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特許7118508神経損傷を治療するペプチドベースの方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】神経損傷を治療するペプチドベースの方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220808BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220808BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20220808BHJP
   C07K 14/16 20060101ALI20220808BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20220808BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20220808BHJP
   C12N 9/99 20060101ALI20220808BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220808BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220808BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220808BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220808BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20220808BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20220808BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20220808BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20220808BHJP
【FI】
C12N15/12
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C07K7/06
C07K14/16
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/55
C07K14/47
C12N9/99
A61P25/00
A61P25/28
A61P25/16
A61K38/16
A61K47/65
A61K47/64
A61K47/60
A61K47/68
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018544518
(86)(22)【出願日】2017-02-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-04-11
(86)【国際出願番号】 US2017019140
(87)【国際公開番号】W WO2017147298
(87)【国際公開日】2017-08-31
【審査請求日】2019-12-02
(31)【優先権主張番号】62/298,585
(32)【優先日】2016-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509001010
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニヴァーシティ オブ コロラド,ア ボディ コーポレイト
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハーソン, パコ エス.
【審査官】新留 豊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/033727(WO,A1)
【文献】特表2011-500003(JP,A)
【文献】国際公開第2002/088355(WO,A1)
【文献】特表2008-507295(JP,A)
【文献】特表2013-507967(JP,A)
【文献】国際公開第2007/082053(WO,A2)
【文献】Int. J. Physiol. Pathophysiol. Pharmacol., 2010, Vol.2, No.2, pp.95-103
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TRPM2タンパク質イオンチャネルの活性を阻害するための組成物であって、TRPM2タンパク質のADP-リボース結合部位を破壊する薬剤、を含み、
前記薬剤は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドを含む、組成物。
【請求項2】
前記薬剤が、ADP-リボースのTRPM2タンパク質に対する結合を低減又は予防する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記薬剤が、TRPM2チャネルのカルボキシ末端に結合する、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記薬剤が、TRPM2タンパク質チャネルを通るカルシウムイオンの流量を低減する、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
神経損傷又は神経障害を治療又は予防するための医薬であって、TRPM2タンパク質イオンチャネルを通るカルシウムイオンの流量を阻害する薬剤を含み、
前記薬剤は、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドを含む、医薬。
【請求項6】
前記薬剤が、TRPM2タンパク質のADP-リボース結合部位を破壊する、請求項5に記載の医薬。
【請求項7】
前記薬剤が、ADP-リボースのTRPM2タンパク質に対する結合を低減又は予防する、請求項6に記載の医薬。
【請求項8】
前記薬剤が、TRPM2チャネルのカルボキシ末端に結合する、請求項6に記載の医薬。
【請求項9】
TRPM2タンパク質イオンチャネルの活性を阻害するためのインビトロ方法であって、TRPM2タンパク質のADP-リボース結合部位を破壊すること、を含み、
前記破壊が、配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチドを含む薬剤と接触させることを含、方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願データ
本出願は、ここに参照することによって本願に援用される、2016年2月23日出願の米国仮特許出願第62/298,585号の優先権の利益を主張する。
【0002】
配列表データ
ファイル名「2848-202_配列_listing_ST25」で2016年2月23日作成のサイズ3キロバイトの本明細書に添付される配列表テキストファイルは、その全体が、参照することによって本明細書に取り込まれる。
【0003】
脳卒中は、重大な経済的負担を伴う世界第2位の死亡原因であり、認知障害の理由から、回復した患者の生活の質が悪い。残念ながら、脳損傷を軽減するため、及び脳卒中患者を治療するために利用可能な薬理学的ツールは、非常に限られている。脳卒中についての最も重要かつ修正不可能なリスク要因のうちの2つは、年齢及び性別であり、脳卒中のリスクは55歳以降の10年ごとに倍増し、また、高齢女性の脳卒中率が上昇する晩年に至るまでは、女性よりも男性に大きな影響を及ぼす。この後者の観察結果は、細胞死経路におけるアンドロゲン及びエストロゲンの影響に起因する可能性が高い。しかしながら、ほとんどの神経保護についての研究(前臨床又は臨床)は、メスの動物を使用していないか、あるいは、ヒト臨床における性差の違いを見出すことに注力されていない。よって、新規化合物の治療可能性を決定するために、ヒト患者集団をより正確にモデル化することが重要である。
【0004】
一過性受容体電位M2(TRPM2)は、一過性受容体電位(TRP)チャネルのスーパーファミリーの成員である。これらのチャネルは、6つの膜貫通ドメイン並びに細胞内のアミノ末端及びカルボキシ末端を有すると考えられる。TRPチャネルは、配列相同性及び特定の構造モチーフに基づいて3つのファミリーに分類される(Harteneckら, 2000, Trends Neurosci., 23:159; Montellら, 2002, Mol. Cell., 9:229)。TRPM2は、創設メンバーであるメラスタチンにちなんで命名されたファミリーMに属する。TRPMチャネルは、キナーゼ活性などの追加的な機能を有する、それらのアミノ末端及びカルボキシ末端における複雑な構造的部分領域によって特徴付けられる(Ryazanov, 2002, FEBS Lett., 514:26)。TRPM2の発現及び機能に関しては、限られた情報が存在する。高レベルの発現が神経系において検出され、例えば骨髄、脾臓、肺及び心臓などの末梢組織では低レベルで検出された(Nagamineら, 1998, Genomics, 54:124; Perraudら, 2001, Nature, 411:595)。TRPM2チャネルは、ADPリボース(ADPr)によって活性化される非選択的カチオンチャネルである。ADPrは、酸化ストレス及び脳虚血に応答してPARP-1によって生成される可能性があり、これは、虚血後の再灌流傷害の設定に特に関連する。クロトリマゾール(CTZ)又は遺伝子ノックダウンを用いたTRPM2イオンチャネルの阻害は、脳卒中後、男性では梗塞のサイズを縮小するが、女性では縮小しない。TRPM2は、男性における脳卒中の治療的介入のための実行可能な標的であるように思われるが、前臨床試験は、特異的阻害剤の欠如によって制限されてきた。
【発明の概要】
【0005】
TRPM2イオンチャネルの調節は、ある特定の障害及び疾患の原因及び/又は制御と有意に関連していることが示されていることから、TRPM2イオンチャネルの阻害において安全かつ有効な薬剤を見出すことが必要である。
【0006】
TRPM2チャネルは、10年以上にわたり、虚血性ニューロン損傷に関与している(レビューには、Aarts MM, Tymianski M. Trpms and neuronal cell death. Pflugers Arch - Eur J Physiol. 2005; 451:243-249を参照;米国特許出願公開第2010/0298394号、2010年11月25日も参照されたい)が、それにもかかわらず、この分野は、チャネルに特異的な阻害剤の欠如に悩まされてきた。クロトリマゾール(CTZ)などの非特異的TRPM2阻害剤は、インビトロにおける皮質及び海馬ニューロンにおける神経細胞死を減少させて、局所及び全脳虚血後のオス動物の傷害を軽減することが示されている。本発明者らは、TRPM2チャネルの新規かつ特異的ペプチド阻害剤を特定した。
【0007】
