革用途であることが好ましく、より好ましくは車両内装用合成皮革用途(特に、自動車内装用合成皮革用途)、さらに好ましくは車両用シート用合成皮革用途(特に、自動車シート用合成皮革用途)である。
【0061】
[合成皮革]
本発明の発泡樹脂層を有する合成皮革を、「本発明の第一の合成皮革」と称する場合がある。本発明の発泡樹脂層を用いた本発明の第一の合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる。また、耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)及び風合いにも優れる。
【0062】
本発明の第一の合成皮革は、基布層と、本発明の発泡樹脂層と、表皮層とを、この順に備えることが好ましい。また、上記基布層と上記発泡樹脂層とは、接着層により接合していることが好ましい。
【0063】
また、基布層と、発泡樹脂層と、表面保護層とをこの順に有し、上記基布層及び上記表面保護層を両端面に有する積層体を含む合成皮革であり、上記積層体は、単位面積あたりの質量が300~500g/m2、厚さが1.0~1.3mm、JIS L0849に規定される摩擦に対する染色堅ろう度試験において荷重1kgとし3万往復の摩擦試験を上記表面保護層側に行った際上記表面保護層の下層が露出しない状態であり、BLC値が4.0~6.0である合成皮革を、「本発明の第二の合成皮革」と称する場合がある。このような構成を有する本発明の第二の合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる。また、耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)及び風合いにも優れる。
【0064】
本発明の第二の合成皮革において、発泡樹脂層は本発明の発泡樹脂層であることが好ましい。また、本発明の第二の合成皮革は、上記基布層と上記発泡樹脂層とは、接着層により接合していることが好ましい。また、本発明の第二の合成皮革は、上記発泡樹脂層と上記表面保護層の間に表皮層を有することが好ましい。
【0065】
なお、本明細書において、本発明の第一の合成皮革と本発明の第二の合成皮革とを総称して「本発明の合成皮革」と称する場合がある。
【0066】
本発明の合成皮革の一実施形態を
図1に示す。
図1に示すように、本発明の合成皮革1は、基布層11と、本発明の発泡樹脂層13と、表皮層14と、合成皮革1の最表面に位置する表面保護層15を、この順に備える。基布層11と発泡樹脂層13とは、接着層12により接合している。
【0067】
本発明の合成皮革における上記基布層は、織物、編物、不織布等の繊維質布帛や天然皮革などの繊維質基材を用いることができる。繊維質布帛を構成する繊維の種類は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール等の合成繊維;綿、麻等の天然繊維;レーヨン、スフ、アセテート等の再生繊維;半合成繊維などが挙げられる。上記繊維は、一種のみが使用されていてもよいし、二種以上が使用されていてもよい。中でも、強度及び加工性がより優れる観点から、合成繊維からなる編物、特にポリエステル繊維からなる編物が好ましい。上記基布層は、単層であってもよいし複層であってもよい。
【0068】
上記基布層の目付は、特に限定されないが、100~300g/m2であることが好ましく、より好ましくは150~200g/m2である。上記目付が100g/m2以上であると、自動車内装材として、充分な強度を得ることができる。上記目付が300g/m2以下であると、本発明の合成皮革として所望の軽量化が実施し得る。
【0069】
本発明の合成皮革における上記接着層は、上記基布層と上記発泡樹脂層との接着性を付与するための層である。上記接着層を形成する接着剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤、ゴム系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、ユリア樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤などが挙げられる。中でも、ポリ塩化ビニル系接着剤が好ましい。よって、上記接着層は、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分として含む(すなわち、ポリ塩化ビニル系樹脂を接着成分として含む)ことが好ましい。ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする接着層は、上記基布層と、ポリ塩化ビニル系樹脂を含む本発明の発泡樹脂層との密着性をより向上させることができる。これにより、基布層と発泡樹脂層の層間のズレがより起こりにくく、耐摩耗性が極めて良好となる。
【0070】
