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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】シールリングの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/00 20060101AFI20220808BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20220808BHJP
   F16J 15/3272 20160101ALI20220808BHJP
【FI】
F16J15/00 B
F16J15/10 X
F16J15/3272
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018232469
(22)【出願日】2018-12-12
(65)【公開番号】P2019105374
(43)【公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2017238972
(32)【優先日】2017-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】筧 幸三
(72)【発明者】
【氏名】中西 良彦
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-342970(JP,A)
【文献】特開平2-250729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/14
F16J 15/324-15/3296
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合い口を有する合成樹脂製のシールリングの製造方法であって、
合成樹脂を射出成形して前記合い口を有する略環状の成形体を得る成形工程と、前記成形体を、第1拘束部材の円柱状空間に圧入する圧入工程と、圧入された成形体の内径部に円柱状の第2拘束部材を挿入し、これらを前記合成樹脂のガラス転移温度以上かつ融点未満の温度で加熱する熱固定工程とを備え、
前記圧入工程は、複数の前記成形体を一つずつ前記第1拘束部材に圧入するものであり、前記成形体を、前記第1拘束部材の円柱状空間の軸方向と該成形体の径方向とが沿うように前記第1拘束部材に挿入した後、前記第1拘束部材に対する該成形体の向きを変え、前記第1拘束部材の円柱状空間の軸方向と該成形体の軸方向とが沿った状態で前記第1拘束部材の所定位置まで圧入することを特徴とするシールリングの製造方法。
【請求項2】
前記圧入工程において、前記第1拘束部材の軸方向と前記成形体の径方向とが沿うように該成形体の略半分を前記第1拘束部材に挿入した後、該第1拘束部材から突出した該成形体の残りの部分に該成形体の軸方向から倒し冶具を作用させて、該成形体の向きを変えることを特徴とする請求項1記載のシールリングの製造方法。
【請求項3】
前記圧入工程において、前記成形体の前記合い口を前記第1拘束部材側に向けた状態で、前記成形体を、前記第1拘束部材の軸方向と前記成形体の径方向とが沿うように挿入することを特徴とする請求項1または請求項2記載のシールリングの製造方法。
【請求項4】
前記圧入工程において、前記成形体の前記合い口を上に向けた状態で、前記成形体を、前記第1拘束部材の軸方向と前記成形体の径方向とが沿うように挿入することを特徴とする請求項1または請求項2記載のシールリングの製造方法。
【請求項5】
前記シールリングの合い口は複合ステップカットであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載のシールリングの製造方法。
【請求項6】
前記成形体を前記第1拘束部材の円柱状空間の軸方向と該成形体の径方向とが沿うように前記第1拘束部材に挿入する際において、前記成形体の前記合い口における一対の端部同士が軸方向で離れた状態で挿入することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項記載のシールリングの製造方法。
【請求項7】
