(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】印刷機
(51)【国際特許分類】
B41F 27/12 20060101AFI20220808BHJP
B41F 21/00 20060101ALI20220808BHJP
B41F 7/02 20060101ALI20220808BHJP
B41F 7/06 20060101ALI20220808BHJP
B41F 7/20 20060101ALI20220808BHJP
B41F 31/02 20060101ALI20220808BHJP
B41F 31/03 20060101ALI20220808BHJP
B41F 13/00 20060101ALI20220808BHJP
B65H 5/08 20060101ALI20220808BHJP
B25J 9/06 20060101ALI20220808BHJP
B25J 11/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
B41F27/12 C
B41F21/00
B41F7/02 414
B41F7/06
B41F7/20
B41F31/02 Z
B41F31/03
B41F13/00 514
B65H5/08 Z
B25J9/06 B
B25J11/00 Z
(21)【出願番号】P 2018134075
(22)【出願日】2018-07-17
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】714000460
【氏名又は名称】リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆志
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-020310(JP,A)
【文献】特開平06-008402(JP,A)
【文献】特開2013-039712(JP,A)
【文献】特開平03-184849(JP,A)
【文献】国際公開第2016/014917(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 27/12
B41F 21/00
B41F 7/02
B41F 7/06
B41F 7/20
B41F 31/02
B41F 31/03
B41F 13/00
B65H 5/08
B25J 9/06
B25J 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷物に印刷を行う印刷部と、該印刷部に被印刷物を供給する給紙部と、前記印刷部で印刷された印刷物を排紙する排紙部と、を備え、前記印刷部
は、被印刷物の送り方向に複数の印刷ユニットを備えており、前記印刷ユニットの上端面に、該印刷
部での作業を行うための複数のツールのうちの一つを持つことができ、かつ、他のツールに持ち替え可能なロボットアームが設けられて
おり、さらに、該印刷ユニットの上端面の左右幅方向一端部に前記複数のツールを支持するための支持部材が設けられていることを特徴とする印刷機。
【請求項2】
前記複数のツールのうちの一つが版交換用ツールであり、前記ロボットアームが該版交換用ツールと残る他のツールとを持ち替え可能に構成されていることを特徴とする請求項1記載の印刷機。
【請求項3】
前記他のツールは、インキを前記印刷部に供給する作業及びインキを除去する作業並びにインキを練ったり混ぜ合わせたりする作業のうちの少なくとも1つのインキ作業を行うためのインキ作業用ツールを含んでいることを特徴とする請求項2に記載の印刷機。
【請求項4】
前記版交換用ツールを持った一台のロボットアームが、被印刷物の送り方向で隣り合う2つ以上の印刷ユニットの版交換作業を行うことを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の印刷機。
【請求項5】
前記インキ作業用ツールを持った一台のロボットアームが、被印刷物の送り方向で隣り合う2つ以上の印刷ユニットのインキ作業を行うことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の印刷機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる印刷機は、被印刷物に印刷を行う印刷部と、該印刷部に被印刷物を供給する給紙部と、前記印刷部で印刷された印刷物を排紙する排紙部と、を備えている。前記印刷機を操作するオペレータは、排紙部から排紙された印刷物を1枚抜き出して基準となる印刷物(色見本)と目視で比較することにより、見当やインキ濃度等の印刷状態を確認し、例えばインキツボキーの開き量を制御することで、インキ量を補正している(例えば、特許文献1)。
