(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 1/02 20060101AFI20220808BHJP
C08B 1/00 20060101ALI20220808BHJP
D06M 15/55 20060101ALI20220808BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220808BHJP
C08J 5/04 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
C08L1/02
C08B1/00
D06M15/55
C08L63/00 A
C08J5/04 CES
C08J5/04 CFD
C08J5/04 CFG
(21)【出願番号】P 2018069168
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2020-12-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阪本 浩規
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】山口 直樹
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-001719(JP,A)
【文献】特開昭48-001466(JP,A)
【文献】特開昭50-036793(JP,A)
【文献】特開昭52-055799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース、及び該セルロース表面上の一部又は全体に設けられたエポキシ樹脂層を有し、
該エポキシ樹脂層に含まれるエポキシ化合物はポリオレフィン構造を有し、
前記エポキシ樹脂層は10nm~1mmの粒子からなることを特徴とする、複合体。
【請求項2】
前記ポリオレフィン構造の基本単位は、下記一般式(1)~(4)のうちの少なくとも1種の構造である、請求項1に記載の複合体。
【化1】
【請求項3】
前記エポキシ化合物は、下記一般式(5)~(9)のうちの少なくとも1種のエポキシ構造を有する、請求項1又は2に記載の複合体。
【化2】
【請求項4】
前記エポキシ化合物が、上記一般式(1)及び(2)の何れか又は双方、並びに、上記一般式(6)の構造を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記セルロース100質量部に対して、前記エポキシ樹脂層が10~400質量部である、請求項1~4の何れか1項に記載の複合体。
【請求項6】
前記セルロースは、直径が3~1000nmのセルロースナノファイバーである、請求項1~5の何れか1項に記載の複合体。
【請求項7】
有機溶媒中に、請求項1~6の何れか1項に記載の複合体を含む、組成物。
【請求項8】
前記有機溶媒の沸点が110℃以上である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記有機溶媒は水酸基を有していない、請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
さらに水を含み、組成物中における前記水の含有量は、組成物100質量%中10質量%以下である、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~6の何れか1項に記載の複合体及び樹脂を含有する、樹脂組成物。
【請求項12】
前記樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される1種以上である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂は、バイオマスプラスチック及び微生物産生プラスチックからなる群より選択される1種以上である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記樹脂は、ポリ乳酸、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、及びこれらの構造を含有する共重合体からなる群より選択される1種以上である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの構造を有する共重合体からなる群より選択される1種以上である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
セルロース、及び該セルロース表面の一部又は全体に設けられた
10nm~1mmの粒子からなるエポキシ樹脂層を有する複合体の製造方法であって、
前記セルロースに、ポリオレフィン構造を有する
粒径10nm~1mmのエポキシ化合物
の粒子及び有機溶媒を含有するエポキシ樹脂層形成用溶液を加える工程1を有することを特徴とする、製造方法。
【請求項17】
前記エポキシ樹脂層形成用溶液は、さらに、水を含有し、 前記工程1の後に、加熱及び/又は減圧により、被覆形成用溶液中の水を除去する工程2を有する、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分であり、多数のβ-グルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した天然高分子であるため、環境負荷が小さい。このセルロース繊維は、基本となる単位である幅3~4nmのシングルセルロースナノファイバーが束となって細胞壁中での基本単位である幅10~20nmのセルロースナノファイバーを構成し、それがさらに太さ数10μm束となった構造となっている。
