(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】水素ガスセンサ並びに周囲圧力下及び高い圧力下における水素の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/39 20060101AFI20220808BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20220808BHJP
【FI】
G01N21/39
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2020532705
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 NO2018050313
(87)【国際公開番号】W WO2019117730
(87)【国際公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-11-29
(32)【優先日】2017-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NO
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517432282
【氏名又は名称】ネオ モニターズ アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】NEO MONITORS AS
(74)【代理人】
【識別番号】100207837
【氏名又は名称】小松原 寿美
(74)【代理人】
【識別番号】100214640
【氏名又は名称】立山 千晶
(72)【発明者】
【氏名】アヴェティソフ、ヴャチェスラフ
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-026830(JP,A)
【文献】特開2013-134236(JP,A)
【文献】特開2012-233900(JP,A)
【文献】特開平09-222394(JP,A)
【文献】特開平05-079976(JP,A)
【文献】特表2012-510048(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0076209(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0044562(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0073687(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/01
G01N 21/17 - G01N 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の干渉ガスを含む可能性のあるガスマトリックスを含むターゲットガス(500)中の水素ガス(H2)の濃度を測定する調整可能なレーザー分光法に基づくガス分析器であって、
送信機部(600)及び受信機部(650)であって、前記送信機部(600)は、レーザービーム(2100)の形態でレーザー光を出射するように構成された調整可能なレーザー(2000)を含み、前記レーザービーム(2100)は光路を進む、前記送信機部(600)及び受信機部(650)と、
レーザー調整及びレーザー変調のための手段を含むハウスキーピングを実行する処理ユニット(2700)であって、前記レーザー光の波長は、測定対象の少なくとも1つのガス成分の吸収線にわたって調整され、前記レーザービーム(2100)は、ターゲットガス(500)を通過し、前記受信機部(650)によって備えられる光感知検出器(2500)に到達し、前記光感知検出器は、前記測定対象のガス成分及び前記複数の干渉ガスからの吸収信号の寄与を含む可能性のある吸収信号(2510)を生成する、前記処理ユニット(2700)と、
前記吸収信号(2510)をデジタル化するデジタル化ユニット(2600)であって、前記デジタル化ユニット(2600)からのデジタル化された吸収信号は、前記処理ユニット(2700)に入力される、前記デジタル化ユニット(2600)と、を備える前記ガス分析器において、
前記処理ユニット(2700)は、デジタル化された吸収信号に基づいて前記ターゲットガス(500)中の前記測定対象のガス成分の測定濃度を算出し、
前記レーザー光の波長は、2122nm付近のH2吸収線にわたって調整され、前記ガス分析器は、H2の吸収線にスペクトル的に近接する少なくとも1つの吸収線を有するH2以外の他のガスを含む密閉された参照ガスセル(550)をさらに備え、前記レーザー光は、H2の吸収線にわたって且つ前記参照ガスセル内の前記ガスの前記吸収線にわたって調整され、前記ガス分析器は、波長変調分光法(WMS)又はデジタル波長変調分光法(dWMS)に適しており、前記処理ユニット(2700)は、前記波長
の周波数変調をレーザーに適用し、前記波長変調の振幅は、H2のWMS吸収信号を維持しかつH2の吸収線よりも広い吸収線を有する可能性のある前記干渉ガスからのWMS吸収信号を抑制するように、H2吸収線の幅に略適合するように設定されており、前記処理ユニット(2700)は、デジタル化されたWMS信号に高次デジタルフィルタタイプのデジタルフィルタを適用し、前記デジタルフィルタは、H2のWMS信号を通過させ且つ前記可能性のある干渉ガスからのWMS信号を抑制するように適合され、前記処理ユニット(2700)は、フィルタリングされた信号に基づいて水素ガス成分の濃度を算出し、H2の吸収線を含む波長間隔にわたってレーザー調整を制御するために前記参照ガスセルに含まれる前記他のガスからの信号を検証することを特徴とするガス分析器。
【請求項2】
前記参照ガスセル(550)は、前記光路に恒久的に配置される、請求項1に記載のガス分析器。
【請求項3】
前記参照ガスセル(550)は、該参照ガスセルがガス濃度を測定するためにフリップアウトされ且つ該参照ガスセルが前記信号を検証するためにフリップインされるように、必要な機能に応じて前記光路にフリップイン及びフリップアウトされるように配置される、請求項1に記載のガス分析器。
【請求項4】
前記処理ユニット(2700)は、前記参照ガスセル(550)からの情報に基づいて、前記吸収信号中のH2吸収線の中心をレーザー調整範囲に対して相対的に同じ位置に位置付けるようにレーザー調整を制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載のガス分析器。
【請求項5】
前記処理ユニット(2700)は、前記吸収線の位置が
前記レーザー調整範囲に対して相対的
に同じ位置に維持されるように且つ前記レーザー調整
範囲が所定の
参照調整
範囲で維持されるように、前記参照ガスセル(550)からの情報に基づいて、前記レーザー調整範囲を調整する、請求項4に記載のガス分析器。
【請求項6】
前記参照ガスセル(550)は前記他のガスを含み、該他のガスはN2Oである、請求項1に記載のガス分析器。
【請求項7】
前記波長変調の振幅は、前記ターゲットガス中のH2吸収線の半値半幅(HWHM)の約2.2倍に設定されている、請求項1に記載のガス分析器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロセス分析、安全用途等に使用するための水素ガス(H2)の測定に関する。本発明は、化学および石油化学産業、または水素ガスが存在し得る他の領域での用途を有する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスの測定は、多くの化学プロセスおよびガス混合物において重要である。気候変動と化石燃料の使用削減へのフォーカスは、例えば燃料電池におけるエネルギー担体としての水素への大きな関心につながっている。水素は酸素と接触すると非常に爆発する。生産施設周辺の雰囲気への漏れは、潜在的な危険を引き起こす。
【0003】
水素ガスセンサの需要は非常に高く、増大している。今日、すべての水素センサ/検出器は、ポイントセンサ(point sensors)または抽出式分析器(extractive analyzers)である。H2の非接触in-situ測定用のセンサ/分析器は使用できない。これは、反応性ガス、有毒ガス、および腐食性ガスの流れにおいて水素を監視する必要がある産業用途で特に重要である。
【0004】
吸収分光法に基づくオープンパスセンサ(Open path sensors)は利用できない。現在利用可能な吸収分光法に基づく全ての水素分析器は、抽出型であり、キャビティ増強吸収技術を使用する。抽出セルには高反射ミラーが組み込まれており、高フィネス・キャビティ(high-finesse cavities)を形成する。このようなキャビティにレーザー光を注入すると、検出器に進む前にミラー間で何度も跳ね返る。このようにして、最長数kmまでの非常に長い光路が実現されて、弱い水素吸収を測定するのに必要な感度を達成する。潜在的な干渉するガスの影響を低減するために、抽出セル内の圧力は、大気圧よりも大幅に低くなることが多い。これらの分析器はすべて、ガスサンプルをセル内に取り込むことに基づいており、したがって、これらはin-situ分析器ではない。
【0005】
従来技術
Buttner等は、学術論文の非特許文献1において、水素センサについて説明している。Buttner等の調査結果によると、利用可能なセンサはすべて、単一のポイントのみをサンプリングまたは測定するポイントセンサである。以下の技術が、Buttner等によってリストされている:
-電気化学センサ(Electrochemical sensors : EC)
-金属酸化物センサ(Metal Oxide Sensors : MOX)
-「ペリスター(Pellistor)」タイプの可燃性ガスセンサ(combustible gas sensors : CGS)
-熱伝導率センサ(Thermal conductivity sensors : TC)
-光デバイス(Optical Devices : Opt)
-PdフィルムおよびPd合金フィルム(Pd)。
【0006】
「光デバイス」のセクションでは、Buttner等は、「水素を直接光学的に検出するセンサは、水素が紫外・可視又はIRでは吸収しないために容易には利用できない。」と述べている。
【0007】
著者らは明らかに、吸収分光法によって水素ガスを測定することは不可能であると結論付けている。
そして、Buttner等は、「しかし、水素に曝されると光学特性が変化する非常に高感度のセンサプラットフォームが開発されている。多くの装置はパラジウム膜(palladium films)の光学特性に基づいている[例えば、14-16]。他の装置は、水素に曝されると色が変化する化学メディエーター(chemical mediators)に基づいている。」と続けている。
【0008】
Buttner等は、従来の吸収分光は不可能だが、水素曝露に応じた材料の光学特性の変化を利用できる技術が存在するとの見解を有している。Buttner等によってレビューされた光学的およびその他の技術は、水素のポイント検出のみを支持している。
【0009】
ラマン分光法(Raman spectroscopy)は、水素の測定に適用されることができる。この手法は、分子上でのレーザー光の非弾性散乱に基づいているため、吸収分光法ではない。散乱光は、シフトされた周波数において検出される。ラマンライダー(Raman lidar)は、屋外の水素を検出するために使用される。この技術の欠点には、感度が悪く、高出力レーザーの必要性がある。安全上の理由から、工業地域での高出力レーザーの使用は一般的に禁止されている。
【0010】
Los Gatos ResearchのBaer等の「水素センサベースの4重極吸収分光法(HYDROGEN SENSOR BASED UPON QUADRUPOLE ABSORPTION SPECTROSCOPY)」と題する特許文献1は、セル内の水素吸収を測定するために使用される技術を説明する。水素を検出するためにキャビティ増強技術が使用される。この技術は、ICOSまたは軸外ICOS(Intra Cavity Output Spectroscopy)と呼称される。セル内のミラーの反射率は非常に高くなければならず、汚染が起こらないようにする必要がある。産業環境での使用では、ミラー表面に材料が堆積しないようにサンプリングされたガスをクリーンに保つことは困難である。これには、ガスサンプルがICOSセルに入る前にガスサンプルを浄化する抽出サンプリング技術が必要である。
【0011】
Baer等の特許文献1(第2欄の22~28行)は、「この光微粒子のドップラー広がりに起因して水素の線幅が広がるので、周波数変調等の他の良い感度の技術(非特許文献2を参照)はこの問題に対する実行可能な解決策ではない。」と述べている。著者らは、WMS(Wavelength Modulation Spectroscopy)が属する周波数変調技術は水素の測定には適用できず、in-situ TLAS WMSは明らかに不可能であると結論付けている。
【0012】
Baer等の特許文献1に記載されている発明は、プロセスポイントをサンプリングし且つサンプリングされたガスを測定が行われるICOSセルに導くことに基づいている。この発明は、in-situ測定には使用できない。
【0013】
H2測定用の別の分析器は、非特許文献3に記載されている。
この分析器は、キャビティ増強吸収技術にも基づいており、in-situ測定には使用できない。キャビティ増強技術は、OF-CEAS(Optical Feedback Cavity Enhanced Absorption Spectroscopy)と呼称される。このシステムにおいて使用されるサンプリング方法は、Lonigro等の特許文献2に記載されている。水素の線(hydrogen line)に近い吸収線(absorption lines)を有するCO2または他のガスがガスサンプル中に存在する場合、サンプリングシステムおよびキャビティセルの圧力は、干渉を避けるために周囲圧力よりもかなり低くなる。圧力低下の要求はシステムを複雑化にする。
【0014】
波長変調分光法(wavelength modulation spectroscopy: WMS)を説明する出版物は、非特許文献4である。
いくつかの学術出版物は、水素の吸収線の特性について説明する。これらの出版物の幾つかは、非特許文献5~8である。
【0015】
Voigtプロファイルの線形(Voigt profile line shape)の代替案については、学術出版物の非特許文献9において説明されている。
HITRAN 2016データベースは、多数のガスの吸収線のプロファイルを記述するパラメータをリスト化している。
【0016】
特許文献3(ガス監視)は、ガス監視、特に直接吸収分光法に基づくガス監視のコンセプトを説明している。
学術出版物の非特許文献10は、2次高調波レーザー分光法に基づくガス監視のいくつかの側面について説明している。
【0017】
以下の表は、本特許出願において使用される略語をリスト化している。
【0018】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】米国特許第7298490号明細書
【文献】米国特許第8467064号明細書
【文献】米国特許出願公開第2006/0044562号明細書
【非特許文献】
【0020】
【文献】“An overview of hydrogen safety sensors and requirements” [International Journal of Hydrogen Energy, Volume 36, Issue 3, February 2011, Pages 2462-2470]
【文献】G. C. Bjorklund, M. D. Levenson, W. Lenth, and C. Oritz, "Theory of lineshapes and signal-to-noise analysis", Appl. Phys. B, vol. 32, page 145 (1983)
【文献】datasheet for the” ProCeas H2 Trace analyzer” from ap2e present at their website March 17th 2017 16:30 (GMT+1) at the following link:<http://www.ap2e.com/wp-content/uploads/ProCeas-H2trace-analyzer.pdf>
【文献】Reid et al: “Second-harmonic detection with tunable diode lasers - Comparison of experiment and theory.” J.Reid, D. Labrie. Applied Physics B, November 1981, Volume 26, Issue 3, pp 203-210.
