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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】斜板、軸状部材付き斜板および油圧装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/22 20060101AFI20220808BHJP
   F03C 1/253 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
F04B1/22
F03C1/253
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018158682
(22)【出願日】2018-08-27
(65)【公開番号】P2020033888
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】赤見 俊也
(72)【発明者】
【氏名】山口 祥
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-023547(JP,A)
【文献】特開2017-115749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03C 1/00-99/00
F04B 1/00- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンと、
前記ピストンに対向して配置された斜板と、
前記斜板に設けられた溝部に保持された軸状部材と、
前記斜板を支持する斜板支持部と、
前記軸状部材を押すことによって前記斜板の傾きを調節する調節部材と、を備え、
前記溝部は、前記軸状部材を保持する中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有し、
前記溝部は、両端において開口している、油圧装置。
【請求項2】
斜板と、前記斜板を支持する斜板支持部と、前記斜板に形成された溝部に保持された軸状部材と、前記軸状部材を押すことによって前記斜板の傾きを調整する調整部材と、を備えた油圧装置であって、
前記溝部の両端部の幅は前記溝部の中央部の幅より狭く
前記溝部は、両端において開口している、油圧装置。
【請求項3】
中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する溝部を設けられ、ピストンに対向して配置された斜板と、
前記溝部の前記中央部に保持された軸状部材と、
前記斜板を支持する斜板支持部と、
前記軸状部材を押すことによって前記斜板の傾きを調節する調節部材と、を備え
前記溝部は、両端において開口している、油圧装置。
【請求項4】
前記溝部は、両端部において、曲面状の側壁を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の油圧装置。
【請求項5】
前記軸状部材は、前記軸状部材の両端部において曲面状の側面を有する、請求項4に記載の油圧装置。
【請求項6】
ピストンに対向して配置された斜板と、
前記斜板に設けられた溝部に保持されて前記斜板の傾きを調節するために調節部材によって押される軸状部材と、を備え、
前記溝部は、前記軸状部材を保持する中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有し、
前記溝部は、両端において開口している、油圧装置用の軸状部材付き斜板。
【請求項7】
中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する溝部を設けられ、ピストンに対向して配置された斜板と、
前記溝部の前記中央部に保持されて前記斜板の傾きを調節する調節部材に押される軸状部材と、を備え
前記溝部は、両端において開口している、油圧装置用の軸状部材付き斜板。
【請求項8】
ピストンに対向して配置される斜板であって、
前記斜板の傾きを調節するために調節部材によって押される軸状部材を保持する中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する溝部を備え
前記溝部は、両端において開口している、油圧装置用の斜板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜板、軸状部材付き斜板および油圧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、斜板を用いた油圧装置が知られている。特許文献1に開示された油圧装置において、斜板は、ピストンに対向して配置され、ピストンの動作範囲を規制する。この油圧装置では、斜板を傾転させることで、すなわち斜板の傾きを変化させることで、ピストンを収容するシリンダ室の容量を変化させることができ、油圧装置からの出力を制御することができる。
【0003】
特許文献1に開示された例において、斜板は、制御ピストンに押されることで傾きを変化させることができる。特許文献1の図2に示すように、斜板は、凹部を形成され、この凹部によってピンを保持している。制御ピストンは、このピンに接触することで、斜板を押して斜板を傾転させる。ピンを斜板よりも硬質の材料で形成することで、油圧装置のコスト上昇を抑制しながら油圧装置の耐久性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-242825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ピンのような軸状部材を使用する場合には、軸状部材の脱落防止を図る必要がある。特許文献1にも開示されているように、軸状部材は、通常、その軸方向に直交する方向への移動を、制御ピストン及び斜板によって規制されている。したがって、軸状部材の脱落防止を図るには、さらに、軸状部材の軸方向への移動を規制する必要がある。
【0006】
軸状部材の軸方向への移動は、斜板が軸状部材の軸方向外方から軸状部材を保持することによって、或いは、止め輪やボルト等の締結具を用いて軸状部材を斜板に固定することによって、防止し得ることが予想される。しかしながら、斜板が軸状部材を軸方向外方からも保持可能とした場合、斜板が大型化してしまう。また、締結具を用いることはコスト上昇の原因となり、さらに、締結具の脱落といった新たな問題を生じさせ得る。
【0007】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであって、斜板を有した油圧装置において、斜板の大型化を抑制しながら軸状部材の脱落防止を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による第1の油圧装置は、
ピストンと、
前記ピストンに対向して配置された斜板と、
前記斜板に設けられた溝部に保持された軸状部材と、
前記斜板を支持する斜板支持部と、
前記軸状部材を押すことによって前記斜板の傾きを調節する調節部材と、を備え、
