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特許7119130圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法
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  • 特許-圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 47/00 20060101AFI20220808BHJP
   B21C 47/18 20060101ALI20220808BHJP
   B21B 37/72 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
B21C47/00 D
B21C47/18 B
B21B37/72
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020568908
(86)(22)【出願日】2019-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2019002884
(87)【国際公開番号】W WO2020157819
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-03-22
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314017543
【氏名又は名称】Primetals Technologies Japan株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】小田原 優太
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-500065(JP,A)
【文献】特開2000-280014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 47/00-47/34
B21B 37/72
B21B 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、前記金属板の進行方向にて前記圧延ロールの入側において前記金属板を巻き出すための巻き出し装置と、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を制御するための制御装置であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通した後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下し、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくし、前記一対の圧延ロールの回転を開始させるように構成され
前記圧延ロールの回転を開始後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記入側張力を規定範囲内で増加させるように構成された
圧延装置の制御装置。
【請求項2】
前記金属板の出側速度Vdが前記圧延ロールの回転速度Vm以上となるように、前記入側張力を調節するように構成された
請求項に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項3】
規定期間毎に複数回計測された前記金属板の出側速度Vdを取得し、前記出側速度Vdの前記複数回にわたる計測結果に基づいて前記入側張力を調節するように構成された
請求項又はに記載の圧延装置の制御装置。
【請求項4】
前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記金属板が前記圧延ロールの出側へ前進していないことを検出したら前記入側張力の増加を停止するように構成された
請求項乃至の何れか一項に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項5】
規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が全て負の場合に、前記入側張力の増加を停止するように構成された
請求項又はに記載の圧延装置の制御装置。
【請求項6】
規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値が規定値未満の場合に、前記入側張力の増加を停止するように構成された
請求項又はに記載の圧延装置の制御装置。
【請求項7】
前記入側張力の増加を停止した後、前記入側張力を規定量減少させるように構成された
請求項乃至の何れか一項に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項8】
前記金属板の出側速度Vd及び前記圧延ロールの周速であるロール速度Vmを取得し、前記金属板の出側速度Vdと前記ロール速度Vmとの差(Vd-Vm)に基づいて前記入側張力を調節するように構成された
請求項乃至の何れか一項に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項9】
金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、前記金属板の進行方向にて前記圧延ロールの入側において前記金属板を巻き出すための巻き出し装置と、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を制御するための制御装置であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通した後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下し、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくし、前記一対の圧延ロールの回転を開始させるように構成され、
前記圧延ロールの回転を開始後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態、かつ、前記入側張力がゼロより大きい状態で、前記圧延ロールの速度を増加させるように構成され
延装置の制御装置。
【請求項10】
金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、前記金属板の進行方向にて前記圧延ロールの入側において前記金属板を巻き出すための巻き出し装置と、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置と、
請求項1乃至の何れか一項に記載の制御装置と、
を備える圧延設備。
