(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】脱水方法、脱水装置及び膜構造体
(51)【国際特許分類】
B01D 71/02 20060101AFI20220808BHJP
B01D 69/10 20060101ALI20220808BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20220808BHJP
B01D 69/02 20060101ALI20220808BHJP
B01D 61/36 20060101ALI20220808BHJP
C01B 39/48 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D69/02
B01D61/36
C01B39/48
(21)【出願番号】P 2019523949
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021741
(87)【国際公開番号】W WO2018225792
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-01-20
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/008312
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2018/010179
(32)【優先日】2018-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017112634
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】宮原 誠
(72)【発明者】
【氏名】清水 克哉
(72)【発明者】
【氏名】萩尾 健史
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/121889(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121888(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121887(WO,A1)
【文献】特開2016-169139(JP,A)
【文献】特開2016-147801(JP,A)
【文献】特開2016-204245(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0137518(US,A1)
【文献】特開2011-121045(JP,A)
【文献】特開平07-185275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00 - 71/82
C01F 1/44
C01B 39/00 - 39/54
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AFX構造のゼオライト膜を用いて、水を含有する混合物から水を選択的に分離する脱水方法であって、
前記AFX構造のゼオライト膜の供給側空間に前記混合物を供給する工程と、
前記AFX構造のゼオライト膜の前記供給側空間と透過側空間とに圧力差を生じさせる工程と、
を備える脱水方法。
【請求項2】
AFX構造のゼオライト膜が、少なくともSi、Al及びOを含有する、
請求項1に記載の脱水方法。
【請求項3】
AFX構造のゼオライト膜が、多孔質支持体上に形成されている、
請求項1または2に記載の脱水方法。
【請求項4】
多孔質支持体と、前記多孔質支持体上に形成されたAFX構造のゼオライト膜と、前記AFX構造のゼオライト膜の供給側空間と透過側空間とに区画された収容部とを有する分離用容器と、
前記供給側空間を加圧、及び/又は、前記透過側空間を減圧する変圧装置と、
を備える脱水装置。
【請求項5】
AFX構造のゼオライト膜が、少なくともSi、Al及びOを含有する、
請求項4に記載の脱水装置。
【請求項6】
AFX構造のゼオライト膜が、少なくともAFX構造のゼオライトを含む、
請求項4または5に記載の脱水装置。
【請求項7】
支持体と、
前記支持体上に形成されたAFX構造のゼオライト膜と、
を備え、
前記ゼオライト膜は、複数のAFX結晶同士が連結することにより膜状に形成されており、
前記ゼオライト膜表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、(110)面のピーク強度は、(004)面のピーク強度の0.4倍以上かつ2倍以下であり、
前記ゼオライト膜の表面粗さ(Ra)が5μm以下である、
膜構造体。
【請求項8】
前記ゼオライト膜は、少なくともSi、Al及びOを含有する、
請求項7に記載の膜構造体。
【請求項9】
前記ゼオライト膜表面のSiの物質量の割合が、前記ゼオライト膜内部のSiの物質量の割合よりも大きい、
請求項8に記載の膜構造体。
【請求項10】
前記ゼオライト膜は、実質的にPを含有しない、
請求項7乃至9のいずれかに記載の膜構造体。
【請求項11】
前記ゼオライト膜は、50℃における水透過流束が1kg/(m
2・h)以上である、
請求項7乃至10のいずれかに記載の膜構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水方法、脱水装置及び膜構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水を含有する混合物から水を分離(脱水)するために、有機膜及び無機膜が使用されている。しかし、有機膜は耐熱性、耐薬品性に劣るため、A型ゼオライト膜(例えば、非特許文献1参照)やT型ゼオライト膜(例えば、非特許文献2参照)などの無機膜を分離膜として用いる脱水方法が提案されている。また、AFX膜を用いたガス分離方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2016/121887
