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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】柿葉抽出物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/105 20160101AFI20220808BHJP
   A61K 36/44 20060101ALI20220808BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220808BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220808BHJP
   A61K 31/7048 20060101ALI20220808BHJP
   A61K 31/4965 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/44
A61P3/10
A61P43/00 111
A61K31/7048
A61K31/4965
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018124624
(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公開番号】P2020000156
(43)【公開日】2020-01-09
【審査請求日】2021-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 佳代
(72)【発明者】
【氏名】曽野 陽子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 京
(72)【発明者】
【氏名】草刈 剛
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/033898(WO,A1)
【文献】特開2014-198684(JP,A)
【文献】Muhammad Kashif et al.,An overview of dermatological and cosmeceutical benefits of Diospyros kaki and its phytoconstituents,Revista Brasileira de Farmacognosia,27,2017年,pp.650-662,http://dx.doi.org/10.1016/j.bjp.2017.06.004
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L、A61K、A61P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリホリン及びアストラガリンを含有し、
グルコース含有量が0.5質量%以下であって
トリホリン及びアストラガリンの含有質量比が、1:0.2~3である、
柿葉抽出分画組成物。
【請求項2】
さらにヒペロシド及び/又はイソケルシトリンを含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
さらにヒペロシド及びイソケルシトリンを含有し、ヒペロシド及びイソケルシトリンの含有質量比が1:1~3である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
柿葉抽出分画乾燥組成物である、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
(+)-カテキン換算のポリフェノール類化合物含有割合が、30質量%以上である、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
血中糖濃度低減用である、請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の組成物を用いた食品、医薬部外品、又は医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柿葉抽出物及びその製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
