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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/09 20060101AFI20220808BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20220808BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
G02B27/09
B23K26/064 Z
B23K26/073
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021506136
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037745
(87)【国際公開番号】W WO2020188861
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2019050816
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100126480
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 睦
(72)【発明者】
【氏名】村田 佳史
(72)【発明者】
【氏名】石井 太
【審査官】鈴木 俊光
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-535912(JP,A)
【文献】特開2015-123483(JP,A)
【文献】特開平04-089192(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第2965852(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/09
B23K 26/064
B23K 26/073
G02B 27/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複屈折性を有する材料により構成され、光学軸が入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置された第1光学部材と、
複屈折性を有する材料により構成され、光学軸が入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置された第2光学部材と、
前記第1光学部材と前記第2光学部材との間に設けられ、前記第1光学部材の出射光に対して、互いに直交する偏光成分に{1/4+m×(1/2)}×λ(mは整数)の光路差を生じさせる第3光学部材と、
を備え、
前記第1光学部材、前記第2光学部材、及び前記第3光学部材のうち少なくともいずれか一つが、入射光の軸周りに回動可能なように構成された、光学装置。
【請求項2】
前記第2光学部材は、入射光の軸周りに前記第1光学部材に対して相対的に少なくとも180度回動可能であるように構成された、
請求項1に記載の光学装置。
【請求項3】
前記第1光学部材、前記第2光学部材、及び前記第3光学部材は、いずれも人工水晶により構成された、
請求項1又は2に記載の光学装置。
【請求項4】
前記第1光学部材及び前記第2光学部材は、人工水晶より屈折率が大きい材質により構成され、
前記第3光学部材は、人工水晶により構成された、
請求項1又は2に記載の光学装置。
【請求項5】
前記光学装置は、第4光学部材をさらに備え、
前記第4光学部材は、前記第2光学部材の出射光に対して、互いに直交する偏光成分に{1/4+n×(1/2)}×λ(nは整数)の光路差を生じさせる、
請求項1から4のいずれか一項に記載の光学装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばレーザ加工機において出力されるレーザ光がガウシアン形状のプロファイルを有する場合、照射領域の中心部分と周辺部分におけるレーザ光のパワーが異なることにより、対象物のうち照射されたレーザ光のパワーが強い部分が損傷したり、弱い部分の加工が不十分となったりし得る。この問題に対処するため、光源が出力するレーザ光のプロファイルを用途に応じて所望の形状に整形するビーム整形素子が知られている。例えば下記特許文献1には、2個の複屈折結晶と、その間に設けられた1/2波長板を備えたレーザ加工用光学装置が開示されている。このレーザ加工用光学装置では、ガウシアン形状のレーザ光を2回複屈折させて4本のレーザ光に分離させることにより、レーザ光の強度分布の平坦部分を拡大することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-198210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
光源から生成されるレーザ光のパワーが増大すると、例えば高次モードの混入によりレーザ光のプロファイルが均等なガウシアン形状から崩れ、非対称となることがある。このようなレーザ光を上記特許文献1に開示されたレーザ加工用光学装置により整形すると、もとのレーザ光が非対称であるため均一なプロファイルを得ることが難しい。