【請求項11】
金属板に入側張力を与えるための巻き出し装置と、前記金属板の進行方向にて前記巻き出し装置の出側において前記金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を運転するための運転方法であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通す通板ステップと、
前記通板ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下する圧下ステップと、
前記圧下ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくする張力付与ステップと、
前記張力付与ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールの回転を開始させる圧延開始ステップと、
を備え
前記圧延開始ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記入側張力を規定範囲内で増加させる
圧延装置の運転方法。
【請求項12】
前記金属板の出側速度Vdが前記圧延ロールの回転速度Vm以上となるように、前記入側張力を調節する
請求項11に記載の圧延装置の運転方法。
【請求項13】
規定期間毎に複数回計測された前記金属板の出側速度Vdを取得し、前記出側速度Vdの前記複数回にわたる計測結果に基づいて前記入側張力を調節する
請求項11又は12に記載の圧延装置の運転方法。
【請求項14】
前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記金属板が前記圧延ロールの出側へ前進していないことを検出したら前記入側張力の増加を停止する
請求項11乃至13の何れか一項に記載の圧延装置の運転方法。
【請求項15】
金属板に入側張力を与えるための巻き出し装置と、前記金属板の進行方向にて前記巻き出し装置の出側において前記金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を運転するための運転方法であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通す通板ステップと、
前記通板ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下する圧下ステップと、
前記圧下ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくする張力付与ステップと、
前記張力付与ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールの回転を開始させる圧延開始ステップと、
を備え、
前記圧延開始ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態、かつ、前記入側張力がゼロより大きい状態で、前記圧延ロールの速度を増加させ
延装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一対の圧延ロール間に通された金属板を往復させて圧延させる圧延装置(リバースミル)では、通常、金属板の進行方向において圧延ロールの両側に設けられる巻き出し装置及び巻き取り装置に金属板が巻き付いた状態で、圧延ロールを圧下及び回転させるとともに、巻き出し装置及び巻き取り装置により金属板に張力を与えながら圧延を行う。このような圧延装置では、圧延の開始時に金属板の先端部を巻き取り装置に巻き付けた状態とする必要がある。このため、金属板のうち、圧延開始時に圧延ロールよりも巻き取り装置側にある部分については圧延することができず、この部分を製品にすることができない。
【0003】
そこで、金属板の歩留まりを改善するための構成が提案されている。例えば、特許文献1では、金属板の先端にリーダー片(リード材料)を溶接により接合し、このリーダー片を巻き取り装置で巻き取ることで、リーダー片を介して金属板に出側張力を与えながら圧延を開始することが記載されている。このようにリーダー片を接合した状態で圧延を開始することにより、金属板のより先端側の位置から圧延を行い、歩留まりを改善することが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4508949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにリード材料を用いる場合、圧延する金属板毎に毎回接合作業を行う必要があり、手間やコストがかかり、また、接合用の装置も必要となる。
そこで、より簡素な構成で、歩留まりを改善することが望まれる。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、簡素な構成で、金属板の歩留まりを改善可能な圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の制御装置は、
金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、前記金属板の進行方向にて前記圧延ロールの入側において前記金属板を巻き出すための巻き出し装置と、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を制御するための制御装置であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通した後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下し、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくし、前記一対の圧延ロールの回転を開始させるように構成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、簡素な構成で、金属板の歩留まりを改善可能な圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】一実施形態に係る制御装置を備えた圧延設備の概略構成図である。
図2】一実施形態に係る制御装置による処理を示すフローチャートである。
図3】圧延開始時の圧延ロール及び金属板の状態を示す模式図である。
図4】圧延開始時の圧延ロール及び金属板の状態を示す模式図である。
図5】圧延開始時の圧延ロール及び金属板の状態を示す模式図である。
図6】圧延開始時の、圧延ロールのロール速度Vmと、金属板に加わる入側張力Teの時間変化を示す図である。
図7】一実施形態に係る制御装置による処理の一部を示すフローチャートである。
図8】一実施形態に係る制御装置による処理の一部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0011】