【文献】WO2016/121889
【非特許文献】
【0004】
【文献】膜支援型メンブレンリアクタの開発、三井造船技報、2003年2月、No.178、115-120
【文献】Y. Cui et al., Zeolite T membrane: preparation, characterization, pervaporation of water/organic liquid mixtures and acid stability, Journal of Membrane Science, 2004, 236, 17-27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に記載のA型ゼオライト膜は、長期間使用するうちに部分的に水に溶解して、脱水性能が低下するおそれがある。また、非特許文献2に記載のT型ゼオライト膜は、A型ゼオライト膜と比較すると耐酸性は高いものの、ERIより細孔の大きいOFF構造のゼオライトが共存している。そのため、OFFの細孔から透過させたくない成分が透過してしまうそれがある上、膜が緻密になり難く、十分な分離性能を発揮できないおそれがある。そのため、長期間使用しても脱水性能の低下を抑制したいという要望がある。
【0006】
また、特許文献1、2に記載のAFX膜では、脱水性能の低下を抑制可能な特徴は明らかにされていない。更に、AFXは結晶成長の異方性が強いため、膜化した場合に、膜を形成するAFX結晶の配向を抑制したり、AFX膜の表面粗さを低減したりすることが難しいという問題がある。
【0007】
本発明は、上述の状況に鑑みてなされたものであり、脱水性能の低下を抑制可能な脱水方法、脱水装置及び膜構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る脱水方法は、AFX構造のゼオライト膜を用いて、水を含有する混合物から水を選択的に分離する脱水方法であって、前記AFX構造のゼオライト膜の供給側空間に前記混合物を供給する工程と、前記AFX構造のゼオライト膜の前記供給側空間と透過側空間とに圧力差を生じさせる工程とを備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、脱水性能の低下を抑制可能な脱水方法、脱水装置及び膜構造体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
(脱水装置)
水を含有する混合物から水を選択的に分離する脱水方法の実施に用いられる脱水装置の一例について、図面を参照しながら説明する。本明細書において、「脱水」とは、水を選択的に分離することを意味する。「水を選択的に分離する」とは、混合物から純度100%の水を分離して取り出すことだけでなく、水の含有率が混合物よりも高い溶液又は気体を分離して取り出すことも含む概念である。
【0012】
図1は、本実施形態に係る脱水装置100の全体構成を示す模式図である。
【0013】
脱水装置100は、収容部10、循環ポンプ20、加熱器30、分離用容器40、捕集部50、減圧装置60、循環経路70及び透過経路80を備える。収容部10、循環ポンプ20、加熱器30及び分離用容器40は、循環経路70に配置される。捕集部50及び減圧装置60は、透過経路80に配置される。
【0014】
収容部10は、処理対象である混合物11を収容する。混合物11は、循環経路70を通って収容部10に循環される。混合物11は、水と水以外の成分を含んでいる。
【0015】
混合物11は、水と有機化合物とを含有していてもよい。有機化合物としては、アルコール、フェノール、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、スルホン酸、エーテル、エステル、アミン、ニトリル、直鎖飽和炭化水素、枝分れ飽和炭化水素、環状飽和炭化水素、鎖状不飽和炭化水素、芳香族炭化水素、含窒素化合物、含硫黄化合物、炭化水素のハロゲン誘導体などを挙げることができる。アルコールとしてはメタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ブタノールなどを挙げることができ、ケトンとしてはアセトン、エチルメチルケトンなどを挙げることができ、カルボン酸としては蟻酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸、シュウ酸、アクリル酸、安息香酸などを挙げることができ、芳香族炭化水素としてはトルエン、ベンゼンなどを挙げることができる。混合物11は、水以外の成分を一種だけ含んでいてもよいし、複数種を含んでいてもよい。
【0016】
循環ポンプ20は、混合物11を分離用容器40側に吐出することによって、混合物11を循環経路70に循環させる。分離用容器40に供給される混合物11の供給流量速度は、後述するセル43内において、1.5m/s以上3.0m/s以下であることが好ましい。或いは、分離用容器40に供給される混合物11の供給流量速度は、レイノルズ数が2000以上10000以下であることが好ましい。
【0017】
加熱器30は、循環経路70を流通する混合物11の温度を、分離用容器40における脱水に適した温度となるように加熱する。効率的に脱水処理を行うには、分離用容器40に供給される混合物11の温度は、50℃以上130℃以下であることが好ましく、55℃以上110℃以下であることがより好ましい。
【0018】
分離用容器40は、収容部41と膜構造体42とを有する。収容部41は、膜構造体42を収容する。収容部41の材質は特に限定されるものではなく、混合物31の性状などに合わせて適宜決定することができる。例えば、混合物31が酸を含有する場合、収容部41は、ガラスやステンレスなどによって構成することができる。
【0019】
収容部41の内部空間は、膜構造体42のうち後述する分離膜45によって、供給側空間4Sと透過側空間4Tとに区画される(