TRPM2チャネルの識別特性は、それらが、C-末端におけるADPr加水分解酵素相同性ドメイン(「NUDT9-H」と呼ばれる)への結合を介して、ADPリボース(ADPr)によってゲート制御されることである。NUDT9-Hの触媒ドメインは、同じドメイン内の幾つかの離れたアミノ酸と協調してADPr結合ポケットを形成する、Nudixドメインである。本発明者らは、TRPM2チャネルの活性化を阻害する戦略としてADPr結合ポケットを標的とした。C-末端Nudix相同性ドメインを欠くチャネルの発現は、不活性である。したがって、本発明者らは、GSREPGEMLPRKLKRVLRQEFWV(配列番号1;「M2NX」)を含むペプチドを生成し、細胞透過性TAT配列、YGRKKRRQRRR(配列番号2;「tat47-57」)に融合して、チャネルのNUDT9-HドメインのADPr結合ポケットとの相互作用を介してTRPM2チャネル活性を特異的に阻害する、34-mer、YGRKKRRQRRRGSREPGEMLPRKLKRVLRQEFWV(配列番号3;「tat-M2NX」)を形成した。
【0008】
重要なことには、本明細書に開示される一次データは、TRPM2チャネルの阻害が、脳卒中、外傷性脳損傷、心停止誘発性の全虚血及び神経変性疾患後の機能回復を改善することを示している。これらの効果は、オスの動物及びメスの動物の両方に、及び、TRPM2阻害が急性又は慢性の時点の間に達成される場合に、観察される。
【0009】
よって、本開示は、本開示のTRPM2阻害性ペプチドを含む医薬組成物を被験体に投与することによる、被験体における、神経障害又は損傷、若しくは神経変性疾患を治療又は予防する方法、あるいは、神経機能の回復を促進する方法を提供する。
【0010】
本開示はまた、本開示のTRPM2阻害性ペプチド、又はそれらの変異体、及び少なくとも1つの追加的な治療剤を含む医薬組成物を被験体に投与することによる、被験体における、神経障害又は損傷、若しくは神経変性疾患を治療又は予防する方法、あるいは、神経機能の回復を促進する方法も提供する。追加的な治療剤は、1つ以上の神経保護、神経修復、又は血栓を防止する又は溶解する薬剤でありうる。
【0011】
これらの方法では、投与は非経口投与によるものでありうる。これらの方法では、ペプチドは、約0.05から約25mg/kgの投与量で投与されうる。これらの方法では、被験体はヒトでありうる。被験体は、オス(男性)でありうる。
【0012】
1つの態様は、神経障害又は損傷、若しくは神経変性疾患の治療又は予防のため、あるいは神経機能の回復を促進するための、本開示のペプチド、若しくはそれらの多量体、誘導体、又は変異体、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。これらの組成物は、少なくとも1つの追加的な治療剤を含んでいてもよく、したがって、別の態様は、脳卒中を含む神経障害又は損傷の治療又は予防のための、本開示のペプチド、若しくはそれらの多量体、誘導体、又は変異体、少なくとも1つの追加的な治療剤、及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物である。関連する態様は、脳卒中を含む神経障害又は損傷の治療又は予防のための、本開示のペプチド若しくはそれらの多量体、誘導体、又は変異体の使用である。
【0013】
本開示の他の態様は、以下の開示に説明されるか、又は以下の開示から明白であり、本開示の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
実施例として与えられるが、本開示を、記載される特定の実施態様に限定することは意図されていない、以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて理解することができる。
図1A-B】図1Aは、tat-M2NXが、TRPM2チャネルを通じたCa2+の流入を阻害し、インビボにおける神経保護をもたらすことを、FLAGタグ付きヒトTRPM2のテトラサイクリン調節されるサイトメガロウイルス駆動性転写を発現するHEK-293細胞における、ベースラインからのパーセンテージ増加として示される、Fluo-5F蛍光の平均蛍光変化として示している。試料は、200μMのHの存在下、100μMのtat-M2NX(三角)又はtat-SCR(丸)で処理された。図1Bは、25、50、100μMのtat-M2NX又は100μMのtat-SCRで処置されたHEK-293細胞におけるFluo-5F蛍光のパーセンテージ増加の定量化を示している。
図1C-D】図1Cは、MCAOの前に60分間、(C’)tat-SCR及び(C’’)tat-M2NXで処置したオスの脳、及び(C)tat-SCR及び(C**)tat-M2NXで処置したメスの脳に由来するTTC染色を示す写真を提供している。図1Dは、ビヒクル、100μMのtat-SCR、又は100μMのtat-M2NXで処置したWTオス及びメスマウスにおける梗塞体積のパーセンテージの定量化を示している。
図2】tat-M2NXが、60分間のtMCAO後のTRPM2-/-マウスを保護しないことを示している。TTCで染色したWT及びTRPM2-/-マウスの脳由来の梗塞体積のパーセンテージの定量化。TRPM2-/-オスのマウスを100μMのtat-M2NXペプチド又はビヒクルで処置した。
図3A-B】図3Aは、tat-M2NXが、臨床的に関連する治療濃度域を示すことを、再灌流後3時間、及び再灌流後24時間の染色したtat-SCR(A’)又はtat-M2NX(A’’)で処置したオスのマウスの代表的なTTC染色として、示している。図3Bは、再灌流後3時間、及び再灌流後96時間の染色したtat-SCR(B’)又はtat-M2NX(B’’)で処置したオスのマウスを示している。
図3C】薬物を受けた後24時間及び96時間における、TTCで染色したオス及びメスの脳における梗塞体積のパーセンテージの定量化を示している。オス及びメスマウスは、ビヒクル、クロトリマゾール(CTZ)、tat-SCR(20mg/kg)又はtat-M2NX(20mg/kg)で処置された。
図4】tat-M2NXが、老齢期のオスに神経保護をもたらすことを、tat-SCR(SCR)又はtat-M2NX(M2NX)のいずれかを受けた18~20月齢のオス及びメスのマウスにおける梗塞部のパーセンテージの定量化として、示している。YA=若齢成熟期;A=老齢期。p<0.05。
図5A-B】図5Aは、ジヒドロテストステロンではなく、テストステロンが、オスのマウスの加齢に伴って減少することを、2月、4~5月、及び18月齢のオスのマウスにおける、ELISAによって測定したテストステロンの血清濃度の定量化として、示している。図5Bは、2月、4~5月、及び18月齢のオスのマウスにおける、ELISAによって測定したジヒドロテストステロン(DHT)の血清濃度の定量化を示している。p<0.05。
図6A-B】図6A及び6Bは、tat-M2NXの遅延投与後のシナプス可塑性の虚血誘発性機能障害の逆転を実証している。図6Aは、TBSに対するオスの応答のダイアリープロットである。矢印は、TBSのタイミング(40パルス)を示している。図6Bは、オス(青色)及びメス(赤色)におけるベースラインからの変化の定量化を示している。シャム対照と比較してP<0.05。
図7A-B】図7A及び7Bは、特にオスのマウスにおける、CA1神経損傷のtat-M2NX減少及び長期的なシナプス機能の向上を実証している。図7Aは、CA/CPRの3日後の海馬のCA1領域における虚血ニューロンの定量化を示している。*P<0.05。図7Bは、tat-M2NXが、シナプス可塑性の虚血誘発性機能障害を防ぐことを示している。矢印は、TBSのタイミング(40パルス)を示している。
図8A-B】図8A及び8Bは、急性の切片におけるTRPM2の阻害が、シナプス可塑性の虚血誘発性機能障害を逆転させることを実証している。図8Aは、TBSに対するオスの応答のダイアリープロットである。矢印は、TBSのタイミング(40パルス)を示している。図8Bは、オス(青色)及びメス(赤色)におけるベースラインからの変化の定量化を示している。
図9A-B】図9A及び9Bは、tat-M2NXの遅延投与が、シナプス可塑性の虚血誘発性機能障害を逆転させることを実証している。図9Aは、TBSに対するオスの応答のダイアリープロットである。矢印は、TBSのタイミング(40パルス)を示している。図9Bは、オス(青色)及びメス(赤色)におけるベースラインからの変化の定量化を示している。*シャム対照と比較してP<0.05。
図10A-B】図10A及び10Bは、tat-M2NXの遅延投与が、虚血誘発性の記憶機能障害を逆転させることを実証している。図10Aは、新しい文脈及びフットショックへの曝露の24時間後、8日目の凍結挙動の定量化を示している。tat-SCRスクランブルペプチドを注入されたCA/CPRマウスは、凍結挙動の低減を示し、文脈の損なわれた記憶と一致している。対照的に、tat-M2NXで処置したマウス(7日目)は、凍結挙動が増加していた。図10Bは、CA/CPRの30日後の損なわれた文脈的恐怖条件づけ挙動を示している。
図11A-B】図11A及び11Bは、外傷性脳損傷後のマウスの運動及び記憶機能におけるtat-M2NXによるTRPM2チャネル阻害の効果を示している。
図12A-B】図12A及び12Bは、急性の切片におけるTRPM2の阻害がシナプス可塑性の虚血誘発性機能障害を逆転させることを実証している。図12Aは、アミロイドβへの曝露に対する応答のダイアリープロットである。図12Bは、ベースラインからのパーセント変化としてのシナプス可塑性の定量化を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
前述の通り、本開示は、TRPM2チャネルのリガンド(ADPリボース)-結合ポケットを破壊し、それによって、活性化を防止する働きをする、TRPM2阻害剤に関する。したがって、本開示は、TRPM2チャネルのADPr結合部分を破壊する小分子を検討する。
【0016】
一態様において、本開示は、神経保護及び神経修復するペプチド及びペプチド構築物、及びこれらのペプチドの使用、並びに、神経損傷、神経障害、又は神経変性疾患を患う、又は神経損傷を被る危険性のある、又は神経障害又は神経変性疾患を発症している被検体にこのようなペプチドを投与する方法に関する。
【0017】
定義
本明細書で用いられる場合、単数形「a」、「and」、及び「the」は、文脈上明確に別段の指示がない限り、複数の指示対象を含む。よって、例えば、「細胞(a cell)」についての言及は複数のこのような細胞を含み、「タンパク質(the protein)」についての言及は、1つ以上のタンパク質及び当業者に知られているそれらの等価物等についての言及を含む。本明細書で用いられる技術的及び科学的用語はすべて、他に明確に示されていない限り、この技術が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。
【0018】
用語「ペプチド」及び「ポリペプチド」は、本明細書では、アミノ酸残基から構築されるポリマーを称するための同義語として用いられる。
【0019】
