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特許7119099超音波振動子、超音波処置具、及び超音波振動子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】超音波振動子、超音波処置具、及び超音波振動子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/32 20060101AFI20220808BHJP
   B06B 1/06 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A61B17/32 510
B06B1/06 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020539964
(86)(22)【出願日】2018-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2018032216
(87)【国際公開番号】W WO2020044513
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】銅 庸高
【審査官】野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0088154(US,A1)
【文献】特開2001-179179(JP,A)
【文献】国際公開第2016/046887(WO,A1)
【文献】特開平09-155288(JP,A)
【文献】特開平02-086874(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109917(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B13/00-18/18
B06B 1/00- 3/04
H02N 2/00- 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織を処置する処置部を振動させるための超音波振動を発生する振動子本体を備え、
前記振動子本体は、
供給された駆動信号に応じて膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有し、膨張及び収縮の方向に沿って前記複数の圧電素子が積層された状態で一体に締結して構成され、
前記複数の圧電素子は、
第1のタイミングで膨張し、第2のタイミングで収縮する第1の圧電素子と、
膨張及び収縮のタイミングが前記第1の圧電素子とは異なる第2の圧電素子と、を備え、
前記第2の圧電素子は、
隣り合う圧電素子と分極方向が同じ方向になるように配置される超音波振動子。
【請求項2】
前記第2の圧電素子は、
前記第1のタイミングで収縮し、前記第2のタイミングで膨張する請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項3】
前記振動子本体と接続され、前記振動子本体が発生させた前記超音波振動を増幅するとともに前記処置部に対して伝達するホーンをさらに備える請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項4】
前記超音波振動子には、
前記超音波振動の節が一つ設けられ、
前記複数の圧電素子は、
前記節と前記超音波振動子の長手方向における前記ホーンから離間した端部との間において、前記節から前記端部に向けて積層されている請求項3に記載の超音波振動子。
【請求項5】
前記複数の圧電素子は、
6個で構成され、
前記第2の圧電素子は、
1個以上で構成され、
前記第2の圧電素子の少なくとも一つは、
前記節から5番目の位置に配置されている請求項4に記載の超音波振動子。
【請求項6】
前記振動子本体は、
定電流制御によって前記超音波振動を発生させる請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項7】
前記膨張及び収縮の方向に沿って交互に配置される正電極と負電極とをさらに備え、
前記複数の圧電素子は、
前記正電極と前記負電極との間にそれぞれ配設され、
前記第1の圧電素子は、
その内部における正電荷が前記正電極に対向し、前記内部における負電荷が前記負電極に対向するように配置され、