前記溝部は、前記軸状部材を保持する中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する。
【0009】
本発明による第2の油圧装置は、
斜板と、前記斜板を支持する斜板支持部と、前記斜板に形成された溝部に保持された軸状部材と、前記軸状部材を押すことによって前記斜板の傾きを調整する調整部材と、を備えた油圧装置であって、
前記溝部の両端部の幅は前記溝部の中央部の幅より狭くなっている。
【0010】
本発明による第3の油圧装置は、
中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する溝部を設けられ、ピストンに対向して配置された斜板と、
前記溝部の前記中央部に保持された軸状部材と、
前記斜板を支持する斜板支持部と、
前記軸状部材を押すことによって前記斜板の傾きを調節する調節部材と、を備える。
【0011】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記溝部は、前記溝部の両端で開口していてもよい。
【0012】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記溝部の幅は、前記溝部の両端部において前記中央部よりも狭くなっていてもよい。
【0013】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記溝部は、前記幅狭部において、曲面状の側壁を含むようにしてもよい。
【0014】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記軸状部材は、前記溝部の両端部において曲面状の側面を有するようにしてもよい。
【0015】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記幅狭部は、前記溝部の両端部であるようにしてもよい。
【0016】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記斜板は、前記溝部の前記幅狭部に設けられて前記溝部内に突出した突出部を有するようにしてもよい。
【0017】
本発明による第1~第3の油圧装置において、前記突出部は、前記曲面状の側壁を形成するようにしてもよい。
【0018】
本発明による第1~第3の油圧装置において、
前記突出部は、前記溝部の深さ方向に配列された第1部分及び第2部分を有し、
前記溝部の底壁に接続した前記第1部分の幅方向への突出長さは、前記第2部分の前記幅方向への突出長さよりも、長くなっていてもよい。
【0019】
本発明による第1~第3の油圧装置において、
前記斜板は、前記溝部の両端部にそれぞれ設けられて前記溝部内に突出した第1突出部及び第2突出部と、前記第1突出部および前記第2突出部の間に設けられて前記溝部内に突出した第3突出部と、を有し、
前記第3突出部は、前記溝部の底壁に接続して前記溝部の長手方向に延びていてもよい。
【0020】
本発明による第1~第3の油圧装置において、
前記溝部は、幅方向に対向する第1側壁及び第2側壁を含み、
前記突出部は、前記第1側壁及び前記第2側壁の両方に設けられていてもよいし、或いは、前記第1側壁及び前記第2側壁のいずれか一方のみに設けられていてもよい。
【0021】
本発明による第1の油圧装置用の軸状部材付き斜板は、
ピストンに対向して配置された斜板と、
前記斜板に設けられた溝部に保持されて前記斜板の傾きを調節するために調節部材によって押される軸状部材と、を備え、
前記溝部は、前記軸状部材を保持する中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する。
【0022】
本発明による第2の油圧装置用の軸状部材付き斜板は、
中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する溝部を設けられ、ピストンに対向して配置された斜板と、
前記溝部の前記中央部に保持されて前記斜板の傾きを調節する調節部材に押される軸状部材と、を備える。
【0023】
本発明による油圧装置用の斜板は、
ピストンに対向して配置される斜板であって、
前記斜板の傾きを調節するために調節部材によって押される軸状部材を保持する中央部と、前記中央部の両側に位置し前記中央部よりも幅狭となった幅狭部と、を有する溝部を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、斜板を有した油圧装置において、斜板の大型化を抑制しながら軸状部材の脱落を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、本発明による一実施の形態を説明するための図であって、油圧装置の一例を示す縦断面図である。
図2図2は、図1の油圧装置に組み込まれ得る斜板及び軸状部材の一例を示す斜視図である。
図3図3は、図2の斜板の溝部を示す斜視図である。
図4図4は、図3の斜板の溝部をこの溝部に嵌め込まれた軸状部材とともに示す平面図である。
図5図5は、図4のV-V線に沿った断面図である。
図6図6は、図3の溝部の作製方法を説明するための図であって、斜板を示す平面図である。
図7図7は、図3の溝部の作製方法を説明するための図であって、図6の状態を切削具の移動方向(送り方向)後方から示した図である。
図8図8は、図3の溝部の作製方法を説明するための図であって、図6の工程の後に実施される工程を図6と同様の観察方向から示す図である。
図9図9は、図3の溝部の作製方法を説明するための図であって、図8のIX-IX線に沿った断面図である。
図10図10は、図3に対応する図であって、溝部の他の例を説明するための図である。
図11図11は、図4に対応する図であって、図10の斜板の溝部及び軸状部材を示す平面図である。
図12図12は、図5に対応する図であって、図11のXII-XII線に沿った断面図である。
図13図13は、図4に対応する図であって、溝部の更に他の例を説明するための図である。
図14図14は、図2に対応する図であって、軸状部材の一変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。なお、各図面に示される要素には、理解を容易にするために、サイズ及び縮尺等が実際のそれらと異なって示されている要素が含まれうる。
【0027】
