IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気硝子株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】医薬容器用ホウケイ酸ガラス
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/091 20060101AFI20220808BHJP
   A61J 1/05 20060101ALI20220808BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C03C3/091
A61J1/05 311
B65D1/00 110
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2016247433
(22)【出願日】2016-12-21
(65)【公開番号】P2018100200
(43)【公開日】2018-06-28
【審査請求日】2019-11-06
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 美樹
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】後藤 政博
【審判官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-98430(JP,A)
【文献】特開2014-214084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 - 14/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、SiO 70~80%、Al 1~7%、B 8.5~12%、NaO 4~9%、KO 0超~0.9%、LiO 0~0.1%、CaO 0~%を含有し、BaOを実質的に含まず、CaO/KOの値がモル比で1.1以下であり、KO/NaOの値がモル比で0.2以下であることを特徴とする医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項2】
MgOの含有量が0~2モル%、SrOの含有量が0~2モル%であることを特徴とする請求項1に記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項3】
MgO+CaO+SrOの合量が0~2モル%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項4】
NaO+KO+LiOの合量が6~9モル%であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項5】
CaOの含有量が、0~0.7モル%であることを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項6】
(MgO+CaO+SrO)/(NaO+KO+LiO)の値が、モル比で0.10未満であることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項7】
CaO/(NaO+KO+LiO)の値が、モル比で0.1未満であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項8】
O/NaOの値が、モル比で0.05~0.15であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項9】
Al/(B+NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)の値が、モル比で0.1~0.3であることを特徴とする請求項1~8の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項10】
Al/(NaO+KO+LiO)の値が、モル比で0.3~1.0であることを特徴とする請求項1~9の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項11】
Al/(NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)の値が、モル比で0.41~0.55であることを特徴とする請求項1~10の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項12】
EP8.4に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量が0.040mL以下であることを特徴とする請求項1~11の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項13】
DIN12116に準じた耐酸性試験において、面積あたりの質量減少量が1.0mg/dm以下であることを特徴とする請求項1~12の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項14】