【0003】
前記印刷部では、インキツボに収容されるインキを表面に付着しつつ駆動回転されるインキ元ローラによって、インキ送りローラにインキが供給される。このインキ送りローラから多数のインキローラ群を介して版胴にインキが供給される。版胴に供給されたインキがゴム胴(ブランケット胴)に転写され、ゴム胴のインキが圧胴とゴム胴との間を通過する被印刷物に転写されることによって、被印刷物が印刷画像を備えた印刷物となる。
【0004】
ところで、前記のようにオペレータが目視により確認する印刷物の印刷状態が、印刷部に備えるインキ元ローラからインキ送りローラに供給するインキの成分や粘度の変化に左右されることがある。そのため、オペレータは、印刷部に定期的に移動してインキツボ内にあるインキをヘラ等により混ぜ合わせる作業を行うことが必要になる。
【0005】
また、印刷中に給紙部において給紙する被印刷物が詰まった場合には、オペレータが給紙部に移動して被印刷物の詰まりを解消する作業を行うことが必要になる。また、印刷された印刷物の見当やインキ濃度等の印刷状態を確認するために、排紙部に備えるストック部まで移動して該ストック部に積層された印刷物の1枚を抜き出す作業も必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、オペレータが排紙部で印刷物の印刷状態の確認をしている時に、オペレータが印刷部に移動してインキを混ぜ合わせる作業をする又は給紙部で発生した被印刷物の詰まり解消作業を行うと、印刷物の印刷状態の確認ができない。又、オペレータが排紙部で印刷物の印刷状態の確認をするために印刷物を排紙部のストック部まで移動して抜き出す作業を行うと、印刷状態の確認を直ちに行うことができない。その結果、印刷物の印刷状態が不良である場合に、印刷を直ちに停止することができず、損紙が増えてしまうという不都合があり、早期改善が要望されている。
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、給紙部及び印刷部並びに排紙部のうちの少なくとも一つでの作業の自動化を図ることによって、オペレータが排紙部での作業に集中することができる印刷機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る印刷機は、被印刷物に印刷を行う印刷部と、該印刷部に被印刷物を供給する給紙部と、前記印刷部で印刷された印刷物を排紙する排紙部と、を備え、前記印刷部及び前記給紙部並びに前記排紙部のうちの少なくとも一つに、該印刷部又は該給紙部又は該排紙部での作業を行うための複数のツールのうちの一つを持つことができ、かつ、他のツールに持ち替え可能なロボットアームが設けられていることを特徴としている。
【0010】
上記のように、印刷部及び給紙部並びに排紙部のうちの少なくとも一つに設けられたロボットアームが、複数のツールを持ち替えて複数の作業を行うことによって、オペレータが排紙部での作業に集中することができる。
【0011】
また、本発明に係る印刷機は、前記印刷部に前記ロボットアームが設けられ、前記複数のツールのうちの一つが版交換用ツールであり、前記ロボットアームが該版交換用ツールと残る他のツールとを持ち替え可能に構成されていてもよい。
【0012】
オペレータが特に忘れがちになる版交換作業を、版交換用ツールに持ち替えたロボットアームによって行える。また、ロボットアームが他のツールに持ち替えることによって、他の作業を行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る印刷機は、前記他のツールは、インキを前記印刷部に供給する作業及びインキを除去する作業並びにインキを練ったり混ぜ合わせたりする作業のうちの少なくとも1つのインキ作業を行うためのインキ作業用ツールを含んでいてもよい。
【0014】
ロボットアームがインキ作業用ツールに持ち替えることによって、印刷部のインキツボに対してインキを供給する作業及びインキを除去する作業並びにインキを練ったり混ぜ合わせたりする作業のうちの少なくとも1つのインキ作業を行うことができる。
【0015】
また、本発明に係る印刷機は、前記印刷部が被印刷物の送り方向に複数の印刷ユニットを備え、前記版交換用ツールを持った一台のロボットアームが、被印刷物の送り方向で隣り合う2つ以上の印刷ユニットの版交換作業を行うようにしてもよい。
【0016】
上記のように、版交換用ツールを持った一台のロボットアームが、被印刷物の送り方向で隣り合う2つ以上の印刷ユニットの版交換作業を行うことによって、ロボットアームの台数を減らすことができる。
【0017】
また、本発明に係る印刷機は、前記印刷部が被印刷物の送り方向に複数の印刷ユニットを備え、前記インキ作業用ツールを持った一台のロボットアームが、被印刷物の送り方向で隣り合う2つ以上の印刷ユニットのインキ作業を行うようにしてもよい。