前記合成樹脂が、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、または、ポリアミドイミド樹脂であることを特徴する請求項1から請求項6までのいずれか1項記載のシールリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧作動油などの流体の流体圧を利用した機器において、該流体を封止するために使用される合成樹脂製のシールリングの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AT、CVTなどの機器では、作動油を密封するためのオイルシールリングが要所に取り付けられている。例えば、ハウジングの軸孔に挿通される回転軸に設けられた対の離間した環状溝に取り付けられ、両環状溝間にある油路から供給される作動油を両シールリングの側面と内周面で受け、反対側の側面と外周面とで環状溝の側壁とハウジング内周面とをシールする。シールリングにおける各シール面は、環状溝の側壁、ハウジング内周面とそれぞれ摺動接触しつつ、両シールリング間の作動油の油圧を保持している。
【0003】
従来、このようなシールリングとして、射出成形によって得られる合成樹脂製のシールリングが知られている。このシールリングは略矩形断面の環状体であり、周方向の一箇所に合い口を有する。合い口は、相補的に嵌合する一対の端部で構成され、例えば、一方の合い口は、シールリング内径面側に突き合わせ面と、外径面側に突き合わせ面から突出したリップおよび後退したポケットとを有し、他方の合口は、前記突き合わせ面、前記リップおよびポケットと、相補的に嵌合するように形成された突き合わせ面、ポケットおよびリップとを有する複合ステップカットの合い口などが採用されている。射出成形後の成形体においては、一対の端部が相互に離れた状態で形成される。しかし、この合い口が開いた状態のまま、成形体を回転軸に組み付けハウジングに挿入すると、かじりなどの組み付け不良が発生する懸念がある。
【0004】
これの対処として、例えば特許文献1では、射出成形後に成形体の合い口を閉じるとともに外周形状をハウジングの内周形状に合わせる処理を行っている。具体的には、射出成形後に、成形体の合い口の間隔を狭めてリングゲージの内径部に圧入し、圧入された成形体の内径部に円柱体を挿入した後、一定時間高温雰囲気下にさらし円柱体を膨張させることで成形体の内側から強制力をかけ熱固定して合い口を閉じている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-89718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、従来の製造方法では、リングゲージの内径部に成形体を圧入する際において、軸方向に整列した複数の成形体を、リングゲージの軸方向に沿って一度にまとめて圧入している。そのため、圧入時の抵抗が大きくなり、かじりなどの不具合が発生するおそれがある。また、合い口における一対の端部同士が突き当り、特に複合ステップカットではリップ部の折れなどの不具合が発生するおそれもある。
【0007】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、成形体をリングゲージに圧入する際において、かじりや折れといった不具合が発生しないシールリングの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のシールリングの製造方法は、合い口を有する合成樹脂製のシールリングの製造方法であって、合成樹脂を射出成形して上記合い口を有する略環状の成形体を得る成形工程と、上記成形体を、第1拘束部材の円柱状空間に圧入する圧入工程と、圧入された成形体の内径部に円柱状の第2拘束部材を挿入し、これらを上記合成樹脂のガラス転移温度以上かつ融点未満の温度で加熱する熱固定工程とを備え、上記圧入工程は、複数の上記成形体を一つずつ上記第1拘束部材に圧入するものであり、上記成形体を、上記第1拘束部材の軸方向と該成形体の径方向とが沿うように上記第1拘束部材に挿入した後、上記第1拘束部材に対する該成形体の向きを変え、上記第1拘束部材の円柱状空間の軸方向と該成形体の軸方向とが沿った状態で上記第1拘束部材の所定位置まで圧入することを特徴とする。
【0009】
上記圧入工程において、上記第1拘束部材の軸方向と上記成形体の径方向とが沿うように該成形体の略半分を上記第1拘束部材に挿入した後、該第1拘束部材から突出した該成形体の残りの部分に該成形体の軸方向から倒し冶具を作用させて、該成形体の向きを変えることを特徴とする。
【0010】
