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特許7118607電動補助歩行車、電動補助歩行車の制御方法、及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】電動補助歩行車、電動補助歩行車の制御方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61H 3/04 20060101AFI20220808BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20220808BHJP
   B62B 3/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A61H3/04
B60L15/20 Z
B62B3/00 G
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2017156653
(22)【出願日】2017-08-14
(65)【公開番号】P2019033873
(43)【公開日】2019-03-07
【審査請求日】2020-07-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100164688
【弁理士】
【氏名又は名称】金川 良樹
(72)【発明者】
【氏名】橋本 浩明
【審査官】佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/053245(WO,A1)
【文献】特開2017-86319(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 3/04
B60L 15/20
B62B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレームと、前記フレームに設けられた少なくとも1つの前輪及び一対の後輪と、前記フレームの上部に接続され、歩行する使用者が使用する一対のハンドルとを備える電動補助歩行車において、前記前輪を上昇させるための駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又はなったときに、前記駆動力を低減させる制御部を備え、
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動補助歩行車を前進させる方向における前記電動補助歩行車又は前記電動補助歩行車の前記後輪の回転数、角速度、角加速度、速度の少なくとも何れか一つが所定値以上になったときであることを特徴とする電動補助歩行車。
【請求項2】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記駆動力を発生させる状態を前記電動補助歩行車の使用者が解除しようとしているときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項3】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪が所定値以上上昇したときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項4】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪及び前記後輪の少なくともいずれかが空転したときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項5】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動補助歩行車の傾斜角度が所定角度以上になったときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項6】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記駆動力を発生させる電流または電圧が所定値以下になったとき、又は、前記電流または電圧の単位時間当たりの変化量が所定値以上になったときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項7】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記駆動力を発生させるトルクが所定値以下になったとき、又は、前記トルクの変化量が所定値以上になったときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項8】
フレームと、前記フレームに設けられた少なくとも1つの前輪及び一対の後輪と、前記フレームの上部に接続され、歩行する使用者が使用する一対のハンドルとを備える電動補助歩行車において、前記前輪を上昇させるための駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又はなったときに、前記駆動力を低減させる制御部を備え、
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪が一対である場合に一対の前記前輪の角加速度差が所定値以上になったとき、又は、前記電動補助歩行車の一対前記後輪の角加速度差が所定値以上になったときであることを特徴とする電動補助歩行車。
【請求項9】
フレームと、前記フレームに設けられた少なくとも1つの前輪及び一対の後輪と、前記フレームの上部に接続され、歩行する使用者が使用する一対のハンドルとを備える電動補助歩行車において、前記前輪を上昇させるための駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又はなったときに、前記駆動力を低減させる制御部を備え、
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動補助歩行車、前記前輪又は前記輪の後退方向の速度または加速度が所定値以上になったときであることを特徴とする電動補助歩行車。
【請求項10】
フレームと、前記フレームに設けられた少なくとも1つの前輪及び一対の後輪と、前記フレームの上部に接続され、歩行する使用者が使用する一対のハンドルとを備える電動補助歩行車において、前記前輪を上昇させるための駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又はなったときに、前記駆動力を低減させる制御部を備え、
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動補助歩行車の使用者が触れる前記ハンドルに前記電動補助歩行車を後退させる方向の力がかかっているときであることを特徴とする電動補助歩行車。
【請求項11】
前記制御部は、前記前輪が所定値以上上昇した後又は前記電動補助歩行車の傾斜角度が所定角度以上になった後の前記電動補助歩行車または前記電動補助歩行車の前記後輪の回転数、角速度、角加速度、速度の少なくともいずれかに応じて、前記駆動力の減少量を増減させることを特徴とする請求項3又は5に記載の電動補助歩行車。
【請求項12】
前記制御部は、前記電動補助歩行車又は前記後輪の回転数、角速度、角加速度、速度が大きい程、前記駆動力の前記減少量を大きくするか、または前記電動補助歩行車又は前記後輪の速度及び加速度の少なくともいずれかに応じて、前記駆動力をゼロにすることを特徴とする請求項11に記載の電動補助歩行車。
【請求項13】
前記制御部は、前記前輪が所定値以上上昇した後の前記電動補助歩行車の傾斜角度に応じて、前記駆動力の減少量を大きくするか、または前記駆動力をゼロにすることを特徴とする請求項3に記載の電動補助歩行車。
【請求項14】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪が所定値以上上昇したこと、前記前輪及び前記電動補助歩行車の前記後輪の少なくともいずれかが空転したこと、又は前記駆動力を発生させる状態を使用者が解除しようとしているときも含むことを特徴とする請求項1に記載の電動補助歩行車。
【請求項15】
前記制御部は、前記前輪が所定値以上上昇したことを検知した場合と、前記前輪及び前記後輪の少なくともいずれかが空転したことを検知した場合と、前記駆動力を発生させる状態を使用者が解除しようとしていることを検知した場合とのそれぞれで、前記駆動力の減少量を異ならせることを特徴とする請求項14に記載の電動補助歩行車。
【請求項16】
フレームと、前記フレームに設けられた少なくとも1つの前輪及び一対の後輪と、前記フレームの上部に接続され、歩行する使用者が使用する一対のハンドルとを備え、前記前輪を上昇させる駆動力を発生する電動補助歩行車の制御方法であって、
記前輪を上昇させる前記駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前か又は不安定になったか否かを判断するステップと、
前記判断するステップに応じて、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又は不安定になったときに、前記駆動力を低減させるステップと、を備え、
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動補助歩行車を前進させる方向における前記電動補助歩行車又は前記電動補助歩行車の前記後輪の回転数、角速度、角加速度、速度の少なくとも何れか一つが所定値以上になったときであることを特徴とする電動補助歩行車の制御方法。
【請求項17】
フレームと、前記フレームに設けられた少なくとも1つの前輪及び一対の後輪と、前記フレームの上部に接続され、歩行する使用者が使用する一対のハンドルとを備え、前記前輪を上昇させる駆動力を発生する電動補助歩行車を制御するためのコンピュータプログラムであって、
前記前輪を上昇させる前記駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前か又は不安定になったか否かを判断するステップと、
前記判断するステップに応じて、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又は不安定になったときに、前記駆動力を低減させるステップと、をコンピュータに実行させ、
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動補助歩行車を前進させる方向における前記電動補助歩行車又は前記電動補助歩行車の前記後輪の回転数、角速度、角加速度、速度の少なくとも何れか一つが所定値以上になったときであるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者、身体障害者、入院患者その他の歩行に制限がある者の歩行を補助するための電動補助歩行車電動補助歩行車の制御方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高齢者の外出を補助する歩行車(シルバーカー、手押し車)や身体障害者または入院患者の歩行を補助するために歩行器その他の歩行補助装置が用いられている。例えば、特許文献1には、簡単な操作で直進・旋回動作を行なうことができる歩行補助装置について開示されている。
【0003】
特許文献1においては、歩行者が握るハンドル部を有するフレーム体と、フレーム体の左右両側に設けられた複数の車輪と、各車輪をそれぞれ回転駆動させる複数の駆動モータと、駆動モータに生じる逆起電力を検出し、逆起電力に基づいて駆動モータを制御する制御手段とを備えることを特徴とする歩行補助装置(電動車両)について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-183407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の歩行補助装置において、前輪が段差に衝突した場合、前輪との関係において低い段差であれば平地を走行する通常走行時の駆動モータの駆動力と歩行補助装置を前方に移動させる方向の使用者による力と(両方の力を合わせて、以下「通常走行時の力」という。)で前輪が段差に乗り上げるようにすることが可能である。しかしながら、前輪との関係において高い段差の場合、通常走行時の力だけで前輪を段差に乗り上げるようにすることは困難である。この場合、例えば、使用者が歩行補助装置のハンドルに対して、歩行補助装置を前方に移動させる方向とは異なる方向である下方に向けて力を加え、前輪を上昇させて、前輪が段差に乗り上げるようにする必要が生じる。しかしながら、歩行に制限がある使用者にとって、このような作業は大きな負担となる。これを解消するため駆動モータの駆動力を活用して前輪を上昇させることが考えられる。この場合、使用者自身の力だけで前輪を上昇させる場合に比べ、駆動モータが発生する力と使用者の意思が合致しなくなった結果、前輪の上昇時の歩行補助装置の姿勢が制御しにくくなることが考えられる。