高カロリーの食事や飲料の摂取、日常的な運動量の低下や筋力低下に伴う基礎代謝量の低下などの要因により、生命活動に必要とされる以上の過剰なエネルギーを摂取する生活を送る人が増えるに伴い、中高年層だけでなく若年層においても糖尿病を発症する、又はインスリン抵抗性を示す人が増えている。また、脂肪細胞の老化がインスリン抵抗性を引き起こすことも知られており、基礎代謝量や運動量が低下する高齢者においても糖尿病発症のリスクが高い。
【0003】
このように、日常生活の変化や高齢化社会への移行に伴い、糖尿病患者が年々爆発的に増加する傾向にあり、糖尿病予備軍である血糖代謝の異常を有する人も糖尿病患者の数倍以上存在すると考えられている。実際、国民健康・栄養調査や糖尿病実態調査でも同様な傾向が明らかにされており、わが国の糖尿病患者の増加は深刻といえる。この状況において、糖尿病は根本的な治癒ができない疾病であることから、「糖尿病患者においては病態を悪化させない」、また、「インスリン抵抗性を示す人に対しては糖尿病を発症させない」ための取組みが重要となっている。
【0004】
このような取組みとして、「血糖値を正常範囲で推移させ、糖尿病の発症予防や治療を行う方法」がある。具体的には、食事療法、運動療法、及び薬物療法が存在しており、対象者の事情や状態にあわせて、これらの療法を単独又は組合せた方法が実際に行われている。しかしながら、摂取カロリーを制限する食事療法、及び一定時間以上実行することが必要な運動療法は、継続的に実行できない場合が多く、特に老齢者においては、基礎代謝量が大幅に低下しているだけでなく、運動能力の大幅な低下に伴い運動量が大幅に減少していることから、上記の療法だけで対処することが難しい場合が増加している。一方、薬物療法も医療費増大防止の観点から満足できる対処方法とはいえず、また、糖尿病の発症予防としては採用しにくい方法である。
【0005】
そこで、血糖の代謝に大きな影響を与えている骨格筋における糖代謝に着目し、従来処置される治療法や予防法と併用又は単独で、糖尿病発症予防効果や糖尿病病態改善効果を飛躍的に増強させる手段の開発が試みられている。
【0006】
血糖値を低下させる生理機能の一つとして、「血管(血液)から骨格筋へ血中の糖を取り込んで代謝する機能」が存在する。当該機能の機序の一つとして、「骨格筋の収縮が細胞内のAMPキナーゼのリン酸化(活性化)を促進し、結果的に細胞質内のグルコーストランスポーター4が細胞膜中に移動することにより骨格筋の細胞内に血中の糖が取り込まれる」作用が知られている。さらに、この骨格筋の細胞内への糖の取り込みは、骨格筋の収縮を必須の要素とするものではなく、AMPキナーゼが活性化することで生じることが判っている。したがって、運動により骨格筋を収縮させることができない状況においても、運動した場合と同様に血中の糖を骨格筋に取り込ませる機能の発現を実現できる可能性がある。近年、この点に着目した「AMPキナーゼを活性化させる物質を経口摂取することで、血中の糖濃度を低減させる試み」が幾つか提案されている(特許文献1及び2)。また、特許文献3においては、特定溶媒の柿葉抽出物を特定カラムで分画したときのカラム吸着画分がAMPキナーゼを活性化させ得ることが示唆されているが、具体的な有効成分は特定されておらず、また含有される糖(例えばグルコース)の量についても教示されてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-37323号公報
【文献】特開2011-37732号公報
【文献】国際公開第2015/033898号
【文献】特開2014-198684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、血中糖濃度低減が期待できる優れたAMPキナーゼ活性化効果を奏する柿葉抽出分画組成物を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特定のポリフェノール配糖体を含有し、且つ特定の糖を除去した、柿葉抽出分画組成物が、特に優れたAMPキナーゼ活性化効果を奏する可能性を見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
トリホリン及びアストラガリンを含有し、
グルコース含有量が0.5質量%以下である、
柿葉抽出分画組成物。
項2.
トリホリン及びアストラガリンの含有質量比が、1:0.2~3である、項1に記載の組成物。
項3.
さらにヒペロシド及び/又はイソケルシトリンを含有する、項1又は2に記載の組成物。
項4.
さらにヒペロシド及びイソケルシトリンを含有し、ヒペロシド及びイソケルシトリンの含有質量比が1:1~3である、項3に記載の組成物。
項5.
柿葉抽出分画乾燥組成物である、項1~4のいずれかに記載の組成物。
項6.