「実質的に純粋」とは、本明細書で用いられる場合には(例えば、医薬組成物の文脈において)、ペプチドが、組成物の総含有量の約50%超(例えば、組成物の総タンパク質)、又は総タンパク質含量の約80%超を構成することを意味する。例えば、「実質的に純粋」なペプチドとは、組成物全体の少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%又はそれ以上がペプチドである(例えば、総タンパク質の95%、98%、99%、99%超)である組成物のことを指す。ペプチドは、組成物中の総タンパク質の約90%超、約95%超、98%超、又は99%超を構成しうる。幾つかの実施態様では、ペプチドが、生産の間に関連づけられる有機分子を含まない重量で少なくとも60%又は少なくとも75%である場合、ペプチドは、実質的に純粋である。幾つかの実施態様では、ペプチドは、重量で、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の純度である。例えば、幾つかの実施態様では、免疫調節ペプチドは、免疫調節ペプチドが、生産の間に関連づけられる有機分子を含まない重量で、少なくとも60%又は少なくとも75%である場合に、実質的に純粋であり、幾つかの実施態様では、免疫調節ペプチドは、重量で、少なくとも60%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%の純度である。
【0020】
用語「被験体」、「患者」、及び「個人」は、本明細書において区別せずに用いられ、多細胞動物(哺乳類(例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ヒツジ、ウシ、反芻動物、ウサギ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ayes等)、鳥類(例えば、ニワトリ)、両生類(例えば、アフリカツメガエル)、爬虫類、及び昆虫(例えば、ショウジョウバエ)を含む)のことを指す。「動物」には、モルモット、ハムスター、フェレット、チンチラ、マウス、及びラットが含まれる。これらの用語には、特にヒトが含まれ、特にオスの哺乳動物、したがって、ヒト男性が含まれる。
【0021】
本明細書で用いられる用語「神経保護」とは、ニューロンの死、アポトーシス、破壊又は傷害を、評価できる、及び/又は、低減又は阻害する、若しくは低減又は阻害すると期待される、及び/又は、被験体における神経変性を低減又は阻害する、ペプチドの任意の特性を指す。
【0022】
本明細書で用いられる用語「神経修復」とは、細胞死の変化とは無関係に、脳機能、シナプス機能、ニューロン発火、脳ネットワーク機能を改善しうる、ペプチドの任意の特性を指す。神経修復は、障害時近辺又は慢性の時点で投与されて脳機能における安定した障害を逆転させる薬剤に適用される。
【0023】
「有効量」とは、所望の治療的または予防的結果を達成するのに必要な投与量及び期間で有効な量のことを指す。ペプチド又は本開示のペプチドを含む医薬組成物の「治療的有効量」は、個体の疾患状態、年齢、性別、及び体重などの因子、並びに個体に所望の反応を引き出すペプチド又は組成物の能力に応じて変動しうる。治療的有効量はまた、ペプチド又はペプチドを含む組成物の毒性又は有害な影響を治療的に有益な効果が上回るものである。
【0024】
数値範囲に対する本明細書での言及(例えば、投与量範囲)は、その範囲に包含される各数値(分数及び整数を含む)を明示的に含む。例えば、限定はしないが、0.5mg/kgから100mg/kgの範囲についての言及は、その2つの間のすべての整数及び分数を明示的に含む。
【0025】
本明細書に記載されるように、脳卒中、TBI、心停止を含む神経損傷を「患う」と称される個体は、脳卒中を含む神経損傷の1つ以上の症状と診断されている、及び/又は、それら症状を示す。
【0026】
本明細書で用いられる場合、脳卒中を含む神経損傷の「危険性」があるという用語は、脳卒中を発症しやすい、及び/又は、疾患の1つ以上の症状を発現しやすい被験体(例えば、ヒト)を指す。この素因は、遺伝的であることも、あるいは他の要因に起因することもある。本開示が特定の兆候又は症状に限定されることは意図されていない。よって、本開示が、亜臨床的から本格的まで、脳卒中を含む任意の範囲の神経損傷を経験する被験体を包含することが意図されており、被験体は脳卒中を含む神経損傷に関連する兆し(例えば、兆候及び症状)のうちの少なくとも1つを示す。
【0027】
本明細書で用いられる場合、用語「治療/処置/処理する(treat, treating)」、又は「治療/処置/処理(treatment)」とは、疾患、障害、及び/又は状態(例えば、神経損傷、神経変性疾患)の1つ以上の症状又は特徴を、部分的に又は完全に緩和する、寛解させる、軽減する、阻害する、予防する、その発症を遅延させる、その重症度を軽減する、及び/又は、その発生率を低減するために用いられる任意の方法のことを指す。治療/処置/処理は、疾患、障害、及び/又は状態の兆候を示していない被験体に投与されてもよい。幾つかの実施態様では、治療/処置/処理は、疾患、障害、及び/又は状態に関連する病理発生リスクを低減させる目的で、疾患、障害、及び/又は状態の初期の兆候のみを示す被験体に投与されてもよい。
【0028】
用語「含む(comprises, comprising)」は、特許法に帰属する幅広い意味を有し、「含む(includes, including)」などを意味しうる。
【0029】
本開示は、以下の詳細及び、本開示の非限定的な実施態様を例示することが意図される例示的な実施例を参照することにより、より十分に理解することができる。
【0030】
ポリペプチド
本開示のペプチドは、チャネルのNUDT9-HドメインのADPr結合ポケットとの相互作用を介してTRPM2チャネル活性を特異的に阻害する、TRPM2チャネルのC-末端のNUDT9-H領域のNudixドメインの断片、又はそれらの変異体を含む。よって、本開示の被験体ペプチドは、GSREPGEMLPRKLKRVLRQEFWV(配列番号1)である。本開示のペプチドのいずれかは、好ましくはN-末端において、細胞の原形質膜を介した移動を促進する内在化ペプチドに連結されうる。これらのペプチドの例としては、HIVから誘導されるTAT(Vivesら, 1997, J. Biol. Chem. 272:16010;Nagaharaら, 1998, Nat. Med. 4:1449)、ショウジョウバエ由来のアンテナペディア(Derossiら, 1994, J. Biol. Chem. 261:10444)、単純ヘルペスウイルス由来のVP22(Elliot及びD'Hare, 1997, Cell 88:223-233)、抗DNA抗体の相補性決定領域(CDR)2及び3(Avrameasら, 1998, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 95:5601-5606)、70KDa熱ショックタンパク質(FFujihara, 1999, EMBO J. 18:411-419)、及びトランスポータン(Poogaら, 1998, FASEB J. 12:67-77)が挙げられる。例えば、HIV TAT内在化ペプチドYGRKKRRQRRR(配列番号2)が用いられうる。HIV Tat内在化ペプチド及びTRPM2チャネル活性の活性ペプチド阻害剤を含む本開示の1つの例示的なペプチドは、YGRKKRRQRRR-GSREPGEMLPRKLKRVLRQEFWV(配列番号3、「Tat-M2NX」)である。
【0031】
標準的なTAT配列YGRKKRRQRRR(配列番号2)の変異体も用いられうる。本開示の実施は機構の理解に依存してはいないが、膜を横断する能力及びTATのN型カルシウムチャネルに対する結合の両方が、ペプチドの正に荷電した残基Y、R及びKの異常に高い発生によって与えられると考えられる。本開示で使用するための変異体ペプチドでは、細胞内への取り込みを促進する能力は保持すべきであるが、N型カルシウムチャネルに結合する能力が低減されている。幾つかの適切な内在化ペプチドは、アミノ酸配列XGRKKRRQRRR(配列番号4)を含む、又はそれからなり、ここで、Xは、Y以外のアミノ酸である。好ましいTAT変異体は、N末端のY残基がFで置換されている。よって、FGRKKRRQRRR(配列番号5)を含む又はそれからなるTAT変異体が用いられうる。TAT内在化ペプチドの別の好ましい変異体は、GRKKRRQRRR(配列番号6)からなる。XGRKKRRQRRR(配列番号4)に隣接する追加的な残基が(活性ペプチドの他に)存在する場合、該残基は、例えば、典型的には、2つのペプチドドメインを結合するために用いられる種類のTATタンパク質、スペーサー又はリンカーアミノ酸に由来するこのセグメント、例えば、Gly(Ser)4(配列番号7)、TGEKP(配列番号8)、GGRRGGGS(配列番号9)、又はLRQRDGERP(配列番号10)(例えば、Tangら (1996), J. Biol. Chem. 271, 15682-15686;Henneckeら (1998), Protein Eng. 11, 405-410を参照)、GSRVQIRCRFRNSTR(配列番号11)(米国特許出願公開第2014/0235553号;2014年8月21日参照)に隣接する中性アミノ酸でありうるか、若しくは、隣接する残基なしに変異体の取り込み量を検出可能に減少させないであろう、かつ、隣接する残基なしに変異体に関連してN型カルシウムチャネルの阻害を大幅には増加させない、いずれかの他のアミノ酸でありうる。好ましくは、活性ペプチド以外に、隣接するアミノ酸の数は、XGRKKRRQRRR(配列番号4)の両側において10残基を超えない。好ましくは、隣接するアミノ酸は存在せず、内在化ペプチドは、そのC-末端において本開示の活性TRPM2阻害剤ペプチドに直接連結する。
【0032】
本明細書に記載のペプチドの「変異体」は、本明細書に開示されるポリペプチドと実質的に同様のポリペプチドであり、かつ、本開示のペプチドのTRPM2阻害剤特性又は神経保護活性のうちの少なくとも1つを保持する。変異体は、本明細書に開示されるポリペプチドのN末端又はC末端における1つ以上のアミノ酸残基の欠損(すなわち、トランケーション);本明細書に開示されるポリペプチドの1つ以上の内部部位における1つ以上のアミノ酸残基の欠損及び/又は付加;及び/又は、本明細書に開示されるポリペプチドの1つ以上の位置における1つ以上のアミノ酸残基の置換を含みうる。12アミノ酸残基長又はそれより短いポリペプチドについては、変異体ポリペプチドは、好ましくは、N-末端において、及び/又は、C末端において、内部に位置していてもいなくても、3つ又はそれ以下(例えば、2つ、1つ、又はなし)の欠損アミノ酸残基を含む。
【0033】
したがって、本発明にかかる方法及び組成物は、本明細書に開示されるTRPM2阻害性ポリペプチドに対して少なくとも50%同一であり(例えば、少なくとも60%、70%、80%、90%、95%又はそれ以上の配列同一性を有する)、かつ、配列番号3の少なくとも1つの神経保護特性を保持する、神経保護ポリペプチドについても同様に考えられる。通常、本開示の神経保護ペプチドのタンパク質変異体は、本明細書に開示される全長の天然配列のタンパク質配列、又は本明細書に開示される全長タンパク質配列の他の特に定められた断片に対して、少なくとも約80%のアミノ酸配列同一性を有し、あるいは、少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%のアミノ酸配列同一性を有する。任意選択的に、変異体ポリペプチドは、天然のタンパク質配列と比較して、1を超えない保存的アミノ酸置換を有し、あるいは、天然のタンパク質配列と比較して、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10を超えない保存的アミノ酸置換を有する。
