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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】光学フィルタおよび分光計
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/20 20060101AFI20220808BHJP
   G01J 3/26 20060101ALI20220808BHJP
   G01J 3/36 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
G02B5/20
G01J3/26
G01J3/36
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020216141
(22)【出願日】2020-12-25
(62)【分割の表示】P 2019034471の分割
【原出願日】2015-01-29
(65)【公開番号】P2021073484
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-01-22
(31)【優先権主張番号】61/934,547
(32)【優先日】2014-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502151820
【氏名又は名称】ヴァイアヴィ・ソリューションズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Viavi Solutions Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】カーチス アール フルスカ
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン エフ キャッチング
(72)【発明者】
【氏名】パウラ スミス
【審査官】中山 佳美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-253078(JP,A)
【文献】特開2002-247455(JP,A)
【文献】特開2009-276691(JP,A)
【文献】特開2009-145224(JP,A)
【文献】特開2002-268120(JP,A)
【文献】特開平10-213482(JP,A)
【文献】米国特許第05784158(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/20
G01J 3/26
G01J 3/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学フィルタであって、
上流側横方向可変バンドパス光学フィルタと、
下流側横方向可変バンドパス光学フィルタと、
前記上流側横方向可変バンドパス光学フィルタよりも光学ビームの光路の上流に設けられた開口と、を含み、
前記上流側横方向可変バンドパス光学フィルタ及び前記下流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、それぞれ、前記光路に垂直な第1の方向に沿って、相互に連係して漸次変化し、それにより互いに同じ依存度を有するバンドパス中心波長を有し、
前記上流側横方向可変バンドパス光学フィルタ及び前記下流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、前記光路において空隙により離間され、
前記開口の幅は前記第1の方向に沿って一方向に進むにしたがって狭くなる、光学フィルタ。
【請求項2】
前記上流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、透明基板上に堆積された第1の薄膜ウェッジ付き干渉コーティングを備え、
前記下流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、透明基板上に堆積された第2の薄膜ウェッジ付き干渉コーティングを備える、請求項1に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記第1の薄膜ウェッジ付き干渉コーティング及び前記第2の薄膜ウェッジ付き干渉コーティングは、前記光路において互いに対向する、請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載された光学フィルタと、
光検出器アレイと、を備え、
前記光検出器アレイは、前記光学フィルタの前記下流側横方向可変バンドパス光学フィルタよりも前記光学ビームの前記光路の下流に設けられている、光学分光計。
【請求項5】
前記光学ビームを出射する光源をさらに備え、前記光学ビームは集束光線又は拡散光線を含む、請求項4に記載の光学分光計。
【請求項6】
前記光検出器アレイは、前記第1の方向に沿って配置した画素を有する、請求項4又は5に記載の光学分光計。
【請求項7】
前記下流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、前記光検出器アレイ上に直接取り付けられている、請求項4から6のいずれか一項に記載の光学分光計。
【請求項8】
前記下流側横方向可変バンドパス光学フィルタ及び前記光検出器アレイは、空隙により離間される、請求項4から6のいずれか一項に記載の光学分光計。
【請求項9】
前記光検出器アレイを深冷処理する光学熱電冷却器を更に備える、請求項4から8のいずれか一項に記載の光学分光計。
【請求項10】
前記光学ビームを入射させる窓を光路中に設けた筐体を更に備え、
前記窓は前記上流側横方向可変バンドパス光学フィルタを含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の光学分光計。
【請求項11】
前記筐体は、気密密閉され、及び/又は不活性ガスを充填される、請求項10に記載の光学分光計。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2014年1月31日に出願された米国特許出願第61/934,547号
の優先権を主張するものであり、この先の出願の開示全体をここに参照のために取り込む
【技術分野】
【0002】
本発明は、光学部品に関し、特に、光学フィルタおよび分光計等に関する。
【背景技術】
【0003】
光学フィルタを用いて、入射光のスペクトル帯域またはスペクトル成分を選択すること
が行われている。例えば、ハイパスフィルタにより、当該フィルタの端波長よりも長い波
長を選択する。逆に、ローパスフィルタにより、当該フィルタの端波長よりも短い波長を
選択する。バンドパスフィルタは、特異なタイプのフィルタであり、当該フィルタの帯域
幅内において、当該フィルタの中心波長に近似する波長の光を選択する。チューナブルバ