(+)-カテキン換算のポリフェノール類化合物含有割合が、30質量%以上である、項5に記載の組成物。
項7.
血中糖濃度低減用である、項1~6のいずれかに記載の組成物。
項8.
項1~7のいずれかに記載の組成物を用いた食品、医薬部外品、又は医薬品。
【発明の効果】
【0011】
優れたAMPキナーゼ活性化効果を奏する(ひいては血中等濃度低減効果を奏する)柿葉抽出分画組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】柿葉抽出分画乾燥組成物及び柿葉抽出非分画乾燥組成物により、骨格筋細胞への糖取込促進効果を調べた結果を示す。
図2】柿葉抽出分画乾燥組成物をHPLCで解析(検出波長350nm)して得られたクロマトグラムを示す。
図3a】柿葉抽出分画乾燥組成物を更にHPLCで分画して得た各フラクションによる、AMPキナーゼの活性度合いを示す。
図3b】柿葉抽出分画乾燥組成物を更にHPLCで分画して得た各フラクションによる、ACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化度合いを示す。
図4】トリホリン及びアストラガリンの組み合わせ量を変化させたときの、AMPキナーゼ及びACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)の総量とリン酸化されたものの量とを解析した、ウェスタンブロッティングの結果を示す。
図5a】トリホリン及びアストラガリンの組み合わせ量を変化させたときの、AMPキナーゼの活性度合いを示す。
図5b】トリホリン及びアストラガリンの組み合わせ量を変化させたときの、ACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化度合いを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。本発明は、柿葉抽出分画組成物、当該組成物の製造方法及び用途、当該組成物を用いた製品等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本発明は本明細書に開示される全てを包含する。
【0014】
本発明に包含される柿葉抽出分画組成物は柿葉の抽出物を分画して得られる組成物であり、トリホリン及びアストラガリンを含有し、トリホリン及びグルコースの含有質量比が1:0.1以下となるようグルコースを含有するか、あるいはグルコースを含有しない。なお、当該柿葉抽出分画組成物を「本発明の柿葉抽出分画組成物」ということがある。また、柿葉抽出分画組成物は、言い換えれば、例えば、柿葉由来組成物、柿葉含有成分濃縮組成物、又は柿葉含有成分含有組成物、などということもできる。
【0015】
前述の通り、本発明の柿葉抽出分画組成物は、トリホリン及びアストラガリンを含有する。これらはポリフェノール配糖体である。トリホリン(Trifolin)は、ケンフェロール-3-O-ガラクトシド(KGA)とも呼ばれる。また、アストラガリン(Astragalin)は、ケンフェロール-3-O-グルコシド(KGU)とも呼ばれる。
【0016】
【化1】
【0017】
本発明の柿葉抽出分画組成物に含まれるトリホリン及びアストラガリンの含有量については、例えば、トリホリン及びアストラガリンの含有質量比(トリホリン:アストラガリン)が、1:0.2~3であることが好ましい。当該比率範囲の上限若しくは下限は、例えば0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、又は2.9であってもよい。例えば、トリホリン及びアストラガリンの含有質量比は、1:0.3~2.5であることがより好ましく、1:0.5~2であることがさらに好ましく、1:1~2であることがよりさらに好ましい。
【0018】
本発明の柿葉抽出分画組成物のグルコース含有量は0.5質量%以下である。言い換えれば、本発明の柿葉抽出分画組成物には、グルコースが0.5質量%以下含まれるか、若しくはグルコースは含まれない。グルコース含有量は、0.45質量%以下、0.4質量%以下、0.35質量%以下、0.3質量%以下、0.25質量%以下、又は0.2質量%以下であってもよく、あるいは検出限界以下であってもよい。なお、当該グルコース含有量は、下記条件でのHPLC分析により求められる値である。
〔HPLC操作条件〕
検出器:RI
カラム:オクタデシルシリル基結合シリカゲル充填カラム(ODSカラム)(例:CAPCELL PAK NH2 UG80 S5)
移動相:アセトニトリル/水混液(80:20)