【0006】
本発明の目的は、使用者にとって大きな負担となる操作を行うことなく、前輪が段差に乗り上げるようにすることが可能な電動補助歩行車であって、段差の乗り越え時に電動補助歩行車の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大するのを抑制することができる電動補助歩行車電動補助歩行車の制御方法、及びコンピュータプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電動車両は、電動車両の前輪を上昇させるための駆動力を発生させた後、前記電動車両の姿勢が不安定になる前又はなったときに、前記駆動力を低減させる制御部を備えることを特徴とする。
【0008】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記駆動力を発生させる状態を前記電動車両の使用者が解除しようとしているときであってもよい。
【0009】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪が所定値以上上昇したときであってもよい。
【0010】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪及び前記電動車両の後輪の少なくともいずれかが空転したときであってもよい。
【0011】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動車両の傾斜角度が所定角度以上になったときであってもよい。
【0012】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動車両の後輪が所定回転数以上になったときであってもよい。
【0013】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動車両を前進させる方向における前記電動車両又は前記電動車両の後輪の回転数、角速度、角加速度、速度の少なくとも何れか一つが所定値以上になったときであってもよい。
【0014】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記駆動力を発生させる電流または電圧が所定値以下になったとき、又は、前記電流または電圧の単位時間当たりの変化量が所定値以上になったときであってもよい。
【0015】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記駆動力を発生させるトルクが所定値以下になったとき、又は、前記トルクの変化量が所定値以上になったときであってもよい。
【0016】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、左右の前記前輪の角加速度差が所定値以上になったとき、又は、前記電動車両の左右の後輪の角加速度差が所定値以上になったときであってもよい。
【0017】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動車両、前記前輪又は前記電動車両の後輪の後退方向の速度または加速度が所定値以上になったときであってもよい。
【0018】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記電動車両の使用者が触れるハンドルに前記電動車両を後退させる方向の力がかかっているときであってもよい。
【0019】
前記制御部は、前記前輪が所定値以上上昇した後又は前記電動車両の傾斜角度が所定角度以上になった後の前記電動車両または前記電動車両の後輪の回転数、角速度、角加速度、速度の少なくともいずれかに応じて、前記駆動力の減少量を増減させてもよい。
【0020】
前記制御部は、前記電動車両又は前記後輪の回転数、角速度、角加速度、速度が大きい程、前記駆動力の前記減少量を大きくするか、または前記電動車両又は前記後輪の速度及び加速度の少なくともいずれかに応じて、前記駆動力をゼロにしてもよい。
【0021】
前記制御部は、前記前輪が所定値以上上昇した後の前記電動車両の傾斜角度に応じて、前記駆動力の減少量を大きくするか、または前記駆動力をゼロにしてもよい。
【0022】
前記姿勢が不安定になる前又はなったときとは、前記前輪が所定値以上上昇したこと、前記前輪及び前記電動車両の後輪の少なくともいずれかが空転したこと、又は前記駆動力を発生させる状態を使用者が解除しようとしているときである。
【0023】
前記制御部は、前記前輪が所定値以上上昇したことを検知した場合と、前記前輪及び前記後輪の少なくともいずれかが空転したことを検知した場合と、前記駆動力を発生させる状態を使用者が解除しようとしていることを検知した場合とのそれぞれで、前記駆動力の減少量を異ならせてもよい。
【0024】
また、本発明による電動車両の制御方法は、前輪を上昇させる駆動力を発生する電動車両の制御方法であって、前記電動車両の前記前輪を上昇させる前記駆動力を発生させた後、前記電動車両の姿勢が不安定になる前か又は不安定になったか否かを判断するステップと、前記判断するステップに応じて、前記電動車両の姿勢が不安定になる前又は不安定になったときに、前記駆動力を低減させるステップと、を備えることを特徴とする。
【0025】
また、本発明によるコンピュータプログラムは、前輪を上昇させる駆動力を発生する電動車両を制御するためのコンピュータプログラムであって、前記電動車両の前記前輪を上昇させる前記駆動力を発生させた後、前記電動車両の姿勢が不安定になる前か又は不安定になったか否かを判断するステップと、前記判断するステップに応じて、前記電動車両の姿勢が不安定になる前又は不安定になったときに、前記駆動力を低減させるステップと、をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム、である。
【0026】
また、本発明による電動補助歩行車は、電動補助歩行車の前輪を上昇させる駆動力を発生させた後、前記電動補助歩行車の姿勢が不安定になる前又はなったときに、前記駆動力を低減させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、使用者にとって大きな負担となる操作を行うことなく、前輪を上昇させ、前輪が段差に乗り上げるようにすることができるとともに、段差の乗り越え時に電動車両の姿勢が不安定になることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す斜視図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す側面図である。
図3図3は、脚部検知センサを示す概略図である。
図4図4は、把持センサを示す概略図である。
図5図5は、把持センサの変形例を示す概略図である。
図6図6は、制御部の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
図7図7は、前輪が段差に衝突してからの時間の経過に伴う駆動力の変化を示すグラフである。
図8図8は、本発明の第2の実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す斜視図である。
図9図9は、本発明の第2の実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す側面図である。
図10図10は、本発明の第2の実施の形態に係る電動アシスト歩行車の後輪周辺の構成を示す側面図である。
図11図11は、本発明の第2の実施の形態に係る電動アシスト歩行車の後輪周辺の構成を示す断面図(図10のXI-XI線断面図)である。
図12図12は、本発明の第2の実施の形態に係る電動アシスト歩行車の後輪周辺の構成を示す断面斜視図である。
図13図13は、電動アシスト歩行車の変形例を示す概略図(通常走行時)である。
図14図14は、電動アシスト歩行車の変形例を示す概略図(前輪ロック時)である。
図15図15(a)(b)は、それぞれ本発明の第3の実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す概略図である。
図16図16(a)(b)は、それぞれ本発明の第3の実施の形態の変形例に係る電動アシスト歩行車を示す概略図である。
図17図17は、本発明の第4の実施の形態に係る電動アシスト歩行車を示す斜視図である。
図18図18は、本発明の第5の実施の形態に係る電動アシスト歩行車の制御部の動作を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図7を参照し詳述する。以下の説明では、同一の構成には同一の符号を付している。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0030】
図1および図2は、電動車両の一例として電動の歩行車(以下、電動アシスト歩行車(電動補助歩行車)という。)を示す図である。図1は、第1の実施の形態にかかる電動アシスト歩行車10の外観の一例を示す模式的斜視図であり、図2図1の電動アシスト歩行車10の側面図である。
【0031】
(電動アシスト歩行車の構成)
図1および図2に示すように、電動アシスト歩行車10は、フレーム11と、フレーム11に設けられた一対の前輪12及び一対の後輪13と、フレーム11に接続された一対のハンドル(操作部)14とを備えている。また、各ハンドル14には、それぞれ電動アシスト歩行車10を手動で停止させるためのブレーキユニット15が設けられている。以下の説明では、一対の前輪12及び一対の後輪13をまとめて又は個別に単に車輪と呼ぶ場合がある。
【0032】
一対の後輪13には、それぞれ対応する後輪13の回転を補助するモータ20が連結されている。フレーム11には、バッテリ21と、制御部16とがそれぞれ取り付けられている。また、制御部16には、速度検知センサ22が設けられている。さらにハンドル14には、傾き検知センサ23と、把持センサ(操作センサ)24とがそれぞれ設けられている。フレーム11上であって、一対のハンドル14よりも下方の位置には、使用者の脚部の有無を検知する脚部検知センサ25が配置されている。
【0033】
制御部16は、CPU(中央演算処理装置)などを含む電子基板である。本実施形態では、制御部16がCPUである。図示省略する不揮発性メモリが、制御部16を動作させるためのプログラム、制御部16の動作に必要な情報を格納し、図示省略する揮発性メモリが制御部16が生成する情報や、他の要素から受信した情報等を格納する。当該プログラムは、以下で詳述するような制御、モータ20の駆動力の増加制御(段差モードへの移行処理)や段差モードからの離脱制御等を行う。不揮発性メモリは、フラッシュメモリ(NAND型メモリなど)、MRAM、またはFRAMなど、任意のメモリでよい。制御部16は、特定用途向け集積回路(ASIC)、または、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などの装置でもよい。
【0034】
次に、電動アシスト歩行車10の各構成要素について更に説明する。
【0035】
フレーム11は、左右一対のパイプフレーム31と、一対のパイプフレーム31同士を横方向に連結する連結フレーム32とを有している。
【0036】
左右一対のパイプフレーム31の各々の前端側には、一対の前輪12がそれぞれ設けられている。一対の前輪12は、電動アシスト歩行車10を前進、後進及び旋回できるように設けられている。なお、以下の説明では、当該前進および後進する方向を前後方向ともいう。
