(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】車載バッテリの消耗監視システム及び方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20220808BHJP
B60R 16/04 20060101ALI20220808BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20220808BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20220808BHJP
G01R 31/371 20190101ALI20220808BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20220808BHJP
【FI】
G01R31/392
B60R16/04 W
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
G01R31/371
G01R31/367
(21)【出願番号】P 2020572736
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 IB2019055201
(87)【国際公開番号】W WO2020003070
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】102018000006826
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
【住所又は居所原語表記】Kleine Kloosterstraat 10, B-1932 Zaventem (BE)
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174023
【氏名又は名称】伊藤 怜愛
(72)【発明者】
【氏名】ロレンツォ アレバ
(72)【発明者】
【氏名】マルコ パスクッチ
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-309100(JP,A)
【文献】特開2006-047130(JP,A)
【文献】特開2014-240776(JP,A)
【文献】特開昭55-147366(JP,A)
【文献】特開2018-096803(JP,A)
【文献】特表2018-509707(JP,A)
【文献】特開2017-045720(JP,A)
【文献】特開2009-107604(JP,A)
【文献】特開2007-230398(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0174498(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
B60R 16/04
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載バッテリの消耗監視システム(1、1A、1B)であって、取得装置(11)及びプロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)を含み:
前記取得装置(11)は:
・ 内燃エンジンと、バッテリ電圧(V
B)を出力するためのバッテリと、オルタネータと、前記内燃エンジンを始動するための始動モータとが装備された自動車(2)に搭載され;
・ 前記バッテリ電圧(V
B)を受信し、該バッテリ電圧(V
B)を示す量を出力するように構成され;
前記プロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)は:
・ 前記取得装置(11)から前記バッテリ電圧(V
B)を示す量を受信するように構成され;
・ 前記バッテリ電圧(V
B)を示す量に基づいてバッテリ電圧監視を実行することにより、喫緊のバッテリ障害を検出するようにプログラムされ;
前記バッテリ電圧監視は、前記内燃エンジンを始動させる度に:
・ 前記始動モータを作動させて前記内燃エンジンを始動させた直後のバッテリ電圧(V
B)について想定される最小値である第1電圧値(V
MIN)を検出すること;並びに、
・ 前記内燃エンジンが始動し、前記始動モータが動作を停止し、前記オルタネータが動作を開始した直後のバッテリ電圧(V
B)について想定される第2電圧値(V
2)を検出することを含む、消耗監視システム(1、1A、IB)において:
前記バッテリ電圧監視は、前記内燃エンジンを始動させる度に:
・ 前記第1電圧
値(V
MIN)及び第2電圧
値(V
2)の電圧差を示す電圧上昇値(ΔV
R)を計算し;かつ、
・ 前記電圧上昇値(ΔV
R)が、所定の電圧上昇閾値(T
ΔVR)に関する所定の条件を満たす場合に、喫緊のバッテリ障害を検出することを特徴とする、消耗監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の車載バッテリの消耗監視システムであって、前記バッテリ電圧監視が、更に:
