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特許7118551自動車用ホイールディスク、及び、自動車用ホイールディスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】自動車用ホイールディスク、及び、自動車用ホイールディスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60B 3/04 20060101AFI20220808BHJP
   B21D 22/14 20060101ALI20220808BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
B60B3/04 B
B60B3/04 A
B21D22/14 Z
B21D22/26 C
B21D22/26 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018190573
(22)【出願日】2018-10-09
(65)【公開番号】P2020059336
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】391006430
【氏名又は名称】中央精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115233
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 俊一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】都築 和名
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-085302(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00205867(EP,A1)
【文献】特開2018-150041(JP,A)
【文献】特開2004-074248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60B 3/04
B21D 22/14
B21D 22/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のハブに取り付けられることになる、ディスク径方向に延びる平板状のハブ取付部と、
ホイールのリムに接合されることになる、ディスク軸方向に延びる円筒状のリム取付部と、
ディスク径方向において前記ハブ取付部と前記リム取付部とを繋ぐと共に、ディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出するハット部と、を備え、
前記ハット部は、
ディスク径方向断面視でディスク軸方向外側に突出する向きに屈曲する曲線形状のみで構成されるハット頂部と、
ディスク径方向において前記ハブ取付部と前記ハット頂部とを繋ぐと共に、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向外側に傾斜して延びるハット内周部と、
ディスク径方向において前記ハット頂部と前記リム取付部とを繋ぐと共に、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向内側に傾斜して延びるハット外周部と、を備え、
前記ハブ取付部と前記ハット内周部との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第1繋ぎ部が設けられ、
前記ハット頂部と前記ハット外周部との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第2繋ぎ部が設けられ、
前記ハット外周部の板厚は、ディスク径方向における前記第1繋ぎ部と前記ハット内周部との境界から前記ハット頂部と前記第2繋ぎ部との境界までの部分である中間部分の板厚より小さい、金属板で構成される自動車用ホイールディスク、の製造方法であって、
平板状の金属製ディスク素材に対して、後に前記ハット外周部となるハット外周部相当部分にスピニング加工又はフローフォーミング加工である減肉加工を施して、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が側面の略全域を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第1中間形状体を形成する減肉工程と、
前記第1中間形状体に対して、前記ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向外側へ更に引き出す第1絞り加工を施して、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が側面の基端側部分を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第2中間形状体を形成する第1絞り工程と、
前記第2中間形状体に対して、前記ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向内側へ押し込む第2絞り加工を施して、後に前記ハブ取付部となるハブ取付部相当部分と、後に前記ハット部となるハット部相当部分とを含む第3中間形状体であって、前記ハブ取付部相当部分がディスク軸方向に延びる円板状の形状を有し、前記ハット部相当部分がディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出する形状を有し、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が前記ハット部相当部分における前記ハット外周部に対応する部分に位置し、前記ハット部相当部分の前記ハブ取付部相当部分からのディスク軸方向外側への突出高さが、前記ホイールディスクにおける前記ハット部の前記ハブ取付部からのディスク軸方向外側への突出高さより大きい第3中間形状体を形成する第2絞り工程と、
前記第3中間形状体に対して、1つ又は複数の所定の加工を含む仕上げ加工を施して、前記ホイールディスクを形成する仕上げ工程と、
を含む、自動車用ホイールディスクの製造方法。
【請求項2】