【0003】
近年、これらのセルロースナノファイバーは、高弾性率、高強度、低線膨張係数、ガスバリア性など優れた特性を有することがわかり、かつ、ガラス繊維や炭素繊維、無機フィラーなどと比較して軽量であるため、樹脂強化材や塗料添加剤、フィルム、増粘剤等様々な用途を想定して、研究開発がなされている。
【0004】
セルロースナノファイバーの製造方法としては、高圧分散装置やグラインダーを用いた機械的に解繊する方法、パルプをカチオン化剤で化学的に親水化したのち混練機などを用いて機械的に簡易に解繊する方法、TEMPO触媒等を用いて部分的に酸化させて化学的に解繊し易くする方法などが挙げられる。
【0005】
ところで、セルロースナノファイバーは単独で使用することは少なく、有機成分や有機溶媒と組み合わせて使用されることが一般的である。セルロースナノファイバーを構成するセルロースは、グルコース分子の水酸基を多数有しているため、水酸基同士の水素結合が起こりやすく、その結果、セルロースナノファイバー同士の凝集が起きやすいという問題点がある。また、上記の通り、セルロースはその表面に水酸基を多数有しているために親水性が極めて高く、疎水性である有機溶媒との親和性に欠けるという問題点もある。
【0006】
つまり、セルロースナノファイバーは水中では安定に存在するが、水を多く含んだ状態では疎水性の高分子や加水分解性の高分子との複合(特に溶融混練)が行いにくい。一方で、乾燥すると凝集して高分子中で遺物となり特性を低下させるため、高分子中でナノファイバーの保有する特性を発揮させることが難しいという問題点がある。
【0007】
かかる問題点を解消すべく、セルロースナノファイバーを疎水化する方法も検討されているが、化学的な手法により、セルロースナノファイバーの水酸基を疎水性置換基に置換させる方法が殆どである。かかる手法は、コストがかかることに加え、水酸基の一部が置換されるにとどまるため、水素結合による凝集を抑えきれないなどといった問題点を抱えている。
【0008】
通常のセルロース繊維でも同様の課題があるが、特に重量に対して多くの水酸基が表面に露出しているセルロースナノファイバーで顕著に現れる課題であるといえる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような事情に鑑み、本発明の目的とするところは、セルロースの水酸基を疎水性置換基に置換する以外の方法によりセルロースの疎水化を行うことにより、樹脂組成物の強度を向上させることが可能な複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、セルロース表面上に、所定の化学構造を有するエポキシ化合物を含有するエポキシ樹脂層を設けることにより、セルロースの化学的修飾を行わずとも、従来の樹脂強化用の複合体と同等以上の性能を有する複合体を得ることができることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の複合体を提供する。
項1.
セルロース、及び該セルロース表面上の一部又は全体に設けられたエポキシ樹脂層を有し、
該エポキシ樹脂層に含まれるエポキシ化合物はポリオレフィン構造を有することを特徴とする、複合体。
項2.
前記ポリオレフィン構造の基本単位は、下記一般式(1)~(4)のうちの少なくとも1種の構造である、項1に記載の複合体。
【0012】
【0013】
項3.
前記エポキシ化合物は、下記一般式(5)~(9)のうちの少なくとも1種のエポキシ構造を有する、項1又は2に記載の複合体。
【0014】
【0015】
項4.
前記エポキシ化合物が、上記一般式(1)及び(2)の何れか又は双方、並びに、上記一般式(6)の構造を有する、項1に記載の複合体。
項5.
前記エポキシ樹脂層は、10nm~1mmの粒子からなる、項1~4の何れかに記載の複合体。
項6.
前記セルロース100質量部に対して、前記エポキシ樹脂層が10~400質量部である、項1~5の何れかに記載の複合体。
項7.
前記セルロースは、直径が3~1000nmのセルロースナノファイバーである、項1~6の何れかに記載の複合体。
項8.
有機溶媒中に、項1~7の何れかに記載の複合体を含む、組成物。
項9.
前記有機溶媒の沸点が110℃以上である、項8に記載の組成物。
項10.
前記有機溶媒は水酸基を有していない、項8又は9に記載の組成物。
項11.
さらに水を含み、組成物中における前記水の含有量は、組成物100質量%中10質量%以下である、項9~10の何れかに記載の組成物。
項12.
項1~7の何れかに記載の複合体及び樹脂を含有する、樹脂組成物。
項13.
前記樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される1種以上である、項12に記載の樹脂組成物。
項14.
前記樹脂は、バイオマスプラスチック及び微生物産生プラスチックからなる群より選択される1種以上である、項12に記載の樹脂組成物。
項15.
前記樹脂は、ポリ乳酸、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、及びこれらの構造を含有する共重合体からなる群より選択される1種以上である、項12に記載の樹脂組成物。
項16.
前記樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの構造を有する共重合体からなる群より選択される1種以上である、項12に記載の樹脂組成物。
項17.