流 速:1.0 mL/min
【0019】
また、本発明の柿葉抽出分画組成物のフルクトース含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。言い換えれば、本発明の柿葉抽出分画組成物には、フルクトースが0.5質量%以下含まれるか、若しくはフルクトースは含まれないことが好ましい。フルクトース含有量は、0.45質量%以下、0.4質量%以下、0.35質量%以下、0.3質量%以下、0.25質量%以下、又は0.2質量%以下であってもよく、あるいは検出限界以下であってもよい。なお、当該フルクトース含有量は、上記のグルコース含有量と同様に、上記条件でのHPLC分析により求められる値である。
【0020】
また、本発明の柿葉抽出分画組成物のスクロース含有量は0.5質量%以下であることが好ましい。言い換えれば、本発明の柿葉抽出分画組成物には、スクロースが0.5質量%以下含まれるか、若しくはスクロースは含まれないことが好ましい。スクロース含有量は、0.45質量%以下、0.4質量%以下、0.35質量%以下、0.3質量%以下、0.25質量%以下、又は0.2質量%以下であってもよく、あるいは検出限界以下であってもよい。なお、当該スクロース含有量は、上記のグルコース含有量と同様に、上記条件でのHPLC分析により求められる値である。
【0021】
本発明の柿葉抽出分画組成物は、さらにヒペロシド及び/又はイソケルシトリンを含有することが好ましく、ヒペロシド及びイソケルシトリンを含有することがより好ましい。これらもポリフェノール配糖体である。ヒペロシド(hyperoside)は、ケルセチン-3-O-ガラクトシド(QGA)とも呼ばれる。また、イソケルシトリン(isoquercitin)は、ケルセチン-3-O-グルコシド(QGU)とも呼ばれる。
【0022】
【化2】
【0023】
本発明の柿葉抽出分画組成物がヒペロシド及びイソケルシトリンを含有する場合、例えば、ヒペロシド及びイソケルシトリンの含有質量比(ヒペロシド:イソケルシトリン)が、1:0.2~3であることが好ましい。当該比率範囲の上限若しくは下限は、例えば0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、又は2.9であってもよい。例えば、トリホリン及びアストラガリンの含有質量比は、1:0.3~2.8であることがより好ましく、1:0.5~2.5であることがさらに好ましく、1:1~2.3であることがよりさらに好ましい。
【0024】
本発明の柿葉抽出分画組成物は、例えば、柿葉を水、エタノール、又はこれらの混合液により抽出して、得た抽出液をさらにスチレン-ジビニルベンゼン共重合体系樹脂を吸着樹脂とするカラムを用いて分画することにより、調製することができる。
【0025】
抽出に供する柿葉は特に限定されず、例えば、カキノキ科カキノキ属の落葉樹の葉を用いることができる。柿葉は落葉前又は落葉後のいずれの葉も用いることができるが、落葉前の葉を用いることが好ましい。また、抽出に供する柿葉は、常法に従って乾燥等の前処理を施したものであってもよい。柿葉の前処理方法としては、例えば、樹木から採取した柿葉を水洗し、必要に応じて適当な大きさ(例えば3mm幅程度)に切断し、蒸籠で蒸した後に乾燥する方法や、樹木から採取した柿葉を水洗し、必要に応じて適当な大きさに切断した後に乾燥する方法などが挙げられる。
【0026】
柿葉の抽出に用いる液としては、例えば水、エタノール、又はこれらの混合液(以下、「エタノール-水混液」と記載することがある)を用いることができる。エタノールと水との混合割合は、例えばエタノール-水混液におけるエタノールの含有量は40~60%(wt/wt)程度が好ましく、45~55%(wt/wt)程度がより好ましい。抽出液としては、中でも水が好ましい。
【0027】
柿葉の抽出方法は公知の方法により行うことができる。このような方法としては、例えば、浸漬抽出などが挙げられる。抽出効率を高めるため、浸漬抽出以外に、ソックスレー抽出法や還流式抽出法などを使用することもできる。例えば、乾燥させた柿葉に、柿葉の約20倍量の抽出溶液(好ましくは水)を用いて、マントルヒーターを用いた沸騰還流条件下で1時間抽出する方法が好ましい。なお、得られた抽出液に対して、必要に応じて、ろ過などの精製処理を施してもよい。
【0028】
