(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】自動車の排気ガス量の計算
(51)【国際特許分類】
F01N 3/00 20060101AFI20220808BHJP
F02D 28/00 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
F01N3/00 G
F02D28/00 C
(21)【出願番号】P 2020541858
(86)(22)【出願日】2018-10-09
(86)【国際出願番号】 EP2018077474
(87)【国際公開番号】W WO2019076685
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-04-15
(31)【優先権主張番号】102017218476.0
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ハイナー マーカート
(72)【発明者】
【氏名】マーティン シーク
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン アンガーマイアー
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0024089(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00
F02D 28/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際の走行動作において内燃機関(20)によって駆動される自動車(10)の排気ガスの排出量(e)(英語:real driving emissions)を特定するための方法であって、
前記内燃機関(20)及び/又は前記自動車(10)の動作量の測定された時間推移(x)を用いて、前記内燃機関(20)及び/又は前記自動車(10)の動作量の少なくとも1つの事前に規定可能な特性に限定されるべき限定時間推移(x’)を生成し、次いで、生成された当該限定時間推移(x’)に基づいて、前記排気ガスの排出量(e)を特定するように、機械学習システム(M)を訓練し、
前記機械学習システム(M)は、第1の部分(K)を含み、
前記第1の部分(K)は、まず始めに、前記測定された時間推移(x)を、それぞれの潜在変数(z)を特徴付ける第1の量(z,q
θ(z|x))に変換し、
潜在変数の空間は、前記測定された時間推移(x)の空間に比較して減少された次元を有し、
前記機械学習システム(M)は、第2の部分(D)を含み、
前記第2の部分(D)は、潜在変数(z)に基づいて、それぞれ前記動作量の前記生成された限定時間推移(x’)を特徴付ける第2の量(x’,p
φ(x’|z))を生成し、
前記機械学習システム(M)の前記第1の部分(K)及び前記第2の部分(D)は、オートエンコーダを形成し、
前記機械学習システム(M)は、潜在変数(z)を、事前に規定し、
前記機械学習システム(M)は、事前に規定された前記潜在変数(z)に基づいて、前記動作量の前記少なくとも1つの事前に規定可能な特性に限定されるべき前記限定時間推移(x’)を生成し、
次いで、生成された前記限定時間推移(x’)に基づいて、前記排気ガスの排出量(e)を特定
し、
前記潜在変数(z)を特徴付ける前記第1の量(z,q
θ
(z|x))は、前記潜在変数(z)そのものであり、
前記第2の部分は、第3のパラメータ(γ)によってパラメータ化されるガウス過程モデルを含み、
前記第3のパラメータ(γ)及び前記潜在変数(z)を、前記機械学習システム(M)の訓練時に、前記測定された時間推移(x)の再構成の限界確率(p(x|z))が当該潜在変数(z)のもとで最大化されるように適合させ、
前記第1の部分(K)は、第4のパラメータ(ν)によってパラメータ化されるニューラルネットワークを含み、
前記訓練時における前記潜在変数(z)の前記適合を、前記第4のパラメータ(ν)の適合によって実施する、
方法。
【請求項2】
前記機械学習システム(M)の前記第1の部分(K)及び前記第2の部分(D)は、変分オートエンコーダ(英語:variational Autoencoder)を形成する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定された時間推移(x)に基づいて得られる前記潜在変数(z)の確率密度分布を決定し、
