(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】脱毛の予防及び/又は治療のためのペプチド及び医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物
(51)【国際特許分類】
C07K 4/10 20060101AFI20220808BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20220808BHJP
A61K 38/07 20060101ALI20220808BHJP
A61K 38/08 20190101ALI20220808BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/51 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/455 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/4415 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/525 20060101ALI20220808BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220808BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220808BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20220808BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20220808BHJP
A61K 33/30 20060101ALI20220808BHJP
A61K 36/23 20060101ALI20220808BHJP
A61K 36/9066 20060101ALI20220808BHJP
A61K 36/87 20060101ALI20220808BHJP
A61K 36/746 20060101ALI20220808BHJP
A61K 36/63 20060101ALI20220808BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/67 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/27 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20220808BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20220808BHJP
A61K 8/9794 20170101ALI20220808BHJP
C07K 5/107 20060101ALI20220808BHJP
C07K 7/06 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C07K4/10 ZNA
A61P17/14
A61K38/07
A61K38/08
A61P43/00 121
A61K31/375
A61K31/51
A61K31/455
A61K31/197
A61K31/4415
A61K31/525
A61K31/198
A61K33/26
A61K33/06
A61K33/34
A61K33/30
A61K36/23
A61K36/9066
A61K36/87
A61K36/746
A61K36/63
A61Q7/00
A61K8/64
A61K8/67
A61K8/44
A61K8/27
A61K8/19
A61K8/9789
A61K8/9794
C07K5/107
C07K7/06
(21)【出願番号】P 2018552806
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(86)【国際出願番号】 EP2017057711
(87)【国際公開番号】W WO2017178250
(87)【国際公開日】2017-10-19
【審査請求日】2020-03-26
(32)【優先日】2016-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】517357125
【氏名又は名称】バイチュラス バイオテック,ソシエダ リミタダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エクスポシト タレス,オスカル
(72)【発明者】
【氏名】ハネ フォント,アルベルト
(72)【発明者】
【氏名】ラプラナ ラシエラ,サラ
(72)【発明者】
【氏名】マス ドゥアルテ,マリア
(72)【発明者】
【氏名】ルイス メディナ,タリク
(72)【発明者】
【氏名】ガジェゴ パラシオス,アナ
(72)【発明者】
【氏名】サバテール ハラ,アナ ベレン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0359830(US,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02854328(FR,A1)
【文献】特開2002-253241(JP,A)
【文献】国際公開第2012/017067(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第103976908(CN,A)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1996年,Vol.93, No.15,pp.7623-7627
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)のペプチド、又はその薬学的、栄養補助的若しくは獣医学的に許容される塩を含む、脱毛を引き起こす疾患及び/又は障害における哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療のための医薬:
(R
1)
(m)-Xaa
1IXaa
2T(Q)
(p)(R
2)
(n) (I)(配列番号1)
式中、
R
1は前記ペプチド配列のN-末端残基をアシル化する-C(O)-(C
1-C
20)-アルキル基であり;
R
2は前記ペプチド配列のC-末端残基をアミド化する-NR
4R
5基であり、R
4及びR
5はH及び(C
1-C
3)-アルキルから選択され;
m、n、及びpは0~1の整数であり;並びに
Xaa
1及びXaa
2は、場合により-OSO
3R
3基で置換されたアミノ酸の側鎖ヒドロキシル基を含むチロシン残基であり、R
3はH及び(C
1-C
3)-アルキルから選択され;且つ、
前記ペプチドが、
CH
3-C(O)-Xaa
1IYT-NH
2(配列番号2)(式中、Xaa
1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
CH
3-C(O)-YIXaa
2T-NH
2(配列番号3)(式中、Xaa
2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
CH
3-C(O)-Xaa
1IYTQ-NH
2(配列番号4)(式中、Xaa
1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
CH
3-C(O)-YIXaa
2TQ-NH
2(配列番号5)(式中、Xaa
2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
CH
3-C(O)-YIYT-NH
2(配列番号6);
CH
3-C(O)-YIYTQ-NH
2(配列番号7);
Xaa
1IYT(配列番号8)(式中、Xaa
1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa
2T(配列番号9)(式中、Xaa
2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa
1IYTQ(配列番号10)(式中、Xaa
1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa
2TQ(配列番号11)(式中、Xaa
2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa
1IXaa
2T(配列番号14)(式中、Xaa
1及びXaa
2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa
1IXaa
2TQ(配列番号15)(式中、Xaa
1及びXaa
2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
CH
3-C(O)-YIYT(配列番号16);
CH
3-C(O)-YIYTQ(配列番号17);
YIYT-NH
2(配列番号18);
YIYTQ-NH
2(配列番号19);
及びそれらの混合物からなる群から選択される。
【請求項2】
前記ペプチドが、
CH
3-C(O)-YIYT-NH
2(配列番号6);
CH
3-C(O)-YIYTQ-NH
2(配列番号7);
Xaa
1IYT(配列番号8)(式中、Xaa
1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa
2T(配列番号9)(式中、Xaa
2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa
1IXaa
2T(配列番号14)(式中、Xaa
1及びXaa
2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa
1IXaa
2TQ(配列番号15)(式中、Xaa
1及びXaa
2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
及びそれらの混合物
で構成される群から選択される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
請求項1に記載の配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチド又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩、並びに薬学的、栄養補助的若しくは獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む、脱毛を引き起こす疾患における前記脱毛の予防及び/又は治療のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項4】
ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的または獣医学的に許容される塩と、を更に含む、請求項3に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項5】
前記ビタミンが、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB8、ビタミンB9、及びそれらの混合物で構成される群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項6】
前記アミノ酸が、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、メチオニン、プロリン、システイン、及びそれらの混合物で構成される群から選択される、請求項4又は5に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項7】
鉄対銅の重量比が25:1~900:1、亜鉛対銅の重量比が30:1~400:1、マグネシウム対銅の重量比が570:1~5800:1である、請求項4~6のいずれか1項に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項8】
前記鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される塩が、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、及びそれらの混合物で構成される群から選択される無機塩である、請求項4~7のいずれか1項に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項9】
前記配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチド又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、グリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、システイン、グルタミン酸、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、及び硫酸鉄、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む、請求項3~8のいずれか1項に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項10】
前記配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチドは、脱分化した植物細胞懸濁培地の成長を先にサポートした無細胞上清又は前記無細胞上清の画分の成分として組成物中に提供され、前記無細胞上清又は前記画分は4~300アミノ酸長のペプチドを含み、前記ペプチドは、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、エピジェネティック因子、及びそれらの混合物から選択され、前記無細胞上清又は前記画分は、細胞溶解からの細胞質細胞内容物並びに膜及び/又は細胞壁を有さない、請求項3~9のいずれか1項に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項11】