自動車のハブに取り付けられることになる、ディスク径方向に延びる平板状のハブ取付部と、
ホイールのリムに接合されることになる、ディスク軸方向に延びる円筒状のリム取付部と、
ディスク径方向において前記ハブ取付部と前記リム取付部とを繋ぐと共に、ディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出するハット部と、を備え、
前記ハット部は、
ディスク径方向断面視でディスク軸方向外側に突出する向きに屈曲する曲線形状のみで構成されるハット頂部と、
ディスク径方向において前記ハブ取付部と前記ハット頂部とを繋ぐと共に、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向外側に傾斜して延びるハット内周部と、
ディスク径方向において前記ハット頂部と前記リム取付部とを繋ぐと共に、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向内側に傾斜して延びるハット外周部と、を備え、
前記ハブ取付部と前記ハット内周部との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第1繋ぎ部が設けられ、
前記ハット頂部と前記ハット外周部との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第2繋ぎ部が設けられ、
前記ハット外周部の板厚は、ディスク径方向における前記第1繋ぎ部と前記ハット内周部との境界から前記ハット頂部と前記第2繋ぎ部との境界までの部分である中間部分の板厚より小さい、金属板で構成される自動車用ホイールディスク、の製造方法であって、
平板状の金属製ディスク素材に対して、前記ディスク素材の中央部分をディスク軸方向外側へ引き出す第1絞り加工を施して、ディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第1中間形状体を形成する第1絞り工程と、
前記第1中間形状体に対して、後に前記ハット外周部となるハット外周部相当部分にスピニング加工又はフローフォーミング加工である減肉加工を施して、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が側面の基端側部分を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第2中間形状体を形成する減肉工程と、
前記第2中間形状体に対して、前記ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向内側へ押し込む第2絞り加工を施して、後に前記ハブ取付部となるハブ取付部相当部分と、後に前記ハット部となるハット部相当部分とを含む第3中間形状体であって、前記ハブ取付部相当部分がディスク軸方向に延びる円板状の形状を有し、前記ハット部相当部分がディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出する形状を有し、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が前記ハット部相当部分における前記ハット外周部に対応する部分に位置し、前記ハット部相当部分の前記ハブ取付部相当部分からのディスク軸方向外側への突出高さが、前記ホイールディスクにおける前記ハット部の前記ハブ取付部からのディスク軸方向外側への突出高さより大きい第3中間形状体を形成する第2絞り工程と、
前記第3中間形状体に対して、1つ又は複数の所定の加工を含む仕上げ加工を施して、前記ホイールディスクを形成する仕上げ工程と、
を含む、自動車用ホイールディスクの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の自動車用ホイールディスクの製造方法において、
前記ハット外周部は、ディスク径方向断面視でディスク径方向の全域に亘って直線状に延びており、
前記ハット外周部の板厚は、全域に亘って定であり、
前記中間部分の板厚は、全域に亘って定である、自動車用ホイールディスクの製造方法
【請求項4】
請求項に記載の自動車用ホイールディスクの製造方法において、
前記ハット外周部の板厚の前記中間部分の板厚に対する割合は、75%以下である、自動車用ホイールディスクの製造方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用ホイールに使用されるホイールディスク、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ホイールディスクに環状のホイールリムを接合してなる自動車用ホイールが広く知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3758780号公報
【文献】特許第5618278号公報
【発明の概要】
【0004】
このような自動車用ホイールに使用される、金属板で構成されるホイールディスクとして、例えば、図17に示すように、自動車のハブに取り付けられることになる平板状のハブ取付部100と、ホイールのリムに接合されることになる円筒状のリム取付部200と、ディスク径方向においてハブ取付部100とリム取付部200とを繋ぐと共にディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出するハット部300と、を備えるものがある。
【0005】
図17に示すホイールディスク2は、例えば、平板状の金属製ディスク素材に対して第1の絞り加工を施して図18に示す第1中間形状体2aを形成し、次に、図18に示す第1中間形状体2aに対して第2の絞り加工を施して図19に示す第2中間形状体2bを形成し、次に、図19に示す第2中間形状体2bに対して1つ又は複数の所定の加工を含む仕上げ加工を施して、図20に示す第3中間形状体2cを経て、製造され得る。
【0006】
ところで、図17に示すホイールディスクでは、ディスク径方向の全域に亘って板厚が略一定になっている。発明者の検討によれば、図17に示すようなハブ取付部、リム取付部及びハット部を備えるホイールディスクに関し、ディスク径方向において、板厚を薄くするとホイールディスク全体としての剛性が低下し易い部分と、板厚を薄くしてもホイールディスク全体としての剛性が低下し難い部分とが存在することが判明した。