作業温度が1150℃~1190℃であることを特徴とする請求項1~13の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項15】
液相粘度が104.5dPa・s以上であることを特徴とする請求項1~14の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラス。
【請求項16】
請求項1~15の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする医薬容器用ガラス管。
【請求項17】
請求項1~16の何れかに記載の医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることを特徴とする医薬容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイアル、アンプル等の管瓶用ガラスや注射器のシリンジに使用される医薬容器用ホウケイ酸ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
アンプルやバイアルなどの医薬容器は、一般的に、ガラス管を局所的にバーナーで加熱して加工することで得られ、加工後には、ガラス中の残留歪を除去するために電気炉内で熱処理される。
【0003】
また、バイアル、アンプル等の医薬容器用には、ホウケイ酸ガラスが使用される。そして、このホウケイ酸ガラスには、下記に示すような特性が要求される。
(a)充填される薬液中の成分とガラス中の成分が反応しないこと
(b)充填される薬液を汚染しないように化学的耐久性や加水分解抵抗性が高いこと
(c)ガラス管の製造工程や、バイアル、アンプル等への加工時に、サーマルショックによる破損が生じ難いように低熱膨張であること
(d)バイアル、アンプル等への加工が低温で行えるように、作業温度が低いこと
【0004】
これらの要求特性を満足する標準的な医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、一般的に、構成成分として、SiO、Al、B、NaO、KO、CaO、BaOと少量の清澄剤を含有している。(例えば特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-237562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、充填される薬液の開発が進み、より薬効の高い薬液が使用されつつある。これに伴い、バイアルやアンプルを構成する医薬容器用ホウケイ酸ガラスには、従来以上に化学的耐久性や加水分解抵抗性の高いガラスが要求されている。
【0007】
ところで、ホウケイ酸ガラス中にBaOを含有していると、ガラス溶融時にアルミナ系耐火物との反応によってバリウム長石結晶が析出し易くなり生産歩留まりが低下すると共に、薬液中の硫酸イオンと反応して沈殿物を発生させる恐れがある。
【0008】
本発明の目的は、BaOを含有しないガラスであって、化学的耐久性や加水分解抵抗性が良好である医薬容器用ホウケイ酸ガラスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、医薬容器用ホウケイ酸ガラスにBaOを含有させないことにより沈殿物の発生を抑制することができ、更に、モル比でCaO/KOの値を厳密に規制することにより、ガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性が向上することを見出し、本発明として提案する。
【0010】
すなわち、本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、モル%で、SiO 70~80%、Al 1~7%、B 8.5~12%、NaO 4~9%、KO 0超~5%、LiO 0~0.1%、CaO 0~2%含有し、BaOを実質的に含まず、CaO/KOの値が、モル比で1.2以下であることを特徴とする。
【0011】
なお「BaOを実質的に含まない」とは、BaOを積極的に添加しないという意味であり、不純物として混入するものまで排除する主旨ではない。より具体的にはBaOの含有量が0.05質量%以下であることを指す。また、「CaO/KO」とは、CaOの含有量を、KOの含有量で除した値である。なお、以降の説明において、特に断りがない限り、%表示はモル%を意味する。
【0012】
本発明者は、医薬容器用ホウケイ酸ガラス組成系において、CaO/KOのモル比の値が、ガラス構造中における酸塩基反応に大きく関連していることを見出した。
【0013】
上記メカニズムに関し、本発明者は以下のように考える。本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスにおいて、酸塩基反応の観点では、ガラス構造中のKOやCaO等の塩基性酸化物は、中間酸化物であるAlや、酸性酸化物であるSiOやBと反応すると考えられる。
