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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】真空バルブ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01H 33/662 20060101AFI20220808BHJP
   H01H 33/664 20060101ALI20220808BHJP
   H01H 11/06 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
H01H33/662 J
H01H33/662 F
H01H33/664 C
H01H11/06 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018117480
(22)【出願日】2018-06-20
(65)【公開番号】P2019220362
(43)【公開日】2019-12-26
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 遥
(72)【発明者】
【氏名】吉田 剛
(72)【発明者】
【氏名】染井 宏通
【審査官】片岡 弘之
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-198950(JP,A)
【文献】特開平07-230744(JP,A)
【文献】特開昭58-169832(JP,A)
【文献】特開平07-105795(JP,A)
【文献】特開平01-264127(JP,A)
【文献】実開昭51-002669(JP,U)
【文献】特開平06-349388(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/662
H01H 33/664
H01H 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に対向に配置される一対の電極と、
前記各電極と摩擦圧接により接合している一対の通電棒と、
前記電極と前記通電棒の間に設けられ、前記電極と前記通電棒とを接合させる原子拡散層と、
を備え
前記通電棒又は前記電極は、
前記摩擦圧接により接合する端部から形成された凹部と、
前記凹部の内部に設けられた収容体と、
を有し、
前記収容体は、前記原子拡散層に接合していること、
を特徴とする真空バルブ。
【請求項2】
記原子拡散層は、前記電極の材料と前記通電棒の材料とが複合化してなること、
を特徴とする請求項1に記載の真空バルブ。
【請求項3】
前記通電棒は、前記電極と接合する端部が前記通電棒の軸方向と直交する方向に膨らんでいる膨出部を有し、
前記膨出部及び前記電極によって、凹凸のない一続きの湾曲形状を構成していること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の真空バルブ。
【請求項4】
前記一対の通電棒は、それぞれ前記真空容器外に延びている露出部を有し、
前記各露出部は、前記電極の位置合わせの目印となる凹部又は凸部を有していること、
を特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の真空バルブ。
【請求項5】
前記電極は、Bi、Te、Sbの1種又は2種以上が添加されていること、
を特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の真空バルブ。
【請求項6】
真空容器内に配置される電極と、前記電極と接合している通電棒と、を備える真空バルブの製造方法であって、
前記電極及び前記通電棒の何れか一方を固定し、他方を軸方向に回転させ、前記電極の端部と前記通電棒の端部とを摩擦圧接して接合させる摩擦圧接工程と、
前記摩擦圧接工程により接合した前記電極及び前記通電棒を含めた各部材を組立て、ろう付けするろう付け工程と、
を有し、
前記摩擦圧接工程の摩擦圧接する時間は、10秒以上であり、
前記電極と前記通電棒の間に設けられ、前記電極の材料と前記通電棒の材料とが混合してなる原子拡散層を形成すること、
を特徴とする真空バルブの製造方法。
【請求項7】
真空容器内に配置される電極と、前記電極と接合している通電棒と、を備える真空バルブの製造方法であって、
前記電極及び前記通電棒の何れか一方を固定し、他方を軸方向に回転させ、前記電極の端部と前記通電棒の端部とを摩擦圧接して接合させる摩擦圧接工程と、