ンドパスフィルタは、光学フィルタであり、その中心波長は調節または調整することがで
きる。
【0004】
分光計は、入射光の光学スペクトルを測定する。走査型分光計は、1つ以上のチューナ
ブルバンドパスフィルタを用いて、入射光の種々のスペクトル成分を選択する。走査型分
光計は、チューナブルバンドパスフィルタの中心波長を操作することにより動作し、光学
スペクトルを測定する。代案として、ポリクロメータ型分光計は、検出器アレイに光学的
に接続した波長分散素子を用いて、光学スペクトルのパラレル検出を行う。しかしながら
、従来の光学フィルタおよび分光計は、一般に、大規模で嵩高であり、可搬性デバイスお
よび用途においての使用には問題があった。
【0005】
上記に鑑みれば、光学フィルタおよび分光計に関する現行の解決策および技術について
は顕著な問題点および欠点等が存在しうることが理解されよう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示によれば、2つ以上の横方向可変バンドパスフィルタを互いに一定の距離を隔て
て積み重ね、入射光線のコリメート化に関連する要件を削減することができ、また、ひい
ては、テーパ状ライトパイプまたは別の光平行化素子を設ける必要性を完全になくすこと
ができる。2つの横方向可変バンドパスフィルタを積み重ねた場合、上流側フィルタが下
流側フィルタについての空間フィルタとして機能する。これは、上流側フィルタを透過し
た斜光線が下流側フィルタに入射する際に横方向にずれるために起こる。この横方向への
ずれが生じた結果、斜光線が抑制される。なぜなら、上下流側フィルタ上における光線入
射位置が重複しない場合、上下流側フィルタそれぞれの透過波長は重複せず、結果として
斜光線の抑制につながるからである。この効果により、上流側フィルタに衝突する入射光
線の光平行性(degree of collimation)に対する光学フィルタの分光選択性の依存度を
小さくすることができる。
【0007】
本開示の一態様による光学フィルタは、上流側横方向可変バンドパス光学フィルタと、
下流側横方向可変バンドパス光学フィルタと、を備える。下流側横方向可変バンドパス光
学フィルタは、上流側横方向可変バンドパス光学フィルタの下流に、光学ビームの光路に
沿って距離Lだけ離間して順次設けられ、上流側横方向可変バンドパス光学フィルタおよ
び下流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、それぞれ、光路に垂直な共通の第1の方
向沿って、相互に連係して漸次変化するバンドパス中心波長を有する。光学ビームの光平
行性に対する光学フィルタの分光選択性の依存度は、対応する光学ビームの光平行性に対
する下流側フィルタの分光選択性の依存度と比べて小さい。
【0008】
例示的な一実施形態において、上流側フィルタおよび下流側フィルタの中心波長は、第
1の方向に、単調に、例えば、線形に、または非線形に増加する。上流側フィルタおよび
下流側フィルタの中心波長は、必ずではないが、そのバンドパス中心波長の第1の方向に
沿ったx座標に対する依存度が実質的に等しくしてもよい。
【0009】
さらに、本開示によれば、下流側横方向可変バンドパス光学フィルタ下流の光路中に配
置した上記光学フィルタおよび光学センサを備える光学分光計を提供する。光学センサは
光検出器アレイを備えてもよい。下流側横方向可変バンドパスフィルタは光検出器アレイ
と接触させて、さらに良好な分光選択性を得てもよい。
【0010】
さらに、本開示の別の態様によれば、光路に沿って伝播する光学ビームのスペクトルを
得る方法を提供する。本方法は、上流側横方向可変バンドパス光学フィルタおよび下流側
横方向可変バンドパス光学フィルタを備える光学フィルタで光学ビームをフィルタリング
するステップと、下流側横方向可変バンドパス光学フィルタの下流において第1の方向に
沿った光パワー分布を検出するステップと、を含み、フィルタリングするステップにおい
て、下流側横方向可変バンドパス光学フィルタは、上流側横方向可変バンドパス光学フィ
ルタの下流に、光学ビームの光路に沿って距離Lだけ離間して順次設けられ、上流側横方
向可変バンドパス光学フィルタおよび下流側横方向可変バンドパス光学フィルタのバンド
パス中心波長は、それぞれ、光路に垂直な共通の方向である第1の方向に沿って相互に連
係して漸次変化し、光学ビームの光平行性に対する光学フィルタの分光選択性の依存度は
、光学ビームの光平行性に対する下流側フィルタの分光選択性の対応する依存度と比べて
小さい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、従来のリニア可変フィルタを示す図である。
図1B図1Bは、図1Aのリニア可変フィルタに基づく従来の光学分光計を示す図である。
図2図2Aは、1対の横方向可変バンドパスフィルタを備える本発明による光学フィルタを示す図である。図2Bは、図2Aに示す横方向可変バンドパスフィルタそれぞれの中心波長依存性を示す図である。図2Cは、図2Aに示す光学フィルタの側面模式図であり、当該光学フィルタによる空間フィルタリングの原理を示す図である。
図3図3は、図2Aの光学フィルタの側断面図であり、同光学フィルタの受光角を示す図である。
図4図4Aは、図2Aおよび図3に示す光学フィルタの種々の実施形態の模式断面図を示す図である。図4Bは、図2Aおよび図3に示す光学フィルタの種々の実施形態の模式断面図を示す図である。図4Cは、図2Aおよび図3に示す光学フィルタの種々の実施形態の模式断面図を示す図である。図4Dは、図2Aおよび図3に示す光学フィルタの種々の実施形態の模式断面図を示す図である。図4Eは、図2Aおよび図3に示す光学フィルタの種々の実施形態の模式断面図を示す図である。
図5図5Aは、本発明の光学フィルタの種々の実施形態の立体図である。図5Bは、本発明の光学フィルタの種々の実施形態の立体図である。図5Cは、本発明の光学フィルタの種々の実施形態の立体図である。
図6図6Aは、図2A図3図4A図4E、または図5A図5Cに示す各光学フィルタおよび光検出器アレイを備える分光計の側断面図であり、図6Bは、図2A図3図4A図4E、または図5A図5Cに示す各光学フィルタを備える密封した分光計の模式側断面図である。図6Aは、図2A図3図4A図4E、または図5A図5Cに示す各光学フィルタおよび光検出器アレイを備える分光計の側断面図であり、図6Bは、図2A図3図4A図4E、または図5A図5Cに示す各光学フィルタを備える密封した分光計の模式側断面図である。
図7図7Aは、図6Aに示す分光計の種々の実施形態の部分側断面図であり、光検出器アレイ上に下流側フィルタを取り付ける各構成を示す図である。図7Bは、図6Aに示す分光計の種々の実施形態の部分側断面図であり、光検出器アレイ上に下流側フィルタを取り付ける各構成を示す図である。図7Cは、図6Aに示す分光計の種々の実施形態の部分側断面図であり、光検出器アレイ上に下流側フィルタを取り付ける各構成を示す図である。図7Dは、図6Aに示す分光計の種々の実施形態の部分側断面図であり、光検出器アレイ上に下流側フィルタを取り付ける各構成を示す図である。