前記事前に規定された潜在変数(z)を、推定された当該確率密度分布から、ランダムサンプルとして取り出す、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記自動車を、特定された前記排気ガスの排出量(e)に基づいて制御する、
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の方法を実行するために構成されたコンピュータプログラム(220)。
【請求項6】
請求項
5に記載のコンピュータプログラムが記憶された機械可読記憶媒体(210)。
【請求項7】
請求項
6に記載の機械可読記憶媒体(210)を備えたコンピュータ(200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、排出量を特定するための方法及び装置と、コンピュータプログラムと、機械可読記憶媒体とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術
独国特許出願公開第102009028374号明細書から、内燃機関を診断するための方法が公知であり、同方法は、試験台上で内燃機関の特定の負荷条件にしか到達することができないという点において制限されている。同文献からはさらに、特定の動作点への到達を、試験走行によってしか達成することができず、これによって、診断時間が長くなってしまうことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】独国特許出願公開第102009028374号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の利点
これに対して、独立請求項1に記載の特徴を有する方法は、実際の走行動作において内燃機関によって駆動される自動車の排出量を、特に迅速かつ簡単に特定することが可能となるという利点を有する。有利な発展形態は、従属請求項の対象である。
【0005】
発明の開示
一部の国々においては、内燃機関によって駆動される新型の自動車を、実際の走行動作において発生する排出量に基づいて認可するように法律により制定することが企図されている。これに関して、英語の用語“real driving emissions”も一般に使用されている。そのような自動車には、例えば、専ら内燃機関のみによって駆動されるものが含まれるが、ハイブリッド式のドライブトレインを有するものも含まれる。
【0006】
このために、試験官は、自動車を用いて1回又は複数回の運転サイクルを取り扱い、その際に発生する排出量が測定される。その後、自動車の認可は、これらの測定された排出量に基づいて決まる。この場合、運転サイクルは、試験官によって広範囲の制限内で自由に選択される可能性がある。1回の運転サイクルの典型的な持続時間は、例えば90~120分である。
【0007】
従って、自動車の開発に際して、自動車の製造業者には、新型の自動車の開発プロセスの既に早期の段階で、この自動車の排出量が、全ての許容される運転サイクルにおいて法的に制定された制限内に収まっているかどうかを予測しなければならないという課題が課せられている。
【0008】
従って、限界値を超えることが予想される場合に自動車に変更を加えることができるようにするために、自動車の開発段階において既に、自動車の予想排出量を確実に予測することができるような装置を提供することが重要である。試験台上又は走行中の自動車での測定のみに基づいたこのような評価は、考えられる運転サイクルの多様性が大きいために非常に手間がかかる。
【0009】
従って、第1の態様においては、本発明は、実際の走行動作において内燃機関によって駆動される自動車の排出量を特定するための方法であって、内燃機関及び/又は自動車の動作量の測定された時間推移(x)を用いて、内燃機関及び/又は自動車の動作量の時間推移(x’)を生成し、次いで、生成された当該時間推移(x’)に基づいて、排出量を特定するように、機械学習システムを訓練する、方法に関する。
【0010】
即ち、それぞれ固有の特徴を有する複数の動作量の実際の時間推移のみを測定し、次いで、これらの多数の特徴を有する現実的な時間推移を、機械学習システムによって生成させることが可能である。
【0011】
動作量は、好ましくは、以下の量を特徴付ける1つの、いくつかの又は全ての量を含み得る。
・自動車のアクセルペダルの位置
・自動車のブレーキペダルの位置
・自動車のトランスミッションのクラッチの位置
・トランスミッションのギア
・自動車の速度
・自動車の走行抵抗
・内燃機関の牽引力
・自動車の電気モータ駆動部の牽引力
・内燃機関の回転数
・単位時間当たりに吸引される内燃機関の空気質量
・内燃機関の吸気管における圧力