上記接着層におけるポリ塩化ビニル系樹脂としては、上述の本発明の発泡樹脂層中に含まれるポリ塩化ビニル系樹脂として例示及び説明されたものが挙げられる。上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルが好ましい。上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0071】
上記接着層は、一部が上記基布層に含浸していてもよい。一部が含浸していることにより、上記基布層と本発明の発泡樹脂層の接着性がより良好となる。
【0072】
上記接着層の単位面積当たりの質量は、10~50g/m2であることが好ましく、より好ましくは15~30g/m2である。上記質量が10g/m2以上であると、基布層と発泡樹脂層との密着性がより良好となり、耐摩耗性がより良好となる。上記質量が50g/m2以下であると、本発明の合成皮革がより軽量化される。
【0073】
本発明の合成皮革における上記表皮層は、耐摩耗性がより向上する観点から、非発泡樹脂層である。上記表皮層は、ポリウレタン系樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン系樹脂を含む表皮層は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む本発明の発泡樹脂層との密着性がより良好となる。これにより、表皮層と発泡樹脂層の層間のズレがより起こりにくく、耐摩耗性が極めて良好となる。また、本発明の合成皮革の風合いがより良好となる。上記表皮層(非発泡樹脂層)は、単層であってもよいし複層であってもよい。
【0074】
上記ポリウレタン系樹脂は、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、及び鎖伸長剤は、それぞれ、上述の本発明の発泡樹脂層に含まれる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構成成分として例示及び説明されたものが挙げられる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、及び鎖伸長剤は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0075】
上記長鎖ポリオールとしては、中でも、ポリカーボネートポリオールが好ましい。すなわち、上記表皮層に含まれ得るポリウレタン系樹脂は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることにより、本発明の合成皮革の耐摩耗性がより向上する。
【0076】
上記表皮層中のポリウレタン系樹脂は、水性ポリウレタン系樹脂であることが好ましい。すなわち、上記ポリウレタン系樹脂は、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。このような構成を有することにより、耐摩耗性により優れ、さらに、皮脂成分に由来するオレイン酸に対する耐性(耐オレイン酸性)にも優れる。また、有機溶剤を使用しないため、環境負荷の低減にも寄与する。
【0077】
上記表皮中のポリウレタン系樹脂(特に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)の含有割合は、特に限定されないが、上記表皮層の総量100質量%に対して、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。上記含有割合が50質量%以上であると、本発明の発泡樹脂層との密着性がより高くなり、本発明の合成皮革の耐摩耗性がより良好となる。
【0078】
上記表皮層は、本発明の効果を損なわない範囲内において、ポリウレタン系樹脂以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、上述の本発明の樹脂発泡層が含んでいてもよいその他の成分として例示されたものが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0079】
上記表皮層の厚さは、特に限定されないが、10~100μmであることが好ましく、より好ましくは20~40μmである。上記厚さが10μm以上であると、合成皮革の耐摩耗性がより向上する。上記厚さが100μm以下であると、本発明の合成皮革がより軽量化される。
【0080】
本発明の合成皮革における上記表面保護層は、本発明の合成皮革において最表面となる層であり、上記表皮層、発泡樹脂層などの内部の層を摩擦などから保護する層であり、本発明の合成皮革の耐摩耗性をより向上させる。
【0081】