図2参照)。すなわち、膜構造体42の分離膜45は、供給側空間4Sと透過側空間4Tとを隔てる。供給側空間4Sには、混合物11が供給される。混合物11のうち膜構造体42の分離膜45を透過した膜透過物質12は、透過側空間4Tに流出する。膜透過物質12は、水又は水が濃縮された溶液または気体である。膜構造体42の構成については後述する。
【0020】
なお、分離用容器40には、図示しない圧力センサが接続されており、供給側空間4Sの圧力と透過側空間4Tの圧力とを圧力センサによって検出可能である。
【0021】
捕集部50は、透過経路80を介して、分離用容器40と減圧装置60とに接続される。脱水処理を実行する際には、減圧装置60を作動させることによって、捕集部50内を減圧し、更に収容部41内の透過側空間4Tを所定の圧力まで減圧することができる。
【0022】
捕集部50は、減圧操作時の圧力に耐え得る材質によって構成される。例えば、捕集部50は、ガラスやステンレスなどによって構成することができる。
【0023】
捕集部50では、流入してくる膜透過物質12の蒸気を冷却して捕集するための冷媒が用いられてもよい。冷媒は、膜透過物質12の種類、捕集部50内の圧力によって適宜選択することができる。例えば、冷媒としては、液体窒素、氷水、水、不凍液、ドライアイス(固体状の二酸化炭素)、ドライアイスとエタノール(又はアセトン、メタノール)、液体アルゴンなどを使用することができる。
【0024】
ただし、捕集部50は、収容部41の透過側空間4Tを所定の圧力に減圧しつつ膜透過物質12を捕集できる構造であればよく、
図1に示す構造には限られない。
【0025】
減圧装置60は、供給側空間4Sと透過側空間4Tとに圧力差を生じさせるための「変圧装置」の一例である。本実施形態において、減圧装置60は、透過側空間4Tを所定の圧力以下に減圧する。「減圧」は、膜透過物質12の透過側空間4Tでの分圧を低下させることを含む概念である。減圧装置60としては、例えば周知の真空ポンプを用いることができる。
【0026】
なお、透過経路80には、透過側空間4Tの圧力を調節するための圧力制御器が設置されていてもよい。
【0027】
(膜構造体)
図2は、膜構造体42の断面図である。
【0028】
膜構造体42は、多孔質支持体44(支持体の一例)と、AFX構造のゼオライト膜45とを備える。以下の説明では、AFX構造のゼオライト膜45を「AFX膜45」と略称する。
【0029】
1.多孔質支持体44
多孔質支持体44は、AFX膜45を支持する。多孔質支持体44は、その表面にAFX膜45を膜状に形成(結晶化、塗布、或いは析出)できる程度の化学的安定性を有する。
【0030】
多孔質支持体44は、セラミックスの焼結体である。多孔質支持体44の骨材には、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素、セルベン、及びコージェライトなどを用いることができる。多孔質支持体44は、結合材を含有していてもよい。結合材としては、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)などを含むガラス材料を用いることができる。結合材の含有率は、20体積%以上40体積%以下とすることができるが、これに限られるものではない。
【0031】
本実施形態において、多孔質支持体44は、モノリス状に形成されている。モノリス状とは、長手方向に形成された複数のセル43を有する形状であり、ハニカム状を含む概念である。ただし、多孔質支持体44は、処理対象である混合物11をAFX膜45に供給できる形状であればよい。例えば、多孔質支持体44は、平板状、管状、円筒状、円柱状、及び角柱状などの形状であってもよい。多孔質支持体44の表面粗さ(Ra)は、0.1μm~2.0μmが好ましく、0.2μm~1.0μmがより好ましい。多孔質支持体44のRaは、触針式表面粗さ測定機を用いて求めることができる。
【0032】
多孔質支持体44がモノリス状である場合、長手方向の長さは100~2000mmとすることができ、径方向の直径は5~300mmとすることができるが、これに限られるものではない。多孔質支持体44がモノリス状である場合、多孔質支持体44には、直径1~5mmのセル43を30~2500個形成することができる。隣接するセル43の中心軸間の距離は、例えば0.3mm~10mmとすることができる。多孔質支持体44の形状が管状である場合、多孔質支持体44の厚さは、例えば0.1mm~10mmとすることができる。
【0033】
多孔質支持体44は、多数の開気孔を有する多孔質体である。多孔質支持体44の平均細孔径は、流体混合物のうちAFX膜45を透過した膜透過物質12(主に水)を通過させられる大きさであればよい。多孔質支持体44の平均細孔径を大きくすることによって、膜透過物質12の透過量を増加させることができる。多孔質支持体44の平均細孔径を小さくすることによって、多孔質支持体44の強度を増大させることができる。多孔質支持体44の平均細孔径は、例えば0.01μm以上5μm以下とすることができる。多孔質支持体44の平均細孔径は、細孔径の大きさに応じて、水銀圧入法、ASTM F316に記載のエアフロー法、パームポロメトリー法によって測定できる。多孔質支持体44の気孔率は特に制限されないが、例えば25%~50%とすることができる。多孔質支持体44の細孔径の累積体積分布について、D5は例えば0.1μm~50μmとすることができ、D50は例えば0.5μm~70μmとすることができ、D95は例えば10μm~2000μmとすることができる。
【0034】
多孔質支持体44の平均粒径は特に制限されないが、例えば0.1μm以上100μm以下とすることができる。多孔質支持体44の平均粒径とは、SEM(Scanning Electron Microscope)を用いた断面観察によって測定される30個の粒子それぞれの最大直径の算術平均値である。測定対象である30個の粒子は、SEM画像上において無作為に選出すればよい。
【0035】