セルロース、及び該セルロース表面の一部又は全体に設けられたエポキシ樹脂層を有する複合体の製造方法であって、
前記セルロースに、ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物及び有機溶媒を含有するエポキシ樹脂層形成用溶液を加える工程1を有することを特徴とする、製造方法。
項18.
前記エポキシ樹脂層形成用溶液は、さらに、水を含有し、
前記工程1の後に、加熱及び/又は減圧により、被覆形成用溶液中の水を除去する工程2を有する、項17に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る複合体によれば、セルロース表面の化学的修飾を行わずとも、樹脂組成物の強度を向上させることが可能な複合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(1.複合体)
本発明の複合体は、セルロース、及び該セルロース表面上の一部又は全体に設けられたエポキシ樹脂層を有し、該エポキシ樹脂層に含まれるエポキシ化合物はポリオレフィン構造を有することを特徴とする。
【0018】
(1.1.セルロース)
セルロースは、公知のものを広く採用することが可能であり、特に限定はない。また、植物由来のセルロース、動物由来のセルロース、及びバクテリア由来のセルロースの何れでも、好適に使用することができる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併せて使用してもよい。
【0019】
植物由来セルロースとしては、例えば、広葉樹由来セルロース(ユーカリ、ポプラなど)、針葉樹由来セルロース(マツ、モミ、スギ、ヒノキなど)、草本類由来セルロース(ワラ、バガス、ヨシ、ケナフ、アバカ、サイザルなど)、及び種子毛繊維(コットンなど)の中から選択できる。原料となるパルプは、木材チップを機械的に処理した機械パルプであってもよく、木材チップから非セルロース成分を化学的に除去した化学パルプでもよく、さらに非セルロース成分を除去して精製した溶解パルプでもよい。
【0020】
その他、ホヤなど動物由来のセルロース、ナタデココなどバクテリア由来のセルロース等を、使用することができる。また、かかるセルロース繊維は、必ずしも純粋なセルロース成分のみから構成される必要はなく、主成分たるセルロースに、非セルロース成分が付随していてもよい。もちろん、セルロース繊維が純粋なセルロース成分のみにより構成されていてもよい。
【0021】
セルロースに付随する主な非セルロース成分については、特に限定はなく、複合体の用途に応じて、適宜選択することができる。例えば、ヘミセルロース及びリグニンを挙げることができる。ヘミセルロースは多いほどセルロース繊維製造時に解繊されやすいが、得られる樹脂組成物の弾性率が下がる傾向がある。リグニンは多いほどセルロース繊維製造時に解繊されにくくなるが、フェノール性水酸基を持っているため、複合体の製造時に、後述する芳香族エポキシと反応して望ましい架橋反応を起こしやすい。
【0022】
セルロースは、解繊されて、その一部又は全体が、セルロースナノファイバーとなっていることが好ましい。
【0023】
また、セルロース中の純粋なセルロース成分比率に関しても、複合体の用途に応じて、適宜設定すればよい。例えば、複合体を樹脂強化の目的で使用する場合には、純粋なセルロース成分比率は、セルロース成分の有する強度特性を効果的に利用するためには、セルロース繊維100質量%中に、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。セルロース比率の上限としては、100質量%とすることができる。尚、本明細書においてセルロース比率とは、セルロース全体の質量100質量%に対して、βグルコース分子がグリコシド結合により直鎖状に重合した純粋なセルロース成分の比率であると、定義する。
【0024】
セルロースに含まれるセルロースの重合度に関しても、複合体の用途に応じ、適宜設定すればよい。セルロースに含まれるセルロースの重合度が低い方が、セルロース繊維が解繊されやすい傾向にある。一方で、セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の重合度が高いほど、弾性率の高い複合体、及び組成物を得ることができる。高強度な樹脂組成物を得るためには、重合度500以上のセルロースを使用することが好ましく、重合度600以上のセルロースを使用することがより好ましい。セルロースの重合度の上限値としては特に限定はないが、例えば、10万とすることが好ましい。
【0025】
セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の結晶化度に関しても、低い方が解繊されやすい傾向にあるが、高い方が弾性率の高い複合体、及び組成物を得ることができる。高強度の組成物を得るためには、セルロースに含まれる純粋なセルロース成分の結晶化度を60%以上とすることが好ましく、70%以上とすることが、より好ましい。純粋なセルロース成分の結晶化度の上限としては、特に限定はないが、例えば、99%とすることが好ましく、98%とすることがより好ましい。セルロースの結晶構造は、I型、II型、III型、及びIV型を挙げることができるが、中でも、樹脂の補強という観点からは、弾性率などの高いI型結晶構造のセルロースであることが好ましい。