前記第2の圧電素子は、
その内部における正電荷が前記負電極に対向し、前記内部における負電荷が前記正電極に対向するように配置される請求項1に記載の超音波振動子。
【請求項8】
生体組織を処置する処置部と、
前記処置部を振動させるための超音波振動を発生する振動子本体を有する超音波振動子と、を備え、
前記振動子本体は、
供給された駆動信号に応じて膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有し、膨張及び収縮の方向に沿って前記複数の圧電素子が積層された状態で一体に締結して構成され、
前記複数の圧電素子は、
第1のタイミングで膨張し、第2のタイミングで収縮する第1の圧電素子と、
膨張及び収縮のタイミングが前記第1の圧電素子とは異なる第2の圧電素子と、を備え
前記第2の圧電素子は、
隣り合う圧電素子と分極方向が同じ方向になるように配置される超音波処置具。
【請求項9】
前記第2の圧電素子は、
前記第1のタイミングで収縮し、前記第2のタイミングで膨張する請求項8に記載の超音波処置具。
【請求項10】
前記超音波振動子は、
前記振動子本体と接続され、前記振動子本体が発生させた前記超音波振動を増幅するとともに前記処置部に対して伝達するホーンをさらに備える請求項8に記載の超音波処置具。
【請求項11】
前記超音波振動子には、
前記超音波振動の節が一つ設けられ、
前記複数の圧電素子は、
前記節と前記超音波振動の長手方向における前記ホーンから離間した端部との間において、前記節から前記端部に向けて積層されている請求項10に記載の超音波処置具。
【請求項12】
前記複数の圧電素子は、
6個で構成され、
前記第2の圧電素子は、
1個以上で構成され、
前記第2の圧電素子の少なくとも一つは、
前記節から5番目の位置に配置されている請求項11に記載の超音波処置具。
【請求項13】
前記振動子本体は、
定電流制御によって前記超音波振動を発生させる請求項8に記載の超音波処置具。
【請求項14】
供給された駆動信号に応じて膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有し、膨張及び収縮の方向に沿って前記複数の圧電素子が積層された状態で一体に締結され、定電流制御における前記複数の圧電素子の膨張及び収縮によって超音波振動を発生させる超音波振動子の製造方法であって、
前記複数の圧電素子の分極方向が特定の方向に沿う姿勢で配置された通常状態に対して、前記複数の圧電素子毎に、分極方向を反転させた姿勢で配置した状態での前記超音波振動子の振幅を測定し、
前記振幅に基づいて、分極方向を反転させる前記圧電素子を決定する超音波振動子の製造方法。
【請求項15】
所望の振幅で駆動する前記超音波振動子を製造するために、前記振幅に基づいて、分極方向を反転させる前記圧電素子を決定する請求項14に記載の超音波振動子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動子、超音波処置具、及び超音波振動子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、供給された駆動信号に応じて超音波振動を発生させる超音波振動子を有し、当該超音波振動を生体組織に対して付与することによって当該生体組織を処置する超音波処置具が知られている(例えば、特許文献1参照)。
特許文献1に記載の超音波振動子は、積層された状態で積層方向に沿って貫通したボルトによって一体化され、駆動信号に応じて積層方向に沿って膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有する。すなわち、当該超音波振動子は、BLT(ボルト締めランジュバン型振動子)によって構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6261833号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超音波振動子には、個体差、及びロット間バラつきがある。例えば、同様に製造された2つの超音波振動子のうち、一方の超音波振動子では発生させた超音波振動の振幅が所望の振幅となるが、他方の超音波振動子では発生させた超音波振動の振幅が所望の振幅とならない場合がある。