【文献】Wcislo et al: “The implementation of non-Voigt line profiles in the HITRAN database: H2 case study” Wcislo, P.; Gordon, I. E.; Tran, H.; Tan, Y.; Hu, S.-M.; Campargue, A.; Kassi, S.; Romanini, D.; Hill, C.; Kochanov, R. V.; Rothman, L. S. Journal of Quantitative Spectroscopy and Radiative Transfer, Volume 177 (2016), p. 75-91.
【文献】Campargue et al: “The absorption spectrum of H2: CRDS measurements of the (2-0) band, review of the literature data and accurate ab initio line list up to 35000 cm-1.” Campargue A, Kassi S, Pachucki K, Komasa J. Physical Chemistry Chemical Physics 2012; 14:802-15.
【文献】Wolniewicz et al: “Quadrupole transition probabilities for the excited rovibrational states of H2.” Wolniewicz L, Simbotin I, Dalgarno A. Astrophysical Journal Supplement Series 1998; 115:293-313.
【文献】Kassi et al: “Electric quadrupole transitions and collision induced absorption in the region of the first overtone band of H2 near 1.25 μm“, Kassi S, Campargue A. Journal of Molecular Spectroscopy 2014; 300:55-9.
【文献】Ngo et al: An isolated line-shape model to go beyond the Voigt profile in spectroscopic databases and radiative transfer codes. Ngo N.H., Lisak D., Tran H., Hartmann J.-M. Journal of Quantitative Spectroscopy and Radiative Transfer 2013; 129:89-100.
【文献】”Gas monitoring in the process industry using diode laser spectroscopy”, Linnerud et al, Appl. Phys. B 67, 297-305 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の主な目的は、非接触の光学的H2測定のための直接的なin-situだけでなく、周囲圧力および高い圧力において動作を可能にした光吸収ベースの水素センサ/分析器を製造することである。ICOS、OF-CEAS、CRDS(Cavity Ring Down Spectroscopy)のようなセル構成は避けるべきであり、大気圧(atmospheric pressure)以下に減圧されたセルについても同様である。従って、本発明による分析器の抽出バージョンは、キャビティ増強型ではない単純な光学構成を有するセルを使用すべきであり、このセルは、周囲圧力または高い圧力において動作すべきである。
【0022】
発明が解決しようとする課題の詳細
本発明による測定は、雰囲気中のオープンパス(open path)だけでなく、シングルパスセル(single pass cell)でin-situ抽出、ダブルパスセルまたはマルチパスセルで抽出であり得る。測定は、調整可能なレーザー吸収分光法(Tunable Laser Absorption Spectroscopy : TLAS)に基づいている。
【0023】
以前は、従来技術では、H2は、ICOS(Baer等)、CRDS(Campargue等およびKassi等)、OF-CEAS(Lonigro等)のキャビティ増強吸収分光法を用いて測定されていた。
【0024】
水素ガスの爆発下限界(lower explosion limit : LEL)は約4%vであるので、ほとんどのH2検出器/センサは0~10%vの測定範囲を提供する。したがって、安全用途に使用される典型的なセンサの検出限界(limit of detection : LOD)は、0.5%v(範囲の5%相対)未満であるべきであり、好ましくは、0.2%vであるべきである。H2の線はキャビティ増強技術を用いずにこのLODを達成するには弱すぎることが一般的に認められている。本発明によれば、in-situまたはオープンパスTLAS分析器または抽出シングルパスセルTLAS分析器は、1メートルの光路長(LOD=0.2%v*meter)でのみこのLODを達成するであろう。特定の用途で0.2%vよりも高い感度が必要とされる場合、TLAS分析器は、シングルパスセルの代わりに、1~30メートルの中程度のパス長を有する(例えば、ホワイト又はエリオットタイプ(White or Herriott type)の)小さなマルチパスセルを組み込むことができる。比較のために、キャビティ増強セルの有効光路長は、数百メートル、さらには数キロメートルであり得る。
【0025】
最も強いH2線は、約2121.8nm(4712.9cm-1)において(1-0)S(1)である。線強度は3.2*10-26cm/molecule(Campargue等、Wolnewicz等、およびHITRAN 2016)である。HITRANパラメータとVoigtプロファイルを用いて計算されたピーク吸光度は、空気中の0.2%v*meterのH2に対して1.0*10-6の相対吸収を示す。そのような吸光度は、in-situでの検出には適していない。さらに、この線は、CO2の干渉の影響を受ける。CO2以外に、H2の線への干渉を生成する炭化水素等の他のガスが存在する。CO2の線は、H2の線に非常に近い(約0.13cm-1離れている)。CO2吸収が存在する場合、H2の線は、CO2の線のプロファイルから決定できない。これは、1メートルの経路長と周囲温度及び圧力とについて、1%v濃度の水素(5110)および10%v濃度のCO2(5210)の吸収スペクトルのデフォルトのHITRANモデリング(シミュレーション)を示す
図6に例示されている。
図6に示すシミュレーションスペクトルは、例えば燃焼からの煙道ガス(flue gas)のような多くの工業プロセスにおける典型的なCO2濃度である10%vのようなかなりの量のCO2の存在下では、1%v未満のH2を検出することは不可能であることを示している。
【0026】
「ap2e」社の既存の「ProCeas H2 Trace Analyzer」は、キャビティ増強H2分析器であり、真空ポンプを使用してキャビティ内の圧力を低下させる。
【0027】
最近、何人かの著者がキャビティ増強技術を使用してH2吸収スペクトルを調査した。水素吸収線のプロファイルは、強い衝突(ディッケ)狭まり効果(strong collisional (Dicke) narrowing effect)のためにVoigtプロファイルによって示されることができないことを示した(Campargue等、Ngo等、およびKassi等)。
【0028】
(1-0)S(1)の線の自己拡大係数(self-broadening coefficient)は、0.021cm-1のドップラーHWHMよりも10倍以上小さい0.0019cm-1/atmと測定された(Wcislo等)。衝突狭まりがない場合、周囲圧力でのH2の線のプロファイルは主にガウス分布となり、ドップラーHWHMにほぼ等しいHWHMを有する。狭まり効果を示す衝突頻度係数(collision frequency factor)は、0.045cm-1/atmと測定された(Wcislo等)。その結果、周囲圧力での自己拡大のH2の線は、ドップラー広がり(Doppler broadening)が支配する非常に低い圧力よりもさらに狭くなる。このことは、
図13に示されており、H2の線のHWHM(5170)が圧力に応じてプロットされている。1atm(周囲圧力)のHWHMは、0atm(真空)の場合よりも小さくなる。発明者によって行われた測定によって、自己拡大のためにWcislo等により得られた結果が確認された。窒素及び空気の広がりと狭まりの線パラメータはまだ公開されていない。発明者は、窒素および/または空気によって広がったH2の線のHWHMが、自己広がりと同様に振る舞い、約0.012cm-1の1atmにおけるHWHMを有し、ドップラーHWHMよりもかなり小さいことを見出した。
【0029】
HITRANデータベースのフォーマットは、衝突狭まりを組み込んだより複雑な線プロファイルのパラメータを含むように変更されたが(Wcislo等)、現在のHITRAN16バージョン(特許出願時)は、デフォルトの0.05cm-1/atmの空気と全てのH2の線の自己広がり係数のみを示している。
【0030】
図7は、衝突狭まりを伴う実際のプロファイル(5192)と比較して、衝突狭まりを伴わない場合(5190)のような1atmにおけるH2のプロファイルを示す。両方のプロファイル(5190、5192)は同じ積分(integral)を有している。H2は、1atmの圧力での空気バランスのHWHMが有効である。ピーク振幅は、Voigtプロファイルを仮定することによって予想されるよりも約35~40%大きいと推定される。
【0031】
モデリング及び測定を行った結果、発明者は、窒素及び空気中の0.2%v*meterのH2に対するピーク吸光度を約4*10-6~5*10-6の相対吸収と推定した。これは、通常、吸収測定技術によってin-situで検出することができない非常に弱い吸収である。それにもかかわらず、本発明は、1メートルの経路長で少なくとも0.2%vのH2を検出することができるように、この感度を達成する方法および装置を説明する。さらに、本発明は、CO2の干渉および場合によっては他のガスからの干渉の問題を解決する。
【0032】
CO2の線のHWHMは、約0.07cm-1であり、その線は、H2の線から0.13cm-1離れている。したがって、
図6に示すように、H2の線は、CO2吸収のバックグラウンドにあるように見える。非常に強いCO2吸収線のバックグラウンドにおいて10-5よりも弱い吸光度を検出することは非常に困難である。さらに、工業プロセスでは、CO2の線は振幅および幅が変化し、以前に記録されたCO2参照吸収の減算を用いることができない。
【0033】
直接吸収分光法(direct absorption spectroscopy : DAS)または波長変調分光法(wavelength modulation spectroscopy : WMS)を用いる既存の方法は、必要とされる感度でのH2検出に用いられることができない。
【0034】
1)CO2とH2の両方の信号を同時に合計するプロファイルフィッティングの方法を用いる従来のDAS
この方法はベースラインエラーとオフセットエラーを起こしやすく、CO2に比べてH2の吸収が非常に弱いために有用ではない。さらに、H2はVoigtプロファイルに使用できないので、方法の実施を複雑化し且つ多大なマイクロプロセッサリソースを消費するより複雑なプロファイルを使用しなければならない。概して、この方法は、非常に弱い吸収信号の測定には適用できない。
【0035】
2)多変量解析(multivariate analysis : MVA)の方法を用いるDASまたはWMS
この方法は、異なる成分の吸収が同程度である場合に最も有効である。MVAが機能するためには、信号対雑音比も十分良くなければならない。変動する強い干渉線(CO2)のバックグラウンドにおける弱い吸収線(H2)の検出は実施不可能である。
【0036】
3)古典的な最小二乗法を使用したDASまたはWMS
