(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】レーザー彫刻用スリーブ版の製造方法
(51)【国際特許分類】
B41C 1/18 20060101AFI20220808BHJP
B41N 1/22 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
B41C1/18
B41N1/22
(21)【出願番号】P 2018075554
(22)【出願日】2018-04-10
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】502392272
【氏名又は名称】ホンダキャラックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080160
【氏名又は名称】松尾 憲一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149205
【氏名又は名称】市川 泰央
(72)【発明者】
【氏名】本多 直人
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/042272(WO,A1)
【文献】特開2010-162878(JP,A)
【文献】特開2015-160370(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051029(WO,A1)
【文献】特開昭50-055403(JP,A)
【文献】特表2016-528521(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0074719(US,A1)
【文献】特開2005-324392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41C 1/18
B41N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、
前記表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成する
と共に、前記逆テーパー部の傾斜角を、前記テーパー部の傾斜角よりも小さく形成するテーパーエッジ形成工程と、
前記表面材を湾曲させ、前記ベーススリーブ表面に前記テーパー部を貼着し、同テーパー部に前記逆テーパー部を重畳させて継ぎ目部を形成しつつベーススリーブに表面材を巻着する巻着工程と、
を有することを特徴とするレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法。
【請求項2】
円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、
前記表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成するテーパーエッジ形成工程と、
前記表面材を湾曲させ、前記ベーススリーブ表面に前記テーパー部を貼着し、同テーパー部に前記逆テーパー部を重畳させて継ぎ目部を形成しつつベーススリーブに表面材を巻着
し、前記テーパー部のテーパー面と前記逆テーパー部のテーパー面との間に形成された間隙に対して充填材を充填する巻着工程と、
を有することを特徴とするレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法。
【請求項3】
円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、
前記表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成するテーパーエッジ形成工程と、
前記表面材を湾曲させ、前記ベーススリーブ表面に前記テーパー部を貼着し、同テーパー部に前記逆テーパー部を重畳させて継ぎ目部を形成しつつベーススリーブに表面材を巻着
し、前記テーパー部を越えて重畳する前記逆テーパー部の先端を、巻着した前記表面材の曲面と略面一に切欠する巻着工程と、
を有することを特徴とするレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法。
【請求項4】
前記ベーススリーブは、熱可塑性樹脂フィルムを円筒状に湾曲させ、端辺を溶着して接合部を形成したスリーブ体により構成したことを特徴とする請求項1~
3いずれか1項に記載のレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、矩形シート状の同熱可塑性樹脂フィルムの互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成したものであり、
前記スリーブ体の接合部は、前記テーパー部のテーパー面と、前記逆テーパー部のテーパー面とを接合して形成することを特徴とする請求項
4に記載のレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法。
【請求項6】
前記ベーススリーブは、一の熱可塑性樹脂フィルムにて形成したスリーブ体の表面に他の熱可塑性樹脂フィルムを巻着してなる同軸状に半径方向へ積層された複数のスリーブ体により構成し、
一のスリーブ体の接合部は、隣接する他のスリーブ体の接合部以外の部位と積層するよう形成したことを特徴とする請求項
4又は請求項
5に記載のレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法。
【請求項7】
