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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】自動変速機のアップシフト制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/06 20060101AFI20220808BHJP
   F16H 63/50 20060101ALI20220808BHJP
   F16H 61/686 20060101ALI20220808BHJP
   F16H 59/68 20060101ALI20220808BHJP
   F16H 61/08 20060101ALI20220808BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20220808BHJP
   B60W 10/11 20120101ALI20220808BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20220808BHJP
   B60W 10/115 20120101ALI20220808BHJP
【FI】
F16H61/06
F16H63/50
F16H61/686
F16H59/68
F16H61/08
B60W10/00 110
B60W10/06
B60W10/115
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018048871
(22)【出願日】2018-03-16
(65)【公開番号】P2019158086
(43)【公開日】2019-09-19
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 吉彦
(72)【発明者】
【氏名】岩本 育弘
【審査官】田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-051268(JP,A)
【文献】特開2008-082535(JP,A)
【文献】特開2017-129232(JP,A)
【文献】特開平07-139381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/06
F16H 63/50
F16H 61/686
F16H 59/68
F16H 61/08
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 10/115
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動源と、
前記走行用駆動源に連結され、複数の変速段と複数の摩擦要素を有する自動変速機と、
アップシフト要求があると、前記複数の摩擦要素のうち解放クラッチを解放し締結クラッチを締結する架け替えによりアップシフトを実行するATコントローラと、
を備える自動変速機のアップシフト制御装置において、
前記ATコントローラは、前記アップシフト要求が、所定のアクセル開度を保ったままでの車速上昇によるオートアップシフトの要求であるとき、解放指示圧による抜き圧制御と締結指示圧による入れ圧制御を行うアップシフト変速進行処理部を有し、
前記アップシフト変速進行処理部は、前記オートアップシフトの開始後、準備フェーズを経過してトルクフェーズに入ると、前記締結クラッチの締結容量を徐々に上昇させる締結指示圧を出力する入れ圧制御を実行し、
前記締結クラッチの締結容量がトルクダウン前の入力トルクTinpであるトルク値Tinpより所定量低い値に到達すると、前記走行用駆動源からの出力トルクの上限値を前記トルク値Tinpに向かってステップ的に低下させた後、徐々に低下させるトルクダウン指示を出力するプリトルクダウン制御を開始し、
前記トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行し、前記イナーシャフェーズの開始が検知されると、前記プリトルクダウン制御を終了する
ことを特徴とする自動変速機のアップシフト制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機のアップシフト制御装置において、
前記アップシフト変速進行処理部は、
前記イナーシャフェーズの開始時点においてステップ的なトルクダウンを行い、
前記トルク値Tinpと前記ステップ的なトルクダウンの後の入力トルクTD1であるトルク値TD1とのトルク差TGapを算出し、
前記トルク差TGap以上の値となるように目標締結クラッチトルクTapl1を設定し、
前記締結クラッチの締結容量が、前記目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると前記プリトルクダウン制御を開始する
ことを特徴とする自動変速機のアップシフト制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載された自動変速機のアップシフト制御装置において、
前記アップシフト変速進行処理部は、前記トルクフェーズに入って前記締結クラッチの締結容量が前記目標締結クラッチトルクTapl1に到達するまでの間、前記締結クラッチの締結容量を第1上昇勾配にて上昇させ、
前記締結クラッチの締結容量が前記目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、前記第1上昇勾配よりも勾配角度が小さい第2上昇勾配により上昇させる
ことを特徴とする自動変速機のアップシフト制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載された自動変速機のアップシフト制御装置において、
前記アップシフト変速進行処理部は、前記締結クラッチの締結容量が上昇を開始してからの経過時間が閾値を超えると、前記第2上昇勾配に補正値を加えた勾配で前記締結クラッチの締結容量を上昇させる
ことを特徴とする自動変速機のアップシフト制御装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載された自動変速機のアップシフト制御装置において、
前記アップシフト変速進行処理部は、前記イナーシャフェーズの開始検知により前記プリトルクダウン制御を終了すると、前記プリトルクダウン制御に引き続いて、イナーシャフェーズ中トルクダウン制御を開始する