この方法は、圧力、温度、ガス組成が変化するプロセスガスのin-situ測定には実用的ではない。信号対雑音比は、これが機能するのに十分に良くなければならない。したがって、この方法は、CO2の存在下でのH2の検出には適していない。
【0037】
4)ピーク検出を使用した従来のWMS
この方法は、10-5よりも弱い吸光度を検出できるが、近くの他のガス成分の吸収線から干渉を受ける。H2及びCO2の吸収線を区別することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0038】
本目的は、本発明に従って、請求項1の特徴部分の特徴を有する独立請求項1の前文に定義されたガス分析器によって達成される。
本発明の多数の非包括的な実施形態、変形例または代替例は、従属請求項によって定義されている。
【0039】
発明の概要
本発明によるガス分析器は、先行技術の他のガスセンサ/分析器が機能できない条件下において水素(H2)ガスを測定することができる。これは、業界の通常のプロセスアプリケーションに通常存在する比較的短い光路長で機能することができる。また、通常の大気圧下でも、多少高い圧力下でも動作することができる。超長光路を提供する特別なセル又は通常の大気圧下で圧力を大幅に下げることができるセルは不要である。セルガス圧を低下させるために、真空ポンプまたは他の手段を必要としない。
【0040】
本発明によるガス分析器は、2121.8nmのH2の線の付近で動作する。HITRANのデータベースにあるこの吸収線の情報は、最良の場合には不完全なものであり、実際の場合よりも広い線幅と、(線幅が広いために)弱い線の振幅を示す。学術出版物は、この線の自己広がりパラメータがHITRANのデフォルト値よりもはるかに小さいことを見出した。発明者は、空気及び窒素の広がりパラメータもHITRANのデフォルト値よりもはるかに小さく、空気及び窒素の衝突狭まりは大きく、例えば、この線が著しく狭く、従ってDoppler支配線プロファイルを仮定して予想される著しく大きい振幅を有することを見いだした。
【0041】
本発明の解決しようとする主な課題は、近くに強く比較的広いCO2の線の存在下で、2121.8nmのH2の線で高感度に測定できるようにすることである。
本発明の第1の態様は、干渉ガスを含む可能性のあるガスマトリックス(gas matrix)を含むターゲットガス(500)中の少なくとも1つのガス成分の濃度を測定するための調整可能なレーザー分光法に基づくガス分析器であって、ガス分析器は、送信機部(600)及び受信機部であって、前記送信機部は、レーザービームの形態でレーザー光を出射するように構成された調整可能なレーザーを含み、レーザービームは、光路を進み、レーザー光の波長は、測定対象の少なくとも1つのガス成分の吸収線にわたって調整及び変調され、レーザービームは、ターゲットガスを通過し、受信機部によって備えられる光感知検出器に到達し、光感知検出器は、測定対象のガス成分及び干渉ガスからの吸収信号の寄与を含む可能性のある吸収信号を生成する、送信機部(600)及び受信機部と、吸収信号をデジタル化するデジタル化ユニットであって、デジタル化ユニットからのデジタル化された吸収信号は、処理ユニットに入力される、デジタル化ユニットと、デジタル化された吸収信号に基づいてターゲットガス中の測定対象のガス成分の測定濃度を算出する処理ユニットと、を備える。ガス分析器は、周囲圧力(ambient pressure)下又は高い圧力(elevated pressure)下において、水素ガスH2の濃度を測定することであって、レーザー光の波長は、2122nm付近のH2吸収線にわたって調整され、レーザーの変調の振幅は、2122nm付近のH2吸収線を増強し、可能性のある干渉ガスからの吸収線を抑制するように設定される、水素ガスH2の濃度を測定すること、H2吸収線を増強し且つ信号における可能性のある干渉ガスの寄与を抑制するように構成された高次デジタルフィルタタイプのデジタルフィルタを適用すること、フィルタリングされた信号に基づいて処理ユニットにおいて水素ガス成分の濃度を計算すること、を実行するように適合されている。
【0042】
任意選択的には、ガス分析器は、H2濃度および他のガスの濃度を断続的に測定するWMSまたはdWMSを使用し、波長変調振幅および少なくとも2次微分の少なくとも1つのデジタルフィルタの適用の両方が、H2濃度または他のガスの濃度のいずれかを測定するために断続的に適合される。他のガスはCO2であり得る。
【0043】
任意選択的には、ガス分析器は、ターゲットガスを含むセルを備えた抽出セットアップ(extractive setup)を使用しており、ターゲットガスが、セル内に含まれているかまたはセルを通って流れている。セルは、シングルパスセル、デュアルパスセル、マルチパスセルのいずれかのタイプであり得る。
【0044】
任意選択的には、ターゲットガスの圧力を上昇させてH2を測定し且つ他のガスからの信号を抑制する。任意選択的には、セルの圧力は、測定対象のガスに応じて断続的に変化する。
【0045】
任意選択的には、圧力は、H2の測定のために周囲圧力であるかまたは周囲圧力と5bars absとの間で上昇されており、圧力は、他のガスの測定のためにほぼ周囲圧力に調整される。
【0046】
任意選択的には、ガス分析器は、ランプ走査の上に高周波数WMS変調を有する波長変調分光法(WMS)用に構成され、アナログ処理ユニットは、高調波信号を生成するアナログミキシング機能を含む。任意選択的には、WMS変調の振幅は、H2吸収線を増強し且つ可能性のある他の干渉ガスからの吸収線を抑制するように設定される。任意選択的には、WMS変調振幅は、ターゲットガス中のH2吸収線の半値半幅(HWHM)の約2.2倍である。
【0047】
任意選択的には、デジタルフィルタは、H2吸収線を増強し且つCO2のような干渉ガスの寄与を抑制するように適合された高次デジタルフィルタタイプである。
任意選択的には、第2のデジタルフィルタ機能ステップは、カスタムデジタルフィルタ機能である。
【0048】
任意選択的には、デジタルフィルタ機能ステップの合計は、効果的に少なくとも第4微分Savitzky-Golayフィルタタイプのものであり、効果的に少なくとも4次の合計である。
【0049】
任意選択的には、ガス分析器は、ランプ走査(1000)の上に高周波数変調を有するデジタル波長変調分光法(dWMS)用に構成され、デジタル化ユニットは、高調波信号と等価なデジタル信号を生成するデジタル復調機能を含む。
【0050】
任意選択的には、デジタル化ユニットは、20ビット以上の分解能でデジタル化し、波長走査中に5pm(picometer)あたり少なくとも1つのサンプル、好ましくは1pmあたり1つ以上のサンプルのサンプリングを行う。
【0051】
任意選択的には、WMS変調振幅は、H2吸収線を増強し且つ他の干渉ガスからの吸収線を抑制するように設定される。任意選択的には、変調振幅は、ターゲットガス中の吸収H2線の半値半幅(HWHM)の約2.2倍である。
【0052】
任意選択的には、デジタルフィルタは、H2吸収線を増強し且つCO2のような他のガスの寄与を抑制するように適合された高次デジタルフィルタタイプのいずれか1つである。任意選択的には、第2のデジタルフィルタ機能ステップは、任意のカスタムデジタルフィルタ機能に基づいている。
【0053】
任意選択的には、デジタルフィルタ機能ステップの合計は、少なくとも4次の効果のSavitzky-Golayフィルタタイプを使用して効果的に少なくとも4次微分のものである。
【0054】
任意選択的には、ガス分析器は、直接吸収分光法を使用して、高周波数波長変調をオフにするように構成され、吸収信号は、スペクトル分解能および振幅分解能に関して高分解能でサンプリングされる。
【0055】
任意選択的には、高振幅分解能は、20ビット以上の分解能を有するデジタル化ユニットによって補償され、スペクトル分解能は、ランプ走査中に5pm(picometer)あたり少なくとも1つのサンプル、好ましくは1pmあたり1つ以上のサンプルのサンプリングを行うことによって補償される。
【0056】
任意選択的には、吸収信号は、H2吸収線を増強し且つCO2のような他の干渉ガスの線を抑制する少なくとも1つのデジタルフィルタ機能ステップでフィルタリングされる。
任意選択的には、少なくとも1つのデジタルフィルタ機能ステップは、少なくとも6次の少なくとも6次微分Savitzky-Golayフィルタに基づいている。任意選択的には、第1のデジタルフィルタ機能ステップは、2次平滑化Savitzky-Golayフィルタに基づいており、任意の第2のデジタルフィルタ機能ステップは、2次または4次微分Savitzky-Golayフィルタに基づいており、任意の第3のデジタルフィルタ機能ステップは、任意の他のカスタムエンベロープ関数に基づいている。
【0057】
任意選択的には、少なくとも1つのデジタルフィルタ機能ステップは、少なくとも2つの個別デジタルフィルタ機能サブステップを含む。
任意選択的には、ガス分析器は、H2の吸収線及びH2以外の他のガスの少なくとも1つの吸収線が同一のレーザーで走査されるようにH2の吸収線に近接する少なくとも1つの吸収線を有するH2以外の他のガスを含む参照ガスセルを含み、セル内のH2以外の他のガスの少なくとも1つの吸収線を用いて、レーザー波長がH2の吸収線を含む波長間隔で走査されるようにレーザーが走査されることを検証する。
【0058】
任意選択的には、参照ガスセルは、他のガスを含み、他のガスはN2Oである。任意選択的には、参照ガスセルは、光路に恒久的に配置される。任意選択的には、参照ガスセルは、必要な機能に応じて、光路にフリップイン及びフリップアウトされるように配置される。
【0059】
任意選択的には、光路内の参照ガスセルを用いた測定からの情報はフィードバックループにおいて使用されて、吸収信号中のH2の吸収線の中心がレーザー調整範囲に対して相対的に同じ位置に位置付けられるように、レーザーの調整範囲を調整する。
【0060】
任意選択的には、参照ガスセルが挿入された状態での測定からの情報が使用されて、レーザー調整範囲を測定し、レーザー調整範囲が選択された調整範囲をカバーするのに相当するものであることを検証し、選択された調整範囲は、選択された吸収線の波長を含む。
【0061】
任意選択的には、挿入された参照ガスセル(550)を用いた測定からの情報は、レーザー調整範囲を調整するためにフィードバックループにおいて使用されて、レーザーは、吸収線の位置がサンプリングされた領域に対してほぼ同じ位置に維持されるように調整され且つレーザー調整が線形性または別の所定の調整方法で維持されるように調整される。
【0062】
本発明の別の態様は、干渉ガスを含む可能性のあるガスマトリックスを含むターゲットガス中の少なくとも1つのガス成分の濃度を測定する調整可能なレーザー分光法に基づく方法であり、該方法は、送信機部と受信機部とを含む分析器を使用し、受信機部は、光感知検出器を含み、送信機部は、調整可能なレーザーを含む。上記方法は、
送信機部によってレーザービームの形態でレーザー光を出射することであって、レーザービームは光路を進む、レーザー光を出射すること、
少なくとも1つのガス成分の吸収線にわたってレーザー光の波長を調整及び変調すること、
レーザービームをターゲットガスを通過させて光感知検出器に到達させること、
光感知検出器によって、測定対象のガス成分及び干渉ガスからの吸収信号の寄与を含む可能性のある吸収信号を生成すること、
デジタル化ユニットによって吸収信号をデジタル化し、デジタル化された吸収信号を供給すること、
デジタル化された吸収信号をデジタル化ユニットから処理ユニットに入力すること、
処理ユニットによってデジタル化された吸収信号に基づいてガス成分の測定濃度を計算すること、を備える。
【0063】
上記方法は、
周囲圧力下または高い圧力下において適用され、少なくとも1つのガス成分は水素ガスH2であること、
レーザー光の波長の調整は、2122nm付近のH2吸収線にわたって実行されること、
2122nm付近のH2吸収線を増強し且つ可能性のある他の干渉ガスからの吸収線を抑制するように、レーザーの変調の振幅を設定すること、
処理ユニットによって、H2吸収線を増強し且つ信号内の可能性のある干渉ガスの寄与を抑制するように適合された高次のデジタルフィルタによってデジタル化された吸収信号をフィルタリングし、フィルタリングされた信号を供給すること、