【0014】
ここで、本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラス組成のうち、主な塩基性酸化物を塩基性度が高い順から並べた場合、KO>NaO>LiO>CaOという順序である。酸・塩基反応としてはまず、Alが塩基性酸化物と反応するのであるが、その後、塩基性度が高いKOが、酸性度が高いBの方と優先的に反応する。そして、塩基性度が低い成分、例えばCaOは弱酸性度のSiOと反応しやすいと考えられる。
【0015】
本発明では、CaO/KOの値をモル比で、1.2以下に規制することで、KOとBの反応を一定以上に維持している。このようにすることで、ガラス構造中からBが脱離するのを抑制できるため、ガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上さることができる。更に、酸性酸化物の酸性度と塩基性酸化物の塩基性度のバランスを適切に規制しているため、ガラス構造が安定し、ひいては化学的耐久性や加水分解抵抗性をより向上させることが可能である。CaO/KOの値が大きすぎると、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下し、更に粘度が高くなるため生産性が低下する。
【0016】
また、本発明では、BaOを含有しないため、ガラス溶融時あるいは成形時にBaOとアルミナ系耐火物との反応によりバリウム長石結晶が析出しない。また、ガラスからのBaイオンの溶出が少なく、薬液中の硫酸イオンと不溶物の沈殿物を形成し難いガラスが得られる。
【0017】
本発明においては、さらにMgOの含有量が0~2モル%、SrOの含有量が0~2モル%であることが好ましい。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性の低下を抑制しつつ、作業温度の低いガラスが得やすくなる。
【0018】
本発明においては、さらにMgO+CaO+SrOの合量が0~2モル%であることが好ましい。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性の低下を抑制しつつ、作業温度の低いガラスが得やすくなる。
【0019】
本発明においては、さらにNaO+KO+LiOの合量が6~9モル%であることが好ましい。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性の低下を抑制しつつ、作業温度の低いガラスを得やすくなる。
【0020】
本発明においては、さらにCaOの含有量が、0~0.7モル%であることが好ましい。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性を更に向上させることが可能になる。
【0021】
本発明においては、低粘性、高加水分解抵抗性に優れたガラスを得るために、モル比で、(MgO+CaO+SrO)/(NaO+KO+LiO)の値を、0.10未満に調整することが好ましい。なお「(MgO+CaO+SrO)/(NaO+KO+LiO)」とは、MgO、CaO及びSrOの合量を、NaO、KO及びLiOの合量で除した値である。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性の低下を抑制しつつ、作業温度の低いガラスが得やすくなる。
【0022】
本発明においては、CaO/(NaO+KO+LiO)が、モル比で0.1未満であることが好ましい。なお「CaO/(NaO+KO+LiO)」とは、CaOの含有量を、NaO、KO及びLiO合量で除した値である。このようにすれば、作業性がよく、化学的耐久性や加水分解抵抗性の高いガラスが得られる。
【0023】
本発明においては、KO/NaOが、モル比で0.2以下であることが好ましい。なお、「KO/NaO」とは、KOの含有量をNaOの含有量で除した値である。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性の低下を抑制しつつ、作業温度の低いガラスを得やすくなる。
【0024】
本発明においては、Al/(B+NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)がモル比で0.1~0.3であることが好ましい。なお「Al/(B+NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)」とは、Alの含有量を、B、NaO、KO、LiO、MgO、CaO及びSrOの合量で除した値である。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性をさらに向上させることが可能になる。
【0025】
本発明においては、Al/(NaO+KO+LiO)が、モル比で0.3~1.0であることが好ましい。なお「Al/(NaO+KO+LiO)」とは、Alの含有量を、NaO、KO、LiOの合量で除した値である。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性をさらに向上させることが可能になる。
