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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-08-05
(45)【発行日】2022-08-16
(54)【発明の名称】コロイダルシリカ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/141 20060101AFI20220808BHJP
【FI】
C01B33/141
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021503992
(86)(22)【出願日】2020-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2020007574
(87)【国際公開番号】W WO2020179555
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019040717
(32)【優先日】2019-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000238164
【氏名又は名称】扶桑化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 英希
(72)【発明者】
【氏名】道脇 良樹
(72)【発明者】
【氏名】根岸 佑馬
(72)【発明者】
【氏名】千葉 年輝
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-090798(JP,A)
【文献】国際公開第2010/052945(WO,A1)
【文献】特開2011-201719(JP,A)
【文献】国際公開第2010/035613(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/00 - 33/193
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を含有するコロイダルシリカであって、
前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上であり、
前記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量m(ppm)と、平均一次粒子径n(nm)との比(m/n)の値が200以上であり、
走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を15%以上含む、
ことを特徴とするコロイダルシリカ。
【請求項2】
前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上2.20以下である、請求項1に記載のコロイダルシリカ。
【請求項3】
前記シリカ粒子は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン (ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)をシリカ粒子1g当たり5μmol以上以上含有する、請求項1又は2に記載のコロイダルシリカ。
【請求項4】
前記シリカ粒子の表面に、下記一般式(1)
-(CH)-R (1)
(式(1)中、kは0以上の任意の整数を示し、Rは任意の官能基を示す。)
で表される有機官能基を有する、請求項1~3のいずれかに記載のコロイダルシリカ。
【請求項5】
前記シリカ粒子の表面に、カチオン性有機官能基を有する、請求項1~4のいずれかに記載のコロイダルシリカ。
【請求項6】
前記シリカ粒子の表面に、アミノ基を有する、請求項5に記載のコロイダルシリカ。
【請求項7】
前記シリカ粒子の表面に、アニオン性有機官能基を有する、請求項1~4のいずれかに記載のコロイダルシリカ。
【請求項8】
前記シリカ粒子の表面に、スルホ基を有する、請求項7に記載のコロイダルシリカ。
【請求項9】
(1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシランを前記母液に添加して混合液を調製する工程2、及び、
(3)前記混合液にアルカリ触媒を添加して、種粒子分散液を調製する工程3
をこの順に有するコロイダルシリカの製造方法であって、
前記アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)である、
ことを特徴とするコロイダルシリカの製造方法。
【請求項10】
前記工程3の後に、(4)前記種粒子分散液に、水及びアルコキシシランを添加する工程4を有する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程2における前記アルコキシシランの添加量s2(mol)と、前記母液中の前記アルカリ触媒の量c1(mol)のモル比(s2/c1)は、800以上である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程2における前記アルコキシシランの添加量s2(mol)と、前記工程3におけるアルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s2/c3)は、185以下である、請求項9~11のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コロイダルシリカ及びその製造方法に関し、特に、異形化されたシリカ粒子を含有するコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
【0002】
なお、本明細書において「異形」とは、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つことを意味し、屈曲構造とは、3つ以上の粒子が一列に結合してできた粒子で直線ではないものであり、分岐構造とは、4つ以上の粒子が結合した粒子であって一列ではない(枝を有する)ものである。
【背景技術】
【0003】
コロイダルシリカは、シリカ微粒子を水等の媒体に分散させたものであり、紙、繊維、鉄鋼等の分野で物性改良剤として使用されている他、半導体ウエハ等の電子材料の研磨剤としても使用されている。このような用途に用いられるコロイダルシリカに分散されているシリカ粒子には、高純度性や緻密性が要求される。
【0004】
上記要求に応え得るコロイダルシリカの製造方法として、例えば、アルコキシシランを加水分解して得られた加水分解液をアルカリ触媒等を含む母液に添加する製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、特許文献1に記載の製造方法によれば、アルコキシシランを一旦加水分解して得られた加水分解液を調製してから、当該加水分解液を母液に添加しており、真比重が高く緻密な粒子を形成することができるが、製造工程が長時間・多段階となるため煩雑であり、コストが高額になるという問題がある。
【0006】
また、アルコキシシランを加水分解せずに母液に添加し、コロイダルシリカを製造する製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、特許文献2には、異形化されたシリカ粒子を得ることは記載されておらず、特許文献2に記載の製造方法により得られたコロイダルシリカは高い研磨性が得られにくく、研磨性のさらなる向上については検討の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2010/035613号
【文献】特開2016-008147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者等は、特許文献1及び2に記載の製造方法により製造されたコロイダルシリカは、シリカ粒子の単位面積あたりのアルコキシ基が少なくなるため、研磨性は高くなるが、被研磨物である基板等の表面上の欠陥が増加するという問題があることを見出した。本発明者等は、鋭意検討の結果、研磨性に優れ、且つ、アルコキシ基量の高いシリカの開発に成功した。そして、このようなコロイダルシリカは、研磨剤として好適に用いることができ、上記問題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0010】
本発明は、緻密性に優れ、単位面積あたりのアルコキシ基量が高い異形化シリカ粒子を高純度で含有し、研磨性に優れたコロイダルシリカ、及び、当該コロイダルシリカを容易に製造することができ、製造コストを低減することができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を含有し、シリカ粒子の真比重は1.95以上であり、シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量m(ppm)と平均一次粒子径n(nm)との比(m/n)の値が200以上であり、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を15%以上含むコロイダルシリカによれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記のコロイダルシリカ及びその製造方法に関する。