前記配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチドが、ダウクス・カロタ(Daucus carota)、センテラ・アジアチカ(Centella asiatica)、サルコカポノス・クラッシフォリア(Sarcocapnos crassifolia)、クルクマ・ロンガ(Curcuma longa)、ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)、リトープス・シュードトランカテラ(Lithops pseudotruncatella)、モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)、及びオレア・ユーロピア(Olea europaea)で構成される群から選択される植物からの脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清の成分として組成物中に提供される、請求項10に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項12】
前記哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患が、脱毛症、乏毛症、ビタミン又はミネラル欠乏症、抜毛癖、甲状腺機能低下症、毛髪の強く引っ張り、頭皮の真菌感染症、及びそれらの組み合わせから選択される、請求項1に記載の配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的若しくは獣医学的に許容される塩を含む医薬、あるいは請求項3~11のいずれかに記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項13】
ビタミン、アミノ酸、又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩、鉄対銅の重量比が25:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比が30:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比が570:1~5800:1である有機塩又は無機塩、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含み、更に、請求項1に記載の配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;及び/又は脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清若しくは前記無細胞上清の画分を含み、
前記無細胞上清又は前記画分が4~300アミノ酸長のペプチドを含み、前記ペプチドが、ペプチド植物成長因子
であり、ペプチド植物成長因子が前記請求項1に記載の配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチドを含み、前記無細胞上清又は前記画分が細胞溶解からの細胞質細胞含有物並びに細胞膜及び/又は細胞壁を有さない、組成物。
【請求項14】
局所組成物である、請求項13に記載の医薬組成物又は獣医学組成物。
【請求項15】
前記式(I)のペプチドが、
CH
3-C(O)-YIYT-NH
2(配列番号6);
CH
3-C(O)-YIYTQ-NH
2(配列番号7);
Xaa
1IYT(配列番号8)(式中、Xaa
1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa
2T(配列番号9)(式中、Xaa
2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa
1IXaa
2T(配列番号14)(式中、Xaa
1及びXaa
2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa
1IXaa
2TQ(配列番号15)(式中、Xaa
1及びXaa
2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO
3H基で置換されたチロシン残基である);
CH
3-C(O)-YIYT(配列番号16);
CH
3-C(O)-YIYTQ(配列番号17);
YIYT-NH
2(配列番号18);
YIYTQ-NH
2(配列番号19);
及びそれらの混合物から選択される、請求項13~14のいずれかに記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項16】
前記配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチド又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩;ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、グリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、システイン、グルタミン酸、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、及び硫酸鉄、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む、請求項13に記載の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物。
【請求項17】
(a)請求項1に記載の配列番号2~19からなる群から選択される式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;並びに、
(b)ビタミン、アミノ酸、又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含み、鉄対銅の重量比が25:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比が30:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比が570:1~5800:1である、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物;
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年4月11日に申請された欧州特許第16164645号明細書の利益を主張する。
【0002】
本発明は、何らかの原因による脱毛の治療の分野に関する。本発明は特に、脱毛症及び他の毛疾患を改善するためのペプチドを含む化合物及び組成物、特に局所製剤に関する。
【背景技術】
【0003】
脱毛の原因は多数あり、いくつかの脱毛型が知られており、円形脱毛症、アンドロゲン性脱毛症、女性型脱毛症等が挙げられる。更に、脱毛症は、メタボリックシンドロームに関連するか、薬物療法(化学療法)に起因するか、ビタミン若しくはミネラル欠乏症、又は頭皮真菌感染に起因する可能性がある。
【0004】
ミノキシジル(6-ピペリジン-1-イルピリミジン-2,4-ジアミン3-オキシド)は、脱毛症、特にアンドロゲン性脱毛症の治療に主に使用され、知られている有効成分の1つである。一般的な副作用には、目の灼熱感や刺激、治療部位のかゆみ、赤み又は刺激、並びに身体の他の場所での望ましくない発毛が含まれる。これは、特許文献1において、哺乳動物の皮膚に適用して末端の発毛速度を増加させるための局所用組成物の成分として開示されている。特許文献2には、脱毛症の治療におけるミノキシジルの特定の使用が開示されている。
【0005】
特許文献3において、メラトニンは、特にテレジェニック速度の低下及び後頭毛に対するその効果のために、アンドロゲン性女性型脱毛症の治療用にも提案された。
【0006】
更に、より天然の化合物を脱毛の治療に適用することを目的として、植物抽出物も提案されている。一例として、特許文献4では、脱毛予防及び/又は発毛促進のための新規な組成物が提案され、テストステロン誘発アンドロゲン性脱毛症の管理に関連する毛疾患に対する活性剤としていくつかのVernonia sp抽出物が使用された。
【0007】
特許文献5から推論されるように、他の抽出物であるCurcuma sp及びその有効成分クルクミンは、レスベラトロール及び他の成分と共に投与すると脱毛が回避されるようであった。特許文献5の実施例1の表1は、治療した患者の一部において脱毛症領域内に発毛があったことを示している。
【0008】
また主に、Curcuma sp抽出物中に存在するクルクミンについて、Pumthongらの非特許文献1には、アンドロゲン性脱毛症を治療するためのCurcuma aeruginosa抽出物(ヘキサン抽出物)の使用が開示されている。ミノキシジルとCurcuma抽出物とを組み合わせて有意なデータが得られたが、著者らは、5α-レダクターゼ阻害剤としてのその役割により、またミノキシジルによって生じる直接的な発毛刺激により、相乗効果が観察可能であると仮定した。
【0009】
脱毛を治療及び/又は予防するための上記に開示した全てのアプローチにもかかわらず、何らかの原因による脱毛に対処するための代替活性剤及びそれを含む組成物の必要性が依然として存在する。特に、有効性が証明され、副作用が最小又はゼロであり、植物由来である場合に環境及び季節に依存しない方法で製造できる活性剤の必要性が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許第4139619号明細書
【文献】米国特許第4596812号明細書
【文献】米国特許第6281241号明細書
【文献】国際公開第2007113851号パンフレット
【文献】国際公開第2006087759号パンフレット
【非特許文献】
【0011】
【文献】Curcuma aeruginosa,a novel botanically derived 5α-reductase inhibitor in the treatment of male-pattern baldness:a multicenter,randomized,double-blind,placebo-controlled study)」Journal of Dermatological Treatment.-2012;vol.no.23,pp:385-392
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに、植物の脱分化した細胞培養懸濁液中の細胞全体を除去することによって得られた無細胞上清が化合物のカクテルを含有し、発毛及び毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖を促進するために、上清に含まれた他の細胞外生成物と共に相乗的に作用することを発見した。更に、無細胞上清の単離されたペプチド画分に含まれるペプチドであり植物の防御、成長、及び発達に主に関与するペプチドが、発毛促進剤としても、毛包真皮乳頭細胞増殖および毛母ケラチノサイト増殖にも有効であることを証明した。従って、ペプチド及びペプチドを含有する無細胞上清の任意の画分の両方が脱毛の治療に有用である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、本発明は、脱毛を引き起こす疾患及び/又は障害における哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療に使用される、式(I)のペプチド配列、又はその薬学的、栄養補助的若しくは獣医学的に許容される塩に関し、
(R1)(m)-Xaa1IXaa2T(Q)(p)(R2)(n) (I)(配列番号1)
式中、
R1は前記ペプチド配列のN-末端残基をアシル化する-C(O)-(C1-C20)-アルキル基であり;
R2は前記ペプチド配列のC-末端残基をアミド化する-NR4R5基であり、R4及びR5はH及び(C1-C3)-アルキルから選択され;
m、n、及びpは0~1の整数であり;並びに
Xaa1及びXaa2は、場合により-OSO3R3基で置換されたアミノ酸の側鎖ヒドロキシル基を含むチロシン残基であり、R3はH及び(C1-C3)-アルキルから選択される。
【0014】
この態様はまた、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患及び/又は障害における哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療用の医薬品を調製するために、式(I)のペプチド配列又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩の使用として処方され得る。本発明はまた、哺乳動物における脱毛の予防及び/又は治療の方法に関し、そのような治療を必要とする哺乳動物に有効量の式(I)のペプチド配列又は薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩を投与することを含む。
【0015】
以下の実施例に示すように、本発明のペプチドは、HFDPCの増殖に関してミノキシジルよりも高い効果を示した。更に、このペプチドを含む組成物、例えば脱分化した植物細胞懸濁培地の成長を先にサポートした植物の無細胞上清は、ミノキシジルと同等又はそれ以上の効果を示した。
【0016】
本発明による使用のために提案されたペプチドは、懸濁液中の植物細胞の馴化培地から単離されたフィトスルホカイン-β(PSK-β)を模倣する化合物である(松林ら、「フィトスルホカイン、Asparagus officinalis Lの単一葉肉細胞の増殖を誘発する硫酸化ペプチド(Phytosulfokine, sulphated peptides that induce the proliferation of single mesophyll cells of Asparagus officinalis L.)」Proc.Natl.Acad.Sci.-1996、vol.no.93、pp.7623-7627参照)。本発明者が知る限りにおいて、フィトスルホカイン-β(PSK-β)又はフィトスルホカイン-β(PSK-β)誘導体が医薬品として、特に脱毛の防止又は治療剤として提案されるのはこれが初めてである。
【0017】
本発明の第2の態様は、式(I)のペプチド、又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩、並びに薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む、脱毛を引き起こす疾患及び/又は障害において脱毛の治療に使用するための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物である。
【0018】