【0026】
本発明においては、Al/(NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)がモル比で0.41~0.55であることが好ましい。なお、「Al/(NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)」とは、Alの含有量を、NaO、KO、LiO、MgO、CaO及びSrOの合量で除した値である。このようにすれば、化学的耐久性や加水分解抵抗性を改善しつつ、作業温度を抑制したガラスが得やすくなる。
【0027】
本発明においては、EP8.4に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量が0.040mL以下であることが好ましい。
【0028】
本発明においては、DIN12116に準じた耐酸性試験において、面積あたりの質量減少量が1.0mg/dm以下であることが好ましい。
【0029】
本発明においては、作業温度が1150℃~1190℃であることが好ましい。なお作業温度とは、ガラスの粘度が104.0dPa・sとなる温度である。
【0030】
このようにすれば、ガラス管からアンプルやバイアル等のガラス容器を作製する際の加工温度を低くすることが可能となり、ガラス中のアルカリホウ酸塩の蒸発量を著しく低減できる。結果として、ガラス容器中に保管される薬液成分の変質や薬液のpH上昇などを引き起こす事態を回避することができる。
【0031】
本発明においては、液相粘度が104.5dPa・s以上であることが好ましい。このようにすれば、ガラス管の成形にダンナー法を採用した場合でも、成形時の失透が生じ難くなるため好ましい。
【0032】
本発明の医薬容器用ガラス管は、上記医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることが好ましい。
【0033】
本発明の医薬容器は、上記医薬容器用ホウケイ酸ガラスからなることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、ガラス組成として、モル%で、SiO 70~80%、Al 1~7%、B 8.5~12%、NaO 4~9%、KO 0超~5%、LiO 0~0.1%、CaO 0~2%含有し、BaOを実質的に含まず、CaO/KOの値が、モル比で1.2以下である。
【0035】
本発明では、CaO/KOのモル比の値を規制すると共に、ガラス構造を安定化する目的で、酸塩基反応を考慮して、塩基性酸化物の塩基性度と酸性酸化物の酸性度の反応バランスを調整することが重要である。このようにすることで、化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上させることができる。
【0036】
以下、各成分について、それぞれの組成範囲を上記のように限定した理由と好適な範囲を詳細に述べる。なお以下の説明において、特に断りがない限り、%表示はモル%を意味する。
【0037】
SiOはガラスネットワークを構成する元素の1つである。SiOの含有量は70~80%であり、好ましくは、75~80%未満、さらに76~80%未満、特に76.5~79.5%である。SiOの含有量が少な過ぎると化学的耐久性が低下し、医薬容器用ホウケイ酸ガラスに求められる耐酸性を満たすことができない。一方、SiOの含有量が多過ぎると液相粘度が低下し、製造工程で失透が起こりやすくなる。
【0038】
Alはガラスの失透を抑制し、また化学的耐久性及び加水分解抵抗性を向上させる成分である。Alの含有量は1~7%であり、好ましくは3%を超え、6%以下、さらに3.5~6%、特に3~5.5%である。Alの含有量が少な過ぎると上記の効果が得られない。一方、Alの含有量が多過ぎるとガラスの粘度が上昇し、目標とする作業温度を得ることができない。また、上述したとおり、Alは塩基性酸化物と優先的に反応するため、塩基性酸化物と酸性酸化物との反応バランスの観点からも、上記範囲に規制することが好適である。
【0039】
はガラスの融点を低下させるだけでなく、液相粘度を上昇させ、失透を抑制する成分である。そのため、Bの含有量は8.5~12%、好ましくは8.6~11.5%未満、更に8.7~11%未満、特に9~11%未満である。Bの含有量が少な過ぎると高温粘度が上昇する。一方、Bの含有量が多過ぎると加水分解抵抗性や化学的耐久性が低下する。
【0040】
NaOはガラスの粘度を低下させ、線熱膨張係数を上昇させる成分である。NaOの含有量は4~9%であり、好ましくは5~9%、さらに6~9%、特に6.5~8%である。NaOの含有量が少なすぎると高温粘度が上昇する。また、NaOはBと優先的に反応し、Bが構造中から脱離するのを抑制できるため、酸塩基反応の観点でガラス構造の安定化や化学的耐久性や加水分解抵抗性向上に寄与する重要な成分である。しかし、NaOの含有量が多過ぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0041】