図8A図8Aは、傾斜した二次元(2D)検出器アレイを有する分光計の実施形態を示す平面図である。
図8B図8Bは、図8Aの2D検出器アレイのそれぞれ異なる画素列上における光パワー密度分布を示す図である。
図8C図8Cは、本発明の一実施形態によるマルチスペクトル分光計の分解図である。
図9A図9Aは、図2A図3、および図4Bの光学フィルタの光学レイトレーシングモデルの立体図を示す図である。
図9B図9Bは、図2A図3、および図4Bの光学フィルタの光学レイトレーシングモデルの側面図を示す図である。
図10図10は、図9Aおよび図9Bの光学レイトレーシングモデルの開口数および上下流側フィルタ間の距離をそれぞれ異ならせた場合についてのシミュレートした光パワー分布を示す重畳図である。
図11A図11Aは、1.0μmの波長について検出した、各シミュレートした光学スペクトルを示す図である。
図11B図11Bは、1.3μmの波長について検出した、各シミュレートした光学スペクトルを示す図である。
図11C図11Cは、1.6μmの波長について検出した、各シミュレートした光学スペクトルを示す図である。
図12図12は、図2A図3A図3B,および4Bの各シミュレートした光学フィルタの分解能を示す、シミュレートした双対光学スペクトル(dual-line optical spectrum)を示す図である。
図13図13は、図2Aの光学フィルタを有するシミュレートした分光計のマルチ波長スペクトルを、テーパ状ライトパイプコリメータおよびリニア可変フィルタを有するシミュレートした分光計のマルチ波長スペクトルと比較して示す図である。
図14図14は、図2Aの光学フィルタを有する分光計を用い、それぞれ異なるフィルタ間距離Lについて計測したマルチ波長光源のシミュレートしたスペクトルを示す図である。
図15図15Aは、図6Aに示す分光計の平面図(図15B)である。図15Bは、図6Aに示す分光計の平面図(図15B)である。
図16図16は、図15Aおよび図15Bに示す分光計を用いて測定した単色スペクトルを示す図である。
図17図17は、図15A図15Bの分光計を用いて測定したドープしたガラス試料の光透過スペクトルを示す図であり、標準的なMicroNIR(商標)分光計を用いて測定したドープしたガラス試料の透過スペクトルとの比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例示的な実施形態を添付の図面を参照して以下に説明する。
【0013】
本発明を種々の実施形態および実施例に関連して説明するが、本発明をそのような実施
形態等に限定することを意図したものではない。むしろ、本発明は種々の代替物および等
価物を包含するものであることが当業者には理解されよう。
【0014】
上述したように、従来の光学フィルタおよび分光計は大規模かつ嵩高であるため、可搬
性光検出装置および用途への適用が制限される。分光計においてリニア可変フィルタを用
いて波長分離機能を実現することが行われてきた。図1Aを参照すると、従来のリニア可
変フィルタ10は白色光で照明することができ、白色光は、上部白色光線11、中部白色
光線12、および下部白色光線13を有する。上部白色光線11、中部白色光線12、お
よび下部白色光線13は、それぞれ、上部位置11A、中部位置12A、および下部位置
13Aのそれぞれの位置において、リニア可変フィルタ10に衝突しうる。リニア可変フ
ィルタ10は、通過帯域の中心波長がx軸18に沿って直線的に変化するものであっても
よい。例えば、フィルタ10は、上部位置11Aにおいては短波長ピーク11Bを、中部
位置12Aにおいては中波長ピーク12Bを、下部位置13Aにおいては長波長ピーク1
3Bを通過させるものとすることができる。
【0015】
図1Aをさらに参照しつつ図1Bを参照すると、従来の分光計19は、リニア可変フィ
ルタ10、リニア可変フィルタ10の上流に設けたテーパ状ライトパイプ14、および、
リニア可変フィルタ10の下流に設けた光検出器のリニアアレイ15を備えることができ
る。動作中、コリメートされていない入射光16をライトパイプ14により調整して部分
的にコリメートした光線17を生成してもよい。リニア可変フィルタ10は、先に図1A
を参照して説明したように、異なる波長の光を透過させることができる。テーパ状ライト
パイプ14は入射光16の立体角を減少することができ、それによってリニア可変フィル
タ10の分光選択性が向上する。光検出器のリニアアレイ15によって異なる波長におけ
る光パワーレベルを検出することにおり、入射光16の図示しない光学スペクトルを得る
ことができる。
【0016】
したがって、分光計19を小型化することが望ましい。テーパ状ライトパイプ14は、
分光計19において最も大きい素子である場合が多い。テーパ状ライトパイプ14等のコ
リメータ素子が必要とされるのは、それなしではリニア可変フィルタの分光選択性が低下
するからである。分光選択性の低下が起こりうるのは、リニア可変フィルタ10が誘電性
薄膜の積層を備えているためである。薄膜フィルタの波長選択性は、一般に、入射光の入
射角に依存しうるため、薄膜フィルタの分光選択性および波長精度が低下しうる。
【0017】
図2Aおよび図2Bを参照すると、光学フィルタ20(図2A)は次のようにして設け
ることができる。例えば、光学フィルタ20は、光学ビーム23の光路22中に距離Lだ
け離間して順次配置した上流側横方向可変バンドパス光学フィルタ21Aおよび下流側横
方向可変バンドパス光学フィルタ21Bを備えてもよい。図2Bに示すように、上流側フ
ィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bは、それぞれ、x軸により表される共通の第1
の方向25に沿って相互に連係して変化するバンドパス中心波長λを有してもよい。第
1の方向25は、光路22と垂直であってもよい。非限定的な例として、図2Aの上流側
フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bのバンドパス中心波長λは、どちらも、図
2Bに示すような単調な線型従属24A、24Bを有しうる。上流側フィルタ21Aおよ
び下流側フィルタ21Bの中心波長依存性λ1T(x)およびλ2T(x)は、それぞれ
、x座標上において互いに同一であっても、または、例えば、を定数とするλ2T(x)
=λ1T(x+x)のように互いにずれていてもよく、または、cを例えば0.9<c
<1.1の定数として、λ2T(x)=cλ1T(x)のように拡大縮小してもよい。す
なわち、用語「連係して」とは、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bそれ
ぞれの中心波長依存性λ1T(x)およびλ2T(x)間の所定の機能的関連性を定義す