1.屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を含有するコロイダルシリカであって、
前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上であり、
前記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量m(ppm)と、平均一次粒子径n(nm)との比(m/n)の値が200以上であり、
走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を15%以上含む、
ことを特徴とするコロイダルシリカ。
2.前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上2.20以下である、項1に記載のコロイダルシリカ。
3.前記シリカ粒子は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)をシリカ粒子1g当たり5μmol以上含有する、項1又は2に記載のコロイダルシリカ。
4.前記シリカ粒子の表面に、下記一般式(1)
-(CH)-R (1)
(式(1)中、kは0以上の任意の整数を示し、Rは任意の官能基を示す。)
で表される有機官能基を有する、項1~3のいずれかに記載のコロイダルシリカ。
5.前記シリカ粒子の表面に、カチオン性有機官能基を有する、項1~4のいずれかに記載のコロイダルシリカ。
6.前記シリカ粒子の表面に、アミノ基を有する、項5に記載のコロイダルシリカ。
7.前記シリカ粒子の表面に、アニオン性有機官能基を有する、項1~4のいずれかに記載のコロイダルシリカ。
8.前記シリカ粒子の表面に、スルホ基を有する、項7に記載のコロイダルシリカ。
9.(1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシランを前記母液に添加して混合液を調製する工程2、及び、
(3)前記混合液にアルカリ触媒を添加して、種粒子分散液を調製する工程3
をこの順に有するコロイダルシリカの製造方法であって、
前記アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)である、
ことを特徴とするコロイダルシリカの製造方法。
10.前記工程3の後に、(4)前記種粒子分散液に、水及びアルコキシシランを添加する工程4を有する、項9又は10に記載の製造方法。
11.前記工程2における前記アルコキシシランの添加量s2(mol)と、前記母液中の前記アルカリ触媒の量c2(mol)のモル比(s2/c1)は、800以上である、項9~11のいずれかに記載の製造方法。
12.前記工程2における前記アルコキシシランの添加量s2(mol)と、前記工程3におけるアルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s2/c3)は、185以下である、項9~11のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコロイダルシリカは、緻密性に優れ、単位面積あたりのアルコキシ基量が高い異形化シリカ粒子を高純度で含有し、優れた研磨性を示すことができる。また、本発明のコロイダルシリカの製造方法は、当該コロイダルシリカを容易に製造することができ、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例2、3及び4で得られたコロイダルシリカのゼータ電位の測定結果を示す図である。
図2】実施例3で得られたコロイダルシリカのXPSによる分析結果を示す図である。
図3】実施例4で得られたコロイダルシリカのXPSによる分析結果を示す図である。
図4】実施例2で得られたコロイダルシリカの粒子径分布の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のコロイダルシリカ及びその製造方法について詳細に説明する。
【0016】
本発明のコロイダルシリカは、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を15%以上含むので、異形化シリカ粒子を高純度で含有し、研磨性に優れている。また、本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子の真比重が1.95以上であるので、緻密性に優れ、研磨性に優れている。また、本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子の、アルコキシ基の含有量m(ppm)と、平均一次粒子径n(nm)との比(m/n)の値が200以上であり、単位面積あたりのアルコキシ量が高くなっている。
【0017】
また、本発明の製造方法は、工程1においてアルカリ触媒及び水を含む母液を調製し、工程2において当該母液にアルコキシシランを添加して混合液を調製しているので、特許文献1のようにアルコキシシランを一旦加水分解しておらず、緻密性に優れ、単位面積あたりのアルコキシ基量が高いシリカ粒子を含有するコロイダルシリカを容易に製造することができ、工程が少ないため製造コストが低減されている。また、本発明の製造方法は、工程1において調製された、アルカリ触媒及び水を含む母液に、工程2においてアルコキシシランを添加し、次いで、工程3において更にアルカリ触媒を添加して種粒子を調製しているので、種粒子が異形化されており、異形化シリカ粒子を高純度で含有し、研磨性に優れたコロイダルシリカを容易に製造することができ、製造コストが低減されている。
【0018】
1.コロイダルシリカ
本発明のコロイダルシリカは、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を含有するコロイダルシリカであって、前記シリカ粒子の真比重は、1.95以上であり、前記シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量m(ppm)と、平均一次粒子径n(nm)との比(m/n)の値が200以上であり、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を15%以上含むことを特徴とする。
【0019】
上記シリカ粒子は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミンを含有することが好ましい。上記アミンとしては特に限定されず、下記一般式(X)で表される。
NR (X)
(式中、R、R、Rは置換されてもよい炭素数1~12のアルキル基、又は水素を示す。ただし、R、R、Rのすべてが水素の場合、つまりアンモニアは除外する。)
、R、Rは、同一でも異なっていてもよい。R、R、Rは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0020】
直鎖状又は分岐状のアルキル基の炭素数は、1~12であってもよく、好ましくは1~8、より好ましくは1~6である。直鎖状のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などが挙げられる。分岐状のアルキル基としては、イソプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、1-メチル-1-エチルプロピル基、2-メチル-2-エチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-エチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、4-エチルヘキシル基、5-エチルヘキシル基などが挙げられる。好ましい直鎖状又は分岐状のアルキル基は、n-プロピル基、n-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基などである。
【0021】
環状のアルキル基の炭素数は、例えば3~12、などであってもよく、好ましくは3~6である。環状のアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などが挙げられる。好ましい環状のアルキル基は、シクロヘキシル基である。
【0022】
上記一般式(X)中のR、R、Rにおいてアルキル基は置換されていてもよい。置換基の数としては、例えば0個、1個、2個、3個、4個などであってもよく、好ましくは0個、1個又は2個、より好ましくは0個又は1個である。なお、置換基の数が0個のアルキル基とは置換されていないアルキル基である。置換基としては、例えば炭素数1~3のアルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基)、アミノ基、炭素数1~4の直鎖状アルキル基で置換された1級アミノ基、炭素数1~4の直鎖状アルキル基でジ置換されたアミノ基(例えばジメチルアミノ基、ジn-ブチルアミノ基など)、置換されていないアミノ基などが挙げられる。ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する。複数の置換基を有するアルキル基において、置換基は、同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