得られた柿葉抽出液を、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体系樹脂を吸着樹脂として用いて分画する。当該樹脂を充填したカラムを用いて分画することが好ましい。当該吸着樹脂の比表面積は、500~700m/g程度が好ましく、550~650m/g程度がより好ましい。また、当該吸着樹脂の最頻度半径は、100~300Å程度が好ましい。このような吸着樹脂としては、市販品を購入して用いることもでき、例えば、ダイヤイオンシリーズ(HP20、HP21:三菱化学株式会社)、セパビーズシリーズ(SP850、SP825L:三菱化学株式会社)等が好ましく挙げられる。
【0029】
当該吸着樹脂を用いた分画方法も、本発明の効果が損なわれない限り特に制限はされず、例えば、柿葉抽出に用いた液が水であればそのまま、水以外であれば水に置換するなどした後、前記吸着樹脂が充填されたカラムにアプライし、吸着後エタノール-水混液(例えば80(vol/vol)%エタノール-水混液が好ましい)で溶出して、溶出液を回収する方法が挙げられる。
【0030】
当該分画操作により、糖類が除去される(好ましくは単糖及び二糖が除去され、特にグルコースが除去される)とともに、溶出液中にポリフェノール類化合物(ポリフェノール及びポリフェノール配糖体も包含される)が濃縮される。当該溶出液には、特にトリホリン及びアストラガリンが多く含まれ、ヒペロシド及びイソケルシトリンも比較的多く含まれる。当該溶出液は、上記の本発明の柿葉抽出分画組成物の特徴を好ましく有する。よって、当該溶出液をそのまま本発明の柿葉抽出分画組成物として用いることもできる。また当該溶出液を減圧濃縮、減圧乾燥、凍結乾燥又はこれらの組み合わせなどの手法により濃縮又は乾燥させて、得られる濃縮物又は乾燥物を本発明の柿葉抽出分画組成物として用いることもできる。特に、当該溶出液を乾燥させて得られる乾燥物(柿葉抽出分画乾燥組成物)が好ましい。
【0031】
当該乾燥組成物においては、ポリフェノール類化合物の含有割合が30質量%以上であることが好ましく、35質量%以上又は40質量%以上であることがより好ましい。ポリフェノール類化合物の含有割合の上限は特に限定はされないが、例えば75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、又は60質量%以下が挙げられる。
【0032】
なお、当該ポリフェノール類化合物の含有割合は、フォーリン・チオカルト法(+)-カテキン換算により算出される値である。当該方法はフォーリン試薬(フェノール試薬)がフェノール性水酸基により還元されて呈色するのを利用する方法であり、標準品として(+)-カテキンを使用した際の換算値としてポリフェノール類化合物量が示される。
【0033】
また、当該乾燥組成物においては、水含有量が10質量%以下であることが好ましく、9、8、又は7質量%以下であることがより好ましい。なお、当該水含有量は乾燥減量法(1g、105℃、6時間)による測定値である。
【0034】
本発明の柿葉抽出分画組成物は、AMPキナーゼ活性化(すなわちリン酸化促進)効果、及びACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化促進効果を奏する。当該効果は、骨格筋細胞において得に好ましく奏される。これにより、糖代謝を改善する効果、特に血中糖濃度低減効果を奏し得る。本発明の柿葉抽出分画組成物は、これらの効果を得るために、好ましく用いることができる。
【0035】
また、本発明の柿葉抽出分画組成物を用いて、製品(例えば食品、医薬部外品、及び医薬品等)を調製することもできる。すなわち、本発明の柿葉抽出分画組成物をそのまま、あるいは他の成分と組み合わせて、食品、医薬部外品、及び医薬品等として、用いることができる。これらの摂取方法は本発明の効果が得られる限り特に制限されないが、例えば、経口摂取、経血管投与、皮膚投与等が挙げられ、特に経口投与が好ましい。すなわち、経口組成物であることが特に好ましい。
【0036】
このような本発明の柿葉抽出分画組成物を用いた製品としては、より具体的には、医薬品、医薬部外品のほか、糖尿病、高血糖、耐糖能異常、インスリン抵抗性、動脈硬化、肥満、体脂肪蓄積、脂質代謝異常、生活習慣病、脂肪肝等の予防・改善や糖代謝亢進、抗老化の生理機能をコンセプトとした機能性飲食品、疾病者用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、運動療法用食品、痩身用食品などを挙げることができる。
【0037】