円筒状のベーススリーブと、同ベーススリーブの表面に巻着された矩形シート状の表面材からなり前記ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する前記表面材の両端辺が隙間なく又は隙間を介して突き合わされた継ぎ目部を備える表面材層と、を有するレーザー彫刻用スリーブ版において、
前記継ぎ目部は、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる
前記テーパー部よりも傾斜角が小さな逆テーパー部とが前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わされていることを特徴とするレーザー彫刻用スリーブ版。
【請求項8】
円筒状のベーススリーブと、同ベーススリーブの表面に巻着された矩形シート状の表面材からなり前記ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する前記表面材の両端辺
が隙間を介して突き合わされた継ぎ目部を備える表面材層と、を有するレーザー彫刻用スリーブ版において、
前記継ぎ目部は、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部とが前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わされて
おり、前記テーパー部のテーパー面と前記逆テーパー部のテーパー面との間に形成された間隙に対して充填材が充填されていることを特徴とするレーザー彫刻用スリーブ版。
【請求項9】
円筒状のベーススリーブと、同ベーススリーブの表面に巻着された矩形シート状の表面材からなり前記ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する前記表面材の両端辺が隙間なく又は隙間を介して突き合わされた継ぎ目部を備える表面材層と、を有するレーザー彫刻用スリーブ版において、
前記継ぎ目部は、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部とが前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わされて
おり、前記テーパー部を越えて重畳する前記逆テーパー部の先端を切欠部とし前記継ぎ目部を巻着した前記表面材の曲面と略面一としたことを特徴とするレーザー彫刻用スリーブ版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー彫刻用スリーブ版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料缶などの缶胴表面に印刷を施すために、例えば特許文献1に記載されているように、表面に版が刻設された円筒樹脂製の印刷版(スリーブ印刷版)を回転させながら筒状の缶胴に対して印刷する装置が使用されている。
【0003】
このような印刷装置で使用されるスリーブ印刷版は、液状インキ(水性インキやUVインキ)を用いる凸版印刷方式の一つであるフレキソ印刷用として使用されている。
【0004】
また最近では、スリーブ印刷版の表面に版を形成するにあたってレーザー彫刻が採用されることも多く、印刷レリーフ(印刷パターン)を高精度で刻設することができる。
【0005】
特に、長年に亘り本技術分野において鋭意研究を続けてきた本発明者は、過去に感光性樹脂からなる印刷版のレーザー加工時におけるひび割れや欠けの抑制という課題に着目し、所定の加熱・冷却処理を施すことにより印刷品質の更なる向上が実現されるスリーブ印刷版の製造方法を提供している(特許文献2参照。)。
【0006】
このように、スリーブ印刷版を用いた印刷技術は日々進化し続けており、今後益々の需要拡大が見込まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-162879号公報
【文献】特開2015-160370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述した特許文献1に記載されているスリーブ印刷版は、版が刻設された表面材のみを取り替えることはできないものである。
【0009】
それゆえ、劣化した表面材のみを新しくしたり、表面材を除いてベース部分を他へ転用することもできず、製造価格の低下が妨げられており経済的とは言い難い。
【0010】
その点、過去に本発明者が提案した特許文献2に記載のスリーブ印刷版は、金属製のベーススリーブと同ベーススリーブ上に着脱可能に貼着した表面材とで構成されており、版が刻設された表面材のみの取り替えも可能であるため経済的に優れている。
【0011】
また、特許文献1に記載のスリーブ印刷版を、特許文献2に記載のスリーブ印刷版の如くベーススリーブと表面材とで構成した場合、ベーススリーブ全体がFRP等の樹脂で形成されており、レーザー彫刻時のレーザー光がベーススリーブに照射されるとその照射部位が消失するなどして変形し、印刷品質に著しい悪影響を及ぼす。なお、以下の説明において、レーザー彫刻時のレーザー光に対するベーススリーブの耐性を、単にレーザー耐性と称する。
【0012】
この点、特許文献2に記載のスリーブ印刷版のベーススリーブは金属製であり、レーザー耐性を有することからレーザー光による焼損は回避可能である。
【0013】
しかしながら、金属製のベーススリーブは落下などによる衝撃で変形すると再使用できなることが多く、コストアップの要因になっており、レーザー耐性のない素材で形成されたベーススリーブであっても変形が防止される技術が求められていた。