【0034】
置換されたアミノ酸残基は、置換されるアミノ酸残基と無関係であってもよく(例えば、疎水性/親水性、サイズ、電荷、極性等に関して無関係)、あるいは、置換されたアミノ酸残基は、類似、保存的、又は高度保存的アミノ酸置換を構成しうる。本明細書で用いられる場合、「類似」、「保存的」、及び「高度保存的」アミノ酸置換は、下記表に示されるように定められる。アミノ酸残基置換が類似、保存的、又は高度保存的であるかどうかの決定は、排他的に、アミノ酸残基の側鎖に基づいており、ペプチド骨格に基づいているのではなく、これは、後述されるペプチド安定性を増加するように改変されうる。
【0035】
被験体ペプチドの文脈における保存的アミノ酸置換は、ペプチドの活性を保存するように選択される。
【0036】
改変ポリペプチド
本発明にかかる方法及び組成物の文脈では、化学的又は遺伝的手段による、本明細書に記載の神経保護ポリペプチドの改変も企図されている。このような改変の例としては、L又はDのエナンチオマー形態で非中性アミノ酸及び/又は中性アミノ酸を有する部分的又は完全な配列のペプチドの構築を含む。例えば、本明細書に開示されるペプチド、及びそれらの変異体は、すべてD形態で産生されうる。さらには、ポリペプチドは、アミノ酸の側鎖若しくはN-又はC-末端に共有的に結合された、糖又は脂肪酸などの炭水化物又は脂質部分を含むように改変されうる。加えて、ポリペプチドは、グリコシル化及び/又はリン酸化によって改変されうる。
【0037】
加えて、ポリペプチドは、投与時の溶解性及び/又は半減期を高めるために改変されうる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)及び関連ポリマーは、血液中のタンパク質治療薬の溶解性及び半減期を高めるために用いられている。したがって、本開示のポリペプチドは、PEGポリマーなどによって改変されうる。PEG又はPEGポリマーとは、ポリ(エチレングリコール)を不可欠な部分として含む残基を意味する。このようなPEGは、本開示のペプチドの治療的活性に必要とされる;分子の化学合成から生じる;若しくは、分子の部分の互いに対する最適な距離のためのスペーサーである、さらなる化学基を含みうる。加えて、このようなPEGは、互いに結合した1つ以上のPEG側鎖で構成されうる。1より多いPEG鎖を有するPEG基は、多アーム型又は分岐型PEGと呼ばれる。分岐型PEGは、例えば、グリセロール、ペンタエリトリトール、及びソルビトールを含むさまざまなポリオールにポリエチレンオキシドを付加することによって、調製されうる。例えば、4アームの分岐型PEGは、ペンタエリトリトール及びエチレンオキシドから調製されうる。分岐型PEGは、通常、2から8アームを有しており、例えば、米国特許第5,932,462号に記載されている。とりわけ好ましいのは、リシンの一級アミノ基を介して結合している2つのPEG側鎖を有するPEG(PEG2)である(Monfardini, C,ら, Bioconjugate Chem. 6 (1995) 62-69)。用語「PEG」は、任意のポリエチレングリコー分子を包含するように幅広く用いられており、エチレングリコール(EG)単位の数は、少なくとも460、好ましくは460から2300、とりわけ好ましくは460から1840である(230EG単位とは、約10kDaの分子量を指す)。EG単位の上記数値は、本開示のPEG化ペプチドの溶解度によってのみ制限される。通常、2300単位を含むPEGより大きいPEGは使用されない。好ましくは、本発明において使用されるPEGは、一方の端部がヒドロキシ又はメトキシで終端(メトキシPEG、mPEG)し、他方の端部は、エーテル酸素結合を介してリンカー部分に共有結合している。ポリマーは、直鎖状又は分岐状のいずれかである。分岐型PEGは、例えば、Veronese, F. M.ら, Journal of Bioactive and Compatible Polymers 12 (1997) 196-207に記載されている。本開示のPEG化ペプチド及び変異体の生成のための適切なプロセス及び好ましい試薬は、米国特許出願公開第2006/0154865号に記載されている。例えば、Veronese, F. M., Biomaterials 22 (2001) 405-417に記載される方法に基づく改変などの改変は、そのプロセスが本開示のPEG化ペプチドを結果的に生じる限り、その手順で行うことができることが理解される。本開示のPEG化ペプチドの調製に特に好ましいプロセスは、参照することによって本明細書に取り込まれる、米国特許出願公開第2008/0119409号に記載されている。
【0038】
追加的に又は代替的に、本開示のペプチドは、ヒトIgGのFc領域の1つ以上のドメインに融合されうる。抗体は、2つの機能的に独立した部分、抗原に結合する「Fab」として知られる可変ドメイン、及び補体活性化及び貪食細胞による攻撃のようなエフェクター機能に関与している「Fc」として知られる定常ドメインを含む。Fcは、長い血清半減期を有するのに対し、Fabは短命である(Caponら, 1989, Nature 337:525-31)。本開示の治療的タンパク質とともに構築される場合には、Fcドメインは、より長い半減期をもたらすことができる、あるいは、Fc受容体結合として、プロテインA結合として、補体固定として、及びおそらくは血液脳関門としてさえも、又は胎盤通過として、このような機能を取り込むことができる。一例では、ヒトIgGヒンジ、CH2、及びCH3領域は、当技術分野で知られている方法を使用して、本開示のペプチドのアミノ末端又はカルボキシル末端のいずれかにおいて、融合されうる。結果として得られる融合ポリペプチドは、プロテインAアフィニティーカラムを使用して精製されうる。Fc領域に融合したペプチド及びタンパク質は、インビボにおいて、融合していない対応物よりも実質的に長い半減期を示すことが判明している。また、Fc領域への融合は、融合ポリペプチドの二量体化/多量体化を可能にする。Fc領域は、天然のFc領域であってよく、あるいは、治療上の性質、循環時間、又は凝集の低減など、特定の性質を改善するために変更されてもよい。
【0039】
ポリペプチドはまた、硫黄、リン、ハロゲン、金属などを含むように改変されてもよい。アミノ酸模倣体をポリペプチドの生成に用いることができ、したがって、本開示のポリペプチドは、分解に対する耐性などの向上した特性を有するアミノ酸模倣体を含みうる。例えば、ポリペプチドは、1つ以上(例えば、すべて)のペプチド単量体を含みうる。
【0040】
本開示はまた、本明細書に定められ、かつ、本開示の全長の阻害剤ペプチド配列をコードする核酸配列と少なくとも約80%の核酸配列同一性を有する、本開示の神経保護ペプチド、好ましくはTRPM2イオンチャネルの活性阻害剤をコードする核酸分子を提供する。通常、本開示の変異体ポリヌクレオチドは、本明細書に開示される全長のTRPM2阻害剤タンパク質配列をコードする核酸配列と少なくとも約80%の核酸配列同一性、あるいは、少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の核酸配列同一性を有する。変異体は、天然のヌクレオチド配列を包含しない。
【0041】
通常、変異体ポリヌクレオチドは、少なくとも約5のヌクレオチド長、あるいは、少なくとも約6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、105、110、115、120、125、又は130のヌクレオチド長であり、この文脈において、用語「約」とは、参照されたヌクレオチド配列の長さにその参照された長さの10%をプラス又はマイナスすること意味する。本開示の変異体ポリペプチドは、本開示の変異体ポリヌクレオチドによってコードされるものでありうる。
【0042】
これらのポリヌクレオチドは、特定の宿主生物において作動可能に連結されたコード配列の発現に必要なDNA配列である、制御配列を含みうる。原核生物に適している制御配列は、例えば、プロモーター、任意選択的にオペレーター配列、及びリボソーム結合部位を含む。真核細胞は、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、及びエンハンサーを利用することが知られている。核酸は、それが別の核酸配列と機能的関係に置かれたときに、「作動可能に連結」される。例えば、プレ配列又は分泌リーダーのためのDNAは、ポリペプチドの分泌に関与するプレタンパク質として発現される場合に、ポリペプチドのDNAに動作可能に連結される;プロモーター又はエンハンサーは、それが配列の転写に影響する場合に、コード配列に動作可能に連結される;あるいは、リボソーム結合部位は、それが翻訳を容易にするように配置されている場合に、コード配列に動作可能に連結される。一般に、「作動可能に連結」とは、結合しているDNA配列が連続していることを意味し、分泌リーダーの場合には、連続しており、かつリーディングフェーズにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは連続している必要はない。結合は、好都合な制限部位でのライゲーションによって達成される。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプター又はリンカーが、従来の実施にしたがって用いられる。
【0043】
本開示はまた、TRPM2イオンチャネルの単離されたペプチド阻害剤を提供する。「単離された」とは、本明細書に開示されるさまざまなペプチドを説明するために用いられる場合には、同定及び分離され、及び/又は、その中性環境の構成成分から回収されたポリペプチドを意味する。その中性環境の汚染成分は、典型的には、ポリペプチドの診断的又は治療的使用に干渉するであろう材料であり、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性又は非タンパク質性の溶質を含みうる。好ましい実施態様では、ポリペプチドは、(1)スピニングカップ配列決定装置を使用して少なくとも15残基のN-末端又は内部アミノ酸配列を得るのに十分な程度に、あるいは(2)クーマシーブルー又は、好ましくは、銀染色を使用する非還元又は還元条件下でSDS-PAGEによって均質性を示す程度まで、精製される。タンパク質中性環境の少なくとも1つの構成成分が存在していないであろうことから、単離ポリペプチドは、組換え細胞内にインサイチュのポリペプチドを含む。しかしながら、通常、単離ポリペプチドは、少なくとも1つの精製工程によって調製される。
【0044】
本開示のペプチドは、「タグポリペプチド」に融合した本開示のTRPM2阻害剤ペプチドを含むキメラポリペプチドを指す、「エピトープタグ」ペプチドを含みうる。タグポリペプチドは、それに対する抗体を作ることができるエピトープを提供するのに十分であるが、それが融合する阻害性ポリペプチドの活性と干渉しないように十分に短い残基を有する。タグポリペプチドはまた、好ましくは、抗体が他のエピトープと実質的に交差反応しないように、かなり唯一的でもある。適切なタグポリペプチドは、概して、少なくとも6のアミノ酸残基、通常は約8から50のアミノ酸残基(好ましくは、約10から20のアミノ酸残基)を有する。