以下で説明する油圧装置10は、いわゆる可変容量型の斜板を用いたピストンポンプ・モータであり、ポンプ及びモータの両アクチュエータとして活用可能である。油圧装置10を油圧ポンプとして活用する場合、油圧装置10は、後述のシリンダ室21へ作動油を吸引し、シリンダ室21から作動油を吐出する。一方、油圧装置10を油圧モータとして活用する場合、油圧装置10は、後述の回転軸部材18の回転を出力する。より具体的には、下述の実施形態に係る油圧装置10をポンプとして活用する場合、エンジン等の動力源からの動力によって回転軸部材18を回転させることにより、回転軸部材18とスプライン結合等によって結合されたシリンダブロック20を回転させて、当該シリンダブロック20の回転によりピストン25を往復動作させる。このピストン25の往復動作に応じて、一部のシリンダ室21からは作動油が吐き出されるとともに他のシリンダ室21には作動油が吸い込まれ、油圧ポンプが実現される。一方、油圧装置10をモータとして活用する場合、動力源からの動力によって作動油をシリンダ室21に流入させるとともに他のシリンダ室21から作動油を吐き出させることにより、ピストンを往復動作させながら斜板上で摺動回転させる。このピストン25の回転とともにシリンダブロック20及び回転軸部材18も回転するため、当該回転軸部材18の回転を利用することで油圧モータを実現することができる。この油圧装置10は、典型的には建設機械が備える油圧回路や駆動装置として使用可能であるが、他の用途に適用されてもよく、その用途は特に限定されない。
【0028】
斜板を用いた型式として図示された油圧装置10は、主たる構成要素として、ケース15、回転軸部材18、シリンダブロック20、ピストン25、弁板30、傾転調節機構35及び斜板50を有している。以下、各構成要素について説明していく。
【0029】
図1に示すように、ケース15は、第1ケースブロック15aと、第1ケースブロック15aに固定された第2ケースブロック15bとを有している。第1ケースブロック15a及び第2ケースブロック15bは、ボルト等の締結具を用いて互いにに固定されている。ケース15は、その内部に収容空間Sを形成している。収容空間S内に、シリンダブロック20、ピストン25、弁板30、傾転調節機構35及び斜板50が配置されている。
【0030】
図示された例では、第1ケースブロック15aの内側に、弁板30が固定されている。第1ケースブロック15aには、弁板30を介してシリンダブロック20のシリンダ室21に連通するようになる第1流路11及び第2流路12が形成されている。図面では、説明の便宜上、第1流路11及び第2流路12はラインによって表されているが、実際には、シリンダブロック20のシリンダ室21への作動油の供給及び排出に応じた適切な内径を有している。第1流路11及び第2流路12は、ケース15内からケース15外へとケース15を貫通して設けられている。第1流路11及び第2流路12は、油圧装置10の外部に設けられたアクチュエータや油圧源に通じている。
【0031】
回転軸部材18は、軸受19を介して、ケース15に回転可能に保持されている。回転軸部材18は、その中心軸線を回転軸線RAとして回転することができる。回転軸部材18の一端は、軸受19aを介して第1ケースブロック15aによって回転可能に支持されている。回転軸部材18の他端は、軸受19bを介して第2ケースブロック15bによって回転可能に支持され、第2ケースブロック15bに設けられた貫通孔を通過してケース15外へ延び出している。回転軸部材18がケース15を貫通する部分において、ケース15と回転軸部材18との間にはシール部材が設けられ、作動油のケース15外への流出を防止している。回転軸部材18のケース15から延び出した部分は、例えばモータやエンジン等の入力手段や、減速機等の外部の機器に接続される。
【0032】
シリンダブロック20は、回転軸線RAを中心として配置された円柱状または円筒状の形状を有している。シリンダブロック20は、回転軸部材18によって貫通されている。シリンダブロック20は、例えばスプライン結合により、回転軸部材18に対して連結されている。したがって、シリンダブロック20は、回転軸部材18と同期して、回転軸線RAを中心として回転することができる。
【0033】
シリンダブロック20には、複数のシリンダ室21が形成されている。複数のシリンダ室21は、回転軸線RAを中心とした周方向に沿って等間隔で配列されている。各シリンダ室21は、回転軸線RAと平行な方向に延び、斜板50の側に開口している。また、各シリンダ室21に対応して接続ポート22が形成されている。接続ポート22は、シリンダ室21を回転軸線RAと平行な方向における弁板30の側に開放している。
【0034】
各シリンダ室21に対応して、ピストン25が設けられている。各ピストン25の一部分が、シリンダ室21内に配置されている。各ピストン25は、対応するシリンダ室21から斜板50に向けて回転軸線RAと平行な方向に延び出している。ピストン25は、シリンダブロック20に対して回転軸線RAと平行な方向に移動することができる。すなわち、ピストン25は、回転軸線RAと平行な方向における斜板50の側に前進して、シリンダ室21の容積を拡大することができる。また、ピストン25は、回転軸線RAと平行な方向における弁板30の側に後退して、シリンダ室21の容積を縮小することができる。
【0035】
斜板50は、ケース15によって支持されている。斜板50は、回転軸線RAと平行な方向に、シリンダブロック20及びピストン25と対向して配置されている。回転軸部材18は、斜板50の中央貫通孔51を貫通している。斜板50は、シリンダブロック20及びピストン25に対向する位置に主面52を有している。主面52が回転軸線RAに垂直な面に対して傾斜するようにして、溝部55はケース15内に保持されている。斜板50を保持するための構成については後述する。
【0036】
斜板50の主面52上に、シュー26が設けられている。シュー26は、ピストン25の頭部を保持している。具体的な構成として、ピストン25の一側端となる頭部は球状に形成されている。シュー26は、球状の頭部の略半分を収容可能な穴を有している。ピストン25の頭部を保持したシュー26は、斜板50の主面52上を摺動可能となっている。
【0037】
油圧装置10は、ケース15内に配置されたリテーナプレート27をさらに有している。リテーナプレート27は、リング状かつプレート状の部材である。リテーナプレート27は、回転軸部材18によって貫通され、回転軸部材18上に支持されている。回転軸部材18のリテーナプレート27を支持する支持部分18aは、曲面状に形成されている。このため、リテーナプレート27は、回転軸部材18上に支持された状態で、向きを変えることができる。図1に示すように、プレート状のリテーナプレート27は、斜板50の主面52に沿うように傾斜して、シュー26に接触している。
【0038】
また、回転軸部材18とリテーナプレート27との間には、スプリング等からなるピストン付勢部材28が設けられている。ピストン付勢部材28によって、リテーナプレート27は、回転軸線RAと平行な方向における斜板50の側に付勢される。この結果、リテーナプレート27は、シュー26及びピストン25を斜板50の主面52に向けて押圧することができる。また、ピストン付勢部材28によって、回転軸部材18は、シリンダブロック20とともに、回転軸線RAと平行な方向における弁板30の側に付勢される。この結果、シリンダブロック20は、弁板30に向けて押圧されるようになる。
【0039】