【0014】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、表面材の交換ができ、レーザー耐性のないベーススリーブを用いた場合でもレーザー光によるベーススリーブの変形を防止可能なレーザー彫刻用スリーブ版、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法では、(1)円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、前記表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成するテーパーエッジ形成工程と、前記表面材を湾曲させ、前記ベーススリーブ表面に前記テーパー部を貼着し、同テーパー部に前記逆テーパー部を重畳させて継ぎ目部を形成しつつベーススリーブに表面材を巻着する巻着工程と、を有することとした。
【0016】
また、本発明に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法では、以下の点にも特徴を有する。
(2)前記逆テーパー部の傾斜角を、前記テーパー部の傾斜角よりも小さく形成すること。
(3)前記テーパー部のテーパー面と前記逆テーパー部のテーパー面との間に形成された間隙に対して充填材を充填すること。
(4)前記テーパー部を越えて重畳する前記逆テーパー部の先端を、巻着した前記表面材の曲面と略面一に切欠すること。
(5)前記ベーススリーブは、熱可塑性樹脂フィルムを円筒状に湾曲させ、端辺を溶着して接合部を形成したスリーブ体により構成したこと。
(6)前記熱可塑性樹脂フィルムは、矩形シート状の同熱可塑性樹脂フィルムの互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成したものであり、前記スリーブ体の接合部は、前記テーパー部のテーパー面と、前記逆テーパー部のテーパー面とを接合して形成すること。
(7)前記ベーススリーブは、一の熱可塑性樹脂フィルムにて形成したスリーブ体の表面に他の熱可塑性樹脂フィルムを巻着してなる同軸状に半径方向へ積層された複数のスリーブ体により構成し、一のスリーブ体の接合部は、隣接する他のスリーブ体の接合部以外の部位と積層するよう形成したこと。
【0017】
また、本発明に係るレーザー彫刻用スリーブ版では、(8)円筒状のベーススリーブと、同ベーススリーブの表面に巻着された矩形シート状の表面材からなり前記ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する前記表面材の両端辺が隙間なく又は隙間を介して突き合わされた継ぎ目部を備える表面材層と、を有するレーザー彫刻用スリーブ版において、前記継ぎ目部は、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部とが前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わされていることとした。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法によれば、円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、前記表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成するテーパーエッジ形成工程と、前記表面材を湾曲させ、前記ベーススリーブ表面に前記テーパー部を貼着し、同テーパー部に前記逆テーパー部を重畳させて継ぎ目部を形成しつつベーススリーブに表面材を巻着する巻着工程と、を有することとしたため、表面材の交換ができ、レーザー耐性のないベーススリーブを用いた場合でもレーザー光によるベーススリーブの変形を防止可能なレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法を提供することができる。
【0019】
また、本発明に係るレーザー彫刻用スリーブ版によれば、円筒状のベーススリーブと、同ベーススリーブの表面に巻着された矩形シート状の表面材からなり前記ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する前記表面材の両端辺が隙間なく又は隙間を介して突き合わされた継ぎ目部を備える表面材層と、を有するレーザー彫刻用スリーブ版において、前記継ぎ目部は、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部とが前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わされていることとしたため、表面材の交換ができ、レーザー耐性のないベーススリーブを用いた場合でもレーザー光によるベーススリーブの変形を防止可能なレーザー彫刻用スリーブ版を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】レーザー彫刻用スリーブ版の構成を示した説明図である。
【
図3】表面材の継ぎ目部の状態を示す説明図である。
【
図4】ベーススリーブの接合部の状態を示す説明図である。
【
図5】ベーススリーブの接合部の状態を示す説明図である。
【
図6】ベーススリーブの接合部と、表面材の継ぎ目部との位置関係を示す説明図である。
【
図7】マンドレルに装着されたレーザー彫刻用スリーブ版の状態を示す説明図である。
【