本発明の柿葉抽出分画組成物を用いた製品の形態としては特に限定されないが、経口組成物として利用する場合には、例えば、ハードカプセル、ソフトカプセル、サプリメント、チュアブル錠、飲料、粉末飲料、顆粒、フィルムなどの形態とすることができる。また、例えば、茶系飲料、スポーツ飲料、美容飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料、ゼリー飲料、水や湯、炭酸水等で希釈する濃縮タイプの飲料等の飲料、水や湯等に溶解又は懸濁させて飲用する粉末や顆粒、タブレット等の乾燥固形物、タブレット菓子、ゼリー類、スナック類、焼き菓子、揚げ菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、グミなどの菓子類、スープ類、めん類、米飯類、シリアル等などの食品形態にすることもできる。このうち通常の生活において利用する場合には、サプリメントタイプ、チュアブル錠、ワンショットドリンクタイプなどの形態が好ましく、運動効果を高める目的で摂取する場合には、スポーツ飲料などの飲料の形態が最も好ましい。さらに、これらの経口組成物は容器に充填された容器詰食品として消費者に提供することができる。
【0038】
本発明の柿葉抽出分画組成物を用いた製品における本発明の柿葉抽出分画組成物の含有量は、本発明の効果が奏される範囲であれば特に制限されないが、例えば0.001~100質量%程度であってよい。また例えば、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤などの場合は、乾燥物換算で経口組成物全量に対して、本発明の柿葉抽出分画組成物を例えば0.01 ~95質量%程度、好ましくは5~90質量%程度、最も好ましくは10~80質量%程度配合すればよい。また例えば、上記以外の経口組成物の場合は、本発明の柿葉抽出分画組成物を例えば0.001~50質量%程度、好ましくは0.005~30質量%程度、最も好ましくは0.01~10質量%程度配合すればよい。
【0039】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本発明は、本明細書に説明した構成要件を任意の組み合わせを全て包含する。
【0040】
また、上述した本発明の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本発明に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本発明には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0041】
以下、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0042】
柿葉抽出分画組成物の製造
短冊形に切断した柿葉100kgに水2000Lを加え、90~95℃に加温した後に、固液分離し、抽出液(1)を得た。固液分離後の残渣に400Lの水を加え、残渣を洗浄し、固液分離して、抽出液(2)を得た。抽出液(1)及び(2)を合わせて濾過し、得られたろ過液を、100Lのスチレン-ジビニルベンゼン共重合体系の樹脂を含有する吸着剤(HP-20)を充填したカラムに通液した。400Lの水で洗った後、350Lの80(vol/vol)%エタノールを用いて、吸着物を溶出させた。溶出液を0.45mmのフィルターでろ過し、45~50℃で減圧濃縮して、濃縮液を得た。濃縮液を80℃で減圧乾燥し、柿葉抽出分画乾燥組成物(粉末)を得た。収率は3~4%程度であった。なお、抽出液(1)及び(2)をあわせて濾過して得た濾液についても、同様の方法で濃縮及び乾燥し、柿葉抽出非分画乾燥組成物(粉末)を得た
【0043】
<柿葉抽出分画乾燥組成物の水分含有量>
柿葉抽出分画乾燥組成物の水分含有量を乾燥減量法(1g、105℃、6時間)により測定したところ、7%以下であった。
【0044】
<柿葉抽出分画乾燥組成物のポリフェノール類化合物含有量>
柿葉抽出分画乾燥組成物のポリフェノール類化合物含有量((+)-カテキン換算)をフォーリン・チオカルト法により3回(n=3)測定したところ、46.7質量%、48.4質量%、及び45.7質量%であった。
【0045】
<柿葉抽出分画乾燥組成物の糖含有量>
柿葉抽出分画乾燥組成物の単糖及び二糖(グルコース、フルクトース、及びスクロース)含有量を、HPLCにより3回(n=3)測定した。HPLCの測定条件は次の通りとした。
【0046】
〔HPLC操作条件〕
検出器:RI
カラム:CAPCELL PAK NH2 UG80 S5
移動相:アセトニトリル/水混液(80:20)
流 速:1.0 mL/min
【0047】
結果を次に示す。
一回目:
グルコース0.11g/100g、フルクトース0.05g/100g以下、スクロース0.2g/100g以下