【0026】
パルプに含まれるセルロース繊維は通常直径10~100μmであることが多いが、本発明で使用するセルロースは、周方向断面の直径1~10μmの繊維状に微細化されていることが好ましく、セルロースナノファイバーであることがより好ましい。より具体的には、直径3~1000nmのセルロースナノファイバーであることがより好ましく、直径3~100nmのセルロースナノファイバーであることがさらに好ましい。ただし、全てが微細化されている必要はなく、一部であってもよい。尚、本明細書において、セルロース繊維の直径は、ランダムに抽出した50本以上のセルロースナノファイバーをSEM観察して得られるメジアン径であると定義する。
【0027】
一般的に、セルロースに関しては、長さ、結晶性、及び重合度を損なわず理想的に微細化され、理想的に分散した場合に、得られる樹脂組成物の強度が発現すると考えられる。ただし、実際は細く長いナノファイバーほど凝集し、樹脂組成物の強度が得られないことも想定される。また、ナノサイズまで微細化させることにより、ナノファイバーの長さ、結晶性、重合度の低下が発生するケースがあるため、適切な微細化の度合いは目的と微細化する手段によって異なる。
【0028】
セルロースを微細化する方法については、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、高圧ホモジナイザー法、水中対抗衝突法、グラインダー法、ボールミル法、二軸混練法等の物理的方法でもよく、TEMPO触媒、リン酸、二塩基酸、硫酸、塩酸などを用いた化学的な方法でもよい。通常、物理的方法ではナノファイバーの直径は10~1000nmとなるが、化学的方法ではさらに細い3~10nmの直径のセルロースナノファイバーを得ることができる。一方で、直径が細く、アスペクト比が大きいほど、得られる樹脂組成物の高い強度等の物性を期待できるが、高粘度化して生産効率が低下したり、凝集したりして、高強度が発揮できない可能性もある。
【0029】
(1.2.エポキシ樹脂層)
エポキシ樹脂層は、セルロースに疎水性を付与するという目的で、セルロース表面上の一部又は全体に設けられる。エポキシ樹脂層は、ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物を含有する。
【0030】
ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物とセルロースにおけるセルロースとが架橋を形成し、強度に優れた樹脂組成物を得ることができる。また、エポキシ化合物中のエポキシ構造が樹脂との親和性を向上させるとともに、樹脂組成物に柔軟性を付与し、その結果、樹脂組成物の強度も向上する。これらに加えて、低コストに強度に優れた樹脂組成物を得ることが可能となる。
【0031】
ここで、得られる樹脂組成物に柔軟性を付与することにより、その結果、強度の向上にもつながるという観点から、上記ポリオレフィン構造の基本単位は、下記一般式(1)~(4)からなる群より選択される1種以上の構造であることが好ましい。
【0032】
【0033】
特に、樹脂組成物に使用する樹脂としてポリエチレン系樹脂を採用する場合には、上記一般式(1)により表わされる構造を有するエポキシ化合物を使用すれば、ポリエチレン系樹脂との親和性に優れ、好ましい。
【0034】
また、樹脂組成物に使用する樹脂としてポリプロピレン系樹脂を採用する場合には、上記一般式(2)及び/又は(3)により表わされる構造を有するエポキシ化合物を使用すれば、ポリプロピレン系樹脂との親和性に優れ、好ましい。
【0035】
さらに、得られる樹脂組成物の衝撃強度を優れたものにするため、上記一般式(1)並びに、上記一般式(2)若しくは(3)の構造を有するエポキシ化合物を使用することも好ましい。
【0036】
また、セルロースと結合して架橋を形成し、得られる樹脂組成物の強度を向上させるという観点から、エポキシ化合物の構造式中のエポキシ構造は、下記一般式(5)~(9)からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。
【0037】
【0038】
特に、コスト面、樹脂組成物における樹脂との親和性を考慮した場合、上記一般式(1)で表わされるポリオレフィン構造の基本単位を有するエポキシ化合物を使用することが好ましい。
【0039】
このようなエポキシ化合物として、エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン-アリルグリシジルエーテル共重合体、エポキシ化ブタジエン、エポキシ化スチレンーブタジエンースチレン共重合体などが挙げられる。
【0040】