図8】従来のレーザー彫刻用スリーブ版の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、表面材の交換ができ、レーザー耐性のないベーススリーブを用いた場合でもレーザー光によるベーススリーブの変形を防止可能なレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法を提供するものである。
【0022】
従来より、ベーススリーブに表面材を巻着してレーザー彫刻用スリーブ版を製造する方法は存在していたものの、巻着した表面材の端辺同士の継ぎ目部を隙間無く形成することが困難であるため、
図8(a)に示すようにレーザー彫刻用スリーブ版100を構成するベーススリーブ110の表面110aが、継ぎ目部101にて表面材111の間隙101aを介して露出することとなっていた。
【0023】
それ故、このようなレーザー彫刻用スリーブ版100に対してレーザー彫刻を施す際、
図8(b)に示すように、レーザー出射部102から出射されたレーザー光102aが間隙101aの部分に照射されると、ベーススリーブ110の表面が直接曝されることとなり、レーザー耐性のないベーススリーブ110の一部が消失して変形してしまうこととなっていた。
【0024】
これに対し、本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法では、表面材の端辺を所定の形状と成し、継ぎ目部をこれまでにない独特の構造とすることにより、上述のような問題を解消することとしている。
【0025】
本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法においてベーススリーブの素材は限定されるものではないが、レーザー耐性のない素材、すなわち、レーザー彫刻時のレーザー光が照射された際に一部が消失し変形してしまうおそれのある素材とした場合に効果を発揮する。
【0026】
特に本願では、このベーススリーブについても本製造方法の選択的な一態様として特徴的な部分であるため、ベーススリーブの詳細な構成等については追って説明する。
【0027】
ベーススリーブに貼着される表面材はレーザー加工が可能であって印刷に適した素材であれば特に限定されるものではなく、例えばPETフィルムや繊維などにより構成された支持体の表面に感光性樹脂やエラストマー等の弾性体層を重畳して形成したものを好適に使用することができる。
【0028】
そして、本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法の特徴点としては、テーパーエッジ形成工程と、巻着工程とを経てレーザー彫刻用スリーブ版を製造することが挙げられる。
【0029】
テーパーエッジ形成工程は、表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成する工程である。
【0030】
図1は、本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法に係るベーススリーブ10や表面材11を示す説明図であり、
図1(a)は、レーザー彫刻用スリーブ版Aをベーススリーブ10と、同ベーススリーブ10の表面に巻着される表面材11とに分解した状態を示している。
【0031】
図1(a)に示すようにベーススリーブ10は、外表面周回りの長さをL1とした円筒状の部材であり、表面材11を周方向に巻着することでレーザー彫刻用スリーブ版Aが構成される。
【0032】
表面材11は、レーザー彫刻機により彫刻が施される表面11aと、ベーススリーブ10の表面に対向して巻着される裏面11bとを備えた正面視矩形状のシート体としている。
【0033】
また、ベーススリーブ10の湾曲方向Pの互いに対向する両端辺、すなわち、ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する表面材11の両端辺の辺縁には、テーパーエッジ12を形成している。
図1(b)は、テーパーエッジ12の構成を模式的に示した表面材11の厚み方向断面図である。なお、本実施形態では
図1(b)に示すように、表面11aから裏面11bにかけてレーザー彫刻が施される樹脂層13aと、樹脂層13aを支持する支持体層13bと、表面材11をベーススリーブ10の表面に貼着させるための粘着層13cとの多層構造を有する表面材11を例として示しているが、これに限定されるものではない。例えば、樹脂層13aと支持体層13bとで構成された表面材11を用い、ベーススリーブ10への巻着に際しては、粘着層13cの代替として別途両面テープを用いることも可能である。
【0034】
テーパーエッジ12は、
図1(b)中で左側に示すように、一方の辺縁にて表面11a側から裏面11b側へ漸次肉薄となるように形成されたテーパー部12aと、
図1(b)中で右側に示した他方の辺縁にて裏面11b側から表面11a側へ漸次肉薄となるように形成された逆テーパー部12bとを備えている。なお、本実施形態では符号L4で示すテーパー幅を約1.7~2.3mm、符号L5で示す逆テーパー幅を約1.9~2.5mmとしている。また、以下の説明においてテーパー部12a及び逆テーパー部12bのいずれも形成されていない部分(以下、表面材本体部ともいう。)の湾曲方向Pへの長さを表面材本体部長さL3と称し、表面11aの湾曲方向Pへの長さ、すなわち表面材本体部長さL3と逆テーパー幅L5とを併せた長さを表面長さL6と称し、裏面11bの湾曲方向Pへの長さ、すなわち、表面材本体部長さL3とテーパー幅L4とを併せた長さを裏面長さL7と称する。
【0035】
これらテーパーエッジ12は、ロール状に巻回された長尺の表面材から表面材11を切り出す際に、長尺表面材の切断目標箇所に対し、法線方向よりも湾曲方向に傾けて切断することで形成しても良く、また、端面が略直角となるよう法線方向に沿って切断した後に、
