(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/14 20060101AFI20220808BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
E04B1/14
E04B1/58 600F
(21)【出願番号】P 2018145715
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】今津 裕子
(72)【発明者】
【氏名】藤山 淳司
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-000002(JP,U)
【文献】特開2016-205054(JP,A)
【文献】特開昭63-297641(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/14
E04B 1/58
E04H 9/00 - 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨鉄筋コンクリート造の
一対の壁柱と、
一対の前記壁柱
同士の間に架設された鉄骨内部梁とを
備える壁柱梁架構が、複数組み合わせて構成される、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造であって、
前記壁柱は、鉄骨鉛直材が配置された鉛直柱型リブと、縦筋、及び横筋が配筋された壁部とで構成されており、
前記壁部の壁厚さは、前記鉛直柱型リブの柱奥行き寸法より薄肉であり、
複数の前記壁柱梁架構の各々においては、対向
して設けられる一対の前記壁柱の前記鉄骨鉛直材間に前記鉄骨内部梁が連結され
、
複数の前記壁柱梁架構が
、各々の前記壁柱が外壁部に沿った鉛直面内で水平方向
に並ぶように配置され、水平方向に互いに隣り合う前記壁柱の前記壁部同士が接合されることを特徴とする鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造。
【請求項2】
複数の前記壁柱梁架構は、鉛直方向においても、各々の前記壁柱が前記鉛直面内で並ぶように配置され、
前記壁柱の下端部には切り欠き部が形成され、前記鉄骨鉛直材の下端部は前記切り欠き部内に突出し、
互いに上下に位置する前記壁柱同士においては、各々の前記鉄骨鉛直材が、上方の前記壁柱に形成された切り欠き部内で接合されて、当該切り欠き部に充填剤が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造。
【請求項3】
前記横筋の少なくとも一部は、前記鉄骨鉛直材を形成するウェブを貫通して、当該鉄骨鉛直材を挟んだ他方側の前記壁部内に定着されていることを特徴とする請求項1または2に記載の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱の機能を有する壁柱を備えた鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の構造の一つとして、建物の外周部に設けられた鉄骨鉄筋コンクリート(以後、SRCと呼ぶ)造の壁柱と、建物の内周部に設けられ、端部が壁柱に接合された鉄骨梁と、を備えるものがある。このように、強固な壁柱を建物の外周部に設けることで、建物内に配置する柱を減らし、建物内の居室空間を広く確保することが可能となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、建物の外壁面の位置に配置した外周柱と、隣接配置した外周柱の間に架設した外周梁と、建物内を横断して相対向する外周柱の間に架設した内部梁とを備える構成が開示されている。この構成において、外周柱は、芯鉄骨の周囲に鉄筋コンクリートからなる壁状の被覆コンクリートを一体に形成してなる鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱としている。
また、特許文献2には、鉄骨柱、鉄骨柱の周囲に配筋された鉄筋、及び鉄骨柱及び各鉄筋を覆う被覆コンクリートを有するプレキャスト部材からなる外周柱と、外周柱から建物内部方向に向けて架設される鉄骨造の内部梁と、を備える構成が開示されている。
特許文献3には、断面略長方形の扁平な壁柱と、壁柱に接合される鉄骨梁とを備え、壁柱は複数に分割された柱部材からなり、各柱部材が、プレキャストコンクリート造とされた構成が開示されている。
【0004】