前記摩擦圧接工程で前記電極と前記通電棒の接合部分に生じたバリを除去する機械加工工程と、
前記摩擦圧接工程により接合した前記電極及び前記通電棒を含めた各部材を組立て、ろう付けするろう付け工程と、
を有し、
前記通電棒は、前記電極と接合する端部が前記通電棒の軸方向と直交する方向に膨らんでいる膨出部を有し、
前記機械加工工程は、前記膨出部及び前記電極によって凹凸のない一続きの湾曲形状を構成するよう形作っていること、
を特徴とする真空バルブの製造方法。
【請求項8】
前記摩擦圧接工程で前記電極と前記通電棒の接合部分に生じたバリを除去する機械加工工程を有し、
前記通電棒は、前記電極と接合する端部が前記通電棒の軸方向と直交する方向に膨らんでいる膨出部を有し、
前記機械加工工程は、前記膨出部及び前記電極によって凹凸のない一続きの湾曲形状を構成するよう形作っていること、
を特徴とする請求項6に記載の真空バルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、真空バルブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路の開閉を行い、短絡が起こった場合などに電流を遮断する真空遮断器が知られている。真空遮断器は、真空バルブが真空中で導通、遮断を行うことで、電路の開閉を行っている。この真空バルブは、絶縁筒と絶縁筒の上端及び下端を気密に接合する封着金具とを有する真空容器と、真空容器内に対向して配置された固定側電極及び可動側電極と、固定側電極と接合している固定側通電棒と、可動側電極と接合している可動側通電棒とを備える。
【0003】
従来の真空バルブは、まず、固定側電極と固定側通電棒及び可動側電極と可動側通電棒をそれぞれ銀ろう付けにより接合させる部組みを行った後、通電棒と封着金具、絶縁筒と封着金具などを銀ろう付けにより接合して一体化する工程を有していた。このように従来の真空バルブの製造方法は、少なくとも2回の銀ろう付け作業を要していた。しかし、銀ろう付け作業は、加熱炉によって数百度に加熱する必要があり、銀ろう付けを行う作業を複数回行うと真空バルブの生産性が低下するという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-22464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、固定側電極と固定側通電棒、及び、可動側電極と可動側通電棒を接合する部組工程では、ろう材を固定側電極と固定側通電棒の間、また、可動側電極と可動側通電棒の間に挟んだ状態でかしめによって仮に固定する。この接合の時点では、加熱炉による加熱を行わない。すべての部材を組立て、銀ろう付けすべき全ての箇所にろう付けした後、加熱炉で加熱する際に、その加熱によって固定側及び可動側の電極と通電棒の間に挟んだろう材も溶融させ、電極と通電棒を銀ろうによって接合する手法が提案されている。
【0006】
しかし、絶縁筒と封着金具などをろう付けする際、電極がずれてろう付けされたり、脱落したりするといった問題が生じていた。さらに、スパイラル電極などアークを消弧するために固定側電極と可動側電極の向きが重要となる場合、ろう付け時に電極の向きが変化しないよう構造や治具が複雑となるという問題もあった。
【0007】
本実施形態では、上記課題を解決すべく、銀ろう付けの回数を削減しつつ、電極と通電棒の接合部の信頼性を向上させる真空バルブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本実施形態の真空バルブは、真空容器内に対向に配置される一対の電極と、各電極と摩擦圧接により接合している一対の通電棒と、前記電極と前記通電棒の間に設けられ、前記電極と前記通電棒とを接合させる原子拡散層と、を備え、前記通電棒又は前記電極は、前記摩擦圧接により接合する端部から形成された凹部と、前記凹部の内部に設けられた収容体と、を有し、前記収容体は、前記原子拡散層に接合していることを特徴とする。
【0009】