OもNaOと同様にガラスの粘度を低下させ、線熱膨張係数を上昇させる成分である。KOの含有量は0超~5%であり、好ましくは0.1~4%、0.3~3%、さらに0.4~2.5%、特に0.6~2%である。上述したとおり、KOは、優先的にBと反応し、Bが構造中から脱離するのを抑制できるため、酸塩基反応の観点でガラス構造の安定化や化学的耐久性や加水分解抵抗性向上に寄与する重要な成分である。しかし、KOの含有量が多過ぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0042】
なおKOとNaOの両成分を併用すれば、混合アルカリ効果により、加水分解抵抗性が向上するため、望ましい。
【0043】
加水分解抵抗性をさらに向上させるために、モル比で、KO/NaOの値を0.2以下、0.2未満、0.18以下、特に0.05~0.15以下に調整することが好ましい。一般的に、ガラスの作業温度を低下させようとすると、ガラスの化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下してしまう傾向がある。その一方で、ガラスの作業温度が高いと、ガラス容器を作製する際の加工温度が高くなり、ガラス中のアルカリホウ酸塩の蒸発量が著しく増加する結果、ガラス容器の化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下してしまう。このように、ガラスの化学的耐久性及び加水分解抵抗性と、ガラス容器の化学的耐久性及び加水分解抵抗性を両立させるのは困難である。しかし、KO/NaOの値を上記の範囲に規制することにより、ガラスとガラス容器の化学的耐久性及び加水分解抵抗性を両立させることが可能である。この値が大きすぎると作業温度が上昇し、生産性が低下すると同時に、バイアルやアンプルなどの容器に加工する際、ガラスから著しくアルカリホウ酸塩が蒸発し、結果として薬液を充填、保存している間にガラスから溶出したアルカリ成分により薬液成分の変質を引き起こす可能性がある。また、この値が小さすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0044】
また、LiOはNaOやKOと同様にガラスの粘度を低下させ、また線熱膨張係数を増加させる効果がある。しかしLiOを添加するとガラス溶融時に耐火物を侵食し易くなる上、原料コストも高くなり、生産コストの増加に繋がる。そのためLiOの含有量は0~0.1%であり、0~0.1%未満、さらに0~0.05%、特に0~0.01%とすることが好ましく、特段の事情がなければLiO以外の他のアルカリ酸化物を使用することが望ましい。
【0045】
NaO、KO及びLiOの合量は、好ましくは6~9%、さらに7~9%、特に7.5~8.5%である。これらの成分の合量が少なすぎると、作業性が低くなる。アルカリ金属酸化物はまた、酸塩基反応の観点でガラス構造の安定化や化学的耐久性や加水分解抵抗性向上に寄与する重要な成分である。しかし、これらの成分の合量が多すぎると、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低くなる。
【0046】
CaOはガラスの高温粘度を低下させる効果がある。CaOの含有量は、0~2%であり、好ましくは0~2%未満、0~1.5%、0~1%、0~0.9%、特に0~0.7%であることが好ましい。このようにすることで、酸性酸化物の酸性度と塩基性酸化物の塩基性度のバランスを適切にできるため、ガラス構造が安定し、ひいては化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上させることができる。また、CaO含有量が多過ぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0047】
また本発明においては、モル比で、CaO/KOの値が1.2以下であり、1.1以下、さらに1.0以下、特に0.9未満に調整することが好ましい。この値が大きすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下し、更に粘度が高くなるため生産性が低下する。
【0048】
本発明においては、上記以外にも種々の成分を添加することが可能である。
【0049】
MgOは化学的耐久性向上の効果がある。MgOの含有量は、好ましくは0~2%、0~2%未満、0~1.5%、特に0~1%である。このようにすることで、酸性酸化物の酸性度と塩基性酸化物の塩基性度のバランスを適切にできるため、ガラス構造が安定し、ひいては化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上させることができる。また、MgOの含有量が多すぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0050】
