(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】張力調整装置
(51)【国際特許分類】
B66B 23/20 20060101AFI20220808BHJP
【FI】
B66B23/20
(21)【出願番号】P 2021116365
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上村 晃正
(72)【発明者】
【氏名】首藤 正志
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淳彦
(72)【発明者】
【氏名】川西 洋司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 祥一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 憲治
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-84750(JP,A)
【文献】特開2013-95536(JP,A)
【文献】特開2017-159974(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105016185(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-21/12;23/04-23/06;
23/20;23/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客を搬送する乗客コンベアに設けた無端状の移動手すりに配置され、前記移動手すりの張力を調整する張力調整装置であって、
躯体に固定した基板と、
前記移動手すりの移動方向に間隔をあけて設け、前記移動手すりに当接する一方及び他方のローラと、
前記一方及び他方のローラを支持すると共に前記基板に対して移動自在なローラ支持部材と、
前記ローラ支持部材を下方に向けて所定の付勢力で付勢する付勢部材と、
前記基板に設けた被係止部と前記ローラ支持部材に設けた係止部とを有し、前記係止部が前記被係止部に係止することで前記ローラ支持部材の移動を制限するロック機構と、を備え、
前記基板は回動軸を有し、前記ローラ支持部材は前記回動軸に対して相対的に上下に移動自在であると共に前記回動軸回りを回動自在であり、前記ローラ支持部材が前記回動軸に対して回動したときに前記係止部が前記被係止部に係止する張力調整装置。
【請求項2】
前記ローラ支持部材には前記回動軸を挿通する上下方向の長孔が形成してあり、前記ローラ支持部材は、前記回動軸が前記長孔の任意の位置で前記回動軸回りを回動可能としている請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項3】
前記回動軸は、前記ローラ支持部材を挿通した先端部に前記ローラ支持部材を保持する保持部材を有し、前記保持部材は前記長孔の幅よりも大きな幅の輪郭を有する請求項2に記載の張力調整装置。
【請求項4】
前記付勢部材は、前記一方のローラと前記他方のローラとに対応した側にそれぞれ設けてある請求項1に記載の張力調整装置。
【請求項5】
前記被係止部は、上下方向に並んで設けた複数の凹部であり、前記係止部は、前記凹部に入り込む爪部である請求項1に記載の張力調整装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、移動手すりの張力を調整する張力調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エスカレータやオートロード等のような乗客コンベアにおいて、移動手すりの張力を調整する張力調整装置が公知である。
かかる張力調整装置では、移動手すりに常時押圧力を付与して張力を付与し、所定の張力範囲を超えると報知するものがある。そして、所定の張力範囲を超えた場合には、張力調整装置を設定し直すようなメンテナンスをしている。
一方、乗客が手を乗せる際に加わる荷重やいたずら等で、移動手すりに走行方向に反した逆向きの力が作用すると、急激な衝撃力(反力)となって張力調整装置に損傷をあたえるおそれがあった。張力調整装置が損傷すると、メンテナンスが必要になる。
また、移動手すりに付与する押圧力が小さすぎると、移動手すりにたるみが生じて、屈曲が生じたり、動手すりを案内する案内レールと擦れて、激しく摩耗するという不都合がある。
したがって、張力調整装置の押圧力の設定のし直しや張力調整装置の損傷によるメンテナンスには手間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-8388号公報