【0007】
このことは、ディスク径方向における板厚の分布を調整することで、ホイールディスク全体としての剛性を大きく低下することなくホイールディスク全体として軽量化できる余地があることを意味する。
【0008】
本発明の目的は、ハブ取付部、リム取付部及びハット部を備え、全体としての剛性を大きく低下することなく全体として軽量化できるホイールディスク、及び、そのホイールディスクの製造方法を提供することである。
【0009】
本発明に係る、金属板で構成される自動車用ホイールディスクは、自動車のハブに取り付けられることになる、ディスク径方向に延びる平板状のハブ取付部と、ホイールのリムに接合されることになる、ディスク軸方向に延びる円筒状のリム取付部と、ディスク径方向において前記ハブ取付部と前記リム取付部とを繋ぐと共に、ディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出するハット部と、を備え、前記ハット部は、ディスク径方向断面視でディスク軸方向外側に突出する向きに屈曲する曲線形状のみで構成されるハット頂部と、ディスク径方向において前記ハブ取付部と前記ハット頂部とを繋ぐと共に、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向外側に傾斜して延びるハット内周部と、ディスク径方向において前記ハット頂部と前記リム取付部とを繋ぐと共に、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向内側に傾斜して延びるハット外周部と、を備え、前記ハブ取付部と前記ハット内周部との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第1繋ぎ部が設けられ、前記ハット頂部と前記ハット外周部との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第2繋ぎ部が設けられている。
【0010】
本発明に係る自動車用ホイールディスクの特徴は、前記ハット外周部の板厚が、ディスク径方向における前記第1繋ぎ部と前記ハット内周部との境界から前記ハット頂部と前記第2繋ぎ部との境界までの部分である中間部分の板厚より小さいことにある。
【0011】
ここにおいて、前記ハット外周部は、ディスク径方向断面視でディスク径方向の全域に亘って直線状に延びており、前記ハット外周部の板厚は、全域に亘って略一定であり、前記中間部分の板厚は、全域に亘って略一定であることが好ましい。更には、前記ハット外周部の板厚の最大値が、前記中間部分の板厚の最小値より小さいことが好ましい。
【0012】
発明者の検討によれば、ハブ取付部、リム取付部及びハット部を備えるホイールディスクに関し、ディスク径方向において、ハット外周部は、他の部分と比べて、板厚を薄くしてもホイールディスク全体としての剛性が低下し難い部分であることが判明した。
【0013】
上記本発明に係るホイールディスクによれば、ハット外周部の板厚が、ホイールディスクにおける大部分を占める中間部分の板厚より小さい。従って、ハット外周部の板厚が中間部分の板厚と同じである態様(ひいては、図17に示すように、ディスク径方向の全域に亘って板厚が一定である態様)と比べて、ホイールディスク全体としての剛性を大きく低下することなくホイールディスク全体として軽量化できる。
【0014】
上記本発明に係るホイールディスクでは、前記ハット外周部の板厚の前記中間部分の板厚に対する割合は、75%以下であることが好適である。これによれば、ハット外周部の板厚の中間部分の板厚に対する割合が75%より大きい態様と比べて、ホイールディスク全体としての剛性を大きく低下することなくホイールディスク全体としてより確実に軽量化できる。
【0015】
上記本発明に係る自動車用ホイールディスクを製造するための本発明に係る自動車用ホイールディスクの第1の製造方法は、平板状の金属製ディスク素材に対して、後に前記ハット外周部となるハット外周部相当部分にスピニング加工又はフローフォーミング加工である減肉加工を施して、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が側面の略全域を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第1中間形状体を形成する減肉工程と、前記第1中間形状体に対して、前記ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向外側へ更に引き出す第1絞り加工を施して、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が側面の基端側部分を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第2中間形状体を形成する第1絞り工程と、前記第2中間形状体に対して、前記ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向内側へ押し込む第2絞り加工を施して、後に前記ハブ取付部となるハブ取付部相当部分と、後に前記ハット部となるハット部相当部分とを含む第3中間形状体であって、前記ハブ取付部相当部分がディスク軸方向に延びる円板状の形状を有し、前記ハット部相当部分がディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出する形状を有し、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が前記ハット部相当部分における前記ハット外周部に対応する部分に位置し、前記ハット部相当部分の前記ハブ取付部相当部分からのディスク軸方向外側への突出高さが、前記ホイールディスクにおける前記ハット部の前記ハブ取付部からのディスク軸方向外側への突出高さより大きい第3中間形状体を形成する第2絞り工程と、前記第3中間形状体に対して、1つ又は複数の所定の加工を含む仕上げ加工を施して、前記ホイールディスクを形成する仕上げ工程と、を含む。
【0016】
上記第1の製造方法において、減肉工程は、他の部分より板厚が小さいハット外周部相当部分を作成することを主目的として実行される。第1絞り工程は、第3中間形状体を作成するための準備として、ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分のディスク径方向断面視での道程(みちのり)を伸ばすことを主目的として実行される。第2絞り工程は、第3中間形状体を作成することを主目的として実行される。