上記表面保護層は、ポリウレタン系樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン系樹脂を含む表面保護層は、ポリウレタン系樹脂を含む場合の上記表皮層との密着性がより良好となる。これにより、表面保護層と表皮層の層間のズレがより起こりにくく、耐摩耗性が極めて良好となる。また、本発明の合成皮革の風合いがより良好となる。
【0082】
上記ポリウレタン系樹脂は、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、及び鎖伸長剤は、それぞれ、上述の本発明の発泡樹脂層に含まれる熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構成成分として例示及び説明されたものが挙げられる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、及び鎖伸長剤は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0083】
上記長鎖ポリオールとしては、中でも、ポリカーボネートポリオールが好ましい。すなわち、上記表面保護層に含まれ得るポリウレタン系樹脂は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネートポリウレタン系樹脂を用いることにより、本発明の合成皮革の耐摩耗性がより向上する。
【0084】
上記表面保護層中のポリウレタン系樹脂は、水性ポリウレタン系樹脂であることが好ましい。すなわち、上記ポリウレタン系樹脂は、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。このような構成を有することにより、水性ポリウレタン系樹脂を含む場合の上記表皮層との密着性がより良好となり、耐摩耗性によりいっそう優れ、さらに、耐オレイン酸性にもより優れる。また、有機溶剤を使用しないため、環境負荷の低減にも寄与する。
【0085】
上記表面保護層中のポリウレタン系樹脂(特に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)の含有割合は、特に限定されないが、上記表面保護層の総量100質量%に対して、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。上記含有割合が60質量%以上であると、本発明の合成皮革の耐摩耗性が極めて良好となる。上記含有割合は、100質量%であってもよい。
【0086】
上記表面保護層中のポリウレタン系樹脂(特に、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)は、カルボジイミド系架橋剤により架橋していることが好ましい。上記カルボジイミド系架橋剤としては、例えば、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、ウレア変性カルボジイミドなどが挙げられる。上記カルボジイミド系架橋剤としては、水性カルボジイミド系架橋剤が好ましい。上記カルボジイミド系架橋剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0087】
上記表面保護層は、特に、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が水性カルボジイミド系架橋剤により架橋していることが好ましい。上記表面処理層は、耐オレイン酸性の高い架橋膜となり、耐摩耗性に加えて、耐オレイン酸性に優れるため、本発明の合成皮革は、人体の接触による汗や皮脂、保湿用ローションなどの付着が起こり得るところでの使用に対しても良好な耐摩耗性を維持することができる。
【0088】
上記表面保護層中のカルボジイミド系架橋剤由来の含有量(すなわち、表面保護層を形成する際に配合するカルボジイミド系架橋剤の含有量)は、特に限定されないが、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して、0.5~10.0質量部が好ましく、より好ましくは2.0~5.0質量部である。
【0089】
上記表面保護層は、さらに、シリコーン系化合物を含むことが好ましい。シリコーン化合物を含むと、表面の平滑性が向上し、合成皮革の耐摩耗性がよりいっそう向上する。上記シリコーン系化合物は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0090】
上記シリコーン系化合物としては、シロキサン結合が2000以下のシリコーン系化合物が好ましい。シリコーン系化合物としては、例えば、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンレジンなどが挙げられる。
【0091】
上記シリコーンオイル(ストレートシリコーンオイル)としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0092】