まず、幾つかの実施形態に係る圧延装置を含む圧延設備の全体構成について説明する。
図1は、一実施形態に係る制御装置を備えた圧延設備の概略構成図である。図1に示すように、圧延設備1は、圧延装置2と、圧延装置2を制御するための制御装置30と、を備えている。
【0012】
図1に示す圧延装置2は、一対の圧延ロール16A,16B間に通された金属板50を往復させて圧延させる圧延装置(リバースミル)である。圧延装置2は、圧延材料である金属板50を挟むように設けられる一対の圧延ロール(ワークロール)16A,16Bを含む圧延機10と、金属板50の進行方向にて圧延ロール16A,16Bの入側に設けられる巻き出し装置4と、金属板50の進行方向にて圧延ロール16A,16Bの出側に設けられる巻き取り装置14と、を含み、金属板50を一対の圧延ロール16A,16Bにより圧延するように構成されている。
【0013】
圧延機10は、一対の圧延ロール(ワークロール)16A,16Bに加え、一対の圧延ロール16A,16Bをそれぞれ挟んで金属板50とは、それぞれ反対側に設けられる一対の中間ロール18A,18B及び一対のバックアップロール20A,20Bと、を含む。中間ロール18A,18B及びバックアップロール20A,20Bは、圧延ロール16A,16Bを支持するように構成されている。また、圧延機10は、一対の圧延ロール16A,16Bに荷重を加えて外一対の圧延ロール16A,16Bに挟まれる金属板50を圧下するための圧下装置22を備えている。圧下装置22は、油圧シリンダを含んでいてもよい。
【0014】
圧延ロール16A,16Bには、不図示のスピンドル等を介してモータ11が接続されており、圧延ロール16A,16Bは、モータ11によって回転駆動されるようになっている。金属板50の圧延時には、圧下装置22で金属板50を圧下しながらモータ11により圧延ロール16A,16Bを回転させることで、圧延ロール16A,16Bと金属板50との間に摩擦力が生じ、この摩擦力によって金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へと送られるようになっている。
【0015】
巻き出し装置4は、圧延機10に向けて金属板50を巻き出すように構成されている。巻き取り装置14は、圧延機10からの金属板50を巻き取るように構成されている。巻き出し装置4及び巻き取り装置14は、それぞれモータ5、15により駆動されるようになっている。
【0016】
巻き出し装置4は、金属板50の圧延時に、金属板50に入側張力を与えるように構成されている。また、巻き取り装置14は、金属板50の圧延時に、金属板50に出側張力を与えるように構成されている。すなわち、モータ5,15によって巻き出し装置4及び巻き取り装置14を適切に駆動することにより、金属板50に入側張力及び出側張力を与えるようになっている。金属板50に適切に入側張力及び出側張力を与えることにより、圧延時における金属板50の蛇行を抑制することができる。
【0017】
なお、巻き出し装置4から巻き出される金属板50の尾端直前で圧延を止め、金属板50が圧延ロール16A,16Bに圧下された状態で圧延が完了したら、その次に、巻き取り装置14から金属板50を圧延機10に向けて巻き出すとともに、巻き出し装置4で金属板50を巻き取りながら、先ほどとは逆の進行方向に金属板50を進行させて圧延を行う。すなわち、金属板50の進行方向に応じて、巻き出し装置4の役割と及び巻き取り装置14の役割とが入れ替わるようになっている。
【0018】
圧延装置2は、巻き出し装置4から圧延機10に導入される金属板50をガイドするための入側ピンチロール6及びサイドガイド8と、圧延機10から巻き取り装置14に送られる金属板50をガイドするための出側ピンチロール12と、をさらに含む。
【0019】
また、圧延装置2には、各種計測器が設けられている。図1に示す圧延装置2には、モータ5,11の速度をそれぞれ計測するための速度センサ32,36、金属板50に作用する入側張力を計測するための張力センサ34、圧延ロール16A,16Bの圧下位置を検出するための圧下位置センサ37、圧延ロール16A,16Bの出側における金属板50の板の幅方向の端部の位置を計測するための板端位置検出器38、及び、圧延ロール16A,16Bの出側における金属板50の速度を計測するための速度センサ40等が設けられている。これらの計測器による計測結果を示す信号は、制御装置30に送られるようになっている。なお、入側張力を計測するための張力センサ34に代えて、巻き出し装置4を駆動するモータ5の電流を計測する電流計を設け、該電流計の計測結果に基づいて入側張力を算出するようにしてもよい。
【0020】
制御装置30は、上述の各種計測器から計測結果を示す信号を受け取り、これらの計測結果に基づいて、圧延ロール16A,16Bを駆動するためのモータ11、巻き出し装置4を駆動するためのモータ5、及び/又は圧下装置22等の動作を制御するようになっていてもよい。
【0021】
制御装置30は、CPU、メモリ(RAM)、補助記憶部及びインターフェース等を含んでいてもよい。制御装置30は、インターフェースを介して、上述の各種計測器からの信号を受け取るようになっている。CPUは、このようにして受け取った信号を処理するように構成される。また、CPUは、メモリに展開されるプログラムを処理するように構成される。
【0022】
制御装置30での処理内容は、CPUにより実行されるプログラムとして実装され、補助記憶部に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムはメモリに展開される。CPUは、メモリからプログラムを読み出し、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0023】
次に、上述した制御装置30による圧延装置2の制御について説明する。以下に説明する圧延装置2の制御は、巻き出し装置4に巻かれた金属板50の圧延を開始するときの制御である。なお、以下に説明する制御装置30による処理の一部又は全部をマニュアルで行うことにより圧延装置2を運転するようにしてもよい。
【0024】
図2は、一実施形態に係る制御装置30による処理を示すフローチャートである。図3図5は、それぞれ、制御装置30による制御のもとで金属板50の圧延を開始するときの、圧延ロール16A,16B及び金属板50の状態を示す模式図である。図6は、制御装置30による制御のもとで金属板50の圧延を開始するときの、圧延ロール16A,16Bの速度(周速度)Vmと、金属板50に加わる入側張力Teの時間変化を示す図である。
【0025】