本発明者らは、特に有効な組成物、特に頭皮又は所望のはげた領域に投与される局所組成物も開発した。これらの組成物は、HFDPCの増殖を可能にする全ての成分を含み、発毛を可能にする物質をこれらの増殖細胞に供給する。発毛は頭皮で生じるが、組成物が適用され毛が通常存在する任意の場所、例えばまつげ、眉毛及びひげ等においても生じる。
【0019】
従って、第3の態様では、本発明は、ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される塩と、薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と、を含む医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物に関し、この組成物は、
-式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;並びに/又は、
-脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清又はその無細胞上清の画分を更に含み、前記無細胞上清又は画分は、4~300アミノ酸長のペプチドを含み、ペプチドは、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、エピジェネティック因子、及びその混合物から選択され、ペプチド植物成長因子は式(I)のペプチドを含み、無細胞上清又は画分は細胞溶解からの細胞質細胞含有物並びに細胞膜及び/又は細胞壁を有さない。
【0020】
本発明の別の態様は、
(a)式(I)のペプチド配列又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;並びに、
(b)ビタミン、アミノ酸、又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物;
を含む、キットである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】アッセイ1に関連し、いくつかの組成物で処理した場合の毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖指数(%)を示すグラフである。Ctrl BMは基礎対照(非処理HFDPC)を意味し、100%の増殖指数値が与えられ、FGFは線維芽細胞増殖因子を意味し、VEGFは血管内皮増殖因子を意味し、C1及びC2は表1に示すように試験した種の異なる濃度の無細胞上清に対応し、この上清(馴化培地としても知られている)は4~300アミノ酸長のペプチドを含む。表1に示すように、植物種の名称も略記されている。ペプチド4Aa、5Aaは、それぞれ配列番号6、7のペプチドである。Y軸は百分率(%)による増殖指数である。
【
図2】アッセイ1に関連し、様々な末端修飾を有するペプチド4Aaで処理した場合の毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HFDPC)を意味し、増殖指数を100%とする。C1、C2、及びC3は、異なる濃度のペプチドを表し、5.86μg/ml、2.93μg/ml、及び1.46μg/mlにそれぞれ対応する。第1のカラムは、両端が遊離している(配列番号12)4Aaペプチドに相当し、第2のカラムは、N末端がアセチル化しC末端が遊離している(配列番号16)4Aaペプチドに相当し、第3のカラムは、N末端が遊離しC末端がアミド化している(配列番号18)4Aaペプチドに相当し、第4のカラムは、N末端がアセチル化しC末端がアミド化している(配列番号6)4Aaペプチドに相当する。
【
図3】アッセイ1に関連し、様々な末端修飾を有するペプチド5Aaで処理した場合の毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HFDPC)を意味し、増殖指数を100%とする。C1、C2、及びC3は、異なる濃度のペプチドを表し、5.86μg/ml、2.93μg/ml、及び1.46μg/mlにそれぞれ対応する。第1のカラムは、両端が遊離している(配列番号13)5Aaペプチドに相当し、第2のカラムは、N末端がアセチル化しC末端が遊離している(配列番号17)5Aaペプチドに相当し、第3のカラムは、N末端がアセチル化しC末端がアミド化している(配列番号7)5Aaペプチドに相当する。
【
図4】アッセイ1に関連し、Daucus Carota無細胞上清及び配列番号6のペプチドのHPLCクロマトグラムである。Y軸はピーク強度であり、X軸は分(min)単位の保持時間(T)である。
【
図5】アッセイ1に関連し、配列番号6のペプチド又はクルクマ・ロンガ(Curcuma longa)の無細胞上清のいずれかで処理したHFDPC由来のセクレトームにおけるmiRNA-22(
図5(B))及びmiRNA-31(
図5(A)及び
図5(C))の発現レベルを示すグラフである。
【
図6】アッセイ2に関連し、様々な末端修飾を有するペプチド4Aaで処理した場合の毛真皮線維芽細胞(HDF)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDF)を意味し、増殖指数を100%とする。C1、C2、及びC3は、異なる濃度のペプチドを表し、25μg/ml、12.5μg/ml、及び1.25μg/mlにそれぞれ対応する。第1のカラムは、両端が遊離している(配列番号12)4Aaペプチドに相当し、第2のカラムは、N末端がアセチル化しC末端が遊離している(配列番号16)4Aaペプチドに相当し、第3のカラムは、N末端が遊離しC末端がアミド化している(配列番号18)4Aaペプチドに相当し、第4のカラムは、N末端がアセチル化しC末端がアミド化している(配列番号6)4Aaペプチドに相当する。
【
図7】アッセイ2に関連し、様々な末端修飾を有するペプチド5Aaで処理した場合の毛真皮線維芽細胞(HDF)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDF)を意味し、増殖指数を100%とする。C1、C2、及びC3は、異なる濃度のペプチドを表し、1.25μg/ml、0.63μg/ml、及び0.25μg/mlにそれぞれ対応する。第1のカラムは、両端が遊離している(配列番号13)5Aaペプチドに相当し、第2のカラムは、N末端がアセチル化しC末端が遊離している(配列番号17)5Aaペプチドに相当し、第3のカラムは、N末端が遊離しC末端がアミド化している(配列番号19)5Aaペプチドに相当し、第4のカラムは、N末端がアセチル化しC末端がアミド化している(配列番号7)5Aaペプチドに相当する。
【
図8】アッセイ3に関連し、配列番号6のペプチド又は式(I)のペプチドを含むクルクマ・ロンガの無細胞上清(
図9)を投与したボランティアの後頭部(A)及び前頭部(B)部分の頭皮写真、並びに「Trichoscan」(登録商標)で作製した毛管密度顕微鏡写真である。
【
図9】アッセイ3に関連し、配列番号6のペプチド(
図8)又は式(I)のペプチドを含むクルクマ・ロンガの無細胞上清を投与したボランティアの後頭部(A)及び前頭部(B)部分の頭皮写真、並びに「Trichoscan」(登録商標)で作製した毛管密度顕微鏡写真である。
【
図10】アッセイ4に関連し、異なる濃度の強化組成物で処理した場合の毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDFPC)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図11】アッセイ4に関連し、異なる濃度の強化組成物で処理した場合の毛真皮線維芽細胞(HDF)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDF)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図12】アッセイ4に関連し、異なる濃度の強化組成物で処理した場合のヒト不死化ケラチノサイト(HaCat)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDFPC)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図13】アッセイ4に関連し、異なる濃度で、
図10及び12とは異なる強化組成物で処理した場合の毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDFPC)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図14】アッセイ4に関連し、異なる濃度の
図13のような強化組成物で処理した場合の毛真皮線維芽細胞(HDF)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDF)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図15】アッセイ4に関連し、異なる濃度の
図13のような強化組成物で処理した場合のヒト不死化ケラチノサイト(HaCat)の増殖指数(%)を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDFPC)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図16】アッセイ5に関連し、式(I)の4Aaペプチド、強化された組成物、又は両方の組み合わせで処理した場合の毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)の増殖指数(%)を有するグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照(非処理HDFPC)を意味し、増殖指数を100%とする。
【
図17】アッセイ6(参考例)に関連し、様々な硫酸化修飾を有するペプチド4Aaで処理した毛真皮線維芽細胞(HDF)の創傷治癒潜在能を示すグラフである。「基礎Ctrl」は基礎対照を意味し、0.1%FBSで処理したHDFで構成される。10%FBS又はTGF-β1(15ng/ml)で処理した2つの陽性対照を示す。ペプチド4AaS1は4Aaペプチドの改変型であり、ペプチドの第1のチロシンに-OSO
3H基を有し(配列番号2)、ペプチド4AaS2は4Aaペプチドの改変型であり、ペプチドの第2のチロシンに-OSO
3H基を有する(配列番号3)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本出願において本明細書中で使用される全ての用語は、別段の記載がない限り、当技術分野で知られている通常の意味で理解されるものとする。本出願で使用される特定の用語の他のより具体的な定義は、以下に述べるものであり、明確に規定された定義がより広い定義を提供しない限り、明細書及び特許請求の範囲を均等に適用することを意図する。
【0023】
「脱毛を引き起こす疾患における哺乳動物の脱毛」とは、健康に関連するものや標準的な毛の再生に比べて頻繁に髪が失われたり変化したり、髪が弱くなったり、抜けた後に発毛が再開しなかったりすることであり、この「脱毛」は任意の障害又は疾患によって引き起こされ、その症状や結果は、特定領域の毛の数が減少するか、又は特定領域の毛の数が弱い毛であるということである。「脱毛」は、薬物療法の副作用等、他の状況に起因する場合もある。特に、脱毛を引き起こす原因、疾患、又は障害は、脱毛症(即ち、アンドロゲン性脱毛症、アンドロゲン性女性型脱毛症、円形脱毛症、季節性脱毛症、びまん性脱毛症、メタボリックシンドローム関連)、薬物療法(即ち、化学療法)、乏毛症、ビタミン又はミネラル欠乏症、抜毛癖、甲状腺機能低下症、強く引っ張られた毛、頭皮の真菌感染症、技術的プロセスによる脱毛(染色等、ストレスを与えるヘアトリートメントに起因する)、毛の脆弱性、更年期障害、及びそれらの組み合わせを含むものと理解される。
【0024】
本明細書中で使用される場合、「薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される塩」という用語は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー応答等がなくヒト及び下等動物の組織と接触して使用するのに適し、合理的な利益/リスク比に見合った塩を意味する。薬学的に許容される塩は、当該分野においてよく知られている。薬学的に許容される非毒性酸付加塩の例には、無機酸(例えば塩酸、臭化水素酸、リン酸、硫酸、及び過塩素酸)又は有機酸(例えば酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、コハク酸、又はマロン酸)、あるいはイオン交換など当技術分野で使用される他の方法を用いて形成されたアミノ基の塩が挙げられる。他の薬学的に許容される塩には、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重硫酸塩、ホウ酸塩、酪酸塩、樟脳酸塩、カンファースルホン酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ドデシル硫酸塩、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルコヘプトン酸塩、グリセロリン酸塩、グルコン酸塩、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ラクトビオン酸塩、乳酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、メタンスルホン酸塩、2-ナフタレンスルホン酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、パモ酸塩、ペクチン酸塩、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバリン酸塩、プロピオン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩、チオシアン酸塩、パラトルエンスホン酸塩、ウンデカン酸塩、吉草酸塩等が含まれる。適切な塩基から誘導される塩には、アルカリ金属、アルカリ土類金属、及びアンモニウムが含まれる。代表的なアルカリ又はアルカリ土類金属塩には、ナトリウム、リチウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等が含まれる。更なる薬学的に許容される塩としては、適切な場合には、ハロゲン化物、水酸化物、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、低級アルキルスルホン酸塩、及びアリールスルホン酸塩等の対イオンを用いて形成される非毒性アンモニウム、第4級アンモニウム、及びアミンカチオンが含まれる。