二回目:
グルコース0.13g/100g、フルクトース0.05g/100g以下、スクロース0.2g/100g以下
三回目:
グルコース0.08g/100g、フルクトース0.05g/100g以下、スクロース0.2g/100g以下
【0048】
骨格筋管細胞を用いた糖取込促進活性の測定
凍結保管されたC2C12マウス骨格筋芽細胞を融解し、96ウェルのクリアボトムのブラックマイクロタイタープレート(Falcon社製)に、細胞を5000cells/200μl/wellの濃度で播種し、高グルコースDMEM培地(5790)中で培養(CO濃度5%、37℃)し、分化した筋管細胞を得た。培地を低グルコースDMEM培地(6047)に交換し、スタベーションを行った後、柿葉抽出分画乾燥組成物又は柿葉抽出非分画乾燥組成物を100μg/ml、又は200μg/ml含む低グルコースDMEM培地に、培地を交換した。ネガティブコントロールには、何も添加していない低グルコースDMEM培地を用いた。60分間インキュベートした後、培地を取り除き、100μMの光標識非加水分解性糖アナログ、6-(N-(7-Nitrobenz-2-oxa-1,3-diazol-4-yl)amino)-6-Deoxyglucose(6-NBDG;invitrogen社製)を溶解した低グルコースDMEM培地に培地を交換し、30分間培養した。培養後に培地を捨て、PBSで2回洗浄した後、よく水を切ったマイクロプレートについて、蛍光プレートリーダーを用い444nm/538nm emissionで測定した。測定結果を図1に示す。
【0049】
以上の結果から、上記分画操作により、糖(特に単糖及び二糖)が除去されたこと、及び、有効成分が濃縮されたこと、により、柿葉抽出物の骨格筋細胞内への糖取り込み作用促進効果が高まったことが示唆された。また、有効成分はポリフェノール類ではないかと考えられた。
【0050】
柿葉抽出分画乾燥組成物における、骨格筋細胞内への糖取り込み作用促進のための有効成分の探索
柿葉抽出分画乾燥組成物300mgを1mlの水で溶解し、遠心分離後に上清を回収した。当該上清を分取HPLCで解析および分取。具体的には、当該上清100μlをカラムに供し、下記条件にてHPLCにより分取した。なお、検出波長350nmは、ポリフェノール類のうちフラボン類、フラボノール類を検出することができる波長である。当該HPLC解析は10回行った(n=10)。
〔HPLC条件〕カラム:Cadenza CD-C18(150 mm×10 mm I.D.、3 μm)
溶出:A液;0.1 %ギ酸を含む水、B液;0.1 %ギ酸を含むアセトニトリル
グラージェント:0 min(5 % B)→90 min(35 % B)
流速:4 mL/min
検出波長:350 nm
インジェクション量:100 μL
フラクションサイズ:4 mL/Tube
【0051】
以上の結果から、各ピークは次のポリフェノール配糖体を示すことがわかった。
ピークa:ヒペロシド(ケルセチン-3-O-ガラクトシド:QGA)
ピークb:イソケルシトリン(ケルセチン-3-O-グルコシド:QGU)
ピークc:トリホリン(ケンフェロール-3-O-ガラクトシド:KGA)
ピークd:アストラガリン(ケンフェロール-3-O-グルコシド:KGU)
【0052】
各ピークのピーク面積、及び各ピークに含有される各成分の含有量を解析した結果(n=3)を次の表1に示す。なお、各成分含有量は、成分ごとに0.2mg/mLのサンプルを調製し、さらにこれを順次2倍希釈して8濃度調製し、波長350nmのピーク面積を用いて検量線を作成して、ピークa~dの各面積を検量線に当てはめることで求めた。
【0053】
【表1】
【0054】
HPLCにより分取された各フラクションのうち、ピークa及びbを含むフラクション(フラクションab)、ピークcを含むフラクション(フラクションc)、及びピークdを含むフラクション(フラクションd)を用いて、これらのフラクションが、AMPキナーゼ(AMPK)のリン酸化、及びその下流シグナルであるACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化を促進する効果を有するかを検討した。AMPKは、自身がリン酸化されて活性化されることで、AS160の非活性化を介してGLUT4(glucose transporter 4)の形質膜移行を誘発し、細胞外(血中)のグルコース取り込みを促進する。また、AMPKのリン酸化は、その直接のリン酸化ターゲットであるACC(アセチルCoAカルボキシラーゼ)のリン酸化を促進するため、ACCのリン酸化はAMPK活性化度合を示す指標でもある。ACCのリン酸化はACCを不活性化し、これにより、アセチルCoAからマロニルCoAへの変換が阻害され、それに続く脂質代謝が制御されると考えられている。よって、AMPK及びACCのリン酸化が促進されるほど、糖取り込みおよび脂質酸化(異化)が活性化されるといえる。
