(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】研磨パッド
(51)【国際特許分類】
B24B 37/24 20120101AFI20220808BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
B24B37/24 C
H01L21/304 622F
H01L21/304 622M
(21)【出願番号】P 2018183767
(22)【出願日】2018-09-28
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005359
【氏名又は名称】富士紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149799
【氏名又は名称】上村 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 立馬
(72)【発明者】
【氏名】栗原 浩
(72)【発明者】
【氏名】鳴島 さつき
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼見沢 大和
【審査官】大光 太朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-111487(JP,A)
【文献】特開2015-150635(JP,A)
【文献】特開2013-066977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/24
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物を研磨する研磨層を有する研磨パッドであって、前記研磨層は
、2,4-トリレンジイソシアネート、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、及びジエチレングリコールを構成成分として含むポリウレタン樹脂と、該ポリウレタン樹脂に分散された平均気泡径10~20μmの中空微小球体とを含み、
研磨使用前研磨層のドレス処理前後に対する接触角の変化率が60秒経過後の値で40%以上、又は、
研磨使用前研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が5秒経過後の値で20%以上である、研磨パッド。
【請求項2】
前記研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が60秒経過後の値で60%以下である、請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が5秒経過後の値で75%以下である、請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨パッドに関する。詳細には、本発明は、光学材料、半導体ウエハ、半導体デバイス、ハードディスク用基板等の研磨に用いることができ、特に半導体ウエハの上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを研磨するのに好適に用いることができる研磨パッドに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等の研磨は、いわゆる化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing CMP)法で行われることが一般的である。CMP法は、高速で、かつ平滑な研磨面を得ることができる研磨法であり、研磨スラリーに含まれる化学成分の作用によって研磨剤と研磨対象物の相対運動による機械的研磨(表面除去)効果を増大させることができる。
【0003】
CMP法では研磨スラリーの保持力により大きく被研磨物の平坦性が異なるため、研磨スラリーの保持能力(親水性)の優れた研磨パッドが求められる。
【0004】
通常、新しい研磨パッドは、ドレッシング処理と予備研磨を繰り返し行うことによって、研磨スラリーの保持能力を高め、研磨パッドの研磨特性を向上させてから、実際の製品に対する研磨を行う。しかし、このドレッシング処理と予備研磨の繰り返しの工程は時間がかかるため、新しい研磨パッドを使用するときも、できるだけ早く実際の研磨工程を開始したいという要望があった。
【0005】
そのため、従来から、研磨パッドの親水性を改善するために、研磨パッドの高分子材料に親水性を有する材料を混合したり、親水性基を有する高分子材料を用いたりするなどの工夫がなされてきた。
【0006】
特許文献1には、マトリックス材料としてエーテル系水溶性グリコールを含むポリエーテル系ポリオールを主成分とするポリウレタンを用いることにより、研磨スラリーに対する濡れ性が改善された研磨パッドが開示されている。特許文献1の研磨パッドは、研磨面と水との接触角が70~95°であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1のように、研磨パッド自体の材料を変更してしまうと、親水性は改善することができるものの、硬度や剛性等も変化してしまうことにより、機械的研磨特性が低下してしまう可能性がある。さらに、脆性の変化により、ドレッシング性能も変化してしまう恐れがあり、結果として所望の平坦性を示さない場合が多い。
【0009】