ことを特徴とする自動変速機のアップシフト制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される自動変速機のアップシフト制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アップシフト時に解放状態から係合状態に移行する摩擦係合要素の係合圧を漸増するとともに、トルク相(以下、「トルクフェーズ」という。)中にエンジンのトルクアップ制御を実行する。摩擦係合要素のトルクフェーズ中における係合圧が、イナーシャ相(以下、「イナーシャフェーズ」という。)が開始することのない待機圧になるように制御する。摩擦係合要素の係合圧が待機圧になるような指令がなされてからの経過時間が待機時間以上になると、エンジンのトルクを漸減する第1トルクダウン制御を実行する車両の制御装置が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-45567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来装置にあっては、イナーシャフェーズに入る前のトルクフェーズにおいて、締結クラッチの係合圧は、トルクフェーズ中に意図しないイナーシャフェーズへ移行しない締結クラッチ容量まで上げてから待機する。そして、エンジントルクをステップ的に低下させるエンジントルクダウン制御によりイナーシャフェーズを開始するようにしている。このため、所定のアクセル開度を保ったままでの車速上昇によるオートアップシフトが実行される場合、イナーシャフェーズの開始時における締結クラッチの容量管理ができず、締結クラッチの容量過不足により変速性能の低下を招く、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、車速上昇によるオートアップシフトが実行される際、イナーシャフェーズの開始時における締結クラッチの容量過不足を抑えて変速性能の向上を達成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、走行用駆動源と、自動変速機と、ATコントローラと、を備える自動変速機のアップシフト制御装置である。
ATコントローラは、アップシフト要求が、所定のアクセル開度を保ったままでの車速上昇によるオートアップシフトの要求であるとき、解放指示圧による抜き圧制御と締結指示圧による入れ圧制御を行うアップシフト変速進行処理部を有する。
アップシフト変速進行処理部は、オートアップシフトの開始後、準備フェーズを経過してトルクフェーズに入ると、締結クラッチの締結容量を徐々に上昇させる締結指示圧を出力する入れ圧制御を実行する。
締結クラッチの締結容量がトルクダウン前の入力トルクTinpであるトルク値Tinpより所定量低い値に到達すると、走行用駆動源からの出力トルクの上限値をトルク値Tinpに向かってステップ的に低下させた後、徐々に低下させるトルクダウン指示を出力するプリトルクダウン制御を開始する。
トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行し、イナーシャフェーズの開始が検知されると、プリトルクダウン制御を終了する。
【発明の効果】
【0007】
この結果、車速上昇によるオートアップシフトが実行される際、イナーシャフェーズの開始時における締結クラッチの容量過不足を抑えて変速性能の向上を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す全体システム図である。
図2】実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機の一例を示すスケルトン図である。
図3】実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機での変速用の摩擦要素の各変速段での締結状態を示す締結表図である。
図4】実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機での変速マップの一例を示す変速マップ図である。
図5】実施例1のATコントローラにて実行されるオートアップシフト制御処理の流れを示すフローチャートである。
図6】実施例1のATコントローラにて実行されるオートアップシフト制御処理内容を示すタイムチャートである。
図7】オートアップシフトが実行される際のアクセル開度APO・変速段位置GP・ギヤ比GearRatio・解放指示圧・締結指示圧・エンジントルクENGTRQ・前後Gの各特性を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の自動変速機のアップシフト制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、実施例1の構成を説明する。
実施例1におけるアップシフト制御装置は、前進9速・後退1速の変速段を有する自動変速機を搭載したエンジン車に適用したものである。以下、実施例1の構成を、「全体システム構成」、「自動変速機の詳細構成」、「オートアップシフト制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機を搭載するエンジン車を示す。以下、図1に基づき、全体システム構成を説明する。
【0012】
エンジン車の駆動系には、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、プロペラシャフト4と、駆動輪5と、を備える。自動変速機3には、変速のためのスプールバルブや油圧回路やソレノイドバルブ等によるコントロールバルブユニット6が取り付けられている。このコントロールバルブユニット6に有するアクチュエータは、ATコントローラ10からの制御指令を受けて作動する。
【0013】
エンジン車の制御系には、図1に示すように、ATコントローラ10と、エンジンコントローラ11と、CAN通信線12と、を備える。
【0014】
ATコントローラ10は、タービン軸回転数センサ13、出力軸回転数センサ14、ATF油温センサ15、アクセル開度センサ16、エンジン回転数センサ17、インヒビタースイッチ18等からの信号を入力する。
【0015】
タービン軸回転数センサ13は、トルクコンバータ2のタービン回転数(=変速機入力軸回転数)を検出し、タービン軸回転数Ntの信号をATコントローラ10に送出する。出力軸回転数センサ14は、自動変速機3の変速機出力軸回転数(=車速VSP)を検出し、出力軸回転数No(VSP)の信号をATコントローラ10に送出する。ATF油温センサ15は、ATF(自動変速機用オイル)の温度を検出し、ATF油温TATFの信号をATコントローラ10に送出する。アクセル開度センサ16は、ドライバのアクセル操作によるアクセル開度を検出し、アクセル開度APOの信号をATコントローラ10に送出する。エンジン回転数センサ17は、エンジン1の回転数を検出し、エンジン回転数Neの信号をATコントローラ10に送出する。インヒビタースイッチ18は、運転者によるセレクトレバー19へのセレクト操作により選択されたレンジ位置を検出し、レンジ位置信号をATコントローラ10に送出する。
【0016】
ATコントローラ10では、車速VSPとアクセル開度APOによる運転点の変化を監視することで、下記の基本変速パターンによる変速制御を行う。
1.オートアップシフト(アクセル開度を保っての車速上昇による)。
2.足離しアップシフト(アクセル足離し操作による)。
3.足戻しアップシフト(アクセル戻し操作による)。
4.パワーオンダウンシフト(アクセル開度を保っての車速低下による)。
5.小開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量小による)。
6.大開度急踏みダウンシフト(アクセル操作量大による:「キックダウン」)。
7.緩踏みダウンシフト(アクセル緩踏み操作と車速上昇による)。
8.コーストダウンシフト(アクセル足離し操作での車速低下による)。