上述したように、第1ケースブロック15aには、弁板30が固定されている。すなわち、弁板30は、シリンダブロック20が回転軸部材18とともに回転している間、静止している。弁板30には、図示しない二以上のポートが形成されている。各ポートは、第1流路11又は第2流路12と通じている。ポートは、例えば、回転軸線RAを中心とする円弧に沿って形成され、シリンダブロック20の回転にともなって、各シリンダ室21に対応した接続ポート22と対面するようになる。この結果、シリンダブロック20の回転状態に応じて、各シリンダ室21が、第1流路11及び第2流路12との接続を切り換えられるようになる。
【0040】
ここで、油圧装置10の動作について説明する。油圧装置10が油圧ポンプとして機能する場合、図示しないモータやエンジン等の入力手段からの回転駆動力により、回転軸部材18が回転軸線RAを中心として回転する。このとき、シリンダブロック20の回転にともなって、ピストン25が、シリンダブロック20から突出するように前進し、また、シリンダブロック20内に後退する。ピストン25の進退動作により、シリンダ室21の容積が変化する。
【0041】
ピストン25が、シリンダ室21から最も延び出した位置(上死点)から、シリンダ室21内に最も入り込んだ位置(下死点)まで、後退する間、このピストン25を収容したシリンダ室21の容量は減少する。この間の少なくとも一部の期間、後退中のピストン25を収容したシリンダ室21は、弁板30の図示しないポートを介して例えば第1流路11に接続し、シリンダ室21から作動油を吐出する。第1流路11は、高圧側の流路として、外部のアクチュエータ等に接続している。
【0042】
一方、ピストン25が、下死点から上死点まで前進する間、このピストン25を収容したシリンダ室21の容量は増大する。この間の少なくとも一部の期間、前進中のピストン25を収容したシリンダ室21は、弁板30の図示しないポートを介して例えば第2流路12に接続し、シリンダ室21内に作動油を吸引する。第2流路12は、低圧側の流路として、作動油を貯蔵するタンク等に接続している。
【0043】
油圧装置10が油圧モータとして機能する場合、図示しない外部のポンプから、例えば第1流路11および弁板30を介して、油圧装置10のシリンダ室21内に作動油が供給される。作動油が供給されるシリンダ室21内のピストン25は、シリンダブロック20から延び出すように前進することができる。このため、弁板30の図示しないポートは、下死点から上死点へ進む経路中に位置するシリンダ室21を、高圧側となる第1流路11に接続する。これにより、外部ポンプからの作動油供給により、シリンダブロック20を回転させることができ、回転軸部材18を介して回転力を出力することができる。
【0044】
弁板30の図示しないポートは、上死点から下死点へ進む経路中に位置するシリンダ室21を、低圧側となる第2流路12に接続する。したがって、ピストン25が上死点から下死点へ後退する間、当該ピストン25を収容するシリンダ室21内の作動油を、第2流路12へ排出することができる。油圧装置10から排出された作動油は、第2流路12と接続したタンク等に回収される。
【0045】
以上の油圧装置10において、斜板50の主面52は、ピストン25のシリンダブロック20からの突出を規制するようになる。したがって、回転軸線RAに垂直な面に対する斜板50の主面52の傾斜の程度によって、回転軸線RAと平行な方向に沿ったピストン25の往復動のストローク量が定まる。そして、回転軸線RAに垂直な面に対する斜板50の主面52の傾斜の程度を変更することで、すなわち、斜板50を傾転させることで、油圧装置10の出力を変化させることができる。具体的には、回転軸線RAへの垂直面に対する斜板50の主面52の傾きが大きくなると、油圧装置10の出力が増大し、回転軸線RAへの垂直面に対する斜板50の主面52の傾きが小さくなると、油圧装置10の出力が減少する。斜板50の主面52が回転軸線RAに垂直になると、理論的には、油圧装置10から出力が得られなくなる。
【0046】
このため、図示された油圧装置10において、斜板50は傾転可能の保持されている。以下、斜板50をケース15内に傾転可能に保持するための構成について説明する。
【0047】
図1に示すように、油圧装置10は、主面52の傾きを変更可能となるように斜板50を支持する斜板支持部13、すなわち、斜板50を傾転可能に支持する斜板支持部13を有している。斜板支持部13は、受容凹部14を形成された受け台として構成されている。受容凹部14は、円柱の一部分(例えば、半円柱)に相当する形状を有している。油圧装置10は、図1の紙面の奥行き方向に離間して配置された二つの斜板支持部13を有している。回転軸部材18は、二つの斜板支持部13の間を通過している。図示された例において、斜板支持部13は、ケース15の一部、とりわけ第2ケースブロック15bの一部分として形成されている。ただし、この例に限られず、斜板支持部13は、ケース15と別体として形成され、固定具等を介してケース15に固定されるようにしてもよい。
【0048】
一方、斜板50は、斜板支持部13の受容凹部14に受容される膨出部53を有している。膨出部53は、受容凹部14と相補的な形状を有している。すなわち、図2に示すように、膨出部53は、円柱の一部分(例えば、半円柱)に相当する形状を有している。斜板50は、図1の紙面の奥行き方向に離間して配置された二つの膨出部53を有している。回転軸部材18は、二つの膨出部53の間を通過している。
【0049】
この例において、斜板支持部13の受容凹部14は、円弧に沿った受面14aを有している。一方、斜板50の膨出部53は、円弧に沿った摺動面53aを有している。膨出部53が受容凹部14内に配置された場合、膨出部53の摺動面53aは、受容凹部14の受面14aに接触、とりわけ面接触する。膨出部53が受容凹部14内で斜板支持部13に対して摺動することで、膨出部53は、受面14a及び摺動面53aが規定する円弧の中心を傾転軸線IAとして、斜板支持部13に対して回動する。特に限定される訳ではないが、この傾転動作の中心軸線IAは、斜板50の主面52上に位置するようにしてもよい。このような構成により、主面52の傾きが変更可能となるように、斜板50が斜板支持部13によって支持されている。
【0050】
また、油圧装置10は、図1に示すように、斜板50の主面52の傾きを制御するための傾転調節機構(傾き調節機構)35を更に有している。図示された例において、傾転調節機構35は、斜板付勢部材36及び調節部材37を含んでいる。以下、傾転調節機構35及び傾転調節機構35に関連する斜板50の構成について説明する。
【0051】
図2に示された斜板50は、中央部50a、第1受力部50b及び第2受力部50cを有している。中央部50aは、第1受力部50b及び第2受力部50cの間に配置されている。中央部50aには、上述した中央貫通孔51、主面52及び膨出部53が設けられている。第1受力部50b及び第2受力部50cは、中央部50aからそれぞれ逆側に延び出した部位である。
【0052】