また、本実施形態の真空バルブの製造方法は、真空容器内に配置される電極と、前記電極と接合している通電棒と、を備える真空バルブの製造方法であって、前記電極及び前記通電棒の何れか一方を固定し、他方を軸方向に回転させ、前記電極の端部と前記通電棒の端部とを摩擦圧接して接合させる摩擦圧接工程と、前記摩擦圧接工程により、接合した前記電極及び前記通電棒を含めた各部材を組立て、ろう付けするろう付け工程とを有し、前記摩擦圧接工程の摩擦圧接する時間は、10秒以上であり、前記電極と前記通電棒の間に設けられ、前記電極の材料と前記通電棒の材料とが混合してなる原子拡散層を形成すること、を特徴とする。さらに、本実施形態の真空バルブの製造方法は、真空容器内に配置される電極と、前記電極と接合している通電棒と、を備える真空バルブの製造方法であって、前記電極及び前記通電棒の何れか一方を固定し、他方を軸方向に回転させ、前記電極の端部と前記通電棒の端部とを摩擦圧接して接合させる摩擦圧接工程と、前記摩擦圧接工程で前記電極と前記通電棒の接合部分に生じたバリを除去する機械加工工程と、前記摩擦圧接工程により接合した前記電極及び前記通電棒を含めた各部材を組立て、ろう付けするろう付け工程と、を有し、前記通電棒は、前記電極と接合する端部が前記通電棒の軸方向と直交する方向に膨らんでいる膨出部を有し、前記機械加工工程は、前記膨出部及び前記電極によって凹凸のない一続きの湾曲形状を構成するよう形作っていること、を特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1の実施形態に係る真空バルブの概略全体構成を示す断面図である。
図2】第1の実施形態に係る真空バルブの製造工程を示すフローチャートである。
図3】配置工程~機械加工工程における電極及び通電棒の模式図である。
図4】凹部を設けた通電棒の模式図である。
図5】第1の実施形態に係る真空バルブの側面図である。
図6】変形例に係る真空バルブの電極及び通電棒の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
(構成)
以下、第1の実施形態に係る真空バルブについて図面を参照しつつ詳細に説明する。まず、第1の実施形態の真空バルブの全体構成について説明する。図1は、第1の実施形態に係る真空バルブの概略全体構成を示す断面図である。真空バルブ1は、真空の中で電路の導通、遮断、絶縁を行う。この真空バルブ1は、図1に示すように、真空容器2、固定側通電棒3A、可動側通電棒3B、固定側電極4A、可動側電極4B、アークシールド6及びベローズ7を備える。
【0012】
この真空バルブ1は、概略円筒形状の真空容器2内に、一対の固定側電極4Aと可動側電極4Bとが対向に配置され、可動側電極4Bを円筒軸Xに沿って移動させることで、可動側電極4Bと固定側電極4Aとを接離させる。この可動側電極4Bが固定側電極4Aと接触している場合には、導通となり、電路は閉路状態となる。一方、可動側電極4Bが固定側電極4Aと離間すると、電流は遮断され、電路は開路状態となる。
【0013】
真空容器2は、密閉された空間が10-2Pa以下の真空である容器である。この真空容器2は、絶縁筒21及び封着金具22を有する。絶縁筒21は、両端が開口した円筒形状を有する。この絶縁筒21は、絶縁性を有する材質であり、例えば、セラミックスや硝子である。
【0014】
封着金具22は、絶縁筒21の両端の開口を塞ぐ部材である。封着金具22は、円盤形状を有し、その外径は、絶縁筒21の両端の開口と概略同一径である。この封着金具22が、絶縁筒21の両端の開口を塞ぎ、銀ろう付けされることで絶縁筒21と封着金具22は気密接合し、真空容器2の内部が密閉される。
【0015】
固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、銅などの導電性を有する材質により構成された導体であり、例えば、円柱形状を有する。封着金具22の中心は、開口しており、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、真空容器2外からこの開口を貫通し、真空容器2内に延びている。
【0016】
固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、絶縁筒21の円筒軸Xと共通軸を有する。また、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、対向に配置される。なお、本実施形態では、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、絶縁筒21の円筒軸Xと共通軸を有するように配置したが、これに限定するものではなく、固定側通電棒3Aと可動側通電棒3Bを対向に配置すれば、所望の位置に配置することができる。
【0017】
固定側通電棒3Aの外径は、封着金具22の開口の外径と概略同一径である。固定側通電棒3Aは、封着金具22の開口と銀ろう付けされることにより、封着金具22に固定されて支持されている。一方、可動側通電棒3Bの外径は、封着金具22の開口よりやや小さい。やや小さいとは、可動側通電棒3Bが、封着金具22の開口を円筒軸Xに沿って移動できる程度に小さければよい。即ち、可動側通電棒3Bは、封着金具22の開口に遊貫している。