SrOは化学的耐久性向上の効果がある。SrOの含有量は、好ましくは0~2%、0~2%未満、0~1.5%、特に0~1%である。このようにすることで、酸性酸化物の酸性度と塩基性酸化物の塩基性度のバランスを適切にできるため、ガラス構造が安定し、ひいては化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上させることができる。また、SrOの含有量が多すぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0051】
MgOとCaOとSrOの合量は、好ましくは0~2%、0~2%未満、0~1.5%、0~1%未満、特に0~0.7%である。このようにすることで、酸性酸化物の酸性度と塩基性酸化物の塩基性度のバランスを適切にできるため、ガラス構造が安定し、ひいては化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上させることができる。また、これらの成分の合量が多すぎると加水分解抵抗性が低下する。
【0052】
MgOとCaOの合量は、好ましくは0~2%、0~2%未満、0~1.5%、0~1%未満、特に0~0.7%である。このようにすることで、酸性酸化物の酸性度と塩基性酸化物の塩基性度のバランスを適切にできるため、ガラス構造が安定し、ひいては化学的耐久性や加水分解抵抗性を向上させることができる。また、これらの成分の合量が多すぎると加水分解性が低下する。
【0053】
Feは、ガラスを着色させ可視域での透過率を低下させる恐れがあるため、その含有量は、0.2%以下、0.1%以下、特には0.02%以下に制限することが望ましい。
【0054】
また清澄剤としてCl、Sb、SnO、SO等を一種以上含有しても良い。これらの清澄剤の含有量の合計は3%以下であり、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下である。またこれらの清澄剤の中では、環境的側面からSnOを使用することが好ましい。Clを使用する場合、その含有量は3%以下、特に0.1~1.0%であることが好ましい。SnOを使用する場合、その含有量は2%以下、0.01~1%、特に0.01~0.5%であることが好ましい。
【0055】
なおBaOがガラス組成中に含まれていると、前述のようにアルミナ系耐火物との反応や、薬液中の硫酸イオンとの反応によって結晶を析出させたり、沈殿物を発生させたりする恐れがある。それゆえ本発明ではBaOを実質的に含有しない。
【0056】
また本発明においては、低粘性、高加水分解抵抗性のガラスを得るために、モル比で、(MgO+CaO+SrO)/(NaO+KO+LiO)の値を、0.1未満、0.08以下、0.07以下、特に0.07未満に調整することが好ましい。この値が大きすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0057】
また本発明においては、モル比で、CaO/(NaO+KO+LiO)の値を、0.1未満、0.08以下、0.07以下、特に0.07未満に調整することが好ましい。この値が大きすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。
【0058】
また本発明においては、加水分解抵抗性を向上させるものの、ガラスの粘度を上昇させる成分であるAlと、ガラスの粘度を低下させるものの、加水分解抵抗性を低下させる成分であるB、NaO、KO、LiO、MgO、CaO、SrOの含有量のバランスを取ることが、加水分解抵抗性と良好な加工性を両立させる上で望ましい。具体的には、モル比で、Al/(B+NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)の値を、0.1~0.3、特に0.2~0.25に調整することが好ましい。この値が小さすぎると、化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。その結果、アンプルやバイアルなどの容器を作製し、薬液を充填、保存した際に、ガラス成分、特にアルカリ成分の溶出が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。また、この値が大きすぎると、ガラスの粘度が上昇し、生産性が低下する。
【0059】
また、本発明においては、モル比で、Al/(NaO+KO+LiO)の値を、0.3~1、0.4~0.6、特に0.45~0.55に調整することが好ましい。この値が小さすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下し、また、この値が大きすぎると生産性が低下する。
【0060】