そこで、本発明は樹脂の硬度や剛性・脆性等の物性を変化させず、被研磨物の平坦性を向上させることができる研磨パッドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、所定の平均気泡径を有する中空微小球体を含み、かつ、ドレス処理前とドレス処理後の比較的短時間経過後の水の接触角の変化率が所定以上であるような研磨パッドは、研磨開始直後からすぐに優れた研磨性能を発揮できることを発見し、本発明に至った。すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 被研磨物を研磨する研磨層を有する研磨パッドであって、前記研磨層はポリウレタン樹脂と、該ポリウレタン樹脂に分散された平均気泡径10~20μmの中空微小球体とを含み、前記研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が60秒経過後の値で40%以上、又は、前記研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が5秒経過後の値で20%以上である、研磨パッド。
[2] 前記研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が60秒経過後の値で60%以下である、[1]に記載の研磨パッド。
[3] 前記研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が5秒経過後の値で75%以下である、[1]又は[2]に記載の研磨パッド。
【発明の効果】
【0011】
本発明の研磨パッドは、樹脂の硬度や剛性・脆性等の物性を変化させずに、研磨スラリーの保持力が高く、研磨開始からすぐに優れた研磨性能を発揮することができ、被研磨物の平坦性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の研磨パッドの斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の研磨パッドの断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の研磨パッドに含まれる中空微小球体の断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1の研磨パッドの研磨面のSEM写真である。
【
図5】
図5は、実施例2の研磨パッドの研磨面のSEM写真である。
【
図6】
図6は、比較例1の研磨パッドの研磨面のSEM写真である。
【
図7】
図7は、比較例2の研磨パッドの研磨面のSEM写真である。
【
図8】
図8は、比較例3の研磨パッドの研磨面のSEM写真である。
【
図9】
図9は、比較例4の研磨パッドの研磨面のSEM写真である
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明するが、本発明は、発明を実施するための形態に限定されるものではない。
【0014】
<<研磨パッド>>
本発明の研磨パッドの構造について
図1~
図3を用いて説明する。
図1のように、研磨パッド1は、被研磨物に当接し、研磨を行う層である研磨層2を含む。研磨層2は、被研磨物に当接する研磨面2aを有する。本発明の研磨パッド1の研磨層2の形状は、特に限定されるものではない。形状は円盤状、帯状等が挙げられるが、円盤状が好ましい。
研磨パッド1の大きさ(径)は、研磨パッド1を備える研磨装置のサイズ等に応じて決定することができ、例えば、直径10cm~1m程度とすることができる。
研磨層2は、厚さは、好ましくは0.1mm~10mm、より好ましくは0.3mm~5mmである。
【0015】
研磨パッド1においては、研磨層2がクッション層4に接着層3を介して接着されていることが好ましい。接着層3は、クッション層4と研磨層2を接着させるための層であり、通常、粘着テープ又は粘着材から構成される。
【0016】
クッション層4は、研磨層2の被研磨物への当接をより均一にする層である。クッション層4は、不織布や合成樹脂等の可撓性を有する材料から構成することができる。
【0017】
研磨パッド1は、クッション層4に配設された粘着テープ等によって研磨装置に貼付される。研磨パッド1は、研磨装置によって被研磨物に押圧された状態で回転駆動され、被研磨物を研磨する。その際、研磨パッド1と被研磨物との間には、スラリー液が供給される。スラリー液は溝又は孔を介して研磨面に供給され、排出される。
【0018】
<研磨層>
研磨層2を構成する材料は、研磨層2の主たる構成成分であるポリウレタン樹脂6と、中空微小球体5を含む。
【0019】
構造としては、
図2に示すように、ポリウレタン樹脂6の中に中空微小球体5が分散されている。
【0020】
研磨層2が含む中空微小球体5は、
図3に示すように、一般的に熱可塑性樹脂からなる球殻状の外殻5aと、外殻に囲まれた内部空間5bを有する。中空微小球体5は、液状の低沸点炭化水素を熱可塑性樹脂の外殻5aで包みこんでいる形状である。
【0021】
本発明において、ポリウレタン樹脂6中の中空微小球体5の平均気泡径は、10~20μmであることを特徴としている。ポリウレタン樹脂6と中空微小球体5の詳細については、<<研磨パッドの製造方法>>の項で説明する。
【0022】
なお、得られる研磨パッド1の研磨層2の硬さは特に制限されるものではない。例えば30~100°のD硬度を有することができる。好ましくは、35°~80°である。
【0023】
<研磨面>
本発明の研磨パッド1に備えられる研磨層2の研磨面2aは、表面加工により、必要により溝を設けることができる。溝は、直交する溝(X軸とY軸)や、パーフォレーション加工の溝(穿孔加工による溝)、同心円状の溝等を設けることができる。また、ミクロ的には、
図2に示すように、中空微小球体5が表面にある場合は、中空微小球体5があることによる凹凸を有することができる。