多孔質支持体44は、細孔径が一様な単層構造であってもよいし、細孔径が異なる複層構造であってもよい。多孔質支持体44が複層構造である場合、AFX膜45に近い層ほど平均細孔径が小さくなっていることが好ましい。多孔質支持体44が複層構造である場合、多孔質支持体44の平均細孔径とは、AFX膜45と接触する最表層の平均細孔径を意味するものとする。多孔質支持体44が複層構造である場合、各層は上述した材料から選択される少なくとも一つの材料によって構成することができ、各層の構成材料は異なっていてもよい。
【0036】
2.AFX膜45
AFX膜45は、水に対する高い耐久性を有しており、長期間に亘って脱水性能を維持することができる。AFX膜45は、多孔質支持体44の内表面に形成される。AFX膜45と多孔質支持体44の間には、AFX構造以外のゼオライトなどが存在していてもよい。本実施形態において、AFX膜45は、筒状に形成される。筒状のAFX膜45の内側の空間は供給側空間4Sであり、筒状のAFX膜45の外側の空間(すなわち、多孔質支持体44側)は透過側空間4Tとなっている。本実施形態において、供給側空間4Sは、セル43である。透過側空間4Tには、多孔質支持体44の外部空間だけでなく、多孔質支持体44自体の内部も含まれる。
【0037】
このように、AFX膜45の一方の面は供給側空間4Sに面し、AFX膜45の他方の面が透過側空間4Tに面している。混合物11を供給側空間4Sに供給すると、AFX膜45の一方の面が混合物11と接触する。この状態で透過側空間4Tが減圧されると、混合物11に含まれる膜透過物質12がAFX膜45を透過する。膜透過物質12は、水又は水が濃縮された溶液または気体である。上述のとおり、AFX膜45を透過した膜透過物質12は、減圧装置60によって吸引されて捕集部50で捕捉される。
【0038】
AFX膜45の厚みは特に制限されないが、0.1μm以上10μm以下とすることができる。AFX膜45の厚みは、結晶どうしを十分に結合させることを考慮すると、0.3μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。AFX膜45の厚みは、熱膨張によるクラックを抑制することを考慮すると、5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0039】
脱水操作時のAFX膜45膜の表面における局所的な劣化を抑制できることから、AFX膜45としては、表面粗さ(Ra)が、5μm以下ものを用いることができる。AFX膜45のRaは、3μm以下がより好ましく、2μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。Raが小さいAFX膜45は、平均粒径と最大粒径を適当な値に制御した種結晶を使用し、低温で成膜することで得ることができる。例えば、種結晶としては、平均粒径が0.5μm以下、最大粒径が1μm以下となるように粉砕したAFX結晶を使用することができる。AFX膜45のRaは、3次元計測が可能な共焦点レーザー顕微鏡を用いて、無作為に選出した100μm角の10視野それぞれにおいて、多孔質支持体44のうねりを補正した上でRaの値を求め、それらのうちの最小値を採用するものとする。
【0040】
AFX膜45は、複数のAFX結晶46同士が連結することにより膜状に形成されている。各AFX結晶46は、AFX構造のゼオライトによって構成される結晶である。AFX構造とは、国際ゼオライト学会(International ZeoliteAssociation)のStructure Commissionが定めているIUPAC構造コードでAFX型となる構造である。
【0041】
AFX結晶46を構成するゼオライトとしては、ゼオライトを構成する酸素四面体(TO4)の中心に位置する原子(T原子)がSiとAlからなるゼオライト、T原子がAlとP(リン)からなるAlPO型のゼオライト、T原子がSiとAlとPからなるSAPO型のゼオライト、T原子がマグネシウム(Mg)とSiとAlとPからなるMAPSO型のゼオライト、T原子が亜鉛(Zn)とSiとAlとPからなるZnAPSO型のゼオライトなどを用いることができる。T原子の一部は、他の元素に置換されていてもよい。
【0042】
なお、親水性を高くでき、脱水性能を向上させることができることから、AFX結晶46は、O原子の他に、T原子として少なくともSiとAlを含有することが好ましく、実質的にPを含有しないことがより好ましい。実質的にPを含有しないとは、T原子に占めるPの割合が5mol%以下であることを意味する。
【0043】
また、膜の耐水性を向上させることができることから、AFX結晶46としては、T原子中のSiの物質量がT原子中のAlの物質量の2倍以上であること、又は、T原子中のPの物質量がT原子中のAlの物質量の2倍以下であることが好ましく、T原子中のSiの物質量がT原子中のAlの物質量の3倍以上であること、又は、T原子中のPの物質量がT原子中のAlの物質量の1.5倍以下であることがより好ましい。なお、各元素の物質量は、エネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて求めることができる。
【0044】
また、膜の耐水性をさらに向上させることができることから、AFX膜45の表面付近におけるAFX結晶46のT原子中のSiの物質量(AFX膜45表面のSiの物質量)の割合は、AFX膜45の内部におけるAFX結晶46のT原子中のSiの物質量(AFX膜45内部のSiの物質量)の割合よりも大きいことが好ましい。(AFX膜45表面のSiの物質量の割合/AFX膜45内部のSiの物質量の割合)は、1.1倍以上であることがより好ましく、1.2倍以下であることが更に好ましく、1.5倍以下であることが特に好ましい。例えば、後述する原料混合液中のT原子源や構造規定剤(SDA)などの割合や水の量を調整することで、AFX膜45表面のSiの物質量の割合をAFX膜45内部のSiの物質量の割合よりも大きくすることができる。
【0045】
AFX膜45表面のSiの物質量の割合は、アルゴンイオンスパッタによってAFX膜45表面の汚染物質を除去した後に、AFX膜45表面におけるSiの原子百分率を、X線光電子分光装置(XPS)を用いて求めることができる。AFX膜45内部のSiの物質量の割合は、AFX膜45の断面において、AFX膜45の表面から1μm以上離れた位置におけるSiの原子百分率を、EDSを用いて求めることができる。