一実施形態では、図2に示すように、制御装置30はまず、一対の圧延ロール16A,16B間のギャップ(ロール間ギャップ)が金属板50の板厚よりも大きい状態となるように一対の圧延ロール16A,16Bの位置を調節する(ステップS102)。この際、必要に応じて圧下装置22を作動させて一対の圧延ロール16A,16Bの位置を調節してもよい。そして、ロール間ギャップが板厚よりも大きい状態を維持したまま、金属板50の先端部51(図3参照)を一対の圧延ロール16A,16Bの間に通す(ステップS104)。
【0026】
図3は、ステップS104が完了したときの圧延ロール16A,16B及び金属板50の状態を示す模式図である。図3に示すように、ステップS104の完了時点では、一対の圧延ロール16A,16B間のギャップd0が、圧延前の金属板50の板厚H0よりも大きい状態で、金属板50の先端部51が圧延ロール16A,16Bの間を通されている。また、金属板50その先端部51は、圧延ロール16A,16Bの出側に位置しており、巻き取り装置14には達していない。このため、金属板50に作用する出側張力Tdはゼロである。また、この時点では、入側張力Teを金属板50に作用させていないため、入側張力Teもゼロである。
【0027】
次に、金属板50に加える出側張力Tdがゼロの状態で、一対の圧延ロール16A,16Bにより金属板50を圧下する(ステップS106、図6における時刻t0)。ステップS106では、ロール間ギャップが圧延に適した値となるように、圧下位置センサ37による計測結果に基づいて圧下装置22を作動させる。図4は、ステップS108が完了したときの圧延ロール16A,16B及び金属板50の状態を示す模式図である。図4に示すように、ステップS108の完了時点におけるロール間ギャップd1は、圧延前の金属板50の板厚H0よりも小さい。
【0028】
そして、巻き出し装置4により金属板50に与える入側張力Teをゼロより大きくし(ステップS108、図6における時刻t1)、一対の圧延ロール16A,16Bの回転を開始させることにより、圧延を開始する(ステップS110、図6における時刻t2)。なお、ステップS108及びS110において、出側張力Tdはゼロで維持されている。
【0029】
ステップS108では、巻き出し装置4を駆動するためのモータ5の電流値を適切に調節することにより、金属板50に作用する入側張力Teをゼロよりも大きくする。ここで、図6に示すように、入側張力Teは、ゼロよりも大きい規定値Te1とし、後述のステップS114(図6の時刻t3)で入側張力Teを増加し始めるまで、一定値に維持してもよい。
【0030】
ステップS109では、圧延ロール16A,16Bを駆動するためのモータ11の電流値を適切に調節することにより、圧延ロール16A,16Bの回転を開始させる。なお、ステップS110で圧延を開始すると、金属板50は、図4に示す矢印の方向に向かって進行する。
【0031】
図5は、ステップS110で圧延を開始したときの圧延ロール16A,16B及び金属板50の状態を示す模式図である。図5に示すように、金属板50のうち、圧延ロール16A、16Bで圧下されて圧延ロール16A,16Bの出側に進行した部分は、圧延前の板厚H0よりも薄い板厚H1を有している。
【0032】
ここまで説明したように、上述の実施形態によれば、金属板50の先端部51を一対の圧延ロール16A,16Bの間に通した後、金属板50に加える出側張力Tdがゼロの状態で、一対の圧延ロール16A,16Bで金属板50を圧下し、ゼロより大きい入側張力Teを該金属板50に与えながら圧延ロール16A,16Bの回転を開始させて金属板50の圧延を開始するようにしたので、出側張力Tdがゼロであるにもかかわらず、金属板50の蛇行を抑制しながら適切に圧延を行うことができる。よって、例えば特許文献1に記載されるようなリード材料等を用いなくても金属板50の先端に近い部分から圧延を開始することができ、簡素な構成で、金属板50の歩留まりを改善することができる。
【0033】
図2のフローの続きを説明する。
ステップS110で圧延ロール16A,16Bの回転を開始して圧延を開始した後、圧延ロール16A,16Bの速度(ロール速度Vm)を増加させる(ステップS112,図6の時刻t2~t4)。そして、時刻t2以降に金属板50に加える入側張力Teを増加させ(ステップS114,図6の時刻t3)、入側張力Teが規定範囲を超えないように、入側張力Teを調節する(ステップS116、図6の時刻t3~t5)。
ステップS112では、圧延ロール16A,16Bを駆動するためのモータ11の電流値を適切に調節することにより、圧延ロール16A,16Bの速度(ロール速度Vm)を増加させる。ステップS114,S116では、巻き出し装置4を駆動するためのモータ5の電流値を適切に調節することにより、金属板50に作用する入側張力Teを規定範囲内で増加させる。
【0034】
上述したように、入側張力Teを金属板50に与えることで、出側張力Tdがゼロの状態でも金属板50の蛇行を抑制しながら圧延を行うことが可能となるが、一方、金属板50の入側張力Teが過大であると、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側に前進しない事象が生じやすくなり(すなわちスリップが生じやすくなり)、適切な圧延ができなくなる場合がある。
この点、上述のように、金属板50に加える入側張力Teを増加させる(ステップS114)とともに、スリップが生じないような適切な範囲内で調節する(ステップS116)ことにより、出側が無張力の状態での圧延時に、金属板50の蛇行をより効果的に抑制し、より適切に圧延を行うことができる。
【0035】
また、仮に、ロール速度Vmが低い状態で入側張力Teを増加させると、ロール速度Vmに対する金属板50の相対的な速度を低下させることになるため、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側に前進しない事象が生じやすくなる場合がある。この点、上述したように、ステップS112でロール速度Vmをある程度増加させてから(例えば、目標のロール速度Vm2(図6参照)の40%以上60%以下のロール速度Vm1まで増加したら、)ステップS114~S116で入側張力Teを増加させることで、入側張力Teを安定的に増加させることができる。
【0036】
規定範囲を超えないように入側張力Teを調節するステップS116は、金属板50の先端が巻き取り装置14に到着するまで繰り返し実行される(ステップS118のNo)。一方、出側張力Tdがゼロよりも大きくなったら(ステップS118のYes;すなわち、金属板50が巻き取り装置14に巻き取られ始めたら)、図2に示すフロー(出側が無張力の状態で圧延を適切に行うためのフロー)での制御を止め、出側張力Tdがゼロよりも大きい場合の、通常の制御を行う。
【0037】
次に、上述のステップS116での処理についてより具体的に説明する。上述したように、ステップS116では、規定範囲を超えないように入側張力Teを調節する。
【0038】