【0024】
<<研磨パッドの製造方法>>
本発明の研磨パッドの製造方法について説明する。研磨パッドの材料としては、研磨に用いることができるポリウレタン樹脂材料であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と硬化剤とを反応させて得られる材料を挙げることができる。以下、研磨パッドの製造方法については、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と硬化剤とを用いた研磨パッドを例にして説明する。
【0025】
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と硬化剤とを用いた研磨パッドの製造方法としては、例えば、少なくともウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、硬化剤、中空微小球体を準備する準備工程;少なくとも、前記ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、硬化剤、中空微小球体を混合して成形体成形用の混合液を得る混合工程;前記成形体成形用混合液からポリウレタン樹脂成形体を成形する成形体成形工程;及び前記ポリウレタン樹脂成形体から、被研磨物を研磨加工するための研磨表面を有する研磨層を形成する研磨層形成工程、を含む製造方法が挙げられる。
【0026】
以下、準備工程、混合工程、成形体成形工程、研磨層形成工程に分けて、それぞれ説明する。
【0027】
<準備工程>
本発明の研磨パッドの製造のために、ポリウレタン樹脂成形体(硬化樹脂)の原料として、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物、硬化剤を準備する。また、研磨層の製造に用いる中空微小球体も用意する。ここで、ウレタン結合含有ポリイソシアネートは、ポリウレタン樹脂成形体を形成するための、プレポリマーである。
【0028】
準備工程において、更にポリオール化合物を上記成分とともに用いる場合や、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の成分を併せて用いる場合は、それらの成分も準備する。
以下、各成分について説明する。
【0029】
[ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物]
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)は、下記ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを、通常用いられる条件で反応させることにより得られる化合物であり、ウレタン結合とイソシアネート基を分子内に含むものである。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、他の成分がウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物に含まれていてもよい。
【0030】
ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物としては、市販されているものを用いてもよく、ポリイソシアネート化合物とポリオール化合物とを反応させて合成したものを用いてもよい。前記反応に特に制限はなく、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法及び条件を用いて付加重合反応すればよい。例えば、40℃に加温したポリオール化合物に、窒素雰囲気にて撹拌しながら50℃に加温したポリイソシアネート化合物を添加し、30分後に80℃まで昇温させ更に80℃にて60分間反応させるといった方法で製造することが出来る。
【0031】
[ポリイソシアネート化合物]
本明細書及び特許請求の範囲において、ポリイソシアネート化合物とは、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物を意味する。
ポリイソシアネート化合物としては、分子内に2つ以上のイソシアネート基を有していれば特に制限されるものではない。例えば、分子内に2つのイソシアネート基を有するジイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、ナフタレン-1,4-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート(MDI)、4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニルジイソシアネート、3,3’-ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、キシリレン-1,4-ジイソシアネート、4,4’-ジフェニルプロパンジイソシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、プロピレン-1,2-ジイソシアネート、ブチレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,2-ジイソシアネート、シクロヘキシレン-1,4-ジイソシアネート、p-フェニレンジイソチオシアネート、キシリレン-1,4-ジイソチオシアネート、エチリジンジイソチオシアネート等を挙げることができる。
ポリイソシアネート化合物としては、ジイソシアネート化合物が好ましく、中でも2,4-TDI、2,6-TDI、MDIがより好ましく、2,4-TDI、2,6-TDIが特に好ましい。
これらのポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリイソシアネート化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
[プレポリマーの原料としてのポリオール化合物]
本明細書及び特許請求の範囲において、ポリオール化合物とは、分子内に2つ以上の水酸基(OH)を有する化合物を意味する。
プレポリマーとしてのウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の合成に用いられるポリオール化合物としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、ブチレングリコール等のジオール化合物、トリオール化合物等;ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(又はポリテトラメチレンエーテルグリコール)(PTMG)等のポリエーテルポリオール化合物;エチレングリコールとアジピン酸との反応物やブチレングリコールとアジピン酸との反応物等のポリエステルポリオール化合物;ポリカーボネートポリオール化合物、ポリカプロラクトンポリオール化合物等を挙げることができる。また、エチレンオキサイドを付加した3官能性プロピレングリコールを用いることもできる。これらの中でも、PTMG、又はPTMGとDEGの組み合わせが好ましい。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
(プレポリマーのNCO当量)
プレポリマーである、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の特徴を示す指標として、NCO当量が挙げられる。NCO当量は、、“(ポリイソシアネート化合物の質量部+ポリオール化合物の質量部)/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量部/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量部/ポリオール化合物の分子量)]”で求められ、NCO基1個当たりのPP(プレポリマー)の分子量を示す数値である。該NCO当量は、200~800であることが好ましく、300~700であることがより好ましく、400~600であることがさらにより好ましい。
【0034】
[硬化剤]
本発明の研磨パッドの製造方法では、混合工程において硬化剤(鎖伸長剤ともいう)をウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物などと混合させる。硬化剤を加えることにより、その後の成形体成形工程において、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の主鎖末端が硬化剤と結合してポリマー鎖を形成し、硬化する。
硬化剤としては、例えば、ポリアミン化合物及び/又はポリオール化合物を用いることが出来る。
【0035】
[ポリアミン化合物]
本明細書及び特許請求の範囲において、ポリアミン化合物とは、分子内に2つ以上のアミノ基を有する化合物を意味する。
ポリアミン化合物としては、脂肪族や芳香族のポリアミン化合物、特にはジアミン化合物を使用することができ、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジアミン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン(メチレンビス-o-クロロアニリン)(以下、MOCAと略記する。)、MOCAと同様の構造を有するポリアミン化合物等を挙げることができる。また、ポリアミン化合物は水酸基を有していてもよく、このようなアミン系化合物として、例えば、2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシエチルプロピレンジアミン、2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン、ジ-2-ヒドロキシプロピルエチレンジアミン等を挙げることができる。
ポリアミン化合物としては、ジアミン化合物が好ましく、MOCA、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンがより好ましく、MOCAが特に好ましい。
【0036】
ここで、MOCAとしては、例えば、PANDEX E(DIC社製)、イハラキュアミンMT(クミアイ化学社製)などが挙げられる。
ポリアミン化合物は、単独で用いてもよく、複数のポリアミン化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
ポリアミン化合物は、他の成分と混合し易くするため及び/又は後の成形体形成工程における気泡径の均一性を向上させるために、必要により加熱した状態で減圧下脱泡することが好ましい。減圧下での脱泡方法としては、ポリウレタン樹脂の製造において公知の方法を用いればよく、例えば、真空ポンプを用いて0.1MPa以下の真空度で脱泡することができる。
硬化剤(鎖伸長剤)として固体の化合物を用いる場合は、加熱により溶融させつつ、減圧下脱泡することができる。
【0038】
[プレポリマー合成後に用いられてもよいポリオール化合物]
また、本発明においては、前記プレポリマーとしてのウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物を形成するために用いられるポリオール化合物とは別に、硬化剤としてポリオール化合物を用いてもよい。