【0046】
AFX結晶46は、複数の酸素8員環細孔を内部に有する。酸素8員環細孔とは、酸素8員環の環からなる細孔である。酸素8員環とは、単に8員環とも称され、細孔の骨格を構成する酸素原子の数が8個であって、酸素原子が前述のT原子と結合して環状構造をなす部分のことである。
【0047】
AFX結晶46は、特定成分に対する吸着性を付与するなどの目的のため、金属や金属イオンを含有していてもよい。このような金属や金属イオンとしては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び遷移金属からなる群から選択される1種以上の金属を挙げることができる。遷移金属としては、具体的には、例えば白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びインジウム(In)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0048】
AFX膜45に熱応力が加わった際のクラックを抑制することで更に長期間に亘って脱水性能を維持できることから、AFX膜45としては、AFX結晶46の配向が抑制されているものを用いることができる。具体的には、膜表面にX線を照射して得られるX線回折パターンにおいて、(110)面のピーク強度が、(004)面のピーク強度の0.4倍以上かつ2倍以下となるものを用いることができる。例えば、粉砕によって不定形とするなどして異方性を低減した種結晶を使用し、低温で成膜することで、配向を抑制したAFX膜45を得ることができる。
【0049】
ピーク強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いた値を意味する。X線回折パターンは、X線回折装置(リガク社製、型式MiniFlex600)を用いて、AFX膜45の膜表面にCuKα線を照射することによって得られる。照射条件は、例えば、X線出力:600W(管電圧:40kV、管電流:15mA)、走査速度:0.5°/min、走査ステップ:0.02°、CuKβ線フィルタ:0.015mm厚Ni箔とすることができる。(004)面のピークは2θ=17~18°付近に、(110)面のピークは2θ=13°付近に観察される。
【0050】
(膜構造体42の製造方法)
1.多孔質支持体44の作製
押出成形法、プレス成形法又は鋳込み成形法などを用いて、セラミックス原料を所望の形状に成形することによって成形体を形成する。
【0051】
次に、成形体を焼成(例えば、900℃~1450℃)することによって、多孔質支持体44を形成する。多孔質支持体44の平均細孔径は、0.01μm以上5μm以下とすることができる。
【0052】
なお、多孔質支持体44を多層構造とする場合には、焼成した成形体の表面にろ過法などを用いてセラミックス原料を含むスラリーを塗布した後に焼成すればよい。
【0053】
2.種結晶の作製
ケイ素源やアルミニウム源などのT原子源、及び構造規定剤(SDA)などを純水に溶解・分散させることによって原料混合液を調製する。例えば、AFX結晶が、T原子がSiとAlからなるゼオライトの場合、ケイ素源、アルミニウム源、アルカリ金属源、及び構造規定剤(SDA)などを純水に溶解・分散させることによって原料混合液を調製することができる。また、AFX結晶が、T原子がSiとAlとPからなるSAPO型のゼオライトの場合、ケイ素源、アルミニウム源、リン源、構造規定剤(SDA)などを純水に溶解・分散させることによって原料混合液を調製することができる。
【0054】
ケイ素源としては、例えばコロイダルシリカ、ヒュームドシリカ、テトラエトキシシラン、ケイ酸ナトリウムなどを用いることができる。
【0055】
アルミニウム源としては、例えばアルミニウムイソプロポキシド、水酸化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、Y型ゼオライトなどを用いることができる。Y型ゼオライトには、例えば市販のY型ゼオライト(例えば、商品名:HSZ-320NAA、東ソー株式会社製)を用いることができる。アルカリ金属源としては、ナトリウム源、カリウム源、ルビジウム源などを用いることができる。ナトリウム源には、例えば水酸化ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、フッ化ナトリウムなどを用いることができる。カリウム源には、例えば水酸化カリウム、塩化カリウム、フッ化カリウムなどを用いることができる。ルビジウム源には、例えば水酸化ルビジウム、塩化ルビジウム、フッ化ルビジウムなどを用いることができる。
【0056】
リン源としては、例えばリン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウムなどを用いることができる。
【0057】
構造規定剤としては、例えば1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアットジブロミド、水酸化1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアット、水酸化1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C5-ジクアット、1,4-ビス(1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン)ブチルジブロミド、水酸化1,4-ビス(1-アゾニアビシクロ[2.2.2]オクタン)ブチル、N,N’-ビス-トリエチルペンタンジイルジアンモニウム、1,3-ジ(1-アダマンチル)イミダゾリウムブロミド、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミンなどを用いることができる。
【0058】