特許文献1~3に開示されたような壁柱は、いずれも平断面視の形状が、建物の外周面に沿って長辺を有する長方形状であり、建物の外周面に直交する短辺方向に一定の厚さを有している。建物全体の外径寸法を大きくするのを抑えつつ、建物内の居室空間をさらに拡大することが常に望まれている。しかし、特許文献1~3に開示されたような構成において、建物内の居室空間を拡大するため、建物の外周面に直交する方向における壁柱の厚さを小さくすると、壁柱の強度が低下する、という問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-245442号公報
【文献】特開2016-205054号公報
【文献】特開2017-89224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、建物内の居室空間を拡大することが可能な躯体構造として、断面サイズを極力薄肉化させながら、高剛性と高耐力を確保した鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、SRC造の壁柱建物構造として、RC造の壁部と鉛直鉄骨材が埋設された鉛直柱型リブで構成される壁柱同士を鉄骨内部梁で連結して壁柱梁架構を形成し、当該壁柱梁架構を水平方向や鉛直方向に複数連結させることで、高い剛性と高い耐力を有する門型架構を構築できる点に着眼して、本発明に至った。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造は、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱と、当該壁柱に連結された鉄骨内部梁とを主体として構築された鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造であって、前記壁柱は、鉄骨鉛直材が配置された鉛直柱型リブと、縦筋、及び横筋が配筋された壁部とで構成されており、前記鉛直柱型リブと前記壁部は異なる壁厚さを備え、対向する前記壁柱の前記鉄骨鉛直材間に前記鉄骨内部梁が連結されて壁柱梁架構を形成し、当該壁柱梁架構が水平方向および/または鉛直方向に複数連結されることを特徴とする。
このような構成によれば、対向する壁柱の鉄骨鉛直材間に鉄骨内部梁を設けて、最小の立体抵抗体とする壁柱梁架構を形成し、当該壁柱梁架構を水平方向および/または鉛直方向に複数連結させて建物の骨組み架構を構築することで、壁柱の内部や壁柱の内外側面に梁部材を水平方向に設ける必要のない、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を実現した。本明細書では、本発明で形成される建物の骨組み架構を壁柱建物構造と定義した。よって、本発明の壁柱建物構造では、連結された壁柱同士が梁材の機能を有するために、壁柱の内部や壁柱の内外側面に梁材を設ける必要がなく、かつ、例えば壁部の壁厚さを鉛直柱型リブよりも薄くすることで、建物内の居室空間を拡大することを可能とした。
また、壁柱を構成する鉛直柱型リブ内に鉄骨鉛直材を配置することで、複数の鉛直方向鉄筋を間隔をあけて配筋する場合に比べて、同一の水平断面内に多くの鋼材量を配置することができるために、高剛性で高耐力の壁柱を確保することができる。
【0008】
本発明の一態様においては、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造は、前記壁部の壁厚さは、前記鉛直柱型リブの柱奥行き寸法より薄肉であり、前記壁部と前記鉛直柱型リブは建物外部側面が面一であることを特徴とする。
このような構成によれば、壁部の壁厚さを鉛直柱型リブの柱奥行き寸法よりも薄くし、かつ壁部と鉛直柱型リブの建物外部側面を面一とすることで、建物内部側に突出する壁柱の躯体厚さが薄くなるために、建物内の居室空間を拡大することが可能となる。また、建物外壁面は、壁柱を構成する鉛直柱型リブと壁部が面一であることで、外壁面に凹凸部はなく、粉塵等の付着を抑制できる。また、建物外壁面においては、壁柱を構成する鉛直柱型リブや壁部の躯体形状が現れることはなく、設計自由度の高い建物が実現可能である。
【0009】
本発明の一態様においては、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造は、前記横筋の少なくとも一部は、前記鉄骨鉛直材を形成するウェブを貫通して、当該鉄骨鉛直材を挟んだ他方側の前記壁部内に定着されていることを特徴とする。