上記圧入工程において、上記成形体の上記合い口を上記第1拘束部材側に向けた状態で、上記成形体を、上記第1拘束部材の軸方向と上記成形体の径方向とが沿うように挿入することを特徴とする。あるいは、上記圧入工程において、上記成形体の上記合い口を上に向けた状態で、上記成形体を、上記第1拘束部材の軸方向と上記成形体の径方向とが沿うように挿入することを特徴とする。
【0011】
上記シールリングの合い口は複合ステップカットであることを特徴とする。また、上記成形体を上記第1拘束部材の円柱状空間の軸方向と該成形体の径方向とが沿うように上記第1拘束部材に挿入する際において、上記成形体の上記合い口における一対の端部同士が軸方向で離れた状態で挿入することを特徴とする。
【0012】
上記合成樹脂が、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、または、ポリアミドイミド(PAI)樹脂であることを特徴する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のシールリングの製造方法は、成形工程と、圧入工程と、熱固定工程とを備え、上記圧入工程は、複数の成形体を一つずつ第1拘束部材に圧入するものであるので、複数の成形体を一度にまとめて第1拘束部材に圧入する場合に比べて、圧入時の抵抗を低減でき、かじりなどが発生しない。また、成形体を、第1拘束部材の軸方向と該成形体の径方向とが沿うように挿入した後、第1拘束部材に対する該成形体の向きを変え、それぞれの軸方向が沿った状態で第1拘束部材の所定位置まで圧入するので、はじめから軸方向に沿って圧入する場合に比べて、合い口における一対の端部同士の突き当りなどを防止できる。これにより、成形体を圧入する際において、かじりや特にリップ部の折れといった不具合が発生しない。
【0014】
圧入工程において、第1拘束部材の軸方向と成形体の径方向とが沿うように成形体の略半分を第1拘束部材に挿入した後、該第1拘束部材から突出した該成形体の残りの部分に該成形体の軸方向から倒し冶具を作用させて、該成形体の向きを変えるので、成形体に大きな力を与えることなく、簡便な方法で成形体の向きを変えることができる。
【0015】
圧入工程において、成形体の合い口を第1拘束部材側に向けた状態で、成形体を、第1拘束部材の軸方向と成形体の径方向とが沿うように挿入するので、第1拘束部材に挿入する際や成形体の向きを変える際に、成形体の合い口が第1拘束部材の端部に接触することを防ぐことができる。
【0016】
また、圧入工程において、成形体の合い口を上に向けた状態で、成形体を、第1拘束部材の軸方向と成形体の径方向とが沿うように挿入するので、成形体の合い口における一対の端部同士が軸方向で離れた状態で重ならないように挿入することが容易である。
【0017】
成形体を第1拘束部材の円柱状空間の軸方向と該成形体の径方向とが沿うように第1拘束部材に挿入する際において、成形体の合い口における一対の端部同士が軸方向で離れた状態で重ならないように挿入するので、軸方向に沿って圧入する際に、一対の端部同士が突き当たって折れなどが生じることを防ぐことができる。
【0018】
シールリングの合い口が複合ステップカットであるので、シール性が特に優れる。また、合成樹脂が、PEK樹脂、PEEK樹脂、PEKEKK樹脂、PPS樹脂、または、PAI樹脂であるので、曲げ弾性率、耐熱性などに優れ、溝に組み込む際に拡径しても割れることがなく、シールする作動油の油温が高くなる場合でも使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】シールリングの一形態を示す斜視図である。
図2図1のシールリングを環状溝に組み込んだ状態を示す断面図である。
図3】成形体における合い口の拡大図である。
図4】本発明の製造方法の概略を示す図である。
図5図4のステップbの状態を軸方向から見た図である。
図6】圧入時の合い口のリップ部の状態を示す図である。
図7】熱固定工程における金属パイプ内の状態の概略図である。
図8】従来の製造方法の概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の製造方法によって製造される合成樹脂製のシールリングの一形態を図1に基づいて説明する。図1に示すように、シールリング1は、断面が略矩形の環状体である。リング内周面1aとリングの両側面2との角部は直線状、曲線状の面取りが設けられていてもよく、シールリングを射出成形で製造する場合、該部分に金型からの突出し部分となる段部を設けてもよい。また、シールリング1は、周方向の一箇所に合い口3を有するカットタイプのリングであり、弾性変形により拡径して後述の環状溝に装着される。合い口3は一対の端部31、31’から構成される。一対の端部31、31’の形状については、ストレートカット型、アングルカット型などにすることも可能であるが、オイルシール性に優れることから、図1に示す複合ステップカット型を採用することが好ましい。