フィルタリングされた信号に基づいて水素ガス成分の濃度を計算すること、をさらに備える。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】
図1は、本発明によるH2ガス分析器の簡略化された概略図を示し、この図面は、ガス分析器の基本的な概念を説明する一例である。
【
図2】
図2は、デュアルパスin-situスタック分析器およびオープンパスセンサ/検出器に使用されるデュアルパス構成の光学システムを示し、
図2は縮尺通りではない。
【
図3】
図3は
図1と同様であるが、参照セル(550)が光路内に配置され、この図面は、ガス分析器の基本的な概念を説明する一例である。
【
図4】
図4は、直接吸収技術で動作するガス分析器のいくつかのレーザー走査サイクルまたはランプ走査を示し、レーザー電流が示されており、
図4は縮尺通りではない。
【
図5】
図5は、
図4と同様であるが、波長変調分光法および2次高調波検出に関するものであり、
図5は縮尺通りではなく、手法を説明するために作成されている。
【
図6】
図6は、T=23℃、P=1atm、H2=1%v*meter、CO2=10%v*meterでの透過スペクトルのデフォルトのHITRANモデリングを示し、nm単位の波長がX軸に示され、透過率がY軸に示される。
【
図7】
図7は、P=1atmの空気に対して同じ吸収線の同じ積分を有する実際のH2の線プロファイル(5192)およびVoigtプロファイル(5190)を示し、軸の単位は任意であり、Voigtプロファイルのピーク強度は、「1」に正規化される。
【
図8】
図8は、10%vのCO2(5220)および1%vのH2(5120)のモデル化された(直接)吸収信号を示し、検出された透過信号は100%透過に正規化され、その後に反転されて純粋な正の(positive pure)吸収信号を取得し、nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。
【
図9】
図9は、フィルタリングされた直接吸収信号を示し、(6次微分)バンドパスSGフィルタを用いてフィルタリングされた後の
図8の信号であり、CO2(5230)及びH2(5130)のフィルタリングされた曲線、および0.2%v*meterのH2(5135)に対応する必要とされるLODが示され、nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。
【
図10】
図10は、レーザー変調振幅に応じたH2およびCO2の2f WMS線形のモデル化されたピーク信号を示し、X軸にはH2のHWHMに対する変調振幅の比が示され、Y軸にはピーク信号振幅が示され、H2とCO2の両方のWMS線形のピーク振幅は、「1」に正規化される。
【
図11】
図11は、
図8と同じH2とCO2の吸収スペクトルのモデル化された2f WMS吸収信号を示し、nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。
【
図12】
図12は、フィルタリングされたWMS吸収信号を示し、(4次微分)バンドパスSGフィルタを用いてフィルタリングされた後の
図11の信号であり、H2信号(5160)、CO2信号(5260)、および0.2%v*meterのH2(5165)に対応する必要なLODが示され、nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。
【
図13】
図13は、atmの絶対圧力に応じたH2(5170)とCO2(5270)の線幅のプロットを示し、atmの絶対圧力がX軸に示され、cm-1のHWHMがY軸に表示される。
【
図14】
図14は、圧力がそれぞれ1atm(5410)および1.5atm(5415)であるH2およびCO2を含むガス混合物の測定された2f WMS信号を示し、水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大し、Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【
図15】
図15は、4次のバンドパスフィルタを使用してフィルタリングされた後の
図14のWMS信号を示し、
図15の曲線は、圧力1.0atm(5411)および1.5atm(5416)に基づいており、Y軸では、任意の単位を有するWMS信号をフィルタリングしている。
【
図16】
図16は、長さ1mのシングルパスセルにおいて、1%vのH2(5390)ガス混合物を有しておよびH2(5395)ガス混合物なしで測定された10%vのCO2の2f WMS信号を示し、信号は、4次のバンドパスフィルタを使用してフィルタリングされた後であり、ゼロ信号レベル(5196)、及び0.2%v*meterのH2(5195)に対応する信号レベルが示されており、水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大し、Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【
図17】
図17は、変調振幅がH2測定のために適応されている間、長さ1メートルのシングルパスセルにおける1%vのH2(5420)で測定された10%vのCO2の2f WMS信号を示しており、H2測定に適応した4次のバンドパスデジタルフィルタを使用してフィルタリングされた後の信号が示されており(5430)、H2吸収信号(5197)のピーク位置及びCO2吸収信号(5290)のピーク位置が示されており、水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大し、Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【
図18】
図18は、変調振幅がCO2測定のために適応されている間、長さ1メートルのシングルパスセルにおける1%vのH2(5440)で測定された10%vのCO2の2f WMS信号を示しており、CO2測定に適応した4次バンドパスフィルタを使用してフィルタリングされた後の信号が示されており(5450)、CO2吸収信号(5290)のピーク位置及びH2吸収信号(5197)の位置が示されており、水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大し、Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【発明を実施するための形態】
【0065】
本発明の上記したおよびさらなる特徴は、添付の特許請求の範囲に詳細に記載されており、その利点とともに、添付の図面を参照して与えられる本発明の例示的な実施形態の以下の詳細な説明を考慮することによって、より明確になるであろう。
【0066】
本発明は、図面に概略的に示される例示的な実施形態に関連して以下でさらに説明される。
本開示の様々な態様は、添付の図面を参照して以下でより完全に説明される。しかしながら、この開示は、多くの異なる形態で具体化されてもよく、この開示全体にわたって提示される特定の構造または機能に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの態様は、本開示が十分にかつ完全であり、本開示の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。本明細書の教示に基づいて、当業者は、本開示の範囲が、本開示の任意の他の態様とは独立して実施されるか、または組み合わせられて実施されるかにかかわらず、本明細書に開示された開示の任意の態様を包含することを意図していることを理解すべきである。たとえば、本明細書に記載されている任意の数の態様を使用して、装置が具体化されるか、または方法が実施されることができる。さらに、本開示の範囲は、本明細書に記載される開示の様々な態様に加えて、またはそれ以外の他の構造、機能、または構造および機能を用いて実施されるそのような装置または方法を包含することを意図する。本明細書において開示される開示の任意の態様は、特許請求の範囲の1つまたは複数の要素によって具体化され得ることを理解されたい。
【0067】
本発明は、図面に概略的に示される例示的な実施形態に関連してさらに説明される。
図1は、本発明によるH2ガス分析器の簡略化された概略図を示す。送信機ユニット(600)は、調整可能なレーザー(2000)を含む。レーザー(2000)は、レーザービーム(2100)を出射し、ビーム成形光学系2200は、光学ウィンドウ(optical window)(2250)を透過する前にレーザービーム(2100)を形成する。レーザービーム(2100)は、ターゲットガス(500)を通過する。ターゲットガス(500)は、様々な濃度の水素(H2)及び雰囲気中またはプロセス中に存在し得る他のガスを含み得る。受信機(receiver)(650)は、ウィンドウ(2250)を通してレーザービーム(2100)を受け取る検出器システムを含む。レーザービーム(2100)は、集束レンズ(2220)によって光感知検出器(2500)上に集束される。光感知検出器(2500)は、光信号をアナログ電気信号(2510)に変換している。アナログ電気信号(2510)は、アナログ電子ユニット(2400)によって受信される。アナログ電子ユニット(2400)は、DASとdWMSの場合には検出器からのアナログ信号(2510)を増幅して調整し、さらにアナログWMSの場合にはアナログ信号処理を行う。上記WMSの場合のアナログ信号処理は、アナログミキサー(analogue mixers)または代替的にはロックインアンプ(lock-in amplifiers)を使用した高調波検出を含む。高調波信号を生成するために増幅、調整、フィルタリング及び/又はアナログミキサー(またはロックインアンプ)を用いてミキシングされた処理済み電子信号(2520)は、デジタル化ユニット(digitizing unit)(2600)によって受信される。デジタル化ユニット(2600)は、デジタル信号を処理ユニット(2700)に送信する。処理ユニット(2700)は、デジタル化ユニット(2600)から受信した信号に基づいてH2測定の結果を計算する。処理ユニットは、測定結果を入出力インタフェースの出力部(2720)に送信する。処理ユニット(2700)及び完成装置(complete apparatus)には、電力入力ケーブル(2710)を介して電力が供給される。入力電力は、バッテリー、主電源グリッド、またはその他の適切な電源から供給され得る。処理ユニット(2700)は、レーザー温度制御と、ターゲットガス(500)内に存在する可能性のあるガスの少なくとも1つの吸収特徴にわたって調整可能なレーザーを走査するレーザーランプ走査(laser ramp scan)(1000)とを含む完成機器を制御する。処理ユニット(2700)はまた、受信機ユニット(650)におけるデータサンプリングおよび本発明によるガス分析器内の他のハウスキーピング作業を制御する。図面は単純化されており、縮尺通りではなく、光学面間の所要距離は図面に示されていない。この図面は、ガス分析器の基本的な概念を説明する一例である。
【0068】
図2は、デュアルパススタック分析器(dual path stack analyzers)およびオープンパスセンサ/検出器に使用されるデュアルパス構成の光学システムを示す。レーザービーム(2100)は、デュアルパス構成において、ターゲットガス(500)を2回通過する。典型的には、このことは、
図1,3に示されるようなシングルパス構成と比較して、検出限界を2倍改善する。調整可能なレーザー(2000)は、レーザービーム(2100)の形態で光を出射し、レーザービーム(2100)は、ビーム成形光学系(2200)によって、コリメートされた好ましくはわずかに発散するビームに成形され、レーザービーム(2100)は、さらにターゲットガス(500)を最初に通過し、その後、レーザービーム(2100)は再帰反射器(2290)によって反射され、レーザービーム(2100)は戻ってターゲットガス(500)を2回目に通過し、戻ったレーザービームは、収束レンズ(2270)によって集められて収束され、戻ったレーザービーム(2100)は、光感知検出器(2500)上に収束される。集束レンズ(2270)は、好ましくは、レーザー(2000)を収容することができる中心孔を有する同軸構成に適合されている。