上記変性シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイル(ポリエーテル変性ジメチルシリコーンオイル等)、アルキル変性シリコーンオイル(アルキル変性ジメチルシリコーンオイル等)、アラルキル変性シリコーンオイル(アラルキル変性ジメチルシリコーンオイル等)、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル(高級脂肪酸エステル変性ジメチルシリコーンオイル等)、フルオロアルキル変性シリコーンオイル(フルオロアルキル変性ジメチルシリコーンオイル等)などが挙げられる。
【0093】
上記シリコーンレジンとしては、ストレートシリコーンレジン、変性シリコーンレジンが挙げられる。ストレートシリコーンレジンとしては、例えば、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジンなどが挙げられる。また、変性シリコーンレジンとしては、例えば、アルキッド変性シリコーンレジン、エポキシ変性シリコーンレジン、アクリル変性シリコーンレジン、ポリエステル変性シリコーンレジンなどが挙げられる。
【0094】
上記表面保護層中のシリコーン系化合物の含有量は、特に限定されないが、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して、3.0~20.0質量部が好ましく、より好ましくは6.0~13.0質量部である。
【0095】
上記表面保護層は、本発明の効果を損なわない範囲内において、上述の各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、上述の本発明の樹脂発泡層が含んでいてもよいその他の成分として例示されたものが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0096】
上記表面保護層の厚さは、特に限定されないが、5~40μmであることが好ましく、より好ましくは10~20μmである。上記厚さが5μm以上であると、合成皮革の耐摩耗性がより向上する。上記厚さが40μm以下であると、本発明の合成皮革がより軽量化される。
【0097】
以上、本発明の合成皮革の好ましい一実施形態について
図1を示しつつ説明したが、本発明の合成皮革はこのような態様に限定されるものではない。また、本発明の合成皮革は、接着層12及び表皮層14を必須の構成要素とするものではなく、例えば、接着層12を有しない構造、表皮層14を有しない構造、あるいは接着層12及び表皮層14を有しない構造であってもよい。また、本発明の合成皮革は、本発明の効果を損なわない範囲内で、上述した各層以外のその他の層を有していてもよい。上記その他の層としては、例えば、上記発泡樹脂層と上記表皮層との密着性を向上させるためのプライマー層などが挙げられる。
【0098】
本発明の合成皮革における、上記基布層と、上記発泡樹脂層と、上記表面保護層とをこの順に有し、上記基布層及び上記表面保護層を両端面に有する積層体(特に、上記基布層、上記接着層、上記発泡樹脂層、上記表皮層、及び上記表面保護層からなる積層体)について、好ましい態様を以下に説明する。上記積層体としては、例えば、
図1に示す基布層11、接着層12、発泡樹脂層13、表皮層14、及び表面保護層15からなる合成皮革1が挙げられる。
【0099】
上記積層体は、単位面積あたりの質量が300~500g/m2であることが好ましく、より好ましくは350~460g/m2である。本発明の合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れるため、耐摩耗性に優れつつ、上記範囲の単位面積あたり質量を達成することが可能である。
【0100】
上記積層体は、厚さが1.0~1.3mmであることが好ましい。上記厚さが1.0mm以上であると、耐摩耗性がより高くなる。また、取り扱い時にシワが入りにくく、作業効率が優れる。上記厚さが1.3mm以下であると、軽量化がより達成される。また、ダブルステッチを容易に行うことができ、作業効率が優れる。さらに、上記厚さが上記範囲内であると、張り栄えが良好である。
【0101】
上記積層体は、JIS L0849に規定される摩擦に対する染色堅ろう度試験において、荷重1kgとし3万往復の摩擦試験を上記表面保護層側に行った際、上記基布層が露出しない状態であることが好ましく、上記表面保護層の下層(例えば、
図1に示す合成皮革1における表皮層14)が露出しない状態であることが特に好ましい。上記摩擦試験は荷重1kgで3万回もの過酷な学振摩耗試験であるため、上記の特性を有することにより本発明の合成皮革は耐摩耗性が極めて良好となる。
【0102】