特許文献1に記載の超音波振動子のように、複数の圧電素子の厚み寸法を調整すれば、当該超音波振動の振幅を所望の振幅に調整することができる。しかしながら、超音波振動子毎に複数の圧電素子の厚み寸法を調整した場合には、超音波振動子によっては、圧電素子全体の静電容量が設計上の静電容量とは大きく異なるものとなってしまう場合がある。このように静電容量が設計上の静電容量とは大きく異なるものとなってしまった場合には、当該超音波振動子を制御するにあたって、制御構造を設計上の製造構造から大幅に変更する必要がある。すなわち、大幅な設計変更を行う必要がある。
そこで、大幅な設計変更を行うことなく、所望の振幅を容易に得ることができる技術が要望されている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、所望の振幅を容易に得ることができる超音波振動子、超音波処置具、及び超音波振動子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る超音波振動子は、生体組織を処置する処置部を振動させるための超音波振動を発生する振動子本体を備え、前記振動子本体は、供給された駆動信号に応じて膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有し、膨張及び収縮の方向に沿って前記複数の圧電素子が積層された状態で一体に締結して構成され、前記複数の圧電素子は、第1のタイミングで膨張し、第2のタイミングで収縮する第1の圧電素子と、膨張及び収縮のタイミングが前記第1の圧電素子とは異なる第2の圧電素子と、を備え、前記第2の圧電素子は、隣り合う圧電素子と分極方向が同じ方向になるように配置される。
【0007】
本発明に係る超音波処置具は、生体組織を処置する処置部と、前記処置部を振動させるための超音波振動を発生する振動子本体を有する超音波振動子と、を備え、前記振動子本体は、供給された駆動信号に応じて膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有し、膨張及び収縮の方向に沿って前記複数の圧電素子が積層された状態で一体に締結して構成され、前記複数の圧電素子は、第1のタイミングで膨張し、第2のタイミングで収縮する第1の圧電素子と、膨張及び収縮のタイミングが前記第1の圧電素子とは異なる第2の圧電素子と、を備え、前記第2の圧電素子は、隣り合う圧電素子と分極方向が同じ方向になるように配置される。
【0008】
本発明に係る超音波振動子の製造方法は、供給された駆動信号に応じて膨張と収縮とを交互に繰り返す複数の圧電素子を有し、膨張及び収縮の方向に沿って前記複数の圧電素子が積層された状態で一体に締結され、定電流制御における前記複数の圧電素子の膨張及び収縮によって超音波振動を発生させる超音波振動子の製造方法であって、前記複数の圧電素子の分極方向が特定の方向に沿う姿勢で配置された通常状態に対して、前記複数の圧電素子毎に、分極方向を反転させた姿勢で配置した状態での前記超音波振動子の振幅を測定し、前記振幅に基づいて、分極方向を反転させる前記圧電素子を決定する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る超音波振動子、超音波処置具、及び超音波振動子の製造方法によれば、所望の振幅を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施の形態に係る処置システムを示す図である。
図2図2は、超音波振動子を示す図である。
図3図3は、第1の電極板を示す図である。
図4図4は、第2の電極板を示す図である。
図5図5は、超音波振動子の製造方法を示すフローチャートである。
図6図6は、超音波振動子の製造方法を説明する図である。
図7図7は、超音波振動子の製造方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔処置システムの概略構成〕
図1は、本実施の形態に係る処置システム1の概略構成を示す図である。
処置システム1は、生体組織における処置の対象となる部位(以下、対象部位と記載)に対して超音波エネルギを付与することによって、当該対象部位を処置する。ここで、当該処置とは、例えば、対象部位の凝固及び切開を意味する。この処置システム1は、図1に示すように、超音波処置具2と、制御装置3とを備える。
【0012】
〔超音波処置具の構成〕