【0037】
また、左右一対のパイプフレーム31の各々の後端側には、一対の後輪13がそれぞれ設けられている。各後輪13は、電動アシスト歩行車10を前進、後進できるように設けられている。
【0038】
また、各後輪13の外周には、機械的に接触可能なブレーキシュー33が設けられる。
ブレーキシュー33は、ワイヤー35を介してブレーキユニット15のブレーキレバー34に接続されている。したがって、使用者がブレーキレバー34を手動で握る操作をすることで、ブレーキシュー33が後輪13に接触し、後輪13を制動する。なお、機械的なブレーキの構成については、これに限られず、任意の構成のものを用いることができる。
【0039】
左右一対のパイプフレーム31の上端部には、それぞれ一対のハンドル14が設けられている。一対のハンドル14は、それぞれ使用者の手によって把持される。一対のハンドル14は、棒状部材41を有する。棒状部材41には、それぞれグリップ部42が設けられている。また、棒状部材41には、各々ブレーキレバー34が取り付けられている。なお、ハンドル14の構成については、これに限られず、例えば左右一対のパイプフレーム31をつなぐように水平方向に伸びるバーハンドルを設け、このバーハンドルに左右一対のハンドル14としてグリップ部42を設けることもできる。
【0040】
本実施の形態において、モータ20は、サーボモータ、ステッピングモータ、ACモータ、DCブラシレスモータ等、任意のモータを用いることができ、さらに減速機を一体に形成されたものを用いてもよい。このモータ20は、走行時に後輪13を前進方向に駆動させる。また本実施の形態において、モータ20は、前輪12を上昇させる(前輪12を後輪13に対して上方に浮き上がらせる)駆動部としての役割も果たす。すなわちモータ20は、電動アシスト歩行車10に対して前輪12を持ち上げる方向のモーメントを働かせる駆動力を発生させる。
【0041】
さらに、モータ20は、後輪13を制動する制動部としての役割を更に果たすために、発電ブレーキとしての機能も有していても良い。この場合、モータ20が後輪13を制動するときに、モータ20を発電機として働かせ、その抵抗力がブレーキ力となる。また、発電ブレーキに代え、モータ20を逆向きに駆動させる逆転ブレーキとしての機能を有していても良い。あるいは、電磁ブレーキや機械的ブレーキ等、後輪13を制動する制動部をモータ20と別体に設けても良い。
【0042】
なお、左右のモータ20は、制御部16によって左右一体として制御されるようになっていても良く、後述するように、左右のモータ20がそれぞれ独立して制御されるようになっていても良い。
【0043】
本実施の形態において、モータ20は各後輪13にそれぞれ連結されているが、これに限定されず、モータ20を一対の前輪12および一対の後輪13の全てに連結してもよい。
【0044】
制御部16は、モータ20等、電動アシスト歩行車10の全体を制御するものである。制御部16による制御の詳細については、後述する。
【0045】
速度検知センサ22は、後輪13の回転数または速度を検知し、この回転数または速度の信号を制御部16に対して送信する。なお、速度検知センサ22は、電動アシスト歩行車10の一対の後輪13の内部若しくは一対の前輪12の内部、又は一対の前輪12および一対の後輪13の全てに内蔵してもよい。
本実施の形態において、後輪13の回転数や角速度は、速度検知センサ22やこれに基づく制御部16での演算により求められる。また本実施形態において、後輪13の速度とは後輪13の路面に対する前後方向の速度のことを意味する。なお、一対の後輪13のそれぞれの速度をベクトル空間で合成することにより、電動アシスト歩行車10の速度を算出することもできる。
【0046】
モータ20がブラシレスモータである場合は、モータ20に内蔵されたホール素子を速度検知センサ22として用いて車輪の回転数、角速度、速度や電動アシスト歩行車10の速度を算出してもよい。
【0047】
なお、モータ20の逆起電力からモータ20の角速度検出を行なうことができる場合には、この逆起電力の量から車輪の回転数、角速度、速度や電動アシスト歩行車10の速度を算出するように構成することができる。
【0048】
また、速度検知センサ22は、前輪12や後輪13に内蔵することに限定されず、フレーム11、ハンドル14等、その他任意の部材に取り付けてもよい。速度検知センサが加速度検知センサで構成される場合は、検知した加速度を時間積分することで速度を算出できる。一方、速度検知センサ22がGPS(グローバルポジショニングシステム)で構成される場合は、検知した位置情報を時間微分することで速度を算出するように構成することができる。
【0049】
傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の傾き、例えば電動アシスト歩行車10が平坦面にあるか傾斜面にあるか、電動アシスト歩行車10の傾斜角度等を検知し、この電動アシスト歩行車10の傾きに関する信号を制御部16に対して送信する。なお、傾斜角度は、前輪12の中心軸と後輪13の中心軸とを結んだ直線に垂直な方向の重力方向である鉛直方向に対する角度である。傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の上部に設けられている。傾き検知センサ23は電動アシスト歩行車10の下部に設けることもできるが、上部に配置することで、下部に配置する場合に比べ、電動アシスト歩行車10の姿勢をより感度良く検知することができる。これは電動アシスト歩行車10の姿勢の回転中心となる車輪が電動アシスト歩行車10の下部に配置されるからである。なお、傾き検知センサ23として、ジャイロセンサや加速度検知センサを用いることができる。
【0050】
図3は、脚部検知センサ25の一例を示す模式図である。図3に示すように、脚部検知センサ25は、連結フレーム32に設けられる。脚部検知センサ25は、画像センサ、赤外線センサ等からなる。脚部検知センサ25は、電動アシスト歩行車10の使用者の脚元からの距離を測定することで、脚の動作を検知することができる。
【0051】
具体的には、図3の脚部検知センサ25は、範囲ARにおいて使用者の脚が動いているのか、それとも、停止しているのか、離れているのか、近づいているのか、後ろ向きになって座面37に座ろうとしているのかを判定することができる。
【0052】
図4および図5は、把持センサ24を説明するための概略図である。
【0053】
一対のハンドル14のグリップ部42には、それぞれ使用者が手で電動アシスト歩行車10を押したり引いたりする操作力(グリップ力)を検知する把持センサ24が設けられている。把持センサ24は棒状部材41に対する、押し方向および引き方向のいずれか一方または両方への移動を図示しない弾性部材(例えばバネ)によって規制されており、さらにその移動を検知するためのポテンショメータから構成される。
【0054】
上述したように、グリップ部42は、棒状部材41に対して前後方向に移動が可能であり、図4および図5の矢印方向(前方向)に移動した場合、使用者によって電動アシスト歩行車10が押されていると判定でき、図4および図5の矢印の反対方向(後方向)に移動した場合は、使用者によって電動アシスト歩行車10が引っ張られていると判定でき、いずれの方向にも移動していない場合は、そのいずれでも無いと判定できる。
【0055】
その結果、使用者が電動アシスト歩行車10を前方に移動させようとしているのか、使用者が電動アシスト歩行車10を後方に移動させようとしているのか、使用者が電動アシスト歩行車10の状態を変化させる意思がないのかを認識することができる。
【0056】
左右一対のハンドル14には、それぞれ別個の把持センサ24が設けられている。各把持センサ24は、それぞれ独立してハンドル14に対する操作力(グリップ力)を検知するとともに、検知した操作力を制御部16に対して送信する。このため、使用者によって一対のハンドル14の一方のみが把持されている(片手持ち状態)か、一対のハンドル14の両方とも把持されていない(両手放し状態)か、あるいは、一対のハンドル14の両方が把持されている(両手持ち状態)かを認識することができる。
【0057】
なお、図5に示すように、グリップ部42に、グリップ部42または一対のパイプフレーム31にかかるモーメントが検知できるように、歪センサ38(例えば歪ゲージ)を設け、これを把持センサ24としても良い。この場合、グリップ部42は、棒状部材41に対して固定されることになるため、構成が簡素となる。また、グリップ部42へ、ジョイスティック、押しボタンまたは使用者の手を検知する近接センサを設け、これを把持センサ24としても良い。すなわち、「操作部を介して使用者が電動車両を前進させようとしていると判断する」ことには、使用者が手や身体の一部で操作部を押したり引いたりすることにより、操作部に付与された使用者の操作力を検知する場合のほか、使用者の意志をジョイスティックや押しボタン等のスイッチ手段によって検知する場合を含む。
【0058】
(本実施の形態の作用)
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。図6は、制御部16の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
【0059】
はじめに、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したか否かを判断する。この場合、まず制御部16は、左右一対のハンドル14にそれぞれ設けられた把持センサ24からの検知信号に基づき、左右一対のハンドル14が、一定時間以上(例えば1秒以上)一定以上の力で押されているか否かを判断する(ステップS1)。
【0060】
なお、制御部16は、操作力の値(絶対値)に加え、操作力の変化の値(絶対値)を合わせて用いることにより、ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されているか否かを判定してもよい。この場合、ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されているか否かをより精度良く判定することができる。例えば、操作力の絶対値が所定値以下であり、かつ操作力の変化(操作力の微分値)の絶対値が所定値以下である場合に、当該ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されていないと判定し、それ以外の場合に、当該ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されていると判定しても良い。また、操作力および操作力の変化が、各所定値で区切られた長方形の数値範囲に内接する楕円領域内にある場合、当該ハンドル14が使用者の手によって把持されていないと判定しても良い。この場合、さらに精度よく判定することができる。
【0061】
ここで、一対のハンドル14が一定以上の力で押されていない場合(ステップS1のNo)、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていないと判断し、以下の制御を行わない。この場合、制御部16は、モータ20を発電ブレーキとして用いることにより後輪13を制動しても良い。
【0062】
一方、一対のハンドル14が一定時間以上一定以上の力で押されている場合(ステップS1のYes)、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。続いて制御部16は、前輪12が段差に衝突したか否かを判定する(ステップS2)。
【0063】
具体的には、速度検知センサ22が後輪13の回転数または角速度を検知し、この回転数または角速度の信号を制御部16に対して送信する。制御部16は、この送信された信号に基づき後輪13の速度を算出し、この速度と予め定められた所定の速度Vとを比較する。
【0064】
仮に後輪13が駆動している場合、すなわち後輪13が所定の速度Vを上回る速度で動いている場合(ステップS2のYes)、制御部16は、電動アシスト歩行車10が通常の状態で走行していると判断し、モータ20によって後輪13を駆動し続ける。
【0065】