【0017】
第3中間形状体におけるディスク径方向断面視でのディスク径方向の全体形状は、ホイールディスク(完成品)のそれと類似する。加えて、第3中間形状体におけるハット部相当部分の突出高さは、ホイールディスク(完成品)におけるハット部の突出高さより大きい。このため、第3中間形状体に対して、仕上げ加工のうちハット部相当部分の突出高さをハット部の突出高さに一致させる絞り加工(典型的には、第2絞り工程の次に実行される絞り加工)を行う際、ハット部相当部分を構成する金属材料がハット内周部側の斜面を下るように移動し易い。なお、ハット外周部側の斜面には、減肉工程により他の部分より既に硬化したハット外周部相当部分が存在するので、ハット部相当部分を構成する金属材料は、ハット外周部側の斜面を下るようには移動し難い。
【0018】
このように金属材料がハット内周部側の斜面を下るように移動するため、当該絞り加工後において中間部分の板厚を適正に確保し易くなる。換言すれば、中間部分の板厚がハット外周部の板厚より大きい板厚分布(即ち、上記本発明に係る自動車用ホイールディスクの板厚分布)を実現し易くなる。
【0019】
このように、上記第1の製造方法では、製造過程の途中段階で、第3中間形状体を作成することに特徴がある。更には、第3中間形状体を作成するために、減肉工程が第1、第2絞り工程の前に実行される。即ち、工程の段取りが互いに類似する第1、第2絞り工程の前に、工程の段取りが第1、第2絞り工程と大きく異なる減肉工程が実行される。このため、第1、第2絞り工程の間に減肉工程が実行される態様と比べて、製造過程の全体として段取りに要する作業者の負担を小さくすることができる。この結果、既存の製造ラインや既存の製造設備での製造が可能となり、製造コストを抑えることが可能となる。
【0020】
上記本発明に係る自動車用ホイールディスクを製造するための本発明に係る自動車用ホイールディスクの第2の製造方法は、平板状の金属製ディスク素材に対して、前記ディスク素材の中央部分をディスク軸方向外側へ引き出す第1絞り加工を施して、ディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第1中間形状体を形成する第1絞り工程と、前記第1中間形状体に対して、後に前記ハット外周部となるハット外周部相当部分にスピニング加工又はフローフォーミング加工である減肉加工を施して、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が側面の基端側部分を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分を含む第2中間形状体を形成する減肉工程と、前記第2中間形状体に対して、前記ハット外周部相当部分よりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向内側へ押し込む第2絞り加工を施して、後に前記ハブ取付部となるハブ取付部相当部分と、後に前記ハット部となるハット部相当部分とを含む第3中間形状体であって、前記ハブ取付部相当部分がディスク軸方向に延びる円板状の形状を有し、前記ハット部相当部分がディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出する形状を有し、他の部分より板厚が小さい前記ハット外周部相当部分が前記ハット部相当部分における前記ハット外周部に対応する部分に位置し、前記ハット部相当部分の前記ハブ取付部相当部分からのディスク軸方向外側への突出高さが、前記ホイールディスクにおける前記ハット部の前記ハブ取付部からのディスク軸方向外側への突出高さより大きい第3中間形状体を形成する第2絞り工程と、前記第3中間形状体に対して、1つ又は複数の所定の加工を含む仕上げ加工を施して、前記ホイールディスクを形成する仕上げ工程と、を含む。
【0021】
上記第2の製造方法は、第1、第2絞り工程の間に減肉工程が実行される点においてのみ、減肉工程が第1、第2絞り工程の前に実行される上記第1の製造方法と異なる。このため、上記第2の製造方法では、上述したように、製造過程の全体として段取りに要する作業者の負担は、上記第1の製造方法と比べて大きくなるものの、それ以外の観点では、上記第1の製造方法と同じ作用・効果が奏され得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の実施形態に係る自動車用ホイールディスクにおけるディスク径方向断面図である。
図2図2は、図1に示すホイールディスクの第1の製造方法に係る製造過程の途中の第1の段階で製造される第1中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図3図3は、図1に示すホイールディスクの第1の製造方法に係る製造過程の途中の第2の段階で製造される第2中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図4図4は、図1に示すホイールディスクの第1の製造方法に係る製造過程の途中の第3の段階で製造される第3中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図5図5は、図1に示すホイールディスクの第1の製造方法に係る製造過程の途中の第4の段階で製造される第4中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図6図6は、図1に示すホイールディスクの第1の製造方法に係る製造過程の途中の第5の段階で製造される第5中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図7図7は、図2に示す第1中間形状体を製造するために第1の製造方法にて行われるスピニング加工を説明するための図である。
図8図8は、図3に示す第2中間形状体を製造するために第1の製造方法にて行われる第1絞り加工を説明するための図である。
図9図9は、図4に示す第3中間形状体を製造するために第1の製造方法にて行われる第2絞り加工を説明するための図である。
