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  • 特許-歩行補助具 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】歩行補助具
(51)【国際特許分類】
   A45B 9/02 20060101AFI20220808BHJP
   A45B 3/00 20060101ALI20220808BHJP
   A61H 3/02 20060101ALI20220808BHJP
【FI】
A45B9/02 Z
A45B3/00 B
A45B9/02 C
A61H3/02 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021180702
(22)【出願日】2021-11-04
【審査請求日】2021-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2021108208
(32)【優先日】2021-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】706001684
【氏名又は名称】竹川 一城
(72)【発明者】
【氏名】竹川 一城
【審査官】東 勝之
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-086794(JP,A)
【文献】特開2007-061570(JP,A)
【文献】特開2004-154391(JP,A)
【文献】実開昭63-120915(JP,U)
【文献】特開2006-341112(JP,A)
【文献】特開2016-015997(JP,A)
【文献】米国特許第05924434(US,A)
【文献】特開平03-292956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A45B 3/00 - 9/06
A61H 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
請求項1の歩行補助具において、前腕を支える支持部を上から握れる握りがあることを特徴とする歩行補助具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行能力を向上、改善させる歩行補助具に関する。
【背景技術】
【0002】
杖の種類には、T字型杖、ロフストランドクラッチ、松葉杖、肘支持型杖、多脚型杖等があり、使用者の脚力、握力、歩行能力等に応じ使い分けなければならない。
【0003】
以下、簡単に従来杖の使い分けを記す。
・T字型杖:杖無しでも歩けるがより安定して歩きたい人が使用する。
・ロフストランドクラッチ、肘支持型杖:握力、腕力が弱い人が使用する。
・松葉杖:痛めている足に体重をかけられない人が使用する。
・多脚型杖:体重をかけた時に安定性があり、主に室内で使用する。
【0004】
どの杖も、杖でバランスを取ること、及び杖に体重を負担させることにより、脚にかかる体重を軽減し、歩行能力を向上させるものであり、杖が支えた分だけ脚にかかる体重を軽減できる。
【0005】
T字型杖等、手の平で持ち、腕の上下により使用する杖は、コンパクトで手軽に使え、トレッキング等にも使用できるが、手の平、及び腕で体重を支えることから、ある程度の握力、腕力、そして脚力が必要となる。
【0006】
ロフストランドクラッチは、前腕を固定するため、握力、腕力が弱くても使用できるが、手の平、及び手首にかかる力は、T字型杖等と変わらない。
【0007】
松葉杖は、患側の足に体重をかけられない人が使用するが、一定の筋力、及びバランス感覚が必要であり、手首への負担、脇の下への圧迫は避けられない。
【0008】
特許文献1の杖は、エルボークラッチ型の杖で、握力、腕力が弱い人でも使用できる。
【0009】
特許文献1の杖、及びロフストランドクラッチは手首、及び前腕により負荷を支持する杖であり、使用時には体重を手の平、及び肘から上腕で支え、腕と杖が一体的に固定され、肩を中心に振り子のように動く。松葉杖は手首と脇の下で体重を支え、使用時には腕と杖が一体的に固定され、肩を中心に振り子のように動く。
【0010】