・高圧EGRの量
・低圧EGRの量
・吸気弁の閉弁時点
・排気弁の開弁時点
・吸気弁の最大弁行程
・排気弁の最大弁行程
・内燃機関の圧縮を変更するためのシステムの位置
・内燃機関の噴射燃料量
・噴射の噴射時点
・ドイツでも例えば“Common Rail”という英語の用語で知られているような、内燃機関の高圧燃料蓄積器における圧力
・内燃機関の冷却剤温度
・内燃機関の吸気系統における温度
【0012】
動作量の時間推移に加えて、合格すべきサイクルにおける内燃機関及び/又は自動車を特徴付けるパラメータに基づいて、動作量の時間推移(x’)を生成するように訓練を行うことも可能である。これらの特徴付けるパラメータは、以下の量のうちの1つ、いくつか又は全てを含み得る。
・自動車の質量
・自動車のトランスミッションの変速比
・自動車の駆動系統の最大駆動出力
・駆動系統の最大トルク
・トランスミッションの種類
・燃料の種類
・ハイブリッド化の仕様
・機関の形式名
・車両の形式名
・例えばGPS記録、周囲温度、周囲圧力等のような、走行した経路の特徴付け
【0013】
噴射は、特に多段噴射であってもよく、例えば、メイン噴射、プレ噴射及びアフター噴射であってもよい。そのような多段噴射の場合には、自動車及び/又は内燃機関の動作量は、好ましくは、燃料量及び噴射時点ごとに複数の部分噴射のうちのそれぞれの部分噴射を特徴付ける量を含む。
【0014】
起こり得る時間推移の数が非常に多いので、機械学習システムを使用することが重要である。1つの時間推移の期間が1時間であって、かつ、サンプリングレートが例えば100msである場合に、自動車及び/又は内燃機関の動作量が15個あるとすると、15×36000=540000次元の空間が生じ、これらの空間内に、起こり得る時間推移が存在する。
【0015】
この非常に高次元の空間内の、相対的に見て少数の点のみが、自動車及び/又は内燃機関の動作量の実際に起こり得る時間推移に対応すること、即ち、現実的であることは、当業者には自明である。この現実的な時間推移を選択するという課題は、独立請求項1に記載の特徴を有する方法によって解決される。
【0016】
1つの発展形態においては、機械学習システムは、第1の部分-エンコーダ-を含むことができ、第1の部分は、まず始めに、測定された時間推移(x)を、それぞれの潜在変数(z)を特徴付ける第1の量(z,qθ(z|x))に変換し、潜在変数の空間は、-測定された時間推移の空間に比較して-減少された次元を有し、機械学習システムは、第2の部分-デコーダ-を含み、第2の部分は、潜在変数(z)に基づいて、それぞれ自動車及び/又は内燃機関の動作量の生成された時間推移(x’)を特徴付ける第2の量(x’,pφ(x’|z))を生成する。
【0017】
実際に測定された軌跡を低次元の空間にマッピングすることにより、機械学習システムは、本質的な特徴、即ち、現実的な時間推移-つまり、特に、測定された時間推移の訓練データに含まれている推移-を抽出するように訓練される。従って、即ち、現実的な軌跡の本質は、エンコーダ又はデコーダを特徴付けるパラメータにエンコードされている。
【0018】
エンコーダは、測定された時間推移(x)を潜在変数(z)に変換するだけでなく、特徴付けるパラメータに基づいて追加的な変数にも変換することも可能である。
【0019】
この場合、特に有利な発展形態においては、潜在変数(z)を特徴付ける第1の量を、潜在変数(z)そのものとすることができ、第2の部分は、第3のパラメータ(γ)によってパラメータ化されるガウス過程モデルを含み、第3のパラメータ(γ)及び潜在変数(z)を、機械学習システムの訓練時に、測定された時間推移(x)の再構成の限界確率(p(x|z))が当該潜在変数(z)のもとで最大化されるように適合させることができる。
【0020】
ガウス過程モデルの使用は、それぞれの第2の量(z)が、測定された推移(x)と同様の特徴を有する推移に対応しているかどうかに関する確率論的ステートメントが可能となるという利点を有する。これにより、任意の試験サイクルごとに、自動車及び/又は内燃機関の動作量の対応する関連する推移に基づいて、これらが、訓練フェーズに入っている測定された推移を考慮に入れて関連性があるかどうかを判断することが可能となる。
【0021】
この態様のさらなる発展形態においては、第1の部分は、第4のパラメータ(ν)によってパラメータ化される関数、例えばニューラルネットワークを含むことができ、訓練時における潜在変数(z)の適合を、第4のパラメータ(ν)の適合によって実施することができる。
【0022】