【0018】
上記のように、インキ作業用ツールを持った一台のロボットアームが、被印刷物の送り方向で隣り合う2つ以上の印刷ユニットのインキ作業を行うことによって、ロボットアームの台数を減らすことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、印刷部及び給紙部並びに排紙部のうちの少なくとも一つに、ロボットアームを設けて、印刷部及び給紙部並びに排紙部のうちの少なくとも一つでの作業の自動化を図ることによって、オペレータが排紙部での作業に集中することができる印刷機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図3】印刷部の第1印刷ユニットにロボットアームが排出された版を掴んで所定位置まで移動させようとしている状態を示す斜視図である。
【
図4】印刷部の第2印刷ユニットにロボットアームが把持した新しい版を挿入する前の状態を示す斜視図である。
【
図5】印刷部の第3印刷ユニットのインキツボ内のインキをロボットアームで混ぜ合わせている状態を示す斜視図である。
【
図6】印刷部の第3印刷ユニットのインキツボ内のインキをロボットアームで練る前の状態を示す斜視図である。
【
図7】ロボットアームが把持する3つのツールが吊り下げられている状態を示す縦断正面図である。
【
図8】給紙部とロボットアームとの関係の一例を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示す構成で、ロボットアームが紙尻一括ハケコロガイドの一端を持ち上げた状態を示す斜視図である。
【
図10】給紙部とロボットアームとの関係の他の例を示す斜視図である。
【
図11】
図10に示す構成で、ロボットアームが紙尻一括ハケコロガイドの全体を持ち上げた状態を示す斜視図である。
【
図12】給紙部とロボットアームとの関係の更に他の例を示し、フィーダーボードにおける枚葉紙をロボットアームが取り除こうとしている状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の印刷機を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1に、印刷機(枚葉オフセット印刷機ともいう)1を示している。この印刷機1は、後述する被印刷物保持部である紙積み台2から一枚ずつ被印刷物としての枚葉紙を送り出すための給紙部4と、この給紙部4からの枚葉紙に印刷を行うための印刷部5と、印刷部5で印刷された枚葉紙Pを排紙するための排紙部6と、を備えている。なお、排紙部6の下流側に、印刷物の印刷状態をチェックするための色見台7が設けられているが、無くてもよい。
【0023】
給紙部4は、前記紙積み台2と、フィーダーボード3と、を備えている。したがって、図示していないサクションヘッドにより紙積み台2に積載された最上段の枚葉紙から1枚ずつ前方へ所定量送り出し、送り出された多数の枚葉紙が枚葉紙搬送方向で一部がずれ重なった状態でフィーダーボード3により搬送される。
【0024】
印刷部5は、4色の印刷が行えるように4台の印刷ユニット、つまり第1印刷ユニット51、第2印刷ユニット52、第3印刷ユニット53、第4印刷ユニット54を枚葉紙搬送方向上流側から下流側に等間隔を置いて備えている。ここでは、4色としているが、4色以外の色、つまり1色又は2色又は3色、あるいは5色以上の印刷が行える印刷部であってもよい。又、印刷機を構成する各部の具体的な構成は、
図1に示されるものに限定されるものではない。又、被印刷物としては、いろんなサイズの枚葉紙を用いることができる。又、紙以外のフィルムで構成される被印刷物であってもよい。又、印刷された印刷物としては、ポスター、カレンダー、チラシ、カタログ、郵送用のダイレクトメール等が挙げられる。
【0025】
4つの印刷ユニット51~54のそれぞれは、インキの色が異なるだけで、機械的な構成が同一構成であるため、1つの印刷ユニット51について説明する。この印刷ユニット51は、
図1に示すように、版胴8にインキを供給する多数のインキローラからなるインキローラ群10と、刷版を備える版胴8と、版胴8からのインキが転写されるゴム胴9と、ゴム胴9とで枚葉紙を圧接してゴム胴9上のインキを枚葉紙に転写する圧胴11と、圧胴11に給紙部4からの枚葉紙を受け渡すための渡し胴12と、を備えている。更に、印刷ユニット51は、前記インキローラ群10にインキを供給するインキ送りローラ13と、該インキ送りローラ13にインキツボ15に収容されるインキを供給するインキ元ローラ14と、を備えている。図示していないが、圧胴11及び渡し胴12のそれぞれには、送り出される枚葉紙を爪台と爪とで把持するグリッパを、円周方向の2箇所(1箇所又は3箇所以上でもよい)に備えている。また、各印刷ユニット51…には、版胴8に巻回されている刷版(画像が形成された版)を自動的に取り外して印刷ユニット51…の裏面から斜め上方へ突出するように排出し、かつ、印刷ユニット51…の裏面にセットされた刷版を自動的に版胴8に引き込んで巻き付ける版交換装置(図示せず)を備えている。