【文献】実開昭63-180688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような事情から、最適な押圧力を長期間維持し続けることができ且つ駆動中に急激な衝撃力が作用したときには損傷を防止できる移動手すりの張力調整装置が望まれている。
【0005】
そこで、最適な押圧力を長期間維持し続けることができ且つ駆動中に急激な衝撃力が作用したときには損傷を防止できる移動手すりの張力調整装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る移動手すりの張力調整装置は、乗客を搬送する乗客コンベアに設けた無端状の移動手すりに配置され、前記移動手すりの張力を調整する張力調整装置であって、躯体に固定した基板と、前記移動手すりの移動方向に間隔をあけて設け、前記移動手すりに当接する一方及び他方のローラと、前記一方及び他方のローラを支持すると共に前記基板に対して移動自在なローラ支持部材と、前記ローラ支持部材を下方に向けて所定の付勢力で付勢する付勢部材と、前記基板に設けた被係止部と前記ローラ支持部材に設けた係止部とを有し、前記係止部が前記被係止部に係止することで前記ローラ支持部材の移動を制限するロック機構と、を備え、前記基板は回動軸を有し、前記ローラ支持部材は前記回動軸に対して相対的に上下に移動自在であると共に前記回動軸回りを回動自在であり、前記ローラ支持部材が前記回動軸に対して回動したときに前記係止部が前記被係止部に係止する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態にかかる乗客コンベアにおいて、移動手すりの駆動装置全体を概略的に示す縦断面である。
【
図2】
図1に示す張力調整装置の正面図であり、ロック機構が作用していない状態の図である。
【
図5】
図1に示す張力調整装置の正面図であり、ロック機構が作用している状態の図である。
【
図6】ロック機構を説明する斜視図であり、(a)はロック機構が作用していない状態の図であり、(b)はロック機構が作用している状態の図である。
【
図7】一方及び他方のローラに作用する荷重の関係を示すグラフであり、(a)は下降運転時であり、(b)は上昇運転時である。
【
図8】
図7のグラフの作成に用いた張力調整装置の概略構成図である。
【
図9】張力調整装置の長孔の変形例であって、回動軸との関係を示す正面図である。
【
図10】ロック機構における被係止部の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係る張力調整装置及び乗客コンベアについて説明する。
乗客コンベアは、エスカレータであり、例えば、建物の上階と下階との間に傾斜して設置されている。
図1に示すように、移動手すり駆動装置1では、無端状の移動手すり3が乗客コンベアのステップ(図示せず)の移動と同期して循環駆動されている。
【0009】
移動手すり駆動装置1において、移動手すり3は、駆動装置5aに巻き掛けられ、駆動プーリ5bと押し付けローラ5cにより挟まれている。駆動プーリ5bを所定の方向に回転させることで、駆動プーリ5bと移動手すり3の間の摩擦力で移動手すり3は走行する。
移動手すり3は、横断面がC字形状となっており、ゴム製の本体と、本体に一体に設けられた帆布を備えており、本体には、鋼材製の芯線が埋め込まれている。乗客が移動手すり3を持つことができるようにC字形状の開口部が下を向いて移動手すり3が走行する部分を往路側と称している。また、移動手すり3が反転し、開口部が上を向いて移動手すり3が走行する部分を帰路側と称している。
移動手すり3は案内レール(図示せず)に沿って駆動される。
図1では、X部から図の反時計回りにY部までの往路側に、案内レールが設置されている。
駆動装置5aの前後(移動手すり3の走行方向の前後、以下同じ)には、駆動下部案内ローラ5dと、駆動上部案内ローラ5eが設置されており、移動手すり3が駆動装置5aに入る際に、急角度で屈曲することなくスムーズに変形するようになっている。移動手すり3の帰路側の下部には、たるみ取り部5fが設けられている。たるみ取り部5fには手すり3の張力を調整する張力調整装置7が設けられ、移動手すり3に、
図1の下方向に押圧力を付加することで、移動手すり3に適切な張力を与え、たるみを吸収する。
たるみ取り部5fの前後には、たるみ取り下部案内ローラ5gと、たるみ取り上部案内ローラ5hが設置されており、移動手すり3がたるみ取り部5fに入る際に、スムーズに変形するようになっている。
尚、移動手すり3の帰路側で、下側乗降デッキ5jと上側乗降デッキ5kとの間はカバー6で覆ってある。
【0010】
次に、実施形態にかかる張力調整装置7について説明する。
図2~
図4に示すように、張力調整装置7は、基板9と、移動手すり3に当接する一方のローラ(駆動装置5aから遠い側のローラ)13a及び他方のローラ(駆動装置5aに近い側のローラ)13bと、一方及び他方のローラ13a、13bを支持するローラ支持部材15と、基板9に対してローラ支持部材15を所定の押圧力で付勢する2つの付勢部材19、19と、ローラ支持部材15の移動を制限するロック機構17とを備えている。