このことは、自動車及び/又は内燃機関の動作量の測定された推移(x)を潜在変数(z)にマッピングするための特に効率的な手法である。
【0023】
特に有利な代替発展形態においては、機械学習システムの第1の部分及び第2の部分は、オートエンコーダを形成することができる。
【0024】
オートエンコーダとは、潜在変数(z)を特徴付ける第1の量が、潜在変数そのものであり、生成された時間推移を特徴付ける第2の量が、生成された時間推移そのものであるということを意味する。第1の部分及び第2の部分は、例えばニューラルネットワークによって提供することができる。
【0025】
当該方法は、機械学習システムの訓練が特に簡単であるという利点を有する。特に、これに加えて、オートエンコーダをパラメータ化するパラメータを、例えば、測定された時間推移と、これらの測定された時間推移からオートエンコーダを用いて生成された時間推移(x’)との間の差のノルム|x-x’|2を特徴付ける再構成誤差が含まれたコスト関数が最小化されるように、適合させることができる。
【0026】
他の特に有利な代替発展形態においては、機械学習システムの第1の部分及び第2の部分は、変分オートエンコーダを形成することができる。変分オートエンコーダは、ドイツでは英語の用語“Variational Autoencoder”で知られている。
【0027】
このことは、それぞれ潜在変数(z)を特徴付ける第1の量が、それぞれ第1のパラメータ(θ)に基づいてパラメータ化された第1の確率分布(qθ(z|x))であり、生成された時間推移を特徴付ける第2の量が、それぞれ第2のパラメータ(φ)によってパラメータ化された第2の確率分布(pφ(x’|z))であるということを意味する。その場合、機械学習システムの訓練とは、コスト関数が最小化されるように、第1のパラメータ(θ)及び第2のパラメータ(φ)が変更されるということを意味する。コスト関数は、有利には、測定された時間推移の生成された再構成の再構成誤差を含むと共に、第1の確率分布(qθ(z|x))と、好ましくは平均値0及び分散1に正規化された正規分布Nとの間のカルバック・ライブラ情報量KL[q(z)|N]を含む。
【0028】
第1の確率分布(qθ(z|x))として及び/又は第2の確率分布(pφ(x’|z))として、それぞれ1つのパラメータ化可能な分布関数、例えば正規分布を使用することができる。その場合、第1の部分及び/又は第2の部分は、それぞれ、例えばニューラルネットワークを含むことができ、このニューラルネットワークは、自身に供給された入力量に基づいて、このパラメータ化可能な分布関数をパラメータ化するパラメータを決定する。
【0029】
変分オートエンコーダの使用は、それぞれの第2の量(x)が、測定された推移と同様の特徴を有しているかどうかに関する確率論的ステートメントが、第1の確率分布(qθ(z|x))によって可能になるという利点を有する。
【0030】
さらに、他の特に有利な代替発展形態においては、潜在変数(z)を特徴付ける第1の量を、潜在変数(z)そのものとすることができ、第1の部分は、測定された時間推移(x)から、スパース辞書学習(英語:sparse dictionary learning)方法を用いて、潜在変数(z)を決定することができ、潜在変数(z)は、当該方法を用いて学習された辞書の線形結合として表される場合に、それぞれの測定された時間推移(x)の係数を表している。このようにして、潜在変数(z)の空間を特に効果的に減少させることが可能となる。
【0031】
上述した態様の有利な発展形態においては、潜在変数(z)を、事前に規定することができ、機械学習システムは、事前に規定された当該潜在変数(z)に基づいて、自動車及び/又は内燃機関の動作量の時間推移(x’)を生成することができ、次いで、生成された当該時間推移(x’)に基づいて、排出量を特定することができる。
【0032】
即ち、機械学習システムは、まず始めに、測定された時間推移を用いて、現実的な時間推移を生成することが可能となるように訓練される。次いで、潜在変数を事前に規定することにより、時間推移が生成され、これらの時間推移に対して、次いで、例えば、機械学習方法又は物理化学モデルのような適当な数学モデルを用いて、排出量を特定する。例えば、上述した機械学習方法を訓練するために、現実のシステムにおける排出量を測定することも可能である。
【0033】
この態様の発展形態においては、潜在変数(z)のうちの少なくともいくつか、好ましくは全てを、統計的試験計画方法を用いて決定することができる。
【0034】