【0026】
排紙部6は、
図1に示すように、従来から用いられている構造であり、チェーン式のグリッパ(図示せず)を備えた構造である。渡し用スプロケット16と、その下流側に配置した端部スプロケット17とにチェーン式のグリッパが巻き掛けられて、排紙部6の終端に至るまでに、チェーン式のグリッパにおけるグリップを解除することで、印刷された枚葉紙が落下して、図示していないストック部に積載される。
【0027】
図1及び
図2に示すように、第1印刷ユニット51乃至第4印刷ユニット54の上端面のそれぞれに、同一構成のロボットアーム18を設置している。各ロボットアーム18は、印刷ユニット51…の左右幅方向に移動可能に設けられている。各ロボットアーム18は、
図3にも示すように、多関節型のロボットアームからなり、下部に図示しない駆動部を備えて走行可能な略長方形状の走行部18Aと、走行部18Aに固定される固定部18Bと、固定部18Bの先端部に縦軸回りで回動自在なベース部18Cと、このベース部18Cの先端部に横軸回りで上下に揺動自在な第1アーム18Dと、第1アーム18Dの先端部に横軸回りで上下に揺動自在な第2アーム18Eと、第2アーム18Eの先端部に横軸回りで揺動自在でかつ後述する各種のツール20又は21又は22を装着可能な外形が円形状の装着部18Fと、を備えている。図示していないが、ロボットアーム18が左右幅方向に移動する時に、ロボットアーム18の移動をガイドするガイド部材を設けてスムーズな移動ができるようにしてもよい。このロボットアーム18は、印刷機の製造当初から設けられていてもよいし、既存の印刷機を少し改造して設けられるようにしてもよい。
【0028】
装着部18Fは、後述するツール20,21,22に備える外形が円形状の取付部20A,21A,22Aと略同一の大きさに構成され、装着部18Fの先端を、
図2及び
図7に示す後述する支持部材19に吊り下げられている3種類のツール20又は21又は22の取付部20A又は21A又は22Aの上端に当接させ、装着部18Fに備えるロック機構(図示せず)をロック状態にすることにより、装着部18Fにツール20又は21又は22の取付部20A又は21A又は22Aを固定することができるように構成されている。装着部18Fにツール20又は21又は22の取付部20A又は21A又は22Aを固定すると、ツール20又は21又は22を印刷ユニットの左右幅方向外側へ移動させることにより、支持部材19の切欠き19Kからツール20又は21又は22を係止解除して作業を行うことになる。また、装着部18Fに装着されたツール20又は21又は22を取り外す場合には、支持部材19の切欠き19Kにツール20又は21又は22の取付部20A又は21A又は22Aから下方に延びる首部20B又は21B又は22Bを印刷ユニットの左右幅方向外側から挿入した状態で前記ロック機構をロック解除することにより、装着部18Fからツール20又は21又は22を取り外すことができる。このとき、ツール20又は21又は22の取付部20A又は21A又は22Aの下面が支持部材19の上面に当接してツール20又は21又は22が支持部材19の切欠き19Kに係止保持される。
【0029】
また、
図2に示すように、各印刷ユニット51の左右幅方向一端部に、ロボットアーム18に装着される各種(ここでは3種類)のツール20,21,22を吊り下げ支持するための支持部材19と、インキツボ15から掬って回収したインキを貯留しておくための貯留部としての空き缶23及びインキツボ15にインキを補給するインキが入ったインキ貯留容器としてのインキ缶24を載置する略長方形状で板状の載置部材25と、を備えている。
図2では、第3印刷ユニット53の左右幅方向一端部にのみ取り付けた支持部材19及び載置部材25を図示しているが、他の印刷ユニット51,52,54の左右幅方向一端部にも備えているが、
図2では省略している。なお、支持部材19及び載置部材25の取付位置は、ロボットアーム18が持つことができる位置であれば、印刷ユニット51…のどの位置でもよい。
【0030】
支持部材19は、
図2及び
図7に示すように、板状で枚葉紙搬送方向に長い部材からなり、その部材の長手方向3箇所に略等間隔おきに形成され、かつ、左右方向外側端から内側に向かって形成された略Uの字状の切欠き19Kを備えている。したがって、後述するツール20又は21又は22の取付部20A又は21A又は22Aの下方に延びる首部20B又は21B又は22Bを、切欠き19Kにそれの外側の開口側から挿入することで、首部20B又は21B又は22Bの下面が支持部材19の上面に当接して切欠き19Kに係止保持される。