また、上記一般式(1)及び(2)の何れか又は双方、並びに、上記一般式(6)の構造を有するエポキシ化合物を使用すれば、ポリオレフィンとの相溶性がよく、好適である。
【0041】
エポキシ樹脂層は、10nm~1mmのエポキシ化合物の粒子からなることが好ましい。かかる構成を採用することにより、セルロースの表面に容易に配置できるという効果を得ることができる。尚、当該粒子の粒径は、電子顕微鏡(SEM)観察することにより、計測・算出することができる。
【0042】
また、エポキシ樹脂層は、セルロース100質量部に対して、10~400質量部の割合で設けられることが好ましい。特に、弾性率に優れるというセルロースの特徴を生かした樹脂組成物を得たい場合には、エポキシ樹脂層は、セルロース100質量部に対して、10~50質量部の割合で設けることが好ましい。一方、複合体の凝集をより効率的に防止したい場合には、エポキシ樹脂層を、セルロース100質量部に対して、20~400質量部の割合で設けることが好ましい。
【0043】
エポキシ樹脂層の厚みについては特に限定はなく、例えば、1nm~10μmであることが好ましい。
【0044】
エポキシ樹脂層は、複合体及び樹脂組成物の使用目的に応じて、上記エポキシ化合物以外にエポキシ樹脂の硬化剤、硬化促進剤、無機金属酸化物、及び炭素材料からなる群より選択される1種以上の添加物を、さらに含んでもよい。
【0045】
以上にしてなる本発明の複合体は、例えば、エポキシ化合物を、有機溶媒に溶解させ、これにセルロース繊維を混練する等の方法により、得ることができる。
【0046】
(2.組成物)
本発明の組成物は、有機溶媒中に、本発明の複合体を含んで構成されることが好ましい。
【0047】
(2.1.有機溶媒)
有機溶媒としては、公知の有機溶媒を広く採用することが可能であるが、後述する樹脂組成物を得る際に、セルロースの凝集を防ぎつつ水を除くことを可能とするために、沸点が110℃以上の有機溶媒を採用することが好ましい。一方、かかる有機溶媒を容易に除くことを可能とするという観点から、沸点が250℃以下の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0048】
また、有機溶媒を含んだ状態で加水分解性の樹脂と混練を行う場合に、アルコリシスを避けるという理由から、加水分解性樹脂との混練が想定される場合には、水酸基を有していない有機溶媒を採用することが好ましい。
【0049】
有機溶媒としては、より具体的には、水及びエポキシの双方に対して親和性を有する両アルコール系、ケトン系、グリコール系、ラクトン系、ラクタム系、アミド系、スルホキシド系、エーテル系などの両親媒性の有機溶媒を用いることが好ましい。また、溶媒が残留した状態で組成物を混練することを考慮すると、ケトン系、両末端がエーテル化されて水酸基を有しないグリコール系、ラクトン系、ラクタム系、アミド系、及びスルホキシド系からなる群より選択される1種以上の有機溶媒を使用することが好ましい。
【0050】
(2.2.水)
組成物は、セルロースの凝集を防止するために、有機溶媒に加えて、さらに水を含んでもよい。水の含有量は、組成物100質量%中に0.1~10質量%であることが好ましい。但し、後述する樹脂組成物において、ポリエチレンやポリプロピレン等ポリオレフィン類など、加水分解性ではない樹脂と複合する場合、もしくは疎水性の高い樹脂と複合する場合は、水は極力除く方が好ましい。水が少ない、或いは存在しない方が、複合体のポリオレフィン類もしくは疎水性樹脂への分散性が良好となり、より良い物性を得ることができる。
【0051】
(3.樹脂組成物)
本発明の複合体及び樹脂を含んだ樹脂組成物とすることも、好ましい。かかる樹脂組成物は、複合体を含まない樹脂組成物に比べて、硬化後の強度及び弾性率に優れる。
【0052】
(3.1.樹脂)
使用する樹脂としては、エポキシ基との反応性を有し、架橋構造を形成するという理由から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、及びポリカーボネート系樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。また、環境性の観点でバイオマス比率を上げる方が好ましいという理由から、バイオマスプラスチック及び微生物産生プラスチックからなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0053】
セルロースの高い弾性率を活用するという理由で、ゴムもしくは熱可塑性エラストマーを用いてもよい。ゴムとしては、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、シリコーン系ゴム、多硫化ゴム、フッ素ゴムなどが挙げられ、相溶性の観点でジエン系ゴム、オレフィン系ゴムが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系、オレフィン系、エステル系、ウレタン系、アミド系、ポリ塩化ビニル系、フッ素系が挙げられ、相溶性の観点でオレフィン系、エステル系、アミド系が好ましい。