るものである。
【0018】
光学フィルタ20の構成により、光学ビーム23の光平行性に対する光学フィルタ20
の分光選択性の依存度を、光学ビーム23の光平行性に対する下流側フィルタ21Bの分
光選択性の対応する依存性と比べて減少させることができる。このように光学フィルタ2
0の性能が向上するのは、図2Cから分かるように、空間フィルタリング効果から生じう
るものである。波長λにおける単色光において、上流側フィルタ21Aおよび下流側フ
ィルタ21Bは、中心波長λ=λである場合にx軸に沿った位置に対応する「開口」
26を有するスリットによって近似的に表すことができる。すなわち、「開口」26の外
では、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bは、波長λにおける単色光を
基本的に通さない。「開口」26により受光コーンすなわち立体角27(2θ)が画定さ
れるが、この角度はフィルタ間距離Lに依存する。立体角27外側の光線をすべて遮るこ
とにより、下流側フィルタ21Bの分光選択性が向上しうる。
【0019】
図2Aの光学フィルタ20の動作を、光学フィルタ20を側断面図で示す図3を参照し
てさらに説明する。図3において、第1の方向25は水平とすることができ、上流側光学
フィルタ21Aおよび下流側光学フィルタ21Bそれぞれの中心波長λはいずれも左か
ら右に増加しうる。図3の例において、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21
Bのバンドパス中心波長λはx座標に直線的に依存しうる。
【0020】
λ=λ+DΔx (1)
【0021】
式中、λは、基準点xにおける基準バンドパス中心波長を表し、Dは、横方向可変
フィルタの「スロープ」と称される比例係数を表し、Δxは基準点xからのオフセット
を表す。スロープDは、図2Bにおける線型従属24Aおよび24Bの各スロープに相当
しうる。線型従属24Aおよび24Bは互いに同一であってもよいが、必須ではない。用
途によっては、線型従属24Aおよび24Bが同一のスロープからずれている方が有利な
場合がある。
【0022】
図3に示す実施例において、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bを相互
に位置合わせして、下流側フィルタ21Bの基準バンドパス中心波長λに相当する基準
点xが上流側フィルタ21Aの基準バンドパス中心波長λに相当する基準点xの直
下に配置されるようにする。上流側フィルタ21Aは下流側フィルタ21Bの空間フィル
タとして機能してもよく、下流側フィルタ21Bについて受光角30を画定する。受光角
30は、それぞれ、基準波長λにおける、左側の周縁光線31Lおよび右側の周縁光線
31Rにより制限してもよく、左側の周縁光線31Lおよび右側の周縁光線31Rは、法
線32について角度θで上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bのそれぞれに
伝播して、同じ基準点xで下流側フィルタ21Bに衝突する。受光角30は、上流側フ
ィルタ21Aの通過帯域(パスバンド)33Aから以下のように導出することができる。
【0023】
図3に示す形態において、左側の周縁光線31Lが位置x-Δxにおいて上流側フィ
ルタ21Aに衝突する。当該位置における透過波長λは、式(1)によれば、λ=λ
-DΔxとすることができる。左側の周縁光線31Lは基準波長λにあるため、左側
の周縁光線31Lは、上流側フィルタ21Aのパスバンド33Aの幅に応じて減衰されう
る。本例示では、例えば、10dB帯域幅を2DΔxとしている。よって、左側の周縁光
線31Lは、10dBだけ減衰されうる。同様に、右側の周縁光線31Rは、位置x
Δxにおいて上流側フィルタ21Aに衝突する。当該位置における透過波長λは、式(
1)によれば、λ=λ+DΔxとすることができる。右側の周縁光線31Rも、10
dBだけ減衰されうる。基準波長λにおいて受光角30内にある全ての光線は10dB
よりも小さい値だけ減衰しうる。また、参照波長λにおいて受光角30外にある全ての
光線は10dBよりも大きい値だけ減衰しうる。すなわち、上流側フィルタ21Aは空間
フィルタとして機能し、入射光の開口数(NA)を効果的に制限して、下流側フィルタ2
1Bにより個々の波長に分離することができる。その結果、光学フィルタ20の分光選択
性の光学ビーム23の光平行性に対する依存度を、下流側フィルタ21Bを単独で用いた
場合の分光選択性の当該依存度と比べ、減少させることができる。すなわち、もし光学フ
ィルタ20中に上流側フィルタ21Aがなかったら、光学フィルタ20の分光選択性は、
光学ビームの光平行性に対してはるかに大きく依存するであろう。一般に、光学ビーム2
3は、図示しない試料からの拡散または発光により生じうるものであり、光学ビーム23
はコリメートされない。上流側フィルタ21Aの不在により光学ビーム23がコリメート
されないと、分光選択性の全体的な悪化につながり、テーパ状ライトパイプ等の専用のコ
リメータ素子を使用しなければならなくなる。本明細書中、用語「分光選択性」は、パス
バンド幅、迷光除去率、インバンドおよびアウトオブバンドブロッキング等のパラメータ
を含みうる。
【0024】
小角度θについて、次のように記述できる。
【0025】
θ≒Δx/L (2)、すなわち
【0026】
L≒Δx/θ (3)
【0027】
上流側フィルタ21Aと下流側フィルタ21Bとの間の空間に屈折率nを有する透明な
媒体を充填すると、式(3)は次のようになる。
【0028】
L/n≒Δx/θ (4)
【0029】
式(4)によれば、上流側フィルタ21Aの帯域幅および結果として生じる受光半角に
関する、フィルタ間の距離Lと、フィルタ間の空隙の屈折率nと、第1の方向25に沿っ
た横方向距離Δxとの間のおおよその関連性を定義することができる。一般に、入射の非
ゼロ角による波長オフセットによりバンドパス中心波長λの青方偏移(すなわち、短波
長側へのずれ)が生じるが、より正確な関連性を得るため、この波長オフセットを考慮し
てもよい。例えば、位置x+Δxにおいて上流側フィルタ21Aに衝突する、参照波長
λにおける右側の周縁光線31Rは角度θだけ傾斜することができ、それによって上流
側フィルタ21Aの透過特性が短波長側へずれる。この波長依存性を説明しようとするな
らば、パスバンド33Aの肩が左へ、すなわち、短波長側へずれる:
【0030】
λ≒[(λ+DΔx)(neff -θ1/2]/neff (5)
【0031】
式中、neffは、上流側フィルタ21Aの有効屈折率を表す。
【0032】
図2Bにおいて、上流側横方向可変バンドパスフィルタ21Aおよび下流側横方向可変
バンドパスフィルタ21Bは、上記式(1)に定義したリニア可変バンドパス中心波長λ
を有するが、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bの中心波長λは単調