このことは、排出量を特定する数学モデルを、特定された排出量に基づいて、実際に測定された排出量値に適合させるべき場合に、特に良好である。これにより、潜在変数の空間の可能な限り広範囲な領域が、可能な限り効率的に探索されることを保証することが可能となる。
【0035】
この態様の代替発展形態においては、測定された時間推移(x)に基づいて得られる潜在変数(z)の確率密度分布を決定することができ、事前に規定された潜在変数(z)を、推定された当該確率密度分布から、ランダムサンプルとして取り出すことができる。
【0036】
このようにして、特定された排出量は、自動車の現実の動作において発生する排出量を特に良好に表すことが可能となる。これにより、自動車の現実の動作において発生する排出量を、特に正確に評価することが可能となる。
【0037】
ここでさらに、追加的な変数を事前に規定することも可能である。このことは、少なくとも1つの事前に規定可能な特性に制限されるべき時間推移(x’)を生成すべき場合に、特に有利である。これによって、例えば、上述した特徴付けるパラメータに、即ち、例えば、車両の形式又は地理的な現在地に限定されて生成される時間推移(x’)を、これらの特徴付けるパラメータを追加的な変数として規定することによって、生成することが可能となる。
【0038】
このような機械学習システムを訓練するために、訓練時に生成された時間推移(x’)の事前に規定可能な特性をエンコードすべき追加的なパラメータは、訓練時に、本当の値にセットされる(というのも、時間推移のこの特性は、訓練時には当然既知であるからである)。
【0039】
本発明の他の態様においては、機械学習システムは、第1の部分-弁別器-を含むことができ、第1の部分には、自動車及び/又は内燃機関の動作量の測定された時間推移、又は、機械学習システムの第2の部分-生成器-によって生成された、自動車及び/又は内燃機関の動作量の時間推移のいずれかが供給され、第1の部分は、当該第1の部分自身に自動車及び/又は内燃機関の動作量の測定された時間推移が供給されたのか又は生成された時間推移が供給されたのかを、可能な限り良好に判断することが可能となるように訓練され、第2の部分は、第1の部分が、当該第1の部分自身に自動車及び/又は内燃機関の動作量の測定された時間推移が供給されたのか又は生成された時間推移が供給されたのかを、可能な限り不良に判断することが可能となるように、ランダムに選択される入力量に基づいて、自動車及び/又は内燃機関の動作量の時間推移を可能な限り生成するように訓練される。
【0040】
当該方法は、このようにして生成された、自動車及び/又は内燃機関の動作量の推移が、特に現実的であるという利点を有する。
【0041】
「ランダムに」という用語の意味は、このようにして選択される量が、乱数生成器又は擬似乱数生成器を用いて決定されるということを含むことができる。
【0042】
第1の部分及び第2の部分の訓練を、この訓練が可能な限り効果的となることを保証するために、有利には相互に実施することができる。この場合には、有利には、弁別器が、自身に供給された時間推移が、測定された時間推移であるのか又は生成器によって生成された時間推移であるのかを、もはや事前に規定可能な的確性をもって区別することができなくなるまで、訓練を継続することができる。
【0043】
この態様の発展形態においては、ランダムに選択される入力量を事前に規定することができ、機械学習システムは、事前に規定された当該入力量に基づいて、自動車及び/又は内燃機関の動作量の時間推移(x’)を生成することができ、次いで、生成された当該時間推移に基づいて、排出量を特定することができる。
【0044】
即ち、機械学習システムは、まず始めに、測定された時間推移を用いて、現実的な時間推移を生成することが可能となるように訓練される。次いで、ランダムに選択される入力量(z)を事前に規定することにより、実際の時間推移が生成され、これらの時間推移に対して、次いで、例えば、機械学習方法又は物理化学モデルのような適当な数学モデルを用いて、排出量を特定する。例えば、上述した機械学習方法を訓練するために、現実のシステムにおける排出量を測定することも可能である。追加的な変数を事前に規定することにより、事前に規定された特性に対応する推移を生成することができる。
【0045】
特に、この場合には、ランダムに選択される入力量を、統計的試験計画方法を用いて決定することができる。
【0046】
このことは、排出量を特定する数学モデルを、特定された排出量に基づいて、実際に測定された排出値に適合させるべき場合に、特に良好である。これにより、潜在変数の空間の可能な限り広範囲な領域が、可能な限り迅速に探索されることを保証することが可能となる。