上記積層体は、BLC値が4.0~6.0であることが好ましく、より好ましくは4.5~5.7である。上記BLC値が4.0以上であると本発明の合成皮革の風合いが硬すぎず、上記BLC値が6.0以下であると本発明の合成皮革の風合いがやわらかすぎないため、上記範囲内であることで適度な風合いとすることができる。なお、上記BLC値は、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値をいい、触感計測器(商品名「GT303 Leather Softness Tester」(GOTECH TESTING MACHINRS INC.製)を用いて測定することができる。
【0103】
上記積層体中の上記発泡樹脂層の厚さの割合は、特に限定されないが、上記積層体の厚さ100%に対して、10~60%であることが好ましく、より好ましくは30~50%である。上記割合が10%以上であると、本発明の合成皮革の耐摩耗性がより優れつつ、より軽量化される。上記厚さが60%以下であると、相対的に表皮層の厚さを充分に確保することができ、合成皮革の耐摩耗性がより向上する。
【0104】
本発明の合成皮革において、上記積層体中の発泡層の厚さと非発泡層の厚さの比[前者/後者]は、(3.0~30.0であることが好ましく、より好ましくは5.0~20.0、さらに好ましくは10.0~15.0である。上記比が上記範囲内であると、本発明の合成皮革を、耐摩耗性に優れつつより軽量化することができる。上記発泡層としては、上記発泡樹脂層が挙げられる。上記非発泡層としては、上記表皮層及び上記表面保護層が挙げられる。なお、上記発泡樹脂層の厚さと、上記表皮層及び上記表面保護層の合計厚さとの比[前者/後者]が上記範囲内であることが好ましい。また、上記基布層及び上記接着層は上記発泡層及び非発泡層のいずれにも該当しないものとする。
【0105】
本発明の合成皮革の一実施形態である合成皮革1は、例えば以下のようにして作製することができる。まず、表皮層14を形成する樹脂組成物を離型処理が施された剥離シートの離型処理面に塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、ポリウレタン系樹脂を形成するためのイソシアネートとポリオールとの反応促進による硬化、溶媒の揮発、架橋剤による硬化などにより表皮層14を形成する。上記樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば上述の本発明の発泡樹脂層を形成する際に例示した方法で行うことができる。
【0106】
次に、表皮層14表面に、発泡樹脂層13を形成する。発泡樹脂層13の形成方法については、上述の本発明の発泡樹脂層の形成方法と同様である。なお、別途カレンダー法により作製された発泡樹脂層13を、冷却する前に加熱状態のまま、あるいは熱圧着によるラミネート法により表皮層14表面に積層して形成することが好ましい。
【0107】
次に、発泡樹脂層13表面に、接着層12を形成する接着剤組成物を塗布し、さらに基布層11を積層し、その後オーブン等の加熱装置を用い、溶媒の揮発などにより接着剤組成物を硬化させて接着層12を形成し、接着層12を介して基布層11を発泡樹脂層13上に固定する。接着剤組成物の硬化前に基布層11を発泡樹脂層13上に積層することにより接着剤組成物が基布層11に含浸するため、その後の硬化により基布層11に接着層12が含浸した構造を形成することができる。
【0108】
次に、表皮層14上に貼付されている剥離シートを剥離し、表皮層14表面に、表面保護層15を形成する樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、ポリウレタン系樹脂を形成するためのイソシアネートとポリオールとの反応促進による硬化、溶媒の揮発、架橋剤による硬化などにより表面保護層15を形成する。上記樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば上述の本発明の発泡樹脂層を形成する際に例示した方法で行うことができる。以上のようにして、基布層11、接着層12、発泡樹脂層13、表皮層14、及び表面保護層15がこの順に積層した合成皮革1を作製することができる。
【0109】
本発明の合成皮革の一実施形態である合成皮革1は、上述した方法の他、例えば以下のようにして作製することができる。まず、基布層11上に接着層12を形成する接着剤組成物を塗布し、その後オーブン等の加熱装置を用い、溶媒の揮発などにより接着剤組成物を硬化させて接着層12を形成し、基布層11と接着層12が積層された積層体を作製する。この方法によれば接着剤組成物が基布層11に含浸するため、その後の硬化により基布層11に接着層12が含浸した構造を形成することができる。
【0110】
次に、上記積層体の接着層12表面に、発泡樹脂層13を形成する。発泡樹脂層13の形成方法については、上述の本発明の発泡樹脂層の形成方法と同様である。なお、別途カレンダー法により作製された発泡樹脂層13を、冷却する前に加熱状態のまま、あるいは熱圧着によるラミネート法により接着層12表面に積層して形成することが好ましい。