【0031】
3つのツール20,21,22のうちの一つが版交換用ツール20であり、残りの二つがインキ作業用ツール21,22である。
【0032】
版交換用ツール20は、
図3に示すように、取付部20Aから下方に略同一幅で延びる首部20Bの先端に取り付けられ、刷版を挟持及び挟持解除するように互いに接近離間可能に構成された2枚の板部20C,20Cを備えている。各板部20Cは、首部20Bの先端から首部20Bから離れる側に斜め下方に広がるように延びる幅広部に構成されている。
【0033】
二つのインキ作業用ツール21,22のうちの一方の第1インキ作業用ツール21が、インキを印刷ユニット51に供給する作業及びインキ元ローラ14上のインキを除去する作業並びにインキツボ15内のインキを混ぜ合わせる作業のうちの少なくとも1つのインキ作業を行うためのツールであり、
図7に示すように、取付部21Aと、取付部21Aから下方に略同一幅で延びる首部21Bと、首部21Bの先端から首部21Bから離れる側(図では下方)に延びる略長方形状で板状のヘラ状部21Cと、を備えている。又、他方の第2インキ作業用ツール22が、インキツボ15内のインキを練る作業を行うものであり、
図7に示すように、取付部22Aと、取付部22Aから略同一幅で下方に延びる首部22Bと、首部22Bの先端から首部22Bから離れる側(図では下方)に延びる略円錐状部22Cと、を備えている。
【0034】
前述した3つのツール20,21,22のうちの例えば一つのツール20をロボットアーム18が持って(装着して)1つの作業を行い、他のツール21又は22に持ち替えて他の作業を行うことができるようになっている。つまり、印刷部5の印刷ユニット51…に設けられたロボットアーム18が、複数(ここでは3つであるが、2つあるいは4つ以上)のツール20,21,22を持ち替えて複数の作業、後述する版交換作業及びインキ作業を行うことによって、オペレータが排紙部6での作業に集中することができるようにしている。版交換作業は、オペレータが特に忘れがちになる作業であり、この点からも版交換作業を自動化することで印刷作業を迅速に行うことができる。なお、オペレータは、排紙部6で印刷された印刷物の印刷状態を、基準となる印刷物(色見本)との比較により目視又は測定器を用いて確認する。
【0035】
要するに、印刷部5においてロボットアーム18が、版交換作業及び各種のインキ作業を行うことによりそれら作業の自動化を図っている。具体的には、
図2及び
図3に示す最前方に位置する第1印刷ユニット51では、印刷ユニット51の開口51Aから排出された刷版26を版交換用ツール20で把持した状態を示している。刷版26を版交換用ツール20で把持した後は、ロボットアーム18は、予め決められた所定位置まで刷版26を移動させて把持を解除することになる。
【0036】
また、
図2及び
図4に示す前方から2番目に位置する第2印刷ユニット52では、所定位置に配置している新しい刷版27を版交換用ツール20で把持した状態を示し、把持した新しい刷版27を印刷ユニット52の開口52Aに差し込んで印刷ユニット52にセットすることになる。なお、新たな刷版27がセットされると、前述したように、新たな刷版27が版交換装置で版胴8に自動的に巻き付けられてセットされる。
【0037】
また、
図2及び
図5に示す前方から3番目の第3印刷ユニット53では、第1インキ作業用ツール21の先端をインキツボ15内のインキに接触した状態でロボットアーム18の走行部18Aを駆動してロボットアーム18を印刷ユニット53の左右幅方向に移動させることにより、インキツボ15の長手方向に第1インキ作業用ツール21を往復移動させることでインキツボ15内のインキを混ぜ合わせる作業を行う。なお、前記のように、ロボットアーム18を移動させることによりインキを混ぜ合わせる作業を行うのではなく、その位置に固定されたロボットアーム18のアームを可動させることによりインキを混ぜ合わせる作業を行うこともできる。
【0038】
また、印刷中に印刷ユニット53のインキが減ってしまい、インキの補給を行う指令が印刷機1の制御部(図示せず)からロボットアーム18に出力されると、インキ缶24(
図5参照)から第1インキ作業用ツール21でインキを掬って印刷ユニット53へ供給する。また、印刷作業が終了した後に、印刷ユニット51…のインキツボ15内の清掃を行う場合には、各ロボットアーム18は、第1インキ作業用ツール21でインキツボ15内のインキを掻き取って空き缶23に収容していくインキ除去作業を行う。これにより、清掃作業時間の短縮化を図ることができる。
【0039】
また、
図2及び