であっても、非直線的であってもよく、例えば、放物線状または指数関数的であってもよ
く、第1の方向25に増加しても減少してもよい。上流側横方向可変フィルタ21Aおよ
び下流側横方向可変フィルタ21Bのx座標に対する第1の方向25に沿ったバンドパス
中心波長λの依存度を一致させるかまたは異ならせて、光学フィルタ20の受光角およ
び/または波長応答性をトゥイーキングまたは変化させることができる。一実施形態にお
いて、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bのバンドパス中心波長λを互
いに位置合わせして、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bの同一のバンド
パス中心波長λに対応する位置同士を結ぶ線が、下流側フィルタ21Bの法線32に対
してなす角度が45度未満となるようにしてもよい。法線32に対して非ゼロ角度の場合
、受光コーン30が傾いているように見える場合がある。よって、上流側フィルタ21A
および下流側フィルタ21Bを互いに第1の方向25にオフセットすることにより受光コ
ーン30の方向を変化させることができる。さらに、この角度は第1の方向(x軸)25
に沿って変化する。
【0033】
全体のスループットを向上するため、第1の方向25に沿って横方向距離Δxを有す
ることが好ましく、これは、第1の方向25に沿った当該横方向距離Δxよりも大きい
上流側フィルタ21Aの帯域幅に相当し、下流側フィルタ21Bの帯域幅に相当する。一
実施形態において、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bは、それぞれ、対
応するバンドパス中心波長λの10%に相当する3dBのパスバンドを有してもよい。
【0034】
上流側フィルタ21Aおよび/または下流側フィルタ21Bは、2つ、3つ、またはそ
れ以上の異なる材料を含む薄膜積層を含むことができ、例えば、高指数および/または吸
収層等を用いて、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bそれぞれの全体的な
厚さを減少することができる。さらに、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21
Bは、例えば、準波長格子、二色性ポリマー等の回折格子を含んでもよい。
【0035】
図4Aを参照すると、光学フィルタ40Aの上流側フィルタ21Aおよび下流側フィル
タ21Bは、背中合わせに接合した基板42Aおよび42Bのそれぞれに堆積した薄膜ウ
ェッジ付き干渉コーティング41Aおよび41Bを備えることができる。基板42Aおよ
び42Bは、上流側薄膜ウェッジ付き干渉コーティング41Aと下流側薄膜ウェッジ付き
干渉コーティング41Bとの間において、屈折率nを有する透明媒体として機能すること
ができる。図4Bを参照すると、光学フィルタ40Bにおいては単一の共通基板42を用
いることができ、この共通基板42の両側に上流側薄膜ウェッジ付き干渉コーティング4
1Aおよび下流側薄膜ウェッジ付き干渉コーティング41Bを設ける。共通基板42は、
図4Cに示すように、ウェッジ状とすることができ、光学フィルタ40Cの上流側薄膜ウ
ェッジ付き干渉コーティング(フィルタ)41Aおよび下流側薄膜ウェッジ付き干渉コー
ティング(フィルタ)41Bを互いに傾けて配置できるようにする。この場合、距離Lは
第1の方向25に沿って変化しうる。距離Lが変化することにより、上流側フィルタ41
Aおよび下流側フィルタ41B間のスペクトル傾斜の不整合、および上流側フィルタ41
Aおよび下流側フィルタ41B間でのスペクトル線幅の差異を制御するのに役立つ。その
目的のため、屈折率nも、距離Lを一定または可変として、第1の方向25に沿って変化
させてもよい。
【0036】
図4Dに、光学フィルタの別の構成を示す。同図において、上流側薄膜ウェッジ付き干
渉コーティング41Aおよび下流側薄膜ウェッジ付き干渉コーティング41Bは、離間し
て配置した状態で、互いに対向しうる。図4Eに示す別の実施形態による光学フィルタ4
0Eの上流側薄膜ウェッジ付き干渉コーティング41Aおよび下流側薄膜ウェッジ付き干
渉コーティング41Bはいずれも同一方向、例えば、この場合は光学ビーム23を向いて
いる。
【0037】
式(4)を再度参照しつつ図2Aおよび図4A~4Cをさらに参照すると、値L/nは
一般に0.2mmよりも大きくてもよい。一実施形態において、値L/nは、15mm未
満とすることができ、例えば、0.2mmと15mmとの間とすることができる。距離L
は、実際の薄膜コーティング間の距離、例えば、図4A図4Cの41Aと41Bとの間
の距離に相当しうること、また、もし基板42、42A、および/または42Bが、薄膜
コーティング41Aと41Bとの間の光路22中にある場合、これらの基板の厚さを含み
うることが理解されよう。非限定的な例として、図4Bの光学フィルタ40Bにおいて、
基板42は厚さLを有し、基板42は屈折率nを有してもよい。
【0038】
ここで図5Aを参照すると、光学フィルタ50Aは、図2Aの光学フィルタ20と同様
であっても、図4A~4Eの光学フィルタ40A~40Eと同様であってもよい。しかし
ながら、図5Aの光学フィルタ50Aは光路22において開口51Aを有しうる。開口5
1Aは、第1の方向25に変化する幅dを有してもよい。開口51Aの幅dを変化させる
目的の一つは、光学フィルタ50Aに入射する光エネルギー量を調節することであり、こ
の光エネルギー量を用いて、上流側フィルタ21A/下流側フィルタ21Bの出力転送の
大きさの波長依存性および/または分光器アレイ(図示せず)のスペクトル反応を補償す
ることができる。
【0039】
図示はしないが、補償フィルタを用いて、フィルタのスペクトル反応および/または光
検出器のスペクトル反応をより正確に制御することができる。図5Bを参照すると、光学
フィルタ50Bは、図2Aの光学フィルタ20と同様であってもよく、また、図4A~図
4Eの光学フィルタ40A~40Eと同様であってもよい。スペクトル反応平坦化フィル
タ51Bを光学フィルタ50Bの光路22中に配置して、光学フィルタ50Bのスペクト
ル反応を平坦化してもよい。図5Bに示すスペクトル平坦化フィルタ50Bは上流側フィ
ルタ21A上に配置するものとしたが、スペクトル平坦化フィルタ50Bは、下流側フィ
ルタ21B上に設けても、および/または上流側フィルタ21Aと下流側フィルタ21B
との間の光路22中に設けてもよい。
【0040】
ここで図5Cを参照すると、光学フィルタ50Cは図2Aの光学フィルタ20と同様で
あってもよく、図4A~4Eの光学フィルタ40A~40Eと同様であってもよい。しか
しながら、図5Cの光学フィルタ50Cは、光路22中に付加的なフィルタ21Cを備え
てもよい。付加的なフィルタ21Cの有するバンドパス中心波長は、上流側フィルタ21