【0005】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、本開示の目的は、入射光のプロファイルの整形の態様を調整可能な光学装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る光学装置は、複屈折性を有する材料により構成され、光学軸が入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置された第1光学部材と、複屈折性を有する材料により構成され、光学軸が入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置された第2光学部材と、第1光学部材と第2光学部材との間に設けられ、第1光学部材の出射光に対して、互いに直交する偏光成分に{1/4+m×(1/2)}×λ(mは整数)の光路差を生じさせる第3光学部材と、を備え、第1光学部材、第2光学部材、及び第3光学部材のうち少なくともいずれか一つが、入射光の軸周りに回動可能なように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、入射光のプロファイルの整形の態様を調整可能な光学装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の第1実施形態に係る光学装置の構成例を示した斜視図である。
図2図2は、一軸性結晶における複屈折を説明するための図である。
図3図3は、一軸性結晶の光学軸と入射光の成す角と、常光線及び異常光線の分離幅との関係を示すグラフである。
図4A図4Aは、1/4波長板の原理を説明するための図である。
図4B図4Bは、1/4波長板の原理を説明するための図である。
図5A図5Aは、図1に示される第1光学部材に入射される前のレーザ光を示す模式図である。
図5B図5Bは、図1に示される第1光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図である。
図5C図5Cは、図1に示される1/4波長板を透過した後のレーザ光を示す模式図である。
図5D図5Dは、図1に示される第2光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図である。
図6図6は、図1に示される第2光学部材を透過した後のレーザ光の他の例を示す模式図である。
図7図7は、図1に示される第2光学部材を回動させた場合の構成例を示した斜視図である。
図8A図8Aは、図1に示される第2光学部材を回動させた場合に、第2光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図である。
図8B図8Bは、図1に示される第2光学部材を回動させた場合に、第2光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図である。
図9図9は、本開示の第2実施形態に係る光学装置の構成例を示した斜視図である。
図10A図10Aは、図1に示される第1光学部材に入射される前のレーザ光のプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。
図10B図10Bは、図1に示される第1光学部材を透過した後のレーザ光のプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。
図10C図10Cは、図1に示される第2光学部材を透過した後のレーザ光のプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面の記載において同一又は類似の構成要素は同一又は類似の符号で表している。図面は例示であり、各部の寸法や形状は模式的なものであり、本願発明の技術的範囲を当該実施の形態に限定して解するべきではない。
【0010】
図1を参照して、本開示の第1実施形態に係る光学装置について説明する。図1は、本開示の第1実施形態に係る光学装置の構成例を示した斜視図である。
【0011】
本実施形態に係る光学装置100は、例えばレーザ光により対象物を加工するレーザ加工機等に設けられ、光源が生成したレーザ光のプロファイルを整形するビーム整形素子として機能する。
【0012】
図1に示されるように、光学装置100は、例えば、第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30を備える。なお、以下では説明の便宜上、図1に示されるように互いに直交するX軸、Y軸、及びZ軸の直交座標系を用いて各部材について説明するが、これらの座標系は各部材の結晶軸とは無関係である。
【0013】
第1光学部材10、1/4波長板30、及び第2光学部材20は、光源(不図示)から照射されたレーザ光L1の光路上にこの順に設けられている。本実施形態において第1光学部材10、1/4波長板30、及び第2光学部材20は、Z軸に沿って見た平面視が略同じ大きさの円形平板状をなし、X軸及びY軸により規定される平面(以下、XY平面とも呼ぶ。他の平面についても同様である。)に平行な2つの主面と、Z軸に平行な厚みを有する。レーザ光L1は、Z軸負方向から正方向に向かってZ軸に平行に直進し、第1光学部材10、1/4波長板30、及び第2光学部材20をこの順に透過する。なお、レーザ光L1の進行方向は逆向きであってもよい。