図6に示す前方から4番目の第4印刷ユニット54では、第2インキ作業用ツール22の略円錐状部22Cの側面をインキツボ15内のインキに押圧した状態で、ロボットアーム18の走行部18Aを駆動してロボットアーム18を印刷ユニット53の左右幅方向に移動させることにより、インキ元ローラ14の長手方向に略円錐状部22Cを転がしながら印刷ユニット53の左右幅方向に往復移動させることで、インキツボ15内のインキを練る作業を行う(
図6では作業前の状態である)。なお、第2インキ作業用ツール22でインキツボ15内のインキを練る、又は第1インキ作業用ツールでインキツボ15内のインキを混ぜ合わせることによって、印刷中にインキの成分や粘度が大きく変化することがないようにして、印刷された印刷物の印刷状態が変化することを防止している。インキ供給作業、インキ除去作業、インキを練ったり混ぜ合わせたりする作業を、インキ作業とする。なお、第1インキ作業用ツール21を斜めに傾けた状態でインキツボ15内のインキに押圧した状態で、ロボットアーム18の走行部18Aを駆動してロボットアーム18を印刷ユニット53の左右幅方向に移動させることにより、インキツボ15の長手方向に第1インキ作業用ツール21を移動させてインキを練ることもできる。これらインキ作業を行わせるかどうかは、印刷物の印刷状態に応じて適宜オペレータが決定することになる。ロボットアーム18は、版交換作業及び3つのインキ作業であるインキ供給作業、インキ除去作業、インキを練ったり混ぜ合わせたりする作業を行える他、印刷に係る他の作業を行わせてもよい。また、ロボットアーム18が行う作業の順番を全ての印刷ユニット51…で同一の順番に設定してもよいし、印刷ユニット51…毎に作業の順番を変更するように設定してもよい。
【0040】
また、給紙部4が、次のように構成されている。つまり、給紙部4は、枚葉紙Pの給紙状況を調整するための調整機構と、該調整機構を調整する前記ロボットアーム18と、を備える。調整機構は、
図8に示すように、フィーダーボード3上に設けられるガイド部としての紙尻一括ハケコロガイド28や、被印刷物を載置する被印刷物保持部(枚葉紙保持部)2に設けられる空気吸引・吐出機構(図示せず)が該当する。なお、調整機構は、これらの例に限定されず、従来、オペレータが操作することで調整されていた、給紙部4における機構全般が該当する。
【0041】
ロボットアーム18は、前記走行部18Aを備えていないだけで前記印刷ユニット51…に設けたロボットアーム18と同様に、多関節型に構成されたものであり、複数のアーム、つまり第1アーム18D、第2アーム18Eを備えたユニットである(2つのアームのみ符号を付しているが、他の部分は
図5と同様である)。ロボットアーム18の基部は給紙部4に固定されており、基部よりも上方の部分は基部に対して回動可能とされている。例えば印刷機1に設けられた制御部により、複数のアーム18D,18Eの全部または一部を折り曲げることで伸縮させ、複数のアーム18D,18Eの可動範囲内で、ロボットアーム18の先端を所望の位置に移動させることができる。ロボットアーム18の先端には、用途及び接続対象物に応じて、様々な接続部や、把持するためのロボットハンド、工具、治具、エアノズル、エア吸着パッド等を設けることができる。本実施形態では、ロボットアーム18が給紙部4の調整機構を調整する。このため、特に印刷中において給紙部4にオペレータが移動して作業を行う必要がなくなる。よって、更にオペレータが、排紙部6での作業に集中することができる。このロボットアーム18は、前述同様に、印刷機1の製造当初から設けられていてもよいし、既存の印刷機に改造によって設けられるようにしてもよい。
【0042】
給紙部4に備える前記フィーダーボード3の上端部には、枚葉紙Pの紙尻を上方から押圧する前記紙尻一括ハケコロガイド28を備えている。紙尻一括ハケコロガイド28は、
図8~
図9に示すように、紙尻に平行に延びる支持棒30と、支持棒30に所定間隔を置いて支持され、ブラシを有するローラである複数のハケコロ31とを備えており、回転する複数のハケコロ31が枚葉紙Pの紙尻の浮きを抑え、押し返されるのを防ぐことにより、高い精度で枚葉紙Pをフィーダーボード3から印刷部5に送ることができる。紙尻一括ハケコロガイド28は、フィーダーボード3における枚葉紙Pの載置面に対して移動可能とされており、ロック機構(図示しない)により、フィーダーボード3における位置を固定できる。
【0043】
紙尻一括ハケコロガイド28は、
図8または
図9に示すように、給紙部4の左右幅方向一端部を支点として回動するものであってもよいし、
図10または
図11に示すように、フィーダーボード3の上面に対し、全体が接近及び離間移動可能であってもよい。また、
図8または
図9に示す例では、オペレータがフィーダーボード3上における紙尻一括ハケコロガイド28の枚葉紙搬送方向における位置を調整するため、端部に回転可能なダイヤル32が設けられている。このダイヤル32も後述するようにロボットアーム18が操作する。なお、