図1(b)にて破線で示す隅部を切削するなどして形成することも可能である。
【0036】
また、テーパー部12aの傾斜角αや、逆テーパー部12bの傾斜角βは、鋭角であれば特に限定されないが、10度~60度の範囲が好ましく、30度±10度がより好ましい。
【0037】
また、テーパー部12aの傾斜角αと逆テーパー部12bの傾斜角βは、略同じ角度に形成しても良く、傾斜角βを傾斜角αよりも小さな角度に形成しても良い。
【0038】
また、ベーススリーブ10に巻着する際に湾曲方向Pの長さ、すなわち、
図1(a)中にて符号L2で示す長さ(以下、湾曲長さL2とも言う。)は、表面材11の厚みにもよるが、ベーススリーブ10に表面材11を巻着した際に、テーパー部12aのテーパー面と逆テーパー部12bのテーパー面とが隙間なく当接する長さが理想的である。
【0039】
しかしながら、湾曲長さL2の長さが両テーパー面が窮屈に当接する長さである場合、うまく貼り合わせができず剥離が生じることとなるため、表面材11の湾曲長さL2をベーススリーブ10の外周長さL1よりも若干短くして両テーパー面間に僅かに(例えば0.1~0.3mm程度の)隙間ができる程度の長さとしたり、表面材11の裏面長さL7を僅かに隙間ができる程度の長さ(例えば、ベーススリーブ10の外周長さL1よりも0.1~0.3mm程度短い長さ)としつつ、表面材11の表面長さL6を逆テーパー部12bの先端がテーパー部12aを僅かに越えて表面材本体部に重畳する長さ(例えば、0.05~0.3mm程度テーパー部12aを越える長さ)としても良い。但し、両テーパー面間に隙間ができる程度の長さとした場合には、表面材11が貼着されていない隙間箇所に相当するベーススリーブ10の表面が、レーザー彫刻の際のレリーフ深度以上の厚みの表面材11で覆われるようにすべきである。
【0040】
巻着工程は、ベーススリーブ10の表面にテーパー部12aを貼着し、表面材11をベーススリーブ10の曲面に沿って丸めながら、テーパー部12aに逆テーパー部12bを重畳させてベーススリーブ10に表面材11を巻着し表面材層14を形成する工程である。なお、ここで重畳とは、両テーパー面が接触しているか否かや隙間が形成されているか否かに拘わらず、テーパー部12aと逆テーパー部12bとが積層方向に重なって配置されている状態を意味している。
【0041】
ベーススリーブ10に対して表面材11を巻着する際の表面材11の向きは特に限定されるものではないが、印刷を行う際のベーススリーブ10の回転方向Rに沿ってテーパー部12aのテーパー面が下り傾斜となる向きであるのが望ましい。付言すると、逆テーパー部12bの先端の向きが、印刷時の回転方向と逆方向であるのが望ましい。
【0042】
そして、例えば傾斜角αと傾斜角βとを略同じ角度としつつ巻着工程を行った場合、
図2(a)に示すように、ベーススリーブ10の表面に表面材11を巻着して形成した表面材層14の継ぎ目部15は、湾曲長さL2の長さを適宜調整することで、テーパー部12aと逆テーパー部12bとが表面材層14の厚み方向に重畳し、且つ、両テーパ部のテーパー面同士が接触した状態で突き合うこととなる。
【0043】
従って、このような継ぎ目部構造を備えたレーザー彫刻用スリーブ版Aは、継ぎ目部15にベーススリーブ10の表面が露出した間隙が形成されておらず、レーザー彫刻を行った際、
図2(b)に示すようにベーススリーブ10に対して直接的にレーザー光102aが照射されることがなく、レーザー耐性のない素材にて形成されたベーススリーブ10であっても、消失による変形を防止することができる。
【0044】
また仮に、
図3(a)の如く継ぎ目部15において若干の間隙15aが形成された場合であっても、テーパー部12a及び逆テーパー部12bのテーパー面を、レーザー光102aの光軸方向に対し横断する方向に形成しているため、レーザー光102aがベーススリーブ10の表面に直接的に照射されることはなく、消失による変形が防止される。
【0045】
また、このような間隙に対しては、
図3(b)に示すように充填材15bを充填して充填部15cを形成しても良い。充填材15bとしては、例えば感光性樹脂版の未露光材を使用することができ、熱軟化させたり、溶剤で軟化させたものを接合部隙間に圧入後、紫外線硬化させても良い。また更に充填材15bとしては、ゴム系、シリコン系、シアノアクリレート系などの接着剤などを使用することもできる。
【0046】
間隙への充填材15bの充填後は、間隙15aの表面開口より溢出した充填材15bの硬化部15dを例えばフライス刃などにより切削し、
図3(c)に示すように、表面材層14の表面の曲面に併せて略面一としたり、平坦になるよう後加工を行うのが望ましい。
【0047】
また、間隙が形成されることを予め想定し、
図1(b)に示す表面材11の逆テーパー部12bの傾斜角βをテーパー部12aの傾斜角αよりも小さな角度に形成すると共に、表面材11の裏面長さL7を僅かに隙間ができる程度の長さとしつつ、表面材11の表面長さL6や逆テーパー幅L5を逆テーパー部12bの先端がテーパー部12aを僅かに越えて重畳する長さとしても良い。
【0048】
この場合、
図4(a)に示すように、逆テーパー部12bの先端がテーパー部12aを越えて表面材本体部上へ表面材層14の表面より僅かに突出した突出先端部12cが形成されることとなるが、この突出部分を表面材層14の曲面と略面一に切欠して破線で示す如く切欠部12dを形成することで、ベーススリーブ10表面への直接的なレーザー光102aの照射をより堅実に抑制することができる。