上記一般式(X)中のR、R、Rは、置換されてもよい炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6 )の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。また、R、R、Rは、炭素数1~3のアルコキシ基で置換されてもよい炭素数1~8(好ましくは炭素数1~6)の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。
【0024】
また、R、R、Rは、置換されていなくともよい。好ましくはR、R、Rは、置換されていない直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基、またはアルコキシ基で置換された直鎖状又は分岐状の炭素数1~12のアルキル基である。一実施形態におけるアミンとして、3-エトキシプロピルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミンからなる群から選択される少なくとも1種のアミン等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくは、3-エトキシプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリエチルアミンが好ましい。更に、より一層異形化されたシリカ粒子の含有量を増加させることができる点で、3-エトキシプロピルアミンが好ましい。
【0025】
上記アミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
シリカ粒子中の、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)の含有量は、シリカ1粒子g当たり5μmol以上が好ましく、10μmol以上がより好ましい。上記アミンの含有量の下限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカ中の異形化されたシリカ粒子の含有量が増加し、コロイダルシリカがより一層十分な研磨性を示す。また、上記アミンの含有量は、シリカ粒子1g当たり100μmol以下が好ましく、90μmol以下がより好ましい。上記アミンの含有量の上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子がより一層異形化し易くなる。
【0027】
なお、上記アミンの含有量は、以下の方法により測定することができる。すなわち、コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させる。得られたシリカ乾固物0.5gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させる。シリカ溶解液をイオンクロマトグラフにより分析し、アミン量を求める。イオンクロマトグラフ分析は、JIS K0127に従って行う。
【0028】
上記アミンの沸点は、85℃以上が好ましく、90℃以上がより好ましい。沸点の下限が上記範囲であることにより、反応途中での気化がより一層抑制され、触媒として好適に用いることができる。上記アミンの沸点の上限は特に限定されず、500℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0029】
シリカ粒子は、真比重が1.95以上が好ましく、2.00以上がより好ましい。真比重の下限が前記範囲であると、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、上記真比重は、2.20以下が好ましく、2.16以下がより好ましい。真比重の上限が上記範囲であると、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0030】
本明細書において、真比重は、試料を150℃のホットプレート上で乾固後、300℃炉内で1時間保持した後、エタノールを用いた液相置換法で測定する測定方法により測定することができる。
【0031】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子のシラノール基密度はシアーズ法により求めることができる。シアーズ法は、G.W.Sears,Jr.,“Determination of Specific Surface Area of Colloidal Silica by Titration with Sodium Hydroxide”,Analytical Chemistry,28(12),1981(1956).の記載を参照して実施した。測定には1wt%シリカ分散液を使用し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行い、下記式に基づき、シラノール基密度を算出する。
ρ=(a×f×6022)÷(c×S)
上記式中、ρ:シラノール基密度(個/nm)、a:pH4-9の0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(mL)、f: 0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液のファクター、c:シリカ粒子の質量(g)、S:BET比表面積(m/g)をそれぞれ表す。
【0032】
シリカ粒子は、アルコキシ基の含有量m(ppm)と、平均一次粒子径n(nm)との比(m/n)の値が200以上である。m/nの値が200未満であると、被研磨物の表面上の欠陥が抑制できない。上記m/nの値は、250以上が好ましく、300以上がより好ましく、320以上がさらに好ましい。また、上記m/nの値は、2000以下が好ましく、1500以下がより好ましく、1000以下がさらに好ましい。m/nの値の上限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。
【0033】
なお、上記アルコキシ基の含有量は、以下の方法によりアルコキシ基の含有量m(ppm)、及び、平均一次粒子径n(nm)をそれぞれ測定し、m/nを算出することにより得ることができる。
【0034】
(アルコキシ基の含有量m(ppm))
コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させる。得られたシリカ乾固物0.5gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させる。前記シリカ溶解液をガスクロマトグラフにより分析し、アルコール含有量を求め、アルコキシ基の含有量とする。ガスクロマトグラフの検出器は水素炎イオン化検出器(FID)を用いる。ガスクロマトグラフ分析は、JIS K0114に従って行う。
【0035】
(平均一次粒子径n(nm))
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製する。調製した測定用サンプルを用いて、BET比表面積を測定する。シリカの真比重を2.2として、2727/BET比表面積(m/g)の値を換算して、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径(nm)とする。
【0036】
本発明のコロイダルシリカは、走査型電子顕微鏡で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中、屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子を15%以上含むことが好ましく、20%以上含むことがより好ましい。上記シリカ粒子の含有量が上記範囲であることにより研磨性が向上する。
【0037】
本明細書において、上記屈曲構造及び/又は分岐構造を持つシリカ粒子の含有量は、以下の測定方法により測定することができる。すなわち、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中から屈曲構造と分岐構造を有する粒子を数え、それら粒子の割合を含有量(%)とする。屈曲構造とは、3つ以上の粒子が一列に結合してできた粒子で直線ではないものであり、また、分岐構造とは、4つ以上の粒子が結合した粒子であって一列でない(枝を有する)ものである。