【0018】
固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、真空容器2内に延びている端部が通電棒の軸方向と直交する方向に膨らんでいる膨出部31を有する。この膨出部31と後述する電極4とが摩擦圧接により接合している。
【0019】
固定側電極4A及び可動側電極4Bは、クロム銅、銀タングステンカーバイド、銅タングステンなどの導電性を有する材質により構成される。本実施形態では、例えばスパイラル電極を用いている。スパイラル電極は、円盤状の電極で外周部から延びた複数のスリットを有することで、スリットにより部分的に区画された複数の腕部を有し、渦巻き状の形状となっている電極である。固定側電極4A及び可動側電極4Bには、Bi、Te、Sbの1種又は2種以上が添加されている。なお、固定側電極4A及び可動側電極4Bはスパイラル電極に限らず、縦磁界電極、平板電極など種々のものが使用できる。
【0020】
固定側電極4Aは、真空容器2内に延びた固定側通電棒3Aの膨出部31と接し、摩擦圧接により接合される。一方、可動側電極4Bは、可動側通電棒3Bの膨出部31と接し、摩擦圧接により接合される。即ち、固定側電極4Aと可動側電極4Bは、対向に配置される。この固定側電極4Aと可動側電極4Bが接離することで、電流の導通又は遮断を行う。
【0021】
通電棒3A、3Bの膨出部31と電極4A、4Bとが接合した表面は、凹凸のない一続きの湾曲形状となっている。凹凸のないとは、曲がりくねることなく1つの孤を描くことをいう。換言すれば、膨出部31と電極4A、4Bによって形成された凹凸のない一続きの湾曲形状は、蛇行していない。
【0022】
具体的には、図1に示すように、通電棒3A、3Bの膨出部31は、通電棒3A、3Bの軸方向と直交する方向に丸みを帯びて膨らみ、電極4A、4Bと接合する面は平坦面34となっている。一方、電極4A、4Bは、膨出部31と接合する面に、膨出部31の平坦面34と同一の大きさである平坦面41を有し、互いの平坦面34、41が合致した状態で接合されている。電極4A、4Bは、平坦面41から膨出部31の膨らみと同一の曲率で湾曲し、電極4A、4Bが接触する箇所に平坦面42を有する。即ち、摩擦圧接によって形成された通電棒3A、3Bの膨出部31と電極4A、4Bによる一体物は、概略楕円体形状となっている。つまり、この一体物の接合箇所表面は、角ばった箇所を有していない。
【0023】
アークシールド6は、例えば、ステンレスや銅からなる。アークシールド6は、両端が開口した円筒形状を有する。アークシールド6は、真空容器2内に、固定側電極4A及び可動側電極4Bを取り囲むように、アークシールド6の円筒軸が絶縁筒21の円筒軸Xと平行になるように設けられている。アークシールド6の外周面は、絶縁筒21に向けて延びる突起を有する。この突起の端部は、銀ろう付けにより絶縁筒21と接合されている。つまり、アークシールド6は、絶縁筒21によって支持されている。
【0024】
アークシールド6の円筒軸X方向の長さは少なくとも、固定側電極4A及び可動側電極4Bの円筒軸X方向の厚みと開路状態における固定電極側4A及び可動側電極4Bの隙間の距離を足した以上の長さを有する。このアークシールド6の両端部は、内側に湾曲し、湾曲した端部は、固定側通電棒3A又は可動側通電棒3Bには未達である。
【0025】
アークシールド6は、電極間で発生したアークが絶縁筒に当たって絶縁筒が破損し、真空リークすることを防止する。
【0026】
ベローズ7は、伸縮可能な蛇腹状の伸縮管であり、金属等の材料からなる。このベローズ7は真空容器2内に設けられている。ベローズ7の内部は、可動側通電棒3Bが貫通している。ベローズ7の一方端部は、封着金具22の開口を覆うように封着金具22と銀ろう付けにより固定されている。即ち、ベローズ7の外径は、封着金具22の開口の外径より大きい。一方、ベローズ7の他方端部は、可動側通電棒3Bと銀ろう付けにより気密に固定されている。つまり、ベローズ7は、封着金具22と可動側通電棒3Bとに固定されることで、封着金具22の開口から流入してくる大気をベローズ7内部に留める。これにより、真空容器2内に大気が流入することを防止でき、真空容器2内の真空が保持される。
【0027】
なお、可動側通電棒3Bの他方端部は、真空容器2外に配置された不図示の駆動装置と接続している。駆動装置は、制御装置と接続されており、制御装置の命令を受けて可動側通電棒3Bを移動させる。この駆動装置が、可動側通電棒3Bを円筒軸Xに沿って移動させることで、可動側電極4Bは、固定側電極4Aと接触又は離間する。