超音波処置具2は、例えば、腹壁を通した状態で対象部位を処置する医療用処置具である。この超音波処置具2は、図1に示すように、ハンドピース4と、超音波トランスデューサ5とを備える。
ハンドピース4は、図1に示すように、保持ケース41と、操作ノブ42と、スイッチ43と、シース44と、ジョー45と、超音波プローブ46とを備える。
保持ケース41は、超音波処置具2全体を支持する。
操作ノブ42は、保持ケース41に対して移動可能に取り付けられ、術者による開閉操作を受け付ける。
【0013】
スイッチ43は、保持ケース41の外部に露出した状態で設けられ、術者による出力開始操作を受け付ける。そして、スイッチ43は、制御装置3に対して当該出力開始操作に応じた操作信号を出力する。
シース44は、円筒形状を有する。なお、以下では、シース44の中心軸を中心軸Ax(図1)と記載する。また、以下では、中心軸Axに沿う一方側を先端側Ar1(図1)と記載し、他方側を基端側Ar2(図1)と記載する。そして、シース44は、基端側Ar2の一部が保持ケース41の先端側Ar1から当該保持ケース41の内部に挿入されることによって、当該保持ケース41に対して取り付けられる。
【0014】
ジョー45は、シース44における先端側Ar1の端部に回転可能に取り付けられ、超音波プローブ46における先端側Ar1の部分との間において対象部位を把持する。なお、上述した保持ケース41及びシース44の内部には、術者による操作ノブ42への開閉操作に応じて、超音波プローブ46における先端側Ar1の部分に対してジョー45を開閉させる開閉機構(図示略)が設けられている。
【0015】
超音波プローブ46は、本発明に係る処置部に相当する。この超音波プローブ46は、中心軸Axに沿って直線状に延在する長尺形状を有し、図1に示すように、先端側Ar1の部分が外部に突出した状態でシース44の内部に挿通される。また、超音波プローブ46の基端側Ar2の端部は、超音波トランスデューサ5を構成する超音波振動子6(図2(a)参照)と接続する。そして、超音波プローブ46は、超音波振動子6が発生させた超音波振動を基端側Ar2の端部から先端側Ar1の端部まで伝達する。
【0016】
超音波トランスデューサ5は、図1に示すように、超音波トランスデューサケース51と、超音波振動子6(図2(a)参照)とを備える。
超音波トランスデューサケース51は、超音波振動子6を支持するとともに、保持ケース41に対して着脱自在に接続する。
【0017】
図2は、超音波振動子6を示す図である。
超音波振動子6は、制御装置3による制御の下、超音波振動を発生させる。本実施の形態では、超音波振動子6は、BLT(ボルト締めランジュバン型振動子)によって構成されている。この超音波振動子6は、図2(a)に示すように、振動子本体7と、フロントマス8と、バックマス9とを備える。
振動子本体7は、図2(a)に示すように、第1,第2の電極板71,72と、複数(本実施の形態では6枚)の圧電素子73とを備える。
【0018】
図3は、第1の電極板71を示す図である。
第1の電極板71は、制御装置3から駆動信号が供給される部分である。この第1の電極板71は、図2(a)または図3に示すように、複数(本実施の形態では4枚)の負電極板711と、複数(本実施の形態では3つ)の負電極配線部712と、リード線接続端子713とを備える。
【0019】
複数の負電極板711は、図3に示すように、中央に開口711aを有する円板形状をそれぞれ有し、中心軸Axに沿って並設されている。
複数の負電極配線部712は、互いに隣り合う負電極板711の外縁部同士を電気的に接続する部分である。
リード線接続端子713は、電気ケーブルC(図1図2(a))を構成するリード線C1(図2(a))が接続される部分である。このリード線接続端子713は、複数の負電極板711のうち、最も基端側Ar2に位置する負電極板711の外縁から基端側Ar2に向けて延在する。
【0020】
図4は、第2の電極板72を示す図である。
第2の電極板72は、制御装置3から駆動信号が供給される部分である。この第2の電極板72は、図2(a)または図4に示すように、複数(本実施の形態では3枚)の正電極板721と、複数(本実施の形態では2つ)の正電極配線部722と、リード線接続端子723とを備える。
【0021】
複数の正電極板721は、図4に示すように、中央に開口721aを有する円板形状をそれぞれ有し、中心軸Axに沿って並設されている。なお、正電極板721は、負電極板711と略同一の形状を有する。