一方、後輪13を駆動していない場合、すなわち後輪13が停止しているか又は予め定められた所定の角速度V以下で動いている場合(ステップS2のNo)、制御部16は、前輪12が段差に衝突したと判断する。このとき制御部16は、モータ20を制御して、例えば使用者がハンドル14を押す力(ハンドル14に加わる操作力)に応じてモータ20の駆動力を増減させる。この際、前輪12が段差に衝突したと判断される前のモータ20の駆動力よりも大きい駆動力をモータ20が出力するように、制御部16はモータ20を制御する。本例では、制御部16が、通常の状態のモータ20の駆動力よりも大きい駆動力をモータ20に発生させることにより、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせるための駆動力が発生することになる。前輪12が段差に衝突していることで電動アシスト歩行車10が前進できないことから、後輪13の前進方向の駆動力が電動アシスト歩行車10に前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させ、前輪12を浮き上がらせるように作用する。
【0066】
制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を段差を乗り越えて前進させようとしていると判断する際、上記のように、ハンドル14が押されている時間と力とを用いることにより、使用者が前進しようとしていることを的確に判断することができるので、電動アシスト歩行車10が使用者の意図と異なる動作をすることを抑制することができる。これにより、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大することを抑制でき、使用者は電動アシスト歩行車10をより安心して使用できる。なお、ハンドル14が押されている力のみを用いて上記判断をすることもできる。例えば、ハンドル14が一定以上の力で押された場合、使用者が電動アシスト歩行車10を段差を乗り越えて前進させようとしていると判断することができ、制御部16は、時間の要素を判断しないため、使用者が前進しようとしていることを早く判断できるので、使用者は歩行速度を大きく下げることなく前輪12を浮き上がらせることができる。
【0067】
なお、制御部16は、前輪12が段差に衝突したか否かを判断する際、後輪13の角速度に加え、後輪13の角加速度を合わせて用いてもよい。これにより、電動アシスト歩行車10が移動しているか否かをより精度良く判定することができる。例えば、後輪13の角速度が所定の角速度V以下であり、かつ後輪13の角加速度が所定の角加速度以下である場合、電動アシスト歩行車10が段差に衝突したと判定し、それ以外の場合に、電動アシスト歩行車10が段差に衝突していないと判定しても良い。
【0068】
あるいは、制御部16は、後輪13の角速度が0に近い所定の角速度V以下であり、かつ後輪13の減速度(負の角加速度)が所定の閾値以上である場合、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず前輪12が段差に衝突した、と判定しても良い。すなわち、後輪13の角速度が0に近い値となるとともに後輪13の減速度が一定値以上となった場合、前輪12が段差に衝突して急停止したと考えられる。この場合、必ずしも把持センサ24からの情報を用いなくても、前輪12が段差に衝突したと判断することができる。このため、把持センサ24は必ずしも設けられていなくても良い。
【0069】
また、制御部16は、一対のハンドル14が一定時間以上一定以上の力で押され、かつ後輪13の減速度(負の角加速度)が所定の閾値以上である場合、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず前輪12が段差に衝突した、と判定しても良い。これにより、電動アシスト歩行車10が移動しているか否かを精度良く判定することができる。なお、一対のハンドル14が一定時間以上一定以上の力で押されているか否かは、上述したように、把持センサ24からの検知信号に基づいて判断することができる。
【0070】
上記では後輪13の角速度や角加速度を用いたが、後輪13の回転数や速度、後輪13の回転角度、電動アシスト歩行車10の速度やこれを時間で微分した電動アシスト歩行車10の加速度を用いてもよい。
【0071】
段差が比較的に低い場合、上述の後輪13の駆動力によって前輪12が浮き上がり、その段差を乗り上げることができる。ここで前輪12が浮き上がらない場合、続いて使用者は、ハンドル14を押す力を弱める。この際、電動アシスト歩行車10に前輪12を押し下げる方向のモーメント(前輪12の浮き上がりに対抗するモーメント)が減少する。制御部16は、後輪13の前進方向の駆動力を一定以上維持して後輪13を前方に駆動させる(図7参照)。これにより、前輪12を持ち上げる方向のモーメントが増大し、前輪12を浮き上がらせるように作用する。
【0072】
これでも前輪12が浮き上がらない場合、続いて、使用者は、ハンドル14を後方に引っ張る操作を行う。このとき、ハンドル14を後方に引く力が、前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させ、後輪13の駆動力と合わせて、前輪12を浮き上がらせるように作用する。このように、モータ20からの操作力に加え、使用者が操作ハンドル14を操作することにより、電動アシスト歩行車10に前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させ(図2の矢印M参照)、前輪12をより確実に浮き上がらせる(電動アシスト歩行車10をウィリーさせる)ことができる。なお、使用者がハンドル14を後方に引っ張る操作に代えて、使用者が、後輪13の回転軸の後方に固定された図示しないペダルを踏むことにより、前輪12を持ち上げるようにしても良い。
【0073】
このとき、前輪12が後輪13に対して浮き上がることに伴い、前輪12と段差との間に隙間が発生する。後輪13が前進方向に駆動しているため、この隙間を埋めるように電動アシスト歩行車10が前進し、前輪12を段差の上部に接触させることができる。これにより、前輪12をスムーズに段差へ乗り上げさせることができる。
【0074】
制御部16は、前輪12を浮き上がらせた後、後輪13の前進方向の駆動力を第1の減少量で低減させる。この場合、前輪12が所定高さ以上上昇して段差を乗り越えた後に後輪13が加速しすぎないため、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大することを抑制しつつ、前輪12が段差をスムーズに乗り越えることができる。駆動力の低減を開始するタイミングは、制御部16が前輪12を浮き上がらせるために駆動部を制御するときの所定の条件(使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず前輪12が段差に衝突したと判断する条件)を満たさなくなったときに設定することができる。例えば、ハンドル14が一定以上の力で押されなくなったとき(使用者がハンドル14を押す力を弱めたとき、又はハンドル14を後方に引いたとき)、または後輪13が前進方向に一定速度以上で回転したときとしても良い。
【0075】
その後、使用者は、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた状態で、一対のハンドル14を押す。これにより、電動アシスト歩行車10を前進させ、前輪12が段差を乗り越えることができる。
【0076】
上記駆動力を徐々に低減することにより電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大することを抑制することができるが、前輪12の上昇量や電動アシスト歩行車10の速度や加速度が電動アシスト歩行車10の姿勢を使用者が制御できないレベルの場合は、上記駆動力を急激に低減することにより、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを速やかに抑制することができる。
【0077】
このように、使用者がハンドル14を後方に引っ張る操作を行うことにより、後輪13周りのモーメントを生じさせることができるので、モータ20の駆動力とあわせて、前輪12を容易に浮かせることができる。これにより、使用者が電動アシスト歩行車10を持ち上げることなく、前輪12が段差を容易に乗り越えることができる。なお、上述したように、段差が低い場合等、必ずしも使用者がハンドル14を後方に引っ張る操作を行うことなく、モータ20の駆動力を増加させることのみによって前輪12を浮かせても良い。
【0078】
ところで、上述したように、前輪12が段差を乗り越えた後もモータ20の出力が増加したままであると、電動アシスト歩行車10が加速しすぎるおそれがある。このため、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた後、以下の条件(1)~(3)のいずれかを満たした場合、制御部16は、前輪12が段差を乗り越えたと判断し、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になる前にこれ以上電動アシスト歩行車10が加速しないようにしても良い。この場合、制御部16は、モータ20を制御して、モータ20による後輪13の駆動力の減少量をより大きくする。具体的には、後輪13の前進方向への駆動力の減少量を、上述した第1の減少量よりも大きい第2の減少量とする(図7の二点鎖線参照)。あるいは、制御部16は、後輪13の前進方向の駆動力をゼロにしても良い。
【0079】
(1)傾き検知センサ23によって検知された電動アシスト歩行車10の傾斜角度が、一定の値以上となった場合(前輪12が段差を上ると電動アシスト歩行車10が傾くため)。
【0080】
(2)速度検知センサ22によって検知された後輪13の角速度が、所定の条件を満たした場合。例えば、後輪13の角速度や速度が一定値以上となった場合(前輪12が段差を越えた瞬間に後輪13の角速度が上昇するため。また、後輪13が空回りした場合には後輪13の角速度が上昇するため)。または電動アシスト歩行車10の速度が一定値以上となった場合。
【0081】
(3)脚部検知センサ25によって検知された使用者と電動アシスト歩行車10との距離が、一定の値以上となった場合(前輪12が段差を越えた瞬間に後輪13の速度が上昇し、電動アシスト歩行車10が使用者から離れるため)。
【0082】
なお、使用者が電動車両を前進させようとしていると判断する際は、上記手法に限らず、例えば、(i)前輪12又は後輪13の回転量、(ii)電動アシスト歩行車10に設けられた歪ゲージからの出力、(iii)前輪12又は後輪13のタイヤの空気圧の変化、(iv)電動アシスト歩行車10の前後方向の加速度、(v)ハンドル14等に設けられた圧力センサからの出力、(vi)ハンドル14等に設けられた筋電センサからの出力、及び(vii)使用者の足の動き等から選択される要素の1つ又は複数を考慮しても良い。
【0083】
以上のように、本実施の形態によれば、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したと判断した際、制御部16は、モータ20を制御して前輪12を上昇、より詳しくは、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる。これにより、使用者にとって大きな負担となる操作を行うことなく、前輪12が段差を容易に乗り越えることができる。
【0084】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、後輪13が停止しているか又は後輪13の角速度が一定値V以下の場合に、前輪12が段差に衝突したと判断する。これにより、前輪12が段差に衝突したことを適切に検知することができる。また、前輪12が段差に衝突したことを、既存の速度検知センサ22によって検知することができる。