【0045】
本開示のペプチドは、本開示のペプチドが付着又は結合することができる非水性マトリクスである、「固体相」又は「固体支持体」に連結又は関連づけられうる。本明細書に包含される固体相の例としては、部分的に又は全体的に、ガラス(例えば、制御された細孔ガラス)、多糖類(例えば、アガロース)、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリビニルアルコール及びシリコーンの形態のものが挙げられる。ある特定の実施態様では、文脈に応じて、固体相は、アッセイプレートのウェルを含みうる;他には、それは、精製カラム(例えば、アフィニティクロマトグラフィーカラム)である。この用語はまた、米国特許第4,275,149号に記載されるものなど、離散粒子の不連続な固体相も含む。
【0046】
本明細書の目的で「活性な」又は「活性」とは、TRPM2イオンチャネルを横断するカルシウムイオンの流量を低下させるなど、TRPM2イオンチャネルの活性を阻害するペプチドを指す。本開示はまた、本明細書に開示される天然のTRPM2タンパク質の生物学的活性を部分的に又は完全に遮断、阻害、又は中和する任意の分子を含む、TRPM2イオンチャネルの「アンタゴニスト」を提供する。適切なアンタゴニスト分子には、特に、天然のTRPM2タンパク質、ペプチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、有機小分子等のアンタゴニスト抗体又は抗体断片、断片又はアミノ酸配列変異体が含まれる。TRPM2タンパク質のアンタゴニストを同定する方法は、TRPM2タンパク質をアンタゴニスト分子の候補と接触させること、及び、通常はTRPM2イオンチャネルタンパク質に関連する1つ以上の生物学的活性における検出可能な変化を測定することを含みうる。
【0047】
治療/療法
ある特定の実施態様では、本開示は、治療する(例えば、緩和する、改善する、軽減する、安定化する、その発症を遅延させる、その進行を阻害する、その重症度を軽減する、及び/又はその発生率を低減する)ため、及び/又は、被験体における、脳卒中、脳卒中に関連するTBI又は心停止又は1つ以上の症状、脳卒中後の脳傷害又は神経障害、脳傷害を予防するための方法及び組成物を提供する。本方法及び組成物はまた、例えば心停止後の全脳虚血などの脳虚血から結果的に生じる神経障害の治療及び/又は予防にも有用でありうる。本方法及び組成物はまた、外傷性脳損傷(TBI)の治療に有用である。追加的に、本方法及び組成物はまた、神経損傷の後、若しくは活発な又は所定のリハビリテーションプログラムの間に、例えば患者の回復又はリハビリテーションにおけるシナプス機能及び記憶を改善することによって、これらの神経学的傷害からの患者の回復を支援するのに有用でありうる。実際、データは、本開示の活性ペプチドの遅延投与が、脳卒中、心停止、及びTBIの後のオス及びメスの両方の記憶を改善することを示唆している。
【0048】
追加的に又は代替的に、本方法及び組成物は、神経変性障害、末梢神経障害、又は神経因性疼痛の治療及び/又は予防に有用であってよく、ここで、神経変性障害は、アルツハイマー病、多発性硬化症、HIV関連認知障害、ハンチントン病、パーキンソン病、及び筋萎縮性側索硬化症から選択される。データは、TRPM2チャネルは、酸化的ストレス条件下で活性化され、その結果、損傷及び機能不全に寄与することから、TRPM2チャネルが、神経変性疾患の発症に関与することを示唆している。例えば、パーキンソン病及びアルツハイマー病はいずれも、酸化的ストレスが強く関与している神経変性障害であり、これらの障害の病因におけるTRPM2の役割を論理的にする。よって、本開示はまた、パーキンソン病及びアルツハイマー病を含む神経変性障害の治療及び/又は予防に有用な方法及び組成物を提供する。
【0049】
追加的に又は代替的に、本方法及び組成物は、被験体における認知機能の向上に有用でありうる。例えば、本方法及び組成物は、シナプス機能を高めるため、及び/又は記憶を向上させるために被験体に投与されうる。これらの効果は、神経変性障害の進行を低減又は遅延させ、又は神経損傷からの回復を増進しうる。
【0050】
追加的に又は代替的に、本方法及び組成物は、炎症、虚血、アテローム性動脈硬化症、喘息、自己免疫疾患、糖尿病、関節炎、アレルギー、移植拒絶、感染、糖尿病性神経障害の疼痛、胃痛、帯状疱疹後神経痛、線維筋痛、外科手術、又は慢性背部痛の治療及び/又は予防に有用でありうる。
【0051】
これらの方法では、被験体はヒトでありうる。被験体はオス又はメスでありうる。特定の実施態様では、被験体はヒト男性でありうる。
【0052】
これらの治療方法は、本開示のペプチドを含む医薬組成物を被験体に投与することを含む。ある特定の実施態様では、治療方法は、被験体におけるTRPM2の活性を阻害する(少なくとも10%(例えば、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、又はそれ以上)ことをさらに含む。
【0053】
これらの方法は、損傷が被験体に維持された後に、脳卒中を含む神経損傷を有する、又は神経損傷を有する疑いのある被験体への本開示のペプチドの投与を含みうる。ペプチドは、神経損傷が生じた時点から1ヶ月以内に、最初に被験体に投与されうる。好ましくは、ペプチドは、神経損傷が生じた時点から96時間以内、又は8日間以内に被験体に投与される。さらに好ましくは、ペプチドは、神経損傷が生じた時点から1時間から96時間以内に最初に投与される。さらに好ましくは、ペプチドは、神経損傷が生じた時点から1分から5時間以内に最初に投与される。
【0054】
併用療法
追加的に、本開示の神経保護ペプチド(又は、このようなペプチドを含む医薬組成物)が、脳卒中、又は脳卒中後の神経障害の予防及び/又は治療に有効であることが現在知られているか、又は後に見出される、少なくとも1つの他の薬物又は療法と併用して投与されうる、治療方法(及び組成物)が本明細書に開示される。薬物は、アスピリン、クロピドグレル、又は組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)などの抗凝固剤又は血栓溶解薬でありうる。薬物は、リシノプリルなどのACE阻害剤、あるいは、ワーファリン、又はヘパリン、又はアピキサバン、又は、アトルバスタチン又はロスバスタチンなどのスタチン、又はイルベサルタン、又はレテプラーゼ、又はアルテプラーゼなどの血液希釈剤でありうる。
【0055】
企図される療法には、頚動脈内膜切除、又は血管形成術、又はステント留置などの外科手術が含まれる。企図される療法には、脳卒中及び外傷性脳損傷後のリハビリテーション及び回復に特に有効であることが証明されている、身体的又は精神的リハビリテーションプログラムも含まれうる。
【0056】
本開示の神経保護/神経修復ペプチドは、追加的な薬物及び/又は療法の投与前、同時、又はその後に投与されうる。これらの方法は、治療的処置の有効性を評価するステップを含みうる。このような有効性の評価は、任意の数の評価結果に基づいてもよい。評価される有効性のレベルに応じて、本開示の神経保護ペプチドの投与量は、必要に応じて上下に調整することができる。
【0057】
よって、「併用」には、本開示のペプチド及び追加的な薬剤又は療法が、同時に投与されなければならないこと又は一緒に送達されるように処方されなければならないことを含意することは意図されていないが、これらの送達方法は、本開示の範囲内にある。さらには、併用して利用される治療用活性薬剤は、単一の組成物と一緒に投与されてもよく、あるいは、異なる組成物で別々に投与されうることが認識されよう。一般に、各薬剤は、ある用量で、及び/又は、その薬剤について決定されたタイムスケジュールで投与される。
【0058】
概して、各薬剤(この文脈において、「薬剤」のうちの1つは本開示のペプチドである)は、ある用量で、及びその薬剤について決定されたタイムスケジュールで投与される。追加的に、本開示は、バイオアベイラビリティを改善する、代謝を低下又は修正する、排出を抑制する、又は体内分布を修正することができる薬剤と併用した組成物の送達も包含する。
【0059】
併用レジメンで採用する療法(例えば、治療法又は手法)の特定の組合せは、所望の治療法及び/又は手法の相容性、並びに達成すべき所望の治療効果を考慮に入れる。概して、併用利用される薬剤は、個別に利用されるレベルを超えないレベルで利用されることが期待される。幾つかの実施態様では、併用利用されるレベルは、個別に利用されるよりも低い。
【0060】
診断
一実施態様では、本発明にかかる治療方法は、追加的に、神経損傷、傷害、又は神経変性疾患を有する被験体を診断すること、若しくは、治療の間に、治療方法の有効性を診断、又は評価、又はモニタリングすることを含む。脳卒中は、病歴及び身体検査、頭部コンピュータトモグラフィー、磁気共鳴画像、コンピュータトモグラフィー用動脈造影及び磁気共鳴用動脈造影、頚動脈超音波、頸動脈血管造影、EKG(心電図)、心エコー検査、及び/又は血液検査によって診断されうる。
【0061】
治療及び投与のための組成物
神経学的傷害、疾患、及び障害を治療し、本開示の認知機能を高めるための組成物は、当技術分野で知られ、かつ、文献に広く記載されている従来の方法のいずれかに従って処方されうる。よって、活性成分(例えば、本開示のペプチド)は、任意選択的に他の活性物質と一緒に、投与に適した、又は投与用に好適に作られうる従来の調剤を生成するために、組成物の特定の用途に適した従来の薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤等のうちの1つ以上とともに取り込まれうる。担体は、用いられる投与量及び濃度で曝露される細胞又は哺乳動物に対して非毒性である、薬学的に許容される担体、賦形剤、又は安定剤を含みうる。しばしば、生理学的に許容される担体は、水性pH緩衝溶液である。生理学的に許容される担体の例としては、リン酸塩、クエン酸塩、及び他の有機酸などの緩衝液;アスコルビン酸を含む酸化防止剤;低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、又は免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン、又はリシンなどのアミノ酸;単糖類、二糖類、及びグルコース、マンノース、又はデキストリンを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート化剤;例えばマンニトール又はソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成性対イオン;及び/又は、TWEEN(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、及びPLURONICS(登録商標)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。それらは、意図される投与モード及び治療用途に応じて、液体として、半固体又は固体として、溶液、分散液、懸濁液などとして、処方されうる。幾つかの実施態様では、本発明にかかる組成物は、注入可能な又は不溶解性(infusible)の溶液の形態で調製される。本開示のペプチドは、さまざまなタイプの脂質、リン脂質、及び/又は、哺乳動物への薬物(本開示の阻害性ペプチドなど)の送達に有用な界面活性剤で構成されている小胞である「リポソーム」内に処方されうる。リポソームの構成成分は、生物学的膜の脂質配置と同様に、一般に、二重層形成で配置される。