【0014】
第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30の材質は、複屈折性を有する材料であれば特に限定されない。例えば第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30は、水晶、ルチル、又はサファイアなどの結晶材料により構成されてもよく、あるいは複屈折性を有する樹脂などにより構成されてもよい。本実施形態では、一例として、第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30がいずれも人工水晶により構成されるものとして説明する。人工水晶は、一方向の光学軸を有する一軸性結晶であり、複屈折性を有する。人工水晶は、例えばガラス等の他の材料に比べて広い波長の範囲において高い透過率を有している。人工水晶は、波長が比較的短くエネルギーが強力な光(例えば、深紫外光)を透過させる場合であっても、光学的特徴が損なわれにくく劣化の進行が遅い。また、人工水晶は潮解性を有しないため耐水性に優れる。
【0015】
図2は、一軸性結晶における複屈折を説明するための図である。一軸性結晶200は、一方向の光学軸Cxを有する。一軸性結晶200に入射される入射光Lの進行方向が、一軸性結晶200の光学軸Cxと平行でなく、かつ直交しない場合、一軸性結晶200に入射された入射光Lは、振動面が直交する常光線Lと異常光線Lに分離されて進行し、いわゆる複屈折が生じる。これは光学部材の結晶構造上、光線の位相速度が進行方向に応じて異なることにより、振動面により屈折率が異なるためである。
【0016】
一軸性結晶200の厚みをt、常光線Lの屈折率をn、異常光線Lの屈折率をn、一軸性結晶200の光学軸Cxと入射光Lとの成す角をαとする。常光線Lと異常光線Lの分離幅dは、以下の式(1)により表される。
【数1】
【0017】
図3は、一軸性結晶の光学軸と入射光の成す角と、常光線及び異常光線の分離幅との関係を示すグラフである。当該グラフにおいて、横軸は光学軸と入射光の成す角α(deg)を示し、縦軸は常光線と異常光線の分離幅dを示す。上記式(1)に基づいて、光学軸と入射光との成す角αと、常光線と異常光線の分離幅dとの関係について、図3に示されるグラフが描かれる。当該グラフから、角度αが45度付近において分離幅dが最も大きくなる。言い換えると、一軸性結晶の厚みtが比較的薄くても、比較的大きな分離幅dを得ることができる。同グラフより、角度αが35度~55度付近において、αの変化量に対する分離幅dの変化量が比較的少ないことが分かる。
【0018】
図1に戻り、第1光学部材10の光学軸C1及び第2光学部材20の光学軸C2は、いずれもXZ平面上であって、入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置されている。光学軸C1及び光学軸C2と入射光との成す角は、それぞれ、上記図3より、例えば35度~55度程度であってもよい。なお、光学軸と入射光との成す角とは、光学軸と入射光の進行方向から規定される角度のうち小さい方の角度を指す。
【0019】
第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30の少なくともいずれか一つは、各部材への入射光の軸周りにXY平面内を回動可能なように構成される。例えば第2光学部材20が回動可能である場合、入射光に対する第2光学部材20の光学軸C2の傾きの方向を適宜調整することができる。当該傾きの方向の調整の効果については後述する。
【0020】
1/4波長板30は、レーザ光L1の光路上であって、第1光学部材10と第2光学部材20の間に設けられる。1/4波長板30の厚みは、第1光学部材10及び第2光学部材20の厚みより薄くてもよい。1/4波長板30の光学軸C3は、XY平面上であって、X軸との成す角が鋭角であるように配置されている。すなわち、1/4波長板30の光学軸C3は、入射光の進行方向に直交する。波長板30の光学軸C3とX軸との成す角は、例えば45度程度であってもよい。
【0021】
1/4波長板30は、透過する光の振動面に応じて光の進む速度が異なることにより、互いに直交する偏光成分に{1/4+(1/2)×m}×λ(mは整数)の光路差を生じさせる。なお、λは光の波長である。これにより、1/4波長板30は、例えば直線偏光を円偏光や楕円偏光に変換し、円偏光や楕円偏光を直線偏光に変換する機能を有する。図4A及び図4Bを参照して、当該機能についてさらに説明する。
【0022】
図4A及び図4Bは、1/4波長板の原理を説明するための図である。図4A及び図4Bは、1/4波長板300に直線偏光の光が入射した場合の様子を示している。1/4波長板300の光学軸Cyと入射光の進行方向とは直交している。
【0023】