特許文献1の杖、ロフストランドクラッチ、松葉杖等は、いずれも使用時には、腕と杖が一体的に固定されているため、歩行のためには、上体を上下に振りつつ使用する必要がある。この点で、使用者への負担の大小、使用者の身体的状態による適、不適の違いはあるにせよ、歩行時の杖の動きとしては、特許文献1の杖、ロフストランドクラッチ、松葉杖はほぼ同一と言える。
【0011】
特許文献2の杖は、前腕、肘下支持型杖である。使用者に上下動の少ないスムーズな移動を行わせ、静止休息時の安定性も考慮している。主に杖が無いと歩行が困難である人を対象としている。
【0012】
特許文献3の横付型方式の杖においては、使用時に杖と腕乗せ台を水平に設定し、歩行の際に肘が持ち上げられないように調整している。これは使用者に上下動の少ないスムーズな移動を行わせ、体への負担を抑えることを目的としている。
【0013】
説明してきた杖は、腕の上下により使用するT字型杖を除いて、いずれも手の平から肩までが、杖と一体化して使用されるため、斜面の上り下りの変化には対応し辛い。また、杖が無くても歩ける程度の人が補助的に使用するT字型杖、トレッキング等に使用する杖は、脚への負担の軽減もするが、バランスの補助が主目的である。
【0014】
どの杖も、かけた体重の分、力を入れた分だけ、それを杖が負担し、バランスを取り、脚の負担を軽減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2017-029335号広報
【文献】特開2000-217875号広報
【文献】実願平06-007342号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
老人用、アウトドア用等に使用する手、腕、肘で支えるどの杖も、杖の軸方向に力を加えた分だけ脚にかかる負担を軽減し歩行できるが、体を前に進めようとする力も利用すれば、さらに脚にかかる負担を軽減できる。しかし、現在ある杖は、体を前に進めようとする力を脚にかかる負担の軽減に使っていない。
【0017】
歩行の際に、前腕を動かし、胸を広げれば呼吸は楽になるが、現在ある杖で、そのように体の動きを誘導するものは無い。
【0018】
斜面の勾配変化に、手のみで扱う杖は比較的柔軟に対応できるが、登坂、降坂の際には、握力に頼る部分が大きくなり、また、腕、肘で支える杖は、斜面の勾配変化に上体の曲げ・伸ばしで対応する。
長さ調整できる杖もあるが、勾配変化のたびに調整するのは面倒である。
このように、現在ある杖は斜面の勾配変化に対して適応範囲が広いとは言えない。
【0019】
本発明は手、腕、及び肘で支える杖において、体を前へ進める前方向の力を上方向の力に変換し、前腕が下から支えられるような感覚で、脚にかかる体重、負担の軽減を行い、また前腕の移動、上腕の持ち上げ効果により、肺を自然な形で広げ、楽に呼吸できるようにし、さらに杖を上から握る、手を添える等により、従来の杖に比べ、斜面の勾配変化への適応範囲が広い杖を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
杖の握りの下に、杖軸から横方向に伸びる形で、前腕を支える支持部を、石突から握りまでの距離より、石突から前腕支持部までの距離が長くなるように設ける。杖軸と前腕支持部の交角としては、静止時に体を預けられ、歩行時に前腕を押し上げられる90°付近が望ましい。
【0021】
使用者が体を前に進める、または手首を前に出すと、石突を中心に杖軸が縦回転し、石突から手首までの長さより、石突から前腕支持部先端までの長さが長いため、前腕支持部が前腕に接触するようになる。さらに体を前に進める、手首を前に出すと、前腕支持部が前腕を押し上げる。この時、杖には握りから軸方向の力と前腕支持部から曲げ方向の力が加わり、この曲げ方向の力の反力が前腕を押し上げる力となる。
【0022】
現在ある杖は、杖に軸方向の力をかけるようになっており、杖の折れを防止するため、曲げ方向の力はかからないようになっているが、本発明の杖は、使用者の前進する力を前腕支持部により杖に曲げ方向の力として加え、その反力を上方向の力に変換して使用者の体重を軽減する。従って、杖にかかる曲げ方向の力を、杖が折れない範囲で利用することとなる。
【0023】
曲げ方向の力が前腕を押し上げる力になるため、杖がたわむと、この力が軽減されてしまう。このため、使用する杖軸は剛性が高い素材が望ましい。