次に、原料混合液を圧力容器に投入して水熱合成(130~200℃、10~200時間)することによって、AFX結晶を合成する。合成された結晶がAFX結晶であることは、合成された結晶を回収して純水で十分に洗浄して完全に乾燥させた後、X線回折測定によって結晶相を観察することによって確認できる。
【0059】
次に、合成されたAFX結晶を10~20mass%となるように純水に投入して、ボールミルで7日間粉砕することによってAFX種結晶を作製する。
【0060】
3.AFX膜45の形成
AFX種結晶を水、エタノールやイソプロパノールなどのアルコール、あるいはそれらの混合溶媒に分散させた種結晶分散溶液を調製する。
【0061】
次に、多孔質支持体44のセル43の内表面にAFX種結晶を付着させる。
【0062】
次に、ケイ素源やアルミニウム源などのT原子源、及び構造規定剤(SDA)などを純水に溶解・分散させることによって原料混合液を調製する。
【0063】
次に、AFX種結晶が付着した多孔質支持体44を原料混合液に浸漬して水熱合成(130~200℃、10~200時間)することによって、AFX膜45を合成する。
【0064】
次に、合成したAFX膜45を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させる。そして、AFX膜45を500℃で20時間加熱処理することでSDAを燃焼除去して、AFX膜45内の細孔を貫通させる。
【0065】
(脱水方法)
本発明に係る脱水方法は、AFX膜45の両面に圧力差を設けることによって、水を含有する混合物11から水を選択的に分離するものである。
【0066】
具体的には、AFX膜45の供給側空間4Sに混合物11を供給することによって、AFX膜45の一方の面に混合物11を接触させた後、AFX膜45の透過側空間4Tを減圧することによって、AFX膜45に水を選択的に透過させて分離するものである。
【0067】
本発明に係る脱水方法では、水に対する耐久性の高いAFX膜45を分離膜として使用するため、長期間に亘って脱水性能を維持することができる。
【0068】
なお、混合物11を液体の形態で供給する場合にはパーベーパレーション(Pervaporation)法を用いることができ、混合物11を気体または超臨界ガスの形態で供給する場合にはベーパーパーミエーション(Vapor permeation)法を用いることができる。
【0069】
パーベーパレーション法を用いる場合、AFX膜45の供給側空間4Sの圧力は特に制限されないが、大気圧であることが好ましい。AFX膜45の透過側空間4Tの圧力は特に制限されないが、8×104Pa以下であることが好ましく、1×10-2~5×104Paであることが更に好ましく、1×10-1~2×104Paであることが特に好ましい。また、混合物11の温度は特に制限されないが、50~160℃であることが好ましく、60~150℃であることが更に好ましい。このように、低い温度で混合物11の分離を行うことができるため、多くのエネルギーを使用せずに分離することができる。混合物11が160℃より高温であるとエネルギーコストが大きくなることがあり、50℃より低温であると分離速度が遅くなることがある。
【0070】
また、ベーパーパーミエーション法を用いる場合、AFX膜45の供給側空間4Sの圧力は特に制限されないが、1×105~2.5×107Paであることが好ましく、分離速度の観点からはより高い圧力が好ましい。供給側空間4Sと透過側空間4Tの圧力差が2.5×107Pa以上になると、AFX膜45に損傷を与えることや、気密性が低下する場合ある。AFX膜45の透過側空間4Tの圧力は、供給側空間4Sの圧力より低い圧力であればよいが、8×104Pa以下であることが好ましく、1×10-2~5×104Paであることが更に好ましく、1×10-1~2×104Paであることが特に好ましい。また、混合物11の温度は特に制限されないが、50℃以上であることが好ましく、100~400℃であることが更に好ましく、100~200℃であることがエネルギーコストの点から特に好ましい。50℃より低温であると分離速度が遅くなることがある。400℃より高温では、膜を劣化させることがある。
【0071】
AFX膜45は、脱水性能を高くできることから、50℃における水透過流束が1kg/(m2・h)以上であることが好ましく、1.5kg/(m2・h)以上であることが更に好ましく、2kg/(m2・h)以上であることが特に好ましい。水透過流束は、50℃に加温した純水をAFX膜45の供給側空間4Sに供給し、AFX膜45の透過側空間4Tを50Torrに減圧し、AFX膜45を透過した水蒸気を回収することで求めることができる。
【0072】
また、AFX膜45は、脱水操作における水の透過選択性を高くできることから、50℃のエタノール水溶液に対する水選択性が10以上であることが好ましく、20以上であることが更に好ましく、50以上であることが特に好ましい。水選択性は、50℃に加温した50質量%エタノール水溶液をAFX膜45の供給側空間4Sに供給し、AFX膜45の透過側空間4Tを50Torrに減圧し、AFX膜45を透過した蒸気を回収して得られた液体の水濃度(質量%)を「透過水濃度」、エタノール濃度(質量%)を「透過エタノール濃度」とし、(透過水濃度/透過エタノール濃度)として求めることができる。
【0073】
(他の実施形態)
上記実施形態では、
図1,2を参照しながら分離用容器40の構造について説明したが、これに限られるものではない。分離用容器40は、収容部41と膜構造体42とを備え、上述した脱水方法を実行できる構造であればよい。
【0074】
上記実施形態において、脱水装置100は、「変圧装置」の一例として、透過側空間4Tを減圧する減圧装置60を備えることとしたが、減圧装置60に代えて、供給側空間4Sを加圧する加圧装置を備えていてもよいし、減圧装置60に加えて、供給側空間4Sを加圧する加圧装置を備えていてもよい。
【実施例】
【0075】
以下において本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0076】