図10図10は、図5に示す第4中間形状体を製造するために第1の製造方法にて行われる第3絞り加工を説明するための図である。
図11図11は、図1に示すホイールディスクの第2の製造方法に係る製造過程の途中の第1の段階で製造される第1中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図12図12は、図1に示すホイールディスクの第2の製造方法に係る製造過程の途中の第2の段階で製造される第2中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図13図13は、図1に示すホイールディスクの第2の製造方法に係る製造過程の途中の第3の段階で製造される第3中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図14図14は、図11に示す第1中間形状体を製造するために第2の製造方法にて行われる第1絞り加工を説明するための図である。
図15図15は、図12に示す第2中間形状体を製造するために第2の製造方法にて行われるスピニング加工を説明するための図である。
図16図16は、図13に示す第3中間形状体を製造するために第2の製造方法にて行われる第2絞り加工を説明するための図である。
図17図17は、従来の自動車用ホイールディスクにおけるディスク径方向断面図である。
図18図18は、図17に示すホイールディスクの従来の製造方法に係る製造過程の途中の第1の段階で製造される第1中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図19図19は、図17に示すホイールディスクの従来の製造方法に係る製造過程の途中の第2の段階で製造される第2中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
図20図20は、図17に示すホイールディスクの従来の製造方法に係る製造過程の途中の第3の段階で製造される第3中間形状体におけるディスク径方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態に係る自動車用ホイールディスクについて図面を参照しながら説明する。図1に示す本発明の実施形態に係るホイールディスク1は、平板状の金属製ディスク素材から製造される。ホイールディスク1は、典型的にはスチール製であるが、アルミ合金製、チタン合金製、マグネシウム合金製等であってもよい。ホイールディスク1は、環状のホイールリム(図示省略)に接合されて、自動車用ホイールとなる。ホイールディスク1とホイールリムとの接合は、典型的には溶接によってなされるが、リベット、接着等によってなされてもよい。
【0024】
(ホイールディスクの構成)
図1に示すように、ホイールディスク1は、ハブ取付部10と、リム取付部20と、ハット部30と、を一体に備える。以下、説明の便宜上、図1に示すように、ディスク径方向、並びに、ディスク軸方向(外側、及び、内側)を定義する。ディスク径方向及びディスク軸方向は互いに直交している。この定義は、その他の図面においても適用される。
【0025】
ハブ取付部10は、自動車の車輪に設けられたハブ(図示省略)に取り付けられることになる部分であり、本例では、ホイールディスク1のディスク径方向中央部にてディスク径方向に延びる円板状の部分である。ハブ取付部10には、ハブ穴11(貫通孔)が、ディスク径方向中央部に形成されている。ハブ取付部10には、ディスク軸方向外側に僅かに隆起する複数のボルト取付部12が、ハブ穴11のディスク径方向外側にて、ディスク周方向にて同心円上に等間隔に設けられている。各ボルト取付部12には、ハブに設けられたボルト(図示省略)を挿通するためのボルト穴(貫通孔)13が形成されている。ハブに設けられた複数本のボルトに各ボルト穴13をそれぞれ挿通してナット(図示省略)を螺号することで、ホイールディスク1は、ハブに固定される。
【0026】
リム取付部20は、環状のホイールリム(図示省略)に接合されることになる部分であり、本例では、ホイールディスク1のディスク径方向外側端部にて同心的にディスク軸方向内側に延びる円筒状の部分である。リム取付部20の外周面が、ホイールリムの内周面の所定箇所に接続されることで、自動車用ホイールが得られる。リム取付部20は、本例では、ディスク周方向に連続する円筒状の形状を有しているが、ディスク周方向にて部分的に不連続な円筒状の形状を有していてもよい。
【0027】
ハット部30は、ディスク径方向においてハブ取付部10とリム取付部20との間に設けられており、ディスク径方向においてハブ取付部10とリム取付部20とを繋ぐ部分である。ハット部30は、ディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出する形状を有する。ハット部30は、ハブ取付部10及びリム取付部20よりディスク軸方向外側に位置する部分を有する。ハット部30の少なくともハット頂部31(後述)は、ハブ取付部10及びリム取付部20よりディスク軸方向外側に位置する。ハット部30のディスク径方向断面視(ディスク周方向と直交する断面視)での形状及び位置は、ディスク周方向において一定であっても若干異なっていてもよい。
【0028】
ハット部30は、ハット頂部31と、ハット内周部32と、ハット外周部33とで構成される。ハット頂部31は、ホイールディスク1において最もディスク軸方向外側に位置する部分であり、ディスク径方向断面視で、ディスク軸方向外側に突出する向きに屈曲する1つ又は複数の曲線形状のみで構成される。
【0029】
ハット内周部32は、ディスク径方向においてハブ取付部10とハット頂部31との間に設けられており、ディスク径方向においてハブ取付部10とハット頂部31とを繋ぐ部分である。ハット内周部32は、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向外側に傾斜して延びることで、ハブ取付部10とハット頂部31とを滑らかに繋いでいる。本例では、ハット内周部32は、ディスク径方向断面視で、複数の曲線形状と直線形状との組み合わせで構成されている。
【0030】