【0062】
本開示の組成物は、血清アルブミンなど(例えば、HSA、BSA等)の担体タンパク質を含みうる。血清アルブミンは、精製又は組換え産生されうる。医薬組成物中の神経保護ポリペプチドを血清アルブミンと混合することによって、神経保護ポリペプチドは、血清アルブミン上に効果的に「負荷」されて、より多量の神経保護ポリペプチドを神経損傷部位に首尾よく送達可能にしうる。
【0063】
本開示の神経学的傷害、疾患、又は神経変性疾患を治療する方法は、静脈内(IV)、筋肉内(IM)、動脈内、髄内、髄腔内、皮下(SQ)、脳室内、経皮、皮膚間、皮内、気管内注入、気管支注入、及び/又は吸入;鼻内噴霧、及び/又はエアロゾルとして、及び/又は門脈カテーテルを介して、を含むさまざまな経路のいずれかを介した本開示のペプチドの投与を含みうる。任意の適切な投与部位が用いられうる。例えば、組成物は、局所的に及び作用が必要とされる部位に直接的に投与されてもよく、あるいは、体内の適切な場所への標的化を容易にするもの(entities)に結合されていてもよいし、若しくは、例えば共役するなど、他の方法で関連づけられていてもよい。
【0064】
これらの組成物では、生理学的に適合する担体、賦形剤、希釈剤、バッファ又は安定剤が用いられうる。適切な担体、賦形剤、希釈剤、バッファ及び安定剤の例としては、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、並びにそれらの組合せのうちの1つ以上が挙げられる。幾つかの事例では、例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール)、又は塩化ナトリウムなどの等張化剤が含まれうる。ある特定の実施態様では、本開示の組成物は、当技術分野でよく知られた手法を用いて被験体に投与した後に、活性成分(本開示のペプチド、又はそれらの変異体及び/又は追加的な薬物)の即時、持続的、又は遅延放出をもたらすように処方されうる。上述のように、ある特定の実施態様では、組成物は、注入に適した形態をしており、適切な担体は、適切な濃度で存在しうるが、例示的な濃度は、1%から20%、又は5%から10%である。
【0065】
治療的組成物は、典型的には、製造及び保管条件下で無菌かつ安定でなければならない。このような無菌性及び安定性を達成するための適切な方法は、当技術分野でよく知られており、説明されている。
【0066】
医薬組成物は、典型的には、投与の容易さおよび投与量の均一性のために単位投薬形態で処方される。しかしながら、本開示の組成物の毎日の(又は他の)合計使用量は、適切な医学的良識の範囲内で主治医によって判断されることが理解されよう。特定の被験体についての特定の治療上有効な用量レベルは、用いられる組成物の活性;投与後の組成物の半減期;被験体の年齢、体重、全体的な健康、性別、及び食事;ペプチド及び(用いられる場合には)用いられる追加的な治療剤の投与時間、投与経路、及び排出速度;治療の持続期間;使用される特定の化合物と併用して又は同時に使用される薬物;及び、医療分野でよく知られる同様の因子を含めたさまざまな因子に応じて決まる。さらには、有効な用量は、インビトロ及び/又はインビボにおける動物モデルから誘導された用量応答曲線から外挿することができる。
【0067】
よって、本開示のペプチド及び他の活性成分(含まれる場合)の適切な用量は、患者によって異なり、脳卒中の重症度/ステージにも依存する。幾つかの実施態様では、該投与量は、関連する治療の性質に応じて、治療的有効量又は予防的有効量を構成する。関連する実施態様では、投与量は、神経修復又はリハビリテーションを強化する量を構成する。個体に所望の反応を引き出すペプチドの能力もまた、因子でありうる。例示的な1日用量は、0.1から250mg/kg、又は0.1から200又は100mg/kg、又は0.5から100mg/kg、又は1から50又は1から10mg/kgの活性成分である。これは、例えば、皮下、腹腔内、又は静脈内に、単回単位用量として、又は1日に1回より多く投与される複数回の単位用量として、投与されうる。しかしながら、適切な投与量は、患者によって異なりうること、及び、任意の特定の被験体のための特定の投与計画は、患者の個々の必要性にしたがって、時間の経過とともに調整されるべきであることに留意すべきである。例えば、投与量及び投与プロトコルは、例えば、一日おき、週に3回、又は週に2回、又は週1回、又は隔週などを含む、1日1回未満にまで、経過とともに、あるいは、患者がリハビリテーションで進歩するにつれて、調整されうる。よって、本明細書に記載される投与量範囲は、例示的なものとみなされるべきであり、特許請求される組成物又は方法の範囲又は実施を制限することは意図されていない。
【0068】
神経学的傷害、神経学的疾患、又は神経変性疾患を治療するためのキット
一態様において、本開示はさらに、本開示のペプチド、又はそれらの変異体、若しくはそれらを含む組成物を含む、神経損傷、神経学的疾患、又は神経変性疾患の治療のためのキットも提供する。キットは、使用説明書;他の治療剤(すなわち、併用療法又は脳卒中の救急治療のため);投与のための組成物を調製するための他の試薬、例えば、希釈剤、デバイス、又は他の物質;薬学的に許容される担体;及び、被験体に投与するためのデバイス、又は他の物質を含むがこれらに限定されない、1つ以上の他の要素を含みうる。使用説明書は、本明細書に記載されるように、例えばヒト被験体における推奨用量及び/又は投与モードを含めた、治療適用のための指示書を含みうる。幾つかの実施態様では、キットは、例えば、治療、診断、又はイメージング方法など、明細書に記載される方法及び用途において使用するためのものであり、あるいは、インビトロでのアッセイ又は方法に使用するためのものである。
【0069】
幾つかの実施態様では、キットは、神経学的な疾患、障害、又は機能障害を診断するためのものであり、任意選択的に、このような神経学的疾患、障害、又は機能障害の重篤度を診断又は評価するためのキット構成要素の使用説明書を含む。
【0070】
動物モデル
上記のように、脳卒中を含めた神経損傷を伴う被験体の予後改善の1つの大きなハードルは、治療可能時間域の欠如である。診断時までに、脳卒中の被害者には永久的な神経障害が持続されている可能性があるる。インビトロ及びインビボにおける実験的な成功と臨床試験における失望との間の相違は、脳卒中の周辺の微小環境を再現する際に現行の実験準備の効率の悪さから生じる可能性が高い。
【0071】
動物の脳卒中モデルは、潜在的治療化合物の前臨床試験にとって重要である。一過性の局所虚血モデルは、脳卒中及び神経保護における創薬のゴールデンスタンダードと考えられている。本開示のTRPM2阻害性ペプチドは、一過性の局所虚血モデルにおける再灌流後の損傷を低減する。
【0072】
よって、本開示の別の態様は、TRPM2チャネルのリガンド(ADPリボース)-結合ポケットを破壊して、活性化を防止することによって、TRPM2チャネルを特異的に阻害する小分子を特定するためのスクリーニングツールを提供する。このスクリーニングツールは、クローン化されたTRPM2チャネルと本開示のTRPM2ペプチド阻害剤(tatM2NXなど)との結合を破壊する分子のスクリーニングを含む。
【実施例
【0073】
以下の実施例は、説明の目的でのみ提供されており、本開示の範囲を限定することは意図されていない。データはすべて、平均±SEMとして提示される。各nは、インビトロでの実験のための個々の培養物及びインビボでの実験のための個々の動物を表している。実験はすべて、無作為化されかつ盲検的な方法で行われ、独立した研究者が分析及び手術を行った。統計的有意性は、2群についてはスチューデントのt検定(対応なし、両側)、及び、2群より多くを用いる研究についてはニューマン-クールズ事後解析を伴う一元配置分散分析(ANOVA)を使用して決定された。統計的有意性は、p<0.05で確立された。
【0074】
実施例1: tat-M2NXは、インビトロにおいてヒトTRPM2チャネルを阻害する
我々は、ADPr結合ポケットを破壊する模倣ペプチドが、TRPM2チャネルの強力かつ特異的な阻害剤であろうと推論した。我々は、HIVのTAT誘導因子、YGRKKRRQRRR(配列番号2)を有する、TRPM2チャネルのC-末端のNUDT9-H領域のNudixドメイン(Nudixドメイン=M2NX)に対応するC末端、1386-GSREPGEMLPRKLKRVLRQEFWV-OH(配列番号1)の一部を融合することによって、TRPM2の細胞透過性ペプチド阻害剤を生成した。我々は、M2NXペプチドが、NUDT9-H内の幾つかの残基と相互作用してADPリボース結合ポケットを破壊する、模倣ペプチドとして作用するであろうと予測した。加えて、スクランブル配列内に同じアミノ酸を含む対照ペプチド(「tat-SCR」)を生成した。種間で一貫してTRPM2チャネルを阻害する配列番号3の配列(「tat-M2NX」)を有するこのペプチド構築物の能力を決定するため、我々は、テトラサイクリン誘発性のヒトFLAGタグ付きTRPM2チャネル(hTRPM2)を安定して発現するヒト胚性腎-293(HEK-293)細胞株を使用した。
【0075】
FLAGタグ付きヒトTRPM2のテトラサイクリン調節されるサイトメガロウイルス駆動性転写を安定して発現するHEK-293細胞を使用した。TRPM2発現HEK-293細胞を、5%COインキュベータ内で、37℃で、10%ウシ胎児血清、L-グルタミン(2mM)、及びペニシリン/ストレプトマイシン(100単位/mL)を補充したダルベッコ改変イーグル培地で増殖させた。増殖培地にブラストサイジンS(InvivoGen社、5μg/mL)及びゼオシン(InvivoGen社、0.4mg/mL)を補充して安定なTRPM2発現を促進した。
【0076】
HEK細胞を、実験の24時間前にTRPM2発現を推進するためにドキシサイクリン(1μg/mL)を含む培地に25,000細胞/ウェルでポリ-D-リシン(0.1mg/mL)でコーティングした96ウェルプレートに播種した。細胞を、tat-M2NX(25、50、及び100μM)、tat-SCR(25、50、及び100μM)又はビヒクルを有する50μLのドキシサイクリン含有培地で2又は5時間、プレインキュベートした。Fluo-5F、AM(Life Technologies社、10μM)、膜透過性Ca2+指示薬を、インキュベーションの最後の30分間に培地に加えた。細胞を2回洗浄し、50μLの生理食塩水(135mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl、1mM CaCl、10mM HEPES;pH 7.4)中に置いた。ベースライン蛍光を、マイクロプレートリーダー(BioTek Synergy 2)及びGen5ソフトウェアを使用して確立し、蛍光(485/20、528/20)を測定した。細胞を、2分間20秒ごとに励起波長に曝露した後に、H(200μMの最終濃度)又は生理食塩水(対照)をウェルに適用し、10分間、20秒ごとに記録した。