幾つかの実施形態では、ステップS116では、金属板50の出側速度Vdが圧延ロール16A,16Bのロール速度(回転速度)Vm以上となるように、入側張力Teを調節する。この場合、制御装置30は、速度センサ40により計測される出側速度Vd、速度センサ36により計測されるモータ11の速度から算出したロール速度Vmに基づいて、入側張力Teを適切な範囲内にするように、モータ5の電流値を適切に調節する。
【0039】
金属板50の出側速度Vdが圧延ロール16A,16Bの回転速度Vm未満であることは、圧延ロール16A,16Bの出側において金属板50が圧延ロール16A,16Bに対して前進していないこと(すなわち、金属板50が圧延ロール16A,16Bに対してスリップし始めていること又はスリップしそうであること)を意味し、この場合、適切に圧延を行うことができないことがある。この点、上述の実施形態では、金属板50の出側速度Vdが圧延ロール16A,16Bのロール速度(回転速度)Vm以上となるように、金属板50に加える入側張力Teを調節するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するスリップ(すべり)を適切に抑制しながら、より適切に圧延を行うことができる。
更に、圧延ロール16A,16Bの回転速度Vmを規定期間毎に規定回数計測し、規定回数の全部又は一部の計測結果を用いて金属板50の出側速度Vdが圧延ロール16A,16Bのロール速度(回転速度)Vm以上となるように、金属板50に加える入側張力Teを調節するようにしてもよい。
【0040】
幾つかの実施形態では、ステップS116では、規定期間毎に複数回計測された金属板50の出側速度Vdを取得し、出側速度Vdの複数回にわたる計測結果に基づいて入側張力Teを調節する。
【0041】
金属板50の出側速度Vdは、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するすべりが起きるか否かの指標となり得る。この点、上述の実施形態では、金属板50の出側速度Vdを、規定期間毎に複数回計測するようにしたので、出側速度Vdの時間に伴う変化を把握することができる。よって、出側速度Vdの複数回にわたる計測結果に基づいて金属板50に加える入側張力Teを調節することで、出側が無張力の状態で、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するスリップを適切に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0042】
幾つかの実施形態では、金属板50に加える出側張力Tdがゼロの状態で、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないことを検出したら入側張力Teの増加を停止する。
【0043】
金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないことは、金属板50が圧延ロール16A,16Bに対してスリップし始めているか、近い将来にスリップする可能性があること(スリップの予兆)を示す。この点、上述の実施形態によれば、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないことを検出したら入側張力Teの増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
更に、金属板50の前進を規定期間毎に規定回数計測し、規定回数の全部又は一部の計測結果において、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないことを検出するようにしてもよい。
【0044】
金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないことは、例えば、圧延ロール16A,16B近傍における金属板50をカメラを用いて監視することによって検出するようにしてもよい。
【0045】
あるいは、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないことは、例えば、規定期間毎に規定回数計測された出側速度Vdを用いて検出するようにしてもよい。
【0046】
一実施形態では、ステップS116は、規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が全て負の場合に、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないとみなし、入側張力Teの増加を停止するようになっていてもよい。
【0047】
図7は、この実施形態に係るステップS116のフローチャートである。
図7に示すフローチャートのステップS202~ステップS208では、規定期間ΔTごとに規定回数(i=1,2,3)の各々について計測された出側速度Vdiに基づいて、αi=(Vd-Vd(i-1))/ΔTが計算される(すなわち、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が計算される)。そして、i=1,2,3のすべてについて、αi<0であるか否か(すなわち(Vd-Vd(i-1))<0であるか否か)が判定される(ステップS210)。
【0048】
i=1,2,3のすべてについて、αi<0でない場合(すなわち、少なくとも1つのαiがゼロ以上である場合)には(ステップS210のNo)、出側速度Vdが減少する一方ではなく、増加するときもあるため、スリップが生じる可能性は低いと判断されるため、入側張力Teの増加を続行する(ステップS216)。一方、i=1,2,3のすべてについて、αi<0である場合には(ステップS210のYes)、出側速度Vdが徐々に低下しており、金属板50のスリップが生じる可能性が高いと判断されるため、入側張力Teの増加を停止する(ステップS212)。また、このように入側張力Teの増加を停止した場合、入側張力Teを規定量減少させる(ステップS214)。
【0049】
また、一実施形態では、ステップS116は、規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値が規定値未満の場合に、金属板50が圧延ロール16A,16Bの出側へ前進していないとみなし、入側張力Teの増加を停止するようになっていてもよい。
【0050】
図8は、この実施形態に係るステップS116のフローチャートである。
図8に示すフローチャートのステップS222~ステップS228では、規定期間ΔTごとに規定回数(i=1,2,3)の各々について計測された出側速度Vdiに基づいて、ΣΔVi=Σ(Vd-Vd(i-1))(i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値)が計算される。そして、ΣΔViが規定値C(ただし、Cは負の数)よりも小さいか否かを判定する(ステップS230)。