ハット外周部33は、ディスク径方向においてハット頂部31とリム取付部20との間に設けられており、ディスク径方向においてハット頂部31とリム取付部20とを繋ぐ部分である。ハット外周部32は、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向内側に傾斜して延びることで、ハット頂部31とリム取付部20とを滑らかに繋いでいる。本例では、ハット外周部33は、ディスク径方向断面視で、ディスク径方向の全域に亘って直線状に延びている。本例では、ハット外周部33において、複数の飾り穴34(貫通孔)が、ディスク周方向にて同心円上に等間隔に設けられている。
【0031】
ハブ取付部10とハット内周部32との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第1繋ぎ部40が設けられている。ハット頂部31とハット外周部33との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク軸方向内側に窪む向きに屈曲する曲線形状を有する第2繋ぎ部50が設けられている。ハット外周部33とリム取付部20との境界部には、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に突出する向きに屈曲する曲線形状を有する第3繋ぎ部60が設けられている。
【0032】
図1から理解できるように、ホイールディスク1では、ハット外周部33の板厚t1(の最大値)が、ハット外周部33以外の部分の板厚t2(の最小値)より小さい。本例では、ハット外周部33(第2繋ぎ部50及び第3繋ぎ部60を除く部分)の板厚t1が、全域に亘って略一定であり、ハット外周部33以外の部分(第2繋ぎ部50及び第3繋ぎ部60を除く部分)の板厚t2も、全域に亘って略一定である。
【0033】
従って、ディスク径方向における第1繋ぎ部40とハット内周部32との境界pからハット頂部31と第2繋ぎ部50との境界qまでの部分を「中間部分」と定義したとき、中間部分の板厚t2も全域に亘って略一定であり、ハット外周部33の板厚t1(の最大値)は、中間部分の板厚t2(の最小値)より小さい。第2繋ぎ部50及び第3繋ぎ部60の板厚は、ハット外周部33に近づくにつれてt2からt1に徐々に小さくなっている。
【0034】
ホイールディスク1において、ハット外周部33は、後述するように、スピニング加工により減肉加工が施されることで、他の部分より板厚が小さくなっている。このため、ハット外周部33は、他の部分と比べて、硬化している(曲げ剛性が高い)。
【0035】
(ホイールディスク1による作用・効果)
発明者の検討によれば、ハブ取付部10、リム取付部20及びハット部30を備えるホイールディスク1に関し、ディスク径方向において、ハット外周部333は、他の部分と比べて、板厚を薄くしてもホイールディスク1全体としての剛性が低下し難い部分であることが判明した。
【0036】
この点、ホイールディスク1では、ハット外周部33の板厚t1が、ホイールディスク1における大部分を占める中間部分の板厚t2より小さい。従って、ハット外周部33の板厚が中間部分の板厚と同じである態様(ひいては、図17に示すように、ディスク径方向の全域に亘って板厚が一定である態様)と比べて、ホイールディスク1全体としての剛性を大きく低下することなくホイールディスク1全体として軽量化できる。
【0037】
ここで、ハット外周部33の板厚t1の中間部分の板厚t2に対する割合は、75%より大きくてもよいが、75%以下であることが好適である。これによれば、ハット外周部33の板厚t1の中間部分の板厚t2に対する割合が75%より大きい態様と比べて、ホイールディスク1全体としての剛性を大きく低下することなくホイールディスク1全体としてより確実に軽量化できる。
【0038】
(ホイールディスク1の製造方法)
次に、上記構成を有するホイールディスク1を製造するための本発明の実施形態に係る製造方法について、図2図10を参照しながら説明する。
【0039】
先ず、円板状の金属製ディスク素材を準備する。次いで、このディスク素材に対して、後にハット外周部33となるハット外周部相当部分33zにスピニング加工(減肉工程)を行うことで、図2に示す第1中間形状体1aを形成する。
【0040】
このスピニング加工は、図7に示すように、ディスク素材を載置した治具台D1を中心軸周りに回転させた状態で、ハット外周部相当部分33zを、ディスク軸方向外側からローラーRを用いて、治具台D1の上面の縁部に形成された円錐台状の傾斜面に押し付けることで行われる。これにより、図2に示すように、第1中間形状体1aは、「他の部分より板厚が小さいハット外周部相当部分33zが、側面の略全域を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分」を含む形状を有する。なお、ハット外周部相当部分33zを減肉させる減肉加工として、スピニング加工に代えて、所謂フローフォーミング加工が行われてもよい。
【0041】
次に、第1中間形状体1aに対して、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向外側へ更に引き出す第1絞り加工(第1絞り工程)を行うことで、図3に示す第2中間形状体1bを形成する。
【0042】
この第1絞り加工は、図8に示すように、第1中間形状体1aの外縁部を治具台D2及び治具台D3によりディスク軸方向に挟持した状態で、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分を、治具台D4を用いて、ディスク軸方向外側へ更に引き出すことで行われる。これにより、図3に示すように、第2中間形状体1bは、「他の部分より板厚が小さいハット外周部相当部分33zが、側面の基端側部分(ディスク軸方向内側部分)を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分」を含む形状を有する。
【0043】
次に、第2中間形状体1bに対して、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向内側へ押し込む第2絞り加工(第2絞り工程)を行うことで、図4に示す第3中間形状体1cを形成する。
【0044】
この第2絞り加工は、図9に示すように、第2中間形状体1bの外縁部を治具台D5及び治具台D6によりディスク軸方向に挟持した状態で、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分を、治具台D7及び治具台D8によりディスク軸方向に挟持しながら、ディスク軸方向内側へ押し込むことで行われる。