Aおよび下流側フィルタ21Bのバンドパス中心波長それぞれと連係して変化させてもよ
い。付加的なフィルタ21Cは、また、ハイパスまたはローパス横方向可変フィルタ、回
折格子等の分散素子、スペクトル的におよび/または横方向に可変な吸収率を有するコー
ティングを備えてもよい。付加的なフィルタ21Cの機能として、入射光の入射開口数を
さらに規定し、および/または光学フィルタ20の解像度をさらに向上することが挙げら
れる。光学フィルタ50Cにおいて、3つ以上の横方向可変バンドパスフィルタ21A、
21B、・・・21N(Nは任意の整数を表す)を用いることができる。
【0041】
図2Aをさらに参照しつつ図6Aを参照すると、光学分光計60A(図6A)は、図2
Aの光学フィルタ20および下流側フィルタ21Bの下流の光路22中に設けた光検出器
アレイ61を備えることができる。光検出器アレイ61は、第1の方向25に沿って配置
した画素62を有し、例えば、光源69から出射した光学ビーム23の個々のスペクトル
成分の光パワーレベルを検出することができる。広義には、用語「光源」とは、蛍光性ま
たは散乱性の試料、例えば、吸収率測定等に用いる実際の光源を指す。例えば、発光性お
よび/または散乱性の試料から生じる光学ビーム23は、通常、集束光線または拡散光線
を含む。本明細書において、用語「拡散」は、光学ビーム23を含む各光線が同じ単一の
点から生じることを要さない。同様に、用語「集束」は、光学ビーム23を含む各光線が
単一の点に集束することを要さない。図2Cおおよび図3を参照して先に説明したように
、光学フィルタ20が、上流側バンドパス横方向可変光学フィルタ21Aおよび下流側バ
ンドパス横方向可変光学フィルタ21Bを含む二段階フィルタ構造を有することにより、
光学ビーム23の光平行性に対する光学分光計60Aの分光選択性の依存度が減少する。
すなわち、もし上流側フィルタ21Aを用いずに下流側フィルタ21Bのみを用いた場合
、光学分光計の分光選択性は光学ビーム23の光平行性に対してより大きく依存しうるた
め、結果的に分光選択性が全体的に悪化する。
【0042】
光検出器アレイ61は、下流側フィルタ21Bと直接接触していてもよい。光検出器ア
レイ61に注封材料を充填して、カプセル封入63してもよい。カプセル封入63の目的
の一つは、光学フィルタ20の下流側フィルタ21Bの開口部64を覆うことなく、光検
出器アレイ61の電気的および/または熱的絶縁を図ることにある。カプセル封入63の
別の目的は、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bの端縁を衝撃、湿気等か
ら保護することにある。
【0043】
図2Aおよび図6Aをさらに参照しつつ図6Bを参照すると、光学分光計60B(図6
B)は、図2Aの光学フィルタ20、および下流側フィルタ21B下流の光路22中に設
けた光検出器アレイ61を備える。光学分光計60Bは、光学ビーム23を入射させる窓
67を光路22中に設けた筐体66を備える。図示した実施形態において、窓67は上流
側フィルタ21Aを備えてもよく、上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bは
、例えばエアギャップ等の空隙65により離間される。下流側フィルタ21Bを光検出器
アレイ61上に直接取り付けてもよい。一実施形態において、下流側フィルタ21Bと光
検出器アレイ61との間には、例えば2mm以下の小空隙があってもよい。
【0044】
空隙65により、光検出器アレイ61を筐体66から熱的に分離することが可能となり
、一方で、光検出器アレイ61を光学熱電冷却器68によって深冷処理することができる
ようになる。筐体66は、気密密閉して、および/または不活性ガスを充填して、信頼性
および環境安定性を向上する。図示しない集束素子を下流側フィルタ21Bと光検出器ア
レイ61との間の光路22中に設けて、光学ビーム23を光検出器アレイ61上に集束さ
せる。光検出器アレイ61以外のセンサを用いてもよい。非限定的な例として、光学フィ
ルタ20に対して光検出器を第1の方向25に並進移動させることができる。
【0045】
下流側フィルタ21Bを取り付ける別の方法として、下流側フィルタ21Bの薄膜構造
を光検出器アレイ61上に直接堆積することが挙げられる。非限定的な例として、図7A
および図7Bにおいて、下流側フィルタ21Bは、光検出器アレイ61の画素側61Aに
堆積してもよい。いくつかの実施形態において、下流側フィルタ21Bは、2枚の遮蔽フ
ィルタ部71および該2枚の遮蔽フィルタ部71の間のバンドパスフィルタ部72を含む
、ウェッジ状薄膜フィルタとすることができる。
【0046】
図7Bにおいて、特に、個々の画素62間に光吸収マスク73を設置して、個々の画素
62を迷光から遮蔽してもよい。図7Cにおいて、代替的な取付方法を説明する。下流側
フィルタ21Bを光検出器アレイ61の背面に取り付ける。もちろん、この代替的な取付
の方法によれば、光検出器アレイ61の基板61Cは光学ビーム23に対して透明でなけ
ればならない。有利には、この背面取付けによれば、駆動回路チップ74を光検出器アレ
イ61の画素側61Aにフリップチップ接合することが可能となる。図7Dを参照すると
、複数の平行溝76を例えばエッチングにより設け、各溝76に黒色充填剤75を注入す
ることにより下流側フィルタ21Bをセグメント化することができる。各溝76の位置は
、光吸収マスク73のバー77にそれぞれ整合させてもよい。
【0047】
図6Aおよび図6Bをさらに参照しつつ図8Aを参照すると、分光計80Aの部分平面
図が示される。図8Aの分光計8Aは、図6Aおよび図6Bの分光計60Aおよび60B
と同様であってもよい。しかしながら、図8Aの分光計80Aは、複数の個々に独立した
光検出画素82を有する二次元(2D)光検出器アレイ88を含むことができる。この2
D光検出器アレイ88を、光学フィルタ20の画素82の列84に対して鋭角αで回転す
なわちクロックすると、単色光照射した際に、光検出器アレイ31上において、2D光検
出器アレイ88の画素82の列84に対して角度をなすスペクトル線83を形成すること
ができる。図8Aをさらに参照しつつ図8Bを参照すると、角度αで回転すなわちクロッ
キングすることにより、2D光検出器アレイ88の画素82の異なる列84上の光パワー
密度分布85が互いにオフセットされうる。このようにして、1つのスペクトルに代えて
、複数のオフセットスペクトルが得られ、スペクトル分解能および波長精度を向上するこ
とが可能となる。例えば、脱回旋および個々の光パワー密度分布85の平均化により、信
号雑音比も向上しうる。
【0048】
ここで図8Cを参照すると、分光計80Cは、図8Aの分光計80Aの変形例とするこ
とができる。図8Cの分光計80Cも2D光検出器アレイ88を備えることができる。図
8Cにおいて、2D光検出器アレイ88は、図8Aに示すように傾いていてもいなくても