該ポリオール化合物としては、ジオール化合物やトリオール化合物等の化合物であれば特に制限なく用いることができる。また、プレポリマーを形成するのに用いられるポリオール化合物と同一であっても異なっていてもよい。
具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどの低分子量ジオール、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの高分子量のポリオール化合物などが挙げられる。
上記ポリオール化合物は単独で用いてもよく、複数のポリオール化合物を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
硬化剤としては、ポリアミン化合物を用いてもよく、ポリオール化合物を用いてもよく、これらの混合物を用いてもよい。
【0040】
(R値)
本発明の研磨パッドの製造方法では、プレポリマーとしてのウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物の末端に存在するイソシアネート基に対する、硬化剤に存在する活性水素基(アミノ基及び水酸基)の当量比であるR値が、0.60~1.40となるように各成分を混合することが好ましい。R値は、0.70~1.20がより好ましく、0.80~1.10がさらに好ましい。
【0041】
[中空微小球体]
本発明の研磨パッド製造方法においては、中空微小球体を用いて、ポリウレタン樹脂成形体内部に気泡を内包させる。
中空微小球体とは、空隙を有する微小球体を意味する。微小球体には、球状、楕円状、及びこれらに近い形状のものが含まれる。例としては、既膨張タイプのもの、及び、未膨張の加熱膨張性微小球状体を加熱膨張させたものが挙げられる。
前記ポリマー殻としては、特開昭57-137323号公報等に開示されているように、例えば、アクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体、アクリロニトリル-メチルメタクリレート共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体などの熱可塑性樹脂を用いることができる。同様に、ポリマー殻に内包される低沸点炭化水素としては、例えば、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、石油エーテル等を用いることができる。
【0042】
中空微小球体は、市販品を利用することも可能である。例えばマツモトマイクロスフェアーシリーズ(松本油脂製薬株式会社製)やエクスパンセルシリーズ(AkzoNobel社製)を中空微小球体として利用することができる。市販の中空微小球体は、既に加熱膨張された既膨張タイプと未だ加熱膨張されていない未膨張タイプがある。既膨張タイプは後述する混合工程により発生する反応熱の影響をあまり受けず一定の気泡径とすることができる一方、未膨張タイプは後述する混合工程により発生する反応熱により膨張する。そのため未膨張タイプの場合、気泡径を制御するためには、例えば、重合反応によって生成する反応熱を迅速に冷却したり、重合反応を迅速に促進させて、中空微小球体の周りに存在する樹脂によって強制的に膨張が抑制されたりするなどの反応条件を調整する必要がある。
【0043】
また、既膨張タイプは平均粒径が20μm以上のものしか市販されていないため、樹脂中の気泡径を20μm未満としたい場合には平均粒径10~20μmの未膨張タイプの中空微小球体を用い、反応条件を調整し中空微小球体があまり膨張しないように制御する必要がある。未膨張タイプの中空微小球体の平均粒径は10~20μmを用いることが好ましく、後述の各工程を経た後、研磨層のポリウレタン樹脂中に分散された気泡としての平均気泡径は10~20μmであることが好ましく、12~20μmであることがより好ましく、15~20μmであることがより好ましい。
なお、平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えばスペクトリス(株)製、マスターサイザー2000)により測定することができる。
【0044】
中空微小球体は、研磨層の材料に対して、10~60体積%が好適であり、15~45体積%であるとより好適である。中空微小球体は、研磨層が研磨によって磨耗すると研磨面に露出し、研磨面の研磨特性に影響する。
【0045】
中空微小球体は、プレポリマー100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは1~5質量部、さらにより好ましくは2~4質量部となるように添加する。
【0046】
本発明の研磨パッド内の中空微小球体は、平均気泡径が10~20μmである。平均気泡径がこの範囲内にあることにより、研磨パッドの親水性を高めることができる場合があり、このような研磨パッドは、高い平坦性を得ることができる。
【0047】
<混合工程>
混合工程では、前記準備工程で得られた、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)、硬化剤を混合機内に供給して攪拌・混合する。混合工程は、上記各成分の流動性を確保できる温度に加温した状態で行われる。
混合工程では、少なくとも、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物(プレポリマー)、硬化剤及び中空微小球体を、混合機内に供給して攪拌・混合する。混合順序に特に制限はないが、ウレタン結合含有ポリイソシアネート化合物と中空微小球体とを混合した混合液と、硬化剤及び必要に応じて他の成分を混合した混合液とを用意し、両混合液を混合器内に供給して混合撹拌することが好ましい。このようにして、成形体成形用の混合液が調製される。混合工程は、上記各成分の流動性を確保できる温度に加温した状態で行われる。