【0038】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径は、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径の下限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子の平均一次粒子径は、200nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましい。シリカ粒子の平均一次粒子径の上限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0039】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均二次粒子径は、8nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましい。シリカ粒子の平均二次粒子径の下限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子の平均二次粒子径は、400nm以下が好ましく、300nm以下がより好ましい。シリカ粒子の平均二次粒子径の上限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0040】
本明細書において、上記コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均二次粒子径は、以下の測定方法により測定することができる。すなわち、動的光散乱法の測定用サンプルとして、コロイダルシリカを0.3重量%クエン酸水溶液に加えて均一化したものを調製する。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により二次粒子径を測定する。
【0041】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子の会合比は、1.5以上が好ましく、1.7以上がより好ましい。シリカ粒子の会合比の下限が上記範囲であることにより、本発明のコロイダルシリカの研磨性がより一層向上する。また、シリカ粒子の会合比は、5.5以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。シリカ粒子の会合比の上限が上記範囲であることにより、被研磨物の傷の発生がより一層低減される。
【0042】
本明細書において、上記コロイダルシリカ中のシリカ粒子の会合比は、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均二次粒子径/平均一次粒子径を算出することにより得られる値である。
【0043】
コロイダルシリカ中のシリカ粒子は、表面に下記一般式(1)
-(CH)-R (1)
で表される有機官能基を有することが好ましい。上記一般式(1)で表わされる有機官能基を有することにより、コロイダルシリカの凝集がより一層抑制される。また、上記一般式(1)で表わされる有機官能基を有することにより、例えば、研磨剤として研磨対象物との静電気的引力・斥力を利用して研磨性能を調整する;フィラーとしてポリマー樹脂内に添加した際に分散性を向上させる等の、他物質との相互作用を調整することができる。
【0044】
上記一般式(1)中、kは0以上の任意の整数を示す。kは、1以上の任意の整数であることが好ましい。また、kは、20以下の任意の整数であることが好ましく、12以下の任意の整数であることがより好ましい。
【0045】
上記一般式(1)中、Rは任意の官能基を示す。Rとしては官能基であれば特に限定されず、カチオン、アニオン、極性、非極性等の官能基が挙げられる。本発明のコロイダルシリカは、シリカ粒子の表面にカチオン性有機官能基、アニオン性有機官能基、極性有機官能基、非極性有機官能基等を有することが好ましく、カチオン性有機官能基、アニオン性有機官能基を有することがより好ましい。
【0046】
カチオン性有機官能基としては特に限定されず、アミノ基等が挙げられる。
【0047】
アニオン性有機官能基としては特に限定されず、スルホ基、カルボキシ基等が挙げられる。これらの中でも、スルホ基が好ましい。
【0048】
極性有機官能基、又は、非極性有機官能基としては特に限定されず、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基等が挙げられる。
【0049】
なお、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の表面に上記一般式(1)で表わされる有機官能基が付与されたことは、下記XPS測定及びゼータ電位測定により確認することができる。
【0050】
(XPS測定)
コロイダルシリカを5℃、77,000Gで、90分間遠心分離する。得られた沈殿物を60℃で12時間乾燥させた後、乳鉢と乳棒を使用してすりつぶし、60℃で2時間減圧乾燥して、乾燥粉を調製する。
【0051】
調製された乾燥粉をXPSにより測定し、粒子表面の有機官能基に由来するピークを確認する。
【0052】
(ゼータ電位測定)
ゼータ電位は、電気泳動光散乱法、コロイド振動電流法、電気音響法、超音波減衰法等の測定原理を使用した装置により測定できる。
【0053】
2.コロイダルシリカの製造方法
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、
(1)アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程1、
(2)アルコキシシランを前記母液に添加して混合液を調製する工程2、及び、
(3)前記混合液にアルカリ触媒を添加して、種粒子分散液を調製する工程3
をこの順に有するコロイダルシリカの製造方法であって、
前記アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)である製造方法である。
【0054】
(工程1)
工程1は、アルカリ触媒及び水を含む母液を調製する工程である。
【0055】
アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)である。当該アミンとしては、上記コロイダルシリカにおいて説明したアミンと同一のものを用いればよい。
【0056】
母液中のアミンの含有量は、0.30mmol/kg以上が好ましく、0.50mmol/kg以上がより好ましい。アミンの含有量の下限が上記範囲であることにより、粒子径をより一層制御し易くなる。また、母液中のアミンの含有量は、3.00mmol/kg以下が好ましく、2.50mmol/kg以下がより好ましい。アミンの含有量の上限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカ中のシリカ粒子がより一層異形化する。
【0057】
母液を調製する方法としては特に限定されず、水にアルカリ触媒を従来公知の方法により添加して撹拌すればよい。
【0058】
母液のpHは特に限定されず、9.5以上が好ましく、10.0以上がより好ましい。母液のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層粒子径を制御しやすくなる。また、母液のpHは11.5以下が好ましく、11.0以下がより好ましい。母液のpHの上限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカ中のシリカ粒子がより一層異形化する。
【0059】
(工程2)
工程2は、アルコキシシランを上記母液に添加して混合液を調製する工程である。
【0060】
アルコキシシランとしては特に限定されず、下記一般式(2)
Si(OR (2)
(式中、Rはアルキル基を示す。)
で表されるアルコキシシランが挙げられる。
【0061】
上記一般式(2)において、Rはアルキル基を示す。Rはアルキル基であれば特に限定されず、炭素数1~8の低級アルキル基であることが好ましく、炭素数1~4の低級アルキル基であることがより好ましい。上記アルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等を例示することができる。上記一般式(2)で表されるアルコキシシランとしては、Rがメチル基であるテトラメトキシシラン(テトラメチルオルトシリケート)、Rがエチル基であるテトラエトキシシラン(テトラエチルオルトシリケート)、Rがイソプロピル基であるテトライソプロポキシシランが好ましく、Rがメチル基であるテトラメトキシシラン、Rがエチル基であるテトラエトキシシランがより好ましく、テトラメトキシシランが更に好ましい。
【0062】
上記一般式(2)で表されるアルコキシシランは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0063】
混合液中の上記一般式(2)で表されるアルコキシシランの添加量は特に限定されず、工程2におけるアルコキシシランの添加量s2(mol)と、母液中のアルカリ触媒の量c1(mol)のモル比(s2/c1)は、800以上が好ましく、960以上がより好ましい。s2/c1の下限が上記範囲であることにより、種粒子がより一層異形化し易くなる。また、s2/c1は8500以下が好ましく、8000以下がより好ましい。s2/c1の上限が上記範囲であることにより、反応途中での新たな核粒子の生成が抑制されて主粒子の成長がより一層促進され、また、反応中のゲル化がより一層抑制される。
【0064】