(実施例1)
1.多孔質支持体の作製
アルミナ原料を含む坏土を用いて、押出成形法により複数の貫通孔をもつモノリス形状の成形体を形成し、焼成した。
【0077】
次に、焼成した成形体の、貫通孔の表面にアルミナを主とした多孔質層を形成し、再度焼成することによって、多孔質支持体を形成した。多孔質支持体の膜を形成する部分の表面における平均細孔径は、65~110nmの範囲であった。
【0078】
2.種結晶の作製
コロイダルシリカ、Y型ゼオライト(商品名:HSZ-320NAA、東ソー株式会社製)、水酸化ナトリウム、及び、構造規定剤(SDA)である1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン-C4-ジクアットジブロミドを純水に溶解・分散させることによって、組成が23SiO2:1Al2O3:10Na2O:2.8SDA:450H2Oの原料混合液を調製した。
【0079】
次に、原料溶液を圧力容器に投入して水熱合成(150℃、50時間)した。
【0080】
次に、水熱合成によって得られた結晶を回収して純水で十分に洗浄した後、65℃で完全に乾燥させた。
【0081】
その後、X線回折測定によって結晶相を確認したところ、得られた結晶はAFX結晶であった。
【0082】
次に、合成したAFX結晶を10~20mass%となるように純水に投入し、ボールミルで7日間粉砕することによって、AFX種結晶を作製した。SEM(電子顕微鏡)によってAFX種結晶の外形を確認したところ、得られたAFX種結晶は不定形状であり、粒径は0.01~0.3μm、平均粒径はおよそ0.2μmであった。
【0083】
3.AFX膜の形成
AFX種結晶をエタノールに分散させた種結晶分散溶液を調製した。
【0084】
次に、多孔質支持体のセル内で種結晶分散溶液をろ過することによって、AFX種結晶を多孔質支持体のセル内表面に付着させた。
【0085】
次に、コロイダルシリカ、アルミン酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、及び、構造規定剤(SDA)である1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]-オクタン-C4-ジクアットジブロミドを純水に溶解させることによって、組成が17.5SiO2:1Al2O3:10Na2O:2.8SDA:6000H2Oの原料混合液を調製した。
【0086】
次に、AFX種結晶が付着した多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成(130℃、50時間)することによって、AFX膜を合成した。
【0087】
次に、合成したAFX膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。次に、AFX膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、AFX膜内の細孔を貫通させた。
【0088】
4.分離耐久試験
上述のようにして得られたAFX膜を用い、
図1に示す分離試験装置を用いて、分離試験を実施した。
【0089】
まず、50℃に加温した50質量%エタノール水溶液を循環ポンプで循環させることで、分離用容器の供給側空間にエタノール水溶液を供給した。
【0090】
次に、真空ポンプにてAFX膜の多孔質支持体側(透過側空間)を圧力制御器により50Torrに制御しながら減圧し、AFX膜を透過した蒸気を液体窒素トラップで回収した。液体窒素トラップで回収した液体のエタノール濃度を「熱水処理前エタノール濃度」とした。また、AFX膜の水選択性は50以上であった。
【0091】
次に、AFX膜を分離試験装置から取り外し、圧力容器中で純水に浸漬して熱水処理(130℃、50時間)した。
【0092】
次に、AFX膜を純水で十分に洗浄した後、200℃で完全に乾燥させた。
【0093】
次に、熱水処理したAFX膜を用いて、上記分離試験を再度実施した。液体窒素トラップで回収した液体のエタノール濃度を「熱水処理後エタノール濃度」とした。
【0094】
その結果、「熱水処理後エタノール濃度」は、「熱水処理前エタノール濃度」の1.5倍以下であることが分かった。また、水選択性も50以上を維持していることが分かった。
【0095】
5.水透過試験
50質量%エタノール水溶液の代わりに純水を用いて、水透過試験を実施した。
【0096】
まず、50℃に加温した純水を循環ポンプで循環させることで、分離用容器の供給側空間に温水を供給した。
【0097】
次に、真空ポンプにてAFX膜の多孔質支持体側(透過側空間)を圧力制御器により50Torrに制御しながら減圧し、AFX膜を透過した水蒸気を液体窒素トラップで回収した。液体窒素トラップで回収した水の量から、水透過流束を求めた。
【0098】
その結果、AFX膜の水透過流束は2kg/(m2・h)以上であることが分かった。
【0099】
このように、得られたAFX膜は、水透過性能が高く、熱水安定性が高く、更に脱水性能が低下しにくい膜であることが分かった。
【0100】
そして、AFX膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(110)面のピーク強度は、(004)面のピーク強度の0.7倍であった。これにより、実施例1に係るAFX膜では、AFX結晶の配向が抑制されていることが確認された。また、AFX膜の表面粗さ(Ra)は2μm以下であった。
【0101】
(実施例2)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0102】
2.種結晶の作製
国際公開第2010/90049号に記載の手法に従って水熱合成(160℃、16時間)することによってDDR結晶を合成し、それを十分に洗浄した。DDR結晶の平均粒子径は、190nmであった。得られたDDR結晶をビーズミルで90分粉砕することによって、結晶性を低下させたDDR結晶を作製した。
【0103】