【0048】
<成形体成形工程>
成形体成形工程では、前記混合工程で調製された成形体成形用混合液を30~100℃に予熱した型枠内に流し込み、100~150℃程度で10分~5時間程度加熱して硬化させることにより硬化したポリウレタン樹脂(ポリウレタン樹脂成形体)を成形する。このとき、プレポリマー、硬化剤が反応してポリウレタン樹脂を形成することにより該混合液は硬化する。
【0049】
<研磨層形成工程>
成形体成形工程により得られたポリウレタン樹脂成形体は、シート状にスライスされてポリウレタン樹脂シートを形成する。スライスされることにより、シート表面に開孔が設けられることになる。このとき、耐摩耗性に優れ目詰まりしにくい研磨層表面の開孔を形成するために、30~150℃で1時間~24時間程度エイジングしてもよい。
【0050】
このようにして得られたポリウレタン樹脂シートを有する研磨層は、その後、研磨層の研磨面とは反対側の面に両面テープが貼り付けられ、所定形状、好ましくは円板状にカットされて、本発明の研磨パッドとして完成する。両面テープに特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープの中から任意に選択して使用することが出来る。
【0051】
また、本発明の研磨パッドは、研磨層のみからなる単層構造であってもよく、研磨層の研磨面とは反対側の面に他の層(下層、支持層、
図1ではクッション層)を貼り合わせた複層からなっていてもよい。他の層の特性は特に限定されるものではないが、研磨層の反対側の面に研磨層よりも軟らかい(A硬度又はD硬度の小さい)層が貼り合わされていることが好ましい。研磨層よりも軟らかい層が貼り合わされていると、研磨平坦性が更に向上する。一方、研磨層の反対側の面に研磨層よりも硬い(A硬度又はD硬度の大きい)層が貼り合わされていると、研磨レートが更に向上する。
【0052】
複層構造を有する場合には、複数の層同士を両面テープや接着剤などを用いて、必要により加圧しながら接着・固定すればよい。この際用いられる両面テープや接着剤に特に制限はなく、当技術分野において公知の両面テープや接着剤の中から任意に選択して使用することが出来る。
【0053】
さらに、本発明の研磨パッドは、必要に応じて、研磨層の表面及び/又は裏面を研削処理したり、溝加工やエンボス加工を表面に施してもよく、基材及び/又は粘着層を研磨層と貼り合わせてもよく、光透過部を備えてもよい。
研削処理の方法に特に制限はなく、公知の方法により研削することができる。具体的には、サンドペーパーによる研削が挙げられる。
溝加工の形状に特に制限はなく、例えば、格子型、同心円型、放射型などの形状が挙げられる。
【0054】
本発明の研磨パッドを使用するときは、研磨パッドを研磨層の研磨面が被研磨物と向き合うようにして研磨機の研磨定盤に取り付ける。そして、研磨スラリーを供給しつつ、研磨定盤を回転させて、被研磨物の加工表面を研磨する。
【0055】
<ドレス処理>
本発明の研磨パッドの研磨層は、ドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が60秒経過後の値で40%以上、又は、研磨層のドレス処理前後の水に対する接触角の変化率が5秒経過後の値で20%以上であることを特徴とする。ドレス処理によって、水に対する接触角の変化が上記の条件を満たす場合は、研磨開始からすぐに優れた研磨性能を発揮することができる。
【0056】
ドレス処理前後の水に対する接触角の変化率の上限は、特に制限されるものではないが、スラリーの保持能力向上の観点から、60秒経過後の値で60%以下であることが好ましく、5秒経過後の値で75%以下であることが好ましい。
【0057】
本明細書において、ドレス処理とは、ドレッサーを使用し、研磨パッドの表面を若干量のみ研磨する処理をいう。このドレッサーとしては、円板状をなす基材の表面にダイヤモンド製の砥粒を電着して得られるパッドドレッサー、又は基材の表面にダイヤモンド製のペレットを埋め込んで得られるペレットドレッサーが挙げられる。
【0058】
具体的には、ドレス処理とは、特に断りがない限り、研磨機として、(株)荏原製作所製、商品名「F-REX300」を使用し、定盤回転数を80rpm、ドレス圧力を20N、ドレッサー回転数を32rpm、スラリーとしては純水を用いて純水吐出量を1.5L/分に設定し、10分間ドレッシングを行う処理のことを言う。
【0059】
なお、本明細書において、接触角は、接触角計(協和界面化学株式会社製 DropMaster500)による液滴法にて測定した値とする。具体的には、接触角計の注射器に蒸留水を入れ、温度20℃、湿度50%の条件の下に、注射針から水一滴(1μL)を研磨シート表面に滴下し、滴下してから所定の時間(例えば、5秒後及び60秒後)の接触角を読み取ったものである。
【0060】
本発明の研磨パッドを使用するときは、研磨パッドをポリウレタン樹脂シートの研磨面が被研磨物と向き合うようにして研磨機の研磨定盤に取り付ける。そして、研磨剤スラリーを供給しつつ、研磨定盤を回転させて、被研磨物の加工表面を研磨する。
本発明の研磨パッドにより加工される被研磨物としては、半導体デバイス、磁気ディスク基板、光学ガラスなどの精密部品が挙げられる。中でも、本発明の研磨パッドは、半導体デバイスを化学機械研磨(CMP)加工するのに好適に用いられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0062】