アルコキシシランの添加時間は、5分以上が好ましく、10分以上がより好ましい。添加時間の下限が上記範囲であることにより、反応途中にゲル化し難い。また、アルコキシシランの添加時間は、1000分以下が好ましく、600分以下がより好ましい。添加時間の上限が上記範囲であると生産性がより一層向上し、製造コストをより一層抑制できる。
【0065】
混合液のpHは、7.0以下が好ましく、6.5以下がより好ましい。混合液のpHの上限が上記範囲であることにより、種粒子がより一層異形化し易くなる。また、混合液のpHは、4.5以上が好ましく、4.9以上がより好ましい。混合液のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。
【0066】
工程2における混合液の温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。混合液の温度の下限が上記範囲であることにより、反応時のゲル化がより一層抑制される。また、混合液の温度は95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。混合液の温度の上限が上記範囲であることにより、アルコキシシランの気化がより一層抑制される。
【0067】
(工程3)
工程3は、混合液にアルカリ触媒を添加して、種粒子分散液を調製する工程である。
【0068】
アルコキシシランの添加終了から工程3のアルカリ触媒添加開始までの時間(以下、「熟成時間」と表わす。)は0分以上1500分以下が好ましい。熟成時間により異形度を制御でき、熟成時間が上記範囲であると、生産性を確保しつつ、所望の異形度の粒子を得ることができる。
【0069】
アルカリ触媒は、1級アミン、2級アミン及び3級アミンからなる群より選択される少なくとも1種のアミン(ただし、置換基として、ヒドロキシル基は除外する)である。当該アミンとしては、上記コロイダルシリカにおいて説明したアミンと同一のものを用いればよい。また、工程3において用いられるアルカリ触媒は、工程1において用いられるアルカリ触媒と同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0070】
工程3におけるアルカリ触媒の添加量は特に限定されず、上記工程2におけるアルコキシシランの添加量s2(mol)と、工程3におけるアルカリ触媒の添加量c3(mol)とのモル比(s2/c3)は、185以下が好ましく、105以下がより好ましい。s2/c3の上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の平均一次粒子径をより一層制御し易くなる。また、s2/c3は、30以上が好ましく、35以上がより好ましい。s2/c3の下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。
【0071】
種粒子分散液のpHは、8.0以上が好ましく、8.5以上がより好ましい。種粒子分散液のpHの下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。また、種粒子分散液のpHは、12.0以下が好ましく、11.0以下がより好ましい。種粒子分散液のpHの上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の溶解がより一層抑制される。
【0072】
工程3における種粒子分散液の温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。種粒子分散液の温度の下限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の平均一次粒子径をより一層制御し易くなる。また、種粒子分散液の温度は95℃以下が好ましく、90℃以下がより好ましい。種粒子分散液の温度の上限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。
【0073】
(工程4)
本発明の製造方法は、上記工程3の後に、(4)種粒子分散液に、水及びアルコキシシランを添加する工程4を有してもよい。
【0074】
アルコキシシランとしては、上記工程2において説明したアルコキシシランと同一のものを用いればよい。また、工程4において用いられるアルコキシシランは、工程2において用いられるアルコキシシランと同一のものであってもよいし、異なるものであってもよい。
【0075】
工程4におけるアルコキシシランは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0076】
工程4において用いられるアルコキシシランとしては、上記工程2において説明した、有機官能基をもたないテトラアルコキシシランである、上記一般式(2)で表わされるアルコキシシランに加えて、有機官能基を有するアルコキシシランを用いてもよい。
【0077】
上記有機官能基を有するアルコキシシランとしては、下記一般式(3)、下記一般式(4)で表わされるアルコキシシランが挙げられる。
(ORSi[(CH-R] (3)
(ORSi[(CH-R][(CH)k-R] (4)
【0078】
上記一般式(3)及び(4)中、Rは上記一般式(2)のRと同様に定義される基であり、R及びRは上記一般式(1)のRと同様に定義される基である。
【0079】
上記一般式(3)又は(4)で表わされるアルコキシシランとしては、具体的には、メチルトリメトキシシラン,ジメチルジメトキシシラン,トリメチルメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,ジメチルジエトキシシラン,トリメチルエトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,ベンジルトリエトキシシラン,プロピルトリメトキシシラン,プロピルトリエトキシシラン,ジエトキシメチルフェニルシラン,アリルトリエトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,アミノプロピルトリエトキシシラン,アミノプロピルトリメトキシシラン,N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン,N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン,N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン,N-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリド,3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン, 3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン,3-スルホプロピルトリメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン,3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン,3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン,3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の分子中に一種又は二種以上の有機官能基を有するアルコキシシラン類;トリメチルクロロシラン、ジエチルジクロロシラン等のクロロシラン類等が挙げられる。
【0080】
上記有機官能基を有するアルコキシシランは、単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0081】
上記一般式(2)で表されるアルコキシシランの添加量に対する有機官能基を有するアルコキシシランの添加量は、0.0004~0.03モル倍であることが好ましく、0.001~0.03モル倍であることがより好ましい。上記一般式(2)で表されるアルコキシシランの添加量の割合が少な過ぎると、粒子内部に導入される有機官能基が少なくなり、所望の特性を付与することができないおそれがある。有機官能基を有するアルコキシシランの添加量の割合が多過ぎると、二次粒径の増大、凝集物の生成、ゲル化を生じるおそれがある。
【0082】
工程4でアルコキシシランを添加する際、アルコキシシランをあらかじめ有機溶媒で希釈してから添加してもよい。工程4における有機溶媒としては、例えば親水性の有機溶媒が用いられ、具体的には、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類を例示することができる。有機溶媒は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。特に本発明では、工業的に入手し易い点からアルコール類を用いることが好ましく、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが更に好ましい。アルコール類は、水置換の際に、加熱蒸留によって容易に水と置換するからである。さらには、有機溶媒として、アルコキシシランの加水分解により生じるアルコールと同じアルコールを使用することがより一層好ましい。例えば、アルコキシシランとしてテトラメチルオルトシリケートを使用した場合に、当該シリケートの加水分解により反応系中にメタノールが生じるので、有機溶媒として同じメタノールを使用する。このようにすることで、溶媒の回収、再利用を容易に行なうことができる。