【0047】
最後に、自動車が動作されている間に、訓練されたモデルを用いた排出量の特定を実施することも可能である。その場合、自動車を、特定された排出量に基づいて制御することができる。即ち、機械学習システムを用いた排出量の特定は、仮想のセンサとして機能し、このことは、コストを削減し、特にフェイルセーフであり、特に予測的に使用することが可能である。その場合、例えば、自動車が、排出量に関して特別な制限値、特に厳密な制限値が設けられているゾーン内に進入した場合に、例えば、特定された排出量に基づいて、内燃機関の出力を絞ること又は空燃比を変更することが可能である。考えられるのは、例えば、市街地にいる場合である。
【0048】
他の態様においては、本発明は、コンピュータ上で実行された場合に、上述した方法のうちの1つを実行するために構成されたコンピュータプログラムと、当該コンピュータプログラムが記憶された機械可読記憶媒体(この記憶媒体は、もちろん、空間的に分散されるように構成されていてもよく、例えば、並列実行される場合には、複数のコンピュータにわたって分散されていてもよい)と、(例えば、上述したコンピュータプログラムを再生することによって)当該方法のうちの1つを実行するように構成された装置、特に監視ユニットとに関する。
【0049】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図2】排出量を特定するための装置を示す図である。
【
図3】機械学習システムを訓練するための装置の構造を例示的に示す図である。
【
図4】排出量を特定するための機械学習システムの使用を例示的に示す図である。
【
図5】機械学習システムの例示的な構造を示す図である。
【
図6】機械学習システムの代替的かつ例示的な構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0051】
実施例の説明
図1は、自動車(10)の構造を例示的に示している。自動車は、内燃機関(20)によって駆動される。内燃機関(20)の動作時に発生した燃焼生成物は、特に排気ガス浄化装置(40)、例えば触媒が含まれる排気管(30)を通って導かれる。排気管(30)の端部において、排出物(50)、特に、窒素酸化物、煤粒子、及び、二酸化炭素が、環境へと漏出する。
【0052】
図2は、実際の走行動作において自動車(10)の排出量(50)を特定することができる装置(200)の構造を例示的に示している。本実施例においては、装置(200)は、コンピュータプログラム(220)が記憶された機械可読記憶媒体(210)が含まれたコンピュータである。このコンピュータプログラムは、本発明に係る方法のうちの1つを実行するために構成されており、即ち、コンピュータプログラム(220)は、コンピュータ(200)上で実行されたときに、本発明に係る方法をコンピュータ(200)に実行させるための命令を含む。
【0053】
図3は、機械学習システム(M)を訓練するための装置の構造を例示的に示している。機械学習システム(M)には入力量として、自動車(10)及び/又は内燃機関(20)の動作量の測定された時間推移(x)が供給される。これらの測定された時間推移は、必ずしも同一の自動車からのものである必要はなく、例えば、データベースに格納されていてもよい。ここから機械学習システム(M)は、機械可読記憶媒体(210)に保存されているパラメータ(ν,γ,θ,φ,Γ,Υ)に基づいて、出力量、即ち、動作量の時間推移(x’)又は弁別結果(d)を生成する。測定された時間推移(x)と、生成された時間推移(x’)又は弁別結果(d)とが、学習ユニット(L)に供給され、学習ユニット(L)は、例えば勾配降下法を用いて、コスト関数が最適化されるようにパラメータ(ν,γ,θ,φ,Γ,Υ)を適合させる。
【0054】
図4は、排出量(e)を特定するための機械学習システム(M)の使用を例示的に示している。機械学習システム(M)は、パラメータ(ν,γ,θ,φ)に基づいて、自動車(10)及び/又は内燃機関(20)の動作量の時間推移(x’)を生成する。これらの時間推移(x’)は、ブロック(E)に供給され、ここからブロック(E)は、数学モデルを用いて又は自動車(10)の実際の測定値を用いて、関連する排出量(e)を特定する。
【0055】
図5は、機械学習システム(M)の例示的な構造をより詳細に示している。
図5aは、訓練時に使用され得るような構造を示している。機械学習システム(M)は、エンコーダ(K)及びデコーダ(D)を有する。エンコーダ(K)は、自身に供給された、測定された時間推移(x)とパラメータ(ν,θ)とから、潜在変数(z)を特徴付ける量(z,q