【0111】
次に、発泡樹脂層13表面に、表皮層14を形成する樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、ポリウレタン系樹脂を形成するためのイソシアネートとポリオールとの反応促進による硬化、溶媒の揮発、架橋剤による硬化などにより表皮層14を形成する。上記樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば上述の本発明の発泡樹脂層を形成する際に例示した方法で行うことができる。
【0112】
次に、表皮層14表面に、表面保護層15を形成する樹脂組成物を塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、ポリウレタン系樹脂を形成するためのイソシアネートとポリオールとの反応促進による硬化、溶媒の揮発、架橋剤による硬化などにより表面保護層15を形成する。上記樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば上述の本発明の発泡樹脂層を形成する際に例示した方法で行うことができる。以上のようにして、基布層11、接着層12、発泡樹脂層13、表皮層14、及び表面保護層15がこの順に積層した合成皮革1を作製することができる。
【0113】
なお、表面保護層15表面にエンボス加工でシボ柄を付してもよい。
【0114】
本発明の発泡樹脂層によれば、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる合成皮革を提供することが可能である。さらに、本発明の発泡樹脂層によれば、風合い及び耐屈曲性(特に、低温耐屈曲性)に優れる合成皮革を提供することが可能である。また、本発明の合成皮革は、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる。さらに、本発明の合成皮革は、風合い及び耐屈曲性(特に、低温耐屈曲性)に優れる。耐低温屈曲性に優れる場合、低温環境下での使用においてもひび割れが生じにくい。一般に、柔軟である合成皮革は、耐屈曲性は高いが耐摩耗性が劣る傾向がある。一方、硬質である合成皮革は、耐摩耗性は高いが耐屈曲性が劣る傾向がある。このように、通常、耐摩耗性と耐屈曲性とはトレードオフの関係にある。これに対し、本発明の合成皮革は、耐摩耗性と耐屈曲性の両方が高いレベルのものとなる。
【実施例】
【0115】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、実施例8は参考例として記載するものである。なお、表に記載の添加量は、各成分の配合量(すなわち、各原料中の有効成分の配合量。所謂純分)であり、特記しない限り「質量部」で表す。
【0116】
実施例1
基布(商品名「CU19302」、savings-textile社製、目付:185g/m2、厚さ:600μm)の一方の面に、ポリ塩化ビニル系接着剤を、塗布量15g/m2となるように塗布し、乾燥して接着層を形成し、基布と接着層が積層された積層体を作製した。一方、ポリ塩化ビニル(平均重合度:2000)100質量部、及び熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ショアA硬度:75、融点:170℃)10質量部、フタル酸ジアルキル系可塑剤90質量部、発泡剤(アゾジカルボンアミド)2.5質量部、及び添加剤(充填剤、安定剤、耐光向上剤、顔料、及び難燃剤を含む)15質量部を添加して160℃で5分間混練し、その後冷却して樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物をカレンダー法によりシート化して未発泡樹脂シートを得、次いで加熱状態で上記積層体の接着層表面に貼り合わせ、210℃で2分間加熱して発泡剤を発泡させ、厚さ500μmの樹脂発泡体を作製した。次に、樹脂発泡体表面に、リバースコーターを用いて、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(商品名「ハイドラン WLS-210」、DIC株式会社製)100質量部に、顔料10質量部、濡れ性向上剤0.3質量部、消泡剤0.3質量部、及び架橋剤3質量部を混合して得た組成物を、塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を130℃で5分間加熱して塗膜を乾燥・架橋させ、厚さ30μmの表皮層を形成した。次に、表皮層表面に、リバースコーターを用いて、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(商品名「WF-78-143」、Stahl社製)、シリコーン系化合物(商品名「HM-54-002」、Stahl社製)、及びカルボジイミド系架橋剤混合して得た組成物を、塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を130℃で5分間加熱して塗膜を乾燥・架橋させ、厚さ20μmの表面処理層を形成した。そして、形成された表面処理層にエンボス加工でシボ柄を付して、合成皮革を作製した。