図10または
図11に示す例のように、ロボットアーム18による紙尻一括ハケコロガイド28の移動態様によっては、ダイヤル32を設けないこともできる。
図8及び
図9では、ロボットアーム18の位置が給紙部4の左右幅方向一端部になっており、また、
図10及び
図11では、ロボットアーム18の位置が給紙部4の左右幅方向略中央になっているが、作業が行える位置であれば、どのような位置に配置してもよい。
【0044】
ロボットアーム18は、紙尻一括ハケコロガイド28を枚葉紙Pの大きさ(具体的にはフィーダーボード3上に配置された枚葉紙Pの天地方向の大きさ)に合わせて(天地方向に)移動させる。または、紙尻一括ハケコロガイド28を枚葉紙Pの厚さに合わせて厚さ方向、つまり、フィーダーボード3における枚葉紙Pの載置面に対して接近及び離反する方向に移動させる。これらの移動により、紙尻一括ハケコロガイド28を枚葉紙Pの紙尻の位置に合わせることができるとともに、ハケコロ31の枚葉紙Pに対する当たり具合を調整することができる。
【0045】
例えば、
図8に示す例では、ロボットアーム18の先端が紙尻一括ハケコロガイド28における支持棒30の一端に接続されている。ロボットアーム18が駆動することで、
図9に示す(元の位置を二点鎖線で示す)ように、紙尻一括ハケコロガイド28の一端側を上方に移動させることができる。また、ロボットアーム18が前記ダイヤル32を回転させることで、紙尻一括ハケコロガイド28を上流側または下流側(天地方向)に移動させることができる。よって、オペレータが給紙部4へ移動して作業する必要がない。
【0046】
また、
図10に示す例では、ロボットアーム18が紙尻一括ハケコロガイド28における支持棒30の中央部に接続されている。ロボットアーム18が駆動することで、
図11に示す(元の位置を二点鎖線で示す)ように、紙尻一括ハケコロガイド28の全体を上方に移動させることができる。これにより、ロボットアーム18は、紙尻一括ハケコロガイド28を上流側または下流側(天地方向)に移動させることもできる。
【0047】
このように、ロボットアーム18が紙尻一括ハケコロガイド28を移動させるため、オペレータによる紙尻一括ハケコロガイド28の位置調整の必要性が削減され、その分オペレータは排紙部6での作業に集中できる。
【0048】
また、ロボットアーム18は、紙尻一括ハケコロガイド28をフィーダーボード3上において、枚葉紙Pから外れる位置に移動させた上で、フィーダーボード3上に位置する少なくとも1枚の枚葉紙Pを該フィーダーボード3から取り除くことができる。
図12には、移動して枚葉紙Pにかからない位置に仮置きされた状態の紙尻一括ハケコロガイド28と、フィーダーボード3の最も上に位置する枚葉紙Pを、先端に吸着パッドを設けたロボットアーム18が取り除こうとしている状態が示されている。紙尻一括ハケコロガイド28の移動は、取り除く対象の枚葉紙Pに当接しないようにする移動であればよい。よって、上下方向(フィーダーボード3における枚葉紙Pの載置面に対して接近及び離反する方向)であってもよいし、前記載置面に対して平行な方向、またはこれらが組み合わされた方向であってもよい。
【0049】
このように、ロボットアーム18が紙尻一括ハケコロガイド28を移動させて枚葉紙Pをフィーダーボード3から取り除くことができるため、例えば給紙ジャムが発生した場合、皺等の不具合が生じた枚葉紙Pをロボットアーム18が取り除く。よって、給紙ジャムが発生した際の被印刷物の取り除き作業が自動的にできる。従って、オペレータによる給紙ジャムの解消作業が不要になり、オペレータは、より一層の排紙部6での作業に集中することができる。
【0050】
また、給紙部4に備える被印刷物保持部2を、フィーダーボード3よりも枚葉紙Pの搬送方向上流側に備えている。この被印刷物保持部2は、積層した状態の枚葉紙Pをフィーダーボード3に向けて1枚ずつ送り出すべく、空気を吸引することにより各々の枚葉紙Pを移動させたり、空気を吹き掛けて、あるいは吸引して各々の枚葉紙Pを送り出すための空気吸引・吐出機構(図示せず)を備える。この空気吸引・吐出機構は、空気の吸引・吐出状況を調整するため、例えばオペレータにより操作される操作部(図示せず)を備える。操作部としては、例えば直線方向に移動させるレバーや回転方向に移動させるダイヤル、ノブ、コックがある。
【0051】
ロボットアーム18が、被印刷物保持部2における操作部を操作するように構成しておけば、枚葉紙Pを送り出すためにオペレータが移動して作業を行う必要がなくなる。因みに、ロボットアーム18を操作部の操作専用に設けることができるが、ロボットアーム18を移動可能に構成して、操作部の操作とフィーダーボード3の紙尻一括ハケコロガイド28等の操作とを兼用することもできる。
【0052】