図1,3の送信器・受信機構成(transmitter-receiver configuration)と同様に、
図2の「送受信機(transceiver)」を備えたデュアルパス構成は、送信機部(600)および受信機部(650)も明確に定義されている。送受信機構成の送信機部(600)は、主にレーザー(2000)とビーム成形光学系(2200)とを含む。送受信機構成の受信機部(650)は、主に集束光学系(2270)および検出器(2500)を含む。任意選択的に、受信機部は、光学バンドパスフィルタ(2280)を含む。したがって、送信機部または受信機部のいずれかを参照することによって、シングルパス送受信機構成およびデュアルパス送受信機構成の両方に適用可能である。
図2は縮尺通りではない。
【0069】
送信機・受信機またはデュアルパス構成における
図1,2による分析器は、1つ以上のレンズの機能のために、レンズの代わりにミラー光学系を使用して具体化されることもできる。デュアルパス・オープンパス構成の光学系は、ニュートン(Newtonian)望遠鏡のような望遠鏡構成で置き換えることができる。
【0070】
デュアルパスソリューションの再帰反射器は、キューブコーナー(cube corner)、キューブコーナーのマトリックス、または単純な光反射デバイス、または光反射テープ(light reflecting tape)のいずれかを使用して、異なる方法で具体化されることができる。
【0071】
図3は
図1と同様であるが、参照セル(550)が光路内に配置される。セル(550)は、レーザー波長が正しい波長範囲で走査されることを検証するために使用できるように、H2の波長に近い波長で十分な吸収を有するガスを含み得る。セル(550)は、必要に応じてセル(550)を光路に挿入することができるアクチュエータを使用して取り付けられ、必要がないときに光路から外されてもよい。図面は簡略化されており、縮尺通りではない。この図面は、ガス分析器の基本的な概念を説明する一例である。
【0072】
図4は、直接吸収技術で動作するガス分析器のいくつかのレーザー走査サイクルまたはランプ走査を示す。レーザー電流が示されている。電流ランプ(current ramp)(1000)が、測定対象のターゲットガスについての少なくとも1つのスペクトル吸収特徴にわたってレーザーの波長を走査する。電流ランプは、時間に対して線形である必要はないが、より複雑な形状である可能性がある。レーザー電流がオフである任意の暗参照(dark reference)(1100)のタイムスロットが続く。レーザー電流がオンであり、レーザー電流が一定にされて暗参照の後にレーザーを安定化させることを可能にする短いタイムスロット(1150)が続く。そして、次のサイクルにおいて新しいレーザー走査ランプが実行される。
図4は縮尺通りではない。
【0073】
図5は、
図4と同様であるが、波長変調分光法および2次高調波検出に関するものである。レーザーがオンのときは常に、正弦波(1050)がレーザー電流に付加される。レーザー電流が示されている。電流ランプ(current ramp)(1000)が、測定対象のターゲットガスについての少なくとも1つのスペクトル吸収特徴にわたってレーザーの波長を走査する。電流ランプは、時間に対して線形である必要はないが、より複雑な形状である可能性がある。レーザー電流がオフである任意の暗参照(1100)のタイムスロットが続く。レーザー電流がオンであり、レーザー電流が一定にされて暗参照の後にレーザーを安定化させることを可能にする短いタイムスロット(1150)が続く。そして、次のサイクルにおいて新しいレーザー走査ランプが実行される。
図5は縮尺通りではなく、手法を説明するために作成されている。
【0074】
図6は、T=23℃、P=1atm、H2=1%v*meter、CO2=10%v*meterでの透過スペクトルのデフォルトのHITRANモデリングを示す。nm単位の波長がX軸に示され、透過率がY軸に示される。水素濃度は、(2メートルに対して0.5%vと同様に)1メートルに対して1%体積(v)である。CO2濃度は、(2メートルでは5%vと同様に)1メートルに対して10%体積(v)である。H2の透過スペクトル(5110)およびCO2の透過スペクトル(5210)、ならびにH2とCO2の組み合わされた透過スペクトル(5310)が図面に示されている。示されるように、水素の吸収度は非常に弱い。モデル化のためにHITRANを使用する試みは、必要とされるLOD(0.2%v*meter)で、特にCO2の存在下で、1メートルの経路長においてH2を測定することは不可能であるという結論につながる。
【0075】
図7は、同じ積分を有するモデル化された実際のH2の線プロファイル(5192)及びVoigtプロファイル(5190)を示す。軸の単位は任意であるが、Voigtプロファイルのピーク強度は「1」に正規化されている。圧力は1atmである。Voigtプロファイルは、HITRANのデフォルト値よりも約10倍小さい実際の広がり係数を用いてモデル化された。ドップラー広がりによるガウス成分は衝突広がりによるローレンツ(Lorentz)成分を支配するため、1atmの圧力において比較的弱い広がりを有するVoigtプロファイルはガウスプロファイルに非常に近い。このことは非常にまれなことである。通常、1atmの圧力におけるガスの吸収プロファイルは、ローレンツ成分が支配的なVoigtタイプである。したがって、衝突狭まり効果を考慮しなくても、H2の線は、他のガスの吸収線に比べて比較的狭いように考えられる。衝突狭まりを考慮すると、H2の線プロファイル(5192)がVoigtタイプから外れて、HWHMはドップラーHWHMよりもさらに狭くなり、ピーク振幅は増大する。
【0076】
図8は、1atmにおいて10%vのCO2(5220)および1%vのH2(5120)のモデル化された(直接)吸収信号を示している。検出された信号が透過率100%に正規化され、その後に反転されて純粋な正の吸収信号を取得する。非常に弱い吸収のため、Beer-Lambertの法則に従って取られるべき伝達の対数は無視される。nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。デフォルトのHITRANモデリングとは対照的に、このモデリングは、H2の線が干渉するCO2の線よりもはるかに狭いという実際の状況に類似している。H2の線の幅が狭いと、同じ濃度でピーク吸収度が著しく大きくなり、このことはH2の検出に対する付加的な重要な利点である。
【0077】
図9は、(モデル化された)フィルタリングされた直接吸収信号を示す。(6次微分)バンドパスSGフィルタを用いてフィルタリングされた後の
図8の信号である。CO2(5230)とH2(5130)のフィルタリングされた曲線、および0.2%v*meterのH2(5135)のLODに対応するレベルが示される。nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。ここでは、適切なデジタルフィルタリングによって、H2の線とCO2の線を区別できることが示されている。CO2の線は大幅に抑制され、H2ピークの位置でのCO2信号は必要なLODを十分に下回っている。フィルタリングされた信号のH2のピークはCO2信号から十分に分離されているため、H2のピークはCO2干渉のないH2濃度測定に使用されることができる。
【0078】
図10は、レーザー変調振幅(laser modulation amplitude)に応じたH2およびCO2の2f WMS線形のピーク信号を示す。最大のピーク信号(5145)は、変調振幅が吸収線HWHMの約2.2のときに得られる。吸収線HWHMに対する変調振幅の比に応じた2f線形の正のピーク振幅が、
図10に概略的に示されている。H2の線のプロット(5140)とCO2の線の対応するプロット(5240)の2つの例が示されている。H2の2f信号は、H2のHWHMの約2.2の変調振幅で最大化される(5145)。この変調振幅でのCO2の線形に対応する振幅は、最大値の5分の1である約0.2である。したがって、変調振幅を適切に選択することによって、H2信号が最適化されている間、CO2信号が数倍抑制される。X軸にはH2のHWHMに対する変調振幅の比が示され、ピーク信号がY軸に示されている。
【0079】
図11は、
図8と同じH2とCO2の吸収スペクトルのモデル化された2f WMS吸収信号を示す。変調振幅は、H2のHWHMの約2倍である。示されるように、CO2の線は(
図8と比較して)大幅に低下しているが、これは干渉を完全に除去するには十分ではない。図面は、10%vのCO2(5250)および1%vのH2(5150)のモデル化されたWMS 2f信号を示している。nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。
【0080】
図12は、フィルタリングされたWMS吸収信号を示す。(4次微分)バンドパスSGフィルタを用いてフィルタリングされた後の
図11の信号である。H2信号(5160)、CO2信号(5260)、および検出限界(limit of detection : LOD)(5165)が示されている。nm単位の波長がX軸に示され、任意の単位がY軸に示される。H2信号が最適化されているが、WMSのCO2信号は抑制される。H2のピークの位置でのCO2信号は、必要なLODを十分に下回っている。フィルタリングされたWMS信号のH2のピークはCO2信号から十分に分離されているため、フィルタリングされたWMS信号のH2のピークはCO2干渉のないH2濃度測定に使用されることができる。
【0081】
図13は、atmの絶対圧力に応じたH2(5170)及びCO2(5270)の線幅(HWHM)のプロットを示している。示されるように、H2(5170)の線幅は、0~1atmの圧力において小さくなり、約1atm~2atmまでは比較的平坦である。また示されるように、CO2(5270)の線幅は、H2(5170)の線幅よりもはるかに高い割合で増加している。H2の線とCO2の線とのHWHMの差は圧力と共に増加する。このことは、圧力が増加したときにH2とCO2とを区別するDAS及びWMSの両方のデジタル信号フィルタリング技術にとって有益である。WMS信号の場合の追加の利点は、圧力が1atmを超えると、CO2の2f WMS信号が5倍以上抑制されることである(
図10)。atmの絶対圧力がX軸に示され、cm-1の吸収線のHWHMがY軸に示されている。
【0082】
図14は、それぞれ圧力が1atm(5410)および1.5atm(5415)であるH2およびCO2の実際の測定を示している。どちらの曲線も、11メートルの光路長を有するマルチパスセルでは、H2濃度が1%であり、CO2濃度は10%である。WMSが用いられ、吸収スペクトルの曲線(5410、5415)が、任意のフィルタリングが実行される前のものである。レーザーの変調振幅は、1atmにおけるH2のHWHM(
図10の符号5145)において最適となる。参照密閉セル(reference sealed cell)が光路に挿入される。セルの内部の長さは2mmである。(セルウィンドウを含む)外観の長さは4mmである。セルは、いくぶん減圧された(1atm未満の)N2Oを含む。WMSスペクトル(5410,5415)のピーク(5520)は、この密閉セルにおけるN2Oの吸収に属しており、従ってN2Oのピーク(5520)は、H2及びCO2を含むマルチパスセルの圧力に依存しない。H2のピーク(5180)は、圧力1.0atmおよび1.5atmの両方について比較的類似している。H2のWMS信号は圧力変化の影響をほとんど受けないが、この圧力範囲の線幅が圧力にほとんど影響されないためである(
図13の符号5170)。H2の吸収線は、圧力による線シフト効果(pressure induced line shift effect)を示す。このことは、H2のピーク位置のわずかな差異(5180)を示す。H2ピークとは対照的に、1.5atmにおけるCO2ピーク(5282)は、1.0atmにおけるCO2ピーク(5280)より著しく弱い。1.5atmにおけるCO2の線は1.0atmよりもかなり広く(
図13の符号5270)、CO2のHWHMに対するレーザー変調振幅の比は1.0atmよりも1.5atmにおいて低い(