【0028】
(製造方法)
次に、本実施形態の真空バルブ1の製造方法について図面を参照しつつ説明する。図2は、本実施形態の真空バルブの製造工程を示すフローチャートである。図2に示すように、本実施形態の真空バルブ1の製造方法は、配置工程、摩擦圧接工程、機械加工工程、目印作成工程、ろう付け工程を経る。
【0029】
配置工程は、通電棒3と電極4を対向に配置させる工程である(ステップS01)。図3は、本製造工程のうち、配置工程~機械加工工程における電極及び通電棒の模式図である。図3(a)に示すように、通電棒3の膨出部31と電極4の端面を対向に配置させ、通電棒3を不図示の冶具により固定させる。本実施形態では、通電棒3を冶具により固定させたが、電極4を固定させてもよい。
【0030】
摩擦圧接工程は、通電棒3と電極4を摩擦圧接する工程である(ステップS02)。図3(b)に示すように、電極4は中心軸周りに回転速度1000rpm~3000rpmで回転させ、回転させた電極4を通電軸3に接圧50MPa~200MPaで押し当て摩擦圧接する。この摩擦圧接工程によって、通電棒3と電極4の材料が混じり合って複合化した原子拡散層5が形成される。
【0031】
原子拡散層5は、通電棒3と電極4を摩擦圧接したことによりできた通電棒3の材料と電極4の材料とが混合してなる層である。つまり、固定側通電棒3Aと固定側電極4A及び可動側通電棒3Bと可動側電極4Bの間に設けられている。原子拡散層5は、通電棒3と電極4を接合させている。即ち、固定側通電棒3Aの膨出部31と固定側電極4A、可動側通電棒3Bの膨出部31と可動側電極4Bは原子拡散層5によって接合している。
【0032】
摩擦圧接している時間は、10秒以上であることが好ましい。摩擦圧接時間が10秒未満である場合であっても通電棒3と電極4との接合は可能であるが、通電棒3や電極4の微細な粉状まで粉砕されない可能性がある。10秒以上であると、通電棒3や電極4の微細な粉状まで粉砕され、微細化した粒子が混じり合って複合化した原子拡散層5が形成されるので、より強固に通電棒3と電極4を接合させることができる。
【0033】
図3(c)に示すように、機械加工工程は、摩擦圧接工程で発生したバリBを除去し、接合箇所表面を所望の形状に成形する工程である(ステップS03)。本実施形態では、切削によりバリを除去し、成形しているが、その手法はこれに限るものではなく、種々の手法を用いることができる。
【0034】
通電棒3と電極4とを摩擦圧接すると、両部材は接合面の発熱により柔らかくなって塑性変形し、一体化され接合する。即ち、膨出部31、原子拡散層5及び電極4は一体に形成される。一体に形成された膨出部31、原子拡散層5及び電極4の接合箇所表面を凹凸のない一続きの湾曲形状となるよう機械加工する。
【0035】
具体的には、膨出部31、原子拡散層5及び電極4は一体となり、膨出部31の曲率に倣った概略楕円体形状となっている。換言すれば、膨出部31、原子拡散層5及び電極4によって形成された一体物は、角ばった箇所を有しない。この概略楕円体形状の一体物は、電界集中を緩和する役割を担っている。
【0036】
本実施形態では、膨出部31に倣った曲率の湾曲形状を有していたが、凹凸のない一続きの湾曲形状を有するものであれば、これに限定するものではない。例えば、概略楕円体のうち、電極が接合している側の半円の曲率を大きくし、接合していない反対側の半円の曲率を小さくした概略楕円体形状としてもよい。
【0037】
目印作成工程は、固定側電極4Aと可動側電極4Bを対向に配置する際に、それぞれの電極4A、4Bの向きを合わせるための目印となる凹部33を設ける工程である(ステップS04)。本実施形態のように、電極4A、4Bがスパイラル電極の場合、アークを駆動させることが電流遮断性能を左右することから、固定側電極4Aと可動側電極4Bの向きが重要となる。そこで、電極4A、4Bの向きの目印となる凹部33を設けることで容易に電極4A、4Bの位置合わせを行うことができる。
【0038】
図4は、目印となる凹部を設けた通電棒3の模式図である。図4に示すように、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bには凹部33が設けられている。凹部33は、互いの凹部33を同一直線上に合わせた時に、電極4A、4Bの向きが合うように設ける。
【0039】