【0025】
「栄養補助組成物」は、食物サプリメント、経口補水液(ORS)、食品添加物、ベビーシリアル、及び乳児用調製乳を含む食用組成物である。食物サプリメントは、人の食事(乳児、妊婦、高齢者など)において欠如しているか又は十分量摂取されていない栄養素(ビタミン、ミネラル、脂肪酸、又はアミノ酸)を補うことを意図している。
【0026】
本明細書で使用される用語「薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に有効な量」は、所望の利益をもたらすのに十分高いが、医療又は獣医学の判断の範囲内で深刻な副作用を避けるのに十分低い量の活性剤を意味する。
【0027】
用語(C1~C3)アルキルは、1~3個の炭素原子を有する飽和直鎖又は分枝アルキル鎖を指す。例示的で非限定的な例には、メチル、エチル、プロピル、及びイソプロピルが挙げられる。
【0028】
-C(O)-(C1-C20)-アルキル基という用語は、2~21個の炭素原子を有する飽和直鎖又は分枝アルカノイル酸鎖を指す。例示的で非限定的な例には、アセチル、プロパノイル、イソプロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、sec-ブタノイル、tert-ブタノイル、n-ペンタノイル、ネオペンタノイル、n-ヘキサノイル、n-ミリストイル(又はn-テトラデカノイル)、及びn-パルミトイル(またはn-ヘキサデカノイル)が挙げられる。本発明における特定の-C(O)-(C1-C20)-アルキル基は、アセチル、n-ミリストイル(又はn-テトラデカノイル)、及びn-パルミトイル(又はn-ヘキサデカノイル)である。
【0029】
ペプチド配列を構成する「アミノ酸」という用語は、アミノ基とカルボキシル基の両方を含む分子を指す。特定の実施形態では、アミノ酸はα-アミノ酸である。適切なアミノ酸には、20種の一般的な天然α-アミノ酸のL-異性体等の天然α-アミノ酸が含まれるが、これに限定されない。本発明のペプチドの構築に使用されるアミノ酸は、有機合成によって調製され得るか、あるいは例えば天然源からの分解又は単離などの他の経路によって得ることができる。
【0030】
本発明において、チロシン残基は、その側鎖ヒドロキシル基が-OSO3R3基で置換されたものであることが示されており、R3はH及び(C1-C3)-アルキルから選択され、それらは硫酸化チロシン(-OSO3H)及びその薬学的に許容される塩(対イオンとのイオン平衡に起因する)を包含するものと理解される。チロシン硫酸化は、タンパク質分子のチロシン残基に硫酸基が付加される天然に生じる翻訳後修飾である。硫酸化は、ゴルジ体内のチロシルタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST)によって触媒される。TPSTによって触媒される反応は、普遍的な硫酸塩供与体3’-ホスホアデノシン-5’-ホスホスルフェート(PAPS)からチロシン残基の側鎖ヒドロキシル基への硫酸塩の移動である。硫酸化チロシンを有する合成ペプチドにおいては、当業者に広く知られている化学的な反応と同様に、酵素反応を用いることができる。
【0031】
「脱分化した植物細胞懸濁培地の成長を先にサポートした無細胞上清」という表現は、培養培地内の懸濁液中で成長又は培養中に、また任意の目的(二次代謝産物、バイオマス生産等)のために、脱分化した植物細胞を含有した液体のみを指す。無細胞上清には、植物細胞の溶解から放出された細胞質成分及びその破壊から生じた植物細胞の任意の部分(膜断片、細胞壁断片等)は含まれない。無細胞上清は、消費されていない最初の培養培地の成分及び植物細胞によって細胞外培地に分泌された化合物を含む。これらの化合物の中には、ペプチド植物成長因子、転写因子、及びエピジェネティック因子がある。無細胞上清は、馴化栄養培地、馴化培地、又は馴化細胞培地(本明細書では互換的に使用する)とも呼ばれる。無細胞上清が「細胞溶解からの細胞質細胞含有物を有さず、膜及び/又は細胞壁を有さない」と言う場合、いくつかの膜及び/又は細胞壁の痕跡並びに細胞質成分(核成分、オルガネラ等)は、培養プロセス中に時折生じる単離細胞の自発的破壊により存在し得る。
【0032】
特定の実施形態では、場合により以下の任意の実施形態と組み合わせて、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための式(I)のペプチドは、R1が-C(O)-CH3ラジカル、n-ミリストイル及びn-パルミトイルから選択される-C(O)-(C1-C20)-アルキル基である。
【0033】
別の特定の実施形態では、場合により上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせて、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための式(I)のペプチドは、-OSO3R3のR3が水素(H)であり、酸形態のアルカリ金属の塩も包含する。
【0034】
更なる特定の実施形態では、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための式(I)のペプチドにおいて、m及びnは1であり、pは0~1である。より特定的には、m及びnは1であり、pは0~1であり、R1は-C(O)-CH3基であり、R2は-NH2基であり、R3は水素(H)である。
【0035】
これらのペプチドの例としては、
CH3-C(O)-Xaa1IYT-NH2(配列番号2)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIXaa2T-NH2(配列番号3)(式中、Xaa2は側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-Xaa1IYTQ-NH2(配列番号4)(式中、Xaa1は側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIXaa2TQ-NH2(配列番号5)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIYT-NH2(配列番号6);及び
CH3-C(O)-YIYTQ-NH2(配列番号7)
が挙げられる。
【0036】
更なる特定の実施形態では、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための式(I)のペプチドにおいて、mは1であり、nは0であり、pは0~1である。より特定的には、mは1であり、nは0であり、pは0~1であり、R1は-C(O)-CH3基であり、R3はHである。式(I)のこれらのペプチドの例には、CH3-C(O)-YIYT(配列番号16)及びCH3-C(O)-YIYTQ(配列番号17)が挙げられる。
【0037】
更なる特定の実施形態では、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための式(I)のペプチドにおいて、mは0であり、nは1であり、pは0~1である。特に、mは0であり、nは1であり、pは0~1であり、R2は-NH2基であり、R3はHである。式(I)のこれらのペプチドの例には、YIYT-NH2(配列番号18)及びYIYTQ-NH2(配列番号19)が挙げられる。
【0038】
また、更なる特定の実施形態では、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための式(I)のペプチドにおいて、m及びnは共に0であり、pは0~1である。これらの式(I)のペプチドの例としては、Xaa1IYT(配列番号8)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である)、YIXaa2T(配列番号9)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である)、Xaa1IYTQ(配列番号10)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である)、YIXaa2TQ(配列番号11)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である)、YIYT (配列番号12)、YIYTQ(配列番号13)、Xaa1IXaa2T(配列番号14)(式中、Xaa1及びXaa2の両方は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である)、及びXaa1IXaa2TQ(配列番号15)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である)が挙げられる。
【0039】
他の特定の実施形態では、場合により上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせて、本発明による使用のためのペプチドは、
CH3-C(O)-Xaa1IYT-NH2(配列番号2)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIXaa2T-NH2(配列番号3)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-Xaa1IYTQ-NH2(配列番号4)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIXaa2TQ-NH2(配列番号5)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIYT-NH2(配列番号6);
CH3-C(O)-YIYTQ-NH2(配列番号7);
Xaa1IYT(配列番号8)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa2T(配列番号9)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa1IYTQ(配列番号10)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa2TQ(配列番号11)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa1IXaa2T(配列番号14)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa1IXaa2TQ(配列番号15)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIYT(配列番号16);
CH3-C(O)-YIYTQ(配列番号17);
YIYT-NH2(配列番号18);
YIYTQ-NH2(配列番号19);
及びそれらの混合物
で構成される群から選択される。
【0040】
より特定の実施形態では、ペプチドは、
CH3-C(O)-YIYT-NH2(配列番号6);
CH3-C(O)-YIYTQ-NH2(配列番号7);
Xaa1IYT(配列番号8)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa2T(配列番号9)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa1IXaa2T(配列番号14)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa1IXaa2TQ(配列番号15)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
及びそれらの混合物
で構成される群から選択される。
【0041】
式(I)のこれらのペプチドは全て、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物中に製剤化することができ、脱毛に対する活性剤の1つである。本発明はまた、上記のように、脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための、式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩、並びに薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物に関する。
【0042】
医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物に製剤化される際に、式(I)のペプチドは、特定の実施形態において、プロテアーゼに対して好都合に保護され得、及び/又は細胞に浸透するために調製され得る。細胞増殖及び発毛を促進するペプチドの能力に悪影響を及ぼすことなく、細胞膜を越えて本発明のペプチドの送達を容易にする薬剤は、それに融合又は結合した浸透性ペプチドと、リポソームと、ナノ粒子(1~300nm)とを含む。
【0043】
この第2の態様の特定の実施形態において、目的とする使用のための組成物は、頭皮及び/又は無毛領域に適用される局所組成物である。特定の局所組成物は、溶液、クリーム、ローション、膏薬、エマルジョン、エアロゾル及び非エアロゾルスプレー、ゲル、軟膏、並びに懸濁液で構成される群から選択され、これらは全てすすぎ落とされるが、組成物はすすぎ落とされない。従って、発毛は、組成物が適用され、毛が通常存在する任意の場所、例えばまつげ、眉毛、頭皮、及びひげにおいて生じる。
【0044】
第2の態様の別の特定の実施形態では、目的とする使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩と、を更に含む。
【0045】
実際に、ビタミン、金属塩、及びアミノ酸を更に含むこれらの組成物は、乳頭細胞及び乳頭マトリックス(ケラチノサイト)が新しい毛を形成又は生成することを可能にする(補強組成物としての)細胞栄養素の混合物を処置領域又は適用される領域に提供する。
【0046】
より特定の実施形態では、目的とする使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB2、ビオチン(水溶性のビタミンB8)、ビタミンB9、ミオイノシトール、及びそれらの混合物で構成される群から選択されるビタミン類を含む。
【0047】
別のより特定の実施形態では、目的とする使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、グルタミン酸、フェニルアラニン、グリシン、メチオニン、プロリン、システイン、及びそれらの混合物で構成される群から選択されるアミノ酸又はその塩を含む。別の特定の実施形態では、タンパク質加水分解物、より詳細にはカゼイン加水分解物がその中に含まれる。