【0017】
エンジンコントローラ11は、エンジン単体の様々な制御に加え、変速制御との協調制御によりトルクダウン制御等を行うもので、ATコントローラ10とエンジンコントローラ11は、双方向に情報交換可能なCAN通信線12を介して接続されている。よって、ATコントローラ10からトルク情報リクエストを出すと、推定したエンジントルクTeやタービントルクTtの情報がエンジンコントローラ11からATコントローラ10にもたらされる。また、ATコントローラ10からトルクダウン要求を出すと、トルクダウン要求に応じたトルクダウン量及び勾配によりエンジン1をトルクダウンさせる制御を実行する。なお、トルクダウン要求には、例えば、スロットルバルブの閉じ制御によるスロートルクダウン要求と、例えば、エンジンリタード制御によるファーストトルクダウン要求がある。
【0018】
[自動変速機の詳細構成]
図2は実施例1のアップシフト制御装置が適用された自動変速機3の一例を示すスケルトン図であり、図3は自動変速機3での締結表であり、図4は自動変速機3での変速マップの一例を示す。以下、図2図4に基づき、自動変速機3の詳細構成を説明する。
【0019】
自動変速機3は、図2に示すように、ギアトレーンを構成する遊星歯車として、入力軸INから出力軸OUTに向けて順に、第1遊星歯車PG1と、第2遊星歯車PG2と、第3遊星歯車PG3と、第4遊星歯車PG4と、を備えている。
【0020】
第1遊星歯車PG1は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1に噛み合うピニオンを支持する第1キャリアC1と、ピニオンに噛み合う第1リングギヤR1と、を有する。
【0021】
第2遊星歯車PG2は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2に噛み合うピニオンを支持する第2キャリアC2と、ピニオンに噛み合う第2リングギヤR2と、を有する。
【0022】
第3遊星歯車PG3は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3に噛み合うピニオンを支持する第3キャリアC3と、ピニオンに噛み合う第3リングギヤR3と、を有する。
【0023】
第4遊星歯車PG4は、シングルピニオン型遊星歯車であり、第4サンギヤS4と、第4サンギヤS4に噛み合うピニオンを支持する第4キャリアC4と、ピニオンに噛み合う第4リングギヤR4と、を有する。
【0024】
自動変速機3は、図2に示すように、入力軸INと、出力軸OUTと、第1連結メンバM1と、第2連結メンバM2と、トランスミッションケースTCと、を備えている。変速により締結/解放される摩擦要素として、第1ブレーキB1と、第2ブレーキB2と、第3ブレーキB3と、第1クラッチK1と、第2クラッチK2と、第3クラッチK3と、を備えている。
【0025】
入力軸INは、エンジン1からの駆動力がトルクコンバータ2を介して入力される軸で、第1サンギヤS1と第4キャリアC4に常時連結している。そして、入力軸INは、第2クラッチK2を介して第1キャリアC1に断接可能に連結している。
【0026】
出力軸OUTは、プロペラシャフト4及び図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪5へ変速した駆動トルクを出力する軸であり、第3キャリアC3に常時連結している。そして、出力軸OUTは、第1クラッチK1を介して第4リングギヤR4に断接可能に連結している。
【0027】
第1連結メンバM1は、第1遊星歯車PG1の第1リングギヤR1と第2遊星歯車PG2の第2キャリアC2を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。第2連結メンバM2は、第2遊星歯車PG2の第2リングギヤR2と第3遊星歯車PG3の第3サンギヤS3と第4遊星歯車PG4の第4サンギヤS4を、摩擦要素を介在させることなく常時連結するメンバである。
【0028】
第1ブレーキB1は、第1キャリアC1の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第2ブレーキB2は、第3リングギヤR3の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。第3ブレーキB3は、第2サンギヤS2の回転を、トランスミッションケースTCに対し係止可能な摩擦要素である。
【0029】
第1クラッチK1は、第4リングギヤR4と出力軸OUTの間を選択的に連結する摩擦要素である。第2クラッチK2は、入力軸INと第1キャリアC1の間を選択的に連結する摩擦要素である。第3クラッチK3は、第1キャリアC1と第2連結メンバM2の間を選択的に連結する摩擦要素である。
【0030】
図3は、自動変速機3において6つの摩擦要素のうち三つの同時締結の組み合わせによりDレンジにて前進9速後退1速を達成する締結表を示す。以下、図3に基づいて、各変速段を成立させる変速構成を説明する。
【0031】
第1速段(1st)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第2速段(2nd)は、第2ブレーキB2と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第3速段(3rd)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第2クラッチC2の同時締結により達成する。第4速段(4th)は、第2ブレーキB2と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。第5速段(5th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第2クラッチK2の同時締結により達成する。以上の第1速段~第5速段が、ギヤ比が1を超えている減速ギヤ比によるアンダードライブ変速段である。
【0032】
第6速段(6th)は、第1クラッチK1と第2クラッチK2と第3クラッチK3の同時締結により達成する。この第6速段は、ギヤ比=1の直結段である。
【0033】
第7速段(7th)は、第3ブレーキB3と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第8速段(8th)は、第1ブレーキB1と第1クラッチK1と第3クラッチK3の同時締結により達成する。第9速段(9th)は、第1ブレーキB1と第3ブレーキB3と第1クラッチK1の同時締結により達成する。以上の第7速段~第9速段は、ギヤ比が1未満の増速ギヤ比によるオーバードライブ変速段である。
【0034】
さらに、第1速段から第9速段までの変速段のうち、隣接する変速段へのアップ変速を行う際、或いは、ダウン変速を行う際、図3に示すように、架け替え変速により行う構成としている。即ち、隣接する変速段への変速は、三つの摩擦要素のうち、二つの摩擦要素の締結は維持したままで、一つの摩擦要素の解放と一つの摩擦要素の締結を行うことで達成される。
【0035】