【0083】
工程4における有機溶媒の添加量は、アルコキシシラン添加量の総量に対して0~3倍の質量であることが好ましく、0~1.5倍の質量であることがより好ましい。有機溶媒の添加量の上限が上記範囲であると、真比重の低下を抑制し易くなる。
【0084】
工程4におけるアルコキシシランの添加量は特に限定されず、工程4におけるアルコキシシランの添加量s4(mol)と種粒子分散液中の種粒子量sp4(mol)のモル比(s4/sp4)が0以上30以下が好ましい。s4/sp4の上限が上記範囲であることにより、反応途中で新たな核粒子が生成し難く、主粒子の成長がより一層促進される。なお、上記モル比は、種粒子の分子量を60.08g/molとし規定した値である。
【0085】
工程4における水の添加量は、種粒子1質量部に対して0質量部以上55.0質量部以下が好ましい。水の添加量の上限が上記範囲であることにより、より一層効率よくコロイダルシリカを得ることができる。
【0086】
工程4におけるコロイダルシリカのpHは、11.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましい。コロイダルシリカのpHの上限が上記範囲であることにより、シリカ粒子の溶解がより一層抑制される。また、コロイダルシリカのpHは、6.5以上が好ましく、7.0以上がより好ましい。コロイダルシリのpHの下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。
【0087】
工程4におけるコロイダルシリカの温度は、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましい。コロイダルシリカの温度の下限が上記範囲であることにより、より一層ゲル化が抑制される。また、コロイダルシリカの温度は90℃以下が好ましく、85℃以下がより好ましい。コロイダルシリカの温度の上限が上記範囲であることにより、アルコキシシランの気化がより一層抑制される。
【0088】
工程4におけるアルコキシシランの添加時間は、0分以上1000分以下が好ましい。添加時間が上記範囲であると、反応途中で新たな核粒子が生成し難く、主粒子の成長が促進される。
【0089】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、上記工程3又は工程4の後に、更に、コロイダルシリカを濃縮する工程を有していてもよい。濃縮の方法としては特に限定されず、従来公知の方法により濃縮することができる。このような濃縮方法としては、例えば、65~100℃程度の温度で加熱濃縮する方法、限外濾過により濃縮する方法が挙げられる。
【0090】
濃縮後のコロイダルシリカのシリカ粒子の濃度は特に限定されず、コロイダルシリカを100質量%として1~50質量%程度であることが好ましい。
【0091】
本発明のコロイダルシリカの製造方法は、上記工程3又は工程4の後に、更に、反応時に副生したメタノールを系外留去する工程を有していてもよい。メタノールを系外留去する方法としては特に限定されず、例えば、コロイダルシリカを加熱しながら純水を滴下し、容量を一定に保つことにより、純水で分散媒を置換する方法が挙げられる。また、他の方法としては、コロイダルシリカを沈殿・分離、遠心分離等により溶媒と分離した後に、水に再分散させる方法、限外濾過による水への溶媒置換を例示することができる。
【0092】
(工程5)
本発明のコロイダルシリカが上記一般式(1)で表わされる有機官能基を有する場合、本発明のコロイダルシリカの製造方法は、上記工程4の後に、更に、有機官能基を有するアルコキシシランを添加する工程5を有していてもよい。
【0093】
工程5において、有機官能基を有するアルコキシシランとしては、上記一般式(3)又は(4)で表わされる有機官能基を有するアルコキシシランを用いることができる。
【0094】
有機官能基がカチオン性有機官能基である場合、カチオン性官能基を有するアルコキシシランとしては、上記一般式(3)又は(4)で表わされる有機官能基を有するアルコキシシラン等が挙げられる。
【0095】
有機官能基がカチオン性有機官能基である場合、シランカップリング剤としては、アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、(アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0096】
有機官能基がカチオン性有機官能基である場合、工程5における有機官能基を有するアルコキシシランの添加量は特に限定されず、シランカップリング剤添加前のコロイダルシリカの固形分1gに対して、0.5~350μmolが好ましく、5.5~170μmolがより好ましい。シランカップリング剤の添加量の下限が上記範囲であることにより、コロイダルシリカの変性の程度がより一層十分となり、より一層長期間安定分散可能な変性コロイダルシリカを得ることができ、また酸性でのコロイダルシリカのプラスチャージが大きくなることで研磨対象物との静電気的引力・斥力をより一層増大させることができる。有機官能基を有するアルコキシシランの添加量の上限が上記範囲であることにより二次粒径の増大、凝集物の生成、ゲル化がより一層抑制される。
【0097】
工程5において、有機官能基がアニオン性有機官能基、特に、スルホ基である場合、例えば、有機官能基を有するアルコキシシランとしては、化学的にスルホン酸基に変換できる官能基を有する有機官能基を有するアルコキシシランが好ましい。このような有機官能基を有するアルコキシシランとしては、例えば、1)加水分解によりスルホン酸基に変換できるスルホン酸エステル基を有する有機官能基を有するアルコキシシラン、2)酸化によりスルホン酸基に変換できるメルカプト基及び/又はスルフィド基を有する有機官能基を有するアルコキシシランが挙げられる。なお、コロイダルシリカ表面のスルホン酸修飾は溶液中で行われるため、修飾効率を高めるためには、後者のメルカプト基及び/又はスルフィド基を有する有機官能基を有するアルコキシシランを用いることが好ましい。
【0098】
メルカプト基を有する有機官能基を有するアルコキシシランとしては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0099】
スルフィド基を有する有機官能基を有するアルコキシシランとしては、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドが挙げられる。
【0100】
有機官能基がアニオン性有機官能基であり、特に、スルホ基である場合、工程5におけるシランカップリング剤の使用量は特に限定されず、シランカップリング剤添加前のコロイダルシリカの固形分1gに対して、0.5~350μmolが好ましく、5.5~170μmolがより好ましい。有機官能基を有するアルコキシシランの添加量の下限が上記範囲であることにより、酸性におけるゼータ電位がより一層安定する。有機官能基を有するアルコキシシランの添加量の上限が上記範囲であることにより、二次粒径の増大、凝集物の生成、ゲル化がより一層抑制される。
【0101】
修飾したメルカプト基及びスルフィド基を酸化する方法としては、酸化剤を用いる方法が挙げられる。例えば、硝酸、過酸化水素、酸素、オゾン、有機過酸(過カルボン酸)、臭素、次亜塩素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸等が挙げられる。これらの酸化剤の中でも過酸化水素及び有機過酸(過酢酸、過安息香酸類)が比較的取り扱いが容易で酸化収率も良好である点で好ましい。なお、反応で副生する物質を考慮すれば、過酸化水素を用いることが最も好ましい。
【0102】
酸化剤の添加量は、有機官能基を有するアルコキシシランの3倍モルから100倍モルが好ましい。酸化剤の添加量の上限は特に限定されず、50倍モル程度がより好ましい。なお、コロイダルシリカ及び有機官能基を有するアルコキシシランについては、スルホン酸基に酸化(変換)される官能基以外は酸化反応において安定な構造を有するので、副生成物が抑制されている。
【0103】
工程5において、シランカップリング剤を添加する際の温度は限定されないが、常温(約20℃)から沸点が好ましい。反応時間も限定されないが、10分~10時間が好ましく、30分~2時間がより好ましい。添加時のpHも限定されないが、3以上11以下が好ましい。pHが上記範囲内であることにより、シランカップリング剤とシリカ表面との反応がより一層促進され、シランカップリング剤どうしの自己縮合がより一層抑制される。また、pHを調整するための酸性・塩基性物質の添加量が少なくて済み、シリカ粒子が安定に保持される。
【0104】