複数の正電極配線部722は、互いに隣り合う正電極板721の外縁部同士を電気的に接続する部分である。
そして、負電極板711及び正電極板721は、図2(a)に示すように、中心軸Axに沿って交互に配設されている。
リード線接続端子723は、電気ケーブルCを構成するリード線C1が接続される部分である。このリード線接続端子723は、複数の正電極板721のうち、最も基端側Ar2に位置する正電極板721の外縁から基端側Ar2に向けて延在する。
【0022】
複数の圧電素子73は、中央に開口(図示略)を有する円板形状をそれぞれ有し、負電極板711と正電極板721との間にそれぞれ配設されている。すなわち、複数の圧電素子73は、中心軸Axに沿って積層されている。そして、複数の圧電素子73は、第1,第2の電極板71,72に供給された駆動信号に応じて、中心軸Axに沿う積層方向に電位差が生じることによって、当該積層方向に沿って膨張及び収縮を交互に繰り返す。これによって、超音波振動子6は、当該積層方向を振動方向とする縦振動の超音波振動を発生させる。
【0023】
フロントマス8は、中心軸Axに沿って直線状に延在する長尺形状を有する。このフロントマス8は、図2(a)に示すように、素子装着部81と、断面積変化部82と、プローブ装着部83とを備える。
素子装着部81は、中心軸Axに沿って直線状に延在するボルトであり、複数の負電極板711の各開口711a、複数の正電極板721の各開口721a、及び複数の圧電素子73の各開口(図示略)にそれぞれ挿通される。そして、素子装着部81における基端側Ar2の端部には、図2(a)に示すように、ナットによって構成されたバックマス9が取り付けられる。
【0024】
断面積変化部82は、本発明に係るホーンに相当する。この断面積変化部82は、素子装着部81における先端側Ar1の端部に設けられ、超音波振動の振幅を増幅する部分である。また、断面積変化部82は、図2(a)に示すように、基端側Ar2の端部が素子装着部81よりも径寸法が大きく設定され、先端側Ar1に向かうにしたがって断面積が減少する円錐台形状を有する。すなわち、複数の負電極板711、複数の正電極板721、及び複数の圧電素子73は、素子装着部81が中心軸Axに沿って貫通し、断面積変化部82とバックマス9との間に挟持されることにより、略円柱形状を有した状態で一体に締結されている。なお、本実施の形態では、断面積変化部82と圧電素子73との間、及びバックマス9と圧電素子73との間には、それぞれ絶縁板84(図2(a))が介装されている。
プローブ装着部83は、図2(a)に示すように、断面積変化部82における先端側Ar1の端部に設けられ、中心軸Axに沿って直線状に延在している。そして、プローブ装着部83における先端側Ar1の端部には、ハンドピース4に対して超音波トランスデューサ5が接続された状態で、超音波プローブ46における基端側Ar2の端部が接続される。
【0025】
〔制御装置の構成〕
制御装置3には、電気ケーブルC(図1)によって、超音波処置具2が着脱自在に接続される。そして、制御装置3は、電気ケーブルCを経由することによって、超音波処置具2の動作を統括的に制御する。この制御装置3は、図1に示すように、エネルギ源31と、検出回路32と、プロセッサ33とを備える。
エネルギ源31は、プロセッサ33による制御の下、電気ケーブルC(一対のリード線C1)を経由することによって、超音波振動子6に対して交流電力である駆動信号を出力する。
【0026】
検出回路32は、エネルギ源31から超音波振動子6に対して出力されている駆動信号に基づいてUS信号を検出する。そして、検出回路32は、検出したUS信号をプロセッサ33に対して出力する。
ここで、当該US信号としては、駆動信号における電圧の位相信号(以下、US電圧位相信号と記載)、当該駆動信号における電流の位相信号(以下、US電流位相信号と記載)、当該駆動信号における電流値(以下、US電流と記載)、当該駆動信号における電圧値(以下、US電圧と記載)、当該US電流及び当該US電圧から算出されるインピーダンス値(以下、USインピーダンスと記載)等を例示することができる。