【0021】
シールリングの大きさ(外径や内径、幅、厚みなど)は、用途などによって適宜設定される。例えば、シールリングの内径は12~75mmであり、外径は15~80mmである。
【0022】
シールリングの使用形態の概略を図2に基づいて説明する。シールリング1は、ハウジング5の軸孔5aに挿通される回転軸4に設けられた環状溝4aに装着される。図中の矢印が作動油からの圧力が加わる方向であり、図中右側が非密封流体側である。シールリング1は、そのリング側面2で、環状溝4aの非密封流体側の側壁面4bに摺動自在に接触している。また、その外周面1bで軸孔5aの内周面に接触している。このシール構造により、回転軸4と軸孔5aとの間の環状隙間を封止している。また、作動油は用途に応じた種類が適宜用いられる。例えば、油温として-30~150℃程度、油圧として0~3.0MPa程度、回転軸の回転数として0~7000rpm程度の条件で使用される。
【0023】
本発明のシールリングの製造方法は、上記シールリングを製造する方法である。本発明の製造方法は、以下の(a)~(c)の3つの工程を少なくとも備える。すなわち、(a)合成樹脂を射出成形して成形体を得る成形工程と、(b)得られた成形体を第1拘束部材の円柱状空間に圧入する圧入工程と、(c)圧入された成形体の内径部に円柱状の第2拘束部材を挿入し、これらを所定温度で加熱する熱固定工程とを備える。なお、本発明において、成形体とは熱固定前のものを指し、シールリングとは熱固定後のものを指す。以下に、各工程について説明する。
【0024】
<(a)成形工程>
成形工程は、合成樹脂を溶融混練して得た成形用ペレットを用いて、周知の射出成形法により略環状の成形体を得る工程である。
【0025】
合成樹脂としては、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂、PEK樹脂、PEEK樹脂、PEKEKK樹脂、全芳香族ポリエステル樹脂、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)樹脂等の射出成形可能な溶融フッ素樹脂、PPS樹脂、PAI樹脂、ポリアミド樹脂などを用いることができる。これらの中でも特に、摩擦摩耗特性、曲げ弾性率、耐熱性、摺動性などに優れる、PEK樹脂、PEEK樹脂、PEKEKK樹脂、PPS樹脂、または、PAI樹脂を用いることが好ましい。これらの樹脂は高い弾性率を有するため環状溝に組み込む際に拡径しても割れることがなく、また、耐熱性に優れるため作動油の油温が高くなる場合でも使用することができる。
【0026】
また、必要に応じて合成樹脂に、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などの繊維状補強材、球状シリカや球状炭素などの球状充填材、マイカやタルクなどの鱗状補強材、チタン酸カリウムウィスカなどの微小繊維補強材を配合できる。また、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、リン酸カルシウム、硫酸カルシウムなどの摺動補強材、カーボンブラックなども合成樹脂に配合できる。
【0027】
射出成形では、金型に形成されたキャビティにゲートから溶融樹脂を注入する。ゲート位置は特に限定されないが、シール性の確保の観点および後加工が不要になることからリング内周面に設けることが好ましい。さらに、射出成形における流動バランスの観点から、リング全長の中央部に設けることがより好ましい。
【0028】
図3には、射出成形後における成形体の合い口の拡大図を示す。図3(a)において、成形体の合い口3は複合ステップカットである。合い口3において、一方の端部31は、内周面側に突き合わせ部31aと、外周面側に突き合わせ部31aから突出したリップ部31bおよび後退したポケット部31cとを有する。他方の端部31’は、突き合わせ部31a、リップ部31b、およびポケット部31cと、相補的に嵌合するように形成された突き合わせ部31a’、ポケット部31c’、およびリップ部31b’とを有する。図3(a)に示すように、射出成形後の成形体は、合い口3が開いた状態となっている。この場合、一対のリップ部31b、31b’同士は離れており、成形体の径方向において互いに重ならない状態となっている。このような合い口3が開いた状態を、後述する熱固定工程によって閉じた状態とする(図3(b))。