図10の符号5240)。その結果、1.5bar(5282)における2f WMSのCO2のピークは、1.0bar(5280)におけるCO2のピークよりも弱い。測定された信号では、別のCO2の線が、N2Oの線(5520)の位置に存在する。このCO2線は弱く、信号に対する大きな影響を有していない。しかし、このことは1.0atm~1.5atmのN2Oのピーク(5520)の差を示す。水平方向(X軸)は、波長が長くなる方向を示す。Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【0083】
図15は、
図14からのWMS信号に基づいており、4次のバンドパスフィルタを用いてフィルタリングした後の対応するWMS信号を示す。
図15の曲線は、圧力1.0atm(5411)および1.5atm(5416)に対応する。
図14と比較すると、H2のピーク(5185)は、CO2のピーク(5285,5287)よりも強い。フィルタリングは、1.5atmにおけるCO2のピーク(5287)を1.0atmにおける同じピーク(5285)よりも大幅に抑制する。1.5atmにおけるCO2の線の振幅(5287)は、1.0atmにおけるCO2の線の振幅(5285)の約5分の1である。H2のピークは、両方の圧力においてCO2のピークから良好に分離される。高い圧力がCO2存在下でのH2検出に有益であることは明らかに分かる。
【0084】
図16は、本発明によるガス分析器の実際の測定を示す。分析器の実施形態は、WMSを使用する送信機・受信機(600、650)の組み合わせである。H2及びCO2の測定は、1atmの圧力において長さ1メートルのシングルパスセルを用いて実行される。示されている信号は、4次のバンドパスフィルタを使用してWMS信号をフィルタリングした後のものである。1%vのH2を含む10%vのCO2の信号(5390)およびH2を含まない10%vのCO2の信号(5395)は、ゼロ信号レベル(5196)および0.2%v*meterのH2の必要とされるLODに対するレベル(5195)とともにプロットされている。H2を含まない信号曲線(5395)で示されるように、H2のピーク(5197)付近のノイズは、必要とされるLOD(5195)を十分に下回る。H2のピーク位置におけるCO2の吸収線からの干渉が雑音レベル以下に抑制された。信号(5390,5395)のピーク(5540)は、検出器の前に配置された参照密閉セル内のN2Oの吸収に属する。水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大する。Y軸には、任意の単位を有するWMSのフィルタリングされた信号がある。
【0085】
図17は、本発明によるデュアルガスH2およびCO2分析器の実際の測定を示している。分析器の実施形態は、WMSを使用する送信機・受信機(600、650)の組み合わせである。窒素バランスにおける1%vのH2及び10%vのCO2の混合ガスの測定は、1atmの圧力における長さ1メートルのシングルパスセルを使用して実行される。分析器はH2測定モードである。変調振幅は、狭いH2の吸収線と適合する(match)ように調整(低減)され、対応するWMS信号が示される(5420)。CO2のWMS信号は、CO2の線幅に対して変調振幅が非常に小さいために大幅に抑制される。CO2の信号は、H2の吸収信号を通過させてCO2の信号を抑制するように構成された4次のバンドパスデジタルフィルタを使用してさらに抑制される(5430)。H2の信号のピーク(5197)は、CO2の信号(5290)から十分に分離されており、たとえば、H2はCO2からの干渉なしに測定されることができる。水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大する。Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【0086】
図18は、本発明によるデュアルガスH2およびCO2分析器の実際の測定を示している。分析器の実施形態は、WMSを使用する送信機・受信機(600、650)の組み合わせである。窒素バランスにおける1%vのH2及び10%vのCO2の混合ガスの測定は、1atmの圧力における長さ1メートルのシングルパスセルを使用して実行される。分析器はCO2測定モードである。変調振幅は、CO2の吸収線と適合するように調整(増加)され、対応するWMS信号が示される(5440)。H2のWMS信号は、H2の線幅に対して非常に高い変調振幅のために抑制される。CO2の吸収信号を通過させ、H2の信号を抑制するように適合された4次のバンドパスデジタルフィルタを使用した後の信号が示されている(5450)。CO2のピーク(5290)は明確に定義されており、H2のピーク(5197)は抑制され、例えば、CO2は測定されることができる。水平方向(X軸)では、レーザー電流ランプ調整に従って波長が増大する。Y軸では、任意の単位のWMS信号がある。
【0087】
TLAS分析器は、レーザー波長を検証する手段を提供する必要がある。半導体タイプの調整可能なレーザーの波長は、レーザー電流及び温度によって制御され得る。レーザーの温度を選択することによって、波長は、目的の吸収線に調整される。さらに、レーザー電流を定期的に変更することによって、レーザーの波長は、吸収線付近を定期的に走査される。ターゲットガスがプロセスガス中に常に存在する場合、吸収信号は、ターゲットガス濃度を計算するために使用され、また、レーザーの波長を常に吸収線に維持するようにレーザーの温度を追跡する(track)ために使用され得る。ターゲットガスがプロセスガスに常に存在するとは限らない場合は、水蒸気などの他のガスが常に存在している可能性がある。このガス成分が波長走査において吸収線を有する場合、この成分からの吸収信号は、レーザーの温度を追跡するように使用されることができる。一般的に使用される別の解決策は、送信器/送受信器ユニット内のレーザービームを2つの経路に分け、一方のビームはプロセスに向けられ、他方のビームは、送信器/送受信器ユニット内に配置された参照セルを通って参照検出器に向けられる。参照セルは、ある程度の濃度のターゲットガスを含み、通常は密閉されている。参照検出器からの吸収信号は、レーザー温度を制御することによって、波長検証及び線ロッキング(line locking)に使用される(レーザー温度トラッキング(laser temperature tracking))。
【0088】
これらのアプローチはいずれも、水素分析器の波長検証には使用できない。水素は、プロセスガスに含まれていない可能性がある。多くの安全用途では、それが存在している必要がある。したがって、プロセスからのH2吸収は、波長検証に使用できない。CO2吸収またはプロセスガスからの他のガス成分の吸収についても同様であるが、これは、これらの成分が常に存在するとは限らないからである。このことは、安全用途に使用されるH2分析器が内部波長制御を保証する必要があることを意味する。ビームスプリッタを含む場合、レーザーに近い送信器ユニット内に検出器を有する参照セルは、必然的にレーザーにフィードバックノイズを導入する。このことは、H2吸収を検出できるようにするために、可能な限り最良の感度を達成しなければならないので、非常に望ましくない。
【0089】
H2吸収信号を用いた線トラッキングおよび検証のために、H2が充填された参照セルを光路内に恒久的に用いるかまたは光路内に周期的にフリップされて(flipped)用いることは実現不可能である。H2吸収線はその目的には弱すぎる。100%のH2を有する比較的長いセルが必要であるが、このことは実用的ではなく且つ安全ではない。
【0090】
本発明によるガス分析器は、ビーム分割および追加の参照光検出器を使用しないが、検出器の前の受信機、代替的には送受信機に配置された小さな密閉された(sealed)参照セル(550)を使用することができる。セルは、レーザー波長走査内の近傍で吸収するある濃度の代替ガスで充填される。セルは、代替ガスの吸収を用いることによってレーザー波長検証およびスパンチェック(span check)のために、恒久的に光路内にあるかまたは光路に周期的にフリップされることができる。そのようなガス代替物は、N2Oであり得る。N2Oの4712.55cm-1(2121.99nm)の吸収線はこの目的に使用されることができる。H2の線とN2Oの線との間のスペクトル距離は0.35cm-1であり、たとえば、両方の線が1つのレーザー調整ランプで走査されることができる。N2Oの線は比較的強く、例えば、(窒素バランスにおいて)数%vのN2Oで満たされたわずか数mmの非常に小さな参照セルで十分である。
【0091】
本発明によるガス分析器は、送受信機モジュール及び再帰反射器の組み合わせ、または送信機・受信機(600、650)の組み合わせという2つの基本的な実施形態を有することができる。これら2つの実施形態は、送信機・受信機バージョンと比較して送受信機バージョンの光路が2倍の長さであることを除いて、原理的には同様である。送受信機バージョンは、光路の一端にある同じボックス内に送信機(600)と受信機(650)の両方の機能を有している。従来技術に記載されているようなガスセルまたはサンプリングセルの使用は、本発明にとって必要ではないが、依然として使用することが可能である。
【0092】
送信機(600)は、調整可能なレーザー(2000)の形態の光源と、通常はビーム成形光学系(2200)も含む。受信機(650)は、アナログ電子ユニット(2400)内で増幅またはアナログ処理され、後段ではデジタル化ユニット(2600)内でデジタル化されるアナログ電気信号(2510)を出力する光感知検出器(2500)上に光信号を集束する集束光学系(2220)を含む。さらに、システム全体は、レーザー(2000)を温度調整し、主に鋸状の歯のランプ(saw tooth ramp)(1000)、任意選択的にはランプ(1000)の上に高周波数の正弦波(1050)を付加される鋸状の歯のランプ(1000)でレーザー(2000)を変調する手段を含む。システムはまた、検出器からのデジタル化された信号及び温度センサ、圧力センサなどのような他のデータソースからのパラメータに基づいて、ガス濃度および他のパラメータを計算する手段を含む。システムは、分析器の完全性、データおよび診断パラメータのロギング(logging)を制御すること、及び他のシステムと通信しかつ他のシステムに測定データを転送することを行うハウスキーピング機能(housekeeping functions)を含む。データ、制御およびハウスキーピングならびに他のシステムとの通信に関する計算は、典型的には、本明細書において「処理ユニット」(2700)と呼称されるマイクロプロセッサおよび他の電子機器によって実行される。
【0093】
WMSのデジタルバージョンであるdWMSは、アナログミキシングを使用せずに代わりにデジタルドメインで処理を行う。
本発明は、in-situの従来の抽出及びオープンパス水素検出に関する分光法関連問題の解決を提供する。2121.8nmにおける水素吸収線が最も強いが、それでも非常に弱い。さらに、従来の技術を用いて測定した場合、隣接するCO2の線との強い干渉を有する。周囲圧力におけるH2の線は実際にはかなり狭くなっており、このH2の線にデフォルトの空気/自己広がりパラメータを使用するHITRANにリスト化されているものよりもはるかに狭い。たとえ正しいパラメータがリスト化されていたとしても、分光学専門家または当業者は通常、この線はほぼ同じ波長に位置する非常に強いCO2の線のためにH2の測定には適さないと述べるであろうから、あまり役に立たないであろう。ここでは、CO2干渉を回避し、H2の検出率を向上させる方法について説明される。ここでは、この非常に弱いH2吸収を測定し、周囲圧力及び高い圧力において少なくとも0.2%v*meterのH2の必要とされるLODを達成することを可能にした装置についても説明される。
【0094】
本発明の目的を達成するために、レーザー変調(1000、1050)は、WMSの場合には変更されるべきであり、光感知検出器からのデジタル化された信号に対する信号処理が変更されなければならない。
【0095】
本発明による解決策は、周囲圧力における非常に狭い線幅というH2の吸収線の固有特性を利用する。この線は、やや高い圧力において狭いままである。H2の吸収線の近くで吸収するCO2及び他のガスの吸収線は全て著しく広く、線の幅は圧力の増加と共に更に増大する。
【0096】
WMSおよびdWMSの両方の場合において、レーザー変調振幅は、H2またはCO2を測定するために調整され、例えば、測定されたガス成分からの信号は増強され、他方の成分からの信号は抑制される。