【0024】
前腕を支える支持部の握り側を、上部からも握れる構造とする。これにより降坂の際には楽に杖に力を加えることができる。
【0025】
前腕を支える支持部は着脱可能であり、上下移動可能な構造とする。
【0026】
杖を中心とし、前腕を支える支持部の反対側に、人差し指を添える、または乗せる突起を設けた構造とする。斜面の勾配により、握りを握るより手を添えて杖を扱う方が楽に歩行ができる場合があるためである。
【0027】
人差し指を添える、または乗せる突起に、アンカー等の付属品を付けられる構造とする。
【発明の効果】
【0028】
本案は下記の効果を有する。
1. 体を前へ進める前方向の力を、前腕支持部により前腕を押し上げる上方向の力に変換し、上体が持ち上げられ、脚にかかる体重が軽減される。またこの時、胸を開くように腕が動かされるため、肺の動きを助け、呼吸が楽になり、歩行能力が向上、改善したかのように歩くことができる。そしてこの効果は登坂の際に、より大きくなる。
【0029】
2. 坂を下りる際、及び前腕支持部の位置が低い場は、前腕を支える支持部の握り側を上方から握れる構造とすることにより、上方から握り安く、体重を支え安くなる。また体の移動に伴い、前腕支持部による場合より小さいが、前腕押し上げ作用より体重を軽減させる。ただし、手首による支持になるため、握力、腕力が必要となり、手首への負担も大きくなる。
【0030】
3. 前腕を支える支持部を着脱可能とすることにより、使用者は、所有している杖に支持部を取り付けて使用することができる。また、支持部を上下移動可能とすることで、上り、下りとも、坂の傾斜に合わせ支持部の位置を調整することができる。
【0031】
4. 前腕支持部に体を預け休むことができる。
【0032】
5. 杖を中心にして前腕支持部の反対側に突起を設けており、そこに人差し指を添える、または乗せるようにすると、杖の握りを握った際、杖に対する前腕の可動範囲が変わり、斜面の勾配変化に、柔軟に対応した杖の握りとすることができる。
【0033】
6. 山等の急傾斜地で使用する場合には、杖を中心にして前腕支持部の反対側に設けた突起に、アンカーを取り付け、そのアンカーを上方の斜面に刺し、それを頼りに体を引き上げる事ができる。引っ掛けも同様である。
【0034】
7. 前腕支持部が作用する場合、杖にかかる力は、杖の突き始めは杖の軸方向主体であるが、体を前に進めるにつれ、前腕支持部に荷重がかかり、杖の曲げ方向が主体になる。杖を使う場合で、握力が必要になるのは、軸方向に力をかける場合であるため、杖が地面から離れている時から杖の突き始めまでは杖を支える握力が必要であるが、前腕支持部が前腕を押し上げている状態では、ほとんど握力を必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】杖の側面図
図2】杖使用時の側面図(平地時)
図3】杖使用時の側面図(登坂時)
図4】杖使用時の側面図(降坂時)
図5】杖使用時の側面図(前腕支持部が低い場合)
図6】杖使用時の使用者の胸の様子
図7】前腕支持部前に突起を設けた図
図8】前腕支持部の詳細図
図9】前腕支持部前突起に引っ掛け、アンカーを設置した図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【実施例
【0037】
図1のように、杖本体1から横方向に伸びる形で握り5、前腕支持部4が取り付けられる。前腕支持部4の位置としては、石突3から握り2,5までの距離より長く設定する。
【0038】
この時の杖本体1に対する握り5、前腕支持部4の方向は、前腕支持部4に力が加わった場合に、杖軸に対し曲げ方向の力が主になる横方向90°程度が望ましい。
【0039】
杖軸に対する握り5、前腕支持部4の方向を上方向に設定した場合は、前腕支持部4に力が加わった時、その力は杖の軸方向が主になり、曲げ方向へはあまり働かず、前腕の押し上げ作用は小さくなる。
【0040】
また、杖軸に対する握り5、前腕支持部4の方向を下方向に設定した場合は、石突3から前腕支持部4までの距離が短くなり、前腕の押し上げ作用は小さくなる。
【0041】
図2-1の静止時には、杖本体1の握り2を握り、石突3を突き、前腕支持部4に体を預けて休むことができる。