【0054】
より具体的には、ポリ乳酸、ポリアミド4、ポリアミド11、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、及びこれらの構造を含有する共重合体からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0055】
ジエン系ゴムとしては、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムが好ましく、オレフィン系ゴムとしては、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴムが好ましい。
【0056】
熱可塑性エラストマーとしては、ポリエチレン構造、ポリプロピレン構造、ブタジエン構造、ポリエチレンテレフタレート構造、ポリアミド6構造、ポリアミド66構造、ポリアミド11構造、ポリアミド12構造を有するものが好ましく、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、スチレン-ブチレン-ブタジエン-スチレン共重合体のようにオレフィン構造もしくはジエン構造を有しながら、別の系統であるスチレン構造を含んでもよい。
【0057】
その他にも、樹脂組成物の軽量化という目的で、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの構造を有する共重合体からなる群より選択される1種以上を使用することも好ましい。
【0058】
本発明の樹脂組成物は、有機溶媒及び複合体を含んで構成される、上記した組成物に、樹脂を混合し、加熱・乾燥等することにより有機溶媒や水を揮発(蒸発)させることにより、得ることができる。ここで、樹脂としてポリエチレン、ポリプロピレン、及びこれらの構造を有する共重合体といった、加水分解しない(或いは、加水分解をほとんどしない)樹脂を使用する場合には、水を含まない組成物から、樹脂組成物を得ることが好ましい。かかる方法を採用することにより、セルロースと水との親和性が良いことに基づく、エポキシ化合物とセルロースとの相互作用を低減することができる。
【0059】
(4.複合体の製造方法)
本発明の、複合体の製造方法は、セルロース、及び該セルロース表面の一部又は全体に設けられたエポキシ樹脂層を有する複合体の製造方法であって、前記セルロースに、ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物及び有機溶媒を含有するエポキシ樹脂層形成用溶液を加える工程1を有することを特徴とする。
【0060】
セルロース、ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物、及び有機溶媒については、上述したものを、使用することができる。但し、ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物については、当該化合物の粒径10nm~1mmの粒子を水に分散させたものを使用することが好ましい。
【0061】
セルロースに、ポリオレフィン構造を有するエポキシ化合物及び有機溶媒を含有するエポキシ樹脂層形成用溶液を加える方法としては、これら全てを混合することが好ましい。かかる混合操作のより具体的な態様としては、溶融混練であってもよいし、有機溶媒を介した混合であってもよい。中でも、溶融混練を採用することにより、生産性を向上させることが可能となるだけでなく、複合体の分散性も良好となる。
【0062】
また、セルロースとしてセルロースナノファイバーを採用する場合には、エポキシ化合物は、セルロースの解繊前に加えてもよく、解繊後に加えてもよい。解繊前に加えた際には、セルロースナノファイバーを効率的に被覆することが可能となる。エポキシ化合物は、必ずしも水溶性が高くなくともよい。
【0063】
また、前記エポキシ樹脂層形成用溶液が、さらに、水を含有し、前記工程1の後に、加熱及び/又は減圧により、エポキシ樹脂層形成用溶液中の水を除去する工程2を有していてもよい。
【0064】
加熱操作は、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、静置型の熱風乾燥機、真空乾燥機、回転式のエバポレーター、混合式の乾燥機(コニカルドライヤー、ナウタードライヤーなど)を使用して加熱する方法を採用することが可能である。加熱の温度条件としては、40~200℃に設定することが好ましく、60~150℃に設定することがより好ましい。
【0065】
減圧操作についても、公知の方法を広く採用することが可能であり、特に限定はない。具体的には、オイルポンプ、オイルレスポンプ、アスピレータ等の装置を利用して減圧すればよい。減圧操作における圧力条件としては、0.00001~0.05MPaに設定することが好ましく、0.00001~0.03MPaに設定することがより好ましい。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0067】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0068】