プロセッサ33は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field-Programmable Gate Array)等であり、メモリ(図示略)に記憶されたプログラムにしたがって、処置システム1全体の動作を制御する。
なお、プロセッサ33の機能については、以下の「処置システムの動作」において、説明する。
【0027】
〔処置システムの動作〕
次に、上述した処置システム1の動作について説明する。
術者は、超音波処置具2を手で持ち、当該超音波処置具2における先端側Ar1の部分を、例えば、トロッカ等を用いて腹壁を通してから腹腔内に挿入する。そして、術者は、操作ノブ42を開閉操作し、ジョー45と超音波プローブ46における先端側Ar1の部分とによって対象部位を把持する。この後、術者は、スイッチ43を押下する。そして、プロセッサ33は、スイッチ43からの操作信号に応じて、以下に示す制御を実行する。
【0028】
プロセッサ33は、エネルギ源31の動作を制御し、当該エネルギ源31から出力される駆動信号における周波数を掃引し、検出回路32から出力されるUS信号(例えば、US電流、US電流位相信号及びUS電圧位相信号の位相差等)に基づいて、超音波振動子6の共振周波数を探索する。そして、プロセッサ33は、エネルギ源31の動作を制御し、US信号(例えば、US電流、US電流位相信号及びUS電圧位相信号の位相差等)に基づいて、当該エネルギ源31から出力される駆動信号における周波数を当該探索した共振周波数にロックするPLL制御を実行する。本実施の形態では、プロセッサ33は、PLL制御を実行する際、US電流を一定に保つ定電流制御を実行する。これにより、超音波振動子6は、超音波振動(縦振動)を発生させる。ここで、断面積変化部82における基端側Ar2の端部は、縦振動の節P1(図2(b))となる。また、プローブ装着部83における先端側Ar1の端部、及びバックマス9における基端側Ar2の端部は、それぞれ縦振動の腹P2,P3(図2(b))となる。すなわち、超音波振動子6の全長は、縦振動の波長の約1/2である。
【0029】
そして、超音波振動子6に発生させた縦振動は、超音波プローブ46に伝達される。これによって、超音波プローブ46における先端側Ar1の部分は、当該縦振動によって、所望の振幅で振動する。すなわち、ジョー45と超音波プローブ46における先端側Ar1の部分との間に把持された対象部位には、当該先端側Ar1の部分から超音波振動が付与される。言い換えれば、対象部位には、当該先端側Ar1の部分から超音波エネルギが付与される。これによって、当該先端側Ar1の部分と対象部位との間に摩擦熱が発生する。そして、当該対象部位は、凝固しつつ切開される。
【0030】
〔超音波振動子の製造方法〕
次に、超音波振動子6の製造方法について説明する。
図5は、超音波振動子6の製造方法を示すフローチャートである。図6及び図7は、超音波振動子6の製造方法を説明する図である。具体的に、図6(a)は、複数の圧電素子73を通常状態で配置した構成を示している。図6(b)は、複数の圧電素子73のうち1枚の圧電素子73eの分極方向を通常状態から反転させた姿勢で配置した構成を示している。
なお、図6では、複数の圧電素子73の実装位置を、断面積変化部82(節P1)に近接する側から基端側Ar2に向けて順に、実装位置「1」~「6」としている。また、各実装位置「1」~「6」の圧電素子73をそれぞれ圧電素子73a~73fとしている。さらに、圧電素子73内部における正電荷を「+」によって表現し、負電荷を「-」によって表現し、分極方向を矢印によって表現している。また、負電極板711及び正電極板721の位置を一点鎖線によって表現している。
【0031】
ここで、図6(a)に示した通常状態とは、複数の圧電素子73を負電荷「-」側が負電極板711に対向し、正電荷「+」側が正電極板721に対向する姿勢でそれぞれ配置した状態を意味する。
【0032】
先ず、作業者は、以下に示す工程S1を実行する。
作業者は、複数の圧電素子73を図6(a)に示した通常状態に設定する。また、作業者は、制御装置3を操作し、当該制御装置3によって超音波振動子6の定電流制御を実行させる。これによって、超音波振動子6は、超音波振動(縦振動)を発生する。この場合、複数の圧電素子73は、通常状態に設定されているため、同一の第1のタイミングで膨張するとともに、同一の第2のタイミングで収縮することとなる。そして、作業者は、振動計等を用いることによって、当該縦振動の振幅を測定する。