【0029】
<(b)圧入工程>
圧入工程は、射出成形によって得られた成形体を第1拘束部材の円柱状空間に圧入する工程である。この形態では、第1拘束部材として円筒状の金属製パイプを用いており、金属製パイプの内径部が円柱状空間に相当する。金属製パイプの内径は成形体の外径よりも小さく、シールリングの外径よりも僅かに大きい。金属製パイプの材質は、例えば、S45Cが用いられる。
【0030】
ここで、従来の圧入工程について図8を用いて説明する。まず、ステップaにて、略円柱状の金属製心棒A1を準備する。金属製心棒の外径は、シールリングの内径よりも僅かに小さい。続くステップbにて、金属製心棒A1に射出成形後の成形体B1を挿入し、複数の成形体を軸方向に整列させる。この場合、各成形体は金属製心棒A1の軸方向に沿って隙間なく配置される。例えば、一つの金属製心棒につき、50~150個の成形体が挿入される。続くステップcにて、複数の成形体B1が装着された金属製心棒A1を金属製パイプC1の内径部に圧入する。この場合、成形体は、金属製パイプC1の軸方向と該成形体の軸方向とが沿うように圧入される。ステップdは金属製パイプC1に圧入された状態を示しており、各成形体は金属製パイプC1の内周面に保持されている。その後、ステップeで、金属製心棒A1を抜き、圧入が完了する。
【0031】
従来の圧入工程において、図8のステップbの複数の成形体が整列した状態を金属製心棒A1の軸方向から見ると、成形体の外周面が外径側に突出したり、内径側に凹んだりし、成形体間で軸方向に凹凸が生じた状態となっている。そのため、続くステップcで成形体B1を金属製パイプC1に圧入する際には、この凹凸に起因して、かじりなどの不具合が生じるおそれがある。また、複数の成形体を一度にまとめて圧入することから、圧入時の抵抗も大きくなり、それに伴う不具合の発生も懸念される。
【0032】
これに対して、本発明の製造方法では、圧入工程を変更することで、圧入時の抵抗を小さくするなどして、かじりなどの不具合を防止している。本発明の製造方法における圧入工程を図4に基づいて説明する。まず、ステップaにて、金属製パイプC2を準備する。図4の金属製パイプC2は、図8の金属製パイプC1と同様のものである。
【0033】
続く、ステップbでは、成形機からロボットアームなどによって成形体B2を掴み、金属製パイプC2に成形体B2を1個ずつ挿入する。このとき、成形体B2を、金属製パイプC2の軸方向と成形体B2の径方向とが沿うように挿入する。すなわち、金属製パイプC2の軸方向に対して、成形体B2の軸方向が直交する向きとなるように成形体B2を挿入する。このように、成形体を縦向きの状態で金属製パイプに挿入することで、横向きの状態で挿入する場合に比べて、挿入時の抵抗を小さくすることができる。ロボットアームなどによって成形体B2を掴む際は、図6に示すように、合い口の一対のリップ部31b、31b’間において、軸方向に隙間Wが生じた状態で成形体B2を掴むことが望ましい。そうすることによって、成形体B2において合い口の一対のリップ部31b、31b’が軸方向で離れた状態(重ならない)で金属製パイプC2に挿入することができる。図5には、図4のステップbの状態を成形体の軸方向からみた図を示す。図5に示すように、成形体B2の略半分は金属製パイプC2に挿入され、成形体B2の残りの略半分は金属製パイプから突出した状態となっている。金属製パイプC2の内径に、この内径寸法よりも自由状態での外径寸法が大きい成形体B2を挿入することで、成形体の外周面の周方向の2箇所(接触部)が金属製パイプC2の内周面に接触し、成形体が保持される。
【0034】
なお、成形体を金属製パイプに挿入する際の成形体の合い口の向きは、特に限定されないが、合い口を上に向けた状態であれば、ロボットアームなどによって成形体B2を掴むときに、リップ部31b、31b’を軸方向で離れた状態で容易に掴むことができる。また、図5に示すように、成形体B2の合い口B2aを金属製パイプ側に向けた状態(下に向けた状態)で、挿入することで、挿入の際や後続のステップcで成形体の向きを変える際に、合い口の一対の端部が金属製パイプの端部に接触することを防止できる。
【0035】