・ 前記内燃エンジンの停止状態で前記自動車が静止しているときに、バッテリからの不正常な電流流出を検出し;
・ 前記内燃エンジンが停止状態で前記自動車が停止しているときに、前記バッテリ電圧(V
B)が所定のバッテリ電圧閾値(T
VB)よりも低くなった場合に、喫緊のバッテリ障害を検出する、消耗監視システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車載バッテリの消耗監視システムであって、前記取得装置(11)は:
・ ドライバによるエンジン点火コマンドで開始し、オルタネータが動作を開始すると終了する、時間ウィンドウ内において、所定の第1サンプリング周波数で前記
バッテリ電圧(V
B)をサンプリングし;かつ、
・ 前記時間ウィンドウ外において、前記第1サンプリング周波数よりも低い所定の第2サンプリング周波数で前記
バッテリ電圧(V
B)をサンプリングする;
ことにより、前記
バッテリ電圧(V
B)を示す量を出力するように構成される、消耗監視システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の車載バッテリの消耗監視システムであって、通知装置(13、13A、13B)を更に含み、該通知装置は、前記プロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)により前記喫緊のバッテリ障害が検出された場合に、前記自動車(2)に関連するユーザ(3)に対し、検出された喫緊のバッテリ障害を警告するように構成される、消耗監視システム。
【請求項5】
請求項2又は3に記載の車載バッテリの消耗監視システムであって、通知装置(13、13A、13B)を更に含み、該通知装置は:
・ 前記プロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)により喫緊のバッテリ障害が検出された場合に、前記自動車(2)に関連するユーザー(3)に対し、検出された喫緊のバッテリ障害を警告し;
・ プロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)により前記バッテリからの不正常な電流流出が検出された場合に、前記ユーザー(3)に対し、検出されたバッテリからの不正常な電流流出について警告するように構成される、消耗監視システム。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の車載バッテリの消耗監視システムであって、前記プロセッサ装置又はシステム(12)は、前記取得装置(11)に無線で遠隔接続されるクラウドコンピュータシステム(12A)であり、前記通知装置(13)は、ユーザ(3)に関連付けられ、1つ又は複数の有線及び/又は無線ネットワークを介して前記クラウドコンピュータシステム(12A)に遠隔接続される電子通信装置(13A)である、消耗監視システム。
【請求項7】
請求項4又は5に記載の車載バッテリの消耗監視システムであって、前記プロセッサ装置又はシステム(12)は、自動車(2)に搭載された電子制御ユニット(12B)であり、前記通知装置(13)は、自動車(2)に搭載されたヒューマンマシンインターフェース(13B)である、消耗監視システム。
【請求項8】
バッテリ電圧(V
B)を示す量を受信するように構成され、請求項1~6のいずれか一項に記載の車載バッテリの消耗監視システム(1、1A)におけるプロセッサ装置又はシステム(12)としてバッテリ電圧を監視するようにプログラムされている、クラウドコンピュータシステム(12A)。
【請求項9】
自動車(2)に搭載可能であり、バッテリ電圧(V
B)を示す量を受信するように設計され、請求項1~5及び7のいずれか一項に記載されている車載バッテリの消耗監視システム(1、1B)におけるプロセッサ装置又はシステム(12)としてバッテリ電圧を監視するようにプログラムされる、電子制御ユニット(12B)。
【請求項10】
以下の特徴を有する1つ又は複数のソフトウェア及び/又はファームウェアコード部分を含むプログラム:
・ バッテリ電圧(V
B)を示す量を受信するように設計されたプロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)にロード可能であること;並びに、
・ ロードされたときに、前記プロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)が、請求項1~7のいずれか一項に記載の車載バッテリの消耗監視システム(1、1A、IB)におけるプロセッサ装置又はシステム(12、12A、12B)としてバッテリ電圧を監視するようにプログラムされること。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