【0048】
別の特定の実施形態では、上記の使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物において、鉄対銅の重量比は25:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比は30:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比は570:1~5800:1である。要素間の重量比は、製剤中の要素の重量に関連する。別のより特定の実施形態では、上記又は下記の実施形態と組み合わせて、鉄対銅の重量比は700:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比は300:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比は2300:1~5800:1である。Fe/Cu/Zn/Mgとしての全元素の特定の重量比は、868/1/307/5730及び25/1/307/2856である。
【0049】
更に別のより特定の実施形態では、目的とする使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の許容される塩として、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸マグネシウム、及びそれらの混合物で構成される群から選択される無機塩を含む。
【0050】
別の特定の実施形態において、上記の使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、式(I)のペプチド又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、グリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、システイン、グルタミン酸、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、及び硫酸鉄、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む。
【0051】
上に開示した使用のための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物の特定の実施形態では、場合により上記又は下記の任意の実施形態と組み合わせて、式(I)のペプチドは、脱分化した植物細胞懸濁培地の成長を先にサポートした無細胞上清の成分、又は含まれる成分、又はこの無細胞上清の画分の成分として組成物中に提供され、無細胞上清又は画分は4~300アミノ酸長のペプチドを含み、このペプチドは、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、エピジェネティック因子、及びそれらの混合物から選択され、無細胞上清又は画分は、細胞溶解からの細胞質細胞内容物並びに膜及び/又は細胞壁を有さない。
【0052】
これらの無細胞上清又はその画分の多くは市販されている。
【0053】
これらは、一般的には、
(a)脱分化した植物細胞の成長をサポートする馴化培地を得るために、脱分化した植物細胞を、液体栄養培養培地中の脆いカルスから5~15日間成長させる工程と、
(b)4~300アミノ酸長のペプチドを含む無細胞上清を得るために、細胞を溶解することなく馴化培地から植物細胞全体を除去する工程と、
(c)無細胞上清の画分を得るために、必要に応じて、クロマトグラフィー、濾過、限外濾過、タンパク質沈殿、及びそれらの組合せで構成される群から選択される分離技術によるタンパク質分離プロセスを実施する工程と、
を含む方法によっても得ることができる。
【0054】
別の特定の実施形態では、上記に使用するための医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、式(I)のペプチドを含み、式(I)のペプチドは、ダウクス・カロタ(Daucus carota)、センテラ・アジアチカ(Centella asiatica)、サルコカポノス・クラッシフォリア(Sarcocapnos crassifolia)、クルクマ・ロンガ(Curcuma longa)、ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)、リトープス・シュードトランカテラ(Lithops pseudotruncatella)、モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)、及びオレア・ユーロピア(Olea europaea)で構成される群から選択される植物からの脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清の成分として組成物中に提供される。
【0055】
実際に、4~300アミノ酸長のペプチドを含むこれらの無細胞上清又はその画分は、式(I)のペプチドの天然源であり得、実施例では高度に活性であると実証されている。
【0056】
第1及び第2の態様の別の特定の実施形態において、式(I)のペプチド配列又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物、栄養補助組成物、若しくは獣医学組成物は、脱毛症、薬物療法(特に化学療法)、乏毛症、ビタミン又はミネラル欠乏症、抜毛癖、甲状腺機能低下症、強く引っ張られた毛、頭皮の真菌感染症、技術的プロセスによる脱毛、毛の脆弱性、更年期障害、及びそれらの組み合わせから選択される哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患又は障害における哺乳動物の脱毛(特にヒトの脱毛)の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0057】
別の特定の実施形態では、式(I)のペプチド配列又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩、又はそれを含む医薬組成物、栄養補助組成物、若しくは獣医学組成物は、哺乳動物の頭皮、ひげ、まつげ、及び眉毛の脱毛の予防及び/又は治療に使用するためのものである。これは、それらがひげの発毛促進、まつげの伸長、及び眉毛領域の毛の密度増加のためにも使用されることを意味する。
【0058】
特に、式(I)のペプチド、その塩、又はそれらを含む任意の組成物は、アンドロゲン性脱毛症、アンドロゲン性女性型脱毛症、円形脱毛症、季節性脱毛症、びまん性脱毛症、メタボリックシンドロームに関連する脱毛症から選択される脱毛症の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0059】
第3の態様によれば、本発明は、ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩と、薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体とを含む医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物に関し、この組成物は更に、
-式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;及び/又は、
-脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清又はその無細胞上清の画分を含み、前記無細胞上清又は画分は、4~300アミノ酸長のペプチドを含み、ペプチドは、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、エピジェネティック因子、及びその混合物から選択され、ペプチド植物成長因子は式(I)のペプチドを含み、無細胞上清又は画分は細胞溶解からの細胞質細胞含有物並びに細胞膜及び/又は細胞壁を有さない。
【0060】
本発明は特に、ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的に許容される有機塩又は無機塩と、薬学的又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体と、を含む、新規の局所医薬組成物又は獣医学組成物にも関し、この組成物は更に、
-式(I)のペプチド又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩;及び/又は、
-脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清又はその無細胞上清の画分を含み、前記無細胞上清又は画分は、4~300アミノ酸長のペプチドを含み、ペプチドは、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、植物エピジェネティック因子、及びその混合物から選択され、ペプチド植物成長因子は式(I)のペプチドを含み、無細胞上清又は画分は細胞溶解からの細胞質細胞含有物並びに細胞膜及び/又は細胞壁を有さない。
【0061】
これらの医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物の特定の実施形態、また局所医薬組成物又は獣医学組成物の特定の実施形態では、脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清またはこの無細胞上清の画分は、ダウクス・カロタ(Daucus carota)、センテラ・アジアチカ(Centella asiatica)、サルコカポノス・クラッシフォリア(Sarcocapnos crassifolia)、クルクマ・ロンガ(Curcuma longa)、ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)、リトープス・シュードトランカテラ(Lithops pseudotruncatella)、モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)、及びオレア・ユーロピア(Olea europaea)で構成される群から選択される植物からのものである。
【0062】
本発明による医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物の別の特定の実施形態、また、局所医薬組成物又は獣医学組成物の別の特定の実施形態では、式(I)のペプチドは、
CH3-C(O)-YIYT-NH2(配列番号6);
CH3-C(O)-YIYTQ-NH2(配列番号7);
Xaa1IYT(配列番号8)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa2T(配列番号9)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa1IXaa2T(配列番号14)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa1IXaa2TQ(配列番号15)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIYT(配列番号16);
CH3-C(O)-YIYTQ(配列番号17);
YIYT-NH2(配列番号18);
YIYTQ-NH2(配列番号19);
及びそれらの混合物
から特に選択される。
【0063】
本発明による医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物の更に特定の実施形態、また局所医薬組成物又は獣医学組成物の更に特定の実施形態では、式(I)のペプチド又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩と、ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される塩とを含み、鉄対銅の重量比は25:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比は30:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比は570:1~5800:1である。
【0064】
また、本発明のこの態様の別の特定の実施形態では、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、式(I)のペプチド又はその薬学的若しくは獣医学的に許容される塩、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、グリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、システイン、グルタミン酸、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、及び硫酸鉄、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む。更により特定の実施形態において、式(I)のペプチドは、
CH3-C(O)-YIYT-NH2(配列番号6);
CH3-C(O)-YIYTQ-NH2(配列番号7);
Xaa1IYT(配列番号8)(式中、Xaa1は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIXaa2T(配列番号9)(式中、Xaa2は、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
YIYT(配列番号12);
YIYTQ(配列番号13);
Xaa1IXaa2T(配列番号14)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
Xaa1IXaa2TQ(配列番号15)(式中、Xaa1及びXaa2は両方とも、側鎖ヒドロキシル基が-OSO3H基で置換されたチロシン残基である);
CH3-C(O)-YIYT(配列番号16);
CH3-C(O)-YIYTQ(配列番号17);
YIYT-NH2(配列番号18);
YIYTQ-NH2(配列番号19);
及びそれらの混合物
から選択される。より特定的なものは配列番号6である。
【0065】
本発明の式(I)のペプチドと鉄、銅、マグネシウム、及び亜鉛の塩、並びにビタミン及びアミノ酸を含む組成物(溶液)との組み合わせは、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)の増殖に関して相乗効果を有する。これは脱毛の治療において有用であるが、組織再生剤としても有用である。