【0011】
基板9は、正面視略四角形状を成す板材であり、トラス部材(躯体:図示せず)に固定してある。
図2及び
図3に示すように、この基板9には、ローラ支持部材15を貫通し、ローラ支持部材15を上下動自在及び回動自在に支持する回動軸9aが設けられている。回動軸9aは、基板9の表面から水平方向に突設して設けられている。本実施形態では、回動軸9aは、雄ネジを形成した丸棒材であり、回動軸9aには、ローラ支持部材15から突設した先端部分に保持部材12を装着して、ローラ支持部材15を基板9と保持部材12との間に挟んである。保持部材12は、長孔15a(後述する)の幅よりも大きな幅の輪郭を有する部材であり、本実施形態では回動軸9aに螺合するナットである。
また、
図2及び
図4に示すように、基板9には、各付勢部材19の上端部を支持する付勢部材上端支持部9bが一体に形成されている。付勢部材上端支持部9bは、一方及び他方のローラ13a、13bの突設方向(水平方向)突設されている。
【0012】
一方及び他方のローラ13a、13bは、移動手すり3の移動方向(
図2の左右方向)に間隔をあけて並んで設けてある。一方及び他方のローラ13a、13bは、同じ構成であり、それぞれ支持軸14をローラ支持部材15から水平方向に突設してローラ支持部材15に固定されている。
図2及び
図3に示すように、ローラ支持部材15には、回動軸9aを挿通すると共に各回動軸9aが相対的に上下方向に移動自在な長孔15aが形成されている。長孔15aは、ローラ支持部材15の正面において、左右方向の略中央に位置している。
また、ローラ支持部材15には、上述した各付勢部材19の下端を支持する付勢部材下端支持部15b(
図4参照)が設けられている。
ローラ支持部材15は、基板9の正面に沿う板状部材であり、基板9の正面に沿って上下左右に摺動自在としてある。
各付勢部材19は、コイルバネであり、上端19aを基板9の付勢部材上端支持部9bに当接してあり、下端19bをローラ支持部材15の付勢部材下端支持部15bに当接してあり、基板9に対してローラ支持部材15を所定の押圧力で常時下方に向けて付勢している。
各付勢部材19は、一方及び他方のローラ13a、13bへの荷重が、長孔15aのストローク間(上下方向の寸法)でほぼ一定となるように、できるだけ小さいバネ定数のものを圧縮した状態で使用している。
尚、各付勢部材19の外周面は、カバー23で覆ってある。
【0013】
図2及び
図6に示すように、ロック機構17は、基板9に設けた被係止部17aと、ローラ支持部材15に設けた係止部17bとで構成してあり、係止部17bが被係止部17aに係止することで、ローラ支持部材15の上下の移動を制限するものである。
被係止部17aは、周面にネジ溝24を形成した丸棒であり、基板9において正面に突設する凸部9c(
図6参照)に溶接により固定されている。
係止部17bは、正面視略L字形状の本体26を有し、本体26の下端がローラ支持部材15にネジ25で固定してあり、本体26の上端には、被係止部17a側に突設した爪27が形成されている。係止部17bでは、爪27が被係止部17aのネジ溝24に係脱するようになっている。
【0014】
本実施形態にかかる張力調整装置7の作用について説明する。
まず、
図2を参照して、各部の力の作用について説明する。
各付勢部材19は、それぞれ基板9に対して下方の付勢力F1をローラ支持部材15に作用する。
これに対して、一方及び他方のローラ13a、13bが移動手すり3から反力を受ける。
【0015】
ここで、
図7及び
図8を参照して、一方のローラ13aと他方のローラ13bが受ける反力(荷重)の関係を説明する。
図1に示す移動手すり駆動装置1において、下降運転時に下流側(駆動装置5aから遠い側)にある一方のローラ13aと、下降運転時に上流側(駆動装置5aに近い側)にある他方のローラ13bとに移動手すり3から受ける荷重(反力)について測定した。測定に際しては、
図8に示す測定用張力調整装置51を用いた。
この測定用張力調整装置51は、一方のローラ13aと他方のローラ13bとに対応して基板9に設けた一方の軸53a及び他方の軸53bと、基板9に対して移動自在なローラ支持部材15に形成して各軸53a、53bを相対的に上下に移動自在に保持する一方の長孔55aと、他方の長孔55bとを備えている。
このように構成した測定用張力調整装置51では、一方のローラ13aと他方のローラ13bが移動手すり3から個別に荷重を受けることができる。
そして、測定用張力調整装置51を用いて、移動手すりの下降運転時、上昇運転時及び停止時に、一方のローラ13aと他方のローラ13bがそれぞれ移動手すりから受ける荷重を測定したので、その結果を