よい。図8Cの分光計80Cは、さらに、図2Aの光学フィルタ20における対応する上
流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bと同様の、すなわち、光学ビーム23の
光路22に垂直な第1の方向25に沿って相互に連携して漸次変化するバンドパス中心波
長を有する、上流側フィルタ81Aおよび下流側フィルタ81Bをさらに備えることがで
きる。図8Cにおいて、上流側フィルタ81Aおよび下流側フィルタ81Bは、それぞれ
、第1の方向25に直交する第2の方向87に並んで配置した複数のセグメント89A-
1、89A-2、89A-3(上流側フィルタ81A)・・・および89B-1、89B
-2、89B-3(下流側フィルタ81B)を備えてもよい。上流側フィルタ81Aのセ
グメント89A-1、89A-2、89A-3・・・はそれぞれ、下流側フィルタ81B
のセグメント89B-1、89B-2、89B-3のうちの1つに対応し、専用の波長域
において動作する。非限定的な例として、セグメント89A-1および89B-1を第1
のセグメント対として1000nm~1200nmの波長域において動作するように構成
し、セグメント89A-2および89B-2を第2のセグメント対として1200nm~
1400nmの波長域において動作するように構成し、セグメント89A-3および89
B-3を第3のセグメント対として1400nm~1600nmの波長域において動作す
るように構成する等することができる。各波長域は連続している必要はない。その他の各
波長域、例えば、可視波長または近赤外(IR)、中赤外、紫外(UV)、ひいては軟X
線等について複数のセグメントを設けてもよい。よって、分光計80Cは、マルチスペク
トル感知および/またはマルチスペクトル撮像用途等に好適である。これらのマルチスペ
クトル感知/マルチスペクトル撮像用途等には、適切な基板およびコーティング材を必要
とすることが当業者には理解されよう。
【0049】
図2を再度参照すると、光路22に沿って伝播する光学ビーム23のスペクトルを測定
する方法は、距離Lだけ離間した上流側横方向可変バンドパス光学フィルタ21Aおよび
下流側横方向可変バンドパス光学フィルタ21Bを有する光学フィルタ20で光学ビーム
をフィルタリングすることを含む。図2Bに示すように、上流側フィルタ21Aおよび下
流側フィルタ21Bは、それぞれ、光路22に垂直な共通の第1の方向25に沿って相互
に連係して(例えば、24A、24B)漸次変化するバンドパス中心波長λを有しても
よい。上流側フィルタ21Aおよび下流側フィルタ21Bを順次配置したことで、光学ビ
ーム23の光平行性に対する、光学フィルタの分光選択性、例えば、帯域幅、帯域外減衰
等の依存度は、下流側フィルタ21Bを単独で用いた場合の光学ビーム23の光平行性に
対する分光選択性の対応する依存度よりも小さくなる。
【0050】
本方法の次のステップにおいて、光パワー分布を、下流側フィルタ21Bの下流におい
て、第1の方向25に沿って検出してもよい。例えば、図6A図6B、および図8A
再度参照すると、光検出器アレイ61(図6A図6B)または2D光検出器アレイ88
図8A)を下流側フィルタ21Bの下流に設け、光検出器アレイ61または88を用い
て光パワー分布を検出してもよい。図6Aおよび図7A図7Cを再度参照すると、下流
側フィルタ21Bは、光検出器アレイ61上に、例えば、堆積させる等して直接設けても
よい。ここで、光検出器アレイ61は、下流側フィルタ21Bの開口部64を覆うことな
く、注封材料で充填して絶縁してもよい。
【0051】
いくつかの実施形態において、レイトレースシミュレーションを行って、図2Aの光学
フィルタ20Aおよび本開示による同様のフィルタの性能を検証することができる。図9
Aおよび図9Bを参照すると、レイトレースモデル90には、ランベルト光源99、矩形
開口96、上流側横方向可変バンドパスフィルタ91A、長さLを有する透明スペーサ9
2、下流側横方向可変バンドパスフィルタ91B、および光検出器97を順次設けること
ができる。レイトレースモデル90の各入力パラメータの概要を以下の表1に示す。例え
ば、十分な数の光線93をトレースして、再現性のある結果を得た。光線93は、それぞ
れ、既定の波長を有し、既定の光パワーを伝達するものであった。光パワー読取り値は、
図2Aの第1の方向25に相当する拡散方向95に沿って配列した光検出器97の各ビン
(bins)に蓄積した。定数パラメータとして、例えば、ランベルト光源99から開口96
までの距離を3mm、光検出器の大きさを6.6mm×0.25、光検出器97の貯蔵容
器または画素数を838とした。可変パラメータとして、上流側横方向可変バンドパスフ
ィルタ91Aおよび下流側横方向可変バンドパスフィルタ91Bの帯域幅(%)および開
口数(NA)(Fナンバー(F/#))、および透明スペーサ92の厚さ等が挙げられる
。ランベルト光源99から、8つの波長、すなわち0.95μm、1.05μm、1.1
5μm、1.25μm、1.35μm、1.45μm、1.55μm、および1.65μ
mの光を出射した。
【0052】
【表1】
【0053】
図10に、シミュレーション結果を、図9Aおよび図9Bの光学レイトレースモデル9
0の光検出器97の各ビンに蓄積された光パワー分布の形で示す。最上部のグラフ100
は、「参照モデル」、すなわち、シミュレートした市販のMicroNIR(商標)分光
計であって光をコリメートするテーパ状ライトパイプを有するものに対応する。グラフ1
01~104は、それぞれ、上記表1の参照モデル1~4に対応する。
【0054】
図11A図11B、および図11Cを参照すると、1.0μm、1.3μm、および
1.6μmのそれぞれの波長について、さらに詳細なスペクトル性能をシミュレートする
ことができる。モデル1~4は、はるかに良好な波長精度および同様の分光選択性を示し
たことが分かる。図12を参照すると、1.3μm、0.12μmそれぞれにおける双対
スペクトル線を用いてモデル1~3の分解能が実証されている。図10図11A図1
1C、および図12に示す結果において、モデル1~4はテーパ状ライトパイプまたは別
の光平行化素子を有していなかったが、モデル1~4の示すスペクトル帯域幅は許容範囲
であったことを理解されたい。参照モデルからテーパ状ライトパイプを除いた場合、参照
モデルの分光選択性は許容範囲を超えて低くなる。
【0055】
表2に、モデル1~4のシミュレートした性能の概要を示す。
【0056】
【表2】
【0057】
図6Aの光学フィルタ60Aの性能はシミュレーションにより実証してもよい。開口ブ
ーツ、テーパ状ライトパイプ、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)ダイオードアレ
イを含む標準的なMicroNIR(商標)分光計の性能も参照用にシミュレートした。