また、本発明においては、モル比で、Al/(NaO+KO+LiO+MgO+CaO+SrO)の値を、0.41~0.55、0.43~0.55、さらに0.45~0.54、特に0.45~0.53に調整することが好ましい。この値が小さすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。その結果、アンプルやバイアルなどの容器を作製し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分、特にアルカリ成分の溶出が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。また、この値が大きすぎると作業温度が上昇し、生産性が低下すると同時に、バイアルやアンプルなどの容器に加工する際、ガラスから著しくアルカリホウ酸塩が蒸発し、結果として薬液を充填、保存している間にガラスから溶出したアルカリ成分により薬液成分の変質を引き起こす可能性がある。
【0061】
また、本発明においては、モル比で、(NaO+KO+LiO-Al)/Bの値を、0.35~0.52、0.36~0.50、0.37~0.48、特に0.38~0.44未満に調整することが好ましい。この値が大きすぎると化学的耐久性や加水分解抵抗性が低下する。また、この値が大きすぎると生産性が低下する。
【0062】
また本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、以下の特性を有することが好ましい。
【0063】
EP8.4に準じた加水分解抵抗性試験の粉末試験法において、単位ガラス質量当たりの0.02mol/Lの塩酸の消費量は、好ましくは0.040mL以下、0.035mL以下、0.032mL以下、特に0.030mL以下である。塩酸消費量が多すぎると、アンプルやバイアルなどの瓶容器を作製し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分特にアルカリ成分の溶出が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。
【0064】
DIN12116に準じた耐酸性試験において、単位面積あたりの質量減少量は、好ましくは1.0mg/dm以下、特に0.8mg/dm以下である。質量減少量が多くなると、アンプルやバイアルなどの瓶容器を作製し、薬液を充填、保存した際、ガラス成分の溶出量が大幅に増加して薬液成分の変質を引き起こす恐れがある。
【0065】
前述したとおり、加水分解抵抗性を向上させると、作業温度や溶融温度が上昇する傾向がある。例えば、パイレックス(登録商標)ガラスは加水分解抵抗性に優れているが、作業温度が1250℃以上と高い。しかし、本発明のガラスは、加水分解抵抗性が高いにも関わらず、Al、CaO、NaO、KOの含有量の比率を適切な範囲に調節することで、作業温度を1190℃以下、1150℃~1185℃、特に1150℃~1180℃とすることができる。そのため、本発明のガラスは、加工温度を低くでき、医薬容器に加工した後及び熱処理後でも高い化学耐久性と加水分解抵抗性を維持することができる。
【0066】
前述したとおり、作業温度が高いとガラス管からアンプルやバイアル等のガラス容器を作製する際の加工温度が高くなり、ガラス中のアルカリホウ酸塩の蒸発量が著しく増加する。蒸発したアルカリホウ酸塩はガラス容器の内表面に付着し、薬液の保存中や薬液充填後のオートクレーブ処理時に溶出し、薬液成分の変質や薬液のpH上昇などを引き起こす原因となるが、本発明に係るガラス容器には上記懸念が少ない。
【0067】
液相粘度は、好ましくは104.5dPa・s以上、104.8dPa・s以上、105.0dPa・s以上、特に105.1dPa・s以上である。液相粘度が低くなると、ダンナー法によるガラス管成形時に失透が起こり易くなり、生産性が低下する。
【0068】
線熱膨張係数はガラスの耐熱衝撃性において重要なパラメータである。ガラスが十分な耐熱衝撃性を得るためには、30~380℃の温度範囲における線熱膨張係数は、好ましくは58×10-7/℃以下、特に48~55×10-7/℃である。
【0069】
次に本発明の医薬容器用ガラス管を製造する方法を説明する。以下の説明は、ダンナー法を用いた例である。
【0070】
まず、上記のガラス組成になるように、ガラス原料を調合してガラスバッチを作製する。次いで、このガラスバッチを1550~1700℃の溶融窯に連続投入して溶融、清澄した後、得られた溶融ガラスを回転する耐火物上に巻きつけながら、耐火物先端部からエアを吹き出しつつ、当該先端部からガラスを管状に引き出す。引き出した管状ガラスを所定の長さに切断して医薬容器用ガラス管を得る。このようにして得られたガラス管は、バイアルやアンプルの製造に供される。
【0071】
なお、本発明の医薬容器用ガラス管は、ダンナー法に限らず、従来周知の任意の手法を用いて製造しても良い。例えば、ベロー法やダウンドロー法も本発明の医薬容器用ガラス管の製造方法として有効な方法である。
【実施例
【0072】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0073】
表1は本発明の実施例(試料No.1~8)、及び比較例(試料No.9~10)を示している。
【0074】
【表1】
【0075】
各試料は以下のようにして調製した。
【0076】