図5は、本実施形態の真空バルブの側面図である。図5に示すように、各部材を組立てた際に、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bの露出部32が有している各凹部33が、同一直線上に配置される。また、固定側通電棒3A及び可動側通電棒3Bは、真空容器2の外部に露出している露出部32を有する。露出部32は、露出部32の端部の外周面に凹部33を有する。このように、真空容器2の外部から見える露出部32に電極4A、4Bの向きの目印となる凹部33を設けることで、各部材の組立てが終わった後でも、真空容器2の外部から確認しながら電極4A、4Bの向きを合わせることもできる。
【0040】
凹部33は、露出部32の端部から真空容器2に向かって延びている。延びている長さは、露出部32の長さの概略半分である。なお、本実施形態では、露出部32に凹部33を設けたが、電極4A、4Bの位置合わせの目印となるのであれば、これに限定するものではなく、凸部を設けてもよい。また、凹部33又は凸部の形状も目印となるので如何なる形状のものでもよい。また、電極4A、4Bの向きを合わせる必要がない、例えば平板電極などの場合には、本工程を行うことを要しない。
【0041】
ろう付け工程は、摩擦圧接工程によって接合した通電棒3及び電極4を含めた真空バルブ1を構成する各部材を組立て、銀ろうによってろう付けする工程である。(ステップS05)。接合した通電棒3及び電極4を組み立てる際は、互いの凹部33が同一直線上になるよう固定側通電棒3Aと可動側通電棒3Bを組み立てる。銀ろうによって接合すべき箇所とは、例えば、固定側通電棒3Aと封着金具22の開口の間、アークシールド6と絶縁筒21が接する間、絶縁筒21と封着金具22が接する間などが挙げられる。
【0042】
また、電極4は、Bi、Te、Sbの1種又は2種以上が添加されている。添加とは、電極内部まで添加されている状態をいう。Bi、Te、Sbは、銀ろうと混合すると銀ろうによって接合した箇所の接合強度を脆弱化させる。しかし、本実施形態では、銀ろうを用いず摩擦圧接によって通電棒3と電極4を接合させているので、接合箇所にBi、Te、Sbが添加されていても影響を受けない。よって、銀ろうを用いる場合のように、Bi、Te、Sbを添加する箇所に気を遣う必要がないため、電極構造を簡素化できる。
【0043】
(作用)
本実施形態に係る真空バルブ1が電路を閉路状態から開路状態にする動作について説明する。閉路状態とは、可動側電極4Bが、固定側電極4Aに接触し、電気的に接続している状態をいう。開路状態とは、可動側電極4Bが固定側電極4Aから離間して、電気的に接続していない状態をいう。
【0044】
まず、閉路状態である場合は、両電極4A、4Bには電流が流れる。この時、ろう材を使用している場合と比べて、通電容量の減少を防止することができる。即ち、従来のように銀ろう付けにより接合させると、ろう材自体が電気抵抗を有するため、ろう材が真空バルブの通電容量を減少させる一因となっていた。しかし、本実施形態では、通電棒3と電極4とを摩擦圧接により接合させ、ろう材は使用していないため、ろう材による電気抵抗を受けることはない。よって、通電容量の減少を防止できる。
【0045】
次に、不図示の駆動装置は、不図示の制御装置から遮断命令が送られてくると、可動側通電棒3Bを絶縁筒21の円筒軸Xに沿って、固定側電極4Aとは反対の方向に引っ張り、可動側電極4Bを固定側電極4Aと離間させる。電極が離間すると、電極間でアークが生じる。
【0046】
本実施形態では、発生したアークを消弧させることができる。本実施形態のように電極4にスパイラル電極を用いた場合、固定側電極4Aと可動側電極4Bの間には、電極4A、4Bを流れていた電流によって、電極4A、4Bの半径方向に磁界(横磁界)が発生する。この磁界はアークに印加される。アークには、この磁界とアークに流れる電流によりローレンツ力が働き、アークは1箇所に停滞することなく、円周方向、即ち、円筒軸Xの軸回り方向に駆動し、電流零点になると、アークは消弧される。
【0047】
アークを円周方向に駆動させるためには、固定側電極4Aと可動側電極4Bの向きを合わせて横磁界をアークに印加する必要がある。本実施形態では、電極4A、4Bを組み立てる際、露出部32に電極4A、4Bの向きの目印となる凹部33を設けている。したがって、電極4A、4Bの向きがずれることがなく、アークに横磁界を印加することができるので、アークを消弧でき、真空バルブ1の遮断性能が向上する。
【0048】