更に、図示していないが、前記ロボットアーム18を排紙部6に設けることもできる。排紙部6に設けられた場合のロボットアーム18は、例えば、排紙部6に積層された印刷後の枚葉紙Pを例えば1枚取り出す際に用いることができる。また、排紙部6に備えたチェーン式のグリッパ(図示せず)の構成部品を清掃するために用いることができる。この際、ロボットアーム18の先端には、刷毛やエアノズルを備えることができる。なお、前述の枚葉紙Pの取り出しと清掃は別個のロボットアームが担当してもよいし、1台のロボットアームが兼用してもよい。
【0053】
また、前記色見台7にロボットアームを設けることもできる。色見台7に設けられたロボットアームは、例えば、枚葉紙Pに印刷されている見当マーク(図示しない)を読み取るためのカメラやセンサを移動させるために用いることができる。
【0054】
このように、給紙部4に加え、更に排紙部6や色見台7にロボットアーム18を設けることにより、より一層の省力化(省人化)を図ることができ、オペレータは、印刷された枚葉紙の見当やインキ濃度等の印刷状態を迅速に確認することができる。
【0055】
尚、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0056】
前記実施形態では、給紙部4、印刷部5、排紙部6の3箇所全てにおいて作業を行うことができるロボットアームを配置したが、給紙部4及び印刷部5の少なくとも一方にのみロボットアームを配置してもよいし、排紙部6を除く給紙部4及び印刷部5にのみロボットアームを配置してもよい。また、排紙部6にのみロボットアームを配置して実施することもできる。
【0057】
また、前記実施形態では、3つのツール20,21,22を用いたが、2つのツールを用いてもよいし、4つ以上のツールを用いてもよい。
【0058】
また、前記実施形態では、印刷部5を構成する4つの印刷ユニット51,52,53,54のそれぞれにロボットアーム18を配置したが、印刷部5が被印刷物の送り方向(枚葉紙搬送方向)に複数のユニットを備えている場合において、版交換用ツール20を持った一台のロボットアーム18が、被印刷物の送り方向(枚葉紙搬送方向)で隣り合う2つ以上の印刷ユニットの版交換作業を行うように構成することによって、ロボットアームの台数を減らすようにしてもよい。この場合、隣り合う2つ以上の印刷ユニットのうちの一方の印刷ユニットの左右幅方向一端部と他方の印刷ユニットの左右幅方向同一側となる一端部とをロボットアーム18が移動できる通路を形成する部材で連結して実施する、又は隣り合う2つ以上の印刷ユニットのうちの一方の印刷ユニットに備えたロボットアーム18が他方の印刷ユニットの作業を行えるように、隣り合う2つ以上の印刷ユニット同士間の距離を設定して実施してもよい。
【0059】
また、前記実施形態では、印刷部5を構成する4つの印刷ユニット51,52,53,54のそれぞれにロボットアーム18を配置したが、印刷部5が被印刷物の送り方向(枚葉紙搬送方向)に複数のユニットを備えている場合において、インキ作業用ツール21又は22を持った一台のロボットアーム18が、被印刷物の送り方向(枚葉紙搬送方向)で隣り合う2つ以上の印刷ユニットのインキ作業を行うように構成することによって、ロボットアームの台数を減らすようにしてもよい。この場合、隣り合う2つ以上の印刷ユニットのうちの一方の印刷ユニットの左右幅方向一端部と他方の印刷ユニットの左右幅方向同一側となる一端部とをロボットアーム18が移動できる通路を形成する部材で連結して実施する、又は隣り合う2つ以上の印刷ユニットのうちの一方の印刷ユニットに備えたロボットアーム18が他方の印刷ユニットの作業を行えるように、隣り合う2つ以上の印刷ユニット同士間の距離を設定して実施してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…印刷機、2…紙積み台(被印刷物保持部)、3…フィーダーボード、4…給紙部、5…印刷部、6…排紙部、7…色見台、8…版胴、9…ゴム胴、10…インキローラ群、11…圧胴、12…渡し胴、13…インキ送りローラ、14…インキ元ローラ、15…インキツボ、16…渡し用スプロケット、17…端部スプロケット、18…ロボットアーム、18A…走行部、18B…固定部、18C…ベース部、18D…第1アーム、18E…第2アーム、18F…装着部、19…支持部材、19K…切欠き、20…版交換用ツール、21…第1インキ作業用ツール、22…第2インキ作業用ツール、20A,21A,22A…取付部、20B,21B,22B…首部、20C…板部、21C…ヘラ状部、22C…略円錐状部、23…空き缶、24…インキ缶、25…載置部材、26,27…刷版、28…紙尻一括ハケコロガイド、30…支持棒、31…ハケコロ、32…ダイヤル、51,52,53,54…印刷ユニット、51A,52A…開口、P…枚葉紙(被印刷物)