この出願は、2018年6月29日付で出願されたイタリア国特許出願第102018000006826号の優先権を主張しており、その開示は参照により組み込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明は、車載バッテリの消耗を監視して喫緊のバッテリ障害を検出・予測するためのシステム及び方法に関する。
【従来技術】
【0003】
周知のとおり、車載バッテリ(特に、内燃エンジン(ICE)を搭載した自動車用のバッテリ)は、通常、何年かに亘って使用した後、ドライバに対する適切な警告を伴わずに使用不能となる。
【0004】
実際、車載バッテリの主たる目的は、始動モータに電力を供給してICEを始動することである。他の部品と同様に、車載バッテリは使用に伴って劣化し、数年に亘る使用の後にはICEを始動できなくなる。典型的に、バッテリ状態が不良である自動車は全く走行させることができす、更に、ドライバはバッテリの障害を予測できないため(又は予測手段がないため)に、障害が実際に発生するまで点検が行われない。
【0005】
したがって、自動車分野において、車載バッテリの充電状態を判断し、又は劣化したバッテリ作動状態を検出して、適切なサービスを適時に実行可能とする技術の必要性が痛感されている。
【0006】
例えば、この種の既知の解決策は、特許文献1:欧州特許第1396729号明細書に記載されており、これは車載バッテリの診断方法に関連している。この方法は:
・車両エンジンを始動させる度に、車両エンジンの始動直前におけるバッテリ電圧の初期値、車両エンジンの始動直後におけるバッテリ電圧の低下、及びバッテリ電圧の立ち上がり時間を含む複数のパラメータを、バッテリ端子に接続されてバッテリ電圧を受信する電圧センサにより検出し;
・いずれもエンジン及びバッテリの作動状態に関連付けられている多数のデータベースのうち、エンジン及びバッテリの現在の作動状態、特に気温及び水温を含む少なくとも1つの動作量の値のセットにより定義される作動状態について想定されるデータベースを選択し;
・検出したパラメータを選択したデータベースに入力し;
・検出したパラメータを選択したデータベースにおけるデータと比較することにより、バッテリの充電状態を判断するものである。
【0007】
特許文献2:米国特許第7218118号明細書は、舶用推進システムにおけるバッテリの状態を監視する方法を開示している。この方法は、バッテリの電圧特性を測定し、電圧特性を事前に選択された閾値と比較し、バッテリの状態を電圧特性の相対的な大きさと閾値の関数として評価するものである。特に、バッテリの電圧特性は、バッテリと電気的負荷との間の接続関係を変更する際の接続事象後に測定する。典型的に、電気的負荷は、内燃エンジンに対してトルク伝達可能に接続された始動モータである。電圧特性は、好適には、内燃エンジンのシャフトをクランキングしてエンジンを始動する直前の突入電流推移における最小値で測定する。
【0008】
車載バッテリの充電状態を決定するための、及び/又は劣化したバッテリ作動状態を検出するための方法/システムを更に例示すれば、次のとおりである。
【0009】
特許文献3:米国特許出願公開第2009/326841号明細書は、車両バッテリの診断及び予測に適用されるパターン認識アプローチに関するものであり、エンジンクランキング段階におけるバッテリの状態を判断する方法を開示している。この方法では:
・エンジンクランキング段階におけるバッテリ電圧データとエンジンクランキング速度データを含む特性データを記録し;
・特性データを、分類器内において処理するために特性データを正規化する前処理ユニットに送信し;
・正規化された特性データを分類器に入力して車両バッテリの状態を判断し;
・分類器は、既知のクラスについて所定の特性データを収集する複数の試行の基づく学習に基づく健康状態決定境界を有するものとし;
・バッテリの健康状態を、学習から得られた健康状態決定境界に基づいて分類するものである。
【0010】
特許文献4:米国特許出願公開第2009/322340号明細書は、バッテリの健康状態を決定するための方法に関する。この方法は:
・エンジンクランキング段階の開始時における最初の電圧降下後に初期バッテリ電圧を測定し;
・エンジンクランキング段階における残りの期間中にバッテリ電圧を監視し;
・エンジンクランキング段階における残りの期間中に最低バッテリ電圧を決定し;
・最低バッテリ電圧とエンジンクランキング段階の開始時における初期バッテリ電圧との間の電圧差が電圧閾値未満であるか否かを判断し;
・電圧差が電圧閾値未満であれば、バッテリの低電圧状態を特定するものである。
【0011】