【0049】
このように、本実施形態に係るレーザー彫刻用ベーススリーブの製造方法は、レーザー光によるベーススリーブの変形を防止することができ、また表面材の交換も可能なレーザー彫刻用スリーブ版を製造することができる。なお、本製造方法によって製造されたレーザー彫刻用スリーブ版に更なる手を加えて表面材の交換を不可能にすることは使用者が適宜行うことであり、このようなレーザー彫刻用スリーブ版もまた本発明に含まれることは言うまでもない。ただし、本願の権利化にあたり、出願人がこれらの仕様について限定を行うことは妨げない。
【0050】
すなわち、円筒状のベーススリーブと、同ベーススリーブの表面に巻着された矩形シート状の表面材からなり前記ベーススリーブの母線方向と略同方向沿って伸延する前記表面材の両端辺が突き合わされた(間隙が形成されている場合も含む。)継ぎ目部を備える表面材層と、を有するレーザー彫刻用スリーブ版において、前記継ぎ目部は、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部とを前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わせたレーザー彫刻用スリーブ版や、その製造方法を提供することができる。
【0051】
また、先述の如く本実施形態に係るレーザー彫刻用ベーススリーブの製造方法は、ベーススリーブ10のレーザー耐性の有無に拘わらず適用可能であるが、ベーススリーブ10を敢えてレーザー耐性のない、例えば樹脂シート素材を加工して形成するのも一案である。
【0052】
すなわち、ベーススリーブ10は、熱可塑性樹脂フィルムを円筒状に湾曲させ、端辺を溶着して接合部を形成したスリーブ体により構成しても良い。
【0053】
本発明者は過去に、金属製ベーススリーブを採用することにより、表面材の貼り替えによってスリーブを再使用する技術について提案もしているが、専らこれは従来の表面材の貼付方法では継ぎ目部に隙間が形成されてしまい、隙間部分からベーススリーブが露出するため、レーザーによって破壊されないことがレーザー彫刻用スリーブ版Aに求められていたからである。
【0054】
しかしながら、金属製のベーススリーブは落下などによる衝撃で変形し、再使用できなることが多くコストアップの要因になっていた。その反面、プラスチックフィルムによるベーススリーブは落下時にも破損することが少なく、軽量で安価である。
【0055】
また、従来より存在するレーザー彫刻用スリーブ版のうち、FRP製のスリーブに液状の感光製樹脂を巻き、紫外線露光し固化させ、円筒研削することによって製造されるスリーブ版については、ベーススリーブの全面が樹脂で覆われているためベーススリーブを侵すことなくレーザー彫刻可能ではあるが、ベーススリーブの製造に際しFRPで製造工数が多いことや、液体樹脂を巻く際に厚めに成形せざるをえないため感光性樹脂の歩留まり量が悪いこと、円筒研削に時間と手間がかかることなどの理由で高価であった。
【0056】
そこで本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法では、安価な熱可塑性樹脂フィルムを筒状に丸めてスリーブ体を形成し、このスリーブ体でベーススリーブを構築することとしている。
【0057】
スリーブ体の形成に使用する熱可塑性樹脂フィルムは、熱可塑性の樹脂で強度の高いもの、例えばポリエステルフィルムやポリカーボネートフィルムなどが使用できる。
【0058】
例えばポリエステルフィルムを選択した場合は、強度的には二軸延伸フィルムが好適で、結晶性の高いものを選択すべきである。ガラス繊維やケブラー繊維、炭素繊維などの短繊維をフィラーとして練り合わせたフィルムでも良い。また、2軸延伸フィルムの場合、スリーブの円周方向には破断伸度の高い方向を選択すべきであり、一般的には延伸のMD方向を使用するのが望ましい。
【0059】
また、熱可塑性樹脂フィルムの湾曲方向端辺同士の接合は、例えば超音波溶着により行うことができる。
【0060】
そして、このような構成を備えることにより、ベーススリーブ部分を安価且つ容易に製造でき、また不要になれば可燃物として焼却するなど簡単に処分でき、更には優れた落下耐性を備えるという効果が発揮される。
【0061】
スリーブ体(ベーススリーブ)の構築にあたり使用する熱可塑性樹脂フィルムの湾曲方向の長さは、最終的に構築されるベーススリーブの内周長さが、印刷や彫刻に使用するマンドレルの外周長さよりも0.1%~0.3%ほど短い長さとするのが好ましい。このような構成とすることにより、常に一定の強い収縮力でマンドレルを締め付けることとなり、高速回転時においてもレーザー彫刻用スリーブ版が遠心力によってマンドレル表面から浮いたり、滑ったりすることを防止できる。
【0062】
また、スリーブ体(ベーススリーブ)の作成にあたっては、矩形シート状の熱可塑性樹脂フィルムの互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成すると共に、
図5に示す如くスリーブ体20のテーパー部22aのテーパー面と、逆テーパー部22bのテーパー面とを接合して接合部25を形成しても良い。
【0063】
すなわち、熱可塑性樹脂フィルムを筒状に丸め端辺同士を接合してスリーブ体20からなるベーススリーブ10を形成するにあたり、この接合部25の構造は、前述の表面材11の継ぎ目部15の構造と略同様に形成しても良い。このような構成とすることにより、レーザー彫刻や印刷時に使用する、スリーブ径よりわずかに太いマンドレルでの抜き差しを行っても破断することがない。
【0064】