【0051】
ΣΔViが上述の規定値C以上である場合には(ステップS230のNo)、出側速度Vdが減少傾向ではなく、スリップが生じる可能性は低いと判断されるため、入側張力Teの増加を続行する(ステップS236)。一方、ΣΔViが上述の規定値C未満である場合には(ステップS230のYes)、出側速度Vdが減少傾向であり、金属板50のスリップが生じる可能性が高いと判断されるため、入側張力Teの増加を停止する(ステップS232)。また、このように入側張力Teの増加を停止した場合、入側張力Teを規定量減少させる(ステップS234)。
【0052】
このように、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差、又は、回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値に基づいて、近い将来にスリップが生じる可能性を知ることができ、当該可能性が高い場合に入側張力Teの増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0053】
なお、図7及び図8に示す実施形態では、規定期間毎に規定回数計測した出側速度Vdを用いて、入側張力Teの調節に係る制御を行うようになっているが、他の実施形態では、規定長さの時間の間、規定期間毎に計測した出側速度Vdを用いて、入側張力Teの調節に係る制御を行うようになっていてもよい。
【0054】
幾つかの実施形態では、金属板50の出側速度Vd及び圧延ロール16A,16Bの周速であるロール速度Vmを取得し、金属板50の出側速度Vdとロール速度Vmとの差(Vd-Vm)に基づいて入側張力Teを調節するように構成される。
【0055】
金属板50の出側速度Vdとロール速度Vmとの差(Vd-Vm)は、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するすべりが起きるか否かの指標となり得る。この点、上述の実施形態では、金属板50の出側速度Vdとロール速度Vmとの差(Vd-Vm)に基づいて金属板50に加える入側張力Teを調節することで、出側が無張力の状態で、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するスリップを適切に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、入側張力Teの増加を停止した後(例えば図2のステップS116、あるいは、図7及び図8のステップS212、S232の後)、入側張力Teを規定量減少させるように構成されていてもよい。
例えば、図7及び図8に示すフローチャートでは、ステップS212、S232にて入側張力Teの増加を停止した後、入側張力Teを規定量減少させるようになっている(ステップS214、S234)。
このように、スリップを抑制するために入側張力Teの増加を停止した後、入側張力Teを規定量減少させるようにすることにより、出側が無張力の状態で、金属板50の圧延ロール16A,16Bに対するスリップをさらに確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0057】
以下、幾つかの実施形態に係る圧延装置の制御装置及び圧延設備並びに圧延装置の運転方法について概要を記載する。
【0058】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の制御装置は、
金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、前記金属板の進行方向にて前記圧延ロールの入側において前記金属板を巻き出すための巻き出し装置と、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を制御するための制御装置であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通した後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下し、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくし、前記一対の圧延ロールの回転を開始させるように構成される。
【0059】
上記(1)の構成によれば、金属板の先端部を一対の圧延ロールの間に通した後、金属板に加える出側張力がゼロの状態で、一対の圧延ロールで金属板を圧下し、ゼロより大きい入側張力を該金属板に与えながら圧延ロールの回転を開始させて金属板の圧延を開始するようにしたので、出側張力がゼロであるにもかかわらず、金属板の蛇行を抑制しながら適切に圧延を行うことができる。よって、リード材料等を用いなくても金属板の先端に近い部分から圧延を開始することができ、簡素な構成で、金属板の歩留まりを改善することができる。
【0060】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記制御装置は、
前記圧延ロールの回転を開始後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記入側張力を規定範囲内で増加させるように構成される。
【0061】
上記(2)の構成によれば、圧延ロールの回転を開始後、金属板に加える出側張力がゼロの状態で、入側張力を規定範囲内で増加させるようにしたので、出側が無張力の状態での圧延時に、金属板の蛇行をより効果的に抑制し、より適切に圧延を行うことができる。
【0062】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記制御装置は、
前記金属板の出側速度Vdが前記圧延ロールの回転速度Vm以上となるように、前記入側張力を調節するように構成される。
【0063】
金属板の出側速度Vdが圧延ロールの回転速度Vm未満であることは、圧延ロールの出側において金属板が圧延ロールに対して前進していないこと(すなわち、金属板が圧延ロールに対してスリップし始めていること又はスリップしそうであること)を意味し、この場合、適切に圧延を行うことができないことがある。この点、上記(3)の構成によれば、金属板の出側速度Vdが圧延ロールの回転速度Vm以上となるように、金属板に加える入側張力を調節するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップ(すべり)を適切に抑制しながら、より適切に圧延を行うことができる。
【0064】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)又は(3)の構成において、
前記制御装置は、