傾転調節機構35の斜板付勢部材36及び調節部材37は、斜板50を逆向きに傾転させるように押している。斜板50は、斜板付勢部材36によって押される力と調節部材37から押される力のバランスさせることで、一定の傾転位置に保持されるようになる。図示された例において、斜板付勢部材36は、斜板50の第1受力部50bに接触して、図1における反時計回り方向に傾転させるよう斜板50を押圧する。調節部材37は、斜板50の第2受力部50cに接触して、図1における時計回り方向に傾転させるよう斜板50を押圧する。
【0053】
斜板付勢部材36は、ケース15の第1ケースブロック15aに支持されている。斜板付勢部材36は、例えば圧縮ばね等によって構成されている。したがって、斜板付勢部材36は、その変形力に応じた弾発力にて斜板50を押圧する。
【0054】
一方、調節部材37は、調節アクチュエータ38として構成されており、制御ピストン39を有している。制御ピストン39は、回転軸部材18の回転軸線RAと平行な方向に沿って、斜板50に接近すること(前進)及び斜板50から離間すること(後退)が可能となっている。制御ピストン39は、斜板50の第2受力部50cを押圧するようになる。制御ピストン39は、例えば油圧によって駆動される。そして、制御ピストン39が第2受力部50cを押圧する力は、調節可能となっている。したがって、制御ピストン39が、より大きな力で斜板50の第2受力部50cを押圧することで、図1に示された状態から斜板50を起立させて、回転軸線RAへの垂直面に対する主面52の傾斜角度を小さくすることができる。また、制御ピストン39が、より小さな力で斜板50の第2受力部50cを押圧することで、図1に示された状態から斜板50を更に傾斜させて、回転軸線RAへの垂直面に対する主面52の傾斜角度を大きくすることができる。さらに、制御ピストン39によって第2受力部50cを押圧する力を、斜板付勢部材36によって第1受力部50bを押圧する力とバランスさせることで、斜板50を所定の傾転姿勢に保持することが可能となる。
【0055】
ところで、図1に示すように、調節部材37の制御ピストン39は、斜板50に直接接触していない。制御ピストン39のピストンヘッド39aは、軸状部材40に接触し、軸状部材40を介して斜板50を押圧している。軸状部材40は、斜板50によって保持された部材である。制御ピストン39に接触して調節部材37によって押圧される部位は、摩耗や焼き付きの少ない高硬度の部品とする必要がある。斜板50よりも高硬度の軸状部材40を用いることによって、斜板50全体を高硬度とすることを回避することができる。そして、高強度の軸状部材40を用いることで、斜板50全体を焼き入れることや斜板50全体を高硬度材料から形成すること比較して、油圧装置10の製造コストを著しく安価にすることができる。例えば、斜板50を鋳物として作製し、且つ、形状が簡素となる軸状部材40を焼き入れ部品とすることで、斜板50全体を焼き入れ部品とすることと比較して、大幅な製造コスト削減を図ることができる。
【0056】
ただし、その一方で、斜板50とは別体の軸状部材40を用いた場合、当然、油圧装置10の使用中における軸状部材40の脱落を回避する必要がある。すなわち、軸状部材40は、斜板50によって安定して保持されている必要がある。そして、本実施の形態では、斜板の大型化を抑制しながら軸状部材40の脱落防止を図るための工夫がなされている。以下、この工夫について詳述する。
【0057】
図2に示すように、斜板50は溝部55を有している。軸状部材40は、この溝部55内に配置され、溝部55内に保持されている。軸状部材40は、軸方向daを有した柱状の部材、または、柱体を面取りした形状として形成され得る。軸状部材40の軸方向daは、軸状部材40がなす柱体の高さ方向に沿っている。
【0058】
図示された例において、軸状部材40は、円柱を基礎とした形状を有している。図2に示すように、円柱状の形状または円柱を面取りした形状を有する軸状部材40を、その軸方向daが斜板50の傾転軸線IAと平行となるように斜板50で保持した場合、斜板50の傾転時に制御ピストン39のピストンヘッド39aが軸状部材40上を円滑に滑ることができる。これにより、斜板50の傾転動作を安定させることができる。
【0059】
また、図示された例において、軸状部材40は、軸方向daにける両端部を面取りされている。すなわち、軸方向daに直交する方向からの観察において、軸状部材40は、その軸方向daにおける両端部において、曲面状の側面41を有するようになる。
【0060】
図示された例において、軸状部材40を収容する斜板50の溝部55は、上述したように、第2受力部50cに設けられている。図2に示すように、溝部55は、斜板50の傾転軸線IAと平行な方向に延びている。したがって、溝長手方向d1は、調節部材37の制御ピストン39によって押される方向と直交している。また、図示された例では、傾転軸線IAと平行な溝部55の長手方向d1における両端において、溝部55は、開口している。すなわち、溝部55は、斜板50を傾転軸線IAと平行な方向に貫通するように延びている。この結果、溝部55は、その長手方向d1における両端に位置する一対の両端開口55aと、一対の両端開口55aの間に位置する上方開口55bと、を有している。また、溝部55は、溝長手方向d1に直交する幅方向d2に対向する第1側壁60A及び第2側壁60Bと、第1側壁60A及び第2側壁60Bの間を延びる底壁70と、を有している。そして、溝部55は、側壁60によって形成される側壁面65と底壁70によって形成される底壁面75とによって、画成されている。
【0061】
軸状部材40は、好ましくは、溝部55内に嵌め込まれて保持されている。具体的には、軸状部材40は、締まり嵌めによって斜板50に固定されていてもよい。図示された例において、軸状部材40は、その軸方向daに直交する断面において円形状を有している。図5に示すように、溝部55の深さDxは、軸状部材40の最大直径Dyの半分より大きく軸状部材40の最大直径Dyより小さくなっている。したがって、軸状部材40は、最大直径を有する部分において溝部55に締まり嵌めされており、斜板50によって軸状部材40を安定して保持することが可能となる。また、軸状部材40の一部分は溝部55の外へ露出しており、軸状部材40と制御ピストン39との安定した接触を確保することができる。このような作用効果をより効果的に確保する観点から、溝部55の深さDxは、軸状部材40の軸方向daに直交する最大直径Dyの55%以上75%以下となっていることが有効である。
【0062】
この例において、軸状部材40は、溝部55の長手方向d1における両外方から斜板50によって覆われていない。このような構成によれば、斜板50の第2受力部50cの溝長手方向d1に沿った寸法を小型化することができる。これにより、斜板50及び油圧装置10の大型化を効果的に抑制し、さらには、斜板50及び油圧装置10の小型化を図ることができる。
【0063】