θ(z|x))を決定し、この潜在変数(z)を特徴付ける量(z,q
θ(z|x))自体は、デコーダ(D)に供給される。潜在変数(z)に加えて、さらに他の変数(図示せず)をデコーダ(D)に供給することもできる。デコーダ(D)は、これらの量(z,q
θ(z|x))から、パラメータ(γ、φ)と、場合によってはさらに他の変数とに基づいて、生成された時間推移(x’)を生成する。
【0056】
図5bは、生成された時間推移(x’)の生成時に使用され得るような構造を示している。ブロック(S)は、事前に規定可能な分布に従って潜在変数(z)を生成する。例えば、密度推定器を用いて、
図5aに示されるように決定された潜在変数zに基づいて、確率密度が決定され、そしてブロック(S)は、この確率密度からランダムにランダムサンプルを取り出す。これらの生成された潜在変数(z)は、デコーダ(D)に供給され、デコーダ(D)は、パラメータ(γ、φ)に基づいて、生成された時間推移(x’)を生成する。
【0057】
エンコーダ(K)及びデコーダ(D)は、例えば、オートエンコーダ又は変分オートエンコーダであってもよいし、又は、スパース辞書学習を実施してもよい。
【0058】
デコーダ(D)は、ガウス過程を含むことも可能である。その場合、エンコーダ(K)は、ニューラルネットワークを含むことが可能であり、このニューラルネットワークは、パラメータ(ν)に基づいて潜在変数(z)を決定し、訓練時に、ガウス過程を特徴付けるパラメータ(γ)に加えてこのパラメータ(ν)も、測定された時間推移(x)の再構成の限界確率(p(x|z))が当該潜在変数(z)のもとで最大化されるように、変更される。あるいは、エンコーダ(K)を省略して、潜在変数(z)を直接的に事前に規定することが可能であり、従って、学習ユニット(L)は、パラメータ(γ)に加えてこの潜在変数(z)も、測定された時間推移(x)と、選択された潜在変数(z)から生成された関連する推移(x’)との間の再構成誤差を有するコスト関数が最小化されるように、適合させる。
【0059】
図6は、機械学習システム(M)の代替的かつ例示的な構造をより詳細に示している。
図6aは、訓練時に使用され得るような構造を示している。機械学習システム(M)は、第1のブロック(U)及び第2のブロック(H)を含む。第1のブロック(U)は、パラメータ(Υ)によってパラメータ化され、第2のブロック(H)は、パラメータ(Γ)によってパラメータ化される。乱数生成器(R)は、乱数(又は、よくあるように擬似乱数)rを決定して、第2のブロック(H)に供給する。第2のブロック(H)に、特徴付けるパラメータをエンコードするさらに他の変数(図示せず)を供給することもできる。第2のブロック(H)は、乱数(r)と、場合によってはさらに他の変数とから、パラメータ(Γ)に基づいて、それぞれ1つの生成された時間推移(x’)を生成する。
【0060】
このようにして生成された時間推移(x’)と、測定された時間推移(x)とが、交互に第1のブロック(U)に供給され、即ち、第1のブロック(U)には、生成された時間推移(x’)又は測定された時間推移(x)のいずれかが供給される。これら2つの推移(x,x’)のうちのそれぞれ1つを選択する内部選択メカニズム(図示せず)を、第1のブロック(U)が有している場合には、これら2つの推移(x,x’)を第1のブロック(U)に供給することも可能である。
【0061】
図6に示すように、第1のブロック(U)は、自身に供給された量が、測定された時間推移(x)であるのか又は生成された時間推移(x’)であるのかを、可能な限り良好に区別することができるようにするために、自身の挙動を決定するパラメータ(Υ)が適合されることによって訓練される。第1のブロック(U)のこの分類付けが正しいか又は誤っているかについての情報は、弁別結果(d)においてエンコードされる。
【0062】
第1のブロック(U)及び第2のブロック(H)は、相互に訓練され、この際、第1のブロック(U)のパラメータ(Υ)は、第1のブロック(U)の分類付けが可能な限り頻繁に正しくなるように訓練され、第2のブロック(H)のパラメータ(Γ)は、第1のブロック(U)の分類付けが可能な限り頻繁に誤るように訓練される。
【0063】
図6bは、生成された時間推移(x’)を生成するために使用され得るような、対応する構造を示している。乱数生成器(R)は、乱数又は擬似乱数(r)を生成し、第2のブロック(H)は、この乱数又は擬似乱数(r)と、場合によってはさらに他の量とに基づいて、訓練時に適合されたパラメータ(Γ)を用いて、生成された時間推移(x’)を生成する。