【0055】
具体的には、次のようにして検討した。各フラクションは、柿葉抽出分画乾燥組成物相当量として最終濃度が10又は50μg/mlとなるように低グルコースDMEM培地に加えて溶解し、以下の実験に用いた。ネガティブコントロールとしては何も添加していない培地、ポジティブコントロールとしてAICAR(最終濃度2mM)を用いた。なお、AICARは、細胞に取り込まれると代謝されてAMPの疑似体になる物質で、骨格筋でAMPKをよく活性化させることが知られている。
【0056】
マウス骨格筋管細胞株(C2C12)を6穴細胞培養プレートに播種し、10%ウシ胎児血清および1%抗菌剤を添加したDMEM培地中で37℃、5%二酸化炭素存在下で3日間培養した。細胞がコンフルエントになった状態で2%ウマ血清を含むDMEM培地に交換し、さらに培養して筋管へ分化させた細胞を実験に用いた。細胞を3時間無血清培地にてスタベーション後、調製しておいた各フラクション含有培地に培地交換し、2時間処理した。PBS(-)で二度細胞を洗浄後、フォスファターゼ阻害剤およびプロテアーゼ阻害剤を添加した細胞溶解バッファーを80μL加え、セルスクレイパーで細胞溶解液を回収した。細胞溶解後、遠心分離にて上清を回収した。上清は測定に用いるまで-80℃で保存した。上清のタンパク質濃度を測定し、サンプル間のタンパク濃度を一定に調整した。上清のタンパク濃度を調整後、サンプルバッファ(サーモ)を加え、熱変性させたものをウェスタンブロッティングに用いた。
【0057】
SDS-PAGE後、PVDF膜に転写し、ブロッキング後、1次抗体としてウサギをホストした抗リン酸化AMPK抗体、抗総AMPKα抗体、抗リン酸化ACC抗体、又は抗総ACC抗体(すべてCST)を反応させた。よく洗浄後、HRPラベルされた抗ウサギ二次抗体を反応させた。よく洗浄後、CCDカメラ画像解析装置(GE)を用いてメンブレン上の化学発光(バンド)を検出し、image J(NIH)により定量した。活性の度合い(すなわち、「リン酸化AMPK/総AMPK(pAMPK/tAMPK)」又は「リン酸化ACC/総ACC(pACC/tACC)」)はネガティブコントロール群を1とした相対値で示した(図3a及び図3b)。
【0058】
当該結果から、ヒペロシド及びイソケルシトリンを含むフラクション(フラクションab)、トリホリンを含むフラクション(フラクションc)、並びにアストラガリンを含むフラクション(フラクションd)が、優れたAMPK活性化作用、及びACCリン酸化活性作用を有することが確認できた。
【0059】
トリホリン及びアストラガリンの組み合わせによる効果の検討
トリホリン及びアストラガリンを組み合わせて用いることにより、効果が増強されるかを検討した。具体的には、トリホリン及びアストラガリンの合計濃度が20μMとなるよう、これらを低グルコースDMEM培地に加えて溶解し、上記と同様にしてマウス骨格筋管細胞株(C2C12)に適用し、AMPK活性化の度合い、及びACCリン酸化の度合いを検討した。
【0060】
表2にトリホリン及びアストラガリンの組み合わせ量を示す。なお、トリホリン及びアストラガリンは分子量が同じなので、これらの濃度比は質量比と同値である。また、図4にウェスタンブロッティングの結果を示す。さらに、当該ウェスタンブロッティングの結果(バンド)を定量し、活性の度合いを解析した。解析結果を、ネガティブコントロール群を1とした相対値で図5a及び図5bに示した。
【0061】
【表2】
【0062】
当該結果から、トリホリン単独の活性化作用はそれほど強くない一方で、アストラガリンにトリホリンを組み合わせて用いることにより、アストラガリンの活性化作用を増強できることが分かった。特に、ACCリン酸化作用については、トリホリンとアストラガリンの組み合わせ質量比が1:0.2~3程度であると増強効果がより大きく、さらには当該組み合わせ質量比が1:1~2程度であると特に増強効果が優れることが強く示唆された。
【0063】
上記表1の通り、柿葉抽出分画乾燥組成物におけるトリホリン及びアストラガリンの含有質量比は約1:1.5であり、このため当該組成物の効果は非常に優れたものであるということがわかった。
図1
図2
図3a
図3b
図4
図5a
図5b