図13を参照すると、標準的なMicroNIR(商標)分光計の性能は、0.1μmず
つ離間した、0.9μm~1.7μmの間のマルチ波長信号破線スペクトル131により
表すことができる。実線スペクトル132は、いかなるコリメート用光学部品または光成
形光学部品も有しない分光計60Aのシミュレートした性能を示す。各スペクトルピーク
間の迷光の一部は、使用波長域用に最適化していないコーティングに起因する。両測定地
の照明条件は同一とした。
【0058】
図14を参照すると、マルチ波長スペクトル140A~140Gは、図2Aの光学フィ
ルタ20を用い、フィルタ間距離Lを0.2mm~30mmの範囲で変化させて行ったシ
ミュレーションにより得たものである。フィルタ間距離Lが大きくなると、フィルタのス
ループットが減少し、迷光141の帯域外減衰が改善することがわかる。これは、フィル
タ間距離Lが大きくなるにつれ、光学フィルタ20(図2C図3)の受光コーン2θが
縮小するからであると考えられる。
【0059】
図15Aを参照すると、分光計150は、窓152を有するハウジング151を備える
ことができる。光学フィルタ153は、図示しない下流側横方向可変フィルタ(図示せず
)から物理的に2.08mm離間した上流側横方向可変フィルタ(図示せず)を備えるこ
とができる。上流側フィルタの有するパスバンドは、図15Aではわからないが、130
0nmの中心波長の1.3%かつ900nm~1700nmの範囲とすることができる。
光学フィルタ153の最上部にある上流側フィルタは、幅2mm、長さ8mm、および厚
さ1.1mmとすることができる。下流側フィルタのパスバンドは1300nmの中心波
長の0.8%かつ900nm~1700nmの範囲とすることができる。下流側フィルタ
は、幅1.4mm、長さ7.4mm、および厚さ1.5mmとすることができる。図示し
ない標準的な128画素検出器アレイを下流側フィルタから80マイクロメートル離して
設けた。電子ドライバ154を用いて検出器アレイを駆動した。
【0060】
光学フィルタ153および電子ドライバ154も、図15Aの拡大図である図15B
、実線で象徴的に図示されている。図15Bに示すように、長さ5mmのスケールバー1
56を用いることができる。
【0061】
ここで、図16を参照すると、図15Aおよび図15Bに示す分光計150を用いて出
射スペクトル161および162を得た。2つのレーザ光源から波長1064nmおよび
1551nmにおいて出射した光は、今度は、積分球上に向けられて、切換可能な出射波
長を有するランベルト照明源を生成した。光検出器の積分回数を調節して、両スペクトル
が同じピーク振幅を有するようにした。なぜなら、各レーザのパワー出力レベルがそれぞ
れ異なったからである。その他の分光または空間フィルタは用いずに各測定を行った。積
分球形は、25mmのポートを有し、上流側フィルタから35mm離して設けた。スペク
トル161および162の両方において、波長分解能は、光検出アレイの画素構造により
制限されうる。1065nmにおける機器3dB帯域幅は、1.2%×1065nm=1
2.8nmと推定しうる。1550nmにおける機器3dB帯域幅は、0.82%×15
50nm=12.7nmと推定しうる。
【0062】
図17を参照すると、透過スペクトル171および172は、アメリカ国立標準技術研
究所(National Institute of Standards and Technology(NIST))認証の透過基準(この
場合は、アビアンドープガラス基準(Avian doped glass reference)WCT2065-
025)をハロゲンランプの前に設置して測定したものである。実線で示した第1のスペ
クトル171は、図15Aおよび図15Bの分光計150nを用いて測定した。点線で示
す第2のスペクトル172は、ジェイディーエス・ユニフェーズ社(JDS Uniphase Corpo
ration)(米国カリフォルニア州ミルピタス)製の標準的なMicroNIR1700分
光計を用いて測定したものである。
【0063】
両方の場合において、光源を遮り、暗状態参照スペクトルを収集した。光路から上記の
ドープガラス基準を取り除くことにより、白状態参照スペクトルを収集した。第1のスペ
クトル171が第2のスペクトル172に密接に関連しているとがわかる。第1のスペク
トル171の測定は、図15Aおよび図15Bに示す分光計150の前に幅1mmの開口
を設置して行った。開口が無い場合、分解能が僅かに減少するが、積分(データ収集)回
数は3分の1に減少した。
【0064】
上記の明細書において、種々の実施形態を添付の図面を参照しつつ説明したが、種々の
修正および変更を加えることができ、以下に示す特許請求の範囲に示された本開示の広範
な範囲を逸脱することなく付加的な実施形態を実施可能であることは明らかである。よっ
て、明細書および図面は、限定的な意味ではなく、むしろ、例示的な意味に解すべきであ
る。
【0065】
この点に関し、本開示による光学フィルタおよび分光計は、上述したように、入力デー
タの処理および出力データの生成をある程度含みうることに留意されたい。この入力デー
タの処理および出力データの生成は、ハードウエアまたはソフトウエアにおいて実施する
ことができる。例えば、特定の電子部品をプロセッサ、モジュール、または同様の関連回
路において用いて、上記の本開示による光学フィルタおよび/または分光計と関連する機
能を実施することができる。代案として、命令により動作する1つ以上のプロセッサによ
り、上記した本開示に関連する機能を実施することもできる。その場合、そのような命令
を1つ以上のプロセッサ可読記憶媒体(例えば、磁気ディスクまたはその他の記憶媒体)
に記憶したり、1つ以上の搬送波により体化した1つ以上の信号を介して1つ以上のプロ
セッサに送信したりすることも、本開示の技術範囲に含まれる。
【0066】
本開示は、本明細書に記載した特定の実施形態の範囲に限定されない。むしろ、本明細
書に記載した実施形態に加え、その他の種々の実施形態および変更例が、上記の記載およ
び添付の図面から当業者には明らかになるであろう。よって、そのような他の実施形態お
よび変更例も本開示の範囲内とすべきことを企図したものである。さらに、本開示は、本
明細書においては、特定の目的のための特定の環境における特定の実施の文脈において説
明したが、当業者は、その有用性はそれらに限定されるものではなく、本開示は、幾多の
環境において幾多の目的のために有利に実施しうるものであることを理解されよう。よっ
て、添付の特許請求の範囲は、本明細書に記載した本開示の全ての効果および趣旨を考慮
して定められるべきものである。
図1A
図1B
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8A
図8B
図8C
図9A
図9B
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16
図17