【0085】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、ハンドル14(操作部)を介して使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。これにより、使用者が特別な操作を行うことなく普段どおりにハンドル14を操作することで、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていることを適切に判断することができる。
【0086】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、使用者がハンドル14を前方に押した場合に、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。これにより、使用者が特別な操作を行うことなく普段どおりにハンドル14を前方に押すという簡素な操作を実行することで、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていることを適切に判断することができる。
【0087】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、使用者がハンドル14を一定以上の力で押した場合に、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。
これにより、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていることを早く検知し、使用者が歩行速度を大きく下げることなく前輪12を浮き上がらせることができる。
また、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていることを、既存の把持センサ24によって検知することができる。
【0088】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、使用者がハンドル14を一定以上の力で一定時間以上押している場合に、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。これにより、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていることを的確に判断し、使用者の意図と異なる判断を避けることができる。
【0089】
また、本実施の形態によれば、前輪12を上昇させるモータ20は、後輪13を前進方向に駆動させるので、別個の持ち上げ手段等を用いることなく、後輪13を利用して前輪12をスムーズに持ち上げることができる。
【0090】
また、本実施の形態によれば、前輪12を上昇させるモータ20は、走行用に後輪13を前進方向に駆動させるものであるので、後輪13の走行用のモータ20を利用して、前輪12をスムーズに持ち上げることができる。
【0091】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、使用者がハンドル14を押す力に応じて駆動力を増減させるので、ハンドル14に対する操作力に応じて使用者の意図に応じたモータ20の適切な駆動力を得ることができる。これにより、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを抑制することができる。
【0092】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、使用者がハンドル14を押している時間に応じて駆動力を増減させるので、使用者がハンドル14を押している間にモータ20の駆動力が徐々に増減するため、段差の高低に合わせた適切な駆動力(低い段差は小さな駆動力、高い段差は大きな駆動力)を発生させることができる。これにより電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを抑制することができる。
【0093】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた後、モータ20を制御して電動アシスト歩行車10を前進させることで前輪12を段差の上部に接触させるので、前輪12をスムーズに段差へ乗り上げさせることができる。
【0094】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、前輪12が段差に衝突したと判断した際、使用者のハンドル14を前方に押す力が弱められる又は後方に引く力が加えられることに合わせて、モータ20を制御して前輪12を上昇させるので、ハンドルの操作力とモータ20の駆動力とを利用して確実に前輪12を浮き上がらせることができる。
【0095】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた後、後輪13の前進方向への駆動力を低減する。これにより、持ち上げた前輪12を再び接地させた直後に急加速することを防止することができる。これにより電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを抑制することができる。
【0096】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、後輪13が所定以上の回転角、所定の回転角以上になったとき、後輪13の前進方向の駆動力を徐々に低減する。これにより、制御部16は、後輪13が回転し始めたときに、前輪12が持ち上げられたと判断することができる。
【0097】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、後輪13が回転したとき、その回転速度に応じて後輪13の前進方向の駆動力の減少量を大きくし、または後輪13の前進方向の駆動力をゼロにする。これにより、後輪13の回転速度が急激に上昇した場合には、後輪13の駆動力を大幅に低減させて、電動アシスト歩行車10の急加速又は後輪13の空回りを防止することができる。これにより電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを抑制することができる。
【0098】
また、本実施の形態によれば、制御部16は、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた後、電動アシスト歩行車10の傾斜角度に応じて後輪13の前進方向の駆動力の減少量を大きくし、または後輪13の前進方向の駆動力をゼロにする。これにより、電動アシスト歩行車10が許容角度以上傾くことにより、電動アシスト歩行車10が後転する危険を防止することができる。また、電動アシスト歩行車10の後方への傾きに伴い使用者の把持がハンドル14を前方に押すことになり、制御部16が使用者の意図と関係なくモータ20を駆動することを防止できる。
【0099】
(前輪を上昇させる方法の変形例)
次に、制御部16がモータ20を制御して前輪12を上昇させる方法の各変形例について説明する。
【0100】
(変形例1)
上記においては、前輪12が段差に衝突したことを制御部16が自動で判断する場合を例にとって説明したが、これに加え、前輪12が段差に衝突したか否かに関わらず使用者が所定の操作を行ったことに応じて、前輪12を上昇させるようにしても良い。
【0101】
この場合、まず使用者は、ブレーキレバー34を手動で操作するとともに、ハンドル14を後方に引っ張る操作を行う。このとき、制御部16は、図示しないセンサによってブレーキレバー34が操作されたことを認識するとともに、把持センサ24からの検知信号に基づき、ハンドル14が後方に引っ張られたことを認識する。
【0102】
このとき、制御部16は、上記と同様にして、例えばモータ20の出力を増加することにより、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる(ウィリーさせる)。その後、使用者は、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた状態で、一対のハンドル14を押す。
これにより、電動アシスト歩行車10を前進させ、前輪12が段差を乗り越えることができる。この間、使用者は、ブレーキレバー34を手動で操作した状態のまま保持する。
前輪12が段差を乗り越えた後、使用者は、ブレーキレバー34から手を離す。このような操作を行うことにより、制御部16は、使用者が段差を乗り越えようとしているのか、あるいは使用者が電動アシスト歩行車10を後進させようとしているのかを、正しく認識することができる。
【0103】
なお、使用者が前輪12を浮き上がらせようとしているか否かを制御部16に認識させる手法としては、使用者がブレーキレバー34を操作することに限らず、制御部16が認識可能な他の手法を用いても良い。例えば、使用者が、ハンドル14に設けた図示しない押しボタンスイッチ等の操作手段を操作した際、制御部16は、モータ20を制御して前輪12を後輪13に対して浮き上がらせても良い。
【0104】
本変形例によれば、使用者がハンドル14を後方に引っ張る操作を行うことにより、後輪周りのモーメントを生じさせることができるので、モータ20の駆動力とあわせて、前輪12を容易に浮かせることができる。これにより、使用者が電動アシスト歩行車10を持ち上げることなく、前輪12が段差を容易に乗り越えることができる。さらに、本変形例によれば、必ずしも前輪12が段差に衝突していない場合であっても、必要に応じて前輪12を後輪13に対して浮き上がらせることができる。とりわけ、ブレーキレバー34の操作によって前輪12を浮き上がらせる場合、特別な操作手段を別途設ける必要なく、ブレーキレバー34を利用して前輪12をスムーズに持ち上げることができる。
【0105】
(変形例2)
本変形例による電動アシスト歩行車10は、下り坂にあるとき、電動アシスト歩行車10が加速しすぎないように、後輪13に対して自動で制動を行う機能(自動ブレーキ機能)を有している。一方、電動アシスト歩行車10が下り坂を走行しているときに前輪12が段差に衝突することも考えられる。
【0106】
本変形例において、制御部16は、電動アシスト歩行車10が下り坂にあり、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したと判断した際、自動ブレーキ機能を解除する。その後、制御部16は、上記と同様にして、例えばモータ20の出力を増加させ、後輪13の前進方向の駆動力を増大させる。なお、制御部16は、電動アシスト歩行車10が下り坂にあるか否かは、傾き検知センサ23からの信号に基づいて判断する。
【0107】
本変形例によれば、自動ブレーキ機能が働くことにより前輪12が段差を乗り越えることが困難となる不具合を防止することができる。
【0108】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図8乃至図14に示す第2の実施の形態は、後輪13及びモータ20周辺の構成が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態と略同一である。図8乃至図14において、第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0109】
図8乃至図12に示す構成において、電動アシスト歩行車10のモータ20は、遊星歯車機構50を介して各後輪13に連結されている。
【0110】
図10乃至図12に示すように、モータ20は、パイプフレーム31に固定されたハウジング61と、ハウジング61内に収容され、ハウジング61に対して回動自在な出力軸支持部62と、出力軸支持部62に固定され、出力軸支持部62と一体となって回動する出力軸63とを有している。このうちハウジング61にはフランジ64が固定され、ハウジング61の中央部からは出力軸63が突出している。ハウジング61と出力軸支持部62との間には、ベアリング65が介在されている。また、出力軸支持部62の外周には磁石66が設けられている。さらに、磁石66の周囲にはコイル67が配置されており、コイル67は、ハウジング61に固定されている。コイル67には、バッテリ21からの電力が供給され、磁石66が設けられた出力軸支持部62が回転するようになっている。なお、ハウジング61の中央部にはキャップ68が設けられている。
【0111】