Rレンジ位置の選択による後退速段(Rev)は、第1ブレーキB1と第2ブレーキB2と第3ブレーキB3の同時締結により達成する。なお、Nレンジ位置及びPレンジ位置を選択したときは、6つの摩擦要素B1,B2,B3,K1,K2,K3の全てが解放状態とされる。
【0036】
そして、ATコントローラ10には、図4に示すような変速マップが記憶設定されていて、Dレンジの選択により前進側の第1速段から第9速段までの変速段の切り替えによる変速は、この変速マップに従って行われる。即ち、そのときの運転点(VSP,APO)が図4の実線で示すアップシフト線を横切るとアップシフト変速要求が出される。又、運転点(VSP,APO)が図4の破線で示すダウンシフト線を横切るとダウンシフト変速要求が出される。
【0037】
以下の説明において、変速パターンとして、図4のAの矢印の枠内特性に示すように、所定のアクセル開度APOを保ったままでの車速VSPの上昇によりアップシフトが実行される「オートアップシフト」を取り扱う。例えば、第1速段→第2速段の架け替えによるオートアップシフトの場合、第2クラッチK2が解放状態から締結状態へと移行する“締結クラッチ”であり、第3ブレーキB3が締結状態から解放状態へと移行する“解放クラッチ”である。例えば、第2速段→第3速段の架け替えによるオートアップシフトの場合、第3ブレーキB3が解放状態から締結状態へと移行する“締結クラッチ”であり、第3クラッチK3が締結状態から解放状態へと移行する“解放クラッチ”である。
【0038】
[オートアップシフト制御処理構成]
図5は、実施例1のATコントローラ10にて実行されるオートアップシフト制御処理の流れを示すフローチャートである(アップシフト変速進行処理部)。以下、オートアップシフト制御処理構成をあらわす図5の各ステップについて説明する。なお、図5のフローチャートは、オートアップシフト要求により開始され、アップシフト処理が完了して次変速段へ移行することにより終了する。
【0039】
ステップS1では、トルクフェーズが開始されたとき、或いは、ステップS4で締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に未到達であると判断されたとき、狙いの勾配Tra1で締結クラッチトルクTAPLを上昇し、ステップS2へ進む。
【0040】
ここで、「トルクフェーズ」は、図6に示すように、時刻t1にてUP変速指示により開始し、時刻t2までの準備フェーズを経過した後、締結クラッチトルクTAPLの発生が確認されることで開始される。なお、準備フェーズでは、時刻t1から少しの間、締結指示圧をステップ的に高くすることで、締結クラッチへの油路や油室への油詰めを確保する。「狙いの勾配Tra1での締結クラッチトルクTAPLの上昇」は、図6に示すように、締結クラッチトルクTAPLが発生する時刻t2から時刻t3までの締結指示圧特性を、傾き角度が高い上昇勾配とすることで達成される。
【0041】
ステップS2では、ステップS1での狙いの勾配Tra1での締結クラッチトルクTAPLの上昇に続き、イナーシャフェーズ中におけるトルクダウン後の入力トルクTD1(点火時期リタード後の限界トルク)を算出し、ステップS3へ進む。
【0042】
ここで、「入力トルクTD1」とは、図6に示すように、イナーシャフェーズ中の時刻t5から時刻t6において、点火時期リタードによるトルクダウン指示によりエンジントルクをステップ的に制限したとき、推定される締結クラッチへの入力トルクをいう。
【0043】
ステップS3では、ステップS2でのイナーシャフェーズ中におけるトルクダウン後の入力トルクTD1の算出に続き、トルクダウン前の入力トルクTinpとトルクダウン後の入力トルクTD1とから目標締結クラッチトルクTapl1を算出し、ステップS4へ進む。
【0044】
ここで、「目標締結クラッチトルクTapl1」は、図6に示すように、入力トルクTinp,TD1のトルク差TGap(=Tinp-TD1)に基づき、Tapl1≧TGapの関係になるように設定される。なお、トルクダウン前の入力トルクTinpとトルクダウン後の入力トルクTD1とのトルク差TGapは、トルク差TGapが大きいほどアップシフトが速やかに進行するというように、イナーシャフェーズ中におけるアップシフトの変速進行速度を決める。
【0045】
ステップS4では、ステップS3での目標締結クラッチトルクTapl1の算出に続き、締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達したか否かを判断する。YES(TAPLがTapl1に到達)の場合はステップS5へ進み、NO(TAPLがTapl1に未到達)の場合はステップS1へ戻る。
【0046】
ここで、締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達したタイミングは、図6に示すように、トルクフェーズ中の時刻t3のタイミングである。この時刻t3のタイミングは、時刻t3からイナーシャフェーズ開始検知時刻t4までの途中で実際にイナーシャフェーズが開始されるタイミングである。
【0047】
ステップS5では、ステップS4でのTAPLがTapl1に到達したとの判断に続き、プリトルクダウン制御を開始し、ステップS6へ進む。
【0048】
ここで、「プリトルクダウン制御」とは、トルクフェーズの途中からイナーシャフェーズ開始が検知されるまでの間で変速の進行を促すように、イナーシャフェーズ開始前にて事前に実行されるエンジントルクダウン制御である。プリトルクダウン制御では、図6に示すように、時刻t3にてトルクダウン前の入力トルクTinpの近傍までトルクダウン指示をステップ的に低下させ、時刻t3からイナーシャフェーズ開始検知時刻t5まで緩やかな低下勾配にてトルクダウン指示を低下させる制御が行われる。
【0049】
ステップS6では、ステップS5でのプリトルクダウン制御の開始に続き、トルク差TGapに応じた勾配Tra2で締結クラッチトルクを上昇し、ステップS7へ進む。
【0050】
ここで、「勾配Tra2での締結クラッチトルクTAPLの上昇」は、図6に示すように、時刻t3からイナーシャフェーズ開始検知時刻t5までの締結指示圧特性を、時刻t2から時刻t3までの上昇勾配よりも低い上昇勾配とすることで達成される。
【0051】
ステップS7では、ステップS6での勾配Tra2での締結上昇、或いは、ステップS9でのイナーシャフェーズ開始の非検知に続き、締結上昇からの経過時間が閾値以下であるか否かを判断する。YES(締結指示上昇開始経過時間≦Tra3補正開始時間閾値)の場合はステップS9へ進み、NO(締結指示上昇開始経過時間>Tra3補正開始時間閾値)の場合はステップS8へ進む。
【0052】
ここで、「締結指示上昇開始経過時間」は、図6に示すように、締結指示上昇開始時刻t2からの経過時間をいう。「Tra3補正開始時間閾値」は、図6に示すように、締結指示上昇開始からイナーシャフェーズ開始までの限界待ち時間に設定される。このため、図6に示すように、イナーシャフェーズ開始検知時刻t5まで締結指示上昇開始経過時間≦Tra3補正開始時間閾値と判断されるときは、トルク差TGapに応じた勾配Tra2での締結クラッチトルク上昇とされる。
【0053】