【0097】
さらに、デジタルバンドパスフィルタは、デジタル化された信号に適用される。フィルタは、H2の吸収線またはCO2(または他のガス)のいずれかの周波数成分の必須部分のみを通過させるように構成されている。このようにして、ガス分析器は、CO2干渉なしにH2を測定することができる。また、H2の影響を受けずにCO2を測定できる。したがって、ガス分析器は、変調振幅及び対応するフィルタを交互に使用して、両方のガス成分を測定できる。
【0098】
このアプローチには、主に2つの成果がある:
1)信号対雑音比(signal to noise ratio : SNRS)が大幅に改善される;
2)CO2のようなH2の線の近くで吸収する他のガスからの干渉が大幅に減少する。
【0099】
SNRは、フィルタ周波数帯域外の周波数成分(周波数領域)を有する確率的雑音(stochastic noise)が除去されるために向上する。H2の線幅よりも長い周期と短い周期を有する光学エタロン効果(optical etalon effects)による非確率的雑音(Non-stochastic noise)は、大幅に低減されるか、または完全に除去される。このようなフィルタリング後のCO2の線からの信号は、H2検出に必要とされるLOD未満のレベルに抑制される。H2の吸収信号は、H2の線の位置においてフィルタリングされた信号のピークとして測定される。濃度は、校正定数と、圧力、温度、およびプロセスガス組成(広がりの変化)への依存性を考慮した補正関数とを掛けることにより計算される。
【0100】
直接吸収分光法(Direct absorption spectroscopy : DAS)の例
レーザーの波長は、H2及びCO2の吸収線付近で調整される。レーザー光は、測定対象のガスであるターゲットガス(500)を通過して案内されて、検出器(2500)によって集光される。検出器信号(2510、2520)は、5*10-6の相対吸収の弱い吸収プロファイルを完全に決定することを保証するために、適切な時間と振幅分解能を有するADコンバータを用いてデジタル化される(2600)。
図8に示すように、検出された信号が透過率100%に正規化され、その後に反転されて純粋な正の吸収信号を取得する。
図8は、10%vのCO2(5220)および1%vのH2(5120)のモデル化された吸収信号を示している。
【0101】
DAS手法を使用したH2測定の実現可能性を示すために、
図8に示される信号に対して狭いバンドパスフィルタを配置した。この場合、6次微分6次多項式(6
thderivative 6
th order polynomial)Savitzky-Golay(SG)フィルタである。フィルタの幅は、H2の線の幅に適合する。その結果、CO2の線は、H2の線と比較して大幅に抑制される。CO2の線(5230)からの干渉信号は、必要とされる0.2%v*mのレベル(5135)を十分に下回って除去される。同様の結果は、いくつかの連続したSGフィルタを適用することによって達成されることができる。たとえば、平滑化SGは、2次微分SGに続き、最後に1つの4次SGが適用される。フィルタは必ずしもSGである必要はなく、その目的に適した特別に設計された任意のカスタムフィルタであってよい。
【0102】
図9は、6次微分SGフィルタを使用してフィルタリングした後のフィルタリングされた信号(5130、5230)を示す。
モデリングはDASを用いたH2の測定が可能であることを示したが、H2検出に必要とされるLODは実際には達成できないであろう。このことはDASがレーザー強度ベースラインと1/fレーザー強度雑音の影響を受けるためである。
【0103】
波長変調分光法(Wavelength modulation spectroscopy : WMS)の例
レーザー(2000)の波長は、H2及びCO2の吸収線付近で調整される。さらに波長は、調整の周波数(1000)よりも十分に高い周波数(1050)で変調される。レーザー光は、測定対象のガス(500)を通過して案内され、検出器(2500)によって集光される。検出器信号は、アナログ電子ユニット(2400)において変調周波数の2次、4次高調波等の高調波で復調される。典型的には、2次高調波が使用される(2f WMS)。すべての未使用の高調波は、復調の前に適切なバンドパスフィルタを使用して除去されることができる。WMSのデジタルバージョンであるdWMSでは、アナログ電子ユニットでは復調されず、デジタル方式を使用して後で処理される。復調された信号は、次に、残りの高周波成分の全てを除去するためにローパスフィルタを通過する。復調された信号(2520)は、さらに正規化されることができる。正規化に使用される信号は、直接送信信号であってもよいし、復調された1次高調波であってもよいし、あるいは、100%の送信ベースライン(transmission baseline)の多項式近似であってもよい。例として、最も普及しているWMS手法である2次高調波検出を行う。ピークWMS信号は、吸収幅に対する変調振幅の比に依存する。最大のピーク信号は、変調振幅が吸収線のHWHMの約2.2のときに得られる(Reid等)。吸収線のHWHMに対する変調振幅の比に応じた2f線形の正のピーク振幅が、
図10に概略的に示されている。H2の線のプロット(5140)及びCO2の線の対応するプロット(5240)の2つの事例が示されている。H2の2f信号は、H2のHWHMの約2.2の変調振幅で最大化される(5145)。この変調振幅におけるCO2の線形の対応する振幅は、最大値よりも約5倍小さい。したがって、変調振幅を適切に選択することによって、H2信号(5150)が最適化されている間、CO2信号(5250)が数倍抑制される。
【0104】
図10は、変調振幅に応じたH2(5140)およびCO2(5240)の2f線形のピーク信号を示す。
図11は、
図8と同じH2(5120)およびCO2(5220)の吸収スペクトルのモデル化された2f WMS吸収信号(5150、5250)を示す。変調振幅は、H2のHWHMの約2.2倍である。示されるように、CO2のピーク信号(5250)は低下している。CO2信号からのH2のピーク位置における干渉は大幅に低減されたが、完全には低減されていない。
【0105】
図11は、10%vのCO2(5250)および1%vのH2(5150)のモデル化されたWMS 2f信号を示している。
図12は、4次微分4次多項式SGフィルタを使用したフィルタリング(5160、5260)後のWMS信号を示している。CO2信号(5260)はさらに低下し、H2のピーク位置に残っている干渉は完全に除去される。
図12の信号は、4次微分SGフィルタを使用してフィルタリングした後の
図11の信号から取得される。
【0106】
本発明による分析器は、調整可能なレーザー(2000)である光源を使用する。調整可能なレーザー(2000)からのビーム(2100)は、潜在的に水素(H2)ガスを含み得るターゲットガス(500)を通過して向けられ、ターゲットガス(500)は、CO2を含む様々な濃度の他のガスも含むことができる。ターゲットガス(500)を通過した後、レーザービーム(2100)または光信号は検出器(2500)に到達する。検出器(2500)は、光信号をアナログ電気信号(2510)に変換し、このアナログ電気信号(2510)は、調整されたアナログ信号(2520)を出力するアナログ電子ユニット(2400)によって処理される。調整されたアナログ信号(2520)は、デジタル化ユニット(2600)によってサンプリングされ、デジタル化される。デジタル化ユニット(2600)からのデジタル化された信号は処理ユニット(2700)に送られて処理ユニット(2700)によって処理され、ターゲットガス(500)中の測定されたH2濃度を示す結果が計算される。分析器は、入力電源ケーブルまたは接続(2710)を有する。分析器は、必要な入力信号と出力信号を含む入出力インタフェース(2720)を有する。入力信号は、プロセスの温度及び圧力と分析器が必要とする他のパラメータとを入力するためのアナログおよびデジタルインタフェースとすることができる。出力信号は、濃度、光伝送、及び他の分析器パラメータ及び状態情報を出力するためのアナログ及びデジタルインタフェースとすることができる。入出力インタフェースは、製造、サービス、校正および診断手順もサポートすることができる。インタフェースタイプは、電流ループ(0~20、4~20mA)、RS232/422/485、Modbus RTU/TCP、イーサネット、イーサネットIP、ProfiBus、ProfiNet、およびその他の既知または新規の標準プロトコルまたは独自のプロトコルの全てであり得る。
【0107】
分析器の光学系(2200、2250、2220)は、ビーム成形光学系(2200)を用いてレーザービーム(2100)を形成し、次いで傾斜した楔状ウィンドウ(2250)を用いて、分析器の送信機部(600)をターゲットガス(500)を含むプロセスから隔離する。レーザービーム(2100)は、ターゲットガス(500)を通過し、受信機(650)の傾斜した楔状ウィンドウに入り、その後、レーザービーム(2100)は、集束レンズ(2220、2270)によって検出器2500上に集束される。検証目的のための小さな密閉ガスセル(550)は、光学系の一部であってもよく、好ましくは検出器2500のすぐ前の光路に挿入される。任意の光学構成は、ミラーのみ、またはミラーとレンズの組み合わせを含み得る。
【0108】
解決すべき問題は、近接するCO2吸収線の存在下で選択されたH2吸収線を用いてH2を測定する一方で、1atm以上の圧力にて工業プロセスにおけるin-situで測定できることである。この問題は、H2吸収線を増強する一方で、CO2吸収線を抑制する異なる技術の組合せを利用することによって解決される。
【0109】
本出願では、用語「増強(enhance)」は、H2吸収線とCO2のような隣接する他のガスの吸収線とを区別する文脈において、H2吸収信号がCO2のような他のガスの吸収線に対して相対的に増強されることを意味する。しかし、他のガスの吸収線は抑制されているが、H2吸収線はほぼ同じレベルに維持されているだけかもしれない。
【0110】
WMS及び/又はdWMSの場合には、変調振幅も、その振幅が本発明による分析器において測定されるH2線のHWHMの約2.2倍に適合されるように調整される。このための図面が
図10に示され、変調振幅に応じたH2(5140)及びCO2(5240)のピーク信号がプロットされている。H2曲線(5140)上の最大点(5145)は、X軸上の2.2に対応する。これは、Reid等の学術論文の知見に対応している。H2線は非常に狭いので、変調は、雰囲気中に通常存在する他のガスの変調レベルの約5分の1に低下する。
【0111】
次いで、本発明による分析器のWMS実施形態における高調波信号は、フィルタステップにおいて1つ以上のデジタルフィルタでフィルタリングされ、H2の線をさらに増強し、CO2のような干渉ガスの線を抑制する。デジタルフィルタはまた、デジタル化された信号に存在し得るノイズを抑制することを支援する。
【0112】
高調波信号のH2の線を増強するように適合され、CO2のような干渉ガスを抑制するように適合された任意の高次バンドパスデジタルフィルタまたはフィルタステップが使用されることができる。
【0113】
WMSの場合のデジタルフィルタステップの好ましい実施形態は、4次微分4次Savitzky-Golayフィルタを使用することである。
図16は、WMS実施形態におけるH2ガス分析器の感度および選択性を開示する。本発明による光学構成は、1メートルの経路長にわたって0.2%vよりも良いH2のLODを達成することを可能にした。4次微分フィルタを用いたフィルタリングは、CO2吸収からの干渉をH2の0.2%v*m以下に十分に低減できる。
【0114】
抽出ソリューションの実施形態