後輪13は、ホイール71と、ホイール71の外周に設けられたタイヤ72と、ホイール71に連結されたホイール押さえ73とを有している。ホイール71は、押さえプレート74を介して、フランジ64の周囲に設けられたベアリング75に固定されている。
【0112】
遊星歯車機構50は、太陽歯車51と、太陽歯車51の周囲に配置された内歯車52と、太陽歯車51および内歯車52に噛み合い、出力軸63が回転したとき自転しつつ公転する3つの遊星歯車53と、3つの遊星歯車53を回転可能に支持し、遊星歯車53の公転運動が伝達される遊星キャリヤ54とを有している。
【0113】
このうち太陽歯車51は、モータ20の出力軸63に連結されており、出力軸63の回動に伴って回動可能となっている。また、内歯車52は、後輪13のホイール71に連結されている。遊星キャリヤ54は、モータ20のフランジ64に連結されており、フランジ64およびハウジング61を介してパイプフレーム31に固定されている。
【0114】
続いて、本実施の形態において、モータ20を制御して前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる(ウィリーさせる)際の作用について説明する。
【0115】
まず、前輪12が段差に衝突せず、電動アシスト歩行車10が通常の状態で移動している場合を想定する。この場合、モータ20の出力軸63からのアシスト力は、モータ20の出力軸63に連結された太陽歯車51から、遊星歯車53を介して内歯車52に伝達され、次いで内歯車52に連結された後輪13に伝達される。これにより、モータ20によって後輪13の動きがアシストされる。このとき、遊星キャリヤ54に連結されたパイプフレーム31が回転することはない。
【0116】
ここで、太陽歯車51、内歯車52の歯数をそれぞれZa、Zc(Za<Zc)とし、太陽歯車51、内歯車52、遊星キャリヤ54の角速度をそれぞれWa、Wc、Wxとすると、以下の式(1)が成り立つ。
Zc(Wc-Wx)=-Za(Wa-Wx)・・・式(1)
【0117】
電動アシスト歩行車10が通常状態で移動している場合、遊星キャリヤ54が固定されているので、Wxは0となる。したがって、以下の式(2)が成り立つ。
Wc=(-Za/Zc)Wa・・・式(2)
すなわち、モータ20の出力軸63からの回転数は、-Za/Zc倍に減速されて伝達される。
【0118】
一方、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差に衝突した場合、前輪12がロックされるため、後輪13も回らなくなる。このとき、後輪13に連結された遊星歯車機構50の内歯車52もロックされる。一方、モータ20の出力軸63に連結された太陽歯車51には、出力軸63からの回転力が伝達される。この回転力は、太陽歯車51から遊星歯車53を介して遊星キャリヤ54に伝達され、遊星キャリヤ54に連結されたパイプフレーム31に対して矢印M(図9参照)の方向(電動アシスト歩行車10の進行方向と反対の方向)に回転力が働く。
【0119】
したがって、前輪12が段差に衝突した際、制御部16がモータ20を制御することにより、電動アシスト歩行車10全体を回転させ、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせることが可能となる。この場合、制御部16が、例えばハンドル14に加わる操作力(グリップ力)に応じて、モータ20の出力を増加するよう制御しても良い。具体的には、通常時と比較して、同じ操作力であってもモータ20の出力が相対的に大きくなるようにモータ20を制御する(すなわち操作力に対するモータ出力の比例係数を大きくする)ことにより、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせることができる。
【0120】
このように、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差に衝突した場合、内歯車52が固定されるので、上記式(1)においてWcは0となる。したがって、以下の式(3)が成り立つ。
Wx={Za/(Zc+Za)}Wa・・・式(3)
すなわち、モータ20の出力軸63からの回転数は、Za/(Zc+Za)倍に減速され、遊星キャリヤ54に連結されている電動アシスト歩行車10全体が、進行方向逆向き(前輪12が浮く側)の回転力を受けることになる。
【0121】
以上のように、本実施の形態によれば、モータ20は、後輪13に対して遊星歯車機構50を介して連結されている。これにより、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差に衝突した際、遊星歯車機構50を用いて前輪12を後輪13に対して浮き上がらせることができる。すなわち制御部16は、モータ20の駆動力により、遊星歯車機構50の反作用によって前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる(ウィリーさせる)ことができる。
【0122】
また、本実施の形態によれば、遊星歯車機構50は、モータ20の出力軸63に連結された太陽歯車51と、太陽歯車51の周囲に配置された内歯車52と、太陽歯車51および内歯車52に噛み合い、出力軸63が回転したとき自転しつつ公転する遊星歯車53と、遊星歯車53を回転可能に支持し、遊星歯車53の公転運動が伝達される遊星キャリヤ54とを有し、内歯車52が後輪13に連結され、遊星キャリヤ54がパイプフレーム31に固定されている。これにより、前輪12が段差に衝突したとき、モータ20の出力軸63からの回転力が、太陽歯車51から遊星歯車53を介して遊星キャリヤ54に伝達され、遊星キャリヤ54に連結されたパイプフレーム31に対して回転力を働かせることができる。これにより、電動アシスト歩行車10全体を回転させ、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせることができる。
【0123】
本実施の形態において、制御部16は、遊星歯車機構50を用いて前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる場合を例にとって説明したが、遊星歯車機構50に限らず、偏心型減速機等、自転しつつ公転する歯車を有する機構を用いてもよい。
【0124】
あるいは、遊星歯車機構50に代えて、2枚の歯車からなる機構を用いてもよい。具体的には、図13および図14に示すように、モータ20に第1の歯車57を直結させ、後輪13に第2の歯車58を直結させ、これら第1の歯車57と第2の歯車58とを互いに噛み合わせも良い。図13に示すように、通常走行時には、モータ20によって後輪13の動きがアシストされ、電動アシスト歩行車10が走行する。一方、図14に示すように、例えば前輪12が段差に衝突し、前輪12がロックされた時には、後輪13もロックされる。この状態でモータ20が更に回転すると、電動アシスト歩行車10の全体が浮き上がるような力が発生する。このとき、電動アシスト歩行車10の進行方向と反対の方向に回転する力が働く。これにより、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差を容易に乗り越えることができる。
【0125】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図15および図16に示す第3の実施の形態は、前輪12を上昇させる駆動力を発生する駆動部が、モータ20とは別体に設けられている点が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態と略同一である。図15および図16において、第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0126】
図15(a)(b)において、前輪12を上昇させる駆動力を発生する駆動部は、モータ20とは異なる追加のモータ46からなっている。この場合、追加のモータ46の回転軸は、後輪13の回転軸と同軸上に設けられていても良く(図15(a))、後輪13の回転軸と異なる軸上に設けられていても良い(図15(b))。
【0127】
図16(a)(b)において、前輪12を上昇させる駆動力を発生する駆動部は、モータ20とは異なるアクチュエータ47からなっている。アクチュエータ47は、フレーム11に対して連結されている。この場合、アクチュエータ47は、伸縮することにより前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる伸縮型のものであっても良く(図16(a))、揺動することにより前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる揺動型のものであっても良い(図16(b))。
【0128】
なお、図15および図16において、必ずしもモータ20が設けられていなくても良い。
【0129】
(第4の実施の形態)
次に、図17を用いて、本発明の第4の実施の形態について説明する。図17において、第1の実施の形態乃至第3の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0130】
図17は、本実施の形態による電動アシスト歩行車(電動車両)10の外観の一例を示す模式的斜視図である。
【0131】
(電動アシスト歩行車の構成)
図17に示すように、電動アシスト歩行車10は、フレーム11と、フレーム11に設けられた一対の前輪12及び一対の後輪13と、フレーム11に接続された一対のハンドル14とを備えている。
【0132】
一対の後輪13には、それぞれ対応する後輪13の回転を補助するモータ20が連結されている。フレーム11には、バッテリ21と、制御部16とがそれぞれ取り付けられている。また、制御部16には、傾き検知センサ23が設けられている。
【0133】
本実施の形態において、左右一対のパイプフレーム31の上端部には、使用者によって操作される一対のハンドル14が設けられている。一対のハンドル14は、水平方向に伸びるバーハンドル17によって互いに連結されている。また一対のハンドル14とバーハンドル17とは、略U字形状をなしている。さらに一対のハンドル14には、使用者の肘を載せることが可能なアームレスト27が取り付けられている。アームレスト27には、各ハンドル14を挿入可能なように穴部が設けられ、この穴部にハンドル14を取付け可能になっている。
【0134】
左右一対のパイプフレーム31の間には、必要に応じて使用者が着座することが可能なシート部37が設けられている。
【0135】
バッテリ21は、モータ20や制御部16等、電動アシスト歩行車10の各要素に電力を供給するものである。このバッテリ21は、一対のパイプフレーム31間に位置するシート部37の下方に設けられている。
【0136】
また、速度検知センサ22は、一対の後輪13にそれぞれ設けられている。なお、速度検知センサ22は、一対の前輪12及び/又は一対の後輪13に内蔵することに限定されず、フレーム11、一対のハンドル14等、その他任意の部材に取り付けてもよい。あるいは、速度検知センサ22は、制御部16の近傍に配設されていても良い。
【0137】
速度検知センサ22は加速度検知センサで構成されても良い。この場合、加速度検知センサは、後輪13の角加速度を用いることなく、電動アシスト歩行車10の加速度を直接検知し、この加速度の信号を制御部16に対して送信する。また、制御部16は、加速度を時間積分することで速度を算出できる。
【0138】
また、速度検知センサ22はGPS(グローバルポジショニングシステム)で構成される場合、後輪13の角加速度を用いることなく、電動アシスト歩行車10の位置を検知できる。また、制御部16は、GPSからの位置情報を時間微分することで電動アシスト歩行車10の速度を算出し、GPSからの位置情報を2回微分することで加速度を算出できる。
【0139】
傾き検知センサ23は、2軸以上の加速度検知センサからなる。傾き検知センサ23は、制御部16の近傍に設けられている。あるいは、傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の上部に設けられていても良い。なお、傾き検知センサ23として加速度検知センサを用いる代わりに、ジャイロセンサを用いて電動アシスト歩行車10の姿勢を検知するようにしてもよい。