また、この例において、軸状部材40は、一対の側壁60及び底壁70と、制御ピストン39のピストンヘッド39aと、によって、その軸方向daと非平行な方向への斜板50に対する移動を効果的に規制される。しかしながら、油圧装置10の動作状況や使用環境、油圧装置10を構成する各要素の製造誤差や組立誤差等に応じて、軸状部材40を斜板50に対して溝長手方向d1に移動させる力が働くこともある。そして、軸状部材40が溝部55内を溝長手方向d1に移動した場合、軸状部材40が斜板50から脱落する可能性もある。
【0064】
なお、軸状部材40の溝部55内での溝長手方向d1への移動は、止め輪やボルト等の締結具を用いることで或る程度規制することが可能になると予想される。しかしながら、締結具を用いて軸状部材40を溝部55内に固定することは、作業の煩雑さや製造コストの上昇から好ましくなく、さらに、締結具自体が斜板50から脱落して油圧装置10の健全な動作を阻害する可能性すらある。
【0065】
この点について、本実施の形態の油圧装置10では、溝部55が、軸状部材40を保持する中央部55cと、中央部55cの両側に位置し中央部55cよりも幅狭となった幅狭部55dと、を有している。すなわち、溝長手方向d1に沿った中央部55cの両側に、幅狭部55dが設けられている。幅狭部55dにおける溝幅方向d2に沿った溝部55の幅Wxは、中央部55cにおける溝幅方向d2に沿った溝部55の幅Wxよりも狭くなっている。さらに、幅狭部55dにおける溝幅方向d2に沿った幅Wxは、軸状部材40の軸状部材40の軸方向daに直交する最大直径Dyよりも狭くなっている。すなわち、溝部55は、その幅Wxが狭くなる幅狭部55dを有しており、幅狭部55dは、溝長手方向d1に沿って中央部55cの外側、すなわち溝長手方向d1に沿って溝長手方向d1の中心から離間する側に位置している。溝部55の幅狭部55dと軸状部材40との接触または干渉により、軸状部材40が斜板50に対して溝長手方向d1に相対移動することを効果的に規制することができる。これにより、軸状部材40の溝部55からの脱落を効果的に防止することができる。とりわけ、溝長手方向d1における両端部での溝幅Wxが、軸状部材40の軸方向daに直交する最大直径Dyよりも狭くなっていることで、軸状部材40の軸方向daへの溝部55からの脱落を効果的に防止することができる。
【0066】
図示された例において、溝長手方向d1における両端部において、溝幅方向d2に沿った溝部55の幅Wxが狭くなっている。つまり、幅狭部55dは、溝部55の両端部に位置している。とりわけ、溝長手方向d1における両端部での溝幅Wxが、軸状部材40の軸方向daに直交する最大直径Dyよりも狭くなっている。
【0067】
ここで、複数の具体例に基づいて溝部55についてさらに詳述する。まず、図3図5を主として参照しながら、溝部55の一例についてさらに詳述する。
【0068】
図3図5に示された例において、溝部55を画成する各側壁60は、溝幅方向d2に突出して幅狭部55dを形成する突出部62を有している。とりわけ図示された例において、突出部62は、溝長手方向d1における溝部55の両端部にそれぞれ位置する第1突出部62A及び第2突出部62Bを含んでいる。第1突出部62A及び第2突出部62Bは、溝部55の深さ方向d3に延びている。各突出部62は、溝部55の深さ方向d3に配列された第1部分63a及び第2部分63bを有している。このうち第1部分63aが、深さ方向d3における底壁70側に位置している。とりわけ図示された例において、第1部分63aは、底壁70に接続している。そして、図5に示すように、溝部55の底壁70に接続した第1部分63aの深さ方向d3への突出長さLx1は、第2部分63bの幅方向への突出長Lx2さよりも、長くなっている。
【0069】
また、図3図5に示された溝部55の一例において、溝部55は、溝長手方向d1における両端部において、曲面状の側壁(側壁曲面67)を含んでいる。上述した突出部62が、この曲面状の側壁(側壁曲面67)を形成している。図4に示すように、側壁曲面67は、軸状部材40の曲面状側面41と溝長手方向d1に対面して位置している。
【0070】
さらに別の表現で表すと、各側壁60によって形成される側壁面65は、長手方向d1及び深さ方向d3の両方に平行な平坦面から、側壁凹部64を削り取ることによって得られる形状を有している。図示された例において、各側壁面65は、長手方向d1及び深さ方向d3の両方に平行な側壁基面66及び側壁縮幅面68と、側壁基面66及び側壁縮幅面68の間に位置する側壁曲面67と、側壁縮幅面68及び側壁曲面67に接続した側壁段差面69と、を含んでいる。側壁曲面67、側壁縮幅面68及び側壁段差面69は、それぞれ、溝長手方向d1における各端部に接続している。側壁曲面67、側壁縮幅面68及び側壁段差面69は、突出部62によって形成されている。側壁縮幅面68は、側壁基面66と比較して、幅方向d2における内側に位置している。側壁段差面69は、底壁面75と同様に、深さ方向d3を向いている。
【0071】
また、図3図5に示された溝部55は、通常の溝と概ね同様の作業量により作製することができる。すなわち、図3図5に示された溝部55は、大幅なコスト上昇をもたらすことなく、作製され得る。図3図5に示された溝部55の作製方法の一例を、図6図9を参照して説明する。
【0072】
例えば、工作機械を用いた切削加工を斜板50に施すことによって、溝部55を作製することができる。切削加工に用いられる工具として、エンドミル91を用いることができる。切削工具を用いて溝部55を形成する場合、通常、被加工物となる斜板50に対して切削工具を複数回通すことになる。図6図9に示された作製方法では、斜板50をなすようになる被加工物に対する切削工具の相対位置を、二段階の切削加工、すなわち一回目の切削加工と二回目の切削加工とで変えている。
【0073】
まず、図6及び図7に示された一回目の切削加工では、斜板50を横断するようにして、直線状に延びる溝状部56を形成する。エンドミル91を用いることによって、溝状部の側壁面および底壁面は平坦面となる。なお、図6は、図4と同様の方向から斜板50を観察しており、図7は、エンドミル91の切削加工時の移動方向に沿った後方から斜板50を観察している。
【0074】
次に、図8及び図9に示すように、二回目の切削加工を行う。図8に示すように、二回目の切削加工において用いるエンドミル91の径は、一回目の切削加工において用いるエンドミル91の径よりも、いくらか大きくする。また、図9に示すように、二回目の切削加工において、深さ方向d3へのエンドミル91の切り込み量は、一回目の切削加工よりもいくらか多くする。図7には、実線で示された一回目の切削加工におけるエンドミル91とともに、二回目の切削加工におけるエンドミル91を二点鎖線で示している。さらに、二回目の切削加工では、エンドミル91は、溝長手方向d1に軸状部材40を横断させない。溝長手方向d1に沿ったエンドミル91の送り範囲は、図8に二点鎖線で示した二つのエンドミル91の位置の間だけとする。このように溝長手方向d1への送り範囲を狭くすることで、突出部62が残留するようになる。
【0075】