図4Aは、1/4波長板300の光学軸Cyに対して光の偏光方向がY軸正方向側に45度傾いている場合の様子を示している。このとき、1/4波長板300の異方性により、入射光の直線偏光を構成するX成分及びY成分は、互いに位相が90度ずれて出射される。従って、直線偏光の光は、1/4波長板300から見て時計回りの円偏光となって出射される。他方、図4Bは、1/4波長板300の光学軸Cyに対して光の偏光方向がY軸負方向側に45度傾いている場合の様子を示している。この場合、直線偏光の光は、1/4波長板300から見て反時計回りの円偏光となって出射される。このように、振動面が互いに直交する直線偏光は、1/4波長板の透過により互いに反対回りの円偏光に変換される。なお、直線偏光と円偏光との間の変換は逆方向においても成立し、図4A及び図4Bにおける入射光と出射光が逆になると、円偏光が直線偏光に変換される。
【0024】
上述の原理を利用した光学装置100におけるレーザ光のプロファイルの整形ついて、図1及び図5Aから図5Dを参照して説明する。図5Aは、図1に示される第1光学部材に入射される前のレーザ光を示す模式図であり、図5Bは、図1に示される第1光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図であり、図5Cは、図1に示される1/4波長板を透過した後のレーザ光を示す模式図であり、図5Dは、図1に示される第2光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図である。なお、説明の便宜上、第1光学部材10に入射する前のレーザ光L1の偏光は円偏光であり、断面形状は真円状であるものとして説明するが、レーザ光の偏光、断面形状及びプロファイルは特に限定されない。例えばレーザ光は自然光であってもよいし、楕円偏光であってもよい。レーザ光の断面形状は、楕円形状や多角形状であってもよい。図5A図5Dでは、光の偏光方向が矢印により表示されている。
【0025】
図5Aに示されるように、第1光学部材10に入射される前のレーザ光L1は、電場の振動面が所定の方向に回る円偏光である。第1光学部材10は、上述のとおり光学軸C1が入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置される。これにより、第1光学部材10を透過した光は、複屈折作用により2つのレーザ光に分離されて出力される(図1参照)。2つに分離されたレーザ光L10とレーザ光L20は、互いに直交する振動面を有する直線偏光となる(図5B参照)。なお、説明の便宜上、レーザ光L10とレーザ光L20の振動面は、それぞれ、図1におけるX軸及びY軸と平行であるとする。
【0026】
2つに分離されたレーザ光L10とレーザ光L20は、1/4波長板30を透過する。ここで、1/4波長板30の光学軸C3は、第1光学部材10から出射されたレーザ光L10,L20の進行方向と直交し、かつレーザ光L10,L20の振動面との成す角がそれぞれ45度であるように配置されているとする。すなわち、レーザ光L10,L20と1/4波長板30との関係性は、それぞれ図4A及び図4Bに示される状況に相当する。従って、2つのレーザ光L10,L20は、それぞれ、1/4波長板30の透過により、互いに反対回りの円偏光であるレーザ光L30,L40に変換されて出力される(図5C参照)。
【0027】
円偏光に変換されたレーザ光L30とレーザ光L40は、それぞれ第2光学部材20に入射される。第2光学部材20は、第1光学部材10と同様に、光学軸C2が入射光の進行方向と平行でなく、かつ直交しないように配置されている。これにより、第2光学部材20を透過したレーザ光L30,L40は、それぞれ、複屈折作用により2つのレーザ光に分離されて出力される。2つに分離されたレーザ光L31とレーザ光L32、及び、レーザ光L41とレーザ光L42は、互いに直交する振動面を有する直線偏光となる(図5D参照)。また、第2光学部材20から出射された光は、4つのレーザ光L31,L32,L41,L42に分離されて、X軸方向に直線状に広がって分布する。これらの4つのレーザ光L31,L32,L41,L42の重ね合わせが全体として光学装置100の出射光のプロファイルとなる。
【0028】
このように、第1光学部材10の光学軸C1と第2光学部材20の光学軸C2が同方向となるように配置されると、図5Dに示されるように4つのレーザ光L31,L32,L41,L42は直線状に広がって分布する。これらの4つのレーザ光を重ね合わせると、出射光の断面形状は、一方向に延びた楕円形状となる。レーザ加工を行う際は、対象物において照射光の断面形状の長軸方向に亀裂が入りやすいため、このようなプロファイルは例えば亀裂の方向を制御したい場合などに有効である。
【0029】
図6は、図1に示される第2光学部材を透過した後のレーザ光の他の例を示す模式図である。例えば第1光学部材10に入射する前のレーザ光の断面形状が楕円形状である場合、光学装置100は当該楕円形状の短軸方向に4つのレーザ光L31A,L32A,L41A,L42Aを分布させてもよい。これにより、図6に示されるように、出射光の断面形状を全体として真円形状に近付けることができる。
【0030】