このような構成によれば、壁柱の平面視断面において、壁部を構成する横筋の少なくとも一部を、鉄骨鉛直材を挟んだ一方の壁部側から鉄骨鉛直材のウェブを貫通させて、他方の壁部内に定着させることで、横筋の定着性能を十分に確保することができる。これにより、横筋は、鉄骨鉛直材と干渉しない位置で、かつ鉄骨鉛直材に接する一方の壁部内に定着させる必要が無く、壁部の壁厚さを、鉛直柱型リブの柱奥行き寸法よりも容易に薄肉とし、さらに、鉄骨鉛直材のウェブを貫通させた横筋を介して壁部と鉛直柱型リブとを強固に一体化することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、建物内の居室空間を拡大することが可能な躯体構造として、断面サイズを極力薄肉化させながら、高剛性と高耐力を確保した鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態に係る鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を適用した建物の概略構成を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を構成する壁柱梁架構の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示す壁柱梁架構を用いて形成される建物の外壁部を示す平断面図である。
【
図5】
図2に示す壁柱の鉄骨鉛直材同士の連結部分の構成を示す図であり、
図3のI-I矢視断面図である。
【
図6】
図2に示す壁柱の壁部同士の連結部分の構成を示す図であり、
図3のII-II矢視断面図である。
【
図7】
図1に示す鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造の外壁部を、建物の内方から見た斜視図である。
【
図8】
図1に示す鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造の外壁部を、建物の内方から見た正面図である。
【
図9】上記実施形態の変形例に係る、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を適用した建物の概略構成を示す斜視図である。
【
図10】上記実施形態の他の変形例に係る、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、対向する壁部と鉛直鉄骨材が埋設された鉛直柱型リブで構成される壁柱同士を鉄骨内部梁で連結させて壁柱梁架構を形成し、当該壁柱梁架構を水平方向や鉛直方向に複数連結させたSRC造の壁柱建物構造である。
以下、添付図面を参照して、本発明による鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を実施するための形態について、図面に基づいて説明する。
【0013】
本実施形態に係る鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を適用した建物の概略構成を示す斜視図を
図1に示す。本実施形態に係る鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を構成する壁柱梁架構の構成を示す斜視図を
図2に示す。上記壁柱梁架構を用いて形成される建物の外壁部を示す平断面図を
図3に示す。
図3のA矢視部分を拡大した斜視図を
図4に示す。互いに上下に位置する壁柱の鉄骨鉛直材どうしの連結部分の構成を示す図であり、
図3のI-I矢視断面図を
図5に示す。互いに上下に位置する壁柱の壁部どうしの連結部分の構成を示す図であり、
図3のII-II矢視断面図を
図6に示す。上記建物の外壁部を、建物の内方から見た斜視図を
図7に示す。上記建物の外壁部を、建物の内方から見た正面図を
図8に示す。
図1に示されるように、建物1は、例えば地上2階程度の階層を有している。建物1の階高やレイアウトは一例に過ぎず、適宜他の構成とすることが可能である。
建物1を構成する躯体は、以下に示すような鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を有して構成される。具体的には、躯体は、壁柱梁架構10を複数組み合わせることで構成される。
【0014】
壁柱梁架構10は、
図2に示すように、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱20と、壁柱20に連結された鉄骨梁(鉄骨内部梁)30と、を主体として備えている。壁柱20は、建物1において、互いに対向する外壁部11、11に沿うようそれぞれ配置されている。これにより、壁柱20は、水平方向に間隔をあけて互いに対向するよう、二枚一対で配置されている。鉄骨梁30は、壁部22に対して交差方向に延び、これら二枚一対の壁柱20どうしの間に架設される。