ステップS8では、ステップS7での締結指示上昇開始経過時間>Tra3補正開始時間閾値であるとの判断に続き、勾配Tra2に対して補正値Tra3を加えた勾配で締結クラッチトルクを上昇させ、ステップS9へ進む。
【0054】
ここで、「補正値Tra3」は、締結クラッチトルクの上昇勾配をより高くし、変速の進行速度を高めてイナーシャフェーズ開始を促す値に設定される。
【0055】
ステップS9では、ステップS7での締結指示上昇開始経過時間>Tra3補正開始時間閾値であるとの判断、或いは、ステップS8での勾配Tra2+Tra3での締結クラッチトルク上昇に続き、イナーシャフェーズの開始を検知したか否かを判断する。YES(イナーシャフェーズの開始検知)の場合はステップS10へ進み、NO(イナーシャフェーズの開始非検知)の場合はステップS7へ戻る。
【0056】
ここで、「イナーシャフェーズの開始検知」は、自動変速機3の入力回転数と出力回転数の比による実ギヤ比を監視し、アップシフト前の変速段ギヤ比からアップシフト後の変速段ギヤ比へとギヤ比が変化を開始するタイミングを検知することにより行う。つまり、ギヤ比変化幅が、図6に示すように、イナーシャフェーズ開始判定閾値を超える時刻t5になるとイナーシャフェーズ開始と検知する。よって、実際には時刻t4にてギヤ比の変化によりイナーシャフェーズが開始されているのに対して検知遅れがある。
【0057】
ステップS10では、ステップS9でのイナーシャフェーズの開始検知であるとの判断に続き、ステップS5にて開始されたプリトルクダウン制御を終了し、ステップS11へ進む。
【0058】
ステップS11では、ステップS10でのプリトルクダウン制御終了に続き、通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御を開始するとともに、イナーシャフェーズ中の目標勾配Tra4で締結クラッチトルクTAPLを上昇し、ステップS12へ進む。
【0059】
ここで、「通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御」とは、イナーシャフェーズ開始検知時刻t5になるとトルクダウン指示をステップ的に低下させ、イナーシャフェーズ終了検知時刻t6までは漸増する勾配のトルクダウン指示とする。そして、イナーシャフェーズ終了検知時刻t6にてトルクダウン指示をステップ的に上昇させ、時刻t6からイナーシャフェーズ終了時刻t7までにトルクダウン前の入力トルクTinpの近傍まで戻し、時刻t7にてトルクダウン制御を終了する制御をいう。「イナーシャフェーズ中の目標勾配Tra4での締結クラッチトルクTAPLの上昇」は、図6に示すように、時刻t5からイナーシャフェーズ終了時刻t7までの締結指示圧特性を、トルクフェーズでの上昇勾配よりも低い上昇勾配とすることで達成される。
【0060】
ステップS12では、ステップS11での通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御開始&イナーシャフェーズ中の目標勾配Tra4での締結クラッチトルクTAPLの上昇に続き、以降は通常処理(変速終了処理)を実行し、エンドへ進む。
【0061】
ここで、「通常処理」とは、図6に示すように、イナーシャフェーズ終了時刻t7から変速終了時刻t9において、終了フェーズ中の目標勾配で締結クラッチトルクTAPLを上昇させて締結クラッチを完全締結状態に向かわせる制御をいう。つまり、イナーシャフェーズ終了時刻t7から変速終了時刻t9までの締結指示圧特性を、時刻t7~時刻t8までの上昇勾配Tra5(>Tra4)と、時刻t8~時刻t9までの上昇勾配Tra6(>Tra5)とすることで達成される。なお、締結クラッチと同時進行にて制御される解放クラッチの解放クラッチトルク制御や解放指示圧制御については、アップシフト制御での通常処理(イナーシャフェーズ開始までに解放クラッチトルクを抜く処理)を行う。
【0062】
次に、実施例1の作用を、「オートアップシフト制御処理作用」、「オートアップシフト進行処理作用」、「オートアップシフト制御での特徴作用」に分けて説明する。
【0063】
[オートアップシフト制御処理作用]
以下、図5のフローチャートに基づいてオートアップシフト制御処理作用を説明する。
オートアップシフト制御は、UP変速指示により開始され、準備フェーズを経過した後、締結クラッチトルクTAPLの発生が確認されることで、トルクフェーズが開始される。トルクフェーズが開始されると、締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達するまで、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む流れが繰り返される。ステップS1では、狙いの勾配Tra1により締結クラッチトルクTAPLを上昇させる制御が行われる。ステップS2では、イナーシャフェーズ中におけるトルクダウン後の入力トルクTD1が算出され、ステップS3では、トルクダウン前の入力トルクTinpとトルクダウン後の入力トルクTD1とから目標締結クラッチトルクTapl1が算出される。
【0064】
そして、締結クラッチトルクTAPLの上昇により締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、ステップS4からステップS5→ステップS6へと進む。ステップS5では、ステップS4でのTAPLがTapl1に到達したとの判断に続いて、プリトルクダウン制御が開始される。ステップS6では、ステップS5でのプリトルクダウン制御開始と同時進行により、トルク差TGapに応じた勾配Tra2で締結クラッチトルクを上昇させる制御が開始される。
【0065】
ステップS6からはステップS7→ステップS9へと進み、締結クラッチトルクの上昇を開始してからの経過時間が閾値以下であり、かつ、イナーシャフェーズ開始非検知と判断されている間は、ステップS7→ステップS9へと進む流れが繰り返される。よって、この間は勾配Tra2での締結クラッチトルクTAPLの上昇とされる。しかし、イナーシャフェーズ開始非検知と判断されたままで、締結クラッチトルクの上昇を開始してからの経過時間が閾値を超えてしまうと、ステップS7→ステップS8→ステップS9へと進む流れが繰り返される。よって、経過時間が閾値を超えてしまうと、勾配Tra2から勾配(Tra2+Tra3)に切り替えての締結クラッチトルクTAPLの上昇とされる。
【0066】
ステップS9にてイナーシャフェーズ開始が検知されると、ステップS9からステップS10→ステップS11へと進む。ステップS10では、ステップS5にて開始されたプリトルクダウン制御を終了し、トルクダウン指示による次の通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御へと繋ぐ。ステップS11では、通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御が開始されるとともに、イナーシャフェーズ中の目標勾配Tra4で締結クラッチトルクTAPLを上昇させる制御が開始される。
【0067】
ステップS11からは、ステップS12→エンドへと進み、ステップS12では、イナーシャフェーズ終了から変速終了までの終了フェーズ中において、目標勾配で締結クラッチトルクTAPLを上昇させて締結クラッチを完全締結状態に向かわせる制御が行われる。