【0077】
TRPM2チャネル活性を、Ca2+指示薬Fluo-5Fを使用して測定し、200μMのHで処理した後、細胞内Ca2+の増加として検出される蛍光の変化をモニタリングした。Hへの曝露は、hTRPM2を発現するHEK-293細胞の蛍光を増加させたのに対し、非誘発性のHEK-293細胞には変化が見られず、インビトロ系におけるチャネルの機能性が示唆された(図1A及びB)。hTRPM2を発現するHEK-293は、100μMのtat-M2NXとともに2時間のインキュベーションした後にH誘発性のCa2+流入を低減させたのに対し、tat-SCRペプチドでの処理は、TRPM2チャネル活性化によるH誘発性のCa2+流入に効果を有しなかった。さらなる実験は、hTRPM2を発現するHEK-293細胞における25、50、及び100μMのtat-M2NXへの曝露後のCa2+流入の濃度依存性の減少を明らかにした(図1A及び1B)。これらのデータは、tat-M2NXは、ヒトTRPM2チャネルを阻害し、虚血後のTRPM2チャネルの役割を評価するためのさらなるツールを提供することを実証している。
【0078】
実施例2: tat-M2NXは、オスの脳の梗塞体積を縮小するが、メスの脳の梗塞体積は縮小しない
本発明者らは、以前に、抗真菌剤クロトリマゾール(CTZ)を使用して、インビトロにおけるTRPM2に関連する神経保護及びインビボにおける梗塞体積の縮小を実証した。脳卒中後の虚血性傷害におけるtat-M2NXの効果を調べるため、我々は、WTオス及びメスマウスを60分間の一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)に供し、全体の半球梗塞体積を解析した。tat-M2NX又はtat-SCRをMCAの閉塞の20分前に注射し、及び梗塞体積を再灌流後24時間、解析した。
【0079】
一過性の局所性脳虚血(60分間)を、以前に記載された管腔内フィラメント技術通じた可逆的MCAOを使用して誘発した(Shimizu T, Macey TA, Quillinan N, Klawitter J, Perraud A-LL, Traystman RJら, Androgen and parp-1 regulation of trpm2 channels after ischemic injury. Journal of Cerebral Blood Flow & Metabolism. 2013; 33:1549-1555)。簡潔に言えば、マウスを、フェイスマスクを介して送達されたイソフルランで麻酔した(5%誘導及び1~2%維持)。左鼓膜に隣接して配置されたプローブを用いて頭部の温度をモニタリングし、直腸プローブを用いて体部の温度をモニタリングした。温度を、電気加熱パッド及び加熱灯を用いて、MCAO外科手術全体を通じて36.5±1.0℃に維持した。レーザードップラープローブ(モデル、Moor Instruments社、英国イングランド、オックスフォード所在)を右頭蓋骨に固定して、皮質灌流をモニタリングし、血管閉塞及び再灌流を確認した。前頸部の中央に皮膚切開を行った。右総頸動脈を6-0のシルク縫合糸を用いて締め付けた後、シリコーンコーティングされた先端を有する6-0ナイロンモノフィラメントを、外頸動脈を介して、レーザードップラー血流計(LDF)値がベースラインの20%未満に低下するまで、右内頚動脈内に挿入した。フィラメントを適所に固定した後、切開部を6-0のシルク縫合糸で閉じた。各マウスを、ケージの下に温水パッドを有する別々のケージに入れた。閉塞期間の終わりに、マウスを再び麻酔するとともに、レーザードップラープローブを右頭蓋骨の同じ部位に再配置し、閉塞フィラメントを再灌流のために引き抜いた。次に、マウスを観察下で回復させた。
【0080】
対応する再灌流期間の後、マウスを5%イソフルランで麻酔し、頭部切除して脳を回収した。マウスは、クモ膜下出血が観察された場合には、研究から除外した。各大脳を2mm厚の4つの冠状切片へとスライスした。切片を、37℃で30分間、1.2%の塩化2,3,4-トリフェニルテトラゾリウム中に置き、10%ホルマリン中で24時間固定した。各冠状スライスを染色し、デジタルカメラを使用して両面を撮影し、梗塞をImageJ(NIH社、米国メリーランド州ベセスダ所在)で測定し、5つの切片すべてを統合した。浮腫の影響を含めるために、梗塞体積間接的に推定し、反対側の構造のパーセンテージとしてプロットしたが、これは、修正された半球梗塞として提示される。
【0081】
tat-M2NX又はtat-SCRペプチドを生理食塩水(5mg/mL)に溶解させ、指示されたタイミングで後眼窩に注射した(20mg/kg)。簡潔に言えば、動物を導入麻酔ボックス内で3分間、4%イソフルランで麻酔し、頭を右に向けて左側臥位に置いた。インスリン注射器(BD Ultra-fine Needle 12.7mm×30G)を、球後空間(retro-bulbar space)内に45°の角度で挿入した。針の先端を後眼窩洞に侵入するように導入し、溶液を注入した。注入後、目を傷つけるのを防ぐために、ベベルを外向きに保って、針を慎重に取り除いた。
【0082】
MCA閉塞は、ドップラー血流で測定してオスとメスのマウスで同様であり、血圧などの生理学的変数にはtat-M2NXの効果はなかった。tat-M2NXで処理したオスは、それぞれ、tat-SCRと比較してより小さい梗塞体積を示した(29.2±4.6%[n=8]対43.4±3.2%[n=8;p<0.01])(図1D)。対照的に、t tat-SCR(46.6±2.1%[n=7])又はtat-M2NX(45.1±2.1%[n=7]、図1D)に曝露されたメスマウスにおける脳卒中後の梗塞のサイズには差異はなかった。Together、これらのデータは、ともに、CTZを使用して前述したように、インビボにおいてTRPM2チャネル活性を阻害する、及びオス特有の神経保護を生成する、tat-M2NXの能力を実証している。
【0083】
実施例3: tat-M2NXは、TRPM2ノックアウトと比較してさらなる保護を提供しない
TRPM2チャネルについてのtat-M2NXの特異性をさらに特徴付けるために、我々は、tat-M2NXの神経保護効果を、TRPM2ノックアウトマウス(TRPM2-/-)のものと比較した。オスTRPM2-/-では、WTオスマウスと比較して、梗塞体積を低減させた(それぞれ27.3±5.1%(n=8)対46.1±6.0%(n=7;p<0.05))(図2)。WTとTRPM2-/-のメス間には、梗塞体積の差異は観察されなかった(35.0±4.6%[n=9]対44.2±3.2%[n=6]、図2)。tat-M2NXの投与は、オスTRPM2-/-における梗塞体積をさらには低減せず、tat-M2NXによるTRPM2チャネルに対する特異性のさらなる証拠を提供した。
【0084】
実施例4: tat-M2NXは、翻訳関連治療濃度域を実証している
脳卒中の臨床試験は、さまざまな理由で失敗してきたが、その多くは、関連治療濃度域に起因して失敗している。虚血性脳卒中後の薬理的介入のためのケアの基準は、依然として、症状発現から3~4.5時間以内に組織プラスミノーゲン活性化因子(tPA)を与えている。したがって、我々は、WTのオスマウスにおける再灌流の3時間後(虚血発症の4時間後)に投与されるtat-M2NXが、神経保護を提供できるか否かについて試験した。tat-M2NX又はtat-SCRを、再灌流の3時間後に静脈内投与し、注入後24時間又は96時間のいずれかにおいて脳を回収し、梗塞のサイズの程度を解析した。tat-M2NXは、脳卒中後24時間及び96時間における梗塞体積を、tat-SCRと比較して、顕著に低減させた(図3C、24時間:tat-SCR46.5±7.3%(n=6)対tat-M2NX28.3±13.5%(n=7、p<0.05);96時間:tat-SCR41.4±8.0%(n=8)対tat-M2NX23.8±12.5%(n=8、p<0.05))。対照的に、MCAOの3時間後の非選択的TRPM2阻害剤クロトリマゾール(CTZ)の投与では、梗塞体積における効果は有しなかった(図3C、ビヒクル47.0±9.9%対CTZ46.8±7.4%)。これらのデータは、tat-M2NXは、神経保護のみならず、CTZよりも幅広い治療濃度域も有し、tPAの臨床的介入と同様であることを示している。
【0085】
実施例5: tat-M2NXは、老齢期のオスマウスに神経保護を提供する
脳卒中の発生率は、すべての種族間及び男女両性において、年齢とともに増加する。したがって、我々は、tat-M2NXが老齢期マウスに保護をもたらすか否かについて試験した。18~20月齢のオス及びメスマウスを、60分間のMCAOに供し、再灌流の30分後にtat-M2NX又はtat-SCRを投与した。梗塞体積を24時間後に解析した。若齢成熟期のデータと一致して、tat-M2NXを与えられた老齢期のオスマウスは、tat-SCRを与えられた老齢期のオスと比較して、より小さい梗塞体積を有していた(それぞれ、27.0±0.7%[n=6]対34.6±1.7%[n=6](図4);p<0.01)。興味深いことに、対照の老齢期オスマウス(tat-SCR処理)は、以前の報告と一致して、若齢成熟(YA)マウスと比較してより小さい梗塞部を有していた(REFS:McCullough)(それぞれ、27.0±0.7%[n=6]対52.1±2.7%[n=6]、(図4))。対照的に、tat-M2NXは、tat-SCRと比較して、老齢期のメスには神経保護をもたらさなかった(40.2±4.0%[n=6]対41.5±4.5%[n=6]、図4)。これらのデータはともに、TRPM2チャネルが、老齢期のオスにおける脳卒中後の急性虚血性細胞死に寄与しているが、メスでは寄与しないことを示唆している。
【0086】
実施例6: tat-M2NXは、TRPM2チャネルを遮断し、オスにおける梗塞体積を低減するが、メスでは低減しない
我々の研究は、より老齢の動物における継続的な有効性を実証するために、老齢期の動物を使用した。前臨床試験における老齢期の動物の研究が必要とされているが、年齢と治療との相互作用について報告している研究は、比較的少数である。この問題は、高齢でのアンドロゲンレベルの変化及びアンドロゲン関連経路によるTRPM2チャネルの活性化を考慮すると、特に関係がある。去勢によって保護が除かれ、DHTの補充(replacement)がCTZの投与後に観察される保護を助けることから、これまでに、オスにおけるTRPM2阻害後の保護には、アンドロゲンの存在が必要であることが実証されている。我々は、老齢期のオスマウスにおける低いアンドロゲンがtat-M2NXの神経保護の消失を生じるであろうと推測した。したがって、我々は、マウスの生存期間にわたるテストステロン及び高効能のジヒドロテストステロン(DHT)の血清レベルを評価した。
【0087】