【0066】
示されているように、本発明の一態様は、
(a)式(I)のペプチド配列又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩と、
(b)ビタミン、アミノ酸、及び/又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物と、
を含むキットである。
【0067】
このキットは、本発明の相乗的組み合わせをその場で調製することを可能にする。
【0068】
本発明はまた、ビタミン、アミノ酸、又はその薬学的、栄養補助的、若しくは獣医学的に許容される塩;鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される有機塩又は無機塩、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物に関し、鉄対銅の重量比は25:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比は30:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比は570:1~5800:1である。
【0069】
これらの組成物の特定の実施形態において、鉄対銅の重量比は700:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比は300:1~400:1であり、マグネシウム対銅の重量比は2300:1~5800:1である。
【0070】
以下のアッセイで示されるように、これらの組成物自体は、ヒト毛包乳頭細胞(HFDPC)、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)、及びヒト不死化ケラチノサイト(HaCat)の増殖を可能にする点で非常に有効である。この特徴は、皮膚の治療、特に皮膚の老化プロセス緩和のため、及び/又は皮膚の創傷治癒のための医薬品として、組成物を役立たせる。加えて、この組成物は、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患又は障害における哺乳動物の脱毛(特にヒトの脱毛)の予防及び/又は治療に使用するためのものである。この組成物は良好な皮膚再生修復剤でもある。従って、この組成物は化粧品組成物の成分として使用することができる。
【0071】
塩からの全ての鉄、銅、亜鉛、及びマグネシウムの特定の重量比は、Fe/Cu/Zn/Mg:868/1/307/2326-5730及び868/1/307/5730として示されている。
【0072】
特定の実施形態では、本発明の医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、ビタミンC、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB5、ビタミンB6、ビタミンB8、ビタミンB9、グリシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、システイン、グルタミン酸、硫酸亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、及び硫酸鉄、並びに薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体を含む。
【0073】
別の特定の実施形態において、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物は、タンパク質加水分解物、チアミン、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキシン、ビオチン、葉酸、リボフラビン、アスコルビン酸、クエン酸、ミオイノシトール、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸二水素カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、及びエチレンジアミン四酢酸鉄キレートを含む。より特定的にはカゼイン加水分解物を含む。
【0074】
これらの組成物並びに式(I)のペプチドは、哺乳動物線維芽細胞及び哺乳動物真皮乳頭細胞の増殖誘導剤である。従って、本発明は、脱毛を引き起こす疾患における脱毛の予防及び/又は治療に使用するための、式(I)のペプチド及び上記に規定した医薬組成物、栄養補助組成物、若しくは獣医学組成物又はその混合物から選択される増殖誘導剤である。
【0075】
本発明はまた、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療に使用するための、脱分化した植物細胞懸濁培地の成長を先にサポートした無細胞上清、又は無細胞上清の画分に関し、無細胞上清又は画分は4~300アミノ酸長のペプチドを含み、このペプチドは、ペプチド植物成長因子、植物転写因子、植物エピジェネティック因子、及びそれらの混合物から選択され、無細胞上清又は画分は、細胞溶解及び膜及び/又は細胞壁からの細胞質細胞内容物を有さない。
【0076】
細胞の細胞質の内部内容物を有さず、細胞膜及び/又は細胞壁を有さないこれらの上清を、ここでは馴化栄養培地又は馴化培地又は馴化細胞培地と呼ぶ。従って、本発明の無細胞上清は、脱分化した植物細胞が成長し、消費されなかった培養培地中に最初に存在する化合物の量だけでなく、脱分化した植物細胞が培地に放出した他の化合物も含む。従って、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患における哺乳動物の脱毛、より具体的にはヒトの脱毛の予防及び/又は治療のための、脱分化した細胞を含まないこれらの馴化培地の使用、あるいはこれらのペプチド植物成長因子及び/又は転写因子及び/又はエピジェネティック因子を含むその画分の使用が提案されている。
【0077】
植物成長因子、植物エピジェネティック因子、又は植物転写因子である4~300アミノ酸長のペプチドを含む無細胞上清の画分は、4~300アミノ酸長のペプチドを含む「単離された」組成物(又は単離された画分)として規定することもでき、脱分化した植物細胞懸濁培地の成長を先にサポートした無細胞上清から得ることができる。特に、そのような組成物の単離は、少なくともタンパク質分離プロセスによってペプチド植物成長因子を含む上清から液体を分離又は回収することを含み、このプロセスは、少なくとも1つのクロマトグラフィー(固相抽出(SPE)、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及びそれらのカスケードにおける組み合わせから選択される)、濾過(特に接線流濾過(TFF)による)、タンパク質沈殿、及びそれらの組み合わせを含む。このようにして得られたペプチド植物成長因子及び/又は植物転写因子を含むこれらの組成物は、特に、皮膚の動物細胞の修復及び/又は再生剤として使用するため、並びに上に開示したように、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患において哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療に使用するためのものである。
【0078】
特定の実施形態では、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患において哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療に使用するための、4~300アミノ酸長のペプチドを含む脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清又はその画分は、ダウクス・カロタ(Daucus carota)、クルクマ・ロンガ(Curcuma longa)、センテラ・アジアチカ(Centella asiatica)、サルコカポノス・クラッシフォリア(Sarcocapnos crassifolia)、ヴィティス・ヴィニフェラ(Vitis vinifera)、リトープス・シュードトランカテラ(Lithops pseudotruncatella)、モリンダ・シトリフォリア(Morinda citrifolia)およびオレア・ユーロピア(Olea europaea)で構成される群の植物から選択される。
【0079】
より特定的には、哺乳動物の脱毛を引き起こす疾患において哺乳動物の脱毛の予防及び/又は治療に使用するための、4~300アミノ酸長のペプチドを含む脱分化した植物細胞培養懸濁液の無細胞上清又はその画分は、クルクマ・ロンガのものである。
【0080】
別の特定の実施形態では、これらの無細胞上清又はその単離された画分は、ペプチドカクテルを含み、このカクテルは、フィトスルホカイン-α(PSK-α)、フィトスルホカイン-β(PSK-β)、植物ペプチド含有硫酸化チロシン-1(PSY1)、急速アルカリ化因子(RALF)、管状要素分化抑制因子(TDIF)、クラバータ3(CLV3)、クラバータ胚周辺領域関連(CLE)、タペート決定因子-1(TPD1)、表皮パターニング因子-1(EPF1)、Inflorescence Deficient in Abscission(IDA)、胚周辺領域関連(ESR)、Polarisペプチド(PLS)、根分裂組織成長因子(RGF)、卵細胞分泌タンパク質(EC1)、C末端コード化ペプチド(CEP)、早期Nodulin40(ENOD40)、システミン、S座システインリッチタンパク質(SCR)、及びそれらの混合物、即ち、これら全ての組み合わせ、2種、3種、4種のみの組み合わせ、あるいは3種~列挙したペプチドの全てを含む組み合わせで構成される群から選択されるペプチド植物成長因子を少なくとも含む。
【0081】
無細胞上清又はその単離された画分は、特定の配列番号14及び配列番号15の式(I)のペプチドを含む。従って、それらはまた、本発明の脱毛治療用ペプチドにおける活性源でもある。
【0082】
脱分化した植物細胞懸濁培地の増殖を先にサポートした無細胞上清又は無細胞上清の画分の特定の実施形態には、ペプチド植物成長因子以外のペプチドも存在する。これらのペプチドは、特にペプチド植物転写因子であり、創傷誘発性脱分化(WIND)、Wuschel(WUS)、Teosinte Branched1/Cycloidea/Proliferating Cell Factor(TCP)、及び根分裂組織維持のための転写因子(PLETHORA)、並びにそれらの混合物等を含む。これらの転写因子は、シュートメリステム形成、幹細胞維持、及び体細胞分化を調節する。
【0083】
無細胞上清又は無細胞上清の画分には、エピジェネティック因子として通常知られている痕跡量の他の化合物も含まれ、これは培養中のいくつかの細胞の残留物崩壊に起因し(上記のように)、最小限に抑えられているが培養培地内の核及び細胞質の内容物を送達する。これらの植物エピジェネティック因子の例は、クロモメチラーゼ(CMT)、ドメイン再編成メチルトランスフェラーゼ(DRM)、メチルトランスフェラーゼ(MET)、及びNAメチル化プロセスに関与するいくつかのオーキシン、CHPファミリーのクロマチンリモデリング因子PICKLE(CHDタンパク質の名前は配列類似性の3つのドメインの存在に由来する:Chromatin organization modifier domain(クロモドメイン)、SWI2/SNF2 ATPアーゼ/ヘリカーゼドメイン、及びDNA結合ドメインと配列類似性を有するモチーフ)、クロマチンの脱凝縮及び再構築に関与するクロマチンリモデリング因子DDM1(DNAメチル化-1の減少から)、ヒストンのリモデリングに関与するヒストンH3メチルトランスフェラーゼクリプトナイト(KYP)、小型RNA分子、これら全てのタンパク質及び化合物の混合物で構成される群から選択される。エピジェネティック因子は、遺伝子の発現又はサイレンシングを制御するDNAのための細胞中の標識を制御する、特にペプチド性の生体分子として理解されるべきである。
【0084】
明細書及び特許請求の範囲を通じて、「含む(comprise)」という語及びその変形語は、他の技術的特徴、添加物、構成要素、又はステップを排除することを意図しない。更に、「含む」という語は、「からなる」の場合を包含する。本発明の更なる目的、利点、及び特徴は、説明を検討することにより当業者に明らかになるか、あるいは本発明の実施によって習得され得るであろう。以下の実施例は例示のために提供され、本発明を限定するものではない。更に、本発明は、本明細書に記載された特定の及び好ましい実施形態の全ての可能な組み合わせを包含する。
【実施例】
【0085】
実施例1-式(I)のペプチドの調製
【0086】
アッセイしたペプチド配列は、Rinkアミド樹脂上でFmocベースの保護スキームを使用する固相法によって組み立てた。Tyr(Y)残基の側鎖はt-ブチル基で保護した。N末端のフルオレニルメチルオキシカルボニルクロライド(Fmoc)基の脱保護は、ジメチルホルムアミド(DMF)中20%ピペリジンを用いて5分間行った。合成はPrelude自動合成機(Protein Technologies社、Tucson、AZ、USA)で行った。鎖の組み立て後、ペプチド-樹脂を90%トリフルオロ酢酸-5%トリイソプロピルシラン-5%水で1時間処理し、対応する濾液を3倍量の冷エチルエーテルで処理してペプチドを沈殿させた。遠心分離後、上清を慎重に除去し、ペレット(ペプチドを含む)を水性(5%v/v)酢酸に再溶解し、凍結乾燥した。粗生成物の精製は、水/アセトニトリル勾配(共に0.05%トリフルオロ酢酸を含む)を用いる分取逆相HPLCによって行った。精製されたペプチドはHPLCにより均一(>95%)であり、エレクトロスプレー質量分析法により予想される分子量を有していた。
【0087】
この方法を用いて、CH3-C(O)-YIYT-NH2(配列番号6)、CH3-C(O)-YIYTQ-NH2(配列番号7)、YIYT(配列番号12)、YIYTQ(配列番号13)、CH3-C(O)-YIYT(配列番号16)、CH3-C(O)-YIYTQ(配列番号17)、YIYT-NH2(配列番号18)、及びYIYTQ-NH2(配列番号19)の配列を得て、次のアッセイで説明するようにアッセイした。
【0088】
インビボアッセイ(下記参照)のために、塩、ビタミン、及びアミノ酸を含有する緩衝溶液にアセチルテトラペプチド(配列番号6)を溶解した(0.025%w/w)。この緩衝溶液は、
-500ml/Lの2X強化溶液であって、