【0140】
なお、電動アシスト歩行車10のその他の構成は、第1の実施の形態における電動アシスト歩行車10(図1および図2)と略同様である。
【0141】
また、本実施の形態において、電動アシスト歩行車10には、使用者が一対のハンドル14を把持したか否かを直接検出するグリップセンサ、歪みセンサ、近接センサ又は圧力センサ等は設けられていない。しかしながら、これに限らず、本実施の形態においても、第1の実施の形態における電動アシスト歩行車10(図1および図2)と同様、ハンドル14に把持センサ24が設けられていても良い。
【0142】
以上のような構成を備える第4の実施の形態に係る電動アシスト歩行車10においても、制御部16は、第1の実施の形態と同様に、所定の状態を検知することにより、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したと判断し、その後、モータ20を制御して前輪12を後輪13に対して浮き上がらせる。制御部16は、前輪12を後輪13に対して浮き上がらせた後も、第1の実施の形態と同様の制御を行うようになっており、例えば駆動力を徐々に低減させる制御等を行うようになっている。よって第1の実施の形態と同様に電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを抑制することができる。
【0143】
(第5の実施の形態)
次に、第5の実施の形態について説明する。図18は、本発明の第5の実施の形態に係る電動アシスト歩行車10の制御部16の動作を説明するためのフローチャートである。以下に説明する第5の実施の形態では、第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0144】
上述の第1の実施の形態において、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したと判断した際、前輪12を上昇させるためのモータ20の駆動力を発生させる状態(以下、段差モードと呼ぶ場合がある。)に移行するようになっている。そして、このように前輪12を上昇させるための状態に移行した後、制御部16が、後輪13の前進方向の駆動力を徐々または急激に低減させても良いことを説明した。そして、このように駆動力を低減させる処理(段差モードからの離脱)を開始するタイミングとして、ハンドル14が一定以上の力で押されなくなったとき、ハンドル14が後方に引かれたとき、又は後輪13が前進方向に一定角速度以上で回転したとき等を例示した。
【0145】
第5の実施の形態では、制御部16が、段差モードからの離脱の契機となる電動アシスト歩行車10の各種の状態を順次判定し、いずれかの状態が検知された際(電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になる前)に、段差モードから離脱することにより、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるのを抑制するようになっている。以下、図18を参照しつつ、本実施の形態の制御部16の動作の流れを説明する。
【0146】
図18に示される処理は、制御部16が、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したと判断した際に開始される。この際、制御部16は、まず、ステップS181において、前輪12を上昇させるためにモータ20の駆動力を増加させる。これにより、制御部16は、段差モードに移行した状態となる。
【0147】
このように段差モードに移行した後、制御部16は、ステップS182において、前輪12の上昇、典型的には前輪12の後輪13に対する所定高さ以上の浮き上がりが生じたか否かを判定する。ここで所定高さとは、使用者が電動アシスト歩行車10の姿勢を制御できなくなる程度の高さである。さて、本実施の形態では、制御部16が、電動アシスト歩行車10の傾斜角度が所定角度以上となったことを検知することにより、前輪12の上昇を検知するようになっている。電動アシスト歩行車10の傾斜角度は、傾き検知センサ23によって検知され、制御部16に出力される。ステップS182で判断する前輪12の上昇は、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になると判断され得る程度の前輪12の上昇である。したがって、ステップS182で判断する前輪12の上昇を判断する基準(ここでは傾斜角度、又は後述の高さ判定用の所定値、後輪13の角速度、各加速度等)は、前輪12が段差を乗り上げたと考えられる基準以上(ここでは傾斜角度以上)に設定されてもよい。なお、ステップS182で前輪12の上昇を判断する際の傾斜角度は、前輪12の中心軸と後輪13の中心軸とを結んだ直線に垂直な方向の重力方向である鉛直方向に対する角度である。
【0148】
ステップS182において、前輪12の上昇が検知された場合、制御部16は、ステップS185に処理を移行させて、モータ20が発生させている駆動力を低減させ、その後、通常の状態に移行する(END)。なお、上述した傾斜角度に基づく上昇(浮き上がり)の検知に代えて、制御部16は、段差モードへの移行後に、後輪13が所定角度以上回転したことを検知することにより、前輪12の上昇を検知するようになっていてもよい。さらに、制御部16は、後輪13の前進方向の角速度が第1所定速度以上となったこと、後輪13が所定回転数以上になったこと、後輪13の速度が所定速度以上になったこと、又は、後輪13の前進方向の角加速度が第1所定角加速度以上になったことを検知することにより、前輪12の上昇を検知してもよい。また制御部16は、前輪12が所定値以上上昇したことによって、ステップS182における前輪12の上昇を検知してもよい。前輪12の上昇を判断するための上記の所定値は、水平面等の基準面に対する前輪12の高さ、又は、前輪12の中心軸と後輪13の中心軸とを結んだ直線に垂直な方向における高さである。前輪12の高さに関する基準面は、電動アシスト歩行車10の状態(モード)に応じて変更されてもよい。例えば、坂道を登っている又は降っている際に段差モードになった際には、坂道の傾斜した路面を基準面として基準面から直交する方向に離間する前輪12の位置を前輪12の高さとして検知してもよい。前輪12の高さは、例えば路面に対して光を照射する光学センサ等で検出されてもよい。
【0149】
また制御部16は、モータ20の駆動力を発生させた後、モータ20の電流、つまりモータ20を駆動させるための電流又は電圧が所定値以下になったこと、又は、モータ20の電流又は電圧の単位時間当たりの変化量(変化量の絶対値)が所定値以上になったことを検知した際に、ステップS185に処理を移行させて、モータ20が発生させている駆動力を低減させてもよい。或いは、制御部16は、モータ20の駆動力を発生させた後、モータ20のトルクが所定値以下になったこと、又は、モータ20のトルクの変化量(変化量の絶対値)が所定値以上になったことを検知した際に、ステップS185に処理を移行させて、モータ20が発生させている駆動力を低減させてもよい。前輪12が段差に乗り上げるように前輪12を上昇させる際には、モータ20を駆動するための電流が高くなり、そのトルクが大きくなる。一方で、前輪12が上昇した際には、上昇を妨げようとする抵抗が低下する傾向となることで必要なトルクが低下する。これに応じて、モータ20を駆動するための電流及び発生トルクが低下する。したがって、モータ20の電流、電圧、トルク、又は、それらの変化量を利用することによっても、前輪12の上昇を好適に判定することができる。なお、モータ20の発生トルクは、例えば後輪13の車軸やモータ20の駆動軸に設けた歪センサから検出してもよい。また、ここで説明したモータ20の電流、電圧、トルク、又は、それらの変化量は、後述する後輪13の空転の判定にも利用され得る。後輪13の空転をこれらの値を用いて判定する際には、前輪12の上昇を判定する場合と後輪13の空転を判定する場合とで異なる閾値(判定用所定値)を用いればよい。
【0150】
一方、ステップS182において、前輪12の上昇が検知されない場合には、ステップS183において、制御部16は、後輪13の空転が生じたか否かを判定する。本実施の形態では、制御部16が、左右の後輪13の角加速度差が所定値以上となったことを検知することにより、後輪13の空転を検知するようになっている。この例では、左右の後輪13の角加速度差は、速度検知センサ22が検知した左右の後輪13の角速度に基づいて演算される。つまり、速度検知センサ22が検知した左右の後輪13の角速度をそれぞれ微分して、左右の後輪13それぞれの加速度を演算し、これらを差し引くことで角加速度差が求められる。
【0151】
なお、速度検知センサ22が直接的に後輪13の角加速度を検知可能である場合には、速度センサ22が検知した角加速度の値を差し引けばよい。また、このような左右の後輪13の角加速度差に基づく空転の検知に代えて、制御部16は、後輪13の前進方向の速度が所定速度以上になったこと、又は、後輪13の前進方向の加速度が所定加速度以上になったことを検知することにより、後輪13の空転を検知しても良い。
【0152】
この場合、制御部16が、後輪13の前進方向の速度が第1所定速度以上となったこと、又は、後輪13の前進方向の加速度が第1所定加速度以上になったことを検知することにより、前輪12の上昇を検知するようになっている際には、制御部16は、後輪13の前進方向の速度が第1所定速度よりも大きい第2所定速度以上となったこと、又は、後輪13の前進方向の加速度が第1所定加速度よりも大きい第2加速度以上になったことを検知することにより、後輪13の空転を検知するように構成される。なお、第1所定速度と第2所定速度とは同じ値であってもよく、第1所定加速度と第2所定加速度とは同じ値であってもよい。また、本実施の形態では、後輪13の空転が検知された場合に駆動力の低減処理が行われるが、前輪12の空転が検知された場合に、駆動力の低減処理が行われてもよい。
【0153】
そしてステップS183において、後輪13の空転が検知された場合、上述と同様に、制御部16は、ステップS185に処理を移行させて、モータ20が発生させている駆動力を低減させ、その後、通常の状態に移行する(END)。一方、後輪13の空転が検知されない場合、ステップS184において、制御部16は、段差モードを使用者が解除しようとしているか否かを判定する。本実施の形態では、制御部16が、一例として後輪13の後退方向の速度が所定速度以上となったことを検知することにより、電動アシスト歩行車10の使用者が操作するハンドルに電動アシスト歩行車10を後退させる方向の力がかかっていると検知し、これをもって段差モードを使用者が解除しようとしていることを検知するようになっている。
【0154】
なお、段差モードを使用者が解除しようとしているか否かの判定は、後輪13の後退方向の加速度が所定加速度以上となったか否かを検知することにより行われても良い。また、段差モードを使用者が解除しようとしているか否かの判定は、ハンドル14に付加される力に基づいてハンドル14が後退方向に引かれたことを検知することにより行われても良い。詳しくは、制御部16が、ハンドル14に設けられた把持センサ24によって検知される、使用者の手から伝達されるハンドル14に対する前後方向の力に基づいて、把持センサ24が検知する後退方向の力が所定値以上となった際に、ハンドル14が後退方向に引かれたことを検知するようになっていても良い。
【0155】
そしてステップS184において段差モードを使用者が解除しようとしていることが検知された場合には、上述と同様に、制御部16は、ステップS185に処理を移行させて、モータ20が発生させている駆動力を低減させ、その後、通常の状態に移行する(END)。
【0156】
ステップS185の処理について詳述すると、この処理において、制御部16は、モータ20が発生させている駆動力を低減させ、モータ20の駆動力が通常の状態の駆動力まで低減されたことをもって、段差モードから離脱した状態となる。その後、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したことを監視する状態となり、段差への衝突等が検知されると、図18に示す処理を行うことになる。