有機官能基を有するアルコキシシランは有機溶媒で希釈してコロイダルシリカに加えることが好ましい。有機官能基を有するアルコキシシランを有機溶媒で希釈することによって、二次粒子径の増大や凝集物の生成を抑制することができる。アルコキシシランを有機溶媒で希釈する場合、有機官能基を有するアルコキシシランの希釈倍率は特に限定されないが、有機官能基を有するアルコキシシランの割合が0.1~100質量%、好ましくは1~100質量%の濃度となるように有機溶媒で希釈すればよい。有機溶媒としては、特に限定されず、親水性有機溶媒であることが好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール等が挙げられる。
【0105】
本発明のコロイダルシリカは、ナトリウム、カリウム、鉄、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、クロム、銅、亜鉛、鉛、銀、マンガン、コバルト等の金属不純物の含有量が、1ppm以下であることが好ましい。金属不純物の含有量が1ppm以下であることにより、電子材料等の研磨に好適に用いることができる。
【0106】
本発明のコロイダルシリカ、及び、本発明の製造方法により製造されるコロイダルシリカは、研磨剤、紙のコーティング剤などの様々な用途に使用することができる。上記コロイダルシリカを含む研磨剤も、本発明の一つである。本発明のコロイダルシリカは、ナトリウムなどの金属不純物の含有量を1ppm以下等と高純度にすることができるので、特に半導体ウエハの化学機械研磨の研磨剤として好適に用いることができる。
【実施例
【0107】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0108】
実施例1
(工程1)フラスコに、溶媒として純水7500gを入れ、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン (3-EOPA) 1.93gを添加し、母液を調製した。母液のpHは10.5であった。
(工程2)母液を内温85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2740gを内温変動しないよう温調しつつ、60分かけて定速滴下し、混合液を調製した。
(工程3)15分撹拌後、混合液に3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)50.14gを添加して、種粒子分散液を調製した。種粒子分散液のpHは10.3であった。
(工程4)フラスコに、種粒子分散液2452g、及び、純水5537gを入れた。次いで、内温80℃まで加熱し、内温変動しないように温調しながら、360分かけてテトラメチルオルトシリケート1762.7gを定速滴下し、滴下終了後15分間撹拌して、異形化シリカ含有液を調製した。次いで、異形化シリカ含有液を常圧下ベース量として800mL採取し、容量を一定に保ちながらコロイダルシリカをフィードして、シリカ濃度が20wt%なるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水500mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。
【0109】
実施例2
(工程1)フラスコに、溶媒として純水7500gを入れ、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)0.580gを添加し、母液を調製した。母液のpHは10.2であった。
(工程2)母液を内温85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2740gを内温変動しないよう温調しつつ、120分かけて定速滴下し、混合液を調製した。
(工程3)420分撹拌後、混合液に3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)50.12gを添加して、種粒子分散液を調製した。種粒子分散液のpHは10.3であった。
(工程4)フラスコに、種粒子分散液2331g、及び、純水5265gを入れた。次いで、内温80℃まで加熱し、内温変動しないように温調しながら、360分かけてテトラメチルオルトシリケート1957gを定速滴下し、滴下終了後15分間撹拌して、異形化シリカ含有液を調製した。次いで、異形化シリカ含有液を常圧下ベース量として800mL採取し、容量を一定に保ちながらコロイダルシリカをフィードして、シリカ濃度が20wt%になるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水500mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。
【0110】
実施例3
実施例2と同様にして、コロイダルシリカ(シリカ濃度20質量%)を調製した。
(工程5)
調製されたコロイダルシリカ10085gに、3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)9.2gを添加し、pH9に調整した。次いで、50℃まで加熱し、3-アミノプロピルトリメトキシシラン10.2gおよびメタノール331.5gの混合液を添加した。次いで、液中のメタノールを系外留去するために容量を一定に保ちつつ、純水5000mLで分散媒を置換して、シリカ粒子にカチオン性有機官能基が表面修飾されたコロイダルシリカを調整した。得られたコロイダルシリカのゼータ電位を図1に示す。
【0111】
実施例4
実施例2と同様にして、コロイダルシリカ(シリカ濃度20質量%)を調製した。
(工程5)
調製されたコロイダルシリカ830gに、3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)0.8gを添加し、pH9に調整した。次いで、室温で3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン10.0g及び30%過酸化水素水21.3gを添加した。次いで、液中のメタノールを系外留去するために容量を一定に保ちつつ、純水600mLで分散媒を置換して、3時間加熱還流し、シリカ粒子にアニオン性有機官能基が表面修飾されたコロイダルシリカを調整した。得られたコロイダルシリカのゼータ電位を図1に示す。
【0112】
実施例5
(工程1)フラスコに、溶媒として純水7500gを入れ、アルカリ触媒として3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)0.774gを添加し、母液を調製した。母液のpHは10.2であった。
(工程2)母液を内温85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2740gを内温変動しないよう温調しつつ、60分かけて定速滴下し、混合液を調製した。
(工程3)60分撹拌後、混合液に3-エトキシプロピルアミン(3-EOPA)28.00gを添加して、種粒子分散液を調製した。種粒子分散液のpHは9.5であった。次いで、種粒子分散液を常圧下ベース量として800mL採取し、容量を一定に保ちながらコロイダルシリカをフィードして、シリカ濃度が20wt%なるまで加熱濃縮した。次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水400mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。
【0113】
実施例6
(工程1)フラスコに、溶媒として純水7500gを入れ、アルカリ触媒としてジプロピルアミン(DPA)1.328gを添加し、母液を調製した。母液のpHは10.9であった。
(工程2)母液を内温85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2740gを内温変動しないよう温調しつつ、60分かけて定速滴下し、混合液を調製した。
(工程3)15分撹拌後、混合液にジプロピルアミン(DPA)49.18gを添加して、種粒子分散液を調製した。種粒子分散液のpHは10.4であった。次いで、種粒子分散液を常圧下ベース量として800mL採取し、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水1400mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。コロイダルシリカのシリカ濃度は10wt%であった。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。
【0114】
実施例7
(工程1)フラスコに、溶媒として純水7500gを入れ、アルカリ触媒としてトリエチルアミン(TEA)1.328gを添加し、母液を調製した。母液のpHは10.8であった。
(工程2)母液を内温85℃まで加熱した後、当該母液にテトラメチルオルトシリケート2740gを内温変動しないよう温調しつつ、60分かけて定速滴下し、混合液を調製した。
(工程3)15分撹拌後、混合液にトリエチルアミン(TEA)49.18gを添加して、種粒子分散液を調製した。種粒子分散液のpHは10.1であった。次いで、種粒子分散液を常圧下ベース量として800mL採取し、次いで、反応時に副生したメタノールを系外留去するために、容量を一定に保ちながら、純水650mLにて分散媒を置換して、コロイダルシリカを調製した。コロイダルシリカのシリカ濃度は10wt%であった。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。