図6図9に示された切削加工によれば、二回目の切削加工によって、図3に示された溝部55における側壁面65の側壁基面66及び側壁曲面67と、底壁面75とが、削り出される。一方、図3に示された溝部55における側壁面65の側壁縮幅面68及び側壁段差面69は、一回目の切削加工によって削り出された面となる。
【0076】
なお、以上の説明では、一回目の切削加工および二回目の切削加工で、切削工具の大きさを変更したが、この例に限られない。例えば、一回目の切削加工および二回目の切削加工で同じ大きさの切削工具を用いながら、二回目の切削加工において、切削工具を溝長手方向d1だけでなく、溝幅方向d2にも移動させるようにしてもよい。また、同様に、一回目の切削加工においても、切削工具を溝長手方向d1だけでなく、溝幅方向d2にも移動させるようにしてもよい。このような手法によれば、作製されるべき溝部55の幅Wxよりも小径の切削工具を用いて、所望の大きさの溝部55を作製することができる。
【0077】
次に、図10図12を主として参照しながら、溝部55の他の例についてさらに詳述する。
【0078】
図10図12に示された例において、溝部55を画成する各側壁60は、突出部62として、溝長手方向d1における両端部にそれぞれ設けられた第1突出部62A及び第2突出部62Bと、第1突出部62A及び第2突出部62Bの間に設けられた第3突出部62Cと、を有している。第1突出部62A及び第2突出部62Bは、溝部55の深さ方向d3に延びている。第3突出部62Cは、溝部55の底壁70に接続して、溝部55の長手方向d1に延びている。図10図12に示された例においても、溝部55は、溝長手方向d1における両端部において、曲面状の側壁(側壁曲面67)を含んでいる。第1突出部62A及び第2突出部62Bが、この曲面状の側壁(側壁曲面67)を形成している。図11に示すように、側壁曲面67は、軸状部材40の曲面状側面41と溝長手方向d1に対面して位置している。
【0079】
図10図12に示された例においても、各側壁60によって形成される側壁面65は、長手方向d1及び深さ方向d3の両方に平行な平坦面から、側壁凹部64を削り取ることによって得られる形状を有している。図示された例において、各側壁面65は、長手方向d1及び深さ方向d3の両方に平行な側壁基面66及び側壁縮幅面68と、側壁基面66及び側壁縮幅面68の間に位置する側壁曲面67及び側壁段差面69と、を含んでいる。側壁縮幅面68は、側壁基面66と比較して、幅方向d2における内側に位置している。側壁曲面67、側壁縮幅面68及び側壁段差面69は、突出部62A,62B,62Cによって、形成されている。突出部62A,62Bによって形成される側壁縮幅面68は、溝長手方向d1における各端部に設けられ、溝深さ方向d3に延びている。突出部62Cによって形成される側壁段差面69は、底壁70に接続して、溝長手方向d1に延びている。側壁段差面69は、底壁面75と同様に、深さ方向d3を向いている。
【0080】
また、図10図12に示された溝部55は、図3図5に示された溝部55と同様に、二段階の切削加工によって、作製することができる。このうち、一回目の切削加工は、図6及び図7を参照して説明した図3図5の溝部55を作製するための一回目(一段目)の切削加工と、同様に行えば良い。
【0081】
二回目(二段目)の切削加工は、一回目の切削加工において用いたエンドミル91a(図12の二点鎖線参照)の径よりも、いくらか大きな径を有したエンドミル91b(図12の二点鎖線参照)を用いる。図12に示すように、二回目の切削加工において、深さ方向d3へのエンドミル91bの切り込み量は、一回目の切削加工よりもいくらか少なくする。このように溝深さ方向d3への切り込み量を小さくすることで、第3突出部62Cが残留するようになる。
【0082】
また、二回目の切削加工における溝長手方向d1へのエンドミルの送り範囲は、図8を参照して説明した図3図5の溝部55を作製するための二回目の切削加工と、同様に行う。すなわち、二回目の切削加工では、エンドミルは、溝長手方向d1に軸状部材40を横断させない。溝長手方向d1に沿ったエンドミル91の送り範囲は、図8に二点鎖線で示した二つのエンドミル91の位置の間だけとする。このように溝長手方向d1への送り範囲を狭くすることで、第1突出部62A及び第2突出部62Bが残留するようになる。
【0083】
以上の切削加工によれば、二回目の切削加工によって、図10に示された溝部55における側壁面65の側壁基面66、側壁曲面67及び側壁段差面69が、削り出される。一方、図10に示された溝部55における側壁面65の側壁縮幅面68と、底壁面75は、一回目の切削加工によって削り出された面となる。
【0084】
なお、以上の説明では、一回目の切削加工および二回目の切削加工で、切削工具の大きさを変更したが、この例に限られず、上述した図3図5の溝の作製方法と同様にして、一回目の切削加工および二回目の切削加工で同じ大きさの切削工具を用いてもよい。また、一回目の切削加工及び二回目の切削加工において、切削工具を溝長手方向d1だけでなく、溝幅方向d2にも移動させるようにしてもよい。
【0085】
さらに、図13には、溝部55の更に他の例が示されている。図13に示す例のように、溝部55の幅Wxを狭くする突出部62は、第1側壁60A及び第2側壁60Bのいずれか一方のみに設けられていても良い。図13に示された例では、第1側壁60Aのみが突出部62を有している。なお、図13に示された第1側壁60Aは、図3図5に示された溝部55の第1側壁60Aと同一に構成されている。図13に示された例において、第2側壁60Bは、溝長手方向d1及び溝深さ方向d3の両方に平行な平坦面として形成されていてもよい。
【0086】
以上に説明してきた一実施の形態において、油圧装置10は、斜板50と、斜板50を支持する斜板支持部13と、斜板50に形成された溝部55に保持された軸状部材40と、軸状部材40を押すことによって斜板50の傾きを調節する調節部材37と、を有している。そして、溝部55は、軸状部材40を保持する中央部55cと、中央部55cの両側に位置し中央部55cよりも幅狭となった幅狭部55dと、を含んでいるこのような溝部55の幅Wxの変化により、軸状部材40が溝部55の長手方向d1へ移動することを効果的に規制することができる。これにより、軸状部材40を斜板50によって安定して保持することができ、軸状部材40の斜板50からの脱落を効果的に防止することができる。したがって、本実施の形態によれば、斜板50を有した油圧装置10において、斜板50及び油圧装置10の大型化を抑制しながら、軸状部材40の脱落を効果的に防止して油圧装置10の信頼性向上および長寿命化を実現することができる。
【0087】
なお、上述したように、このような溝部55は、通常の溝部55の作製方法として広く普及した先端が平らな加工具の例として、エンドミル(工具)91を用いた切削加工によって、通常の溝部と同等の作業負担にて作製することができる。この点において、この有用な斜板50および油圧装置10の製造コストを効果的に低減することができる。
【0088】