【0015】
壁柱20は、
図2、
図3、
図5に示すように、建物外部側面が面一となるように配置された鉛直柱型リブ21と、壁部22と、を一体に備える。壁柱20は、本実施形態においては、プレキャストの鉄骨鉄筋コンクリート部材である。
鉛直柱型リブ21は、鉄骨鉛直材23と、柱主筋24と、せん断補強筋25と、コンクリート部26と、を備える。鉄骨鉛直材23は、上下方向に延びている。鉄骨鉛直材23は、H型鋼からなり、ウェブ23aと、ウェブ23aの両端に直交して設けられたフランジ23b、23cと、を一体に備える。鉄骨鉛直材23は、ウェブ23aが、外壁部11の厚み方向、すなわち建物1の内外を結ぶ面内に位置するように配置されている。
柱主筋24は、鉄骨鉛直材23の周囲に配置され、それぞれ上下方向に延びている。せん断補強筋25は、複数本の柱主筋24を取り囲むように巻き回されている。せん断補強筋25は、上下方向に間隔をあけて複数本が設けられている。なお、鉄骨鉛直材23に鉄骨梁30が接合される柱梁接合部Jにおいては、その上下に配置されるせん断補強筋25Jは、2重に巻かれて設けられている。ただし、1重でも十分な強度が得られる場合においては、これに限られない。
コンクリート部26は、鉄骨鉛直材23、柱主筋24、せん断補強筋25を埋設するように設けられている。コンクリート部26は、平断面視略矩形状に形成されている。
【0016】
壁部22は、
図3に示すように、鉛直柱型リブ21に対し、水平方向の両側にそれぞれ設けられている。壁部22は、横筋27(建物外部側の横筋27a、建物内部側の横筋27b、及びこれらを連結する横筋27c)と、縦筋28と、コンクリート部29とを備えている。
縦筋28は、水平方向に間隔をあけて複数本が設けられている。
横筋27は、壁柱20の縦筋28を外方から囲って閉鎖する、せん断補強筋である。すなわち、横筋27は、壁部22内において、水平方向に配筋される。横筋27は、建物外部側に、すなわち外壁部11の外壁面11f側に配筋される横筋27aと、建物内部側に、すなわち外壁部11の内壁面11g側に、横筋27aと略平行に配筋される横筋27bと、壁部22の端部において外壁部11の厚み方向に延在して横筋27aと横筋27bを連結する横筋27cを備える。横筋27は、鉛直方向に所定の間隔をあけて複数段が設けられている。本実施形態において、横筋27は、壁柱20の幅方向(外壁部11の厚み方向に直交する水平方向)全体に連続するよう設けられている。すなわち、横筋27は、鉛直柱型リブ21を挟んで幅方向一方の側に位置する壁部22と、幅方向他方の側に位置する壁部22とを跨がるように設けられている。これにより、横筋27は、幅方向両側の壁部22の間に位置する鉛直柱型リブ21を、水平方向に貫通して設けられている。ここで、建物外部側の横筋27aは、鉄骨鉛直材23のフランジ23bの外側に配置されている。建物内部側の横筋27bは、鉄骨鉛直材23のウェブ23aを水平方向に貫通するよう配置されている。
コンクリート部29は、横筋27および縦筋28を埋設するように設けられている。鉛直柱型リブ21を挟んで幅方向両側に位置する壁部22のコンクリート部29は、鉛直柱型リブ21のコンクリート部26と一体に形成されている。
【0017】
ここで、壁部22を構成するコンクリート部29は、
図3に示すように、厚み方向(建物1の内外方向)の寸法(壁厚さ)T1が、鉛直柱型リブ21の厚み方向の寸法(柱奥行き寸法)T2よりも小さく設定されている。これにより、鉛直柱型リブ21は、壁部22に対し、建物1の内方に向かって突出している。このように、鉛直柱型リブ21と壁部22は、異なる壁厚さを備えている。
また、
図2、
図4に示されるように、壁柱20の幅方向両側の側端部において、コンクリート部29には、側端部傾斜面20sが形成されている。側端部傾斜面20sは、外壁部11の外壁面11f側から内壁面11g側に向かって、幅方向内側に向かって傾斜している。これにより、壁柱20を外壁部11に沿って水平方向に並べて配置したときに、互いに隣り合う壁柱20の側端部傾斜面20s同士の間に、平断面視三角形状の欠込み部S1が形成される。この欠込み部S1は、外壁部11の内壁面11g側から外壁面11f側に向かって、その開口幅寸法が漸次小さくなるよう形成されている。