【0045】
これにより、図4に示すように、第3中間形状体1cは、後にハブ取付部10となるハブ取付部相当部分10zと、後にハット部30となるハット部相当部分30zとを含む形状を有する。ハブ取付部相当部分10zは、ディスク軸方向に延びる円板状の形状を有する。ハット部相当部分30zは、ディスク周方向全域に亘ってディスク軸方向外側に突出する形状を有する。ハット部相当部分30zのディスク径方向断面視での形状及び位置は、ディスク周方向に亘って一定である。
【0046】
他の部分より板厚が小さいハット外周部相当部分33zは、ハット部相当部分30zにおけるハット外周部33に対応する部分に位置している。ハット外周部相当部分33zは、ディスク径方向断面視で、ディスク径方向の全域に亘って直線状に延びている。ハット外周部相当部分33zの板厚は、全域に亘って略一定であり、ホイールディスク1(完成品)の板厚t1とほぼ等しい。ハット外周部相当部分33z以外の部分の板厚も、全域に亘って略一定であり、ホイールディスク1(完成品)の板厚t2とほぼ等しい。
【0047】
ハット部相当部分30zのハブ取付部相当部分10zからのディスク軸方向外側への突出高さB(図4参照)は、ホイールディスク1(完成品)におけるハット部30のハブ取付部10からのディスク軸方向外側への突出高さA(図1参照)より大きい。
【0048】
次に、第3中間形状体1cに対して、仕上げ加工のうちの1番目の加工に対応する第3絞り加工(仕上げ工程のうちの1番目の工程)を行うことで、図5に示す第4中間形状体1dを形成する。
【0049】
この第3絞り加工は、図10に示すように、治具台D9及び治具台D10により第3中間形状体1cをディスク軸方向に挟み込むことで行われる。これにより、図5に示すように、第4中間形状体1dでは、ディスク径方向断面視で、ホイールディスク1(完成品)のものと概ね同じ輪郭形状を有するハブ取付部10(ボルト取付部12を含む)、リム取付部20、ハット部30(ハット頂部31+ハット内周部32+ハット外周部33)、第1繋ぎ部40、及び、第2繋ぎ部50が形成されている。
【0050】
次に、第4中間形状体1dに対して、仕上げ加工のうちの2番目の加工に対応する第4絞り加工(仕上げ工程のうちの2番目の工程、所謂リストライク加工)を行うことで、図6に示す第5中間形状体1eを形成する。第5中間形状体1eでは、第4中間形状体1dに対して、更に、ディスク径方向断面視で、ホイールディスク1(完成品)のものと概ね同じ輪郭形状を有するハブ穴11、ボルト穴13、リム取付部20、及び、第3繋ぎ部60が形成されている。なお、第3絞り加工と第4絞り加工との間に、第4中間形状体1dに対して、ハブ穴11用の下穴を抜き、且つ、外縁部をトリミングする加工が行われてもよい。
【0051】
そして、第5中間形状体1eに対して、仕上げ加工のうちの最後の1又は複数の加工(仕上げ工程のうちの最終工程を含む工程)を行い、飾り穴34を形成し、且つ、ボルト穴13の内周縁にコイニングを行うことで、図1に示すホイールディスク1(完成品)が得られる。
【0052】
(ホイールディスク1の製造方法による作用・効果)
ホイールディスク1の上記実施形態に係る製造方法において、スピニング加工(図7参照)は、他の部分より板厚が小さいハット外周部相当部分33zを作成することを主目的として実行される。第1絞り加工(図8参照)は、第3中間形状体1c(図4参照)を作成するための準備として、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分のディスク径方向断面視での道程(みちのり)を伸ばすことを主目的として実行される。第2絞り工程(図9参照)は、第3中間形状体1cを作成することを主目的として実行される。
【0053】
第3中間形状体1cにおけるディスク径方向断面視でのディスク径方向の全体形状は、ホイールディスク1(完成品)のそれと類似する(図1図4との比較)。加えて、第3中間形状体1cにおけるハット部相当部分30zの突出高さB(図4参照)は、ホイールディスク1(完成品)におけるハット部30の突出高さA(図1参照)より大きい。
【0054】
このため、第3中間形状体1cに対して、第3絞り加工(図10参照。仕上げ加工のうちハット部相当部分30zの突出高さをハット部30の突出高さに一致させる絞り加工)を行う際、ハット部相当部分30zを構成する金属材料がハット内周部32側の斜面を下るように移動し易い。なお、ハット外周部33側の斜面には、減肉工程により他の部分より既に硬化したハット外周部相当部分33zが存在するので、ハット部相当部分30を構成する金属材料は、ハット外周部33側の斜面を下るようには移動し難い。
【0055】
このように、第3絞り加工の過程において、金属材料がハット内周部32側の斜面を下るように移動するため、第3絞り加工後において中間部分の板厚t2を適正に確保し易くなる。換言すれば、中間部分の板厚t2がハット外周部33の板厚t1より大きい板厚分布(即ち、ホイールディスク1の板厚分布)を実現し易くなる。
【0056】
このように、上記実施形態に係る製造方法では、製造過程の途中段階で、第3中間形状体1c(図4参照)を作成することに特徴がある。更には、第3中間形状体1cを作成するために、スピニング加工が第1、第2絞り加工の前に実行される。即ち、工程の段取りが互いに類似する第1、第2絞り加工の前に、工程の段取りが第1、第2絞り加工と大きく異なるスピニング加工が実行される。このため、第1、第2絞り加工の間にスピニング加工が実行される態様と比べて、製造過程の全体として段取りに要する作業者の負担を小さくすることができる。
【0057】
ただし、上記実施形態に係る製造方法では、スピニング加工の際、ディスク軸方向外側からローラーRを押し付けることに起因して、ホイールディスク1(完成品)において、ハット外周部33の外表面(ディスク軸方向外側の表面)に、ローラーRの加工目が形成される。
【0058】
なお、上記実施形態に係る製造方法において、第3絞り加工(図5参照)以降の各工程(即ち、仕上げ工程)は、発明の概要の欄で述べた従来の製造方法と同じである。上記実施形態に係る製造方法における第3絞り加工(図5参照)は、従来の製造方法における第2の絞り加工(図19参照)に対応している。換言すれば、上記実施形態に係る製造方法は、仕上げ工程の前にスピニング加工(図2参照)、第1絞り加工(図3参照)及び第2絞り加工(図4参照)という3つの工程が行われる点で、仕上げ工程の前に第1の絞り加工(図18参照)という1つの工程のみが行われる従来の製造方法と異なる。