【0042】
図2-2は握り2を握って杖を前方に突き出した図である。この時、杖本体1は空中で、前腕は前腕支持部4から離れるため、普通の杖のような取り扱いになるが、体の移動とともに石突3が地面に設置し、前腕支持部4が再び前腕を受けるようになる。このように、杖の使用中は前腕が前腕支持部4から離れる、付くを繰り返すので、前腕支持部4が前腕を受け取りやすいよう、前腕支持部4は図-8のように半円形とする。
【0043】
図2-3のように、握り2を握り、石突3を突き、体を前に進めると、杖本体1が前方に傾き、前腕支持部4と腕との前腕押し上げ作用により前腕が押し上げられ、脚にかかる負担が軽減される。この時、杖と腕との動きは、ロフストランドクラッチ、松葉杖等のように固定され動くのではなく、自由度を持って動く。
【0044】
この時、図-6に示すように、胸が開くように肘が動かされるため、肺の動きを助け呼吸が楽になる。前腕押し上げ作用が働く場合の注意点としては、杖に曲げ方向の力がかかるため、杖に剛性が必要なことである。これは、図2-1の静止時も同様である。
【0045】
図-3は登坂時の図であるが、登坂時は、使用者の体が前傾し、握り2を握り、石突3が地面に接地してから前腕が前腕支持部4に接触するまでの時間が短くなるため、杖の突き始め(図3-1)から、石突3を頭が追い越す辺り(図3-2)、そして杖の突き終わりまでの長い時間、前腕支持部4と腕との前腕押し上げ作用による体重軽減効果が感じられる。したがって登坂時の方が、より体重軽減効果を感じられる。ただし、前腕支持部4による前腕押し上げ作用が大きくなり過ぎないよう、前腕支持部4を低く調整するか、石突3を突く位置を平地の時より体に近くする等調整が必要になる。また握り5を上から握り、体の後方に突くこともできるが、この場合は前腕支持部4による、腕の押し上げ作用は無くなる。
【0046】
図4の降坂時、及び図5の前腕支持部4が低い場合、上方から杖を握ることができる握り5(図4-1)を設ける。これにより体重を支え安くなり、握り5を握ったまま杖を前に倒すことにより(図4-2)、小さいが、前腕支持部4による前腕押し上げ作用ではなく、手首による体重軽減効果が得られる。ただし、支持が手首のみになるため、ある程度の腕力、握力が必要である。
【0047】
また、握り2、握り5を使い分けることにより、道の勾配変化に対する適応範囲が広がる。
【0048】
図-7のように、杖を中心にした前腕支持部反対側の突起6に人差し指を添える、または乗せれば、杖に対する前腕の角度に自由度が増す。このように、握りの位置を変える、前腕支持部4の高さを変える等により、道の勾配変化にも柔軟に対応ができる。
【0049】
山等の急傾斜地で使用する場合は図-9のように、杖を中心にした前腕支持部反対側の突起6にアンカー8を取り付け、それを上方の斜面に挿すとそれを頼りに体を引き上げる事ができる。
引っ掛け7も同様である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、老人の歩行補助としての介護分野及び、散歩、ハイキング、トレッキング等のアウトドア分野で利用され、使用者は自身の歩行能力が向上したかのような感覚で歩くことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 杖本体
2 握り
3 石突
4 前腕支持部
5 握り
6 前腕支持部前突起
7 引っ掛け
8 アンカー
【要約】
【課題】
老人用、アウトドア用等に使用するどの杖も、体重を手、腕、肘、脇で支えた分だけ脚にかかる負担を軽減し歩行できるが、手、腕で支える杖において、体を前に進める力を前腕を押し上げる力に変換し、脚にかかる負担を軽減し、さらに肺の動きを助け、より楽に歩行できる杖を提供する事を目的とする。
【解決手段】
杖の握りの下に、前腕を支える前腕支持部を設け、使用者が前進する際、支持部が使用者の前腕に接触し、前腕を押し上げ、脚にかかる体重を軽減し、また胸が開くように肘を誘導するため、肺の動きを助け、呼吸が楽になることを特徴とする。
歩行する斜面の勾配変化には、縦握りを握る、上から横握りを握る、横握りに手を添える等によって柔軟に対応できる。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9