各実施例及び比較例において、特段の指定のない限り、「部」とは「質量部」を意味するものとする。
【0063】
また、NCO当量とは、“(ポリイソシアネート化合物の質量(部)+ポリオール化合物の質量(部))/[(ポリイソシアネート化合物1分子当たりの官能基数×ポリイソシアネート化合物の質量(部)/ポリイソシアネート化合物の分子量)-(ポリオール化合物1分子当たりの官能基数×ポリオール化合物の質量(部)/ポリオール化合物の分子量)]”で求められるNCO基1個当たりのプレポリマー(PP)の分子量を示す数値である。
R値とは、上述したように、プレポリマー中の末端イソシアネート基に対する、硬化剤に存在する活性水素基(アミノ基及び水酸基)の当量比を示す数値である。
また、研磨パッド中の中空微小球体の平均気泡径は、レーザー顕微鏡の測定画像から画像処理を行うことによって測定した。
【0064】
<実施例1>
2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(PTMG)及びジエチレングリコール(DEG)を反応させてなるNCO当量460のイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー100部に、殻部分がアクリロニトリル-塩化ビニリデン共重合体からなり、殻内にイソブタンガスが内包された未膨張タイプの中空微小球体3部を添加混合し、混合液を得た。得られた混合液を第1液タンクに仕込み、保温した。次に、第1液とは別途に、硬化剤としてMOCA25.5部及びポリプロピレングリコール(PPG)8.5部を添加混合し、第2液タンク内で保温した。第1液タンク、第2液タンクの夫々の液体を、注入口を2つ具備した混合機に夫々の注入口からプレポリマー中の末端イソシアネート基に対する硬化剤に存在するアミノ基及び水酸基の当量比を表わすR値が0.90となるように注入した。注入した2液を混合攪拌しながら予熱した成形機の金型へ注入した後、型締めをし、30分間、加熱し一次硬化させた。一次硬化させた成形物を脱型後、オーブンにて130℃で2時間二次硬化し、ウレタン樹脂成形物を得た。得られたウレタン樹脂成形物を25℃まで放冷した後に、再度オーブンにて120℃で5時間加熱してから1.3mmの厚みにスライスし、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの平均気泡径は15μmであった。
【0065】
<実施例2>
実施例1で用いた第1液にさらに4,4’-メチレン-ビス(シクロヘキシルイソシアネート)(水添MDI)2部を混合し、未膨張タイプの中空微小球体の添加量を2.85部とし、実施例1で用いた第2液をMOCA28部の混合液として用いた以外は、実施例1と同様の方法で作製し、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの平均気泡径は16μmであった。
【0066】
<比較例1>
中空微小球体を未膨張タイプではなく粒子の大きさが40μmに膨脹させた既膨張タイプを2.2部用いた以外は、実施例1と同様の方法で作製し、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの平均気泡径は44μmであった。
【0067】
<比較例2>
中空体を未膨張タイプではなく粒子の大きさが20μmに膨脹させた既膨張タイプを2.2部用いた以外は、実施例1と同様の方法で作製し、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの平均気泡径は21μmであった。
【0068】
<比較例3>
中空微小球体を未膨張タイプではなく粒子の大きさが90μmに膨脹させた既膨張タイプを0.9部用いた以外は、実施例2と同様の方法で作製し、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの平均気泡径は95μmであった。
【0069】
<比較例4>
中空微小球体を未膨張タイプではなく粒子の大きさが40μmに膨脹させた既膨張タイプを1.7部用いた以外は、実施例1と同様の方法で作製し、研磨パッドを得た。得られた研磨パッドの平均気泡径は42μmであった。
【0070】
(研磨パッドのドレス処理)
上記方法によって得られた研磨パッドを、必要に応じてドレス処理をした。ドレス処理の条件は以下の通りである。
研磨機: 株式会社荏原製作所製、商品名「F-REX300」
ドレッサー: 3M社製、A188
定盤回転数: 80rpm
ドレス圧力: 20N
純水吐出量: 1.5L/分
ドレッシング時間: 10分間
ドレッサー回転数: 32rpm
【0071】
(研磨パッドの接触角の測定)
得られた研磨パッドの接触角を測定した。未ドレス処理の研磨パッド及びドレス処理済の研磨パッドに水滴が付着してから5秒後経過時と、60秒後経過時の接触角を測定した。
また、実施例・比較例において、研磨パッドの研磨面の接触角は、接触角計(協和界面化学株式会社製 DropMaster500)による液滴法にて測定した。
結果を表1にまとめる。なお、表中の中空微粒子径は研磨パッドに含ませる前の中空微粒子の粒径である。
【0072】
【0073】
本発明の研磨パッドは含まれる中空微小球体の平均気泡径が10~20μmであり、ドレッシング処理済の研磨パッドの5秒経過時の接触角の変化率1は31.4%(1-(70/102)×100%)であり、また、ドレッシング処理済の研磨パッドの60秒経過時の接触角の変化率2は52.6%(1-(46/92)×100%)であり、ドレッシング処理前後で大きく変化するものであり、研磨の際に高い平坦性を得ることが可能となる。