また、スリーブ体20のテーパー部22aや逆テーパー部22bのテーパ面は、いずれか一方又は両方の表面粗さをRa10~50程度の粗さとするのが好ましい。このような構成とすることにより、溶着時の接合を更に強固にすることができる。
【0065】
また、接合部25におけるテーパー部22aと逆テーパー部22bとの重ね合わせの幅は、使用する熱可塑性樹脂フィルムの厚みにもよるが、概ね1mm以上6mm以下の範囲であるのが望ましい。
【0066】
なお、レーザー彫刻用スリーブ版Aを構築する場合、ベーススリーブ10に巻着される表面材11の継ぎ目部15は、
図6に示すようにスリーブ体の接合部25の位置と円周上において位相差を付けるのが望ましい。このような構成とすることにより、ベーススリーブ10(スリーブ体20)の接合部25には表面材11の表面材本体部、すなわち継ぎ目部15以外の部分が貼付され、逆に、表面材11の継ぎ目部15はベーススリーブ10(スリーブ体20)を構成する熱可塑性樹脂フィルムの本体部、すなわち接合部25以外の部分が貼付されることとなるため、レーザー彫刻用スリーブ版Aをより強固な構造とすることができる。
【0067】
また、ベーススリーブ10は、一の熱可塑性樹脂フィルムにて形成したスリーブ体20の表面に他の熱可塑性樹脂フィルムを巻着してなる半径方向へ積層された複数のスリーブ体20により構成しても良い。
【0068】
このような構成とすることにより、より強度の高いベーススリーブ10とすることができる。
【0069】
複数のスリーブ体20が積層したベーススリーブ10を構築する場合、これらの貼り合わせは、両面テープや接着剤により行うことができる。また例えば、使用する熱可塑性樹脂フィルムに黒色のグレードがある場合は、YAGレーザーなどによりフィルム同士の界面を面溶着させることも可能である。
【0070】
また、一のスリーブ体20の接合部25は、隣接する他のスリーブ体20の接合部25以外の部位と積層させるのが好ましい。
【0071】
各スリーブ体20の接合部25は、スリーブ印刷版としてマンドレルに装着した際に、回転により発生する円周方向へのテンションで破断する可能性のある脆弱な箇所であるが、上述の構成の如く隣接する各スリーブ体20の接合部25をその円周方向にそれぞれ位相を異ならせることにより、破断する可能性を減少できる。これは、一のスリーブ体20の接合部25に対し、他のスリーブ体20の接合部25以外の部分を継ぎ当てて、前記一のスリーブ体20の接合部25を補強できるためである。
【0072】
また、レーザー彫刻用スリーブ版Aには、マンドレルに形成されているレジスターピンと係合するノッチを形成すると共に、ベーススリーブ10と表面材11との間には、ノッチ周りを補強するノッチ補強板を介在させるようにしても良い。
【0073】
すなわち、
図7(a)に示すようにマンドレル30の周面には凸形状のレジスターピン31が形成されており、レーザー彫刻や印刷を行うにあたり、スリーブ版に形成したノッチ32をレジスターピン31に係合させることで、スリーブ版表面の絵柄等とマンドレル30の円周方向の位相とを合わせているが、本実施形態では、このノッチ32の周りを補強するために、ベーススリーブ10と表面材11との間にノッチ補強板33を介在させている。
【0074】
ノッチ補強板33は、
図7(b)に示すように、略半円形状の金属板であり、弦に相当する辺の略中央部をノッチ32の形状に切欠したレジスターピン係合部33aが形成されている。
【0075】
また、弦に相当する辺からレジスターピン係合部33aに至る角部や、弦に相当する辺から弧に相当する辺に至る角部を、それぞれ切り欠いたりR形状とすることで、使用中にレーザー彫刻用スリーブ版Aがノッチ補強板33に起因して破断することを防止している。
【0076】
なお、ノッチ補強板33の取付態様の一例としては、例えば、ベーススリーブ10の厚みが0.3mm、表面材11の厚みが両面テープを含め1mmとした場合、表面材11の支持体層13bであるポリエステルフィルムの裏面に深さ0.1mmの座繰りを行い、0.1mm厚さのステンレス製のノッチ補強板33をはめ込むことで実現できる。また、他の例としては、ベーススリーブ10の厚みが0.5mm、両面テープ厚みが0.5mm、表面材11の厚みが1.7mmの場合、ノッチ32の箇所の両面テープを切り欠き、貼付用の薄い両面テープを含めて0.5mm厚さとなるノッチ補強板33をはめ込むことで実現しても良い。
【0077】
また、更なる他の例としては、各部材を重ね合わせて貼り合わせた後に、ノッチ形状を切り抜けるパンチとダイなどによってノッチ形状を付加するようにしても良い。
【0078】
このように、ベーススリーブ10を、円筒状に湾曲し対向する端辺同士が溶着された接合部を有する熱可塑性樹脂フィルムにて形成したり、接合部を、前記両端辺の一方の辺縁に形成された表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部と、他方の辺縁に形成された裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部とを前記表面材層の厚み方向に重畳させて突き合わせたレーザー彫刻用スリーブ版やその製造方法を提供することができる。
【0079】
以下、本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法に関し、実際の製造例を参照しながら更に説明する。
【0080】
〔1.ベーススリーブの形成〕