図4のステップbの状態から、成形体B2の軸方向から倒し冶具Dを通過させることで、金属製パイプC2に対する成形体B2の向きを変える。つまり、金属製パイプから突出した成形体の略半分を押し倒すように倒し冶具Dを作用させて、接触部を支点に成形体を回転させ、成形体を縦向きの状態から横向きの状態に変える(ステップc)。この横向きの状態では、金属製パイプの軸方向に対して成形体の径方向は水平に近い斜めの状態(水平に対して5~35°の傾き)となる。なお、倒し冶具Dとしては、例えば、平板を水平面から所定角度(例えば、30~60度)傾斜させた板や、円筒状のローラなどを用いることができる。
【0036】
その後、ステップdにおいて、成形体B2の上方から押し棒E(圧入冶具)を下降させることによって、成形体の軸方向を金属製パイプの軸方向と略一致させ、さらに、成形体B2を、軸方向に沿って金属製パイプC2の所定位置まで圧入する。ステップbにおいて、成形体B2を金属製パイプC2に直角方向に挿入するとき、合い口の一対のリップ部が軸方向で離れた状態(重ならない)で挿入されているので、ステップdでの押し棒Eによる成形体B2の圧入時に一対のリップ部が突き当たって折れることや、合い口が軸方向に逆向き(一方の端部のポケット部に他方の端部のリップ部が嵌合せずに両方のリップが重なった状態)に熱固定されることを防止することができる。
【0037】
図4のステップb~ステップdを繰り返すことで、複数の成形体が金属製パイプの内径部に圧入され、圧入工程が完了する(ステップe)。この圧入工程の一連のステップでは、成形体は1個ずつ金属製パイプに圧入されるため、複数の成形体を一度に圧入する場合に比べて、圧入時の抵抗を低減することができる。なお、本発明の圧入工程では、従来の圧入工程で用いられる金属製心棒A1は使用しない。
【0038】
本発明の圧入工程では、第1拘束部材として円筒状の金属製パイプを用いたが、円柱状空間を有する部材であれば、形状や材質は特に限定されない。例えば、外形が角状の金属製パイプでもよく、また、材質が金属製でなくてもよい。
【0039】
<(c)熱固定工程>
熱固定工程は、圧入された成形体の内径部に円柱状の第2拘束部材を挿入し、これらを所定温度で加熱する工程である。
【0040】
図7には、円柱状の第2拘束部材を挿入した状態の概略図を示す。図7は第1拘束部材内の成形体の状態を説明するために、第1拘束部材と成形体の一部をカットしたカット図である。図7では、円柱状の第2拘束部材として、樹脂製心棒Fを用いている。樹脂製心棒Fを構成する合成樹脂は、金属製パイプより線膨張係数が大きく、かつシールリングのベース樹脂のガラス転移温度よりも高い耐熱性を有する合成樹脂が用いられる。例えば、金属製パイプがS45C製であり、シールリングのベース樹脂がPEEK樹脂である場合、樹脂製心棒の合成樹脂としては、PTFE樹脂が用いられる。樹脂製心棒が挿入された状態で、一定時間高温雰囲気にすることで、熱固定を行う。熱固定では、樹脂製心棒の熱膨張により成形品の内側から強制力が加わり、金属製パイプと樹脂製心棒との間で、成形体が挟まれる。すなわち、高線膨張係数の樹脂製心棒で圧力をかけることで、成形体の形状を矯正する。なお、第2拘束部材の線膨張係数は、第1拘束部材の線膨張係数の5倍以上であることが望ましい。また、成形体の合成樹脂を含めた線膨張係数の関係は、第2拘束部材>成形体の合成樹脂>第1拘束部材の関係である。
【0041】
熱固定工程では、成形体の内径部に樹脂製心棒が挿入された金属製パイプ(金属製パイプ全体)を電気炉などに投入し、成形品の合成樹脂のガラス転移点以上かつ融点未満の温度で加熱する。例えば、成形品の合成樹脂としてPEEK樹脂を用いた場合には、150~250℃で加熱し、PPS樹脂を用いた場合には、120~200℃で加熱する。
【0042】
熱固定工程によって、自由状態で射出成形後の開いた状態の合い口が閉じた状態に矯正され、外径寸法がハウジングの軸孔寸法と略同じになり、外径形状が真円に形成される。以上、(a)~(c)の工程により、図1に示すようなシールリング1が取得される。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のシールリングの製造方法では、成形体をリングゲージに圧入する際において、かじりや折れといった不具合の発生を防止することができるので、シールリングの製造方法として広く利用できる。
【符号の説明】
【0044】
1 シールリング
2 リング側面
3 合い口
4 回転軸
5 ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8