(a)100X溶液30ml/L(ここで100X強化溶液は、ZnSO4.5H2O(860mg/L)、100μlのCuSO4.5H2O溶液(Fe溶液1リットルあたり25gのCuSO4.5H2O)、MgSO4.5H2O(18054mg/L)、ビタミンC(5000mg/L)、ビタミンB1(チアミン、50mg/L)ビタミンB3(ナイアシン50mg/L)、ビタミンB5(D-パントテン酸カルシウム50mg/L)、ビタミンB6(ピリドキシン50mg/L)、グリシン(2000mg/L)、メチオニン(3000mg/L)、フェニルアラニン(1500mg/L)、プロリン(3000mg/L)、システイン(3000mg/L)、グルタミン酸(750mg/L)、適量のFeSO4.7H2O溶液(Na2EDTA.2H2O(4.46g/L))、FeSO4.7H2O(3.503g/L)をmiliQ水中に含む];
(b)ビタミンストック溶液5x、400ml/L[ここでビタミンスティック溶液5xは、ビタミンB2(リボフラビン2.5mg/L)、ビオチン2.5mg/L、ビタミンB9(葉酸2.5mg/L)をmiliQ水中に含む];
(c)アミノ酸ストック溶液20X、100ml/L[ここで20Xは、グルタミン酸(450mg/L)、L-フェニララニン(300mg/L)をmiliQ水中に含む];
(d)防腐剤1%、10ml/L;
(e)1LのmiliQ水
から調整した溶液、及び
-500ml/LのpH6.8の2倍のリン酸緩衝食塩水(PBS)
であった。
【0089】
毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)、又は不死化表皮ケラチノサイト(HaCat)に対するインビトロアッセイのために、合成ペプチド(配列番号6、配列番号7、配列番号12、配列番号13、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び配列番号19)を培養培地に溶解した。HFDPCは、単一ドナーの側頭部頭皮由来の正常ヒト毛包からのものであり、54歳白人男性のものを用いた(CELL APPLICATIONS社のRef.602-05a.Lot.2092)。HDFは、若いドナー(0~3歳)の手術からの余剰物である包皮試料から得て、増殖細胞の外植体及び酵素解離の標準的な方法を用いて確立した。不死化ヒトケラチノサイト(HaCat)は、成人ヒト皮膚由来の異数性不死ケラチノサイト細胞株から得た。
【0090】
実施例2-クルクマ・ロンガの無細胞上清及びそれらを含むインビボアッセイ用製剤の調製
【0091】
Cロンガ馴化培地
【0092】
水及び/又はグリセロール(1:1)と混合されたクルクマ・ロンガ細胞懸濁液の細胞外培地で構成された。
【0093】
無細胞クルクマ・ロンガ細胞懸濁液を得るためのプロセスは以下によって実施した。
1°ブリックスの等容量(1:1)のクルクマ・ロンガ細胞培養液の細胞外培地を、ミネラル(無機塩)、ビタミン、及びアミノ酸を含む強化溶液と混合した。ブリックス度は、試料中に溶解した乾燥固体の量を測定する。この固形物は糖、塩等であり得、培養物中の細胞成長を決定する方法である。両方の成分(クルクマ・ロンガの細胞外培地及び強化溶液)を別々に調製し、次いで以下のように混合した。
-クルクマ・ロンガ細胞を、細胞懸濁液としてSunB培地中で上清が1°ブリックスになるまで培養した。
-0.80μmモノフィラメント・ポリエステルフィルタを用いて、懸濁液を濾過した。
-濾過により回収した細胞外培地に防腐剤として1%Geogard Ultraを加えた。
-防腐剤を適切に組み込むために磁気攪拌が必要であった。
-馴化培地のための等容量の強化溶液(上記のように2X)を細胞外培地に加えた。
【0094】
アッセイ1:毛包真皮乳頭細胞(HFDPC)のヒト線維芽細胞のインビトロ増殖
【0095】
無細胞上清及び本発明のペプチドの効果を試験するために、ヒト毛包乳頭細胞上で増殖アッセイを実施した(CELL APPLICATION社、側頭部頭皮由来の正常ヒト毛包、単一ドナー、54歳白人、Ref.602-05a.Lot.2092)。
【0096】
次の表1は、
図1の試験物質及び対照を示す。
【表1】
【0097】
次の表2は、
図2及び
図3のペプチドの評価濃度を示す:
【表2】
【0098】
培養培地は、成長補充キット(相対組成:ウシ胎児血清、成長因子、及び抗生物質。適用:6%v/v)を補充した乳頭細胞基礎培地であった。
【0099】
無細胞上清(Pre-pre-LyoP3とも呼ばれる)は、特に次のようにして得た。
【0100】
試験した種の細胞懸濁培養物は、200mlで成長させた細胞懸濁液の接種物から得た。接種物(培養物の総体積に対して1/5の接種物)を、20-30g/L(例えば30g)のスクロース及びホルモンを補充したMurashige&Skoog(MS)液体培地800mlを含む2000mlフラスコに接種し、25℃の暗所で100rpmの回転式振盪機内に配置した。細胞培養物を12日間成長させ、4600rpmで30分間の遠心分離によって清澄化し(即ち、溶解を避けて細胞を除去した)、馴化培地を得、これを更に研究した。馴化培地をより良く浄化するために、得られた生成物にTFF(接線流濾過)を行った。このプロセスには、フラックス工程、平衡化、濾過、ダイアフィルトレーション、及び最終的な衛生化工程が含まれていた。このプロセスの間に、2.5リットルのPBS、2.5リットルの20%エタノール及びNaOh 1Nを使用した。TFFの後、懸濁液中で成長する間に植物細胞によって分泌された化合物を回収する目的で、逆相精製(RP)を行った(オリゴ精製)。精製は9つの工程を含み、5カラム体積(CV)の水トリフルオロ酢酸(TFA)0.1%を加え、5CVのCAN TFA 0 1%を加え、5CVの水TFA0.1%を添加し、0.1%を達成するようにTFAを加えた。次いで、試料を負荷し、収集し、1CVの水TFA0.1%で洗浄した。TFA0.1%を用いて、溶出物を25-50-5-100%CANに分画した。生成物を蒸発させ、RP Aに再懸濁した。この精製の終わりに、馴化前培地2(プレ無細胞上清)が得られた。この馴化前培地2を、CEX(陽イオン交換クロマトグラフィー)及びAEX(Emphazeハイブリッド精製器)を用いて精製した。プロセスは16の工程を含み、5CV CEX A(酢酸ナトリウム50mM、pH4.5)、5CV CEX B(酢酸ナトリウム50mM NaCl 1M、pH4.5)、及び5CV CEX Aを加え、1:5の希釈及びCEX Aを用いたpH4.5への調整も行い、試料を負荷し、試料を回収し、1CVのCEX Aで洗浄し、CEX Bを用いて125mM-250mM-500mM-1Mで分画溶出を行った。5CVのAEX A(グリシン50mM、pH9)、5CVのAEX B(グリシン50mM NaCl 1M、pH9)、及び5CVのAEX Aが溶出した。AEX A中の1:5希釈及びpH9への調整、並びに試料の負荷、試料の回収、1CVのAEX Aを用いて洗浄を行い、AEX Bを用いて125mM-250mM-500mM-1Mで分画溶出を行った。最終的な無細胞懸濁液(Pre pre-LyoP3と命名)を得た。次いで、これを凍結乾燥し、所望の濃度で使用するために再懸濁した。
【0101】
材料
【0102】
RP A:水TFA0.1%
RP B:CAN TFA0.1%
CEX A:酢酸ナトリウム50mM、pH4.5
CEX B:酢酸ナトリウム50mM、pH4.5
AEX A:グリシン50mM、pH9
AEX B:グリシン50mM NaCl 1M、pH9
【0103】
アッセイしたペプチドは、実施例1のように合成したペプチドであった。
【0104】
HFDPCの増殖を評価して、増殖指数(%)を決定した。ブロモデオキシウリジン(BrdU)を処理細胞のDNAに取り込ませることによって、細胞DNA複製を定量化した。BrdUアッセイは、細胞周期のS期の間にBrdUを取り込む細胞能力に基づいて細胞増殖を測定することを可能にする。分裂している細胞はBrdUを取り込み、それを抗体及び免疫細胞化学的検出によって更に検出した。
【0105】
細胞を96ウェルプレート中でコンフルエントに播種した。細胞培養の安定化及び同期化の後、試験生成物を(実施例の表1に示す最終濃度で)添加した。その後、BrdUを培養液に添加し、BrdUを完全に取り込むまでHFDPCを37℃でインキュベートした。BrdUの量は細胞分裂の数に比例し、従って、処理された培養物の成長に比例した。
【0106】
データは
図1、
図2、及び
図3に示されており、増殖指数を100%とする基礎対照(非処理HFDPC)に対する成長割合として計算したHFDPCの増殖指数(%)が示されている。
【0107】
図1に見られるように、本発明の無細胞上清は、培地で培養した非処理細胞を参照又は基礎対照として細胞増殖を促進した。いくつかの種については、30kDa以下の分子量を有するペプチド(4~300アミノ酸長)を含む無細胞上清は、陽性対照と比較しても増殖指数がはるかに高かった。そうでなければ、増殖指数は陽性対照と同程度であった。更に、配列番号6の試験したペプチドが最良の結果を示した。従って、本発明で定義されるペプチドが哺乳動物(特にヒト)の脱毛の治療に有用であることが確認される。
【0108】
図2及び
図3の両方で観察され得るように、ペプチド4Aa及び5Aaは、修飾がその末端に存在するか(カラム2-4)又はそうでないか(カラム1)とは無関係に、細胞増殖を促進することができる。
【0109】
アッセイした無細胞上清中の活性ペプチドの存在を測定するために、ダウクス・カロタ、クルクマ・ロンガ、及びセンテラ・アジアチカの無細胞上清(アッセイ1に示すように調製)、並びに配列番号6のペプチドにHPLCクロマトグラフィーを実施した。HPLCは以下のように実施した。
【0110】
センテラ・アジアチカ、ダウクス・カロタ、及びクルクマ・ロンガの凍結乾燥細胞培養物の粉末を2mLの水(0.1%NaOH 1M)に再懸濁し、ボルテックスし、10000rcfで5分間遠心分離した。その後、上清を0.45セルロースフィルタで濾過し、HPLCに注入した。HPLCシステムは、Waters1795クロマトグラフ、Waters Spherisorb(登録商標)5μM OLDS24.6μM×250mmカラム及びDAD検出器Waters2996で構成された。移動相は、勾配(t(分)、%B):(0,0)、(4,0)、(19,100)、(23,0)、(25,0)において、水+TFA0.045%(A)及びアセトニトリル+TFA0.036%(B)で構成された。注入量は20μLであり、流速は1mL/分であり、波長は220nmに設定した。ペプチドの保持時間は12.2分であった。
【0111】
溶出12.0~12.5分から(特に12.165分で)、ダウクス・カロタ試料はペプチドクロマトグラムのようにピークを示した。これらのデータを
図4に示す。ダウクス・カロタに検出されたPSK-βに由来するペプチドの天然の供給源により、ペプチド配列は配列番号14のものであった。
【0112】
データは示されていないが、クルクマ・ロンガ及びセンテラ・アジアチカの無細胞上清のSDS PAGEゲルは、センテラ・アジアチカについて100KDa、約37KDa、約20KDa、15KDa未満、及び2KDaのタンパク質バンドを示した。クルクマ・ロンガについては、100KDa、約25KDa、及び15KDa未満のバンドも観察された。15kDa未満、特に2kDaのバンドにおけるバンドaは、その硫酸化又は非硫酸化のいずれかの選択肢において、式(I)のペプチドを含む。
【0113】
セクレトーム(表1の試験物質で行ったHFDPC培養液から回収することができる上清)を解析して、動物細胞成長因子の存在及び量、並びに真皮乳頭での発毛に関連するマイクロRNAの存在および量を検出した。データは示されていないが、表1の化合物で処理後24時間及び48時間に測定されたインスリン成長因子1(IGF-1)の量は、無処理HFDPCよりも多く、ミノキシジル処理細胞に匹敵するか又はそれ以上であった。これらのより高いレベルは、HFDPCが配列番号6のペプチドで処理された場合に有意義であった。線維芽細胞増殖因子7(FGF-7)の量を分析すると、同様の結果(24時間及び48時間)が観察された。両方の成長因子は、発毛の促進に関連する。
【0114】
これらのHFDPCのセクレトームから、マイクロRNAのmiRNA-31及びmiRNA-22の量も検出した(
図5)。配列番号6のペプチド及びクルクマ・ロンガ(CL)の無細胞上清は、対照と比較してmiRNA-31の発現指数の増加を示した(
図5(C)は3種類の異なる濃度のペプチド、
図5(A)は2種類の異なる濃度のクルクマ・ロンガ無細胞上清を示す)。更に、2種類の異なる濃度のクルクマ・ロンガの無細胞上清は、対照と比較してmiRNA-22の発現指数の減少も示した(
図5(B))。miRNA-31は発毛の促進に関連し、miRNA-22は脱毛の促進(毛再生のための毛脱落)に関連する。
【0115】
アッセイ2:ヒト真皮線維芽細胞(HDF)のインビトロ増殖
【0116】
更なる設定において本発明のペプチドの効果を更に試験するために、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)上で増殖アッセイを行った。
【0117】
細胞モデル:
【0118】
正常ヒト真皮線維芽細胞(HDF)は、若いドナー(0~3歳)の手術からの余剰物である包皮試料から得て、増殖細胞の外植体及び酵素解離の標準的な方法を用いて確立した。10%ウシ胎児血清(FBS、PAA)を添加したダルベッコの1g/Lグルコース培地、2mMのL-グルタミン(Lonza)、及び抗生物質(100μg/mlペニシリン及び100U/mlストレプトマイシン、Lonza)を含む増殖培地(GM)中で細胞を繁殖させ、成長させた。初代培養物のルーチンの継代培養及び繁殖のために、細胞をPBS(リン酸塩リン酸塩緩衝生理食塩水、pH7.4)で2回洗浄し、トリプシン-EDTA(Gibco)で収穫し、Neubauerチャンバーで計数した後、新しい細胞培養フラスコ(Falcon、75cm2)に接種した。
【0119】
アッセイしたペプチドは、実施例1のように合成したペプチドであった。
【0120】
試験生成物は、各適用の直前に管理培地(1%ウシ胎児血清(FBS、PAA)、2mMのL-グルタミン(Lonza)、及び抗生物質(100μgのペニシリンおよび100U/mlのストレプトマイシン、Lonza)を補充したダルベッコの1g/Lグルコース培地)内で希釈することによって規定した最終濃度に調製した。
【0121】
次の表3は、式(I)の各ペプチドについて、
図6及び
図7の評価濃度を示す。
【表3】
【0122】
図6において、第1のカラムは、両端が遊離している4Aaペプチド(配列番号12)に相当し、第2のカラムは、N末端がアセチル化しC末端が遊離している4Aaペプチド(配列番号16)に相当し、第3のカラムは、N末端が遊離しC末端がアミド化している4Aaペプチド(配列番号18)に相当し、第4のカラムは、N末端がアセチル化しC末端がアミド化している4Aaペプチド(配列番号6)に相当する。