オスのナイーブマウスのコホートをAvertinの過剰摂取(腹腔内)によって殺処理し、ヘパリン化シリンジを用いて心臓の右心室から血液サンプルを採取した。血液サンプルを4℃で10分間、3300gで遠心分離して、ホルモン検出のために血清を得た。血清は、使用するまで、-80℃で保管した。テストステロン(Calbiotech社、米国カリフォルニア州スプリングバレー所在)及びジヒドロテストステロン(DHT、米国テキサス州所在のAlpha Diagnostic International社)についての酵素結合免疫測定法を、製造業者のプロトコルに従って実施した。
【0088】
テストステロンレベルは、若齢成熟期と比較して高齢マウスで減少した(図5A)が、しかしながら、高効能のジヒドロテストステロン(DHT)では、年齢間での変化はなく(図5B)、DHTレベルが依然として、老齢期のオスマウスのTRPM2チャネルに関与する(engage)のに十分に高く維持されることが示唆される。本明細書に提示されるデータはともに、TRPM2チャネルを遮断し、オスの梗塞体積を低減するが、メスでは低減しない、新規ペプチドを使用する重要な前臨床試験を表している。
【0089】
実施例7: TRPM2阻害は、心停止誘発性の神経損傷を軽減する
34-merである本開示のTRPM2阻害剤:YGRKKRRQRRRGSREPGEMLPRKLKRVLRQEFWV(配列番号3;「tat-M2NX」)を、オス及びメスマウスにおける心停止/心肺蘇生法(CA/CPR)誘発性の神経損傷を低減する能力について試験した。保護効力を決定するため、我々は、オス及びメスマウスにおいて、8分間の心停止からの蘇生後30分に、静脈内(iv)注射によって、20mg/kgのスクランブル対照(tat-SCR)又は20mg/kgのtat-M2NXのいずれかを投与した。蘇生の3日後にヘマトキシリン及びエオシン(H&E)染色を使用する虚血性CA1ニューロンの定量化は、tat-M2NXの静脈内注射が、オスのマウスにおける虚血性傷害に対する強力な保護を提供する(傷害を、tat-SCR処置したオスにおける44.9±7.5%(n=12)から20.0±5.1%(n=12、P<0.05)へと低減)が、メスの傷害には影響を与えないことを示した(図6A、6B、7A、7B)。加えて、先に実験的脳卒中で報告したように、我々は、オスWT対照と比較してTRPM2のKOオスマウスにおいてCA1神経損傷を大幅に低減したが、メスのTRPM2のKO及びWTマウスにおけるCA1傷害には差がなかったことを観察した。低用量のtat-M2NXを使用して生成されたデータは、1mg/kgの低用量でのオスのマウスにおけるMCAO後の神経保護を実証した。
【0090】
CA/CPRによって誘発された虚血によって、海馬シナプス可塑性が少なくとも30日間、損なわれるという報告に続いて、我々はまた、NMDA受容体機能(又はシナプス前放出、興奮性)に変化がないことも観察しており、他の信号伝達経路がLTP機能障害に関与している。したがって、tat-M2NXの急性投与が、オスの動物に持続的な機能的利益を提供するか否かの決定を開始するため、我々は、CA1ニューロンの細胞外場記録を行い、tat-SCR及びtat-M2NXで処置したマウスにおけるCA/CPR後のシナプス可塑性を測定した。CA1場の興奮性シナプス後電位(fEPSPs)に対するシャッファー側枝(CA3軸索)を記録した。シャム対照の切片では、20分間の安定なベースラインの後、簡単な生理学的θバースト刺激(simulation)(TBS:10Hzで40パルス)は、fEPSPの傾斜を161±9.2%へと増加させ(n=6、ベースラインと比較してP<0.05)、これは、60分間の記録全体にわたって持続され、したがってLTPと呼ばれる(図7A-黒のトレース)。対照的に、対照ペプチド(tat-SCR)で処置した虚血後マウスに由来する脳切片から得られた記録は、細胞が同一のTBS刺激に曝露されたときに、LTPのほぼ完全な喪失を示した(7日目:105.0±8.6%(n=8);30日目:109.2±14.2%(n=7;図2)、シャム対照と比較して、いずれもP<0.05)。重要なことには、電気生理学的実験は、シナプス前放出(PPR)におけるCA/CPRの最小効果、AMPA/NMDA比、又は全体的な興奮性(I/O)10を実証している。CA/CPRの7日又は30日後かつtat-M2NXで処理した(CAの30分後)マウスから採取した海馬の切片からの記録は、TBS後のLTPが、シャム対照と区別できなかったことを示した(7日目:188.1±22.0%(n=5);30日目:184.0±13.8%(n=5;図8A及び8B)、いずれもシャム対照と比較して有意ではなく、各群のベースラインからP<0.05であった)。これらの実験は、tat-M2NXの虚血後投与が、シナプス機能の持続的な保護を提供し、認知転帰を改善することを実証している。
【0091】
実施例8: 虚血後のTRPM2チャネルの持続的活性化の阻害は、記憶機能及びシナプス可塑性を改善する
TRPM2チャネルがシナプス可塑性における虚血誘発性機能障害に関与するかどうかを評価するため、我々は、虚血性脳損傷を被ってから数日後に得られた脳切片におけるTRPM2チャネルを阻害した。上記のデータと一致して、CA/CPR後、7日間にわたりマウスの脳切片において得られた記録は、細胞が、シャム対照マウスにおいて強力なLTPを刺激する同じTBS刺激に曝露されたときに、LTPのほぼ完全な喪失を示した(図9A及び9B)。意外なことに、1時間のTRPM2チャネル阻害剤クロトリマゾール(CTZ;20μM)の浴適用は、CA/CPR誘発性のLTPの喪失を逆転させ、149.8±26%に回復した(n=3;同じ日に同じ動物から記録された対の(paired)7日目のCA/CPRの切片と比較して、P<0.05)。さらには、我々は、CTZが、同等に効果的にメスのCA/CPRを誘発性のLTPの喪失を救済し、150.1±17%へと回復したという非常に驚くべき観察をした(n=2;図8B)。虚血後の切片を、1μMのtat-M2NX中で2時間、インキュベートし、シナプス可塑性を測定した。図8A(赤のトレース)は、tat-M2NXの曝露後の障害の逆転を実証している(n=3)。この挑発的なデータは、2つの大きな意味合いを有している:1)CA/CPRが、オス及びメスの両方において海馬CA1ニューロンのTRPM2チャネルの持続的活性化を生じ、かつ、2)脳虚血後の回復の亜急性期から慢性期の間の海馬のTRPM2チャネル活性は、シナプス可塑性を阻害する。
【0092】
損なわれたシナプス可塑性における持続的なTRPM2チャネル活性の役割を確認するため、我々は、インビボにおける海馬機能を救済するtat-M2NXの遅延投与の能力を評価するために追加的な実験を行った。マウスを、8分間の心停止及びCPRに供し、蘇生の6日後にtat-M2NX(20mg/kg)を投与した。tat-M2NXの投与の24時間後(CA/CPR後7日目)、急性海馬の切片を得て、場記録を行い、シナプス可塑性(LTP)を評価した。図9A及び9Bは、インビボにおけるtat-M2NXの遅延投与が海馬LTPにおけるCA/CPR誘発性の機能障害を逆転させ、171±11%へと回復させるという我々のエキサイティングな発見を説明している(n=6、ペプチドで処理した4匹のマウスからの記録;7日目のCA/CPRの切片と比較してP<0.05)。図9Bはさらに、インビボにおける遅延tat-M2NX処理が、オス及びメスマウスにおけるシナプス可塑性を救済し、メスのLTPを170±16%まで回復させる(n=3)ことを確認することによって、この観察を拡張したことも実証している。インビボにおけるLTPのCA/CPR誘発性の機能障害を逆転させるtat-M2NXの能力は、これが、遅延された時点での機能回復を改善するための実行可能な手法であることを示している。図9A(赤いトレース)及び9Bは、メスTRPM2-/-マウスは、WTメスマウスと同程度の障害を示すことから、神経損傷とは独立して、損なわれたLTPにおけるTRPM2の役割と一致して、CA/CPRによってメスTRPM2-/-マウスにおけるLTPが損なわれないことを示している。
【0093】
重要なことには、tat-M2NXの遅延投与は、虚血後マウスの記憶機能を改善する。我々は、十分に確立された海馬記憶課題、文脈的恐怖条件付け(CFC)を利用した。簡潔に、マウスを新しい環境に曝露し、その環境に馴化した後、軽度のフットショックを与え(1mA)、次に、それらのホームケージに戻した。フットショックの24時間後、マウスをCFC環境に戻し、10分の試験の間に凍結挙動を解析する。環境の記憶は、シャムマウスに見られるように、凍結挙動を呼び起こす(図10A)。対照的に、CA/CPRは、凍結挙動に顕著な低下を生じ(図10A)、記憶の喪失が示唆される。重要なことには、海馬依存性記憶の損失は、CA/CPRの7日後(図10A)及び30日後(図10B)のいずれにおいても観察される。予備実験は、上述の我々のシナプス可塑性実験と一致して(図9A及び9B)、tat-M2NXの遅延投与(7日目)が、記憶機能を改善する(図10A)ことを示唆している。
【0094】
実施例9: TRPM2の阻害は、外傷性脳損傷(TBI)後の神経機能を増進する
中等度/重度の外傷性脳損傷のマウスモデルを使用した。制御性皮質衝撃(CCI)モデルを使用し、このモデルにTBIを投与した直後に、我々のtat-M2NX TRPM2阻害剤を注射した。運動機能及び記憶機能の解析を、TBIからの回復後7日間、行った。運動機能は、肢の使用及び対側肢の使用の減少を測定するシリンダー試験を使用して解析し(この事例では、R皮質損傷のため、左足を使用)、運動障害が示唆される。記憶機能試験は、上述の文脈的恐怖条件付け(CFC)課題である。図11Aは、TBI後にTRPM2阻害剤(記憶の事例ではTRPM2 KOマウスも)で処置したマウスにおける、運動機能の改善を示しており、図11Bは、記憶機能の改善を示している。さらには、図9に実証されるように、TRPM2阻害は、TBI誘発性のLTP障害を逆転させる。
【0095】
実施例10: TRPM2チャネルの阻害はシナプス可塑性におけるβ-アミロイド誘発性の低下を防止する
TRPM2チャネルがシナプス可塑性におけるアミロイド誘発性の機能障害に関与するか否かを評価するため、我々は、アミロイドβに曝露された脳切片におけるTRPM2チャネルを阻害した。β-アミロイド及び本開示のTRPM2ペプチド阻害剤(tatM2NX)の存在下又は不存在下におけるマウスの脳切片で得られた記録(図12A)は、TRPM2チャネル阻害が、シナプス可塑性においてβ-アミロイド誘発性の低下から保護したことを示しており(図12B)、これは、本開示のペプチドが、アルツハイマー病の進行の治療又は遅延に有用であることを示している。
【0096】
本開示は、本開示の個々の態様の単一の例示として意図されている本明細書に記載の特定の実施態様によって範囲を限定されるべきではなく、機能的に同等の方法及び構成要素は、本開示の範囲内にある。実際、本明細書に示されかつ記載されたものに加えて、本開示のさまざまな修正が、前述の説明及び添付の図面から当業者に明白になるであろう。このような修正は、特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図されている。
図1A-B】
図1C-D】
図2
図3A-B】
図3C
図4
図5A-B】
図6A-B】
図7A-B】
図8A-B】
図9A-B】
図10A-B】
図11A-B】
図12A-B】
【配列表】
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