(実施例1)
グラインダー法で解繊されたセルロースナノファイバー(固形分20質量%の水湿潤体150g)30gに、シクロヘキサノン1800gとエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gを含む水分散体37.5g(セルロースナノファイバー100質量部に対し、エポキシ化合物50質量部)を加え、撹拌した後、80℃で減圧して湿潤した150gの複合体を得た。得られた複合体のエポキシ樹脂層を、SEMを用いて観察することにより、粒径1~3μmの粒子により形成されていることを確認した。その後、複合体150gとポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックBC06C)255gを、二軸押出機(テクノベル製15mmφ, L/D=30)を用いて220℃で溶融混練し、250gの樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は80℃で24時間乾燥を行った後,射出成形機(新興セルビック,C,MOBILE-0813)を用いて、長さ75 mm×平行部幅5 mm×平行部長さ35 mm×厚さ2 mmのダンベル試験片に成形した。
【0069】
(実施例2)
エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gを含む水分散体37.5gをエチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gを含む水分散体18.75gに変更した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。尚、エポキシ樹脂層を形成する粒子の粒子径は、1~3μmであった。
【0070】
(実施例3)
エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gを含む水分散体37.5gを1,2-エポキシテトラデカン15gに変更した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0071】
(実施例4)
エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gをエチルヘキシルアルコールグリシジルエーテル15gに変更した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0072】
(実施例5)
エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gをエチルヘキサン酸グリシジルエステル15gに変更した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0073】
(比較例1)
ポリプロピレン(日本ポリプロ:ノバテックBC06C)200gを二軸押出機を用いて溶融混練したものを80℃で24時間乾燥を行った後、射出成形機を用いてダンベル試験片に成形した。
【0074】
(比較例2)
グラインダー法で解繊されたセルロースナノファイバー(固形分20質量%の水湿潤体150g)30gに、シクロヘキサノン1800gを加え、撹拌した後、80℃で減圧して湿潤した150gの複合体を得た。その後、複合体150gとポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックBC06C)270gを、二軸押出機(テクノベル製15mmφ, L/D=30)を用いて220℃で溶融混練し、250gの樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物は80℃で24時間乾燥を行った後,射出成形機(新興セルビック,C,MOBILE-0813)を用いて、長さ75 mm×平行部幅5 mm×平行部長さ35 mm×厚さ2 mmのダンベル試験片に成形した。
【0075】
(比較例3)
エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体5gを芳香環と水酸基を有するタンニン酸15gに変更した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0076】
(比較例4)
エチレン-メタクリル酸グリシジル共重合体15gをPPへのフィラー分散促進剤であるチラバゾールD-818M:15gに変更した以外は、実施例1と同様にして、試験片を得た。
【0077】
(引張強度、引張弾性試験)
得られた各実施例及び比較例の試験片に対し、万能材料試験機(Instron 5567)を用いて雰囲気温度23℃、引張速度10 mm/min n=5で引張試験を行い、引張強度及び引張弾性率を算出した。得られた結果を、下記表1に示す。
【0078】
【0079】
表1に示す通り、各実施例の試験片は、各比較例の試験片と比較して、強度に優れていることが確認された。