【0115】
比較例1
水1732gに25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液0.151gを加え撹拌して母液を調製し、還流するまで加熱した。また、テトラメチルオルトシリケートを加水分解して、9%のケイ酸水溶液を調製した。還流下で、母液にケイ酸水溶液346.5gを3時間かけて滴下した後、30分間還流した。次いで、25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を1.26g滴下して種粒子分散液を調製した。次いで、種粒子分散液に水2910gを加え、撹拌して加熱還流した。次いで、9%ケイ酸水溶液500gと、25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液1.21gとを2.5時間かけて滴下しながら、水とメタノールとの混合物を600g抽出した。この操作を26回行うことで、コロイダルシリカを調製した。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。比較例1で得られたコロイダルシリカは、m/nの値が実施例1及び2と比較して少ないことが分かった。
【0116】
比較例2
水2000gに25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液0.365gを加え撹拌して母液を調製し、80℃まで加熱した。母液の温度を80℃に保ちながら、テトラメチルオルトシリケート228gを3時間かけて滴下した。次いで、直ちに25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液2.92gを添加した。温度を80℃に保ちながら、テトラメチルオルトシリケート228gと25%水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液3.19gを3時間かけて滴下した。この操作を4回行うことで、コロイダルシリカを調製した。得られたコロイダルシリカの物性を表1に示す。比較例2で得られたコロイダルシリカは、屈曲分岐粒子含有量が低いことが分かった。
【0117】
上述のようにして得られた実施例及び比較例のコロイダルシリカの特性は、以下の方法により評価した。
【0118】
(平均一次粒子径n)
コロイダルシリカをホットプレートの上で予備乾燥後、800℃で1時間熱処理して測定用サンプルを調製した。調製した測定用サンプルを用いて、BET比表面積を測定した。シリカの真比重を2.2として、2727/BET比表面積(m/g)の値を換算して、コロイダルシリカ中のシリカ粒子の平均一次粒子径n(nm)とした。
【0119】
(平均二次粒子径)
動的光散乱法の測定用サンプルとして、コロイダルシリカを0.3重量%クエン酸水溶液に加えて均一化したものを調製した。当該測定用サンプルを用いて、動的光散乱法(大塚電子株式会社製「ELSZ-2000S」)により平均二次粒子径を測定した。
【0120】
(会合比)
平均二次粒子径/平均一次粒子径により算出される値を会合比とした。
【0121】
(屈曲分岐粒子含有量)
走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した20万倍での任意の視野内の粒子個数中から屈曲構造と分岐構造を有する粒子を数え、それら粒子の割合を屈曲分岐粒子含有量(%)とした。屈曲構造とは、3つ以上の粒子が一列に結合してできた粒子で直線ではないものであり、また、分岐構造とは、4つ以上の粒子が結合した粒子であって一列でない(枝を有する)ものである。
【0122】
(アミン含有量)
コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させた。得られたシリカ乾固物0.5gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させた。シリカ溶解液イオンクロマトグラフにより分析し、アミン量を求めた。イオンクロマトグラフ分析は、JIS K0127に従った。
【0123】
(アルコキシ基の含有量m(ppm))
コロイダルシリカを215000G、90分の条件で遠心分離後、上澄みを廃棄して、固形分を60℃、90分の条件で真空乾燥させた。得られたシリカ乾固物0.5gを秤量し、1M水酸化ナトリウム水溶液50mlに入れ、撹拌させながら50℃で24時間加熱することでシリカを溶解させた。前記シリカ溶解液をガスクロマトグラフにより分析し、アルコール含有量を求め、アルコキシ基の含有量とした。ガスクロマトグラフの検出器は水素炎イオン化検出器(FID)を用いた。ガスクロマトグラフ分析は、JIS K0114に従った。
【0124】
(アルコキシ基の含有量m(ppm)平均一次粒子径n(nm)の比(m/n))
アルコキシ基の含有量m(ppm)/平均一次粒子径n(nm)から算出される値をm/nとした。
【0125】
(真比重)
試料を150℃のホットプレート上で乾固後、300℃炉内で1時間保持した後、エタノールを用いた液相置換法で測定する測定方法により、真比重を測定した。
【0126】
(シラノール基密度)
コロイダルシリカ中のシリカ粒子のシラノール基密度はシアーズ法により求めることができる。シアーズ法は、G.W.Sears,Jr.,“Determination of Specific Surface Area of Colloidal Silica by Titration with Sodium Hydroxide”,Analytical Chemistry,28(12),1981(1956).の記載を参照して実施した。測定には1wt%シリカ分散液を使用し、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液で滴定を行い、下記式に基づき、シラノール基密度を算出する。
ρ=(a×f×6022)÷(c×S)
上記式中、ρ:シラノール基密度(個/nm)、a:pH4-9の0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液の滴下量(mL)、f: 0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液のファクター、c:シリカ粒子の質量(g)、S:BET比表面積(m/g)をそれぞれ表す。
【0127】
【表1】
【0128】
実施例2で得られたコロイダルシリカの粒子径分布を以下の方法にて測定した。すなわち、コロイダルシリカをシリカ濃度が2質量%となるように0.5質量%ドデシル硫酸ナトリウム水溶液で希釈した希釈液を調製した。当該調製液を用いて、ディスク遠心式粒子径分布測定装置(CPS Instruments社製「DC24000UHR」)により、コロイダルシリカの粒子径分布を測定した。測定は、回転数18000rpmの条件で、シリカの真比重を2.1として、8%から24%のスクロースの密度勾配溶液中で行った。粒子径分布の測定結果を表2及び図4に示す。
【0129】
【表2】
【0130】
実施例2、3及び4で得られたコロイダルシリカのゼータ電位測定及びXPS測定を下記方法により行った。
【0131】
(ゼータ電位測定)
コロイダルシリカのゼータ電位を超音波減衰法を利用した測定装置を用いて測定した。
【0132】
(XPS測定)
コロイダルシリカを5℃、77,000Gで、90分間遠心分離した。得られた沈殿物を60℃で12時間乾燥させた後、乳鉢と乳棒を使用してすりつぶし、60℃で2時間減圧乾燥して、乾燥粉を調製した。
【0133】
調製された乾燥粉をXPSにより測定し、粒子表面の有機官能基に由来するピークを確認した。
【0134】
実施例2、3及び4で得られたコロイダルシリカのゼータ電位の測定結果を図1に示す。また、実施例3で得られたコロイダルシリカのXPSによる分析結果を図2に示す。図2は、アミノ基を形成するN元素の1s軌道のXPSスペクトルを示す図である。また、実施例4で得られたコロイダルシリカのXPSによる分析結果を図3に示す。図3は、スルホ基を形成するS元素の2s軌道のXPSスペクトルを示す図である。
【0135】
図1では、実施例2で得られたコロイダルシリカのゼータ電位に対して、実施例3で得られたコロイダルシリカのゼータ電位はプラスにシフトした。特に、実施例3の等電点は5以上となっていた。また、図2のXPS測定結果でN原子が検出されたことから、シリカ粒子表面にカチオン性官能基であるアミノ基が付与されたことが分かった。
【0136】
また、図1では、実施例2で得られたコロイダルシリカのゼータ電位に対して、実施例4で得られたコロイダルシリカのゼータ電位はマイナスにシフトした。特に、実施例4のゼータ電位はpH3~9の全領域で負となっていた。また、図3のXPS測定結果でS原子が検出されたことから、シリカ粒子表面にアニオン性官能基であるスルホ基が付与されたことが分かった。
図1
図2
図3
図4