更に、非特許文献1: J. Otjens、 “A battery’s heartbeat: How to estimate the state of health of an online battery by use of non-invasive measuring methods” (バッテリの鼓動:オンラインバッテリの健康状態を非侵襲的測定方法により推定する方法)、 10 January 2017、 pages 1-104、 XP055571875は、電圧のクランキングトレースを測定してバッテリの健康状態を監視するためのいくつかの方法(特許文献5:米国特許出願公開第2009/326841号明細書に記載の方法を含む)を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】欧州特許第1396729号明細書
【文献】米国特許第7218118号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/326841号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/322340号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/326841号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】J. Otjens、 “A battery’s heartbeat: How to estimate the state of health of an online battery by use of non-invasive measuring methods”(バッテリの鼓動:オンラインバッテリの健康状態を非侵襲的測定方法により推定する方法)、 10 January 2017、 pages 1-104、 XP055571875
【発明の概要】
【0014】
本発明の課題は、喫緊のバッテリ障害を検出/予測して適切な整備が適時に実行されるようにし、上述した先行技術文献等に記載されている従来技術よりも効率的かつ正確であり、信頼性の高い車載バッテリの消耗監視技術を提供することである。
【0015】
この課題及びその他の課題は、添付された特許請求の範囲に記載した本発明に係る車載バッテリの消耗監視システムにより解決されるものである。
【0016】
特に、本発明は、取得装置及びプロセッサ装置/システムを含む車載バッテリの消耗監視システムに関する。
この消耗監視システムにおいて、取得装置は:
・内燃エンジンと、バッテリ電圧を出力するためのバッテリと、オルタネータと、内燃エンジンを始動するための始動モータとが装備された自動車に搭載され;
・バッテリ電圧を受信し、該バッテリ電圧を示す量を出力するように構成されている。
プロセッサ装置/システムは:
・取得装置からバッテリ電圧を示す量を受信するように構成され;
・バッテリ電圧を示す量に基づいてバッテリ電圧監視を実行することにより、喫緊のバッテリ障害を検出するようにプログラムされている。
特に、バッテリ電圧の監視は、内燃エンジンを始動させる度に:
・始動モータを作動させて内燃エンジンを始動させた直後のバッテリ電圧について想定される最小値である第1電圧値を検出すること;並びに、
・内燃エンジンが始動し、始動モータが動作を停止し、オルタネータが動作を開始した直後のバッテリ電圧について想定される第2電圧値を検出すること;を含む。
更に、バッテリ電圧の監視は、内燃エンジンを始動させる度に:
・第1電圧及び第2電圧の電圧差を示す電圧上昇値を計算すること;並びに、
・電圧上昇値が、所定の電圧上昇閾値に関する所定の条件を満たする場合に、喫緊のバッテリ障害を検出すること;を含む。
【0017】
好適には、バッテリ電圧監視は:
・内燃エンジンの停止状態で自動車が静止しているときに、バッテリからの不正常な電流流出を検出すること;並びに、
・内燃エンジンの停止状態で自動車が静止しているときに、バッテリ電圧が所定のバッテリ電圧閾値よりも低くなった場合に、喫緊のバッテリ障害を検出すること;を含む。
【0018】
本発明の理解を深めるため、以下、もっぱら非限定的な例示としての好適な実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】車両エンジンのクランキング前及びクランキング中におけるバッテリ電圧の典型的な変動を示すグラフである。
【
図2】エンジンクランキングに基づく電圧上昇値の経年変化を示すグラフである。
【
図3】本発明の好適実施形態による車載バッテリの消耗監視システムを示す概要図である。
【
図4】
図3の車載バッテリの消耗監視システムの好適な実施形態を示す概要図である。
【
図5】
図3の車載バッテリの消耗監視システムの他の好適な実施形態を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の記載は、当業者が本発明を実施できるようにするために提示されるものである。特許請求される本発明の技術的範囲から逸脱しない限度において、実施形態について多様な修正が可能であることは、当業者には明白である。すなわち、本発明は、図示され、かつ記載された実施形態に限定されるものでなく、本明細書に開示され、かつ添付した特許請求の範囲において規定される原理及び特徴に対応する最も広義の保護が与えられるものである。