規定期間毎に複数回計測された前記金属板の出側速度Vdを取得し、前記出側速度Vdの前記複数回にわたる計測結果に基づいて前記入側張力を調節するように構成される。
【0065】
金属板の出側速度Vdは、金属板の圧延ロールに対するすべりが起きるか否かの指標となり得る。この点、上記(4)の構成によれば、金属板の出側速度Vdを、規定期間毎に複数回計測するようにしたので、出側速度Vdの時間に伴う変化を把握することができる。よって、出側速度Vdの複数回にわたる計測結果に基づいて金属板に加える入側張力を調節することで、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップを適切に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0066】
(5)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(4)の構成において、
前記制御装置は、
前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記金属板が前記圧延ロールの出側へ前進していないことを検出したら前記入側張力の増加を停止するように構成される。
【0067】
金属板が圧延ロールの出側へ前進していないことは、金属板が圧延ロールに対してスリップし始めているか、近い将来にスリップする可能性があること(スリップの予兆)を示す。この点、上記(5)の構成によれば、金属板が圧延ロールの出側へ前進していないことを検出したら入側張力の増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0068】
(6)幾つかの実施形態では、上記(4)又は(5)の構成において、
前記制御装置は、
規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が全て負の場合に、前記入側張力の増加を停止するように構成される。
【0069】
上記(6)の構成によれば、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が全て負の場合、すなわち、出側速度Vdを規定期間毎に規定回数計測している間に出側速度Vdが徐々に減少しており、近い将来にスリップが生じる可能性が高い場合に入側張力の増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0070】
(7)幾つかの実施形態では、上記(4)又は(5)の構成において、
前記制御装置は、
規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値が規定値未満の場合に、前記入側張力の増加を停止するように構成される。
【0071】
上記(7)の構成によれば、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値が規定値未満の場合、すなわち、出側速度Vdを規定期間毎に規定回数計測している間、出側速度Vdが徐々に減少しており、近い将来にスリップが生じる可能性が高い場合に入側張力の増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0072】
(8)幾つかの実施形態では、上記(5)乃至(7)のいずれかの構成において、
前記制御装置は、
前記入側張力の増加を停止した後、前記入側張力を規定量減少させるように構成される。
【0073】
上記(8)の構成によれば、スリップを抑制するために入側張力の増加を停止した後、入側張力を規定量減少させるようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをさらに確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0074】
(9)幾つかの実施形態では、上記(2)乃至(5)の何れかの構成において、
前記制御装置は、
前記金属板の出側速度Vd及び前記圧延ロールの周速であるロール速度Vmを取得し、前記金属板の出側速度Vdと前記ロール速度Vmとの差(Vd-Vm)に基づいて前記入側張力を調節するように構成される。
【0075】
金属板の出側速度Vdとロール速度Vmとの差(Vd-Vm)は、金属板の圧延ロールに対するすべりが起きるか否かの指標となり得る。この点、上記(9)の構成によれば、金属板の出側速度Vdとロール速度Vmとの差(Vd-Vm)に基づいて金属板に加える入側張力を調節することで、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップを適切に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0076】
(10)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延設備は、
金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、前記金属板の進行方向にて前記圧延ロールの入側において前記金属板を巻き出すための巻き出し装置と、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置と、
上記(1)乃至(9)の何れかに記載の制御装置と、を備える。
【0077】
上記(10)の構成によれば、金属板の先端部を一対の圧延ロールの間に通した後、金属板に加える出側張力がゼロの状態で、一対の圧延ロールで金属板を圧下し、ゼロより大きい入側張力を該金属板に与えながら圧延ロールの回転を開始させて金属板の圧延を開始するようにしたので、出側張力がゼロであるにもかかわらず、金属板の蛇行を抑制しながら適切に圧延を行うことができる。よって、リード材料等を用いなくても金属板の先端に近い位置から圧延を開始することができ、簡素な構成で、金属板の歩留まりを改善することができる。
【0078】
(11)本発明の少なくとも一実施形態に係る圧延装置の運転方法は、
金属板に入側張力を与えるための巻き出し装置と、前記金属板の進行方向にて前記巻き出し装置の出側において前記金属板を挟むように設けられる一対の圧延ロールと、を含み、前記金属板を前記一対の圧延ロールにより圧延するように構成された圧延装置を運転するための運転方法であって、
前記一対の圧延ロール間のギャップが前記金属板の板厚よりも大きい状態で前記金属板の先端部を前記一対の圧延ロールの間に通す通板ステップと、
前記通板ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールにより前記金属板を圧下する圧下ステップと、
前記圧下ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記巻き出し装置により前記金属板に与える入側張力をゼロより大きくする張力付与ステップと、