また、本実施形態では、真空バルブ1の遮断性能を維持しつつ、真空バルブ1の小型化を実現することができる。即ち、電気的に接続していると電界が発生し、この電界が集中すると、集中する箇所が絶縁破壊するおそれがあり、絶縁性能が低下する。そこで、本実施形態では、膨出部31、原子拡散層5及び電極4によって凹凸のない一続きの湾曲形状を有し、真空容器2内に延びている通電棒3の端部(膨出部31、原子拡散層5及び電極4により構成される部分)は、全体として概略楕円体の形状をしている。このように、通電棒3の端部を楕円体とすることで、電界緩和効果を得ることができる。
【0049】
ここで、従来は、通電棒の膨出部と電極との接合は、銀ろう付けにより行っていた。銀ろう付けで接合箇所を凹凸のない湾曲形状を形成させるためには、通電棒の膨出部と電極とをぴたりと合致させ接合させる必要がある。しかし、ぴたりと合致させて接合させようとしても、銀ろうがはみ出すことがあり、銀ろうがはみ出すとそこから絶縁破壊するおそれがある。また、銀ろうをはみ出さないようにしようとすると、ぴたりと接合することができず、接合箇所には角が生じてしまう。そのため、通電棒の膨出部の外径を電極よりも大きくし、平面上で電極と通電棒をろう付けし接合する必要があった。
【0050】
さらに、銀ろう付けした後、機械加工によって凹凸のない一続きの湾曲形状を成形しようとすると、機械加工した際に銀ろう付けした部分の接合強度の信頼性の低下が問題となる。よって、銀ろう付けにより通電棒と電極を接合する場合には、その接合箇所には角が生じており、その角の部分に電界が集中する。そのため、角の電界集中を緩和させるため、楕円体の直径と湾曲の曲率はより大きくする必要があるため、真空バルブは大型化していた。
【0051】
しかし、本実施形態では、摩擦圧接によって接合表面が変形することを利用して、膨出部31、原子拡散層5及び電極4を凹凸のない一続きの湾曲した形状に成形している。つまり、銀ろう付けした場合のように角ばった箇所がないため、その角ばった箇所に集中する電界を緩和するためにより曲率の大きな楕円体を成形する必要がなくなる。そのため、銀ろう付けした場合と比べて、楕円形の直径と湾曲の曲率を小さくすることができ、その結果、真空バルブ1の小型化を図ることができる。
【0052】
アークが消弧された後、不図示の制御装置から導通命令が送られてくると、不図示の駆動装置は、可動側通電棒3Bを絶縁筒21の円筒軸Xに沿って、固定側電極4Aに向けて
押し上げ、可動側電極4Bを固定側電極4Aと接触させる。可動側電極4Bと固定側電極4Aが接触する時、相当な衝撃が加えられる。
【0053】
本実施形態では、接合強度が向上しているため、耐久性も向上している。つまり、通電棒3と電極4の接合強度が弱いと、電極4の開閉動作を繰り返しているうちに、衝撃により接合箇所に亀裂が生じ、最悪の場合、通電棒3と電極4が分離してしまうおそれがある。しかし、本実施形態では、通電棒3や電極4の微細な粉状まで粉砕され、微細化した粒子が混じり合って複合化した原子拡散層5を形成し、この原子拡散層5によって通電棒3と電極4を接合させている。したがって、通電棒3と電極4はより強固に接合することができ、接合部の信頼性を向上させる。
【0054】
(効果)
本実施形態の真空バルブ1は、真空容器2内に対向に配置される一対の電極4と、各電極4と摩擦圧接により接合している一対の通電棒3とを備えるようにした。これにより、通電棒3と電極4とを銀ろうによって接合する必要がなくなり、ろう付け工程を削減することができるので、真空バルブ1の生産性が向上する。また、通電棒3と電極4の接合に銀ろうを用いていないので、銀ろうによる電気抵抗の影響を受けることがなく、真空バルブ1の通電容量を向上させることができる。さらに、摩擦圧接による接合は、銀ろう付けによる接合より強固なので、通電棒3と電極4の接合部の信頼性を向上させることができる。
【0055】
電極4と通電棒3の間に設けられ、電極4と通電棒3とを接合させる原子拡散層5を更に備え、原子拡散層5は、電極4の材料と通電棒3の材料とが複合化してなるようにした。これにより、各材料が微細化した粒子が複合化した原子拡散層5によって、通電棒3と電極4は接合されているので、より強固に接合させることができる。
【0056】
通電棒3は、電極4と接合する端部が真空容器2の軸方向と直交する方向に膨らんでいる膨出部31を有し、膨出部31、原子拡散層5及び電極4によって、凹凸にない一続きの湾曲形状を構成するようにした。これにより、電界を緩和するための楕円体の曲率を小さくすることができるので、真空バルブ1の小型化を図ることができる。
【0057】
一対の通電棒3は、それぞれ真空容器2外に延びている露出部32を有し、各露出部32は、電極4A、4Bの位置合わせの目印となる凹部33を有するようにした。これにより、互いの凹部33を目印にして固定側電極4Aと可動側電極4Bの向きを容易に合わせることができるので、組立作業の効率が向上する。