ベーススリーブの形成を行うべく、熱可塑性樹脂フィルムとして、東レ株式会社製のルミラー(ポリエステルフィルム)、H10グレードの300ミクロン厚みのフィルムを用い、幅200mm、長さ712.7mmの長方形を切り出した。湾曲方向の長さは712.7mmとし、方向はフィルムのMD方向とした。
【0081】
これの湾曲方向長さ方向両端部を、先端断面角度を6°に切削したアルミ板をガイドにしベルトサンダーにて研磨することで、表面粗さがRa10~50程度のテーパー部及び逆テーパー部を形成した。研磨幅の目安として、先にフィルムの両端部、幅3mmをマジックにて着色して行った。
【0082】
研磨によって着色部が目視確認できなくなる程度を基準として研磨を完了した。
【0083】
これを外径φ225.86mmの鉄製マンドレルに巻きつけ、接合部以外の外周にシートマグネットを巻きつけ固定したのち、フィルムの端部の重なり部分を精電舎電子工業社製の超音波溶着機にて溶着した。溶着子は幅3mm、長さ200mmの先端がフラット形状のもので行った。
【0084】
重ね合わせ部は概ね良好に溶着されたが、フィルムの先端部にて研磨時に破壊された箇所が見られたため、シアノアクリレート系接着剤で破壊箇所を埋め、固化後サンドペーパーにて平坦になるよう研磨し、1層のスリーブ体よりなるベーススリーブを形成した。
【0085】
〔2.表面材層の形成〕
作成したポリエステルフィルム製のベーススリーブに、東洋紡株式会社製プリンタイトJグレード0.95mm厚み品を紫外線硬化させ、水洗熱処理等を施した表面材を、日東電工株式会社製両面テープ0.06mm厚み品にて貼り込んで巻着させた。ベーススリーブの接合部と表面材の継ぎ目部の円周方向の位相は180°ずらしとした。なお、上記水洗熱処理は、紫外線を照射露光した後に水洗い冷却する工程と、水洗い冷却する工程の後、135℃~170℃の温度のオーブンにて熱風による加熱処理を施す工程と、加熱処理後の前記印刷版を自然冷却する工程とを経て行うようにしても良い。また、加熱処理及び放熱処理は、ベーススリーブに巻着した状態と略同じ径で円筒状に保持して行うこととしても良い。
【0086】
表面材の両端テーパー形状は、重ね合わせの上側のテーパー(逆テーパー部)をより鋭角にし、先端がわずかにテーパー部からはみ出すように長さ調整し、貼付後、突出部分をフライス刃により平坦に研削することで切欠部の形成を行った。
【0087】
〔3.ノッチ形成〕
このスリーブ版を、外径φ226.17mmのマンドレルに装着し、エスコグラフィック社製レーザー彫刻機にて面長方向の長さを188mmにカットし、ノッチ形状の彫り込みも行った。なお、ノッチの円周方向の位置と表面材接合部の位置は位相差を10°とした。
【0088】
〔4.彫刻〕
こうして作成したレーザー彫刻用スリーブ版に、レーザー彫刻にて1式8版の画像の彫刻を行った。
【0089】
彫刻後、0.5%濃度の乳酸水にて彫刻デブリを洗浄し、乾燥させ、印刷用スリーブ版とした。
【0090】
〔5.印刷〕
この印刷用スリーブ版を使用し、ストーレマシーナリー社製コンコルドデコレーターにて印刷を行った。印刷機のマンドレル径はφ226.2mmであった。
【0091】
印刷結果は概ね良好で、最高印刷速度2000cpm時も印刷ズレは確認できなかった。
【0092】
FRP製スリーブ版では1500cpmを超えると印刷ズレが確認されることから、今回の発明によるスリーブ版の方が高回転時にも位置保持性能が高いことが証明された。
【0093】
〔6.落下試験〕
印刷テストの後、スリーブ版の落下テストを行った。1.5mの高さからコンクリート製の床に落下させ、1版につき20回落下させた。8版とも落下テストを行ったが、1本もスリーブの損傷は確認できなかった。同条件でニッケル製スリーブはほとんどのものに歪みが発生した。
【0094】
上述してきたように、本実施形態に係るレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法によれば、円筒状のベーススリーブに矩形シート状の表面材を巻着してなるレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法であって、前記表面材の互いに対向する一方の辺縁に表面側から裏面側へ漸次肉薄となるテーパー部を形成し、他方の辺縁に裏面側から表面側へ漸次肉薄となる逆テーパー部を形成するテーパーエッジ形成工程と、前記表面材を湾曲させ、前記ベーススリーブ表面に前記テーパー部を貼着し、同テーパー部に前記逆テーパー部を重畳させて継ぎ目部を形成しつつベーススリーブに表面材を巻着する巻着工程と、を有することとしたため、表面材の交換ができ、レーザー耐性のないベーススリーブを用いた場合でもレーザー光によるベーススリーブの変形を防止可能なレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法を提供することができる。
【0095】
また、ベーススリーブを、熱可塑性樹脂フィルムを円筒状に湾曲させ、端辺を溶着して接合部を形成したスリーブ体により構成すれば、軽量かつ安価であり、落下耐性が高く、しかも容易に廃棄を行うことが可能なレーザー彫刻用スリーブ版の製造方法を提供することができる。
【0096】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0097】
10 ベーススリーブ
11 表面材
11a 表面
11b 裏面
12 テーパーエッジ
12a テーパー部
12b 逆テーパー部
12c 突出先端部
12d 切欠部
14 表面材層
15 継ぎ目部
15a 間隙
15b 充填材
20 スリーブ体
22a テーパー部
22b 逆テーパー部
25 接合部
α 傾斜角
β 傾斜角
A レーザー彫刻用スリーブ版
P 湾曲方向