【0157】
このようなステップS185において、制御部16は、前輪12の上昇の検知後の後輪13の角速度及び角加速度の少なくともいずれかに応じて、モータ20が発生させる駆動力の減少量を増減させるようになっていてもよい。より具体的には例えば、制御部16は、前輪12の上昇の検知後の後輪13の角速度及び角加速度が大きい程、モータ20が発生させる駆動力の減少量を大きくしてもよい。ステップS182における上昇の検知後の後輪13の角速度及び角加速度が大きい程、その後に電動アシスト歩行車10が急加速したり、後輪13が空回りしたりする可能性が高まる。そのため、角速度及び角加速度が高い程、モータ20による駆動力を大きく減少させることで、上述の急加速や空回りを抑制することができる。また制御部16は、前輪12の上昇の検知後の後輪13の角速度及び角加速度の少なくともいずれかに応じて、モータ20が発生させる駆動力をゼロにしてもよい。この場合も、上述の急加速や空回りを抑制することができる。なお、制御部は、前輪12の上昇の検知後の後輪13の回転数、速度に応じて、上述のようにモータ20が発生させる駆動力の減少量を増減させるようになっていてもよい。
【0158】
また、制御部16は、ステップS182における前輪12の上昇の検知後の電動アシスト歩行車10の傾斜角度に応じて、モータ20が発生させる駆動力の減少量を大きくするか、またはモータ20が発生させる駆動力をゼロにしても良い。この場合も、上昇検知後の状況に応じて、つまり上昇の度合いに応じて好適な駆動力の低減制御を実施できるため、駆動力の低減後の電動アシスト歩行車10を安定した状態により早く制御することができる。具体的には、上昇検知後の電動アシスト歩行車10の傾斜角度が過剰に大きい場合に、駆動力を大幅に低減させて、電動アシスト歩行車10が許容角度以上傾くことにより、電動アシスト歩行車10が後転する危険を防止することができる。
【0159】
また、制御部16は、前輪12の上昇に対する浮き上がりを検知した場合と、前輪12及び後輪13の少なくともいずれかの空転を検知した場合と、モータ20の駆動力を発生させる状態(段差モード)を使用者が解除しようとしていることを検知した場合とのそれぞれで、モータ20が発生させる駆動力の減少量を異ならせてもよい。このような構成では、段差モード中においてモータ20の駆動力を低減させる契機となる状態が検知された際、その種別に応じて、好適な駆動力の低減制御を実施できるため、駆動力の低減後の電動アシスト歩行車10を安定した状態により早く制御することができるようになる。
【0160】
以上に説明した第5の実施の形態によれば、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしているにも関わらず、前輪12が段差に衝突したと判断した際、制御部16は、モータ20を制御して前輪12を上昇させるための状態(段差モード)に移行する。そして、制御部16は、段差モードの移行後、言い換えるとモータ20の駆動力を発生させた後に電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になる前(不安定になった直後も含む。以下同じ。)に、モータ20が発生させる駆動力を低減させる。ここで、上述の電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になる前の状態として、モータ20の駆動力の発生が継続されることとすることによって、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大したりすることを抑制することが可能となる。これにより、使用者にとって大きな負担となる操作を行うことなく、前輪12が段差を容易に乗り越えることができるとともに、段差の乗り越え時に電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大したりすることを抑制することができる。
【0161】
具体的に、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になるとき又はなったときの状態として、前輪12の所定値以上の上昇、前輪12及び後輪13の少なくともいずれかの空転(本例では、後輪の空転)、又はモータ20の駆動力を増加させる状態(段差モード)を使用者が解除しようとしていることを設定することにより、電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大したりすることを抑制することができるようになる。例えば段差を乗り上げた前輪12の上昇又は必要以上の前輪12の上昇を検知した後にモータ20の駆動力を低減させた場合には、例えば持ち上げた前輪12を再び接地させた直後に急加速することで電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大したりすることを抑制できるようになる。また、前輪12及び後輪13の少なくともいずれかの空転を検知した後にモータ20の駆動力を低減させた場合には、空転によって電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大したりすることを抑制できるようになり、またモータ20の駆動力が無駄に消費される状態を抑制できるようになる。同様に、モータ20の駆動力を発生させる状態(段差モード)を使用者が解除しようとしていることを検知した後にモータ20の駆動力を低減させた場合には、使用者の解除のための操作によって電動アシスト歩行車10の姿勢が不安定になったり、不安定が拡大したりすることを抑制できるようになり、またモータ20の駆動力が無駄に消費される状態を抑制できるようになる。
【0162】
また、本実施の形態では、制御部16が、段差モードへの移行後、電動アシスト歩行車10の傾斜角度が所定角度以上となったことを検知することにより、前輪12の上昇を検知する。これにより、前輪12の上昇を直接的に示す電動アシスト車両10の傾斜角度に基づいて前輪12の上昇が判断されるため、上昇の状態を高精度に検知することができる。
【0163】
なお、制御部16は、段差モードへの移行後、後輪13が回転したことを検知することにより、前輪12の上昇を検知してもよく、この構成によれば、他の制御において通常であれば使用される後輪13の回転状態の情報に基づいて上昇が判断される。そのため、センサ類の共有化による装置構成及び内部システムの簡素化を図ることができる。
【0164】
また、この場合、制御部16は、後輪13の前進方向の角速度が第1所定角速度以上となったこと、又は、後輪13の前進方向の角加速度が第1所定角加速度以上になったことを検知することにより、前輪12の上昇を検知してもよい。この場合、後輪の角速度又は角加速度を第1所定角速度又は第1所定角加速度といった基準と対比して、前輪12の上昇を判断することで、検知精度を向上させることができる。特に角加速度に基づいて上昇を検知する場合には、角速度の場合に比べて上昇を早く検知することができるため、モータ20の駆動力の増加によって使い勝手が損なわれる状況を早く回避することができる。
【0165】
また、本実施の形態では、制御部16が、段差モードへの移行後、左右の後輪13の角加速度差が所定値以上となったことを検知することにより、後輪13の空転を検知する。これにより、後輪13の空転を早く検知することができるため、モータ20の駆動力の増加によって使い勝手が損なわれる状況を早く回避することができる。なお、制御部16は、左右の後輪13の角速度差が所定値以上となったことを検知することにより、後輪13の空転を検知するようになっていてもよい。
【0166】
また、本実施の形態では、制御部16が、段差モードへの移行後、後輪13の後退方向の角速度が所定角速度以上となったことを検知することにより、モータ20の駆動力を増加させる状態(段差モード)を使用者が解除しようとしていることを検知する。この場合、他の制御において通常であれば使用される後輪13の回転状態(回転角度や角速度や角加速度など)の情報に基づいて、使用者が電動アシスト歩行車10を後方に引いたことを判定し、これにより使用者が段差モードを解除しようとしていることが判断される。これにより、センサ類の共有化による装置構成及び内部システムの簡素化を図ることができる。また後輪13の角速度を所定角速度といった基準と対比して、使用者が段差モードを解除しようとしていることを判断することで、検知精度を向上させることができる。なお、制御部16は、後輪13の角加速度に基づいて、段差モードを使用者が解除しようとしていることを検知してもよい。また制御部16は、前輪12の角速度又は角加速度に基づいて、段差モードを使用者が解除しようとしていることを検知してもよい。
【0167】
また、制御部16は、ハンドル14に付加される力に基づいてハンドル14が後退方向に引かれたことを検知することにより、モータ20の駆動力を増加させる状態を使用者が解除しようとしていることを検知しても良い。この場合、ハンドル14が後方に引かれたことを直接的に示すハンドル14に付加される力に基づいて使用者が段差モードを解除しようとしていることが判断されるため、当該状態を高精度に検知することができる。ここで、制御部16は、把持センサ24が検知する後退方向の力が所定値以上となった際に、ハンドル14が後退方向に引かれたことを検知しても良い。この場合、とりわけハンドル14に付加される力を所定値といった基準と対比して、モータ20の駆動力を増加させる状態を使用者が解除しようとしていることを判断することで、検知精度を向上させることができる。
【0168】
上記では後輪13の角速度や角加速度を用いたが、後輪13の回転数や速度、後輪13の回転角度、電動アシスト歩行車10の速度やこれを時間で微分した電動アシスト歩行車10の加速度を用いてもよい。
【0169】
以上に説明した第5の実施の形態における制御部16の処理は、第1~第4の実施の形態に適用することができる。
【0170】
ところで、第1の実施の形態において、制御部16は、前輪12を上昇させた後、所定の条件を満たさなくなったときに後輪13の前進方向の駆動力を第1の減少量で徐々に低減させ、その一方で、上記の所定の条件とは異なる条件が満たされた場合に、上述した第1の減少量よりも大きい第2の減少量で、後輪13の前進方向への駆動力を低減させるようになっている。第5の実施の形態で説明した処理は、このような第1の実施の形態に係る処理に組み合わされてもよいし、当該処理の一部と置換されてもよい。
【0171】
例えば、制御部16は、前輪12を上昇させた後、所定の条件を満たさなくなったとき(所定の条件を検知したとき)に後輪13の前進方向の駆動力を第1の減少量で徐々に低減させ、その一方で、モータ20の駆動力を発生させた後、モータ20の駆動力を発生させる状態を使用者が解除しようとしていること、前輪12の所定値以上の上昇、又は後輪13の空転が生じたことを検知した際に、モータ20の駆動力を低減させてもよい。この際、後者におけるモータ20の駆動力の低減は、前者における駆動力の低減(第1の減少量での低減)とは別の態様で行われる。この場合、第1の減少量での駆動力の低減への移行を判定する際に用いる閾値と、モータ20の駆動力を発生させる状態を使用者が解除しようとしていること、前輪12の所定値以上の上昇、又は後輪13の空転が生じたことを検知する際に用いる閾値とは、異なるものである。
【0172】
以上本発明の各実施の形態及び各変形例を説明したが、各実施の形態及び各変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。各実施の形態及び各変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。各実施の形態及び各変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0173】
10 電動アシスト歩行車
11 フレーム
12 前輪
13 後輪
14 ハンドル
15 ブレーキユニット
16 制御部
20 モータ
21 バッテリ
22 速度検知センサ
23 傾き検知センサ
24 把持センサ
25 脚部検知センサ
31 パイプフレーム
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