【0033】
工程S1の後、作業者は、工程S1において測定した振幅が所望の振幅であるか否かを判断する(工程S2)。
所望の振幅であると判断した場合(工程S2:Yes)には、作業者は、超音波振動子6を通常状態で用いることを決定する(工程S3)。工程S3の後、作業者は、超音波振動子6の製造方法を終了する。
【0034】
一方、所望の振幅ではないと判断した場合(工程S2:No)には、作業者は、以下に示す工程S4を実行する。
作業者は、例えば図6(b)に示すように、実装位置「1」~「6」のいずれか一つの圧電素子73(図6(b)の例では圧電素子73e)の分極方向を通常状態から反転させた姿勢で配置する。また、作業者は、工程S1と同様に、制御装置3を操作し、当該制御装置3によって超音波振動子6の定電流制御を実行させる。これによって、超音波振動子6は、超音波振動(縦振動)を発生する。この場合、例えば図6(b)の状態では、複数の圧電素子73のうち、圧電素子73a~73d,73fは、同一の第1のタイミングで膨張するとともに、同一の第2のタイミングで収縮することとなる。すなわち、圧電素子73a~73d,73fは、本発明に係る第1の圧電素子に相当する。一方、圧電素子73eは、分極方向が通常状態から反転しているため、圧電素子73a~73d,73fとは逆に、第1のタイミングで収縮するとともに、第2のタイミングで膨張することとなる。すなわち、圧電素子73eは、本発明に係る第2の圧電素子に相当する。そして、作業者は、振動計等を用いることによって、当該縦振動の振幅を測定する。
【0035】
工程S4の後、作業者は、実装位置「1」~「6」の全ての圧電素子73について工程S4を実行したか否かを判断する(工程S5)。
全ての圧電素子73について実行していないと判断した場合(工程S5:No)には、作業者は、工程S4に戻る。
【0036】
一方、全ての圧電素子73について実行したと判断した場合(工程S5:Yes)には、作業者は、以下に示す工程S6を実行する。
作業者は、工程S4において測定した振幅を参照し、実装位置「1」~「6」のうち、分極方向を反転させることによって所望の振幅に近い振幅となる実装位置を決定する。そして、作業者は、当該決定した実装位置の圧電素子73の分極方向を通常状態から反転させた姿勢で超音波振動子6を用いることを決定する。なお、本実施の形態では、図6(b)に示すように、分極方向を反転させる実装位置として実装位置「5」を決定している。
【0037】
工程S1において測定した通常状態での振幅に対する工程S4においてそれぞれ測定した各振幅の増加率(以下、振幅増加率と記載)と分極方向を反転させた圧電素子73の実装位置「1」~「6」との関係は、図7に示す通りである。
実装位置「1」~「6」の圧電素子73a~73fのいずれの分極方向を通常状態から反転させた場合であっても、振幅増加率は、正の値となっている。言い換えれば、通常状態の振幅よりも高い振幅となっている。これは、以下の理由が考えられる。
圧電素子73a~73fのいずれかの分極方向を通常状態から反転させた場合には、超音波振動子6は、通常状態に対して振動効率が悪くなる。そして、振動効率が悪くなると、定電流制御において、圧電素子73a~73f毎に印加される電圧値は、通常状態よりも高くなる。すなわち、圧電素子73a~73fのいずれかの分極方向を通常状態から反転させた場合には、印加される電圧値が通常状態よりも高くなるため、通常状態の振幅よりも高い振幅となる。
【0038】
また、振幅増加率は、実装位置「1」の圧電素子73aの分極方向を通常状態から反転させた場合に最も高いものとなり、分極方向を反転させる圧電素子73の実装位置が実装位置「2」から「6」に向かうにしたがって(節P1から離間するにしたがって)、少なくなっている。これは、以下の理由が考えられる。
複数の圧電素子73のうち、超音波振動子6の振動に寄与する振動寄与率は、節P1に近い位置に実装される圧電素子73aが最も高く、実装位置「1」~「6」に実装される圧電素子73a~73fの順に小さくなる。すなわち、振動寄与率の高い圧電素子73の分極方向を通常状態から反転させれば振幅増加率が高くなり、振動寄与率の低い圧電素子73の分極方向を通常状態から反転させれば振幅増加率が低くなる。
【0039】
以上説明した本実施の形態によれば、以下の効果を奏する。