【0123】
図7において、第1のカラムは、両端が遊離している5Aaペプチド(配列番号13)に相当し、第2のカラムは、N末端がアセチル化しC末端が遊離している5Aaペプチド(配列番号17)に相当し、第3のカラムは、N末端が遊離しC末端がアミド化している5Aaペプチド(配列番号19)に相当し、第4のカラムは、N末端がアセチル化しC末端がアミド化している5Aaペプチド(配列番号7)に相当する。
【0124】
HFD増殖を評価して、増殖指数(%)を決定した。ブロモデオキシウリジン(BrdU)を処理細胞のDNAに取り込ませることによって、細胞DNA複製を定量化した。BrdUアッセイは、細胞周期のS期の間にBrdUを取り込む細胞能力に基づいて細胞増殖を測定することを可能にする。分裂している細胞はBrdUを取り込み、それを抗体及び免疫細胞化学的検出によって更に検出した。
【0125】
細胞を96ウェルプレート中でコンフルエントに播種した。細胞培養物の安定化及び同期化の後、試験生成物を加えた。その後、培養物にBrdUを加え、BrdUを完全に取り込むまでHFDを37℃でインキュベートした。BrdUの量は細胞分裂の数に比例し、従って、処理された培養物の成長に比例した。
【0126】
データは
図6及び
図7に示されており、増殖指数を100%とする基礎対照(非処理HDF)に対する成長割合として計算したHDFの増殖指数(%)が示されている。
【0127】
HFDPCで実施した実験で観察されたように、
図6及び
図7は、修飾がその末端に存在するか(カラム2~4)又はそうでないか(カラム1)とは無関係に、4Aa及び5Aaペプチドの両方がHDFの細胞増殖を促進し得ることを示している。4Aaペプチドの場合、
図6は、少なくとも1つの修飾の存在が細胞の増殖促進活性を更に増加させることを示す。
【0128】
アッセイ3.式(I)のペプチド及びクルクマ・ロンガの無細胞上清のインビボ試験
【0129】
実施例2に示すように調製したクルクマ・ロンガ無細胞上清及び実施例1に開示したPBS緩衝化強化溶液2X中の配列番号6のペプチドを、脱毛の問題を有する男性及び女性(n=60、18~60歳)で試験した。アッセイの3ヶ月前に毛管治療を受けたボランティア、頭皮の皮膚病変(乾癬、皮膚炎等)及び配合物中の化合物に対するアレルギーを有するボランティアは除外した。
【0130】
試験化合物を毎日適用した。
【0131】
時間0(T0)において頭皮画像(前頭部及び後頭部)を撮影し、トリコグラムで毛相サイクル(休止期又は成長期)を決定し、櫛通り試験(毛をすく間に抜けた毛の数)を行い、「Trichoscan」(登録商標)を用いて毛管密度のマイクロ写真を撮影した。
【0132】
t=45日及びt=90日において櫛通り試験及び密度試験(「Trichoscan」(登録商標))を行った。
【0133】
t=150日はt=0と同様に行った。
【0134】
ボランティアは3群に分けた。群1には実施例1に開示したPBS緩衝化強化溶液2X中の配列番号6を与え、群2には実施例2に示すように調製したクルクマ・ロンガ無細胞上清を与え、群3はプラシーボであった。
【0135】
毛管密度についてのデータを次の表2に示す。この表は、t=0及びt=90で各ボランティアの0.25cm2内の毛の数を評価した後に決定した毛管密度増加の平均値及びt=0値に対する増加を含む。
【0136】
【0137】
表5は、群1のボランティアの毛密度及び毛密度増加のより詳細な結果を示す。
【表5】
【0138】
(*):最小値と最大値(値の平均を決定する際に考慮されない)
【0139】
表6は、群2のボランティアにおける毛密度及び毛密度増加のより詳細な結果を示す。
【表6】
【0140】
(*):最小値と最大値(値の平均を決定する際に考慮されない)
【0141】
頭皮画像(前頭部及び後頭部)並びに「Trichoscan」(登録商標)を用いたマイクロ写真による毛管密度を1群のボランティア(
図8)及び2群のボランティア(
図9)について示す。図(A)及び図(B)は、後頭部および前頭部の写真をそれぞれ示す。図(C)は「Trichoscan」(登録商標)の画像を示す。
【0142】
毛密度に関する全てのアッセイから、19.27%(群1)の毛密度増加により、毛の総数において14000本以下の新たな毛が出現したと結論付けることができた。同じように、17.34%の毛密度増加(群2)により、毛の総数において13500本以下の新たな毛が出現した。
【0143】
次の表7は、櫛通り試験の結果を示す。特に、この表には、櫛通り試験(毛をすく間に抜けた毛の数)で決定した平均値が含まれている。脱毛の減少率は、t=0、t=45、及びt=90での櫛通り試験結果から、t=0の値をt=45及びt=90の値と対比して計算される。
【0144】
【0145】
表8は、群1のボランティアにおける脱毛のより詳細な結果を示す。
【表8】
【0146】
(*):最小値と最大値(値の平均を決定する際に考慮されない)
【0147】
表9は、群2のボランティアにおける脱毛のより詳細な結果を示す。
【表9】
【0148】
(*):最小値と最大値(値の平均を決定する際に考慮されない)
【0149】
表7~表9から導かれるように、配列番号6のペプチド又はクルクマ・ロンガ馴化培地をボランティアに適用した場合、脱毛%の有意な減少が観察された。T45、T90、及びT150の結果をt=0(T0)と比較すると、脱毛減少の割合は、T45で既に価値があり、ペプチドについては時間と共に増加し、クルクマ・ロンガについてはT45後に維持された。
【0150】
アッセイ4:強化溶液の効果を試験するためのインビボ増殖アッセイ
【0151】
強化溶液単独の効果を試験するために、ヒト毛包乳頭細胞(HFDPC)、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)、及びヒト不死化ケラチノサイト(HaCat)上で増殖アッセイを行った。
【0152】
この強化溶液は、緩衝溶液、栄養溶液とも呼び、あるいは一般的に、ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される塩と、薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体とを含む、医薬組成物、栄養補助組成物、又は獣医学組成物とも呼ぶ。
【0153】
従って、アッセイした緩衝溶液の1つは、
-500ml/Lの2X強化溶液であって、
(a)100X溶液30ml/L(ここで100X強化溶液は、ZnSO4.5H2O(860mg/L)、100μlのCuSO4.5H2O溶液(Fe溶液1リットルあたり25gのCuSO4.5H2O)、MgSO4.5H2O(18054mg/L)、ビタミンC(5000mg/L)、ビタミンB1(チアミン、50mg/L)ビタミンB3(ナイアシン50mg/L)、ビタミンB5(D-パントテン酸カルシウム50mg/L)、ビタミンB6(ピリドキシン50mg/L)、グリシン(2000mg/L)、メチオニン(3000mg/L)、フェニルアラニン(1500mg/L)、プロリン(3000mg/L)、システイン(3000mg/L)、グルタミン酸(750mg/L)、適量のFeSO4.7H2O溶液(Na2EDTA.2H2O(4.46g/L))、FeSO4.7H2O(3.503g/L)をmiliQ水中に含む];
(b)ビタミンストック溶液5x、400ml/L[ここでビタミンスティック溶液5xは、ビタミンB2(リボフラビン2.5mg/L)、ビオチン2.5mg/L、ビタミンB9(葉酸2.5mg/L)をmiliQ水中に含む];
(c)アミノ酸ストック溶液20X、100ml/L[ここで20Xは、グルタミン酸(450mg/L)、L-フェニララニン(300mg/L)をmiliQ水中に含む];
(d)防腐剤1%、10ml/L;
(e)1LのmiliQ水
から調整した溶液、及び
-500ml/LのpH6.8の2倍のリン酸緩衝食塩水(PBS)
であった。
【0154】
HFDPC、HDF、及びアッセイの方法論は、アッセイ1及びアッセイ2に記載されている。ヒト不死化ケラチノサイト(HaCat)は、成人ヒト皮膚由来の異数性不死ケラチノサイト細胞株から得た。
【0155】
データは
図10、
図11、及び
図12に示し、HFDPC、HDF、及びケラチノサイトの相対的細胞生存率をそれぞれ示す。相対的細胞生存率は、細胞生存率の値を100%とする基礎対照(非処理細胞)に対する生存細胞のパーセンテージとして計算する。
【0156】
図10~
図12で観察されるように、本発明の強化溶液は、培地で培養した非処理細胞を参照又は基礎対照として、3つの異なる細胞型の増殖を促進する。
【0157】
ビタミンと、アミノ酸と、鉄、マグネシウム、銅、及び亜鉛の薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される塩と、薬学的、栄養補助的、又は獣医学的に許容される賦形剤及び/又は担体とを含む別の溶液を試験した。特に、タンパク質加水分解物(カゼイン加水分解物)、チアミン、ナイアシン、パントテン酸、ピリドキシン、ビオチン、葉酸、リボフラビン、アスコルビン酸、クエン酸、ミオイノシトール、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、リン酸カリウム、硫酸亜鉛、硫酸銅、及び鉄キレートを含む組成物を試験した。
【0158】
データは
図13~
図15に示し、HFDPC、HDF、及びケラチノサイトの相対的細胞生存率をそれぞれ示す。
【0159】
図13~
図15は、この代替溶液が、非処理細胞と比較して、試験した3つの異なる細胞型の増殖も促進することを示している。
【0160】
アッセイした両方の組成物は鉄、銅、亜鉛、及びマグネシウムの塩を含み、鉄:銅:亜鉛:マグネシウムの重量比は25:1:30:570から900:1:400:5800であった。これは、アッセイした両方の組成物が鉄、銅、亜鉛、及びマグネシウムの塩を含み、鉄対銅の重量比は25:1~900:1であり、亜鉛対銅の重量比は30:1~400:1であり、マグネシウム対銅の比は570:1~5800:1であったことを意味する。
【0161】
特に、鉄:銅:亜鉛:マグネシウムの重量比は、第1の溶液(
図10~
図12の溶液)では868:1:307:5730であり、上記の第2の溶液(
図13~
図15の溶液)では25:1:307:2856であった。この特定の例におけるこれらの重量比は、示された元素(Fe、Cu、Zn、及びMg)のmgに相当した。より詳細には、組成物中のmg/Lに相当する。
【0162】
アッセイ5:本発明の強化溶液(塩、ビタミン及びアミノ酸を含む)と組み合わせた式(I)のペプチドの効果を試験するためのインビトロ増殖アッセイ
【0163】
本発明のペプチドと、本発明の鉄、銅、マグネシウム、及び亜鉛の塩並びにビタミン及びアミノ酸を含む溶液との相乗効果があるかどうかを試験するために、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)上で増殖アッセイを行った。
【0164】
アッセイしたペプチド、強化溶液、及びHDFの培養物は、以前のアッセイで既に記載されている。
【0165】
次の表10は、試験物質及び対照を示す。
【表10】
【0166】
データは
図16に示し、増殖指数を100%とする基礎対照(非処理HDF)に対する成長割合として計算したHDFの増殖指数(%)を示す。
【0167】
図16は、4Aaペプチド又は強化溶液の両方が、単独で細胞増殖を促進し得ることを示す。更に、両方を組み合わせて使用すると、それらの単独使用と比較して、HDFの増殖を2倍以上増加させることが示されている。従って、本発明のペプチドと強化溶液の併用が、HDFの増殖に対する相乗効果を誘発することは明らかである。
【0168】
アッセイ6:創傷治癒アッセイ(参考例)
【0169】
これらのペプチドの硫酸化状態がその活性に及ぼす影響を試験するために、ヒト真皮線維芽細胞(HDF)上で実施された創傷治癒アッセイを参照例として提供する。この実施例の目的は、硫酸化ペプチドが非硫酸化ペプチドと同じ活性を有することを示すことである。
【0170】
次の表11は、試験生成物と対照の特徴を示す。
【0171】
【0172】
ヒト真皮線維芽細胞を24ウェルプレートに播種し、コンフルエントになるまで成長させた。2mm幅のスクラッチを培養単層上で行った。次に培養培地中の試験生成物を加え、瘢痕形成プロセスの後に位相差顕微鏡法を用いた。この目的で、スクラッチ前の試験初期(T=0時間)及び処理後(12時間及び72時間)に写真を撮影した。瘢痕形成プロセスは、各時点における創傷面積の減少を定量化することによって評価した。
【0173】
試験終了時のデータ(5日間の処理)を
図17に示し、ここで創傷治癒潜在能はアッセイしたペプチドの治癒面積(μm
2)として示されている。
【0174】
結果は3回の試験に由来する。瘢痕領域の値(又は瘢痕化の%)は平均値である。
【0175】
この
図17から、試験した全てのペプチドが基礎対照よりも有効であり、陽性対照又はそれ以上の効果を提供することが直接的に推測される。このデータは、ペプチドが実際の創傷治癒促進剤であることを確認することを可能にする。
【0176】
更に、
図17は、4AaS1及び4AaS2硫酸化ペプチドが4Aa非硫酸化ペプチドと同じ活性を有するため、4Aaの活性がその硫酸化状態とは無関係であることを明らかにしている。
【0177】
本願で引用された参照文献
US4139619
US4596812
US6281241
WO2007113851
WO2006087759
Pumthong et al. “Curcuma aeruginosa, a novel botanically derived 5α-reductase inhibitor in the treatment of male-pattern baldness: a multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled study”, Journal of Dermatological Treatment. -2012; vol. no. 23, pp.: 385-392
Matsubayashi et al., “Phytosulfokine, sulphated peptides that induce the proliferation of single mesophyll cells of Asparagus officinalis L.”, Proc. Natl. Acad. Sci.-1996, vol. no. 93, pp.: 7623-7627.
【配列表】