【0021】
本発明は、車両エンジンのクランキング(又は始動)の前及び最中における自動車のバッテリ電圧の典型的な経時的変化の観察に由来するものである。
【0022】
これに関連して、
図1は、ICEのクランキング中におけるバッテリ電圧V
Bの典型的な傾向を示している。始動前、バッテリは電流を実質的に供給しないため、バッテリ電圧V
Bは安定した初期値V
1(通常は12V)を有する。ドライバが自動車を始動させると、始動モータに大電流が流れるためにバッテリが電圧V
Bの初期値V
1を一時的に維持できなくなり、電圧V
Bは最小値V
MIN(例えば10V)に急速に低下する。始動モータによりICEを始動させるのに必要とされる過渡期間の間、バッテリ電圧V
Bは、多かれ少なかれこの最小値V
MINのままであり、その後に初期値V
1よりも高くて実質的に安定した値V
2(例えば14V)まで急速に上昇する。実際、ICEの始動後には、始動モータが作動を停止し、したがって電流の引き込みが停止される。他方、オルタネータが作動を開始してバッテリを充電し、車載の装置/システムに電力が供給される。
【0023】
それ故、発明者らは、電圧上昇値ΔV
R=V
2-V
MIN を監視すれば喫緊の車載バッテリ障害が検出できるという賢明な着想に至ったものである。実際、発明者らは、使用に伴い、この電圧上昇値ΔV
R が、車載バッテリの数年に亘る作動後には、エンジンのクランキングが行えなくなる最大電圧上昇値ΔV
R-MAX まで増加することに着目した。
図2は、電圧上昇値ΔV
Rの経年変化例を示すものである。
【0024】
すなわち、テスト実験及び/又はコンピュータシミュレーションに基づいて上記の最大電圧上昇値ΔVR-MAX を決定し、ひいては最大電圧上昇値ΔVR-MAX よりも低い電圧上昇閾値TΔVR(所与の安全許容値だけ低い閾値、好適には最大電圧上昇値(ΔVR-MAX)の所与の安全許容百分率だけ低い閾値)を決定することが可能である。この場合、電圧上昇値ΔVR が電圧上昇閾値TΔVR に達すると、喫緊のバッテリ障害についての警告を有利にトリガーすることができる。
【0025】
また、本発明の更なる態様においては、バッテリ電圧VBを、好適には、エンジンの停止状態で自動車が静止している場合でも経時的に監視する。実際、この方法によれば:
・バッテリからの不正常な電流流出(例えば、ラジオ/ライトがオン状態のまま保知されている場合)を検出することができる。不正常な電流流出が生じていれば、バッテリによるエンジン始動が不可能となり得る。
・バッテリ電圧VB(エンジン停止状態では前述した電圧値V1)が時間の経過と共に低下するか否かを確認することができる。バッテリ電圧が低下していれば、バッテリによるエンジン始動が不可能となり得る。
【0026】
特に、バッテリ電圧VBの経時的な変化を監視すれば、エンジンが停止状態で自動車が静止しているときにバッテリ電圧VBが所定のバッテリ電圧閾値TVBよりも低くなるか否かを確認することができ、これにより喫緊のバッテリ障害に関する警告がトリガーされる。
【0027】
本発明を更に理解するため、
図3は、本発明の好適な実施形態による車載バッテリの消耗監視システム(全体を参照数字1で表す)における機能アーキテクチャの概要図(特にブロック図)である。
【0028】
特に、車載バッテリの消耗監視システム1は、以下の取得装置11及びプロセッサ装置/システム12を含む。
すなわち、取得装置11は:
・ICE、バッテリ、オルタネータ、及びICEを始動させるための始動モータ(いずれも
図3には示されていない)を搭載した自動車(
図3には示されていないが、スクータ、バイク、乗用車、バン、トラック等)に搭載され;
・自動車の車両バス20(例えば、コントローラエリアネットワーク(CAN)バス規格に基づく)に接続されてバッテリ電圧V
B(車載バッテリによる供給電圧)が受信/取得/供給され;
・バッテリ電圧V
Bを示す量を出力し;
・バッテリによるエンジン始動が不可能となり得るバッテリからの不正常な電流流出(例えば、ラジオ/ライトがオン状態のままである場合)を検出するように構成されている。
また、プロセッサ装置/システム12は:
・取得装置11に対して有線又は無線で接続され、取得装置11からバッテリ電圧V
Bを示す量を受信し;
・ICEを始動させる度に、バッテリ電圧V
Bを示す量に基づいて、始動モータが動作を開始し、ICEを始動させた直後のバッテリ電圧V
Bの最小値V
MIN(バッテリ電圧V
Bについて想定される最小値V
MIN)と、ICEが始動し、始動モータが動作を停止し、オルタネータが動作を開始した直後のバッテリ電圧V
Bの実質的に安定した値V
2(バッテリ電圧V
Bについて想定される値V
2)との差を表す電圧上昇値ΔV
Rとの差を示す値を計算し;
・計算した電圧上昇値ΔV
Rに基づいて、喫緊のバッテリ障害を検出するようにプログラムされている。
【0029】