本実施の形態に係る超音波振動子6では、複数の圧電素子73は、第1のタイミングで膨張し、第2のタイミングで収縮する圧電素子73a~73d,73fと、第1のタイミングで収縮し、第2のタイミングで膨張する圧電素子73eとを備える。すなわち、複数の圧電素子73のうち、圧電素子73eの分極方向を通常状態から反転させるだけで、所望の振幅を得ることができる。この際、圧電素子73eの分極方向を通常状態から反転させた場合であっても、圧電素子73全体の静電容量は、通常状態での圧電素子73全体の静電容量から変化しない。このため、圧電素子73eの分極方向を通常状態から反転させた場合であっても、超音波振動子6を制御するにあたって、制御構造を設計上の製造構造から変更する必要がない。すなわち、大幅な設計変更を行う必要がない。
以上のことから、本実施の形態に係る超音波振動子6によれば、大幅な設計変更を行うことなく、所望の振幅を容易に得ることができる。
【0040】
また、本実施の形態に係る超音波振動子6では、複数の圧電素子73は、節P1よりも基端側Ar2において、中心軸Axに沿って積層されている。言い換えれば、超音波振動子6は、縦振動の節P1が1つのみ存在し、その全長が縦振動の波長の約1/2となる。このため、超音波振動子6の小型化、ひいては、超音波処置具2の小型化を図ることができる。
【0041】
(その他の実施形態)
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
上述した実施の形態では、複数の圧電素子73は、6枚によって構成されていたが、その他の数によって構成しても構わない。また、6枚の圧電素子73のうち、節P1から5番目の圧電素子73eを本発明に係る第2の圧電素子としていたが、これに限らず、その他の位置の圧電素子73を本発明に係る第2の圧電素子としても構わない。さらに、本発明に係る第2の圧電素子の数は、1枚に限らず、その他の数としても構わない。
【0042】
上述した実施の形態では、本発明に係る第2の圧電素子である圧電素子73eは、本発明に係る第1の圧電素子である圧電素子73a~73d,73fとは逆に、第1のタイミングで収縮し、第2のタイミングで膨張していたが、これに限らない。本発明に係る第2の圧電素子としては、膨張及び収縮のタイミングが本発明に係る第1の圧電素子とは異なっていれば、膨張及び収縮のタイミングをその他のタイミングとしても構わない。すなわち、本発明に係る第2の圧電素子の膨張及び収縮のタイミングを本発明に係る第1の圧電素子とは異なるものとすれば、超音波振動子6は、通常状態に対して振動効率が悪くなるため、通常状態の振幅よりも高い振幅となると考えられる。
【0043】
上述した実施の形態では、超音波振動子6は、超音波振動の波長の約1/2の全長を有していたが、これに限らず、その他の全長、例えば当該波長と略同一の全長を有する構成としても構わない。
【0044】
上述した実施の形態では、超音波処置具2として、対象部位に対して超音波エネルギを付与する構成を採用していたが、これに限らず、対象部位に対して、超音波エネルギと、高周波エネルギ及び熱エネルギの少なくとも一方のエネルギとを付与する構成を採用しても構わない。ここで、「対象部位に対して高周波エネルギを付与する」とは、対象部位に対して高周波電流を流すことを意味する。また、「対象部位に対して熱エネルギを付与する」とは、ヒータ等の熱を対象部位に伝達することを意味する。
【符号の説明】
【0045】
1 処置システム
2 超音波処置具
3 制御装置
4 ハンドピース
5 超音波トランスデューサ
6 超音波振動子
7 振動子本体
8 フロントマス
9 バックマス
31 エネルギ源
32 検出回路
33 プロセッサ
41 保持ケース
42 操作ノブ
43 スイッチ
44 シース
45 ジョー
46 超音波プローブ
51 超音波トランスデューサケース
71 第1の電極板
72 第2の電極板
73,73a~73f 圧電素子
81 素子装着部
82 断面積変化部
83 プローブ装着部
84 絶縁板
711 負電極板
711a 開口
712 負電極配線部
713 リード線接続端子
721 正電極板
721a 開口
722 正電極配線部
723 リード線接続端子
Ar1 先端側
Ar2 基端側
Ax 中心軸
C 電気ケーブル
C1 リード線
P1 節
P2,P3 腹
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7