上述したいくつかの具体例において、軸状部材40を保持する溝部55は、軸状部材40の軸方向daに一致するその長手方向d1の両端において開口している。すなわち、軸状部材40をその軸方向daにおける両外方から覆っていない。したがって、斜板50の大型化、より具体的には、溝部55の長手方向d1に沿った斜板寸法の大型化を効果的に抑制することができる。
【0089】
また、上述したいくつかの具体例において、溝部55の幅が狭くなっている部分は、溝部55の両端部となっている。このような例によれば、溝部55の長手方向d1に沿った斜板寸法の大型化をより効果的に抑制することができる。
【0090】
また、上述したいくつかの具体例において、溝部55は、両端部において、曲面状の側壁60を含んでいる。このような具体例によれば、曲面状の側壁60が軸状部材40に接触して、軸状部材40の軸方向daへの移動を規制することができる。軸状部材40に接触する側壁60を曲面状とすることで、側壁60上での応力集中を効果的に防止することができる。これにより、油圧装置10の信頼性向上および長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0091】
また、上述したいくつかの具体例において、軸状部材40は、その両端部において曲面状の側面41を有している。このような具体例によれば、溝部55の曲面状の側壁60(側壁曲面67)と軸状部材40の曲面状の側面41とが、軸状部材40の軸方向daに対面することで、溝部55の縮幅した側壁60と軸状部材40との接触面積を大面積化することができる。これにより、軸状部材40の軸方向daへの移動をより効果的に防止することができ、しかも、側壁60や軸状部材40に大きな力が局部的に作用することを効果的に防止することができる。これにより、油圧装置10の信頼性向上および長寿命化をより効果的に図ることができる。
【0092】
さらに、上述したいくつかの具体例において、斜板50は、溝部55の両端部に設けられて溝部55内に突出した突出部62を有している。このような突出部62を用いることで、軸状部材40の軸方向daへの移動をより効果的に防止することができる。
【0093】
さらに、上述したいくつかの具体例において、この突出部62が曲面状の側壁60を形成している。このような突出部62を用いることで具、軸状部材40の軸方向daへの移動をより効果的に防止することができる。
【0094】
さらに、図3図5を参照して説明した具体例において、突出部62は、溝部55の深さ方向d3に並んだ第1部分63a及び第2部分63bと、を有している。溝部55の底壁70に接続した第1部分63aの溝部55の幅方向d2への突出長さLx1は、第2部分63bの溝部55の幅方向d2への突出長さLx2よりも、長くなっている。この具体例では、底壁70の溝幅方向d2への幅も、溝長手方向d1に沿って変化している。しかも、溝部55の底壁70に接続した第1部分63aの溝部55の幅方向d2への突出長さLx1が長くなっているので、底壁70の溝幅方向d2への幅は、溝長手方向d1に沿って大きく変化するようになる。したがって、溝部55が開くように、言い換えると溝部55の幅方向d2に対面する第1側壁60A及び第2側壁60Bが互いから離間するように、斜板50が変形しにくくすることができる。これにより、軸状部材40の脱落をより効果的に防止することができる。
【0095】
さらに、図10図12を参照して説明した具体例において、斜板50は、溝部55の両端部にそれぞれ設けられて溝部55内に突出した第1突出部62A及び第2突出部62Bと、第1突出部62Aおよび第2突出部62Bの間に設けられて溝部55内に突出した第3突出部62Cと、を有している。第3突出部62Cは、溝部55の底壁70に接続して溝部55の長手方向d1に延びている。この具体例によれば、側壁60に形成する側壁凹部64を小さくすることができる。言い換えると、軸状部材40と干渉しないようにして、多くの突出部62を形成している。これにより、溝部55を含む斜板50の剛性を向上させることができ、軸状部材40の脱落の原因となる斜板50の変形を効果的に抑制することができる。
【0096】
一実施の形態を複数の具体例により説明してきたが、これらの具体例が一実施の形態を限定することを意図していない。上述した一実施の形態は、その他の様々な具体例で実施されることが可能であり、その要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。
【0097】
以下、図面を参照しながら、変形の一例について説明する。以下の説明および以下の説明で用いる図面では、上述した具体例と同様に構成され得る部分について、上述の具体例における対応する部分に対して用いた符号と同一の符号を用いるとともに、重複する説明を省略する。
【0098】
上述した一具体例において、軸状部材40が、その軸方向daの両端に曲面状側面41を有する例をしめしたが、この例に限られない。図14に示すように、軸状部材40が、その軸方向daの両端において、曲面状以外の形状を形成するような面取りを施されていても良い。また、軸状部材40が面取りされていなくてもよい。さらに、軸状部材40は、上述したように、角柱状の形状または角柱に面取りを施した形状であってもよい。
【0099】
また、上述した具体例において、幅狭部55dが、溝部55の両端部に形成されている例を示したが、これに限られない。幅狭部55dは、溝長手方向d1に沿って溝部55の端部と中央部55cとの間に位置していてもよい。
【0100】
さらに、上述した具体例において、溝部55が両端において開口している例を示したが、これに限られない。溝部55の少なくとも一方の端部が閉じていてもよい。
【符号の説明】
【0101】
10 油圧装置
11 第1流路
12 第2流路
13 斜板支持部
14 受容凹部
14a 受面
15 ケース
15a 第1ケースブロック
15b 第2ケースブロック
18 回転軸部材18
18a 支持部分
20 シリンダブロック
21 シリンダ室
22 接続ポート
25 ピストン
26 シュー
27 リテーナプレート
28 ピストン付勢部材
30 弁板
35 傾転調節機構
36 斜板付勢部材
37 調節部材
38 調節アクチュエータ
39 制御ピストン
39a ピストンヘッド
40 軸状部材
41 曲面状側面
50 斜板
50a 中央部
50b 第1受力部
50c 第2受力部
51 中央貫通孔
52 主面
53 膨出部
53a 摺動面
55 溝部
55a 両端開口
55b 上方開口
55c 中央部
55d 幅狭部
56 溝状部
60 側壁
60A 第1側壁
60B 第2側壁
62 突出部
62A 第1突出部
62B 第2突出部
62C 第3突出部
63a 第1部分
63b 第2部分
64 側壁凹部
65 側壁面
66 側壁基面
67 側壁曲面
68 側壁縮幅面
69 側壁段差面
70 底壁
75 底壁面
91 エンドミル(工具)
da 軸方向
d1 溝長手方向
d2 幅方向
d3 深さ方向
IA 傾転軸線
RA 回転軸線
S 収容空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14