次に、第1光学部材10及び第2光学部材20のXY平面上における回動について説明する。
【0031】
図7は、図1に示される第2光学部材を回動させた場合の構成例を示した斜視図である。図8A及び図8Bは、図1に示される第2光学部材を回動させた場合に、第2光学部材を透過した後のレーザ光を示す模式図である。
【0032】
図7は、図1に示される第2光学部材20を入射光の軸周りにY軸からX軸の方向に90度回動させた構成である。すなわち、図7において第2光学部材20の光学軸C2は、YZ平面上であってZ軸との成す角が鋭角であるように配置されている。この場合、第1光学部材10に入射されたレーザ光L1は、第1光学部材10の透過によりX軸方向に沿って2つのレーザ光に分離する。分離された2つのレーザ光は、1/4波長板30の透過により直線偏光から円偏光に変換される。円偏光に変換された2つのレーザ光は、第2光学部材20の透過により、第1光学部材10とは異なるY軸方向に沿ってそれぞれ2つのレーザ光に分離する。従って、第2光学部材20から出射された光は、図8Aに示されるように、X軸方向及びY軸方向の両方に広がることとなる。すなわち、4つのレーザ光L31B,L32B,L41B,L42Bの各中心は矩形状を描く。これにより、例えばガウシアン形状のプロファイルを有するレーザ光を4つに分散させ、全体としていわゆるトップハット型のプロファイルに変換することができる。このようなプロファイルは、従来知られているように、一様でムラのないレーザ加工を行う上で有効である。
【0033】
また、第2光学部材20の回動角度を調整し、第2光学部材20の光学軸C2をXZ平面とYZ平面との間に配置することにより、図8Bに示されるように4つのレーザ光L31C,L32C,L41C,L42Cの各中心が平行四辺形状を描くように分散させることもできる。
【0034】
あるいは、例えば光学装置100に入力されるレーザ光のプロファイルがガウシアン形状ではなく非対称性を有する場合、当該非対称性を吸収するように4つのビーム光を意図的に不均一に分離させてもよい。このように、光学装置100によると、第1光学部材10や第2光学部材20を回動させることができるため、入射光のプロファイルや整形後のレーザ光の用途に応じて、4つのビーム光の分離の方向を調整することが出来る。
【0035】
すなわち、例えば特許文献1に開示される構成では、2つの複屈折材料の間に1/2波長板が設けられている。この場合、1つ目の複屈折材料により2つに分離された光が直線偏光のまま2つ目の複屈折材料に入射されるので、各複屈折材料の光学軸の配置に制約がある。しかしながら、例えば光源から生成されるレーザ光のパワーが増大すると、高次モードの混入などによりレーザ光のプロファイルが均等なガウシアン形状から崩れ、非対称となることがある。このようなレーザ光に対して上記特許文献1に開示されたレーザ加工用光学装置を用いると、もとのレーザ光が非対称であっても複屈折による分離の方向が決められているので、均一なプロファイルを得ることが難しい。
【0036】
この点、本実施形態によると、第1光学部材10と第2光学部材20の間に1/4波長板30が設けられているため、第1光学部材10を透過して直線偏光となった2つのレーザ光を、例えば円偏光に変換することができる。円偏光は特定の偏光面を持たないため、第2光学部材20への入射に際して偏光面の制約がなくなる。従って、第1光学部材10及び第2光学部材20の光学軸の向きをそれぞれ独立に調整可能とすることができる。入射されるレーザ光のプロファイルやレーザ光の用途に応じて、第1光学部材10及び第2光学部材20を入射光の軸周りに回動させることで、レーザ光のプロファイルの整形の態様を調整することができる。
【0037】
また、例えば位相変調型の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)を用いてビーム整形を行う構成では、光の位相が単一であることを前提としている。しかし、例えばレーザ光の出力パワーが増大すると、寄生発振によるノイズや高次モードの混入などにより位相が単一ではなくなるため、SLMでの整形が困難となる。この点、本実施形態によると、位相に依らず光を分離することができるので、SLMを用いた構成に比べて出力パワーが大きなレーザ光であっても好適に機能する。加えて、SLM等の装置を用いる構成では応答時間が問題となるが、本実施形態に係る光学装置100は、光の偏光状態に応じて受動的に作動するので、安定して一定の効果が得られる。また、本実施形態では、第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30を水晶やサファイアなどの結晶材料で構成することで、レーザ光に対する耐性もまた向上できる。
【0038】
なお、第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30の材料は人工水晶に限られず、複屈折性を有する各種部材であってもよい。例えば、第1光学部材10と第2光学部材20は、常光線と異常光線の屈折率差が大きい方が分離するレーザ光の分離幅を大きくとることができ、第1光学部材10及び第2光学部材20の大きさを小型化することができる。他方、1/4波長板30は、屈折率が大きいと薄くなり過ぎて加工性が劣る。従って、水晶より屈折率が大きいサファイア又はルチル等で第1光学部材10と第2光学部材20を構成し、水晶で1/4波長板30を構成してもよい。