従来技術から知られている水素ガスセンサ/分析器は、典型的には、あるポイントでH2を測定するポイントセンサであるか、又は、H2を測定したいプロセスのあるポイント、又は空気若しくは雰囲気中のあるポイントからターゲットガスをサンプリングする抽出分析器である。抽出分析器を使用してターゲットガスがサンプルポイント(sample point)からセルに導かれることは、従来技術のシステムの測定の実行可能性にとって重要である。特許文献1に記載されているシステムは、使用されるH2吸収線の吸収感度を増加させるために、キャビティ増強技術を使用してセル内に非常に長い光路を達成している。ap2e社の「ProCeas H2 Trace Analyzer」はまた、キャビティ増強技術を用いて、ターゲットガスの吸収を増加させるためにセル内に非常に長い光路を達成する。通常、ProCeas分析器は、真空ポンプを使用して低圧でセルを動作させる。圧力を大幅に下げると、CO2および他の潜在的な干渉するガスの吸収線が狭くなり、近くの線から干渉を受けることなくH2を測定しやすくなる。
【0115】
本発明によるH2分析器は、H2吸収に対する感度を達成するためにキャビティ増強技術を必要としない。抽出セルは必要としない。しかし、場合によっては、増強されたキャビティではなく、抽出セルソリューションは、依然として使用するのに実用的であり、本発明による分析器は、抽出セルと共に使用するのに非常に適している。抽出セルは、大気圧だけでなく、約5atmまでの高い圧力でも動作されることができる。場合によっては、セルを高い圧力で動作させると有利である。これは、CO2の線及び/又は他のガスの吸収線の線幅が圧力とともに増大するが、H2線の幅は圧力に比較的依存しないか又は圧力とともに増大するがより低い変化量で増大するためである(これはガス混合物に依存する)。
【0116】
図14、15は、圧力1.0atm及び1.5atmにおけるH2およびCO2の実験室測定のプロットを示す。本発明に係るガス分析器は、大気圧下でも、3atm以上のやや高い圧力下でも抽出を実行することができる。CO2又は他の干渉ガスの線幅は圧力が高くなるにつれて増大するため、セルを高い圧力で動作させると、本発明による分析器は、これらの干渉ガスに対する感度が低下する。この意味で、本発明による分析器は、従来の分析器が適切に動作するためには大気圧よりもかなり低いガス圧が必要であったのに対し、ガス圧に関しては逆の方向に動作する。
【0117】
デュアルガスH2およびCO2分析器
本発明で解決される主な問題の1つは、比較的狭いH2の吸収線を増強し、一方でCO2の近くのより広い吸収線を可能な限り抑制することである。本発明によるデュアルガスの実施形態は、時間多重化技術(time multiplexing technique)を使用してH2およびCO2の両方を測定する。さらにCO2ガスと呼称されるものは、H2の線に近い同じ波長で吸収する別のガスもあり得る。部分的には、本発明の他の実施形態に記載されているように、分析器はH2分析器として機能する。他の部分では、それはより伝統的なCO2分析器として機能する。異なるモード、H2とCO2の測定では、異なるデジタルフィルタの動作ステップが使用される。変調振幅は、
図18に示されるようなCO2測定時の大きな振幅と、
図17に示されるようなH2測定時の小さな変調振幅との間で切り替えられる。さらに、調整可能なレーザーの調整は、CO2測定時のある程度広い波長範囲と、H2測定時の狭い波長範囲との間で切り替えることができる。H2を測定する場合、デジタルフィルタの動作ステップが実行され、これらのフィルタステップは、CO2吸収信号を抑制し、H2吸収信号を増強するように調整される。CO2を測定する際には、他のデジタルフィルタの動作ステップが実行され、これらのフィルタステップは、H2吸収線を抑制し、CO2吸収線を増強するように調整される。このようにして、時間多重H2及びCO2ガス分析器を具体化することができる。抽出セルの実施形態の場合、セル圧力は、測定されたガス成分に応じて調整されることができる。H2が測定される場合、セルの圧力が大気圧以上に上昇され、例えば、圧力が高くなるとCO2吸収線が広くなるためにCO2吸収信号がさらに抑制される。CO2が測定される場合、セルの圧力は大気圧まで低下され、例えば、CO2の線の広がりが小さくなり、CO2のWMS信号がより強くなる。
【0118】
波長範囲と分析器動作の検証
分析器は、小型参照ガスセルを用いてレーザー波長検証及び内部健全性制御(internal health control)を提供する。従来のアプローチは、レーザービームを分割し、ターゲットガスで充填された参照密閉セルを介して参照検出器上に参照ビームを向けることによって、送信機/送受信機ユニット内の参照ビームを利用する。
【0119】
本発明による分析器の一実施形態は、レーザー(2000)がランプ(1000)で走査される波長範囲を検証するために使用され得るガスを含む参照セル(550)を含み得る。この目的は、典型的には、「線ロッキング(line-locking)」または「線トラッキング(line-tracking)」と呼称される。このようなセル(550)は、濃度校正の検証、いわゆる「スパンチェック(span check)」にも使用されることができる。セル(550)は、恒久的に光路内に配置されてもよいし、または分析器が検証チェックを実行するときに光路内に挿入されてもよい。
【0120】
短いセル(550)を具体化するためには、H2吸収信号が弱すぎるため、H2以外のガスが選択される必要がある。そのようなガスは、本発明による分析器で使用されるH2吸収線の波長に近い少なくとも1つの十分に強い吸収線を有している必要がある。H2の線および選択された他のガスの少なくとも1つの十分に強い吸収線の両方が、レーザー(2000)の調整範囲内でなければならない。
【0121】
検証目的に適したセル(550)内のガスの一例は、亜酸化窒素N2Oである。セル(550)内の圧力が0.2~0.4atmの場合、N2O吸収線の線幅はH2線の線幅と同様であり、例えば、N2O吸収からの信号は、大幅な抑制なしにデジタルフィルタステップを通過する。
【0122】
本発明によるH2分析器の1つの特徴は、拡張された機能試験であり得る。密閉された参照セルを使用する「線ロッキング」に加えて、レーザー波長調整範囲が、参照調整範囲に対して試験されることができる。レーザー調整範囲のずれによって、吸収線がより広くまたはより狭くなるように、取得された吸収信号を伸長または圧縮することができる。
【0123】
本発明によるH2分析器の別の特徴は、参照セルがスパンセル(span cell)としても機能しているときのH2の内部スパンチェック(internal span check)である。スパンチェック機能を起動すると、分析器は、H2吸収ピークを測定する代わりに参照セルに属する吸収ピークの測定に切り替わる。セルからの吸収ピークは、波長検証に使用される別のガス、たとえばN2Oからのものであってもよい。スパンチェック中、信号はH2ピーク位置ではなく、参照吸収線の位置で測定される。さらに、信号は処理され、濃度がH2信号であるかのように計算される。したがって、H2のスパンでは、参照セルからの代替ガスが使用される。セルは、レーザービーム内に恒久的に留まるか、又はスパンチェック中にフリップイン/アウトされる(flipped in and out)ことができる。
【符号の説明】
【0124】
500 他のガスだけでなく様々な濃度のH2を含み得るターゲットガス
550 検証目的、線のトラッキングなどのためのガスを含むセル
600 分析部、送信機ユニット(transmitter unit)
650 分析部、受信機ユニット(receiver unit)
1000 複数の吸収線にわたってレーザー波長を走査するレーザー電流ランプ走査
1050 WMSで使用されるレーザーを走査するために使用されるランプの上のより高い周波数の正弦波変調
1100 レーザー電流がオフするタイムスロット(time slot)
1150 レーザー電流オフのタイムスロットの後にレーザーを安定させるタイムスロット
2000 レーザー、典型的には熱電クーラー(thermo-electric cooler:TEC)も含むレーザー
2100 レーザービーム
2200 ビーム成形光学系、レーザーからのレーザービームを成形するレンズ
2220 光を検出器に集束させる集束レンズ
2250 分析部を周囲またはプロセスから隔離する楔状ウィンドウ(Wedged window)
2400 アナログ電子機器またはアナログ処理ユニット、アンプユニット、およびWMSの場合はアナログミキシング(analogue mixing)
2500 光感知検出器
2510 検出器からのアナログ信号
2520 調整または処理されたアナログ信号、WMSの場合は高調波信号
2600 サンプリングおよびA/D変換を実行するデジタル化ユニット
2700 サンプリングおよびデジタル化されたデータを処理し、測定値を計算し、分析器のハウスキーピング(housekeeping)を行う処理ユニット
2710 ガス分析器への入力電力
2720 入力信号及び出力信号を備える入出力インタフェース
5110 水素(H2)の透過スペクトル
5120 正規化および反転された1%v*mのH2のモデル化された吸収信号
5130 H2のフィルタリングされた直接吸収信号
5135 フィルタリングされた直接吸収信号の0.2%v*mのH2に対応するレベル
5140 H2に関するプロット、正規化されたWMSピーク信号対H2のHWHMに対する変調振幅の比
5145 5140の最大ピークレベル位置
5150 1%v*mのH2のモデル化された2f WMS信号
5160 H2のフィルタリングされた2f WMS信号
5165 フィルタリングされたWMSの0.2%v*mのH2に対応するレベル
5170 atmの圧力に応じたH2のHWHM
5180 WMSの場合のフィルタリング前の1.0および1.5atmの圧力におけるH2のピーク
5185 WMSの場合のフィルタリング後の1.0および1.5atmの圧力におけるH2のピーク
5190 衝突狭まりが含まれない計算されたH2の線プロファイル
5192 衝突狭まりを含む計算されたH2の線プロファイル、線プロファイルの積分は5190と同じである
5210 CO2の透過スペクトル
5220 正規化および反転された10%v*mのCO2のモデル化された吸収信号
5230 CO2のフィルタリングされた直接吸収信号
5240 CO2に関するプロット、正規化されたWMSピーク信号対H2のHWHMに対する変調振幅の比率
5250 10%v*mのCO2のモデル化された2f WMS信号
5260 CO2のフィルタリングされたWMS信号
5270 atmに応じたCO2のHWHM
5280 WMSの場合のフィルタリング前の1.0atmの圧力におけるCO2ピーク
5282 WMSの場合のフィルタリング前の1.5atmの圧力におけるCO2ピーク
5285 WMSの場合のフィルタリング後の1.0atmの圧力におけるCO2ピーク
5287 WMSの場合のフィルタリング後の1.5atmの圧力におけるCO2ピーク
5310 CO2とH2の透過スペクトル
5410 WMSのフィルタリング前の1.0atmの圧力における吸収信号曲線
5411 WMSのフィルタリング後の1.0atmの圧力における吸収信号曲線
5415 WMSのフィルタリング前の1.5atmの圧力における吸収信号曲線
5416 WMSのフィルタリング後の1.5atmの圧力における吸収信号曲線
5420 H2測定用に最適化されたWMSのフィルタリング前の1メートルの光路長での1%vのH2と10%vのCO2の吸収信号曲線
5430 H2測定用に最適化されたWMSのフィルタリング後の1メートルの光路長での1%vのH2と10%vのCO2の吸収信号曲線
5440 CO2測定用に最適化されたWMSのフィルタリング前の1メートルの光路長での1%vのH2と10%vのCO2の吸収信号曲線
5450 CO2測定用に最適化されたWMSのフィルタリング後の1メートルの光路長での1%vのH2と10%vのCO2の吸収信号曲線
5520 WMSのフィルタリング前の10%のN2Oの2mmセルからのN2Oのピーク
5530 WMSのフィルタリング後の10%のN2Oの2mmセルからのN2Oのピーク
5390 フィルタリングされたWMSの1メートルの経路長での1%vのH2と10%vのCO2の吸収信号曲線
5395 フィルタリングされたWMSの1メートルの経路長での10%vのCO2の吸収信号曲線
5196 フィルタリングされたWMSのゼロのH2に対応するレベル
5195 フィルタリングされたWMSの0.2%v*mのH2に対応するレベル
5540 フィルタリングされたWMSの0.35atm、0.25%のN2Oの2mmのセルからのN2Oピーク
5197 1メートルの経路長の1%vのH2のH2ピーク
5290 1メートルの経路長の10%のCO2のCO2ピーク