図4に示されるように、側端部傾斜面20sには、外壁部11の厚み方向に延在する表面20uを備えた凹部20tが形成されている。壁部22には、壁部22の厚み方向のほぼ中央付近に、壁柱20の幅方向に延在するように、コッター筋31が設けられている。コッター筋31は、一端が壁部22のコンクリート部29に埋設され、他端が表面20uから外部へ突出するように設けられている。コッター筋31は、双方の壁部22に配筋された横筋27の鉄筋量相当を確保できるように、所定の鉄筋量を鉛直方向に間隔をあけて配筋する。あるいは、コッター筋31を、横筋27に比べて、高強度鉄筋または太径鉄筋を使用することで、1本の鉄筋の応力負担性能を高めて、本数を少なく配筋しても良い。
【0018】
また、壁柱20の下端部においては、
図5に示すように、コンクリート部26の下端部には、上方に向かって窪む切り欠き部26kが形成されている。鉄骨鉛直材23および柱主筋24の下端部は、コンクリート部26から切り欠き部26k内に下方に突出している。また、鉄骨鉛直材23および柱主筋24の上端部は、コンクリート部26の上端面から上方に所定長が突出するように設けられている。
壁柱20は、
図6に示すように、壁部22の下端部には、外壁部11の外壁面11f側に位置する第一下端面22cと、内壁面11g側に位置する第二下端面22dとが形成されている。第一下端面22cは、第二下端面22dよりも低い位置に形成され、第一下端面22cと第二下端面22dとの間には段部22eが形成されている。
また、壁部22の上端部には、外壁部11の外壁面11f側に位置する第一上端面22sと、内壁面11g側に位置する第二上端面22tとが形成されている。第一上端面22sは、第二上端面22tよりも低い位置に形成され、第一上端面22sと第二上端面22tとの間には段部22uが形成されている。
【0019】
鉄骨梁30は、壁柱20の鉄骨鉛直材23のフランジ23cに溶接により接合されている。鉄骨梁30の端部は、コンクリート部26に埋設されている。
本実施形態においては、最上階以外の中間階および最下階に配置される壁柱20では、鉄骨梁30は、壁柱20の上下方向の中間部に位置し、鉄骨鉛直材23の上下方向の中間部に接合されている。これにより、中間階に配置される壁柱梁架構10は、一対の壁柱20と、これら一対の壁柱20の上下方向中間部に配置された鉄骨梁30とにより、略H型状に構成されている。
また、最上階に配置される壁柱20の場合、鉄骨梁30は、壁柱20の上端部において、鉄骨鉛直材23の上端部に接合されている。
【0020】
上記壁柱梁架構10は、上下方向および水平方向に複数組み合わせることで、建物1の躯体を構成する。具体的には、
図7、
図8に示されるように、複数の壁柱梁架構10は、外壁部11に沿った鉛直面内で、壁柱20を上下方向、および水平方向に複数枚が並ぶように配置される。
上下方向に壁柱20を複数枚並べて積み重ねるときに、互いに上下に位置する壁柱20同士の接合部は、建物1の各階の上下方向中間部に位置するようになっている。また、上下方向に壁柱20を複数枚並べて積み重ねるときに、各段の壁柱梁架構10の鉄骨梁30は、建物1の各階の床面レベルF(
図8参照)に配置され、図示しない床スラブを支持する。
また、最上階に位置する壁柱梁架構10の鉄骨梁30Tは、建物1の屋上スラブ12を支持する。建物1の躯体は、それぞれ、この屋上スラブ12と、互いに対向する一対の外壁部11とからなる、略門形のコンクリート体を有して構成されている。
【0021】
互いに上下に位置する壁柱20どうしの接合部は、
図5に示すように、上方の壁柱20の鉄骨鉛直材23および柱主筋24の下端部と、下方の壁柱20の鉄骨鉛直材23および柱主筋24の上端部とは、上方の壁柱20のコンクリート部26に形成された切り欠き部26k内で、上下方向で互いに対向している。上方の鉄骨鉛直材23の下端部と、下方の鉄骨鉛直材23の上端部とは、平板状の継手板41を介してボルト接合されている。ここで、上方の鉄骨鉛直材23の下端部、下方の鉄骨鉛直材23の上端部は、それぞれ、外壁部11の内壁面11g側のフランジ23cが、継手板41が設けられる部分において、上下方向の所定長にわたって切り欠かれている。これにより、下方の壁柱20上に上方の壁柱20を配置し、切り欠き部26k内で上下に対向した上方の鉄骨鉛直材23の下端部と下方の鉄骨鉛直材23の上端部とを継手板41により接合する際、継手板41を外壁部11の内壁面11g側から、上方の鉄骨鉛直材23のウェブ23a、下方の鉄骨鉛直材23のウェブ23aに容易に沿わせてボルト接合することができる。
また、切り欠き部26k内で、上方の壁柱20の柱主筋24の下端部と、下方の壁柱20の柱主筋24の上端部とは、切り欠き部26k内で、接続継手42を介して互いに接続されている。
切り欠き部26k内には、無収縮モルタル等の充填材43が充填されている。
【0022】
また、