【0117】
実施例2~9、比較例1
ポリ塩化ビニル系樹脂の種類、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの種類、及び各成分の配合量などを表に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして合成皮革を作製した。
【0118】
実施例10
発泡剤として、熱膨張性マイクロカプセル5.0質量部を使用した以外は、実施例1と同様にして合成皮革を作製した。
【0119】
<評価>
実施例及び比較例で得られた合成皮革に関し、以下の評価を行った。結果を表1に示す。なお、実施例及び比較例で得られた発泡樹脂層の見掛け密度は表に示すとおりである。
【0120】
(1)学振摩耗性
実施例及び比較例で得られた合成皮革から、 幅10mm、長さ150mmの大きさの試験片を、縦方向(長手方向)から1枚採取し、裏面(基布層面)に幅10mm、長さ15mm、厚さ3mmの大きさのウレタンフォームを貼り付けた。JIS L0849に規定する「学振形染色摩擦堅老度試験機」(株式会社大栄科学精機製作所製)を用い、JIS L3102の6号綿布による摩擦試験を実施した。荷重1kgで3万回往復摩耗した。そして、摩耗後の試験片(表面保護層表面)を目視で観察し、学振摩耗性について以下の判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):表面保護層が摩耗で削り取られることなく残っており、表皮層の露出がないもの
△(使用可能):表面保護層が摩耗で削り取られているが基布層の露出のないもの
×(不良):基布層の露出のあるもの
【0121】
(2)耐低温屈曲性
実施例及び比較例で得られた合成皮革から、幅40mm、長さ70mmの大きさの試験片を縦方向(長手方向)、横方向(幅方向)それぞれ1枚採取した。デマッチャ試験機「FT-1521」(株式会社上島製作所製)を用い、JIS K6260に準拠した一定のストロークで試験片に繰り返し屈曲の負荷を与え、-10℃×30000回の繰り返しで割れの有無を評価した。下記判定基準に従って判定した。割れの長さは縦方向試験片と横方向試験片の平均値とした。
[判定基準]
○(良好):割れが発生していない
△(使用可能):割れは無いが、白化発生
×(不良):割れ発生
【0122】
(3)BLC値(風合い)
実施例及び比較例で得られた合成皮革から、150mm四方の大きさの試験片を1枚採取し、「GT303 Leather Softness Tester」(GOTECH TESTING MACHINRS INC.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値(BLC値)を測定した。歪み測定値が大きいものほど柔らかい風合いであることを示す。
【0123】
(4)カレンダー加工性
実施例及び比較例において、カレンダー法により発泡樹脂層を得るための未発泡樹脂シートを作製しようとした際の加工性について、下記判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):カレンダーロールから均一な厚みの未発泡樹脂シートを取り出せる
△(使用可能):未発泡樹脂シートを取り出すまでの混粘時間が倍以上かかる
×(不良):混錬時間を倍以上かけて、未発泡樹脂シートを取り出せるが厚みが不均一
【0124】
(5)アスカーC硬度
実施例及び比較例で得られた発泡樹脂層について、アスカーゴム硬度計C型(高分子計器株式会社製)を用いて、JIS K7312に基づくアスカーC硬度を測定した。
【0125】
【0126】
本発明の発泡樹脂層を用いた本発明の合成皮革(実施例)は、500g/m2以下もの軽量でありながら、荷重1kgで3万回もの過酷な学振摩耗試験によっても表面保護層が削り取られず耐摩耗性に優れていた。また、発泡樹脂層中の熱可塑性ポリウレタンエラストマーのショアA硬度が80以下である場合(実施例1~7、9)、耐低温屈曲性にも優れていた。また、発泡樹脂層の発泡倍率が2.0倍以上である場合(実施例1~8)、BLC値が適度であり、風合いにも優れていた。一方、発泡樹脂層が熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含まない場合(比較例1)、耐摩耗性が劣る結果となった。
【符号の説明】
【0127】
1 合成皮革
11 基布層
12 接着層
13 発泡樹脂層
14 表皮層
15 表面保護層