【0068】
このように、オートアップシフト要求があったとき、トルクフェーズ中であって締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、締結クラッチのトルク上昇制御とプリトルクダウン制御とが同時進行により実行される。この同時進行による2つの制御を併用することにより、イナーシャフェーズ開始検知遅れによる締結容量過多分が、事前にプリトルクダウン制御で落とされることで、イナーシャフェーズ開始時における締結クラッチの締結容量(=クラッチトルク)の高さが狙いの値にされる。
【0069】
そして、イナーシャフェーズ中は、締結クラッチのトルク上昇制御と通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御とが同時進行により実行される。この同時進行による2つの制御を併用することにより、イナーシャフェーズ中において、変速進行速度が狙いの速度にされる。
【0070】
[オートアップシフト進行処理作用]
図7は、オートアップシフト進行処理での各特性を示すタイムチャートである。以下、図7に基づいてオートアップシフト進行処理作用を説明する。
【0071】
時刻t1にて、図4のAの枠内に示すように、ドライブ走行中、所定のアクセル開度APOを保ったままであるが走行抵抗の低下等により車速VSPが上昇すると、アップシフト線を横切ることでアップシフト要求が出される。アップシフト要求が出されると、準備フェーズPh1とトルクフェーズPh2とイナーシャフェーズPh3と終了フェーズPh4を経過してオートアップシフトを終了する。以下、準備フェーズPh1とトルクフェーズPh2とイナーシャフェーズPh3と終了フェーズPh4とに分けて説明する。
【0072】
(準備フェーズPh1)
準備フェーズPh1は、時刻t1~時刻t2において締結クラッチの締結と解放クラッチの解放を準備する区間である。
【0073】
準備フェーズPh1での解放指示圧は、アップシフト要求時刻t1にてステップ的に低下させ、さらに、低下させた解放指示圧位置から準備フェーズ終了時刻t2までの解放待ち時間は低下させた解放指示圧のまま維持する。
【0074】
準備フェーズPh1での締結指示圧は、アップシフト要求時刻t1にてステップ的に上昇させ、さらに、上昇させた指示位置を時刻t1’まで維持させる。時刻t1’になるとステップ的に低下させ、その後、準備フェーズ終了時刻t2までは低下させた締結指示圧のまま維持する。
【0075】
なお、準備フェーズPh1ではトルクダウン指示は出されない。準備フェーズPh1での前後Gも、準備フェーズ開始時刻t1から準備フェーズ終了時刻t2まで一定である。
【0076】
(トルクフェーズPh2)
トルクフェーズPh2は、時刻t2~時刻t3において変速後に締結される締結クラッチの容量が上昇する区間である。
【0077】
トルクフェーズPh2での解放指示圧は、トルクフェーズ開始時刻t2からトルクフェーズ終了時刻t4までの間で解放指示圧をゼロまで低下させる。
【0078】
トルクフェーズPh2での締結指示圧は、トルクフェーズ開始時刻t2から締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達する時刻t3までの間、締結クラッチトルクTAPLの上昇勾配がTra1となるように上昇させる。続いて、時刻t3からトルクフェーズ終了時刻t4までの間、締結クラッチトルクTAPLの上昇勾配がTra2となるように締結指示圧を上昇させる。
【0079】
トルクフェーズPh2でのトルクダウン指示は、トルクフェーズ開始時刻t2から時刻t3までの間は出さない。しかし、時刻t3になると、トルクダウン指示をトルクダウン前の入力トルクTinpの近傍まで低下させ、その後、所定の低下勾配にてトルクダウン指示を低下させるプリトルクダウン制御を開始する。
【0080】
なお、トルクフェーズPh2での前後Gは、解放容量と締結容量の架け替えにより、トルクフェーズ開始時刻t2からトルクフェーズ終了時刻t4まで緩やかな斜め勾配で低下する。
【0081】
(イナーシャフェーズPh3)
イナーシャフェーズPh3は、時刻t4~時刻t7においてギヤ比が変速前ギヤ比から変速後ギヤ比へと移行する区間である。なお、イナーシャフェーズPh3での解放指示圧は、ゼロに維持されたままとする。
【0082】
イナーシャフェーズPh3での締結指示圧は、イナーシャフェーズ開始時刻t4からイナーシャフェーズ開始検知時刻t5までの間、時刻t3からの締結クラッチトルクTAPLの上昇勾配がTra2となる制御を継続する。時刻t5からイナーシャフェーズ終了時刻t7までの間、締結クラッチトルクTAPLの上昇勾配がTra4となるように上昇勾配を抑える。
【0083】
イナーシャフェーズPh3でのトルクダウン指示は、イナーシャフェーズ開始時刻t4からイナーシャフェーズ開始検知時刻t5までの間、時刻t3からのプリトルクダウン制御を継続する。そして、時刻t5になるとトルクダウン後の入力トルクTD1までステップ的に低下させ、通常イナーシャフェーズ中トルクダウン制御を開始する。即ち、時刻t5からイナーシャフェーズ終了検知時刻t6までは漸増にてトルクダウン指示を上げた後、時刻t6にてステップ的に上昇させる。そして、時刻t6からイナーシャフェーズ終了時刻t7まで所定の上昇勾配にて上げ、時刻t7にてトルクダウン指示をゼロに戻す。
【0084】
イナーシャフェーズPh3での前後Gは、イナーシャフェーズ開始時刻t4にて上昇した後、フラットな特性を維持する。
【0085】
(終了フェーズPh4)
終了フェーズPh4は、時刻t7~時刻t9の締結クラッチの容量を完全締結容量まで上昇させる区間である。なお、終了フェーズPh4での解放指示圧は、ゼロに維持されたままとする。
【0086】
終了フェーズPh4での締結指示圧は、終了フェーズ開始時刻t7から時刻t8まで締結クラッチトルクTAPLの上昇勾配がTra5となるように上昇勾配を高くする。そして、時刻t8から変速終了時刻t9までは、締結クラッチトルクTAPLの上昇勾配がTra6となるように上昇勾配をさらに高くし、時刻t9にて完全締結状態を得る締結指示圧にする。
【0087】
終了フェーズPh4でのトルクダウン指示は、トルクダウン指示ゼロを維持する。終了フェーズPh4での前後Gは、終了フェーズ開始時刻t7にて少し低下し、その後、加速方向に漸増する特性を示す。
【0088】
このように、オートアップシフトは、ドライバがアクセル開度APOを一定に保っているため、変速レスポンスよりも変速による加減速度の変化を穏やかにすることを優先する変速パターンである。これに対し、時刻t3~時刻t5のプリトルクダウン制御により、イナーシャフェーズ開始検知遅れによる締結クラッチの容量過多分が、事前にプリトルクダウン制御で落とされる。このため、イナーシャフェーズ開始検知時の締結クラッチトルクTAPLが、トルクダウン前の入力トルクTinpに略一致するような適正なトルク値に管理される。
【0089】
「オートアップシフト制御での特徴作用]