【0039】
あるいは、屈折率差がある材質同士を密着させる場合、部材間の界面において反射による光量損失や迷光が生じ得る。従って、第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30は全て同じ材質で構成してもよい。これにより、光量の損失や迷光の発生を抑制することができる。
【0040】
第1光学部材10におけるレーザ光の分離幅と第2光学部材20におけるレーザ光の分離幅に差がない場合、場合によっては分離された2つのビーム光が全体として重なるため、ビームを均一に分布させる場合には好ましくない。他方、第1光学部材10におけるレーザ光の分離幅と第2光学部材20におけるレーザ光の分離幅の差が過度に大きいと、分離が大きい側の効果が支配的となり、光学部材の回動による調整の効果が十分に得られない。従って、第1光学部材10と第2光学部材20において、大きい方の分離幅d1に対する小さい方の分離幅d2は、(1/2)*d1≦d2<d1であることが好ましい。この分離幅d1,d2の条件を満たすため、第1光学部材10と第2光学部材20は、厚みを異ならせてもよく、あるいは各光学軸C1,C2と入射光の進行方向との成す角を異ならせてもよい。
【0041】
第1光学部材10、第2光学部材20、及び1/4波長板30のうち、回動可能とする部材は特に限定されない。例えば、レーザ光を生成する増幅器の偏光依存性により、特定の偏光において高次モードが混入することがある。この場合、第1光学部材10で分離された2つのビーム光のうち、一方のビーム光の断面形状が楕円形状となったり二峰性の強度分布を持ったりすることにより、両ビーム光の強度比が偏りを持ち得る。この偏りを是正し、かつプロファイルを好ましい形状とするために、第1光学部材10と第2光学部材20の両方を回動可能としてもよい。例えば、第2光学部材20は、第1光学部材10に対して相対的に少なくとも180度回動可能であると好ましい。具体的には、例えば光学装置100全体が入射光に対して少なくとも180度の可動域を有し、第2光学部材20が光学装置100に対して180度の可動域を有する構成であってもよい。あるいは、第1光学部材10と第2光学部材20とが別々に回動可能であり、第1光学部材10が少なくとも180度の可動域を有し、第2光学部材20が360度の可動域を有する構成であってもよい。
【0042】
上述の実施形態では、レーザ光の分離の方向を調整する態様について説明したが、分離の方向に代えて、又は分離の方向に加えて、分離された光の強度比を調整してもよい。具体的には、1/4波長板30を入射光の軸周りに回動させることにより、分離されたレーザ光の強度比を調整することができる。例えば、第1光学部材10で分離された2つのビーム光のうち一方のビーム光の非対称性が大きい場合、当該一方のビーム光の強度が他方のビーム光の強度に比べて弱くなるように1/4波長板30の光学軸C3の角度を調整してもよい。
【0043】
1/4波長板30の光学軸C3と、1/4波長板30に入射される2つのレーザ光の振動面との成す角がそれぞれ45度ではなく、かつ直交もせず平行でもない場合、直線偏光はそれぞれ様々な楕円率の楕円偏光に変換されて出力される。あるいは、1/4波長板30の光学軸C3と、1/4波長板30に入射される2つのレーザ光の一方の振動面が直交し、他方の振動面が平行となる場合、これらのレーザ光はいずれも直線偏光のまま出力される。このように、1/4波長板30を回動させて光学軸C3の角度を変えることにより、第2光学部材20から出射される4つのレーザ光の強度比を意図的に不均一にすることができ、ひいては第1光学部材10で分離された2つのレーザ光の不均一性を相殺することができる。
【0044】
上述の実施形態では、光学装置100が2つの光学部材(第1光学部材10及び第2光学部材20)と1つの1/4波長板30を備える構成が示されているが、光学装置が有する光学部材の数はこれに限定されない。光学装置は、例えば第1光学部材10に相当する光学部材の後段に、1/4波長板30と第2光学部材20との組み合わせに相当する組み合わせをN個(Nは2以上の整数)備えてもよい。この場合、レーザ光を合計2N+1個に分離することができる。
【0045】
また、上述の実施形態において、1/4波長板30は、第1光学部材10と第2光学部材20との間に設けられた第3光学部材の一具体例であるが、第3光学部材は、互いに直交する偏光成分に{1/4+(1/2)×m}×λの光路差を生じさせる構成であれば1/4波長板に限定されない。当該第3光学部材は、トゥルーゼロオーダー(m=0)で構成されてもよく、あるいはマルチオーダー(m=1、2、3、・・・)で構成されてもよい。本明細書において、「光学部材」は、必ずしも一つの構成要素による部材に限られず、複数の構成要素を含んで構成されるユニットも含むものとする。第3光学部材は、例えば2枚の波長板を含み、これらの2枚の波長板の厚みの差により{1/4+(1/2)×m}×λの光路差を実現してもよい。この場合、1枚の波長板で第3光学部材を構成する場合に比べて、2枚の波長板のそれぞれの厚みを厚くすることができるため、加工性が向上する。