図7に示す。
【0016】
図7(a)から明らかなように、下降運転時には、他方のローラ13bが受ける荷重は、一方のローラ13aよりも大きく、約2倍の荷重を受けた。
一方、
図7(b)から明らかなように、上昇運転時には、一方のローラ13aと他方ローラ13bが受ける荷重は、略同じであった。しかも、一方のローラ13aと他方ローラ13bが受ける荷重は、運転停止時とほとんど変わらない荷重であった。
また、
図7(a)(b)から明らかなように、運転停止時は、一方のローラ13aと他方ローラ13bが受ける荷重は、略同じである。
このように、下降運転時には、他方のローラ13bが受ける荷重は、一方のローラ13aよりも大きく、上昇運転及び運転停止時には、一方のローラ13aと他方ローラ13bが受ける荷重は略同じである。
【0017】
次に、本実施形態に係る張力調整装置7の動きについて、説明する。
(移動手すり3の停止状態)
乗客コンベアの移動手すり3が停止状態にあるときには、
図2に示すように、移動手すり3には、張力調整装置7により、常時荷重を加えて、移動手すり3に所定の範囲の張力に保持している。
具体的には、
図2に示すように、各付勢部材19、19により、付勢力F1で基板9に対してローラ支持部材15を押圧することで、一方及び他方のローラ13a、13bが移動手すり3に張力を付与している。一方及び他方のローラ13a、13bによる押圧力は、使用する付勢部材19としてのばねの自由長を十分長いものにすれば移動手すり3の伸縮(経時劣化等による伸縮)に対しほぼ一定の荷重を加えることができる。
尚、ロック機構17では、係止部17bは被係止部17aから離れた位置にあり、解除状態になっている。したがって、ローラ支持部材15は上下動自在な状態である。
移動手すり3に通常の伸縮がある場合には、ローラ支持部材15の回動軸9aが長孔15aを相対的に上下に移動することで、一方及び他方のローラ13a、13bと共にローラ支持部材15が基板9に対して上方又は下方に移動して、付勢部材19、19と移動手すり3の反力(荷重)とが釣り合う位置に自動調整する。
(移動手すり3の下降運転)
移動手すり3の下降運転が開始すると(
図7(a)参照)、
図5に示すように、他方のローラ13bが移動手すり3から受ける荷重(反力)F2が一方のローラ13aが受ける荷重F3よりも大きくなるので、回動軸9aを中心としてローラ支持部材15に片寄った力が作用し、ローラ支持部材15は回動軸9aの周りを矢印Rに示すように、他方のローラ13bが上がる方向に回動する。
ローラ支持部材15の回動により、ロック機構17では、基板9に固定した被係止部17aに、ローラ支持部材15に固定した係止部17bが係止する。これにより、ロック機構17が作動し、ローラ支持部材15の上下動を規制する。
【0018】
このように、移動手すり3の下降運転中は、ローラ支持部材15の上下動が規制された状態となる。したがって、移動手すりの運転中において、乗客等により移動手すり3を介して張力調整装置7に過負荷が作用した場合、例えば、乗客コンベアに乗客が乗るときや降りるときに、過剰に移動手すり3にしがみついたり、移動手すり3を引張るなどのいたずら等により、一方及び他方のローラ13a、13bが移動手すり3から過大な荷重を受けた場合に、ローラ支持部材15の上下動が規制されているから、ローラ支持部材15が急激に上昇して張力調整装置7が損傷するのを防止する。
【0019】
その後、移動手すり3の駆動が停止されると、
図2に示すように、一方及び他方のローラ13a、13bからの反力が解除され、ローラ支持部材15の回動が戻されことで、ロック機構17では係止部17bが被係止部17aから離れ、ロック機構17が解除される。これにより、上述したように、移動手すり3に付勢部材19により付勢力を付与し、移動手すり3の反力と付勢部材19、19とが釣り合う位置にローラ支持部材15が上下動する自動調整位置に復帰する。
(移動手すり3の上昇運転)
移動手すり3の上昇運転では、
図7(b)に示すように、張力調整装置7では一方のローラ13aが受ける荷重と他方のローラ13bが受ける荷重は略同じになるので(又は0になる)、
図2に示すように、ロック機構17では、被係止部17aと係止部17bは離れており、ロック機構17が作用しない状態になる。
図1において、上昇運転では移動手すり3は矢印と反対に移動することになる。この場合、往路側で移動手すり3に急激な過負荷が作用した場合、張力調整装置7では移動手すり3から、緩む方向の力が作用するから、一方及び他方のローラ13a、13bに作用する反力は負の反力(
図5に示すF2、F3と反対方向又は0の力)となり、ローラ支持部材15には、急激な荷重は作用しない。また、この場合には、駆動上部案内ローラ5eで著しいたるみ(
図1に示す破線参照)が生じることがないので、問題ない。
【0020】
第1実施形態の効果について説明する。