次に、コロイダルシリカ、アルミニウムイソプロポキシド、85%リン酸、及び構造規定剤(SDA)であるN,N,N’,N’-テトラメチルジアミノヘキサンを純水に溶解させることによって、組成が2.5SDA:0.75SiO2:1Al2O3:1.25P2O5:50H2Oの原料混合液を調製した。
【0104】
次に、原料溶液にDDR結晶を少量添加して圧力容器に投入した後、水熱合成(195℃、30時間)した。
【0105】
次に、水熱合成によって得られた結晶を回収して純水で十分に洗浄した後、65℃で完全に乾燥させた。
【0106】
その後、X線回折測定によって結晶相を確認したところ、得られた結晶はAFX結晶であった。
【0107】
次に、合成したAFX結晶を10~20mass%となるように純水に投入し、ボールミルで7日間粉砕することによって、AFX種結晶を作製した。SEM(電子顕微鏡)によってAFX種結晶の外形を確認したところ、得られたAFX種結晶は不定形状であり、粒径は0.01~0.3μm、平均粒径はおよそ0.2μmであった。
【0108】
3.AFX膜の形成
AFX種結晶をエタノールに分散させた種結晶分散溶液を調製した。
【0109】
次に、多孔質支持体のセル内で種結晶分散溶液をろ過することによって、AFX種結晶を多孔質支持体のセル内表面に付着させた。
【0110】
次に、コロイダルシリカ、アルミニウムイソプロポキシド、85%リン酸、及び構造規定剤(SDA)であるN,N,N’,N’-テトラメチルジアミノヘキサンを純水に溶解させることによって、組成が1.7SDA:0.75SiO2:1Al2O3:1.25P2O5:305H2Oの原料混合液を調製した。
【0111】
次に、AFX種結晶が付着した多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成(150℃、50時間)することによって、AFX膜を合成した。
【0112】
次に、合成したAFX膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。次に、AFX膜を500℃で20時間加熱処理することによってSDAを燃焼除去して、AFX膜内の細孔を貫通させた。
【0113】
4.分離耐久試験
上述のようにして得られたAFX膜を用い、実施例1と同様にして、分離試験を実施した。液体窒素トラップで回収した液体のエタノール濃度を「熱水処理前エタノール濃度」とした。また、AFX膜の水選択性は10以上であった。
【0114】
実施例1と同様にして、熱水処理を実施し、分離試験を再度実施した。液体窒素トラップで回収した液体のエタノール濃度を「熱水処理後エタノール濃度」とした。
【0115】
その結果、「熱水処理後エタノール濃度」は、「熱水処理前エタノール濃度」の2.0倍以下であることが分かった。また、水選択性も10以上を維持していることが分かった。
【0116】
5.水透過試験
さらに、実施例1と同様にして、水透過試験を実施した。
【0117】
その結果、AFX膜の水透過流束は1kg/(m2・h)以上であることが分かった。
【0118】
このように、得られたAFX膜は、水透過性能が高く、熱水安定性が高く、更に脱水性能が低下しにくい膜であることが分かった。
【0119】
そして、AFX膜の膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、(110)面のピーク強度は、(004)面のピーク強度の1.8倍であった。これにより、実施例2に係るAFX膜では、AFX結晶の配向が抑制されていることが確認された。また、AFX膜の表面粗さ(Ra)は5μm以下であった。
【0120】
(比較例1)
1.多孔質支持体の作製
実施例1と同じ工程で多孔質支持体を作製した。
【0121】
2.種結晶の作製
市販のNaA型ゼオライト(LTA構造のゼオライト)結晶を10~20mass%となるように純水に投入し、ボールミルで6時間間粉砕することによって、LTA種結晶を作製した。SEM(電子顕微鏡)によってLTA種結晶の外形を確認したところ、得られたLTA種結晶は不定形状であり、粒径は0.01~0.3μm、平均粒径はおよそ0.2μmであった。
【0122】
3.LTA膜の形成
LTA種結晶を純水に分散させた種結晶分散溶液を調製した。
【0123】
次に、多孔質支持体のセル内で種結晶分散溶液をろ過することによって、LTA種結晶を多孔質支持体のセル内表面に付着させた。
【0124】
次に、硫酸アルミニウム、シリカゾル、水酸化ナトリウムを純水に溶解させることによって、組成が1Al2O3:4SiO2:40Na2O:1600H2Oの原料混合液を調製した。
【0125】
次に、LTA種結晶が付着した多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成(100℃、10時間)することによって、LTA膜を合成した。
【0126】
次に、合成したLTA膜を純水で十分に洗浄した後、90℃で完全に乾燥させた。
【0127】
4.分離耐久試験
上述のようにして得られたLTA膜を用い、実施例1と同様にして、分離試験を実施した。液体窒素トラップで回収した液体のエタノール濃度を「熱水処理前エタノール濃度」とした。
【0128】
実施例1と同様にして、熱水処理を実施し、分離試験を再度実施した。液体窒素トラップで回収した液体のエタノール濃度を「熱水処理後エタノール濃度」とした。
【0129】
その結果、「熱水処理後エタノール濃度」は、供給したエタノール水溶液とほぼ同じであり、「熱水処理前エタノール濃度」の2.0倍よりも大きいことが分かった。
【0130】
このように、得られたLTA膜は熱水安定性が低く、脱水性能が低下しやすい膜であることが分かった。
【符号の説明】
【0131】
11 混合物
12 膜透過物質
40 分離用容器
41 収容部
42 膜構造体
43 セル
44 多孔質支持体
45 AFX構造のゼオライト膜(AFX膜)
46 AFX構造のゼオライト結晶(AFX結晶)
50 捕集器
60 減圧装置
100 脱水装置
4S 供給側空間
4T 透過側空間