前記張力付与ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記一対の圧延ロールの回転を開始させる圧延開始ステップと、
を備える。
【0079】
上記(11)の方法によれば、金属板の先端部を一対の圧延ロールの間に通した後、金属板に加える出側張力がゼロの状態で、一対の圧延ロールで金属板を圧下し、ゼロより大きい入側張力を該金属板に与えながら圧延ロールの回転を開始させて金属板の圧延を開始するようにしたので、出側張力がゼロであるにもかかわらず、金属板の蛇行を抑制しながら適切に圧延を行うことができる。よって、リード材料等を用いなくても金属板の先端に近い部分から圧延を開始することができ、簡素な構成で、金属板の歩留まりを改善することができる。
【0080】
(12)幾つかの実施形態では、上記(11)の方法において、
前記圧延開始ステップの後、前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記入側張力を規定範囲内で増加させる。
【0081】
上記(12)の方法によれば、圧延ロールの回転を開始後、金属板に加える出側張力がゼロの状態で、入側張力を規定範囲内で増加させるようにしたので、出側が無張力の状態での圧延時に、金属板の蛇行をより効果的に抑制し、より適切に圧延を行うことができる。
【0082】
(13)幾つかの実施形態では、上記(12)の方法において、
前記金属板の出側速度Vdが前記圧延ロールの回転速度Vm以上となるように、前記入側張力を調節する。
【0083】
金属板の出側速度Vdが圧延ロールの回転速度Vm未満であることは、圧延ロールの出側において金属板が圧延ロールに対して前進していないことを意味し、この場合、適切に圧延を行うことができないことがある。この点、上記(13)の方法によれば、金属板の出側速度Vdが圧延ロールの回転速度Vm以上となるように、金属板に加える入側張力を調節するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップ(すべり)を適切に抑制しながら、より適切に圧延を行うことができる。
【0084】
(14)幾つかの実施形態では、上記(12)又は(13)の方法において、
規定期間毎に複数回計測された前記金属板の出側速度Vdを取得し、前記出側速度Vdの前記複数回にわたる計測結果に基づいて前記入側張力を調節する。
【0085】
金属板の出側速度Vdは、金属板の圧延ロールに対するすべりが起きるか否かの指標となり得る。この点、上記(14)の方法によれば、金属板の出側速度Vdを、規定期間毎に複数回計測するようにしたので、出側速度Vdの時間に伴う変化を把握することができる。よって、出側速度Vdの複数回にわたる計測結果に基づいて金属板に加える入側張力を調節することで、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップを適切に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0086】
(15)幾つかの実施形態では、上記(12)乃至(14)の何れかの方法において、
前記金属板に加える出側張力がゼロの状態で、前記金属板が前記圧延ロールの出側へ前進していないことを検出したら前記入側張力の増加を停止する。
【0087】
金属板が圧延ロールの出側へ前進していないことは、金属板が圧延ロールに対してスリップし始めているか、近い将来にスリップする可能性があること(スリップの予兆)を示す。この点、上記(15)の方法によれば、金属板が圧延ロールの出側へ前進していないことを検出したら入側張力の増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0088】
(16)幾つかの実施形態では、上記(14)又は(15)の方法において、
規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が全て負の場合に、前記入側張力の増加を停止する。
【0089】
上記(16)の方法によれば、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差が全て負の場合、すなわち、出側速度Vdを規定期間毎に規定回数計測している間に出側速度Vdが徐々に減少しており、近い将来にスリップが生じる可能性が高い場合に入側張力の増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0090】
(17)幾つかの実施形態では、上記(14)又は(15)の方法において、
規定期間毎に規定回数計測された前記出側速度Vdを取得し、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値が規定値未満の場合に、前記入側張力の増加を停止する。
【0091】
上記(17)の方法によれば、i回目に計測された出側速度Vdと、(i-1)回目に計測された出側速度Vd(i-1)との差の積分値が規定値未満の場合、すなわち、出側速度Vdを規定期間毎に規定回数計測している間、出側速度Vdが徐々に減少しており、近い将来にスリップが生じる可能性が高い場合に入側張力の増加を停止するようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをより確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0092】
(18)幾つかの実施形態では、上記(15)乃至(17)の何れかの方法において、
前記入側張力の増加を停止した後、前記入側張力を規定量減少させる。
【0093】
上記(18)の方法によれば、スリップを抑制するために入側張力の増加を停止した後、入側張力を規定量減少させるようにしたので、出側が無張力の状態で、金属板の圧延ロールに対するスリップをさらに確実に抑制しながら、適切に圧延を行うことができる。
【0094】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0095】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0096】
1 圧延設備
2 圧延装置
4 巻き出し装置
5 モータ
6 入側ピンチロール
8 サイドガイド
10 圧延機
11 モータ
12 出側ピンチロール
14 巻き取り装置
15 モータ
16A 圧延ロール
16B 圧延ロール
18A 中間ロール
18B 中間ロール
20A バックアップロール
20B バックアップロール
22 圧下装置
30 制御装置
32 速度センサ
34 張力センサ
36 速度センサ
37 圧下位置センサ
38 板端位置検出器
40 速度センサ
50 金属板
51 先端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8