先ず、アップシフトは、変速機入力回転数を低下させてHight変速段のギヤ比に収束させる変速制御であり、架け替え変速によるアップシフトでは、締結クラッチトルクを上げて変速機入力回転数低下を促すことから締結クラッチのコントロールが重要である。本発明者等は、所定のアクセル開度を保ったままでの車速上昇によるオートアップシフトのとき、イナーシャフェーズ開始時における締結クラッチトルクの管理が不十分であることにより、変速性能への跳ね返りがあることを知見した。
【0090】
即ち、オートアップシフトでのイナーシャフェーズは、
(入力トルク+解放クラッチ容量)<締結クラッチ容量 …(1)
となった段階で開始/進行する。なお、理想的には、イナーシャフェーズ(回転変化)が開始したタイミングで解放クラッチ容量は0Nm以下が望ましい。このため、確実にイナーシャフェーズに移行するためには、(入力トルク+解放クラッチ容量)に対して締結クラッチ容量が上回る状態を作る必要がある。
【0091】
そして、上記(1)の関係が成立しないでイナーシャフェーズを開始したとき、下記のような変速性能への跳ね返りが懸念される。
(A) イナーシャフェーズ開始前のトルクフェーズで締結クラッチ容量が過剰であると、エンジン負荷が大になり変速機入力回転数が急低下することで、トルクフェーズでの減速による車両の挙動変化が大きくなる。イナーシャフェーズ開始後は、アップシフトの進行速度が狙いよりも速くなりイナーシャフェーズ終了時のトルク段差が大きくなる。
(B) イナーシャフェーズ開始時に締結クラッチ容量が不足すると、エンジン負荷が小になり空吹き(タービン回転数の吹け上がり)が発生し、空吹きによりイナーシャフェーズへの移行が遅れる。イナーシャフェーズ開始後は、アップシフトの進行速度が狙いよりも遅くなり、変速レスポンスが悪化する。
【0092】
このように、良好な変速性能とするためには、イナーシャフェーズ開始時に締結クラッチ容量の過不足が発生しないようにするのが重要である。これに対し、上記(1)の関係成立を締結クラッチの上昇のみにより達成しようとすると、イナーシャフェーズ開始時に締結クラッチ容量過剰が発生する。一方、イナーシャフェーズ開始前から締結クラッチ容量を保持しておき、上記(1)の関係成立をエンジントルクダウン(入力トルクの制御)により達成しようとすると、イナーシャフェーズ開始時に締結クラッチ容量不足が発生する。
【0093】
そこで、本発明者等は、締結クラッチの締結容量の上昇と、イナーシャフェーズを誘起するエンジントルクダウン制御とを併用すると、イナーシャフェーズ開始時に締結クラッチ容量の過不足発生を抑えることができる点に着目した。
【0094】
実施例1では、ATコントローラ10のアップシフト変速進行処理部(図5)は、オートアップシフトの開始後、準備フェーズを経過してトルクフェーズに入ると、締結クラッチトルクTAPLを徐々に上昇させる締結指示圧を出力する入れ圧制御を実行する。締結クラッチトルクTAPLが入力トルクTinpより所定量低いトルク値に到達すると、エンジン1からの出力トルクの上限値を入力トルクTinpに向かってステップ的に低下させた後、徐々に低下させるトルクダウン指示を出力するプリトルクダウン制御を開始する。トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行し、イナーシャフェーズの開始が検知されると、プリトルクダウン制御を終了する。
【0095】
即ち、イナーシャフェーズが開始される前にプリトルクダウン制御でエンジントルクが落とされることで、イナーシャフェーズ開始検知遅れによる締結クラッチの容量過多分の発生が抑えられる。締結クラッチトルクTAPLが入力トルクTinpに近いトルク値に到達するまでの上昇を待ってプリトルクダウン制御が開始され、その後も締結クラッチトルクTAPLの上昇制御を維持することで、締結クラッチの容量不足分の発生が抑えられる。このため、イナーシャフェーズ開始検知時の締結クラッチトルクTAPLは、イナーシャフェーズ開始検知遅れがあっても、例えば、図7の矢印Bの枠内特性に示すように、トルクダウン前の入力トルクTinpに略一致する適正なトルク値に管理される。
【0096】
従って、車速上昇によるオートアップシフトが実行される際、イナーシャフェーズの開始時における締結クラッチの容量過不足を抑えることで、変速性能の向上が達成される。
【0097】
実施例1では、イナーシャフェーズ中におけるトルクダウン前の入力トルクTinpとトルクダウン後の入力トルクTD1とのトルク差TGap以上の値による目標締結クラッチトルクTapl1を設定する。締結クラッチトルクTAPLが、目標締結クラッチトルクTapl1に到達するとプリトルクダウン制御を開始する。
【0098】
即ち、プリトルクダウン制御を開始するタイミングによりイナーシャフェーズへの導入領域が決まるため、プリトルクダウン制御の開始タイミングを、イナーシャフェーズ中の変速進行速度に合わせるのが好ましい。これに対し、入力トルクTinpと入力トルクTD1とのトルク差TGapは、イナーシャフェーズ中の変速進行速度の推定情報になる。
【0099】
従って、プリトルクダウン制御の開始タイミングが適切になることで、イナーシャフェーズの開始時における締結クラッチの容量過不足によって生じる減速による車両の挙動変化の発生や空吹きの発生が防止される。
【0100】
実施例1では、トルクフェーズに入って締結クラッチの締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達するまでの間、締結クラッチトルクTAPLを第1上昇勾配Tra1にて上昇させる。締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、第1上昇勾配Tra1よりも勾配角度が小さい第2上昇勾配Tra2により上昇させる。
【0101】
即ち、締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、第2上昇勾配Tra2(<第1上昇勾配Tra1)により上昇させることで、トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行する領域で、遅い変速進行速度にコントロールされる。
【0102】
従って、プリトルクダウン制御が開始されてからイナーシャフェーズの開始が検知されるまでの締結クラッチトルクTAPLの上昇幅が小さく抑えられ、イナーシャフェーズ開始時の締結クラッチトルクTAPLの管理精度が高くなる。
【0103】
実施例1では、締結クラッチの締結クラッチトルクTAPLが上昇を開始してからの経過時間が閾値を超えると、第2上昇勾配Tra2に補正値Tra3を加えた勾配で締結クラッチの締結容量を上昇させる。
【0104】
即ち、上記のように、第2上昇勾配Tra2にすると、トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行する領域で遅い変速進行速度にコントロールされることで、イナーシャフェーズの開始が遅れ、変速レスポンスを低下させるおそれがある。これに対し、所定の時間閾値を超えると、第2上昇勾配Tra2に補正値Tra3を加えた勾配で締結クラッチの締結容量を上昇させることで、イナーシャフェーズの開始検知が促される。
【0105】
従って、イナーシャフェーズの開始検知前にイナーシャフェーズの開始が遅れることが予測されるとき、変速レスポンスが低下するのが防止される。