【0059】
本発明は、上記の典型的な実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の応用や変形が考えられる。例えば、上記実施の形態を応用した次の各形態を実施することもできる。
【0060】
上記実施形態に係る製造方法では、スピニング加工が第1、第2絞り加工の前に実行されている。これに対し、第1、第2絞り加工の間にスピニング加工が実行されてもよい。以下、この変形例に係る製造方法における第1絞り加工、スピニング加工、及び第2絞り加工について、図11図16を参照しながら説明する。
【0061】
この変形例では、円板状の金属製ディスク素材に対して、ディスク素材の中央部分をディスク軸方向外側へ引き出す第1絞り加工(第1絞り工程)を行うことで、図11に示す第1中間形状体1a’を形成する。
【0062】
この第1絞り加工は、図14に示すように、ディスク素材の外縁部を治具台D11及び治具台D12によりディスク軸方向に挟持した状態で、ディスク素材の中央部分を、治具台D13を用いて、ディスク軸方向外側へ引き出すことで行われる。これにより、図11に示すように、第1中間形状体1a’は、「ディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分」を含む形状を有する。
【0063】
次に、第1中間形状体1a’に対して、後にハット外周部33となるハット外周部相当部分33zにスピニング加工(減肉工程)を行うことで、図12に示す第2中間形状体1b’を形成する。
【0064】
このスピニング加工は、図15に示すように、第1中間形状体1a’の外縁部を治具台D14及び治具台D15によりディスク軸方向に挟持し、且つ、治具台D14及び治具台D15を中心軸周りに回転させた状態で、ハット外周部相当部分33zを、ディスク軸方向内側からローラーRを用いて、治具台D14の下面の縁部に形成された円錐台状の傾斜面に押し付けることで行われる。これにより、図12に示すように、第2中間形状体1b’は、「他の部分より板厚が小さいハット外周部相当部分33zが、側面の基端側部分(ディスク軸方向内側部分)を構成すると共にディスク軸方向外側に突出する円錐台状の部分」を含む形状を有する。なお、ハット外周部相当部分33zを減肉させる減肉加工として、スピニング加工に代えて、所謂フローフォーミング加工が行われてもよい。
【0065】
次に、第2中間形状体1b’に対して、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分をディスク軸方向内側へ押し込む第2絞り加工(第2絞り工程)を行うことで、図13に示す第3中間形状体1c’を形成する。
【0066】
この第2絞り加工は、図16に示すように、第2中間形状体1b’の外縁部を治具台D16及び治具台D17によりディスク軸方向に挟持した状態で、ハット外周部相当部分33zよりディスク径方向内側の部分を、治具台D18及び治具台D19によりディスク軸方向に挟持しながら、ディスク軸方向内側へ押し込むことで行われる。
【0067】
これにより、図13に示すように、第3中間形状体1c’は、図4に示した第3中間形状体1cと同様の形状を有する。第3中間形状体1c’は、図4に示した第3中間形状体1cと同様の形状を有するので、その詳細な説明を省略する。
【0068】
また、この変形例において、第2絞り加工以降に行われる仕上げ加工の手順については、上記実施形態に係る製造方法における仕上げ加工の手順と同じであるので、それらの詳細な説明を省略する。
【0069】
変形例に係る製造方法は、第1、第2絞り加工の間にスピニング加工が実行される点においてのみ、スピニング加工が第1、第2絞り工程の前に実行される上記実施形態に係る製造方法と異なる。このため、変形例に係る製造方法では、上述したように、製造過程の全体として段取りに要する作業者の負担は、上記実施形態に係る製造方法と比べて大きくなるものの、それ以外の観点では、上記実施形態に係る製造方法と同じ作用・効果が奏され得る。
【0070】
更に、変形例に係る製造方法では、スピニング加工の際、ディスク軸方向内側からローラーRを押し付けることに起因して、ホイールディスク1(完成品)において、ハット外周部33の外表面(ディスク軸方向外側の表面)に、ローラーRの加工目が形成されない。このため、変形例に係る製造方法を採用することで、上記実施形態に係る製造方法を採用する場合と比べて、ホイールディスク1(完成品)における見栄えが良くなる。
【0071】
また、上記実施形態に係るホイールディスク1では、ハット外周部33以外の部分(第2繋ぎ部50及び第3繋ぎ部60を除き、且つ、中間部分を含む部分)の板厚t2が全域に亘って略一定である。これに対し、ハット外周部33の板厚t1(の最大値)が中間部分の板厚t2(の最小値)より小さい限りにおいて、ハット外周部33以外の部分(第2繋ぎ部50及び第3繋ぎ部60を除く部分)の板厚t2がディスク径方向位置に応じて異なっていてもよい。
【0072】
また、上記実施形態に係るホイールディスク1では、ハット外周部33は、ディスク径方向断面視で、ディスク径方向の全域に亘って直線状に延びている。これに対し、ハット外周部33は、ディスク径方向断面視でディスク径方向外側に向けてディスク軸方向内側に傾斜して延びる限りにおいて、ディスク径方向の一部又は全域に亘って湾曲していてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…ホイールディスク、10…ハブ取付部、20…リム取付部、30…ハット部、31…ハット頂部、32…ハット内周部、33…ハット外周部、40…第1繋ぎ部、50…第2繋ぎ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
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図15
図16
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図18
図19
図20