まず表に示す組成となるように、ガラス建て500gのバッチを調合し、白金坩堝を用いて1600℃で4時間溶融した。なお融液中の泡を除去するために、溶融中に攪拌2回を行った。溶融後、インゴットを作製し、測定に必要な形状に加工し、各種の評価に供した。
【0077】
なお線熱膨張係数の測定は、約5mmφ×50mmのロッド状に成形したガラス試料を用い、ディラートメーターにより、20~300℃の温度範囲において行った。
【0078】
歪点(Ps)、徐冷点(Ta)及び軟化点(Ts)の測定はファイバーエロンゲーション法で行った。
【0079】
作業温度は、白金球引き上げ法によって求めた高温粘度とFulcherの粘度計算式からガラスの粘度曲線を求め、この粘度曲線から104.0dPa・sに相当する温度を求めた。
【0080】
液相温度の測定は、約120×20×10mmの白金ボートに粉砕したガラス試料を充填し、線形の温度勾配を有する電気炉に24時間投入した。その後、顕微鏡観察にて結晶析出箇所を特定し、結晶析出箇所に対応する温度を電気炉の温度勾配グラフから算出し、この温度を液相温度とした。
【0081】
液相粘度の算出は、歪点、徐冷点、軟化点、作業温度とFulcherの粘度計算式からガラスの粘度曲線を求め、この粘度曲線から液相温度におけるガラスの粘度を算出し、この粘度を液相粘度とした。
【0082】
加水分解抵抗性試験は、アルミナ製の乳鉢と乳棒を用いて試料を粉砕し、EP8.4の粉末試験法に準じた方法で行った。詳細な試験手順は以下の通りである。試料の表面をエタノールで良く拭き、アルミナ製の乳鉢と乳棒で試料を粉砕した後、ステンレス製の目開き710μm、425μm、300μmの3つの篩を用いて分級した。篩に残ったものは再度粉砕し、同じ篩操作を行い、300μmの篩上に残った試料粉末をエタノールで洗浄し、ビーカー等のガラス容器に投入した。その後、エタノールを入れてかき混ぜ、超音波洗浄機で1分間洗浄した後、上澄み液だけを流し出す操作を6回行った。その後、110℃のオーブンで30分間乾燥させ、デシケーター内で30分間冷却した。得られた試料粉末を、電子天秤を用いて10g±0.0001gで秤量し、250mLの石英フラスコに入れ、超純水50mLを加えた。密栓後、フラスコをオートクレーブに入れて121℃、30分間保持した。100℃から121℃までは1℃/分で昇温し、121℃から100℃までは2℃/分で降温した。95℃まで冷却後、試料をコニカルビーカーに取り出した。30mLの超純水でフラスコ内を洗浄し、コニカルビーカーに流し入れる操作を3回行った。試験後の液にメチルレッドを約0.05mL滴下後、0.02mol/Lの塩酸で中和滴定を行い、塩酸の消費量を記録し、試料ガラス1gあたりの塩酸消費量を算出した。
【0083】
耐酸性試験は、化学的耐久性を評価するための一手段であり、試料表面積を50cm、溶出液である6mol/Lの塩酸の液量を800mLとし、DIN12116に準じて行った。詳細な試験手順は以下の通りである。まず全ての表面を鏡面研磨仕上げとした総表面積が50cmのガラス試料片を準備し、前処理として試料をフッ酸(40質量%)と塩酸(2mol/L)を体積比で1:9となるように混合した溶液に浸漬し、10分間マグネティックスターラーで攪拌した。次いで試料片を取出し、超純水中で2分間の超音波洗浄を3回行った後、エタノール中で1分間の超音波洗浄を2回行った。次に、試料片を110℃のオーブンの中で1時間乾燥させ、デシケーター内で30分間冷却した。このようにして得られた試料片の質量mを精度±0.1mgまで測定し、記録した。続いて石英ガラス製のビーカーに6mol/Lの塩酸800mLを入れ、電熱器を用いて沸騰するまで加熱し、白金線で吊した試料片を投入して6時間保持した。試験中の液量の減少を防ぐために、容器の蓋の開口部はガスケット及び冷却管で栓をした。その後、試料片を取り出し、超純水中で2分間の超音波洗浄を3回行った後、エタノール中で1分間の超音波洗浄を2回行った。さらに洗浄した試料片を110℃のオーブンの中で1時間乾燥し、デシケーター内で30分間冷却した。このようにして処理した試料の質量片mを精度±0.1mgまで測定し、記録した。最後に沸騰塩酸に投入する前後の試料の質量m、mmgと試料の総表面積Acmから以下の式1によって単位面積当たりの質量減少量を算出し、耐酸性試験の測定値とした。
【0084】
[式1] 単位面積当たりの質量減少量=100×(m-m)/2×A
【0085】
表1から明らかなように、試料No.1~8は良好な加水分解抵抗性及び化学的耐久性を示した。また、試料No.1~8は1170℃以下の作業温度を有していた。一方、比較例No.9はBaOを含有しているため、薬液中の硫酸イオンと反応して沈殿物を発生させる恐れがある。また、比較例No.10はKOが不含有であり、CaO/KOの値が大きいため、加水分解抵抗性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の医薬容器用ホウケイ酸ガラスは、アンプル、バイアル、プレフィルドシリンジ、カートリッジなど様々な医薬容器用材質として好適に使用できる。