図2に示すように、運転停止又は上昇運転時に、ローラ支持部材15は、基板9に対して移動動自在の状態にあり、付勢部材19がローラ支持部材15を下方に向けて所定の付勢力F1で付勢しているので、ローラ支持部材15に支持されている一方及び他方のローラ13a、13bが移動手すり3に所定の張力を付与する。また経年劣化等により移動手すり3が伸縮した場合でも、ローラ支持部材15が移動手すり3の反力と付勢部材19の付勢力とが釣り合う位置に上下動することで、移動手すり3に付与する荷重を自動調整できる。
下降運転中は、
図5に示すように、他方のローラ13bが受ける荷重F2が一方のローラ13aが受ける荷重F3よりも大きい荷重を受けるので、ローラ支持部材15は、回動軸9a周りを矢印R方向に回動し、ローラ支持部材15に設けた係止部17bが基板9に設けた被係止部17aに係止して、ロック機構17が作動することで、ローラ支持部材15が上方に移動するのが阻止される。これにより、ローラ支持部材15が必要以上に上方に移動することで生じる、張力調整装置7の損傷や、駆動上部案内ローラ5e付近で生じるたるみ(
図1に示す破線参照)による移動手すり3の損傷を防止できる。
このように、本実施形態に係る張力調整装置によれば、最適な押圧力を長期間維持し続けることができ且つ駆動中に急激な衝撃力が作用したときに損傷を防止できる。
【0021】
移動手すり3の運転停止時又は上昇運転時には、係止部17bは被係止部17aから外れて、自動的にロック機構17のロックが解除され、ローラ支持部材15は上下動自在になると共にローラ支持部材15に付勢部材19により付勢力が作用し、移動手すり3には所定の付勢力を付与できる。これにより、移動手すり3に伸縮があってもそれに応じた付勢力を付与することができる。
被係止部17aは、上下方向に並んで設けた複数の凹部をネジ溝24で形成し、係止部17bは、ネジ溝24に入り込む爪27としているので、ロック機構17に汎用品を使用でき、構成を簡易にできる。
基板9には、回動軸9aを突設して設け、ローラ支持部材15には回動軸9aを挿通する長孔15aを形成する簡単な構成で、ローラ支持部材15の回動と上下動とができる。
【0022】
上述した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
例えば、
図9に示すように、ローラ支持部材15に形成する長孔15aは、その幅を規定する対向縁は直線状に限らず、複数の円弧31を連続する形状としても良い。この場合、回動軸9aの直径D1よりもの長孔の最小幅D2は大きく形成し、例えば1~2mm程度大きくして長孔15a内を回動軸9aが上下可能な寸法にする。
このように長孔15aに円弧31を形成することにより、ローラ支持部材15が回動軸9a周りを回動してロック機構17が作用したときに、回動軸9aも円弧31に当接してローラ支持部材15との摩擦を高めることで、ローラ支持部材15の上下動をより強固に阻止できる。
【0023】
また、長孔15aには、その上下位置に回動軸9aの位置に応じた目盛りを付与し、ローラ支持部材15が上下動自在な状態にあるときに、付勢部材19が作用する付勢力の大きさがわかるようにしても良い。これにより、移動手すり3や張力調整装置7のメンテナンスの目安にすることができる。
図10に示すように、ロック機構17の被係止部17aは、ネジ溝24に限らず、矩形の凹凸34としても良い。
また、被係止部17aは丸棒に限らず、四角柱で係止部17bに対向する面にのみ凹凸を形成するものであっても良い。
付勢部材19、19は、バネに限らず、錘として所定の重量を付勢力として付与するものであっても良い。
【符号の説明】
【0024】
1…移動手すり駆動装置、3…移動手すり、7…張力調整装置、9…基板、9a…回動軸、12…保持部材、13a…一方のローラ、13b…他方のローラ、15…ローラ支持部材、15a…長孔、17…ロック機構、17a…被係止部、17b…係止部、19…付勢部材。
【要約】
【課題】最適な押圧力を長期間維持し続けることができ且つ駆動中に急激な衝撃力が作用したときには損傷を防止できる移動手すりの張力調整装置を提供する。
【解決手段】張力調整装置は、躯体に固定した基板と、移動手すりの移動方向に間隔をあけて設け、移動手すりに当接する一方及び他方のローラと、一方及び他方のローラを支持すると共に基板に対して移動自在なローラ支持部材と、ローラ支持部材を下方に向けて所定の付勢力で付勢する付勢部材と、基板に設けた被係止部とローラ支持部材に設けた係止部とを有し、係止部が前記被係止部に係止することでローラ支持部材の移動を制限するロック機構と、を備え、基板は回動軸を有し、ローラ支持部材は前記回動軸に対して相対的に上下に移動自在であると共に回動軸回りを回動自在であり、ローラ支持部材が回動軸に対して回動したときに前記係止部が前記被係止部に係止する。
【選択図】
図2