【0106】
実施例1では、イナーシャフェーズの開始検知によりプリトルクダウン制御を終了すると、プリトルクダウン制御に引き続いて、イナーシャフェーズ中トルクダウン制御を開始する。
【0107】
即ち、イナーシャフェーズ中にアップシフトの進行速度が狙いよりも速くなると、イナーシャフェーズ終了時のトルク段差が大きくなる。これに対し、プリトルクダウン制御に引き続いて、速やかにイナーシャフェーズ中トルクダウン制御が開始されることで、イナーシャフェーズ中のアップシフトの進行速度を狙いの速度にコントロールすることができる。
【0108】
従って、図7の矢印Cの枠内特性に示すように、イナーシャフェーズ終了時の前後Gのトルク段差が小さく抑えられ、ドライバに与える違和感が抑えられる。
【0109】
次に、実施例1の効果を説明する。自動変速機3のアップシフト制御装置にあっては、下記に列挙する効果が得られる。
【0110】
(1) 走行用駆動源(エンジン1)と、走行用駆動源(エンジン1)に連結され、複数の変速段と複数の摩擦要素を有する自動変速機3と、アップシフト要求があると、複数の摩擦要素のうち解放クラッチを解放し締結クラッチを締結する架け替えによりアップシフトを実行するATコントローラ10と、を備える。
この自動変速機3のアップシフト制御装置において、ATコントローラ10は、アップシフト要求が、所定のアクセル開度を保ったままでの車速上昇によるオートアップシフトの要求であるとき、解放指示圧による抜き圧制御と締結指示圧による入れ圧制御を行うアップシフト変速進行処理部(図5)を有する。
アップシフト変速進行処理部(図5)は、オートアップシフトの開始後、準備フェーズを経過してトルクフェーズに入ると、締結クラッチの締結容量(締結クラッチトルクTAPL)を徐々に上昇させる締結指示圧を出力する入れ圧制御を実行する。
締結クラッチの締結容量(締結クラッチトルクTAPL)が入力トルクTinpより所定量低い値に到達すると、走行用駆動源(エンジン1)からの出力トルクの上限値を入力トルクTinpに向かってステップ的に低下させた後、徐々に低下させるトルクダウン指示を出力するプリトルクダウン制御を開始する。
トルクフェーズからイナーシャフェーズへ移行し、イナーシャフェーズの開始が検知されると、プリトルクダウン制御を終了する。
このため、車速上昇によるオートアップシフトが実行される際、イナーシャフェーズの開始時における締結クラッチの容量過不足を抑えて変速性能の向上を達成することができる。
【0111】
(2) アップシフト変速進行処理部(図5)は、イナーシャフェーズ中におけるトルクダウン前の入力トルクTinpとトルクダウン後の入力トルクTD1とのトルク差TGap以上の値による目標締結クラッチトルクTapl1を設定する。
締結クラッチの締結容量(締結クラッチトルクTAPL)が、目標締結クラッチトルクTapl1に到達するとプリトルクダウン制御を開始する。
このため、(1)の効果に加え、プリトルクダウン制御の開始タイミングが適切になることで、イナーシャフェーズの開始時に締結クラッチの容量過不足によって生じる減速による車両の挙動変化の発生や空吹きの発生を防止することができる。
【0112】
(3) アップシフト変速進行処理部(図5)は、トルクフェーズに入って締結クラッチの締結容量(締結クラッチトルクTAPL)が目標締結クラッチトルクTapl1に到達するまでの間、締結クラッチの締結容量を第1上昇勾配Tra1にて上昇させる。
締結クラッチの締結容量が目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、第1上昇勾配Tra1よりも勾配角度が小さい第2上昇勾配Tra2により上昇させる。
このため、(2)の効果に加え、イナーシャフェーズ開始時の締結クラッチトルクTAPLの管理精度を高くすることができる。
【0113】
(4) アップシフト変速進行処理部(図5)は、締結クラッチの締結容量(締結クラッチトルクTAPL)が上昇を開始してからの経過時間が閾値を超えると、第2上昇勾配Tra2に補正値Tra3を加えた勾配で締結クラッチの締結容量を上昇させる。
このため、(3)の効果に加え、イナーシャフェーズの開始検知前にイナーシャフェーズの開始が遅れることが予測されるとき、変速レスポンスが低下するのを防止することができる。
【0114】
(5) アップシフト変速進行処理部(図5)は、イナーシャフェーズの開始検知によりプリトルクダウン制御を終了すると、プリトルクダウン制御に引き続いて、イナーシャフェーズ中トルクダウン制御を開始する。
このため、(1)~(4)の効果に加え、イナーシャフェーズ終了時の前後Gのトルク段差が小さく抑えられ、ドライバに与える違和感を抑えることができる。
【0115】
以上、本発明の自動変速機のアップシフト制御装置を実施例1に基づき説明してきた。しかし、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0116】
実施例1では、アップシフト変速進行処理部として、トルク差TGap以上の値による目標締結クラッチトルクTapl1を設定し、締結クラッチトルクTAPLが、目標締結クラッチトルクTapl1に到達するとプリトルクダウン制御を開始する例を示した。しかし、アップシフト変速進行処理部としては、トルクダウン前の入力トルクに基づいて目標締結クラッチトルクを設定し、締結クラッチトルクが、目標締結クラッチトルクに到達するとプリトルクダウン制御を開始する例としても良い。
【0117】
実施例1では、アップシフト変速進行処理部として、締結クラッチトルクTAPLが目標締結クラッチトルクTapl1に到達すると、第1上昇勾配Tra1よりも勾配角度が小さい第2上昇勾配Tra2により上昇させる好ましい例を示した。しかし、アップシフト変速進行処理部としては、締結クラッチトルクが目標締結クラッチトルクに到達する前後で締結クラッチトルクの上昇勾配を変えない例としても良い。
【0118】
実施例1では、自動変速機として、前進9速後退1速の自動変速機3の例を示した。しかし、自動変速機としては、前進9速後退1速以外の有段変速段を持つ自動変速機の例としても良い。また、実施例1では、エンジン車に搭載される自動変速機のアップシフト制御装置の例を示したが、エンジン車に限らず、ハイブリッド車や電気自動車等の自動変速機のアップシフト制御装置としても適用することが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1 エンジン(走行用駆動源)
2 トルクコンバータ
3 自動変速機
B1 第1ブレーキ(摩擦要素)
B2 第2ブレーキ(摩擦要素)
B3 第3ブレーキ(摩擦要素)
K1 第1クラッチ(摩擦要素)
K2 第2クラッチ(摩擦要素)
K3 第3クラッチ(摩擦要素)
4 プロペラシャフト
5 駆動輪
6 コントロールバルブユニット
10 ATコントローラ
11 エンジンコントローラ
12 CAN通信線
13 タービン軸回転数センサ
14 出力軸回転数センサ
15 ATF油温センサ
16 アクセル開度センサ
17 エンジン回転数センサ
18 インヒビタースイッチ
19 セレクトレバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7