取得装置11に関する限り、バッテリ電圧VBを受信/取得/供給するための車両バス20への接続は、本発明を実行する上での選択肢のみを表している点に留意されたい。実際、取得装置11は、代替的に、車載バッテリの端子に直結し、又はバッテリに直結された電線に接続し、又は車載の電気ソケット(車載のタバコ/シガーライター用のソケット等)に接続し、又はオンボード診断(OBD)システムの電源ライン又はコネクタに接続して、電力が供給され、バッテリ電圧VBを示す量を出力する構成とすることができる。
【0030】
好適には、プロセッサ装置/システム12は、所定の電圧上昇閾値TΔVRを記憶するように構成され、計算された電圧上昇値ΔVRが所定の電圧上昇閾値TΔVRに関する所定の条件を満たす場合に喫緊のバッテリ障害を検出するようにプログラムされる。
【0031】
言うまでもなく、電圧上昇値ΔVRは、V2-VMINとして、又は│VMIN-V2│として、又はVMIN-V2として計算することができる。ここで、V2はVMINよりも高いため:
・第1及び第2のケース(ΔVR=V2-VMIN又はΔVR=│VMIN-V2│)では、ΔVR=TΔVR又はΔVR>TΔVRであれば喫緊のバッテリ障害が検出され;
・第3のケース(ΔVR=VMIN-V2)では、ΔVR=TΔVR又はΔVR<TΔVRであれば喫緊のバッテリ障害が検出される。
【0032】
好適には、取得装置11は、ドライバによるエンジン点火コマンドで開始する時間ウィンドウ内において、所定のサンプリング周波数(例えば、100Hz以上)でバッテリ電圧VBをサンプリングすることによりバッテリ電圧VBを示す量を生成し、オルタネータが作動を開始すると終了するように構成される。例えば、時間ウィンドウの時間長は10秒である。所定のサンプリング周波数は、ICEの始動中におけるバッテリ電圧VBの急速な変化を正確に測定可能とするものである点に留意されたい。この所定のサンプリング周波数は、自動車の形式に依存する場合がある。いずれにせよ、一般的に言えば、所定のサンプリング周波数が高いほど、バッテリ電圧変化の測定精度が向上する。
【0033】
好適には、プロセッサ装置/システム12は、バッテリ電圧VBを示す量に基づいてバッテリ電圧VBを監視し、バッテリからの不正常な電流流出を検出し、ICEの停止状態で自動車が静止している場合にバッテリ電圧VBが低下するか否かをチェックするように更にプログラムされる。
【0034】
より好適には、プロセッサ装置/システム12は、所定のバッテリ電圧閾値TVBも格納するように構成され、ICEの停止状態で自動車が静止している場合にバッテリ電圧VBが所定のバッテリ電圧閾値TVB以下になれば、喫緊のバッテリ障害を検出するようにプログラムされる。
【0035】
好適には、取得装置11は:
・ドライバによりエンジン点火が命令されたときに開始し、オルタネータが動作を開始したときに終了する時間ウィンドウ内における所定の第1サンプリング周波数(例えば、100Hz以上)と;
・時間ウィンドウの外側における所定の第2サンプリング周波数(例えば、1Hz)であって、第1サンプリング周波数よりも低い所定の第2サンプリング周波数と;
に基づいてバッテリ電圧VBをサンプリングすることにより、バッテリ電圧VBを示す量を生成するように構成される。
【0036】
上述したように、時間ウィンドウは、時間長を例えば10秒とすることができる。
【0037】
図3を改めて参照すると、車載バッテリの消耗監視システム1は、プロセッサ装置/システム12が喫緊のバッテリ障害を検出した場合に、自動車に関連するユーザ(例えば、ドライバ及び/又はその所有者)に対して、検出された喫緊のバッテリ障害に関する警告を行うように構成された通知装置13を更に含む。
【0038】
好適には、通知装置13は、プロセッサ装置/システム12がバッテリからの不正常な電流流出を検出した場合に、自動車に関連するユーザに対して、検出されたバッテリからの不正常な電流流出に関する警告を行うように更に構成される。
【0039】
図4及び
図5は、自動車のバッテリ消耗監視システム1に係る二通りの好適な実施形態を示す概要図である。
【0040】
特に、
図4を参照すると、車載バッテリの消耗監視システム1に係る好適な第1実施形態(全体を参照数字1Aで表す)において:
・プロセッサ装置/システム12は、取得装置11に対して無線及び遠隔接続された(例えば、GSM、GPRS、EDGE、HSPA、UMTS、LTE、LTEAdvanced 及び/又は将来的な第5世代(又ははそれ以降)のワイヤレス通信システム等の1つ又は複数の移動通信技術を介して)クラウドコンピュータシステム12Aにより実装/実行され;
・通知装置13は、自動車(
図4では参照数字2で示される)に関連する(例えば、自動車を所有又は使用する)ユーザ(
図4では参照数字3で示される)に関連付けられ、かつ、1つ又は複数の有線及び/又は無線ネットワークを介してクラウドコンピュータシステム12Aに遠隔接続される電子通信装置13A(例えば、スマートフォン、タブレット、ラップトップ、デスクトップコンピュータ、スマートテレビ、スマートウォッチ等)により実装/実行される。