図6に示すように、上方の壁柱20の壁部22の下端部に形成された第一下端面22c、第二下端面22dと、下方の壁柱20の壁部22の上端部に形成された第一上端面22s、第二上端面22tとは、これらの間に無収縮モルタル等の充填材44が充填されている。
上方の壁柱20の縦筋28の下端部と、下方の壁柱20の縦筋28の上端部とは、上方の壁柱20に埋設された接続継手42を介して互いに接続されている。
【0023】
また、水平方向で互いに隣り合う壁柱20同士は、
図3に示すように、コッター筋31同士を機械式鉄筋継手治具32を介して連結するとともに、互いに隣り合う壁柱20の側端部傾斜面20s同士の間に形成される平断面視三角形状の欠込み部S1に、コンクリート45を、現場打ちで打設して一体化されている。
【0024】
以下、本実施形態の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造による作用効果を述べる。
上述したような鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱構造によれば、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱20と、壁柱20に連結された鉄骨梁30とを主体として構築された鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造であって、壁柱20は、鉄骨鉛直材23が配置された鉛直柱型リブ21と、縦筋28、及び横筋27が配筋された壁部22とで構成されており、鉛直柱型リブ21と壁部22は異なる壁厚さを備え、対向する壁柱20の鉄骨鉛直材23間に内部梁が溶接されて壁柱梁架構10を形成し、壁柱梁架構10が水平方向および/または鉛直方向に複数連結される。
このような構成によれば、対向する壁柱20の鉄骨鉛直材23間に鉄骨内部梁30を設けて、最小の立体抵抗体とする壁柱梁架構10を形成し、当該壁柱梁架構10を水平方向および/または鉛直方向に複数連結させて建物の骨組み架構を構築することで、壁柱20の内部や壁柱20の内外側面に梁部材を水平方向に設ける必要のない、鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を実現した。よって、本発明の壁柱建物構造では、連結された壁柱20同士が梁材の機能を有するために、壁柱20の内部、または壁柱20の表面に沿って梁材を設ける必要がなく、かつ、本実施形態のように壁部22の壁厚さを鉛直柱型リブ21よりも薄くすることで、建物内の居室空間を拡大することを可能とした。
また、壁柱20を構成する鉛直柱型リブ21内に鉄骨鉛直材23を配置することで、複数の鉛直方向鉄筋を間隔をあけて配筋する場合に比べて、同一の水平断面内に多くの鋼材量を配置することができるために、高剛性で高耐力の壁柱20を確保することができる。
【0025】
また、壁部22の壁厚さは、鉛直柱型リブ21の柱奥行き寸法より薄肉であり、壁部22と鉛直柱型リブ21は建物外部側面が面一である。
このような構成によれば、壁部22の壁厚さを鉛直柱型リブ21の柱奥行き寸法よりも薄くし、かつ壁部22と鉛直柱型リブ21の建物外部側面を面一とすることで、建物内部側に突出する壁柱20の躯体厚さが薄くなるために、建物内の居室空間を拡大することが可能となる。また、建物外壁面は、壁柱20を構成する鉛直柱型リブ21と壁部22が面一であることで、外壁面に凹凸部はなく、粉塵等の付着を抑制できる。また、建物外壁面においては、壁柱20を構成する鉛直柱型リブ21や壁部22の躯体形状が現れることはなく、設計自由度の高い建物が実現可能である。
【0026】
また、壁部内の横筋のうち、建物内部側に配筋される横筋27bは、鉄骨鉛直材23を形成するウェブ23aを貫通して、鉄骨鉛直材23を挟んだ他方側の壁部22内に定着されている。
このような構成によれば、壁柱20の平面視断面において、壁部22を構成する横筋27の少なくとも一部を、鉄骨鉛直材23を挟んだ一方の壁部22側から鉄骨鉛直材23のウェブ23aを貫通させて、他方の壁部22内に定着させることで、横筋27の定着性能を十分に確保することができる。これにより、横筋27は、鉄骨鉛直材23と干渉しない位置で、かつ鉄骨鉛直材23に接する一方の壁部22内に定着させる必要が無く、壁部22の壁厚さを、鉛直柱型リブ21の柱奥行き寸法よりも容易に薄肉とし、さらに、鉄骨鉛直材23のウェブ23aを貫通させた横筋27を介して壁部22と鉛直柱型リブ21とを強固に一体化することができる。
【0027】
また、上下方向に壁柱20を複数枚並べて積み重ねるときに、互いに上下に位置する壁柱20同士の接合部は、建物1の各階の上下方向中間部に位置するようになっている。