【0046】
次に、本開示の第2実施形態に係る光学装置について、図9を参照して説明する。
【0047】
図9は、本開示の第2実施形態に係る光学装置の構成例を示した斜視図である。なお、以下の説明においては、上述の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。本実施形態に係る光学装置100Aは、上述の第1実施形態に係る光学装置100に比べて、1/4波長板40をさらに備える。
【0048】
1/4波長板40は、1/4波長板30と同様に、Z軸に沿って見た平面視が第1光学部材10及び第2光学部材20と略同じ大きさの円形平板状をなし、XY平面に平行な2つの主面と、Z軸に平行な厚みを有する。1/4波長板40の光学軸C4は、XY平面上において、第2光学部材20から出射される4つのレーザ光の各振動面との成す角がそれぞれ45度であるように配置されている。すなわち、1/4波長板40の光学軸C4は、1/4波長板30の光学軸C3と同様に、入射光の進行方向に直交する。1/4波長板40は、第2光学部材20の後段に設けられることにより、第2光学部材20から出力される4つのレーザ光を直線偏光から円偏光に変換して出射する。
【0049】
このように、本実施形態に係る光学装置100Aは、1/4波長板40を備えることにより、光学装置100Aから出射されるレーザ光が円偏光になり、すなわち偏光面がなくなる。出射されるレーザ光の方向依存性がないので、例えばレーザ加工機などに用いられた場合、対象物を均一に加工することができる。
【0050】
なお、1/4波長板40の光学軸C4と、第2光学部材20から出射される4つのレーザ光の各振動面との成す角は45度に限られず、他の鋭角であってもよい。この場合、出射光は楕円偏光となるが、上述の光学装置100に比べてレーザ光の方向依存性が弱まる。また、1/4波長板40は、例えば第2光学部材20とともに回動する構成であってもよい。1/4波長板40は、互いに直交する偏光成分に{1/4+n×(1/2)}×λ(nは整数)の光路差を生じさせる第4光学部材の一具体例であるが、第4光学部材の構成はこれに限定されない。
【0051】
図10Aは、図1に示される第1光学部材に入射される前のレーザ光のプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。図10Bは、図1に示される第1光学部材を透過した後のレーザ光のプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。図10Cは、図1に示される第2光学部材を透過した後のレーザ光のプロファイルのシミュレーション結果を示すグラフである。図10A図10Cに示されるグラフにおいて、底面は照射されるレーザの位置を示し、高さはレーザ光の強度を示す。本シミュレーションでは、レーザ径を約2mm、第1光学部材10における分離幅を約0.4mm、第2光学部材20における分離幅を約0.54mm、第1光学部材10における分離の方向と第2光学部材20における分離の方向との成す角を約68度とする。
【0052】
図10Aに示されるように、入射光は3つの局所的なピークを有する三峰性のプロファイルを有するものとする。当該レーザ光が第1光学部材10を透過すると、2つのレーザ光に分離されてその一部が重なることにより、図10Bに示されるようにある一方向においてレーザ強度がならされ、3つの局所的なピークが消失する。さらに1/4波長板30と第2光学部材20を透過することにより、図10Cに示されるように他の一方向においてもレーザ強度がならされる。これにより、レーザ光の断面形状が真円形状に近付き、トップハット形状のプロファイルを得ることができる。当該シミュレーション結果から、入射光の強度分布が不均一であっても、当該入射光の分離と重ね合わせにより、全体として均一なプロファイルが得られることが分かる。
【0053】
なお、上述の各実施形態においては、レーザ光を変換する例が示されているが、光学装置100,100Aが変換する光はレーザ光に限られず、他の光であってもよい。
【0054】
以上、本発明の例示的な実施形態について説明した。なお、以上説明した各実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更又は改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。即ち、各実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、各実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、各実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0055】
100,100A…光学装置、10…第1光学部材、20…第2光学部材、30,40…1/4波長板、200…一軸性結晶、300…1/4波長板
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図10C