【0041】
好適には、クラウドコンピュータシステム12Aは、喫緊のバッテリ障害を検出した場合に、電子通信装置13Aに対して喫緊のバッテリ障害に関する通知を送信し、その電子通信装置13Aがユーザ3に対して喫緊のバッテリ障害に関する通知を提供するようにプログラムされる。例えば、通知装置13は、好適には、所定のソフトウェアアプリケーション(いわゆるアプリ)をインストールしたスマートフォン又はタブレットで構成することができ、そのアプリは、喫緊のバッテリ障害が検出された旨のプッシュ通知をクラウドコンピュータシステム12Aから受信するためのものである。喫緊のバッテリ障害に関する他の形式の通知を使用することもでき、これにはSMSメッセージ、電子メールメッセージ、又はより一般的には、テキスト及び/又はオーディオ及び/又はイメージ及び/又はビデオ及び/又はマルチメディア形式のメッセージ等が含まれる。好適には、バッテリからの不正常な電流流出が検出された場合にも同様とする。
【0042】
クラウドコンピュータシステム12Aは多くの自動車2、したがって多くのユーザ3に対して、車載バッテリの消耗監視サービスを提供するために有利に使用することができる点に留意されたい。
【0043】
代わりに、
図5を参照すると、車載バッテリの消耗監視システム1に係る好適な第2実施形態(全体を参照数字IBで表す)において:
・プロセッサ装置/システム12は、自動車2に搭載された(自動車用の)電子制御ユニット(ECU)12Bにより実装/実行され;
・通知装置13は、自動車2に搭載されたヒューマンマシンインターフェース(HMI)13Bにより実装/実行される。
【0044】
第2実施形態IBにおいて、ECU12Bは、好適には、自動車2のドライバに対し、HMI13Bの生成するグラフィカル及び/又は音声によるアラートを介して、検出された喫緊のバッテリ障害に関する警告を実行することができる(好適には、そのための画面及び/又はグラフィカル/音声警告インジケータを備えることができる)。好適には、バッテリからの不正常な電流流出が検出された場合にも同様とする。
【0045】
ECU12Bは、好適には、バッテリ消耗監視専用のECU、又はバッテリ消耗監視も含む複数タスク専用ECUで構成することができる。
【0046】
同様に、好適には、HMI13Bはバッテリ消耗監視専用のHMIで、又はバッテリ消耗監視も含む複数タスク専用のHMI(例えば、車載インフォテレマティクス及び/又は運転支援システム用HMI)で構成することができる。
【0047】
以上に鑑み、本発明の好適な実施形態に係る車載バッテリの消耗監視方法は、車載バッテリの消耗監視システム1を提供し、かつ作動させるためのバッテリ消耗監視ステップを含むことにより、喫緊のバッテリ障害事象(及び、好適にはバッテリからの不正常な電流流出事象)を検出するものである。
【0048】
好適には、車載バッテリの消耗監視方法は、テスト実験及び/又はコンピュータシミュレーションを行うことにより、バッテリ消耗監視ステップにおいて、喫緊のバッテリ障害事象を検出する際にプロセッサ装置/システム12により使用される所定の電圧上昇閾値TΔVR(及び、好適には所定のバッテリ電圧閾値TVB)を決定するため予備ステップを更に含む。
【0049】
好適には、予備ステップにおいて、それぞれの形式/モデルのバッテリについて、それぞれの電圧上昇閾値TΔVR(及び、好適にはそれぞれのバッテリ電圧閾値TVB)を決定することができる。また、それぞれの電圧上昇閾値TΔVR(好適には、それぞれのバッテリ電圧閾値TVB)は、特定のモデル/形式の自動車に搭載された特定の形式/モデルのバッテリについて決定することができる。更に、単一の電圧上昇閾値T&VR(及び、好適には単一のバッテリ電圧閾値TVB)を任意の自動車に搭載された任意形式/モデルのバッテリについて決定することができる。
【0050】
以上のとおり、本発明の技術的利点及び革新的な特徴は、当業者にとって明白である。
【0051】
特に、本発明は、喫緊の車載バッテリの障害を、簡単なシステムアーキテクチャ及び簡単な方法により非常に効率的に、しかも高い信頼性をもって検出し、かつ予測可能とする(バッテリ交換等の適切なサービスを適時に実行可能とする)ものである。この点において、本発明によれば、前掲の特許文献1による自動車のバッテリ診断方法とは対照的に、バッテリ端子に接続される電圧センサを使用して、エンジンを始動させる度にバッテリ電圧に関連する複数のパラメータを検出する必要がなく、気温及び水温についての知識、あるいは複数のデータベースの使用も不要である。
【0052】
更に、本発明は、好適には、自動車が静止し、ICEが停止している状態において、バッテリからの不正常な電流流出事象も検出可能とするものである。
【0053】
以上を要約すれば、添付した特許請求の範囲において規定される本発明の技術的範囲を逸脱することなく、多様な修正及び変形を行うことが可能であることは、言うまでもない。