このような構成によれば、地震等による外力が作用したときの曲げ応力が小さくなる各階の上下方向中間部に壁柱20同士の接合部があるため、外力に効率的に抗し得る建物1を実現可能である。
【0028】
(実施形態の変形例)
次に、
図9を用いて、上記実施形態として示した建物1の変形例を説明する。
図9は、本変形例における鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を備えた建物1Aの斜視図である。本変形例の建物1Aにおいては、複数の構造物が組み合わされて構成されている。
すなわち、建物1Aは、第1構造体2と、第2構造体3と、を備える。
第1構造体2は、例えば地上1階程度の階層を有している。第2構造体3は、第1構造体2よりも高い、例えば地上2階程度の階層を有している。建物1Aは、第1構造体2の一部に第2構造体3が重なるように配置されている。なお、第1構造体2、第2構造体3の階高やレイアウトは一例に過ぎず、適宜他の構成とすることが可能である。これら第1構造体2、第2構造体3のそれぞれを構成する躯体2K、3Kは、それぞれ、上記実施形態として示した鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造を有して構成される。具体的には、躯体2K、3Kは、それぞれ、壁柱梁架構10を複数組み合わせることで構成される。
【0029】
第1構造体2と第2構造体3とが平面視で重なり合う部分Z1で、第2構造体3の壁柱20Zの下端部は、第1構造体2の最上部に配置される壁柱梁架構10の鉄骨梁30T上に、溶接等により接合される。これにより、第2構造体3の壁柱20Zに作用する荷重を、第1構造体2に効率良く伝達させることができる。
【0030】
本変形例が、上記実施形態と同様の効果を奏することはいうまでもない。
【0031】
(実施形態の他の変形例)
なお、本発明の鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造は、図面を参照して説明した上述の実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その技術的範囲において様々な変形例が考えられる。
例えば、上記実施形態では、鉛直柱型リブ21を、壁部22に対し、建物1の内方に突出するようにしたが、鉛直柱型リブ21は、建物1の外方に向かって突出させるようにしてもよい。
また、壁柱20は、外壁部11の面内方向に沿って延びる鉄骨梁を更に備えるようにしても良い。
また、上記実施形態では、壁柱同士の水平方向の接合方法は、
図3に示すように、壁部22内に、横筋27とは別にコッター筋31を埋設し、コッター筋31同士を連結するとともに、壁柱20の水平接合面の欠込み部S1にコンクリートを充填して一体化したが、これに限られない。例えば、横筋として上記実施形態のような、縦筋28を外方から囲って閉鎖するものではなく、横方向に延在して壁部22の端部で終端するものを使用し、コッター筋31の代わりにこの横筋同士を機械式鉄筋継ぎ手治具で連結させても良い。
また、
図10に示されるように、上方の壁柱20と下方の壁柱20が、フラットな接合目地部46を介して連結されていてもよい。
さらに、上記実施形態では、壁柱20を鉛直方向および水平方向に並べて設けることで、外壁部11を形成するようにしたが、壁柱20を上下方向のみに並べて設け、水平方向で互いに隣り合う壁柱20どうしは、梁部材で連結するようにしてもよい。
さらに、上記実施形態では、本発明に係る鉄骨鉄筋コンクリート造の壁柱建物構造の適用例として、建物1を例示したが、適用対象となる建物の形状、構成については、適宜変更することが可能である。
さらに、上記実施形態では、互いに上下に位置する壁柱20同士の接合部は、建物1の各階の上下方向中間部に位置するようになっていたが、これに限られない。例えば、中間部から上下方向に所定の距離だけ離れた位置において、曲げ応力がより小さくなるような設計がなされた場合等においては、当該位置に壁柱20同士の接合部が設けられる構造となっても構わない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態及び変形例で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0032】
1、1A 建物 23a ウェブ
10 壁柱梁架構 27 横筋(27a、27b)
20 壁柱 28 縦筋
21 鉛直柱型リブ 30 鉄骨梁(鉄骨内部梁)
22 壁部 T1 寸法(壁厚さ)
23 鉄骨鉛直材 T2 寸法(柱奥行き寸法)