【0058】
電極4は、Bi、Te、Sbの1種又は2種以上が添加されるようにした。本実施形態では、銀ろうを用いず摩擦圧接によって通電棒3と電極4を接合させているので、接合箇所にBi、Te、Sbが添加されていても影響を受けない。よって、銀ろうを用いる場合のように、添加する箇所に気を遣う必要がないため、真空バルブ1のろう付け作業の効率が向上する。
【0059】
(変形例)
変形例に係る真空バルブ1について図面を参照しつつ説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成及び同一の機能については、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。図6は、変形例に係る真空バルブ1の電極4A、4B及び通電棒3A、3Bの断面図である。図6に示すように、変形例に係る真空バルブ1は、通電棒3の内部に収容体9が設けられている。
【0060】
具体的には、通電棒3の膨出部31は、摩擦圧接される端部から形成された円柱状の凹部8を有する。また、膨出部31は、凹部8の内部に設けられた円柱状の収容体9を有する。補強部9の外径は、凹部8の外径よりも若干小さい。若干小さいとは、収容体9を凹部8に挿入した時に、収容体9が膨出部31と接触しない程度に小さければよい。
【0061】
収容体9としては、磁性体や補強材などを挙げることができる。収容体9が磁性体の場合には、磁界を強化させる。また、収容体9が補強材の場合には、電路の開閉による衝撃で電極4が変形することを防止する。よって、補強材としては、電極4より剛性が大きいものが好ましい。本変形例では、収容体9として磁性体を用いている。また、本変形例では、通電棒3の膨出部31に凹部8を設けたが、電極4に凹部8を設け、凹部8の内部に収容体9を設けていてもよい。
【0062】
収容体9は、原子拡散層5と接合し、支持されている。収容体9の外周面は、膨出部31とは接していない。また、収容体9は、原子拡散層5と接合している反対側の端部は、膨出部31とは接していない。つまり、収容体9が接しているのは、原子拡散層5のみであり、収容体9と膨出部31の間には隙間がある。
【0063】
このように、変形例では、通電棒3の膨出部31に凹部8を有し、凹部8の内部に収容体9である磁性体を設けている。これにより、電極4に発生する磁界を強めることができる。
【0064】
また、収容体9は電気抵抗を有するので、収容体9に電流が流れると真空バルブ1の通電容量の損失につながる。しかし、収容体9と膨出部31の間には隙間がある。つまり、電極4と膨出部31は、収容体9を介して電気的に接続していない。よって、収容体9に流れる電流を抑制することができるので、真空バルブ1の通電容量の損失を抑制することができる。
【0065】
なお、収容体9と膨出部31との間には、隙間を有していたが、摩擦圧接によって溶けた金属により隙間の一部分又は全体を埋め込んで、収容体9と膨出部31を接合させてもよい。例えば、収容体9としてステンレス鋼を用いる場合、この収容体9は、電極4が開閉する際に生じる衝撃による変形を抑制する役割を担う。そのため、より強固に補強するためには、収容体9と膨出部31の間に隙間がない方がよい。隙間のない構成であっても、収容体9をステンレス鋼のように電極4よりも電気抵抗が高いものを用いることで、収容体9に電流が流れることを抑制することができる。
【0066】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0067】
本変形例では、収容体9は原子拡散層5と接合されていたが、膨出部31と接合させてもよい。収容体9と膨出部31とを接合させる場合には、電極4と通電棒3を摩擦圧接する前に、収容体9と膨出部31を摩擦圧接によって接合させてもよい。また、収容体9は、原子拡散層5及び膨出部31の何れにも接合せず、凹部8内を自由に動けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 真空バルブ
2 真空容器
21 絶縁筒
22 封着金具
3 通電棒
3A 固定側通電棒
3B 可動側通電棒
31 膨出部
32 露出部
33 凹部
34 平坦面
4 電極
4A 固定側電極
4B 可動側電極
41 平坦面
42 平坦面
5 原子拡散層
6 アークシールド
7 ベローズ
8 凹部
9 収容体
B バリ
X 円筒軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6